(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】炭素繊維強化プラスチック板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20240902BHJP
B29B 11/16 20060101ALI20240902BHJP
B29K 61/04 20060101ALN20240902BHJP
【FI】
C08J5/04 CEZ
B29B11/16
B29K61:04
(21)【出願番号】P 2023564971
(86)(22)【出願日】2022-11-28
(86)【国際出願番号】 JP2022043820
(87)【国際公開番号】W WO2023100820
(87)【国際公開日】2023-06-08
【審査請求日】2024-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2021205551
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022157130
(32)【優先日】2022-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511299953
【氏名又は名称】グラストップ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 雄太
(72)【発明者】
【氏名】牧野 佑耶
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 和良
(72)【発明者】
【氏名】松吉 恭裕
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-055717(JP,A)
【文献】特開2017-186401(JP,A)
【文献】特開2005-163011(JP,A)
【文献】特開2020-143228(JP,A)
【文献】国際公開第2015/182366(WO,A1)
【文献】特開2018-171724(JP,A)
【文献】特開平08-157690(JP,A)
【文献】特開2017-160559(JP,A)
【文献】特開平02-064132(JP,A)
【文献】特開2018-145222(JP,A)
【文献】特開2010-274514(JP,A)
【文献】特開2012-180413(JP,A)
【文献】国際公開第2014/021366(WO,A1)
【文献】特開2001-335644(JP,A)
【文献】特開2020-084378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04- 5/10、 5/24
B29B 11/16、 15/08- 15/14
B25B 13/00- 19/00
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
B29C 70/00- 70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂と、
10mm~15mmの範囲の繊維長さである一種類もしくは二種類以上の炭素繊維と、
バインダであるアラミド繊維と、
を含む抄造体によって形成され、製品の形状に打ち抜かれた形状の素形材を複数重ねており、
曲げ強度が500MPa以上である炭素繊維強化プラスチック板。
【請求項2】
前記炭素繊維は、10mmの繊維長さ、及び15mmの繊維長さの二種類である請求項1に記載の炭素繊維強化プラスチック板。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか一項に記載の炭素繊維強化プラスチック板を製造する製造方法であって、
熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂、10mm~15mmの範囲の繊維長さである一種類もしくは二種類以上の炭素繊維、及びアラミド繊維のそれぞれを材料とし、これら材料の割合をフェノール樹脂50wt%、炭素繊維45wt%、及びアラミド繊維5wt%にして容器内の水に分散混合し、抄造枠内で抄造し、前記抄造枠内の抄造された混合液を枠内脱水し、脱水後の残渣を乾燥して素形材を形成した後、前記素形材をトムソン刃で打ち抜き、打ち抜いた前記素形材を乾燥させてプレス機により加熱成形する炭素繊維強化プラスチック板の製造方法。
【請求項4】
前記炭素繊維は、10mmの繊維長さである炭素繊維22.5wt%、及び15mmの繊維長さである炭素繊維22.5wt%である請求項3に記載の炭素繊維強化プラスチック板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化プラスチック板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
