(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】高占積率コイル回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 3/34 20060101AFI20240902BHJP
H02K 3/12 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H02K3/34 C
H02K3/34 Z
H02K3/12
(21)【出願番号】P 2020092080
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】榎本 裕治
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/017133(WO,A1)
【文献】特開2015-032426(JP,A)
【文献】特開2013-093928(JP,A)
【文献】特開2012-228093(JP,A)
【文献】特開2015-176730(JP,A)
【文献】特開2013-187076(JP,A)
【文献】特開2004-032960(JP,A)
【文献】特開2016-152750(JP,A)
【文献】特開2014-233176(JP,A)
【文献】特開平08-298756(JP,A)
【文献】特開2004-120923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被膜が施されたコイルエンド部と、前記コイルエンド部から延び、先端に連結部が形成された角型形状であり、
絶縁処理が施されていないストレート部とを有するヘアピン形状コイルを複数備え、
複数のスロット孔が形成され、樹脂製の絶縁部材からなり、固定子コアのスロットに挿入される
一体型の樹脂ボビンをさらに備え、前記ヘアピン形状コイルの前記ストレート部は、前記樹脂ボビンの前記スロット孔に挿入されることを特徴とする高占積率コイル回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の高占積率コイル回転電機において、
前記ヘアピン形状コイルの前記ストレート部に形成された前記連結部は、前記樹脂ボビンの前記スロット孔の内部にて、他の前記ヘアピン形状コイルの前記ストレート部に形成された前記連結部と連結されることを特徴とする高占積率コイル回転電機。
【請求項3】
請求項2に記載の高占積率コイル回転電機において、
前記ヘアピン形状コイルの前記ストレート部は、その断面が正方形または長方形であり、前記断面の4つの角部は、R0.2以下またはC0.2mm以下であることを特徴とする高占積率コイル回転電機。
【請求項4】
請求項2に記載の高占積率コイル回転電機において、
前記ヘアピン形状コイルの前記ストレート部には、1ミクロン以下の防錆塗料が塗布されていることを特徴とする高占積率コイル回転電機。
【請求項5】
請求項2に記載の高占積率コイル回転電機において、
ヘアピン状コイルの前記連結部には、10ミクロン以下の厚さで防錆と酸化防止が目的のメッキ処理が施されていることを特徴とする高占積率コイル回転電機。
【請求項6】
請求項2に記載の高占積率コイル回転電機において、
前記ヘアピン形状コイルの前記コイルエンド部には、無機材を主剤とする耐熱絶縁被膜が塗装されていることを特徴とする高占積率コイル回転電機。
【請求項7】
請求項2に記載の高占積率コイル回転電機において、
前記ヘアピン形状コイルの前記コイルエンド部は、ほぼ直角で、曲げ半径が1mm以下の曲げ部が形成されていることを特徴とする高占積率コイル回転電機。
【請求項8】
請求項2に記載の高占積率コイル回転電機において、
前記ヘアピン形状コイルの前記連結部は、凹部と凸部であることを特徴とする高占積率コイル回転電機。
【請求項9】
請求項2に記載の高占積率コイル回転電機において、
複数の前記ヘアピン形状コイルが前記固定子コアに組み立てられた後に前記コイルエンド部と前記スロットを含む部分を樹脂含浸されて固定されることを特徴とする高占積率コイル回転電機。
【請求項10】
請求項2に記載の高占積率コイル回転電機において、
前記高占積率コイル回転電機は、分布巻ラジアルギャップ型回転電機であることを特徴とする高占積率コイル回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業機械の動力源や、自動車駆動用として用いられる回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械の動力源や、自動車駆動用として用いられるモータである回転電機は、高効率化が求められる。モータを高効率化するためには、モータの損失を低減することが必要で、モータの損失の2大要因であるコイル銅損と鉄心鉄損の低減設計を検討していく設計手法が一般的である。
【0003】
モータ要求仕様の出力特性(回転数とトルク)が決まると、機械損は一意に決まるため、鉄損と銅損を低減する設計が重要となる。鉄損は、使用する軟磁性材料によって低減が可能である。
【0004】
