(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】アレルギー疾患を処置することに用いるための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 39/00 20060101AFI20240902BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240902BHJP
A61K 47/56 20170101ALI20240902BHJP
C12Q 1/6897 20180101ALI20240902BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
A61K39/00 H
A61P37/08
A61K47/56
C12Q1/6897 ZNA
G01N33/15 Z
(21)【出願番号】P 2021504064
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2020008427
(87)【国際公開番号】W WO2020179700
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2019037353
(32)【優先日】2019-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019086233
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的先端研究開発支援事業「アレルギー疾患・自己免疫疾患などの発症機構と治療技術」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 彰
(72)【発明者】
【氏名】金丸 和正
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-507945(JP,A)
【文献】特表2010-534828(JP,A)
【文献】特表2010-534200(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0024961(US,A1)
【文献】加藤紀彦,シグレックとムチン糖鎖の相互作用を介した炎症抑制機構 ムチン糖鎖のアレルギー性免疫応答における役割,化学と生物,2016年,Vol. 54, No. 6,pp. 375-6,ISSN: 1883-6852
【文献】角田義弥, 外3名,気道ムチン糖鎖はSiglec-Fリガンドとして好酸球のアポトーシスを誘導する,臨床免疫・アレルギー科,2016年,Vol. 65, No. 5,pp. 468-71,ISSN: 1881-7930
【文献】KANEMARU, K. et al.,Clec10a regulates mite-induced dermatitis,Sci Immunol,Vol. 4, No. 42,2019年12月06日,Article No. eaax6908, pp. 1-14,ISSN: 2470-9468
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
A61K 38/00
A61K 45/00
C12N 5/00
C12N 15/00
C12Q 1/00
G01N 33/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシアロ糖タンパク質受容体1(Asgr1)のリガンドを含む、アレルギー疾患を処置することに用いるための組成物であって、リガンドは、
T抗原、Tn抗原、およびLeAからなる群から選択される少なくとも1種の糖鎖を含み、Asgr1に結合することによって当該受容体の下流シグナルを正に制御する、組成物{但し、前記リガンドは、ムチンでもムチン様タンパク質でもなく、かつ、LeXを含まない}。
【請求項2】
アシアロ糖タンパク質受容体1(Asgr1)のリガンドを含む、アレルギー疾患を処置することに用いるための組成物であって、リガンドが、T抗原、Tn抗原、およびLeAからなる群から選択される少なくとも1種の糖鎖を提示するポリマー性の足場を含
み、Asgr1に結合することによって当該受容体の下流シグナルを正に制御する、組成物{但し、前記リガンドは、ムチンでもムチン様タンパク質でもなく、かつ、LeXを含まない}。
【請求項3】
リガンドが、ヒトアシアロ糖タンパク質受容体1のリガンドである、
請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
ポリマー性の足場が、1kDa~100kDaの重量平均分子量を有する、
請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
ポリマー性の足場が、ポリ乳酸、ポリアクリルアミド、ポリビニル、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリルニトリル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、ナイロン、コラーゲン、ヒドロキシエチルメタクリレート、キトサン、キチン、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、およびこれらの共重合体からなる群から選択される、
請求項2または4に記載の組成物。
【請求項6】
アレルギー疾患が、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、じんましん、アレルギー性喘息、アレルギー性結膜炎、アレルギー性胃腸炎およびアナフィラキシーショックからなる群から選択される1以上である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
アレルギー疾患が、チリダニを原因とするものである、
請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
被検化合物が、アレルギー疾患を処置することに用いるための物質であることを検査する方法であって、
ヒトアシアロ糖タンパク質受容体1(Asgr1)の細胞外領域と膜貫通領域とCD3ζの細胞内領域を含む融合タンパク質を発現する動物細胞であって、CD3ζシグナルで活性化するプロモーターと作動可能に連結したレポーターをコードする遺伝子を有する動物細胞と被検化合物とを接触させることと、
レポーターの発現レベルが増強した場合に、当該被検化合物がAsgr1に結合することによって当該受容体の下流シグナルを正に制御し、アレルギー疾患を処置することに用いるための物質であると決定すること
を含む、方法。
【請求項9】
アレルギー疾患を処置することに用いるための物質を取得する方法であって、
ヒトアシアロ糖タンパク質受容体1に結合する物質群から、ヒトアシアロ糖タンパク質受容体1の細胞外領域と膜貫通領域とCD3ζの細胞内領域を含む融合タンパク質を発現する動物細胞であって、CD3ζシグナルで活性化するプロモーターと作動可能に連結したレポーターをコードする遺伝子を有する動物細胞と物質とを接触させるレポーターアッセイにおいて前記レポーターの発現レベルを増強させる物質を選択または取得することを含み、前記レポーターの発現レベルを増強させることは、当該物質がアレルギー疾患の処置に有効であることを示す、方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、得られた物質が、ヒトアシアロ糖タンパク質受容体1の下流で抑制性ITAMを介する制御性シグナリングを正に制御することを確認することをさらに含む、方法。
【請求項11】
得られた物質を含む組成物を得ることをさらに含む、
請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
請求項9または10に記載の方法であって、得られた物質がTLR4シグナルにより誘発される炎症またはアレルギー性疾患の処置に有効であることを確認することをさらに含む、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、TLR4シグナルにより誘発される炎症またはアレルギー性疾患が、チリダニ(HDM)により誘発される炎症またはアレルギー性疾患である、方法。
【請求項14】
請求項9~13のいずれか一項に記載の方法であって、前記物質がチリダニ(HDM)抽出物を含む、方法。
【請求項15】
請求項9~14のいずれか一項に記載の方法であって、前記物質が脱シアリル化した糖タンパク質またはアシアロ糖タンパク質を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルギー疾患を処置することに用いるための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
チリダニ(HDM)は、アトピー性皮膚炎や喘息などのアレルギー疾患の主なアレルゲンである(非特許文献1および2)。NC/NgaマウスはHDMに対して感受性を有するマウス系統であり、HDMに対して他の系統と比較してより重度の皮膚炎を発症する(非特許文献3)。しかしながら、その発症機序についてはほとんど明らかにされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Bieber, T. N. Engl. J. Med., 358: 1483-1494, 2008
【文献】Jacquet, A., Trends Mol. Med., 17: 604-611, 2011
【文献】Yamamoto, M. et al., Arch. Dermatol. Res., 301: 739-746, 2009
【発明の概要】
【0004】
本発明は、アレルギー疾患を処置することに用いるための組成物を提供する。
【0005】
本発明者らは、チリダニによる皮膚炎の発症や悪化に、マウスでは、Clec10aが関与することを明らかにした。本発明者らはまた、ヒトでは、Clec10aの構造的機能的カウンターパートがAsgr1であることを明らかにし、また、チリダニによる皮膚炎の発症や悪化に、ヒトでは、Asgr1が関与することを明らかにした。発明者らはさらに、チリダニには、マウスClec10aおよびヒトAsgr1に結合する物質であって、かつ、アレルギー発生を抑制する物質(例えば、Clec10aリガンドまたはAsgr1リガンド)が含まれていることを明らかにした。発明者らはさらに、Clec10aのリガンドが、O結合型糖鎖、特に、T抗原(Galβ(1-3)GalNAc)、Tn抗原(αGalNAc)を含み、ASGR1がこれらのいずれにも結合することを明らかにした。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0006】
すなわち、本発明によれば、例えば以下に示される発明が提供される。
(1)アシアロ糖タンパク質受容体1(Asgr1)のリガンドを含む、アレルギー疾患を処置することに用いるための組成物。
(2)アレルギー疾患が、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、じんましん、アレルギー性喘息、アレルギー性結膜炎、アレルギー性胃腸炎およびアナフィラキシーショックからなる群から選択される1以上である、上記(1)に記載の組成物。
(3)アレルギー疾患が、チリダニを原因とするものである、上記(1)または(2)に記載の組成物。
(4)リガンドが、T抗原およびTn抗原のいずれか、または両方を含む、上記(1)~(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)リガンドが、T抗原およびTn抗原からなる群から選択される糖鎖である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の組成物。
(6)リガンドが、ムチン様タンパク質またはムチンである、上記(1)~(4)のいずれかに記載の組成物。
