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特許7546906干渉電力分布推定方法および干渉源占有率推定方法および干渉電力分布推定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】干渉電力分布推定方法および干渉源占有率推定方法および干渉電力分布推定装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 17/345 20150101AFI20240902BHJP
   H04B 17/391 20150101ALI20240902BHJP
   H04B 1/69 20110101ALI20240902BHJP
   H04W 28/04 20090101ALI20240902BHJP
   H04W 24/10 20090101ALI20240902BHJP
   H04W 24/06 20090101ALI20240902BHJP
【FI】
H04B17/345
H04B17/391
H04B1/69
H04W28/04
H04W24/10
H04W24/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020209840
(22)【出願日】2020-12-18
(65)【公開番号】P2022096722
(43)【公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-07-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、総務省、戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(72)【発明者】
【氏名】田久 修
(72)【発明者】
【氏名】小林 岳
【審査官】対馬 英明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-193049(JP,A)
【文献】特表2003-502901(JP,A)
【文献】小林 岳 他,チャープ復調を利用した干渉電力推定法の提案,電子情報通信学会2020年総合大会講演論文集 通信1,2020年03月03日
【文献】小林 岳 他,チャープ復調を利用した雑音電力および干渉電力の分布推定法,電子情報通信学会2020年通信ソサイエティ大会講演論文集1,2020年09月01日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/60
H04B 3/46-3/493
H04B 17/00-17/40
H04B 1/69-1/719
H04J 1/00-1/20
H04J 4/00-13/22
H04J 99/00
H04L 5/00-5/12
H04B 7/24-7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の集合に属するシンボルごとにスペクトラム拡散変調された信号を含む電波を受信し、受信信号から干渉電力の分布を推定する干渉電力分布推定方法であって、
前記受信信号からシンボルを復調するステップと、
復調されたシンボル以外の前記集合に属するシンボルを用いてパケットごとにスペクトラム拡散変調信号を再現するステップと、
前記再現されたスペクトラム拡散変調信号と前記受信信号の相関演算に基づき干渉電力推定値を出力するステップと、
複数のパケットに係る干渉電力推定値から干渉電力分布を集計するステップを含み、
さらに、パケットごとにエラーチェックを行うステップを含み、エラーを有するパケットについては、当該パケットの干渉電力推定値が所定の閾値を超えないときに、前記干渉電力推定値を前記干渉電力分布を集計する対象から除外するステップを含む、干渉電力分布推定方法。
【請求項2】
前記スペクトラム拡散変調はチャープ変調であり、前記相関演算は、前記受信信号から生成した受信スペクトラム信号と、前記復調されたシンボル以外の前記集合に属するシンボルを用いてパケットごとにチャープパターンを再現するステップと、前記チャープパターンと前記受信スペクトラム信号の相関演算に基づき干渉電力推定値を出力することを特徴とする、請求項1に記載の干渉電力分布推定方法。
【請求項3】
