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特許7547140ベンゾオキサジン系熱硬化性樹脂、およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】ベンゾオキサジン系熱硬化性樹脂、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 14/073 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
C08G14/073
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020160106
(22)【出願日】2020-09-24
(65)【公開番号】P2022053324
(43)【公開日】2022-04-05
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山本 英紀
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-053325(JP,A)
【文献】特開2008-291070(JP,A)
【文献】特開2009-084439(JP,A)
【文献】特開2011-207995(JP,A)
【文献】特開2012-036319(JP,A)
【文献】国際公開第2009/017218(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 4/00-16/06
C08G 73/00-73/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で示される、ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する、熱硬化性樹脂。
【化5】
〔式(I)において、
Ar1は、二官能フェノール化合物(A)由来の、4価の芳香族基を示し、
R1は、脂肪族ジアミン化合物(B)由来の、炭素数6の2価の直鎖アルキレン基を示し、
AおよびBの少なくとも一方は、単官能フェノール化合物(D)由来の、下記一般式(II)で示される基であり、AとBは同じでも異なっていても良く、
nは、2以上の整数を示し、
GPCで測定される重量平均分子量(Mw)が、10000以上である。〕
【化6】
〔式(II)において、
Xは、炭素数1~20の有機基を示し、
lは、0~3の整数を表す。〕
【請求項2】
請求項1の熱硬化性樹脂を含む組成物。
【請求項3】
請求項1の熱硬化性樹脂、または請求項2の組成物を成形してなる未硬化成形体。
【請求項4】
請求項1の熱硬化性樹脂、請求項2の組成物、または請求項3の未硬化成形体を硬化してなる硬化成形体。
【請求項5】
ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する、熱硬化性樹脂の製造方法であって、
前記熱硬化性樹脂は、請求項1に記載の熱硬化性樹脂であり、
二官能フェノール化合物(A)と、ジアミン化合物(B)と、アルデヒド化合物(C)とを反応させるステップ(s1)と、
さらに、単官能フェノール化合物(D)を反応させるステップ(s2)と、を含み、
ステップ(s1)とステップ(s2)とは、同時であっても、ステップ(s1)が先でステップ(s2)が後でも良く、
ジアミン化合物(B)が、炭素数が6の直鎖脂肪族ジアミンであり、
ステップ(s1)およびステップ(s2)は、溶媒(L1)と溶媒(L2)とを含む混合溶媒におけるステップであり、
溶媒(L1)は、非ハロゲン系炭化水素溶媒であり、
溶媒(L2)は、脂肪族アルコール系溶媒である、
熱硬化性樹脂の製造方法。
【請求項6】
溶媒(L1)は、トルエンおよび/またはキシレンであり、
溶媒(L2)は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールからなる群(構造異性体を含む)より選ばれる少なくとも1種である、
請求項5に記載の、熱硬化性樹脂の製造方法。
【請求項7】
溶媒(L1)と溶媒(L2)との体積比率が、(L1)/(L2)=50/50~80/20であることを特徴とする、
請求項5または6に記載の、熱硬化性樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液状態での安定性および硬化前・硬化後の機械物性に優れたベンゾキサジン系熱硬化性樹脂、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゾオキサジン化合物は、熱などによってベンゾオキサジン環が開環重合・反応し、揮発分の発生を伴わずに硬化することが知られている。そのため、ベンゾオキサジン構造を有する低分子化合物・重合体を主成分とする熱硬化性樹脂(以下、ベンゾオキサジン系熱硬化性樹脂と称する)は、耐熱性・耐水性・耐薬品性・機械強度・長期信頼性などといった熱硬化性樹脂が有する基本的な特徴に加え、低誘電率、低硬化収縮などの様々な利点を有するため、注目されている。ここで、ベンゾオキサジン構造を有する低分子化合物は,製造が容易な反面、硬化前の固体状態で脆いなど取り扱い性が悪いなどの特徴があり、また、ベンゾオキサジン構造を有する重合体(以下、ベンゾオキサジン重合体)は、硬化前の固体状態での取り扱い性が良い反面、製造が難しいなどの特徴があるため、その特性に応じて使い分けがなされている。