厚板の炭素繊維強化プラスチック(以下、「CFRP」と称する。)製の切削加工用のプレートは、超硬切削工具により金属と同じように高精度加工が可能である。CFRP製の板(以下、「CFRP板」と称する。)は、金属の価格高騰や入手の困難性により、その需要が高まっている。しかし、CFRP板は、金属を補完しようとしても強度の面で十分なものではなかった。
【0003】
炭素繊維の廃材は、国内航空機メーカーの1社で70t/年排出されている。このため、炭素繊維の廃材の利用方法の開発が喫緊の課題である。炭素繊維の廃材のリサイクルにおいて乾熱ローラーを使用すると、ローラーとの接触で糸切れが生じて毛羽が発生し得るため、炭素繊維の品質低下を招くおそれがある。また、炭素繊維の廃材のリサイクルは、樹脂を除去する工程が必要になる等、熱処理の工程が追加されることにより、工程が煩雑化する。このため、炭素繊維の廃材をリサイクルしたリサイクル炭素繊維は、高価である。一方、炭素繊維の利用分野は、多くが不織布として緩衝材や防音材等に利用するものであるため、高価なリサイクル炭素繊維は利用されにくい。樹脂を含浸していないリサイクル炭素繊維は、付加価値の高い防爆工具へ利用すれば、リサイクル炭素繊維の有効な利用ばかりでなく軽量化の効果も期待できる。
【0004】
リサイクル炭素繊維で満足のいく強度実現は、リサイクル炭素繊維の利用促進のための喫緊の課題である。今まで、金属並みの強度を有するCFRP板を製造することができる炭素繊維の選定はなされていない。発明者等は、抄造法と組み合わせることで金属並みの強度を有するCFRP板を製造することができることが分かった。発明者等は、抄造法を利用して金属並みの強度を有するCFRP板を製造するに当り、溶解法によるリサイクル炭素繊維が利用できると考えた。しかし、溶解法によるリサイクル炭素繊維を製造するメーカーは、リサイクル炭素繊維が不織布として緩衝材や防音材への利用しかなく、リサイクル炭素繊維の価格が高価であることから利用が進まず、溶解法による設備投資が思うように進められていない。このため、発明者等は、溶解法によるリサイクル炭素繊維が入手困難であることが分かった。リサイクル炭素繊維の製造量を多くし、リサイクル炭素繊維を入手しやすくためには、リサイクル炭素繊維の新たな用途開発が急務であることに他ならない。
【0005】
実用新案登録第3225768号(特許文献1)は、金属から樹脂化による軽量化に関して、炭素繊維強化熱可塑性樹脂により形成した工具を開示している。炭素繊維強化熱可塑性樹脂により形成した工具は、熱可塑性樹脂を使用するため、やや強度不足である。
【0006】
特許第2907679号(特許文献2)は、ガラス繊維により補強された熱硬化性樹脂により形成した工具を開示している。また、特許文献2は、従来例として炭素繊維エポキシ布地で覆われた外部表面を持つ工具も開示している。しかし、この工具は、金属製の類似品の持つトルクの40%以下の強度しかないとされており、利用が特定されてしまう。
【0007】
特許第7005557号(特許文献3)は、CFRP板及びその製造方法を開示している。このCFRP板及びその製造方法は、加工性、加工後の平滑性、及び強度を満足することができるが、製造工程が複雑であり、さらなる強度が必要な場合には対応が困難と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】実用新案登録第3225768号公報
【文献】特許第2907679号公報
【文献】特許第7005557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的とするところは、期待される強度を実現するCFRP板及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の炭素繊維強化プラスチック板は、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂と、10mm~15mmの範囲の繊維長さである一種類もしくは二種類以上の炭素繊維と、バインダであるアラミド繊維と、を含む抄造体を素形材として形成されている。
【0011】
本発明の炭素繊維強化プラスチック板の炭素繊維は、10mmの繊維長さ、及び15mmの繊維長さの二種類であり得る。
【0012】