(7)リガンドが、ヒトアシアロ糖タンパク質受容体1のリガンドである、上記(1)~(6)のに記載の組成物。
本発明によればまた、以下の発明が提供される。
(1A)アシアロ糖タンパク質受容体1(Asgr1)のリガンドを含む、アレルギー疾患を処置することに用いるための組成物。
(2A)アレルギー疾患が、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、じんましん、アレルギー性喘息、アレルギー性結膜炎、アレルギー性胃腸炎およびアナフィラキシーショックからなる群から選択される1以上である、上記(1A)に記載の組成物。
(3A)アレルギー疾患が、チリダニを原因とするものである、上記(1A)または(2A)に記載の組成物。
(4A)リガンドが、T抗原、Tn抗原、LeA、およびLexからなる群から選択される少なくとも1種の糖鎖を含む、上記(1A)~(3A)のいずれかに記載の組成物。
(5A)リガンドが、T抗原、Tn抗原、LeA、およびLexからなる群から選択される少なくとも1種の糖鎖を提示するポリマー性の足場を含む、上記(1A)~(3A)のいずれかに記載の組成物。
(6A)リガンドが、ムチン様タンパク質またはムチンである、上記(1A)~(4A)のいずれかに記載の組成物。
(7A)リガンドが、ヒトアシアロ糖タンパク質受容体1のリガンドである、上記(1A)~(6A)のに記載の組成物。
(8A)ヒトアシアロ糖タンパク質受容体1の細胞外領域と膜貫通領域とCD3ζの細胞内領域を含む融合タンパク質を発現する動物細胞であって、CD3ζシグナルで活性化するプロモーターと作動可能に連結したレポーターをコードする遺伝子を有する動物細胞。
(9A)被検化合物が、ヒトアシアロ糖タンパク質受容体1を活性化する化合物であることを検査する方法であって、
上記(8A)に記載の細胞と被検化合物とを接触させることと、
レポーターの発現レベルが増強した場合に、当該被検化合物がヒトアシアロ糖タンパク質受容体1に結合する化合物であると決定すること
を含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、NC/NgaマウスにおけるClec10aのナンセンス変異がHDM誘発性皮膚炎を引き起こすことを示す図である。パネルaは、Clec10a遺伝子と、C57BL/6JのClec10a(NM_010796)、NC/Nga-Clec10a
c.706T/T(c.706T/T)、およびNC/Nga-Clec10a
c.706T/C(c.706T/C)マウスにおけるナンセンス変異部位(c.706)のDNA配列とを示す。Clec10aの全長が複数の白抜きの四角とそれを貫く線によって表され、白抜きの四角は遺伝子のコード領域を表し、線はイントロンを示す。CTLDは、c型レクチン様ドメインを表す。パネルbは、C57BL/6JマウスおよびNC/NgaマウスのそれぞれのClec10aの模式図を示す。TMは、膜貫通ドメインを表す。パネルcは、C57BL/6Jマウス、NC/Nga-Clec10a
c.706T/Tマウス、NC/Nga-Clec10a
c.706T/Cマウスの背側皮膚のPI-CD45+MHCII+Lineage(CD3, CD19, NK1.1, およびLy-6G)-EpCAM-細胞における、マクロファージ(MP)(CD64+MerTK+)、従来型DC(cDC)(CD64-MerTK-)、および単球由来樹状細胞(CD64-MerTK
lo)の細胞表面のClec10aの発現を示す。影付きのヒストグラムは、アイソタイプコントロール抗体(Ab)を用いた染色を示す。パネルdは、抗Clec10aモノクローナル抗体(mAb)および4′,6-ジアミジノ-2-フェニリンドール(DAPI)で染色された、C57BL/6Jマウス、NC/Nga-Clec10a
c.706T/Tマウス、NC/Nga-Clec10a
c.706T/Cマウスの背側の皮膚の組織切片の蛍光顕微鏡像を示す。Eは、表皮、Dは、真皮を表す。スケールバーは、100μmである。パネルe~iは、NC/Nga-Clec10a
c.706T/Tマウス、NC/Nga-Clec10a
c.706T/Cマウスの背側皮膚に週2回、HDM軟膏を適用した結果を示す。パネルeは、皮膚炎スコアを示し、パネルfは、14日目における外観を示し、パネルgおよびhは、組織切片(ヘマトキシリン・エオシン染色)と上皮厚をそれぞれ示す。パネルiは、好中球(CD11b
+Ly-6G
+)、好酸球(CD11b
+Siglec-F
+)、およびLy-6C
hi単球(CD11b
+Ly-6G
-Siglec-F
-Ly-6C
hi)の個体総数を示す。*は、p < 0.05を表し、**はp < 0.01を表し、***は、p < 0.001を表す(独立両側Student′s t-検定)。データは、平均値±SEMを示す。
【
図2】
図2は、Clec10aがHDM誘発性の免疫応答を阻害することを示す。パネルa~fは、C57BL/6J野生型マウスとClec10a
-/-マウスの背側皮膚に週2回、HDM軟膏を適用した結果を示す。パネルaおよびbは、特定時点における組織と上皮厚をそれぞれ示す(n=3,6,5)。パネルcおよびdは、野生型マウスとClec10a
-/-マウス間での比較を示す。パネルeは、特定時点における野生型マウスとClec10a
-/-マウスの皮膚CD45+細胞中の好中球(CD11b
+Ly-6G
+)を同定するフローサイトメトリを示す。パネルfは、HDMの局所適用の3時間後における皮膚のWTおよびClec10a
-/-のMHCII+のMPおよびDCから得られたmRNAの定量的RT-PCRの結果である。パネルgは、HDMで刺激した野生型またはClec10a
-/-のCD115+で濃縮したBMMPからの培養上清のcytometric bead array(CBA)分析の結果を示す(n=3)。パネルhは、野生型、Tlr4-/-、およびClec10a-/-のBMMPをHDMで指定した時間刺激し、その後、その溶解物をClec10a抗体を用いた免疫沈降(IP)に供した結果を示す。イムノブロット分析(IB)は、リン酸化チロシン(pTyr)またはClec10aに対する抗体を用いて行った。パネルiは、0.5μMのTAK-242で事前処理し、HDMで6時間刺激した野生型またはClec10a-/-のCD115+で濃縮したBMMPからの培養上清のcytometric bead array(CBA)分析の結果を示す(n=3)。パネルjは、野生型またはClec10a-/-のCD115+で濃縮したBMMPをHDMで指定した時間刺激し、その後、リン酸化Syk(pSyk; Y
519/520)またはSykに対するモノクローナル抗体(mAb)を用いてイムノブロット(IB)した結果を示す。パネルkは、野生型もしくはY3FのClec10aで、または空のベクター(EV)でトランスフェクションしたBMMPをHDMで刺激し、細胞溶解物をClec10aに対するmAbで免疫沈降し、Syk、SHP-1またはClec10aに対する抗体でイムノブロットした結果を示す。パネルlは、野生型とClec10a-/-のBMMPをSyk阻害剤IVで前処理し、指定した時間HDMで刺激して、細胞溶解物をClec10aの抗体でIPし、pSHP-1、SHP-1またはClec10aに対する抗体でイムノブロットした結果を示す。矢尻は、目的の分子(黒)、またはIP-Ab(白)の重鎖を示す。*はp<0.05を表し、**はP<0.01を表し、***はp<0.001を表す(独立両側Student′s t-検定)。データは、平均値±SEMを示す。
【
図3】
図3は、Clec10aがHDMのムチン様タンパク質を認識することを示す。パネルa~dは、マウスClec10a-CD3ζレポーター細胞または親レポーター細胞における、ラットIgG2aもしくは抗Clec10a mAb(パネルaおよびb)、もしくは、ガラクトース(Gal)、グルコース(Glc)もしくはマンノース(Man)(パネルc)の存在下もしくは非存在下におけるHDMコートプレートで刺激した後の;またはガラクトシダーゼ(GALase)もしくはグルコシダーゼ(GLCase)で処理したまたは未処理のHDMコートプレート(パネルd)で刺激した後のGFPの発現を示す。パネルe~iは、Clec10a-Fcまたはコントロールヒト抗体でプルダウン(PD)したHDM中のClec10aリガンド(Clec10a-L)(パネルe)、Clec10a-Lのサイズに基づく各分画(パネルf)、またはPNGase FもしくはNaOHの処理前後のClec10a-L(パネルi)で刺激した後のマウスClec10a-CD3ζレポーター細胞またはコントロールレポーター細胞におけるGFPの発現を示す。統計学的分析は、コントロールとして用いたPBS刺激サンプルを用いて実施した(パネルf)。Clec10a-Lは、PNGase FもしくはNaOHでの処理前(パネルf~h)または処理後(パネルh)にClec10a-Fcを用いてイムノブロットするか、または、アルシアンブルー有りもしくは無しで銀染色(パネルg)した。パネルjは、Clec10a-Lのレクチンマイクロアレイ分析を示す。黒の棒は、Galβ(1-3)GalNAc(T抗原)に結合するレクチンを示す。GalNAcは、N-アセチルガラクトサミンを意味し、GlcNAcは、N-アセチルグルコサミンを意味する。パネルkは、HDMのClec10a-Lの模式図を示す。Tは、T抗原(Galβ(1-3)GalNAc)を意味し、Tnは、Tn抗原(αGalNAc)を意味し、LacNAcは、N-アセチル-D-ラクトサミン(Galβ(1-4)GlcNAc)を意味する。*はp<0.05を表し、**はP<0.01を表し、***はp<0.001を表す(片側ANOVA検定(パネルcおよびf)または独立両側Student′s t-検定(パネルb、dおよびi))。データは、平均値±SEMを示す(n=3)。
【
図4】
図4は、ヒトAsgr1がマウスClec10aの構造的かつ機能的カウンターパートであることを示す。パネルaおよびbは、ガラクトース、グルコースもしくはマンノースの非存在下(パネルa)または存在下(パネルb)におけるHDMコートプレートで刺激した後のヒトAsgr1-CD3ζレポーター細胞におけるGFPの発現を示す(n=3)。パネルcは、マウスClec10a、ヒトAsgr1、およびヒトClec10aの細胞内領域のアミノ酸配列を示す。推定されるhemITAM配列を下線で示す。パネルdは、マウスClec10a-FcでHDMからプルダウンして得られたClec10aリガンドでコートされたプレートで刺激したヒトAsgr1-CD3ζレポーター細胞におけるGFP発現を示す。パネルeは、ヒト皮膚の組織切片を抗Asgr1抗体、抗CD68 mAbおよびDAPIで染色した結果を示す。Eは、表皮を意味し、Dは、真皮を意味する。スケールバーは、100μmである。パネルfは、ASGR1に特異的なsiRNAまたはコントロールsiRNAで処理し、100μg/mLのHDMで6時間刺激したヒトCD14+単球由来MPの培養上清のcytometric bead array (CBA)分析の結果を示す(n=3)。パネルgは、健常者、乾癬患者、およびアトピー性皮膚炎患者の皮膚におけるASGR1の発現(GSE5667)と血清IgE価との関連を示す。パネルhは、マウスおよびヒトにおけるHDMへの暴露に際しての皮膚の恒常性維持におけるC型レクチン受容体の働きについての仮説モデルを示す。*はp<0.05を表し、**はP<0.01を表し、***はp<0.001を表す(片側ANOVA検定(パネルb)、独立両側Student′s t-検定(パネルf)または両側ピアソン相関検定(パネルg))。データは、平均値±SEMを示す。
【
図5】
図5は、C57BL/6JマウスとNC/NgaマウスにおけるClec10aの特徴分析の結果を示す。パネルaは、BioGPS分析に基づくC57BL/6Jマウスの造血細胞と組織における遺伝子発現の結果を示す。これらの遺伝子は、NC/Ngaマウスにおいてのみナンセンス変異またはフレームシフト変異を示すが、他の19のマウス系統ではそのような変異は認められないことが明らかとなった。パネルb~eおよびiは、C57BL/6Jマウス、NC/Ngaマウス、NC/Nga-Clec10a
