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特許7547185情報処理装置、露光装置、及び物品の製造方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】情報処理装置、露光装置、及び物品の製造方法。
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
G03F7/20 505
G03F7/20 521
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020205402
(22)【出願日】2020-12-10
(65)【公開番号】P2022092537
(43)【公開日】2022-06-22
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】兼目 弘巳
【審査官】藤田 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-056830(JP,A)
【文献】特開2018-132569(JP,A)
【文献】特開2013-115348(JP,A)
【文献】特開平06-291016(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0061757(US,A1)
【文献】特開2014-103343(JP,A)
【文献】国際公開第2003/065428(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
G03F 9/00
H01L 21/30
B82Y 10/00
G01B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械学習によって取得される学習モデルを用いて露光装置に設けられている投影光学系の結像特性の時間変化を予測する情報処理装置であって、
前記学習モデルの入力データは、前記露光装置における有効光源分布及び原版に描画されているパターンのうちの少なくとも一方を走査方向及び非走査方向に平行な断面内における異方性に関して分類することで作成されることを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記学習モデルの教師データは、前記投影光学系の結像特性の時間変化を計測し予測モデルでフィッティングすることによって補正係数を算出することで作成されることを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記結像特性は、倍率、フォーカス、歪曲、非点収差、球面収差、コマ収差及び波面収差のうちの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記情報処理装置は、
記有効光源分布及び前記パターンのうちの少なくとも一方を前記異方性に関して分類することで前記入力データを作成し、
前記投影光学系の結像特性の時間変化を計測し予測モデルでフィッティングすることによって補正係数を算出することで教師データを作成し、
前記計測された結像特性の時間変化と前記教師データ及び前記補正係数を推定する出力データそれぞれとの相関度を算出することによって学習を行うことで前記学習モデルを作成することを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記情報処理装置は、前記結像特性の計測点のうち前記予測モデルから最も離間している計測点の予測誤差を前記相関度として算出することを特徴とする請求項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記情報処理装置は、複数の前記露光装置に対して前記学習を行うことで前記学習モデルを作成することを特徴とする請求項またはに記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記情報処理装置は、前記学習モデルを用いて複数の前記露光装置それぞれに設けられている前記投影光学系の結像特性の時間変化を予測することを特徴とする請求項1乃至のいずれか一項に記載の情報処理装置。
【請求項8】
原版に描画されているパターンを基板に転写するように前記基板を露光する露光装置であって、
請求項1乃至のいずれか一項に記載の情報処理装置を備えることを特徴とする露光装置。
【請求項9】
請求項に記載の露光装置を用いて前記基板を露光する工程と、
露光された前記基板を現像する工程と、
現像された前記基板から物品を製造する工程と、
を含むことを特徴とする物品の製造方法。
【請求項10】
情報処理装置によって行われる情報処理方法であって、
機械学習によって取得される学習モデルを用いて露光装置に設けられている投影光学系の結像特性の時間変化を予測する工程を含み、
前記学習モデルの入力データは、前記露光装置における有効光源分布及び原版に描画されているパターンのうちの少なくとも一方を走査方向及び非走査方向に平行な断面内における異方性に関して分類することで作成されることを特徴とする情報処理方法。
【請求項11】
コンピュータに情報処理を行わせるプログラムが記録されたコンピュータが読み取り可能な記録媒体であって、
機械学習によって取得される学習モデルを用いて露光装置に設けられている投影光学系の結像特性の時間変化を予測する工程をコンピュータに実行させ
前記学習モデルの入力データは、前記露光装置における有効光源分布及び原版に描画されているパターンのうちの少なくとも一方を走査方向及び非走査方向に平行な断面内における異方性に関して分類することで作成されることを特徴とするプログラムが記録されたコンピュータが読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、露光装置、及び物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、露光装置において設けられている投影光学系における露光エネルギーの吸収に伴う結像特性の変動を補正することが求められている。
また、投影光学系の結像特性の変動については、原版に形成されている回路パターンの種類や照明光の有効光源分布等の露光条件に応じた投影光学系における露光エネルギーの密度分布の変化に伴って異なってくることも知られている。
【0003】
特許文献1は、そのような露光条件の違いに応じて投影光学系の結像特性の時間変化を予測するための予測モデルの補正係数を算出することで補正を行う方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-32875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、露光装置では半導体デバイス等の製品の多品種化に伴う半導体デバイスの回路パターンが形成されている原版の種類の増加に応じて原版が頻繁に交換されることで、投影光学系における露光エネルギーの密度分布も多岐に変化することが知られている。
