(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】バクテリオファージ、青枯病防除剤および青枯病防除方法
(51)【国際特許分類】
C12N 7/00 20060101AFI20240902BHJP
A01N 63/40 20200101ALI20240902BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240902BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20240902BHJP
C12N 7/02 20060101ALN20240902BHJP
【FI】
C12N7/00
A01N63/40
A01P3/00
A01P1/00
C12N7/02
(21)【出願番号】P 2022539891
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2020029188
(87)【国際公開番号】W WO2022024286
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-01-24
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-03185
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591100448
【氏名又は名称】パネフリ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原島 俊明
(72)【発明者】
【氏名】中野 和真
(72)【発明者】
【氏名】狩俣 徹
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】JOURNAL OF BACTERIOLOGY,2011年,Vol.193, No.19, p.5300-5313
【文献】Applied and Environmental Microbiology,2012年,Vol.78, No.3, p.889-891
【文献】Archives of Virology,2019年,Vol.164, p.2339-2343
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 7/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バクテリオファージRKP180(NITE BP-03185)。
【請求項2】
請求項
1に記載のバクテリオファージを有効成分とすることを特徴とする青枯病防除剤。
【請求項3】
請求項
2記載の青枯病防除剤を植物または植物生長媒体に投与することを特徴とする植物の青枯病防除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バクテリオファージ、青枯病防除剤および青枯病防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
青枯病菌(Ralstonia solanacearum)はナス科植物等の200種以上の植物に感染し、青枯病を引き起こす。青枯病が進行すると、青枯病菌に感染した植物は枯死してしまう。
【0003】
これまで青枯病の対策に使用されてきた主な化学農薬は、劇物であるクロロピクリン又は臭化メチルである。
【0004】
しかし、有効散布量の増大、環境汚染、オゾン層破壊、健康への影響及び残留農薬等の問題から、化学農薬に代わる安全な代替農薬及び防除技術の開発が望まれている。
【0005】
これまで化学農薬に代わる安全な代替農薬及び防除技術としては、例えば、バクテリオファージを用いる技術(特許文献1~3)が知られているが、これらは限られた種類の青枯病菌に効果があるものであり、より幅広い種類の青枯病菌に効果のあるものが要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-252351号公報
【文献】特開2018-24589号公報
【文献】国際公開番号WO2017/104347号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、より幅広い種類の青枯病菌に効果のあるバクテリオファージおよびそれを用いた青枯病防除方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の遺伝子を有するバクテリオファージが幅広い青枯病菌に感染することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、lysozyme融合型のDarBをコードする遺伝子を有し、
endolysin、前記DarBおよびRz/Rz1の3つのlytic enzymeをコードする遺伝子を有し、
CsrAをコードする遺伝子を有し、
2つのtail fiber proteinをコードする遺伝子を有し、
青枯病菌に感染すること、を特徴とするバクテリオファージである。
【0010】
また、本発明は、上記バクテリオファージを有効成分とすることを特徴とする青枯病防除剤である。
【0011】
更に、本発明は、上記青枯病防除剤を植物または植物生長媒体に投与することを特徴とする植物の青枯病防除方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のバクテリオファージは、幅広い種類の青枯病菌に感染するため、青枯病の防除に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は本発明のバクテリオファージRKP180の外観の一例を示す(図中のバーの長さは20nmである)。
【
図2】
図2はRKP180の全ゲノム配列に基づく系統樹(Maximum Likelihood)を示す。
【
図3】
図3はRKP180のlarge terminaseのアミノ酸配列に基づく系統樹(Maximum Likelihood)を示す。
