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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】X線検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/17 20060101AFI20240902BHJP
   G01T 7/00 20060101ALI20240902BHJP
   G01T 1/24 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
G01T1/17 G
G01T7/00 B
G01T1/24
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020215429
(22)【出願日】2020-12-24
(65)【公開番号】P2022101063
(43)【公開日】2022-07-06
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】市河 実
(72)【発明者】
【氏名】藤田 一樹
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-55842(JP,A)
【文献】特開2003-329622(JP,A)
【文献】特開2004-89445(JP,A)
【文献】特表2016-534374(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0251419(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/00-1/16
G01T 167-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面、前記第1面の反対を向く第2面、前記第1面から前記第2面にかけて貫通する複数のX線通過領域、及び前記複数のX線通過領域の間に配置されたX線遮蔽領域を有するキャピラリと、
前記キャピラリの前記第2面と対向する第3面、及び前記第3面の反対を向く第4面を有しておりX線を吸収してキャリアを発生する変換部、並びに、前記第4面において二次元状に配列された複数の画素電極部を有するX線検出素子と、
前記変換部から前記複数の画素電極部を介して収集されるキャリアを検出する検出回路と、
を備え、
X線入射方向から見た各X線通過領域の内径は、同方向から見た各画素電極部の配列方向の幅よりも小さく、
前記検出回路は、X線の入射によって発生した複数のキャリアが二以上の画素電極部に分散して収集された場合に、そのX線が入射した位置に対応する前記画素電極部を判定してその画素電極部におけるキャリア量を補正して評価するか、又はそのX線の入射を無視する、X線検出装置。
【請求項2】
前記キャピラリの前記複数のX線通過領域は、前記第1面及び前記第2面において三角格子上に配置され、
前記X線検出素子の前記複数の画素電極部は、前記第4面において行方向および列方向に並んで配置されている、請求項1に記載のX線検出装置。
【請求項3】
前記第2面と前記第3面とが空隙を介して互いに離れている、請求項1または2に記載のX線検出装置。
【請求項4】
前記第2面と前記第3面とが接着剤を介して互いに接合されている、請求項1または2に記載のX線検出装置。
【請求項5】
前記複数のX線通過領域の中心軸線は互いに平行である、請求項1~4のいずれか1項に記載のX線検出装置。
【請求項6】
前記キャピラリ、前記X線検出素子、及び前記検出回路を気密に収容する容器を更に備え、
前記容器は、前記キャピラリへ向かうX線を透過させる窓材を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のX線検出装置。
【請求項7】
前記キャピラリの側面に固定されて前記キャピラリを支持する支持部を更に備える、請求項1~6のいずれか1項に記載のX線検出装置。
【請求項8】
前記X線検出素子を搭載するベース部材と、
前記ベース部材上に立設され、前記キャピラリを支持する支持体と、
を更に備える、請求項1~6のいずれか1項に記載のX線検出装置。
【請求項9】
前記検出回路は半導体集積素子に内蔵されており、
前記X線検出素子の前記第4面は前記半導体集積素子と対向し、前記複数の画素電極部は前記半導体集積素子に金属製のバンプを介して接続されている、請求項1~8のいずれか1項に記載のX線検出装置。
【請求項10】
一つの前記キャピラリに複数の前記X線検出素子が対向している、請求項1~9のいずれか1項に記載のX線検出装置。
【請求項11】
複数の前記キャピラリに一つの前記X線検出素子が対向している、請求項1~9のいずれか1項に記載のX線検出装置。
【請求項12】
所定方向に並ぶ二以上の前記X線検出素子からなる第1の素子列と、
前記第1の素子列に沿って並ぶ二以上の前記X線検出素子からなる第2の素子列と、
を備え、
前記第1の素子列の各X線検出素子と前記第2の素子列の各X線検出素子とが互い違いに配列されている、請求項1~11のいずれか1項に記載のX線検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、X線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、X線撮像装置に関する技術が開示されている。このX線撮像装置は、ビーム照射手段と、撮像手段と、角度発散制限手段と、X線画像表示手段と、を備える。ビーム照射手段は、X線、粒子線、またはイオンビームのいずれかのビームを物質の表面に照射する。撮像手段は、X線領域の波長に対して感度を有する。角度発散制限手段は、撮像手段に入射するX線の角度発散を制御する。X線画像表示手段は、撮像手段で撮像されるX線画像を表示する。このX線撮像装置は、ビームが物質に照射されることで発生する蛍光X線および散乱X線を撮像手段において撮像し、撮像された画像をX線画像表示手段に動画像として表示する。
【0003】
特許文献2には、二次元フォトンカウンティング素子に関する技術が開示されている。この素子は、光子の入射によって発生した複数のキャリアが複数の画素電極部に分散して収集された場合であっても、光子が入射した位置を特定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-329622号公報
【文献】国際公開第2015/87663号
【非特許文献】
【0005】
【文献】R. Ballabriga et al., "The Medipix3RX: a high resolution, zerodead-time pixel detector readout chip allowing spectroscopic imaging", IOPScience, February 8, 2013
【文献】Grzegorz W. Deptuch et al., "An algorithm of an X-ray Hitallocation to a single pixel in a cluster and Its test-circuit implementation",IEEE Transactions on Circuits and Systems, Volume 65, Issue 1, pp. 185-197, Jan2018
