(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】急速硬化および低収縮応力を有する光重合性歯科用コンポジット
(51)【国際特許分類】
A61K 6/889 20200101AFI20240902BHJP
A61K 6/831 20200101ALI20240902BHJP
A61K 6/882 20200101ALI20240902BHJP
A61K 6/887 20200101ALI20240902BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20240902BHJP
C08F 2/50 20060101ALI20240902BHJP
C08F 20/10 20060101ALI20240902BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
A61K6/889
A61K6/831
A61K6/882
A61K6/887
C08F2/44 B
C08F2/50
C08F20/10
C08F290/06
(21)【出願番号】P 2019211995
(22)【出願日】2019-11-25
【審査請求日】2021-11-17
(32)【優先日】2018-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501151539
【氏名又は名称】イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL-9494 Schaan Liechtenstein
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ベンヤミン ゲブハルト
(72)【発明者】
【氏名】ノルベルト モスツナー
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-523161(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0142082(US,A1)
【文献】Polym. Chem.,2016年,Vol.7,pp.2009-2014
【文献】Angew. Chem. Int. Ed.,2018年,Vol.57,pp.9165-9169
【文献】Polym. Chem.,2015年,Vol.6,pp.2038-2047
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
C08F
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性材料であって、該材料は、該材料の総質量に対してそれぞれの場合に、
(a)0.1~5重量%の少なくとも1つの移動試薬、
(b)5~60重量%の、少なくとも1つの多官能性(メタ)アクリレート、または単官能性および多官能性(メタ)アクリレートの混合物、
(c)0.01~3.0重量%の、少なくとも1つの単分子光開始剤と少なくとも1つの二分子光開始剤との混合物であって、該少なくとも1つの単分子光開始剤と該少なくとも1つの二分子光開始剤とが、1.4:1~1:2の重量比で使用される、混合物、
(d)30~90重量%の少なくとも1つの充填材、ならびに
(e)必要に応じて添加剤(単数または複数)
を含有し、該材料は、移動試薬(a)として、
少なくとも1つの式Iのアリルスルホン
【化7】
であって、式Iにおいて、可変物が以下の意味:
Aは、H;脂肪族の直鎖または分枝鎖のC
1~C
12アルキレンまたはC
1~C
12アルキルラジカルであって、1個またはそれより多くのOによって分断され得、そしてトリ-C
1~C
2アルコキシシリル基または重合性の(メタ)アクリロイルオキシ基を末端に有し得る、脂肪族の直鎖または分枝鎖のC
1~C
12アルキレンまたはC
1~C
12アルキルラジカルである;
R
1は、各場合に互いに独立して、Hまたは脂肪族の直鎖C
1~C
4アルキルラジカルである;
R
2は、各場合に互いに独立して、1個またはそれより多くの置換基を有し得るフェニルラジカル;あるいはOによって分断され得る脂肪族の直鎖C
1~C
6アルキルラジカルである;
Xは、-COO-であり、ここでAへの結合は、Oを介してなされ
;そし
て
nは、1~2の整数である
を有する、アリルスルホン、ならびに/あるいは
式IIのビニルスルホンエステル
【化8】
であって、式IIにおいて、可変物が以下の意味:
Bは、H、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C
1~C
10炭化水素ラジカルであって、1~3個の置換基によって置換され得、そして1個または2個のOによって分断され得る、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C
1~C
10炭化水素ラジカル、
芳香族C
6~C
10炭化水素ラジカルであって、1~3個の置換基によって置換され得る、芳香族C
6~C
10炭化水素ラジカル、
あるいはこれらの組み合わせである;
Yは、-COO-であり、ここでBへの結合は、Oを介してなされる;
Cは、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C
1~C
10炭化水素ラジカルであって、1~3個の置換基によって置換され得、1~2個のOおよび/またはSによって分断され得、そして1個または2個のベンゼン基を含み得る、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C
1~C
10炭化水素ラジカル、
芳香族C
6~C
10炭化水素ラジカルであって、1~3個の置換基によって置換され得る、芳香族C
6~C
10炭化水素ラジカル、
あるいはこれらの組み合わせである;
pは、1~2の整数である;
kは、1~2の整数である;
qは、1~2の整数である;ここで
pとqとは、同時に1より大きくなることはできず、そしてp=1の場合、q=kであり、そしてq=1の場合、p=kである
を有する、ビニルスルホンエステル
を含有する、材料。
【請求項2】
式Iによる移動試薬として、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸エチルエステル(TSMEA)、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸2-(2-エトキシエトキシ)-エチルエステル、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸tert-ブチルエステル、3-(トリメトキシシリル)プロピル-2-(トシルメチル)アクリレート、3-(トリエトキシシリル)プロピル-2-(トシルメチル)アクリレート、3-(トリエトキシシリル)プロピル-2-(トシルメチル)アクリルアミド、2-(メチルスルホニルメチル)-エチルアクリレート、2-(メチルスルホニルメチル)-プロピルアクリレート、トリエチレングリコールビス[2-(トルエン-4-スルホニルメチル)アクリレート]、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸(2-メタクリロイルオキシエチル)エステル、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸(6-メタクリロイルオキシヘキシル)エステル、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸(10-メタクリロイルオキシデシル)エステル、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)エステル、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸(8-メタクリロイルオキシ-3,6-ジオキサオクチル)エステルを含有し、
そして/または
式IIによる移動試薬として、2-(トルエン-4-スルホニルオキシ)-アクリル酸エチルエステル(TSVEA)、2-メタンスルホニルオキシアクリル酸エチルエステル、トリエチレングリコールビス[2-(トルエン-4-スルホニルオキシ)アクリレート]、2-(2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルホニルオキシアクリル酸オクチルエステル、2-(トルエン-4-スルホニルオキシ)-アクリル酸2-(テトラヒドロピラン-2-イルオキシ)-エチルエステル、2-(トルエン-4-スルホニルオキシ)-アクリル酸2-ヒドロキシエチルエステル、2-(トルエン-4-スルホニルオキシ)-アクリル酸2,4,6-トリメチルフェニルエステル、2-(4-ビニルベンゼンスルホニルオキシ)-アクリル酸エチルエステル、2-(トルエン-4-スルホニルオキシ)-アクリル酸メトキシメチルエステル、2-(2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルホニルオキシ)-アクリル酸メトキシメチルエステル、2-(2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルホニルオキシ)-アクリル酸もしくはジエチル-2,2’-[(1,3-フェニルジスルホニル)ビス(オキシ)]ジアクリレートを含有する、
請求項1に記載の材料。
【請求項3】
成分(b)として、ビスフェノールAジメタクリレート、bis-GMA(メタクリル酸とビスフェノールAジグリシジルエーテルとの付加生成物)、2-[4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシ)フェニル]-2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン)、2,2-ビス[4-(2-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(bis-PMA)、UDMA(メタクリル酸2-ヒドロキシエチルと2,2,4-または2,4,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネートとの付加生成物)およびビスメタクリロイルオキシメチルトリシクロ[5.2.1.]デカン(TCDMA)からなる群より選択される少なくとも1つの多官能性(メタ)アクリレートを含有する、請求項1または2に記載の材料。
【請求項4】
単分子光開始剤として、ジアシルジアルキルゲルマニウムもしくはテトラアシルゲルマニウム化合物、モノアシルホスフィンオキシドもしくはビスアシルホスフィンオキシド、またはこれらの混合物;および二分子光開始剤として、カンファーキノン(CQ)、9,10-フェナントレンキノン、1-フェニルプロパン-1,2-ジオン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、ジアセチル、4,4’-ジクロロベンジル、またはこれらの混合物を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の材料。
【請求項5】
単分子光開始剤として、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ジベンゾイルジエチルゲルマン、ビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマン(MBDEGe)、テトラベンゾイルゲルマン、テトラキス(o-メチルベンゾイル)ゲルマン、テトラキス(メシトイル)スタンナン(tetrakis(mesitoyl)stannane)またはこれらの混合物;二分子光開始剤として、カンファーキノン(CQ)、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンまたはこれらの混合物;およびアミンとして、4-(ジメチルアミノ)-安息香酸エステル(EDMAB)を含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の材料。
