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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20240902BHJP
【FI】
F16H57/04 B
F16H57/04 J
F16H57/04 N
F16H57/04 Q
F16H57/04 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024505894
(86)(22)【出願日】2022-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2022044062
(87)【国際公開番号】W WO2023171051
(87)【国際公開日】2023-09-14
【審査請求日】2024-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2022037177
(32)【優先日】2022-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004141
【氏名又は名称】弁理士法人紀尾井坂テーミス
(72)【発明者】
【氏名】及川 翔太
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-69318(JP,A)
【文献】特開2021-107737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータの一方側に配置され、第1被潤滑部材を潤滑する歯車装置と、
前記モータの他方側のカバー部材内に設けられた油だまり部と、
前記カバー部材の挿通孔内の前記油だまり部に設けられた第2被潤滑部材と、
前記歯車装置側と前記油だまり部とを連通する連通路と、を有し、
前記連通路は、前記第1被潤滑部材及び前記第2被潤滑部材それぞれの潤滑対象箇所の重力方向下側の最下点よりも上側に設けられており、
前記油だまり部は、重力方向上側が下側より軸方向に厚い拡大部を前記カバー部材に設けられた凹部内に有し、
前記第2被潤滑部材の最下点は、径方向から見て、前記凹部と重なる位置に設けられ、
前記凹部は、前記挿通孔の外周側に位置する、装置。
【請求項2】
請求項1において、
モータシャフトとドライブシャフトを有し、
前記連通路は、前記モータシャフトと前記ドライブシャフトの隙間を有する、装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記カバー部材は、第1カバーと第2カバーとを有し、
前記油だまり部は、前記第1カバーと前記第2カバーとの間の空間に設けられており、
前記第1カバーは、
前記モータ側に窪んで、前記油だまり部の前記拡大部を収容する前記凹部を有し、
前記凹部の下面は、前記モータに近づくにつれ重力方向上に向かって傾斜する、装置。
【請求項4】
請求項3において、
径方向から見て、前記凹部は、前記モータのコイルエンドより内周側に位置しており、
前記第1カバーにおける前記凹部が設けられた領域と前記コイルエンドとの間にはクリアランスが設けられている、装置。
【請求項5】
請求項1において、
前記カバー部材は、第1カバーと第2カバーとを有し、
前記油だまり部は、前記第1カバーと前記第2カバーとの間の空間に設けられており、
前記第1カバーは、前記モータ側に窪む前記凹部を有し、
前記第2カバーは、前記モータ側に突出する凸部を有し、
前記重力方向において、前記凸部の上面は、前記凹部の上面よりも下側に設けられていると共に、前記モータから離れるにつれ重力方向上に向かって傾斜する、装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項において、
前記油だまり部の形状は、軸方向視において、前記モータの軸中心を通る鉛直線を挟んだ一方側の形状と他方側の形状が非対称の形状である、装置。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項において、
前記油だまり部の形状は、前記重力方向上側から視て、前記モータの軸中心を挟んだ一方側の形状と他方側の形状が非対称の形状である、装置。
【請求項8】
請求項6において、
前記油だまり部の形状は、前記重力方向上側から視て、前記モータの軸中心を挟んだ一方側の形状と他方側の形状が非対称の形状である、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、油だまり部を有する装置を開示している。特許文献1の油だまり部は、装置の軸受を潤滑する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-069318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
装置において、潤滑性を向上することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のある態様における装置は、
モータと、
前記モータの一方側に配置され、第1被潤滑部材を有する歯車装置と、
前記モータの他方側に設けられた油だまり部と、
前記油だまり部に設けられた第2被潤滑部材と、
前記歯車装置側と前記油だまり部とを連通する連通路と、を有し、
前記連通路は、前記第1被潤滑部材及び前記第2被潤滑部材それぞれの潤滑対象箇所の重力方向下側の最下点よりも上側に設けられており、
前記油だまり部は、重力方向上側が下側より軸方向に厚い拡大部を有し、
前記拡大部内に前記第2被潤滑部材の最下点が位置している。
【発明の効果】
【0006】
本発明のある態様によれば、潤滑性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、動力伝達装置を説明するスケルトン図である。
図2図2は、動力伝達装置の断面模式図である。
図3図3は、歯車装置周りの拡大図である。
図4図4は、遊星減速ギア周りの拡大図である。
図5図5は、デフケースの回転を説明する図である。
図6図6は、動力伝達装置におけるオイルの循環を説明する図である。
図7図7は、カバー部材周りの拡大図である。
図8図8は、第1カバーを説明する図である。
図9図9は、第1カバーを説明する図である。
図10図10は、第1カバーを説明する図である。
図11図11は、第1カバーを説明する図である。
図12図12は、第2カバーを説明する図である。
図13図13は、第2カバーを説明する図である。
図14図14は、カバー部材の分解斜視図である。
図15図15は、油だまり部の油面を説明する図である。
図16図16は、油だまり部の油面を説明する図である。
図17図17は、油だまり部を説明する図である。
図18図18は、油だまり部を説明する図である。
図19図19は、油だまり部を説明する図である。
図20図20は、油だまり部の体積の減少を説明する図である。
図21図21は、油だまり部の油面の変位を説明する図である。
図22図22は、油だまり部の油面の変位を説明する図である。
図23図23は、比較例にかかる油だまり部を説明する図である。
図24図24は、比較例にかかる油だまり部を説明する図である。
図25図25は、比較例にかかる油だまり部の油面の変位を説明する図である。
図26図26は、変形例1にかかる油だまり部を説明する図である。
図27図27は、変形例1にかかる油だまり部を説明する図である。
図28図28は、変形例2にかかる油だまり部を説明する図である。
図29図29は、変形例3にかかる油だまり部を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の説明において、第1要素(部品、部分等)に接続された第2要素(部品、部分等)、第1要素(部品、部分等)の下流に接続された第2要素(部品、部分等)、第1要素(部品、部分等)の上流に接続された第2要素(部品、部分等)と述べた場合、第1要素と第2要素とが動力伝達可能に接続されていることを意味する。動力の入力側が上流となり、動力の出力側が下流となる。また、第1要素と第2要素は、他の要素(クラッチ、他の歯車機構等)を介して接続されていても良い。
【0009】
「所定方向から見てオーバーラップする」とは、所定方向に複数の要素が並んでいることを意味し、「所定方向にオーバーラップする」と記載する場合と同義である。「所定方向」は、たとえば、軸方向、径方向、重力方向、車両走行方向(車両前進方向、車両後進方向)等である。
図面上において複数の要素(部品、部分等)が所定方向に並んでいることが図示されている場合は、明細書の説明において、所定方向から見てオーバーラップしていることを説明した文章があるとみなして良い。
【0010】
「所定方向から見てオーバーラップしていない」、「所定方向から見てオフセットしている」とは、所定方向に複数の要素が並んでいないことを意味し、「所定方向にオーバーラップしていない」、「所定方向にオフセットしている」と記載する場合と同義である。「所定方向」は、たとえば、軸方向、径方向、重力方向、車両走行方向(車両前進方向、車両後進方向)等である。
図面上において複数の要素(部品、部分等)が所定方向に並んでいないことが図示されている場合は、明細書の説明において、所定方向から見てオーバーラップしていないことを説明した文章があるとみなして良い。
【0011】
「所定方向から見て、第1要素(部品、部分等)は第2要素(部品、部分等)と第3要素(部品、部分等)との間に位置する」とは、所定方向から観察した場合において、第1要素が第2要素と第3要素との間にあることが観察できることを意味する。「所定方向」とは、軸方向、径方向、重力方向、車両走行方向(車両前進方向、車両後進方向)等である。
例えば、第2要素と第1要素と第3要素とが、この順で軸方向に沿って並んでいる場合は、径方向から見て、第1要素は第2要素と第3要素との間に位置しているといえる。図面上において、所定方向から見て第1要素が第2要素と第3要素との間にあることが図示されている場合は、明細書の説明において所定方向から見て第1要素が第2要素と第3要素との間にあることを説明した文章があるとみなして良い。
【0012】
軸方向から見て、2つの要素(部品、部分等)がオーバーラップするとき、2つの要素は同軸である。
【0013】
「軸方向」とは、動力伝達装置を構成する部品の回転軸の軸方向を意味する。「径方向」とは、動力伝達装置を構成する部品の回転軸に直交する方向を意味する。部品は、例えば、モータ、歯車機構、差動歯車機構等である。
【0014】
以下、本発明の実施形態を、車両が備える動力伝達装置に適用した場合を例に挙げて説明する。
図1は、動力伝達装置1を説明するスケルトン図である。
図2は、動力伝達装置1の断面の模式図である。図2ではリップシールを簡略化して記載している。