【文献】Matthew C. Veale, Matthew David Wilson, Steven James Bell, andDimitris Kitou, "An ASIC for the Study of Charge Sharing Effects in SmallPixel CdZnTe X-Ray Detectors", IEEE Transactions on Nuclear Science,November 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
X線を検出する素子として、表面側から入射したX線を吸収してキャリアを発生する変換部と、変換部の裏面に配列された複数の画素電極とを有するものがある。このようなX線検出素子により得られる画質を向上するために、X線検出素子の表面と対向して、キャピラリ(例えばキャピラリプレート)を配置することがある。ここでいうキャピラリとは、X線遮蔽領域を貫通する複数のX線通過領域(例えば孔)を有する部材である。複数のX線通過領域の中心軸線を互いに平行とすることによって、X線の平行成分のみを通過させ、画質を向上することができる。
【0007】
この場合、キャピラリの複数のX線通過領域の内径がX線検出素子の画素電極よりも小さいほど、空間分解能が小さくなるので鮮明な画像を得ることができると一般には考えられてきた。しかしながら、本発明者の研究により、必ずしもそうとは限らないことが判明した。隣接する画素電極間には、画素電極同士を電気的に絶縁するための隙間が必ず設けられている。キャピラリのX線通過領域の内径が小さくなるほど、この隙間の上にX線通過領域が配置され易くなる。この隙間の上に配置されたX線通過領域を通過したX線により発生した複数のキャリアは、この隙間の両側に位置する2つの画素電極に分散して収集される(チャージシェア)。その結果、X線の入射位置が曖昧となってエネルギー分解能が低下し、画像が不鮮明化する一因となる。
【0008】
本開示は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、X線検出素子およびキャピラリを備えるX線検出装置において、チャージシェアに起因する画像の不鮮明化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、本開示によるX線検出装置は、キャピラリと、X線検出素子と、検出回路と、を備える。キャピラリは、第1面と、第1面の反対を向く第2面と、第1面から第2面にかけて貫通する複数のX線通過領域と、複数のX線通過領域の間に配置されたX線遮蔽領域と、を有する。X線検出素子は、変換部と、複数の画素電極部とを有する。変換部は、キャピラリの第2面と対向する第3面、及び第3面の反対を向く第4面を有し、X線を吸収してキャリアを発生する。複数の画素電極部は、変換部の第4面において、二次元状に配列されている。検出回路は、変換部から複数の画素電極部を介して収集されるキャリアを検出する。X線入射方向から見た各X線通過領域の内径は、同方向から見た各画素電極部の配列方向の幅よりも小さい。検出回路は、X線の入射によって発生した複数のキャリアが二以上の画素電極部に分散して収集された場合に、そのX線が入射した位置に対応する画素電極部を判定してその画素電極部におけるキャリア量を補正して評価するか、又はそのX線の入射を無視する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、X線検出素子およびキャピラリを備えるX線検出装置において、チャージシェアに起因する画像の不鮮明化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態におけるX線検出装置の構成を示す断面図である。
図2】キャピラリプレートの外観を示す切り欠き斜視図である。
図3】キャピラリプレートによる効果の例を説明するための図である。
図4】X線検出素子及び半導体集積素子の構成を示す模式図である。
図5】変換部の裏面における複数の画素電極部の配置を示す平面図である。
図6】一つの画素電極部が、複数の電極を含む場合を示す図である。
図7】ガードリングの作用効果を説明する図である。
図8】(a),(b),(c)閾値を超える量のキャリアが収集された画素電極部が同時に2つ以上存在する場合に、そのX線の入射を無視する方式を説明するための図である。
図9】X線検出素子及び半導体集積素子を示す斜視図である。
図10】キャピラリプレート、X線検出素子及び半導体集積素子の配置を模式的に示す図である。
図11】第1変形例に係る構成を模式的に示す図である。
図12】(a)第2変形例に係る構成を模式的に示す図である。(b)第3変形例に係る構成を模式的に示す図である。
図13】第4変形例に係る構成を模式的に示す図である。
図14】第5変形例に係る構成を模式的に示す図である。
図15】第6変形例に係る構成を模式的に示す図である。(a)一つのキャピラリプレートに複数のX線検出素子が対向する例を示す図である。(b)複数のキャピラリプレートに一つのX線検出素子が対向する例を示す図である。
図16】第7変形例に係る構成を模式的に示す図である。
図17】第7変形例に係る構成を模式的に示す図である。
図18】第7変形例に係る構成を模式的に示す図である。
図19】第8変形例に係るキャピラリレンズの側面図である。
図20】第9変形例における画素回路の内部構成の一例を示す図である。
図21】(a)複数の電極が一つの信号生成部の入力端に接続される場合を示す図である。(b)複数の電極それぞれが複数の信号生成部それぞれに接続される場合を示す図である。
図22】自電極部と、自電極部を囲む8個の周囲電極部とを示す図である。
図23】(a)~(j)キャリア入力パターン判別部に設定される複数の判別パターンの一例として、10個の判別パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の一側面に係るX線検出装置は、キャピラリと、X線検出素子と、検出回路と、を備える。キャピラリは、第1面と、第1面の反対を向く第2面と、第1面から第2面にかけて貫通する複数のX線通過領域と、複数のX線通過領域の間に配置されたX線遮蔽領域と、を有する。X線検出素子は、変換部と、複数の画素電極部とを有する。変換部は、キャピラリの第2面と対向する第3面、及び第3面の反対を向く第4面を有し、X線を吸収してキャリアを発生する。複数の画素電極部は、変換部の第4面において、二次元状に配列されている。検出回路は、変換部から複数の画素電極部を介して収集されるキャリアを検出する。X線入射方向から見た各X線通過領域の内径は、同方向から見た各画素電極部の配列方向の幅よりも小さい。検出回路は、X線の入射によって発生した複数のキャリアが二以上の画素電極部に分散して収集された場合に、そのX線が入射した位置に対応する画素電極部を判定してその画素電極部におけるキャリア量を補正して評価するか、又はそのX線の入射を無視する。
【0013】
このX線検出装置では、チャージシェアが生じた場合(すなわち、X線の入射によって発生した複数のキャリアが複数の画素電極部に分散して収集された場合)に、検出回路が、そのX線が入射した位置に対応する画素電極部を判定してその画素電極部におけるキャリア量を補正して評価するか、又はそのX線の入射を無視する。これにより、キャリアの分散による画像への影響を低減することが可能となるので、エネルギー分解能を改善でき、チャージシェアに起因する画像の不鮮明化を抑制することができる。
【0014】
上記のX線検出装置において、キャピラリの複数のX線通過領域は、第1面及び第2面において三角格子上に配置され、X線検出素子の複数の画素電極部は、第4面において行方向および列方向に並んで配置されていてもよい。このように複数のX線通過領域の配列形式が複数の画素電極部の配列形式と異なる場合、画素電極部間の隙間の上にX線通過領域が更に配置され易くなる。このような場合に、上記のX線検出装置の構成は特に有用である。
