(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】油水分離フィルタ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 17/022 20060101AFI20240902BHJP
B01D 17/04 20060101ALI20240902BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
B01D17/022 502B
B01D17/022 502C
B01D17/022 502F
B01D17/022 502G
B01D17/04 501E
B01D39/16 A
(21)【出願番号】P 2020141303
(22)【出願日】2020-08-25
【審査請求日】2023-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】白石 真也
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 久実
【審査官】塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-042707(JP,A)
【文献】特開2001-152050(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110699966(CN,A)
【文献】特開2001-137629(JP,A)
【文献】特開2005-034710(JP,A)
【文献】特開2015-161667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 17/00-17/12
B01D 39/00-41/04
D06M 10/00-11/84
D06M 13/00-15/715
D06M 16/00
D06M 19/00-23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と油を含む液体が流入する一面と、この一面に対向し前記液体が流出する他面との間を貫通する多数の気孔が繊維間に形成された不織布を含む油水分離フィルタであって、
前記不織布の繊維表面に撥水撥油性膜が形成され、
前記撥水撥油性膜は、下記の一般式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を含む第1フッ素系官能基成分(A1)が結合した平均粒子径2nm~90nmの金属酸化物粒子(B)と、
下記の一般式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を含む第2フッ素系官能基成分(A2)を含有するシリカゾルゲル(C)とを含み、
前記撥水撥油性膜
を100質量%とするとき、前記第1フッ素官能基成分(A1)と前記第2フッ素官能基成分(A2)とを合計した含有割合が、0.5質量%~15質量%であり、
前記シリカゾルゲル(C)と前記金属酸化物粒子(B)の質量比(C:B)が、10:90~90:10の範囲にあり、
前記油水分離フィルタの通気度が0.05ml/cm
2/秒~14ml/cm
2/秒であることを特徴とする油水分離フィルタ。
【化1】
上記式(1)及び式(2)中、p、q及びrは、それぞれ同一又は互いに異なる1~6の整数であって、直鎖状又は分岐状であってもよい。また上記式(1)及び式(2)中、Xは、炭素数2~10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO-NH結合、O-CO-NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。更に上記式(1)及び式(2)中、Yはシランの加水分解体又はシリカゾルゲルの主成分である。
【請求項2】
前記第1フッ素官能基成分(A1)の含有割合が、質量比で前記第2フッ素官能基成分(A2)の含有割合以上である請求項1記載の油水分離フィルタ。
【請求項3】
前記金属酸化物粒子(B)は、Si,Al、Mg、Ca、Ti、Zn及びZrからなる群より選ばれた1種又は2種の金属の酸化物粒子である請求項1記載の油水分離フィルタ。
【請求項4】
前記シリカゾルゲル(C)は、前記シリカゾルゲル(C)を100質量%としたとき、炭素数2~7のアルキレン基成分を0.5質量%~20質量%含む請求項1記載の油水分離フィルタ。
【請求項5】
前記不織布が単一層により構成されるか、又は複数層の積層体により構成される請求項1記載の油水分離フィルタ。
【請求項6】
前記不織布を構成する繊維がポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラス、アルミナ、炭素、セルロース、パルプ、ナイロン及び金属からなる群より選ばれた1種又は2種以上の繊維である請求項1又は5記載の油水分離フィルタ。
【請求項7】
請求項1に記載の油水分離フィルタの製造方法であって、
フッ素含有金属酸化物粒子の分散液とフッ素含有シリカゾルゲル液とを混合して撥水撥油性膜形成用液組成物を調製する工程と、
前記撥水撥油性膜形成用液組成物の希釈液に不織布をディッピングする工程と、
前記ディッピングした不織布を脱液し乾燥する工程と、
を含む油水分離フィルタの製造方法。
【請求項8】
前記フッ素含有金属酸化物粒子の分散液が、金属酸化物粒子の分散液に第1フッ素系官能基成分を含むフッ素系化合物を添加混合し、この混合液に水と触媒を添加混合して、調製される請求項7記載の油水分離フィルタの製造方法。
【請求項9】
前記金属酸化物粒子がSi,Al、Mg、Ca、Ti、Zn及びZrからなる群より選ばれた1種又は2種の金属の酸化物粒子である請求項8記載の油水分離フィルタの製造方法。
【請求項10】
前記フッ素含有シリカゾルゲル液が、第2フッ素系官能基成分を含むフッ素系化合物とケイ素アルコキシドとアルコールと水を混合した混合液に触媒を添加混合して、調製される請求項7記載の油水分離フィルタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油と水が混ざりエマルジョン化した乳化油又は水溶性油のような水と油を含む液体を水と油に分離可能な油水分離フィルタ及びその製造方法に関する。更に詳しくは、撥水性及び撥油性(以下、撥水撥油性ということもある。)を有する撥水撥油性膜が不織布の繊維表面に形成された油水分離フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、水と油を含む液体(以下、単に液体ということもある。)は、その油水の混合状態に応じて、水面に油が浮上する浮上油と、油の粒子が水中に浮遊している分散油と、油と水が混ざりエマルジョン化している乳化油又は水溶性油とに分類される。
【0003】
本出願人は、水と油を含む液体が流入する一面と、この一面に対向する他面との間を貫通する多数の気孔が繊維間に形成された不織布を含む油水分離フィルタであって、前記繊維表面に油水分離膜(本発明の「撥水撥油性膜」に相当する。)が不織布1m2当り0.1~30gの割合で形成され、油水分離膜は、撥水性及び撥油性の双方の機能を有するペルフルオロアミン構造のフッ素含有シランを含むシリカゾル加水分解物を有し、フッ素含有シランは、シリカゾル加水分解物中、0.01~10質量%の割合で含まれ、油水分離フィルタの通気度が0.05~10ml/cm2/秒であることを特徴とする油水分離フィルタを提案した(特許文献1(請求項1、段落[0016])参照。)。
【0004】
この油水分離フィルタでは、油水分離フィルタ内に液体が流入したときに、水と油を含む液体の油粒子が気孔の孔径より大きい場合には、物理的に水と油を含む液体の油粒子の通過を阻止する。そして水と油を含む液体の油粒子が気孔の孔径より僅かに小さい場合でも、不織布の繊維表面が化学的に水溶性油の油粒子を弾かせる。一方、ポリテトラフルオロエチレン等に代表される撥水撥油性を示す材料は、水酸基が無いため、不織布に通水性を付与することが困難であるが、上記本出願人が提案した発明は、油水分離膜が水酸基を有しているシリカゾル加水分解物を主成分としているため、不織布に通水性を付与することができる。この結果、水と油を含む液体が乳化油又は水溶性油であっても、油水分離フィルタに油が溜まり、水は油水分離フィルタを通過して、水と油に分離することができる。更に上記油水分離膜は、シリカゾル加水分解物を主成分として含むため、油水分離膜が不織布の繊維表面に強固に密着し耐久性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示される油水分離フィルタは、油水分離膜は、この膜を構成する化合物がフッ素含有シランを含むシリカゾル加水分解物のみであるため、寒冷地において寒さで凍結した後で、不織布を解凍し乾燥して使用する場合、不織布の繊維が膨張した後収縮するため、油水分離膜が不織布の繊維から剥離することがあり、油水分離フィルタの通気度が変化し、油水分離性能が劣化する課題があった。また、特許文献1に示されるフッ素含有シランは、ペルフルオロアミン構造であって、ペルフルオロ基が窒素を中心として結合しているため、剛直な構造を取り易い。そのため、液組成物中のフッ素の含有量を多くすると、油水分離膜が不織布の繊維に対する密着性が低下する場合があり、耐久性の観点からまだ改善すべき余地があった。また、ペルフルオロエーテル構造のフッ素系化合物と比較すると撥水性が強く発現するため、特許文献1に示される油水分離フィルタに水と油を含む液体を通過させると、通液時間が比較的長いという課題があった。