【
図5】
図5はRKP180とその近縁株の遺伝子地図を示す。
【
図6】
図6はRKP180と近縁株のGP4とBcep22の全ゲノムの相同性比較図を示す。
【
図7】
図7はRKP180とGP4のDarB遺伝子産物の機能ドメインを示す。
【
図8】
図8はRKP180とGP4のendolysinのアライメントを示す。
【
図9】
図9はRKP180の1感染サイクルを示す(mean±SD(N=3))。
【
図10】
図10はRKP180の青枯病に対する防除効果の様子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のバクテリオファージは、lysozyme融合型のDarBをコードする遺伝子を有し、endolysin、前記DarBおよびRz/Rz1の3つのlytic enzymeをコードする遺伝子を有し、CsrAをコードする遺伝子を有し、2つのtail fiber proteinをコードする遺伝子を有し、青枯病菌に感染するものである。
【0015】
上記lysozyme(リゾチーム)融合型DarBをコードする遺伝子は、通常のDarをコードする遺伝子とは異なり、lysozymeが融合したDarBタンパク質をコードするものである。lysozymeは溶菌活性を持ち、殺菌作用を有する。DarBはDNAメチラーゼドメインとヘリカーゼドメインを有し、宿主菌の制限機構(restriction)から自身のDNAを守る防御機能を有する(以下、「DarB」を「制限機構防御遺伝子DarB」等と言うこともある)。多くの場合、lysozymeとDarBタンパク質は別々の遺伝子によってコードされるが、本発明のバクテリオファージのDarBはこれら2つが融合した稀なDarBである。このlysozymeが融合したlysozyme融合型DarBタンパク質によって本発明のバクテリオファージは宿主菌の制限機構をすり抜け、効率的に宿主内で自身の遺伝情報を複製し、効率的に宿主菌を溶菌し、効率的に増殖することができる。このような融合遺伝子としては、例えば、Burkholderia virus BcepIL02のgp70(YP_002922742.1)、Burkholderia virus Bcep22のgp75(NP_944303.1)、 Burkholderia virus DC1 のgp65(YP_006589997.1)、配列番号1に記載の塩基配列の44,008~57,543番目(ORF66)のもの等が挙げられる。これらlysozyme融合型DarBをコードする遺伝子の中でも配列番号1に記載の塩基配列の44,008~57,543番目(ORF66)のものが好ましい。
【0016】
なお、本発明においては、DarBが上記性質を維持しているのであれば、上記lysozyme融合型DarBをコードする遺伝子と、50%以上、好ましくは55%以上の配列相同性(identity)があるものであってもlysozyme融合型DarBをコードする遺伝子に含まれる。
【0017】
上記3つのlytic enzyme(溶菌酵素)をコードする遺伝子とは、endolysin、上記DarB、Rz/Rz1である。lytic enzymeを複数有することで溶菌効率が高まり、本発明のバクテリオファージの溶菌効率が上がる。endolysinをコードする遺伝子は、N-acetylmuramidase activityを有するlysozyme様溶菌酵素活性をもつ。このような遺伝子としては、例えば、Ralstonia phage GP4のORF65(AXG67760.1 )、Cupriavidus oxalaticus WP_063238227.1、Cupriavidus taiwanensis WP_115662684.1、Ralstonia mannitolilytica WP_115075602.1、配列番号1に記載の塩基配列の58,762~59,355番目(ORF69)のもの等が挙げられる。これらendolysinをコードする遺伝子の中でも配列番号1に記載の塩基配列の58,762~59,355番目(ORF69)のものが好ましい。
【0018】
なお、本発明においては、endolysinの上記性質が維持されるのであれば、上記遺伝子と、50%以上、好ましくは80%以上の配列相同性(identity)があるものもendolysinをコードする遺伝子に含まれる。
【0019】
上記3つのlytic enzymeをコードする遺伝子のうちDarB遺伝子は、上記したlysozyme融合型DarBをコードする遺伝子である。
【0020】
上記3つのlytic enzymeをコードする遺伝子のうちRz/Rz1遺伝子は細菌の外膜を分解するspaninタンパク質をコードする。Rz遺伝子とRz1遺伝子は重複し、Rz1タンパク質をコードするRz1遺伝子はRz遺伝子内に異なるリーディングフレームで存在する。Rzのような遺伝子としては、例えば、Ralstonia phage GP4のORF61(AXG67756.1)、Burkholderia virus Bcep22のgp80(NP_944308.1)、Burkholderia virus DC1のgp72(YP_006590002.1)、Paraburkholderia hospitaのWP_090835650.1、配列番号1に記載の塩基配列の61,114~61,647番目(ORF74)のもの等が挙げられる。これらRzをコードする遺伝子の中でも配列番号1に記載の塩基配列の61,114~61,647番目(ORF74)のものが好ましい。なお、本発明においては、Rzの上記性質が維持されるのであれば、上記遺伝子と、30%以上、好ましくは90%以上の配列相同性(identity)があるものもRzをコードする遺伝子に含まれる。
【0021】