そして、そのような状況に対応するために特許文献1に開示されている方法を用いて膨大な数の露光条件それぞれに対して予測モデルの補正係数を算出しようとすると、多大な時間が必要となってしまう。
【0006】
そこで本発明は、露光装置に設けられている投影光学系の結像特性の時間変化を効率的に予測することができる情報処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る情報処理装置は、機械学習によって取得される学習モデルを用いて露光装置に設けられている投影光学系の結像特性の時間変化を予測する情報処理装置であって、学習モデルの入力データは、露光装置における有効光源分布及び原版に描画されているパターンのうちの少なくとも一方を走査方向及び非走査方向に平行な断面内における異方性に関して分類することで作成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、露光装置に設けられている投影光学系の結像特性の時間変化を効率的に予測することができる情報処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第一実施形態に係る情報処理装置を備える露光装置の概略図。
図2】露光に伴う投影光学系の結像特性の時間変化の例を示した図。
図3】レチクルに描画されている回路パターンの例を示した図。
図4】照明光学系によって形成される有効光源分布の例を示した図。
図5】Xダイポール照明による投影光学系における露光エネルギーの密度分布の特徴を示した図。
図6】Yダイポール照明による投影光学系における露光エネルギーの密度分布の特徴を示した図。
図7】本実施形態に係る情報処理装置において行われる処理のフローチャート。
図8】本実施形態に係る情報処理装置において相関度を算出する様子を示す模式図。
図9】第二実施形態に係る情報処理装置が設けられている露光処理システムのブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施形態に係る情報処理装置を添付の図面に基づいて詳細に説明する。なお以下に示す図面は、本実施形態を容易に理解できるようにするために、実際とは異なる縮尺で描かれている場合がある。
【0011】
また以下の説明において、結像特性には倍率、フォーカス、歪曲、非点収差、球面収差、コマ収差及び波面収差のうちの少なくとも一つが含まれるものとする。ここで波面収差は、波面形状のツェルニケ多項式で展開した各項として表現される。
そして以下では、上述の結像特性を総じて収差と称する場合もある。
【0012】
また以下では、基板ステージの基板載置面に垂直な方向を光軸方向(Z方向)とし、基板載置面上に載置された基板が走査される方向を走査方向(Y方向)、基板載置面に平行な面内において走査方向に垂直な方向を非走査方向(X方向)と呼ぶこととする。
【0013】
[第一実施形態]
従来、LSIや超LSI等の半導体素子の製造工程において、レチクル(マスク)に描かれた回路パターンを感光剤が塗布された基板(ウェハ)上に投影露光することで焼付け形成を行う露光装置が用いられている。
【0014】
そのような露光装置では、投影露光の繰り返しに伴って投影光学系において露光光のエネルギーの一部が吸収されることで発生する熱に起因して、屈折率等の光学特性が温度変化することが知られている。
そして、投影光学系に露光光が長時間照射され続けると投影光学系の結像特性が変動してしまい、回路パターンの線幅解像力や複数工程にわたってパターンを正確に重ね合わせるためのアライメント精度に無視しえない量のずれが発生する虞がある。
【0015】
そのため、投影光学系に照射される露光光のエネルギーに応じた結像特性の変動を補正するための方法が提案されている。
【0016】
例えば、そのような結像特性(収差)の変動を露光量、露光時間及び非露光時間等を変数とする予測モデルを用いて予測し、その予測結果に基づいて基板ステージや投影光学系のフィールドレンズを移動させることで補正を行う露光装置が知られている。
そして、投影光学系の結像特性に含まれる収差、例えば倍率、フォーカス、歪曲、非点収差や波面収差の変動それぞれを予測モデルを用いて予測することで、各結像特性の変動を補正することができる。
【0017】
また従来、投影光学系の結像特性の変動量が予測からずれた場合に、結像特性の変動量を直接計測した結果を用いて予測モデルの補正係数を変更する方法が知られている。
また、形成されている回路パターンが互いに異なる複数のレチクルを用いる場合には、回路パターンの違いによる投影光学系の結像特性の変動量の予測値のずれを、レチクル毎に取得される予測モデルの補正係数を用いて予測する方法が知られている。
【0018】
また、レチクルに形成されている回路パターンの種類や照明光の有効光源分布等の露光条件に応じて投影光学系の結像特性の変動を予測するための予測モデルの補正係数を算出することで補正を行う方法が知られている。
【0019】
半導体デバイス等の製造工程に含まれるリソグラフィー工程では、投影光学系における露光エネルギーによる結像特性の変動量を許容範囲内に制御することが求められる。
そして近年、半導体デバイス等の製品の多品種化に伴って半導体デバイスの回路パターンが形成されているレチクルの種類が増加することで、リソグラフィー工程では製品ロット毎にレチクルを頻繁に交換しながら露光が行われている。
【0020】
このため露光装置のオペレーターは、レチクルの種類に応じて露光装置における露光条件を設定するための制御パラメータを作成している。
そのような制御パラメータには、例えばレチクルを識別するためのレチクルID、照明光の設定を識別するための照明モードIDや投影光学系において露光光が照射される露光領域及び露光量等が含まれる。
【0021】
上記に示した投影光学系の結像特性の変動を予測するための予測モデルを用いる方法では、いずれも露光条件毎に補正係数を算出する必要がある。
そのため、そのような従来の方法を用いて近年の多品種化するレチクルそれぞれにおいて補正係数を取得するためには多大な時間を要してしまう。
【0022】
そこで本実施形態では、以下に示すような構成を採ることにより、露光条件毎の投影光学系の結像特性の変動を効率的に予測することができる情報処理装置を提供することを目的としている。
【0023】
図1は、第一実施形態に係る情報処理装置20を備える露光装置1の概略図を示している。
【0024】
露光装置1は、ステップ・アンド・スキャン方式で原版(レチクル、マスク)に形成されているパターンを基板(ウェハ)に転写するように基板を露光するリソグラフィー装置である。