【請求項6】
前記少なくとも1つの単分子光開始剤と前記少なくとも1つの二分子光開始剤とが、1.2:1~1:1.8の重量比で使用される、請求項1~5のいずれか1項に記載の材料。
【請求項7】
前記二分子光開始剤と前記アミンとが、1:1~1:6の重量比で使用される、請求項5または6に記載の材料。
【請求項8】
充填材(d)として、SiO
2とZrO
2との混合酸化物、ガラス粉末、放射線不透過性充填材、粉砕プレポリマー、あるいはこれらの混合物を含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の材料。
【請求項9】
前記材料の総質量に対してそれぞれの場合に、
(a)0.1~5重量%の式Iおよび/またはIIの少なくとも1つの移動試薬、
(b)8~50重量%の少なくとも1つの多官能性(メタ)アクリレート、または単官能性および多官能性(メタ)アクリレートの混合物、
(c)0.05~3.0重量%の少なくとも1つの単分子光開始剤と少なくとも1つの二分子光開始剤との混合物、
(d)40~90重量%の少なくとも1つの充填材、ならびに
(e)0~5重量%の添加剤(単数または複数)を含有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の材料。
【請求項10】
前記材料の総質量に対してそれぞれの場合に、
(a)0.1~5重量%の式Iおよび/またはIIの少なくとも1つの移動試薬、
(b)10~40重量%の少なくとも1つの多官能性(メタ)アクリレートであって、ビスフェノールAジメタクリレート、bis-GMA(メタクリル酸とビスフェノールAジグリシジルエーテルとの付加生成物)、2-[4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシ)フェニル]-2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン)、2,2-ビス[4-(2-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(bis-PMA)、UDMA(メタクリル酸2-ヒドロキシエチルと2,2,4-または2,4,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネートとの付加生成物)、ビスメタクリロイルオキシメチルトリシクロ[5.2.1.]デカン(TCDMA)およびこれらの混合物から選択される、少なくとも1つの多官能性(メタ)アクリレート、
(c)0.1~2.0重量%の、ジアシルジアルキルゲルマニウム、テトラアシルゲルマニウムおよび/もしくはテトラアシルスタンナン化合物の、またはモノアシルホスフィンオキシドもしくはビスアシルホスフィンオキシドの、二分子光開始剤との、ならびに4-(ジメチルアミノ)-安息香酸エステル(EDMAB)との混合物、
(d)50~85重量%の充填材であって、SiO
2とZrO
2との混合酸化物、ガラス粉末、放射線不透過性充填材、粉砕プレポリマー、およびこれらの混合物から選択される、充填材、ならびに
(e)0.2~3重量%の添加剤(単数または複数)
を含有する、請求項9に記載の材料。
【請求項11】
損傷を受けた歯の修復のための口内での使用のための、請求項1~10のいずれか1項に記載の材料。
【請求項12】
歯科用修復物の口外での製造または修理のための材料としての、請求項1~10のいずれか1項に記載の材料の使用。
【請求項13】
義歯、プロテーゼ、インレー、アンレー、クラウンまたはブリッジの製造のための、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
キャスティング、圧縮成型または3D印刷による成形体の製造のための、請求項1~10のいずれか1項に記載の材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用充填用コンポジット、インレー用、アンレー用、クラウン用またはブリッジ用のセメントとして、および前装材料として特に適切な、光硬化性ラジカル重合性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばコンポジットセメントとして、インレー、アンレー、クラウンの製造のための直接充填材料として、または前装材料として使用される、歯科用コンポジットは、重合性有機マトリックスおよび1つまたはそれより多くの充填材を含み、これらは通常、重合性結合剤で表面修飾されている。これらの充填材の種類、モノマーマトリックスおよび用途に依存して、充填材の含有量は、30~90重量%の間で変わり得、ここでセメントは、充填用コンポジット材料と比較して、より低い充填材含有量を有する。重合性有機マトリックスは、レジンとも称される。
【0003】
一般に、重合性有機マトリックスは、モノマー、開始剤成分、安定化剤および顔料の混合物を含む。ジメタクリレートの混合物が、通常、レジンとして使用される。これらの例は、高粘度ジメタクリレートである、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]プロパン(bis-GMA)および1,6-ビス-[2-メタクリロイルオキシエトキシカルボニルアミノ]-2,4,4-トリメチルヘキサン(UDMA)、または希釈モノマーとして使用される低粘度ジメタクリレートである、ビスメタクリロイルオキシメチルトリシクロ[5.2.1]デカン(TCDMA)、デカンジオール-1,10-ジメタクリレート(D3MA)およびトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)である。
【0004】
歯科用コンポジットのラジカル重合において、使用されるモノマーの重合収縮(ΔVP)は、体積の収縮をもたらし、これは、歯の充填材の場合には非常に不利な、周辺の隙間をもたらし得る。
【0005】
単官能性メタクリレート(例えば、メタクリル酸メチル(MMA)(ΔVP=21.0体積%))の重合中に、重合収縮は、重合収縮力(PSF)の蓄積をもたらさない。なぜなら、体積の減少が、形成される巨大分子の単純な流れによって補償され得るからである。しかし、多官能性メタクリレートの架橋重合の場合、三次元ポリマー網目構造が、いわゆるゲル化点で、数秒以内にすでに、すなわち、モノマー転換率が低い時点ですでに、形成されており、その結果、重合収縮はもはや、粘性の流れによって補償され得ず、そしてモノマー転換率が増加するにつれて、この材料はかなりのPSFを蓄積する。これは応力をもたらし、そしていくつかの場合にはまた、材料中の亀裂、または基材からの浮き上がりをもたらす。充填用コンポジットにおけるPSFまたは対応する応力の発生は、さらに数個の要因に依存し、これらの要因としては、重合中(硬化中もしくは硬化後)の体積の収縮の程度、粘弾特性(弾性係数およびモジュール構造)、ポリマーのガラス転移温度(TG)、粘度および流れの挙動、重合の反応速度論、ポリマー網目構造の形成(樹脂の官能性、架橋密度、環状構造の割合、重合速度、温度、モノマーおよび二重結合の転換)、硬化の種類および回復の種類(層の厚さ、窩洞の形状)が挙げられる。特に高い収縮応力は、光硬化の場合に観察される(R.R.Braga,R.Y.Ballester,J.L.Ferracane,Dent.Mater.21(2005)962-970;J.W.Stansbury,Dent.Mater.28(2012)13-22を参照のこと)。
【0006】
多数のストラテジーが、PSFを減少させるために探求されている。これには、臨床的方法(例えば、積層技術、応力吸収層を形成するための低弾性率の窩洞ワニスの使用、または流れ特性を改善するためのコンポジットの予熱)が含まれる。開環重合性基を有するモノマーの使用、または光不安定もしくは熱不安定なスペーサーを有する架橋剤の使用は、同様に、低いPSFを有するコンポジットをもたらし得る。
【0007】
さらに、超分岐モノマー、ナノゲルまたはナノチューブ、および低プロフィール添加剤または膨張性充填材の添加によって、PSFの減少が試みられている。
【0008】
米国特許出願公開第2012/0295228号は、ジスルフィド基を有するエチレン性不飽和モノマーを含むラジカル重合性歯科材料を開示する。これらは、付加-切断材料として有効であり、そしてPSFを減少させることが意図される。
【0009】
国際公開第2015/057413号は、アリル位置にジスルフィド基を含む、付加-切断オリゴマーを開示する。これらは、ラジカル重合性材料に添加され得、ここで不安定結合が、重合中に切断され得、そして再度形成され得る。これによってPSFが減少するはずである。
【0010】
国際公開第2015/041863号は、トリチオカーボネート構造を含む架橋性付加-切断オリゴマーを開示する。これらのオリゴマーは、ラジカル重合性材料に添加され得る。これらは、前記材料の架橋をもたらし、ここで前記架橋は不安定であり、重合中に切断および再度形成され得る。この方法で、PSFは減少するはずである。
【0011】
欠点は、技術水準による、低い収縮応力を有する記載されるコンポジットが、比較的ゆっくりと硬化し、従って、硬化のために比較的長い露光時間を必要とすることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許出願公開第2012/0295228号明細書
【文献】国際公開第2015/057413号
【文献】国際公開第2015/041863号
【非特許文献】
【0013】
【文献】R.R.Braga,R.Y.Ballester,J.L.Ferracane,Dent.Mater.21(2005)962-970
【文献】J.W.Stansbury,Dent.Mater.28(2012)13-22
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、硬化のための短い露光時間を必要とし、そして硬化後に、歯科用途に適した機械特性、および特に、低い重合収縮力(PSF)を有する、重合性歯科材料を提供することである。
【0015】
本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1)
ラジカル重合性材料であって、該材料は、該材料の総質量に対してそれぞれの場合に、
(a)0.01~5重量%の少なくとも1つの移動試薬、
(b)5~60重量%の、少なくとも1つの多官能性(メタ)アクリレート、または単官能性および多官能性(メタ)アクリレートの混合物、
(c)0.01~3.0重量%の、少なくとも1つの単分子光開始剤と少なくとも1つの二分子光開始剤との混合物、
(d)30~90重量%の少なくとも1つの充填材、ならびに
(e)必要に応じて添加剤(単数または複数)
を含有し、該材料は、移動試薬(a)として、
少なくとも1つの式Iのアリルスルホン
【化1】
であって、式Iにおいて、可変物が以下の意味:
Aは、H;-CN;フェニルラジカルであって、-CH
3、-C
2H
5、-OH、-OCH
3、-O-COCH
3、重合性のビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基または(メタ)アクリルアミド基などの1個またはそれより多くの置換基を有し得る、フェニルラジカル;あるいは脂肪族の直鎖または分枝鎖のC
1~C
20アルキレンまたはC
1~C
20アルキルラジカルであって、1個またはそれより多くの1,4-フェニレン基、ウレタン基、OまたはSによって分断され得、-OHまたは-OCH
3などの1個またはそれより多くの置換基を有し得、そしてトリ-C
1~C
4アルコキシシリル基または重合性のビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基もしくは(メタ)アクリルアミド基を末端に有し得る、脂肪族の直鎖または分枝鎖のC
1~C
20アルキレンまたはC
1~C
20アルキルラジカルである;
R
1は、各場合に互いに独立して、H、脂肪族の直鎖または分枝鎖のC
1~C
9アルキルラジカル、トリルまたはフェニルである;
R
2は、各場合に互いに独立して、1個またはそれより多くの置換基、例えば-CH