【0015】
上記のX線検出装置において、第2面と第3面とが空隙を介して互いに離れていてもよい。キャピラリがX線検出素子から離れているほど、各X線通過領域を通過したX線が拡がるので、チャージシェアが生じ易くなる。このような場合に、上記のX線検出装置の構成は特に有用である。また、キャピラリがX線検出素子から離れていることによって、キャピラリ及びX線検出素子の配置の自由度を高めることができる。
【0016】
上記のX線検出装置において、第2面と第3面とが接着剤を介して互いに接合されてもよい。この場合、各X線通過領域を通過したX線が拡がる前にそのX線がX線検出素子の変換部に到達するので、第2面と第3面とが空隙を介して互いに離れている場合と比較して、チャージシェアを低減することができる。
【0017】
上記のX線検出装置において、複数のX線通過領域の中心軸線は互いに平行であってもよい。この場合、キャピラリを通過したX線を平行化して、X線画像の鮮明度を高めることができる。
【0018】
上記のX線検出装置は、キャピラリ、X線検出素子、及び検出回路を気密に収容する容器を更に備え、容器は、キャピラリへ向かうX線を透過させる窓材を有してもよい。この場合、キャピラリ、X線検出素子、及び検出回路に塵埃が付着することを防止できる。特に、キャピラリのX線通過領域が微細な孔である場合、孔内に塵埃が入り込むと取り除くことが困難となり、画質の劣化につながる。上記の容器をX線検出装置が備えることによって、孔内に塵埃が入り込むことを防ぎ、画質を維持することができる。
【0019】
上記のX線検出装置は、キャピラリの側面に固定されてキャピラリを支持する支持部を更に備えてもよい。この場合、キャピラリの第2面を支持する場合と比較して、キャピラリを支持する部材の厚み分だけキャピラリをX線検出素子に近づけることができる。故に、各X線通過領域を通過したX線が拡がる程度を小さくして、チャージシェアを低減することができる。
【0020】
上記のX線検出装置は、X線検出素子を搭載するベース部材と、ベース部材上に立設され、キャピラリを支持する支持体と、を更に備えてもよい。この場合、キャピラリの第2面とX線検出素子の第3面とを互いに平行に近づける(言い換えると、X線通過領域の中心軸線をX線検出素子の第3面に対して垂直に近づける)ことが容易にできる。
【0021】
上記のX線検出装置において、検出回路は半導体集積素子に内蔵されており、X線検出素子の第4面は半導体集積素子と対向し、複数の画素電極部は半導体集積素子に金属製のバンプを介して接続されてもよい。通常、導電接続に用いられるバンプは、鉛(Pb)や金(Au)などの原子番号が比較的大きな金属を主に含んでおり、X線を遮蔽する作用を有する。従って、複数の画素電極部が半導体集積素子に金属製のバンプを介して接続されることによって、半導体集積素子内の検出回路の少なくとも一部をX線から保護することができる。
【0022】
上記のX線検出装置において、一つのキャピラリに複数のX線検出素子が対向してもよい。この場合、複数のX線検出素子を並べて配置するので、小型のX線検出素子を用いて受光領域の大面積化が可能になる。
【0023】
上記のX線検出装置において、複数のキャピラリに一つのX線検出素子が対向してもよい。この場合、複数のキャピラリを並べて配置するので、大面積のキャピラリの製造歩留まりが低い場合であっても、小面積のキャピラリを複数用いて歩留まり良くX線検出装置を製造することができる。
【0024】
上記のX線検出装置は、所定方向に並ぶ二以上のX線検出素子からなる第1の素子列と、第1の素子列に沿って並ぶ二以上のX線検出素子からなる第2の素子列と、を備え、第1の素子列の各X線検出素子と第2の素子列の各X線検出素子とが互い違いに配列されていてもよい。この場合、X線検出装置をラインセンサとして用いる際に、X線検出素子間の不感領域(デッドエリア)を小さくする(または無くす)ことが可能になる。
【0025】
以下、添付図面を参照しながら本開示によるX線検出装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0026】
図1は、本実施形態におけるX線検出装置1の構成を示す断面図である。図1に示すように、本実施形態のX線検出装置1は、キャピラリプレート2と、X線検出素子3と、半導体集積素子4と、ベース部材6と、ヒートシンク7と、ペルチェ素子8と、複数の回路基板9と、容器10とを備えている。
【0027】
キャピラリプレート2は、本実施形態におけるキャピラリの例である。キャピラリプレート2は、X線検出装置1に入射したX線をX線検出素子3に向けて平行化する。キャピラリプレート2は、表面21(第1面)と、表面21の反対を向く裏面22(第2面)とを有する板状を呈している。一例では、表面21と裏面22とは互いに平行である。
【0028】
図2は、キャピラリプレート2の外観を示す切り欠き斜視図である。図2に示すように、表面21及び裏面22の法線方向(すなわちX線入射方向)から見たキャピラリプレート2の形状は円形である。キャピラリプレート2の形状はこれに限られず、正方形や長方形など他の形状であってもよい。キャピラリプレート2は、複数のX線通過領域23を有する。各X線通過領域23は、表面21から裏面22にかけてキャピラリプレート2を貫通している。一例では、X線通過領域23は表面21から裏面22にかけて貫通する孔である。X線通過領域23はこれに限らず、孔内に充填されたX線透過可能な材料からなってもよい。表面21及び裏面22の法線方向から見たX線通過領域23の形状は、例えば円形である。複数のX線通過領域23は、表面21及び裏面22において三角格子上に(より詳細には、各X線通過領域23の中心軸線が三角格子の各格子点と重なるように)配置されている。複数のX線通過領域23の中心軸線は、互いに平行であり、表面21及び裏面22の法線方向に沿っている。キャピラリプレート2は、X線遮蔽領域24を更に有する。X線遮蔽領域24は、複数のX線通過領域23の間に配置されている。言い換えると、キャピラリプレート2のX線通過領域23以外の部分は全てX線遮蔽領域24である。
【0029】
このような構成を有するキャピラリプレート2は、例えば、円柱状の第1の部材の周囲にX線を遮蔽する筒状の第2の部材を配置した構成物を多数作製し、その構成物を束ねて軸線方向に引き延ばしたのち、その構成物を軸線と垂直な面に沿って板状に切断し、第1の部材をエッチング除去することによって作製され得る。キャピラリプレート2の周縁部には、X線通過領域23が形成されておらずX線を遮蔽する不通過領域25が存在する。不通過領域25は、X線遮蔽領域24と同じ材料からなってもよく、X線遮蔽領域24と異なる材料からなってもよい。不通過領域25は円形の枠状を呈しており、キャピラリプレート2を作製する際、上記構成物を引き延ばすときに上記構成物を保持するために設けられる。
【0030】
X線は、表面21側からキャピラリプレート2に入射し、X線通過領域23を通って裏面22側から出射する。X線通過領域23の中心軸線方向に対して傾斜する方向に進むX線は、X線遮蔽領域24によって遮られ、裏面22側から出射されない。これにより、キャピラリプレート2は、入射したX線の進行方向を裏面22の法線方向に揃え、X線を平行化して出射する。
【0031】