エラーを含まないパケットより求めた干渉電力分布をガウシアン近似して前記閾値を求めるステップをさらに含む、請求項1または請求項2のいずれかに記載の干渉電力分布推定方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の干渉電力分布推定方法を用いた干渉源占有率推定方法であって、前記閾値と雑音電力分布の平均値との間に境界値を設定し、前記干渉電力分布のうち前記境界値を超えた領域を積分した値を推定占有率とするステップを含む干渉源占有率推定方法。
【請求項5】
所定の集合に属するシンボルごとにスペクトラム拡散変調された信号を含む電波を受信し、受信信号から干渉電力の分布を推定する干渉電力分布推定装置であって、
前記受信信号からシンボルを復調するシンボル復調ユニットと、
復調されたシンボル以外の前記集合に属するシンボルを用いてパケットごとにスペクトラム拡散変調信号を再現するスペクトラム拡散変調信号再現ユニットと、
前記再現されたスペクトラム拡散変調信号と前記受信信号の相関演算に基づき干渉電力推定値を出力する干渉電力推定値出力ユニットと、
複数のパケットに係る干渉電力推定値から干渉電力分布を集計する干渉電力分布集計ユニットを含み、
さらに、パケットごとにエラーチェックを行うエラーチェックユニットを含み、エラーを有するパケットについては、当該パケットの干渉電力推定値が所定の閾値を超えないときに、前記干渉電力推定値を前記干渉電力分布を集計する対象から除外する干渉電力推定値除外ユニットを含む、干渉電力分布推定装置。
【請求項6】
前記スペクトラム拡散変調はチャープ変調であり、前記干渉電力推定値出力ユニットは、前記受信信号から生成した受信スペクトラム信号と、前記復調されたシンボル以外の前記集合に属するシンボルを用いてパケットごとにチャープパターンを再現するモジュールと、前記チャープパターンと前記受信スペクトラム信号の相関演算に基づき干渉電力推定値を出力するモジュールを含むことを特徴とする、請求項に記載の干渉電力分布推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、同じ周波数帯を複数の規格が利用する環境において、周波数共用要否を判断する、またはスペクトラムの拡散率を最適化するための、干渉電力分布推定方法および干渉源占有率推定方法および干渉電力分布推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LPWA(Low Power Wide Area)がIoT(Internet of Things)の活用に適しているとして注目を集めている(非特許文献1)。LPWAは低消費電力で長距離通信が可能な通信規格である。電源が確保しにくい環境であっても、バッテリーで長時間の使用が可能なためIoTのニーズに合致し活用されることが多い。
【0003】
LPWAの特徴として、これに分類される無線通信システムはそれぞれ独立に提案されている(例えば、LoRa、SIGFOX、Wi-SUN)。そのため、同一周波数を使用する他の無線通信システムから干渉(CCI:Co-Channel Interference)を受けてしまう可能性がある。LPWAの代表例であるLoRaはスペクトラム拡散技術の一種であるチャープ変調を使用している(特許文献1)。この方式では信号の拡散率を大きくすることで干渉電力への耐性を高めることができる。例えば、他の無線通信システムからの干渉の周波数帯域が比較的狭い場合は、周波数マスクによって干渉波を除去する方法がある(特許文献2)。
【0004】
さらに、チャープ変調の前記特徴を利用して、復調シンボルからチャープパターンを再現し、これと受信信号の周波数スペクトルとを比較することにより干渉電力を推定する方法が提案されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-193049号公報
【文献】特開2009- 58308号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】総務省、“LPWAに関する無線システムの動向について”、平成30年3月7日(https://www.soumu.go.jp/main_content/000543715.pdf)
