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特許7546955解析システム、解析システムの作動方法、及び解析用プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】解析システム、解析システムの作動方法、及び解析用プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20240902BHJP
   A61B 3/113 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
A61B10/00 J
A61B10/00 W
A61B3/113
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022571589
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2021047703
(87)【国際公開番号】W WO2022138767
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2020213471
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504013775
【氏名又は名称】学校法人 埼玉医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】新藤 晋
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】新藤晋 外8名,新しい半規管機能検査法 -video Head Impulse Test-,Equilibrium Research,日本,一般社団法人 日本めまい平衡医学会,2014年,Vol.73, No.1,pp.22-31
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
A61B 3/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転刺激による半規管の機能を解析するための解析システムであって、
前庭動眼反射回転角量を頭位の回転角量で除した第1の前庭動眼反射データ、及び前記頭位の回転角量から少なくとも代償性眼球運動(CUS)に基づく回転角量を差し引いた残回転角量を前記頭位の回転角量で除した第2の前庭動眼反射データを取得する前庭動眼反射データ取得手段を有し、
前記第2の前庭動眼反射データ、又は前記第1の前庭動眼反射データ及び前記第2の前庭動眼反射データに基づき、半規管の機能を解析することを特徴とする解析システム。
【請求項2】
前記第2の前庭動眼反射データが、
被験者の頭部に装着され、前記頭部を回動させた際の前記頭部の回転角速度データ及び前記被験者の眼の動きの回転角速度データを取得する回転角速度データ取得手段により取得した、前記頭部の回転角速度データ及び前記眼の動きの回転角速度データに基づき、
前記頭部を回動させている間の、前記頭部の回転角速度データの積分値をAとし、前記被験者の眼の代償性眼球運動(CUS)に基づく回転角速度データの積分値をCとしたとき、次式、VORgain(I)=(A-C)/A、により導出した前記VORgain(I)の値である、請求項1に記載の解析システム。
【請求項3】
前記第1の前庭動眼反射データが、
前記回転角速度データ取得手段により取得した、前記頭部の回転角速度データ及び前記眼の動きの回転角速度データに基づき、
前記頭部を回動させている間の、前記頭部の回転角速度データの積分値をAとし、前記眼の動きの回転角速度データの積分値をBとしたとき、次式、VORgain(D)=B/A、により導出した前記VORgain(D)の値である、請求項2に記載の解析システム。
【請求項4】
回転刺激による半規管の機能を解析するための解析システムであって、
被験者の頭部に装着され、前記頭部を回動させた際の前記頭部の回転角速度データ及び前記被験者の眼の動きの回転角速度データを取得する回転角速度データ取得手段と、
前記回転角速度データ取得手段が取得した、前記頭部の回転角速度データ及び前記眼の動きの回転角速度データに基づき、
前記頭部を回動させている間の、前記頭部の回転角速度データの積分値をAとし、前記被験者の眼の代償性眼球運動(CUS)に基づく回転角速度データの積分値をCとしたとき、次式、VORgain(I)=(A-C)/A、を導出し、前記VORgain(I)の値に基づき半規管の機能を解析する解析手段と、
を有することを特徴とする解析システム。
【請求項5】
前記Aのデータ値が頭部における複数の回転角速度データの複数の積分値の合計積分値であり、前記Cのデータ値が被験者の眼の代償性眼球運動(CUS)に基づく複数の回転角速度データの複数の積分値の合計積分値である、請求項2から4のいずれかに記載の解析システム。
【請求項6】
前記VORgain(I)の値を複数取得し、複数取得した前記VORgain(I)の値に基づき近似線を導出し、前記近似線に基づき所定の回転角速度における前記VORgain(I)の値を導出する、請求項2から5のいずれかに記載の解析システム。
【請求項7】
前記VORgain(I)の値を複数取得し、複数取得した前記VORgain(I)の値に基づき近似線を導出し、前記近似線に基づき、前記複数取得した前記VORgain(I)の値のバラツキを導出する、請求項2から6のいずれかに記載の解析システム。
【請求項8】
前記回転角速度データ取得手段が取得した、前記頭部の回転角速度データ及び前記眼の動きの回転角速度データに基づき、
前記頭部を回動させている間の、前記頭部の回転角速度データの積分値をAとし、前記眼の動きの回転角速度データの積分値をBとしたとき、次式、VORgain(D)=B/A、を導出し、
前記VORgain(D)の値と、前記VORgain(I)の値との差の平均及び標準偏差を算出する、請求項2から7のいずれかに記載の解析システム。
【請求項9】
前記VORgain(D)の値、前記VORgain(I)の値、並びに前記VORgain(D)の値と前記VORgain(I)の値との差の平均及び標準偏差を表示し、これらの値が基準値を超えた場合に警告を発する警告手段を有する、請求項8に記載の解析システム。
【請求項10】
前記回転角速度データ取得手段が、前記頭部の回動に係る回転角速度データを収集するセンサーと、前記被験者の眼の動きを撮影するカメラと、を備えた、請求項2から9のいずれかに記載の解析システム。
【請求項11】
請求項1から3のいずれかに記載の解析システムを作動する解析システムの作動方法であって、
コンピューターが、
前記前庭動眼反射データ取得手段により、前記第1の前庭動眼反射データ、及び前記第2の前庭動眼反射データを取得することと、
前記第2の前庭動眼反射データ、又は前記第1の前庭動眼反射データ及び前記第2の前庭動眼反射データに基づき、半規管の機能を解析することと、
含むことを特徴とする解析システムの作動方法。
【請求項12】
請求項4から10のいずれかに記載の解析システムを作動する解析システムの作動方法であって、
コンピューターが、
前記回転角速度データ取得手段により、前記頭部の回転角速度データ及び前記眼の動きの回転角速度データを取得することと、
前記頭部の回転角速度データ及び前記眼の動きの回転角速度データに基づき、
前記頭部を回動させている間の、前記頭部の回転角速度のデータの積分値をAとし、前記被験者の眼の代償性眼球運動(CUS)に基づく回転角速度データの積分値をCとしたとき、次式、VORgain(I)=(A-C)/A、を導出し、前記VORgain(I)の値に基づき半規管の機能を解析することと、
含むことを特徴とする解析システムの作動方法。
【請求項13】
回転刺激による半規管の機能を解析するための解析用プログラムであって、
前庭動眼反射回転角量を頭位の回転角量で除した第1の前庭動眼反射データ、及び前記頭位の回転角量から少なくとも代償性眼球運動(CUS)に基づく回転角量を差し引いた残回転角量を前記頭位の回転角量で除した第2の前庭動眼反射データを取得し、
前記第2の前庭動眼反射データ、又は前記第1の前庭動眼反射データ及び前記第2の前庭動眼反射データに基づき、半規管の機能を解析する処理を、
