(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】装置
(51)【国際特許分類】
H02K 9/19 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
H02K9/19 A
(21)【出願番号】P 2024505896
(86)(22)【出願日】2022-11-29
(86)【国際出願番号】 JP2022044064
(87)【国際公開番号】W WO2023171053
(87)【国際公開日】2023-09-14
【審査請求日】2024-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2022037189
(32)【優先日】2022-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004141
【氏名又は名称】弁理士法人紀尾井坂テーミス
(72)【発明者】
【氏名】田中 大貴
(72)【発明者】
【氏名】前田 篤志
(72)【発明者】
【氏名】光山 明宏
(72)【発明者】
【氏名】石井 繁
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-207700(JP,A)
【文献】特開2006-115651(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0050764(US,A1)
【文献】特開2010-246268(JP,A)
【文献】特開2020-120556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 9/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、前記ロータの外周を囲むステータと、を有する回転電機と、
前記ステータのステータコアの外周を囲むケースと、を有し、
前記ステータコアの上部に液体が供給される供給孔を有する装置であって、
前記ケースの内周には、前記液体を前記ロータの回転軸方向の一方側に誘導するガイド部が、前記回転軸方向に沿う向きに設けられており、
前記回転軸方向からみたとき、前記ガイド部は前記回転軸を通る水平線よりも上方に位置し、
前記供給孔は、前記ステータの外周面に対向して配置されており、
前記ガイド部は、前記ケースの内周面と前記ステータの外周面との間に位置し、
前記回転軸方向における前記ガイド部の一端は、前記回転軸方向からみたとき、前記ロータのロータコアと前記ステータコアとの間のエアギャップを通る鉛直線よりも外側に配置されており、
前記回転軸方向から見たときに、前記エアギャップは、前記供給孔の下方に位置する、装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記回転軸の径方向からみたとき、前記ガイド部は、前記一端から他端に向かうにつれて、前記回転軸に近づく向きで設けられており、
前記回転軸方向からみたとき、前記他端は、前記一端よりも上側に位置している、装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記ケースの内周には、前記供給孔が開口しており、
前記供給孔は、前記回転軸方向における前記ステータコアの中間を通る直線とオーバーラップする部分を有する、装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記供給孔は、前記ガイド部の他端側に接続される、装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
前記ガイド部は、前記ケースの内周に設けられた溝である、装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
前記ガイド部は、前記ケースの内周から突出する突起により構成される、装置。
【請求項7】
請求項5において、
前記溝は、他端から前記一端に向かって細くなる形状である、装置。
【請求項8】
請求項6において、
前記突起は、他端から前記一端に向かって細くなる形状である、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、油冷式モータを備える装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モータは、ロータコアと、当該ロータコアの外周を囲むステータコアを有する。ステータコアとロータコアとの間には、エアギャップが設けられている。
例えば、油冷式モータのように、モータに冷却用の液体を直接供給する場合、液体の一部が、ステータコアとロータコアとの間のエアギャップに浸入することがある。エアギャップに液体が浸入すると、モータの回転抵抗となる。
【0005】
そこで、モータの回転抵抗を低減することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様における装置は、
ロータと、前記ロータの外周を囲むステータと、を有する回転電機と、
前記ステータのステータコアの外周を囲むケースと、を有し、
前記ステータコアの上部に液体が供給される装置であって、
前記ケースの内周には、前記液体を前記ロータの回転軸方向の一方側に誘導するガイド部が、前記回転軸方向に沿う向きに設けられており、
前記回転軸方向からみたとき、前記ガイド部は、前記回転軸を通る水平線よりも上方に位置し、
前記回転軸方向における前記ガイド部の一端は、前記回転軸方向からみたとき、前記ロータのロータコアと前記ステータコアとの間のエアギャップを通る鉛直線よりも外側に配置されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明のある態様によれば、モータの回転抵抗を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図8】
図8は、変形例1に係るガイド部を説明する図である。
【
図9】
図9は、変形例1に係るガイド部を説明する図である。
【
図10】
図10は、他の変形例に係るガイド部を説明する図である。
【
図11】
図11は、他の変形例に係るガイド部を説明する図である。
【
図12】
図12は、他の変形例に係るガイド部を説明する図である。
【
図13】
図13は、比較例に係るガイド部を説明する図である。
【
図14】
図14は、比較例に係るガイド部を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態では、装置の一態様として、車両用の駆動装置1を説明する。駆動装置1は、駆動源として回転電機であるモータ2を備える。
なお、図面上において複数の要素(部品、部分等)が所定方向に並んでいることが図示されている場合は、明細書の説明において、所定方向から見てオーバーラップしていることを説明した文章があるとみなして良い。「所定方向」は、たとえば、軸方向、径方向、重力方向、車両走行方向(車両前進方向、車両後進方向)等である。