露光装置1は、本実施形態に係る情報処理装置20、レーザー光源101、レーザー光源制御装置102、主制御装置103、照明光学系104及び照明光学系制御装置108を備えている。
また露光装置1は、投影光学系114、ウェハステージ116、ウェハステージ制御装置120、レチクルステージ123、レチクルステージ制御装置124及び投影光学系制御装置129を備えている。
【0025】
レーザー光源101には、例えばKrF等のガスが封入されており、遠紫外領域、例えば波長248nmのレーザー光が射出される。
そしてレーザー光源101におけるガス交換動作の制御、波長安定化のための制御、放電印加電圧の制御等は、レーザー光源制御装置102によって行われる。
主制御装置103は、露光装置1にインタフェースケーブルで接続されており、露光装置1全体を制御するように命令を生成する。
【0026】
照明光学系104は、レーザー光源101から射出されたビームをレチクルステージ123上に載置されているレチクル113へ導光する。
具体的には、レーザー光源101から射出されたビームは、ビーム整形光学系126を介して所定の形状(円形状、輪帯形状、四重極形状や二重極形状等)に整形され、インテグレータレンズ105に入射することで二次光源が形成される。
そして二次光源からの光束は、レチクル113の照度分布を変更する機能を有するコンデンサーレンズ107によって指向されることで、可変スリット110がケーラー照明される。
可変スリット110は、開口幅を変更可能な機構を有しており、開口幅が制御されることで、スリット形状の光(露光光)の非走査方向における強度分布(照度分布)を均一化している。
【0027】
インテグレータレンズ105とコンデンサーレンズ107との間には略円形の開口部を有する開口絞り106が設けられている。
そして、照明光学系制御装置108が開口絞り106の開口部の直径を制御することで、照明光学系104の開口数(NA)を所望の値に設定することができる。
また、投影光学系114の開口数に対する照明光学系104の開口数の比がコヒーレンスファクタ(σ値)であるため、照明光学系制御装置108は、照明光学系104の開口絞り106を制御することで、σ値を設定することができることになる。
【0028】
照明光学系104の光路上、具体的にはコンデンサーレンズ107と可変スリット110との間にはハーフミラー111が配置されており、レチクル113を照明する露光光の一部がハーフミラー111によって反射されることで取り出される。
ハーフミラー111からの反射光の光路上にはフォトセンサ109が配置されており、フォトセンサ109によって露光光の強度(露光エネルギー)に対応する出力が生成される。
そしてフォトセンサ109の出力は、レーザー光源101のパルス発光毎に積分を行う不図示の積分回路によって1パルスあたりの露光エネルギーに変換され、照明光学系制御装置108を介して主制御装置103に入力される。
【0029】
レチクル113には焼き付けを行うための半導体素子の回路パターンが形成されており、照明光学系104によってレチクル113が照明される。
二次元方向、すなわち光軸方向に垂直なXY面内において移動可能な遮光部材から構成される可変ブレード112が可変スリット110とレチクルステージ123との間に設けられており、レチクル113のパターン面の照射領域が任意に設定される。
【0030】
投影光学系114は、レチクル113を通過した露光光をウェハステージ116上に載置されたウェハ115に導光することで、フォトレジストが塗布されたウェハ115上の一つのショット領域にレチクル113上のパターンが結像投影されるように配置される。
レチクル113上のパターンの一部を縮小倍率β(例えば1/4)でウェハ115上に縮小露光する際には、レチクルステージ123及びウェハステージ116をスリット形状の光に対して縮小倍率βと同一の速度比率で走査方向の互いに逆向きに走査させる。
そして、レーザー光源101からのパルス発光による多パルス露光を繰り返すことで、レチクル113の全面に形成されているパターンをウェハ115上のショット領域に転写することができる。
【0031】
投影光学系114には、フィールドレンズ127が設けられている。フィールドレンズ127は鏡筒130によって保持されており、空気圧や圧電素子等から構成される駆動機構128によって鏡筒130、すなわちフィールドレンズ127を光軸方向に移動させることができる。
そして投影光学系制御装置129がフィールドレンズ127の光軸上における位置を制御することで、投影光学系114の諸収差の低下を抑制しつつ、投影倍率を良好にし、歪曲誤差を低減している。
【0032】
ウェハステージ116は、ウェハ115を保持しながら、投影光学系114の光軸方向(Z方向)、及びZ方向に垂直な面内において互いに直交するX方向及びY方向に移動することができる。
レーザー干渉計118は、ウェハステージ116に固定された移動鏡117との間の距離を計測することで、ウェハステージ116のXY面内における位置を計測することができる。
ウェハステージ制御装置120は、レーザー干渉計118によって計測されたウェハステージ116の位置に基づいてモータ等の駆動機構119を制御することで、ウェハステージ116をXY面内における所定の位置へ移動させる。
【0033】
露光装置1では、レチクル113とウェハ115とが互いに所定の位置関係になるように位置決めされる。
そして、主制御装置103からの同期信号に基づいてレーザー光源制御装置102、ウェハステージ制御装置120及びレチクルステージ制御装置124によってスキャン露光のための各制御が行われる。
これにより、レチクル113全面に形成されている回路パターンがウェハ115のチップ領域に転写される。
【0034】
そして、ステップ・アンド・スキャン方式に基づいてウェハステージ116によってウェハ115をXY面内において所定量だけ移動させた後にレチクル113に形成されているパターンをウェハ115の他のチップ領域に同様に投影露光する動作が順次行われる。
【0035】
本実施形態に係る情報処理装置20は、情報処理手段としてのコンピュータであり、露光装置1における露光条件に応じて、投影光学系114の結像特性の変動を効率的に予測することができる学習プログラムを実行することができる。
露光装置1では、情報処理装置20はインタフェースケーブルで接続されている主制御装置103を介して、露光装置1に関するデータを送受信できるように構成されている。
そして情報処理装置20は、露光装置1の露光条件毎に投影光学系114の結像特性の変動量を許容範囲内に制御することができる。
【0036】
次に、本実施形態に係る情報処理装置20において用いられる投影光学系114の結像特性の時間変化の予測モデルについて説明する。
【0037】