コンピューターに行わせることを特徴とする解析用プログラム。
【請求項14】
回転刺激による半規管の機能を解析するための解析用プログラムであって、
被験者の頭部を回動させた際の前記頭部の回転角速度データ及び前記被験者の眼の動きの回転角速度データを取得し、
前記頭部の回転角速度データ及び前記眼の動きの回転角速度データに基づき、前記頭部を回動させている間の、前記頭部の回転角速度データの積分値をAとし、前記被験者の眼の代償性眼球運動(CUS)に基づく回転角速度データの積分値をCとしたとき、次式、VORgain(I)=(A-C)/A、を導出し、前記VORgain(I)の値に基づき半規管の機能を解析する処理を、
コンピューターに行わせることを特徴とする解析用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析システム、解析方法、解析用データ取得装置、及び解析用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
video Head Impulse Test(以下、「vHIT」と称することがある)は2009年に開発された回転刺激による半規管機能検査の一つである。前記vHITは、従来の温度刺激によるカロリックテストに比べて、生理的な刺激方法で検査できること、水平半規管に加え垂直半規管の機能も分かること、検査が簡便であることなどから急速に世界で広まっている。
【0003】
前記vHITは、被験者(患者)の頭部を急速に回動させた時に生じる前庭動眼反射(vestibulo ocular reflex;以下、「VOR」と称することがある)を利用しており、前記VOR中の頭位と眼位の角速度を測定する。前記vHITの評価項目には、VORgainと、前記VORgainが減少した際に発生する代償性眼球運動(catch up saccade;以下、「CUS」と称することがある)とがある。これらの中でも、前記VORgainは半規管機能検査の定量化を図る上で重要である。
現在行われている、VOR中の頭位と眼位の角速度をそれぞれ積分した角度の比、又はVOR開始から任意の時間における頭位と眼位の角速度比から直接VORgainを計算する方法(以下、「直接法」と称することがある)では、前記VORgainは健常者では約1となるが、半規管機能低下の患者では前記VORgainが低下し、概ね0.8未満になると、視標を注視できなくなるため、前記CUSが生じる。
【0004】
前記vHITでは、回転刺激による検査の特性上、回転動作中に頭部に装着したゴーグルがずれるスリップアーチファクト、及び眼位を正確に計測できないノイズアーチファクトが発生することがある。この場合、前記直接法ではアーチファクトの影響を大きく受けてしまい、前記VORgainが適切な値を示さないという問題がある(例えば、非特許文献1参照)。
また、半規管機能低下の患者では回転刺激時の回転角速度が速くなると前記VORgainが低下することがあるが、現在の前記vHITでは回転角速度の影響については考慮されていないという問題がある。
更に、今後、前記vHITが普及する上において、前記VORgainの検査精度を向上させることは不可欠である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】「Video Head Impulse Testと温度刺激検査の相互評価」、新藤 晋ら、equilibrium Res. Vol.74(6) 541-551 2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、スリップ等のアーチファクトの影響がなく、検査精度が飛躍的に向上し、半規管機能の解析を正確かつ精密に行うことができる解析システム、解析方法、解析用データ取得装置、及び解析用プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 回転刺激による半規管の機能を解析するための解析システムであって、
前庭動眼反射回転角量を頭位の回転角量で除した第1の前庭動眼反射データ、及び前記頭位の回転角量から少なくとも代償性眼球運動(CUS)に基づく回転角量を差し引いた残回転角量を前記頭位の回転角量で除した第2の前庭動眼反射データを取得する前庭動眼反射データ取得手段を有し、
前記第2の前庭動眼反射データ、又は前記第1の前庭動眼反射データ及び前記第2の前庭動眼反射データに基づき、半規管の機能を解析することを特徴とする解析システムである。
<2> 前記第2の前庭動眼反射データが、
被験者の頭部に装着され、前記頭部を回動させた際の前記頭部の回転角速度データ及び前記被験者の眼の動きの回転角速度データを取得する回転角速度データ取得手段により取得した、前記頭部の回転角速度データ及び前記眼の動きの回転角速度データに基づき、
前記頭部を回動させている間の、前記頭部の回転角速度データの積分値をAとし、前記被験者の眼の代償性眼球運動(CUS)に基づく回転角速度データの積分値をCとしたとき、次式、VORgain(I)=(A-C)/A、により導出した前記VORgain(I)の値である、前記<1>に記載の解析システムである。
<3> 前記第1の前庭動眼反射データが、
前記回転角速度データ取得手段により取得した、前記頭部の回転角速度データ及び前記眼の動きの回転角速度データに基づき、
前記頭部を回動させている間の、前記頭部の回転角速度データの積分値をAとし、前記眼の動きの回転角速度データの積分値をBとしたとき、次式、VORgain(D)=B/A、により導出した前記VORgain(D)の値である、前記<2>に記載の解析システムである。
<4> 回転刺激による半規管の機能を解析するための解析システムであって、
被験者の頭部に装着され、前記頭部を回動させた際の前記頭部の回転角速度データ及び前記被験者の眼の動きの回転角速度データを取得する回転角速度データ取得手段と、
前記回転角速度データ取得手段が取得した、前記頭部の回転角速度データ及び前記眼の動きの回転角速度データに基づき、
前記頭部を回動させている間の、前記頭部の回転角速度データの積分値をAとし、前記被験者の眼の代償性眼球運動(CUS)に基づく回転角速度データの積分値をCとしたとき、次式、VORgain(I)=(A-C)/A、を導出し、前記VORgain(I)の値に基づき半規管の機能を解析する解析手段と、
を有することを特徴とする解析システムである。
<5> 前記Aのデータ値が頭部における複数の回転角速度データの複数の積分値の合計積分値であり、前記Cのデータ値が被験者の眼の代償性眼球運動(CUS)に基づく複数の回転角速度データの複数の積分値の合計積分値である、前記<2>から<4>のいずれかに記載の解析システムである。
<6> 前記VORgain(I)の値を複数取得し、複数取得した前記VORgain(I)の値に基づき近似線を導出し、前記近似線に基づき所定の回転角速度における前記VORgain(I)の値を導出する、前記<2>から<5>のいずれかに記載の解析システムである。
<7> 前記VORgain(I)の値を複数取得し、複数取得した前記VORgain(I)の値に基づき近似線を導出し、前記近似線に基づき、前記複数取得した前記VORgain(I)の値のバラツキを導出する、前記<2>から<6>のいずれかに記載の解析システムである。
<8> 前記回転角速度データ取得手段が取得した、前記頭部の回転角速度データ及び前記眼の動きの回転角速度データに基づき、
前記頭部を回動させている間の、前記頭部の回転角速度データの積分値をAとし、前記眼の動きの回転角速度データの積分値をBとしたとき、次式、VORgain(D)=B/A、を導出し、
前記VORgain(D)の値と、前記VORgain(I)の値との差の平均及び標準偏差を算出する、前記<2>から<7>のいずれかに記載の解析システムである。
<9> 前記VORgain(D)の値、前記VORgain(I)の値、並びに前記VORgain(D)の値と前記VORgain(I)の値との差の平均及び標準偏差を表示し、これらの値が基準値を超えた場合に警告を発する警告手段を有する、前記<8>に記載の解析システムである。