【0015】
図1に示すように、動力伝達装置1は、モータ2と、モータ2の出力回転をドライブシャフトDA、DB(駆動軸)に伝達する歯車装置3と、を有する。なお、「モータ」は、電動機機能及び/又は発電機機能を有する回転電機である。
動力伝達装置1では、モータ2の回転軸X回りの出力回転の伝達経路に沿って、歯車装置3と、ドライブシャフトDA、DBと、が設けられている。
【0016】
動力伝達装置1では、モータ2の出力回転が、歯車装置3を介してドライブシャフトDA、DBに伝達される。これにより、左右の駆動輪W、Wが駆動される。
【0017】
ここで、歯車装置3は、遊星減速ギア4(減速機構)と、差動機構5(差動歯車機構)と、から構成されている。遊星減速ギア4は、モータ2の下流に接続されている。差動機構5は、遊星減速ギア4の下流に接続されている。差動機構5の下流には、ドライブシャフトDA、DBが接続されている。
遊星減速ギア4は、モータ2の出力回転を減速して差動機構5に入力する。差動機構5は、遊星減速ギア4から入力された回転をドライブシャフトDA、DBに伝達する。
【0018】
図2に示すように、動力伝達装置1は、モータケース10と、ギアケース14と、を有する。モータケース10は、モータ2を収容する。ギアケース14は、遊星減速ギア4及び差動機構5を収容する。ギアケース14は、回転軸X方向におけるモータケース10の一端側に接合されている。
【0019】
図2に示すように、モータ2は、軸方向視において、差動機構5(差動歯車機構)とオーバーラップする部分を有する。ここで、「軸方向視において」とは、回転軸X方向から視て、という意味である。
軸方向視において、モータ2は遊星減速ギア4(減速歯車機構)にオーバーラップする部分を有する。
軸方向視において、遊星減速ギア4(減速歯車機構)は差動機構5(差動歯車機構)にオーバーラップする部分を有する。
軸方向視において、遊星減速ギア4(減速歯車機構)はモータ2にオーバーラップする部分を有する。
軸方向視において、差動機構5(差動歯車機構)は遊星減速ギア4(減速歯車機構)にオーバーラップする部分を有する。
軸方向視において、差動機構5(差動歯車機構)はモータ2にオーバーラップする部分を有する。
軸方向視において、モータ2は差動機構5(差動歯車機構)とオーバーラップする部分を有する。
【0020】
図2に示すように、モータケース10は、第1ケース部材11と、第1ケース部材11に外挿される第2ケース部材12と、第1ケース部材11の一端に接合されるカバー部材13を有する。
第1ケース部材11は、円筒状の支持壁部111と、支持壁部111の一端111aに設けられたフランジ状の接合部112と、を有している。
支持壁部111は、モータ2の回転軸Xに沿わせた向きで設けられている。支持壁部111の内側には、モータ2が収容される。
【0021】
第2ケース部材12は、円筒状の周壁部121と、周壁部121の一端121aに設けられたフランジ状の接合部122と、周壁部121の他端121bに設けられたフランジ状の接合部123と、を有している。
第2ケース部材12の周壁部121は、第1ケース部材11の支持壁部111に外挿可能な内径で形成されている。
第1ケース部材11と第2ケース部材12は、第1ケース部材11の支持壁部111に、第2ケース部材12の周壁部121を外挿して互いに組み付けられている。
【0022】
周壁部121の一端121a側の接合部122は、回転軸X方向から、第1ケース部材11の接合部112に当接している。これら接合部122、112は、ボルト(図示せず)で互いに連結されている。
第1ケース部材11では、支持壁部111の外周に複数の凹溝111cが設けられている。複数の凹溝111cは、回転軸X方向に間隔をあけて設けられている。凹溝111cの各々は、回転軸X周りの周方向の全周に亘って設けられている。
第1ケース部材11の支持壁部111に、第2ケース部材12の周壁部121が外挿されると、凹溝111cの開口が周壁部121で閉じられる。これにより、支持壁部111と周壁部121との間に、クーラントが通流する複数の冷却路CPが形成される。なお、「クーラント」は冷媒であり、たとえば、液体(冷却水等)、気体(空気等)等である。
【0023】
第1ケース部材11の支持壁部111の外周では、凹溝111cが設けられた領域の両側に、リング溝111d、111dが形成されている。リング溝111d、111dには、シール材C、Cが外嵌して取り付けられている。
これらシール材C、Cは、支持壁部111に外挿された周壁部121の内周に圧接して、支持壁部111の外周と、周壁部121の内周との間の隙間を封止する。
【0024】
図2に示すように、第2ケース部材12の他端121bには、内径側に延びる壁部120が設けられている。壁部120は、回転軸Xに直交する向きで設けられている。壁部120の回転軸Xと交差する領域に、ドライブシャフトDAが挿通する開口120aが開口している。
【0025】
壁部120では、モータ2側(図中、右側)の面に、モータ2側に延びるモータ支持部125が設けられている。モータ支持部125は、開口120aを、間隔を空けて囲む筒状を成している。
モータ支持部125は、後記するコイルエンド253bの内側に挿入されている。モータ支持部125は、ロータコア21の他端21bに回転軸X方向の隙間をあけて対向している。モータ支持部125の内周には、ベアリングB1が支持されている。モータシャフト20の外周が、ベアリングB1を介してモータ支持部125で支持されている。
【0026】
壁部120の、差動機構5側(図中、左側)の面に、差動機構5側に延びる筒壁部126が設けられている。筒壁部126は、開口120aを囲む筒状を成している。筒壁部126の内周には、ベアリングB2が支持されている。ベアリングB2は、後記するデフケース50の筒壁部61を支持する。
【0027】
図2に示すように、ギアケース14は、回転軸Xを囲む筒状の周壁部141と、周壁部141におけるモータケース10側の端部に設けられたフランジ状の接合部142と、を有する。周壁部141における接合部142とは反対側(図中左側)の端部には、後記するベアリングB2の支持部145が設けられている。遊星減速ギア4と差動機構5は、周壁部141の内側に収容される。
【0028】
ギアケース14は、モータケース10から見て差動機構5側(図中、左側)に位置している。ギアケース14の接合部142は、モータケース10の第2ケース部材12の接合部123に、回転軸X方向から接合されている。ギアケース14と第2ケース部材12は、ボルト(図示せず)で互いに連結されている。
【0029】
接合されたモータケース10及びギアケース14の内部に形成される空間は、第2ケース部材12の壁部120によって、2つに区画される。壁部120のモータケース10側がモータ2を収容するモータ室Saであり、壁部120のギアケース14側が遊星減速ギア4と差動機構5を収容するギア室Sbである。壁部120は、回転軸X方向でモータ2と差動機構5とに挟まれる。
【0030】
図2に示すように、モータ2は、円筒状のモータシャフト20と、モータシャフト20に外挿された円筒状のロータコア21と、ロータコア21の外周を間隔を空けて囲むステータコア25とを、有する。
【0031】
モータシャフト20は、ロータコア21を挟んだ一端20a側と他端20b側に、それぞれベアリングB7、B1が外挿されている。モータシャフト20は、ベアリングB7、B1を介してモータ支持部74、125に回転可能に支持されている。
【0032】
モータ支持部74、125は、ロータコア21の一端21aと他端21bに、回転軸X方向の隙間をあけて対向して配置されている。
【0033】
ロータコア21は、複数の珪素鋼板を積層して形成したものである。珪素鋼板の各々は、モータシャフト20との相対回転が規制された状態で、モータシャフト20に外挿されている。
モータシャフト20の回転軸X方向から見て、珪素鋼板はリング状を成している。珪素鋼板の外周側では、図示しないN極とS極の磁石が、回転軸X周りの周方向に交互に設けられている。
【0034】
ロータコア21の外周を囲むステータコア25は、複数の電磁鋼板を積層して形成したものである。ステータコア25は、第1ケース部材11の円筒状の支持壁部111の内周に固定されている。
電磁鋼板の各々は、支持壁部111の内周に固定されたリング状のヨーク部251と、ヨーク部251の内周からロータコア21側に突出するティース部252と、を有している。
【0035】
本実施形態では、巻線253を、複数のティース部252に跨がって分布巻きした構成のステータコア25を採用している。ステータコア25は、回転軸X方向に突出するコイルエンド253a、253bの分だけ、ロータコア21よりも回転軸X方向の長さが長くなっている。
【0036】
なお、ロータコア21側に突出する複数のティース部252の各々に、巻線を集中巻きした構成のステータコアを採用しても良い。
【0037】
図2に示すように、モータシャフト20の他端20b側は、開口120aを差動機構5側(図中、左側)に貫通して、ギアケース14内に位置している。
モータシャフト20の他端20bは、ギアケース14の内側で、後記するサイドギア54Aに、回転軸X方向の隙間をあけて対向している。
【0038】
モータシャフト20と壁部120の開口120aの間にはリップシールRSが挿入されている。
ギアケース14の内径側には、遊星減速ギア4と差動機構5を潤滑するためのオイルOLが封入されている。
リップシールRSは、ギアケース14内のオイルOLがモータ室Sa内に流入することを阻止するために設けられている。
【0039】
図3は、歯車装置3周りの拡大図である。
図4は、遊星減速ギア4周りの拡大図である。
図5は、デフケース50の回転を説明する図である。図5は、図4のA-A断面の模式図である。
図6は、動力伝達装置1におけるオイルOLの循環を説明する図である。
図7は、カバー部材13周りの拡大図である。
【0040】
図3に示すように、モータシャフト20では、ギアケース14内に位置する領域に遊星減速ギア4のサンギア41がスプライン嵌合している。
【0041】
サンギア41の外周には歯部41aが形成されている。歯部41aには段付きピニオンギア43の大径歯車部431が噛合している。
【0042】
段付きピニオンギア43は、サンギア41に噛合する大径歯車部431(ラージピニオン)と、大径歯車部431よりも小径の小径歯車部432(スモールピニオン)とを有している。
大径歯車部431と小径歯車部432は、回転軸Xに平行な軸線X1方向に並んで配置された、一体のギア部品である。
【0043】
図4に示すように、大径歯車部431及び小径歯車部432の内径側をピニオン軸44が貫通している。段付きピニオンギア43は、ピニオン軸44の外周にニードルベアリングNB、NBを介して回転可能に支持されている。