図2は、露光装置1による露光によって生じる投影光学系114の所定の像高における結像特性、すなわち収差の量(収差量)Fの時間変化の例を示している。
なおここでいう収差としては、例えば倍率、フォーカス、歪曲、非点収差、球面収差、コマ収差や波面収差等が挙げられる。
また、時刻tでは収差量Fが初期収差量Fであるとし、収差量Fと初期収差量Fとの差、すなわちF-Fを収差変動量ΔFと定義し、一般的には収差変動量ΔFは像高毎に異なる値をとる。
【0038】
図2に示されているように、時刻tにおいてレーザー光源101から出射した露光光が投影光学系114を通過することで露光動作が開始されると、投影光学系114が露光光から熱エネルギーを吸収することで時間tが経過すると共に収差量Fは変動する。
そして、時刻tから所定の時間が経過した時刻tにおいて、収差量Fは最大変動における収差量(以下、最大変動収差量と称する。)Fに到達する。
【0039】
その後、露光光が投影光学系114を通過しても、投影光学系114によって吸収される熱エネルギーと投影光学系114によって放出される熱エネルギーとが互いに平衡状態に達するため、収差量Fは最大変動収差量Fからほとんど変化しなくなる。
そして、時刻tにおいて露光動作を停止すると、投影光学系114によって吸収された熱エネルギーが放出されることで収差量Fは時間tが経過すると共に初期収差量Fに再び近づくように変動し、時刻tにおいて収差量Fは初期収差量Fに到達する。
【0040】
ここで、所定の時刻における収差量をFとしたとき、時間Δtだけ露光動作を行った後の収差量Fk+1は、最大変動収差量F及び時定数Tを用いて以下の式(1)のように近似される。
k+1=F-(F-F)×exp(-Δt/T) ・・・(1)
同様に、所定の時刻における収差量をFとしたとき、時間Δtだけ露光動作を行わなかった後の収差量Fk+1は、初期収差量F及び時定数Tを用いて以下の式(2)のように近似される。
k+1=F-(F-F)×exp(-Δt/T) ・・・(2)
【0041】
式(1)及び(2)それぞれにおける時定数T及びTは、投影光学系114の熱伝達特性上の時定数と等価であると共に投影光学系114に固有の値であり、さらに収差の種類に応じて異なる値である。
すなわち、露光エネルギーに応じた投影光学系114の結像特性の変動量、すなわち収差変動量ΔFを正確に予測するには、投影光学系114毎に測定を行うと共に収差毎に測定を行うことで適切な値を取得する必要がある。
【0042】
また、最大変動収差量Fについては単位光量(単位露光エネルギー)当たりの収差変動量Kと、投影光学系114に入射される露光エネルギーを決定するパラメータQとを用いて、以下の式(3)のように算出することができる。
=K×Q ・・・(3)
なお、パラメータQは、露光時間、露光量、走査速度及び露光領域情報等の条件から決定される。
【0043】
そして図2に示されているように、投影光学系114の収差量Fの時間変化を上述した式(1)乃至(3)で表される関数による曲線201でモデル化することにより(以下、「予測モデル」と呼ぶ)、露光エネルギーに応じた収差量Fの時間変化を予測できる。
【0044】
上記のことから、投影光学系114の結像特性の時間変化を高精度に予測するためには、単位露光エネルギー当たりの収差変動量Kを露光条件毎に適切に決定する必要がある。
これは以下の理由による。すなわち、露光を行う際の露光条件に応じて、照明光学系104によって形成される有効光源分布及びレチクル113の回路パターンに応じて回折される光(回折光)が変化する。さらには、露光を行う際の露光条件に応じて可変ブレード112によって制御されるレチクル113のパターン面の照射領域が変化する。
これにより、投影光学系114に入射する露光光のエネルギー密度分布が変化するため、投影光学系114の収差変動量ΔFの大きさ、及びその像高依存性が変化するからである。
なおここでいう像高依存性とは、投影光学系114の結像面における非走査方向(X方向)と走査方向(Y方向)とで結像特性(収差)の変動量、すなわち収差変動量ΔFが互いに異なることを意味している。
【0045】
上述のように、本実施形態に係る情報処理装置20では、露光エネルギーに応じた投影光学系114の結像特性の時間変化に対して、式(1)及び(2)に示される予測モデルを用いてF、F、T及びT等の補正係数を算出する。
そして本実施形態に係る情報処理装置20では、リソグラフィー工程において多品種化する製品ロットの露光条件の組合せに応じて予測モデルの補正係数を適切かつ効率的に予測するために、機械学習を用いて推定を行うことを特徴としている。
【0046】
具体的には、投影光学系114における露光エネルギーの密度分布の特徴をモデル化し定量的に分類することで入力データを作成する。
次に、露光時における投影光学系114の結像特性(収差)の時間変化を実際に計測して予測モデルの補正係数を算出することで教師データを作成する。
【0047】
また、製品ロットにおいて入力データと教師データとから構成される学習用データを繰り返し作成し機械学習を行う、すなわち学習モデルを作成する。
そして、作成された学習モデルから実際の露光条件に応じた予測モデルの補正係数を示す出力データを取得することで、露光時における投影光学系114の結像特性の時間変化を適切かつ効率的に予測することができる。
【0048】
次に、レチクル113に形成されている回路パターンの描画情報から投影光学系114における露光エネルギーの密度分布の特徴を定量的に分類する方法について説明する。
【0049】
図3(a)及び(b)は、レチクル113に描画されている回路パターンの一例を示している。
【0050】
具体的には、レチクル113に描画されている回路パターンを実際に計測するか又は設計データを参照することで、ライン・アンド・スペース(以下、L&Sと称する。)のピッチ(間隔)及び縦横の線幅比(HV比)を求める。
ここで、L&Sのピッチは回路パターンによる回折光の回折角度を決めるファクターであり、HV比は回折光の指向性を決めるファクターである。
【0051】
図3(a)に示されている例では、縦長形状の垂直L&Sパターン(以下、垂直パターンと称する場合がある。)301と、横長形状の水平L&Sパターン(以下、水平パターンと称する場合がある。)303とが示されている。
なおここで、縦方向が走査方向(Y方向)であり、横方向が非走査方向(X方向)である。
【0052】
垂直パターン301では、隣接する配線の間隔がピッチ302となるように水平方向に沿ってL&Sが配置されている。
そして、垂直パターン301の描画情報からピッチ302と各垂直配線の面積V1、V2、V3、V4及びV5とを算出する。
【0053】
また水平パターン303は、隣接する配線の間隔がピッチ304となるように垂直方向に沿ってL&Sが配置されている。
そして、水平パターン303の描画情報からピッチ304と各水平配線の面積H1、H2、H3、H4及びH5とを算出する。