<10> 前記回転角速度データ取得手段が、前記頭部の回動に係る回転角速度データを収集するセンサーと、前記被験者の眼の動きを撮影するカメラと、を備えた、前記<2>から<9>のいずれかに記載の解析システムである。
<11> 回転刺激による半規管の機能を解析するために用いられ、頭部の回動に係る回転角速度データを収集するセンサーと、被験者の眼の動きを撮影するカメラとを備えたことを特徴とする解析用データ取得装置である。
<12> 回転刺激による半規管の機能を解析するための解析方法であって、
前庭動眼反射回転角量を頭位の回転角量で除した第1の前庭動眼反射データ、及び前記頭位の回転角量から少なくとも代償性眼球運動(CUS)に基づく回転角量を差し引いた残回転角量を前記頭位の回転角量で除した第2の前庭動眼反射データを取得する前庭動眼反射データ取得工程を含み、
前記第2の前庭動眼反射データ、又は前記第1の前庭動眼反射データ及び前記第2の前庭動眼反射データに基づき、半規管の機能を解析することを特徴とする解析方法である。
<13> 回転刺激による半規管の機能を解析するための解析方法であって、
被験者の頭部に装着され、前記頭部を回動させた際の前記頭部の回転角速度データ及び前記被験者の眼の動きの回転角速度データを取得する回転角速度データ取得工程と、
前記回転角速度データ取得工程において取得した、前記頭部の回転角速度データ及び前記眼の動きの回転角速度データに基づき、
前記頭部を回動させている間の、前記頭部の回転角速度のデータの積分値をAとし、前記被験者の眼の代償性眼球運動(CUS)に基づく回転角速度データの積分値をCとしたとき、次式、VORgain(I)=(A-C)/A、を導出し、前記VORgain(I)の値に基づき半規管の機能を解析する解析工程と、
を含むことを特徴とする解析方法である。
<14> 回転刺激による半規管の機能を解析するための解析用プログラムであって、
前庭動眼反射回転角量を頭位の回転角量で除した第1の前庭動眼反射データ、及び前記頭位の回転角量から少なくとも代償性眼球運動(CUS)に基づく回転角量を差し引いた残回転角量を前記頭位の回転角量で除した第2の前庭動眼反射データを取得し、
前記第2の前庭動眼反射データ、又は前記第1の前庭動眼反射データ及び前記第2の前庭動眼反射データに基づき、半規管の機能を解析する処理を、
コンピューターに行わせることを特徴とする解析用プログラムである。
<15> 回転刺激による半規管の機能を解析するための解析用プログラムであって、
被験者の頭部を回動させた際の前記頭部の回転角速度データ及び前記被験者の眼の動きの回転角速度データを取得し、
前記頭部の回転角速度データ及び前記眼の動きの回転角速度データに基づき、前記頭部を回動させている間の、前記頭部の回転角速度データの積分値をAとし、前記被験者の眼の代償性眼球運動(CUS)に基づく回転角速度データの積分値をCとしたとき、次式、VORgain(I)=(A-C)/A、を導出し、前記VORgain(I)の値に基づき半規管の機能を解析する処理を、
コンピューターに行わせることを特徴とする解析用プログラムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、スリップ等のアーチファクトの影響がなく、検査精度が飛躍的に向上し、半規管機能の解析を正確かつ精密に行うことができる解析システム、解析方法、解析用データ取得装置、及び解析用プログラムを提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、vHIT測定における時間と角速度との関係を示すグラフである。
図2A図2Aは、vHIT測定によりVORgainを直接求める直接法を説明するための時間と角速度との関係を示すグラフである。
図2B図2Bは、vHIT測定によりVORgainを直接求める直接法を説明するための時間と角速度との関係を示すグラフである。
図3図3は、vHIT測定によりVORgainを間接的に求める間接法を説明するための時間と角速度との関係を示すグラフである。
図4図4は、本発明の解析システムのハードウェア構成の一例を示す図である。
図5図5は、本発明の解析システムの機能構成の一例を示す図である。
図6図6は、本発明の解析方法の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図7図7は、実施例1における被験者をスリップアーチファクトの無い条件で測定した時間と角速度との関係を示すグラフである。
図8図8は、実施例1における被験者を意図的にスリップさせて測定した時間と角速度との関係を示すグラフである。
図9A図9Aは、実施例2における健常者における回転角速度とVORgainとの関係を示すグラフである。
図9B図9Bは、実施例2における一側前庭機能低下の患者における回転角速度とVORgainとの関係を示すグラフである。
図10図10は、実施例2における回転角速度によりVORgainが変化する例における回転角速度とVORgainとの関係を示すグラフである。
図11図11は、実施例2における近似線を作成し、所定の角速度でVORgainを求める方法を示すグラフである。
図12A図12Aは、実施例3におけるアーチファクトが少ない例であり、VORgainがほぼ一定である回転角速度とVORgainとの関係を示すグラフである。
図12B図12Bは、実施例3におけるアーチファクトが多い例であり、VORgainがばらついている回転角速度とVORgainとの関係を示すグラフである。
図13A図13Aは、実施例3におけるアーチファクトが多いけれど標準偏差が小さい例における回転角速度とVORgainとの関係を示すグラフである。
図13B図13Bは、実施例3におけるアーチファクトが少ないけれど標準偏差が小さい例における回転角速度とVORgainとの関係を示すグラフである。
図14A図14Aは、実施例3における図13Aを最小二乗法で線形フィッティングした場合の回転角速度とVORgainとの関係を示すグラフである。
図14B図14Bは、実施例3における図13Bを最小二乗法で線形フィッティングした場合の回転角速度とVORgainとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(解析システム及び解析方法)
本発明の解析システムは、第1の形態では、回転刺激による半規管の機能を解析するための解析システムであって、前庭動眼反射回転角量を頭位の回転角量で除した第1の前庭動眼反射データ、及び前記頭位の回転角量から少なくとも代償性眼球運動(CUS)に基づく回転角量を差し引いた残回転角量を前記頭位の回転角量で除した第2の前庭動眼反射データを取得する前庭動眼反射データ取得手段を有し、前記第2の前庭動眼反射データ、又は前記第1の前庭動眼反射データ及び前記第2の前庭動眼反射データに基づき、半規管の機能を解析する。
【0011】
本発明の解析システムは、第2の形態では、回転刺激による半規管の機能を解析するための解析システムであって、被験者の頭部に装着され、前記頭部を回動させた際の前記頭部の回転角速度データ及び前記被験者の眼の動きの回転角速度データを取得する回転角速度データ取得手段と、前記回転角速度データ取得手段が取得した、前記頭部の回転角速度データ及び前記眼の動きの回転角速度データに基づき、前記頭部を回動させている間の、前記頭部の回転角速度データの積分値をAとし、前記被験者の眼の代償性眼球運動(CUS)に基づく回転角速度データの積分値をCとしたとき、次式、VORgain(I)=(A-C)/A、を導出し、前記VORgain(I)の値に基づき半規管の機能を解析する解析手段と、を有し、更に必要に応じてその他の手段を有する。
【0012】
本発明の解析方法は、第1の形態では、回転刺激による半規管の機能を解析するための解析方法であって、前庭動眼反射回転角量を頭位の回転角量で除した第1の前庭動眼反射データ、及び前記頭位の回転角量から少なくとも代償性眼球運動(CUS)に基づく回転角量を差し引いた残回転角量を前記頭位の回転角量で除した第2の前庭動眼反射データを取得する前庭動眼反射データ取得工程を含み、前記第2の前庭動眼反射データ、又は前記第1の前庭動眼反射データ及び前記第2の前庭動眼反射データに基づき、半規管の機能を解析する。
【0013】