一般的なモータでは鉄心部分には電磁鋼板が採用されており、その厚みやSiの含有量などによって損失レベルが異なるものが利用されている。軟磁性材料には、電磁鋼板よりも透磁率が高く、鉄損が低い鉄基アモルファス金属や、ファインメット、高磁束密度が期待できるナノ結晶材料などの高機能材料が存在する。これらの材料系では、その板厚が0.025mmと非常に薄く、また、鉄心に応力を与えられると損失特性が大幅に低下するなどの課題が多いために、それらの高機能材料をモータに適用する事が出来ないでいる。
【0005】
一方、銅損は、主にコイルの抵抗値と電流の関係で決まり、冷却によってコイル抵抗値の低減や、磁石の残留磁束密度の低下の低下を抑えることによって電流値を低減するといった対策を行う。
【0006】
さらに、近年の自動車駆動用モータ等では固定子スロットの断面積に対する導体の比率(占積率)を高めて抵抗値を小さくするような設計が行われている。
【0007】
しかし、スロット内の占積率が高くできる平角電線コイルは、その表面にエナメル被膜をつけるために角Rを大きくしなければならず、また、コイルエンド部分(軸方向にコアからはみ出したコイル部分)の引き回しが複雑な構造となり、それらの導体同士を溶接などの方法によって接続することによって、コイルエンド部分のボリューム(線長)が大きくなってしまい、抵抗値が若干大きくなるなどの問題がある。
【0008】
特許文献1に記載された技術は、モータの固定子コイルに2本足のヘアピン形状導体セグメントを挿入して、挿入した側と反対側のコイルエンド部でそれぞれを曲げ成形して、周方向に配置された別のヘアピン形状コイルの曲げ成形された導体と溶接して円環状のコイルを形成する方法である。
【0009】
この方法では、スロット占積率を大きく出来る効果がある反面、製造時に、太く硬い平角導体を曲げ成形する必要があるため、固定子コアへの応力や、スロット絶縁物へのダメージ、接続部にも曲げた際の残留応力が残っているため、溶接接合信頼性の確保が困難といった課題があり、製造方法としては改善の余地がある。
【0010】
また、溶接を施すために溶接部の周囲の空間を取らなければならないため、溶接側ではコイルエンド部が大きくなってしまうといった問題もある。
【0011】
それらの改善を試みた方法に特許文献2に記載された技術が挙げられる。特許文献2の構造では、セグメント導体挿入方式の固定子コイルを軸方向に分割し、分割した端面をV字形状として組合せ可能な形状とし、そのV形状の組合せ部に導電ペースト接着剤を持いて接合して導体コイルを形成する方法が示されている。
【0012】
この方法では、コイルエンド部での溶接が無くなるため、コイルエンド部の形状を最適に設計することによってコイルの抵抗値を低く抑えられる効果が期待できる。
【0013】
しかし、導体同士を接着剤の塗布によって一つずつ組み立てていく必要があるため、工数の増加と信頼性の確保に課題がある。導電ペースト接着剤を用いない場合には、V形状の嵌合部は、一般的に面で接触することは困難であり、V面のどこかの線接触となることが知られている。
【0014】
しかも、製造バラつきを考えるとすべての線が同一の軸方向面で保持されるとは考えにくく、1本1本をしっかりと接続(接触)させられる位置に管理することは困難であると想定される。
【0015】
特許文献3には、軸方向に分割したコイルを突起と穴、または、凸形状と凹形状で接続する構成が示されている。こちらも、接続信頼性の確保のために、接続部が見える状態で接続することを特徴としている。接続処理を行った後に、分割した固定子コアの一部を周方向からはめ込んで組立てていくといった内容となっている。こちらも、接触接続部の挿入の信頼性確認、工数の増加、コア組立工数の増大などの課題がある。
【0016】
特許文献4には、特許文献3と同様に凹凸のコイル端面同士を接続する工法が示されている。スロットに挿入した後にコイルの一部に応力を加えて挿入したコイルを拡幅させてカシメ効果により信頼性の高い接続(導電性の確保)を満足する内容である。コアに挿入した後に拡幅する手段の記載が明確では無いが、接続箇所すべてでやるとなると拡幅工程の工数増加などが懸念される。
【0017】
これに対して、特許文献5に記載された方法では,コイルの先端形状を圧入公差として、機械的にしっかりと接合する方法が示されている。樹脂のボビンを用いて、コイルの挿入領域をしっかりと確保した状態で凹凸の先端部を応力印加によって接合させるため、信頼性の高い接続ができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】特開2011-239651号公報
【文献】特開2015-23771号公報
【文献】特開2013-208038号公報
【文献】特開2016-187245号公報
【文献】特願2018-134662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
特許文献5に記載されたヘアピン形状コイルの軸方向分割形状とその再組立て方法は,占積率が比較的高くできる効果がある。
【0020】