【0054】
図3(b)では、レチクル113において実際に露光光が照射される露光領域を示す長方形305が示されている。
そして、垂直パターン301のうち実際に露光光が照射される領域は、長方形305のうち辺306及び辺307によって画定される長方形の内部にあり、その露光領域内に含まれる各垂直配線の面積の総和、すなわち総面積Vを面積V1乃至V5から求める。
同様に、水平パターン303のうち実際に露光光が照射される領域は、長方形305のうち辺306及び辺308によって画定される長方形の内部にあり、その露光領域内に含まれる各水平配線の面積の総和、すなわち総面積Hを面積H1乃至H5から求める。
【0055】
そして、レチクル113に描画されている回路パターンによる回折光の指向性を定量化するために、以下の式(4)を用いて水平配線と垂直配線との間の割合、すなわちHV比を定量化する。
HV比=H/(H+V) ・・・(4)
【0056】
そして本実施形態に係る情報処理装置20では、以下の表1に示されているテーブルを用いて上述のL&Sのピッチ及びHV比に基づいてレチクル113に形成されている回路パターンによる回折光の指向性を分類する。
【0057】
【表1】
【0058】
例えば、回路パターンにおいて垂直パターン301及び水平パターン303のピッチがそれぞれ600nmである場合には、「500nm以上700nm未満」に分類される。
また、回路パターンにおいて垂直パターン301及び水平パターン303のHV比が60%である場合には、「50%以上75%未満」に分類される。
【0059】
次に、照明光学系104によって形成される有効光源分布から投影光学系114における露光エネルギーの密度分布の特徴を定量的に分類する方法について説明する。
【0060】
具体的には、照明光学系104によって形成される有効光源分布における光強度を実際に計測することで、照明光のXY強度比を求める。
すなわち図1に示されているように、照明光学系104におけるビーム整形光学系126を介して、所定の形状(円形状、輪帯形状、四重極形状及び二重極形状等)に整形された照明光をウェハステージ116に配置された有効光源測定器135を用いて測定する。これにより、照明光の有効光源分布を取得することができる。
【0061】
図4(a)は、有効光源測定器135によって有効光源分布を取得する様子を示した図である。
図4(a)に示されているように、投影光学系114における有効光源分布401の結像面402には直径数十μmの極小ピンホール403が配置されている。
【0062】
そして、投影光学系114を通過した照明光は、極小ピンホール403を通過した後、有効光源分布401と等価な光強度分布、すなわち有効光源分布404で有効光源測定器135が有する受光部405に照射される。
受光部405は、例えばCCD画素が512×512の格子状に配列された二次元CCDセンサーであり、照射された照明光の明暗に応じて光電変換による出力が行われることで、照明光の有効光源分布404を測定することができる。
【0063】
図4(b)は、二次元CCDセンサー405の上面図を示しており、輪帯形状を有する照明光の有効光源分布404が照射された状態を示している。
ここで、位置X及びYに配置されているCCD画素(微小な点光源)によって測定される光強度をA(X,Y)と表し、A(X,Y)=0のとき、当該CCD画素には照明光が照射されていないとする。
【0064】
また、二次元CCDセンサー405の受光領域を光軸を中心にした45度方向、135度方向、225度方向及び315度方向の四本の対角線で分割する。
そして、隣接する対角線に挟まれる各領域、すなわちX方向右部領域407、Y方向上部領域408、X方向左部領域409及びY方向下部領域410(以下それぞれ、XR領域407、YU領域408、XL領域409及びYD領域410と称する。)を定義する。
【0065】
また、このようにして定義されたXR、YU、XL及びYD領域に含まれるCCD画素によって測定される光強度の積算値をそれぞれLXR、LYU、LXL及びLYDと定義する。
そして、以下に示される式(5)から二次元CCDセンサー405によって取得される照明光の有効光源分布におけるXY強度比を求める。
XY強度比=(LXL+LXR)/(LYU+LYD+LXL+LXR) ・・・(5)
輪帯形状を有する照明光の有効光源分布404では、LXR、LYU、LXL及びLYDは互いに略同一の値となることから、XY強度比は50%に近い値となる。
【0066】
図4(c)は、二次元CCDセンサー405においてX方向に二重極の形状、すなわち有効光源分布412を有する照明光(以下、Xダイポール照明と称する。)が照射された状態を示している。
また図4(d)は、二次元CCDセンサー405においてY方向に二重極の形状、すなわち有効光源分布413を有する照明光(以下、Yダイポール照明と称する)が照射された状態を示している。
【0067】
このような場合、Xダイポール照明による有効光源分布412において実際に測定されるXY強度比は式(5)から100%に近い値となる。
一方、Yダイポール照明による有効光源分布413において実際に測定されるXY強度比は式(5)から0%に近い値となる。
【0068】
そして本実施形態に係る情報処理装置20では、以下の表2に示されているテーブルを用いて上述のXY強度比に基づいて照明光の有効光源分布の特徴を定量的に分類する。
【0069】
【表2】
【0070】
例えば、輪帯形状を有する照明光の有効光源分布404においてXY強度比が55%と測定された場合には、「50%以上60%未満」に分類される。
また、Xダイポール照明の有効光源分布412においてXY強度比が98%と測定された場合には、「90%以上100%以下」に分類される。
また、Yダイポール照明の有効光源分布413においてXY強度比が1%と測定された場合には、「0%以上10%未満」に分類される。
【0071】
次に、本実施形態に係る情報処理装置20における露光条件、投影光学系114における露光エネルギーの密度分布の特徴、及び投影光学系114の結像特性、具体的には倍率の変動の間の関係について説明する。
【0072】
図5(a)及び(b)はそれぞれ、露光条件の例としての照明光の有効光源分布501及びレチクル113に形成されている回路パターン502を模式的に示している。
【0073】
図5(a)に示されているように、有効光源分布501はXダイポール照明の有効光源分布であり、X方向に光強度が強い、すなわちXY強度比は100%に近い特徴を有している。
また図5(b)に示されているように、回路パターン502では水平L&Sパターンよりも垂直L&Sパターンの方が大きい、すなわちHV比は50%未満であり、回折光はX方向に散乱する指向性を有している。
【0074】
図5(c)は、投影光学系114の瞳面503上において照明光が照射される様子を示している。