【文献】小林岳、田久修、安達宏一、太田真衣、藤井威生、“チャープ復調を利用した雑音電力および干渉電力の分布推定法”、電子情報通信学会ソサイエティ大会、B-17-4、2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、干渉電力が大きくSIRが極度に悪化した場合、復調シンボルにビットエラーが生じ、これより誤ったチャープパターンが再現されると、干渉電力の分離に誤差が生じるといった課題があった。非特許文献2には、各シンボルにCRCを付加しておき、エラーが検出されたシンボルについては干渉電力の分離処理そして後続の干渉電力推定処理をスキップすることによりビットエラーの影響を押さえることが提案されているが、スキップした分、干渉信号の占有率が正しく推定できなくなることや、干渉電力推定に用いる瞬時の推定結果にエラーチェック無しという条件が含まれる結果、推定値に偏りが生じるといった課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る干渉電力分布推定方法は、所定の集合に属するシンボルごとにスペクトラム拡散変調された信号を含む電波を受信し、受信信号から干渉電力の分布を推定する干渉電力分布推定方法であって、前記受信信号からシンボルを復調するステップと、復調されたシンボル以外の前記集合に属するシンボルを用いてパケットごとにスペクトラム拡散変調信号を再現するステップと、前記再現されたスペクトラム拡散変調信号と前記受信信号の相関演算に基づき干渉電力推定値を出力するステップと、複数のパケットに係る干渉電力推定値から干渉電力分布を集計するステップを含み、さらに、パケットごとにエラーチェックを行うステップを含み、エラーを有するパケットについては、当該パケットの干渉電力推定値が所定の閾値を超えないときに、前記干渉電力推定値を前記干渉電力分布を集計する対象から除外するステップを含む。
【0009】
前記スペクトラム拡散変調はチャープ変調であり、前記相関演算は、前記受信信号から生成した受信スペクトラム信号と、前記復調されたシンボル以外の前記集合に属するシンボルを用いてパケットごとにチャープパターンを再現するステップと、前記チャープパターンと前記受信スペクトラム信号の相関演算に基づき干渉電力推定値を出力してもよい。
【0010】
エラーを含まないパケットより求めた干渉電力分布をガウシアン近似して前記閾値を求めるステップをさらに含んでもよい。
【0011】
本開示の一態様に係る干渉源占有率推定方法は、前記干渉電力分布推定方法を用いた干渉源占有率推定方法であって、前記閾値と雑音電力分布の平均値との間に境界値を設定し、前記干渉電力分布のうち前記境界値を超えた領域を積分した値を推定占有率としてもよい。
【0012】
本開示の一態様に係る干渉電力分布推定装置は、所定の集合に属するシンボルごとにスペクトラム拡散変調された信号を含む電波を受信し、受信信号から干渉電力の分布を推定する干渉電力分布推定装置であって、前記受信信号からシンボルを復調するシンボル復調ユニットと、復調されたシンボル以外の前記集合に属するシンボルを用いてパケットごとにスペクトラム拡散変調信号を再現するスペクトラム拡散変調信号再現ユニットと、前記再現されたスペクトラム拡散変調信号と前記受信信号の相関演算に基づき干渉電力推定値を出力する干渉電力推定値出力ユニットと、複数のパケットに係る干渉電力推定値から干渉電力分布を集計する干渉電力分布集計ユニットを含み、さらに、パケットごとにエラーチェックを行うエラーチェックユニットを含み、エラーを有するパケットについては、当該パケットの干渉電力推定値が所定の閾値を超えないときに、前記干渉電力推定値を前記干渉電力分布を集計する対象から除外する干渉電力推定値除外ユニットを含む。
【0013】
前記スペクトラム拡散変調はチャープ変調であり、前記干渉電力推定値出力ユニットは、前記受信信号から生成した受信スペクトラム信号と、前記復調されたシンボル以外の前記集合に属するシンボルを用いてパケットごとにチャープパターンを再現するモジュールと、前記チャープパターンと前記受信スペクトラム信号の相関演算に基づき干渉電力推定値を出力するモジュールを含んでもよい。
【発明の効果】
【0014】
本開示の一態様によれば、SIRが悪い環境下においても、干渉電力を正確に推定することができ、さらに干渉源によるチャネル占有率を正確に把握することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の一態様に係る実施の形態(本実施の形態)の想定環境を示す説明図である。
図2】チャープ変調の一例を示す説明図である。
図3】チャープ変調の拡散率を高めた例を示す説明図である。
図4】帯域圧縮したチャープ変調の一例を示す説明図である。
図5】本実施の形態をアルゴリズムを示すフローチャートである。