図3は、キャピラリプレート2による効果の例を説明するための図である。目的物CにX線源D1から励起X線XR1が照射されると、目的物Cが励起されて検出対象である蛍光X線XR2を発生する。蛍光X線XR2に含まれる平行成分は、キャピラリプレート2のX線通過領域23を通過してX線検出素子3に達する。X線源D1の光軸はX線通過領域23の中心軸線方向(すなわち表面21の法線方向)に対して傾斜しており、励起X線XR1はX線通過領域23を殆ど通過しない。これにより、X線検出素子3へ達する励起X線XR1を減少させ、蛍光X線XR2を精度良く検出することができる。
【0032】
一実施例では、キャピラリプレート2の直径(キャピラリプレート2の平面形状が四角形である場合は長辺の長さ)は1mm~1000mmの範囲内であり、一実施例では25mmである。X線通過領域23の内径は数μm~数百μmの範囲内であり、一実施例では25μmである。X線通過領域23の中心間隔(ピッチ)は数μm~数百μmの範囲内である。キャピラリプレート2の厚さ(表面21と裏面22との距離、言い換えるとX線通過領域23の長さ)は数百μm~数十mmの範囲内であり、一実施例では5.0mmである。X線遮蔽領域24の材質は例えば鉛ガラスである。
【0033】
再び図1を参照する。X線検出素子3は、キャピラリプレート2の裏面22と対向して配置され、キャピラリプレート2を通過したX線(例えば図3に示された蛍光X線XR2)を検出する。X線検出素子3は、半導体集積素子4上に搭載されている。一例では、X線検出素子3は半導体集積素子4に対してフリップチップ実装されている。図4は、X線検出素子3及び半導体集積素子4の構成を示す模式図である。図4に示されるように、本実施形態のX線検出素子3は、変換部31と、複数の画素電極部Bとを有する。
【0034】
変換部31は、X線XRを吸収してキャリアを発生するバルク状若しくは層状の部材である。変換部31は、例えばCdTe、CdZnTe、GaAs、InP、TlBr、HgI、PbI、Si、Ge、及びa-Seのうち少なくとも一つを含む材料によって構成されている。変換部31は、X線XRの入射方向と交差する平面に沿って拡がっており、互いに反対を向く表面31a及び裏面31bを有する。一例では、表面31aは裏面31bと平行である。変換部31の平面形状は、例えば長方形または正方形である。変換部31の長辺(または一辺)の長さは、例えば1mm~500mmの範囲内である。表面31a上には、バイアス電極(共通電極)33が表面31aの全面を覆うように設けられている。表面31aはキャピラリプレート2の裏面22と対向しており、表面31aには、キャピラリプレート2及びバイアス電極33を通過したX線XRが入射する。キャピラリプレート2の裏面22とX線検出素子3の表面31aとは、互いに平行に近づくように配置される。
【0035】
複数の画素電極部Bは、変換部31の裏面31bに設けられた導電膜であり、例えば金属膜である。複数の画素電極部Bとバイアス電極33との間には、変換部31の空乏化のため高いバイアス電圧が印加される。図5は、変換部31の裏面31bにおける複数の画素電極部Bの配置を示す平面図である。複数の画素電極部Bは、X線の入射方向から見てM行×N列(M,Nは2以上の整数)の二次元状(マトリクス状)に配列されている。画素電極部Bの平面形状は、例えば、行方向及び列方向に沿った辺を有する長方形又は正方形である。各画素電極部Bの行方向及び列方向の幅は、例えば10μm~10000μmの範囲内である。従って、X線入射方向から見たキャピラリプレート2の各X線通過領域23の内径は、同方向から見た各画素電極部Bの配列方向(行方向及び列方向)の幅よりも小さい。M×N個の画素電極部Bそれぞれは、変換部31においてM行N列の画素領域それぞれを形成する。各画素電極部Bは、対応する画素領域において発生したキャリアを収集する。図5の例では、各画素電極部Bは、一つの電極から成る。図6に示されるように、例えば、一つの画素電極部Bが、複数の電極bを含んでいてもよい。画素電極部Bの材質は例えばAl、AlCu、Au、その他の材質、またはそれらのうち2つ以上の組み合わせである。
【0036】
図5に示されるように、変換部31の裏面31bにおいて、複数の画素電極部Bからなる電極群と変換部31の縁部(側面31c)との間には、ガードリング34が設けられている。ガードリング34は、裏面31bに設けられた導電膜であり、例えば金属膜である。ガードリング34の電位は、画素電極部Bの電位と同じか、画素電極部Bの電位に近い大きさに設定される。図7は、ガードリング34の作用効果を説明する図である。X線検出素子3を作製する際、変換部31はダイシングにより個片化される。故に、変換部31の側面31cは粗面となっている。この側面31cから暗電流Aが画素電極部Bに到達すると、ノイズとなって画像の劣化につながる。ガードリング34は、側面31cと画素電極部Bとの間に配置されることによって、暗電流Aを吸収し、画素電極部Bに到達する暗電流Aを低減する。図5に示されるように、ガードリング34は、変換部31の側面31cに沿って設けられる。変換部31の平面形状が正方形又は長方形である場合、ガードリング34の平面形状もまた、正方形又は長方形の枠状である。
【0037】
図4に示されるように、半導体集積素子4は、検出回路5を内蔵している。検出回路5は、変換部31において発生したキャリアを、各画素電極部Bを介して画素領域毎に検出し、画素領域毎にX線の光子数をカウントする。検出回路5は、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの集積回路により実現される。検出回路5は、複数の画素回路(M×N個の画素回路)5aを有している。各画素回路5aは、対応する画素電極部Bにおいて収集されたキャリアを検出し、X線の光子数をカウントする。或いは、各画素回路5aは、対応する画素電極部Bにおいて収集されたキャリアを積分することにより、入射したX線の大きさを示す信号を生成してもよい。
【0038】
検出回路5は、X線の入射によって発生した複数のキャリアが二以上の画素電極部Bに分散して収集された場合に、そのX線が入射した位置に対応する画素電極部Bを判定して、その画素電極部Bにおけるキャリア量を補正して評価する。
【0039】
具体的には、検出回路5は、X線の入射によって発生したキャリアが二以上の画素電極部Bに分散して収集された場合、そのうち最も多くのキャリアが収集された画素電極部Bを、そのX線が入射した位置に対応する画素電極部Bと判定する。そして、その画素電極部Bと、その画素電極部Bを取り囲む8個の画素電極部Bとにおいて収集されたキャリアの総和を、X線が入射した位置に対応する画素電極部Bに収集されたキャリアの量として評価する。なお、この方法の詳細は非特許文献1及び2に記載されている。
【0040】