【0010】
「所定方向から見て、第1要素(部品、部分等)は、第2要素(部品、部分等)と第3要素(部品、部分等)との間に位置する」とは、所定方向から観察した場合において、第1要素が第2要素と第3要素との間にあることが観察できることを意味する。「所定方向」とは、軸方向、径方向、重力方向、車両走行方向(車両前進方向、車両後進方向)等である。
例えば、第2要素と第1要素と第3要素とが、この順で軸方向に沿って並んでいる場合は、径方向から見て、第1要素は第2要素と第3要素との間に位置しているといえる。図面上において、所定方向から見て第1要素が第2要素と第3要素との間にあることが図示されている場合は、明細書の説明において所定方向から見て第1要素が第2要素と第3要素との間にあることを説明した文章があるとみなして良い。
【0011】
軸方向から見て、2つの要素(部品、部分等)がオーバーラップするとき、2つの要素は同軸である。
【0012】
「軸方向」とは、装置を構成する部品の回転軸の軸方向を意味する。「径方向」とは、装置を構成する部品の回転軸に直交する方向を意味する。「周方向」とは、装置を構成する部品の回転軸周りの周方向を意味する。部品は、例えば、モータ、歯車機構等である。
【0013】
図1は、駆動装置1の断面模式図である。
図2は、駆動装置1の要部拡大図である。
図3は、
図1におけるA-A断面の模式図である。
図3は、
図1のケース部11を、後記するガイド部5の先端部51と面一となる面で切断した切断面を模式的に示した図に相当する。
図3では、説明の便宜上、ステータコア30及びロータコア40の領域をクロスハッチングで示すと共に、コイルエンド35aの設けられた領域の一部を仮想線のクロスハッチングで示している。
図4は、
図3のB-B断面の模式図である。
図5は、駆動装置1の分解斜視図である。
図5ではコイル35やロータ4の図示は省略している。
なお、図面中、鉛直線VL方向と水平線HL方向は、駆動装置1を車両(図示せず)に搭載した状態を基準とした方向である。水平線HL方向は、車両前後方向に沿う水平線でもある。
【0014】
図1に示すように、駆動装置1は、モータ2と、モータ2を収容するモータケース10と、を有する。モータ2は油冷式である。モータ2は、電動機機能と発電機機能のうちの少なくとも一方の機能を有する。
【0015】
モータ2は、ロータ4と、ロータ4の外周を間隔を空けて囲むステータ3と、を有する。
ロータ4は、ロータコア40と、モータシャフト41と、を有する。
ロータコア40は、複数の珪素鋼板を積層して形成したものである。珪素鋼板の各々は、モータシャフト41との相対回転が規制された状態で、モータシャフト41に外挿されている。
【0016】
ステータ3は、ステータコア30と、コイル35と、を有する。
ステータコア30は、複数の電磁鋼板を積層して形成したものである。
ステータコア30は、ヨーク部31と、ティース部32とから構成される。ヨーク部31は、円筒形状を成している。ティース部32は、ヨーク部31の内周からロータコア40側に突出している。ヨーク部31の内周には、複数のティース部32が設けられている。複数のティース部32は、回転軸X回りの周方向に等間隔に並んでいる(
図5参照)。
【0017】
コイル35は、巻線をティース部32に巻きつけて形成したものである。コイル35は、回転軸X方向に突出するコイルエンド35a、35bの分だけ、ステータコア30及びロータコア40よりも回転軸X方向の長さが長くなっている(
図1参照)。
なお、コイル35は、複数のティース部32の各々に、巻線を分布巻きしたものであっても良いし、集中巻きしたものであっても良い。
【0018】
図2の拡大領域に示すように、ステータコア30のティース部32の内周面32aは、回転軸Xの径方向における外径側から、ロータコア40の外周面40aに対向している。ティース部32の内周面32aと、ロータコア40の外周面40aとの間に、回転軸Xの径方向の隙間(エアギャップ:GP)が確保されている。
なお、以下の説明では、「ティース部32の内周面32a」を、「ステータコア30の内周面32a」とも表記する。
【0019】
図3に示すように、ステータコア30は、3つのボス部315、316、317が設けられている。ボス部315、316、317は、ヨーク部31の外周面31c(
図1、
図5参照)から回転軸Xの径方向外側に膨出している。
3つのボス部315、316、317は、回転軸X回りの周方向に等間隔で設けられている。ボス部315、316、317は、回転軸X方向に沿ってヨーク部31の一端31aから他端31bまで延びている(
図4、
図5参照)。
なお、以下の説明では、「ヨーク部31の外周面31c」を、「ステータコア30の外周面31c」とも表記する。また、「ヨーク部31の一端31a」を「ステータコア30の一端31a」とも表記する。また、「ヨーク部31の他端31b」を「ステータコア30の他端31b」とも表記する。
【0020】
図5に示すように、ボス部315、316、317の各々には、ボルトBの挿通孔315a、316a、317aが形成されている。これら挿通孔315a、316a、317aは、ボス部315、316、317の各々を回転軸X方向に貫通している。
なお、本実施形態では、ヨーク部31の外周に、3つのボス部315、316、317を設ける例を示しているが、ボス部の数は、この態様にのみ限定されない。
【0021】
図3に示すように、回転軸X方向から見ると、ボス部315、316、317のうち、ボス部315は、ステータコア30の回転軸Xと交差する水平線HLより上方であって、回転軸Xから見て車両前方側(図中、右側)に配置されている。ボス部316は、水平線HLより下方であって、回転軸Xから見て車両前方側(図中、右側)に配置されている。ボス部317は、水平線HLと交差する位置であって、回転軸Xから見て車両後方側(図中、左側)に配置されている。
なお、ボス部315、316、317の配置は、
図3及び
図5に示した態様に限定されない。ボス部の配置は、ボス部の総数や、後記するケース部11内に配置される他の構成要素に応じて、適宜変更可能である。
【0022】
図1に示すように、駆動装置1のモータ2は、モータケース10に収容されている。
モータケース10は、ケース部11と、カバー部17とを、回転軸X方向で組み付けて形成される。モータケース10の内部にモータ2の収容室(モータ室S)が形成される。
【0023】
図1に示すように、カバー部17は、回転軸Xに直交する壁部170と、壁部170の外周縁を囲むフランジ状の接合部171と、を有する。壁部170における回転軸Xと交差する部分には、モータシャフト41の支持穴170aが設けられている。
【0024】
カバー部17の壁部170では、モータ2側(図中、右側)の面に、支持穴170aを囲むモータ支持部175が設けられている。モータ支持部175は筒状を成している。モータ支持部175は、回転軸Xを間隔を空けて囲んでいる。