【0007】
本発明の目的は、乳化油又は水溶性油のような水と油を含む液体から油を除去するろ過効率が良好でありかつ通液時間が短くて済む油水分離フィルタを提供することにある。本発明の別の目的は、凍結後に解凍し乾燥して使用しても、油水分離フィルタの通気度が殆ど変化せず、油水分離性能が劣化しない油水分離フィルタを提供することにある。本発明の更に別の目的は、こうした油水分離フィルタを簡便に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、水と油を含む液体が流入する一面と、この一面に対向し前記液体が流出する他面との間を貫通する多数の気孔が繊維間に形成された不織布を含む油水分離フィルタであって、前記不織布の繊維表面に撥水撥油性膜が形成され、前記撥水撥油性膜は、下記の一般式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を含む第1フッ素系官能基成分(A1)が結合した平均粒子径2nm~90nmの金属酸化物粒子(B)と、下記の一般式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を含む第2フッ素系官能基成分(A2)を含有するシリカゾルゲル(C)とを含み、前記撥水撥油性膜を100質量%とするとき、前記第1フッ素官能基成分(A1)と前記第2フッ素官能基成分(A2)とを合計した含有割合が、0.5質量%~15質量%であり、前記シリカゾルゲル(C)と前記金属酸化物粒子(B)の質量比(C:B)が、10:90~90:10の範囲にあり、前記油水分離フィルタの通気度が0.05ml/cm2/秒~14ml/cm2/秒であることを特徴とする油水分離フィルタである。
【0009】
【0010】
上記式(1)及び式(2)中、p、q及びrは、それぞれ同一又は互いに異なる1~6の整数であって、直鎖状又は分岐状であってもよい。また上記式(1)及び式(2)中、Xは、炭素数2~10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO-NH結合、O-CO-NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。更に上記式(1)及び式(2)中、Yはシランの加水分解体又はシリカゾルゲルの主成分である。
【0011】
このYについて更に述べると、第1フッ素系官能基成分(A1)である場合は、Yは、金属酸化物粒子(B)と結合する部位であり、第2フッ素系官能基成分(A2)である場合は、Yは、シリカゾルゲル(C)と結合する部位である。
具体例としては、Yとして、後述する式(3)又は式(4)において、Z部分が加水分解した構造が挙げられる。また、Yとして、式(3)又は式(4)のシラン化合物と、テトラエトキシシランやテトラメトキシシラン等のケイ素アルコキシドとを混合し、加水分解重合したシリカゾルゲルの主成分等も挙げられる。更に、Yとして、式(3)又は式(4)のシラン化合物と、テトラエトキシシランやテトラメトキシシラン等のケイ素アルコキシドと、エポキシ基やビニル基、エーテル基を含有したシラン等とを混合し、加水分解重合したシリカゾルゲルの主成分等も挙げられる。
【0012】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記第1フッ素官能基成分(A1)の含有割合が、質量比で前記第2フッ素官能基成分(A2)の含有割合以上である油水分離フィルタである。
【0013】
本発明の第3の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記金属酸化物粒子(B)は、Si,Al、Mg、Ca、Ti、Zn及びZrからなる群より選ばれた1種又は2種の金属の酸化物粒子である油水分離フィルタである。
【0014】
本発明の第4の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記シリカゾルゲル(C)は、前記シリカゾルゲル(C)を100質量%としたとき、炭素数2~7のアルキレン基成分を0.5質量%~20質量%含む油水分離フィルタである。
【0015】
本発明の第5の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記不織布が単一層により構成されるか、又は複数層の積層体により構成される油水分離フィルタである。
【0016】
本発明の第6の観点は、第1又は第5の観点に基づく発明であって、前記不織布を構成する繊維がポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラス、アルミナ、炭素、セルロース、パルプ、ナイロン及び金属からなる群より選ばれた1種又は2種以上の繊維である油水分離フィルタである。
【0017】
本発明の第7の観点は、第1の観点に基づく油水分離フィルタの製造方法であって、フッ素含有金属酸化物粒子の分散液とフッ素含有シリカゾルゲル液とを混合して撥水撥油性膜形成用液組成物を調製する工程と、前記撥水撥油性膜形成用液組成物の希釈液に不織布をディッピングする工程と、前記ディッピングした不織布を脱液し乾燥する工程とを含む油水分離フィルタの製造方法である。
【0018】
本発明の第8の観点は、第7の観点に基づく発明であって、前記フッ素含有金属酸化物粒子の分散液が、金属酸化物粒子の分散液に第1フッ素系官能基成分を含むフッ素系化合物を添加混合し、この混合液に水と触媒を添加混合して、調製される油水分離フィルタの製造方法である。
【0019】
本発明の第9の観点は、第8の観点に基づく発明であって、前記金属酸化物粒子がSi,Al、Mg、Ca、Ti、Zn及びZrからなる群より選ばれた1種又は2種の金属の酸化物粒子である油水分離フィルタの製造方法である。
【0020】
本発明の第10の観点は、第7の観点に基づく発明であって、前記フッ素含有シリカゾルゲル液が、第2フッ素系官能基成分を含むフッ素系化合物とケイ素アルコキシドとアルコールと水を混合した混合液に触媒を添加混合して、調製される油水分離フィルタの製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の第1の観点の油水分離フィルタでは、水と油を含む液体が油水分離フィルタの一面から流入すると、液体の油粒子が気孔の孔径より大きい場合には、物理的に液体の油粒子の通過を阻止する。そして液体の油粒子が気孔の孔径より僅かに小さい場合でも、不織布の繊維表面が化学的に水溶性油の油粒子を弾かせる。また撥水撥油性膜が、第1フッ素系官能基成分(A1)が結合した平均粒子径2nm~90nmの金属酸化物粒子(B)と第2フッ素系官能基成分(A2)を含有するシリカゾルゲル(C)とを含むため、形成した膜の撥水性と撥油性が高い。また成膜したときに、平均粒子径2nm~90nmの金属酸化物粒子(B)同士がシリカゾルゲル(C)により、膜中で結合するため、膜の強度と膜の密着性を向上させることができる。この油水分離フィルタは、水と油を含む液体から油を除去するろ過効率が良好でありかつ通液時間が短くて済む利点がある。
【0022】
本発明の第2の観点の油水分離フィルタでは、第1フッ素官能基成分(A1)が第2フッ素官能基成分(A2)と同じ質量割合であるか、又は第2フッ素官能基成分(A2)より多く含有するため、不織布の繊維表面への撥水撥油性膜の密着性が高い。
【0023】
本発明の第3の観点の油水分離フィルタでは、撥水撥油性膜に含まれる金属酸化物粒子が、Si,Al、Mg、Ca、Ti、Zn及びZrからなる群より選ばれた1種又は2種の金属酸化物粒子であるため、多種の金属酸化物粒子の中から、油水分離フィルタの使用環境に適した金属酸化物粒子を含むことができる。
【0024】
本発明の第4の観点の油水分離フィルタでは、シリカゾルゲル(C)中に炭素数2~7のアルキレン基成分を0.5質量%~20質量%含むため、撥水撥油性膜を形成する不織布に良好に密着し、かつ撥水撥油性膜の厚さが均一になり、撥水撥油性膜により一層優れた撥油性能を付与することができる。