また、上記Rz1のような遺伝子としては、例えば、Pseudomonas phage Epa38のQIQ65891.1、Pseudomonos phage vB_PaeS_S218のASZ72374.1、Pseudomonas sp.31R17のCRM53430.1、Burkholderia virus DC1のgp73(YP_006590003.1)、Burkholderia virus Bcep22のgp81(YP_009173772.1)、配列番号1に記載の塩基配列の61,352~61,597番目(ORF75)のもの等が挙げられる。これらRz1をコードする遺伝子の中でも配列番号1に記載の塩基配列の61,352~61,597番目(ORF75)のものが好ましい。なお、本発明においては、Rz1の上記性質が維持されるのであれば、上記遺伝子と、30%以上、好ましくは45%以上の配列相同性(identity)があるものもRz1をコードする遺伝子に含まれる。
【0022】
上記3つのlytic enzymeをコードする遺伝子それぞれを持つバクテリオファージは数多く知られているが、80%以上の配列相同性のある上記3つのlytic enzymeの全てを有するバクテリオファージは既知のデータベースの中には存在しない。本発明のバクテリオファージは、3つのlytic enzymeを全て有することで、効率的に溶菌すると考えられる。
【0023】
上記CsrAをコードする遺伝子は、バイオフィルム形成を抑制するCsrAをコードする遺伝子である。このような遺伝子としては、例えば、Ralstonia phage GP4のORF4(AXG67699.1 )、Burkholderia sp. BDU8のWP_066491652.1、Caballeronia zhejiangensisのCsrA(WP_034473805.1)、Burkholderia virus DC1のgp46(YP_006589976.1)、 Burkholderia virus BcepIL02のgp49(YP_002922721.1)、Burkholderia virus Bcep22のgp54(NP_944283.1)、配列番号1に記載の塩基配列の28,351~28,548番目(ORF47)のもの等が挙げられる。これらCsrAをコードする遺伝子の中でも配列番号1に記載の塩基配列の28,351~28,548番目(ORF47)のものが好ましい。なお、本発明においては、CsrAの上記性質が維持されるのであれば、これらの遺伝子と、50%以上、好ましくは95%以上の配列相同性(identity)があるものもCsrAをコードする遺伝子に含まれる。
【0024】
上記tail fiber proteinをコードする遺伝子は、C末側に宿主認識・結合に関わるreceptor binding domainを有するtail fiber proteinをコードする遺伝子である。このような遺伝子としては、例えば、Ralstonia phage GP4のgp75(AXG67770.1)、gp76(AXG67771.1)、gp77(AXG67770.1)、Ralstonia phage RSJ5のgp36(YP_009218128.1)、Burkholderia virus DC1 gp56(YP_006589986.1)、gp57(YP_006589987.1)、gp59(YP_006589989.1)、gp60(YP_006589990.1)、Burkholderia virus Bcep22のgp64(NP_944293.2)、gp65(NP_944294.2)、gp66(NP_944295.2)、Burkholderia virus Bcepmiglのgp60(YP_007236806.1)、gp61(YP_007236807.1)、gp62(YP_007236808.1)、Burkholderia virus BcepIL02のgp58(YP_002922730.1)、gp59(YP_002922731.1)、gp61(YP_002922733.1)、gp62(YP_002922734.1)、配列番号1に記載の塩基配列の36,001~37,320番目(ORF58)、配列番号1に記載の塩基配列の37,406~38,278番目(ORF59)のもの等が挙げられる。本発明においては、これらtail fiber proteinをコードする遺伝子の1種または2種でもよいが、配列番号1に記載の塩基配列の36,001~37,320番目(ORF58)と37,406~38,278番目(ORF59)の異なる2つが好ましい。なお、本発明においては、tail fiber proteinの上記性質が維持されるのであれば、これらの遺伝子と、10%以上、好ましくは85%以上の配列相同性(identity)があるものもtail fiber proteinをコードする遺伝子に含まれる。本発明のバクテリオファージは2つの異なるtail fiber proteinをコードする遺伝子を有することにより宿主域が広い。
【0025】
上記したとおり、3つのlytic enzymeであるendolysin、DarBおよびRz/Rz1をコードする遺伝子を有し、宿主菌の制限機構の防御遺伝子であるlysozyme融合型DarBをコードする遺伝子を有し、広い宿主域とするための2つのtail fiber proteinをコードする遺伝子を有する本発明のバクテリオファージは、効率的な溶菌サイクルで幅広い種類の青枯病菌に感染する。また、バイオフィルム形成を抑制するCsrAをコードする遺伝子を有することで、より強い防除性を発揮する。
【0026】
本発明のバクテリオファージが感染する青枯病菌は、ナス科、ショウガ科、シソ科植物等の200種以上の植物から見出されるものであれば特に限定されないが、少なくとも、MAFF107624株、MAFF211266株、MAFF211270株、MAFF211543株、MAFF301859株、MAFF311644株、MAFF730103株、MAFF730131株、MAFF302745株、MAFF311632株、MAFF211536株、MAFF331041株、MAFF730139株、MAFF211280株、MAFF211533株、MAFF211468株、MAFF211516株、MAFF311101株、MAFF311102株、MAFF211479株、MAFF211471株、MAFF211483株、MAFF211484株、MAFF211486株、MAFF211272株、MAFF211276株、MAFF211278株、MAFF211490株、MAFF211492株、MAFF211497株、MAFF211476株、MAFF211414株、MAFF211429株およびMAFF301558株の全て、更には本発明者らが採取した70種類以上の青枯病菌に感染する。なお、MAFFの番号がついている青枯病菌は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構農業生物資源ジーンバンクから入手可能なものである。
