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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】センサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/04 20060101AFI20240902BHJP
   G01N 27/06 20060101ALI20240902BHJP
   G11C 13/00 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
G01N27/04 L
G01N27/04 Z
G01N27/06 B
G11C13/00 215
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022520390
(86)(22)【出願日】2020-10-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-05
(86)【国際出願番号】 GB2020052438
(87)【国際公開番号】W WO2021064423
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】1914221.5
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】511150067
【氏名又は名称】オックスフォード ブルックス ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100161908
【弁理士】
【氏名又は名称】藤木 依子
(72)【発明者】
【氏名】ジャビル,アブサレフ
(72)【発明者】
【氏名】キャンデルウォル,ソーラブ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,シャオハン
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第2014-0071556(KR,A)
【文献】国際公開第2018/065914(WO,A1)
【文献】特表2019-512196(JP,A)
【文献】特表2017-534169(JP,A)
【文献】特開昭51-107892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 - G01N 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサであって、
アレイに配置された複数のセンサ要素を備え、
各センサ要素が検知されるべき種への曝露に関する電気抵抗特性を有するメモリスタであり、
前記アレイが、少なくとも1つのメモリスタグループを備え、
各前記メモリスタグループは4つのメモリスタを備え、直列の2つのメモリスタの第1のペア、および直列の2つのメモリスタの第2のペアとして、前記第1のペアと第2のペアとが第1の接続点と第2の接続点との間に並列に接続されて、前記4つのメモリスタが接続され、
前記第1の接続点と前記第2の接続点との間の前記アレイの抵抗特性が前記検知されるべき種への曝露に関する、センサ。
【請求項2】
前記第2のペアの前記2つのメモリスタが、それらの両方の負の端子が一緒に第3の接続点に接続されるように直列に接続され、前記第1のペアの前記2つのメモリスタが、それらの両方の正の端子が一緒に第4の接続点に接続されるように直列に接続される、請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記第3の接続点に電圧が印加されることを可能にする第1のスイッチと、前記第4の接続点に電圧が印加されることを可能にする第2のスイッチとをさらに備え、前記第1のスイッチおよび前記第2のスイッチはさらに、前記第3の接続点および前記第4の接続点がフローティングであることを可能にする、請求項2に記載のセンサ。
【請求項4】
複数の前記メモリスタグループを備える、請求項1から3のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項5】
前記複数のメモリスタグループが並列に接続される、請求項4に記載のセンサ。
【請求項6】
再帰型アーキテクチャを備え、4つのメモリスタのグループ中の各メモリスタが、4つのメモリスタを備えるさらなるメモリスタグループで置き換えられた、請求項4または5に記載のセンサ。
【請求項7】
前記アーキテクチャの前記再帰が複数回繰り返された、請求項6に記載のセンサ。
【請求項8】
アレイに配置された前記複数のセンサ要素が、マイクロエレクトロニクスの構造の形態である、請求項1から7のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項9】