【0003】
ここで、ベンゾオキサジン重合体は、溶媒に溶解させた溶液状態での安定性(保存安定性)に劣り、ゲル化しやすいことも知られている。そのため、そのような熱硬化性樹脂の製造方法において、二官能フェノール化合物と、ジアミン化合物と、アルデヒド化合物と、を反応させる反応工程において、単官能フェノール化合物を添加する製造方法が、保存安定性に優れた方法として提案されている(特許文献1)。そのような方法においては、単官能フェノール化合物を添加することにより、反応性末端を封止してゲル化を防止することができる反面、分子量が成長する重合反応を阻害するため、分子量の高いベンゾオキサジンを得ることが困難であることが、本発明者らの検討により明らかとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-291070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶液状態での安定性および硬化前・硬化後の機械物性に優れたベンゾキサジン系熱硬化性樹脂、並びにその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の構成は以下の通りである。
1. 一般式(I)で示される、ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する、熱硬化性樹脂。
【0007】
【化1】
【0008】
〔式(I)において、
Ar1は、二官能フェノール化合物(A)由来の、4価の芳香族基を示し、
R1は、脂肪族ジアミン化合物(B)由来の、炭素数6の2価の直鎖アルキレン基を示し、
AおよびBの少なくとも一方は、単官能フェノール化合物(D)由来の、下記一般式(II)で示される基であり、AとBは同じでも異なっていても良く、
nは、2以上の整数を示し、
GPCで測定される重量平均分子量(Mw)が、10000以上である。〕
【0009】
【化2】
【0010】
〔式(II)において、
Xは、水素原子、または炭素数1~20の有機基を示し、
lは、0~3の整数を表す。〕
2. 上記1の熱硬化性樹脂を含む組成物。
3. 上記1の熱硬化性樹脂、または上記2の組成物を成形してなる未硬化成形体。
4. 上記1の熱硬化性樹脂、上記2の組成物、または上記3の未硬化成形体を硬化してなる硬化成形体。
5. ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する、熱硬化性樹脂の製造方法であって、
二官能フェノール化合物(A)と、ジアミン化合物(B)と、アルデヒド化合物(C)とを反応させるステップ(s1)と、
さらに、単官能フェノール化合物(D)を反応させるステップ(s2)と、を含み、
ステップ(s1)とステップ(s2)とは、同時であっても、ステップ(s1)が先でステップ(s2)が後でも良く、
ジアミン化合物(B)が、炭素数が6の直鎖脂肪族ジアミンであり、
ステップ(s1)およびステップ(s2)は、溶媒(L1)と溶媒(L2)とを含む混合溶媒におけるステップであり、
溶媒(L1)は、非ハロゲン系炭化水素溶媒であり、
溶媒(L2)は、脂肪族アルコール系溶媒である、
熱硬化性樹脂の製造方法。
6. 溶媒(L1)は、トルエンおよび/またはキシレンであり、
溶媒(L2)は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールからなる群(構造異性体を含む)より選ばれる少なくとも1種である、
上記5に記載の、熱硬化性樹脂の製造方法。
7. 溶媒(L1)と溶媒(L2)との体積比率が、(L1)/(L2)=50/50~80/20であることを特徴とする、
上記5または6に記載の、熱硬化性樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、溶液状態での安定性および硬化前・硬化後の機械物性に優れたベンゾキサジン系熱硬化性樹脂が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施することができる。
【0013】
なお、本明細書においては、あるパラメーターが値X~値Yを取るとは、そのパラメーターがX以上Y以下であることを表すものとする。
【0014】
〔熱硬化性樹脂〕
本発明の熱硬化性樹脂は、下記一般式(I)で示される、ベンゾオキサジン構造を有する。