モータ支持部175の内周には、モータシャフト41の一端41a側の外周が、ベアリングB1を介して支持されている。
【0025】
図1に示すように、ケース部11は、筒状の周壁部12と、壁部15を有している。周壁部12は、回転軸Xを囲む筒状を成している。回転軸X方向における周壁部12の一端12aは開口しており、他端12bは、壁部15で塞がれている。
そのため、ケース部11は、有底筒状に形成されている。ケース部11では、周壁部12の内側に、モータ2が収容される。
【0026】
周壁部12の一端12aには、フランジ状の接合部13が設けられている。接合部13には、カバー部17の接合部171が、回転軸X方向から接合される。接合部13と接合部171とは、図示しないボルトにより連結される。
【0027】
図1に示すように、壁部15は、回転軸Xに直交する向きで設けられている。壁部15の回転軸Xと交差する領域に、貫通孔15aが設けられている。壁部15におけるモータ2側(図中、左側)の面には、貫通孔15aを囲むモータ支持部155が設けられている。
【0028】
モータ支持部155は筒状を成している。モータ支持部155は回転軸Xを間隔を空けて囲んでいる。モータ支持部155の内周には、モータシャフト41の他端41b側の外周が、ベアリングB1を介して支持されている。モータシャフト41は、壁部15を貫通している。モータシャフト41の他端41bは、ケース部11に付設されるギアケース(図示せず)内で、図示しない回転伝達機構と連結されている。ここで、回転伝達機構は、一例として、モータ2の出力回転を伝達する歯車機構である。
【0029】
図3に示すように、ケース部11の周壁部12には、収容部115、116、117が設けられている。収容部115、116、117には、前記したステータコア30のボス部315、316、317が、それぞれ収容される。
収容部115、116、117は、周壁部12の外周から回転軸Xの径方向外側に向けて膨出している。収容部115、116、117は、開口をケース部11内(回転軸X側)に向けて設けられている。
【0030】
図3では、収容部(収容部115、116、117)が、ステータコア30が備える3つのボス部315、316、317と同数、ケース部11に設けられている場合を例示している。収容部の総数は、この
図3に示した態様にのみ限定されない。収容部の総数は、ステータコア30側のボス部の総数に応じて、適宜変更可能である。
【0031】
なお、収容部115、116、117は、同一の構成を有する。そこで、以下においては、収容部115の構成を代表して説明する。
図4に示すように、周壁部12において収容部115は回転軸X方向に延びている。収容部115は、ステータコア30側のボス部315を収容可能な回転軸X方向の長さL2で形成されている。なお、他の収容部116、117も同様である。
【0032】
回転軸X方向における収容部115の壁部15側(図中、右側)には、当接部118が設けられている。当接部118は、回転軸X方向で収容部115とオーバーラップする位置に設けられている。当接部118は、回転軸Xに直交する当接面118aを有している。当接面118aは、回転軸Xに直交する平坦面である。当接面118aは、収容部115の壁部15側の底壁として機能する。
【0033】
図4、
図5に示すように、ステータコア30をケース部11内に挿入すると、ステータコア30は、ボス部315の端面315bを当接面118aに当接させた位置で位置決めされる。この状態において、挿通孔315aに挿入したボルトBの先端BE側を、当接部118に螺入することで、ステータコア30がケース部11に固定される。
【0034】
図1に示すように、周壁部12の内周面121の内径は、壁部15側(図中、右側)に向かうにつれて段階的に縮径している。周壁部12の内周面121では、回転軸X方向で一端12aから他端12bに向かって4つの内周面の領域(第1内周面121a、第2内周面121b、第3内周面121c、第4内周面121d)が並んでいる。
【0035】
具体的には、
図2に示すように、周壁部12の一端12a側の第1内周面121aは、最も大きい内径D1で形成されている。
第1内周面121aの隣に位置する第2内周面121bは、第1内周面121aよりも小さい内径D2で形成されている(D2<D1)。
【0036】
第2内周面121bの隣に位置する第3内周面121cは、第2内周面121bよりも小さい内径D3で形成されている(D3<D2)。
第3内周面121cの隣に位置する第4内周面121dは、第3内周面121cより小さい内径D4で形成されている(D4<D3)。
【0037】
図2の拡大領域に示すように、第1内周面121aと第2内周面121bの間の段差面121eは、回転軸Xに直交する平坦面である。第2内周面121bと第3内周面121cの間の傾斜面121fは、第2内周面121bから第3内周面121cに向かうにつれて内径が小さくなるテーパ面である。第3内周面121cと第4内周面121dの間の段差面121gは、回転軸Xに直交する平坦面である。
【0038】
図5に示すように、ステータコア30は、周壁部12の一端12a側の開口から周壁部12の内側へ挿入される。
ここで、
図2に示すように、第3内周面121cは、ステータコア30の外周面31cと整合する内径D3で形成されている。第1内周面121aと第2内周面121bは、ステータコア30の外周面31cよりも僅かに大きい内径D1、D2で形成されている。
そのため、ステータコア30の他端31bが、第1内周面121aと第2内周面121bの部分にある間は、ステータコア30は、周壁部12に遊嵌した状態となる。これにより、ステータコア30の周壁部12への挿入がスムーズに行えるようになっている。
【0039】
また、前記したように、第2内周面121bと第3内周面121cとの間に、傾斜面121fが位置している。そして、傾斜面121fは、第3内周面121c側(図中、右側)に向かうにつれて内径が狭くなっている。
そのため、ステータコア30の他端31bが傾斜面121fに到達したのち、ステータコア30が周壁部12内にさらに押し込まれると、ステータコア30の他端31b側が傾斜面121f上を摺動しながら移動する。これにより、ステータコア30と周壁部12との心合わせが行われるようになっている。
【0040】
ステータコア30の周壁部12への挿入は、ステータコア30の他端31bが段差面121gに当接した時点で終了する。これにより、ステータコア30は、他端31bを段差面121gに当接させた位置で位置決めされる。この状態において、ステータコア30は、他端31b側の外周面31cのみが、第3内周面121cに嵌合している。よって、ステータコア30は、他端31b側が周壁部12で片持ち支持された状態で保持される。
【0041】
また、
図2に示すように、回転軸X方向におけるステータコア30の全長L1は、周壁部12における第2内周面121bから第3内周面121cまでの回転軸X方向の長さと略整合する。ステータコア30の他端31bを周壁部12の段差面121gに当接させると、ステータコア30の一端31aは、周壁部12の段差面121eと面一に配置される。