c.706T/Cマウスの背側の皮膚(パネルb、c、およびd)または腹腔(パネルeおよびi)から単離された細胞のフローサイトメトリ分析の結果を示す。細胞は、プロピジウムイオダイド(PI)、指定されたマーカーに対する抗体、および抗Clec10a抗体またはコントロール抗体で染色された。Lineageは、CD3、CD19、NK1.1、およびLy-6Gを示す。影付きのヒストグラムは、アイソタイプコントロール抗体による染色を示す。パネルfおよびgは、Flagタグ付きのClec10a
c.706C-IRES-GFPまたはFlagタグ付きのClec10a
c.706T-IRES-GFPを発現するRAW264.7の形質転換体について表面分析した結果(パネルf)およびフローサイトメトリによるFlagタグの細胞内発現(パネルg)を示す。パネルhは、NC/Nga Clec10a
c.706T/T(T/T)、Clec10a
c.706T/C(T/C)、およびClec10a
c.706C/C(C/C)マウスの皮膚におけるClec10aのmRNAの発現を示す。パネルjは、指定された時点における血清IgE価を、Clec10a
c.706T/T(T/T)、Clec10a
c.706T/C(T/C)とで比較した結果を示す。*はp<0.05を表し、**はP<0.01を表し、***はp<0.001を表す(片側ANOVA検定)。データは、平均値±SEMを示す。
【
図6】
図6は、Clec10a欠損マウスにおけるHDM誘発性の皮膚炎の表現型を示す。チリダニ(HDM)軟膏を野生型C57BL/6JマウスおよびClec10a-/-マウスの背側皮膚に週に2回適用した。パネルaは、指定された時点において回収された皮膚細胞をPI、抗CD45抗体、またはマーカー分子に対する抗体で染色した後の、それぞれの細胞集団のフローサイトメトリによる分析結果を示す。各細胞のマーカーは以下の通りであった:好酸球(CD11b
+Siglec-F
+)、およびLy-6C
hi単球(CD11b
+Ly-6G
-Siglec-F
-Ly-6C
hi)、CD3+CD4+ T細胞(CD3
+CD4
+)、CD8+ T細胞(CD3+CD8+)、上皮γδ T細胞(CD3
hiTCRγδ
hi)、真皮γδ T細胞(CD3
midTCRγδ
mid)、CD11b
+の従来型樹状細胞(cDC)(CD11b
+MHCII
+CD11c
+CD64
-)、MHCII
+マクロファージ(MP)、モノサイト由来DC(CD11b
+MHCII
+CD11c
-CD64
+)。パネルbは、指定した時点における血清Ig価のELISAである(n=5)。パネルcは、6日目の腋窩リンパ節および鼠径リンパ節からソートされた野生型およびClec10a-/-型のCD4+ T細胞(CD3
+CD4
+)における指定された分子のmRNAの発現レベルの定量的RT-PCRの結果を示す。**はP<0.01を表し、***はp<0.001を表す(独立両側Student′s t-検定)。データは、平均値±SEMを示す。
【
図7】
図7は、野生型およびClec10a-/-型MPの特性分析の結果を示す。パネルaは、HDMの局所適用の3時間後のマウス皮膚から得られたMP(PI
-CD45
+MHCII
+Lineage(CD3, CD19, NK1.1,およびLy-6G)
-EpCAM
-CD64
+)およびDC(PI
-CD45
+MHCII
+Lineage
-EpCAM
-CD64
-)のソーティングのゲート戦略を示す。パネルbは、野生型およびClec10a-/-型マウスに由来するCD115
+のBMMPのソーティングに関するゲート戦略を示す。パネルcは、野生型およびClec10a-/-型マウスに由来するBMMPをCD115、Clec10a、指定されたMPマーカー、およびTLR4に対する抗体で染色した結果を示す。CD115
+細胞をゲートし、各分子の発現をフローサイトメトリで分析した。影付きのヒストグラムは、アイソタイプコントロール抗体による染色である。パネルdは、HDM刺激後のClec10a
c.706T/T(T/T)、およびClec10a
c.706T/C(T/C)マウスに由来するBMMPの培養上清のcytometric bead array(CBA)分析の結果を示す(n=3)。パネルeは、野生型およびY3F変異型のClec10aの細胞内領域のアミノ酸配列を示す。推定hemITAM配列は下線を付されている。パネルfおよびgは、野生型およびY3F変異型のClec10aをコードするcDNAまたは空ベクターをトランスフェクトしたBMMPの細胞表面におけるClec10aの発現を示す。影付きのヒストグラムは、アイソタイプコントロール抗体による染色を示す(パネルf)。トランスフェクトされた細胞は、HDMで刺激され、溶解され、抗Clec10a抗体で免疫沈降(IP)され、抗リン酸化チロシン(pTyr)抗体や抗Clec10a抗体を用いてイムノブロットされた(パネルg)。矢尻は、目的の分子(黒)およびIPに用いた抗体(IP-Ab)(白)を示す。パネルhは、1 ng/mL LPSまたは200 pg/mLのPam2CSK4で6時間刺激した後に0.5μMのTAK-242またはDMSOで処理されたCD115+のBMMPから細胞上清のCBA分析の結果を示す。**はP<0.01を表し、***はp<0.001を表す(独立両側Student′s t-検定)。データは、平均値±SEMを示す(n=3)。
【
図8】
図8は、Clec10a-CD3ζレポーター細胞とClec10a-FCキメラタンパク質の確立を示す。パネルaおよびbは、指定された用量(パネルa)でLewis Xでコートされたプレート、およびLewis X(10μg/mL)またはLewis Y(10μg/mL)でコートされたプレートで刺激した後のClec10a-CD3ζレポーター細胞のGFP発現をフローサイトメトリで分析した結果を示す。パネルcは、Lewis X(LeX)またはLewis Y(LeY)でコートされたプレートに結合したClec10a-FcをELISAで分析した結果を示す。データは、平均値±SEMを示す(n=3)。
【
図9】
図9は、ヒトClec10a-CD3ζレポーター細胞のHDM刺激の結果とヒトASGR1のノックダウン効率を示す。パネルaおよびbは、ガラクトース(Gal)、グルコース(Glc)、もしくはマンノース(Man)の非存在下(パネルa)または存在下(パネルb)で、HDMでコートされたプレートで刺激した後のヒトClec10a-CD3ζレポーター細胞のGFP発現を示す。パネルcは、コントロールsiRNAまたはASGR1に特異的なsiRNAで処置したヒトCD14
+単球由来MPの細胞表面のAsgr1の発現を示す。影付きのヒストグラムはアイソタイプコントロール抗体による染色を示す。***はp<0.001を表す(片側ANOVA検定)。データは、平均値±SEMを示す(n=3)。
【
図10】
図10は、Clec10aリガンド(Clec10a-L)がLPS誘導性皮膚炎を改善することを示す図である。パネルaおよびbは、LPSをClec10a-Lの存在下もしくは非存在下でC57BL/6Jの野生型(WT)マウス及びClec10a
-/-マウスの背部皮膚に毎日塗布した後の、5日目における組織と表皮肥厚をそれぞれ示す。パネルcは、LPSをClec10a-Lの存在下もしくは非存在下で背部皮膚に塗布した6時間後のWTマウスとClec10a
-/-マウスの皮膚の好中球(CD45
+CD11b
+Ly-6G
+)の数(/cm
2)を示す。*はp<0.05を表し、**はP<0.01を表す(独立両側Student′s t-検定)。データは、平均値±SEMを示す。
【
図11】
図11は、Clec10a-Lを決定するためのスキームを示す。
【
図12】
図12は、表示された各種グリカンを提示するポリマー性足場で被覆されたプレートに対してClec10a-Fcが結合するかいなかを調べたELISAアッセイの結果を示す。
【
図13】
図13は、Clec10aレポーター細胞を用いて、表示された各種グリカンを提示するポリマー性足場がClec10aを活性化するか否かを調べたレポーターアッセイの結果を示す。
【
図14】
図14は、LPSによる表皮の炎症に対するT抗原を提示するポリマー性足場投与の効果を調べた治療実験の結果を示す。
【発明の具体的な説明】
【0008】
本明細書では、「対象」とは、哺乳動物であり得、例えば、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット、およびリス等のペット;ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、およびヤギ等の家畜;サル、チンパンジー、オランウータン、ゴリラ、ボノボ、およびヒト等の霊長類を含む。
【0009】
本明細書では、「処置」とは、治療的処置および予防的処置が含まれる意味で用いられる。本明細書では、治療とは、疾患もしくは状態の悪化の抑制、疾患もしくは状態の悪化の遅延、疾患もしくは状態の改善、または疾患もしくは状態の治癒を含む意味で用いられ得る。本明細書では、予防とは、疾患もしくは状態の発症の抑制、または疾患もしくは状態の発症の遅延を含む意味で用いられ得る。
【0010】
本明細書では、「アレルギー」とは、免疫反応に基づく生体に対する全身的または局所的な障害を意味する。アレルギーは、血中抗体による液性免疫反応に基づくアレルギー(I型、II型、およびIII型)と感作リンパ球による細胞性免疫に基づくアレルギー(IV型)とに大別される。
【0011】
I型アレルギーは、即時型アレルギーまたはアナフィラキシー型とも呼ばれるアレルギーである。IgEが関与し、血中や組織中のマスト細胞や好塩気球が細胞表面に有するIgE受容体(FcεRI)とIgEが結合し、これにアレルゲンが結合すると、マスト細胞や好塩気球からヒスタミン等の化学伝達物質が放出され、アレルギー反応(例えば、平滑筋収縮、血管透過性亢進、および腺分泌亢進)が引き起こされる。I型アレルギーとしては、アトピー性気管支喘息、アレルギー性鼻炎、じんましん、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、およびアナフィラキシーショックが挙げられる。I型アレルギーでは、ハウスダスト、ダニ等が、体内に侵入してアレルギー反応を起こすことが知られている(経口、吸入、経皮、および経静脈等の経路で侵入し得る)。
【0012】
II型アレルギーは、細胞および組織の抗原等とIgGまたはIgMとが反応し、ここに補体が結合することによって生じる細胞傷害に基づくものである。細胞膜の抗原に結合したIgGに対して、IgG Fc受容体を有するマクロファージやキラー細胞などが結合してその細胞を傷害する抗体依存性細胞性障害(ADCC)もII型アレルギーに含まれる。II型アレルギーとしては、不適合輸血による溶血性貧血、自己免疫性溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、薬剤性溶血性貧血、願粒球減少症、血小板減少症、およびGoodpasture症侯群が挙げられる。III型アレルギーは、免疫複合体型またはArthus型とも呼ばれ、可溶性抗原とIgGまたはIgMとの免疫複合体(Immunocomplex)による組織障害に基づく。III型アレルギーとしては、血清病、全身性エリテマトーデスおよび関節性リウマチなどの自己免疫疾患、糸球体腎症、過敏性肺炎、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症が挙げられる。IV型アレルギーは、遅延型アレルギーとも呼ばれ、感作T細胞と抗原との反応により、感作T細胞からサイトカインが放出されて細胞傷害が生じることに基づく。また、キラーT細胞によるウイルス感染細胞、腫瘍細胞、移植片に対する障害にも基づくものである。IV型アレルギーとしては、アレルギー性接触性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、過敏性肺炎、結核性空洞、癩、サルコイドーシスの類上皮細胞性肉芽腫病変、天然痘発疹、および麻疹発疹が挙げられる。
【0013】