【0025】
本発明の第5の観点の油水分離フィルタでは、不織布が単一層により構成される場合には、簡単な構成の油水分離フィルタになり、不織布が複数層の積層体により構成される場合には、流入する水と油を含む液体中の油粒子の粒径、油分の濃度等に応じて各層を構成することができる。
【0026】
本発明の第6の観点の油水分離フィルタでは、不織布を構成する繊維の材質を、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラス、アルミナ、炭素、セルロース、パルプ、ナイロン及び金属から、流入する水と油を含む液体中の油粒子の粒径、油分の濃度等に応じて、選択を構成することができる。
【0027】
本発明の第7の観点の方法では、フッ素含有金属酸化物粒子の分散液とフッ素含有シリカゾルゲル液とを混合して撥水撥油性膜形成用液組成物を調製し、この撥水撥油性膜形成用液組成物の希釈液に不織布をディッピングして不織布を脱液し乾燥することにより、油水分離フィルタが製造されるため、第一に製造が簡便である。第二に不織布の繊維表面に撥水撥油性膜を均一に結着させるため、撥油性能を十分に得ることができる。また第三に粒子表面が撥水撥油性である金属酸化物粒子がフッ素含有シリカゾルゲル中に存在するため、膜の摩耗強度を向上させるとともに、不織布の通気度を低くすることが容易になる。
【0028】
本発明の第8の観点の油水分離フィルタの製造方法では、金属酸化物粒子の分散液にフッ素系化合物を添加混合し、この混合液に水と触媒を添加混合するため、フッ素含有金属酸化物粒子が均一に分散した分散液が得られる。
【0029】
本発明の第9の観点の油水分離フィルタの製造方法では、金属酸化物粒子が、Si,Al、Mg、Ca、Ti、Zn及びZrからなる群より選ばれた1種又は2種の金属酸化物粒子であるため、多種の金属酸化物粒子の中から、油水分離フィルタの使用環境に適した金属酸化物粒子を含んだ油水分離フィルタを製造することができる。
【0030】
本発明の第10の観点の油水分離フィルタの製造方法では、ケイ素アルコキシドとアルコールとフッ素系化合物と水の混合液に触媒を添加混合して調製されたフッ素含有シリカゾルゲル液は、フッ素含有金属酸化物粒子のバインダとして作用するとともに、液組成物を不織布表面に成膜したときに、膜を不織布表面に堅牢に結着させるとともにより膜に一層の撥水撥油性を付与する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明実施形態の油水分離フィルタを備えた油水分離装置の構成図である。
【
図2】本実施形態の単一層の不織布の断面図である。
【
図4】本実施形態の油水分離フィルタを製造するフロー図である。
【
図5】実施例及び比較例の各油水分離フィルタのろ過試験に用いた装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0033】
〔油水分離装置〕
図1に示すように、本実施形態の油水分離装置10は、水と油を含む液体11が流入する筒状の液体流入部12と、液体11の油を水から分離するシート状の油水分離フィルタ13と、油水分離フィルタ13で分離した水14を集める漏斗状の集水部16と、集水部16から流入する水14を貯える有底筒状の貯水部17とを備える。液体流入部12の上方には液体の流入管18が設けられ、貯水部17の底部には排水管19が設けられる。
【0034】
油水分離フィルタ13が不織布のみで構成される場合には、図示しないが、油水分離フィルタ13の下面全体には、液体流入部12内の液体の圧力にフィルタ13が耐えられるように、不織布を補強するための金属製の多孔質の支持板が設けられ、油水分離フィルタ13とこの支持板は液体流入部12と集水部16により挟持される。
【0035】
〔油水分離フィルタ〕
図2に示すように、本実施形態の油水分離フィルタ13は、不織布20とこの不織布の繊維表面に形成された撥水撥油性膜21とを備える。この油水分離フィルタ13の主たる構成要素である不織布20(拡大図参照。)は、水と油を含む液体が流入する一面20aと、この一面20aに対向する、ろ過液が流出する他面20bを有し、単一層からなる。
図3に示すように、不織布を、上層の不織布30と下層の不織布40の二層の積層体にして、油水分離フィルタ23を構成してもよい。この場合、上層の不織布30の上面が水と油を含む液体が流入する一面30aとなり、下層の不織布40の下面がこの一面30aに対向する、ろ過液が流出する他面40bとなる。不織布30の下面30bが不織布40の上面40aに密着する。なお、積層体は二層に限らず、三層、四層等の複数層から構成することもできる。
【0036】
図2中央の拡大図に示すように、不織布20は多数の繊維20cが絡み合って形成され、繊維と繊維の間には気孔20dが形成される。気孔20dは不織布20の一面20aと他面20bとの間を貫通する。不織布の繊維20cの表面には撥水撥油性膜21が形成される。不織布の目付は、10g/m
2~400g/m
2の範囲にあることが好ましく、100g/m
2~350g/m
2の範囲にあることが更に好ましいが、この範囲に限定されるものではない。撥水撥油性膜21は、平均粒子径が2nm~90nmの金属酸化物粒子(B)とシリカゾルゲル(C)とを含む。この金属酸化物粒子(B)には、前述した一般式(1)又は式(2)で示される第1フッ素系官能基成分(A1)が結合する。またシリカゾルゲル(C)は、前述した一般式(1)又は式(2)で示される第2フッ素系官能基成分(A2)を含む。第1フッ素系官能基成分(A1)と第2フッ素系官能基成分(A2)とは、撥水撥油性膜21
を100質量%とするとき、合計して0.5質量%~15質量%の割合で含まれる。またシリカゾルゲル(C)と金属酸化物粒子(B)の質量比(C:B)は、10:90~90:10の範囲にある。
【0037】
図2上部の更なる拡大図に示すように、撥水撥油性膜21は、粒子表面がフッ素系官能基成分に覆われた多数の金属酸化物粒子21aがバインダとしてのフッ素含有シリカゾルゲル21bで結着して構成される。撥水撥油性膜21は金属酸化物粒子21aを含むため、見かけ上、厚膜となり、繊維と繊維の間の気孔20dを狭くすることができる。また膜厚は、金属酸化物粒子の粒子径と膜成分中の金属酸化物粒子の含有割合を変えることにより制御することができる。
【0038】
繊維表面に撥水撥油性膜21が形成された油水分離フィルタ13の状態で、不織布20は0.05ml/cm2/秒~14ml/cm2/秒の通気度を有するように作製される。通気度が0.05ml/cm2/秒未満では、通液性に劣り、ろ過液を得るのが困難であり、実用性に劣る。通気度が14ml/cm2/秒を超えると、撥水撥油性膜21が十分に繊維表面に形成されるものの、不織布の気孔20dの大きさが混合液体中の油粒子22よりも遙かに大きくなり、油粒子22が水とともに不織布の気孔を通して油水分離フィルタ13から抜け落ち、水と油とを分離することができない。通気度は0.1ml/cm2/秒~10ml/cm2/秒であることが好ましい。通気度はJIS-L1913:2000に記載のフラジール形試験機を用いて測定される。
【0039】
撥水撥油性膜21を100質量%とするときの第1フッ素系官能基成分(A1)と第2フッ素系官能基成分(A2)を合計した含有割合が0.5質量%未満では、形成した膜に撥油性を付与できず、油粒子を弾く性能が不十分になる。また合計した含有割合が15質量%を超えると、撥水撥油性膜の不織布への密着性が悪くなるとともに、油水分離フィルタにしたときに、水と油を含む液体が通過しない。撥水撥油性膜21を100質量%とするときの第1フッ素系官能基成分(A1)と第2フッ素系官能基成分(A2)を合計した含有割合は、0.8質量%~12質量%であることが好ましい。
【0040】
撥水撥油性膜21に含まれる金属酸化物粒子(B)は、平均粒子径が2nm~90nmの範囲にある。好ましくは2nm~85nmの範囲にある。平均粒子径が2nm未満では、金属酸化物粒子の凝集が起こりやすくなり、媒体中に分散しにくくなる。90nmを超えると、金属酸化物粒子(B)が不織布の繊維表面に結着しにくく、撥水撥油性膜から脱落し易い。シリカゾルゲル(C)と金属酸化物粒子(B)の質量比(C:B)は、10:90~90:10の範囲にある。即ち、シリカゾルゲル(C)と金属酸化物粒子(B)を合計した量を100質量%とするとき、シリカゾルゲル(C)が10質量%未満であって金属酸化物粒子(B)が90質量%を超える場合には、撥水撥油性膜中のバインダ成分が少なくなり過ぎて、撥水撥油性膜が不織布の繊維表面から剥離し易くなる。反対に金属酸化物粒子(B)が10質量%未満であってシリカゾルゲル(C)が90質量%を超える場合には、金属酸化物粒子が少な過ぎて、撥水撥油性膜の強度が不足するか、又は環境変化に対する不織布の寸法維持が困難になる。好ましい質量比(C:B)は、20:80~80:20である。なお、本明細書において、金属酸化物粒子の平均粒子径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した粒子形状のうち、200点の粒子サイズを画像解析により測定したものの平均値をいう。