【0027】
なお、ここで感染とは、本発明のバクテリオファージの存在下で、青枯病菌の生育する寒天培地上で溶菌斑(プラーク)を形成する状態、または液体培地中で溶菌する状態のことをいう。
【0028】
上記した本発明のバクテリオファージは、公知のバクテリオファージの中から、上記した遺伝子を全て有し、青枯病菌に感染するものを常法に従ってスクリーニングすることによって得ることができる。
【0029】
また、本発明のバクテリオファージは、上記遺伝子を有するものであればよい。そのため、本発明のバクテリオファージは、どのような群、目、科に属していてもかまわないが、好ましくは第1群、カウドウイルス目、ポドウイルス科に属するものである。
【0030】
本発明のバクテリオファージは、頭部の径が40~90nm、好ましくは70~80nmで、尾部の長さが5~30nm、好ましくは15~25nmで、幅が5~20nm、好ましくは9~15nmである。
【0031】
本発明のバクテリオファージのゲノムは2本鎖である。
【0032】
本発明のバクテリオファージのゲノムサイズは、特に限定されないが、例えば、6,000~280,000bp、好ましくは50,000~70,000bp、より好ましくは61,000~63,000bpである。なお、このゲノムサイズは全ゲノム塩基配列の値である。
【0033】
本発明のバクテリオファージのGC含量は、特に限定されないが、例えば、55~75%であり、好ましくは60~70%、より好ましくは63~66%である。なお、このGC含量は全ゲノム塩基配列から算出された値である。
【0034】
本発明のバクテリオファージがコードする遺伝子数は、特に限定されないが、例えば、10~330個であり、好ましくは60~80個であり、より好ましくは76個である。この76個の遺伝子には、75個のオープンリーディングフレーム(ORF)と1個のtRNAが含まれる。
【0035】
本発明のバクテリオファージのゲノムDNAは、制限酵素Hind III処理により5つ以上の断片となることが好ましく、600bp以上の断片が5つ以上となることがより好ましく、600bp以上の断片が5つとなることが特に好ましい。制限酵素Hind IIIで処理する条件は、35~40℃で、12~24時間である。
【0036】
更に、本発明のバクテリオファージは、例えば、tRNA-Ser、lysogenic repressor(ORF9)、等の遺伝子等を有していてもよい。
【0037】
以上説明した本発明のバクテリオファージの好ましいものとしては、本発明者らが見出したRKP180が挙げられる。このRKP180は、NITE BP-03185として、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(住所:〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に2020年3月27日付で国際寄託されている。
【0038】
なお、本発明のバクテリオファージには、上記性質を維持したまま、改変、変異等をしたものも含まれる。
【0039】
本発明のバクテリオファージは、幅広い青枯病菌に感染できることから、これを有効成分とすることにより青枯病防除剤とすることができる。
【0040】
なお、ここで防除とは、青枯病菌の植物への感染の抑止と軽減、青枯病の発病抑止と軽減、青枯病の感染拡大の抑止と軽減、青枯病菌の駆除のことをいう。
【0041】
この青枯病防除剤における、本発明のバクテリオファージの含有量は、防除の目的に合わせて適宜設定すれば良いが、例えば、本発明のバクテリオファージを力価で103~1012pfu/mL、好ましくは105~1011pfu/mL含有させればよい。
【0042】
また、この青枯病防除剤には、有効成分である本発明のバクテリオファージだけでもよいが、更に、薬学的、農学的に許容されるタンパク質安定剤など、他の物質や組成物等を含有させてもよい。
【0043】
上記した青枯病防除剤は、植物または植物生長媒体に投与することにより、植物の青枯病を防除することができる。植物としては、例えば、ナス科のトマトやナス、ピーマン、タバコ、シソ科のシソやエゴマ、ショウガ科のショウガやウコン、クルクマ等が挙げられる。また、植物生長媒体としては、土壌、有機物を含むマットなどの固形媒体、また養液を含む液体等が挙げられる。これら植物または植物生長媒体に青枯病防除剤を投与する方法や条件は、特に限定されないが、例えば、植物体や植物生長媒体への散布や投下、植物体への注入等である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
実 施 例 1
バクテリオファージの分離:
土壌を水に懸濁した後、静置し、上清を得た。この上清を0.25μmのフィルターで濾過し、濾液を青枯病菌を宿主としたプラークアッセイに供試した。生じたプラークを単離することでバクテリオファージRKP180を得た。
【0046】
実 施 例 2
バクテリオファージRKP180の解析:
(1)電子顕微鏡解析
4X1010pfu/mLのファージ懸濁液を1%uranyl acetateで染色し、電子顕微鏡(JEM-1400Pus、日本電子社製)で撮影した。
(2)ゲノムサイズの決定
フェノール・クロロホルム抽出によってファージ粒子からゲノムDNAを精製した。精製したゲノムDNAに対して0.3%アガロース(Agarose 1200 Standard Type、ピーエイチジャパン社製)を用いて、Mupid-2plus電気泳動装置(Mupid社製)でアガロースゲル電気泳動法を実施した。
