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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】リニアモータおよびリニアコンベア
(51)【国際特許分類】
   H02K 41/03 20060101AFI20240902BHJP
   H02K 41/02 20060101ALI20240902BHJP
   B65G 54/02 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H02K41/03 A
H02K41/02 A
B65G54/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020083370
(22)【出願日】2020-05-11
(65)【公開番号】P2021180542
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【弁理士】
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】川内 基範
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/055709(WO,A1)
【文献】特開2013-251943(JP,A)
【文献】特開平11-341784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 41/03
H02K 41/02
B65G 54/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に互いに離間しながら配列された複数のコイルを有する固定子と、前記固定子に沿って前記第1方向に移動可能に設けられた可動子と、を備え、前記コイルへの通電により発生する磁気的な推進力により前記可動子を前記第1方向に移動させるリニアモータであって、
前記複数のコイルにまたがって前記第1方向に延びていると共に第1接合部材により前記固定子に接合される熱伝導部材を備え、
前記熱伝導部材は、前記第1接合部材よりも高い熱伝導率を有する非磁性金属板で構成された第1熱分散部位を有し
前記通電により前記複数のコイルのうちの一部のコイルで発生する熱を前記熱伝導部材の前記第1熱分散部位を介して他のコイルに熱伝導して分散させることを特徴とするリニアモータ。
【請求項2】
請求項1に記載のリニアモータであって、
前記可動子は、前記第1方向に配列された永久磁石を有し、
前記固定子は、前記第1方向と直交する対向方向において前記永久磁石と磁気的空隙を介して対向する対向部と、前記永久磁石と対向しない非対向部を有し、
前記第1熱分散部位は、前記対向部と前記永久磁石との間に位置し、
前記熱伝導部材は、前記非磁性金属板で構成され、前記第1方向および前記対向方向の両方と直交する第2方向において前記非対向部を覆って前記一部のコイルで発生する熱を前記他のコイルに熱伝導して分散させる第2熱分散部位を有するリニアモータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリニアモータであって、
前記複数のコイルと前記熱伝導部材との間に介在して前記複数のコイルに対して前記熱伝導部材を接合する、前記第1接合部材の厚みは前記熱伝導部材よりも薄いリニアモータ。
【請求項4】
請求項に記載のリニアモータであって、
前記可動子は、前記第1方向に配列された永久磁石を有し、
前記固定子は、前記永久磁石と磁気的空隙を介して対向する対向部を有し、
前記第1熱分散部位は、前記対向部と前記永久磁石との間に位置するリニアモータ。
【請求項5】
請求項に記載のリニアモータであって、
前記固定子は、前記永久磁石と対向しない非対向部を有し、
前記熱伝導部材は、前記非対向部を覆う第2熱分散部位をさらに有するリニアモータ。
【請求項6】
請求項1に記載のリニアモータであって、
前記第1方向と直交する第2方向において前記固定子を一方側から保持する固定子保持部を備え、
前記熱伝導部材は、前記第2方向において前記固定子を他方側から覆うように設けられて前記固定子保持部と当接するリニアモータ。
【請求項7】
請求項に記載のリニアモータであって、
前記固定子は第2接合部材により前記固定子保持部に接合され、
前記固定子保持部は、前記第2接合部材よりも高い熱伝導率を有する材料で構成されるリニアモータ。
【請求項8】
請求項に記載のリニアモータであって、
前記固定子と前記固定子保持部との間に介在して前記固定子保持部に対して前記固定子を接合する、前記第2接合部材の厚みは前記固定子保持部よりも薄いリニアモータ。