本発明の炭素繊維強化プラスチック板の製造方法は、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂、10mm~15mmの範囲の繊維長さである一種類もしくは二種類以上の炭素繊維、及びアラミド繊維のそれぞれを材料とし、これら材料の割合をフェノール樹脂50wt%、炭素繊維45wt%、及びアラミド繊維5wt%にして容器内の水に分散混合し、抄造枠内で抄造し、前記抄造枠内の抄造された混合液を枠内脱水し、脱水後の残渣を乾燥して素形材を形成した後、前記素形材をトムソン刃で打ち抜き、打ち抜いた前記素形材を乾燥させてプレス機により加熱成形する。
【0013】
本発明の炭素繊維強化プラスチック板の製造方法における炭素繊維は、10mmの繊維長さである炭素繊維22.5wt%、及び15mmの繊維長さである炭素繊維22.5wt%であり得る。
【0014】
抄造法によるリサイクル炭素繊維の金属並みの強度を有するCFRP板は無かった。本発明の炭素繊維強化プラスチック板の曲げ強度は、500MPa以上である。
【0015】
本発明における炭素繊維は、軽量且つ強度が求められる航空機や電気自動車に利用されているものである。この炭素繊維は、糸状であり、これを巻きつけて製品化のためのエポキシ樹脂を含浸させる前のカーボンロービング繊維であるとよい。この炭素繊維は、正規品を製造する過程で発生し、重量不足などによる最終段階の樹脂を含浸する前のロービングされた繊維や端材である。炭素繊維は、廃棄処理された炭素繊維を燃焼法や溶解法で樹脂を除去して回収されたリサイクル炭素繊維であってもよい。
【0016】
10mmの繊維長さ及び15mm繊維長さの異なる二種類の炭素繊維を利用すると、金属並みの強度を有するCFRP板が実現できた。このCFRP板は、曲げ強度500MPa以上である。この炭素繊維強化プラスチック板の強度確認のための一例として、7mm厚であり17mm口径のスパナを製造した。このスパナは、55N・mのトルクを実現し、一般的なボルト締め付けトルクの倍以上を達成した。参考として、一般的なボルト締付けトルクは24.5N・mである。
【0017】
材料全体の45wt%を炭素繊維とし、残りの50wt%をフェノール樹脂、5wt%をバインダとしてのアラミド繊維(商品名東レ製トワロン(登録商標))とした。炭素繊維は、10mmの繊維長さの炭素繊維を22.5wt%、15mmの繊維長さの炭素繊維22.5wt%にした。これら材料を利用して製造したCFRP板は、曲げ強度が約550MPa~約600MPaである。
【0018】
熱可塑性樹脂の射出成形品等である炭素繊維材は、リサイクル炭素繊維の繊維長さが、8mm~10mmである場合の強度が、最も良いといわれている。この炭素繊維材は、リサイクル炭素繊維の繊維長さがそれよりも短いと強度が出ない。また、リサイクル炭素繊維の繊維長さがそれより長いと、製品に炭素繊維が一部棘のような形で出るため使用できない。この炭素繊維材は、曲げ強度が450MPa~480MPa程度であり、CFRP板として強度不足のため利用できない。
【0019】
このことから500MPa以上の曲げ強度を実現するため、発明者等は、熱硬化性樹脂と炭素繊維の混合物を材料にして抄造法により製造するCFRP板における最適な炭素繊維の長さを解明することができた。
【0020】
本発明のCFRP板は、軽量かつ曲げ強度が鋼材並みのCFRP板を提供でき、その材料の特性から防爆仕様が提供できる。
【0021】
熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を含まない炭素繊維が抄造法に適しており、これら樹脂を燃焼法や溶解法により取り除いたリサイクル炭素繊維が利用できるため、環境への貢献は優れている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】実施例1のCFRP板の製造方法を示すフロー図である。
【
図3】比較例である繊維長さ9mmの炭素繊維を材料にして製造したCFRP板の工具の曲げ強度の試験結果を示す表である。
【
図4】実施例1のCFRP板の工具の曲げ強度の試験結果を示す表である。
【
図5】実施例2のCFRP板の工具の性能評価試験結果表である。
【
図6】実施例2のCFRP板の工具のトルク測定試験の要部拡大写真である。
【
図7】実施例2のCFRP板の工具のトルク測定試験の要部全体写真である。
【
図8】実施例2のCFRP板の工具の斜視図である。
【
図9】炭素繊維の繊維長さ別の曲げ強度の試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のCFRP板を具体化した実施例1について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
<実施例1>
実施例1のCFRP板は、
図1に示すように、5mm厚で、縦横の寸法が90mmと70mmの厚板である。CFRP板の形状は、金型の形状を変更してスパナやラチェトレンチなどの工具等にすることができる。また、金型とプレス機を変更することにより大きな工具も製造可能である。