【0041】
このような油水分離フィルタ13を備えた油水分離装置10の作用について説明する。
図1に示すように、先ず油水分離フィルタ13を液体流入部12と集水部16により挟持する。次いで流入管18から水と油を含む液体11を液体流入部12に供給する。この実施形態の液体は水溶性油である。液体流入部12に貯えられた液体11は、油水分離フィルタ13を構成する不織布20の一面20a(
図2)に接触する。ここで油水分離フィルタ13は所定の通気度を有するため、また油水分離膜21が撥水撥油性を示すため、水溶性油中の水(図示せず)は、油水分離膜21に弾かれながらも、シリカゾルゲルの水酸基の存在により、
図2の拡大図に示す繊維20cと繊維20cの間に形成された気孔20dを通過して他面20bに至り、不織布20を通過し、そこから滴下して集水部16に集められる。集められた水14は集水部16から貯水部17に流れ落ちて、貯水部17に溜まる。貯水部17に水14が一定量貯留された時点で、図示しない排水バルブを開いて排水管19より油と分離した水14を得る。
【0042】
その一方、
図2の拡大図に示すように、不織布20の繊維表面に形成された油水分離膜21の撥油性により、また油水分離フィルタの所定の通気度を有するため、液体中の油粒子22は、気孔20dの孔径より粒径が大きい場合は勿論のこと、気孔20dの孔径より粒径が僅かに小さくても、油水分離フィルタ13を通過できず、不織布20の繊維20cと繊維20cの間に留まる。撥水撥油性膜21中に金属酸化物粒子21aを含むため、膜が凹凸になり、油粒子22の膜への付着の程度は低い。これにより、油粒子22が不織布に捕集される。不織布20に溜まった油は、定期的に油水分離フィルタ13を油水分離装置10から取り外して、回収処理する。
【0043】
〔油水分離フィルタの製造方法〕
油水分離フィルタは次の方法により、概略製造される。
図4に示すように、金属酸化物粒子11を溶媒12と混合して金属酸化物粒子分散液13を調製する。この分散液13に第1フッ素系官能基成分(A1)を含むフッ素系化合物14を混合し、更に水15と触媒16を混合してフッ素含有金属酸化物粒子の分散液17を調製する。一方、ケイ素アルコキシド51とアルコール52と第2フッ素系官能基成分(A2)を含むフッ素系化合物53と水54と、必要に応じてアルキレン基成分55を混合し、この混合液に触媒56を加えることにより、フッ素含有シリカゾルゲル(C)液57を調製する。このシリカゾルゲル(C)液57に溶媒58を混合し、この混合液と上記フッ素含有金属酸化物粒子の分散液17とを混合することにより、撥水撥油性膜形成用液組成物60を調製する。この液組成物60を溶媒61により希釈した液を調製し、そこに不織布20をディッピングして希釈液から引上げ、大気中、室温で不織布を水平な金網等の上に拡げて一定の液分量になるまで脱液し、乾燥することにより油水分離フィルタ13を製造する。
【0044】
〔不織布の準備〕
先ず、0.05ml/cm2/秒~18ml/cm2/秒の通気度を有する不織布を準備する。具体的には、後述する撥水撥油性膜が不織布の繊維表面に形成された油水分離フィルタになった状態で、0.05ml/cm2/秒~14ml/cm2/秒の通気度を有する不織布を準備する。撥水撥油性膜が厚膜に形成される場合には、通気度の大きい不織布が選定され、撥水撥油性膜が薄膜に形成される場合には、通気度の小さい不織布が選定される。
【0045】
この不織布としては、例えば、セルロース混合エステル性のメンブレンフィルタ、ガラス繊維ろ紙、ポリエチレンテレフタレート繊維とガラス繊維を混用した不織布(安積濾紙社製、商品名:340)がある。このように不織布は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラス、アルミナ、炭素、セルロース、パルプ、ナイロン及び金属からなる群より選ばれた1種又は2種以上の繊維から作られる。繊維は、2以上の繊維を混合した繊維でもよい。繊維の太さ(繊維径)は、上記通気度が得られるように、0.01μm~10μmの太さが好適であるが、この範囲に限定されるものではない。不織布の厚さは、油水分離フィルタが単一層である場合には、0.2mm~0.8mm、複数層の積層体である場合には、積層体の厚さが0.2mm~1.6mmになる厚さが好ましい。本発明の撥水撥油性膜形成材料の主成分がシリカゾルゲルであるときには、繊維との密着性を得るために、繊維に水酸基をもつ材料が好ましい。その中でも、ガラス、アルミナ、セルロースナノ繊維等は、繊維径も細いものがあり、通気度を上記範囲内の低い値にすることができる。
【0046】
前述したように不織布が
図3に示すように複数の不織布30、40を積層した積層体である場合、水と油を含む液体が流入する側の不織布30を構成する繊維をガラス繊維にすることにより、シリカゾルゲルを主成分として含む撥水撥油性膜が、より一層強固にガラス繊維に密着し、不織布の繊維から剥離しにくくなる。
【0047】
〔撥水撥油性膜形成用液組成物の製造方法〕
〔金属酸化物粒子分散液の調製〕
先ず、溶媒中に、金属酸化物粒子を分散させて金属酸化物粒子の分散液を調製する。溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール(以下、IPAということもある。)、テトラヒドロフラン、ヘキサン、クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、フッ素系溶剤などが例示される。これらの中でも、沸点が120℃未満の炭素数1~4の範囲にあるメタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコールが好ましい。金属酸化物粒子としては、SiO2、Al2O3、MgO、CaO、TiO2、ZnO、ZrO2の粒子、これらの混合粒子、複合酸化物粒子等が例示される。
【0048】
〔フッ素含有金属酸化物粒子分散液の調製〕
次に、調製された金属酸化物粒子の分散液中に、上述した式(1)又は式(2)で表される第1フッ素系官能基成分(A1)を含むフッ素系化合物を添加して、金属酸化物粒子とフッ素系官能基成分とがナノコンポジット化された複合材料を合成する。更に反応を促進するために、水及び触媒を添加する。これにより、フッ素含有金属酸化物粒子の分散液が調製される。
【0049】
上記触媒としては、有機酸、無機酸、アルカリ又はチタン化合物が挙げられ、有機酸としてはギ酸、シュウ酸が例示され、無機酸としては塩酸、硝酸、リン酸が例示され、アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニアが例示され、チタン化合物としてはテトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、乳酸チタン等が例示される。触媒は上記のものに限定されない。上記水としては、不純物の混入防止のため、イオン交換水や純水等を使用するのが望ましい
【0050】
第1フッ素系官能基成分(A1)を含むフッ素系化合物は、下記一般式(3)又は式(4)で示される。これらの式(3)又は式(4)中のペルフルオロエーテル基としては、より具体的には、下記式(5)~(13)で示されるペルフルオロエーテル構造を挙げることができる。
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
また、上記式(3)及び式(4)中のXとしては、下記式(14)~(18)で示される構造を挙げることができる。なお、下記式(14)はエーテル結合、下記式(15)はエステル結合、下記式(16)はアミド結合、下記式(17)はウレタン結合、下記式(18)はスルホンアミド結合を含む例を示している。
【0055】
【0056】
ここで、上記式(14)~(18)中、R2及びR3は炭素数が0から10の炭化水素基、R4は水素原子又は炭素数1から6の炭化水素基である。R3の炭化水素基の例とは、メチレン基、エチレン基等のアルキレン基が挙げられ、R4の炭化水素基の例とは、メチル基、エチル基等のアルキル基の他、フェニル基等も挙げられる。
【0057】
また、上記式(3)及び式(4)中、R1は、メチル基、エチル基等が挙げられる。
【0058】