【0075】
具体的には、有効光源分布501を有する照明光によって投影光学系114の光軸AXを含みY方向に平行なYZ断面を挟んでX方向に対称な0次光504が照射される。
そして0次光504の近傍には、回路パターン502に含まれる垂直L&Sパターンによって照明光が回折されることで生成される回折光505及び506が照射される。
ここで、典型的には回折光505及び506に比べて0次光504の光量の方が大きい。
【0076】
そして有効光源分布501及び回路パターン502から形成される投影光学系114における露光エネルギーの密度分布に基づいて露光を継続的に行うと0次光504、回折光505及び506が照射される領域において多く熱が吸収されることで温度が高くなる。
これにより、投影光学系114に含まれるレンズは、X方向に沿って熱変形、すなわち熱膨張することになる。
【0077】
図5(d)は、ウェハ115において投影露光が行われるチップ領域を示している。
【0078】
上記のように投影光学系114に含まれるレンズがX方向に沿って熱変形することで、図5(d)に示されているように、設計上のチップ領域507に対して、X方向に倍率誤差が発生した領域508で投影露光が行われてしまう。
すなわち、露光エネルギーの密度がY方向に比べてX方向において高くなることで、倍率変動もY方向に比べてX方向において大きくなり、倍率変動において方向差(異方性)が生じることになる。
【0079】
図6(a)及び(b)はそれぞれ、露光条件の別の例としての照明光の有効光源分布701及びレチクル113に形成されている回路パターン702を模式的に示している。
【0080】
図6(a)に示されているように、有効光源分布701はYダイポール照明の有効光源分布であり、Y方向に光強度が強い、すなわちXY強度比は0%に近い特徴を有している。
また図6(b)に示されているように、回路パターン702では垂直L&Sパターンよりも水平L&Sパターンの方が大きい、すなわちHV比は50%より大きく、回折光はY方向に散乱する指向性を有している。
【0081】
図6(c)は、投影光学系114の瞳面503上において照明光が照射される様子を示している。
【0082】
具体的には、有効光源分布701を有する照明光によって投影光学系114の光軸AXを含みX方向に平行なXZ断面を挟んでY方向に対称な0次光704が照射される。
そして0次光704の近傍には、回路パターン702に含まれる水平L&Sパターンによって照明光が回折されることで生成される回折光705及び706が照射される。
ここで、典型的には回折光705及び706に比べて0次光704の光量の方が大きい。
【0083】
そして有効光源分布701及び回路パターン702から形成される投影光学系114における露光エネルギーの密度分布に基づいて露光を継続的に行うと0次光704、回折光705及び706が照射される領域において多く熱が吸収されることで温度が高くなる。
これにより、投影光学系114に含まれるレンズは、Y方向に沿って熱変形、すなわち熱膨張することになる。
【0084】
図6(d)は、ウェハ115において投影露光されるチップ領域を示している。
【0085】
上記のように投影光学系114に含まれるレンズがY方向に沿って熱変形することで、図6(d)に示されているように、設計上のチップ領域707に対して、Y方向に倍率誤差が発生した領域708で投影露光が行われてしまう。
すなわち、露光エネルギーの密度がX方向に比べてY方向において高くなることで、倍率変動もX方向に比べてY方向において大きくなり、倍率変動において方向差が生じることになる。
【0086】
以上のように、本実施形態に係る情報処理装置20では、照明光学系104によって形成される有効光源分布においてXY強度比を算出し分類する。
また、レチクル113に形成されている回路パターン702においてL&Sのピッチ及びHV比を算出し分類する。
【0087】
そして、分類されたXY強度比、L&Sのピッチ及びHV比を含む露光条件から、露光エネルギーの密度分布の特徴を定量的に分類することで入力データを作成する。
換言すると、本実施形態に係る情報処理装置20では、露光装置1における露光条件を走査方向及び非走査方向に平行な断面内における異方性に関して分類することによって入力データが作成される。
【0088】
次に、露光装置1において上記の露光条件の下で露光を行うことで投影光学系114の結像特性(収差)の時間変化を実際に計測し、予測モデルの補正係数を算出することで教師データを作成する。
【0089】
そして、入力データと教師データとから構成される学習用データを繰り返し作成、すなわち露光エネルギーの密度分布の特徴量と補正係数との間の相関を繰り返し学習し、学習モデルを作成する。
これにより、作成された学習モデルから実際の露光条件に応じた予測モデルの補正係数を示す出力データを取得することで、露光時における投影光学系114の結像特性の時間変化を適切かつ効率的に予測することができる。
【0090】
次に、本実施形態に係る情報処理装置20において実際に行われる処理について説明する。
【0091】
図7は、本実施形態に係る情報処理装置20において行われる処理のフローチャートを示している。
【0092】
まずステップS1では、照明光学系104によって形成される有効光源分布の特徴量を算出する。
例えば、図5(a)に示されているXダイポール照明が照射された場合を考える。このとき、有効光源測定器135がXダイポール照明の有効光源分布と等価な光強度分布を測定することで、X方向(非走査方向)に光強度が強いことを示す、例えばXY強度比が98%であると算出する。
【0093】
次にステップS2では、レチクル113に形成されている回路パターンの特徴量を算出する。
例えば、図5(b)に示されている回路パターンがレチクル113に形成されている場合を考える。
このとき、不図示のレチクル線幅測定器がレチクル113に形成されている回路パターンを測定することで、例えばL&Sのピッチが600nmであると算出する。また、回路パターンに垂直L&Sパターンが多く含まれている、例えばHV比が85%であると算出する。
これにより、レチクル113に形成されている回路パターンは水平方向(X方向)に沿って回折光を発生させる指向性を有していることがわかる。
【0094】
そしてステップS3では、ステップS1及びS2で算出された特徴量から投影光学系114における露光エネルギーの密度分布の特徴量を分類することで入力データを作成する。
ステップS3において入力データを作成する際に用いられるテーブルの例が以下の表3に示されている。
【0095】
【表3】
【0096】
表3に示されているテーブルから、ステップS1で算出されたXY強度比=98%は「90%以上100%以下」に分類され、ステップS2で算出されたL&Sのピッチ=600nmは「500nm以上700nm未満」に分類される。