チップ上に提供される、請求項1から8のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項10】
前記センサが、ガスセンサ、液体センサ、および液体中に存在する種を検知するセンサのうちの少なくとも1つである、請求項1から9のいずれか一項に記載のセンサ。
【請求項11】
予め定められた正電圧を前記第3の接続点にある時間期間印加し、続いて負電圧パルスを印加するステップと、予め定められた負の電圧を前記第4の接続点にある時間期間印加し、続いて正電圧パルスを印加するステップとを含む、請求項2において定義されたセンサを設定する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学種を検知するためなどの、メモリスタセンサ要素のアレイを備えるセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサとして、単一のメモリスタ(「メモリ-レジスタ」の略)の使用が提案されてきた。さらに、たとえばクロスバーアレイにおいて、メモリスタなど、検知要素のアレイが提案されてきた。この構成には、複数の行配線と複数の列配線とがあり、検知要素が、行配線と列配線との間に、各交点において接続される。行配線が互いに接続され、列配線が互いに接続されている場合、すべてのセンサ要素が並列に接続される。これは、多くの個々のセンサ要素の読取値を平均化するのに役立ち得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、この従来の構成には問題がある。たとえば、検知要素の故障に対して特にフォールトトレラントではなく、単一の故障した要素を置き換えることが困難であり(一般に、行または列の全体を置換するか、または迂回しなければならないことがある)、並列アレイは電力性能が劣ることがあり、並列アレイでは,検知要素の数が変わるとセンサとしての全体の感度がシフトすることがある。
【0004】
本発明は、上記の問題を考慮して考案された。
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって、本発明の1つの態様は、
アレイに配置された複数のセンサ要素を備えるセンサを提供し、
各センサ要素は、検知されるべき種への曝露に関する電気抵抗特性を有するメモリスタであり、
アレイは、少なくとも1つのメモリスタグループを備え、
各メモリスタグループは4つのメモリスタを備え、直列の2つのメモリスタの第1のペア、および直列の2つのメモリスタの第2のペアとして、第1のペアと第2のペアとが第1の接続点と第2の接続点との間に並列に接続されて、4つのメモリスタが接続され、
第1の接続点と第2の接続点との間のアレイの抵抗特性は、検知されるべき種への曝露に関する。
【0006】
上記の発明の随意の態様によれば、センサは、前記第2のペアの2つのメモリスタがそれらの両方の負の端子が一緒に第3の接続点に接続されるように直列に接続され、前記第1のペアの2つのメモリスタがそれらの両方の正の端子が一緒に第4の接続点に接続されるように直列に接続されて、構成される。
【0007】
本発明の別の態様は、上記の随意の態様において定義したセンサを設定する方法を提供し、その方法は、所定の正の電圧を第3の接続点にある時間期間印加し続いて負電圧パルスを印加するステップと、所定の負電圧を第4の接続点にある時間期間印加し続いて正電圧パルスを印加するステップとを含む。
【0008】
本発明のさらなる態様は、従属項に定義されている。
次に、本発明の実施形態について、例としてのみ、添付の図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態によるセンサのメモリスタグループの回路図である。
図2図1のメモリスタグループに等価な回路シンボルを示す図である。
図3】発明のさらに特定の実施形態による詳細を示す、図1および図2に等価なメモリスタグループの回路図である。
図4図2のメモリスタグループの並列アレイを備えるセンサ概略図である。
図5】メモリスタグループの再帰型アレイを備えるセンサの回路図である。
図6】個々のメモリスタの各々を示すように展開された図5のセンサを示す図である。
図7】(a)はTiOベースのメモリスタの構造を示す図である。(b)はTiOベースのメモリスタの対応する回路シンボルを示す図である。
図8A】従来の並列アレイについて、構成要素パラメータの広がりを有する、異なる数のメモリスタ検知要素をもつセンサのガス感度のばらつきのプロットを示す図である。
図8B】本発明を実施する再帰型アーキテクチャについて、構成要素パラメータの広がりを有する、異なる数のメモリスタ検知要素をもつセンサのガス感度のばらつきのプロットを示す図である。