本明細書では、「アシアロ糖タンパク質受容体」とは、タンパク質の糖鎖の最末端のシアル酸が除去され、その内側のガラクトース残基が末端基として露出した糖タンパク質、すなわち、アシアロ糖タンパク質(AGP)に結合する受容体である。アシアロ糖タンパク質受容体は、肝細胞表面に存在し、血液中のAGPと結合して血中からAGPを除去する。アシアロ糖タンパク質受容体1(ASGR1)は、C型レクチンドメインファミリーメンバーH1またはCLEC4H1とも呼ばれる。ヒトのASGR1タンパク質の代表例は、GenBankに登録番号CAG46849.1で登録されたアミノ酸配列を有するタンパク質で有り得る。本明細書では、「ASGR1」と述べる場合には、ヒトのASGR1のオーソログを含む意味で用いられる。
本明細書では、「Clec10a」は、C型レクチンドメインファミリー10、メンバーAとも呼ばれ、糖鎖を認識して宿主の生体防御システムとして機能する分子である。Clec10aは、ガラクトースまたはN-アセチルガラクトサミンと特異的に結合し得る。
【0014】
本明細書では、「チリダニ」(house dust mite)とは、ヒョウヒダニ属(Dermatophagoides属)のダニである。チリダニの主な種は、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)、ダーマトファゴイデス・ミクロセラス(Dermatophagoides microceras)、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)、およびユーログリファス・メイネイ(Euroglyphus maynei)である。
【0015】
本明細書では、「抗原」とは、抗体または糖の場合はレクチンが反応し得るエピトープを提供する物質を意味する。糖鎖の文脈において「抗原」は、通常の語義に従って、レクチンが反応し得るエピトープを提供する糖鎖を意味する。従って、糖鎖の文脈において「抗原」と述べた場合には、天然の糖鎖および糖タンパク質において認められるように、レクチンが反応し得るエピトープとして糖鎖を糖鎖の表層に提供することを意味する。
【0016】
本明細書では、「リガンド」とは、受容体が結合する相手の物質をいう。リガンドは、受容体に結合することによって、受容体の下流シグナルを制御し得る。本明細書では、受容体の下流シグナルを正に制御する物質は、「アゴニスト」と呼ばれる。本明細書ではまた、受容体の下流シグナルを負に制御する物質は、「アンタゴニスト」と呼ばれる。
【0017】
本明細書では、「GalNAc」とは、N-アセチルガラクトサミンを意味し、「GlcNAc」とは、N-アセチルグルコサミンを意味する。
【0018】
本発明者らによれば、チリダニによる皮膚炎の発症や悪化に、マウスでは、Clec10aが関与し、ヒトでは、Asgr1が関与することを明らかにした。発明者らはまた、機能性解析および相同性解析の結果から、ヒトAsgr1がマウスのClec10aの本来の構造的機能的カウンターパートであることを明らかにした。発明者らはまた、チリダニには、マウスClec10aおよびヒトAsgr1に結合してこれを活性化し、アレルギー発生を抑制する物質(例えば、Clec10aリガンドまたはAsgr1リガンド)が含まれていることを明らかにした。発明者らはさらに、Clec10aのリガンドが、O結合型糖鎖、特に、T抗原(Galβ(1-3)GalNAc)、Tn抗原(αGalNAc)を含み、ASGR1がこれらのいずれにも結合することを明らかにした。本発明者らはまた、Clec10aのリガンドがTLR4シグナルを抑制することを明らかにした。
【0019】
T抗原(Galβ(1-3)GalNAc)、およびTn抗原(αGalNAc)はそれぞれ、以下式(I)に示される模式図の通りの構造を有する糖鎖である。Asgr1が、T抗原およびTn抗原にそれぞれ結合することは、Asgr1がガラクトースまたはN-アセチルガラクトサミンに対して親和性を有することと整合する。
【0020】
【0021】
また、Asgr1は、T抗原、LeA、およびLeXからなる群から選択される糖鎖にも結合し、これによりシグナルを細胞内へ伝達する。
【0022】
【0023】
糖鎖は、ポリマー性の足場上に提示されていてもよい。例えば、糖鎖は、ポリ乳酸、ポリアクリルアミド、ポリビニル、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリルニトリル、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、ナイロン、コラーゲン、ヒドロキシエチルメタクリレート、キトサン、キチン、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリアミノ酸、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、およびこれらの共重合体などの生体適合性高分子をバックボーンとして有するポリマー性の足場の側鎖上に連結し、Clec10aに提示されてもよい。ボリマー性の足場上に提示された糖鎖が、Clec10aまたはAsgr1を活性化させるか否かは、後述するCD3ζレポーター細胞を用いて確認することができる。上記においてそれぞれのポリマーは、投与可能な物性(例えば、粘度、浸透圧等)であれば特に限定されないが、例えば、1kDa~100kDa、5kDa~50kDa、10kDa~40kDa、または20~40kDの重量平均分子量を有する生体適合性高分子をバックボーンとして用いることができる。
【0024】
本発明によれば、アシアロ糖タンパク質受容体1(Asgr1)のマウスカウンターパートであるClec10aにナンセンス変異またはフレームシフト変異を導入すると、HDMに対する応答が過剰になった。また、Clec10aのリガンドを含む抽出物(精製物)を調製し、ヒトAsgr1-CD3ζレポーター細胞に接触させると、Asgr1は、濃度依存的にClec10aのリガンドに応答した。また、この活性化は、ガラクトースの系への添加によって濃度依存的に打ち消された。このことから、アシアロ糖タンパク質受容体1(Asgr1)のリガンド)は、チリダニにより誘発されるアレルギーなどのTLR4シグナルにより誘発される疾患または症状(例えば、炎症およびアレルギー疾患)の処置に用いることができると結論できる。
従って、本発明によれば、アシアロ糖タンパク質受容体1(Asgr1)のリガンドを含む、アレルギー疾患を処置することに用いるための組成物が提供される。本発明によれば、アシアロ糖タンパク質受容体1(Asgr1)のリガンドを含む、TLR4シグナルの活性化により誘発される疾患または症状(例えば、炎症およびアレルギー疾患)の処置に用いるための組成物が提供される。TLRシグナルは、TLR4リガンドにより活性化されうる。TLR4リガンドとしては、リポ多糖(LPS)およびリポテイコ酸並びにこれらのアナログであるアゴニストが挙げられる。したがって、これらのTLR4リガンドを含むアレルゲンにより誘発される疾患または症状(例えば、炎症およびアレルギー疾患)の処置に、アシアロ糖タンパク質受容体1(Asgr1)のリガンドを用いることができる。したがって、本発明によれば、TLR4リガンドを含むアレルゲンにより誘発される疾患または症状を処置することに用いるための組成物であって、アシアロ糖タンパク質受容体1(Asgr1)のリガンドを含む組成物が提供される。
【0025】
アシアロ糖タンパク質受容体1(Asgr1)のリガンドとしては、シアル酸が離脱し、末端にLewisXを有する糖鎖、および当該糖鎖を有するタンパク質が挙げられる。アシアロ糖タンパク質受容体1(Asgr1)のリガンドとしては、シアル酸が離脱し、末端にT抗原またはTn抗原を有する糖鎖、および当該糖鎖を有するタンパク質が挙げられる。T抗原は、Galβ(1-3)GalNAcを意味し、Tn抗原は、αGalNAcを意味する。アシアロ糖タンパク質受容体1(Asgr1)のリガンドとしては、シアル酸が離脱し、末端に、Lewis X抗原、T抗原、およびTn抗原からなる群から選択される1、2または全てのO結合型糖鎖、または当該糖鎖を有するタンパク質であり得る。ムチン様タンパク質は、上記O結合型糖鎖を有し、Lewis X抗原、T抗原、およびTn抗原からなる群から選択される糖鎖を有する。従って、アシアロ糖タンパク質受容体1のリガンドは、ムチン様タンパク質またはムチンであり得る。アシアロ糖タンパク質受容体1(Asgr1)のリガンドとしての前記タンパク質は、ムチン様タンパク質またはムチンであり得る。
【0026】
生体内においては、肝細胞にAsgr1が高発現しており、体内で脱シアリル化した老化したタンパク質(アシアロ糖タンパク質)を肝細胞内に取り込んで血中から除去する。従って、このような脱シアリル化した糖タンパク質は、全てアシアロ糖タンパク質受容体1のリガンドとして用い得る。Asgr1は、T抗原及びTn抗原の少なくともいずれかまたは両方を有する糖鎖に結合し、反応する。従って、T抗原及びTn抗原の少なくともいずれかまたは両方を有する糖鎖またはこれを有するタンパク質は、全てアシアロ糖タンパク質受容体1のリガンドとして用い得る。また、全てアシアロ糖タンパク質受容体1のリガンドは、アレルゲンを含有する物質(例えば、HDM抽出物)をClec10a(例えば、マウスClec10aまたはヒトAsgr1)との結合親和性に基づくアフィニティー精製によっても得ることができる。Clec10aからのClec10aリガンドの溶出は、例えば、ガラクトースを用いて行うことができる。Clec10aリガンドの溶出物は生理食塩水で透析してもよい。
【0027】
ヒトアシアロ糖タンパク質受容体1の細胞外領域と膜貫通領域とCD3ζの細胞内領域を含む融合タンパク質は、アシアロ糖タンパク質受容体1のリガンドの存在下でCD3ζシグナルを下流に伝えた。従って、ヒトアシアロ糖タンパク質受容体1の細胞外領域と膜貫通領域とCD3ζの細胞内領域を含む融合タンパク質は、アレルギー疾患を処置することに用いるための物質を確認することができる。例えば、ヒトアシアロ糖タンパク質受容体1の細胞外領域と膜貫通領域とCD3ζの細胞内領域を含む融合タンパク質を発現する動物細胞であって、CD3ζシグナルで活性化するプロモーター(例えば、NFATプロモーター)と作動可能に連結したレポーターをコードする遺伝子を有する動物細胞と、化合物を接触させることによって、被検化合物が、ヒトアシアロ糖タンパク質受容体1に結合する化合物であることを確認することができる。また、抑制性ITAMを介する制御性シグナリングを指標として、得られた物質がアレルギー疾患を処置することに用いるための物質であることを確認することができる。
また、化合物(ヒトAsgr1のリガンドの候補化合物)のアレルギー抑制効果については、例えば、LPS誘導性の皮膚炎に対して、化合物を適用して皮膚炎の抑制効果を確認することができる。
このように、本発明では、ヒトアシアロ糖タンパク質受容体1の細胞外領域と膜貫通領域とCD3ζの細胞内領域を含む融合タンパク質、および当該融合タンパク質を発現する動物細胞が提供される。本発明ではまた、当該動物細胞は、CD3ζシグナルで活性化するプロモーターと作動可能に連結したレポーターをコードする遺伝子を有するものであってもよい。本発明ではさらに、ヒトアシアロ糖タンパク質受容体1の細胞外領域と膜貫通領域とCD3ζの細胞内領域を含む融合タンパク質を発現する動物細胞であって、CD3ζシグナルで活性化するプロモーターと作動可能に連結したレポーターをコードする遺伝子を有する動物細胞と、化合物を接触させることによって、被検化合物が、ヒトアシアロ糖タンパク質受容体1に結合する化合物であることを確認する方法が提供される。
本発明のある態様では、被検化合物は、アシアロ糖タンパク質受容体1(Asgr1)のリガンドを含み得る。本発明のある態様では、被検化合物は、前記リガンドが、T抗原およびTn抗原からなる群から選択される少なくとも1種の糖鎖であり得る。本発明のある態様では、前記リガンドが、ムチン様タンパク質またはムチンであり得る。本発明のある態様では、前記リガンドが、ヒトアシアロ糖タンパク質受容体1のリガンドであり得る。