3、-C
2H
5、-OH、-OCH
3、-O-COCH
3、重合性のビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基もしくは(メタ)アクリルアミド基、-C(=CH
2)-COOR
3または-C(=CH
2)-CO-NR
4R
5を有し得るフェニルラジカル;あるいはOまたはSによって分断され得、そして重合性のビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基もしくは(メタ)アクリルアミド基、-C(=CH
2)-COOR
3または-C(=CH
2)-CO-NR
4R
5を末端に有し得る、脂肪族の直鎖または分枝鎖のC
1~C
20アルキルラジカルであり、ここでR
3~5は、互いに独立して、各場合に、直鎖または分枝鎖のC
1~6アルキルラジカルである;
Xは、-COO-、-CON(R
6)-、または存在せず、ここでAへの結合は、OまたはNを介してなされ、そして
R
6は、H;あるいは脂肪族の直鎖または分枝鎖のC
1~C
20アルキルラジカルであり、該脂肪族の直鎖または分枝鎖のC
1~C
20アルキルラジカルは、1個またはそれより多くのOまたはSによって分断され得、そして重合性のビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基もしくは(メタ)アクリルアミド基、-C(=CH
2)-COOR
3または-C(=CH
2)-CO-NR
4R
5を末端に有し得、ここでR
3~5は、互いに独立して、各場合に、直鎖または分枝鎖のC
1~6アルキルラジカルである;
nは、1~6の整数である
を有する、アリルスルホン、ならびに/あるいは
式IIのビニルスルホンエステル
【化2】
であって、式IIにおいて、可変物が以下の意味:
Bは、H、CN、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C
1~C
30炭化水素ラジカルであって、1個またはそれより多くの、好ましくは1個~6個の、特に好ましくは1個~3個の置換基、好ましくは-CH
3、-C
2H
5、-OH、-OCH
3および/または-O-COCH
3によって置換され得、1個またはそれより多くの、好ましくは1個~4個の、特に好ましくは1個~2個のウレタン基、エステル基、Oおよび/またはSによって分断され得、そして1個~4個の、好ましくは1個または2個のベンゼン基を含み得る、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C
1~C
30炭化水素ラジカル、
芳香族C
6~C
30炭化水素ラジカルであって、1個またはそれより多くの、好ましくは1個~6個の、特に好ましくは1個~3個の置換基、好ましくは-CH
3、-C
2H
5、-OH、-OCH
3および/または-O-COCH
3によって置換され得る、芳香族C
6~C
30炭化水素ラジカル、
あるいはこれらの組み合わせである;
Yは、-COO-、-CON(R
7)-または非存在であり、ここでBへの結合は、OまたはNを介してなされる;
Cは、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C
1~C
30炭化水素ラジカルであって、1個またはそれより多くの、好ましくは1個~6個の、特に好ましくは1個~3個の置換基、好ましくはC
1~C
5アルキル、-OH、-O-COCH
3および/またはC
1~C
5アルコキシによって置換され得、1個またはそれより多くの、好ましくは1個~4個の、特に好ましくは1個~2個のウレタン基、エステル基、Oおよび/またはSによって分断され得、そして1個~4個の、好ましくは1個または2個のベンゼン基を含み得る、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C
1~C
30炭化水素ラジカル、
芳香族C
6~C
30炭化水素ラジカルであって、1個またはそれより多くの、好ましくは1個~6個の、特に好ましくは1個~3個の置換基、好ましくはビニル、C
1~C
5アルキル、-OH、-O-COCH
3および/またはC
1~C
5アルコキシ、またはトシルによって置換され得る、芳香族C
6~C
30炭化水素ラジカル、
あるいはこれらの組み合わせである;
R
7は、水素;脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C
1~C
10炭化水素ラジカルであって、1個またはそれより多くの、好ましくは1個~4個の、特に好ましくは1個~2個の酸素原子によって分断され得、そして1個またはそれより多くの、好ましくは1個~4個の、特に好ましくは1個~2個のOH基によって置換され得る、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C
1~C
10炭化水素ラジカル、あるいは
芳香族C
6~C
10炭化水素ラジカルであって、1個またはそれより多くの、好ましくは1個~4個の、特に好ましくは1個~2個のOH基によって置換され得る、芳香族C
6~C
10炭化水素ラジカルである;
pは、1~6の整数である;
kは、1~6の整数である;
qは、1~6の整数である;ここで
pとqとは、同時に1より大きくなることはできず、そしてp=1の場合、q=kであり、そしてq=1の場合、p=kである
を有する、ビニルスルホンエステル
を含有する、材料。
(項目2)
式Iの可変物が、以下の意味:
Aは、H;1個またはそれより多くのOまたはSによって分断され得、1個またはそれより多くの置換基、例えば-OHまたは-OCH
3を有し得、そしてトリ-C
1~C
3アルコキシシリル基または重合性のビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基もしくは(メタ)アクリルアミド基を末端に有し得る、脂肪族の直鎖または分枝鎖のC
1~C
14アルキレンまたはC
1~C
14アルキルラジカルである;
R
1は、H、脂肪族の分枝鎖または好ましくは直鎖のC
1~C
4アルキルラジカル、トリルまたはフェニルである;
R
2は、各場合に互いに独立して、1個またはそれより多くの置換基、例えば-CH
3、-C
2H
5、-OH、-OCH
3、-O-COCH
3を有し得るフェニルラジカル;あるいはOまたはSによって分断され得る脂肪族の直鎖または分枝鎖のC
1~C
10アルキルラジカルである;
Xは、-COO-、-CON(R
6)-、または存在せず、ここでAへの結合は、OまたはNを介してなされ、そして
R
6は、H;あるいは1個またはそれより多くのOまたはSによって分断され得る脂肪族の直鎖または分枝鎖のC
1~C
10アルキルラジカルである;
nは、1~3の整数である
を有し、そして/または
式IIの可変物が、以下の意味:
Bは、H;脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C
1~C
15炭化水素ラジカルであって、1個~4個の、特に好ましくは1個~3個の置換基、好ましくは-CH
3、-C
2H
5、-OH、-OCH
3および/または-O-COCH
3によって置換され得、1個~4個の、特に好ましくは1個~2個のウレタン基、エステル基、Oおよび/またはSによって分断され得、そして1個または2個のベンゼン基を含み得る、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C
1~C
15炭化水素ラジカル、
芳香族C
6~C
18炭化水素ラジカルであって、1個~6個の、特に好ましくは1個~3個の置換基、好ましくは-CH
3、-C
2H
5、-OH、-OCH
3および/または-O-COCH
3によって置換され得る、芳香族C
6~C
18炭化水素ラジカル、
あるいはこれらの組み合わせである;
Yは、-COO-、-CON(R
7)-または非存在であり、ここでBへの結合は、OまたはNを介してなされる;
Cは、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C
1~C
15炭化水素ラジカルであって、1個~4個の、特に好ましくは1個~3個の置換基、好ましくはC
1~C
4アルキル、-OH、-O-COCH
3および/またはC
1~C
4アルコキシによって置換され得、1個~4個の、特に好ましくは1個~2個のウレタン基、エステル基、Oおよび/またはSによって分断され得、そして1個または2個のベンゼン基を含み得る、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C
1~C
15炭化水素ラジカル、
芳香族C
6~C
18炭化水素ラジカルであって、1個~6個の、特に好ましくは1個~3個の置換基、好ましくはビニル、C
1~C
4アルキル、-OH、-O-COCH
3および/またはC
1~C
4アルコキシ、またはトシルによって置換され得る、芳香族C
6~C
18炭化水素ラジカル、
あるいはこれらの組み合わせである;
R
7は、水素;脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C
1~C
6炭化水素ラジカルであって、1個またはそれより多くの、好ましくは1個~2個の酸素原子によって分断され得、そして1個またはそれより多くの、好ましくは1個~2個のOH基によって置換され得る、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C
1~C
6炭化水素ラジカル、あるいは
芳香族C
6~C
10炭化水素ラジカルであって、1個またはそれより多くの、好ましくは1個~2個のOH基によって置換され得る、芳香族C
6~C
10炭化水素ラジカルである;
pは、1~3の整数である;
kは、1~3の整数である;
qは、1~3の整数である;ここで
pとqとは、同時に1より大きくなることはできず、そしてp=1の場合、q=kであり、そしてq=1の場合、p=kである、
を有する、上記項目のいずれかに記載の材料。
(項目3)
式Iによる移動試薬として、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸エチルエステル(TSMEA)、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸2-(2-エトキシエトキシ)-エチルエステル、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸tert-ブチルエステル、3-(トリメトキシシリル)プロピル-2-(トシルメチル)アクリレート、3-(トリエトキシシリル)プロピル-2-(トシルメチル)アクリレート、3-(トリエトキシシリル)プロピル-2-(トシルメチル)アクリルアミド、2-(メチルスルホニルメチル)-エチルアクリレート、2-(メチルスルホニルメチル)-プロピルアクリレート、トリエチレングリコールビス[2-(トルエン-4-スルホニルメチル)アクリレート]、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸(2-メタクリロイルオキシエチル)エステル、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸(6-メタクリロイルオキシヘキシル)エステル、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸(10-メタクリロイルオキシデシル)エステル、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)エステル、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸(8-メタクリロイルオキシ-3,6-ジオキサオクチル)エステル、好ましくは、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸エチルエステル(TSMEA)を含有し、
そして/または