本発明の解析方法は、第2の形態では、回転刺激による半規管の機能を解析するための解析方法であって、被験者の頭部に装着され、前記頭部を回動させた際の前記頭部の回転角速度データ及び前記被験者の眼の動きの回転角速度データを取得する回転角速度データ取得工程と、前記回転角速度データ取得工程において取得した、前記頭部の回転角速度データ及び前記眼の動きの回転角速度データに基づき、前記頭部を回動させている間の、前記頭部の回転角速度のデータの積分値をAとし、前記被験者の眼の代償性眼球運動(CUS)に基づく回転角速度データの積分値をCとしたとき、次式、VORgain(I)=(A-C)/A、を導出し、前記VORgain(I)の値に基づき半規管の機能を解析する解析工程と、
を含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0014】
本発明の第1及び第2の形態の解析方法は、本発明の第1及び第2の形態の解析システムにより好適に実施することができ、前庭動眼反射データ取得工程は前庭動眼反射データ取得手段により行うことができ、回転角速度データ取得工程は回転角速度データ取得手段により行うことができ、解析工程は解析手段により行うことができ、その他の工程はその他の手段により行うことができる。
【0015】
本発明の第1及び第2の形態の解析システム及び解析方法は、回転刺激による半規管の機能を解析するための解析システム及び解析方法である。
【0016】
前記半規管は、ヒトを含む脊索動物のほとんどは半規管を3つ持っているため、三半規管と呼ばれる。前記三半規管は平衡感覚(回転加速度)を司る器官であり、内耳の前庭につながっている、半円形をしたチューブ状の3つの半規管の総称である。
【0017】
前記回転刺激における半規管の機能を検査する方法としては、Head Impulse Test(HIT)と、video Head Impulse Test(vHIT)とがある。
【0018】
前記HITは、まず、検者は被験者と正対するように座り、被験者に検者の指標(鼻先)を見続けるよう指示する。次に、検者は被験者の側頭部を両手でしっかり把持し、速く・小さく回転させるhead impulse(HI)刺激を与える。健常者にHI刺激を与えると、前庭動眼反射(VOR)の働きにより指標(鼻先)を見続けることができる。しかし、半規管機能低下例の患側方向へHI刺激を与えると、VORが充分働かないために指標を見続けることができず、急速眼球運動(CUS)が刺激開始から約200msec後に出現する。HITでは左右3回ずつHI刺激を与え、2回以上CUSを肉眼で確認できた場合、半規管機能低下があると判定する。
前記HITは、温度刺激によるカロリックテストに比べて患者への侵襲が少なく、短時間で行える上、生理的な刺激条件で検査できるという長所を有する。一方、前記HITは、肉眼で診断するため主観が入る、肉眼では見ることができないCUSが出現するタイプの半規管機能低下を診断できない、半規管機能の定量的な評価ができないという課題がある。
【0019】
前記vHITは、上記HITにおける課題を改善したものであり、検査中の頭位と眼位の角速度を同時に記録するため、vHIT専用装置が必要である。前記vHIT専用装置としては、高速カメラとセンサーとを内蔵した専用ゴーグルを頭部に装着するタイプのvHIT専用装置として、例えば、Natus社製のICS Impulse、Interacoustic社製のEye See Camなどが挙げられる。
【0020】
<前庭動眼反射データ取得工程及び前庭動眼反射データ取得手段>
前庭動眼反射データ取得工程は、前庭動眼反射回転角量を頭位の回転角量で除した第1の前庭動眼反射データ、及び前記頭位の回転角量から少なくとも代償性眼球運動(CUS)に基づく回転角量を差し引いた残回転角量を前記頭位の回転角量で除した第2の前庭動眼反射データを取得する工程であり、前庭動眼反射データ取得手段により実施される。
本発明の第1の形態の解析システム及び解析方法においては、前記第2の前庭動眼反射データ、又は前記第1の前庭動眼反射データ及び前記第2の前庭動眼反射データに基づき、半規管の機能を解析する。
【0021】
前記第2の前庭動眼反射データは、前記頭位の回転角量から少なくとも代償性眼球運動(CUS)に基づく回転角量を差し引いた残回転角量を前記頭位の回転角量で除したデータであり、例えば、VOR時の頭位の回転角速度からCUSの回転角速度を減算するデータなどが挙げられる。即ち、第2の前庭動眼反射データは間接法により取得されるデータである。
具体的には、前記第2の前庭動眼反射データは、被験者の頭部に装着され、前記頭部を回動させた際の前記頭部の回転角速度データ及び前記被験者の眼の動きの回転角速度データを取得する回転角速度データ取得手段により取得した、前記頭部の回転角速度データ及び前記眼の動きの回転角速度データに基づき、前記頭部を回動させている間の、前記頭部の回転角速度データの積分値をAとし、前記被験者の眼の代償性眼球運動(CUS)に基づく回転角速度データの積分値をCとしたとき、次式、VORgain(I)=(A-C)/A、により導出した前記VORgain(I)の値であることが好ましい。
【0022】
前記第1の前庭動眼反射データは、前庭動眼反射回転角量を頭位の回転角量で除したデータであり、例えば、VOR中の頭位と眼位の角速度をそれぞれ積分した角度の比、又はVOR開始から任意の時間における頭位と眼位の角速度比などが挙げられる。即ち、第1の前庭動眼反射データは直接法により取得されるデータである。
具体的には、前記第1の前庭動眼反射データは、前記回転角速度データ取得手段により取得した、前記頭部の回転角速度データ及び前記眼の動きの回転角速度データに基づき、前記頭部を回動させている間の、前記頭部の回転角速度データの積分値をAとし、前記眼の動きの回転角速度データの積分値をBとしたとき、次式、VORgain(D)=B/A、により導出した前記VORgain(D)の値であることが好ましい。
【0023】
<回転角速度データ取得工程及び回転角速度データ取得手段>
前記データ取得工程は、被験者の頭部に装着され、前記頭部を回動させた際の前記頭部の回転角速度データ及び前記被験者の眼の動きの回転角速度データを取得する工程であり、データ取得手段により実施される。
【0024】
前記回転角速度データ取得手段は、前記頭部の回動に係る角速度データを収集するセンサーと、前記被験者の眼の動きを撮影するカメラと、を備えており、更に必要に応じてその他の部材を備えている。
【0025】
前記センサーは、前記頭部を回動させた際の前記頭部の動き(角速度)を検知し、例えば、加速度センサー、ジャイロセンサー、モーションセンサー(ジャイロセンサーと加速度センサーと磁気センサーで構成)などが挙げられる。前記モーションセンサーを用いると、被験者の頭部を動かした時の方向、方角、及び速度を計測することができる。
【0026】
前記カメラは、前記頭部を回動させた際の前記被験者の眼の動きを検知し、例えば、赤外線CCDカメラなどが挙げられる。前記赤外線CCDカメラは、ゴーグルの右眼側に設けられており、被験者の瞳孔画像をリアルタイムで撮影することで計測を行う。1秒間に最大250コマの画像を取り込み、眼球運動を検出する。
前記センサー及び前記カメラは、被験者の頭部に装着するゴーグルに搭載されている。
前記ゴーグルは、軽量であり、フェイスクッションが取り付けられており、ゴーグルを頭部に確実に装着することができる。
【0027】
前記その他の部材としては、レーザーモジュールなどが挙げられる。
前記レーザーモジュールは、ゴーグルに搭載されており、水平3方向(左、中央、右)にレーザー光を照射することができ、壁又はスクリーンに投射し、測定を始める前の較正及び測定中の注視指標として使用する。
【0028】
<解析工程及び解析手段>
前記解析工程は、前記回転角速度データ取得工程において取得した、前記頭部の回転角速度データ及び前記眼の動きの回転角速度データに基づき、前記頭部を回動させている間の、前記頭部の回転角速度のデータの積分値をAとし、前記被験者の眼の代償性眼球運動(CUS)に基づく回転角速度データの積分値をCとしたとき、次式、VORgain(I)=(A-C)/A、を導出し、前記VORgain(I)の値に基づき半規管の機能を解析する工程であり、解析手段により実施される。
前記Aのデータ値が積分値であり、前記Cのデータ値が複数の積分値の合計積分値である。