【0044】
小径歯車部432の歯部432aは、リングギア42の内周歯422に噛合している。リングギア42は、回転軸Xを間隔を空けて囲むリング状を成している。リングギア42の外周には、径方向外側に突出する複数の係合歯421が設けられている。複数の係合歯421は、回転軸X周りの周方向に間隔をあけて設けられている。リングギア42は、外周に設けた係合歯421が、周壁部141の内周に設けた歯部146aにスプライン嵌合している。これにより、リングギア42は、回転軸X回りの回転が規制されている。
【0045】
図3に示すように、差動機構5は、入力要素であるデフケース50(デファレンシャルケース)と、出力要素であるドライブシャフトDA、DB(出力軸)と、差動要素である差動歯車セットを有する。詳細な説明は省略するが、デフケース50は、回転軸X方向で組み付けられた2つのケース部材から構成しても良い。
【0046】
図4に示すように、デフケース50は、遊星減速ギア4の段付きピニオンギア43を支持するキャリアとしても機能する。段付きピニオンギア43は、ピニオン軸44を介して、デフケース50に回転可能に支持されている。3つの段付きピニオンギア43は、回転軸X周りの周方向に間隔を空けて配置されている(図5参照)。
【0047】
図3に示すように、デフケース50内には、差動歯車セットが設けられている。差動歯車セットは、ピニオンメートギア52と、サイドギア54A、54Bと、から構成される。ピニオンメートギア52は、傘歯車式のデファレンシャルギアである。ピニオンメートギア52は、ピニオンメートシャフト51に支持されている。
ピニオンメートシャフト51は、中心部材510と、中心部材510の外径側に連結されたシャフト部材511を有する。中心部材510は、回転軸X上に配置されている。図示は省略するが、複数のシャフト部材511が回転軸X周りの周方向に等間隔で設けられている。シャフト部材511は、デフケース50の支持孔69に挿入されている。
【0048】
ピニオンメートギア52は、シャフト部材511の各々に1つずつ外挿されている。ピニオンメートギア52は、シャフト部材511の各々で回転可能に支持されている。
【0049】
図3に示すように、デフケース50では、回転軸X方向における中心部材510の一方側にサイドギア54Aが位置し、他方側にサイドギア54Bが位置する。サイドギア54A、54Bは、それぞれデフケース50に回転可能に支持される。
サイドギア54Aは、回転軸X方向における一方側から、ピニオンメートギア52に噛合している。サイドギア54Bは、回転軸X方向における他方側から、ピニオンメートギア52に噛合している。
【0050】
デフケース50の一端側(図中、右側)の中央部には、開口60と筒壁部61が設けられている。筒壁部61は、開口60を囲むと共に、サイドギア54Aから離れる方向に延びている。筒壁部61の外周は、ベアリングB2を介して、第2ケース部材12の壁部120に回転可能に支持されている。
デフケース50の内部には、開口60を挿通したドライブシャフトDAが、回転軸X方向から挿入されている。
【0051】
図2に示すように、モータ2のモータシャフト20と、遊星減速ギア4のサンギア41(図4参照)の内径側を回転軸X方向に横切って設けられている。
【0052】
図3に示すように、デフケース50の他端側(図中、左側)の中央部には、貫通孔65と、貫通孔65を囲む筒壁部66が形成されている。筒壁部66には、ベアリングB2が外挿されている。ベアリングB2は、ギアケース14の支持部145で保持されている。デフケース50の筒壁部66は、ベアリングB2を介して、ギアケース14で回転可能に支持されている。
【0053】
支持部145の開口部145aには、ドライブシャフトDBとサイドギア54Bの筒壁部540が、回転軸X方向に貫通している。筒壁部540は、ドライブシャフトDBに外挿されている。
開口部145aの内周には、リップシールRSが固定されている。リップシールRSの図示しないリップ部が、サイドギア54Bの筒壁部540の外周に弾発的に接触している。
これにより、サイドギア54Bの筒壁部540の外周と開口部145aの内周との隙間が封止されている。
【0054】
図3に示すように、デフケース50の内部では、ドライブシャフトDA、DBの先端部が、回転軸X方向に間隔を空けて対向している。
ドライブシャフトDA、DBの先端部の外周に、デフケース50に支持されたサイドギア54A、54Bがそれぞれスプライン嵌合している。サイドギア54A、54BとドライブシャフトDA、DBとが、回転軸X周りに一体回転可能に連結されている。
【0055】
この状態においてサイドギア54A、54Bは、回転軸X方向で間隔をあけて、対向配置されている。サイドギア54A、54Bの間に、ピニオンメートシャフト51の中心部材510が位置している。
ピニオンメートシャフト51のピニオンメートギア52は、回転軸X方向の一方側に位置するサイドギア54A及び他方側に位置するサイドギア54Bに、互いの歯部を噛合させた状態で組み付けられている。
【0056】
図4に示すように、デフケース50の一端側(図中、右側)の、開口60の外径側に、ピニオン軸44の一端44a側の支持孔62が形成されている。デフケース50の他端側(図中、左側)には、ピニオン軸44の他端44b側の支持孔68が形成されている。
【0057】
支持孔62、68は、軸線X1方向にオーバーラップする位置に形成される。支持孔62、68は、それぞれ、段付きピニオンギア43を配置する位置に合わせて、回転軸X周りの周方向に間隔を空けて形成される。ピニオン軸44の一端44aが支持孔62に挿入され、他端44bが支持孔68に挿入される。ピニオン軸44は、他端44bが支持孔68に圧入されている。ピニオン軸44は、デフケース50に対して相対回転不能に固定されている。ピニオン軸44に外挿された段付きピニオンギア43は、回転軸Xに平行な軸線X1回りに回転可能に支持されている。
【0058】
図3に示すように、ギアケース14の内部には、潤滑用のオイルOLが貯留されている。動力伝達装置1を搭載した車両の走行時には、モータ2の出力回転の形状に位置するデフケース50は、回転軸X周りに回転する。デフケース50が回転軸X回りに回転すると、ギアケース14の下部に貯留されたオイルOLが、回転するデフケース50によって掻き上げられて、ギアケース14内の上部に向けて移動する。
【0059】
図5に示すように、ギアケース14の内部では、デフケース50を収容する空間(ギア室Sb)の上部に、キャッチタンク15が設けられている。キャッチタンク15は、回転軸Xと直交する鉛直線VLを挟んだ一方側(図中、右側)に位置している。キャッチタンク15は、連通口150を介してギア室Sbと連通している。よって、デフケース50によって掻き上げられたオイルOLの一部は、キャッチタンク15内に流入する。
【0060】
図5に示すように、キャッチタンク15は、鉛直線VLを挟んだ右側、すなわちデフケース50の回転方向における下流側に位置している。これにより、回転軸X回りに回転するデフケース50で掻き上げられたオイルOLの多くが、キャッチタンク15内に流入できるようになっている。
【0061】
図5に示すように、キャッチタンク15には、配管P1が接続されている。配管P1は、キャッチタンク15内に流入したオイルOLを、カバー部材13内の空間Scに供給するために設けられている。
配管P1は、モータケース10の外側を通って、ギアケース14からカバー部材13まで設けられている。配管P1の一端は、キャッチタンク15内に開口すると共に、他端は、カバー部材13内の空間Scに開口している。
【0062】
図2に示すように、第1ケース部材11から見てカバー部材13は、差動機構5とは反対側(図中、右側)に位置している。
図7に示すように、カバー部材13は、第1カバー7と、第2カバー8と、を有する。第1カバー7と第2カバー8とは、回転軸X方向に重ね合わせて接合されている。第1カバー7から見て第2カバー8は、モータ2とは反対側(図中、右側)に位置している。
【0063】
図7に示すように、第1カバー7は、回転軸Xを囲む筒状の周壁部71と、周壁部71から内径側に延びる壁部70と、を有する。壁部70は、回転軸X方向における周壁部71の一端71aと他端71bの間の領域から内径側に延びている。壁部70は、回転軸Xに直交する向きで設けられている。
周壁部71の他端71bには、フランジ状の接合部72が設けられている。
【0064】
接合部72は、第1ケース部材11の接合部112に回転軸X方向から接合されている。第1カバー7と第1ケース部材11は、ボルト(図示せず)で互いに連結されている。この状態において第1ケース部材11では、モータ室Saの開口が、第1カバー7で塞がれている。
【0065】
第1カバー7では、壁部70の中央部に挿通孔70aが設けられている。挿通孔70aは、壁部70を回転軸X方向に貫通している。
ドライブシャフトDAに外挿されたモータシャフト20が、挿通孔70aを回転軸X方向に貫通して配置される。
挿通孔70aの内周には、リップシールRS1が設けられている。リップシールRS1は、リップ部RS1aをモータシャフト20の外周に弾発的に接触させている。挿通孔70aの内周と、モータシャフト20の外周との隙間が、リップシールRS1により封止されている。
【0066】
壁部70におけるモータ2側(図中、左側)の面には、モータ2側に延びるモータ支持部74が設けられている。モータ支持部74は、挿通孔70aを囲む筒状を成している。
モータ支持部74の内周には、ベアリングB7が支持されている。モータシャフト20の外周が、ベアリングB7を介してモータ支持部74で支持されている。リップシールRS1は、ベアリングB7から見て第2カバー8側に設けられている。
【0067】
図7に示すように、壁部70とロータコア21との間には、センサ27が配置されている。センサ27は、モータ2(モータシャフト20)の回転を検出するために設けられている。
センサ27は、一例として、公知のレゾルバである。センサ27は、ロータ部271と、ステータ部272と、コネクタ部273と、を有する。
ロータ部271は、モータシャフト20に外嵌して取り付けられている。ステータ部272は、ロータ部271の外径よりも大きい内径を持つリング状を成している。
ステータ部272は、図示しないブラケットを介してモータケース10側で支持されている。この状態においてステータ部272は、ロータ部271の外周を間隔を空けて囲むように配置されている。
ステータ部272の外径側には、モータ2のコイルエンド253aが位置している。コイルエンド253aの端部は、回転軸X方向の間隔をあけて、壁部70に対向している。
そのため、センサ27のコネクタ部273から延びる配線(図示せず)が通過可能な隙間が、コイルエンド253aと壁部70との間に確保されている。