図9図3の回路における4つのメモリスタについて、時間に対する印加電圧および対応する状態変数(すなわち、図7(a)に示されているメモリスタの長さx)のシフトのグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
メモリスタは、当技術分野において、デバイス中を流れる電流によってその電気抵抗が変化するデバイスとして知られている。抵抗は最小値RONと最大値ROFFとを有する。抵抗は、適切な電圧または電流の印加によって切り換えられ得、不揮発性である(抵抗値が「記憶される」)ために、メモリスタはメモリ要素として使用され得る。
【0011】
メモリスタは、検知されるべき対象に曝露されるとそれらの抵抗特性が変化し得るので、検知要素として使用され得ることも知られている。この特性のより詳細について以下に説明する。
(センサ:メモリスタアレイ)
図1は、本発明の一実施形態による、センサ用のメモリスタのアレイの最も単純なユニットを構成するメモリスタグループを示す。メモリスタグループは、4つのメモリスタM1、M2、M3、M4を備える。メモリスタM1とM2とは、直列に接続された第1のペアを形成し、メモリスタM3、M4は、直列に接続された第2のペアを形成する。第1のペアと第2のペアとは、次いで、第1の接続点S1と第2の接続点S2との間に並列に接続される。図2は、図1の4メモリスタのグループを表すシンボルを示し、「ブロック」または「ブリッジ」回路と呼ばれることもあるので「B」で示される。いずれの場合にも、デバイスがセンサとして機能するために、使用時に、接続点S1とS2との間で抵抗特性が測定される。
【0012】
図3は、本発明の1つの特定の実施形態によるメモリスタグループの詳細を示す。各メモリスタは、一端において「正」端子を示すために黒いバンドで示され、各メモリスタの他方の端が「負」端子である(メモリスタはリバーシブルでなく、そのため「極性」を有するが、「正」および「負」の用語は任意な符号であり、これについて再度以下でさらに説明する)。この実施形態では、メモリスタM3、M4の第2のペアは、それらの負端子が一緒に第3の接続点に接続されるように接続され、メモリスタM1、M2の第1のペアは、それらの正端子が一緒に第4の接続点S4に接続されるように接続される。理解されるように、図3のこの回路は、メモリスタの極性が指定され、中間点S3、S4への接続が可能であることを除いて、本質的に図1と同一である。好ましい実施形態では、スイッチが閉じられているときは、所望の電圧が接続点S3およびS4に印加され得、スイッチが開いているときは、接続点がフローティングのままにされ得るように、スイッチSw1およびSw2が与えられる。この操作は、以下でさらに説明する。スイッチは、様々な方法で、たとえばチップ上の固体デバイスとして実装され得る。図2のシンボルは図3の回路を表すためにも使用されるが、図2および残りの図面では、簡単のために、付加的な接続点S3およびS4は明示的には示されていない。
【0013】
図4は、本発明のさらなる実施形態による、並列に接続される複数のメモリスタグループB1、B2、B3、...Bnを備える、センサ要素のアレイを示す。デバイスがセンサとして機能するために、全体の抵抗特性が端子T1とT2との間で測定される。
【0014】
図5は、構造または回路アーキテクチャが再帰的方法で形成された、本発明の別の実施形態を示す。たとえば、図1のメモリスタグループ構成から始めて、4つのメモリスタの各々は、それ自体がさらに4つのメモリスタを備えるメモリスタグループBで置き換えられる。図5のグループBを、個々のメモリスタを示すように明示的に描き直すと、結果は図6となり、16個のメモリスタMがあることが分かる。したがって図6の回路は図5と同一であり、いずれの場合にもデバイスがセンサとして機能するために、全体の抵抗特性が端子T1とT2との間で測定される。
【0015】
アーキテクチャの再帰、すなわち図6のメモリスタの各々を図1のように構成された4つのメモリスタのグループで置き換えることは、複数回繰り返され、何度も同様に続き得る。メモリスタの数は、繰り返しのたびに4倍になる。これは、16個、64個、256個、1024個...などのメモリスタをもつ連続的センサアレイをもたらす。
【0016】
本発明のさらなる実施形態は、並列に構成された複数の(図5および図6などの)再帰型アレイを備える混成のアレイ(図4のように、各グループBを再帰型アーキテクチャで置き換える)を予見する。
(メモリスタ特性)