前記データ解析手段としては、具体的には、解析用プログラムがインストールされたノート型パソコンである。
【0029】
本発明においては、VOR時の頭位及び眼位の角速度を直接計算に用いる直接法、即ち、頭部を回動させている間の、前記頭部における所定位置の回転角速度のデータ値をAとし、前記被験者の眼の所定位置の回転角速度のデータ値をBとしたとき、次式、VORgain(D)=B/A、によりVORgain(D)を計算する直接法ではなく、VOR時の頭位の回転角速度からCUSの回転角速度を減算する間接法、即ち、頭部を回動させている間の、前記頭部における所定位置の回転角速度のデータ値をAとし、前記被験者の眼の所定位置についての代償性眼球運動(CUS)のデータ値をCとしたとき、次式、VORgain(I)=(A-C)/A、によりVORgain(I)を計算する間接法を採用する。
前記Aのデータ値が積分値であり、前記Cのデータ値が複数の積分値の合計積分値である。
前記間接法によると、スリップ等のアーチファクトの影響を受けないVORgain(I)が得られるので、検査精度が飛躍的に向上する。
【0030】
ここで、前記vHITにおける、VORgainの測定方法について図面を参照して説明する。
vHIT専用装置としては、高速カメラとセンサーとを内蔵した専用ゴーグルを頭部に装着するタイプのvHIT専用装置(Natus社製のICS Impulse)を用いて測定を行った。
前記vHITは、まず、被験者を壁から約1m~1.5m離れた椅子に座らせ、壁を正面視できる高さに指標を設置する。被験者はvHIT用のゴーグルを装着する。次に、関心領域(ROI)の設定を行う。被験者が指標を正面視している状態で、瞳孔が中心にくるように関心領域の位置を調節する。次に、水平方向のキャリブレーションを行う。検者は被験者の後ろに立ち、頭部又は顎を両手でしっかり把持する。次に、被験者に前記指標を注視するよう指示し、水平方向に被験者の頭部を約10度急速に回転させ、元に戻さずそのまま止める。回転刺激回数は、機種に応じて異なり特に制限されないが、通常20回である。
【0031】
上記のようにして、vHIT専用装置を用いてvHITの測定を行うと、図1に示すように、時間と角速度との関係を示すグラフが得られる。図1では、20回分のデータを重ね合わせており、その中の1回のHead Impulse(HI)刺激の結果を示したのが、太線で示す頭位と眼位の結果である。眼位には急速眼球運動(CUS)の2つのピークが出現している。
図1中、真のHI開始点(t=0)は1回のHI刺激の開始点であり、HI開始点(t’=0)は1回のHI刺激のアルゴリズム上の開始点である。HI終了は1回のHI刺激の終了点である。したがって、HI開始点(t’=0)からHI終了までを、1回のHI刺激で頭部を回動させている間とする。
なお、前記vHIT専用装置によるデータ解析では、計算アルゴリズムの関係で、真のHI開始点(t=0)ではなく、HI開始点(t’=0)を基準として回転角速度を求めているが、真のHI開始点(t=0)を基準として回転角速度を求めても同様な結果が得られる。
【0032】
次に、直接法によるVORgain(D)の求め方について説明する。
図2A及び図2Bに示すように、vHIT専用装置の回転角速度データ取得手段が取得した、頭部を回動させた際の前記頭部及び被験者の眼の動きのデータに基づき、前記頭部を回動させている間の、前記頭部における所定位置の回転角速度のデータ値をAとし、前記被験者の眼の所定位置の回転角速度のデータ値をBとしたとき、次式、VORgain(D)=B/A、を導出する。
ここで、1回のHI刺激におけるVORの頭位の回転角速度の算出は、回転角速度の積分が回転角度であるため、図2Aの太線で囲まれた範囲A、即ち、回転角速度が0の直線(下辺)と、HI開始点(t’=0)の直線(左辺)と、頭位のVOR(上面)と、HI終了時点(右辺)とで囲まれた範囲が頭位の回転角度となる。
一方、1回のHI刺激におけるVORの眼位の回転角速度Bの算出は、回転角速度の積分が回転角度であるため、図2Bの太線で囲まれた範囲B、即ち、回転角速度が0の直線(下辺)と、HI開始点(t’=0)の直線(左辺)と、眼位のVOR(上面)と、HI終了時点(右辺)とで囲まれた範囲が眼位の回転角度となる。なお、眼位に一定以上の角速度変化があるとアルゴリズムによりCUS(=C)と判定される。CUSはVORによる眼位の変化ではないので、VOR終了前に出現したCUSを差し引いて、眼位の回転角度を計算する。このCUSの差し引き計算は解析用プログラムにより自動的に行われる。
以上のようにして求めた回転角度A及びBから、次式、VORgain(D)=B/A、を導出し、20回測定の平均値を直接法でのVORgain(D)とする。以下、直接法(角度比)と称することもある。
なお、VOR開始点から任意の時間(例えば、60msec、100msec)における眼位と頭位の角速度の比からVORgain(D)を直接求めることもできる。以下、直接法(角速度比@60ms)、直接法(角速度比@100ms)と称することもある。
【0033】
次に、間接法によるVORgain(I)の求め方について説明する。
間接法の考え方として、指標を注視しつづけていれば、半規管機能の低下の有無にかかわらず、一定時間後には頭位と眼位の回転角度(回転角速度の積分値)は等しくなる、という仮説を立てることができる。
上記の仮設が正しい場合、図3に示すように、vHIT専用装置のデータ取得手段が取得した、頭部を回動させた際の前記頭部及び前記被験者の眼の動きのデータに基づき、前記頭部を回動させている間の、前記頭部における所定位置の回転角速度のデータ値をAとし、前記被験者の眼の所定位置についての代償性眼球運動(CUS)のデータ値をCとしたとき、回転角度A=B+Cの関係が成り立つので、B=A-Cから、次式、VORgain(I)=(A-C)/A、を導出することができる。
前記Aのデータ値が積分値であり、前記Cのデータ値が複数の積分値の合計積分値であることが好ましい。
前記Aのデータ値は、Head Impulse(HI)刺激における頭位の回転角度(回転角速度の積分値)である。
前記Cのデータ値は、複数のCUSの面積(回転角速度の積分値)である。代償性眼球運動(CUS)は、VOR終了前、VOR終了後の複数に出現するので、CUSの総面積をCとする。
したがって、1回のHI刺激中の眼位の積分値Bを用いず、VORを頭位の積分値からCUSの合計積分値を差し引き、計算する方法(間接法)を見出した。なお、代償性眼球運動(CUS)は、VOR終了前及びVOR終了後の複数に出現するので、CUSの総面積をCとする。
【0034】
前記解析手段が、前記VORgain(I)の値を複数取得し、複数取得した前記VORgain(I)の値に基づき近似線を導出し、前記近似線に基づき所定の回転角速度における前記VORgain(I)の値を導出する。なお、近似線には、近似直線又は近似曲線が含まれる。
回転刺激検査における回転角速度は、100°/sec~200°/secであることが好ましい。したがって、例えば、近似線から回転角速度150°/secにおけるVORgainを求めることができ、回転角速度の影響のないVORgain(I)が得ら、VORgain値の標準化が図れる。
前記近似線を導出方法としては、各種総計解析手法を用いることができ、例えば、最小二乗法などが挙げられる。
【0035】
前記解析手段が、前記VORgain(I)の値を複数取得し、複数取得した前記VORgain(I)の値に基づき近似線を導出し、前記近似線に基づき、前記複数取得した前記VORgain(I)の値のバラツキを導出する。これにより、検査精度の向上を図ることができる。
複数回vHIT検査を行うことによって、回転角速度とVORgainとの散布図が得られる。この散布図から、近似線を作成することによって、所定の回転角速度におけるVORgainを計算する
前記近似線を導出方法としては、各種総計解析手法を用いることができ、例えば、最小二乗法などが挙げられる。
前記バラツキとしては、例えば、標準偏差、標準誤差、分散、変動係数(CV)などが挙げられる。
【0036】
前記解析手段が、前記直接法で求めたVORgain(D)と前記間接法で求めたVORgain(I)との差の標準偏差を求め、解析することによって、アーチファクトの程度を把握することができるので、検査を適切な条件で行えたか否かを評価することができる。