【0068】
このように、モータ室Saには、コイルエンド253aとモータシャフト20との間に、径方向の空間がある。センサ27は、鉛直線VL方向(重力方向)における回転軸Xよりも上側で、コイルエンド253aとモータシャフト20との間の空間を利用して設けられている。
【0069】
図7に示すように、第2カバー8は、回転軸Xに直交する壁部80と、壁部80の外周縁を全周に亘って囲む周壁部81と、を有する。周壁部81は、壁部80から第1カバー7側に向けて、回転軸Xに沿って延びている。周壁部81の先端81aには、フランジ状の接合部82が設けられている。
【0070】
第2カバー8の接合部82は、第1カバー7の周壁部71の一端71aに回転軸X方向から接合されている。第2カバー8の接合部82は、第1カバー7の周壁部71に、ボルト(図示せず)で連結されている。
【0071】
第2カバー8の壁部80の中央部には、ドライブシャフトDAの挿通孔80aが設けられている。挿通孔80aの内周には、リップシールRS2が設けられている。リップシールRS2は、リップ部RS2aをドライブシャフトDAの外周に弾発的に接触させている。挿通孔80aの内周と、ドライブシャフトDAの外周との隙間が、リップシールRS2により封止されている。
【0072】
壁部80における第1カバー7側(図中、左側)の面には、挿通孔80aを囲む周壁部84が設けられている。周壁部84の内周には、ドライブシャフトDAがベアリングB8を介して支持されている。リップシールRS2は、ベアリングB8から見て第1カバー7と反対側に設けられている。
【0073】
図7に示すように、第1カバー7と第2カバー8とを回転軸X方向で重ね合わせてカバー部材13を形成すると、カバー部材13の内部に空間Scが形成される。この空間Scは、第1カバー7の壁部70及び周壁部71と、第2カバー8の壁部80及び周壁部81で囲まれた空間である。空間Scは、前記したリップシールRS1、RS2が、モータシャフト20及びドライブシャフトDAとの隙間を封止することで、閉じられた空間となっている。
【0074】
第1カバー7の周壁部71の内周には、前記した配管P1に連絡する油孔715が開口している。
図6に示すように、油孔715は、前記したキャッチタンク15に開口する配管P1の開口P1aよりも、鉛直線VL方向における下側で開口している。
そのため、キャッチタンク15内に貯留されたオイルOLが、自重により、配管P1を通って空間Sc内に流入できるようになっている。
【0075】
油孔715は、リップシールRS1、RS2よりも鉛直線VL方向の上側で開口している。リップシールRS1は、空間Sc内のオイルOLのモータ室Sa内への流入を阻止している。リップシールRS2は、空間Sc内のオイルOLのカバー部材13の外部への流出を阻止している。
そのため、空間Sc内へのオイルOLの流入が続くと、空間Scに貯留されたオイルOLの高さが経時的に上昇する。
【0076】
ここで、空間Scには、モータシャフト20の一端20aが開口している。モータシャフト20の他端20bは、ギアケース14内の空間(ギア室Sb)に開口している。そして、モータシャフト20の内周と、モータシャフト20を貫通したドライブシャフトDAの外周との間に、オイルOLの通過が可能な隙間CLが設けられている。
【0077】
そのため、モータシャフト20の内周とドライブシャフトDAの外周との隙間CLは、空間Scとギア室Sb内のオイルOLの高さを揃えるための連通路として機能する。
ここで、動力伝達装置1と搭載した車両の走行時には、ギア室Sb内のオイルOLが、回転するデフケース50により掻き上げられる。そのため、ギア室Sb内のオイルOLの高さは、モータシャフト20の他端20bよりも下側となる。
【0078】
そうすると、空間Sc内に流入したオイルOLの高さが、ドライブシャフトDAの外周とモータシャフト20の内周との隙間CLが設けられた高さに達すると、空間Sc内のオイルOLが、隙間CLを通って、ギア室Sb内に戻されることになる。
すなわち、ドライブシャフトDAの外周とモータシャフト20の内周との隙間CLの高さを超える分のオイルOLは、隙間CLを通って、ギア室Sb内に戻される。
そのため、空間Sc内のオイルOLの高さは、隙間CLを超えない高さで保持される。
【0079】
このように、空間Sc内には、一定の体積のオイルOLが留まるようになっている。空間Sc内に貯留されたオイルOLが、本発明における油だまり部9に相当する。
空間Scに貯留されたオイルOLは、ベアリングB8の潤滑や、リップシールRS1、RS2とドライブシャフトDAとの接触部の潤滑に用いられる。
【0080】
配管P1と隙間CLは、歯車装置3側の空間であるギア室Sbと、油だまり部9とを連通する連通路Qを構成する。連通路Qは、遊星減速ギア4におけるリングギア42と小径歯車部432との噛合部における最下点Pbと、後記するリップシールRS1とモータシャフト20との接触部における最下点Pa1よりも、鉛直線VL方向上側に位置している。
ここで、最下点Pb、Pa1は、回転軸X方向から見た鉛直線VL方向下側の頂点を意味する。これら最下点Pb、Pa1は、回転軸Xの径方向から見ると、回転軸X方向に幅を持った稜線となる。
【0081】
図7に示すように、ドライブシャフトDAは、空間Sc内に位置する領域が、モータ2側(図中、左側)に向かうにつれて、段階的に縮径している。ドライブシャフトDAにおける空間Sc内に位置する領域は、モータシャフト20に内挿された第1領域DA1と、ベアリングB8が外挿される第2領域DA2と、リップシールRS2が外接する第3領域DA3と、を有する。第1領域DA1と、第2領域DA2と、第3領域DA3は、この順番で、外径D1、D2、D3が大きくなっている(D1<D2<D3)。
第1領域DA1と第2領域DA2との境界となる段部DA4は、モータシャフト20の一端20aと、回転軸X方向の間隔をあけて対向している。
【0082】
リップシールRS1は、モータシャフト20の外周に弾発的に接触するリップ部RS1aを有している。回転軸X方向から見て、リップシールRS1は、リング状を成している。リップ部RS1aは、回転軸X周りの周方向の全周に亘って、モータシャフト20の外周に接触している。
リップシールRS2は、ドライブシャフトDAの第3領域DA3の外周に弾発的に接触するリップ部RS2aを有している。回転軸X方向から見て、リップシールRS2は、リング状を成している。リップ部RS2aは、回転軸X周りの周方向の全周に亘って、モータシャフト20の外周に接触している。
【0083】
ここで、ドライブシャフトDAの第3領域DA3の外径D3は、モータシャフト20の外径よりも大きい。そのため、リップシールRS2の内径は、リップシールRS1のリップ部RS1aの内径よりも大きい。
よって、鉛直線VL方向における断面視において、第3領域DA3の外周とリップ部RS2aとの最も下側の接触点が、モータシャフト20の外周とリップ部RS1aとの最も下側の接触点よりも、低い位置となる。
本実施形態では、鉛直線VL方向に沿う断面視において、第3領域DA3の外周とリップ部RS2aとの最も下側の接触点が、モータシャフト20の外周とリップ部RS1aとの最も下側の接触点よりも、高さhだけ下側に位置している。
【0084】
図7では、リップ部RS1aとモータシャフト20の外周との最も下側の接触点が、リップシールRS1の接触に関わる部分の最下点Pa1に相当する。リップ部RS2aと第3領域DA3の外周との最も下側の接触点が、リップシールRS2の接触に関わる最下点Pa2に相当する。
【0085】
動力伝達装置1を搭載した車両の走行時には、モータシャフト20とドライブシャフトDAが回転軸X周りに回転する。そのため、モータシャフト20とドライブシャフトDAの外周に接触したリップ部RS1a、RS2aは、モータシャフト20とドライブシャフトDAの外周を摺動することになる。
【0086】
前記したように、本実施形態では、空間Sc(油だまり部9)内に貯留されたオイルOLは、リップシールRS1、RS2の少なくともリップ部RS1a、RS2aの潤滑に用いられる。リップシールRS1が、本発明の第2被潤滑部材を構成する。
本実施形態では、これらリップ部RS1a、RS2aの両方を潤滑するために、空間Scに貯留されたオイルOLである油だまり部9の油面9Uは、少なくともリップ部RS1aの最下点Pa1よりも高い位置に設定されることが好ましい。そして、油面9Uは、リップ部RS1aの最下点Pa1よりも高い位置を維持することが好ましい。
また、油面9Uは、回転軸X方向における段部DA4とモータシャフト20の一端20aとの間に位置していることが好ましい。
【0087】
ここで、空間Sc内のオイルOLは、モータシャフト20の外周とドライブシャフトDA(第1領域DA1)の外周との隙間CLを通ってギア室Sb内に排出される。
そのため、空間Sc内のオイルOLの油面9Uは、少なくともモータシャフト20の開口の下端と略面一となる高さ位置となる。
【0088】
ここで、油面9Uの高さは、オイルOLの温度変化に伴って変化する。例えば、オイルOLの温度が低くなると、温度が高いときよりも体積が減少する結果、油面9Uの高さが低くなる。
そうすると、油面9Uの高さの低下の程度によっては、例えばリップシールRS1のリップ部RS1aが、油面9Uから露出した位置に配置されることがある。かかる状態の時に車両が走行を開始すると、モータシャフト20の外周に弾発的に接触したリップ部RS1aが、モータシャフト20の回転に対するフリクションとなってしまう可能性がある。
【0089】
ここで、油面9Uの高さの変化量は、オイルOLを貯留する空間Scの形状に応じたものとなる。そのため、本実施形態では、空間Sc内のオイルOLの高さ変化を抑制できるようにするために、空間Scの形状を工夫して、空間Sc内に貯留されるオイルOLの形状(油だまり部)に特徴を持たせている。
【0090】
以下、空間Scを形成する第1カバー7と第2カバー8について説明する。
図8は、第1カバー7を説明する図である。図8は、第1カバー7を第2カバー8側から見た斜視図で示している。図8では、壁部70と凹部75の位置を見やすくするために、壁部70と凹部75の底面75eの部分にクロスハッチングを付してある。
図9は、第1カバー7を説明する図である。図9は、第1カバー7を第2カバー8側から見た正面図で示している。図9では、壁部70の位置を見やすくするために、壁部70にクロスハッチングを付してある。また、図9の拡大図では、モータシャフト20及びリップシールRS1が配置される領域を仮想線で示している。また、オイルOLが貯留される領域にクロスハッチングを付してある。
【0091】
図10は、第1カバー7を説明する図である。図10は、図9のA-A断面の模式図である。図10ではモータ2を仮想線で示してある。