【0015】
【化3】
【0016】
〔式(I)において、
Ar1は、二官能フェノール化合物(A)由来の、4価の芳香族基を示し、
R1は、脂肪族ジアミン化合物(B)由来の、炭素数6の2価の直鎖アルキレン基を示し、
AおよびBの少なくとも一方は、単官能フェノール化合物(D)由来の、下記一般式(II)で示される基であり、AとBは同じでも異なっていても良く、
nは、2以上の整数を示し、
GPCで測定される重量平均分子量(Mw)が、10000以上である。〕
【0017】
【化4】
【0018】
〔式(II)において、
Xは、水素原子、または炭素数1~20の有機基を示し、
lは、0~3の整数を表す。〕
【0019】
式(I)において、Ar1は、二官能フェノール化合物(A)由来の、4価の芳香族基を示す。二官能フェノール化合物(A)としては、例えば、
4,4’-ビフェノール、2,2’-ビフェノール、などのビフェノール化合物;
4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、2,2’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、などのジヒドロキシジフェニルエーテル化合物;
4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2’-ジヒドロキシジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、などのジヒドロキシジフェニルメタン化合物(誘導体を含む、以下同じ);
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールE)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、などのジヒドロキシジフェニルエタン化合物;
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-メチルプロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、などのジヒドロキシジフェニルプロパン化合物;
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、などのジヒドロキシジフェニルブタン化合物;
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)、などのジヒドロキシジフェニルシクロアルカン化合物;
4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、などのジヒドロキシジフェニルケトン化合物;
9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、などのジヒドロキシジフェニルフルオレン化合物;
1,3-ビス(4-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、などのジヒドロキシジフェニルベンゼン化合物;
4,4’-[1,3-フェニレンビス(1-メチル-エチリデン)]ビスフェノール(三井化学製「ビスフェノールM」、4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチル-エチリデン)]ビスフェノール(三井化学製「ビスフェノールP」、などのその他のビスフェノール化合物;
などの、二官能フェノール化合物であって、そのOH基およびオルト位がベンゾオキサジン環に組み込まれうる構造を有するものが好適である。
この中では、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)などが好ましく、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンがより好ましい。
【0020】
式(I)において、R1は、脂肪族ジアミン化合物(B)由来の、炭素数6の2価の直鎖アルキレン基を示す。脂肪族ジアミン化合物(B)としては、炭素数6の主鎖骨格を有する飽和炭化水素基を持つジアミン化合物、例えば、1,6-ヘキサンジアミン(ヘキサメチレンジアミン)が好適である。
【0021】
上記単官能フェノール化合物(D)としては、特に限定されるものではないが、好ましくはフェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、p-tert-ブチルフェノール、p-オクチルフェノール、p-クミルフェノール、ドデシルフェノール、o-フェニルフェノール、p-フェニルフェノール、1-ナフトール、2-ナフトール、m-メトキシフェノール、p-メトキシフェノール、m-エトキシフェノール、p-エトキシフェノール、3,4-ジメチルフェノール、3,5-ジメチルフェノール等が挙げられる。この中ではフェノールが好ましい。