【請求項9】
請求項1ないしのいずれか一項に記載のリニアモータであって、
前記熱伝導部材のうち前記第1接合部材により前記固定子に接合された状態で露出している表面の少なくとも一部に複数のフィンが設けられるリニアモータ。
【請求項10】
第1方向に延設されたベースと、
前記ベースの一方主面上に設けられる請求項1ないしのいずれか一項に記載のリニアモータと、
前記第1方向に延設され、前記ベースの一方主面の上に前記リニアモータの前記固定子と並行して設けられるガイドと、
前記リニアモータの前記可動子と接続された状態で前記ガイドに沿って前記第1方向に移動自在に設けられるスライダと、
を備え、
前記コイルへの通電による前記可動子の移動により前記スライダを前記第1方向に移動させることを特徴とするリニアコンベア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はムービングマグネット型のリニアモータおよび当該リニアモータを駆動源とするリニアコンベアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
リニアモータを駆動源とし、ガイドレールに沿ってスライダを直線的に移動させるリニアコンベアが知られている(例えば特許文献1)。このリニアコンベアでは、リニアモータの固定子が基台フレーム上に搭載されている。固定子は所定の移動方向に沿って配列された複数のコイルで構成されている。また、基台フレームに対して一対のガイドレールが組み付けられている。一対のガイドレールは上記コイルの配列方向、つまりスライダの移動方向に並設されている。これらのガイドレールに沿ってスライダが可動自在に設けられている。さらにスライダにリニアモータの可動子が取り付けられている。可動子は永久磁石を備えており、コイルへの通電により発生する磁気的な推進力を受ける。これによって、スライダは移動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/055709号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リニアモータではコイルへの通電により熱が発生する。当該通電によりスライダを移動方向に移動させる場合には、スライダの位置は連続的に変化し、固定子を構成するコイルは均一に発熱する。しかしながら、一定の推進力を与えてスライダを所定位置に保持するホールド動作や加減速を周期的に行う動作などを実行する場合、複数のコイルのうち特定相のコイルに負荷がかかる。その結果、他の相との間で大きな発熱差が生じてリニアモータのピーク温度を上昇させてしまう。このピーク温度の上昇はリニアモータに流せる電流量を制限する主要因のひとつとなり、モータ推力が低下する虞がある。
【0005】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、いわゆるムービングマグネット型のリニアモータにおいてピーク温度を低下させてモータ推力を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、第1方向に互いに離間しながら配列された複数のコイルを有する固定子と、固定子に沿って第1方向に移動可能に設けられた可動子と、を備え、コイルへの通電により発生する磁気的な推進力により可動子を第1方向に移動させるリニアモータであって、複数のコイルにまたがって第1方向に延びていると共に第1接合部材により固定子に接合される熱伝導部材を備え、熱伝導部材は、第1接合部材よりも高い熱伝導率を有する非磁性金属板で構成された第1熱分散部位を有し、通電により複数のコイルのうちの一部のコイルで発生する熱を熱伝導部材の第1熱分散部位を介して他のコイルに熱伝導して分散させることを特徴としている。
【0007】
また、本発明の他の態様は、リニアコンベアであって、第1方向に延設されたベースと、ベースの一方主面の上に設けられる上記リニアモータと、第1方向に延設され、ベースの一方主面の上にリニアモータの固定子と並行して設けられるガイドと、リニアモータの可動子と接続された状態でガイドに沿って第1方向に移動自在に設けられるスライダと、を備え、コイルへの通電による可動子の移動によりスライダを第1方向に移動させることを特徴としている。
【0008】
このように構成された発明では、固定子のコイルへの通電により固定子と可動子との間で磁気的な推進力が発生し、これによって可動子が第1方向に移動する。通電状況によっては、複数のコイルのうちの一部のコイルで大量の熱が発生することがあるが、当該熱は熱伝導部材を介して他のコイルに熱伝導される。その結果、上記コイルで発生した熱が分散され、リニアモータのピーク温度は低下する。
【0009】