図11は、第1カバー7を説明する図である。図11は、図9のB-B断面の模式図である。
なお、図10図11のそれぞれの拡大図では、ドライブシャフトDA、モータシャフト20、リップシールRS1及びベアリングB7をそれぞれ仮想線で示している。
【0092】
(第1カバー7)
図8及び図9に示すように、第1カバー7における第2カバー8側の面には、略円形の壁部70が露出している。壁部70の外周縁を囲むように周壁部71が設けられている。周壁部71は、壁部70から第2カバー8側に突出している。
周壁部71には、油孔715が設けられている。油孔715は、周壁部71を厚み方向に貫通している。油孔715には、前記したキャッチタンク15から延びる配管P1が接続される(図9参照)。
鉛直線VLを間に挟んで、油孔715とは反対側に、ボックス部712が設けられている。
【0093】
図9に示すように、壁部70には、2つの凹部75、75が形成されている。凹部75、75は、第1カバー7と第2カバー8との間に形成される空間Scを、回転軸X方向に広げるために設けられている。凹部75、75は、壁部70の一部を紙面奥側(回転軸X方向におけるモータ2側)に窪ませて形成される。
図9に示すように、回転軸X方向から見て凹部75、75は、回転軸Xを通る鉛直線VLを挟んだ一方側と他方側に設けられている。
【0094】
図9に示すように、回転軸X方向から見て、2つの凹部75、75は、鉛直線VLを挟んで対称な形状を有している。凹部75、75は、挿通孔70aを囲む弧状を成している。
【0095】
図9の拡大図に示すように、回転軸X方向から見て、前記した最下点Pa1は、リップシールRS1とモータシャフト20の外周との接触部における下側の頂点である。凹部75、75は、回転軸X方向から見て、最下点Pa1を通る水平線HL2を、鉛直線VL方向の上側から下側に横切る範囲に設けられている。
【0096】
具体的には、凹部75は、回転軸Xを通る水平線HLの上側に位置する上面75aと、水平線HLの下側に位置する下面75bと、を有する。また、凹部75は、回転軸X方向からみて、上面75aと下面75bの内径側端部同士を接続する内周面75cと、上面75aと下面75bの外径側端部同士を接続する外周面75dと、を有する。
【0097】
図9に示すように、上面75aは、水平線HLの上側を通る水平線HL1に沿う向きに設けられている。下面75bは、鉛直線VLを挟んだ一方側(図中、左側)では、回転軸Xを通る半径線Lm1に沿う向きに設けられ、他方側(図中、右側)では、回転軸Xを通る半径線Lm2に沿う向きに設けられている。回転軸X周りの周方向において、半径線Lm1と半径線Lm2の成す角はθである。内周面75cと外周面75dは、回転軸X周りの周方向に沿って湾曲している。
内周面75cと外周面75dは、最下点Pa1を通る水平線HL2を、鉛直線VL方向の上側から下側に横切る範囲に設けられている。
【0098】
図10に示すように、壁部70は、回転軸X方向でモータ室Saと空間Scとを隔てている。回転軸Xの径方向から見て、凹部75は、壁部70からモータ室Sa側に窪んでいる。凹部75は、上面75aと下面75bのモータ室Sa側の端部同士を接続する底面75eを有する。底面75eは、回転軸Xに直交する平坦面である。下面75bは、回転軸X方向で壁部70から底面75eに近づくにつれて鉛直線VL方向上側に向かって傾斜している。すなわち、下面75bは、回転軸X方向でモータ2に近づくにつれて鉛直線VL方向上側に向かって傾斜している。
【0099】
図11に示すように、底面75eは、壁部70の空間Sc側の側面701から回転軸X方向に距離T2だけオフセットしている。内周面75cと外周面75dは、回転軸Xの径方向に間隔W2を空けて対向している。
【0100】
鉛直線VL方向からみて、ドライブシャフトDAと、モータシャフト20と、リップシールRS1と、凹部75とは、水平線HL方向(図11における左右方向)で、オーバーラップしている。
【0101】
図10に示すように、回転軸Xの径方向から見て、リップシールRS1とモータシャフト20と接触部における最下点Pa1は、凹部75と重なる位置に設けられている。
【0102】
凹部75は、壁部70の一部をモータ室Sa側に窪ませて形成したものである。モータ室Sa側から見ると、壁部70における凹部75が設けられた部分は、モータ室Sa側に突出した凸部76を構成する。回転軸Xの径方向から見て、凸部76は、コイルエンド253aの内径側に位置している。
【0103】
ここで、図10に示すように、モータ室Saには、センサ27のコネクタ部273が設けられている(図中、仮想線参照)。コネクタ部273は、コイルエンド253aの内径側に設けられていると共に、回転軸Xよりも鉛直線VL方向上側に位置している。従って、コイルエンド253aの内径側の空間は、コネクタ部273周りの領域が狭くなっている。一方で、コネクタ部273が設けられていない領域では、コイルエンド253aの内径側の空間は広い。
【0104】
凸部76は、回転軸Xの径方向から見て、コネクタ部273を避けた位置に設けられており、コイルエンド253aの内径側の空間を有効利用している。
【0105】
モータ室Saにおいて、壁部70とコイルエンド253aとのクリアランスは、凸部76が設けられた領域が最も狭くなる。凸部76とコイルエンド253aの最短距離はL76である。この最短距離L76は、絶縁性を保つ距離に設定されている。
【0106】
図12は、第2カバー8を説明する図である。図12は、第2カバー8を第1カバー7側から見た斜視図で示している。
図13は、第2カバー8を説明する図である。図13は、第2カバー8を第1カバー7側から見た正面図で示している。なお、図12図13では、壁部80の領域を見やすくするために、壁部80にクロスハッチングを付してある。
【0107】
(第2カバー8)
図12に示すように、第2カバー8は、壁部80の外周側に接合部82が設けられている。接合部82には、板状の蓋部822が設けられている。蓋部822は接合部82と一体に形成されている。蓋部822は接合部82から径方向外側に膨出している。図13に示すように、蓋部822は、回転軸Xを通る鉛直線VLを挟んだ他方側(図中左側)に設けられている。
【0108】
図14は、カバー部材13の分解斜視図である。
図15は、油だまり部9の油面9Uを説明する図である。図15は、カバー部材13における凹部75周りの領域を切断した断面の模式図である。図15では、空間Scに貯留されたオイルOLの範囲を明確にするために、クロスハッチングを付して示している。
図16は、油だまり部9の油面9Uを上方から見たときの形状を説明する図である。図16は、図15のA-A断面を模式的に示した図である。図16では、油面9Uに対応する領域にクロスハッチングを付してある。
なお、図15図16では、ドライブシャフトDA、モータシャフト20、リップシールRS1、RS2及びベアリングB7、B8と、油面9Uとの位置関係を説明するために、ドライブシャフトDA、モータシャフト20、リップシールRS1、RS2及びベアリングB7、B8をそれぞれ仮想線で示している。
【0109】
図14に示すように、第2カバー8の接合部82は、第1カバー7の周壁部71に回転軸X方向から接合される。第2カバー8の蓋部822は、第1カバー7のボックス部712に回転軸X方向から接合される。これにより、第1カバー7の挿通孔70aと第2カバー8の挿通孔80aとが回転軸X上に同心に配置される。第1カバー7のボックス部712の開口は、第2カバー8の蓋部822によって塞がれる。
【0110】
図15に示すように、第1カバー7と第2カバー8とを接合すると、回転軸X方向における壁部70と壁部80との間に、空間Scが形成される。空間Scは、凹部75が設けられた領域が、凹部75が設けられてない領域よりも回転軸X方向に広くなっている。
【0111】
具体的には、凹部75が設けられていない領域では、回転軸X方向における空間Scの長さは、壁部70と壁部80との間隔T1となる。凹部75が設けられた領域では、回転軸X方向における空間Scの長さは、凹部75の底面75eと壁部80との間隔(T1+T2)となる。すなわち、凹部75を設けられた領域だけ長さT2だけ長くなっている。
【0112】
モータシャフト20の内周とドライブシャフトDAの外周との隙間CLが、空間ScからのオイルOLの排出路となっている。そのため、動力伝達装置1の車両への設置状態を基準とした鉛直線VL方向で、油だまり部9の油面9Uは、リップシールRS1とモータシャフト20の外周との接触部における最下点Pa1よりも上側に位置する高さとなる。
すなわち、油面9Uの一部は、凹部75内に収容される。従って、油だまり部9は、鉛直線VL方向上側の領域である油面9U側が、下側の領域よりも回転軸X方向に厚みを持った形状を有している。凹部75内において、油だまり部9は、底面75eと下面75bに倣う形状を有する。
【0113】
ここで、回転軸Xの径方向(水平線方向)から見て、凹部75は、リップシールRS1、RS2及びベアリングB7、B8と、重なる位置関係で設けられている。そのため、凹部75内にオイルOLが貯留されると、貯留されたオイルOLに、リップシールRS1、RS2及びベアリングB7、B8が、油没するようになっている。
【0114】
図16に示すように、鉛直線VL方向上側から見て、油面9Uは、凹部75内において、内周面75cと底面75eと外周面75dとに倣う形状を有する。
また、油面9Uは、回転軸X方向におけるモータシャフト20の一端20aとドライブシャフトDAの段部DA4との間を回転軸Xに直交する水平線HL方向に横切ると共に、回転軸Xを挟んだ一方側の凹部75と他方側の凹部75とに跨がる範囲となる。2つの凹部75、75に収容された油面9Uの高さは同じである(図15参照)。
【0115】
図14では、第1カバー7の壁部70と第2カバー8の壁部80との間の空間Scに貯留されたオイルOLの形状を、油だまり部9の形状として、模式的に示している。
油だまり部9は、空間Sc内の下部に貯留されたオイルOLの形状に対応する基部90と、第1カバー7の凹部75、75に流入したオイルOLの形状に対応する拡大部91、91を有する。
油だまり部9は、凹部75、75に収容された領域が、他の領域よりも回転軸X方向に厚くなっている。すなわち、油だまり部9は、鉛直線VL方向上側が、下側より回転軸X方向に厚い拡大部91、91を有する。
【0116】
図17図19は、油だまり部9を説明する図である。
図17は、油だまり部9の斜視図である。図17は、油だまり部9を、図14における第1カバー7側から見た図である。
図18は、図17の油だまり部9の上面図である。
図19は、図17の油だまり部9の側面図である。
なお、図17図18では、油面9Uの範囲を見やすくするために、油面9Uにクロスハッチングを付してある。
【0117】