式IIによる移動試薬として、2-(トルエン-4-スルホニルオキシ)-アクリル酸エチルエステル(TSVEA)、2-メタンスルホニルオキシアクリル酸エチルエステル、トリエチレングリコールビス[2-(トルエン-4-スルホニルオキシ)アクリレート]、2-(2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルホニルオキシアクリル酸オクチルエステル、2-(トルエン-4-スルホニルオキシ)-アクリル酸2-(テトラヒドロピラン-2-イルオキシ)-エチルエステル、2-(トルエン-4-スルホニルオキシ)-アクリル酸2-ヒドロキシエチルエステル、2-(トルエン-4-スルホニルオキシ)-アクリル酸2,4,6-トリメチルフェニルエステル、2-(4-ビニルベンゼンスルホニルオキシ)-アクリル酸エチルエステル、2-(トルエン-4-スルホニルオキシ)-アクリル酸メトキシメチルエステル、2-(2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルホニルオキシ)-アクリル酸メトキシメチルエステル、2-(2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルホニルオキシ)-アクリル酸もしくはジエチル-2,2’-[(1,3-フェニルジスルホニル)ビス(オキシ)]ジアクリレートを含有し、好ましくは、2-(トルエン-4-スルホニルオキシ)-アクリル酸エチルエステル(TSVEA)を含有する、
上記項目のいずれかに記載の材料。
(項目4)
成分(b)として、ビスフェノールAジメタクリレート、bis-GMA(メタクリル酸とビスフェノールAジグリシジルエーテルとの付加生成物)、2-[4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシ)フェニル]-2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン)、2,2-ビス[4-(2-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(bis-PMA)、UDMA(メタクリル酸2-ヒドロキシエチルと2,2,4-または2,4,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネートとの付加生成物)およびビスメタクリロイルオキシメチルトリシクロ[5.2.1.]デカン(TCDMA)からなる群より選択される少なくとも1つの多官能性(メタ)アクリレートを含有する、上記項目のいずれかに記載の材料。
(項目5)
単分子光開始剤として、ジアシルジアルキルゲルマニウムもしくはテトラアシルゲルマニウム化合物、モノアシルホスフィンオキシドもしくはビスアシルホスフィンオキシド、またはこれらの混合物;および二分子光開始剤として、カンファーキノン(CQ)、9,10-フェナントレンキノン、1-フェニルプロパン-1,2-ジオン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、ジアセチル、4,4’-ジクロロベンジル、またはこれらの混合物を、好ましくはアミンと組み合わせて、好ましくは4-(ジメチルアミノ)-安息香酸エステル(EDMAB)、メタクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、N,N-ジメチル-sym-キシリジン、トリエタノールアミン、またはこれらの混合物と組み合わせて含有する、上記項目のいずれかに記載の材料。
(項目6)
単分子光開始剤として、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ジベンゾイルジエチルゲルマン、ビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマン(MBDEGe)、テトラベンゾイルゲルマン、テトラキス(o-メチルベンゾイル)ゲルマン、テトラキス(メシトイル)スタンナン(tetrakis(mesitoyl)stannane)またはこれらの混合物;二分子光開始剤として、カンファーキノン(CQ)、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンまたはこれらの混合物;およびアミンとして、4-(ジメチルアミノ)-安息香酸エステル(EDMAB)を含有する、上記項目のいずれかに記載の材料。
(項目7)
前記少なくとも1つの単分子光開始剤と前記少なくとも1つの二分子光開始剤とが、2:1~1:2、好ましくは1.4:1~1:2、特に好ましくは1.2:1~1:1.8、そして特に非常に好ましくは1:1~1:1.8の重量比で使用される、上記項目のいずれかに記載の材料。
(項目8)
前記二分子光開始剤と前記アミンとが、1:1~1:6の重量比で使用される、上記項目のいずれかに記載の材料。
(項目9)
充填材(d)として、SiO
2とZrO
2との混合酸化物、ガラス粉末、好ましくはケイ酸アルミニウムバリウムまたはケイ酸アルミニウムストロンチウムのガラス粉末、放射線不透過性充填材、好ましくは三フッ化イッテルビウム、またはSiO
2と酸化イッテルビウム(III)との混合酸化物、粉砕プレポリマー、あるいはこれらの混合物を含有する、上記項目のいずれかに記載の材料。
(項目10)
前記材料の総質量に対してそれぞれの場合に、
(a)0.1~5重量%、好ましくは0.1~3重量%の、式Iおよび/またはIIの少なくとも1つの移動試薬、
(b)8~50重量%、好ましくは10~40重量%の少なくとも1つの多官能性(メタ)アクリレート、または単官能性および多官能性(メタ)アクリレートの混合物、
(c)0.05~3.0重量%、そして好ましくは0.1~2.0重量%の、少なくとも1つの単分子光開始剤と少なくとも1つの二分子光開始剤との混合物、
(d)40~90重量%、そして好ましくは50~85重量%の少なくとも1つの充填材、ならびに
(e)0~5重量%、好ましくは0~3重量%、そして特に好ましくは0.2~3重量%の添加剤(単数または複数)
を含有する、上記項目のいずれかに記載の材料。
(項目11)
前記材料の総質量に対してそれぞれの場合に、
(a)0.1~5重量%、好ましくは0.1~3重量%の、式Iおよび/またはIIの少なくとも1つの移動試薬、
(b)10~40重量%の少なくとも1つの多官能性(メタ)アクリレートであって、ビスフェノールAジメタクリレート、bis-GMA(メタクリル酸とビスフェノールAジグリシジルエーテルとの付加生成物)、2-[4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシ)フェニル]-2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン)、2,2-ビス[4-(2-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(bis-PMA)、UDMA(メタクリル酸2-ヒドロキシエチルと2,2,4-または2,4,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネートとの付加生成物)、ビスメタクリロイルオキシメチルトリシクロ[5.2.1.]デカン(TCDMA)およびこれらの混合物から選択される、少なくとも1つの多官能性(メタ)アクリレート、
(c)0.1~2.0重量%の、ジアシルジアルキルゲルマニウム、テトラアシルゲルマニウムおよび/もしくはテトラアシルスタンナン化合物の、またはモノアシルホスフィンオキシドもしくはビスアシルホスフィンオキシドの、二分子光開始剤、好ましくはカンファーキノン(CQ)および/もしくは2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンとの、ならびに4-(ジメチルアミノ)-安息香酸エステル(EDMAB)との混合物、
(d)50~85重量%の充填材であって、SiO
2とZrO
2との混合酸化物、ガラス粉末、好ましくはケイ酸アルミニウムバリウムもしくはケイ酸アルミニウムストロンチウムのガラス粉末、放射線不透過性充填材、好ましくは三フッ化イッテルビウム、およびSiO
2と酸化イッテルビウム(III)との混合酸化物、粉砕プレポリマー、およびこれらの混合物から選択される、充填材、ならびに
(e)0.2~3重量%の添加剤(単数または複数)
を含有する、上記項目のいずれかに記載の材料。
(項目12)
損傷を受けた歯の修復のための口内での使用のため、好ましくは、歯科用セメント、充填用コンポジットまたは前装材料としての口内での使用のための、上記項目のいずれかに記載の材料。
(項目13)
歯科用修復物の口外での製造または修理のための材料としての、上記項目のいずれかに記載の材料の使用。
(項目14)
義歯、プロテーゼ、インレー、アンレー、クラウンまたはブリッジの製造のための、上記項目のいずれかに記載の使用。
(項目15)
キャスティング、圧縮成型または3D印刷による成形体の製造のための、上記項目のいずれかに記載の材料の使用。
【0016】
摘要
(a)0.01~5重量%の少なくとも1つの移動試薬、(b)5~60重量%の、少なくとも1つの多官能性(メタ)アクリレート、または単官能性および多官能性(メタ)アクリレートの混合物、(c)0.01~3.0重量%の、少なくとも1つの単分子光開始剤と少なくとも1つの二分子光開始剤との混合物、(d)30~90重量%の少なくとも1つの充填材、ならびに(e)必要に応じて添加剤(単数または複数)を含有するラジカル重合性材料であって、この材料は、移動試薬(a)として、少なくとも1つの式Iのアリルスルホンおよび/または式IIのビニルスルホンエステルを含有する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上記目的は、本発明に従って、
(a)0.01~5重量%の少なくとも1つの移動試薬、
(b)5~60重量%の、少なくとも1つの多官能性(メタ)アクリレート、または単官能性および多官能性(メタ)アクリレートの混合物、
(c)0.01~3.0重量%の、少なくとも1つの単分子光開始剤と少なくとも1つの二分子光開始剤との組み合わせ物、
(d)30~90重量%の少なくとも1つの充填材、ならびに
(e)必要に応じて添加剤(単数または複数)
を含むラジカル重合性材料によって達成される。
【0018】
この材料は、移動剤(a)として、
式I
【化3】
の少なくとも1つのアリルスルホンを含み、式Iにおいて、可変物は、以下の意味を有する:
Aは、H;-CN;フェニルラジカルであって、1個またはそれより多くの置換基、例えば-CH
3、-C
2H
5、-OH、-OCH
3、-O-COCH
3、重合性のビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基または(メタ)アクリルアミド基を有し得る、フェニルラジカル、あるいは脂肪族の直鎖または分枝鎖のC
1~C
20アルキレンまたはC
1~C
20アルキルラジカルであって、1個またはそれより多くの1,4-フェニレン基、ウレタン基、OまたはSによって分断され得、1個またはそれより多くの置換基、例えば-OHまたは-OCH
3を有し得、そしてトリ-C
1~C
4アルコキシシリル基または重合性のビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基もしくは(メタ)アクリルアミド基を末端に有し得る、脂肪族の直鎖または分枝鎖のC
1~C
20アルキレンまたはC
1~C
20アルキルラジカルである;
R
1は、各場合に互いに独立して、H、脂肪族の直鎖または分枝鎖のC
1~C
9アルキルラジカル、トリルまたはフェニルである;
R
2は、各場合に互いに独立して、1個またはそれより多くの置換基、例えば-CH
3、-C
2H
5、-OH、-OCH
3、-O-COCH
3、重合性のビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基もしくは(メタ)アクリルアミド基、-C(=CH
2)-COOR
3または-C(=CH
2)-CO-NR
4R