また、上記式(3)及び式(4)中、Zは、加水分解されてSi-O-Si結合を形成可能な加水分解性基であれば特に限定されるものではない。このような加水分解性基としては、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基などのアリールオキシ基、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などのアラルキルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、バレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などのアシルオキシ基等が挙げられる。これらの中でも、メトキシ基、エトキシ基を適用することが好ましい。
【0059】
ここで、上記式(3)又は式(4)で表されるペルフルオロエーテル構造を有するフッ素系官能基成分を含むフッ素系化合物の具体例としては、例えば、下記式(19)~(27)で表される構造が挙げられる。なお、下記式(19)~(27)中、Rはメチル基又はエチル基である。
【0060】
【0061】
【0062】
上述したように、本実施の形態の撥水撥油性膜形成用液組成物に含まれるフッ素系化合物は、分子内に酸素原子に炭素数が6以下の短鎖長のペルフルオロアルキル基とペルフルオロアルキレン基が複数結合したペルフルオロエーテル基を有しており、分子内のフッ素含有率が高いため、形成した膜に優れた撥水撥油性を付与することができる。
【0063】
〔フッ素含有シリカゾルゲル液の調製〕
先ず、ケイ素アルコキシドとしてのテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランと、沸点が120℃未満の炭素数1~4の範囲にあるアルコールと、上述した式(1)又は式(2)で表される第2フッ素系官能基成分(A2)を含むフッ素系化合物と、水とを混合して混合液を調製する。このとき炭素数2~7のアルキレン基成分を一緒に混合してもよい。アルキレン基成分として、エポキシ基含有シランが挙げられる。このケイ素アルコキシドとしては、具体的には、テトラメトキシシラン(TMOS)、そのオリゴマー又はテトラエトキシシラン(TEOS)、そのオリゴマーが挙げられる。例えば、耐久性の高い撥水撥油性膜を得る目的には、テトラメトキシシランを用いることが好ましく、一方、加水分解時に発生するメタノールを避ける場合は、テトラエトキシシランを用いることが好ましい。
【0064】
フッ素系化合物に含まれる第2フッ素系官能基成分(A2)は、上述した式(1)又は式(2)で表され、第1フッ素系官能基成分(A1)を含む具体的なフッ素系化合物と第2フッ素系官能基成分(A2)を含む具体的なフッ素系化合物とは、同一であっても、異なってもよい。
【0065】
上記アルキレン基成分となるエポキシ基含有シランとしては、具体的には、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン又は多官能エポキシシランが挙げられる。アルキレン基成分はケイ素アルコキシドとアルキレン基成分の合計質量に対して1質量%~40質量%、好ましくは2.5質量%~20質量%含まれる。アルキレン基成分が下限値の1質量%未満では、水酸基を含まない不織布に膜を形成した場合に、不織布への密着性が不十分になる。また上限値の40質量%を超えると、形成した膜の耐久性が低くなる。アルキレン基成分を上記1質量%~40質量%の範囲になるようにエポキシ基含有シランを含むと、エポキシ基も加水分解重合過程において開環して重合に寄与し、これにより乾燥過程にレベリング性が改善し膜厚さが均一になる。なお、不織布がガラス等の親水基を含む場合には、アルキレン基成分の含有量は極少量であるか、若しくはゼロでもよい。一方、不織布が親水基を含まない場合には、このアルキレン基成分をシリカゾルゲル(C)を100質量%とするとき、0.5質量%~20質量%含むことが好ましい。
【0066】
沸点が120℃未満の炭素数1~4の範囲にあるアルコールは、上述したアルコールが挙げられる。特にメタノール又はエタノールが好ましい。これらのアルコールは、ケイ素アルコキドとの混合がしやすいためである。上記水としては、不純物の混入防止のため、イオン交換水や純水等を使用するのが望ましい。ケイ素アルコキシドに、或いはケイ素アルコキシドとエポキシ基含有シランに、炭素数1~4の範囲にあるアルコールと水を添加して、好ましくは10℃~30℃の温度で5分~20分間撹拌することにより混合液を調製する。
【0067】
上記調製された混合液に触媒を添加混合する。この触媒としては、有機酸、無機酸又はチタン化合物が例示される。このとき液温を好ましくは30℃~80℃の温度に保持して、好ましくは1時間~24時間撹拌する。これにより、フッ素含有シリカゾルゲル液が調製される。なお、次の工程のために、フッ素含有シリカゾルゲル液にアルコールを添加混合してもよい。
【0068】
上記アルコールを添加混合した場合には、フッ素含有シリカゾルゲル液は、ケイ素アルコキシドを2質量%~50質量%、炭素数1~4の範囲にあるアルコールを20質量%~98質量%、水を0.1質量%~40質量%、触媒として0.01質量%~5質量%の割合で含有することが好ましい。アルキレン基成分となるエポキシ基含有シランを混合した場合には、エポキシ基含有シランを最大30質量%まで含有することが好ましい。
【0069】
炭素数1~4の範囲にあるアルコールの割合を上記範囲に限定したのは、アルコールの割合が下限値未満では、ケイ素アルコキシドが、溶液中に溶解せず分離してしまうこと、ケイ素アルコキシドの加水分解反応中に反応液がゲル化しやすく、一方、上限値を超えると、加水分解に必要な水、触媒量が相対的に少なくなるために、加水分解の反応性が低下して、重合が進まず、膜の密着性が低下するためである。水の割合を上記範囲に限定したのは、下限値未満では加水分解速度が遅くなるために、重合が進まず、撥水撥油性膜の密着性が不十分になり、一方、上限値を超えると加水分解反応中に反応液がゲル化し、水が多過ぎるためケイ素アルコキシド化合物がアルコール水溶液に溶解せず、分離する不具合を生じるからである。
【0070】
シリカゾルゲルを100質量%とするときのSiO2濃度(SiO2分)は1質量%~40質量%であるものが好ましい。このSiO2濃度が下限値未満では、重合が不十分であり、膜の密着性の低下やクラックの発生が起こり易く、上限値を超えると、相対的に水の割合が高くなりケイ素アルコキシドが溶解せず、反応液がゲル化する不具合を生じる。
【0071】
有機酸、無機酸又はチタン化合物は加水分解反応を促進させるための触媒として機能する。有機酸としてはギ酸、シュウ酸が例示され、無機酸としては塩酸、硝酸、リン酸が例示され、チタン化合物としてはテトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、乳酸チタン等が例示される。触媒は上記のものに限定されない。上記触媒の割合を上記範囲に限定したのは、下限値未満では反応性に乏しく重合が不十分になるため、膜が形成されず、一方、上限値を超えても反応性に影響はないが、残留する酸により、膜の形成された不織布が腐食等を生じ易い。
【0072】
〔撥水撥油性膜形成用液組成物〕
本実施の形態の撥水撥油性膜形成用液組成物は、上記製造方法で製造され、前述した第1フッ素系官能基成分(A1)が結合した金属酸化物粒子(B)と、前述した第2フッ素系官能基成分(A2)を含有するシリカゾルゲル(C)と、溶媒(D)(
図4の符号58で示される。)とを含む。溶媒(D)は、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール(以下、IPAということもある。)、テトラヒドロフラン、ヘキサン、クロロホルム、トルエン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、フッ素系溶剤などが例示される。これらのフッ素系官能基成分(A1)及び(A2)は、上記の一般式(1)又は式(2)で示されるペルフルオロエーテル構造を有し、溶媒(D)を除く全成分量を100質量%としたとき、液組成物
を100質量%とするとき、合計して、0.5質量%~15質量%含まれる。好ましいフッ素系官能基成分の合計した含有割合(A1+A2)は0.8質量%~12質量%である。合計した含有割合を上記数値範囲にする理由は、前述した通りである。
【0073】
また第1フッ素官能基成分(A1)は、第2フッ素官能基成分(A2)と同じ質量割合であるか、又は第2フッ素官能基成分(A2)より多く含有することが不織布の繊維表面への撥水撥油性膜の密着性が高くなるため、好ましい。
【0074】
上述したように、本実施の形態の撥水撥油性膜形成用液組成物に含まれるフッ素系化合物は、分子内に酸素原子に炭素数が6以下の短鎖長のペルフルオロアルキル基とペルフルオロアルキレン基が複数結合したペルフルオロエーテル基を有しており、分子内のフッ素含有率が高いため、形成した膜に優れた撥水撥油性を付与することができる。ペルフルオロエーテル構造の具体例としては、上述した式(19)~(27)で示される構造を挙げることができる。