メモリスタは、TiO(たとえばドープされている領域とドープされていない領域とをもち、Pt電極をもつ);Ag/AgInSb60Te30/Ta、Ag-a-LSMO-Pt(アモルファス亜マンガン酸塩薄膜中のAgナノフィラメント);アルミニウム酸化物、銅酸化物、シリコン酸化物、亜鉛酸化物、タンタル酸化物、ハフニウム酸化物などの他の金属酸化物半導体;アモルファスペロブスカイト酸化物(a-SrTiOなど);ならびに他の強誘電性およびドープされている重合体材料、またグラフェン酸化物など、様々な材料で製造され得る。本発明の実施形態は、メモリスタの特性が存在するならば、特定の材料に限定されない。メモリスタとして作用する構成要素は、本明細書ではメモリスタであるとして説明されている。
【0017】
本発明の実施形態は、メモリチップ(集積回路、IC)を製造するためなど、マイクロエレクトロニクスで使用されるリソグラフィ技法によって作製される、たとえば薄膜の形態のナノスケールメモリスタの高密度アレイを備えることができる。メモリスタ間の接続は、ナノワイヤとしてチップ上に作製され得る。各メモリスタはセンサ要素として作用し、アレイ中のメモリスタは総体的センサとして一体的に作用する。
【0018】
図7(a)は、金属酸化物を含む、メモリスタの一形態の構造を示す。メモリスタの全体の抵抗は、示されるように、「ドープされていない」領域TiO、および「ドープされている」領域TiO2-x、2つの領域の抵抗によって決定される。TiO2-xはp型半導体であり、それの抵抗率は酸化性ガスの存在下で減少し、それの抵抗率は還元性ガスの存在下で増加する。プラチナなどの金属電極がデバイスの各端部に与えられ、図7(b)においてPおよびNと示されている「正」および「負」端子を形成する。図7(b)はメモリスタのシンボルを示す。本明細書で使用する取り決めでは、黒いバンドは「正」端子を示し、もう一方の端子が「負」端子である。正および負端子に印加された電圧がそれぞれVおよびVである場合、Vをメモリスタ(メモリスタデバイス)の特徴であるしきい値として、メモリスタはV-V>Vのときに低抵抗RONに切り換わり、さもなければ高抵抗ROFFに切り換わる。本明細書で使用する「正」および「負」という用語は、メモリスタの端子を区別するための、および上記の切り換えビヘイビアを定義するための単に符号であり、当技術分野において端子は、イン/アウト、活性/不活性、入力/出力、+/-など、他の符号も与えられ得る。
【0019】
電極間のデバイスの全長は、D(ある特定のデバイスにおいては通常3nm)で示されており、デバイスの2つの領域間の境界は位置xにある。xの値はメモリスタの「状態変数」とも呼ばれる。位置xは、デバイス中の電流の通過によって変化させられ得(電極への適切な電圧の印加によって達成される)、メモリスタ効果の一部である。x=0であるとき、デバイス全体は、最小抵抗値Ronをもつ低抵抗状態(LRS)にある。x=Dであるとき、デバイス全体は、最大抵抗値Roffをもつ高抵抗状態(HRS)にある。
(非線形ガスセンサモデル)
ターゲット種(ガス、液体または溶液中の化学成分など)を検知するためのセンサとしての使用時に、ターゲット種の、金属酸化物の露出した表面との相互作用により、状態変数の位置に影響を及ぼすことなく材料の抵抗率が変化する。デバイスの抵抗は、最初にLRSすなわちRonに寄与するメモリスタのその領域のみの曝露の効果を考慮してモデル化され得、曝露時にはROnEffになる。RonとROnEffとの間の関係は次の通り。
【0020】
【数1】
【0021】
【数2】
【0022】
ここでAおよびβはフィッティングパラメータである。モデルは、式(3)および式(4)を使用して、初期メモリスタンス
【0023】
【数3】
【0024】
およびCppm(parts per million)のガスに曝露した後のデバイスの最終メモリスタンス
【0025】
【数4】
【0026】
を計算し、
【0027】
【数5】
【0028】
【数6】
【0029】
ここで
【0030】
【数7】
【0031】
【0032】
【数8】
【0033】
、xon≦x≦xoffである。ここでλおよびλはフィッティングパラメータであり、xonはドープされていない領域の下限であり、xoffはドープされていない領域の上限であり、ROnEffは、還元性ガスおよび酸化性ガスに対してそれぞれ、式(1)および式(2)で定義されるとおりである。
【0034】
同様にして、このモデルは、メモリスタ中の高抵抗状態すなわちRoff領域へのガスの効果に対応するためにも採用され得る。
(メモリスタの増大)
式(3)および式(4)においてxon=0およびxoff=D(図7(a))とすると、
【0035】
【数9】
【0036】
であり、ここでxは、0とDとの間、すなわち図7(a)のデバイスの一端から他方の端までを変化する。式(3)および式(4)において、Ronを新しい値
【0037】
【数10】
【0038】
まで増大されるものとして、およびROnEffを新しい値
【0039】
【数11】
【0040】