この状態において、ステータコア30のコイルエンド35a、35bは、それぞれ第1内周面121aと第4内周面121dに対して、回転軸Xの径方向の隙間を空けて配置される。
【0042】
前記したように、周壁部12の第1内周面121aと第2内周面121bは、ステータコア30の外周面31cよりも僅かに大きい内径D1、D2で形成されている。
そのため、ステータコア30の一端31a側では、ステータコア30の外周面31cと周壁部12の内周(第1内周面121aと第2内周面121b)との間に隙間CLが存在する。
【0043】
図2に示すように、前記したように、第3内周面121cがステータコア30の外周面31cと整合する内径D3で形成されているので、この隙間CLは、一端31a側(図中、左側)にのみ開口している。隙間CLは、一端31a側でモータ室Sに連絡している。
【0044】
本実施形態では、ステータコア30の外周の隙間CLに冷却油OLを通流させて、モータ2を冷却している。
そのため、
図1に示すように、周壁部12の上部には、冷却油OLを供給するためのリブ123、124、125が設けられている。
これらリブ123、124、125は、駆動装置1の車両への設置状態を基準とした鉛直線VL方向で、隙間CLよりも上側となる位置に設けられている。リブ123、124、125は周壁部12の外周面122から上側に突出している。リブ123、124、125は、回転軸X方向における周壁部12の一端12a側から他端12b側に向かってこの順番で並んでいる。
【0045】
リブ123、124、125の内部には、油孔Ha、Hb、Hcがそれぞれ設けられている。油孔Ha、Hb、Hcには、ステータ3を冷却するための冷却油OLが、図示しないポンプから供給される。
【0046】
図2に示すように、油孔Haは、周壁部12の第1内周面121aに開口している。油孔Haは、鉛直線VL方向でコイルエンド35aとオーバーラップする位置に設けられている。
油孔Hcは、周壁部12の第4内周面121dに開口している。油孔Hcは、鉛直線VL方向でコイルエンド35bとオーバーラップする位置に設けられている。
【0047】
油孔Hbは、周壁部12の第2内周面121bに開口している。油孔Hbは、回転軸X方向におけるステータコア30の一端31aと他端31bの略中間となる位置に設けられている。具体的には、油孔Hbは、回転軸X方向における一端31aと他端31bの中間を通る中間線C上で、ステータコア30の外周面31cに対向している。
【0048】
ここで、油孔Ha、Hcから供給された冷却油OLは、コイル35のコイルエンド35a、35bに鉛直線VL方向における上側から供給される。コイルエンド35a、35bに供給された冷却油OLは、自重により、コイルエンド35a、35bが設けられた領域を鉛直線VL方向の下方に向けて移動する。この際に、冷却油OLとの熱交換により、コイルエンド35a、35bが冷却される。
【0049】
油孔Hbから供給された冷却油OLは、ステータコア30の外周面31cと、周壁部12の内周面121との間の隙間CLに供給される。前記したように隙間CLは、ステータコア30の一端31aにのみ開口している。そのため、隙間CLに供給された冷却油OLの多くは、一端31a側に向けて移動する(
図2:矢印参照)。また、冷却油OLの一部は、ステータコア30の外周に沿って回転軸X周りの周方向に移動しつつ、鉛直線VL方向の下側に移動する。
これにより、ステータコア30の外周面31cの隙間CLを冷却油OLが移動する際に、冷却油OLとの熱交換により、ステータコア30が冷却される。
【0050】
ステータコア30の一端31aに到達した冷却油OLは、モータ室S(
図2参照)内に排出される。
図3に示すように、回転軸X方向から見て、ステータコア30の一端31aでは、油孔Hbの下方に、ステータコア30とロータコア40との間のエアギャップGPが位置している。
【0051】
そのため、紙面奥側から紙面手前側のステータコア30の一端31aに到達した冷却油OLのうち、鉛直線VLに近い領域(
図3における鉛直線VL1と鉛直線VL2との間の領域)から下方に向けて落下する冷却油OLは、エアギャップGPを、上側から下側に横切って移動することになる。
そうすると、エアギャップGPを横切って移動する冷却油OLの一部が、エアギャップGPに浸入することがある(
図2参照)。かかる場合、浸入した冷却油OLが、ステータコア30とロータコア40との回転軸X回りの相対回転に対する抵抗となる。
【0052】
本実施形態では、エアギャップGP内に浸入する冷却油OLの量を低減するために、隙間CL内に排出された冷却油OLを所定の方向に誘導するガイド部5を、周壁部12の内周面121に設けている。
【0053】
以下、ガイド部5について説明する。
図6及び
図7は、ガイド部5を説明する図である。
図6は、
図3のA領域を拡大して模式的に示した図である。なお、
図6では、ガイド部5の基端部52側と油孔Hbの位置を明確にするために、ガイド部5の基端部52側と油孔Hbを破線で示している。
図7は、ガイド部5を
図6におけるA-A矢視方向から見た展開図である。なお、
図7では、ガイド部5を模式的に示すと共に、ガイド部5の範囲を見易くするために、周壁部12の第2内周面121bの領域にクロスハッチングを付して示している。
また、
図7の抜き出し図では、ガイド部5の開口と隙間CLの面積を説明するために、中間線Cから見た周囲を、図中符号aから反時計回り方向に符号bの位置を経て符号aの位置に戻るまでの360°の範囲に亘って展開して模式的に示した図である。
【0054】
図7に示すように、ガイド部5は、周壁部12の第2内周面121bの領域に設けられた凹溝である。
ガイド部5は、前記した油孔Hbが開口する領域から、回転軸X方向に沿って、段差面121eまで及ぶ範囲に設けられている。ここで、段差面121eは、第2内周面121bと前記した第1内周面121aとの境界である。
【0055】
図7に示すように、回転軸X側から見て、ガイド部5の基端部52は、油孔Hbよりも大きい略円形を成している。ガイド部5は、直線Lp1に沿って、段差面121eまで直線状に延びている。ガイド部5は、段差面121e側の先端部51に近づくに連れて、直線Lp1に直交する方向の幅W1が狭くなる先細り形状で形成されている。
回転軸Xの径方向から見ると、直線Lp1は、段差面121eに向かうに連れて回転軸Xからの離間距離が大きくなる向きで、回転軸Xに対して傾斜している。本実施形態では、駆動装置1の車両への設置状態を基準として、ガイド部5の先端部51のほうが基端部52よりも車両後方に位置するように、ガイド部5が設けられている。
【0056】
図3に示すように、回転軸X方向から見て、ガイド部5は、回転軸Xを通る水平線HLよりも鉛直線VL方向上側に位置している。
【0057】
図6に示すように、回転軸X方向から見るとガイド部5は、回転軸Xを中心とする仮想円Im1上に位置している。