【0075】
更に本実施の形態の撥水撥油性膜形成用液組成物は、シリカゾルゲル(C)と金属酸化物粒子(B)の質量比(C:B)が、10:90~90:10の範囲にあることが必要である。即ち、シリカゾルゲル(C)と金属酸化物粒子(B)を合計した量を100質量%とするとき、シリカゾルゲル(C)が10質量%未満であって金属酸化物粒子(B)が90質量%を超える場合には、液組成物中のバインダ成分が少なくなり過ぎて、形成した膜が不織布の繊維表面から剥離し易くなる。反対に金属酸化物粒子(B)が10質量%未満であってシリカゾルゲル(C)が90質量%を超える場合には、金属酸化物粒子が少な過ぎて、撥水撥油性膜の強度が不足するか、又は環境変化に対する不織布の寸法維持が困難になる。好ましい質量比(C:B)は、20:80~80:20である。
【0076】
本実施の形態の撥水撥油性膜形成用液組成物がフッ素含有金属酸化物粒子の分散液と、フッ素含有シリカゾルゲル液を含むため、不織布の繊維表面に成膜したときに、従来の液組成物と比較して、より一層優れた撥油性能を付与するとともに、撥水撥油性膜の不織布の繊維表面への密着性に優れ、剥離しにくい高い強度の撥水撥油性膜が得られる。
【0077】
〔不織布の繊維表面への撥水撥油性膜の形成方法〕
本実施形態の不織布の繊維表面に撥水撥油性膜を形成するには、撥水撥油性膜形成用液組成物を、水と沸点が120℃未満の炭素数1~4の範囲にあるアルコールとを混合した溶媒で希釈した液を調製する。この溶媒における水とアルコールとの混合割合(水:アルコール)は質量比で1:0~5である。また液組成物に対する溶媒の質量比(液組成物:溶媒)は1:0.1~10の割合である。このように調製した希釈液に不織布をディッピングして希釈液から引上げ、大気中、室温で不織布を水平な金網等の上に拡げて一定の液分量になるまで脱液する。別法として、引き上げた不織布を振り払って余分な液を除去するか、或いは引き上げた不織布をマングルロール(絞り機)に通して脱液する。脱液した不織布は、大気中、25℃~140℃の温度で0.5時間~24時間乾燥する。これにより、
図2中央の拡大図に示すように、不織布20を構成している繊維20cの表面に撥水撥油性膜21が形成される。脱液量が少ない場合には、撥水撥油性膜は厚膜に不織布の繊維表面に形成され、脱液量が多い場合には、撥水撥油性膜は薄膜に不織布の繊維表面に形成される。
【実施例】
【0078】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。先ず、金属酸化物粒子の分散液を調製するための合成例1~9及び比較合成例1~2を説明し、次いでフッ素含有シリカゾルゲル液を調製するための合成例10~13及び比較合成例3を説明し、次にこれらの合成例及び比較合成例を用いた撥水撥油性膜形成用液組成物の調製と油水分離フィルタの製造に関する実施例1~9及び比較例1~9を説明する。
【0079】
〔金属酸化物粒子分散液を調製するための合成例1~9、比較合成例1~2〕
<合成例1>
平均粒子径が12nmの二酸化ケイ素のIPA分散液(IPA-ST、日産化学社製、SiO2濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(19)で表されるフッ素系化合物を0.50g添加し混合した。次に、水を0.10g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、40℃で2時間混合し、フッ素系化合物が二酸化ケイ素粒子に結合した二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。
【0080】
<合成例2>
平均粒子径が45nmの二酸化ケイ素のIPA分散液(IPA-ST-L、日産化学社製、SiO2濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(20)で表されるフッ素系化合物を0.50g添加し混合した。次に、水を0.10g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。
【0081】
<合成例3>
平均粒子径が80nmの二酸化ケイ素のIPA分散液(IPA-ST-ZL、日産化学社製、SiO2濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(21)で表されるフッ素系化合物を0.50g添加し混合した。次に、水を0.10g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。
【0082】
<合成例4>
合成例3と同じ二酸化ケイ素のIPA分散液が50.0g入ったビーカーに、上述した式(22)で表されるフッ素系化合物を0.25g添加し混合した。次に、水を0.05g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。
【0083】
<合成例5>
合成例3と同じ二酸化ケイ素のIPA分散液が50.0g入ったビーカーに、上述した式(23)で表されるフッ素系化合物を0.75g添加し混合した。次に、水を0.15g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ケイ素(シリカ)粒子の分散液を得た。
【0084】
<合成例6>
平均粒子径が3nmの二酸化ジルコニウムのメタノール分散液(SZR-M、堺化学社製、ZrO2濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を1.50g添加し混合した。次に、水を4.05g添加し混合した。更に、硝酸が0.035g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ジルコニウム粒子の分散液を得た。
【0085】
<合成例7>
平均粒子径が6nmの二酸化チタンのIPA分散液(TKD-701、テイカ社製、TiO2濃度18%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を1.00g添加し混合した。次に、水を0.97g添加し混合した。更に、硝酸を0.010g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化チタン粒子の分散液を得た。
【0086】
<合成例8>
平均粒子径が60nmのアルミナと二酸化ケイ素のIPA分散液(バイラールAS-L10、多木化学社製、3Al2O3・2SiO2濃度10%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を0.01g添加し混合した。次に、水を0.02g添加混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にしてアルミナと二酸化ケイ素の粒子の分散液を得た。
【0087】
<合成例9>
平均粒子径が25nmの酸化亜鉛のIPA分散液(MZ-500、テイカ社製、ZnO濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を0.15g添加し混合した。次に、水を0.11g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして酸化亜鉛粒子の分散液を得た。
【0088】
<比較合成例1>
平均粒子径が230nmの二酸化チタンのIPA分散液(R32、堺化学社製、TiO2濃度30%)が50.0g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を0.75g添加し混合した。次に、水を0.27g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化チタン粒子の分散液を得た。
【0089】
<比較合成例2>
合成例1と同じIPA分散液が50.0g入ったビーカーに、フッ素系化合物を全く添加せずに、水を0.10g添加し混合した。更に、硝酸を0.005g添加し、以下、合成例1と同様にして二酸化ケイ素粒子の分散液を得た。
【0090】
以下の表1に、合成例1~9及び比較合成例1のフッ素含有金属酸化物粒子の分散液と比較合成例2のフッ素非含有の金属酸化物粒子の分散液の内容を示す。なお、表1において、フッ素系化合物として式(19)~式(23)及び式(27)で表わされるフッ素含有シランの式中のRはすべてエチル基である。
【0091】
【0092】
〔フッ素含有シリカゾルゲル液を調製するための合成例10~13、比較合成例3〕
<合成例10>