図6】本実施の形態における干渉推定の基本動作を示した説明図である。
図7】本実施の形態における電力分布推定の動作を示した説明図である。
図8】CRCエラー含有パケットを単に除外した場合の影響を示す説明図である。
図9】本実施の形態におけるCRCエラー含有パケットの除外動作を時間軸で示した説明図である。
図10】本開示の実施例のシミュレーションモデルを示す概念図である。
図11】本開示の実施例1のシミュレーション結果を示すグラフである。
図12】本開示の実施例2のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の一態様に係る実施の形態(本実施の形態)について図面を参照しながら詳細に説明する。図1において、エリア1には3種類の無線装置が存在しているとする。収集局2は、任意の無線端末3から送信される電波を受信しているとする。さらに無線端末3以外の無線端末4から電波干渉を受けているとする。無線端末3は収集局2とスペクトラム拡散通信を行っている。無線端末3はLoRa規格のセンサであってもよく、この場合シンボルごとにチャープ変調された電波を収集局2に送信している。無線端末4は無線端末3とは別規格(例えばWiSUN)の端末であるとする。
【0017】
以下、スペクトラム拡散変調の例として、チャープ変調について簡単に説明する。まず、送信データ(パケット)中のすべてのシンボルは所定の集合(s、s、・・・、s)に属しているとする。kはシンボル総数である。k=2の場合のチャープ変調された信号の周波数スペクトラムの一例を図2に示す。すべてのシンボルは1ビットで表記される集合(s、s)に属し、ここではシンボルsはデータ0で、シンボルsはデータ1でそれぞれ構成されているとする。対応するチャープパターンC(s)(アップチャープ)、C(s)(ダウンチャープ)をそれぞれ割り当てることで、任意のパケットにおける送信データ(例えば1100)を同図のように周波数が段階的にアップ/ダウンする信号として送信することができる。
【0018】
本実施の形態では、アップチャープおよびダウンチャープの段数(拡散率)は4としているが、この拡散率は任意に設定することができる。例えば図3のように拡散率を8に拡張することもできる。このとき、信号対雑音電力比(SNR)や信号対干渉電力比(SIR)は改善されるが、通信速度は低下する。
【0019】
逆に1シンボル当たりの帯域を圧縮する(通信速度を上げる)こともできる。k=4の場合のチャープ変調の例を図4に示す。この例では各シンボルは2ビットで構成されるすべてのパターンの集合に属する(∈00、01、11、10)とする。すなわち2ビットデータ00、01、11、10をシンボルs、s、s、sとし、さらに、それぞれに対応するチャープパターンC(s)、C(s)、C(s)、C(s)を割り当てる。各チャープパターンは基本パターンであるC(s)を1段階ずつ循環シフトさせたパターンとなっている。なお、チャープパターンは互いに相関の無いものであれば前記の例に限られず、また周波数を段階的に変えたものでなくても(例えばホッピングしたものであっても)よい。
【0020】
次に、チャープ信号の復調について説明する。まず収集局2が受信した電波からFFT等の時間-周波数変換処理によって受信スペクトラム信号を得る。この受信スペクトラム信号に含まれるチャープパターンは、シンボルごとにすべてのパターン(C(s)~C(s))との相関性を比較することにより復調される。例えば、k=2の場合、前記アップパターンとダウンパターンをそれぞれ受信スペクトラム信号に掛け合わせ、積分値の大小比較を行うことにより、いずれかのパターンであるかを決定してもよい。また、k≧3の場合は、全てのチャープパターンをそれぞれ受信スペクトラム信号に掛け合わせ、それぞれの積分値の中から最大のものを選別する、すなわち最も相関性の高いパターンを選別してもよい。
【0021】
以下、無線端末4から干渉を受けているときの所望信号電力および干渉電力の推定方法について、図5のアルゴリズムを用いながら説明する。当該アルゴリズムは収集局2に内蔵されたプロセッサにより実行されるものであってもよい。本実施の形態では、以降、特に断りのない限り、図2で示されたk=2、拡散率=4のチャープ変調を用いる。このときの受信スペクトラム信号の概要を図6の上段に示す。ここで無線端末3はLoRa規格に対応していてもよく、送信される電波は31.25kHz~500kHzの帯域幅を有していてもよい。また無線端末4は、無線端末3と同一規格でなければよく、帯域200kHz~400kHzのWiSUN規格であってもよい。