また、複数の被験者について前記直接法で求めたVORgain(D)と前記間接法で求めたVORgain(I)とから、散布図を描き、相関係数を求め、患者データの解析を精密に行うこともできる。
【0037】
<その他の工程及びその他の手段>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、通信工程、入力工程などが挙げられる。
前記その他の手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、通信部、入力部などが挙げられる。
【0038】
前記通信部としては、複数の検査箇所などと通信可能なものであれば特に制限はなく、適宜公知のものを用いることができ、例えば、送受信機、情報通信ネットワーク、インターネットなどが挙げられる。
【0039】
前記入力部としては、本発明の第1及び第2の解析システムに対する各種要求を受け付けることができれば特に制限はなく、適宜公知のものを用いることができ、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、マイクなどが挙げられる。
【0040】
(解析用データ取得装置)
本発明の解析用データ取得装置は、回転刺激による半規管の機能を解析するために用いられ、頭部の回動に係る角速度データを収集するセンサーと、被験者の眼の動きを撮影するカメラとを備え、更に必要に応じてその他の手段を備えている。
【0041】
前記解析用データ取得装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ゴーグル式の解析用データ取得装置であることが好ましい。
前記ゴーグル式の解析用データ取得装置は、1秒間に最大250枚の高速撮影が可能なハイスピードカメラと、頭位情報を得るためのセンサーとを有する。
前記その他の手段としては、例えば、解析用ソフトウェア、パソコンなどが挙げられる。
前記解析用データ取得装置によると、持ち運びが容易なので、ベッドサイド及び外来でも手軽に検査を実施することができる。
【0042】
(解析用プログラム)
本発明の解析用プログラムは、第1の形態では、回転刺激による半規管の機能を解析するための解析用プログラムであって、前庭動眼反射回転角量を頭位の回転角量で除した第1の前庭動眼反射データ、及び前記頭位の回転角量から少なくとも代償性眼球運動(CUS)に基づく回転角量を差し引いた残回転角量を前記頭位の回転角量で除した第2の前庭動眼反射データを取得し、前記第2の前庭動眼反射データ、又は前記第1の前庭動眼反射データ及び前記第2の前庭動眼反射データに基づき、半規管の機能を解析する処理を、コンピューターに行わせる。
【0043】
本発明の解析用プログラムは、第2の形態では、回転刺激による半規管の機能を解析するための解析用プログラムであって、被験者の頭部を回動させた際の前記頭部の回転角速度データ及び前記被験者の眼の動きの回転角速度データを取得し、前記頭部の回転角速度データ及び前記眼の動きの回転角速度データに基づき、前記頭部を回動させている間の、前記頭部の回転角速度データの積分値をAとし、前記被験者の眼の代償性眼球運動(CUS)に基づく回転角速度データの積分値をCとしたとき、次式、VORgain(I)=(A-C)/A、を導出し、前記VORgain(I)の値に基づき半規管の機能を解析する処理を、コンピューターに行わせる。
【0044】
本発明の第1及び第2の形態の解析用プログラムは、例えば、本発明の第1及び第2の形態の解析方法をコンピューターに実行させるプログラムとすることができる。また、本発明の第1及び第2の形態の解析用プログラムにおける好適な態様は、例えば、本発明の第1及び第2の形態の解析方法における好適な態様と同様にすることができる。
【0045】
本発明の第1及び第2の形態の解析用プログラムは、使用するコンピューターシステムの構成及びオペレーティングシステムの種類・バージョンなどに応じて、公知の各種のプログラム言語を用いて作成することができる。
【0046】
本発明の第1及び第2の形態の解析用プログラムは、内蔵ハードディスク、外付けハードディスクなどの記録媒体に記録しておいてもよいし、CD-ROM、DVD-ROM、MOディスク、USBメモリなどの記録媒体に記録しておいてもよい。
更に、本発明の第1及び第2の形態の解析用プログラムを、上記の記録媒体に記録する場合には、必要に応じて、コンピューターシステムが有する記録媒体読取装置を通じて、これを直接又はハードディスクにインストールして使用することができる。また、コンピューターシステムから情報通信ネットワークを通じてアクセス可能な外部記憶領域(他のコンピューターなど)に本発明の第1及び第2の形態の解析用プログラムを記録しておいてもよい。この場合、外部記憶領域に記録された本発明の第1及び第2の形態の解析用プログラムは、必要に応じて、外部記憶領域から情報通信ネットワークを通じてこれを直接、又はハードディスクにインストールして使用することができる。
なお、本発明の第1及び第2の形態の解析用プログラムは、複数の記録媒体に、任意の処理毎に分割されて記録されていてもよい。
【0047】
<コンピューターが読み取り可能な記録媒体>
本発明に関するコンピューターが読み取り可能な記録媒体は、本発明の解析用プログラムを記録してなる。
本発明に関するコンピューターが読み取り可能な記録媒体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、内蔵ハードディスク、外付けハードディスク、CD-ROM、DVD-ROM、MOディスク、USBメモリなどが挙げられる。
また、本発明に関するコンピューターが読み取り可能な記録媒体は、本発明の解析用プログラムが任意の処理毎に分割されて記録された複数の記録媒体であってもよい。
【0048】
以下では、装置の構成例及びフローチャートなどを用いて、本発明で開示する技術の一例を更に詳細に説明する。
図4に、本発明の解析システムのハードウェア構成例を示す。
この図4に示す本発明の解析システム100においては、例えば、制御部101、主記憶装置102、補助記憶装置103、I/Oインターフェイス104、通信インターフェイス105、入力装置106、出力装置107、表示装置108が、システムバス109を介して接続されている。
【0049】
制御部101は、演算(四則演算、比較演算等)、ハードウェア及びソフトウェアの動作制御などを行う。制御部101としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)であってもよいし、本発明の解析システムに用いるマシンの一部であってもよく、これらの組み合わせでもよい。
制御部101は、例えば、主記憶装置102などに読み込まれたプログラム(例えば、本発明の解析用プログラムなど)を実行することにより、種々の機能を実現する。
本発明の解析システムにおける制御機能部が行う処理は、例えば、制御部101により行うことができる。
【0050】
主記憶装置102は、各種プログラムを記憶するとともに、各種プログラムを実行するために必要なデータ等を記憶する。主記憶装置102としては、例えば、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)の少なくともいずれかを有するものを用いることができる。
ROMは、例えば、BIOS(Basic Input/Output System)などの各種プログラムなどを記憶する。また、ROMとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)などが挙げられる。
RAMは、例えば、ROM、補助記憶装置103などに記憶された各種プログラムが、制御部101により実行される際に展開される作業範囲として機能する。RAMとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)などが挙げられる。
【0051】