5を有し得るフェニルラジカル;あるいはOまたはSによって分断され得、そして重合性のビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基もしくは(メタ)アクリルアミド基、-C(=CH
2)-COOR
3または-C(=CH
2)-CO-NR
4R
5を末端に有し得る、脂肪族の直鎖または分枝鎖のC
1~C
20アルキルラジカルであって、ここでR
3~5は、互いに独立して、各場合に、直鎖または分枝鎖のC
1~6アルキルラジカルである、脂肪族の直鎖または分枝鎖のC
1~C
20アルキルラジカルである;
Xは、-COO-、-CON(R
6)-、または存在せず、ここでAへの結合は、OまたはNを介してなされ、そして
R
6は、H;あるいは脂肪族の直鎖または分枝鎖のC
1~C
20アルキルラジカルであり、この脂肪族の直鎖または分枝鎖のC
1~C
20アルキルラジカルは、1個またはそれより多くのOまたはSによって分断され得、そして重合性のビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基もしくは(メタ)アクリルアミド基、-C(=CH
2)-COOR
3または-C(=CH
2)-CO-NR
4R
5を末端に有し得、ここでR
3~5は、互いに独立して、各場合に、直鎖または分枝鎖のC
1~6アルキルラジカルである;
nは、1~6の整数である。
そして/あるいは
【0019】
式IIのビニルスルホンエステル
【化4】
を含み、式IIにおいて、可変物は、以下の意味を有する:
Bは、H、CN、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C
1~C
30炭化水素ラジカルであって、1個またはそれより多くの、好ましくは1個~6個の、特に好ましくは1個~3個の置換基、好ましくは-CH
3、-C
2H
5、-OH、-OCH
3および/または-O-COCH
3によって置換され得、1個またはそれより多くの、好ましくは1個~4個の、特に好ましくは1個~2個のウレタン基、エステル基、Oおよび/またはSによって分断され得、そして1個~4個の、好ましくは1個または2個のベンゼン基を含み得る、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C
1~C
30炭化水素ラジカル、
芳香族C
6~C
30炭化水素ラジカルであって、1個またはそれより多くの、好ましくは1個~6個の、特に好ましくは1個~3個の置換基、好ましくは-CH
3、-C
2H
5、-OH、-OCH
3および/または-O-COCH
3によって置換され得る、芳香族C
6~C
30炭化水素ラジカル、
あるいはこれらの組み合わせである;
Yは、-COO-、-CON(R
7)-または非存在であり、ここでBへの結合は、OまたはNを介してなされる;
Cは、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C
1~C
30炭化水素ラジカルであって、1個またはそれより多くの、好ましくは1個~6個の、特に好ましくは1個~3個の置換基、好ましくはC
1~C
5アルキル、-OH、-O-COCH
3および/またはC
1~C
5アルコキシによって置換され得、1個またはそれより多くの、好ましくは1個~4個の、特に好ましくは1個~2個のウレタン基、エステル基、Oおよび/またはSによって分断され得、そして1個~4個の、好ましくは1個または2個のベンゼン基を含み得る、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C
1~C
30炭化水素ラジカル、
芳香族C
6~C
30炭化水素ラジカルであって、1個またはそれより多くの、好ましくは1個~6個の、特に好ましくは1個~3個の置換基、好ましくはビニル、C
1~C
5アルキル、-OH、-O-COCH
3および/またはC
1~C
5アルコキシ、またはトシルによって置換され得る、芳香族C
6~C
30炭化水素ラジカル、
あるいはこれらの組み合わせである;
R
7は、水素;脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C
1~C
10炭化水素ラジカルであって、1個またはそれより多くの、好ましくは1個~4個の、特に好ましくは1個~2個の酸素原子によって分断され得、そして1個またはそれより多くの、好ましくは1個~4個の、特に好ましくは1個~2個のOH基によって置換され得る、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C
1~C
10炭化水素ラジカル、あるいは
芳香族C
6~C
10炭化水素ラジカルであって、1個またはそれより多くの、好ましくは1個~4個の、特に好ましくは1個~2個のOH基によって置換され得る、芳香族C
6~C
10炭化水素ラジカルである;
pは、1~6の整数である;
kは、1~6の整数である;
qは、1~6の整数である;ここで
pとqとは、同時に1より大きくなることはできず、そしてp=1の場合、q=kであり、そしてq=1の場合、p=kである。
【0020】
可変物が以下の意味を有する式Iの化合物が、好ましい:
Aは、H;1個またはそれより多くのOまたはSによって分断され得、1個またはそれより多くの置換基、例えば-OHまたは-OCH3を有し得、そしてトリ-C1~C3アルコキシシリル基、または重合性のビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基もしくは(メタ)アクリルアミド基を末端に有し得る、脂肪族の直鎖または分枝鎖のC1~C14アルキレンまたはC1~C14アルキルラジカルである;
R1は、H、脂肪族の分枝鎖または好ましくは直鎖のC1~C4アルキルラジカル、トリルまたはフェニルである;
R2は、各場合に互いに独立して、1個またはそれより多くの置換基、例えば-CH3、-C2H5、-OH、-OCH3、-O-COCH3を有し得るフェニルラジカル;あるいはOまたはSによって分断され得る脂肪族の直鎖または分枝鎖のC1~C10アルキルラジカルである;
Xは、-COO-、-CON(R6)-、または存在せず、ここでAへの結合は、OまたはNを介してなされ、そして
R6は、H;あるいは1個またはそれより多くのOまたはSによって分断され得る脂肪族の直鎖または分枝鎖のC1~C10アルキルラジカルである;
nは、1~3の整数である。
【0021】
可変物が以下の意味を有する式Iの化合物が、特に好ましい:
Aは、H;1個またはそれより多くのOによって分断され得、そしてトリ-C1~C2アルコキシシリル基または重合性(メタ)アクリロイルオキシ基を末端に有し得る、脂肪族の直鎖または分枝鎖のC1~C12アルキレンまたはC1~C12アルキルラジカルである;
R1は、Hまたは脂肪族直鎖C1~C4アルキルラジカルである;
R2は、各場合に互いに独立して、1個またはそれより多くの置換基、例えば-CH3、-C2H5、-OH、-OCH3を有し得るフェニルラジカル;またはOによって分断され得る脂肪族直鎖C1~C6アルキルラジカルである;
Xは、-COO-、-CON(R6)-、または存在せず、ここでAへの結合は、OまたはNを介してなされ、そして
R6は、H;または脂肪族直鎖C1~C4アルキルラジカルである;
nは、1~2の整数である。
【0022】
可変物が以下の意味を有する式IIの化合物が、好ましい:
Bは、H;脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C1~C15炭化水素ラジカルであって、1個~4個の、特に好ましくは1個~3個の置換基、好ましくは-CH3、-C2H5、-OH、-OCH3および/または-O-COCH3によって置換され得、1個~4個の、特に好ましくは1個~2個のウレタン基、エステル基、Oおよび/またはSによって分断され得、そして1個または2個のベンゼン基を含み得る、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C1~C15炭化水素ラジカル、
芳香族C6~C18炭化水素ラジカルであって、1個~6個の、特に好ましくは1個~3個の置換基、好ましくは-CH3、-C2H5、-OH、-OCH3および/または-O-COCH3によって置換され得る、芳香族C6~C18炭化水素ラジカル、
あるいはこれらの組み合わせである;
Yは、-COO-、-CON(R7)-または非存在であり、ここでBへの結合は、OまたはNを介してなされる;
Cは、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C1~C15炭化水素ラジカルであって、1個~4個の、特に好ましくは1個~3個の置換基、好ましくはC1~C4アルキル、-OH、-O-COCH3および/またはC1~C4アルコキシによって置換され得、1個~4個の、特に好ましくは1個~2個のウレタン基、エステル基、Oおよび/またはSによって分断され得、そして1個または2個のベンゼン基を含み得る、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C1~C15炭化水素ラジカル、
芳香族C6~C18炭化水素ラジカルであって、1個~6個の、特に好ましくは1個~3個の置換基、好ましくはビニル、C1~C4アルキル、-OH、-O-COCH3および/またはC1~C4アルコキシ、またはトシルによって置換され得る、芳香族C6~C18炭化水素ラジカル、
あるいはこれらの組み合わせである;
R7は、水素;脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C1~C6炭化水素ラジカルであって、1個またはそれより多くの、好ましくは1個~2個の酸素原子によって分断され得、そして1個またはそれより多くの、好ましくは1個~2個のOH基によって置換され得る、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C1~C6炭化水素ラジカル、あるいは
芳香族C6~C10炭化水素ラジカルであって、1個またはそれより多くの、好ましくは1個~2個のOH基によって置換され得る、芳香族C6~C10炭化水素ラジカルである;
pは、1~3の整数である;
kは、1~3の整数である;
qは、1~3の整数である;ここで
pとqとは、同時に1より大きくなることはできず、そしてp=1の場合、q=kであり、そしてq=1の場合、p=kである。
【0023】
可変物が以下の意味を有する式IIの化合物が、特に好ましい:
Bは、H;1個~3個の置換基、好ましくは-CH3、-OHおよび/または-OCH3によって置換され得、そして1個~2個のOによって分断され得る、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C1~C10炭化水素ラジカル、
1個~3個の置換基、好ましくは-CH3、-OHおよび/または-OCH3によって置換され得る、芳香族C6~C10炭化水素ラジカル、
あるいはこれらの組み合わせである;
Yは、-COO-であり、ここでBへの結合は、Oを介してなされる;
Cは、1個~3個の置換基、好ましくはC1~C3アルキル、-OH、-O-COCH3および/またはC1~C3アルコキシによって置換され得、1個~2個のOおよび/またはSによって分断され得、そして1個または2個のベンゼン基を含み得る、脂環式、直鎖または分枝鎖の脂肪族C1~C10炭化水素ラジカル、
1個~3個の置換基、好ましくはビニル、C1~C3アルキル、-OH、-O-COCH3および/またはC1~C3アルコキシ、またはトシルによって置換され得る、芳香族C6~C10炭化水素ラジカル、
あるいはこれらの組み合わせである;
pは、1~2の整数である;
kは、1~2の整数である;
qは、1~2の整数である;ここで
pとqとは、同時に1より大きくなることはできず、そしてp=1の場合、q=kであり、そしてq=1の場合、p=kである。
【0024】