ここで、第1接合部材は、複数のコイルと熱伝導部材との間に介在して複数のコイルに対して熱伝導部材を接合するが、その厚みを熱伝導部材よりも薄くするのが好適である。これによって、コイルで発生した熱は速やかに第1接合部材を経由して熱伝導部材に伝導されて熱の分散効率を高めることができる。その結果、リニアモータのピーク温度をさらに効果的に低下させることができる。
【0010】
また、可動子が第1方向に配列された永久磁石を有し、固定子が永久磁石と磁気的空隙を介して対向する対向部を有するとき、熱伝導部材の第1熱分散部位を非磁性材料で構成すると共に対向部と永久磁石との間に位置させてもよい。この場合、磁気的な推進力に悪影響を与えることなく、固定子のコイルで発生した熱を第1熱分散部位を介して熱分散することができる。
【0011】
また、固定子が永久磁石と対向しない非対向部をさらに有するときには、熱伝導部材の第2熱分散部位で非対向部を覆ってもよい。これにより上記コイルで発生した熱を上記第1熱分散部位だけでなく、第2熱分散部位を介して熱分散することができる。その結果、リニアモータのピーク温度をさらに効果的に低下させることができる。
【0012】
また、固定子を安定して固定するために、第1方向と直交する第2方向において固定子を一方側から保持する固定子保持部を設けてもよい。そして、第2方向において固定子を他方側から覆うように熱伝導部材を設けることで固定子のコイルで発生した熱の分散経路が広がり、効率的に熱分散することができる。
【0013】
また、固定子を第2接合部材により固定子保持部に接合することで、固定子をさらに安定して固定することができる。しかも、第2接合部材よりも高い熱伝導率を有する材料で固定子保持部を構成することで、コイルから発生した熱は上記熱伝導部材だけでなく、固定子保持部を介しても他のコイルに熱伝導される。その結果、リニアモータのピーク温度をさらに低下させることができる。
【0014】
なお、第2接合部材は、複数のコイルと固定子保持部との間に介在して複数のコイルを固定子保持部に固定させるが、その厚みを固定子保持部よりも薄くするのが好適である。これによって、コイルで発生した熱のうち第2接合部材に伝導される熱は速やかに固定子保持部に伝導される。したがって、熱の分散効率を高め、リニアモータのピーク温度をさらに効果的に低下させることができる。
【発明の効果】
【0015】
上記したように、本発明によれば、いわゆるムービングマグネット型のリニアモータにおいてピーク温度を低下させてモータ推力の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係るリニアモータの第1実施形態を装備する搬送装置の一例の全体構成を示す図である。
図2】リニアモジュールおよびスライダの構成を示す斜視図である。
図3図2に示すリニアモジュールおよびスライダの断面図である。
図4】固定子に熱分散カバーを装着した固定子構造体の構成を示す部分切欠斜視図である。
図5A】固定子構造体の組立断面図である。
図5B】組立後の固定子構造体の断面図である。
図6】本発明に係るリニアモータの第2実施形態におけるカバー部材の構成を示す図である。
図7】本発明に係るリニアモータの第3実施形態における固定子構造体の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明に係るリニアモータの第1実施形態を装備する搬送装置の一例の全体構成を示す図である。この搬送装置100は、水平面内で搬送対象物を循環搬送する装置である。以後の説明のために、図1に示すようにXYZ座標軸を設定する。ここでXY平面が水平面であり、X方向が左右方向(+Xが左、-Xが右)、Y方向が前後方向(+Yが前、-Yが後)、Z方向が上下方向(+Zが上、-Zが下)に各々相当する。また、同図においては、後で説明するリニアモジュールのカバー部材の一部を切り欠いて図示すると共に、当該リニアモジュールに設けられるガイドレールとモータ固定子とを区別して明示するために、ガイドレールにハッチングを付す一方、モータ固定子にドットを付している。
【0018】
搬送装置100は、架台1と、一対の直線搬送部2A、2Bと、方向転換部2C、2Dと、複数のスライダ3とを備えている。直線搬送部2Aは、架台1の+Y側に設けられている。直線搬送部2Bは、架台1上において直線搬送部2Aと平行に-Y側に配置されている。これら直線搬送部2A、2Bは、固定子23(図2)を装備するリニアモジュール20aを複数個(図1では4個)X方向に配列してなる。図2を併せて参照する。図2は、リニアモジュールおよびスライダの構成を示す斜視図である。なお、図2においては、リニアモジュールの内部構造を明らかとするために、カバー部材(図3中の符号26)を省略して図示している。リニアモジュール20aは、それぞれ架台1に固定されている。