【0047】
サイズマーカーのバンドを参照したところ、RKP180のゲノムサイズは48,500bp以上であった。
【0048】
(3)ゲノム構造の決定
上記で精製したゲノムDNAを1本鎖DNA分解酵素(S1 Nuclease、プロメガ社製)およびDNA分解酵素(Recombinant DNase I、タカラバイオ社製)、RNA分解酵素(RNase A、タカラバイオ社製)で処理し、上記方法で電気泳動を実施した。
【0049】
RKP180のDNAは1本鎖DNA分解酵素およびRNA分解酵素では分解されなかったが、DNA分解酵素で分解されたことから、RKP180のゲノムは2本鎖DNAであることが明らかになった。
【0050】
RKP180のゲノムDNAは、制限酵素Hind IIIを用い、37℃で16時間の処理により600bp以上の5つの断片となることが分かった。
【0051】
(4)ゲノム解析
RKP180のゲノムDNAのショットガン配列決定を、PacBio RS II (PACIFIC BIOSCIENCES社製)で行った。決定した塩基配列のアセンブリをRS_HGAP Assembly 2.3.0で行った。最近縁株を算出するための全ゲノム配列の相同性検索はBLASTNで行なった。オープンリーディングフレーム(ORF)はMiGAP ver2.23 (ライフサイエンス統合データベースセンター)におけるMetaGeneAnnotator 1.0および、tRNAscan-SE 1.23、BLAST 2.2.18、RNAmmer 1.2で同定し、COGおよびRefseq、TrEMBL、nrデータベースに対してBLASTPおよびPSI-BLASTを用いてホモロジー検索を行った。ホモロジー検索では、類似性のカットオフとして、E-valueが1e-4未満とした。ORFのドメイン検索はBLASTPおよびInterPro 78.1を使用した。アミノ酸配列のアライメントはClustal2.1を使用した。遺伝子地図はMiGAPで得られたデータを使用し、作成した。全ゲノム配列およびlarge terminaseのアミノ酸配列の系統樹はMEGA7.0.26のClustalWで相同性比較し、Maximum Likelihood法で作成した。特許文献 特願2018-24589号公報のRalstonia phage RSB2(AB597179.1)及びRalstonia phage GP4(MH638294.1)、Burkholderia phage Bcep22(AY349011.3)のゲノム配列をNCBIより取得し、RSB2及びGP4、Bcep22も上記の方法で、MiGAPによるアノテーションを実行した。
【0052】
RKP180のゲノムは直鎖状2本鎖DNAであった。そのゲノムサイズは61,696bpで、GC含量は64.6%であった。RKP180の全ゲノムを上記したように決定したものを配列番号1に示した。PacBio RS IIを用いたショットガン配列決定法および全塩基配列に基づく系統解析から、RKP180ゲノムはカウドウイルス(Caudovirales)目ポドウイルス(podovirus)科Bcep22様ウイルス (Bcep22-like virus)属に属すことが示され、電子顕微鏡解析の結果と一致した(
図1、下記参照)。BLASTNによるホモロジー検索では、最近縁株は既知のRalstonia phage GP4株(被覆率77%、相同性97%、表1、
図2)、次いで、Burkholderia cenocepacia phage BcepIL02 株(被覆率20%、相同性78%)、Burkholderia phage DC1 株(被覆率21%、相同性78%)、Burkholderia cepacia phage Bcep22 株(被覆率22%、相同性78%)、Burkholderia phage BcepMigl株(被覆率21%、相同性78%)と近縁であった。(表1、
図2)。
【0053】
【0054】
また、large terminaseのアミノ酸配列に基づく系統解析から、RKP180のゲノムDNA は末端重複配列[terminal redundancy ; TR]の環状順列[circular permuted ; CP]構造を有する系統群に分類された(
図3)。
【0055】
図4に示すようにRKP180のゲノムは計76個の遺伝子からなり、75個のORFと1個のtRNAがコードされていた。各遺伝子の機能と産物の一覧を表2に示した。
【0056】
【0057】
MiGAPを用いてゲノムの主要な遺伝子地図を表記し、RKP180と公知のRalstonia phage GP4株とBurkholderia cepacia phage Bcep22株を比較した(
図5)。また、比較ゲノムソフトLAGANを用いて、全塩基配列も比較した(
図6)。
【0058】
ゲノム構造はRalstonia phage GP4株とBurkholderia cepacia phage Bcep22株に類似していた(
図5、6)。
【0059】
RKP180ゲノムの特徴は、lysozymeが融合型した制限機構防御遺伝子であるDarB遺伝子を有し、3つの溶菌酵素、DarBとendolysinとRz/Rz1をコードする遺伝子を有し、バイオフィルム形成阻害タンパク質CsrAをコードする遺伝子を有し、異なる2つのtail fiber proteinをコードする遺伝子を有することである。
【0060】
さらに、RKP180のゲノム構造はGP4のゲノム構造と良く似ている一方で、DarB遺伝子(ORF66)、2つの溶菌酵素遺伝子(ORF69とORF75)、1つの尾部繊維遺伝子(ORF59)よってコードされるタンパク質についてはGP4のホモログと相同性の低いことが特徴である(
図6~8)。
【0061】
RKP180のORF66はlysozyme様溶菌酵素とDarB[defence against restriction]とが融合した融合タンパク質をコードする(