これらの式は、化学原子価の理論に適合する化合物にのみ、拡張される。例えば、Aが水素である場合、nは1であり得るのみであり、そしてBがC1ラジカルである場合、pは最大で4であり得る。あるラジカルが、1個またはそれより多くのウレタン基、O原子、S原子などによって分断されるという指示は、これらの基が、各場合に、このラジカルの炭素鎖に挿入されていることを意味すると理解されるべきである。従って、これらの基は、両側でC原子に接しており、末端ではあり得ない。C1ラジカルを分断することはできない。あるラジカルがベンゼン基を含むという指示は、対照的に、この基が末端でもあり得ることを意味し、この場合、残りの任意の置換可能(結合可能)な位置がHによって満たされていることを意味する。「組み合わせ」とは、各場合に与えられる意味からなる基(例えば、芳香族ラジカルと脂肪族ラジカル(例えば-Ph-CH2-Ph-)、または数個の芳香族ラジカル(例えば-Ph-Ph-)、または芳香族ラジカルおよび/もしくは脂肪族ラジカルと、記載される基のうちの他の物(例えば-Ph-O-Ph-(Phはフェニルである))を意味する。
【0025】
適切な式Iのアリルスルホンおよびその調製は、欧州特許出願公開第2965741号に記載されている。特に適切な式Iのアリルスルホンは、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸エチルエステル(TSMEA)、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸2-(2-エトキシエトキシ)-エチルエステル、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸tert-ブチルエステル、3-(トリメトキシシリル)プロピル-2-(トシルメチル)アクリレート、3-(トリエトキシシリル)プロピル-2-(トシルメチル)アクリレート、3-(トリエトキシシリル)プロピル-2-(トシルメチル)アクリルアミド、2-(メチルスルホニルメチル)-エチルアクリレート、2-(メチルスルホニルメチル)-プロピルアクリレート、トリエチレングリコールビス[2-(トルエン-4-スルホニルメチル)アクリレート]、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸(2-メタクリロイルオキシエチル)エステル、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸(6-メタクリロイルオキシヘキシル)エステル、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸(10-メタクリロイルオキシデシル)エステル、2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)エステルおよび2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸(8-メタクリロイルオキシ-3,6-ジオキサオクチル)エステルであり、ここで2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸エチルエステル(TSMEA):
【化5】
が特に非常に適切である。
【0026】
適切な式IIのビニルスルホンエステルおよびその調製は、欧州特許出願公開第3090772号に記載されている。特に適切な式IIのビニルスルホンエステルは、2-(トルエン-4-スルホニルオキシ)-アクリル酸エチルエステル(TSVEA)、2-メタンスルホニルオキシアクリル酸エチルエステル、トリエチレングリコールビス[2-(トルエン-4-スルホニルオキシ)アクリレート]、2-(2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルホニルオキシアクリル酸オクチルエステル、2-(トルエン-4-スルホニルオキシ)-アクリル酸2-(テトラヒドロピラン-2-イルオキシ)-エチルエステル、2-(トルエン-4-スルホニルオキシ)-アクリル酸2-ヒドロキシエチルエステル、2-(トルエン-4-スルホニルオキシ)-アクリル酸2,4,6-トリメチルフェニルエステル、2-(4-ビニルベンゼンスルホニルオキシ)-アクリル酸エチルエステル、2-(トルエン-4-スルホニルオキシ)-アクリル酸メトキシメチルエステル、2-(2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルホニルオキシ)-アクリル酸メトキシメチルエステル、2-(2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルホニルオキシ)-アクリル酸およびジエチル-2,2’-[(1,3-フェニルジスルホニル)ビス(オキシ)]ジアクリレートであり、ここで2-(トルエン-4-スルホニルオキシ)-アクリル酸エチルエステル(TSVEA):
【化6】
が、特に非常に適切である。
【0027】
少なくとも1つの多官能性(メタ)アクリレート、または単官能性および多官能性(メタ)アクリレートの混合物を、ラジカル重合性モノマー(b)として含有する材料は、本発明によれば好ましい。単官能性(メタ)アクリレートとは、1個のラジカル重合性基を有する化合物を意味し、多官能性(メタ)アクリレートとは、2個またはそれより多くの、好ましくは2個~4個のラジカル重合性基を有する化合物を意味する。単官能性または多官能性(メタ)アクリレートは、さらなる官能基(例えば、ヒドロキシ基、エステル基、シリル基またはウレイド基)を含み得る。硬化した材料の可撓性および特性は、ラジカル重合性(メタ)アクリレートコモノマーの構造によって、標的化された様式で影響を受け得る。従って、例えば、多官能性(メタ)アクリレートのより高い割合は、より高い架橋度をもたらし、従って、より可撓性が低い材料をもたらす。これとは逆に、例えば可撓性側鎖を有する単官能性(メタ)アクリレートの添加は、より高い可撓性をもたらす。(メタ)アクリレートに含まれる官能基(例えば、ヒドロキシ基)は、極性相互作用を介して、この材料の強度を増大させ得る。
【0028】
適切な単官能性または多官能性(メタ)アクリレートは、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリルまたはメタクリル酸イソボルニル、p-クミルフェノキシエチレングリコールメタクリレート(CMP-1E)、ビスフェノールAジメタクリレート、bis-GMA(メタクリル酸とビスフェノールAジグリシジルエーテルとの付加生成物)、エトキシ化またはプロポキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(例えば、2-[4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシ)フェニル]-2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン)(SR-348c、Sartomer製;3個のエトキシ基を含む)または2,2-ビス[4-(2-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(bis-PMA))、UDMA(メタクリル酸2-ヒドロキシエチルと2,2,4-または2,4,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネートとの付加生成物)、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレートまたはテトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリトリトールテトラメタクリレート、ならびにグリセロールジメタクリレートおよびグリセロールトリメタクリレート、ビスメタクリロイルオキシメチルトリシクロ[5.2.1.]デカン(TCDMA)、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート(D3MA)、1,12-ドデカンジオールジメタクリレート、あるいはこれらの混合物である。
【0029】
ビスフェノールAジメタクリレート、bis-GMA(メタクリル酸とビスフェノールAジグリシジルエーテルとの付加生成物)、2-[4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシ)フェニル]-2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン)(SR-348c、Sartomer)、2,2-ビス[4-(2-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(bis-PMA)、UDMA(メタクリル酸2-ヒドロキシエチルと2,2,4-または2,4,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネートとの付加生成物)、ビスメタクリロイルオキシメチルトリシクロ[5.2.1.]デカン(TCDMA)、およびこれらの混合物が、特に適切である。
【0030】
記載されたモノマーは、歯科材料の製造に特に適切である。
【0031】
本発明による材料は、好ましくは、光開始剤(c)として、少なくとも1つの単分子光開始剤と、少なくとも1つの二分子光開始剤との組み合わせ物、より好ましくは、400~500nmの波長範囲で活性であるそのような光開始剤を含有する。少なくとも1つの単分子光開始剤と、少なくとも1つの二分子光開始剤とは、これらの重量割合に対して、好ましくは2:1~1:2の比で使用される。少なくとも1つの単分子光開始剤と、少なくとも1つの二分子光開始剤とは、これらの重量割合に対して、特に好ましくは1.4:1~1:2の比で使用される。少なくとも1つの単分子光開始剤と、少なくとも1つの二分子光開始剤とは、これらの重量割合に対して、特に非常に好ましくは1.2:1~1:1.8、そして最も好ましくは1:1~1:1.8の比で使用される。
【0032】
好ましい単分子光開始剤は、モノアシルホスフィンオキシドまたはビスアシルホスフィンオキシド、ジアシルジアルキルゲルマニウムおよびテトラアシルゲルマニウム化合物、ならびにテトラアシルスタンナンである。特に好ましい単分子光開始剤は、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ジベンゾイルジエチルゲルマン、ビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウム(MBDEGe、Ivocerin(登録商標))、テトラベンゾイルゲルマン、テトラキス(o-メチルベンゾイル)ゲルマン、テトラキス(メシトイル)スタンナン、およびこれらの混合物である。
【0033】
α-ジケトンまたはその誘導体が、好ましくは、二分子光開始剤として適切である。特に適切なα-ジケトンまたはその誘導体は、カンファーキノン(CQ)、9,10-フェナントレンキノン、1-フェニルプロパン-1,2-ジオン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、ジアセチルまたは4,4’-ジクロロベンジル、あるいはこれらの誘導体である。カンファーキノン(CQ)、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンおよびこれらの混合物が、特に非常に好ましい。還元剤としてのアミン(例えば、4-(ジメチルアミノ)-安息香酸エステル(EDMAB)、メタクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、N,N-ジメチル-sym-キシリジン、トリエタノールアミン、およびこれらの混合物)と組み合わせたα-ジケトンが、最も好ましい。これらの重量割合に対して1:1~1:6の、二分子光開始剤対アミンの比が、好ましくは使用される。
【0034】