本発明のヒトアシアロ糖タンパク質受容体1の細胞外領域と膜貫通領域とCD3ζの細胞内領域を含む融合タンパク質を発現する動物細胞であって、CD3ζシグナルで活性化するプロモーターと作動可能に連結したレポーターをコードする遺伝子を有する動物細胞は、化合物のスクリーニングに用いることもできる。従って、本発明では、ヒトAsgr1リガンドまたはアゴニストのスクリーニング方法であって、ヒトアシアロ糖タンパク質受容体1の細胞外領域と膜貫通領域とCD3ζの細胞内領域を含む融合タンパク質を発現する動物細胞であって、CD3ζシグナルで活性化するプロモーターと作動可能に連結したレポーターをコードする遺伝子を有する動物細胞と被検化合物とを接触させることを含む、方法が提供される。レポーター活性が認められた場合には、当該被検化合物は、ヒトAsgr1リガンドまたはアゴニストの候補であることが示される。
動物細胞は、好ましくは、ヒト細胞であり得る。
【0028】
本発明の組成物は、パーソナルケア組成物および医薬組成物などの組成物であり得る。
【0029】
医薬組成物としては、例えば、局所投与用の医薬組成物が挙げられ、本発明に用いることができる。局所投与用の医薬組成物は、粘膜適用または体表適用のための医薬組成物であり得、例えば、点眼剤、眼軟膏剤、舌下錠、バッカル錠、トローチ剤、含そう剤、スプレー剤、エアロゾル剤、および吸入剤;液剤、灌注剤、グリセリン剤、酒精剤、水剤、および塗布剤などの溶液製剤;乳剤、懸濁剤、リニメント剤、ローション、スプレー剤、およびリポソーム剤などの分散製剤;軟膏剤、硬膏剤、貼付剤、粘着テープ剤、パスタ剤、パップ剤、クリーム剤、油剤、およびスティック剤などの半固形製剤;並びに、エキス剤(軟エキス剤、乾燥エキス剤)、およびチンキ剤などの浸出製剤が挙げられる。
【0030】
本発明によれば、医薬組成物は、薬学的に許容可能な賦形剤を含んでいてもよい。薬学的に許容可能な賦形剤としては、溶剤、基剤、希釈剤、増量剤、充填剤、および補形剤;溶解補助剤、可溶化剤、緩衝剤、等張化剤、乳化剤、懸濁化剤、分散剤、増粘剤、ゲル化剤、硬化剤、吸収剤、粘着剤、弾性剤、可塑剤、徐放化剤、および噴射剤;抗酸化剤、保存剤、保湿剤、遮光剤、帯電防止剤、芳香剤、着香剤、着色剤、および緩和剤が挙げられる。
【0031】
パーソナルケア組成物としては、例えば、スキンケア、制汗剤、脱臭剤、美容品、化粧品、およびヘアケア製品が挙げられる。パーソナルケア組成物としては、保湿剤、コンディショナー、老化防止剤、美白剤、日焼け止め剤、制汗剤、ひげそり用組成物、ひげそり後用組成物、ファンデーション、リップスティック、口紅、整髪料、シャンプー、洗浄剤、および潤滑剤が挙げられる。パーソナルケア組成物は、パーソナルケア製品に用いられ得る。パーソナルケア製品としては、下着、おむつ、ティッシュ、拭き取り布、マスク、パッチ等が挙げられる。組成物は、有効成分に加えて賦形剤を含んでいてもよい。組成物は、例えば、静脈投与、経皮投与、経口投与、経腸投与、および腹腔内投与などの投与形態に適した剤形にすることができる。皮膚炎の予防および/または治療に関しては、経皮投与により本発明の組成物を投与してもよく、例えば、ゲル、エマルション、クリーム、液体、ペースト、ローション、リポソームクリーム等の形態(例えば、皮膚科学的組成物)であり得る。ある態様では、組成物は、軟膏であり得る。経皮投与の場合には、賦形剤としては、皮膚科学的に許容可能な賦形剤を用いることができ、これに適した剤形を用いることができる。経粘膜投与の場合には、賦形剤としては、粘膜適用上許容可能な賦形剤を用いることができ、これに適した剤形を用いることができる。
【0032】
本発明によれば、アレルギー疾患を処置することに用いるための組成物の製造における、Asgr1リガンドの使用が提供される。
【0033】
本発明によれば、アレルギー疾患をその必要のある対象において処置する方法であって、当該対象にAsgr1リガンドの有効量を投与することを含む、方法が提供される。
【0034】
本発明によれば、アレルギー疾患を予防する、またはその発生を抑制する方法であって、
当該対象にAsgr1リガンドの有効量を投与することを含む、方法が提供される。
【実施例】
【0035】
方法
(1)皮膚細胞の調製
皮膚細胞は、薄く削った背側皮膚サンプルを挟みでミンチにし、200 U/mLのコラゲナーゼII、50 U/mLのDNaseおよび10% ウシ胎児血清(FBS)を含有するRPMI-1640培地中で60分間インキュベートした。gentleMACS Dissociator (Miltenyi Biotec)を用いて更なる解離とホモジェナイズを行った。得られた細胞は、55μmナイロンメッシュでろ過し、単一細胞懸濁液として得た。
【0036】
(2)フローサイトメトリ
フローサイトメトリとセルソーティングはそれぞれ、FACS LSRFortessaおよびFACS Aria (BD Biosciences)を用いて実施した。FlowJo software(Tree Star)をデータの分析に用いた。死細胞は、ヨウ化プロピジウム溶液(シグマアルドリッチ、P4864)を用いて染色し、除去した。
【0037】
(3)組織学および免疫組織化学染色
組織学的分析に関しては、マウスから採取した背側皮膚サンプルをホルマリン固定し、パラフィン包埋して、4μm厚切片を作製した。切片をヘマトキシリン-エオシン染色して光学顕微鏡で分析した。上皮の厚みは、マウス1匹につき5領域で、領域1つにつき5箇所で測定した。
免疫組織化学染色に関しては、マウスから採取した皮膚サンプルをTissueTek Optimal Cutting Temperature Compound(Sakura Finetek Japan)中に包埋し、-80℃で保存した。免疫組織化学染色においても4μm厚の切片を用いた。0.05%のTween-20を含むPBS(PBS-T, pH7.4)で洗浄し、染みこませて、Blocking One Histo(Nacalai)を用いて室温で10分間インキュベートした。その後、切片をPBS-Tで洗浄し、抗Clec10a mAbを用いて4℃で一晩インキュベートし、PBS-Tで洗浄し、Alexa Fluor 546標識抗ラットIgG ポリクローナル抗体を用いて1時間インキュベートした。PBS-Tを用いた洗浄の後に、切片は、DAPIを用いて核を染色した。
ヒトの健常皮膚組織は、患者の腫瘍領域の周辺から採取し、ホルマリン固定し、パラフィン包埋して4μm厚の切片にした。切片をキシレンで脱パラフィン処理し、エタノールで再水和させて、メタノールを用いて内在性のペルオキシダーゼを遮断した。Opal 4-Color Automation IHC Kit(PerkinElmer、NEL820001KT)の製造者マニュアルに従って、切片を抗CD69抗体および抗Asgr1抗体を用いて染色した。簡単には、切片を95℃で15分間インキュベートし、0.05%のTween-20を含むTBS(TBS-T)(Takara Bio, T9142)で洗浄し、ブロッキング溶液を用いて室温で10分間処理した。切片を抗CD68抗体またはマウスIgG1抗体を用いて4℃で一晩インキュベートし、TBS-Tを用いて洗浄し、湿式チャンバー内でOpalpolymer HRPを用いて室温で30分間処理した。TBS-Tを用いた洗浄の後で、切片をOpal Fluorophore Working Solutionを用いて湿式チャンバー内で室温で10分間インキュベートし、TBS-Tで洗浄した。1回目の染色のための抗体は、95℃で加熱することにより切片から除去した。切片は、その後、1回目の染色と同様に抗Asgr1抗体またはウサギIgG抗体で染色した。切片は、spectral DAPI溶液を用いて核染色した。
【0038】
(4)チリダニ(HDM)誘発皮膚炎
最初の誘発(0日目)において、麻酔したマウスの背中の皮膚を電子バリカンを用いて除毛し、残存した毛を毛髪除去クリームを用いて脱毛した。剃った背中の皮膚に対して100mgのHDM(Dermatophagoides farinae)の軟膏(Biostir, Japan)を局所投与した。2回目の誘発からは、HDM軟膏投与の2時間前に背側皮膚に対して150μLの4%のドデシル硫酸ナトリウムを適用することにより、皮膚のバリア機能を破壊した。これらの手順は、週2回繰り返された。いくつかの因子(紅斑/出血および瘢痕/乾燥)は、3日目、6日目、14日目、および21日目において、製造者指示書(Biostir)に従い、0(無し)、1(軽度)、2(中度)または3(重度)の評価基準に従ってスコアリングした。ここのスコアの合計を全体の皮膚炎スコアとした。
【0039】
(5)RAW264.7の形質転換体の樹立
C57BL/6JマウスまたはNC/NgaマウスからClec10aのcDNAを作製して、Flagタグをコードする配列で標識して、pMXs-IRES-GFPレトロウイルスベクターにサブクローニングした。C57BL/6J型またはNC/Nga型のClec10aを安定的に発現するRAW264.7の形質転換体は、常法に基づいて樹立した。
【0040】
(6)ELISAアッセイ
血清IgE抗体は、マウスIgE(R35-72)に対する捕捉抗体とビオチン化抗マウスIgE(R35-118)と、その後のHRP標識ストレプトアビジン(GE Healthcare、RPN1231V)を用いて測定した。精製マウスIgE(C38-2、BD Biosciences)を標準として用いた。血清IgG1をマウスIgG1(A85-3)に対する捕捉抗体とマウスIgG1に対するHRP標識抗体とを用いて測定した。精製マウスIgG1(107.3、BD Biosciences)を標準として用いた。血清IgG2cは、マウスELISA Quantitation Set(Bethyl, E90-136)によって検出した。
【0041】
(7)骨髄マクロファージ(BMMP)の調製
骨髄細胞を培養皿(Corning、430166または430167)上で、10 ng/mLのGM-CSF(R&D Systems)および7ng/mLのIL-4(Wako)の存在下で、10%FBSを含むRPMI1640完全培地中で培養した。2日目に70%の非接着細胞を除去し、GM-CSFとIL-4を含む新鮮な培地を添加した。5日目に、100%の非接着細胞をPBSで洗浄することによって除去し、GM-CSFとIL-4を含む新鮮な培地を添加した。7日目に、全ての非接着細胞をPBS洗浄により除去して、接着細胞を後の実験に用いた。サイトカインの分泌とSykのリン酸化の分析に関しては、CD115+のBMMPを抗CD115抗体(BioLegend)および抗ラットIgGマイクロビーズ(Miltenyi Biotec)を用いて濃縮した。
【0042】
(8)サイトカイン分泌の分析
CD115+のBMMPを0.5 μMのTAK-242(Merck)存在下または非存在下で、100 μg/mLのHDM抽出物(Dermatophagoides farinae)(COSMO BIO)、1ng/mLのリポポリサッカライド、または200 pg/mL Pam2CSK4で15分間刺激した。6時間の刺激後に、培養上清を回収し、サイトカインそれぞれの濃度をcytometric bead array analysis(BD Biosciences)を用いて決定した。
【0043】
(9)cDNAの合成とリアルタイムPCR(RT-PCR)
全RNAを皮膚組織またはフローサイトメトリによってソートされた細胞からIsogen reagent(Nippon Gene)を用いて抽出した。皮膚MPはCD45
+MHCII
+CD3
-CD19
-NK1.1
-Ly-6G
-EpCAM
-CD64
+でソートし、DCは、CD45
+MHCII
+CD3
-CD19
-NK1.1
-Ly-6G
-EpCAM
-CD64
-)でソートした。CD3
+CD4
+細胞も取得した。cDNAは、High Capacity RNA-to-cDNA Kit(Applied Biosystems)を用いて合成した。Clec10aと炎症性サイトカインの遺伝子発現は、定量的RT-PCR法によってSYBR Gree Master Mix(Applied Biosystems)および特異的プライマーを用いて測定した。Gapdhの発現レベルを標準化データの内部参照として用いた。用いたプライマー配列は以下表1の通りであった。