【0019】
図3を併せて参照する。図3は、図2に示すリニアモジュールおよびスライダの断面図である。複数のスライダ3は、直線搬送部2A、2Bに対してX方向に移動自在に設けられている。各スライダ3には可動子5が接続されている。搬送装置100全体を制御する制御部9は、固定子23のコイルへの通電により磁気的な推進力を可動子5に発生させ、スライダ3をX方向に移動させる。このようにスライダ3に接続された可動子5とリニアモジュール20aの組み合わせが本発明の「リニアコンベア」の一例に相当するが、その構成および動作については後で詳述する。
【0020】
図1に示すように、方向転換部2Cは、直線搬送部2A、2Bの+X側(同図の左側)の側端部に対応して設けられている。方向転換部2Cは、リニアモジュール20bと、Y方向に延設された一対のガイドレール20cと、リニアモジュール20bをY方向に駆動するアクチュエータ20dとを有している。リニアモジュール20bは、Y方向に移動自在となっている点で固定配置されたリニアモジュール20aと相違するものの、リニアモジュール20aと同一の構成を有している。アクチュエータ20dは、例えばY方向に平行なボールネジを備えた単軸ロボットである。このアクチュエータ20dのボールネジのナットにリニアモジュール20bが取り付けられている。そして、アクチュエータ20dは、制御部9からの指令に応じて、ガイドレール20cに沿ってリニアモジュール20bを駆動する。例えば図1に示すように、アクチュエータ20dによりリニアモジュール20bが-Y方向側の端部側に移動されて位置決めされると、直線搬送部2Bのリニアモジュール20aと一列に並ぶ。これによって、方向転換部2Cと直線搬送部2Bとの間でのスライダ3の移動が可能となる。一方、図1への図示を省略しているが、アクチュエータ20dによりリニアモジュール20bが+Y方向側の端部側に移動されて位置決めされることで、方向転換部2Dと直線搬送部2Aとの間でのスライダ3の移動が可能となる。したがって、方向転換部2Dを経由することで、スライダ3は、直線搬送部2Aから直線搬送部2Bへの移動ならびに直線搬送部2Bから直線搬送部2Aへの移動が可能である。
【0021】
方向転換部2Dは、直線搬送部2A、2Bの-X側(同図の右側)の側端部に対応して設けられている。方向転換部2Dの構成は方向転換部2Cと同一である。このため、スライダ3は、-X側での直線搬送部2Aから直線搬送部2Bへの移動ならびに直線搬送部2Bから直線搬送部2Aへの移動が可能である。
【0022】
このように図1に示す搬送装置100では、スライダ3は、制御部9から固定子23(図2)への通電により直線搬送部2A、方向転換部2C、直線搬送部2Bおよび方向転換部2Dの経路、あるいはその逆の経路で循環移動可能となっている。
【0023】
図1には、リニアモジュール20aおよびリニアモジュール20bが示されている。これらリニアモジュール20a、20bは、ともに同一構成を有している。このため、ここではリニアモジュール20aについてのみ説明する。
【0024】
図2に示すように、リニアモジュール20aは、ベース21と、ガイドレール22a、22bと、固定子23と、位置センサ24と、磁気遮蔽板25と、カバー部材26(図3)とを備えている。ベース21は、例えば、アルミニウム及び/又はオーステナイト系ステンレス等の非磁性材料からなるフレームであり、スライダ3の移動方向であるX方向に延設されている。ベース21は架台1(図1)の上面に固定されている。このベース21の上面(レール21の幅方向の両端)には、X方向に延びる一対のレール台座部位21a、21bがそれぞれ設けられている。また、レール台座部位21a、21bの間に、ベース21の上面から仕切り部位21cが立設されている。なお、仕切り部位21cもレール台座部位21a、21bと同様にX方向に延設されている。
【0025】
レール台座部位21a、21bには、X方向に延びるガイドレール22a、22bがそれぞれ敷設されている。固定子23は、-Y方向側のガイドレール22bと仕切り部位21cとの間に位置している。なお、固定子23の構成については後で詳述する。
【0026】
仕切り部位21cの+Y方向側の側面には、リニアスケールの位置センサ24が取り付けられている。位置センサ24は、スライダ3に取り付けられた磁気スケール(図3中の符号34)を介してスライダ3の位置を検出する。また、仕切り部位21cの-Y方向側には、図2および図3に示すように、磁気遮蔽板25が配設されている。このため、固定子23および可動子5(図3)で発生する磁気が磁気遮蔽板25により遮蔽され、リニアスケールおよび位置センサ24に及ぶのを効果的に防止することが可能となっている。その結果、リニアスケールおよび位置センサ24によりスライダ3の位置を高精度に測定することができる。なお、磁気遮蔽板25の上部は、仕切り部位21cの上部より上方に位置している。