しかし、従来のエナメル被膜付きのマグネットワイヤは、電気的に非導電性のエナメル被膜をその表面に均質につける必要があるため、導体の断面形状は角部にRを施した丸っこい形状とする必要がある。このため、四角い領域にコイルを配置した時に、角R部分が空隙となってしまい、スロットにおける導体占積率が低下する課題がある。
【0021】
また、この絶縁被膜は、樹脂材料を塗布して乾燥する工程を複数回繰り返して製造されるため、被膜厚さを均一に保つことが困難である。このため、被膜厚さのばらつき公差を考慮してその被膜厚さが最大の場合を想定して組立隙間を設定しなければならず、その隙間を確保するために、占積率が低下してしまう問題がある。
【0022】
また、一般的に使用されている固定子コアとの絶縁は、PETやPENといった樹脂製のシートや、アラミド紙、またはその張り合わせの複合材などが用いられ、その紙を配置した後に、コイル導体を挿入する工法が採用されており、絶縁紙の組立公差、および、その姿勢による組立性の悪化などで上記の組立のための隙間を多く見積もっておかなければならず、占積率の向上を阻害する要因となっている。
【0023】
また、このコイル導体の絶縁は、コイルエンド部分でのコイル重なり部での絶縁を確保するために厚くなっており、そのエナメル絶縁被膜の厚さによっても、占積率を低下させる要因となっている。
【0024】
また、一般的な平角線コイルの製造方法は、コイルを軸方向に挿入した後に挿入側と反対側のコイル部分を折り曲げて端部を溶接する方法で製造される。この折り曲げ時に、絶縁紙、固定子コアに過大な応力がかかることで、絶縁不良などの問題を起こすことが多くなっている。
【0025】
さらに、固定子コアの材料にアモルファス等の低損失材料を用いる場合においては、その材料が応力によって損失特性の大幅な低下が引き起こされる場合があり、設計したモータの特性が満足に得られないという課題もある。
【0026】
本発明の目的は、磁気特性の優れた軟磁性材料を用いた場合においても、固定子鉄心や絶縁物に過大な応力を与えることなく、スロット内の導体占積率を理論上最大限まで高められ、コイルエンド、スロット部ともに最適な形状で理論上抵抗値が最も小さくなる固定子を有する高占積率コイル回転電機を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記目的を達成するため、本発明は、次のように構成される。
【0028】
高占積率コイル回転電機は、絶縁被膜が施されたコイルエンド部と、前記コイルエンド部から延び、先端に連結部が形成された角型形状であり、絶縁処理が施されていないストレート部とを有するヘアピン形状コイルを複数備え、複数のスロット孔が形成され、樹脂製の絶縁部材からなり、固定子コアのスロットに挿入される一体型の樹脂ボビンをさらに備え、前記ヘアピン形状コイルの前記ストレート部は、前記樹脂ボビンの前記スロット孔に挿入される。
【発明の効果】
【0029】
磁気特性の優れた軟磁性材料を用いた場合においても、固定子鉄心や絶縁物に過大な応力を与えることなく、スロット内の導体占積率を理論上最大限まで高められ、コイルエンド、スロット部ともに最適な形状で理論上抵抗値が最も小さくなる固定子を有する高占積率コイル回転電機を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1A】本発明の実施例1における先端形状が凸形状のヘアピン形状コイルを示す図である。
【
図1B】本発明の実施例1における先端形状が凹形状のヘアピン形状コイルを示す図である。
【
図2A】銅、または、アルミニウムの板をせん断にて切断し、細い棒状の導体を得る方法の説明図である。
【
図2B】通常のマグネットワイヤのようにダイスを用いた伸線工程で平角状の線を作る方法の説明図である。
【
図2C】導体である長方形断面コイルの断面を示す図である。
【
図2D】現在製造されている平角エナメル電線の断面を示す図である。
【
図3A】一般的なスロット絶縁物の構造を示す図である。
【
図3B】一般的なヘアピン形状コイルを示す図である。
【
図3C】固定子コアのスロットにアラミド紙の絶縁物を配置された部分にヘアピン形状コイルを軸方向に挿入して組み立てる説明図である。
【
図3D】コイルエンド部分を折り曲げて互いの端部を突き合わせて溶接することでつながったひとつの波巻コイルを形成することの説明図である。
【
図4A】一般的なラジアルギャップ型分布巻き固定子の断面構成を示す図である。
【
図4B】エナメル被膜付き導体がスロットに配置された状態における断面の拡大図である。
【
図4C】本発明の実施例1による被膜無しの導体のスロット配置を示す図である。
【
図5A】本発明の実施例1におけるヘアピン形状コイルの先端のメッキ処理部にメッキ処理を施す方法を示す図である。
【
図5B】本発明の実施例1における凹部の拡大図である。
【
図5C】本発明の実施例1における凸部の拡大図である。
【
図6A】酸化防止処理剤の処理方法の説明図である。
【
図6B】コイルエンド部の絶縁処理方法の説明図である。
【
図7B】射出成型された一体型の樹脂ボビンの概略斜視図である。
【