或いは、検出回路5は、X線の入射によって発生したキャリアが二以上の画素電極部Bに分散して収集された場合、そのX線の入射を無視してもよい。具体的には、或る閾値を予め設定し、その閾値を超える量のキャリアが収集された画素電極部Bが同時に2つ以上存在する場合に、検出回路5は、そのX線の入射を無視する。図8は、その方式の一例を説明するための図である。ここでは、閾値を2keVとして説明する。図8(a)は、或る画素電極部Baにおいて10keVに相当する量のキャリアが検出され、その周囲の画素電極部Bにおいてキャリアが検出されなかった場合を示す。この場合、閾値を超える量のキャリアが収集された画素電極部Bは1つのみであるので、その画素電極部Baを、X線が入射した位置に対応する画素電極部Bと判定する。そして、画素電極部Baにおけるキャリアの量を、X線が入射した位置に対応する画素電極部Bに収集されたキャリアの量として評価する。図8(b)は、或る画素電極部Baにおいて9keVに相当する量のキャリアが検出され、その周囲の或る画素電極部Bbにおいて1keVに相当する量のキャリアが検出された場合を示す。この場合もまた、閾値を超える量のキャリアが収集された画素電極部Bは1つのみであるので、X線の入射によって発生したキャリアが二以上の画素電極部Bに分散して収集されたとは判断されず、画素電極部Baを、X線が入射した位置に対応する画素電極部Bと判定する。そして、画素電極部Baにおけるキャリアの量を、X線が入射した位置に対応する画素電極部Bに収集されたキャリアの量として評価する。図8(c)は、或る画素電極部Baにおいて8keVに相当する量のキャリアが検出され、その周囲の或る画素電極部Bbにおいて2keVに相当する量のキャリアが検出された場合を示す。この場合、閾値を超える量のキャリアが収集された画素電極部Bは2つであるので、検出回路5は、X線の入射によって発生したキャリアが二以上の画素電極部Bに分散して収集されたと判断し、いずれの画素電極部Bも、X線が入射した位置に対応する画素電極部Bと判定しない。その結果、そのX線の入射は無視される。なお、この方法の詳細は非特許文献3に記載されている。
【0041】
上述した検出回路5の機能は、例えば論理回路を含む電子回路、コンピュータ(CPU及びメモリを含み、メモリに記憶されたプログラムをCPUが実行するもの)、又はそれらの組み合わせによって好適に実現され得る。
【0042】
図9は、X線検出素子3及び半導体集積素子4を示す斜視図である。図10は、キャピラリプレート2、X線検出素子3及び半導体集積素子4の配置を模式的に示す図である。これらの図に示されるように、X線検出素子3は、半導体集積素子4上に搭載されている。X線検出素子3の裏面31bは半導体集積素子4と対向しており、複数の画素電極部Bは、半導体集積素子4に金属製のバンプ41を介して接続されている。バンプ41は、鉛(Pb)や金(Au)などの原子番号が比較的大きな金属を主に含む。バンプ41の材質は例えば鉛はんだ、Au、In等であり、バンプ41の直径は例えば10μm~10000μmの範囲内である。バンプ41は、X線を遮蔽する作用を有し、半導体集積素子4内の各画素回路5aの少なくとも一部を、変換部31を透過したX線から保護する。バンプ41を構成する金属の原子番号は、変換部31を構成する材料の原子番号よりも大きいことが好ましい。X線入射方向におけるバンプ41の直下には、画素回路5aのうち特にX線の影響を受け易い回路部分が配置されるとよい。
【0043】
X線検出素子3の変換部31の表面31a側に設けられたバイアス電極33は、ボンディングワイヤ42を介していずれかの回路基板9(図1を参照)と電気的に接続されている。半導体集積素子4の表面(X線検出素子3と対向する面)には、バンプ41と接続されるM×N個の電極のほか、信号出力のための複数の電極が設けられている。これらの電極は、ボンディングワイヤ43を介して、いずれかの回路基板9と電気的に接続されている。図9に示されるように、平面視におけるボンディングワイヤ42の延出方向とボンディングワイヤ43の延出方向とは互いに交差しており、ボンディングワイヤ42とボンディングワイヤ43とは、平面視において互いに重ならず交差もしない。ボンディングワイヤ42を介してバイアス電極33に印加されるバイアス電圧は、ボンディングワイヤ43から出力される信号電圧と比べて格段に大きいので、このような構成により、バイアス電圧に起因する信号電圧への影響(ノイズ)を低減することができる。また、X線検出素子3上にはボンディングワイヤ42が突出するので、ボンディングワイヤ42とキャピラリプレート2との干渉を避ける為、図10に示されるように、キャピラリプレート2の裏面22とX線検出素子3の表面(バイアス電極33の表面)とは空隙を介して互いに離れている。一例では、裏面22とX線検出素子3の表面との距離は1mm~100mmの範囲内である。
【0044】
再び図1を参照する。ベース部材6は、X線検出素子3及び半導体集積素子4を搭載する板状またはブロック状の部材である。ベース部材6は、熱伝導率の高い材料からなり、一例では金属製である。一実施例では、ベース部材6はアルミニウムからなる。ベース部材6は、半導体集積素子4の裏面と対向する平坦な搭載面61と、搭載面61とは反対を向く平坦な裏面62とを有する。搭載面61は、熱伝導性のよい接着材(例えば銀ペースト、銅ペースト、放熱シート、その他の材質、またはそれらのうち2つ以上の組み合わせ)を介して、半導体集積素子4の裏面と接合されている。搭載面61の周囲には段差が設けられており、搭載面61から一段下がった面63上には、少なくとも一つの回路基板9が配置されている。
【0045】
複数の回路基板9のうち少なくとも一つは、ボンディングワイヤ43を介して半導体集積素子4と電気的に接続されている。他の回路基板9は、隣り合う別の回路基板9と電気的に接続されている。これらの回路基板9には、検出回路5の制御を行う為の回路、及び検出回路5の一部を構成する回路などが設けられている。回路基板9は、例えばプリント配線基板である。
【0046】
ヒートシンク7は、半導体集積素子4において発生する熱を放出して半導体集積素子4を冷却するために設けられている。ヒートシンク7は、ベース部材6の裏面62と対向する上面71と、上面71の向く方向とは反対方向に突出し上面71に沿った方向に並ぶ複数のフィン72とを有する。ヒートシンク7は、熱伝導率の高い材料からなり、一例では金属製である。ヒートシンク7の構成材料はベース部材6と同じであってもよく、異なってもよい。上面71は、ペルチェ素子8を介してベース部材6の裏面62と接合されている。ペルチェ素子8は、図示しない配線を介して供給される電力によって駆動され、ベース部材6からヒートシンク7へ熱を移動させる。
【0047】
容器10は、キャピラリプレート2、X線検出素子3、半導体集積素子4、ベース部材6、ヒートシンク7、ペルチェ素子8、及び回路基板9を収容する。容器10の材質は、例えばアルミ、鉄、ステンレス、その他の材質、またはそれらのうち2つ以上の組み合わせである。容器10は、互いに仕切られた少なくとも2つの空間11,12を有する。空間11は気密に保持され、キャピラリプレート2、X線検出素子3、半導体集積素子4、ベース部材6、及び回路基板9を収容する。空間12は通気口を介して容器10の外部空間と通じており、ヒートシンク7を収容する。空間11と空間12とは仕切り板13によって互いに仕切られている。仕切り板13は開口13aを有し、この開口13aにはペルチェ素子8が配置されている。そして、ヒートシンク7の周縁部が仕切り板13に接することによって、空間11の気密性が保たれている。
【0048】
空間12を画成する壁面(但し仕切り板13を除く)の一部には、ファン16が取り付けられている。ファン16は、壁面に設けられた図示しない開口を通じて吸気または排気を行う。これにより、ヒートシンク7から放出された熱は容器10の外へ放出される。
【0049】
空間11を画成する壁面(但し仕切り板13を除く)の一部には、X線が通過するための開口部110が形成されている。容器10は、その開口部110を気密に塞ぐ窓材14を更に有する。窓材14は、キャピラリプレート2へ向かうX線を透過させる。窓材14の材質は、例えばベリリウム、アルミ、カーボン、その他の材質、またはそれらのうち2つ以上の組み合わせである。キャピラリプレート2は、表面21が窓材14と対向するように、容器10の支持部15によって裏面22が支持されて、空間11を画成する壁面に固定されている。
【0050】