図3に示すように、ガイド部5は、鉛直線VLと交差する位置から、回転軸X周りの周方向に沿って、収容部117に近づく方向に延びている。このガイド部5の延出方向は、回転軸X周りの周方向に沿って、収容部115から離れる方向でもある。
ガイド部5は、鉛直線VL1と鉛直線VLの間の領域を、車両前方側から車両後方側に横切って設けられている。ここで、鉛直線VL1は、ステータコア30の内周面32aと水平線HLとの交点32a1を通る鉛直線である(
図3参照)。鉛直線VLは、回転軸Xを通る鉛直線である(
図3参照)。鉛直線VL1と鉛直線VLは、互いに平行である。
【0058】
図3に示すように、回転軸X方向から見て、ガイド部5の先端部51は、鉛直線VL1よりも車両後方側で開口している。先端部51は、回転軸Xから見て車両後方側に位置している。ガイド部5の基端部52は、鉛直線VLと第2内周面121bとの交点である、内周面121の頂点Vpに位置している。ガイド部5の先端部51は、基端部52よりも鉛直線VL方向の下側に位置している。
【0059】
図6に示すように、回転軸X方向からみて、ガイド部5は略半円形を成す断面形状で形成されている。
本実施形態では、油孔Hbから供給される冷却油OLの多くが、ステータコア30の外周の隙間CLよりも、ガイド部5側に流入するように、ガイド部5の基端部52の断面形状が設定されている。
具体的には、ガイド部5の基端部52の開口面積が、ステータコア30の外周と第2内周面121bとの隙間の部分の開口面積よりも広くなるように設定されている。なお、ガイド部5の凹溝の形状は、
図6に示す半円形状に限定されるものではない。例えば凹溝は、回転軸X方向からみて、U溝形状やV溝形状であっても良い。
【0060】
以下、ケース部11の内周にガイド部5が設けられた構成の駆動装置1におけるガイド部5の作用を説明する。
図1に示すように、駆動装置1のモータ2を駆動するために、コイル35に通電されると、コイル35が通電により発熱する。コイル35の発熱により、ステータコア30を含むステータ3全体の温度が上昇する。
【0061】
図2に示すように、駆動装置1では、モータ2の駆動に伴って図示しないオイルポンプが駆動されて、モータ2の冷却油OLが、油孔Ha、Hb、Hcから、ケース部11内に供給される。油孔Ha、Hcから供給される冷却油OLは、コイルエンド35a、35bの領域を通過する際に、コイルエンド35a、35bとの熱交換により、コイルエンド35a、35bを冷却する。
【0062】
油孔Hbから供給される冷却油OLは、周壁部12の頂点Vp(
図6参照)から、ステータコア30の外周面31cと第2内周面121bとの間の隙間CLに向けて供給される。
【0063】
ここで、
図7に示すように、回転軸Xの径方向から見て、油孔Hbは、ガイド部5の基端部52と重なる位置関係で設けられている。そして、
図7の展開図に示すように、中間線Cから見たガイド部5側の開口面積Rxが、ガイド部5に連絡していない他の領域521の開口面積Ryよりも大きくなっている。ガイド部5に連絡していない他の領域521とは、直線Lmよりも車両前方側の領域である。直線Lmは、中間線Cを通ると共に直線Lp1に直交する直線である。
【0064】
そのため、油孔Hbからケース部11内に供給された冷却油OLの多くは、隙間CLよりもガイド部5のほうを通流することになる。
ガイド部5に流入した冷却油OLの多くは、油孔Hbから順次供給される冷却油OLによって押されることで、ガイド部5内を基端部52側から先端部51側に向けて移動する。
【0065】
図6に示すように、回転軸X方向から見て、ガイド部5の先端部51は、基端部52よりも鉛直線VL方向下側に位置している。さらに、
図3に示すように、ステータコア30の外周面31cのうち、鉛直線VL方向でガイド部5と対向する領域は、回転軸Xを通る水平線HLよりも上側の領域である。この領域では、回転軸Xに直交する断面視において、ステータコア30の外周面31cが、頂点を上側に向けた弧状を成しており、冷却油OLが、外周面31cに沿って鉛直線VL方向の下側に向けて移動しやすくなっている。
【0066】
よって、ガイド部5の基端部52側に供給された冷却油OLは、自重により移動速度を早めながら、ガイド部5内を先端部51に向けて移動する。さらに、ガイド部5内の冷却油OLは、油孔Hbから順次供給される冷却油OLによって押されるので、基端部52から先端部51側に、より速やかに移動する。
これにより、油孔Hbから供給される冷却油OLの多くがガイド部5を通って先端部51からモータ室S内へ排出される。
【0067】
ここで、油孔Hbから、ステータコア30の外周面31cとの間の隙間CLに排出された冷却油OLの一部は、ガイド部5と反対側(
図6における細矢印方向)に流れることになる。
図6に示すように、油孔Hbよりも車両前方側には、ボス部315が位置している。ボス部315は、外周面31cから径方向外側に膨出しているので、隙間CLをガイド部5から離れる方向(図中、右方向)に移動した冷却油OLの車両前方側への移動がボス部315により妨げられる。ボス部315により車両前方側への移動が妨げられた冷却油OLは、ガイド部5側に戻されることになる(図中、細矢印)。
これにより、油孔Hbから供給された冷却油OLは、より確実にガイド部5側に流れるようになっている。
【0068】
図3に示すように、ガイド部5の先端部51から排出された冷却油OLは、自重により鉛直線VL方向の下方に直線的に落下する。そして、ガイド部5の先端部51は、鉛直線VL1よりも回転軸Xの径方向外側(車両後方側)にオフセットした位置に設けられている。
【0069】
鉛直線VL1よりも回転軸Xの径方向外側の領域は、隙間CLの下側に、モータ2のエアギャップGPが位置しない領域である。よって、ガイド部5により誘導されて先端部51から排出された冷却油OLは、自重により鉛直線VL方向の下方に向けて落下しても、エアギャップGPを横切らない位置を下方に向けて落下する。すなわち、
図3の場合は、先端部51から排出された冷却油OLは、エアギャップGPよりも左側の領域を、下方に向けて落下する。よって、隙間CLから紙面手前側に流入する冷却油OLが、エアギャップGPに浸入しにくくなっている。
【0070】
また、ガイド部5の先端部51は、鉛直線VLから水平線HL方向に大きく離れた位置に開口している。そのため、油孔Hbから供給される冷却油OLが、隙間CLをそのまま回転軸X方向(
図3における紙面手前側)に移動する場合よりも、冷却油OLの移動距離が長くなる。これにより、冷却油OLとステータコア30との接触時間が長くなるので、ステータコア30の冷却効率の向上が期待できる。
【0071】
さらに、先端部51から排出された冷却油OLが、ステータコア30の一端31aから、自重により下方に落下する際に、コイルエンド35aと接触する。そのため、コイルエンド35aは、油孔Ha(
図2参照)から供給される冷却油OLだけで無く、油孔Hbから供給される冷却油OLによっても冷却される。これにより、コイルエンド35aをより効果的に冷却することができる(