【0027】
仕切り部位21cの上部には、図3に示すようにカバー部材26が取り付けられている。このカバー部材26は、YZ断面においてコ字形状(略C字形状)を呈し、ベース21に設けられた各部(一対のガイドレール22a、22b、固定子23、位置センサ24および磁気遮蔽板25)を上方および側方から覆っている。このカバー部材26により、リニアモジュール20aへの汚染物や異物の進入を防止することが可能となっている。
【0028】
次に、スライダ3の構成について説明する。スライダ3は、スライダフレーム31およびガイドブロック32a、32bを有している。スライダフレーム31は、アルミニウム等の金属ブロックからなり、搬送対象物の載置部となる上面を有している。また、スライダフレーム31には、カバー部材26に対応して開けられた切欠部が設けられている。これにより、スライダフレーム31は、カバー部材26との干渉を回避しつつ、リニアモジュール20a、20bのベース21に対してX方向端部から嵌め込み可能となっている。ガイドブロック32a、32bはそれぞれガイドレール22a、22bに係合されている。各ガイドブロック32a、32bは、ガイドレール22a、22bとの相対的な移動により回転するベアリング(図示省略)を備え、ガイドレール22a、22bに沿ってX方向に移動する。また、これらのガイドブロック32a、32bは、一対のガイドレール22a、22bにそれぞれ対向する位置において、スライダフレーム31の下面に取り付けられている。より詳しくは、図3に示すように、スライダフレーム31では、+Y方向側の下板311aの下面にガイドブロック32aが取り付けられると共に-Y方向側の下板311bの下面にガイドブロック32bが取り付けられている。
【0029】
また、下板311aの-Y方向側の端部には、図3に示すように、支持ブラケット33が下方に向けて垂設され、仕切り部位21cの+Y方向側の側面と対向している。そして、支持ブラケット33の-Y方向側の側面には、磁気スケール34が取り付けられている。磁気スケール34は、位置センサ24に対向している。このような位置センサ24および磁気スケール34は、スライダ3の位置を検出するリニアスケールとして機能する。これにより、X方向におけるスライダ3の位置情報が制御部9に入力される。制御部9は、入力された位置情報に基づき固定子23への通電を制御する。制御部9により固定子23への通電が制御されると、固定子23への通電、および、スライダ3に取り付けられた可動子5の永久磁石の磁束の相互作用により、可動子5には磁気的な推進力が発生する。これにより、スライダ3を目標位置に移動させることができる。
【0030】
スライダフレーム31の下板311bには可動子5が取り付けられている。可動子5の構成は特許文献1に記載されたものと同一であるため、ここでは主要構成について説明し、その他の構成については説明を省略する。可動子5は、X方向に配列された複数の永久磁石51(図3の点線)と、これら永久磁石51を保持するバックヨーク52とを備えている。バックヨーク52は、永久磁石51を保持すると共に磁路を形成する機能を有している。バックヨーク52は、図3に示すように、下方に向けて開口する門型構造を有している。そして、固定子23は、当該門型構造を形成する一対の側板間に入り込んでいる。複数の永久磁石51は、バックヨーク52の一対の側板(固定子23との対向面)の各々において、N極とS極とが交互に配列されている。可動子5は、固定子23から直上に離間した状態でスライダフレーム31に取り付けられている。可動子5は、-Y方向側の下板311bの+Y方向側の側面に取り付けられている。
【0031】
次に、固定子23および熱分散カバー6について、その構成および動作の説明をする。図3に示すように、可動子5および固定子23は、熱分散カバー6と共にリニアモータLMを構成している。図4および図5を参照する。図4は、固定子に熱分散カバーを装着した固定子構造体の構成を示す部分切欠斜視図である。また、図5Aは固定子構造体の組立断面図であり、図5Bは組立後の固定子構造体の断面図である。固定子23は、ホルダ231と、コア232aが貫通したボビン232bにコイル232cを巻回した複数個(本実施形態では6個)の単位電磁石232とを有している。ホルダ231はアルミニウムなどの非磁性材料で構成されている。
【0032】