以上に説明した本実施形態のX線検出装置1によって得られる効果について説明する。前述したように、X線検出素子3により得られる画質を向上するために、X線検出素子3の表面と対向して、キャピラリプレート2を配置することがある。複数のX線通過領域23の中心軸線を互いに平行とすることによって、X線の平行成分のみを通過させ、画質を向上することができる。この場合、キャピラリプレート2の複数のX線通過領域23の内径が、画素電極部Bの配列方向の幅よりも小さいほど、鮮明な画像を得ることができると一般には考えられてきた。しかしながら、本発明者の研究により、必ずしもそうとは限らないことが判明した。隣接する画素電極部B間には、画素電極部B同士を電気的に絶縁するための隙間が必ず設けられている(図5を参照)。キャピラリプレート2のX線通過領域23の内径が小さくなるほど、この隙間の上にX線通過領域23が配置され易くなる。この隙間の上に配置されたX線通過領域23を通過したX線により発生した複数のキャリアは、この隙間の両側に位置する2つの画素電極部Bに分散して収集される(チャージシェア)。その結果、X線の入射位置が曖昧となってエネルギー分解能が低下し、画像が不鮮明化する一因となる。
【0051】
このような問題に対し、本実施形態のX線検出装置1では、チャージシェアが生じた場合(すなわち、X線の入射によって発生した複数のキャリアが複数の画素電極部Bに分散して収集された場合)に、検出回路5が、そのX線が入射した位置に対応する画素電極部Bを判定してその画素電極部Bにおけるキャリア量を補正して評価するか、又はそのX線の入射を無視する。これにより、キャリアの分散による画像への影響を低減することが可能となるので、エネルギー分解能を改善でき、チャージシェアに起因する画像の不鮮明化を抑制することができる。
【0052】
また、図3に示された励起X線XR1は蛍光X線XR2よりも高エネルギーであるため、キャピラリプレート2が設けられない場合、励起X線XR1が変換部31を透過してバンプ41に達する。すると、バンプ41において蛍光X線が発生し、その蛍光X線が変換部31に吸収されてキャリアが発生する。このキャリアは、ノイズとなって画像の鮮明度を低下する原因となる。特に、バンプ41を構成する材料のL線のエネルギーが数keV~20keVの範囲内にある場合、検出対象である蛍光X線XR2のエネルギーと重なるおそれが高い。本実施形態のようにキャピラリプレート2を設けることによって、バンプ41に達する励起X線XR1を大きく減少させ、画像の鮮明度の低下を抑制することができる。
【0053】
本実施形態のように、キャピラリプレート2の複数のX線通過領域23は、表面21及び裏面22において三角格子上に配置され、X線検出素子3の複数の画素電極部Bは、裏面31bにおいて行方向および列方向に並んで配置されていてもよい。このように複数のX線通過領域23の配列形式が複数の画素電極部Bの配列形式と異なる場合、画素電極部B間の隙間の上にX線通過領域23が更に配置され易くなる。このような場合に、本実施形態のX線検出装置1の構成は特に有用である。
【0054】
本実施形態のように、キャピラリプレート2の裏面22とX線検出素子3の表面とは、空隙を介して互いに離れていてもよい。キャピラリプレート2がX線検出素子3から離れているほど、各X線通過領域23を通過したX線が拡がるので、チャージシェアが生じ易くなる。このような場合に、本実施形態のX線検出装置1の構成は特に有用である。また、キャピラリプレート2がX線検出素子3から離れていることによって、キャピラリプレート2及びX線検出素子3の配置の自由度を高めることができる。
【0055】
本実施形態のように、複数のX線通過領域23の中心軸線は互いに平行であってもよい。この場合、キャピラリプレート2を通過したX線を平行化して、X線画像の鮮明度を高めることができる。
【0056】
本実施形態のように、X線検出装置1は、キャピラリプレート2、X線検出素子3、及び検出回路5を気密に収容する容器10を備え、容器10は、キャピラリプレート2へ向かうX線を透過させる窓材14を有してもよい。この場合、キャピラリプレート2、X線検出素子3、及び検出回路5に塵埃が付着することを防止できる。特に、キャピラリプレート2のX線通過領域23が微細な孔である場合、孔内に塵埃が入り込むと取り除くことが困難となり、画質の劣化につながる。上記の容器10をX線検出装置1が備えることによって、孔内に塵埃が入り込むことを防ぎ、画質を維持することができる。なお、孔内に塵埃が入り込むことを防ぐために、X線透過可能な材料によってキャピラリプレート2を全体的にシール(封止)してもよい。また、空間11の気密性は塵埃が空間11に侵入しない程度であってもよく、場合によっては、空間11が気密性を有しなくてもよい。空間11のうち、キャピラリプレート2及びその周辺のみが気密であってもよい。
(第1変形例)
【0057】
図11は、上記実施形態の第1変形例に係る構成を模式的に示す図である。上述した実施形態では、キャピラリプレート2の裏面22とX線検出素子3の表面(バイアス電極33の表面)とが空隙を介して互いに離れている。この図11のように、裏面22とX線検出素子3の表面とは、接着剤17を介して互いに接合されてもよい。この場合、キャピラリプレート2とX線検出素子3とが互いに近接するので、各X線通過領域23を通過したX線が拡がる前にそのX線がX線検出素子3の変換部31に到達する。従って、裏面22とX線検出素子3の表面とが空隙を介して互いに離れている場合と比較して、チャージシェアを低減することができる。なお、図11では接着剤17が不通過領域25の直下のみに設けられ、X線通過領域23の直下には設けられていない。これにより、入射X線が接着剤17に吸収されることを回避できるので、入射X線のエネルギーが低い場合であってもX線検出装置1の感度の低下を抑制することができる。この形態に限られず、入射X線のエネルギーが高い等の場合には、X線通過領域23の直下を含む裏面22の全体に接着剤17が設けられてもよい。
(第2変形例)
【0058】
図12(a)は、上記実施形態の第2変形例に係る構成を模式的に示す図である。上述した実施形態では、容器10の支持部15によってキャピラリプレート2の裏面22が支持されている(図1を参照)。この図12(a)のように、容器10の支持部15は、キャピラリプレート2の側面26に固定されてキャピラリプレート2を支持してもよい。この場合、キャピラリプレート2の裏面22を支持する場合と比較して、支持部15の厚み分だけキャピラリプレート2をX線検出素子3に近づけることができる。故に、各X線通過領域23を通過したX線が拡がる程度を小さくして、チャージシェアを低減することができる。支持部15とキャピラリプレート2の側面26とは、例えば樹脂を用いて互いに固定され得る。
(第3変形例)
【0059】
図12(b)は、上記実施形態の第3変形例に係る構成を模式的に示す図である。上述した実施形態では、キャピラリプレート2は、空間11を画成する壁面に支持部15によって固定されている(図1を参照)。この図12(b)のように、X線検出装置は、支持部15に代えて、支持体18を備えてもよい。支持体18は、ベース部材6上に立設され、キャピラリプレート2の裏面22(または側面26でもよい)を支持する。支持体18は、例えば柱状、またはX線検出素子3を囲む筒状を呈する。支持体18の材質は、例えばアルミ、鉄、ステンレス、その他の材質、またはそれらのうち2つ以上の組み合わせである。支持体18は、ベース部材6と接合されてもよく、ベース部材6と一体的に形成されてもよい。一例では、支持体18はベース部材6の搭載面61から一段下がった面63上に配置される。本変形例によれば、キャピラリプレート2の裏面22とX線検出素子3の表面とを互いに平行に近づける(言い換えると、X線通過領域23の中心軸線をX線検出素子3の表面に対して垂直に近づける)ことが容易にできる。故に、より鮮明な画像を得ることができる。なお、ボンディングワイヤ42,43の形成を容易にする為に、キャピラリプレート2と支持体18とは(又は、支持体18とベース部材6とは)互いに着脱可能であってもよい。