【0022】
収集局2は、まず、無線端末3からの信号を含む電波を受信し(S100)、受信信号を生成する。次に、この受信信号からFFT等の時間-周波数変換処理により受信スペクトラム信号を生成する(S101)。次に、この受信スペクトラム信号からシンボルを復調する(S102)。シンボルは図6にs、s、s、s(データ表記で1100)で示されるように1ビット単位であってもよい。次に、これらの復調シンボルを用いて所望信号電力および干渉信号電力の推定を行う(S104、S105)。干渉信号電力についてはパケットごとのCRCエラーチェック(S103)がOKかNGかにより、以降の処理を分ける。これらの干渉信号電力の推定に係る処理について、以下説明する。
【0023】
シンボル(s、s、s、s)が正しく復調されたとすると、これらに基づいて無線端末3が送信したチャープパターンを正確に再現することができる。この再現処理と同時に、本実施の形態では、復調シンボルを反転したシンボルによるチャープパターンを生成する(図6下段)。この反転シンボルによるチャープパターンと受信スペクトラム信号とを掛け合わせ、シンボルごとに積分する(以下、相関演算と称する)ことにより、干渉信号電力(P)を推定することができる。逆相のチャープパターンを掛け合わせると信号成分は相殺されるからである。なお、この推定電力にはノイズによる電力も含まれる(P+P)。
【0024】
さらに、受信スペクトラム信号に対し、元の(非反転)シンボルによるチャープパターンとの相関演算を行う。この場合、所望信号電力(P)の成分が増強される。ただしこのときの推定電力には雑音電力(P)と干渉信号電力(P)も含まれる(P+P+P)。干渉信号に対しては同相、逆相、いずれのチャープパターンに対してもほぼ同じ確率で相関成分が発生すると考えられるからである。しかし、既に求められた干渉信号電力(P+P)を差し引くことで推定電力(P)を分離することができる。なお、以降、ノイズの電力Pについては適宜省略して説明することがある。
【0025】
1シンボルが多ビット(m(≧2)ビット)構成である場合も同様に考えられる。この場合、K=2>2となり、再現チャープパターン以外のパターンは複数(K-1)存在する。このような場合、複数(K-1)のパターンについて前記相関演算を行い、相関値を平均化処理して出力してもよい。また、最大値となる相関値を選択して出力してもよい。
【0026】
干渉による電力Pはさらにパケットごとに積分され、復調シンボルに全くエラーが無く、相関演算が誤差なく実施された場合、推定結果は干渉信号推定電力^P(式(1)では上線で表示)として得られる。
ここでNはパケットを構成するシンボル数である。
【0027】
このように得られた干渉信号推定電力^Pは、次のパケットのチャープの拡散率の決定に用いることができる。例えば、干渉信号推定電力^Pが所定値を超えたとき、収集局2は無線端末に対して拡散率を拡大する指示を送信してもよい。このとき、図3に示すような拡散率の大きいチャープを使うように切り替えてもよい。この操作により、SIRは改善し他システムからの干渉による通信エラーの発生を低減することができる。さらに、干渉信号推定電力^Pは干渉波の発生源である無線端末4による当該チャネルの占有率を推定するのに利用することができる。これについては後述する。
【0028】
干渉信号推定電力^Pの場合と同様に、所望信号電力Pをパケットごとに式(2)のように積算すれば、所望信号推定電力^P(式(2)では上線で表示)を得ることができる。
【0029】
以上の説明においては、図6の受信スペクトラム信号からシンボルが正しく復調されていることを前提としたが、実際はエラーが生じることがある。特に干渉が相対的に大きいほど(SIRが悪化するほど)エラーの頻度は高くなる。シンボル内にエラーが発生すると(例えば1であるべきところが0)、再現したチャープパターンが逆向きとなり、所望信号電力の推定値を打ち消し、干渉信号電力の推定値を増やしてしまう。そこで対策の一つとして、パケットごとにCRC(巡回冗長検査)符号が付されているのを利用し、CRCエラーが検出されたパケットに対しては推定結果を無効とすることが考えられる。このようにすれば、シンボルの復調エラーによる影響をある程度は抑えることはできる。
【0030】