ホルダ231は、ベース21(図2)に当接するベース部位231cと、ベース部位231cの+Y方向の端部側から立ち上がる支持部位231aと、-Y方向の端部側から立ち上がる支持部位231bとを有している。支持部位231a、231bはいずれもX方向に延設されている。また、Y方向における支持部位231aと支持部位231bとの間隔は、固定子23の単位電磁石232と同じあるいは若干広い。このため、支持部位231a、231bとベース部位231cとで囲まれた保持空間231d(図5A)に対し、複数の単位電磁石232をX方向に一列に配列しながらホルダ231に嵌入可能となっている。
【0033】
各リニアモジュール20aにおける単位電磁石232の個数は任意である。例えば、各リニアモジュール20aにおける単位電磁石232の数は、2つ以上であってもよいし、3つ以上であってもよい。図5Aおよび図5Bには、U相コイル232c、V相コイル232cおよびW相コイル232cの単位電磁石232が示されている。本実施形態の固定子23は、U相コイル232c、V相コイル232cおよびW相コイル232cをそれぞれ2つ有している。なお、U相コイル232c、V相コイル232c、W相コイル232c、U相コイル232c、V相コイル232cおよびW相コイル232cは、この順序でX方向に配列されている。
【0034】
これら複数の単位電磁石232のホルダ231への組み付けは、エポキシ樹脂などの接合部材72をホルダ231の保持空間231dに充填させ、上記配列状態で6個の単位電磁石232を保持空間231dに嵌め込むことにより行われる。これによって6個の単位電磁石232がホルダ231に保持される。また、単位電磁石232を強固に固定するために、エポキシ樹脂などを単位電磁石232の上部に塗布することもある。
【0035】
ここまで説明した固定子23の構成は、特許文献1に記載された固定子と同一である。しかしながら、本実施形態では、次のような技術的理由から6個の単位電磁石232を上方から覆う熱分散カバー6が設けられている。以下、順を追って熱分散カバー6の説明をする。
【0036】
ところで、リニアモジュール20aにおいては、U相コイル232c、V相コイル232cおよびW相コイル232cのうちの特定相コイル232cへの通電により特定相コイル232cに磁束を生じさせ、可動子5の永久磁石51の磁束との相互作用により可動子5に磁気的な推進力を発生させる。これにより、スライダ3はX方向に移動する。ここで、スライダ3の位置を連続的に変化させる場合、6個のコイル232cは均一に発熱する。しかしながら、6個のコイル232cの一部、例えばV相コイル232cに通電し続けてスライダ3をホールドする場合、V相コイル232cの電流負荷が大きくなり、V相コイル232cに多量の熱が発生する。その結果、V相コイル232cとその他のコイル232cとの発熱差が大きくなる。
【0037】
ここで、本実施形態では、非磁性材料で構成された熱分散カバー6が追加されている。熱分散カバー6は、複数の単位電磁石232(複数のコイル232c)が配列された方向に沿って(またがって)延びていると共に、接合部材71により複数の単位電磁石232に接合されている。このため、当該熱分散カバー6によりV相コイル232cで発生した熱が他のコイル232cに分散され、V相コイル232cの温度低下が図られる。上記熱分散カバー6のX方向の長さは、任意に設定できる。例えば、熱分散カバー6は、リニアモジュール20aの一端(+X側の端部)からリニアモジュール20aの他端(-X側の端部)まで延びていてもよいし、リニアモジュール20aの一端(+X側の端部)からリニアモジュール20aの他端(-X側の端部)まで延びていなくてもよい。更に、固定子23と熱分散カバー6とを接合している接合部材71は、熱分散カバー6の下面の全体に密着していてもよいし、熱分散カバー6の下面の全体に密着していなくてもよい。接合部材71における固定子23への密着についても同じである。
【0038】
図5Aに示すように、接合部材71は、ホルダ231に保持された単位電磁石232の上面に塗布される。接合部材71としては、例えば、エポキシ樹脂を挙げることができる。接合部材71が塗布された後、例えばオーステナイト系ステンレス鋼板をコ字状に折り曲げた熱分散カバー6が単位電磁石232の上面を上方から覆うように配置される。このように加工された熱分散カバー6では、図4に示すように、ステンレス鋼板の中央部が固定子23の頂部234と対向すると共に天井側熱分散部位63として機能する。また、熱分散カバー6は、天井側熱分散部位63の+Y方向側部位を下方に90゜折り曲げられていることで+Y方向側の永久磁石51(図3)と対向する+Y側熱分散部位61が形成される。さらに、熱分散カバー6は、天井側熱分散部位63の-Y方向側部位を下方に90゜折り曲げられていることで-Y方向側の永久磁石51と対向する-Y側熱分散部位62が形成される。