【表1】
【0044】
(10)レトロウイルスによる遺伝子導入
野生型Clec10aのcDNAをpMXs-puro retroviral vector (Cell Biolabs)にサブクローニングした。部位特異的Clec10a変異体を作製するため、センス鎖のPCRプライマーをフェニルアラニン(TTC)をチロシン(TAC)の代わりに含むように設計した。得られた変異型cDNAは、シークエンシングにより確認した。レトロウイルスは、293GPパッケージング細胞を野生型または変異体Y3FのcDNA、またはVSV-G発現ベクターpCMV-VSV-Gを用いてトランスフェクションすることによって得られた。BMMPを、2日目および4日目に、ポリブレン(8μg/mL, Sigma-Aldrich)を添加したウイルス上清を用いて感染させた。遠心後、ウイルスを含む上清を除去して、新鮮なBMMP培地に置き換えた。5日目に培地を新鮮なBMMP培地に置き換え、7日目に非接着細胞をPBS洗浄によって除去して、接着細胞を実験に用いた。
【0045】
(11)Clec10a-Fcキメラの調製
マウスClec10aキメラ構築物(Clec10a-Fc)は、ヒトIgG1のFc領域を含むpME18S発現ベクター中にマウスClec10aの細胞外領域を連結させるようにクローニングすることによって作製した。Clec10a-FcをLipofectamine 2000(Thermo Fisher Scientific)を用いてHEK293T細胞にトランスフェクションし、その後、培地をGIT medium(KOHJIN BIO)に置き換えた。Clec10a-Fcは、protein A agarose(Bio-Rad Laboratories)を用いて培養上清から精製した。
【0046】
(12)Clec10aリガンドの単離
150 mM NaCl, 50 mM Tris, 1mM CaCl2, および0.01% Tween 20を含む緩衝液に溶解させたHDM抽出物をClec10a-Fcを用いてプルダウンアッセイに供した。Clec10a-Fcに結合したリガンドは、30 mM EDTAまたは200 mM ガラクトースを用いて溶出させた。溶出物は、PBSを外液として用い、centrifugal filter unit(Merck, UFC503024)を用いて透析し、Clec10a-Lと命名し、Clec10aリガンドの一つとして用いた。
【0047】
(13)アルシアンブルー染色と銀染色
Clec10aリガンドは、SDS-PAGEによって展開させた。電気泳動直後にゲルを脱イオン水と10%酢酸緩衝液(10%酢酸および30%エタノールを含む脱イオン水)で洗浄し、アルシアンブルー溶液(pH2.5)(Wako、013-13801)を用いて、または用いずに、室温で2時間染色し、その後、3%酢酸緩衝液および10%酢酸緩衝液で脱染した。ゲルを製造者指示書に従って銀染色した(Pierce Silver Stain Kit, Thermo Fisher Scientific)。
【0048】
(14)Clec10aリガンドの分画
Clec10aリガンドをSDS-PAGEによって展開させ、サイズにしたがって分離する方式でゲルを切り出した。切り出されたゲルを機械的に粉砕し、攪拌しながらPBS中で一晩インキュベートした。17,400gで10分間の遠心後に上清を回収して、PBSを外液として用い、centrifugal filter unit(Merck, UFC503024)を用いて透析した。
【0049】
(15)イムノブロット
Sykのリン酸化を分析するために、BMMPをHDM抽出物(100μg/mL)で37℃で0分、10分、または30分間刺激した。刺激したBMMPを1% NP-40溶解緩衝液で溶解させ、SDS-PAGEによって分離した。PVDF膜上に電気ブロットによって転写して、抗リン酸化Syk抗体および抗Syk抗体を用いてイムノブロットし、HRP標識抗ウサギIgG抗体を用いて検出した。
Clec10aのチロシンリン酸化を分析するために、BMMPをHDM抽出物(100μg/mL)で37℃で0分、10分、または30分間刺激した。刺激したBMMPを1% NP-40溶解緩衝液で溶解させ、抗Clec10a mAbを用いた免疫沈降に供した。免疫沈降物は、SDS-PAGEによって展開し、PVDF膜上に転写され、HRP標識抗リン酸化チロシン抗体、または抗Clec10a抗体とHRP標識抗ウサギIgG抗体を用いて、イムノブロットした。
Clec10aとSykまたはSHP-1との会合を分析するため、BMMPを5 mMのSyk inhibitor IV(Merck, 574714)の存在下、または非存在下で37℃で30分間、前処理し、HDM抽出物(100μg/mL)で37℃で0分、10分、または30分間刺激した。0.2%ジギトニン緩衝液で溶解して、抗Clec10a mAbを用いて免疫沈降した。免疫沈降物は、先に記載したようにPVDF膜上に転写し、抗Syk抗体、抗SHP-1抗体、または抗Clec10a抗体を用いてイムノブロットし、その後、HRP標識抗ウサギIgG抗体またはヤギIgG抗体で検出した。タンパク質は全て、enhanced chemiluminescence(Thermo Fisher Scientific)を用いて検出した。
Clec10aリガンドは、ペプチドN-グリコシダーゼF(PNGase F PRIMTM, NZS1、N-Zyme Scientific)の存在下もしくは非存在下での37℃で16時間の前処理、95℃で5分間の熱変成の後に0.05 MのNaOHの存在下もしくは非存在下での40℃で16時間の前処理をして、その後、SDS-PAGEによって分離し、PVDF膜状に転写して、ビオチン化Clec10a-FcとHRP標識ストレプトアビジンを用いてイムノブロットした。
【0050】
(16)レポーター細胞の樹立と刺激
ヒトCD3ζの細胞内領域は、LL Lanier(University of California, San Francisco)から提供されたベクターから取得した。マウスもしくはヒトClec10aの細胞外領域またはヒトAsgr1の細胞外領域は、pMXs-puro retroviral vector中にサブクローニングした。2B4-NFAT-GFPレポーター細胞は、H. Arase博士(University of Osaka)から提供された。マウスまたはヒトClec10aを安定発現する2B4-NFAT-GFPレポーター細胞は、以前記載された通りに作製した。レポーター細胞は、抗Clec10a mAb、Lewis X(GlycoTech)、Lewes Y(GlycoTech)、ガラクトース(Sigma-Aldrich)、グルコース(Sigma-Aldrich)もしくはマンノース(Sigma-Aldrich)の存在下または非存在下で18時間インキュベートした。レポーター細胞はまた、ガラクトシダーゼ(R&D Systems、5704-GHまたは5549-GH)、もしくはグルコシダーゼ(R&D Systems、8329-GH)、Clec10aリガンド被覆プレート、またはサイズ分画されたClec10aリガンドで処理された、または未処理のHDM抽出物被覆プレート上で、培養された。NFAT-GFPの活性化は、フローサイトメトリによってモニターされた。
【0051】
(17)レクチンマイクロアレイ分析
レクチンマイクロアレイは、従前の方法に従い、非接触マイクロアレイプリントロボット(MicroSys4000; Genomic Solutions)を用いて作製した。サンプルをCy3 Mono-Reactive dye(GE)で蛍光標識し、過剰なCy3をSephadex G-25の脱塩カラム(GE)を用いて除去した。2.7 mM KCl, 1 mM CaCl2, 1 mM MnCl2, および1% Triton X-100を含むプローブ溶液(25 mM Tris-HCl, pH 7.5, 140 mM NaCl)(TBS)で10倍に希釈した後に、Cy3標識サンプルをレクチンマイクロアレイに適用し、20℃で一晩インキュベートした。プローブ溶液で洗浄し、蛍光像をevanescent-field activated fluorescence scanner(Bio-Rad scan 200、Rexxam Co. Ltd.)を用いて取得した。3連スポットのレクチンシグナルを各タンパク質サンプルについて平均して、96のレクチンの平均値に対して正規化した。レクチンのリストは、表2に示される通りであった。
【0052】
【表2】
略語:Gal (D-galactose)、GalNAc(N-acetyl-galactosamine)、GlcNAc(N-acetyl-glucosamine)、Fuc(L-fucose)、Sia(Sialic acid)、LacNAc(N-acetyl-lactosamine)。
2 特異性のデータは、フロンタルアフィニティークロマトグラフィーおよび糖コンジュゲートマイクロアレイによって得られた。
3 略語:JOM(J-OIL MILLS, INC)、Vector(VECTOR LABORATORIES)、Seikagaku(SEIKAGAKU CORPORATION)、EY(EY LABORATORIES, INC)、AIST(産業技術総合研究所)
【0053】
(18)糖コンジュゲートマイクロアレイ分析
98種の糖コンジュゲートを含む糖コンジュゲートマイクロアレイ(表3)を従前の方法に従い、非接触マイクロアレイプリントロボット(MicroSys4000; Genomic Solutions)を用いて作製した。Clec10a-Fc(10 μg/mL)をCy3標識ヤギ抗ヒトIgG, Fc(Jackson、109-165-098)(1 μg/mL)を事前に複合体形成をさせ、糖コンジュゲートマイクロアレイ(80μL/ウェル)と20℃で一晩インキュベートした。
【0054】
【0055】
(19)ヒトAsgr1のノックダウン
CD14+の単球を抗CD14マイクロビーズ(Miltenyi Biotec、130-050-201)を用いて末梢血単核球から濃縮し、GM-CSF存在下で2日間培養した。ASGR1に対して特異的なsiRNA(SMARTpool Accell siRNA, Dharmacon)または対照siRNAとsiRNA送達剤との混合物で処理した。その後、100μg/mLのHDM抽出物で単球を6時間刺激した。培養上清中の各種サイトカインの濃度をcytometric bead array analysis(BD Biosciences)を用いて決定した。
【0056】
(20)ヒト皮膚遺伝子発現のデータ
ヒトの皮膚およびアトピー性皮膚炎の病理学的状態におけるヒトASGR1の発現を分析するために、公開されたマイクロアレイデータ(GSE5667)を用いた。
【0057】
(21)統計学的解析
統計学的解析は、両側Student′s t-検定(GraphPad Prism 5)、事後テューキー・クラマー検定とANOVA検定(GraphPad Prism 5)、またはピアソン相関検定(両側、GraphPad Prism 5)を用いて行った。
【0058】
実施例1:アトピー性皮膚炎モデルマウスのエクソーム解析
本実施例では、アトピー性皮膚炎のモデルマウスであるNC/Ngaマウスのエクソーム解析を実施して、アトピー性皮膚炎の原因遺伝子を特定した。
【0059】