図17に示すように、油だまり部9は、略半円板形状の基部90と、当該基部90から、回転軸X方向に延びる2つの拡大部91、91を有する。
【0118】
図19に示すように、鉛直線VL方向における基部90の上面90Uは、鉛直線VLに直交する平坦面である。回転軸X方向における基部90の一方の面90aと他方の面90bは、回転軸Xに直交する平坦面である。基部90の一方の面90aは、第2カバー8の壁部80(図14参照)に対向する。基部90の他方の面90bは、第1カバー7の壁部70(図14参照)に対向する。
【0119】
図18に示すように、鉛直線VL方向上側から見て、基部90の一方の面90aには、回転軸Xの径方向における中央に凹部901が開口している。凹部901は、第2カバー8の周壁部84(図16参照)の形状に対応する窪みである。基部90の他方の面90bには、回転軸Xの径方向における中央に凹部902が開口している。凹部902は、モータシャフト20の一端20a(図16参照)側の形状に対応する窪みである。
【0120】
図18に示すように、拡大部91、91は、基部90の他方の面90bに位置している。拡大部91、91は、回転軸Xの径方向における基部90の両端部に位置している。
図19に示すように、拡大部91、91は、回転軸X方向で基部90から離れる向きに延びている。回転軸X方向における拡大部91の先端面91eは、凹部75の底面75e(図10参照)との接触面である。
【0121】
図17に示すように、回転軸X方向から見て拡大部91、91は、回転軸Xを囲む弧状を成している。
拡大部91は、回転軸X周りの周方向に沿う内周面91cと外周面91dを有する。また、拡大部91は、内周面91cと外周面91dの端部同士を接続する上面91U(図18参照)と下面91bと、を有する。これら内周面91c、外周面91d及び下面91bは、それぞれ凹部75の内周面75c、外周面75d、下面75bとの接触面である(図10図11参照)。
【0122】
図18に示すように、拡大部91の上面91Uは、鉛直線VLに直交する平坦面である。拡大部91の上面91Uは、基部90の上面90Uと面一である。拡大部91の上面91Uと基部90の上面90Uとで、油だまり部9の油面9Uを構成する。図17に示すように、拡大部91の外周面91dは、基部90の外周面90cと面一である。
【0123】
図19に示すように、回転軸X方向における基部90の厚みはT1である。基部90の厚みT1は、回転軸X方向における第1カバー7の壁部70と第2カバー8の壁部80との間隔と整合する(図15参照)。また、回転軸X方向における拡大部91の厚みはT2である。拡大部91の厚みT2は、回転軸X方向における壁部70の側面701から凹部75の底面75eまでの距離T2と整合する(図11参照)。
【0124】
図18に示すように、回転軸Xの径方向における基部90の幅はW1である。基部90の幅W1は、回転軸Xを挟んだ一方側の凹部75の外周面75dと他方側の凹部75の外周面75dとの間隔W1と整合する(図11参照)。また、回転軸Xの径方向における拡大部91の幅はW2である。拡大部91の幅W2は、凹部75の内周面75cと外周面75dとの間隔W2と整合する(図11参照)。
【0125】
かかる構成の動力伝達装置1の作用を説明する。
図1に示すように、動力伝達装置1では、モータ2の出力回転の伝達経路に沿って、遊星減速ギア4と、差動機構5と、ドライブシャフトDA、DBと、が設けられている。
【0126】
図2に示すように、モータ2が駆動されて、ロータコア21が回転軸X回りに回転すると、ロータコア21と一体に回転するモータシャフト20を介して、遊星減速ギア4のサンギア41(図3参照)に回転が入力される。
【0127】
遊星減速ギア4では、サンギア41が、モータ2の出力回転の入力部となっており、段付きピニオンギア43を支持するデフケース50が、入力された回転の出力部となっている。
【0128】
図3に示すように、サンギア41が入力された回転で回転軸X回りに回転すると、段付きピニオンギア43(大径歯車部431、小径歯車部432)が、サンギア41側から入力される回転で、軸線X1回りに回転する。
ここで、段付きピニオンギア43の小径歯車部432は、ギアケース14の内周に固定されたリングギア42に噛合している。そのため、段付きピニオンギア43は、軸線X1回りに自転しながら、回転軸X周りに公転する。
【0129】
ここで、段付きピニオンギア43では、小径歯車部432の外径が大径歯車部431の外径よりも小さくなっている。
これにより、段付きピニオンギア43を支持するデフケース50が、モータ2側から入力された回転よりも低い回転速度で回転軸X回りに回転する。
そのため、遊星減速ギア4のサンギア41に入力された回転は、段付きピニオンギア43により、大きく減速されたのちに、デフケース50(差動機構5)に出力される。
【0130】
図2に示すように、デフケース50が入力された回転で回転軸X回りに回転することにより、デフケース50内で、ピニオンメートギア52と噛合するドライブシャフトDA、DBが回転軸X回りに回転する。これにより動力伝達装置1が搭載された車両の左右の駆動輪W、W(図1参照)が、伝達された回転駆動力で回転する。
【0131】
ギア室Sbの内部には、潤滑用のオイルOLが貯留される。ギア室Sbにおいては、モータ2の出力回転の伝達時に、ギア室Sbに貯留されたオイルOLが、回転軸X回りに回転するデフケース50により掻き上げられる。
図3及び図4に示すように、掻き上げられたオイルOLにより、遊星減速ギア4のサンギア41と大径歯車部431との噛合部と、小径歯車部432とリングギア42との噛合部が潤滑される。また、掻き上げられたオイルOLにより、差動機構5のピニオンメートギア52とサイドギア54A、54Bとの噛合部とが潤滑される。
すなわち、遊星減速ギア4は、第1被潤滑部材を構成する。小径歯車部432とリングギア42との噛合部における最下点Pbは、第1被潤滑部材の潤滑対象箇所の重力方向下側の最下点である(図6参照)。
【0132】
図5に示すように、デフケース50は、回転軸X周りの時計回り方向CWに回転する。
ギアケース14の上部には、キャッチタンク15が設けられている。キャッチタンク15は、デフケース50の回転方向における下流側に位置しており、デフケース50で掻き上げられたオイルOLの一部は、キャッチタンク15内に流入する。
【0133】
図4に示すように、キャッチタンク15に流入したオイルOLの一部は、油路151aを介して、リップシールRSとベアリングB2との間の空間Rxに供給され、ベアリングB2を潤滑する。
【0134】
また、図6に示すように、キャッチタンク15に流入したオイルOLの一部は、配管P1を介してカバー部材13の空間Scに供給される。空間Scに供給されたオイルOLの一部は、空間Scの下部に溜まって油だまり部9を形成する。空間ScのオイルOLの一部は、モータシャフト20とドライブシャフトDAとの隙間CLからギア室Sbに戻される。
【0135】
図20図22は、油だまり部9の油面9Uの変化を説明する図である。
図20は、油だまり部9の体積の減少を説明する図である。
図21は、回転軸Xの径方向(水平線方向)から見た油面9Uの変位を説明する図である。
図22は、回転軸X方向から見た油面9Uの変位を説明する図である。図22は、図21の油面9UをA-A矢視方向から見た図である。図22では、リップシールRS1とモータシャフト20を仮想線で示している。また、リップシールRS1にはハッチングを付してある。
【0136】
オイルOLの体積は、温度変化に伴って変動する。例えば外気温の低下によりオイルOLの温度が下がると、オイルOLの体積も減少する。そうすると、空間Sc内に貯留されたオイルOLの油面9Uは、温度の低下に伴って低下する。
図20に示すように、油だまり部9の体積の減少量ΔVは、油面9Uの面積S9と鉛直線VL方向の変位量ΔH1の積で求めることができる(ΔV=S9×ΔH1)。
ここで、温度の低下に伴う油だまり部9の体積の減少量ΔVは一定である。すなわち、油面の面積S9が大きくなるほど、鉛直線VL方向の変位量ΔH1は小さくなる。
【0137】
図20に示すように、油だまり部9の油面9Uの面積S9は、基部90の上面90Uの面積S90と、拡大部91の上面91Uの面積S91の和である(S9=S90+2×S91)。
【0138】
図18に示すように、基部90における上面90Uの面積S90は、回転軸Xの径方向の幅W1と、回転軸X方向の厚みT1との積である(S90=W1×T1)。なお、上面90Uにおける凹部901と凹部902の開口面積については、無視する。
拡大部91における上面91Uの面積S91は、回転軸Xの径方向の幅W2と、回転軸X方向の厚みT2との積である(S91=W2×T2)。
【0139】
図21に示すように、凹部75内のオイルOLは、油だまり部9の拡大部91となる。凹部75内にオイルOLが存在する状態においてオイルOLの温度が低下すると、凹部75内のオイルOLの高さが低くなる。
そうすると、油だまり部9の高さ位置は、油面9Uから、鉛直線VL方向にΔH1だけ低下して、油面9U’となる(図中破線参照)。
【0140】
本実施形態にかかる油だまり部9では、油面9Uの面積を基部90の面積S90と拡大部91の面積S91の和とすることで、油面9Uの位置がΔH1だけ下がるようにしている。
これにより、図22に示すように、低下後の油面9U’が、水平線HL2よりも上側に位置した状態を維持できるようになっている。水平線HL2は、リップシールRS1とモータシャフト20との接触部における最下点Pa1を通る水平線である。
よって、モータシャフト20とリップシールRS1との接触部がオイルOLに浸かった状態を維持できる。
【0141】
以下、本実施形態にかかる油だまり部9の拡大部91、91の優位性を説明するために、拡大部91、91を有していない油だまり部900を、比較例として説明する。
なお、以下の説明は、以下の前提の下で行う。比較例にかかる油だまり部900は、本実施形態にかかる油だまり部9と同じ体積であると共に、同じ温度に設定されている。以下の比較例では、本実施形態と異なる部分のみを説明する。
図23は、比較例にかかる油だまり部900を説明する図である。
図24は、比較例にかかる油だまり部900を説明する上面図である。
図25は、比較例にかかる油だまり部900の油面の変位を説明する図である。図25では、リップシールRS1とモータシャフト20を仮想線で示してある。
【0142】
図23に示すように、比較例にかかる油だまり部900は、回転軸X方向から見て略半円板形状を成している。油だまり部900の油面900Uは、鉛直線VLに直交する平坦面である。油だまり部900は、本実施形態にかかる油だまり部9の拡大部91に相当する突出部を有していない。
【0143】