図7C】絶縁体である樹脂ボビンが固定子コアのすべてのスロットに挿入された状態を示す図である。
【
図8A】固定子コアへのヘアピン形状コイルの組立方法を示す図である。
【
図8B】固定子コアへのヘアピン形状コイルの組立方法を示す図である。
【
図9A】本発明の実施例1とは異なるヘアピン形状コイルの例を示す図である。
【
図9B】本発明の実施例1によるヘアピン形状コイルを示す図である。
【
図10A】本発明の実施例1による複数のヘアピン形状コイルを固定子に配置した状態を示す図である。
【
図10B】本発明の実施例1による複数のヘアピン形状コイルを固定子に配置した状態を示す図である。
【
図11A】固定子と回転子の関係を説明する斜視図である。
【
図11B】実施例1によるヘアピン形状コイルを有する高占積率コイル回転電機として組立てた図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面を用いて、本発明の実施形態について説明する。
【0032】
なお、以下の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。
【0033】
また、本発明を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
図1A及び
図1Bは、本発明の実施例1に係る分布巻ラジアルギャップ型回転電機の固定子において用いられる、ヘアピン形状の固定子コイル導体の構造の斜視図である。
【0035】
図1Aは実施例1における先端形状が凸形状のヘアピン形状コイル1を示す図であり、
図1Bは実施例1における先端形状が凹形状のヘアピン形状コイル1を示す図である。このヘアピン形状コイル1は、モータ固定子のスロット部に配置されるストレート部5とモータ固定子コアから出て他方のストレート部5とをつなぐ役割のコイルエンド部6から構成される。ストレート部5は、コイルエンド部6から延び、その先端に凸部3bおよび凹部3aが形成されている。
【0036】
コイルエンド部6においては、コイルエンドへ向かう曲げR部(コイルエンド部6とストレート部5との境界部分)の根本部分から反対側の曲げR根元までの間にヘアピン形状コイル1を絶縁するための絶縁被膜2が施されている。絶縁被膜2は、コイルに絶縁部材を塗布し、焼付処理を施して形成される。
【0037】
また、ストレート部5の先端の凸部3bおよび凹部3aには、メッキ処理が施されているメッキ処理部3を有する構造となっており、そのメッキ処理部3と曲げRの根本、すなわち絶縁が施された部分との間のストレート部5は、導体そのものが均一な導体断面形状を有する構造となっている。ストレート部5の断面形状は、正方形または長方形である。ストレート部5の断面の4つの角部は、R0.2以下またはC0.2mm以下の微小な角部である。
【0038】
このストレート部5の導体は、電気的に導電度の高い銅や、アルミニウムなどが適しており、この表面には酸化膜や、非常に薄い無機材などの1ミクロン以下の防錆塗料が塗られているものでも良い。
【0039】
通常は、コイル導体は、溶接やカシメ、ハンダ付けなどを用いて他との接続を行うので、銅やアルミニウムは無酸素銅など純度の高い金属を用いることが多いが、本発明の実施例1におけるコイル構造では、それらの材質は問わず、タフピッチ銅やベリリウム銅、リン青銅など、必要な特性を出すための素材を選定することができる。
【0040】
図2A~
図2Dは、
図1で示したヘアピン形状コイル1を製造する工法の一例を説明する図である。
【0041】
図2Aは、銅、または、アルミニウムの板11をせん断にて切断し、細い棒状の導体10を得る方法の説明図である。必要な幅の板11から必要な長さの棒状の導体10を得ることができる。
【0042】
せん断で板11を切断するときに、ダレ、カエリが発生する場合があり、長方形断面の棒状の導体10の角部がシャープとならない場合があるが、これは後工程において、コイニングなどで断面を整える工程を追加することで、均質な断面を持つ棒の製造が可能となる。
【0043】
図2Bは、通常のマグネットワイヤのようにダイスを用いた伸線工程で平角状の線を作る方法の説明図である。ダイスの角部がエッジとなって製造時に亀裂を生じない程度にRを施し、平角状の長方形、または正方形断面の導体を得る。製造された導体10は、コイルボビン12に巻き取られそれを繰り出して使用することができる。
【0044】
その他、図示はしないが、ロール状の板材からスリッティングによって平角導体を得る方法も実用化されている。
【0045】
図2Cは、上記の方法によって得られた導体10である長方形断面コイルの断面を示す図である。図示した例では、幅2.6±0.07mm、高さ1.8±0.05mmの断面を有する導体10の例を示している。
【0046】
上記の加工方法では、製造時のばらつき(公差)として約0.05mm程度であれば安価に製造が可能とされる。このサイズの線であれば角部のRは0.2mm以下程度まで小さくできる。
【0047】
図2Dは、現在製造されている平角エナメル電線の断面を示す図である。