【0025】
CFRP板の製造方法は、
図2に示すように、抄造法を利用する。この製造方法は、1.粉砕工程、2.混合工程、3.抄造工程、4.脱水プレス工程、5.乾燥工程、6.打ち抜き工程、及び7.プレス成形工程を有している。1.粉砕工程は、炭素繊維を所定の繊維長さにカットする。2.混合工程は、水の入った容器内にこれら炭素繊維、フェノール樹脂、及びアラミド繊維を入れて分散混合する。3.抄造工程は、混合液を抄造枠内で抄造する。4.脱水プレス工程は、抄造枠内の抄造された混合液を脱水し、脱水プレスによる素形材を成形する。5.乾燥工程は、素形材を乾燥させる。6.打ち抜き工程は、乾燥後の素形材を所望形状、例えば板材や工具の形状のトムソン刃により打ち抜く。7.プレス成形工程は、打抜かれた素形材を水分調整し、プレス機によりプレスして成形を完了する。CFRP板の材料は、フェノール樹脂、炭素繊維、及びアラミド繊維である。
【0026】
抄造工程における抄造方法は、一般的に知られた方法である。抄造工程の目的は繊維への樹脂の定着を効率的に行うことである。抄造方法の詳細は特開2001-123386号公報の通りである。この抄造方法は、開閉可能な多数の抜水孔が底面に形成された貯水槽に、耐熱性繊維を分散させた分散水を貯留し、貯水槽の抜水孔を同時に開放して分散水を放出し、貯水槽の下方に配備された抄造槽で貯水槽から落下した分散水を収受したのち、抄造槽から水抜きすることにより、抄造槽内に配備された抄網で耐熱性繊維を抄き取る。
【0027】
炭素繊維は、ロービング前であって、樹脂が含浸される前の炭素繊維作成時の不良品であるリサイクル炭素繊維である。実施例1のCFRP板の製造方法を詳しく説明する。1.粉砕工程において、リサイクル炭素繊維を10mmと15mmの繊維長さにカットする。2.混合工程において、容器内に5wt%のアラミド繊維と、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂50wt%と、22.5wt%ずつの10mmの繊維長である炭素繊維と15mmの繊維長である炭素繊維の各材料を、容器内の大量の水に分散混合させる。3.抄造工程において、混合液を抄造枠内で抄造する。4.脱水プレス工程において、抄造枠内の抄造された混合液を脱水して素形材を成形する。5.乾燥工程において、素形材を80℃で3時間乾燥させる。6.打ち抜き工程において、板材の形状のトムソン刃により撃ち抜く。7.プレス成形工程において、加圧加熱成形する。乾燥は、素形材の水分量を10%程度にする。加熱温度は140℃であり、5mm厚の成形品を得るため150トンプレスで5分間プレスして成形する。
【0028】
実施例1のCFRP板の曲げ強度の実験結果を
図4に示す。
図4において、「10/50%+15/50%」は、フェノール樹脂、炭素繊維、及びアラミド繊維のCFRP板の材料における45wt%を占める炭素繊維において、繊維長さが10mmの炭素繊維と、繊維長さ15mmの炭素繊維が50wt%ずつである事を示している。実施例1のCFRP板の曲げ強度の最大値は、672.16MPaであり、大きな値を実現できた。N数40の曲げ強度の平均値は547.01MPaであり、このCFRP板は、手持ち工具類として利用可能である。
【0029】
比較例として、5wt%のアラミド繊維、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂50wt%、及び9mmの繊維長さである一種類の炭素繊維45wt%を材料として、実施例1と同じ製造方法によって、同じ形態のCFRP板を製造した。
図3は、比較例のCFRP板の曲げ強度の実験結果を示す。手持ち工具類は、曲げ強度が500MPa以上、望ましくは550MPa以上、さらに望ましくは、600MPa以上必要と言われている。比較例のCFRP板は、N数40の曲げ強度の平均値が479.03MPaであり、手持ち工具類として強度不足である。
【0030】
図9は炭素繊維の繊維長さ別のCFRP板の曲げ強度の試験結果を示している。
図9において、A~DのCFRP板は、繊維長さが異なる二種類の炭素繊維を材料にして製造したものである。A~CのCFRP板は、CFRP板の材料(フェノール樹脂、炭素繊維、及びアラミド繊維)の45wt%を占める炭素繊維において、繊維長さ10mmと繊維長さ15mmの割合を異らせたものである。AのCFRP板は、繊維長さ10mmの炭素繊維を90wt%、繊維長さ15mmの炭素繊維を10wt%としたものである。BのCFRP板は、繊維長さ10mmの炭素繊維を70wt%、繊維長さ15mmの炭素繊維を30wt%としたものである。CのCFRP板は、上述した実施例1のCFRP板である。DのCFRP板は、CFRP板の材料の45wt%を占める炭素繊維において、繊維長さ10mmの炭素繊維を50wt%、繊維長さ20mmの炭素繊維を50wt%としたものである。DのCFRP板は、A~CのCFRP板に比べて、曲げ強度の最大値が大きいが、N数40の曲げ強度の平均値が小さい。