(第4変形例)
【0060】
図13は、上記実施形態の第4変形例に係る構成を模式的に示す図である。上述した実施形態では、キャピラリプレート2とX線検出素子3とが一対一で対向しているが、この図13のように、一つのキャピラリプレート2につき複数のX線検出素子3が対向してもよい。この場合、複数のX線検出素子3を並べて配置するので、小型のX線検出素子3を用いて受光領域の大面積化が可能になる。
(第5変形例)
【0061】
図14は、上記実施形態の第5変形例に係る構成を模式的に示す図である。上述した実施形態では、キャピラリプレート2とX線検出素子3とが一対一で対向しているが、この図14のように、一つのX線検出素子3につき複数のキャピラリプレート2が対向してもよい。この場合、複数のキャピラリプレート2を並べて配置するので、大面積のキャピラリプレート2の製造歩留まりが低い場合であっても、小面積のキャピラリプレート2を複数用いて歩留まり良くX線検出装置を製造することができる。
(第6変形例)
【0062】
図15は、上記実施形態の第6変形例に係る構成を模式的に示す図である。この図15のように、キャピラリプレート2及びX線検出素子3をそれぞれ複数配置してもよい。その場合、図15(a)のように一つのキャピラリプレート2に複数のX線検出素子3が対向してもよく、或いは、図15(b)のように複数のキャピラリプレート2に一つのX線検出素子3が対向してもよい。本変形例によれば、受光領域の更なる大面積化が可能になる。
(第7変形例)
【0063】
図16図18は、上記実施形態の第7変形例に係る構成を模式的に示す図である。本変形例のように、X線検出装置は、X線入射方向と交差する所定方向に沿って並ぶ二以上のX線検出素子3からなる第1の素子列3Aと、第1の素子列3Aに沿って並ぶ二以上のX線検出素子3からなる第2の素子列3Bと、を備えてもよい。そして、図16及び図17に示されるように、第1の素子列3Aの各X線検出素子3と第2の素子列3Bの各X線検出素子3とが互い違いに配列されていてもよい。この場合、図16に示されるように、キャピラリプレート2とX線検出素子3とは一対一で対向してもよく、図17に示されるように、一つのキャピラリプレート2につき複数のX線検出素子3が対向してもよい。または、図18に示されるように、第1の素子列3A上の複数のキャピラリプレート2と、第2の素子列3B上の複数のキャピラリプレート2とが互い違いに配列され、一つのX線検出素子3につき複数のキャピラリプレート2が対向してもよい。本変形例によれば、X線検出装置をラインセンサとして用いる際に、主にガードリング34の配置により生じるX線検出素子3間の不感領域(デッドエリア)、及び、主にキャピラリプレート2の不通過領域25により生じるキャピラリプレート2間の不感領域(デッドエリア)を小さくするか、または無くすことが可能になる。
(第8変形例)
【0064】
図19は、上記実施形態の第8変形例に係るキャピラリレンズ2Aの側面図である。図19には、このキャピラリレンズ2Aに入射するX線XR3と、キャピラリレンズ2Aから出射するX線XR4とが併せて示されている。キャピラリレンズ2Aは、本変形例におけるキャピラリの例であり、上記実施形態のキャピラリプレート2の代わりに設けられる。キャピラリレンズ2Aは略円柱形状を呈しており、中心軸線に対して垂直な断面は、該中心軸線上に中心を有する円形である。このキャピラリレンズ2Aは、点状のX線源D2から一方の端面27に入射したX線XR3を、平行X線(X線XR4)として他方の端面28から出力する。そのため、キャピラリレンズ2Aの直径は、入射側の端面27に近づくにつれて次第に小さくなっている。キャピラリレンズ2Aが有する複数のX線通過領域の中心軸線の間隔(ピッチ)は、出射側の端面28付近では一定(平行)であり、入射側の端面27に近づくにつれて次第に小さくなっている。X線検出装置は、このようなキャピラリレンズ2Aを備える場合であっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏することができる。また、上記実施形態のキャピラリプレート2の代わりにキャピラリレンズ2Aを用いることにより、蛍光X線像を拡大または縮小して撮像することができる。
(第9変形例)
【0065】
上記実施形態において、検出回路5は、X線の入射によって発生した複数のキャリアが二以上の画素電極部Bに分散して収集された場合に、そのうち最も多くのキャリアが収集された画素電極部Bを、そのX線が入射した位置に対応する画素電極部Bと判定している。画素電極部Bの判定方式はこれに限られず、例えば本変形例の方式を採用してもよい。
【0066】
図20は、本変形例における各画素回路5aの内部構成の一例を示す図である。図20に示されるように、画素回路5aは、信号生成部51、電流出力部52a,52b、加算部53、比較部54、キャリア入力信号生成部55、キャリア入力パターン判別部56、及び計数部57を有している。
【0067】
信号生成部51は、複数の画素電極部Bのうち当該画素回路5aに対応する画素電極部Bと電気的に接続されている。信号生成部51は、キャリアの電荷電圧変換を行うことによって入力信号SP1を生成する。入力信号SP1は、自電極部Bから画素回路5aに入力されたキャリアの数に応じた大きさの電圧波形を有する信号である。各画素電極部Bが複数の電極bを含む場合(図6を参照)には、図21(a)に示されるように、複数の電極bが一つの信号生成部51の入力端に接続されるとよい。或いは、図21(b)に示されるように、複数の信号生成部51が設けられ、複数の電極bそれぞれが複数の信号生成部51それぞれに接続されてもよい。
【0068】
電流出力部52aは、信号生成部51の出力端に接続されており、信号生成部51から入力信号SP1を受ける。電流出力部52aは、電圧信号である入力信号SP1に応じた大きさの電流信号SCを生成し、自電極部Bの周囲に配置された画素電極部Bのうち特定の画素電極部Bに接続された画素回路5aに、電流信号SCを提供する。以下の説明において、自電極部Bの周囲に配置された画素電極部Bを周囲電極部と称することがある。
【0069】
ここで、図22を参照する。図22は、自電極部Bと、自電極部Bを囲む8個の周囲電極部B~Bとを示す図である。図22に示された例では、周囲電極部B~Bは自電極部Bの前行に含まれ、周囲電極部B,Bは自電極部Bと同じ行に含まれ、周囲電極部B~Bは自電極部Bの後行に含まれる。また、周囲電極部B,B,Bは自電極部Bの前列に含まれ、周囲電極部B,Bは自電極部Bと同じ列に含まれ、周囲電極部B,B,Bは自電極部Bの後列に含まれる。本変形例では、電流出力部52aは、周囲電極部B,B,Bに接続された画素回路5aに電流信号SCを提供する。
【0070】