また、ステップS2で算出されたHV比=85%は「75%以上100%以下」に分類される。
【0097】
このようにして投影光学系114における露光エネルギーの密度分布の特徴量を分類することで、入力データを作成する。
なお、以上に示したステップS1乃至S3を入力データ作成工程801と称する。
【0098】
次に、ステップS4では露光条件に適切、すなわちステップS3において作成された入力データに対応する補正係数を推定する。具体的には、学習モデルに既に補正係数が含まれているか判定する。
【0099】
学習モデルに補正係数が含まれていない場合には(ステップS4のNo)、ステップS5に移行し、予め設定されている設計条件の補正係数、すなわち補正係数の初期値を選択する。
一方、学習モデルに補正係数が含まれている場合には(ステップS4のYes)、ステップS6に移行し、入力データに対して最も相関度が高い補正係数を選択する(相関度については後述する)。
なお、以上に示したステップS4乃至S6を補正係数推定工程802と称する。
【0100】
図8(a)は、ステップS5において選択される設計条件の補正係数M、M、T及びTを用いた予測モデル601を示している。
なお図8(a)では、投影光学系114の結像特性として倍率Mを示しており、すなわち式(1)及び(2)におけるF及びFがそれぞれM及びMに置き換えられている。
【0101】
図8(a)に示されているように、倍率Mの初期値、すなわち初期倍率をMとし、時刻tにおいてレーザー光源101から出射した露光光が投影光学系114を通過することで露光動作が開始されると、倍率Mが時間変化を示す。
そして、時刻tにおいて倍率Mが最大変動倍率Mに到達した後、倍率Mは最大変動倍率Mからほとんど変化しなくなる。
【0102】
そして、時刻tにおいて露光動作を停止すると、倍率Mは時間tが経過すると共に初期倍率Mに再び近づくように変動し、時刻tにおいて初期倍率Mに到達する。
ここで、予測モデル601では投影光学系114の倍率Mの時間変化について方向差は生じないことに注意されたい。
【0103】
次に、ステップS7では図5(a)及び(b)に示されている露光条件による製品ロットの露光処理中において投影光学系114の倍率Mの時間変化を実際に計測する。
【0104】
図8(b)は、ステップS7において計測される倍率Mの時間変化の例を示している。
具体的には、投影光学系114の所定のX座標において計測された倍率Mの時間変化MX1乃至MX10、及び所定のY座標において計測された倍率Mの時間変化MY1乃至MY10、が示されている。
【0105】
次にステップS8では、ステップS7において計測されたデータに対する式(1)及び式(2)で表される予測モデルの補正係数を算出する。
具体的には、時刻tからtまでのX方向における倍率Mの時間変化MX1乃至MX7(露光特性)に対しては、式(1)で表される予測モデルでフィッティングを行うことで補正係数M及びThXを算出する。そして、時刻tからtまでのX方向における倍率Mの時間変化MX8乃至MX10(非露光特性)に対しては式(2)で表される予測モデルでフィッティングを行うことで、補正係数M及びTcXを算出する。
【0106】
同様に、時刻tからtまでのY方向における倍率Mの時間変化MY1乃至MY7(露光特性)に対しては、式(1)で表される予測モデルでフィッティングを行うことで補正係数M及びThYを算出する。そして、時刻tからtまでのY方向における倍率Mの時間変化MY8乃至MY10(非露光特性)に対しては式(2)で表される予測モデルでフィッティングを行うことで、補正係数M及びTcYを算出する。
このようにして取得された予測モデルがそれぞれ、図8(b)において予測モデル602及び603として示されている。
【0107】
また、上記のステップS8で算出される補正係数M、M、ThX、ThY、TcX及びTcYの例が以下の表4に示されている。
【表4】
なおここで、最大変動倍率M及びMそれぞれについては、初期倍率Mに対するずれの割合、すなわち(M-M)/M及び(M-M)/Mで表している。
【0108】
このようにして、表4に示されているテーブルから上記の表3に示される入力データに対応する教師データを得ることができる。
なお、以上に示したステップS7及びS8を教師データ作成工程803と称する。
【0109】
次にステップS9では、入力データである投影光学系114における露光エネルギーの密度分布の特徴量と教師データ及び出力データである補正係数との間の相関度を、予測モデルにおける予測誤差から算出する。
【0110】
図8(c)は、ステップS9において上記の相関度を算出する様子を示す模式図である。
具体的には、図8(c)において所定の露光条件において投影光学系114の倍率Mの時間変化を計測することで取得される複数の計測点と、所定の補正係数を用いた予測モデル604とが示されている。
【0111】
ここでステップS9では、取得された複数の計測点のうち、予測モデル604との誤差が最も大きい値(予測モデルから最も離間している計測点に対する差)を予測誤差Dとし、予測誤差Dを予測モデル604の相関度として記録する。
すなわち、上記の例ではステップS7において計測された複数の計測点に対して、ステップS5において選択された予測モデル601とステップS8において取得された予測モデル602及び603とのそれぞれから予測誤差Dを算出し、相関度として記録する。
【0112】
なお、例えば予測モデル602及び603それぞれにおいて算出される相関度、すなわち予測誤差Dの値が表4に示されている。
ここで相関度、すなわち予測誤差Dについては、予測誤差Dを算出する際の計測点における倍率Mmeasの予測モデルから算出される倍率Mcalcに対するずれの割合、すなわち(Mmeas-Mcalc)/Mcalcで表している。
【0113】
これにより、表3に例示される露光条件に応じた入力データと、表4に例示される教師データ及び相関度とから、定量的に学習を行うことが可能となる。
なお、以上に示したステップS9を学習工程804と称する。
【0114】
そして、次回以降において同様の露光条件で露光処理を行う際には、今回までに取得された相関度のデータに基づいて補正係数を推定することができる。
また、ステップS10において同様の露光条件で繰り返し製品ロットを生産するか判定する。
そして生産を行う場合には(ステップS10のYes)、ステップS4へ戻り、生産を行わない場合には(ステップS10のNo)、処理を終了する。
【0115】
ステップS4に戻ると、補正係数推定工程802を再び実施する。すなわち、ステップS4において予測モデルの補正係数を推定する。
このとき、学習モデルには前回までのステップS9において学習された補正係数が含まれている(ステップS4のYes)。