しかし、CRCエラーの頻度が増えた場合、前記の方法では、拡散率の決定や、特に本開示の目的である他端末によるチャネル占有率の推定に支障をきたすおそれがある。すなわち、CRCエラーが検出されたパケットを都度捨ていった場合、干渉信号電力が推定できるパケットが減少し、その結果他端末によるチャネル占有率が少なく推定されることがある。また、高い干渉信号電力が発生したときにCRCエラーが高頻度に発生するため、これらをすべて除外してしまうと瞬時的に高い干渉信号電力が推定できず、干渉信号電力の統計的傾向である平均値や分布の推定精度が大きく低下する。
【0031】
そこで、本実施の形態においては、CRCによるエラーチェック(S103)がOKかNGかに応じて、所望信号電力および干渉信号電力の推定に係る処理を2系統設けている。まずCRCエラーチェックがOKの場合、式(1)、(2)により干渉信号推定電力^Pと所望信号推定電力^Pが求められ(S104)、それぞれの電力分布の推定処理(S110)を経た後、占有率推定の処理(S111)が実行される。
【0032】
一方、CRCエラーチェックがNGのパケット(i)については、式(1)、(2)により干渉信号推定電力と所望信号推定電力を求めた後(S105)、干渉信号推定電力(PIi)が閾値(Pth)を超えたかどうかを判断し(S106)、超えなかった場合、そのパケットを集計対象から除去する(S107)。しかし、干渉信号推定電力(PIi)が閾値(Pth)を超えた場合は、CRCエラーチェックがOKの場合の所望信号電力と干渉信号電力の推定値(S104)と合わせて電力分布の推定処理(S110)に用いる。
【0033】
以上の処理とチャネル占有率の推定処理(S111)について、さらに図7を用いて説明する。図7(a)は、雑音(^P)に対し、50:50の割合で間欠的に干渉信号が出現する様子を、同図(b)にはそのときの電力分布を模式的に示す。当該電力分布は、干渉信号推定電力^Pを所定数サンプリングし、推定電力を横軸にヒストグラム化したものである。ここで、干渉信号電力の推定時に全くエラーが発生していないとすると、サンプリングされた推定値からは、干渉が存在する期間と干渉が存在しない(^P=0)期間それぞれに対応して、ほぼ等面積のふた山の電力分布が得られる(図7(b))。なお、それぞれの電力分布の幅は雑音電力Pに関係する。
【0034】
干渉による当該電力分布が明らかになれば、これに基づき当該チャネルにおける占有率を推定することができる(S111)。例えば、干渉による電力分布の面積の合計面積に対する比率を求めれてもよい。この場合、無線端末4の干渉の割合が50:50であれば、占有率は50%と推定される。なお、図7(b)では当該電力分布はふた山に描かれているが、実際の電力分布は裾野が重なり合っている等、明確に線引きが困難な場合がある。そこで、占有率推定処理(S111)の前段階として、電力分布推定処理(S110)を行うことが好ましい。同処理においては、例えば、それぞれの分布をガウシアン分布で近似してそれぞれの面積を比較してもよい。またEM(Expectation Maximization)アルゴリズムを用い、混合正規分布の推定を行ってもよい。
【0035】
ここで、CRCエラーが無視できない場合について、以下説明する。先述のように、CRCエラーが発生したパケットを無条件にスキップしてしまうと、その分干渉信号電力として集計されなくなる。電力分布の観点からこの様子を模式的に示したのが図8である。同図に示されるように、干渉を受けた際の電力分布が実際よりも小さな分布として検出される。その結果、推定される平均干渉信号電力が小さく評価され、干渉による占有率が実際よりも小さく推定されてしまう。
【0036】
そこで本実施の形態においては、先述のように、CRCによるエラーチェック(S103)がNGのパケット(i)でも、干渉信号推定電力(PIi)が閾値(Pth)を上回れば、CRCエラーチェックがOKのパケットと共に電力分布の推定処理(S110)に用いることにしている。この様子を模式的に図9に示す。同図において、CRCエラーチェックOKは〇で、CRCエラーチェックNGは×でそれぞれ表している。
【0037】
復調シンボルにエラーが発生する要因として、ノイズによるものと干渉によるものとがあるが、チャープ変調はもともと干渉に強いため、干渉によるエラーは、CRCエラーチェックがNGであっても、実際は1パケット中1~数ビットに止まることが多い。よって、干渉波を受けてCRCエラーチェックがNGとなったパケットについては、これを除外せずにチャープパターンを再現して干渉波推定に用いたとしても、推定誤差はそれほど生じないと考えられる。この実証結果については以下の実施例で説明する。