【0022】
また、本発明の熱硬化性樹脂を合成するために、アルデヒド化合物(C)を用いることが出来る。アルデヒド化合物(C)としては、特に限定されるものではないが、ホルムアルデヒドが好ましく、該ホルムアルデヒドとしては、その重合体であるパラホルムアルデヒドや、水溶液の形であるホルマリン等の形態で使用することが可能である。
式(I)において、nは重合度であり、2以上の整数を示すが、硬化前および硬化後の機械物性を向上する観点から、nは、20以上であることが好ましく、25以上であることがより好ましく、30以上であることがさらに好ましく、40以上であることが一層好ましい。また、nは、成形時の流動性を維持するため、500以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、200以下であることがさらに好ましく、100以下であることが一層好ましい。
式(II)のXにおいて「炭素数1~20の有機基」としては、メチル、エチル、tert-ブチル、オクチル、ドデシル、フェニル、クミル、メトキシ、エトキシ等が挙げられる。
【0023】
本発明の熱硬化性樹脂は、GPCで測定される重量平均分子量(Mw)が、10000以上であることを要するが、硬化前および硬化後の機械物性を向上する観点から、Mwは、15000以上であることが好ましく、20000以上であることがより好ましく、25000以上であることがさらに好ましく、30000以上であることが一層好ましい。また重量平均分子量(Mw)は、500000以下であることが好ましい。
【0024】

〔熱硬化性樹脂の製造方法〕
本発明の熱硬化性樹脂の製造方法は、ベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有する、熱硬化性樹脂の製造方法であって、
二官能フェノール化合物(A)と、ジアミン化合物(B)と、アルデヒド化合物(C)とを反応させるステップ(s1)と、さらに、単官能フェノール化合物(D)を反応させるステップ(s2)と、を含み、
ステップ(s1)とステップ(s2)とは、同時であっても、ステップ(s1)が先でステップ(s2)が後でも良く、
ジアミン化合物(B)が、炭素数が6の直鎖脂肪族ジアミンであり、
ステップ(s1)およびステップ(s2)は、いずれも溶媒(L1)と溶媒(L2)とを含む混合溶媒におけるステップであり、
溶媒(L1)は、非ハロゲン系炭化水素溶媒であり、
溶媒(L2)は、脂肪族アルコール系溶媒であることを特徴とするものである。
【0025】
ここで、二官能フェノール化合物(A)と、ジアミン化合物(B)とのモル数の比が、5.0/10.0~7.5/10.0であることが好ましく、また、ジアミン化合物(B)と、単官能フェノール化合物(D)とのモル数の比が、10.0/5.0~10.0/7.5であることが好ましい。
【0026】
このような熱硬化性樹脂の製造方法によれば、保存性に優れ、分子量が大きいベンゾキサジン構造を主鎖中に有する熱硬化性樹脂を得ることができる。
【0027】
前記ステップ(s2)において単官能フェノール化合物(D)を反応させることにより、反応性末端を封止してゲル化を防止することができる。
上記製造方法において、二官能フェノール化合物(A)と、ジアミン化合物(B)と、アルデヒド化合物(C)とを反応させるステップ(s1)と、単官能フェノール化合物(D)を反応させるステップ(s2)とは、同時であっても、ステップ(s1)が先でステップ(s2)が後でも良いが、操作の簡便性から、ステップ(s1)とステップ(s2)とが同時であることが好ましい。
【0028】
上記二官能フェノール化合物(A)としては、すでに(A)として例示したものと同じものが挙げられる。
【0029】
上記製造方法において、脂肪族ジアミン化合物(B)としては、すでに(B)として例示したものと同じものが挙げられる。このような好適な構成とすることにより、機械物性に優れる熱硬化性樹脂を得ることができる。
【0030】
上記アルデヒド化合物(C)としては、すでに(C)として例示したものと同じものが挙げられる。
【0031】
上記単官能フェノール化合物(D)としては、すでに(D)として例示したものと同じものが挙げられる。
【0032】
上記製造方法において、二官能フェノール化合物(A)と、ジアミン化合物(B)とのモル数の比が、5.0/10.0~7.5/10.0であることが好ましい。この範囲内であると、製造時にゲル化しにくく、高分子量の生成物が得られやすい。
上記製造方法において、ジアミン化合物(B)と、単官能フェノール化合物(D)とのモル数の比が、10.0/5.0~10.0/7.5であることが好ましい。この範囲内であると、製造時にゲル化しにくく、高分子量の生成物が得られやすい。
【0033】
上記反応させるステップ(s1)においては、二官能フェノール化合物(A)と、ジアミン化合物(B)と、アルデヒド化合物(C)とを、また、上記反応させるステップ(s2)においては、さらに、単官能フェノール化合物(D)を、溶媒(L1)と溶媒(L2)とを含む混合溶媒中で加熱しながら反応させる。