補助記憶装置103としては、各種情報を記憶できれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ソリッドステートドライブ(SSD)、ハードディスクドライブ(HDD)などが挙げられる。また、補助記憶装置103は、CDドライブ、DVDドライブ、BD(Blu-ray(登録商標) Disc)ドライブなどの可搬記憶装置としてもよい。
また、本発明の解析用プログラムは、例えば、補助記憶装置103に格納され、主記憶装置102のRAM(主メモリ)にロードされ、制御部101により実行される。
【0052】
I/Oインターフェイス104は、各種の外部装置を接続するためのインターフェイスである。I/Oインターフェイス104は、例えば、CD-ROM(Compact Disc ROM)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk ROM)、MOディスク(Magneto-Optical disk)、USBメモリ〔USB(Universal Serial Bus) flash drive〕などのデータの入出力を可能にする。
【0053】
通信インターフェイス105としては、特に制限はなく、適宜公知のものを用いることができ、例えば、無線又は有線を用いた通信デバイスなどが挙げられる。
【0054】
入力装置106としては、本発明の解析システム100に対する各種要求や情報の入力を受け付けることができれば特に制限はなく、適宜公知のものを用いることができ、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、マイクなどが挙げられる。また、入力装置106がタッチパネル(タッチディスプレイ)である場合は、入力装置106が表示装置108を兼ねることができる。
【0055】
出力装置107としては、特に制限はなく、適宜公知のものを用いることができ、例えば、プリンタなどが挙げられる。
表示装置108としては、特に制限はなく、適宜公知のものを用いることができ、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどが挙げられる。
【0056】
図5に、本発明の解析システムの機能構成例を示す。
図5に示すように、本発明の解析システム100は、通信機能部120と、入力機能部130と、出力機能部140と、表示機能部150と、記憶機能部160と、制御機能部170とを備える。
【0057】
通信機能部120は、例えば、各種のデータを外部の装置と送受信する。通信機能部120は、例えば、外部の装置から、被験者の頭部及び眼の動きのデータ等のデータを受信してもよい。
入力機能部130は、例えば、本発明の解析システム100に対する各種指示を受け付ける。また、入力機能部130は、例えば、被験者の属性等の情報を受け付ける。
出力機能部140は、例えば、直接法と間接法のVORgain、標準偏差などの測定結果などをプリントアウトする。
表示機能部150は、例えば、直接法と間接法のVORgain、標準偏差などの測定結果をディスプレイに表示する。
【0058】
記憶機能部160は、例えば、各種プログラムを記憶すると共に、測定データ用DB161と、算出結果用DB162とを有する。
【0059】
制御機能部170は、データ取得部171とデータ解析部172とを有する。制御機能部170は、例えば、記憶機能部160に記憶された各種プログラムを実行するとともに、本発明の解析システム100全体の動作を制御する。
データ取得部171は、例えば、被験者の頭部を回動させた際の前記頭部及び前記被験者の眼の動きのデータを取得する処理を行う。
データ解析部172は、例えば、前記データに基づき、前記頭部を回動させている間の、前記頭部における所定位置の回転角度のデータ値をAとし、前記被験者の眼の所定位置についての代償性眼球運動(CUS)のデータ値をCとしたとき、次式、VORgain(I)=(A-C)/A、を解析する処理を行う。
【0060】
ここで、図6は、本発明の解析方法における処理の流れの一例を示すフローチャートである。以下、図5を参照して、本発明の解析方法の処理の流れについて説明する。
【0061】
ステップS101では、解析システム100の制御機能部170におけるデータ取得部171は、被験者の頭部を回動させた際の前記頭部及び前記被験者の眼の動きのデータを取得すると、処理をS102に移行する。
【0062】
ステップS102では、解析システム100の制御機能部170におけるデータ解析部172は、前記データに基づき、前記頭部を回動させている間の、前記頭部における所定位置の回転角度のデータ値A、前記被験者の眼の所定位置についての代償性眼球運動(CUS)のデータ値Cを算出すると、処理をS103に移行する。
【0063】
ステップS103では、解析システム100の制御機能部170におけるデータ解析部172は、前記データ値A及びCから、次式、VORgain(I)=(A-C)/A、を求めると、本処理を終了する。
【0064】
本発明の解析用プログラムを用いた本発明の解析方法及び解析システムによると、スリップ等のアーチファクトの影響がなく、検査精度が向上し、半規管機能の解析を正確かつ精密に行うことができる。
【実施例
【0065】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
以下の実施例において、回帰直線の定義式における<ピーク角速度とVORgainの散布図上の回帰直線の式>、<各項目及び各計算式の定義>、及び<標準偏差と標準誤差>は以下に示すとおりである。
【0066】
<ピーク角速度とVORgainの散布図上の回帰直線の式>
【0067】
<各項目及び各計算式の定義>
【0068】
<標準偏差と標準誤差>
【0069】
(実施例1)
直接法と間接法において、一側半規管機能低下患者におけるスリップアーチファクトの有無によるVORgain値に対する影響について確認した。
vHIT専用装置としては、本発明の解析用プログラムをインストールした高速カメラとセンサーとを内蔵した専用ゴーグルを頭部に装着するタイプのvHIT専用装置(Natus社製のICS Impulse)を用いて、直接法(角度比)、直接法(角速度比@60ms)、及び間接法のVORgainを測定した。なお、直接法(角速度比@60ms)のVORgain値は、VOR開始点から60msecにおける眼位と頭位の角速度の比から直接求めたものである。なお、本発明の解析用プログラムをインストールしたNatus社製のICS Impulseは直接法と間接法によりVORgainを求めることができる。
【0070】
図7に示すように、スリップアーチファクトの無い条件では、直接法(角度比)のVORgainは0.49、直接法(角速度比@60ms)のVORgainは0.50、間接法のVORgainは0.49であり、直接法と間接法との間には差は認められなかった。
一方、図7と同一の一側半規管機能低下患者に意図的にスリップアーチファクトを生じさせ、上記と同様にして、直接法と間接法により、VORgainをそれぞれ測定した。具体的には、検者の手がゴーグルに触れた状態でヘッドインパルス刺激を行うと、刺激がゴーグルに直に伝わるため、スリップアーチファクトが大きくでてしまう。つまりスリップアーチファクトが無い適切な検査を行うには、なるべくゴーグルから離れた箇所を把持して検査を行う必要がある。今回は、敢て、スリップアーチファクトが出現するよう、検者が被験者の頭を把持する際、ゴーグルのバンドも一緒に把持しながら検査を行った。結果を図8に示した。
【0071】
図8の結果から、直接法(角度比)のVORgainは0.71、直接法(角速度比@60ms)のVORgainは0.97、間接法のVORgainは0.51である。
スリップアーチファクトによって、直接法(角度比)では、VORgainが0.49から0.71に0.22上昇し、直接法(角速度比@60ms)では、VORgainが0.50から0.97に0.47上昇するのに対して、間接法はスリップアーチファクトによって、VORgainが0.49から0.51に0.02上昇するだけであった。
以上の結果から、間接法は直接法に比べて、スリップアーチファクトの影響を受けないことがわかった。このことから、間接法によると正確な半規管機能検査が可能となり、間接法に比べて検査精度が飛躍的に向上することがわかった。
【0072】
(実施例2)