図7)。この融合タンパク質と相同なものはBurkholderia virus BcepIL02の DarB-like antirestriction protein(被覆率90%、相同性68%)、Burkholderia virus DC1のsoluble lytic transglycosylase/helicase/methylase protein(被覆率89%、相同性68%)、 Burkholderia virus Bcep22のDarB-like antirestriction protein (被覆率97%、相同性67%)であった(表3)。
【0062】
一方で、最近縁種であるRasltonia phage GP4株のDarB-like antirestriction protein
とは被覆率53%、相同性93%と低い相同性であった(表3)。これは、lysozyme様ドメインが保存されているものの、宿主菌の制限機構に対して防御するDarBドメイン中のメチラーゼドメインとヘリケースドメインが不完全なためで、相同領域が限定されているためだった(表4、
図6、7、文献1(Gill JJ, Summer EJ, Russell WK, Cologna SM, Carlile TM, Fuller AC, Kitsopoulos K, Mebane LM, Parkinson BN, Sullivan D, Carmody LA, Gonzalez CF, LiPuma JJ, Young R. 2011. Genomes and characterization of phages Bcep22 and BcepIL02, founders of a novel phage type in Burkholderia cenocepacia. J Bacteriol 193:5300-5313.))。
【0063】
【0064】
【0065】
RKP180のORF69には、溶菌酵素であるN-アセチルムラミダーゼ活性を持つendolysin[DUF3380 domain-containing protein]がコードされていた(文献2(Rodriguez-Rubio L, Gerstmans H, Thorpe S, Mesnage S, Lavigne R, Briers Y. 2016. DUF3380 Domain from a Salmonella Phage Endolysin Shows Potent N-Acetylmuramidase Activity. Appl Environ Microbiol 82:4975-4981.)、文献3(Love MJ, Bhandari D, Dobson RCJ, Billington C. 2018. Potential for Bacteriophage Endolysins to Supplement or Replace Antibiotics in Food Production and Clinical Care. Antibiotics (Basel) 7:17))。BLASTPによるホモロジー検索では、GP4株のORF65(AXG67760.1)と最も相同性が高く(被覆率100%、相同性82%、表5)、N末側(1-100aa)の領域の相同性は96%(被覆率100%)と高かったが、C末側(101-197aa)の相同性は68%(被覆率100%)と、N末端側より相同性が低かった(表6、
図8)。
【0066】
【0067】
【0068】
RKP180ではORF74にRz、ORF75にRz1というspanin溶菌酵素がコードされていた。Rz1はRz遺伝子内に異なるリーディングフレームで存在し、多くのファージがRzとRz1の両方を有する(文献1)。
【0069】
RKP180と最近縁株であるGP4はRzを有し、RKP180のORF74とGP4のRz-like lysisタンパク質との間の相同性は93%(被覆率100%)と、高い相同性を示したが(表7)、Rz1を有していない(文献4 (Wang R, Cong Y, Mi Z, Fan H, Shi T, Liu H, Tong Y. 2019. Characterization and complete genome sequence analysis of phage GP4, a novel lytic Bcep22-like podovirus. Arch Virol 164:2339-2343.))。一方、近縁株であるBurkholderia virus DC1とBurkholderia virus Bcep22はRzとRz1の両方のホモログを有しているが、RKP180のORF74(Rz)とORF75(Rz1)とはそれぞれDC1では49%(被覆率85%)と57%(被覆率86%)、Bcep22では46%(被覆率100%)と56%(被覆率86%)であり、いずれも相同性が低かった(表7、8)。
【0070】
【0071】
【0072】
上記3つの溶菌酵素の機能によりRKP180は効率良く宿主菌を溶菌し、感染サイクルが効率的になっていると考えられる。また、これら溶菌酵素の違いによりRKP180は最近縁株であるGP4と異なる特徴の感染サイクルを有すると考えられる(下記参照、文献4)。
【0073】
RKP180のORF47には、CsrA[carbon storage regulator]タンパク質がコードされていることが分かった(表9)。CsrAはバイオフィルム形成を抑制する遺伝子である(文献5(Lynch KH, Stothard P, Dennis JJ. 2012. Characterization of DC1, a Broad-Host-Range Bcep22-Like Podovirus. Appl Environ Microbiol 78:889-891.))。大腸菌においてCsrAの発現はバイオフィルム形成を抑制し、また運動性の増加によってバイオフィルムの発達を阻害する(文献6(Lu TK, Collins JJ. 2009. Engineered bacteriophage targeting gene networks as adjuvants for antibiotic therapy. Proc Natl Acad Sci U S A 106:4629-4634.)