まで増大されるものとしてみなすことができる。この増大の「利得」は、Dに対するxの位置およびRoffによって決定される。xの位置は、特定の時間期間、メモリスタの2つの端子間に特定の電圧を印加することによって設定され得る(図9を参照しながら以下でより詳細に説明する)。これは、入力および出力抵抗、それぞれRinおよびRout、および利得γについて表され得る。
【0041】
out=γ・Rin
ここで
【0042】
【数12】
【0043】
である。
明らかにこの利得は非線形である。
所与のRinについて、Routはx/DおよびRoffに依存する。Routの値は、xがそれぞれ0により近いかまたはDにより近いかに応じて、Rinの最小とRoffの最大との間を変化する。
【0044】
メモリスタデバイスのこの理解は、検知された値が測定可能な量まで増大される必要があり得るセンサなどの適用例において極めて有用である。この場合、入力は、外部イベント、たとえばガス/化学物質への曝露のために実効値に変化する、RonまたはRoffとして解釈され得る。式(3)において、Ron
【0045】
【数13】
【0046】
まで増大されるが、式(4)では、Cppmのガスのために、Ron
【0047】
【数14】
【0048】
などまで増大されたROnEffに変化する。
たとえば、一特定の実施形態では、酸化性ガスが、式(2)に従って、実効的な抵抗をRonからROnEffに低減し、その結果得られる低抵抗は測定困難であり得、電力消費がかなり大きくなる可能性がある。以下の、Ron=50Ω、Roff=10KΩ、およびメモリスタンスはLRS(x=0)のままとするシナリオを考察する。次いで式(4)によって、A=0.42×10-3およびβ=1を仮定して、濃度C=100×l0ppmのガスについて
【0049】
【数15】
【0050】
である。この小さい抵抗(1.16Ω)は測定困難であり、かなりの電力(大電流)を消費する。この問題は、xをDに向かって移動させることによって抵抗を「増大させること」によって解決され得、たとえばx=0.5×Dnmについて
【0051】
【数16】
【0052】
、およびx=0.8×Dnmについて
【0053】
【数17】
【0054】
などであり、これらは、はるかに測定可能な量であり、したがって可測性が改善され、電力消費が低減される。
(相対ガス感度)
相対ガス感度、Sは、次のように定義される。
【0055】
【数18】
【0056】
この感度の尺度はこの説明の残り全体にわたって使用される。
(配線抵抗の影響)
マイクロエレクトロニクス技術のノードが微細化するにつれて、ナノ配線抵抗の影響がより顕著になりつつある。センサでは、配線抵抗がセンサの感度性能に影響を及ぼす可能性がある。本発明の実施形態は、配線抵抗を1μΩから1mΩまで変化させ、(図6などにおける)アレイ中の電流のすべての枝路のナノ配線抵抗を考慮に入れてモデル化された。図8Aおよび図8Bは、配線の各枝路は1μΩの抵抗を有すると仮定したときの、アレイ中のセンサ要素(メモリスタ)の数による感度のばらつきの結果を示す。図8Aは、従来の並列アーキテクチャ(クロスバーアレイ)についての結果を示し、図8Bは、本発明の実施形態による、再帰型アーキテクチャ(たとえば図5および図6)についての結果を示す。ばらつきの原因の1つは、メモリスタの作製におけるプロセス/パラメータのばらつきであり、両方のプロットでは、xおよびDの値が変化させられ、ガウシアン(正規)分布空間中でランダムであると仮定された。各センサ設計のために、10,000回のシミュレーションランが実行され、すなわち、デザインごとのプロセスばらつきをもつ10,000チップの作製がシミュレートされ、次いで1000ppmのガス濃度の還元性ガスについてセンサ感度が計算された。
【0057】
予想されたように、両方のプロットでは、単一のメモリスタをもつセンサを起点として、感度のばらつきは大きい広がりを呈する。メモリスタの数が4倍増加するたびにばらつき広がりは約2倍低下(すなわち半減)する(改善する)。従来の並列アーキテクチャ、図8Aの場合、メモリスタの数が増加するにつれ、配線抵抗により全体の感度が右側にシフトさせられる。対照的に、本発明の実施形態(図8B)を用いると、全体の感度は略同じ値(この場合は0.19)を中心に維持し、比較的ナノ配線抵抗に影響を受けない。感度のシフトは、危険なガス/化学物質を検知する場合に重大な結果を生じる可能性があり、したがって避けられるべきである。本発明の実施形態は、配線抵抗の影響を最小にし、再帰型アーキテクチャを用いれば、単一のメモリスタの配線抵抗の影響に匹敵する。
【0058】
図8Bについての結果はまた、以下の表に提示される(
【0059】
【数19】
【0060】
【0061】
【数20】
【0062】
の理想値を用いると、感度S=0.191)。
【0063】
【表1】
【0064】
(メモリスタ動作)