【0038】
ここで、閾値Pthの決定方法について説明する。本実施の形態においては、CRCエラーチェックがOKのときの干渉電力(雑音電力含む)の分布を推定し(S108)、これより閾値Pthを決定する(S109)。具体的には、ふた山の鞍部(極小値)における電力値を閾値としてもよい。また、それぞれの分布を近似するガウシアン関数が交差する電力値を閾値としてもよい。干渉電力の分布からEMアルゴリズムによって求めた平均値としてもよい。このとき、後述のように、干渉電力から調整係数Δを含めて新たな境界値として設計してもよい。
【0039】
なお、以上の実施の形態においては、干渉電力分布推定の方法について説明したが、本開示は、図5で示されたフローチャートにおけるそれぞれのステップに対応するユニットまたはモジュールで構築されたASIC等のハードウェアやマイクロプロセッサ上のプログラムで実現した干渉電力分布推定装置であってもよい。また、当該干渉電力分布推定装置は、収集局2に一機能として組み込まれたものであってもよい。
【実施例
【0040】
以下、本開示の実施例について説明する。本実施例は図5で示されたアルゴリズムを用いて干渉信号電力およびチャネルの占有率の推定を行ったシミュレーションおよびその結果に関するものである。
【0041】
まず、図10に本実施例におけるシミュレーションモデルを示す。エリア1の中心には収集局(FC)2が位置しており、無線端末3(LoRa Sensor)と無線端末4(WiSUN Sensor)は収集局2からそれぞれ700m離れた位置に配置されているとしている。その他のシミュレーション条件を表1に、想定した伝搬環境を表2に示す。

【表1】
【表2】
【0042】
(実施例1)
WiSUNセンサ(干渉)電力を18dBmとしたときのシミュレーション結果を表3および図11に示す。なお、信号:干渉の混合比率は30:70としている。

【表3】
【0043】
表3において、元データとは無線端末3が送信する信号の電力分布および無線端末4が送信する干渉の電力分布の設定値(平均、分散、混合比率)を表す(左側が所望信号電力で右側が干渉信号電力)。図5のアルゴリズムを用いた本実施例の方法を用いたとき、混合比率は0.29:0.71と、元データの0.30:0.70に極めて近く、ほぼ正確に推定されている。一方、CRCエラーが出たときの干渉信号電力推定値を除外する方式では、干渉信号電力比率は0.06と誤って推定されている。CRCを用いずにエラーを含むパケットを全て用いた推定法では、干渉信号電力は逆に増大する方向に誤差が生じている。
【0044】
(実施例2)
WiSUNセンサ(干渉)電力を8dBmとしたときのシミュレーション結果を表4および図12に示す。混合比率については実施例1と同様30:70であるが、干渉信号電力が実施例より10dB小さく、ふた山の電力分布の裾野が重なっているため、干渉による電力分布から占有率を求める際に誤差が生じやすい。

【表4】
【0045】
表4において、閾値pthを実施例1と同様、EMアルゴリズムによって求めたCRCエラーチェックがOKのときの干渉+雑音電力の平均値としたところ、推定混合比率は0.43:0.57と、多少の誤差が発生した。そこで、閾値に調整係数(Δ)を加え、これより若干雑音分布寄りに境界値(=閾値+Δ)を設定したところ(実施例(最適化後))、推定混合比率は0.30:0.70と、かなり改善した。本実施例においては、調整係数(Δ)はマイナスの値をとり、当該境界値は閾値pthと雑音電力分布の平均値との間に位置する。
【0046】
以上、本開示の実施の形態および実施例について説明した。なお、いずれにおいても信号を送る側の無線装置はチャープ変調を用いるとしたが、チャープ変調に限らずとも、本発明は他のスペクトラム拡散通信方式にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、LPWAに限らず、5G以降の通信システム、特にIoTが関わる分野、例えば、コネクテッドカー、スマートメータ、ウェラブルモニター、等に利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 エリア
2 収集局
3 無線端末
4 無線端末(干渉源)


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12