【0034】
溶媒(L1)の非ハロゲン系炭化水素溶媒は、ハロゲン原子を含まず、かつ、酸素原子・窒素原子・硫黄原子などのヘテロ原子を含まない炭化水素溶媒であり、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素などであっても良い。この中では、トルエンおよび/またはキシレンであることが好ましく、トルエンであることがより好ましい。また、溶媒(L2)の脂肪族アルコール系溶媒は、脂肪族炭化水素に1個以上の水酸基が結合した化合物である。この中では、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールからなる群(構造異性体を含む)より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノールからなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
溶媒(L1)と溶媒(L2)との体積比率は、(L1)/(L2)=50/50~80/20であることが好ましい。
溶媒(L1)は、原料である、フェノール化合物(A)、ジアミン化合物(B)、及び単官能フェノール化合物(D)の溶解性が良好であるために必要である。クロロホルム等のハロゲン系溶媒単独、THF等のエーテル系溶媒単独では、高重合度の生成物が得られにくいとともに、クロロホルムではハロゲンに由来する環境問題、THFではゲルが生成しやすいという問題があり、必ずしも好ましいものとは言えない。また、溶媒(L2)は、ゲル化を抑止する役割があるとともに、溶媒(L1)と溶媒(L2)との混合溶媒は、生成物である重合体の溶解性のために必要である。すなわち、溶媒(L1)のみでは原料である(A)、(B)、(D)は溶解するものの、生成物がゲル化しやすくなるという問題があり、溶媒(L2)のみでは原料化合物の溶解度が低いという問題がある。
【0035】
反応温度、反応時間についても特に限定されないが、通常、室温から120℃程度の温度で数十分から数時間反応させればよい。本発明においては、特に30~110℃で、20分~9時間反応させれば、本発明に係る熱硬化性樹脂としての機能を発現し得る重合体へと反応は進行するため好ましい。
【0036】
また、反応時に生成する水を系外に取り除くのも反応を進行させる有効な手法である。反応後の溶液に、例えば多量のメタノール等の貧溶媒を加えることで重合体を析出させることができ、これを分離、乾燥すれば目的の重合体が得られる。
【0037】
〔熱硬化性組成物〕
本発明の熱硬化性樹脂を主成分として含み、他の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、配合剤を副成分として含む熱硬化性組成物を作成し、使用することも可能である。
【0038】
他の熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、ケイ素樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アリル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド系樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、ポリウレタン樹脂、アニリン樹脂等が挙げられる。
【0039】
熱可塑性樹脂としては、例えば、熱可塑性エポキシ樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、などが挙げられる。
【0040】
配合剤としては、必要に応じて、難燃剤、造核剤、酸化防止剤、老化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃助剤、帯電防止剤、防曇剤、充填剤、軟化剤、可塑剤、着色剤等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いられてもよく、2種以上を併用して用いても構わない。また、反応性あるいは非反応性の溶剤を使用することもできる。
【0041】
〔熱硬化性樹脂の成形体(未硬化成形体)〕
本発明の熱硬化性樹脂は、またはその組成物は、硬化前にも成形性を有しているため、その用途・目的に応じて、硬化させずに成形した未硬化成形体を用いることが出来る。この成形温度(徐々に昇温していく場合はそのうちの最高温度)は、特に限定されないが、室温以上、200℃未満であることが好ましく、60℃以上、180℃以下であることがより好ましく、100℃以上、160℃以下であることが最も好ましい。成形温度が200℃以上であると、硬化が進行してしまい、所望の未硬化成形体が得られないことがある。