NC/Ngaマウスは、チャールズリバー、ジャパンから購入した。QIAamp DNA blood Mini Kit (QIAGEN, Venlo, Netherlands)を用いて、マウスDNAの抽出に適した条件下でNC/Ngaマウスから得られた血液からDNAを抽出した。得られたDNAのエクソーム解析は、以下の通り実施した。SureSelect Library prep kit (post-pool version 4; Agilent Technologies, Santa Clara, CA)とSureSelect Mouse All Exon Kit (Agilent Technologies)を用いて、その製造者マニュアルにしたがってDNAライブラリを得た。得られたDNAライブラリをエマルションPCR (SOLiD EZ Bead Emulsifier kit; Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)に供して、ビーズ上にクローン性のDNA断片を生成させ、その後、ビーズエンリッチメントに供した(SOLiD EZ Bead Enrichment kit; Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)。得られたビーズは、SOLiD 5500xl シークエンサー上で、単一末端の60bpのリードとしてシークエンスした。得られたリードは、マウス参照ゲノム(NCBI37/mm9)に対してLifeScope version 2.5.1 (Life Technolofies)を用いてアラインメントして、BAMファイルを得た。バリアントコールをGenome Analyssi Toolkit, Picard (http://broadinstitute.github.io/picard)に記載されたプロトコルに従ってSAMtoolを用いて実施し、参照ゲノム上で固有の位置にマップされたリードのみを分析に用いた。変異箇所は、ANNOVERソフトウェアを用いてアノテーションした。NC/Nga以外の近交系マウスにおける遺伝的変動は、NCBIm37アッセンブリに従って付番されたリリースREL-1211(http://www.sanger.ac.uk/science/data/mouse-genomes-project)およびMouse Genome Informatics website (http://www.informatics.jax.org/)から取得された。シークエンスは、ABI 3130xl Genetic Analyzer (Thermo Fisher Scientific)上で、BigDye Terminator v1.1 Cycle Sequencing Kit (Thermo Fisher Scientific)を用いて実施した。用いたプライマーは表4の通りであった。
【0060】
【0061】
NC/Ngaマウスのゲノムのエキソン領域には、参照ゲノムに対して70,772個の変異が同定された。GATK出力により得られた低品質の値を伴う変異を取り除き、64,518個の変異を得た。ANNOVERソフトウェアを用いてナンセンス変異およびフレームシフト変異を含む機能喪失変異を選択した。そして、35のナンセンス変異と48のフレームシフト変異(ストップコドンが誘発される)が同定された。これらの83遺伝子のそれぞれについて43遺伝子中の46の変異について更なるシークエンスバリデーションのために選択した。
【0062】
また、46の変異のうち、24がシークエンスによって確認された。結果は表5に示される通りであった。
【0063】
【0064】
17の近交系マウス系統と2の日本のペットマウスに存在する変異を除外し、7遺伝子中の7つの変異に着目した。(表5の太字参照)。造血細胞における発現の観点から、BioGPSデータベースの情報に基づいて、7つの遺伝子からClec10aを選択した(
図5のパネルa参照)。NC/NgaマウスのClec10aは、NM_010769の塩基配列における706番目のCがTになるナンセンス変異(すなわち、Q236X)であった。
【0065】
実施例2:Clec10aの発現解析と機能解析
Clec10aは、II型のC型レクチン受容体ファミリーの一員であり、外来および内在性抗原の末端のガラクトース部分を検知する。NC/NgaマウスにおけるClec10aのc.706C>Tは、C型レクチン様ドメインのコード領域に存在する(
図1のパネルaおよびb)。フローサイトメトリによる分析から、Clec10aが、皮膚CD45
+MHCII
+リニエージ
-EpCAM
-細胞においては、マクロファージ(MP)(CD64
+MerTK
+)、従来型の樹状細胞(cDC)(CD64
-MerTK
-)、および単核球由来DC(CD64
-MerTK
lo)の細胞表面、並びにC57BL/6Jの腹腔のマクロファージ上に発現していることが明らかとなった(NC/Ngaマウスの腹腔には発現していなかった)(
図1のパネルc、
図5のパネルb,e参照)。C57BL/6Jマウスの皮膚の非造血細胞(CD45
-)、CD45
+MHCII-細胞、CD45
+MHCII
+(Lin, EpCAM)
+細胞、および好中球(CD45
+CD11b
+Ly-6G
+)では、Clec10aの発現は認められなかった(
図5のパネルc,d参照)。免疫組織化学染色によっても同様の結果が得られ、C57BL/6Jマウスの皮膚細胞においてはClec10aの発現が認められたが、NC/Ngaマウスではその発現は認められなかった(
図1のパネルd)。
【0066】
NC/NgaマウスにおけるClec10aの発現の特徴を更に分析した。具体的には、3′末端にFlagタグとIRES-GFPをコードする配列を有するClec10a(C57BL/6Jマウス由来およびNC/Ngaマウス由来)のcDNAをRAW264.7マクロファージにトランスフェクションした。Flagタグは、C57BL/6Jマウス由来のClec10aを発現するマクロファージの細胞表面に発現したが、NC/Ngaマウス由来のClec10aを発現するマクロファージの細胞表面には発現しなかった。(
図5のパネルf参照)。しかしながら、NC/Ngaマウス由来のClec10aを発現するマクロファージにおいては、Flagの細胞内における発現が認められた(
図5のパネルg参照)。これらの結果は、Clec10aにおける変異が、細胞表面へのClec10aの輸送に負の影響を与えたことを示唆するものである。
【0067】
次に、このClec10aの変異が、チリダニ(House dust mite, HDM)による皮膚炎に関与しているか否かを確認した。そこで、天然の配列(Clec10a
c.706T)の代わりに、Clec10a
c.706Cを有する変異体マウス(以下、「NC/NgaマウスClec10a
c.706T>C」ということがある)を、CRISPR/Cas9システムを用いて常法に従って作製した(
図1のパネルa参照)。Clec10a
c.706Cを有する変異体マウスの皮膚においては、Clec10aのmRNA発現が、Clec10a
c.706Tを有するマウスと比較して、有意に増加していた(
図5のパネルh参照)。Clec10a
c.706TとClec10a
c.706Cをヘテロで有する変異体マウス(Clec10a
c.706T/C)では、皮膚および腹腔におけるマクロファージの表面上でのClec10aの発現が回復した(
図1のパネルc、d、
図5のパネルi参照)。加えて、紅斑、乾燥、および皮膚厚の増大などのHDM誘発皮膚炎の症状が変異体マウス(Clec10a
c.706T/C)において軽減した(
図1のパネルe~h)。更に、HDM処理6日後における皮膚への好中球の浸潤が、野生型Clec10a(Clec10a
c.706T/T)を有するNC/Ngaマウスと比較して、変異体マウス(Clec10a
c.706T/C)において減少していた(
図1のパネルi)。これに対して、IgEの血清レベルは、両者間で同等であった。これらの結果は、Clec10a変異体(Clec10a
c.706T>C)は、HDM誘発皮膚炎の原因となること、およびNC/NgaマウスにおいてはTh2応答を増加させないことを示唆する。
【0068】
HDM誘発皮膚炎におけるClec10aの細胞表面発現の関与を調べるため、C57BL/6Jマウスを背景としてClec10a欠損マウス(Clec10a
-/-マウス)を作製した。野生型C57BL/6JマウスとClec10a欠損マウス(Clec10a
-/-)の背側の皮膚にHDMを局所で適用した。NC/Ngaマウスの皮膚において認められたように、Clec10a-/-マウスは、HDM処理後5~6日目において、野生型マウスと比較して、紅斑、乾燥および皮膚の増強などの皮膚炎の増悪を示した(
図2のパネルa~d参照)。加えて、HDM処理後1~3日目には野生型マウスと比較して、Clec10a-/-マウスでは、皮膚における好中球の浸潤が増加した(
図2のパネルe参照)。これに対して、他の骨髄およびリンパ球系列の細胞の数は、野生型とClec10a-/-マウスと
で同等であった(
図6のパネルa参照)。
【0069】
HDM処理後2週間では、野生型におけるよりもClec10a-/-マウスにおいて血清IgG1レベルが高く、IgE価およびIgG2c価は野生型とClec10a-/-マウスとで同等であった(
図6のパネルb参照)。加えて、HDM処理した皮膚の流入領域リンパ節(draining lymph node)におけるIl4およびGata3のCD4
+T細胞による発現は、野生型とClec10a-/-マウスとで同等であった(
図6のパネルc参照)。従って、Clec10aは、Th2応答を縮小させるというよりもむしろ、好中球の浸潤を減少させることによって皮膚炎を抑制すると考えられる。
【0070】
Clec10aは、皮膚のMHCII
+のマクロファージ(MP)および樹状細胞(DC)に発現するため、HDMで局所処置した野生型マウスおよびClec10a-/-マウスの皮膚細胞サンプルからこれらの細胞をソーティングした(
図7のパネルa参照)。Il6、Cxcl1、およびCxcl2の遺伝子発現レベルは、野生型MPよりもClec10a-/-MPにおいて高かったが、DCにおいては野生型とClec10a-/-とでこれらの遺伝子発現レベルは同等であった(
図2のパネルf参照)。これらの結果は、DCよりもMPにおけるClec10aがHDM誘発皮膚炎の抑制に関与していることを示唆するものである。骨髄マクロファージ(BMMP)を野生型マウスおよびClec10a-/- C57BL/6Jマウスからそれぞれ調製して特性解析をした(
図7のパネルb参照)。CD115
+BMMPにおけるMPマーカーおよびTLR4の発現レベルは、野生型マウスおよびClec10a-/-マウスとで同等であった。インビトロにおけるHDM刺激の後で、Clec10a-/- BMMPは、IL-6、CXCL1、CCL3およびTNF-αなどの好中球の化学走性物質を野生型BMMPよりも大量に分泌した(
図2のパネルg参照)。同様に、Clec10a
c.706T/TのNC/NgaマウスのBMMPは、Clec10a
c.706T/CのBMMPよりも大量のサイトカイン産生を示した(
図7のパネルd参照)。これらの結果から、Clec10aの細胞表面での発現がHDMによる刺激の後における皮膚MPからの炎症性サイトカインの産生を阻害することが実証された。
【0071】
HDM刺激は、野生型のBMMPにおいて脾臓チロシンキナーゼ(Syk)の活性化を引き起こすが、Clec10a-/-のBMMPではSykの活性化は認められなかった(
図2のパネルj参照)。更に、HDM刺激はSykとタンパク質チロシンホスファターゼSHP-1のClec10aへのリクルートを引き起し、このリクルートはClec10aのチロシン残基に依存した(
図2のパネルk参照)。Syk阻害剤によるBMMP処理は、HDMで誘発されるSHP-1のClec10aへのリクルートを抑制したが(
図2のパネルl)、このことは、当該イベントがSykの活性化に依存していることを示唆する。抑制性ITAMを介する制御性シグナリングとも一貫する結果である。
【0072】
実施例3:Clec10aリガンドの解析
Clec10aがHDM中に含まれるグリコシル化タンパク質を認識するかを試験するために、CD3ζの細胞質部分に融合したClec10aの細胞外部分と膜貫通部分を含むキメラ融合タンパク質を発現するNFAT-GFPレポーター細胞(Clec10aレポーター細胞)を作製した。マウスClec10aレポーター細胞はLewis X(Clec10aのオリゴ糖リガンド)に応答してGFPを発現させたが、Lewis Yには応答を示さなかった(
図8のパネルaおよびb参照)。また、マウスClec10aレポーター細胞は、用量依存的にHDM被覆プレートに応答してGFPを発現させた(