テトラメトキシシラン(TMOS)の3量体~5量体(三菱化学社製、商品名:MKCシリケートMS51)が28.5gと、エタノールが59.8g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を0.06g(0.2質量%)添加し混合した。次に、アルキレン基成分としてエポキシ基含有シランである3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS:信越化学工業社製、商品名:KBM-403)を1.5gと、水を10g添加し混合した。更に、硝酸を0.1g添加し、30℃で3時間混合し、フッ素含有シリカゾルゲル液を得た。
【0093】
<合成例11>
合成例10と同一のTMOSの3量体~5量体が24.0gと、エタノールが59.8g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を0.03g(0.1質量%)添加し混合した。次に、アルキレン基成分として合成例10と同一のGPTMSを6.0gと、水を10g添加し混合した。更に、硝酸を0.1g添加し、30℃で3時間混合し、フッ素含有シリカゾルゲル液を得た。
【0094】
<合成例12>
合成例10と同一のTMOSの3量体~5量体が29.8gと、エタノールが59.9g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を3.00g(4.2質量%)添加し混合した。次に、アルキレン基成分として合成例10と同一のGPTMSを0.2gと、水を10g添加し混合した。更に、硝酸を0.1g添加し、30℃で3時間混合し、フッ素含有シリカゾルゲル液を得た。
【0095】
<合成例13>
テトラエトキシシラン(TEOS、東京化成工業社製)が30.0gと、エタノールが56.9g入ったビーカーに、上述した式(27)で表されるフッ素系化合物を0.30g(0.3質量%)添加し混合した。次に、アルキレン基成分を添加することなく、水を10g添加し混合した。更に、硝酸を0.1g添加し、30℃で3時間混合し、フッ素含有シリカゾルゲル液を得た。
【0096】
<比較合成例3>
合成例10と同一のTMOSの3量体~5量体が28.5gと、エタノールが59.6g入ったビーカーに、フッ素系化合物を全く添加せずに、アルキレン基成分として合成例10と同一のGPTMSを1.5gと、水を10g添加し混合した。更に、硝酸を0.1g添加し、30℃で3時間混合し、フッ素を含有しないシリカゾルゲル液を得た。
【0097】
以下の表2に、合成例10~13のフッ素含有シリカゾルゲル液と比較合成例3のフッ素非含有のシリカゾルゲル液の内容を示す。
【0098】
【0099】
〔撥水撥油性膜形成用液組成物の調製と油水分離フィルタの製造のための実施例1~9、比較例1~9〕
<実施例1>
合成例10で得られたフッ素含有シリカゾルゲル液6.4gに溶媒として工業アルコール(AP-7、日本アルコール産業社製)126.0gを添加し混合した。その後、合成例1の金属酸化物粒子の分散液5.1gを添加し混合し、撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。得られた撥水撥油性膜形成用液組成物50gを、水と工業アルコールとの混合溶媒(質量比で水:工業アルコール=1:1)10gで希釈して希釈液を調製した。油水分離フィルタの基材として、上層がガラス繊維からなる不織布と下層がPET繊維からなる不織布の積層体(二層の不織布)を用いた。この積層体の通気度は2.1ml/cm
2
/秒であった。上記希釈液に二層の不織布をディッピングし、余分な液を振り払い、室温で24時間乾燥させ、通気度が2.0ml/cm2/秒の油水分離フィルタを作製した。
この内容を以下の表3及び表4に示す。
【0100】
【0101】
【0102】
<実施例2~9及び比較例1~9>
実施例2~9及び比較例1~9について、表3に示すように、フッ素含有金属酸化物粒子の分散液の種類と秤量、フッ素含有シリカゾルゲル液の種類と秤量、及び実施例1と同一の溶媒の秤量をそれぞれ決定して、実施例2~9及び比較例1~9の各撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。
【0103】
表3には、『溶媒を除く液組成物中の第1フッ素系官能基成分(A1)と第2フッ素系官能基成分(A2)を合計した含有割合』、『シリカゾルゲル(C)と金属酸化物粒子(B)の質量比((C):(B))』及び『第1フッ素系官能基成分(A1)と第2フッ素系官能基成分(A2)の質量比((A1):(A2))』も示す。なお、溶媒を除く液組成物中の第1フッ素系官能基成分(A1)と第2フッ素系官能基成分(A2)を合計した含有割合(質量%)は、撥水撥油性膜中の第1フッ素系官能基成分(A1)と第2フッ素系官能基成分(A2)を合計した含有割合(質量%)と同じである。
【0104】
表4に示す実施例1と通気度が同一又は異なる不織布と、油水分離フィルタの基材の種類を選定して、実施例2~9及び比較例1~9で調製された各撥水撥油性膜形成用液組成物の希釈液を、選定した不織布からなる基材に、実施例1と同様にして、ディッピングし、脱液・乾燥して表4に示す特性を有する油水分離フィルタを得た。
【0105】
なお、実施例9、比較例5及び比較例8に用いた不織布は、実施例1の不織布と異なり、PET繊維とガラス繊維の混合繊維(質量比でPET:ガラス=80:20)からなる不織布の一層からなり、実施例9、比較例5及び比較例8に用いた不織布から得られた油水分離フィルタの通気度は、それぞれ8.1ml/cm2/秒、8.3ml/cm2/秒及び14.3ml/cm2/秒であった。
【0106】
<比較試験及び評価>
実施例1~9及び比較例1~9で得られた18種類の油水分離フィルタを、それぞれ別々に、
図5に示す油水分離試験装置100に取り付けた。この試験装置100では、
図1に示した油水分離装置10に対応する要素の各符号に100を加えて、試験装置100の各符号を示している。この油水分離試験装置100では、乳化油としては、日立産機製スクリュー圧縮機用油HISCREW OIL NEXT0.25gとイオン交換水5リットルとを9000rpmで3分間混合し、白濁した油濃度が50ppmである乳化油(水と油を含む液体)を用いた。この乳化油を液体流入部112に供給し、油水分離フィルタ113でろ過した。油水分離フィルタ113を通過して貯水部(枝付きフラスコ)117に貯えられたろ過液114を採取し、(a)ろ過液の油濃度と(b)ろ過液の濁度と(c)ろ過液の通過時間を次の方法により評価した。なお、(a)ろ過液の油濃度と(b)ろ過液の濁度は、膜の強度試験前後と膜の凍結試験前後でそれぞれ行った。これらの結果を以下の表5に示す。なお、油水分離フィルタ113は金属製の目皿120で支持した。また乳化油をろ過するに際して、フラスコ117の枝管121に接続された図示しない吸引ポンプにより、実施例1~9及び比較例1~9で得られた18種類の油水分離フィルタを所定の真空度(-10kPa)に調節しながら、フラスコ内を減圧して、油水分離フィルタ113を吸引ろ過した。符号122は真空計である。
【0107】
【0108】
(a) ろ過液の油濃度
18種類の油水分離フィルタを通過した液であるろ過液の油濃度は、油分測定計(堀場製作所社製、OCMA-555)を用いてろ過液の残留油分を測定し、ろ過液の油濃度とした。この油分測定計の検出限界は油種により異なるが、用いた乳化油では1ppmである。なお、表5の『ろ過液の油濃度』において、『<1』は油分測定計の検出限界以下であることを示し、『1.0ppm以下』であれば『良好』である。
【0109】
(b) ろ過液の濁度
以下に述べる膜の強度試験と膜の凍結試験を行う前に、18種類の油水分離フィルタを通過した液であるろ過液の濁度は、ラコムテスター濁度計TN-100(アズワン社製)を用いて測定した。濁度は小さい方が油水分離性が良く、1.5以下が合格水準であり、『良好』である。これを超える場合は『不良』である。
【0110】
次いで、別の18種類の油水分離フィルタの不織布の繊維表面に下記の接触子を所定の荷重をかけながら、次の条件で10往復移動することにより、繊維表面に形成された膜の強度試験を行った。その後、上記と同様に、ろ過液の濁度を測定した。膜の強度試験後のろ過液の濁度が膜の強度試験前のろ過液の濁度と比較して、同等の場合を『良好』とし、上昇した場合を『不良』とした。
(i) 測定器:静・動摩擦測定機TL201Tt(株式会社トリニティーラボ)
(ii) 測定条件:
・移動距離:30mm
・垂直荷重:500g重
・移動速度:50mm/秒
・接触子:50mm×50mm角のネオプレーンゴム
【0111】