未硬化成形体の寸法や形状は特に制限されず、例えば、フィルム状、シート状・板状、ブロック状等が挙げられ、さらに他の部位(例えば粘着層)を備えていてもよい。
この未硬化成形体は、後で述べる硬化物成形体の前駆体として使用することが出来るとともに、たとえば硬化性を有する接着性シートとして用いることが出来る。
なお未硬化成形体の特性としては、後述する実施例の方法での測定値が5%以上であることが好ましい。
【0042】
〔硬化物の成形体(硬化成形体)〕
上述の熱硬化性樹脂の成形体(未硬化成形体)に熱をかけて硬化させると、硬化成形体を得ることが出来る。また、未硬化成形体を経ることなく、本発明の熱硬化性樹脂、またはその組成物を成形すると同時に熱をかけて硬化させることでも、硬化成形体を得ることが出来る。この硬化温度(徐々に昇温していく場合はそのうちの最高温度)は、特に限定されないが、200℃以上、300℃以下であることが好ましく、220℃以上、280℃以下であることがより好ましく、240℃以上、260℃以下であることが最も好ましい。硬化温度が200℃未満であると、硬化の不十分な成形体となることがある。また、硬化温度が300℃以上であると、熱分解が進行してしまい、所望の硬化成形体が得られないことがある。
硬化成形体の寸法や形状は特に制限されず、例えば、フィルム状、シート状・板状、ブロック状等が挙げられ、さらに他の部位(例えば粘着層)を備えていてもよい。
硬化成形体は、電子部品・機器及びその材料、特に優れた誘電特性が要求される多層基板、積層板、封止剤、接着剤等の用途に好適に用いることができ、その他、航空機部材、自動車部材、建築部材、等の用途にも使用することができる
【実施例
【0043】
以下に本発明を説明するための実施例および比較例を示すが、これによって本発明を限定するものではない。まず、各物性の測定条件は次のとおりとした。
〔試験方法〕
(1)ガラス転移温度(Tg)
フィルム形状の未硬化物、硬化物について、示差走査熱量計DSC7000X(DSC、日立ハイテクサイエンス製)を用い、窒素気流下(40mL/min)、昇温速度10℃/minの条件でDSC曲線を測定した。DSC曲線の変曲点の温度をガラス転移温度とした。
(2)引張弾性率、引張破断強度、引張破断伸び
フィルム形状の硬化物について、引張試験機EZ-SX(島津製作所社製)を用いて引張試験を実施した。試験温度は室温とし、引張速度5mm/min、試験片形状は長さ50mm、幅3mmとした。
【0044】
〔実施例1〕
トルエン(30mL)、エタノール(15mL)の混合溶媒中に、ビスフェノールA(東京化成工業(TCI)社製)3.1956g(0.014mol)、ヘキサメチレンジアミン(東京化成工業(TCI)社製)2.3260g(0.020mol)、パラホルムアルデヒド(Merch社製)2.5826g(0.086mol)、フェノール(東京化成工業(TCI)社製)1.1280g(0.012mol)を投入し、60℃で反応させた。5時間経過後に反応を止めた。反応液を室温まで冷却した後、0.1N炭酸水素ナトリウム溶液100mLで分液を3回行った。硫酸ナトリウムで洗浄後の反応液を脱水、ろ過を行った。溶媒をエバポレーターで加熱減圧下で除去し、真空オーブンで50℃減圧乾燥することで目的化合物が得られた。GPCによる分子量の測定では、標準ポリスチレン換算で数平均分子量(Mn)は3970、重量平均分子量(Mw)は38829であった。
このベンゾオキサジンの粉末を、ホットプレスを用いて120℃で40分加熱し、160℃まで昇温させ、フィルム状の未硬化物を得た。またオーブンで、200℃1時間、240℃1時間、260℃30分加熱硬化させ、フィルム状の硬化物を得た。そのフィルム形状の未硬化物、硬化物の特性を表1に示す。
【0045】
〔比較例1〕
トルエン(38.6mL)、イソブタノール(6.8mL)の混合溶媒中に、ビスフェノールA(東京化成工業(TCI)社製)4.1505g(0.018mol)、ヘキサメチレンジアミン(東京化成工業(TCI)製)2.3243g(0.020mol)、パラホルムアルデヒド(Merch社製)3.6053g(0.120mol)、フェノール(東京化成工業(TCI)社製)0.5149g(0.005mol)を投入し、90℃で反応させた。5時間経過後に反応を止めた。反応液を800mLのメタノールに投じて目的化合物を析出させた。その後ろ別により目的化合物を分離し、真空オーブンで45℃減圧乾燥することで目的化合物が得られた。GPCによる分子量の測定では、標準ポリスチレン換算で数平均分子量(Mn)は2733、重量平均分子量(Mw)は7146であった。
このベンゾオキサジンの粉末を、ホットプレスを用いて120℃で40分加熱し、160℃まで昇温させ、フィルム状の未硬化物を得た。またオーブンで、200℃1時間、240℃1時間、260℃30分加熱硬化させ、フィルム状の硬化物を得た。そのフィルム形状の未硬化物、硬化物の特性を表1に示す。
【0046】
〔比較例2〕