図3のパネルa)。加えて、抗Clec10aモノクローナル抗体(mAb)またはガラクトースを用いたレポーター細胞の前処理は、GFPの発現を抑制したが、グルコースやマンノースの前処理は、GFPの発現を抑制しなかった(
図3のパネルbおよびc)。更にまた、ガラクトシダーゼを用いたHDMの処理は、レポーター細胞におけるGFP発現を引き起こすその能力を低下させたが、グルコシダーゼでは、そのような低下は認められなかった(
図3のパネルd)。これらの結果は、Clec10aが直接的にHDMのガラクトシル化部分に結合することを示すものである。
【0073】
HDMにおけるClec10aのリガンド(Clec10a-L)の分析のため、ヒトIgG1のFc部分と融合したマウスClec10aの細胞外部分(Clec10a-Fc)を含むキメラ融合タンパク質を作製したが、この融合タンパク質は、Lewis Yには結合せずLewis Xに結合した(
図8のパネルc)。Clec10a-Fcを用いてHDMからのプルダウンアッセイによって、分子量約225kDaのClec10a-Lが単離されたが、Clec10a-Lは、マウスClec10aレポーター細胞におけるGFPの発現を誘導することができた(
図3のパネルeおよびf参照)。Clec10a-Lはアルシアンブルーと銀により染色されたが、銀単独では染色されず(
図3のパネルg参照)、このことは、Clec10a-Lが高度に糖修飾されたタンパク質であることを示す。O結合型グリカンを分解するNaOHでの処理は、Clec10a-Fcがエピトープに結合することを阻害し(
図3のパネルh参照)、また、マウスClec10aレポーター細胞におけるGFPの発現の誘導を阻害した(
図3のパネルi参照)。これに対して、N結合型グリカンを分解するPNGase FはClec10a-Lに対して何らの効果も示さなかった(
図3のパネルhおよびi参照)。これらの結果は、Clec10aがClec10a-LのO結合型グリカンを認識することを示唆するものである。また、レクチンマイクロアレイによる分析では、Clec10a-LがT抗原(Galβ(1-3)GalNAc)およびTn抗原(αGalNAc)を含むこと、およびムチン型Oグリカンに結合するLacNAcエピトープ(Galβ(1-4)GlcNAc)を有することが示された(
図3のパネルj、および表6)。
【0074】
【表6】
1 Target:Clec10a-Fcを用いたHDMからのプルダウンアッセイサンプル
2 Control 1:Clec10a-Fcを用いた緩衝液からのプルダウンアッセイサンプル
3 Control 2:ヒトIgG1を用いたHDMからのプルダウンアッセイサンプル
【0075】
Clec10aは、高密度の多価TおよびTn抗原を認識するマクルラ・ポミフェラ(
Maclura pomifera (MPA))のレクチンに最も強く結合した。他方で、TおよびTn抗原にClec10a-Fcが結合することがグリカンマイクロアレイによる分析で明らかとなり(表7参照)、また、Clec10a-Lがムチン様タンパク質であることが示唆された(
図3のパネルk参照)。
【0076】
【0077】
実施例4:ヒトAsgr1とマウスClec10aの関係
ところで、アミノ酸配列の相同性を解析するツールであり、米国生物工学情報センター(NCBI)から提供されるBasic Local Alignment Search Tool (BLAST)によると、マウスClec10aとC型レクチン様ドメイン(CTLD)のアミノ酸配列において、最も高い相同性を示したヒトタンパク質は、ヒトAsgr1およびClec10aであった(それぞれ、Gene ID: 432および10462によりコードされる)。ヒトAsgr1レポーター細胞とヒトClec10aレポーター細胞は、HDM刺激に応答してGFPを発現したが(
図4のパネルaおよび
図9のパネルa参照)、ガラクトースの追加は、Asgr1レポーター細胞においてのみ、HDMに誘発されるGFPの発現を阻害した(
図4のパネルbおよび
図9のパネルb参照)。また、hemITAM配列(YxxL)は、ヒトClec10aでは見出されず、ヒトAsgr1でしか見出すことができなかった(
図4のパネルc参照)。これらの結果は、マウスにおけるClec10aの機能的構造的なカウンターパートは、ヒトClec10aではなく、むしろヒトAsgr1であることを示すものである。ヒトAsgr1レポーター細胞は、HDMにおけるマウスClec10aのリガンド(Clec10a-L)に応答してGFPを発現した(
図4のパネルd参照)。タンパク質の発現を確認すると、マウスの皮膚におけるClec10aの発現と同様に、ヒトAsgr1はヒトの皮膚においてMPに発現した(
図4のパネルe参照)。siRNAによるヒト単核球由来培養MPにおけるAsgr1のノックダウンは、HDMに対する応答において、炎症性サイトカインの分泌を増強した(
図4のパネルfおよび
図9参照)。このことは、ヒトにおいては、Asgr1がHDM誘発皮膚炎を制御していることを示唆するものである。さらには、転写データ(GSE5667)によれば、アレルギー性皮膚炎の患者において皮膚のAsgr1の発現と、HDMに対する感受性と関連する血清IgEレベルとに逆相関が認められた(
図4のパネルg参照)。これらの結果から、ヒトにおけるAsgr1とマウスにおけるClec10aなどのC型レクチン受容体がHDMにおけるムチン様タンパク質を認識し、HDMにより誘発される炎症に対する皮膚の恒常性維持において重要な役割を果たしていることが理解された(
図4のパネルh参照)。
【0078】
実施例5:Clec10aリガンドによるアレルギー症状の処置
これまでの実施例の結果から、Clec10a(ヒトにおいてはAsgr1)がHDM誘発アレルギー症状の制御に関わっており、Clec10a(ヒトにおいてはAsgr1)に対するリガンド刺激がアレルギー症状の抑制に関与することが示された。本実施例では、Clec10aに対するリガンドでアレルギー症状を処置し、結果を観察した。
【0079】
最初の誘発(0日目)において、麻酔したマウス(C57BL/6JのWT)及びClec10a-/-マウス)の背中の皮膚を電子バリカンを用いて除毛し、残存した毛を毛髪除去クリームを用いて脱毛した。剃った背中の皮膚に対してテープストリッピングした後、50μgのLPSをClec10a-Lの存在下もしくは非存在下で局所投与した。Clec10aリガンドは、上記(12)Clec10aリガンドの単離に記載される通りの方法で取得した。テープストリッピング以降の手順は、毎日繰り返された。これにより、皮膚炎を誘発させた。表皮肥厚の解析は投与後5日目に行い、好中球浸潤の解析は投与後6時間後に行った。この系では、TLR4誘導性の皮膚炎が誘発される。
誘発された皮膚炎を観察するため、常法により組織切片を作製し、ヘマトキシリン・エオシン染色を行った。その後、表皮肥厚と皮膚における好中球の数を計数した。
【0080】
結果は
図10に示される通りであった。
図10のパネルaに示されるようにLPSで処置した皮膚では、皮膚炎が誘発され、表皮の肥厚が増大する傾向が認められた(中央上の写真)。これに対して、Clec10aリガンドを投与した野生型マウスでは、表皮肥厚が顕著に低減し(右上の写真)、LPSによる表皮肥厚増大の効果を抑制した。これに対して、Clec10a
-/-マウスにおいては、LPSによる表皮肥厚増大の効果は認められたが、Clec10aリガンドの投与によっては表皮肥厚増大の効果を抑制することができなかった。
図10のパネルbでは、表皮肥厚をグラフ化したものである。
図10のパネルbにおいても、
図10パネルaと同様の結果が示された。皮膚組織に対する好中球の浸潤を常法により観察した。結果は、
図10のパネルcに示されるように、野生型(WT)マウスにおいてLPS処置群において好中球の浸潤が観察されたが、LPSに加えてClec10aリガンドで処置した群においては好中球浸潤が抑制された。これに対してClec10a
-/-マウスにおいては、好中球浸潤をClec10aリガンドによっては抑制することができなかった。これらの結果から、Clec10aリガンドは、皮膚炎の抑制効果を示すことが明らかとなった。
HDMには、TLR4リガンドが含まれることが知られており、これによって皮膚炎などの炎症症状やアレルギー症状が誘発されると考えられている。HDM刺激においても、Clec10aにClec10aリガンドが結合し(ヒトにおいてはその機能的カウンターパートであるAsgr1にAsgr1リガンドが結合し)、TLR4シグナルを抑制することが炎症症状やアレルギー症状の軽減効果をもたらすと考えられる。
【0081】
実施例6:ヒトAsgr1リガンドの検出
図11では、Clec10a-Lのレクチンに対する結合プロファイルをレクチンアレイによって決定し、Clec10a-L中のグリカン構造を予測するスキーム(
図11の左上パネル)、および、Clec10aに対するグリカンの結合プロファイルをグリカンアレイによって決定するスキーム(
図11の右上パネル)が示されている。
図11では、これらの結果を合わせて考察し、5つのグリカン(αGal、βGal、T抗原、LeA、およびLeX)をClec10aのリガンド候補として特定できることを示している。
図11では、Galα1-3LNとGalα1-4LNを加えて7つのClec10aのリガンド候補を特定した。
【0082】
グリカン被覆プレートに対してClec10aを適用するELISA系を常法により構築して、各グリカンとClec10aとの結合性を検討した。ELISA系においては、ポリマー性足場に複数のグリカンを結合させることによって多価効果が奏されることに期待し、ポリマー性足場にグリカンを結合させ、Clec10aに提示させた。本実施例では、ポリマー性足場としては、ポリアクリルアミド(重量平均分子量:30kDa)を用いた。具体的には、以下のようにポリアクリルアミド側鎖のOH基に対してグリカンを修飾し、これによってグリカンをClec10aに提示した。以下式の通りである。
【0083】
【0084】
上記のようにして上記式の「Sugar」の位置にグリカンを提示するポリマー性足場(上記式の通り修飾率20%であった)を、1μg/ウェル、0.1μg/ウェル、0.01μg/ウェル含む、PBS溶液を96穴プレートに導入し、室温で一晩インキュベートすることによってウェルをグリカンで被覆した後に、非結合のポリマーを洗浄した。その後、1μg/μLのClec10a-Fcを含む10%ウシ胎児血清含PBS溶液(50μL/ウェル)をグリカン被覆ウェルに添加した。室温で1時間インキュベートした後に、非結合のClec10a-Fcを洗浄し、ペルオキシダーゼ標識抗Fc抗体でプレート表面に結合したClec10a-Fcを定量した。陰性対象として、LeYを導入した上記ポリマーを用いた。
【0085】
結果は、
図12に示される通りであった。
図12に示されるように、リガンド候補の糖鎖すべてがClec10a-Fcと結合した。すなわち、すべてのリガンド候補が、リガンドであることが確認された。
【0086】
次いで、これらのリガンドが、Clec10aを活性化させるかをClec10a-CD3ζレポーター細胞を用いて確認した。すると、
図13に示されるように、T抗原、LeA、およびLeXは、用量依存的にClec10aを活性化させ、NFATレポーターの発現を増強した。
【0087】
上記の実験からClec10aを活性化するグリカンが明らかになった。そのうちの一つであるT抗原がリポポリサッカライド(LPS)に対する皮膚炎症を抑制できるかを検討した。マウスの背中に50μgのLPSと20μgのT抗原を提示するポリマー性足場を毎日皮内注射し、5日目に表皮の厚みを観察した。結果は、
図14に示される通りであった。
図14に示されるように、LPSによる皮膚の厚みの増加は、T抗原によって抑制された。また、Clec10aノックアウトマウスでは、表皮の厚みはWTと同等以上であった。ここで、T抗原による表皮の厚みの抑制の効果はClec10aノックアウトマウスにおいては認められなかったことから、T抗原による炎症の抑制効果は、Clec10aを介するものであることが明らかとなった。
【配列表】