そのため、ステップS6に移行した後、ステップS6において学習モデルに蓄積されている補正係数の中から予測誤差Dが最も小さい、すなわち相関度が最も高い補正係数を選択する。
【0116】
そして、ステップS7乃至S10へと移行することで、同様の露光条件での製品ロットの生産を終了するまで学習を繰り返し行う。
このようにして、製品ロットの露光処理中において露光条件毎の投影光学系114の倍率Mの時間変化を繰り返し機械学習し補正係数を蓄積することで、倍率MがX方向とY方向とで互いに異なる時間変化を示しても、補正係数の推定精度を高めることができる。
【0117】
そして露光装置1では、推定した補正係数に基づいて投影光学系114の倍率、歪曲、非点収差、球面収差、コマ収差及び波面収差を補正する際には、フィールドレンズ127を時刻に応じて移動させる。
また、推定した補正係数に基づいて投影光学系114のフォーカスを補正する際には、ウェハステージ116の光軸方向の位置を時刻に応じて変化させる。
【0118】
以上のように、本実施形態に係る情報処理装置20では、露光装置における露光条件を入力データ、投影光学系114の結像特性の時間変化を予測する予測モデルの補正係数を教師データとした学習モデルを作成している。
そして、原版の種類の増加等、露光条件の数が増大しても、作成された学習モデルから予測モデルの補正係数を与える出力データを取得することで、投影光学系の結像特性の時間変化を効率的に予測することができる。
【0119】
なお上記では、投影光学系114の結像特性の変動として倍率Mの時間変化について説明したが、これに限られない。例えば本実施形態に係る情報処理装置20は、投影光学系114の結像特性としてフォーカス、歪曲、非点収差、球面収差、コマ収差及び波面収差等にも適用することが可能である。
また上記では、図5(a)乃至(d)に示されているXダイポール照明による露光エネルギーの密度分布の特徴量について説明したが、これに限られない。例えば本実施形態に係る情報処理装置20は、図6(a)乃至(d)に示されているYダイポール照明による露光エネルギーの密度分布の特徴量にも適用することが可能である。
【0120】
[第二実施形態]
図9は、第二実施形態に係る情報処理装置220が設けられている露光処理システム1000のブロック図を示している。
【0121】
第一実施形態に係る情報処理装置20は、図1に示されているように、露光装置1においてインタフェースケーブルで主制御装置103に接続されている、いわゆるスタンドアロンタイプの装置である。
一方、本実施形態に係る情報処理装置220は、図9に示すように、露光処理システム1000においてネットワークケーブル1003を介して露光装置1001及び露光装置1002を含む複数の露光装置に接続されている、所謂オンラインタイプの装置である。
また図9に示されているように、本実施形態に係る情報処理装置220は、レチクル113の回路パターンを測定するためのレチクルパターン測定器1005にもネットワークケーブル1003を介して接続されている。
【0122】
すなわち、本実施形態に係る情報処理装置220は情報処理手段とてしてのコンピュータであり、複数の露光装置それぞれにおける学習用データに基づいて、予測モデルの補正係数に関する機械学習を実施することができる。
具体的には、各露光装置において測定される有効光源分布のデータと、レチクルパターン測定器1005によって測定される回路パターンのデータとから入力データを作成する。
【0123】
そして、各露光装置において取得される投影光学系114の結像特性の計測値から予測モデルの補正係数を算出することで教師データを作成し、入力データと教師データとの間の相関度データを算出して蓄積する。
このようにして複数の露光装置に対して学習した露光条件毎の相関度データを記録装置30に記録し学習モデルを作成することで、補正係数の推測精度をさらに高めることが可能となる。
【0124】
以上のように、本実施形態に係る情報処理装置220では、露光装置における露光条件を入力データ、投影光学系114の結像特性の時間変化を予測する予測モデルの補正係数を教師データとした学習モデルを作成している。
そして、原版の種類の増加等、露光条件の数が増大しても、作成された学習モデルから予測モデルの補正係数を与える出力データを取得することができる。
加えて、本実施形態に係る情報処理装置220では、複数の露光装置における学習用データを用いて学習モデルを作成することで、投影光学系の結像特性の時間変化をさらに効率的に予測することができる。
【0125】
[物品の製造方法]
次に、第一及び第二実施形態のいずれかに係る情報処理装置を備える露光装置を用いた物品の製造方法について説明する。
【0126】
物品は、半導体デバイス、表示デバイス、カラーフィルタ、光学部品、MEMS等である。
例えば、半導体デバイスは、ウェハに回路パターンを作るための前工程と、前工程で作られた回路チップを製品として完成させるための、加工工程を含む後工程とを経ることにより製造される。
【0127】
前工程は、第一及び第二実施形態のいずれかに係る情報処理装置を備える露光装置を使用して感光剤が塗布されたウェハを露光する露光工程と、感光剤を現像する現像工程とを含む。
そして、現像された感光剤のパターンをマスクとしてエッチング工程やイオン注入工程等が行われ、ウェハ上に回路パターンが形成される。
【0128】
これらの露光、現像、エッチング等の工程を繰り返して、ウェハ上に複数の層からなる回路パターンが形成される。
後工程で、回路パターンが形成されたウェハ上に対してダイシングを行い、チップのマウンティング、ボンディング、検査工程を行う。
【0129】
表示デバイスは、透明電極を形成する工程を経ることにより製造される。透明電極を形成する工程は、透明導電膜が蒸着されたガラスウェハ上に感光剤を塗布する工程と、第一及び第二実施形態のいずれかに係る情報処理装置を備える露光装置を使用して感光剤が塗布されたガラスウェハを露光する工程とを含む。また透明電極を形成する工程は、露光された感光剤を現像する工程を含む。
【0130】
本実施形態に係る物品の製造方法によれば、従来よりも高品位且つ高生産性の物品を製造することができる。
【0131】
以上、好ましい実施形態について説明したが、これらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
また、上記では本実施形態に係る情報処理装置について説明したが、上記に示した情報処理方法、該方法を実施するためのプログラム、及び該プログラムが記録されたコンピュータが読み取り可能な記録媒体も本実施形態の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0132】
1 露光装置
20 情報処理装置
114 投影光学系
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9