クロロホルム(50mL)中に、ビスフェノールA(東京化成工業(TCI)社製)4.6045g(0.020mol)、ヘキサメチレンジアミン(東京化成工業(TCI)製)2.3430g(0.020mol)、パラホルムアルデヒド(Merch社製)2.6072g(0.087mol)を投入し、60℃で反応させた。5時間経過後に反応を止めた。反応液を室温まで冷却した後、1N炭酸水素ナトリウム溶液100mLで分液を3回行った。硫酸ナトリウムで洗浄後の反応液を脱水、ろ過を行った。溶媒をエバポレーターで加熱減圧下で除去し、真空オーブンで50℃減圧乾燥することで目的化合物が得られた。GPCによる分子量の測定では、標準ポリスチレン換算で数平均分子量(Mn)は4502、重量平均分子量(Mw)は22329であった。
このベンゾオキサジンの粉末を、ホットプレスを用いて120℃で40分加熱し、160℃まで昇温させ、フィルム状の未硬化物を得た。またオーブンで、200℃1時間、240℃1時間、260℃30分加熱硬化させ、フィルム状の硬化物を得た。そのフィルム形状の未硬化物、硬化物の特性を表1に示す。
【0047】
〔比較例3〕
クロロホルム(150mL)中に、ビスフェノールA(東京化成工業(TCI)社製)9.5889g(0.042mol)、ヘキサメチレンジアミン(東京化成工業(TCI)社製)6.9718g(0.060mol)、パラホルムアルデヒド(Merch社製)7.7485g(0.258mol)、フェノール(東京化成工業(TCI)社製)3.3887g(0.036mol)を投入し、60℃で反応させた。5時間経過後に反応を止めた。反応液を室温まで冷却した後、0.1N炭酸水素ナトリウム溶液300mLで分液を3回行った。硫酸ナトリウムで洗浄後の反応液を脱水、ろ過を行った。溶媒をエバポレーターで加熱減圧下で除去し、真空オーブンで40℃減圧乾燥することで目的化合物が得られた。GPCによる分子量の測定では、標準ポリスチレン換算で数平均分子量(Mn)は1884、重量平均分子量(Mw)は3847であった。
このベンゾオキサジンの粉末を、ホットプレスを用いて120℃で40分加熱し、160℃まで昇温させ、フィルム状の未硬化物を得た。またオーブンで、200℃1時間、240℃1時間、260℃30分加熱硬化させ、フィルム状の硬化物を得た。そのフィルム形状の未硬化物、硬化物の特性を表1に示す。
【0048】
〔比較例4〕
THF(50mL)中に、ビスフェノールA(東京化成工業(TCI)社製)3.1961g(0.014mol)、ヘキサメチレンジアミン(東京化成工業(TCI)社製)2.3242g(0.020mol)、パラホルムアルデヒド(Merch社製)2.5826g(0.086mol)、フェノール(東京化成工業(TCI)社製)1.1293g(0.012mol)を投入し、65℃で反応させた。6時間経過後に反応を止めた。溶液中に不溶のゲルが生じていた。反応液を室温まで冷却した後、ゲルをろ過し、ろ液を200mLのヘキサンに投じて目的化合物を析出させた。その後ろ別により目的化合物を分離し、真空オーブンで50℃減圧乾燥することで固体粉末が得られた。しかし、この固体粉末は不溶のゲルであった。可溶部のGPCによる分子量の測定では、標準ポリスチレン換算で数平均分子量(Mn)は2631、重量平均分子量(Mw)は9064であった。
【0049】
【表1】
【0050】
比較例2は、フェノールによる末端キャップを行わないベンゾオキサジンである。分子量(Mw)の高いベンゾオキサジンが得られているが、末端キャップがないことにより、溶媒に溶解させた溶液状態での安定性(保存安定性)に劣ることが考えられる。
【0051】
比較例3は、比較例2のビスフェノールAのうち一部を、2倍のモル量のフェノールで置き換えて末端封止をさせたものである。比較例3と比較例2とでは、アミンの官能基量と総フェノール性官能基量との比率が等しくなっている。しかしながら比較例3では、末端封止の副作用により分子量(Mw)の低いベンゾオキサジンしか得られなかったため、比較例2と比べて、引張弾性率(GPa)、引張破断強度(MPa)、引張破断伸び(%)の全てで劣っている。
【0052】
比較例4は、比較例3の溶媒をTHFに変更したものである。しかし、反応終了後にゲルが生じており反応安定性に劣るとともに、得られたベンゾオキサジンの分子量も低いものであった。
【0053】
実施例1は、比較例3・比較例4の溶媒を、本発明の混合溶媒に変更したものである。本発明の効果により、分子量(Mw)の高いベンゾオキサジンが得られていることが分かる。また、ガラス転移点が低く、硬化前フィルムの引張破断伸びも優れていることが分かる。このことから、硬化前のフィルムの取り扱い性が良いことが考えられる。
【0054】
比較例1のベンゾオキサジンは分子量(Mw)が低いため、実施例1と比べて、引張弾性率(GPa)、引張破断強度(MPa)、引張破断伸び(%)の全てで劣っている。硬化前のフィルムの取り扱い性が劣ることが考えられる。