少なくとも1つの単分子光開始剤と、少なくとも1つの二分子光開始剤と、還元剤としての少なくとも1つのアミンとの、特に好ましい組み合わせ物は、単分子光開始剤としてのビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマン(MBDEGe、Ivocerin(登録商標))、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、テトラキス(o-メチルベンゾイル)ゲルマン、およびテトラキス(メシトイル)スタンナンのうちの少なくとも1つと;二分子光開始剤としてのカンファーキノン(CQ)および/または2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンと;還元剤としての4-(ジメチルアミノ)安息香酸エステル(EDMAB)との混合物である。
【0035】
単分子光開始剤と、少なくとも1つの二分子光開始剤と、還元剤としてのアミンとの、特に非常に好ましい組み合わせ物は、単分子光開始剤としてのビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマン(MBDEGe、Ivocerin(登録商標))と;二分子開始剤としてのカンファーキノン(CQ)および/または2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンと;還元剤としての4-(ジメチルアミノ)安息香酸エステル(EDMAB)との混合物である。
【0036】
好ましい充填材(d)は、無機粒子充填材、特に、酸化物(例えば、SiO2、ZrO2およびTiO2、またはSiO2、ZrO2、ZnOおよび/もしくはTiO2の混合酸化物)、ナノ粒子状またはマイクロファイン充填材(例えば、焼成シリカまたは沈降シリカ)、ガラス粉末(例えば、石英、ガラスセラミックまたは放射線不透過性ガラス粉末、好ましくは、ケイ酸アルミニウムバリウムガラス、またはケイ酸アルミニウムストロンチウムガラス)、ならびに放射線不透過性充填材(例えば、三フッ化イッテルビウム、酸化タンタル(V)、硫酸バリウム、またはSiO2と酸化イッテルビウム(III)もしくは酸化タンタル(V)との混合酸化物)である。さらに、本発明による歯科材料は、繊維状充填材、ナノ繊維、ホイスカー、またはこれらの混合物を含有し得る。
【0037】
好ましくは、SiO2、ZrO2およびTiO2、またはSiO2、ZrO2、ZnOおよび/もしくはTiO2の混合酸化物などの酸化物は、0.010~15μmの粒径を有する。パイロジェンシリカまたは沈降シリカなどのナノ粒子状またはマイクロファイン充填材は、10~300nmの粒径を有する。石英、ガラスセラミックまたは放射線不透過性ガラス粉末、好ましくはケイ酸アルミニウムバリウムガラスまたはケイ酸アルミニウムストロンチウムガラスなどのガラス粉末は、0.01~15μm、好ましくは0.2~1.5μmの粒径を有する。三フッ化イッテルビウム、酸化タンタル(V)、硫酸バリウム、またはSiO2と酸化イッテルビウム(III)もしくは酸化タンタル(V)との混合酸化物などの、放射線不透過性充填材は、0.2~5μmの粒径を有する。
【0038】
特に好ましい充填材は、10~300nmの粒径を有するSiO2とZrO2との混合酸化物、0.2~1.5μmの粒径を有するガラス粉末(例えば、ケイ酸アルミニウムバリウムガラスまたはケイ酸アルミニウムストロンチウムガラスの放射線不透過性ガラス粉末)、および0.2~5μmの粒径を有する放射線不透過性充填材(例えば、三フッ化イッテルビウム、またはSiO2と酸化イッテルビウム(III)との混合酸化物)である。
【0039】
さらに、放射線不透過性ガラス粉末(単数または複数)および三フッ化イッテルビウムを好ましくは含有するポリマー粒子からなる粉砕プレポリマー(イソ充填材(isofiller))が、充填材として適切である。
【0040】
他に示されない限り、全ての粒径は、重量平均粒径であり、ここで0.1μm~1000μmの範囲の粒径は、静的光散乱によって、好ましくはLA-960静止レーザー散乱粒径分析器(Horiba、Japan)を使用して決定される。ここで、655nmの波長を有するレーザーダイオードおよび405nmの波長を有するLEDを、0.1~1000μmの測定範囲における光源として使用する。異なる波長を有する2つの光源を使用することにより、1回のみの測定パスで、サンプルの粒径分布の全体を測定することが可能になり、この測定は、湿式測定として行われる。この目的で、充填材の0.1~0.5%の水分散物を調製し、そしてその散乱光を、フロースルーセルで測定する。粒径および粒径分布の計算のための散乱光分析を、ミー理論によりDIN/ISO 13320に従って行う。
【0041】
0.1μmより小さい粒径は、好ましくは、動的光散乱(DLS)によって決定される。5nm~0.1μmの範囲の粒径の測定は、好ましくは、水性粒子分散物の動的光散乱(DLS)によって、好ましくは、633nmの波長を有するHe-Neレーザーを備えるMalvern Zetasizer Nano ZS(Malvern Instruments、Malvern UK)を使用して、90°の散乱角度で25℃で行われる。
【0042】
0.1μmより小さい粒径はまた、SEMまたはTEM分光法によっても決定され得る。透過型電子顕微鏡法(TEM)は、好ましくは、Philips CM30 TEMを用いて、300kVの加速電圧で実施される。サンプルの調製のために、粒子分散物の液滴を50Åの厚さの銅格子(メッシュサイズ300)に載せ、これを炭素で覆い、次いで溶媒を蒸発させる。
【0043】
光散乱は、粒径が減少するにつれて減少するが、小さい粒径を有する充填材は、より大きい増粘作用を有する。充填材は、その粒径によって、マクロ充填材とミクロ充填材とにさらに分けられる。マクロ充填材は、石英、放射線不透過性ガラス、ボロシリケートまたはセラミックを粉砕することによって得られ、事実上、純粋に無機物であり、そして通常、裂片状部分からなる。0.2~10μmの平均粒径を有するマクロ充填材が好ましい。パイロジェンSiO2もしくは沈降シリカ、または混合酸化物(例えば、SiO2-ZrO2)は、金属アルコキシドの加水分解共縮合により得られる(好ましくはミクロ充填材として使用される)。ミクロ充填材は、好ましくは、およそ5~100nmの平均粒径を有する。
【0044】
充填材は、好ましくは表面修飾されており、特に好ましくはシラン化により表面修飾されており、特に非常に好ましくはラジカル重合性シランによって(特に、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで)表面修飾されている。非シリケート充填材(例えば、ZrO2またはTiO2)の表面修飾のために、官能化酸性ホスフェート(例えば、リン酸二水素10-メタクリロイルオキシデシル)もまた、使用され得る。
【0045】
本発明による材料は、必要に応じて、さらなる添加剤、好ましくは、安定剤、着色剤、抗微生物活性成分、フッ化物イオン放出添加剤、膨張剤、蛍光増白剤、可塑剤またはUV吸収剤を含有し得る。
【0046】
本発明によれば、特定の移動試薬と、ラジカル重合性モノマーと、光開始剤との組み合わせによって、ほんの短い露光時間の後に硬化する材料が得られ得ることが見出された。本発明による材料は、例えば、1000~1400mW/cm2の放射輝度への10秒間の露光によって硬化し得る。硬化は、好ましくは、1600~2400mW/cm2の放射輝度への5秒間の露光、特に非常に好ましくは、8000~12,000mW/cm2の放射輝度への1秒間の露光、そして最も好ましくは、2700~3500mW/cm2の放射輝度への3秒間、または4000~6000mW/cm2の放射輝度への2秒間の露光によって行われる。本発明による材料は、短い露光時間およびこれに関連する短い硬化時間にもかかわらず、低いPSFが蓄積するのみであり、その結果、周辺の隙間のない充填が得られるという利点を有する。従って、これらの材料は、歯科用コンポジットとして特に適切である。
【0047】
本発明による材料は、好ましくは、以下の組成を有する:
(a)0.1~5重量%、好ましくは0.1~3重量%の、式Iおよび/またはIIの少なくとも1つの移動試薬、
(b)8~50重量%、好ましくは10~40重量%の、少なくとも1つの多官能性(メタ)アクリレート、または単官能性および多官能性(メタ)アクリレートの混合物、
(c)0.05~3.0重量%、そして好ましくは0.1~2.0重量%の、少なくとも1つの単分子光開始剤と少なくとも1つの二分子光開始剤との混合物であって、ここで少なくとも1つの単分子光開始剤と、少なくとも1つの二分子光開始剤とは、これらの重量割合に対して、好ましくは1.4:1~1:2の比で、特に好ましくは1.2:1~1:2の比で使用される、混合物、
(d)40~90重量%、そして好ましくは50~85重量%の少なくとも1つの充填材、ならびに
(e)0~5重量%、好ましくは0~3重量%、そして特に好ましくは0.2~3重量%の添加剤(単数または複数)。
【0048】
本発明による材料は、より好ましくは、以下の組成を含む:
(a)0.1~5重量%、好ましくは0.1~3重量%の、式Iおよび/またはIIの少なくとも1つの移動試薬、
(b)10~40重量%の少なくとも1つの多官能性(メタ)アクリレートであって、ビスフェノールAジメタクリレート、bis-GMA(メタクリル酸とビスフェノールAジグリシジルエーテルとの付加生成物)、2-[4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシ)フェニル]-2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン)(SR-348c、Sartomer)、2,2-ビス[4-(2-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(bis-PMA)、UDMA(メタクリル酸2-ヒドロキシエチルと2,2,4-または2,4,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネートとの付加生成物)、ビスメタクリロイルオキシメチルトリシクロ[5.2.1.]デカン(TCDMA)、およびこれらの混合物から選択される、少なくとも1つの多官能性(メタ)アクリレート、
(c)0.1~2.0重量%の、ジアシルジアルキルゲルマニウム、テトラアシルゲルマニウム、およびテトラアシルスタンナン化合物またはモノアシルホスフィンオキシドもしくはビスアシルホスフィンオキシドと、二分子光開始剤(好ましくはカンファーキノン(CQ)および/または2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンとの、ならびに4-(ジメチルアミノ)安息香酸エステル(EDMAB)との混合物であって、ここで少なくとも1つの単分子光開始剤と、少なくとも1つの二分子光開始剤とは、これらの重量割合に対して、好ましくは1.4:1~1:2の比で、特に好ましくは1.2:1~1:2の比で使用される、混合物、
(d)50~85重量%の充填材であって、SiO2、ZrO2の混合酸化物、ガラス粉末(例えば、ケイ酸アルミニウムバリウムガラスまたはケイ酸アルミニウムストロンチウムガラスの放射線不透過性ガラス粉末)、ならびに放射線不透過性充填材(例えば、三フッ化イッテルビウム、またはSiO2と酸化イッテルビウム(III)との混合酸化物)、ポリマー粒子と放射線不透過性ガラス粉末(単数または複数)と三フッ化イッテルビウムとの混合物を含む粉砕プレポリマー、ならびにこれらの混合物から選択される、充填材、ならびに
(e)0.2~3重量%の添加剤(単数または複数)。
【0049】
他に示されない限り、本明細書中の全ての百分率は、重量パーセントであり、材料の総質量に対してである。
【0050】
記載される物質からなる材料が、特に好ましい。さらに、個々の成分が、各場合において、上に記載された好ましい物質および特に好ましい物質から選択される、材料が好ましい。
【0051】
本発明による材料はまた、歯科用途に有利な、特に、プロテーゼまたは立体リソグラフィーにより製造される成形体に有利な、機械特性(例えば、高い曲げ強さ、高い曲げ係数、高い硬度および低い収縮応力)を有する。これらは、高い寸法安定性および高い破断強度を有するプロテーゼおよび成形体の製造を可能にする。
【0052】