図2Dにおいて、幅が2.6±0.1mm、高さ1.8±0.1mmの場合を示すが、ポリエステルやエステルイミド、アミドイミドなどのエナメル被膜15は、0.03mm以上の厚さで焼付塗装されている。その塗装は、複数回にわたって塗布、乾燥を繰り返し行うといった処理となるので、被膜厚さの均質性を出すことが難しく、寸法公差としては0.1mm程度の公差となってしまう。このため、内部に配置される導体10の断面積は小さくなってしまう。
【0048】
また、角部には、均質なエナメル被膜15をつけにくいために、その角Rを大きくとらなければならず、そのRは0.5~0.6と大きなRとなってしまうのが一般的である。
【0049】
また、このエナメル線は、曲げたり巻き付けたりすることが前提であるため、銅とエナメルの密着性が重要であり、線の伸びに対応して伸びのある被膜材料が適用される。このエナメル被膜15の絶縁被膜は、モータのコイルとして使用する場合に、スロット内部とコイルエンド部で絶縁耐圧に対する仕様が異なるのに対して、全体として同じ仕様でしか製造できない。このため、仕様の厳しい箇所に合わせて必要な膜厚をつけるため、必要のない部分に過剰性能を有するものとなってしまう。
【0050】
図3A~
図3Dは、本発明の実施例1とは異なるヘアピンコイル50を使用した一般的なラジアルギャップ型分布巻き固定子の製造方法を示す図である。
【0051】
図3Aは、一般的なスロット絶縁物の構造を示す図である。
図3Aにおいて、スロット絶縁物は、アラミド紙の絶縁物19などの紙を、図示のように一点鎖線の部分で折り曲げてストロー状の絶縁物19を構成する。
【0052】
図3Bは、一般的なヘアピンコイル50を示す図である。通常、3次元的に成形されたヘアピンコイル50の両端部のエナメル被膜はあらかじめ剥離しておく。その後、
図3Cに示すように固定子コア7のスロット部にアラミド紙の絶縁物19を配置された部分にヘアピンコイル50を軸方向に挿入して組み立てる。
【0053】
ヘアピンコイル50は、すべてのコイルを同時に組み付ける必要があるが、ここでは理解のために2個のヘアピンコイル50を挿入する状況を示す。
【0054】
図3Dに示す挿入された2個のヘアピンコイル50は、反対側のコイルエンド部分を折り曲げて互いの端部を突き合わせて溶接することでつながったひとつの波巻コイルを形成する。
【0055】
ここで、反対側コイルのコイル脚を曲げる際に絶縁物と固定子コア7に多大な応力がかかり、絶縁物の破損による絶縁不良や、固定子コア7への応力印加による軟磁性材料の性能劣化を招く恐れがある。
【0056】
また、突き合わせ部の溶接では、溶接時の温度上昇によるエナメル被膜の損傷や、溶接時の火花飛びなどによるエナメル溶融による絶縁不良が発生する可能性がある。
【0057】
図4Aは、
図3A~
図3Dに示した一般的なラジアルギャップ型分布巻き固定子の断面構成を示す図である。
図4Aにおいて、角型のスロットに0.2mm厚みのアラミド紙の絶縁物19を挿入し、その中にエナメル被膜15付きの導体が挿入される構造となっている。絶縁物19とスロット形状との関係は、アラミド紙の絶縁物19を挿入するための組立隙間0.05mm程度が必要となる。これはアラミド紙の厚さばらつき、折り曲げ組立て公差を考慮したものである。
【0058】
また、アラミド紙の絶縁物19とヘアピンコイル50のエナメル被膜15付き導体との組立公差も同様に0.05mm程度が必要となり、スロットの断面積に対し、導体の断面積の比である占積率は小さくなることが理解できる。
【0059】
図4Bはエナメル被膜15付き導体がスロットに配置された状態における断面の拡大図である。
図4Bに示すように、角R0.5mmとエナメル被膜15によって胴体部分の断面積が小さくなっていることがわかる。
【0060】
図4Cは、本発明の実施例1による被膜無しの導体のスロット配置を示す図である。
図4Cにおいて、角形スロット内に樹脂製の絶縁部材からなる樹脂ボビン4を配置し、その中にヘアピン形状コイル1の導体を配置する。樹脂ボビン4の絶縁部材は、射出成型で製造することによりばらつきの少ない寸法を得ることができる。
【0061】
樹脂ボビン4の樹脂の厚みを0.2mmとし、アラミド紙の絶縁物19と同等として、スロットに配置し、ヘアピン形状コイル1の導体が入る複数のスロット孔はそれぞれが独立して絶縁される構造とする。その孔に導体を配置するのであるが、導体自体の寸法公差は、
図2Dを用いて説明したように、エナメル被膜付き平角線に比べて公差は半分程度にでき、かつ、角Rも小さくできる。このため、穴に対して十分な断面積の導体を配置することで占積率を高めることができる。
【0062】
導体の寸法公差を高めることで占積率を高めることが可能であるが、製造コストとの兼ね合いで、安価に製造できる程度の組立隙間の設定として、0.03mm程度の隙間として本実施例1では示している。
【0063】
図5A~
図5Cは、本発明の実施例1におけるヘアピン形状コイル1の先端のメッキ処理部3にメッキ処理を施す方法を示す図である。ヘアピン形状コイル1の凹部3a及び凸部3bには、10ミクロン以下の厚さで錫などの防錆と酸化防止が目的のメッキ処理が施されている。