図24に示すように、鉛直線VL方向上側から見て、油だまり部900の油面900Uには、回転軸Xの径方向における中央に凹部901、902が開口している。凹部901、902は、第2カバー8の周壁部84の形状とモータシャフト20の形状にそれぞれ対応する窪みである。
【0144】
回転軸X方向における油だまり部900の厚みは、T3である。油だまり部900の厚みT3は、本実施形態にかかる油だまり部9の基部90の厚みT1よりも厚く、かつ油だまり部9の基部90と拡大部91とを合わせた厚み(T1+T2)よりも薄い(T1<T3<(T1+T2)、図18参照)。
【0145】
図24に示すように、油だまり部900の油面900Uの面積S900は、回転軸Xの径方向の幅W1と、回転軸X方向の厚みT3との積である(S900=W1×T3)。なお、油面900Uにおける凹部901と凹部902の開口面積については、無視する。
油面900Uの面積S900は、油だまり部9の油面9Uの面積S9(図20参照)よりも小さい(S900<S9)。
【0146】
ここで、温度低下に伴う油だまり部900の体積の減少量ΔVは、油だまり部9の減少量ΔVと同じである。図23に示すように、油だまり部900の体積の減少量ΔVは、油面900Uの面積S900と、鉛直線VL方向の変位量ΔH2の積となる(ΔV=S900×ΔH2)。
【0147】
油だまり部900の油面900Uの面積S900は、油だまり部9の油面9Uの面積S9よりも小さい。従って、油だまり部900は、鉛直線VL方向の変位量ΔH2が、油だまり部9の変位量ΔH1よりも大きくなる(ΔH2>ΔH1)。
【0148】
図25に示すように、油だまり部900では、温度が低下すると、油面900Uが鉛直線VL方向にΔH2だけ低下する。そうすると、低下後の油面900U’が、最下点Pa1を通る水平線HL2よりも下側に位置することがある。そうすると、モータシャフト20とリップシールRS1との接触部へのオイルOLの供給が不足する虞がある。潤滑が不足すると、リップシールRS1の耐久性の低下につながる。
【0149】
これに対して、本実施形態にかかる油だまり部9は、拡大部91を設けることで油面9Uの面積S9を広くしている。これにより、温度の低下によってオイルOLの体積が減少しても、油面9U高さの低下量を小さくしている(図22参照)。よって、モータシャフト20とリップシールRS1との接触部へのオイルOLの供給が不足することを低減している。
【0150】
下記に、本発明の一態様を列挙する。
(1)動力伝達装置1(装置)は、
モータ2と、
回転軸X方向におけるモータ2の一方側に設けられた歯車装置3と、
回転軸X方向におけるモータ2の他方側に設けられた油だまり部9と、
油だまり部9に設けられたリップシールRS1(第2被潤滑部材)と、
歯車装置3側と油だまり部9とを連通する連通路Qと、を有する。
歯車装置3は、遊星減速ギア4(第1被潤滑部材)を有する。
連通路Qは、遊星減速ギア4の潤滑対象箇所であるリングギア42と小径歯車部432との噛合部の最下点Pb及び、リップシールRS1のリップ部RS1a(潤滑対象箇所)の鉛直線VL方向(重力方向)下側の最下点Pa1よりも上側に設けられている。
回転軸Xの径方向から見て、油だまり部9は、鉛直線VL方向上側が下側より回転軸X方向に厚い拡大部91を有する。
拡大部91内には、リップシールRS1の最下点Pa1が位置している。
【0151】
オイルOLの体積は、温度低下に伴い減少する。そうすると、油面位置は低下する。
ここで、歯車装置3側と油だまり部9とを連通する連通路Qが、歯車装置3側の潤滑対象箇所の最下点Pbよりも下側に設けられている場合、歯車装置3側の油面位置は、連通路Qよりも高い位置となる。連通路Qを介して歯車装置3側のオイルOLと油だまり部9とが接続されるため、歯車装置3側の油面と油だまり部9の油面9Uは同じ高さで維持される(パスカルの原理)。油だまり部9の油面9Uが低下すると、平衡状態を維持するために、歯車装置3側から油だまり部9側にオイルOLが移動する。これにより、温度が低下しても、最終的な油だまり部9の油面位置は、潤滑対象箇所であるリップシールRS1の最下点Pa1よりも上側に位置した状態を維持しやすい。
【0152】
一方で、本発明の一態様で示したように、連通路Qが、潤滑対象箇所であるリングギア42の最下点Pb及び、リップシールRS1の最下点Pa1よりも上側に設けられている場合には、ギア室Sb内のオイルOLと油だまり部9とが接続されなくなることがある。
そうすると、パスカルの原理を利用して油だまり部9の油面高さを維持することが難しくなる。油だまり部9のみで油面高さをコントロールできることが好ましい。
【0153】
例えば、比較例にかかる油だまり部900(図23参照)を有する動力伝達装置(車両)において、オイルOLが高温の状態で停止したのち、オイルOLが極低温の状態で再発進すると、温度低下によりオイルOLの体積が減少して油面位置が下がる。そうすると、リップシールRS1がオイルOLから露出することが懸念される。リップシールRS1がオイルOLから露出すると、潤滑が不足し、リップシールRS1の耐久性の低下につながる。
対策としては、油面変化の影響を受けないように、十分なオイル量を空間Sc内に充填して、油だまり部900の油面位置を十分に高くしておくことが考えられる。しかしながら、使用するオイルOLの量が増えるため、動力伝達装置全体の重量が増加し、燃費の悪化が懸念される。
【0154】
そこで、上記のように構成して、油だまり部9に拡大部91を設けて、重力方向上側が下側より回転軸X方向に厚い形状とすることで、温度が低下しても油面位置が変化しにくくなっている。これにより、油面が低下してもリップシールRS1の最下点Pa1がオイルOLに浸かった状態が維持される。従って、使用するオイル量を最小限にすることができる。これにより、重量増加による燃費悪化を低減しつつ、リップシールRS1の耐久性の低下を防止できる潤滑性の高い動力伝達装置1を提供できる。
【0155】
(2)動力伝達装置1は、モータシャフト20とドライブシャフトDAを有する。
連通路Qは、モータシャフト20とドライブシャフトDAの隙間CLを有する。
【0156】
このように構成すると、空間Sc側のオイルOLをギア室Sb側に戻すために配管や油路を別途形成する必要がなく、重量、コスト、レイアウトに有利である。
【0157】
(3)回転軸X方向におけるモータ2の他方側には、カバー部材13(カバー)が配置されている。
カバー部材13は、第1カバー7と第2カバー8とを有する。
第1カバー7と第2カバー8とは、回転軸X方向で接合される。
油だまり部9は、第1カバー7と第2カバー8との間の空間Scに設けられている。
第1カバー7は、回転軸Xに窪む凹部75を有する。
凹部75は、回転軸X方向におけるモータ2側に窪んで、油だまり部9の拡大部91を収容する。
回転軸Xの径方向からみて、凹部75の下面75bは、回転軸X方向におけるモータ2に近づくにつれ鉛直線VL方向上に向かって傾斜する。
【0158】
第1カバー7は、鋳造により形成される。第1カバー7の鋳抜き方向は、回転軸Xに沿う方向である。
そこで、上記のように構成して、凹部75の下面75bに傾斜をつけることで、抜き勾配が形成される。これにより、第1カバー7を製造しやすくなる。
【0159】
(4)モータ2を収容するモータ室Saには、センサ27のコネクタ部273が配置されている。コネクタ部273は、モータ室Sa内における鉛直線VL方向上側で、モータ2のコイルエンド253aの内周側に位置している。
回転軸Xの径方向から見て、凹部75は、コイルエンド253aの内周側に位置している。凹部75は、コネクタ部273を避けた位置に設けられている。
回転軸X方向において、第1カバー7における凹部75と反対側の領域には、モータ2側に突出する凸部76が設けられている。凸部76とコイルエンド253aとの間にはクリアランスが設けられている。凸部76とコイルエンド253aとの最短距離L76は、絶縁距離を保つ距離に設定されている。
【0160】
図11に示すように、センサ27のコネクタ部273は、回転軸Xよりも鉛直線VL方向上側に設けられている。また、コネクタ部273は、コイルエンド253aの内径側に設けられている。従って、コネクタ部273周りの領域では、コイルエンド253aの内径側の空間は狭い。一方で、回転軸Xよりも鉛直線VL方向下側では、コイルエンド253aの内径側の空間に余裕がある。
そこで、上記のように構成して、鉛直線VL方向下側におけるコイルエンド253aの内径側の空間を有効利用することで、カバー部材13の回転軸X方向へのサイズアップを低減できる。
従って、カバー部材13をサイズアップすることなく、油だまり部9の油面9Uの面積S9を広げることができる。
【0161】
(変形例1)
ここで、本実施形態にかかる油だまり部9は、拡大部91が基部90から第1カバー7側に延びているものを例示したが、この形状に限定されるものではない。油だまり部9は、油面の面積を拡大できる形状であれば良い。以下の変形例1では、本実施形態と異なる部分のみを説明する。
【0162】
図26図27は変形例1にかかる動力伝達装置1Aを説明する図である。
図26は、カバー部材13Aの分解斜視図である。
図27は、カバー部材13Aにおける凹部75Aの断面の模式図である。
【0163】
図26に示すように、第1カバー7Aでは、凹部75Aが回転軸Xを囲む弧状に形成されている。また、第2カバー8Aでは、壁部80Aから第1カバー7側に突出する凸部85を有している。凸部85は、回転軸Xを囲む弧状を成している。
【0164】
図27に示すように、第1カバー7Aと第2カバー8Aを接合した状態において、凹部75Aの底面75eは、凸部85の端面85aと回転軸X方向に間隔を空けて対向する。また、鉛直線VL方向において、凸部85の上面85bは、凹部75Aの上面75aよりも下側に位置する。
【0165】
凸部85の上面85bは、回転軸X方向で第1カバー7Aから離れるにつれて、鉛直線VL方向上側に向かって傾斜している。また、図26に示すように、凸部85の上面85bは、外径側から内径側に向かうにつれて鉛直線VL方向上側に向かって傾斜している。
【0166】
図27に示すように、第1カバー7Aと第2カバー8Aとの間には、油だまり部9Aが形成される。油だまり部9Aは、基部90Aと、当該基部90Aよりも回転軸X方向に厚い拡大部91Aを有する。拡大部91Aは、基部90Aから回転軸Xにおける第2カバー8A側に延びている。
【0167】
油だまり部9Aは、拡大部91Aを有しており、油面9Uの面積を大きくしている。温度が低下して油だまり部9Aの体積が減少しても、油面9Uの低下量はΔH1となる。また、凸部85を設けることで、油だまり部9Aの使用量が増えることを低減している。
これにより、重量増加による燃費悪化を低減しつつ、リップシールRS1の耐久性の低下を防止できる潤滑性の高い動力伝達装置1Aを提供できる。