更に別の18種類の油水分離フィルタを、容器に入れた水にディッピングし、-22℃の温度で20時間保持して、油水分離フィルタを凍結させた。次いで、40℃の温水を容器に流入して、油水分離フィルタを解凍した後、脱水し、露点温度マイナス50℃の湿度条件で、24時間保持して油水分離フィルタを乾燥することにより、油水分離フィルタの不織布の繊維表面に形成された膜の凍結試験を行った。その後、上記と同様に、ろ過液の濁度を測定した。膜の凍結試験後のろ過液の濁度が膜の凍結試験前のろ過液の濁度と比較して、同等の場合を『良好』とし、上昇した場合を『不良』とした。
【0112】
(c) ろ過液の通過時間
以下に述べる膜の強度試験と膜の凍結試験を行う前に、18種類の油水分離フィルタを通過したろ過液の通過時間の測定は、上記乳化油の全量が、吸引ポンプの作動を開始した時から、油水分離フィルタ113を通過して貯水部(枝付きフラスコ)117に到達するまでの時間を測定した。240秒以下を『良好』とした。
【0113】
次いで、上述した膜の強度試験後及び膜の凍結試験後の18種類の油水分離フィルタを通過したろ過液の通過時間をそれぞれ測定した。膜の強度試験後のろ過液の通過時間が膜の強度試験前のろ過液の通過時間と比較して、その差が±10秒以内の場合を『良好』とし、その差が10秒を超えるけれどもろ過液のろ過時間が240秒以下の場合を『やや良好』とし、ろ過液のろ過時間が240秒を超える場合を『不良』とした。また膜の凍結試験後のろ過液の通過時間についても、膜の凍結試験前のろ過液の通過時間と比較して、その差が±10秒以内の場合を『良好』とし、その差が10秒を超えるけれどもろ過液のろ過時間が240秒以下の場合を『やや良好』とし、ろ過液のろ過時間が240秒を超える場合を『不良』とした。
【0114】
表5から明らかなように、比較例1の油水分離フィルタでは、平均粒子径が230nmである金属酸化物(二酸化チタン)粒子を含む比較合成例1から撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。比較例1の油水分離フィルタは、この液組成物に不織布をディッピングし、脱液し乾燥して作られたため、金属酸化物粒子の平均粒子径が大き過ぎ、バインダ成分であるシリカゾルゲルで金属酸化物粒子が不織布の繊維表面に結着しにくかった。この結果、ろ過液の油濃度は1ppm未満の検出限界以下であったが、膜の各種試験前のろ過液の濁度は3.5と高く、また膜の各種試験前のろ過液の通過時間は100秒と比較的に長くろ過効率が悪く、撥油性に劣っていた。また膜の強度試験で金属酸化物粒子が脱落したため、膜の強度試験及び膜の凍結試験はいずれも行わなかった。
【0115】
比較例2の油水分離フィルタでは、シリカゾルゲルにフッ素系官能基成分(A2)を含まない比較合成例3から撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。比較例2の油水分離フィルタは、この液組成物に不織布をディッピングし、脱液し乾燥して作られたため、ろ過液の油濃度は1ppm未満の検出限界以下であり、膜の各種試験前のろ過液の濃度は0.5未満であって、それぞれ『良好』であったが、シリカゾルゲル中にフッ素系官能基成分が含まれていないため、膜成分の表面に金属酸化物粒子が固まり易く、不織布の繊維表面から剥離が生じ易いと考えられ、膜の強度試験後のろ過液の濁度は2.3と上昇し、『不良』であった。また、膜の各種試験前のろ過液の通過時間は46秒で『良好』であったが、同様の理由で、膜の強度試験後のろ過液の通過時間は242秒となって長引き、『不良』であった。一方、膜の凍結試験後では、金属酸化物粒子の寸法維持効果によって、ろ過液の濁度及び通過時間はともに、試験前と変化がなく、いずれも『良好』であった。
【0116】
比較例3の油水分離フィルタでは、シリカゾルゲル(C)と金属酸化物粒子(B)の質量比が5:95であって、シリカゾルゲルの割合を少なめにして撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。比較例3の油水分離フィルタは、バインダ成分であるシリカゾルゲルによる金属酸化物粒子の不織布の繊維表面への結着力が弱かった。この結果、ろ過液の油濃度は1ppm未満の検出限界以下であったが、膜の各種試験前のろ過液の濁度は3.0と高かった。また、基材の通気度は0.84ml/cm2/秒と小さかったため、膜の各種試験前のろ過液の通過時間は465秒と非常に長くろ過効率が悪く、撥油性に劣っていた。このため、膜の強度試験及び膜の凍結試験はいずれも行わなかった。
【0117】
比較例4の油水分離フィルタでは、シリカゾルゲル(C)と金属酸化物粒子(B)の質量比が95:5であって、金属酸化物粒子の割合を僅少にして撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。比較例4の油水分離フィルタは、膜中の金属酸化物粒子が少ないため、ろ過液の油濃度は1ppm未満の検出限界以下であり、膜の各種試験前のろ過液の濃度は0.5未満であって、それぞれ『良好』であり、膜の各種試験前のろ過液の通過時間は44秒で『良好』であった。しかしながら、金属酸化物粒子の割合が少ないため、膜の強度試験又は膜の凍結試験を実施した後は、金属酸化物粒子による強度向上若しくは寸法維持効果がないため、膜の強度試験後又は膜の凍結試験後では。ろ過液の濁度及び通過時間はともに、試験前より悪化し、いずれも『不良』であった。
【0118】
比較例5の油水分離フィルタでは、基材の通気度は8.3ml/cm2/秒と大きかったため、膜の各種試験前のろ過液の通過時間は45秒と『良好』であった。しかしながら、A1+A2の値が0.4と小さ過ぎたことに起因して、油粒子を弾く性能が不十分となり、膜の各種試験前のろ過液の油濃度が2.6ppmであり、膜の各種試験前のろ過液の濁度は2.0と高く、撥油性に劣っていた。このため、膜の強度試験及び膜の凍結試験はいずれも行わなかった。
【0119】
比較例6の油水分離フィルタでは、A1+A2の値が16.1と大き過ぎたため、液が通過しなかった。このため、膜の強度試験及び膜の凍結試験はいずれも行わなかった。
【0120】
比較例7の油水分離フィルタでは、金属酸化物粒子にフッ素系官能基成分(A1)が結合していない比較合成例2から撥水撥油性膜形成用液組成物を調製した。比較例7の油水分離フィルタは、撥水撥油処理をしていない金属酸化物粒子を用いているため、ろ過液の油濃度は1.8ppmと高く、ろ過液の濁度も1.6と高く、更に、膜の各種試験前のろ過液の通過時間は365秒と非常に長くろ過効率が悪く、撥油性に劣っていた。このため、膜の強度試験及び膜の凍結試験はいずれも行わなかった。
【0121】
比較例8の油水分離フィルタでは、基材の通気度が14.3ml/cm2/秒と大き過ぎたため、ろ過した液の油濃度及び濁度はいずれも高い値を示した。このため、膜の強度試験及び膜の凍結試験はいずれも行わなかった。
【0122】
比較例9の油水分離フィルタでは、基材の通気度が0.03ml/cm2/秒と小さ過ぎたため、液が通過しなかった。このため、膜の強度試験及び膜の凍結試験はいずれも行わなかった。
【0123】
これに対して、実施例1~9の油水分離フィルタは、本発明の第1の観点の要件を満たしているため、膜の強度試験後及び凍結試験後も含めて、ろ過液の油濃度は1ppm未満の検出限界以下であるか、1.0ppm(実施例9)であり、ろ過液の濁度は0.5未満であるか、最大で0.7(実施例9)であり、かつろ過液の通過時間は28秒~210秒であり、ろ過効率が『良好』又は『やや良好』であった。実施例8において、ろ過液の通過時間が、膜の各種試験前で183秒で、膜の強度試験後で210秒で、膜の凍結試験後で191秒でそれぞれ長かったのは、油水分離フィルタの通気度が0.1ml/cm2/秒と小さかったためである。また実施例9において、ろ過液の油濃度が1.0ppmで、ろ過液の濁度が、膜の各種試験前で0.6で、膜の強度試験後で0.7で、膜の凍結試験後で0.6であったのは、油水分離フィルタの通気度が8.1ml/cm2/秒と比較的大きかったためである。
【0124】
更に、実施例5、7~9の油水分離フィルタでは、A1<A2であって、本発明の第2の要件を満たさなかったため、ろ過液のろ過時間が、膜の強度試験前よりも膜の強度試験後において、240秒を下回るものの、10秒を超えて長引いたため、『やや良好』であり、不織布の繊維表面への撥水撥油性膜の密着性が十分に高くないと考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の油水分離フィルタは、油がエマルジョン化した乳化油又は水溶性油から、油を分離して水を回収する必要のある分野に用いられる。
【符号の説明】
【0126】
13、23 油水分離フィルタ
20 不織布
20a 不織布の一面
20b 不織布の他面
20c 不織布の繊維
20d 不織布の気孔
21 撥水撥油性膜
21a フッ素含有金属酸化物粒子
21b フッ素含有シリカゾルゲル
22 油粒子