図3参照)。
【0072】
ここで、
図2に示すように、コイル35のコイルエンド35a、35b以外の部分は、ステータコア30の内部に位置している。そのため、回転軸X方向におけるコイルエンド35a、35bの間の領域に、冷却油OLを供給することが難しい。
そのため、ステータ3では、回転軸X方向におけるステータコア30の一端31aと他端31bの中間領域(中間線Cの近傍領域)の温度が高くなり易い。
ここで、モータ2の仕様が、より高回転側で駆動する仕様になるにつれて、ステータコア30の回転軸X方向の全長L1が長くなる傾向がある。そうすると、ステータコア30は、冷却油OLで冷却されるコイルエンド35a、35bから離れた領域ほど、冷却され難くなる。そのため、ステータコア30における中間線Cの近傍領域の冷却が難しくなる。また、鉄損による発熱も大きくなる。
【0073】
本実施形態では、回転軸X方向におけるステータコア30の一端31aと他端31bの間、具体的には中間線Cとオーバーラップする位置に、油孔Hbが設けられている(
図2参照)。これにより、ステータコア30における最も温度が高くなる領域に冷却油OLを供給できるので、冷却油OLによる冷却効率が向上する。
【0074】
以下、比較例に係るガイド部500を説明する。なお、以下の比較例では、本実施形態と異なる部分のみを説明する。
図13は、比較例に係るガイド部500を説明する図である。
図14は、
図12におけるガイド部500をA-A矢視方向から見た図である。
【0075】
図13および
図14に示すように、比較例に係るガイド部500は、開口を回転軸X側に向けた凹溝である。この凹溝であるガイド部500は、回転軸X上を直線状に延びている。ガイド部500の先端部510は、段差面121eにおける回転軸Xと交差する領域に開口している。ガイド部500の基端部520は、回転軸X方向における油孔Hbよりも傾斜面121f側で回転軸Xと交差する位置に設けられている。ガイド部500の先端部510と基端部520は、鉛直線VL方向において同じ高さとなる(
図13参照)。
【0076】
図13に示すように、回転軸X方向から見て、ガイド部500の先端部510は、回転軸Xを通る鉛直線VLとオーバーラップする位置に設けられている。ガイド部500の先端部510と基端部520は、第2内周面121bの頂点Vp周りに位置することになる。
【0077】
図14に示すように、油孔Hbから供給された冷却油OLは、ガイド部500内を回転軸X方向に移動して基端部520側から先端部510側へ誘導される(図中、矢印方向)。
ここで、ガイド部500の先端部510と基端部520は、鉛直線VL方向において同じ高さであるため、ガイド部500内を流れる冷却油OLは、自重による加速は起きにくい。ガイド部500内の冷却油OLは、油孔Hbから順次供給される冷却油OLによって押し出されることで基端部520側から先端部510側へ流れる。
【0078】
図13に示すように、ガイド部500の先端部510から排出された冷却油OLは、鉛直線VL方向の下方に落下するため、最終的にエアギャップGPに到達する(図中、矢印方向)。比較例に係るガイド部500では、冷却油OLがエアギャップGPに浸入して、モータ2の回転抵抗が増大することになる。
【0079】
これに対して、本実施形態に係るガイド部5は、先端部51を鉛直線VL1よりも回転軸Xの径方向外側に設けることで、先端部51から排出された冷却油OLが、自重で落下しても、エアギャップGPに浸入しにくくなっている(
図3参照)。また、先端部51を基端部52よりも下方に設けることで、ガイド部5内の冷却油OLは、自重を利用して先端部51側から基端部52側に加速できるようにして、冷却油OLの流れのコントロール性を高めている。
【0080】
なお、本実施形態では、ガイド部5として、1本の凹溝を例示したが、ガイド部は、この態様にのみ限定されるものではない。例えば、ガイド部5は、油孔Hbから段差面121eに延びる複数の凹溝としても良い。この場合において、それぞれの先端部51が、鉛直線VL1よりも回転軸Xの径方向外側に位置していればよい。
また、本実施形態では、ガイド部5の基端部52が油孔Hbに接続されているものを例示したが、この態様に限定されない。ガイド部5の基端部52は、少なくとも油孔Hbの近傍に配置されていればよい。このようにすることによっても、油孔Hbから供給される冷却油OLの多くは、ガイド部5側に流れるからである。
【0081】
以下に、本発明のある態様における駆動装置1の例を列挙する。
(1)駆動装置1(装置)は、
ロータ4と、ロータ4の外周を囲むステータ3と、を有するモータ2(回転電機)と、
ステータ3のステータコア30の外周を囲む周壁部12を有するケース部11(ケース)と、を備える。
ステータコア30の上部に冷却油OL(液体)が供給される。
ケース部11の周壁部12の第2内周面121bには、冷却油OLを、ロータ4の回転軸X方向の一方側に誘導するガイド部5が、回転軸X方向に沿う向きに設けられている。
回転軸X方向からみたとき、ガイド部5は、回転軸Xを通る水平線HLよりも上方に位置する。
回転軸Xの径方向において、ロータ4のロータコア40とステータコア30との間には、エアギャップGPが設けられている。
回転軸X方向におけるガイド部5の一端側の先端部51は、回転軸X方向からみたとき、エアギャップGPを通る鉛直線VL1よりも径方向外側に配置されている。
鉛直線VL1は、エアギャップGPの外周を構成するステータコア30の内周面32aと、水平線HLとの交点32a1を通る。
【0082】
このように構成すると、モータ2の回転抵抗を低減できる。
ステータコア30の水平線HLよりも上側の領域は、頂点を上側に向けた円弧形状を成している。そのため、ステータコア30の外周面31cは、上に凸の弧状を成している。
ステータコア30の上部に供給された冷却油OLは、回転軸X方向から見て、円弧状の外周面31cに沿って回転軸X周りの周方向に移動すると共に、回転軸X方向に移動する。
回転軸X周りの周方向に移動した冷却油OLは、周方向への移動がガイド部5により妨げられる。その結果、回転軸X周りの周方向に移動した冷却油OLは、その移動方向が、ガイド部5の先端部51に向かう回転軸X方向に変更される。ガイド部5の先端部51に到達した冷却油OLは、ステータコア30の一端31aから、自重により鉛直線VL方向の下方に向けて移動する。前記したように、回転軸X方向から見て、ガイド部5の先端部51は、モータ2のエアギャップGPよりも外径側(エアギャップGPからオフセットした位置)に配置されている。そのため、ガイド部5の先端部51から排出された冷却油OLは、自重で落下する際に、エアギャップGPを横切らずに落下する。
そのため、エアギャップGPを横切らずに落下する冷却油OLの量を増やすことで、ステータコア30の一端31aから落下する冷却油OLが、エアギャップGPに浸入する程度を低減することができる。これにより、エアギャップGPに浸入した冷却油OLが、モータ2の回転に対する抵抗となることを好適に低減できる。