メモリスタのビヘイビアは、式(6)に定義されるように、Vin=V(V=0)、およびここでw=D-xであるとし、次のように説明され得る。電極P(図7(b))に印加された電圧Vpについて、瞬間電圧V>VoffのときメモリスタンスはHRS(Roff)に切り換わり、V<VonのときLRS(Ron)に切り換わる。
【0065】
【数21】
【0066】
これに関するさらなる背景情報は、2015年8月発行のIEEE Transactions on Circuits and Systems II: Express Briefs誌、第62巻、第8号、786~790頁に掲載の論文、S Kvatinsky.M Ramadan、E G FriedmanおよびA Kolodny著、「VTEAM: A General Model for Voltage- Controlled Memristors(VTEAM:電圧制御型メモリスタのための一般モデル)」から得られ得る。
(センサ動作)
図3のようなメモリスタグループを考察すると、4つのメモリスタM1~M4は一緒に単一のセンサとして作用する。各メモリスタ中の障壁の位置x(状態変数)を所望の値に設定するために(たとえばそれらがすべて同じになるように、および値が測定の容易さのために選択されるように(セクション「メモリスタの増大」を参照))、(たとえば、それらの接続点のためのスイッチ、図示せず、を使用するか、またはアレイの残りを介してのいずれかによって)第1および第2の接続点S1、S2における電圧が0に設定されるとともに、第3および第4の接続点S3、S4にスイッチSw1、Sw2を介して精確な時間期間、正確な電圧を印加することにより、4つのメモリスタの状態変数は、最初にD(メモリスタの一端)までシフトさせられ、次いで0.5×Dなど所望の値まで戻され得る。図9はこのプロセスを示す。上左側のプロットは、接続点S3に印加された電圧を示し、短い負のパルスがその後に続く、0.9μs間の正電圧を含んでいる。下2つの左側のプロットは、メモリスタM3およびM4の状態変数をD(3nm)に向かってシフトさせ、次いでD/2に戻す、このシフトの結果を示す。同様に、上右側のプロットは、接続点S4に印加された電圧を示し、短い正のパルスがその後に続く、負電圧を含んでいる。下2つの右側のプロットは、メモリスタM1およびM2の状態変数をD(3nm)に向かってシフトさせ、次いでD/2に戻す、このシフトの結果を示す。
【0067】
検知された値を読み取るためには、0でない電圧がメモリスタグループに渡って印加され、メモリスタグループ中に電流が同時に流れることを可能にする必要がある。メモリスタは、読み取り動作中にそれらの状態変数および抵抗が変化しないように、保持状態に置かれる必要がある。これは、第3および第4の接続点S3、S4をフローティングにし、第1の接続点S1と第2の接続点S2との間に
max(-Von,Voff)<Vread<min(Von、-Voff
を満足する電圧差Vreadを印加することによって達成され得る。これは、適切なVreadを選択し、直列のメモリスタグループの数(すなわち、図1から図4まででは1、図5および図6では2、連続的再帰ではそれより大きい数)を知り、Vreadにその数を乗じ、端子T1、T2間にその電圧を印加することによって、アレイ全体に渡って同時に成し得る。
(性能)
それぞれが抵抗Rを有するN個のメモリスタのアレイについて、従来の並列アーキテクチャの場合、全抵抗は1/Nに低下する。印加電圧が固定の場合、全電流はNに比例する。したがって消費電力(オーム加熱)はNに比例する。4メモリスタのグループ(図1)の抵抗は、直列のメモリスタと並列のメモリスタとの組合せであるので、Rであり、単一のメモリスタの抵抗と同じである。したがって並列アレイ(図4)の全抵抗はN/4に比例するために、その消費電力は、同数のメモリスタの場合、従来の並列アレイの4分の1になる。再帰型アレイ(図5および図6ならびにそれらの再帰)の場合、どれだけスケーリングするかにかかわらず、全抵抗は常にRのままである。それゆえに消費電力は、同数のN個のメモリスタの場合、従来の並列アレイの1/Nになる。「混成」アーキテクチャ、すなわち並列に接続された再帰型構造のアレイの場合、消費電力は並列アーキテクチャと再帰型アーキテクチャの中間である。
【0068】
本発明の実施形態によるセンサは、従来の並列センサアレイよりフォールトトレラントであり得る。たとえば、本発明を実施するアレイにおいて、開回路であろうと短絡であろうと、メモリスタが故障した場合、センサアレイは依然として機能し続け得、1024個のメモリスタなど極めて大きいアレイでは、いかなる性能変動もかろうじて要件を満たす。対照的に、従来の並列クロスバーアレイ(CBA)では、メモリスタが短絡で故障した場合、そのメモリスタはセンサ全体を短絡させるので、個々の故障した構成要素が特定され、切り離され得るまでそのセンサは役に立たない(たとえそれが可能であるとしても)。
【0069】