【0031】
図9において、E~MのCFRP板は、繊維長さが一種類の炭素繊維を材料にして製造したものである。CFRP板の曲げ強度は、繊維長さが一種類の炭素繊維を材料にして製造したCFRP板よりも繊維長さが異なる二種類の炭素繊維を材料にして製造したものの方が大きくなる傾向である。
【0032】
炭素繊維の繊維長さは、抄造法においても、9mm以下が最も強度が期待でき、良いとされていた。繊維長さ9mmの炭素繊維を材料として製造したCFRP板(
図9においてFのCFRP板)の曲げ強度が500MPa未満の450MPa程度で利用できないことがわかり、10mm~15mmの繊維長さの炭素繊維が利用できることがわかった。抄造法においても利用できないとされていた、端材の炭素繊維を長さ調整することにより550MPa以上の曲げ強度の実現に成功した。
図9におけるCのCFRP板(CFRP板の材料の45wt%を占める炭素繊維において、繊維長さ10mmの炭素繊維を50wt%、繊維長さ15mmの炭素繊維を50wt%としたもの)から明らかなように、繊維長さの違う二種類の炭素繊維を利用することで所望の強度が実現できた。さらに利用できないとされていた繊維長さ10mm~15mmの炭素繊維でも抄造法を利用することにより、ほぼ600MPa以上の曲げ強度が実現できた。
【0033】
<実施例2>
CFRP板の形態として、
図8に示すように、手持ち工具であるスパナを製造した。この工具の製造方法は、混合工程において、水の入った容器内に、5wt%のアラミド繊維、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂50wt%、及び22.5wt%ずつの10mmの繊維長である炭素繊維と15mmの繊維長である炭素繊維の各材料を混入し、容器内で分散混合させ、抄造枠内で抄造し、抄造された混合液を脱水して素形材を成形した。成形された素形材の厚さは10mmである。素形材を10枚重ねて100mm厚にしてトムソン刃による切断が容易になるように、例えば自然乾燥等で予備乾燥した。その後、工具形状のトムソン刃により打ち抜き、水分調整して180℃で熱プレスにより成形し、7mm厚の17mm口径のスパナを製造した。
【0034】
実施例2のCFRP板の工具であるスパナの製造方法について、混合工程以降について詳しく説明する。製造量により数値は異なるが、抄造法をより分かりやすくするための説明であり、少量生産の場合について説明する。
1.バケツ(容器)に水を貯める。(22.5L(リットル)で4杯)
2.バケツにアラミド繊維、フェノール樹脂、及び炭素繊維の各材料を投入する。(消泡、分散、凝集剤以外)
3.ディゾルバー(攪拌機)を利用してバケツ内の水に各材料を均一分散させて分散水を完成させる。(4000rpmで5分間)
4.スラリー用バケツ内の水を手動攪拌しながら分散剤を投入し20回攪拌する。
5.分散材を投入したスラリー用バケツ内の水を手動攪拌しながら凝集剤を投入し10回程度攪拌してスラリーを完成させる。
6.抄造枠に下部10cm程度の3.の分散水を貯め、5.のスラリーを投入する。
7.抄造枠から水分を抜く。
8.真空ポンプかリングブロアで抄造シートからある程度の水分を抜く。
9.抄造枠からシートを取り出し、プレスで脱水する。(1cm2当り30kg~40kgの圧力で3分間)
10.脱水したシートを油圧裁断機でトムソン刃を使用し打ち抜く。(以降シートではなく素形材と呼ぶ)
11.素形材を乾燥機に並べ乾燥させる。(現行条件:80℃×4.5時間)
12.乾燥後の素形材の重量を測定し分ける。
13.重量分けした素形材を製品の重量に組み合わせる。
14.組み合わせた素形材を複数枚積層して加熱成形してタブレットにする。(予備成形、現行条件:1cm2当り100kgの圧力で80℃×1分)
15.タブレットにした素形材を加熱成形する。(現行条件:1cm2当り1tの圧力で180℃×厚み1mm当り1分)
16.金型から取り出した成形品のバリ取りをして、完成する。
【0035】