、文献7(Jackson DW, Suzuki K, Oakford L, Simecka JW, Hart ME, Romeo T. 2002. Biofilm Formation and Dispersal under the Influence of the Global Regulator CsrA of Escherichia coli. J Bacteriol 184:290-301.))。さらに、近縁のBurkholderia Bcep22 group phageでは、バイオフィルム形成阻害への関連性が示唆されている(文献5)。また、青枯病は青枯病菌によるバイオフィルム形成が原因で起き、青枯病菌はCsrAによって制御されることが知られているバイオフィルム形成や運動性に関与する遺伝子を有する(文献8(Clough SJ, Lee KE, Schell MA, Denny TP. 1997. A two-component system in Ralstonia (Pseudomonas) solanacearum modulates production of PhcA-regulated virulence factors in response to 3-hydroxypalmitic acid methyl ester. J Bacteriol 179:3639-3648.)、文献9(Brown DG, Allen C. 2004. Ralstonia solanacearum genes induced during growth in tomato: an inside view of bacterial wilt. Molecular Microbiology 53:1641-1660.)、文献10(Hikichi Y, Mori Y, Ishikawa S, Hayashi K, Ohnishi K, Kiba A, Kai K. 2017. Regulation Involved in Colonization of Intercellular Spaces of Host Plants in Ralstonia solanacearum. Front Plant Sci 8:967.))。
【0074】
以上のことから、CsrAを有するRKP180によって青枯病菌によるバイオフィルム形成が阻害されるとともに青枯病菌が溶菌され、その結果、RKP180による高い防除効果が期待される。Ralstonia phageの中ではGP4のみが相同遺伝子を有しているが、防除効果を確認できているRalstonia phageはRKP180のみである。
【0075】
【0076】
RKP180のORF58とORF59には、異なる2つの尾部繊維タンパク質[tail fiber protein]がコードされていた(表10、表11)。尾部繊維タンパク質は宿主菌の表層に存在するレセプター分子と特異的に結合し、この特異性がバクテリオファージの宿主特異性、すなわち宿主域を決定する(文献1、11(Bartual SG, Otero JM, Garcia-Doval C, Llamas-Saiz AL, Kahn R, Fox GC, van Raaij MJ. 2010. Structure of the bacteriophage T4 long tail fiber receptor-binding tip. Proc Natl Acad Sci U S A 107:20287-20292.))。
【0077】
RKP180のORF58はRalstonia phage GP4のORF76の尾部繊維タンパク質(AXG67771.1)と最も相同であった(被覆率100%、相同性99%)(表10)。
【0078】
【0079】
また、RKP180のORF59はRalstonia phage GP4のORF75(AXG67770.1)と最も相同であった(被覆率100%、相同性85%)(表11)。InterPro 78.1を用いてドメイン検索したところ、ORF59のC末端側109~280アミノ酸領域がReceptor-binding domain of short tail fibre protein gp12 SUPERFAMILY(SSF88874)として同定された。このドメインは、T4ファージの短尾部繊維gp12 (short tail fiber)の宿主認識部位である(文献1、12(Leiman PG, Arisaka F, Raaij ML, Kostyuchenko VA, Aksyuk AA, Kanamaru S, Rossmann MG. 2010. Morphogenesis of the T4 tail and tail fibers. Virology J 7:355.)。このRKP180のORF59の宿主認識部位ドメインに相当するアミノ酸109~280の領域を使ってBLASTPによるホモロジー検索を行うと、Burkholderia virus DC1の尾部繊維タンパク質の相同部位と最も相同(被覆率100%、相同性85%)で、Ralstonia phage GP4では相同性が77%と低かった (被覆率100%、表12)。これらのことから、ORF59ホモログの宿主認識部位の配列の違いがRalstonia phage のRKP180とGP4の宿主域の違いに起因すると考えられる。
【0080】
【0081】
【0082】
(4)まとめ
以上の結果より、バクテリオファージRKP180は以下の性質を有することが分かった。
・RKP180のゲノムは2本鎖DNAで、末端重複配列[terminal redundancy;TR]の環状順列[circular permuted;CP]構造である。
・Caudovirales目podovirus科に属する。
・ゲノムサイズは、61,696bp
・GC含量は64.58%
・76個の遺伝子(75個のオープンリーディングフレーム(ORF)と1個のtRNA)がコードされている。