【0064】
図5Aにおいて、メッキ槽25の中にメッキ液24を入れ、電極23をメッキ液中に配置している。本発明の実施例1によるヘアピン形状コイル1は、エナメル被膜が無い状態でヘアピン形状のコイルとなるため、電極23をヘアピンコイル形状コイル1のどの部分にも設置しやすい構造となっている。
【0065】
図5Aでは、折り曲げた山の頂点部分をクリップ22で接続して電極23とメッキ液24を介して接続するようになっているが、別の部分での接続する構成でも問題はない。液面の高さとヘアピン形状コイル1の配置位置を管理することで、必要な部分だけにメッキ処理を施すことが可能となる。
【0066】
メッキ処理部3は、本来は凹部3aの内側と、凸部3bの外側部分だけでも良いが、マスキングなどの面倒な工程を不要とするため、凹部3a及び凸部3bのすべての面をメッキ処理する工法としている。
【0067】
図5B及び
図5Cは、本発明の実施例1における凹部3a及び凸部3bの拡大図である。
図5B及び
図5Cに示すように、メッキをつける部分は、凹部3a及び凸部3bの5mmの部分だけでも問題は無いが、液面管理ばらつき、ヘアピン形状コイル1の姿勢制御のばらつきなどをコントロールすることに工数や、設備面での投資が多大になるよりも、簡素な方法でメッキ処理するために公差として10mm±5mmと最低でも5mmの範囲はメッキ処理がなされている程度の公差としている例を示した。
【0068】
メッキ処理部3の形状は
図5B及び
図5Cに示すとおりであり、凹部3a及び凸部3bの表面を含む全体にメッキ処理を施すものとする。メッキの厚さは、5~10μm程度であり、組立のための隙間0.03mmに対し充分組立可能な寸法となる。メッキの材質は、銅やアルミニウム導体の接続部が酸化によって導通が無くなることを防ぐためであり、劣化の少ないクロム、ニッケル、錫、導電率の高い金や銀などの金属が候補である。
【0069】
本実施例1では最も安価である錫をメッキ材料として選定することにする。錫メッキを施すことによって、凹部3a及び凸部3bの寸法関係は、隙間ばめから締りばめの公差となり、軸方向に結合することで互いに応力を付与しながらの締結が可能となる。
【0070】
図6A及び
図6Bは、ヘアピン形状コイル1のコイルエンド部6への絶縁部材塗布方法についての説明図である。
【0071】
図6Aは、酸化防止処理剤の処理方法の説明図である。メッキ処理部3以外のストレート部5とコイルエンド部6をSiOが主成分の処理液に浸し、80~100度の温度で焼付(乾燥)させる。これにより、コイルエンド部6にはSiOなどの無機材を主剤とする耐熱絶縁被膜が塗装され、被膜厚として0.1~0.4μmの防錆皮膜が形成できる。
【0072】
図6Bは、コイルエンド部6の絶縁処理方法の説明図である。
【0073】
図6Bにおいて、コイルエンド部6となる曲げR付け根部分から先をエポキシなどの絶縁部材でコーティングし、膜厚として10~30μmの被膜を形成させる。焼付(乾燥)は180℃45分程度で実施する。凹部3a及び凸部3bにメッキ処理した錫の融点は220℃程度であるため、その温度以下での処理が有効である。
【0074】
【0075】
図7Aは、一般的な固定子コア7を示す図である。
図7Aにおいて、電磁鋼板などの薄板軟磁性材料をプレスで打ち抜き加工し、積層して固定子コア7の形状を構成する。スロットの形状は角形で、ティース先端にはティース先端突起によってスロット溝はセミクローズド形状となる一般的な形状となっている。
【0076】
図7Bは、射出成型された一体型の樹脂ボビン4の概略斜視図であり、樹脂ボビン4の概略断面も示している。
図7Aに示した固定子コア7のスロットに、
図7Bに示すような形状の、複数のスロット孔4aが形成された樹脂ボビン4を軸方向から挿入して組立する。樹脂ボビン4は前述したとおり、アラミド紙のスロット絶縁紙の場合と同様に、絶縁体の厚さは0.2mmと薄くしている。
【0077】
また、導体が入る部分は壁で仕切られ、導体間の沿面、空間絶縁距離を確保する形状となっている。つまり、樹脂ボビン4は、導体1本ごとに隔離されている形状となっている。
【0078】
図7Cは、絶縁体である樹脂ボビン4が固定子コア7のすべてのスロットに挿入された状態を示す図である。射出成型された一体型の樹脂ボビン4は寸法公差ばらつきが小さいため、組立のための隙間は小さくて良い。
【0079】
図8A及び
図8Bは、固定子コア7へのヘアピン形状コイル1の組立方法を示す図である。ここでは、構造を理解しやすくするため軸方向上部に、凸部3bが形成された2つのヘアピン形状コイル1と軸方向下側に凹部3aが形成された一つのヘアピンコイル形状コイル1が組み立てられる場合の構造を示している。
【0080】
図8Aに示すように、それぞれのヘアピン形状コイル1は、固定子コア7の軸方向に樹脂ボビン4の孔に挿入して組立が行われる。ヘアピン形状コイル1のストレート部5に形成された凹部(連結部)3aは、樹脂製ボビンのスロット孔4aの内部にて、他のヘアピン形状コイル1のストレート部5に形成された凸部(連結部)3bと嵌合される(連結される)。