【0039】
一部繰り返しになるが、熱分散カバー6は、天井側熱分散部位63を固定子23に対向させた状態で下方(-Z方向)に移動させられ、+Y側熱分散部位61および-Y側熱分散部位62の下方端面をそれぞれ支持部位231a、231bの上方端面に当接される。これにより、固定子23は、コア232aのY方向端面が永久磁石51に対向露出しつつ、その側面が熱分散カバー6およびホルダ231に取り囲まれる。なお、固定子23は、接合部材71を介して熱分散カバー6と接合される。
【0040】
以上のように、本実施形態によれば、特定相のコイル232cで発生する熱は、オーステナイト系ステンレス鋼などの高熱伝導率材料で構成された熱分散カバー6を介して他のコイル232cやホルダ231などに熱伝導される。これにより、特定相のコイル232Cで発生した熱が分散される。即ち、一部のコイルで発生した熱を他のコイルに分散させることができる。結果、リニアモータLMのピーク温度を低下させることができる。また、上記熱分散と並行して熱分散カバー6による放熱が実行される。更に、図4のように、複数の単位電磁石232の一端から他端に亘って熱伝導部材23が接合されていることにより、特定相のコイル232cに生じた熱を容易に固定子23全体へと分散することもできる。
【0041】
ここで、特許文献1に記載の装置において固定子の機械的強度を高めるという別の目的でコイルなどにエポキシ樹脂などの樹脂材料を塗布することがあり、このような従来技術においても樹脂材料により熱分散はある程度期待できる。しかしながら、例えば、常温におけるエポキシ樹脂の熱伝導率は、約0.3W/(m・K)程度と低い。このため、特許文献1の装置においては、リニアモータのピーク温度を効果的に低減することは困難である。これに対し、本実施形態では、常温で約1.67W/(m・K)の熱伝導率を有するオーステナイト系ステンレス鋼で構成した熱分散カバー6がリニアモータLMに追加装備されている。したがって、上記した従来技術(コイルに対して強度補強用の樹脂材料を塗布したリニアモータ)と比べ、本実施形態に係るリニアモータLMのピーク温度は低下する。その結果、固定子23のコイル232cに流せる電流量が増加し、リニアモータLMのモータ推力を向上させることができる。
【0042】
ところで、上記実施形態においては、V相コイル232cに多量の熱が発生する場合について説明した。上記実施形態においては、V相コイル232cが本発明の「一部のコイル」の一例に相当し、U相コイル232cやW相コイル232cが本発明の「他のコイル」の一例に相当している。しかしながら、必ずしもV相コイル232cが一部のコイルに相当し、U相コイル232cやW相コイル232cが他のコイルに相当する必要はない。即ち、U相コイル232c及び/又はW相コイル232cが「一部のコイル」に相当し、それ以外が「他のコイル」に相当してもよい。このように、U相コイル232c及び/又はW相コイル232cが集中的に発熱する場合も、熱分散カバー6を追加設置したことで他のコイル232cへの熱分散により温度低下を図ることができる。
【0043】
また、本実施形態においては、特定相のコイル232cで発生した熱を熱分散カバー6により他の相コイル232cに熱伝導するために、図5Bに示すように、熱分散カバー6の肉厚T6を厚くする一方、接合部材71の厚みT71を低減することが望ましい。この点を考慮して熱分散カバー6の肉厚T6を1.0mmに設定する一方で、Z方向における接合部材71の厚みT71を0.5mm程度に設定している。
【0044】
また、本実施形態においては、特定相のコイル232cで発生した熱はホルダ231により他の相コイル232cに熱伝導して分散されるため、図5Bに示すように、ホルダ231のベース部位231cの肉厚Tcを厚くする一方、接合部材72の厚みT72を低減すること望ましい。この点を考慮してベース部位231cの肉厚Tcを5.0mmに設定する一方で、Z方向における接合部材72の厚みT72を0.3mm程度に設定している。
【0045】
図3に示すように、互いにZ方向に延びる仕切り部位21cおよび支持ブラケット33には、位置センサ24および磁気スケール34が設けられている。これら位置センサ24および磁気スケール34によりリニアスケールが構成される。このリニアスケールは、位置センサ24および磁気スケール34それぞれの厚み方向が水平方向と一致している。このため、位置センサおよび磁気スケールの厚さ方向が鉛直方向と一致する特許文献1の装置に比べて、リニアモジュール20a、20bおよびスライダ3を幅方向においてスリム化できる。その結果、リニアコンベア(=直線搬送部2A、2B+スライダ)ならびに搬送装置100の小型化を図ることができる。
【0046】