【0168】
(5)回転軸X方向におけるモータ2の他方側には、カバー部材13A(カバー)が配置されている。
カバー部材13Aは、第1カバー7Aと第2カバー8Aとを有する。
油だまり部9Aは、第1カバー7Aと第2カバー8Aとの間の空間Scに設けられている。
第1カバー7Aは、モータ2側に窪む凹部75Aを有する。
第2カバー8Aは、モータ2側に突出する凸部85を有する。
鉛直線VL方向において、凸部85の上面85bは、凹部75Aの上面75aよりも下側に設けられていると共に、モータ2から離れるにつれ鉛直線VL方向上に向かって傾斜する。
【0169】
第2カバー8Aは、鋳造により形成される。第2カバー8Aの鋳抜き方向は回転軸Xに沿う方向である。
そこで、上記のように構成して、凸部85の上面85bに傾斜をつけることで、抜き勾配が形成される。これにより、第2カバー8Aを製造しやすくなる。
【0170】
(変形例2、3)
本実施形態では、油だまり部9は、回転軸X方向から見て回転軸Xを通る鉛直線VLを挟んで左右対称であると共に、鉛直線VL方向上側から見て回転軸Xを挟んで左右対称である場合を例示した。しかしながら、油だまり部の形状は、左右対称な形状に限定されるものではない。例えば、モータ室Saにはモータ2に電力を供給するための配線(図示せず)、制御装置に接続される信号線等が配置される。油だまり部を形成する凹部の形状は、モータ室Sa側の各部品の配置の要請に応じた形状とすることができる。以下の変形例2、3では、本実施形態と異なる部分のみを説明する。
【0171】
(変形例2)
図28は、変形例2にかかる動力伝達装置1Bを説明する図である。また、リップシールRS1及びモータシャフト20を仮想線で示してある。
【0172】
図28に示すように、変形例2にかかる動力伝達装置1Bでは、回転軸Xを通る鉛直線VLを挟んだ一方側に凹部75(図中、左側)が設けられており、他方側に凹部75B(図中、右側)が設けられている。凹部75と凹部75Bは鉛直線VLを挟んで非対称な形状である。
【0173】
具体的には、凹部75の下面75bは、回転軸Xを通る半径線Lm1に沿う向きに設けられている。一方、凹部75Bの下面75b’は、水平線HL3に沿う向きに設けられている。凹部75Bは、最下点Pa1を通る水平線HL2を鉛直線VL方向における上側から下側に横断する範囲に設けられている。
【0174】
凹部75、75Bにはそれぞれ壁部70から紙面奥側に窪んでいる。凹部75、75B内のオイルOLは、それぞれ油だまり9Bの拡大部91、91Bを構成する(図中、太線部分参照)。
この場合において、凹部75、75Bは鉛直線VLを挟んで左右非対称形状である。従って、これら凹部75、75Bに収容される拡大部91、91Bの形状もまた、鉛直線VLを挟んで左右非対称形状となる。
【0175】
回転軸X方向から見て、油だまり部9Bは、拡大部91、91Bの形状が異なるものの、共通の油面9Uを有する。従って、凹部75、75BにオイルOLが収容される分だけ油面9Uの面積を大きくすることができる。
【0176】
(6)油だまり部9Bの形状は、モータ2の軸中心である回転軸X方向から見て、回転軸Xを通る鉛直線VLを挟んだ一方側の拡大部91の形状と、他方側の拡大部91Bの形状が非対称の形状である。
【0177】
このように構成すると、モータ室Sa側の部品の配置の自由度を向上させると共に、油だまり部9Bの油面9Uの面積を確保できる。
【0178】
(変形例3)
図29は、変形例3にかかる動力伝達装置1Cを説明する図である。図29では、油だまり部9Cに対応する領域にクロスハッチングを付してある。また、ドライブシャフトDAやモータシャフト20を仮想線で示している。
【0179】
図29に示すように、動力伝達装置1Cでは、鉛直線VL方向からみて、回転軸Xを挟んだ一方側に凹部75C(図中、左側)が設けられており、他方側に凹部75D(図中、右側)が設けられている。凹部75Cと凹部75Dは回転軸Xを挟んで非対称な形状である。
【0180】
具体的には、凹部75Cの底面75eは、側面701から回転軸X方向に距離T21だけオフセットしている。凹部75Dの底面75eは、側面701から回転軸X方向に距離T22だけオフセットしている。
【0181】
凹部75Cの距離T21は、本実施形態にかかる側面701から底面75eまでの距離T2(図11参照)よりも短い(T21<T2)。
凹部75Dの距離T22は、本実施形態にかかる側面701から底面75eまでの距離T2(図11参照)よりも長い(T22>T2)。
【0182】
凹部75C、75Dには、それぞれ油だまり9Cの拡大部91C、91Dが収容される。
凹部75C、75Dは、回転軸Xを挟んで左右非対称形状であるので、拡大部91C、91Dの形状もまた、回転軸Xを挟んで左右非対称形状となる。
【0183】
鉛直線VL方向上側から見て、油だまり部9Cは、拡大部91Cを短くした一方で、拡大部91Dを長くしている。すなわち、油だまり部9C全体の油面の面積は維持されている。
【0184】
(7、8)油だまり部9Cの形状は、鉛直線VL方向上側から見て、モータ2の軸中心である回転軸Xを挟んだ一方側の拡大部91Cの形状と他方側の拡大部91Dの形状が非対称の形状である。
【0185】
このように構成すると、モータ室Sa側の部品の配置の自由度を向上させると共に、油だまり部9Cの油面の面積を確保できる。
【0186】
これら本実施形態及び変形例1~3にかかる凹部75~75D(拡大部91~91D)の形状は、モータ室Sa側の部品の配置の要請に応じて適宜組み合わせることができる。
【0187】
なお、本実施形態では、カバー部材13が、第1カバー7と第2カバー8の2つの部材で構成されているものを例示したがこの態様に限定されない。カバー部材13は2つ以上の部材で構成されても良い。
【0188】
また、図6に示すように、本実施形態の連通路Qは、配管P1がカバー部材13の空間ScへオイルOLを供給する供給油路を構成し、隙間CLが空間Scからギア室SbへオイルOLを戻す戻り油路を構成する場合を例示したが、この態様に限定されない。例えば連通路は、供給と排出とを共用できるものとしても良い。例えばポンプ等を用いて供給と排出の切り替えることで、空間Sc内のオイル量を適宜調整することができる。
【0189】
本発明のある態様において、歯車装置は、例えば、歯車機構、環状機構等を有する。
歯車機構は、例えば、減速歯車機構、増速歯車機構、差動歯車機構(差動機構)等を有する。
減速歯車機構及び増速歯車機構は、例えば、遊星歯車機構、平行歯車機構等を有する。
環状機構は、例えば、無端環状部品等を有する。
無端環状部品等は、例えば、チェーンスプロケット、ベルトとプーリ等を有する。
【0190】
差動機構は、例えば、傘歯車式のデファレンシャルギア、遊星歯車式のデファレンシャルギア等である。
差動機構は、入力要素であるデファレンシャルケースと、出力要素である2つの出力軸と、差動要素である差動歯車セットと、を有する。
傘歯車式のデファレンシャルギアにおいて、差動歯車セットは傘歯車を有する。
遊星歯車式のデファレンシャルギアにおいて、差動歯車セットは遊星歯車を有する。
【0191】
動力伝達装置は、デファレンシャルケースと一体回転するギアを有する。
例えば、平行歯車機構のうちのファイナルギア(デフリングギア)は、デファレンシャルケースと一体に回転する。例えば、遊星歯車機構のキャリアとデファレンシャルケースとが接続している場合、ピニオンギアがデファレンシャルケースと一体に回転(公転)する。
【0192】
例えば、モータの下流に減速歯車機構が接続されている。減速歯車機構の下流に差動歯車機構が接続されている。即ち、モータの下流には、減速歯車機構を介して差動歯車機構が接続されている。なお、減速歯車機構に替えて増速歯車機構としても良い。
シングルピニオン型の遊星歯車機構は、例えば、サンギアを入力要素とし、リングギアを固定要素とし、キャリアを出力要素とすることができる。
ダブルピニオン型の遊星歯車機構は、例えば、サンギアを入力要素とし、リングギアを出力要素とし、キャリアを固定要素とすることができる。
シングルピニオン型又はダブルピニオン型の遊星歯車機構のピニオンギアは、例えば、ステップドピニオンギア、ノンステップドピニオンギア等を用いることができる。
ステップドピニオンギアは、ラージピニオン及びとスモールピニオンとを有する。例えば、ラージピニオンをサンギアに噛合させると好適である。例えば、スモールピニオンをリングギアに嵌合させると好適である。
ノンステップドピニオンギアは、ステップドピニオンギアではない形式である。
【0193】
また、本実施形態では、装置が、モータを搭載した車両の動力伝達装置(パワートレイン装置(変速機、減速機等))である場合を例示したが、これに限定されない。装置は、モータを搭載する装置であればよい。例えば、モータを備える装置であれば、車両以外にも適用することができる。
また、歯車装置は、歯車を含む機構全体である。例えば、本実施形態の場合は、歯車装置3は、遊星減速ギア4と差動機構5(デファレンシャルギア)とから構成される。
【0194】
ここで、本明細書における用語「下流に接続」とは、上流に配置された部品から下流に配置された部品へと動力が伝達される接続関係にあることを意味する。
例えば、モータ(回転電機)の下流に接続された遊星減速ギアという場合は、モータから遊星減速ギアへと動力が伝達されることを意味する。なお、例えば、モータの下流に、変速機構(変速機能を有する機構(有段変速機構、無段変速機構を含む))、クラッチなどを介して、歯車装置が接続されていても良い。この場合は、モータの動力が変速機構、クラッチなどを介して歯車装置に動力伝達される接続関係となる。
【0195】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0196】
1、1A~1C :動力伝達装置(装置)
2 :モータ
3 :歯車装置
4 :遊星減速ギア(第1被潤滑部材)
7、7A :第1カバー
8、8A :第2カバー
9、9A~9C :油だまり部
13、13A :カバー部材(カバー)
20 :モータシャフト
75、75A~75D :凹部
75b :下面
85 :凸部
91、91A~91D :拡大部
CL :隙間(連通路)
DA :ドライブシャフト
HL :水平線方向
Pa1 :リップシールとモータシャフトの接触部における最下点(第2被潤滑部材の潤滑対象箇所の最下点)
Pb :リングギアと小径歯車部との噛合部の最下点(第1被潤滑部材の潤滑対象箇所の最下点)
Q :連通路
RS1 :リップシール(第2被潤滑部材)
Sc :第1カバーと第2カバーとの間の空間
VL :鉛直線方向(重力方向)
X :回転軸(モータの軸中心)
図1
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