【0081】
図8Bは、ヘアピン形状コイル1の樹脂ボビン4の孔への挿入完了状態を示す図であり、
図8Bの右側の断面図では、それぞれ上からコイルエンド部6、ストレート部5、凹部3aと凸部3bとの嵌合部の断面状態を示している。
【0082】
コイルエンド部6においては、本発明の実施例1におけるヘアピン形状コイル1のコイルエンド部6に施した絶縁があることがわかる。また、ストレート部5は、絶縁は無く、固定子コア7と導体間には樹脂ボビン4の絶縁物しか存在しない。
【0083】
また、凹部3aと凸部3bとの嵌合部は、錫メッキが施されており、樹脂ボビン4のスロット孔に対し少々窮屈な状態となり、かつ、凹部3aと凸部3bとの互いの嵌合部は、締まりばめの状況となっている。
【0084】
これによって、波巻のコイルが構成できる。ただし、このままでは、振動などによって凹部3aと凸部3bとの嵌合部が抜ける恐れがあるため、ヘアピン形状コイル1と樹脂ボビン4、樹脂ボビン4と固定子コア7、コイルエンド部6の固定のためにワニス処理を行うことが望ましい。
【0085】
また、エポキシ、不飽和ポリエステル系の絶縁樹脂のディッピング、塗布、含浸、真空含浸処理、乾燥工程などを経て、ヘアピン形状コイル1の固定や絶縁の強化を行うことが望ましい。
【0086】
また、コイルエンド部6を射出成型やトランスファーモールドなどを用いて樹脂で鋳くるんでしまうことも方法の一つである。
【0087】
図9A及び
図9Bは、本発明の実施例1によるヘアピン形状コイル1における他の効果を説明する図である。
【0088】
図9Aには本発明の実施例1とは異なるヘアピン形状コイルの例を示している。一般的に、ヘアピン形状コイルでは複数の曲げ部が発生するが、ここでは山の頂点部の3次元曲げ部について示す。一般的なエナメル被膜付き平角電線では、曲げ角度がきついと、エナメル被膜が伸び、反対側では圧縮され、被膜の剥離を引き起こす課題がある。
【0089】
このため、曲げ部のRは極力大きくし、その曲げ角度は緩やかに設定する必要があった。例えば、
図9Aに示すように135°の曲げ角度に設定する必要があった。
【0090】
本発明の実施例1によるヘアピン形状コイル1では、曲げ成型を行うときはエナメルなどの絶縁被膜はついていない状態なので、鋭角などに曲げても絶縁被膜の剥離の問題は生じない。
【0091】
このため、コイルエンド部分6の設計自由度が高くでき、コイルエンド部6の周長を短くでき、コイル抵抗を小さくすることができる。
図9Bは、本発明の実施例1によるヘアピン形状コイル1を示し、コイルエンド部6ではほぼ直角の曲げ部が形成された場合の形状を示している。曲げ半径が1mm以下の曲げ部となっている。
【0092】
このように、実施例1によるヘアピン形状コイル1は、かなりRの小さい金型での加工でも形状を構成することが可能となる。
【0093】
図10A及び
図10Bは、
図9Bに示した形状の本発明の実施例1による複数のヘアピン形状コイル1を固定子に配置した状態を示す図である。
図10Aでは、一相分内周側の1列目と2列目のスロット孔にヘアピン形状コイル1を挿入した状態を示している。
図10Bは、コイルエンド部6の拡大図である。
【0094】
6スロットをまたぐ標準のピッチ幅のコイルに加え、5スロット幅ピッチのコイル1b、7スロット幅ピッチのコイル1cや口出し線コイル1dなど形状が異なるコイルがあることがわかる。これらのコイルにおいても、スロット内に入る部分は絶縁処理がなされていない裸導体を用い、コイルエンドに出る部分のみ絶縁被膜を構成して、モータの固定子として構成している。
図10Bに示すように、複数のヘアピン形状コイル1が固定子コア7に組み立てられた後にコイルエンド部6とスロットを含む部分を樹脂含浸して固定する。
【0095】
また、嵌合部は凹部3a及び凸部3bとし、固定子コア7の中央部付近での接続となっている。
【0096】
図11A及び
図11Bは、
図10A及び
図10Bに示したような方法で組立した固定子を高占積率コイル回転電機100として組み合せし、
図9Bに示した凸部3bを有するヘアピン形状コイル1や凹部3aを有するヘアピン形状コイル1を有するコイル構造を示す図である。
【0097】
図11Aは、固定子と回転子の関係を説明する斜視図である。
図11Aにおいて、モータとして、回転するロータコア40を軸37に固定されたものが回転子となる。本実施例1では永久磁石同期モータの場合の例を示しているが、回転子は、誘導モータの籠型導体回転子でも、リラクタンスモータの磁性体突極回転子でも良い。
【0098】
永久磁石同期モータの場合は、ロータコア(回転子コア)40の内部または表面に永久磁石41が配置されている。固定子コア7の内側に回転子が配置され、ギャップを介して回転子表面と固定子内面が対抗し、磁束のやり取りを行ってモータとして動作するような構造となっている。
図11Bは、実施例1によるヘアピン形状コイル1を有する高占積率コイル回転電機100として組立てた形態を示す図である。先に示した回転子の軸37は、軸37の出力側、反出力側にボールベアリング34、35が配置され、ボールベアリング34、35の外周が固定された状態でボールベアリング34、35の内周面が軸37と一体となって回転可能に保持される。