本発明による材料の重要な利点は、その低い収縮応力である。重合後、これらの材料は、好ましくは60~110N、特に好ましくは65~100N、そして特に非常に好ましくは70~90Nの収縮応力を有する。収縮応力は、例えば、Bioman収縮応力測定デバイスを用いて決定され得る。これについては、規定された量の材料が金属シリンダー間の隙間に導入され、これが片持ちロードセルおよびガラス板に固定され、次いで、このガラス板を通して露光(10,000mW/cm2、5000mW/cm2、3400mW/cm2または1200mW/cm2で1秒間、2秒間、3秒間および10秒間)することによって、硬化される。これによって片持ちロードセルに加えられる張力が、増幅電圧インジケーター-エネルギー変換器を使用して電気信号に変換され、そして記録される。校正曲線を使用して、これらの電気信号が、ニュートン(N)を単位とする収縮応力に変換される。このNを単位とする収縮応力は、この収縮応力を、測定シリンダーの接触表面積で除することによって、得られる。
【0053】
本発明による材料は、高い曲げ強さという利点をさらに有する。重合後、本発明による材料は、好ましくは75~140MPa、特に好ましくは80~135MPa、そして特に非常に好ましくは85~130MPaの曲げ強さを有する。曲げ強さは、ISO Standard ISO-4049(Dentistry - Polymer-based filling,restorative and luting materials)に従って決定される。
【0054】
さらに、本発明による材料は、高い曲げ係数を特徴とする。重合後、これらの材料は、好ましくは8.5~12.5GPa、特に好ましくは9.0~12.0GPa、そして特に非常に好ましくは9.3~11.8GPaの曲げ係数を有する。曲げ弾性係数は、ISO Standard ISO-4049(Dentistry - Polymer-based filling,restorative and luting materials)に従って決定される。
【0055】
本発明による材料のさらなる利点は、その大きい硬さである。重合後、これらの材料は、好ましくは500~700MPa、特に好ましくは500~670MPa、そして特に非常に好ましくは500~650MPaのビッカース硬さを有する。ビッカース硬さは、4mmの深さで、硬さプロフィール(VH)をEN ISO 6507-1:2006-03に従って測定することによって、試験される。ビッカース硬さは、好ましくは、標準化硬さ試験機(ZHU0.2/Z2.5モデル、Zwick Roell製、圧子:ビッカースダイヤモンドピラミッド(136°)、可変硬さ測定ヘッド、2~200ニュートンの試験力範囲)を使用して測定される。
【0056】
本発明による材料は、歯科用充填材料、セメントおよび前装材料として、ならびにプロテーゼ、義歯、インレー、アンレー、クラウンおよびブリッジの製造のための材料として、特に適切である。
【0057】
これらの歯科材料は、損傷を受けた歯の修復のための歯科医による口内での用途(臨床材料)、すなわち、治療用途、例えば、歯科用セメント、充填用コンポジットおよび前装材料としての治療用途に、主に適している。しかし、これらはまた、口外で、すなわち治療用ではなく、例えば、歯科用修復物(例えば、プロテーゼ、義歯、インレー、アンレー、クラウンおよびブリッジ(技術材料))の製造または修理において、使用され得る。
【0058】
本発明による材料は、歯科目的のみでなく非歯科目的の成形体の、例えばキャスティング、圧縮成型による、そして特に、3D印刷などの付加プロセスによる製造のためにもまた、適切である。
【0059】
本発明は、実施例を参照しながら、以下でより詳細に説明される。
【実施例】
【0060】
実施例1:
アリルまたはビニルスルホンエステルをベースとするコンポジットの調製
表1に従う組成を有するコンポジットペーストを、ニーダーを使用して調製した。全てのコンポジットペーストは、bis-GMA、UDMA、SR-348c、bis-PMAおよびTCDMAの混合物を含有した。光開始剤混合物として、これらは、単分子開始剤(ビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウム、Ivocerin(登録商標))、二分子開始剤(カンファーキノン(CQ))、および還元剤としてのアミン(4-(ジメチルアミノ)-安息香酸エステル(EDMAB))を含有した。移動試薬として、コンポジット材料Bはアリルスルホンエステル(TSMEA)を含有し、材料Cはビニルスルホンエステル(TSVEA)を含有した。比較材料Aは、移動試薬を含有しなかった。
【0061】
これらのコンポジットペーストから、対応する試験片を調製し、そして各場合に、重合ランプ(Power Cure(3s)モードを用いるBluephase G4(390~510nm))を使用して、10秒間(1200mW/cm2)、3秒間(3060mW/cm2)、2秒間(5000mW/cm2)および1秒間(10,000mW/cm2)露光し、これによって硬化させた。曲げ強さおよび曲げ弾性係数を、ISO Standard ISO-4049(Dentistry - Polymer-based filling,restorative and luting materials)に従って決定した(表2)。これらの測定を、水(37℃)中で24時間の貯蔵後に実施した。
【0062】
4mmの深さでの二重結合変換率(DBC)を、FTIR分光法(Vertex 70 IR分光計、Bruker)によって決定した。DBCを計算する目的で、測定スペクトルの脂肪族二重結合のピーク(およそ1650-1625cm-1)および芳香族二重結合のピーク(およそ1620~1600cm-1)を積分し、そして脂肪族対芳香族の二重結合の比を、各測定スペクトルについて先に決定した積分値から計算した。次いで、これらの比の平均値(AV)を、各場合に、非重合サンプルと重合サンプルとの比(R)について計算した。最後に、DBCについての値を、計算した平均値から、以下の式:
DBC[%]=(1-AV R重合/AV R非重合)×100
に従って決定した。
【0063】
4mmの深さにおける硬さを、ビッカース硬さプロフィール測定(VH)によって決定した。ビッカース硬さを、EN ISO 6507-1:2006-03に従って、標準化硬さ試験機(ZHU0.2/Z2.5モデル、Zwick Roell製、圧子:ビッカースダイヤモンドピラミッド(136°)、可変硬さ測定ヘッド、2~200ニュートンの試験力範囲)を使用して試験した。
【0064】
コンポジットの収縮応力(SF)を、Bioman収縮応力測定デバイスを使用して決定した。これについては、0.15~0.25gの規定された量のコンポジットを金属シリンダー間の隙間に導入した。これを片持ちロードセルおよびガラス板に固定し、次いで、それに、前記ガラス板を通して歯科用露光ユニットを使用して照射し、これによって重合させる。片持ちロードセルに対して形成される張力を、増幅電圧インジケーター-エネルギー変換器を使用して電気信号に変換し、そして記録した。校正曲線を使用して、これらの電気信号を、ニュートン(N)を単位とする収縮応力に変換した。
【0065】
コンポジットB(TSMEA)およびC(TSVEA)と比較して、コンポジットA(移動試薬なし)は、10秒未満の露光時間で最も悪い機械特性を有する。しかし、より高い二重結合変換率にもかかわらず、コンポジットBおよびCの場合の収縮力の値は、コンポジットAと比較して、かなり低いことがわかる。
【表1】
* 比較例
a = メタクリル酸とビスフェノールAジグリシジルエーテルとの付加生成物
b = メタクリル酸2-ヒドロキシエチルと2,2,4-または2,4,4-トリメチルヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネートとの付加生成物
c = 2-[4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシ)フェニル]-2-[4-(2-メタクリロイルオキシエトキシ)フェニル]プロパン)
d = 2,2-ビス[4-(2-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン
e = ビスメタクリロイルオキシメチルトリシクロ[5.2.1.]デカン
f = ビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウム
g = 4-(ジメチルアミノ)-安息香酸エステル
h = bis-GMA
a、UDMA
b、1,12-ドデカンジオールジメタクリレート(D
3MA)、過酸化ベンゾイル、シラン化ホウケイ酸Ba-Alガラス充填材(平均粒径0.4μm)、フッ化イッテルビウム(平均粒径0.2μm)をベースとする粉砕コンポジット材料
i = シラン化ホウケイ酸アルミニウムバリウムガラス粉末(0.7μmの平均粒径)
j = シラン化SiO
2-ZrO
2混合酸化物(平均粒径1.2μm)
k = フッ化イッテルビウム(平均粒径0.2μm)
l = 2-(トルエン-4-スルホニルオキシ)-アクリル酸エチルエステル
m = 2-(トルエン-4-スルホニルメチル)-アクリル酸エチルエステル
【0066】
【表2】
* 比較例
a 二重結合変換率
b 収縮応力
【0067】
実施例2:
様々な移動試薬含有量のコンポジットの調製
ニーダーを使用して、実施例1から得たコンポジットBに対応するコンポジットペーストを調製した。このとき、使用したビニルスルホンエステル(TSVEA)の量を変化させた(表3)。これらのコンポジットペーストから、対応する試験片を調製し、重合ランプ(Power Cure(3s)モードを用いるBluephase G4(390~510nm))を使用して3秒間(3060mW/cm2)露光し、これによって硬化させた。次いで、曲げ強さおよび曲げ弾性係数を、ISO Standard ISO-4049(Dentistry - Polymer-based filling,restorative and luting materials)に従って測定した(表4)。測定を、水(37℃)中で24時間の貯蔵後に実施した。4mmの深さでの二重結合変換率(DBC)を、FTIR分光法により決定し、そして硬化深度(DOC)を、ISO 4094に従って決定した(表4)。
【0068】
表4において、0.7%の移動試薬を含むコンポジットEが、全体として最良の機械特性を有することがわかる。
【表3】
【0069】
印a~lの意味は、表1に見られる。
【表4】
a 二重結合変換率
b 硬化深度
【0070】
実施例3
II級充填物の臨床的辺縁破折抵抗
配置したII級充填物の臨床的辺縁破折抵抗を、ヒトの歯において、コンポジットA、BおよびEを使用して調査した。修復物を、自己エッチングモードで、歯科用接着剤(Adhese Universal、Ivoclar Vivadent AG製)と合わせて配置した。これについては、各場合に、2つのII級窩洞を、抜歯した下顎の臼歯に形成し(冠-先端深さ4mm、頬面舌面範囲5mm)、そして接着剤/コンポジットの組み合わせ物を充填した。エナメル質から開始して、処置されるべき歯の表面を接着剤で完全に濡らし、そしてこの接着剤を、処置されるべき歯の表面に少なくとも20秒間擦り込んだ。次に、この接着剤を、光沢のある不動の薄膜が形成するまで、油も水も含まない圧縮空気で吹き付けた。その後、この接着剤を、製造業者の指示に従って、光を照射することにより重合させ、次いでコンポジットをこれらの窩洞内に、各場合に1層で導入し、そして光の照射(10秒間、1200mW/cm2;3秒間、3060mW/cm2;2秒間、5000mW/cm2;または1秒間、10,000mW/cm2)により重合させた。次いで、充填した歯を、熱サイクル(10,000×5℃/55℃、30秒間ずつ)により人為的に熟成させた。次に、レプリカをエポキシ樹脂(Stycast)から、印象成型によって作製した。充填物の隣接領域の辺縁の質を、走査型電子顕微鏡を200倍の倍率で使用して、辺縁全体に対する無傷な辺縁の百分率を決定することにより、評価した。
【0071】
表5から、本発明によるコンポジットBおよびEは、辺縁破折抵抗について、比較材料Aよりかなり高い値を与えたことがわかる。
【表5】
* 比較例