半規管機能が正常な健常者及び半規管機能低下の患者において、回転刺激時の回転角速度とVORgain値の関係について確認した。
実施例1と同様に、本発明の解析用プログラムをインストールしているNatus社製のICS Impulseを用いて、間接法により回転刺激時の回転角速度とVORgain(I)の値との関係を求めた。
図9Aに示すように、半規管機能が正常な健常者は回転角速度が変化しても変化は小さく、回転角速度が100°/sec~200°/secの範囲ではVORgain(I)の値は約1.0で一定であった。
一方、図9Bに示すように、一側前庭機能低下の患者は、回転刺激時の回転角速度が速くなるほどVORgain(I)の値が低下し、回転角速度が100°/secのVORgain(I)の値は0.9であり、回転角速度が200°/secのVORgain(I)の値は0.4に低下してしまう。このように、一側前庭機能低下の患者では、回転刺激時の回転角速度によってVORgain(I)の値を意図的に変化させることができるので、正確な検査ができないおそれがある。
【0073】
また、図10は、左側前庭機能低下の患者において、回転刺激時の回転角速度の変化に伴って、VORgainが変化する例を示した。
図10の下図の左側の眼では、90°/secの低速の回転角速度で回転刺激した場合にはVORgainは0.67であり、175°/secの高速の回転角速度で回転刺激した場合にはVORgainは0.32であり、回転角速度の差は0.35と大きくなることがわかった。なお、図10中×は平均値を示す。
【0074】
そこで、図11に示すようにVORgain(I)の値を複数(異なる回転角速度で8個以上)取得し、複数取得した前記VORgain(I)の値に基づき最小二乗法で近似線を導出し、前記近似線に基づき所定の回転角速度における前記VORgain(I)の値を求めた。例えば、図11では回転角速度が150°/secにおけるVORgainは0.40となる。なお、近似線には、近似直線又は近似曲線が含まれる。
したがって、例えば、近似線から回転角速度150°/secにおけるVORgainを求めることができ、回転角速度の影響の少ないVORgain(I)が得られ、VORgain値の標準化が図れる。
なお、上記最小二乗法による近似線は、上記式(10)、式(12)、及び式(14)により求めることができる。
【0075】
(実施例3)
本発明の解析用プログラムをインストールしているNatus社製のICS Impulseにおいて、検査精度を評価する項目としてVORgainの左右20回ずつ回転刺激を与えて測定した標準偏差(σ)である。なお、標準偏差(σ)は、上記式(16)により求めた値である。
図12Aは、ノイズアーチファクトが少ない例を示し、VORgainがほぼ一定であり、標準偏差(σ)が0.02である。一方、図12Bは、ノイズアーチファクトが多い例であり、VORgainがばらついており、標準偏差(σ)が0.24である。
このように図12A及び図12Bに示すように、左右20回ずつ回転刺激を与えて測定した標準偏差(σ)によって検査精度を評価することができる。
しかし、図13Aに示すように、ノイズアーチファクトが多くても、標準偏差(σ)が0.08と小さくなり、図13Bに示すように、ノイズアーチファクトが少ない場合でも、標準偏差(σ)が0.10と大きくなることがある。したがって、VORgainの標準偏差(σ)だけでは検査精度を正確に評価できないという問題がある。
そこで、図14A及び図14Bに示すように、図13A及び図13Bの結果を最小二乗法で線形フィッティングし近似線を求め、近似線から精度を計算することにより、表1に示すように、検査精度を向上させることができる。なお、近似線には、近似直線又は近似曲線が含まれる。
なお、上記最小二乗法で線形フィッティングした近似線は、上記式(10)、式(12)、及び式(14)により求めることができる。また、図14Bの散布図の偏差を意味する矢印の向きに合わせた計算は、上記式(19)及び式(20)により行った。
【0076】
【表1】
【0077】
(実施例4)
スリップアーチファクトの無い患者A、スリップアーチファクトのある患者B、及び毎回一定の割合でスリップアーチファクトが発生する患者Cについて、実施例1と同様にして、本発明の解析用プログラムをインストールしているNatus社製のICS Impulseを用いて検査を行い、それぞれ直接法(角度比)と直接法(角速度比@60ms)と間接法でVORgainを求め、両者の差を算出し、直接法(角度比)と間接法の差の絶対値、直接法(角速度比@60ms)と間接法の差の絶対値の平均と標準偏差(σ)を求めた。患者Aの結果(検査回数10回)を表2、患者Bの結果(検査回数8回)を表3、患者Cの結果(検査回数10回)を表4にそれぞれ示した。なお、標準偏差(σ)は、上記式(16)により求めた値である。
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】
表2の結果から、スリップアーチファクトの無い患者Aは、直接法(角度比)、間接法、直接法(角度比)と間接法の差の絶対値はいずれも標準偏差が小さく、直接法(角度比)と間接法の差の平均も小さいことがわかった。
表3の結果から、スリップアーチファクトのある患者Bは、直接法(角度比)、直接法(角度比)と間接法の差の絶対値はいずれも標準偏差が大きいが、間接法の標準偏差は小さい。また直接法(角度比)と間接法の差の平均は大きいことがわかった。
表4の結果から、毎回一定の割合でスリップアーチファクトが発生する患者Cは、直接法(角度比)、間接法、直接法(角度比)と間接法の差の絶対値はいずれも標準偏差が小さいが、直接法(角度比)と間接法の差の平均は大きいことがわかった。
したがって、直接法と間接法を併用し、両者の差の絶対値の平均及び標準偏差を求めることにより、様々な程度のアーチファクトに対応して適切に検査精度を評価することができることから、従来に比べて検査精度を飛躍的に向上できることがわかった。
【0082】
(実施例5)
症例1~症例3の患者について、実施例1と同様にして、本発明の解析用プログラムをインストールしているNatus社製のICS Impulseを用い、直接法(角度比)と直接法(角速度比@60ms)と間接法でVORgainを求め、両者の差を算出し、直接法(角度比)と間接法の差の絶対値、直接法(角速度比@60ms)と間接法の差の絶対値の平均と標準偏差(σ)をそれぞれ求めた。結果を以下に示した。
【0083】
<症例1>
【表5】
【0084】
<症例2>
【表6】
【0085】
<症例3>
【表7】
【0086】
症例1~3の結果から、直接法(角速度比@60ms)はスリップアーチファクトなしでも標準偏差が大きくデータがばらつきやすいことがわかる。このことから、直接法(角速度比@60ms)は直接法(角度比)に比べて安定性に欠けるパラメータであることがわかる。
症例1及び2の結果から、スリップアーチファクトがあると、直接法のVORgain(角度比、角速度比@60ms)はいずれも標準偏差が大きくなりやすいことがわかる。例外として、症例3はスリップ量が安定しているので標準偏差は小さめである。
症例1~3の結果から、直接法と間接法の差はスリップアーチファクトなしに比べて、スリップアーチファクトありにおいて平均及び標準偏差がいずれも大きくなることがわかる。
症例1~3の結果から、スリップ量が毎回同じ程度で発生する場合、直接法と間接法のVORgain差の標準偏差は必ずしも大きくならないことがわかる。このことから、検査精度を最も良く推定することができるパラメータは直接法(角度比)と間接法のVORgainの差の平均であると考えられる。
症例1~3の結果から、間接法のVORgainはスリップアーチファクトの有無にかかわらず、平均及び標準偏差のいずれも安定していることがわかる。
【符号の説明】
【0087】
100 解析システム
101 制御部
102 主記憶装置
103 補助記憶装置
104 I/Oインターフェイス
105 通信インターフェイス
106 入力装置
107 出力装置
108 表示装置

図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12A
図12B
図13A
図13B
図14A
図14B