【0083】
また、ガイド部5の先端部51が、鉛直線VL1方向でエアギャップGPとオーバーラップしない位置に設けられている。ここで、鉛直線VL1は、モータ2の回転軸Xを通る鉛直線VLから水平線HL方向に離れている。そのため、ガイド部5に沿って流れる冷却油OLの移動距離は、冷却油OLが回転軸X方向に流れる場合よりも長くなる。よって、ガイド部5に沿って移動する冷却油OLは、ステータコア30との接触時間が、冷却油OLが回転軸X方向に流れる場合よりも長くなるので、ステータコア30をより適切に冷却できる。
さらに、モータ2のコイルエンド35aが、ステータコア30の一端31aから回転軸X方向に突出しているので、先端部51から排出される冷却油OLをコイルエンド35aの冷却に用いることができる。
【0084】
(2)回転軸Xの径方向から見て、ガイド部5は、回転軸X方向における先端部51から他端側の基端部52に向かうにつれて、回転軸Xに近づく向きで設けられている。
回転軸X方向から見て、ケース部11の第2内周面121bは円形を成している。
回転軸X方向から見て、第2内周面121bにおける最も上側に位置する頂点Vpは、回転軸Xを通る鉛直線VLに重なる位置である。
基端部52は、先端部51よりも上側に位置している。
回転軸X方向から見て、ガイド部5は、先端部51から基端部52に向かうにつれてケース部11の第2内周面121bの頂点Vpに近づく形状を有する。
【0085】
例えば、
図13及び
図14に示すように、回転軸Xの径方向から見て、ガイド部500が回転軸X方向に沿って設けられている場合、一端側の先端部510と他端側の基端部520の両方が、頂点Vpを通る回転軸Xと重なる位置に配置される。先端部510と基端部520の両方が頂点Vp周りに位置している場合、基端部520側に供給された冷却油OLは、回転軸Xに沿って先端部510側に向かうため、前記したガイド部5のような冷却油OLの自重による加速は生じ難い。そのため、ガイド部500内の冷却油OLは、油孔Hbから順次供給される冷却油OLの供給圧によって先端部510側に押し出されるのみとなる。そのため、ガイド部500内を基端部520側から先端部510側へ移動する速度は、本実施形態のガイド部5の場合よりも遅くなる。
そこで、上記のように構成して、回転軸X方向から見て、ガイド部5の先端部51を、基端部52側よりも鉛直線VL方向下側に設けることで、ガイド部5内の冷却油OLは、自重によって加速する。その結果、ガイド部5を通流する冷却油OLは、先端部51に向けて、スムーズに流れる。
これにより、冷却油OLの流れのコントロール性を高めることができる。よって、装置の性能要求に応じた液流コントロール設計が容易になる。
【0086】
(3)ケース部11の周壁部12の内周面121には、冷却油OLが供給される油孔Ha、Hb、Hc(供給孔)が開口している。
油孔Hbは、内周面121のうちの第2内周面121bに開口している。
油孔Hbは、回転軸X方向におけるステータコア30の一端31aと他端31bの中間を通る直線である中間線Cとオーバーラップする部分を有する。
【0087】
このように構成すると、ステータコア30の最も高温になる中央付近に冷却油OLを供給することができる。これにより、ステータコア30の冷却効率を高めることができる。
モータ2の仕様が、より高回転側で駆動する仕様になるにつれて、ステータコア30の回転軸X方向の全長L1が長くなる傾向がある。そのため、ステータコア30の中央付近に冷却油OLを供給して冷却することは、特に効果的である。
【0088】
(4)ガイド部5は、ケース部11の周壁部12の内周に設けた溝である。
【0089】
このように構成すると、例えば、ケース部11の周壁部12にガイド部5として機能する溝を、後加工により設けることもできる。
また、ガイド部5を溝とすることで、径方向の溝深さや形状、そして径方向から見たときの回転軸Xに対するガイド部5の交差角を任意に変更することもでき、冷却油OLの誘導の最適化を行える。
【0090】
ここで、本実施形態では、ガイド部5の一例として、ケース部11の周壁部12の内周に凹溝を設けたものを例示したが、この態様に限定されない。例えば、ステータコア30の外周面31cの一部を窪ませて、凹溝に相当する外周溝を設けても良い。
しかしながら、ステータコア30は電磁鋼鈑を何層にも重ねて構成したものである。従って、ステータコア30に外周溝を設ける場合、一枚一枚の電磁鋼鈑に対して、それぞれ溝を形成していくことになり、ケース部11の周壁部12に凹溝を設けてガイド部5とするよりも加工が難しい。よって、製造コストが高くなる。
従って、ステータコア30の外周面31cに外周溝を設けるよりも、ケース部11に凹溝を設ける方が、加工が容易なため、製造コストを低減できる。
【0091】
(6)ガイド部5は、回転軸X方向における他端である基端部52から一端である先端部51に向かうにつれて、回転軸X周りの周方向の幅W1(溝幅)が細くなる先細り形状で形成されている。
【0092】
ケース部11は、鋳造により形成される。ケース部11の鋳抜き方向は、回転軸Xに沿う方向である。そこで、上記のように構成することで、鋳造時におけるケース部11の鋳抜きが容易となる。なお、ケース部11は、ガイド部5の傾き(直線Lp1、
図7参照)に沿って回転軸X周りに回転させながら鋳抜きを行う。
【0093】
(8)油孔Hbは、回転軸X方向におけるガイド部5の基端部52側に接続される。
【0094】
このように構成すると、油孔Hbから供給された冷却油OLが、直接ガイド部5に供給される。これにより、冷却油OLがエアギャップGPへ浸入する量をより減少させることができるので、モータ2の回転抵抗を低減できる。
【0095】
(変形例1)
前記した実施形態では、ガイド部5が、ケース部11の周壁部12の第2内周面121bに設けられた凹溝である場合を例示したが、本発明のガイドは、この態様に限定されるものではない。ガイド部は、冷却油OLを誘導できる形状であれば良い。例えば、第2内周面121bから突出する突起で構成されたガイド部5Aであってもよい。以下の変形例1では、本実施形態と異なる部分のみを説明する。
【0096】
図8、
図9は、変形例1に係るガイド部5Aを説明する図である。
図8は、回転軸X方向から見たガイド部5Aを説明する図である。
図9は、
図8のガイド部5Aを、A-A矢視方向から見た図である。
【0097】
図8に示すように、ガイド部5Aは、ケース部11Aの周壁部12の第2内周面121bから突出する突起である。
図9に示すように、回転軸Xの径方向から見て、ガイド部5Aは、段差面121eから傾斜面121fまで及ぶ範囲に設けられている。
【0098】