【0099】
ボールベアリング34、35の外周は、出力側軸受ブラケット31と反出力側軸受ブラケット32で保持されており、出力側軸受ブラケット31と反出力側軸受ブラケット32は、ハウジング30により、同軸度を保った状態で構成されている。
【0100】
さらに、ハウジング30には、軸方向にフロント側締結ボルト36及びリア側締結ボルト39で締め付けて軸方向に応力を加えて保持される構成となっている。固定子コア7は、ハウジング30の軸方向の所定の場所に保持され固定されている。この状態で、コイル群を一体化している樹脂モールドリング部は、出力側、反出力側とも、軸受保持部の軸方向面と接触し、軸方向に応力をかけた状態で保持されるようにする。
【0101】
これによって、モータ(高占積率コイル回転電機100)として回転子がトルク脈動や、負荷変動により振動して、固定子に振動や応力が加わった場合においても、モータのハウジング(筐体)30が、固定子コイル群が抜け出てきたりすることを防いでくれる構造とすることができる。
【0102】
また、この構造により、コイルエンド部分から、軸受保持部にコイルで発生したジュール損失による発熱を熱伝導によって冷却できる効果も有する。さらに、樹脂モールドしていないコイルエンド部分には、通常、冷却油(潤滑油)をかける冷却法が採用されることが多く、樹脂で囲われていない導体コイルエンドに直接塗布することができるため、油冷効果を減少させることが無い。なお、符号33は緩和材を示している。
【0103】
本発明の実施例1によるヘアピン形状コイル1の構造では、軸方向へのコイル応力付与が組立に必須である分割コイル組み立て工法に適している。本発明の実施例1によるヘアピン形状コイル1によれば、従来技術におけるヘアピンコイル挿入、反挿入側部曲げ、溶接工法に比べて、コイルが絶縁部材や、固定子鉄心に与える影響が極めて少ない。
【0104】
また、本発明によれば、固定子鉄心は、応力に対して敏感で鉄損が増大するものもあり、高グレードの電磁鋼板や、アモルファスなどの低損失材料に対して優位な工法となり得る。また、挿入時のコイルや絶縁物の損傷、コイル変形などの防止にも効果があるほか、必要なコイル種類の低減ができ、必要な組立治具や設備投資が低減できる。さらに組立プロセスが簡略化できるので、モータのコスト削減に効果が期待できる。
【0105】
また、本発明による上記のような高占積率なモータ固定子は、コイルの導体抵抗値を低減することができるため、銅損の低減が可能となるほか、スロット内の空気層を極力少なくすることができるので、コイルから発生した熱をコアに伝熱するための熱伝達性能を向上することができる。
【0106】
上記の効果によってモータの発熱量の低下、冷却能力の向上が可能となり、モータの効率向上ができる。また、組立時にモータの固定子コアに応力を付与しないため、軟磁性材料の性能劣化を生じさせないため、高性能な軟磁性材料の採用が可能となる。
【0107】
また、ヘアピン形状コイル1の絶縁は、樹脂ボビン4により、スロット絶縁部材によって1本ごとに部屋を分けられて保持することができるので、沿面距離、絶縁距離ともに確保が可能となる。
【0108】
さらに、絶縁部材である樹脂ボビン4は樹脂材料を射出成型することで製造するために寸法精度が高く、絶縁厚みを薄くすることができ、絶縁紙などでは2重となって厚くならざるを得なかった部分の厚みが薄く設定できることにより、さらなる占積率の向上と、熱伝導性能の向上が実現可能となる。また、スロット部の導体占積率を理論上考え得る限り高くすることができる。
【0109】
以上のように、本発明によれば、磁気特性の優れた軟磁性材料を用いた場合においても、固定子鉄心や絶縁物に過大な応力を与えることなく、スロット内の導体占積率を理論上最大限まで高められ、コイルエンド、スロット部ともに最適な形状で理論上抵抗値が最も小さくなる固定子を有する高占積率コイル回転電機を実現することができる。
【0110】
なお、上述した凹部3a及び凸部3bは、互いに嵌合して連結することから連結部と定義することができる。この連結部は、図示した例のような凹部3a及び凸部3bに限らず、例えば半円状の凸部及び凹部や、円柱状の凸部及び凹部のような他の形状であってもよい。
【符号の説明】
【0111】
1・・・ヘアピン形状コイル、2・・・絶縁被膜、3・・・メッキ処理部、3a・・・凹部、3b・・・凸部、4・・・樹脂ボビン、4a・・・スロット孔、5・・・ストレート部、6・・・コイルエンド部、7・・・固定子コア、10・・・導体、11・・板、12・・・コイルボビン、15・・・エナメル被膜、19・・・絶縁物、22・・・クリップ、23・・・電極、24・・・メッキ液、25・・・メッキ槽、30・・・ハウジング、31・・・出力側軸受ブラケット、32・・・反出力側軸受ブラケット、33・・・緩和材、34、35・・・ボールベアリング、36・・・フロント側締結ボルト、37・・・軸、39・・・リア側締結ボルト、40・・・ロータコア、41・・・永久磁石、100・・・高占積率コイル回転電機