・公知のBurkholderia cenocepacia に感染するバクテリオファージ (podovirus科Bcep22 virus属)と類似
・最近縁株は既知のRalstonia phage GP4株であった(被覆率77%、相同性97%)。
・制限機構防御遺伝子DarBを有する。
・3つの溶菌酵素、DarB、endolysin、Rz/Rz1をコードする遺伝子を有する。
・バイオフィルム形成阻害CsrA遺伝子を有する。
・異なる2つの尾部繊維タンパク質[tail fiber protein]をコードする遺伝子を有する。
【0083】
実 施 例 3
青枯病菌の分離:
(1)発病株からの分離
発病株の茎を切断し、菌泥を回収した。その菌泥を滅菌水で適当に希釈し、改変SMSA培地に塗布し、生じたコロニーをCPG寒天培地(1L当たりペプトン10g、カザミノ酸1g、グルコース5g、寒天17g)に分離した。
【0084】
(2)土壌からの分離
土壌と水をよく混合し、静置後、上清を分離した。分離した上清を水で適当に希釈し、その希釈液を改変SMSA培地に塗布した。生じたコロニーはCPG寒天培地に分離した。
<改変SMSA培地(1L当たり)>
ペプトン 10g
グルコース 5g
カザミノ酸 1g
寒天 17g
バシトラシン(10 mg/mL) 2.5mL
ポリミキシンB硫酸塩(50mg/mL) 2mL
クロラムフェニコール(10 mg/mL) 0.5mL
ぺニシリンGカリウム塩(1mg/mL) 0.5mL
クリスタルバイオレット(1mg/mL) 5mL
テトラゾリウムクロライド(10mg/mL) 5mL
【0085】
(3)結果
上記した方法によって1圃場から1株の青枯病菌を分離し、ナス科、ショウガ科、シソ科などを宿主とする計70株以上の青枯病菌株を分離した。
【0086】
実 施 例 4
RKP180の宿主域の検討:
(1)感染の有無
感染の有無はプラークアッセイまたはスポットテストによって調べた。
【0087】
(2)プラークアッセイ
青枯病菌をCPG培地(1L当たりペプトン10g、カザミノ酸1g、グルコース5g)で28℃、一晩培養した。菌培養液をCPG培地でOD600が0.25となるよう調整した。ファージ液の段階希釈液を調整し、前記菌培養液と混合した。28℃で30分間静置後、トップアガー(1L当たりペプトン3g、カザミノ酸0.3g、グルコース1.7g、寒天5g)3mlと上記の菌/ファージ混合液を混ぜ、CPG寒天培地に重層した。28℃で一晩培養し、感染の有無をプラークの有無で確認した。
【0088】
(3)スポットテスト
青枯病菌をCPG培地で28℃、一晩培養した。菌培養液をCPG培地でOD600が0.25となるよう調整した。この菌液250μLとトップアガー3mlを混合し、CPG寒天培地に重層した。トップアガーが固まった後、ファージ液をスポットし、溶菌斑(プラーク)の有無を観察し、感染の有無を調べた。
【0089】
(4)結果
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構農業生物資源ジーンバンク(茨城県つくば市)から入手可能な表13に記載の34株を含む自然界から分離したナス科、ショウガ科、シソ科などを宿主とする計100株以上の青枯病菌株全てに感染することが分かった。
【0090】
【0091】
実 施 例 5
ワンステップ増殖法によるRKP180の感染サイクルの評価
CPG培地でOD660が0.13となるまで培養した青枯病菌MAFF730103株の培養液990μLとRKP180ファージ液(7X10
8pfu/mL)10μLを混合した後、室温で静置し、菌とファージを吸着させた。10分後、5,000Xgで10分間遠心し、上清を回収した後、プラークアッセイを行い、吸着したファージ数を求めた。沈殿物は1mLのCPG培地に再懸濁し、50μLを24,950μLのCPG培地に添加し、28℃で振盪培養した。振盪開始後から160分間、10分毎に10μLを採取し、990μLのCPG培地に混和し、再吸着を防いだ。この混和液または必要に応じ段階希釈した希釈液の100μLと、OD660が0.22~0.24になるよう調整したMAFF730103株の培養液250μLとを混合し、全量を直ちにトップアガーに加え、撹拌後CPG培地に重層した。生じたプラーク数を計測し、力価を求めた。各時間の力価と吸着したファージ数から宿主菌1細胞から生じるファージ数(バーストサイズ)を算出した。その結果を
図9に図示し、表14にまとめた。
【0092】
【0093】
以上から、RKP180の潜伏時間は80分で1感染サイクルが150分であることが分かった。これは、最近縁種でRalstonia phageであるGP4より短い感染サイクルで、更にバーストサイズも162±8pfuと大きかった(文献5)。この効率の良い感染サイクルは、上記ゲノム解析の結果から、制限機構防御遺伝子DarBと3つの溶菌酵素(前記DarB、endolysin、Rz/Rz1)をコードする遺伝子を有するためと考えられる。
【0094】
実 施 例 6
RKP180の防除効果の検討
大玉種世界一のセル苗(各試験区24株)を3X10
9pfu/mLのファージ液に2分間浸漬した。対照区は無処理とした。翌日、ポットに定植するとともに、OD660=0.1(約1X10
8cfu/mL相当)に調整した青枯病菌MAFF730131株の菌液5mLを株元に灌注し、33日間観察した(
図10)。
【0095】
菌接種後33日目でファージ無処理区では24株中21株が発病し枯死し、健全株は3株のみだった。一方、RKP180処理区では24株中8株の枯死に止まり、健全株は16であった。すなわち、RKP180処理によって健全株数が約5倍に改善され、防除価62となり、RKP180の防除効果が認められた。
【0096】
実 施 例 7
青枯病防除剤の調製:
実施例1で分離したバクテリオファージRKP180を、3X109pfu/mLの力価に調整して青枯病防除剤とした。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明のバクテリオファージは、青枯病の防除に利用できる。
【配列表】