図9に示すように、ガイド部5Aは、略台形形状を成している。具体的には、ガイド部5Aは、互いに平行な短壁部53と長壁部54を有する。短壁部53は、台形の上底に相当し、長壁部54は、台形の下底に相当する。これら短壁部53と長壁部54は、回転軸Xに直交している。また、ガイド部5Aは、短壁部53と長壁部54の端部同士を接続する接続壁部55、56を有する。接続壁部56は、回転軸Xに平行に設けられている。接続壁部55は、回転軸Xに交差する直線Lp2に沿って設けられている。直線Lp2は、回転軸X方向の長壁部54側から短壁部53側に向かうにつれて、回転軸Xから離れる向き(車両後方側)で、回転軸Xに対して傾斜している。
【0099】
図9に示すように、ガイド部5Aは、長壁部54から短壁部53に向かうにつれて、周方向の幅W2が狭くなっている。
短壁部53は段差面121eと面一に設けられている。接続壁部55は、直線Lp2方向における一端551で短壁部53に接続している。接続壁部55は、直線Lp2方向における他端552で長壁部54に接続している。接続壁部55の他端552は、回転軸X上に位置する。
【0100】
図8に示すように、回転軸X方向から見て、ガイド部5Aは、回転軸Xを中心とする仮想円Im2に沿う向きに設けられている。
回転軸X方向から見て、接続壁部55の一端551は、鉛直線VL1よりも回転軸Xの径方向外側(車両後方側)にオフセットした位置で短壁部53に接続している。接続壁部55の一端551は、他端552よりも鉛直線VL方向下側に位置している。
【0101】
図9に示すように、回転軸X方向の径方向から見て、ガイド部5Aの接続壁部55は、接続壁部55の一端551から他端552に向かうにつれて、回転軸Xに近づく向きで設けられている。
図8に示すように、回転軸X方向から見て、接続壁部55は、一端551から他端552に向かうにつれて、ケース部11Aの第2内周面121bの頂点Vpに近づいている。
【0102】
図8に示すように、油孔Hbから供給された冷却油OLは、自重によってステータコア30の外周面31c上を移動する。この際に、外周面31c上の冷却油OLの多くは、ガイド部5Aによって、接続壁部55の他端552側から一端551側へ誘導される。
図9に示すように、油孔Hbから供給された冷却油OLは、接続壁部55に沿って、直線Lp2方向に流れて、最終的に一端551側から排出される。
【0103】
図8に示すように、回転軸X方向から見て、接続壁部55の一端551は、鉛直線VL1よりも回転軸Xの径方向外側(車両後方側)に位置している。そのため、冷却油OLが、
接続壁部55の一端551側から排出されるほど、その後、鉛直線方向の下方に落下する冷却油OLが、エアギャップGPに浸入し難くなる。これにより、冷却油OLがエアギャップGPへ浸入する量を減少させることができるので、モータ2の回転抵抗を低減できる。
【0104】
(5)ガイド部5Aは、ケース部11Aの周壁部12の第2内周面121bから突出する突起により構成される。
【0105】
このように構成すると、接続壁部55に沿ってステータコア30の一端31aに移動した冷却油OLが、自重により鉛直線VL方向に落下する際に、モータ2のエアギャップGPを横切らずに落下する。これにより、エアギャップGPを横切らずに落下する冷却油OLの量を増やすことができる。よって、ステータコア30の一端31aから落下する冷却油OLが、エアギャップGPに浸入する程度を低減することができる。これにより、エアギャップGPに浸入した冷却油OLが、モータ2の回転に対する抵抗となることを好適に低減できる。
【0106】
また、前記した通り、ステータコア30は、複数の電磁鋼板を積層して形成されている。ステータコア30の外周面31cに、冷却油OLを誘導するための外周溝を設ける場合、一枚一枚の電磁鋼鈑に対して、それぞれ溝を形成する必要がある。かかる場合、ケース部11Aに突起を設けるよりも加工が難しい。よって、製造コストが高くなる。
ステータコア30の外周面31cに外周溝を設けるよりも、ケース部11Aに突起を設けてガイド部5Aとする方が、加工が容易なため、製造コストを低減できる。
【0107】
(7)回転軸Xの径方向から見て、ガイド部5Aは、回転軸Xに沿って長壁部54(他端)から短壁部53(一端)に向かうにつれて、周方向の幅W2が細くなる形状で形成されている。
【0108】
このように構成すると、ケース部11Aの鋳抜き方向に沿ってガイド部5Aの幅W2を狭めることができるので、鋳造時におけるケース部11Aの鋳抜きが容易となる。
【0109】
(その他の変形例)
前記した実施形態におけるガイド部5(凹溝)と、変形例1におけるガイド部5A(突起)は、組み合わせることもできる。例えば、
図10、
図11に示すように、ケース部11Bの周壁部12に、ガイド部5(凹溝)とガイド部5A(突起)とを設けて、1つのガイド部5Bとしても良い。
【0110】
ガイド部5Bでは、油孔Hbから供給された冷却油OLは、ガイド部5Aの接続壁部55に沿って流れることで、ガイド部5の基端部52側から先端部51側への流れが促進される。これにより、油孔Hbから供給された冷却油OLが、鉛直線方向の下方に落下する際に、エアギャップGPに浸入し難くなる。これにより、冷却油OLがエアギャップGPへ浸入する量を減少させることができるので、モータ2の回転抵抗を低減できる。
【0111】
また、本実施形態に係るガイド部5では、冷却油OLを鉛直線VL1よりも車両後方側へ誘導する場合を例示した。ガイド部5による冷却油OLの誘導方向は、この態様に限定されない。
冷却油OLの誘導方向は、ケース部11の収容部115~117の位置に応じて変更可能である。
例えば、
図12に示すように、収容部115が、水平線HLよりも上側且つ鉛直線VLよりも車両後方側に設けられている場合、ガイド部5’の先端部51’を鉛直線VL2よりも回転軸Xの径方向外側である車両前方側に配置すればよい。鉛直線VL2は、ステータコア30の内周面32aと水平線HLとの交点32a2を通る鉛直線である。
【0112】
このようにすると、油孔Hbから供給された冷却油OLは、鉛直線VL2よりも車両前方側へ誘導される。よって、冷却油OLがエアギャップGPに浸入することを低減でき、モータ2の回転抵抗を低減することができる。なお、図示は省略するがガイド部5’に代えて、又はガイド部5’と共に、ガイド部5Aに相当するものを設けても良い。
【0113】
なお、本実施形態では、装置の一例として、車両用の駆動装置を例示したが、この態様に限定されない。モータを備える装置であれば、車両以外にも適用することができる。
【0114】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0115】
1 :駆動装置(装置)
2 :モータ(回転電機)
3 :ステータ
4 :ロータ
5 :ガイド部(溝)
5A :ガイド部(突起)
5B :ガイド部
11 :ケース部(ケース)
12 :周壁部
121b :第2内周面(ケースの内周)
30 :ステータコア
31c :外周面(ステータコアの外周)
40 :ロータコア
51 :先端部
52 :基端部
C :中間線(ステータコアの中間を通る直線)
GP :エアギャップ
Hb :油孔(供給孔)
HL :水平線
OL :冷却油(液体)
VL1 :鉛直線(ギャップを通る鉛直線)
Vp :頂点
X :回転軸