ここで利用した炭素繊維はリサイクル炭素繊維である。ここで、一例としてリサイクル炭素繊維の製造方法である溶解法について説明する。溶解法によるリサイクル炭素繊維の製造方法は公知のものであり、例えば、特開2020-37638号に溶解法に利用される樹脂溶解装置が示されている。この樹脂溶解装置は、炭素繊維強化プラスチックが含有する樹脂材を溶解する。この樹脂溶解装置は、溶解槽と、ガス導入部と、ガイド壁とを備えている。溶解槽は、温度及び濃度が管理されていると共に硫酸を含有する溶解液と、炭素繊維強化プラスチックとが投入される。ガス導入部派、溶解槽下面に配置されており、溶解槽内に設けられた処理空間にバブル用ガスを導入してバブルを発生させる。ガイド壁は、処理空間においてガス導入部を囲うように上方へ向かって延設されており、バブルに伴って上昇する溶解液をガイドする。炭素繊維強化プラスチックは、ガイド壁の外側に投入され、ガイド壁の溶解槽下面近傍には、炭素繊維強化プラスチックが含有する炭素繊維がガイド壁の内側に侵入することを防ぎつつ、処理空間において溶解液を対流させるための貫通孔が設けられている。この樹脂溶解装置によりリサイクル炭素繊維を製造することができる。
【0036】
図5は、実施例2のCFRP板の工具であるスパナの公設試験所の性能検査結果であり、備考欄は評価の根拠を示している。この性能検査結果によれば、実施例1のCFRP板の工具は、工具としての強度、締め付けトルク、衝撃試験、帯電試験はいずれも合格品となり、手持ち工具としての利用が可能である。
図6及び
図7は、実施例2のスパナのトルク試験を示す図である。標準トルク表の一般締め付けトルクは呼び径がM12で42N・mである。これに対し、実施例1のCFRP板の工具は、55N・mを達成できた。
【0037】
実施例2のスパナは7mm厚であるが、工具の厚みを8mm~10mm厚にする場合は、実施例2と同様の素形材を重ねて100mm程度の厚さにして、8mm~10mm厚にプレス成形する。
【0038】
CFRP板の工具は、鉄製の手持ち工具とほぼ同等の曲げ強度を有し、4分の1~7分の1の重さの手持ち工具の提供が可能となり、防爆や、高所作業の安全性確保など有益なものである。
【0039】
リサイクル炭素繊維を材料として製造した3mm厚のCFRP板と、1mm厚のSUS(ステンレス)板とを比較すると、曲げ強度は、502MPaに対し578MPaであり、引張荷重強度は、6433Nに対して6400MPaであり、ほぼ同等の強度が確認できた。廃棄物、熱硬化性樹脂、抄造法の組合せで、満足な強度と防爆性能を有する手持ち工具として世界で初めて実現したものである。
【0040】
CFRP板の工具としてスパナを示したが、手持ち工具のレンチなども型抜刃の形状を変えることにより手持ち工具の大きさによりプレス圧や時間は調整するものである。
【0041】
本発明は、抄造法と熱硬化樹脂により、CFRP板の軽量化と防爆機能の実現を達成できた極めて有益であるばかりでなくリサイクル炭素繊維を利用できるため、鉄製やステンレス製などの工具を得るための千数百度の温度の溶融作業がないため二酸化炭素削減に大きく貢献できる。
【0042】
従来、高所での作業において、工具類を腰に保持するため、その重量から腰を痛めることもあったが、本発明を工具に利用すると、軽量のため、腰痛の緩和が期待でき、工具の落下による重大災害もない。さらに、本発明を工具に利用すると、金属のように錆の発生がないため、食品産業での利用も期待できる。
【0043】
本発明によって、熱硬化性樹脂と炭素繊維の混合物で抄造法によりCFRP板を製造するために最適な炭素繊維を解明することができた。リサイクル炭素繊維や、炭素繊維の樹脂含浸前に発生する利用困難な端材が多く発生し、その利用方法がなく、年70トン以上発生するとも言われている航空機等に利用される炭素繊維端材を利用してCFRP板を製造することを確立することができた。
【0044】
リサイクル炭素繊維は、その最終利用先が不織布による緩衝材や、防音材を目指したものとなっているため、抄造法での成形物の強度計測での結果は、強度不足であった。本発明は、抄造法での強度不足を解決する市販の炭素繊維を見出すとともに満足する強度を有するCFRP板及びその製造方法を確立することができた。特に、利用するリサイクル炭素繊維材料は、製品価格であるバージン材価格より安価であり、さらに現存する対抗製品より安価に製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、環境対策として、また防爆による火災防止、軽量化による大きな効果を有する極めて優れたものである。超硬切削工具により金属と同じように高精度加工を可能とした厚板使用のCFRP製の切削加工用のプレートであり、電子部品などの基盤として利用できる。コネクタ部品、インサート用ロボットのエンドエフェクタ部品、ロボット本体と作用爪とをつなぐ間座(スペーサ)などに利用できる。また、工具などの場合は、機械メンテナンスなどに利用するガソリン化学工業、石油・ガス産業、爆薬製造工場、造船所、航空業界、医療業界、食品業界などの産業で広く使われることが期待できる。さらには、軽量で且つ強度が求められる歯車やロボットの腕など金属に依存していたものに置き換わることも期待できる。