上記したように、第1実施形態では、X方向が本発明の「第1方向」に相当している。また、熱分散カバー6が本発明の「熱伝導部材」の一例に相当している。また、接合部材71、72がそれぞれ本発明の「第1接合部材」および「第2接合部材」の一例に相当している。また、バックヨーク52と固定子23との隙間が本発明の「磁気的空隙」の一例に相当している。また、固定子23のうちコア232aが露出している部位233(図4)および頂部234(図4)がそれぞれ本発明の「対向部」および「非対向部」の一例に相当している。また、(+Z)方向側および(-Z)方向側はそれぞれ本発明の「他方側」および「一方側」に相当し、ホルダ231が本発明の「固定子保持部」の一例に相当している。また、ベース21の上面が本発明の「ベースの一方主面」の一例に相当している。また、ガイドレール22a、22bが本発明の「ガイド」の一例に相当している。
【0047】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したものに対して種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記第1実施形態では、熱分散カバー6全体を非磁性材料で構成している。これは固定子23と永久磁石51との間で発生する磁気に悪影響が及ぶのを防止するためである。したがって、例えば図6に示すように、熱分散カバー6のうち永久磁石51と対向しない天井側熱分散部位63(同図においてドットを付している部位)については、非磁性および磁性を問わず、+Y側熱分散部位61および-Y側熱分散部位62と異なる熱伝導部材で構成してもよい(第2実施形態)。この第2実施形態では、+Y側熱分散部位61および-Y側熱分散部位62が本発明の「第1熱分散部位」の一例に相当し、天井側熱分散部位63が本発明の「第2熱分散部位」の一例に相当している。
【0048】
更に、第1実施形態および第2実施形態において、熱分散カバー6がコ字形状(略C字形状)を呈している例について説明した。しかしながら、熱分散カバー6の形状は、必ずしもコ字形状である必要はない。1つの例として、熱分散カバー6は、X方向を長手とする平板形状を呈してもよい。つまり、平板形状を呈する熱分散カバー6が固定子23の上面に接合されていてもよい。
【0049】
また、第1実施形態や第2実施形態において、接合部材71により固定子23に接合された熱分散カバー6の露出表面の少なくとも一部に複数のフィン(図示省略)を設けてもよい。これにより露出面積が増加し、放熱効率を向上させることができる。その結果、リニアモータLMのピーク温度をさらに低下させることができ、リニアモータLMのモータ推力をさらに向上させることができる。
【0050】
また、上記実施形態では、熱分散カバー6を露出させた状態で固定子23に接合しているが、例えば図7に示すように熱分散カバー6の一部あるいは全部が接合部材71に埋設されるように構成してもよい(第3実施形態)。
【0051】
また、上記実施形態では、非磁性材料としてアルミニウムやオーステナイト系ステンレス鋼を例示している。しかしながら、非磁性材料は、例えば、黄銅、マグネシウム合金、高マンガン鋼、チタン、チタン合金、高ニッケル合金、銅合金などであってもよい。なお、本明細書でいう「非磁性材料」とは、磁界分布を乱さないことでモータ推力への影響を与えることなく、しかも材料中に渦電流が発生し難い材料を意味しており、磁場中での磁化のしやすさの尺度である比透磁率μ/μ0の値が1.02以下の材料を意味している。
【0052】
また、上記実施形態では、接合部材71、72としてエポキシ樹脂を用いている。しかしながら、接合部材71、72は、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂およびウレタン樹脂などの合成樹脂であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
この発明は、ムービングマグネット型のリニアモータ全般および当該リニアモータを駆動源とするリニアコンベア全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
3…スライダ
5…可動子
6…熱分散カバー
20a,20b…リニアモジュール
22a,22b…ガイドレール
23…固定子
51…永久磁石
52…バックヨーク
61,62…熱分散部位(第1熱分散部位)
63…熱分散部位(第2熱分散部位)
71…(第1)接合部材
72…(第2)接合部材
231…ホルダ(固定子保持部)
232…単位電磁石
232a…コア
232c…コイル
LM…リニアモータ
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7