センサチップは、たとえば周辺部辺りに、チップ上の故障した構成要素を置き換えるための、切り換え可能な接続によってルーティングされ得る予備の構成要素とともに提供され得る。しかしながら、本発明の実施形態によるセンサは、従来の並列CBAセンサよりも低い費用でより優れた修復性を提供することができる。たとえば従来のCBAでは、1つのセンサ要素(メモリスタ)が不良である場合、一般にその要素を含む行全体または列全体いずれかが予備行または予備列で置き換えられなければならない。本発明の実施形態では、それぞれのメモリスタは4メモリスタのグループ中にある。ある要素が不良である場合、その4メモリスタのグループのみが予備のグループで置き換えられる必要がある。対照的に、16×16のCBAでは、単一のメモリスタが不良である場合、その行全体が16メモリスタの予備行で置き換えられる必要があり得る。そのため16個の予備のメモリスタと同程度のハードウェア費用で、CBAの1つの故障が修理され得たが、潜在的には4つの故障(4メモリスタの4つのグループ)が本発明の実施形態で置き換えられ得、したがって修復性がはるかに良い。
(センサデバイスの変形態)
チップ上の各メモリスタ、またはメモリスタのアレイ全体は、化学物質種が検知されるために、必要で適切な動作温度までそれの温度を上げるためのヒーター(図示せず)が提供され得る。ヒーターはまた、安定した測定のために一定の値に温度を安定させることができる。
【0070】
ガス濃度は、状況に応じて、たとえばメモリスタの絶対抵抗(高抵抗もしくは低抵抗状態にあるか、または中間状態にあるか)、高抵抗対低抵抗の比、ピーク電流、微分抵抗などによって様々な方法で検知され、または測定され得、これらはすべてメモリスタまたはメモリスタアレイの「抵抗特性」という用語に包含されている。抵抗特性測定は、DC技法および/またはAC技法を使用し、およびバイアス電圧の有無にかかわらず実行され得る。抵抗値は、既知のガス濃度に対して較正され得、センサが電気的測定値をガス濃度に変換するために、ルックアップテーブルまたは式として提供され得る。
【0071】
同じ検討は、単一のメモリスタについてと同様にメモリスタのアレイの抵抗特性を測定することに適用される。
一般に、ターゲット化学物質種の各メモリスタの表面との相互作用は抵抗率の変化を生じ、関連付けられた読み取り回路(図示せず)の出力の変化を引き起こす。上述の酸化物、またポリマーまたはポルフィリンなど、メモリスタのための材料を選定するということは、ターゲット種およびセンサの感度パターンを選択することが可能ということを意味する。メモリスタはまた、1つの種または特定の種のグループのみを検知するが他を検知しないように、選択的に製造され得る。たとえば、本発明を実施するセンサは、窒素酸化物、一酸化炭素、アルコール、アミン、テルペン、炭化水素、もしくはケトン、および/または(酸化性または還元性の)様々な異なるガスなど、揮発性化合物およびガスを検出するために使用され得る。上記の実施形態は気相中の種を検知することに言及したが、それは本発明に必須ではなく、本発明の実施形態はまた、液体または液体中の種(たとえばHg、Ca、Pb、Crのイオン)を検知するために、および(たとえば殺虫剤、特定のタンパク質、アミノ酸、またはDNAを検知するための)バイオセンサとして使用され得る。本明細書で説明するセンサの構造および測定技法は、原理的に、他の実施形態では化学物質種の代わりに、たとえば温度を検知するためのサーミスタとして、または光を検知するための光電導体としてなど、物理特性を検知するために使用され得る。
【0072】
上記の実施形態のすべては、必要とされる電圧を印加し、必要な接続を行い、出力を測定し、電気的測定値をガス濃度値に変換するなどの検知機能を提供するための制御回路(図示せず)を含むことができる。制御回路は、専用論理およびハードウェアであり得、かつ/または適切なソフトウェアを実行するマイクロプロセッサなどの汎用回路を含むことができる。
【0073】
センサとして使用しないとき、4メモリスタの各グループ(図3)は、WO2017/144862に説明されるように、論理ゲートとして作動するようにも利用され、以ってデバイスを多機能にすることができる。
【0074】
本発明の実施形態は、たとえばマイクロエレクトロニクスのチップ上のメモリスタセンサ要素の高密度アレイを利用することができる。アレイは、数十または数百の要素を備えることができるが、1024要素など、またはそれ以上、はるかに大きい数にもなり得る。これにより、センサは、コンパクトで、堅牢で、低電力になる。センサは、スマートフォン、タブレットコンピュータ、またはハンドヘルドセンサに集積するなど、ポータブルデバイスでの使用に特に好適である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7(a)】
図7(b)】
図8A
図8B
図9