再び図20を参照する。電流出力部52bは、信号生成部51の出力端に接続されており、信号生成部51から入力信号SP1を受ける。電流出力部52bは、電圧信号である入力信号SP1に応じた大きさの電流信号SCを生成し、電流信号SCを加算部53に提供する。加算部53は、周囲電極部B~Bのうち特定の電極部(以下、特定電極部という)B,B,Bに接続された3つの画素回路5aの電流出力部52aと接続されており、それらの電流出力部52aから電流信号SCの提供を受ける。加算部53は、提供を受けた3つの電流信号SCと、当該画素回路5aの電流出力部52bから提供された電流信号SCとを加算し、加算後の電流に応じた大きさの電圧信号SP2を生成する。電圧信号SP2は、自電極部B及び特定電極部B,B,Bに入力されたキャリア数の総和に応じた大きさの電圧波形を有する信号である。特定電極部B,B,Bは、各画素回路5aにおいて入射X線の光子数をカウントする際に、その入射X線に起因するキャリアの分散範囲に含まれるとみなされた周囲電極部であって、周囲電極部B~Bの中から任意に且つ予め決定される。例えば自電極部Bが行端または列端に存在する等によって自電極部Bに対する特定電極部B,B,Bの一部が存在しない場合には、加算部53は、存在しない特定電極部からの電流信号SCを加算しなくてもよい。例えば自電極部Bが行端且つ列端に存在する等によって自電極部Bに対する特定電極部B,B,Bの全部が存在しない場合には、加算部53及びそれ以降の回路部分は、必須ではなく省略可能である。
【0071】
比較部54は、加算部53の出力端に接続されており、加算部53から電圧信号SP2を受ける。比較部54は、電圧信号SP2のピーク電圧の大きさが所定の閾値を超えているか否かを判定する。すなわち、比較部54は、自電極部Bの周辺において一つ以上の測定対象とする光子に相当する数のキャリアが発生したか否かを判定する。比較部54は、電圧信号SP2のピーク電圧の大きさが所定の閾値を超えている場合に、判定結果信号S1としてHighレベル(有意値)を出力する。比較部54は、電圧信号SP2のピーク電圧の大きさが上記所定の閾値を超えていない場合には、判定結果信号S1としてLowレベル(非有意値)を出力する。
【0072】
キャリア入力信号生成部55は、信号生成部51の出力端に接続されており、信号生成部51から入力信号SP1を受ける。キャリア入力信号生成部55は、或る閾値(例えば、ノイズレベルより僅かに大きい値)を超える入力信号SP1が入力された場合には、自電極部Bへのキャリアの入力があったことを示すために、キャリア入力信号S2としてHighレベル(有意値)を出力する。キャリア入力信号生成部55は、上記閾値を超えない入力信号SP1が入力された場合には、キャリア入力信号S2としてLowレベル(非有意値)を出力する。キャリア入力信号S2は、周囲電極部B~Bにそれぞれ接続された7つの画素回路5aに提供される。
【0073】
キャリア入力パターン判別部56は、周囲電極部B~Bにそれぞれ接続された7つの画素回路5aから、キャリア入力信号S2の提供を受ける。キャリア入力パターン判別部56は、これらのキャリア入力信号S2に基づいて、キャリア入力パターンが複数の判別パターンのうちの何れかと合致するか否かを判別する。キャリア入力パターンは、自電極部B及び周囲電極部B~Bへのキャリアの入力の有無を電極毎に表している。キャリア入力パターンでは、キャリアが自電極部B及び周囲電極部B~Bのうち何れの画素電極部Bに入力したのかがパターン化されている。キャリア入力パターン判別部56は、キャリア入力パターンが複数の判別パターンのうちの何れかと合致し、且つ、判定結果信号S1としてHighレベル(有意値)が入力されている場合に、判別信号S3としてHighレベル(有意値)を出力する。キャリア入力パターン判別部56は、キャリア入力パターンが複数の判別パターンのうちの何れかと合致しない場合、及び/又は、判定結果信号S1としてLowレベル(非有意値)が入力されている場合に、判別信号S3としてLowレベル(非有意値)を出力する。これにより、計数部57では、キャリア入力パターン判別部56においてキャリア入力パターンが複数の判別パターンの何れかと合致すると判別され、且つ電圧信号SP2のピーク電圧の大きさが所定の閾値を超えている場合(すなわち判別信号S3がHighレベル(有意値)である場合)に、X線の光子数の加算が行われる。本変形例では、周囲電極部Bにおけるキャリアの入射の有無は判別に影響しないので、キャリア入力パターン判別部56は、周囲電極部Bに接続された画素回路5aからはキャリア入力信号S2の提供を受ける必要はない。本変形例では、計数部57が画素電極部B毎に一つずつ設けられているが、計数部57は、二つ以上の画素電極部Bに対して一つのみ設けられてもよい。
【0074】
ここで、図23を参照する。図23中の(a)~(j)は、キャリア入力パターン判別部56に設定される複数の判別パターンの一例として、10個の判別パターンP1~P10を示す図である。図23では、キャリア入力信号S2が出力された(すなわちキャリアが入力された)画素回路5aに対応する画素電極部に「H」と表記されている。自電極部B及び特定電極部B,B,Bは、判別パターンP1~P10を容易に理解するために、太枠で示されている。自電極部B及び周囲電極部B~Bの符号は、図23中の(a)にのみ示し、図23中の(b)~(j)では省略している。キャリア入力パターン判別部56は、複数の論理回路の組み合わせにより構成されていてもよい。この場合、組み合わされた複数の論理回路は、周囲電極部B~Bからのキャリア入力信号S2及び自電極部Bのキャリア入力信号S2の組み合わせに応じて、有効であるか否かを決定する。これにより、キャリア入力パターン判別部56において、キャリア入力パターンが複数の判別パターン(たとえば、判別パターンP1~P10)のうちの何れかと合致するか否かが判別される。また、検出回路5は、複数の判別パターン(たとえば、判別パターンP1~P10)を記憶するメモリを含んでいてもよい。この場合、キャリア入力パターン判別部56は、上記メモリに記憶されている複数の判別パターンの何れかとキャリア入力パターンとが合致するか否かを判別する。キャリア入力パターン判別部56が、複数の論理回路の組み合わせにより構成されている場合、メモリなどの物理構成が不要となり、検出回路5の構成を簡素化することができる。
【0075】
図23に示される10個の判別パターンP1~P10は、幾つかのルールに則り定められている。周囲電極部B~Bのうち特定電極部B,B,B以外の画素電極部B~B,Bにキャリアが入力する場合のキャリア入力パターンが、判別パターンP1~P10の何れとも合致しない。言い換えれば、これらの判別パターンP1~P10には、自電極部Bを含む行の前行及び後行のうち一方の行(本変形例では前行)に含まれる周囲電極部B~B、及び自電極部Bを含む列の前列及び後列のうち一方の列(本変形例では前列)に含まれる周囲電極部B,B,Bの何れかにキャリアが入力される場合のキャリア入力パターンに相当するパターンが含まれない。従って、周囲電極部B~B,Bの何れかにキャリアが入力された場合、自電極部Bに接続された画素回路5aのキャリア入力パターン判別部56は、キャリア入力パターンが複数の判別パターンP1~P10の何れとも合致しないものとして判別する。これらの周囲電極部B~B,Bの何れかにキャリアが入力された場合には、自電極部Bを除く何れかの画素電極部Bに接続された画素回路5aにおいて、必ずキャリア入力パターンが判別パターンP1~P10の何れかに合致するように、判別パターンP1~P10が設定されている。従って、上記の判別ルールに則って判別パターンP1~P10が設定されることにより、一つの光子の入射に対して複数の画素回路5aで光子数を加算することを適切に回避することができる。判別パターンP1~P10を容易に理解するために、周囲電極部B~B,Bには×印が付されている。×印が付された周囲電極部B~B,Bに接続された画素回路5aからは、実際には空白の画素と同様の「Low」のキャリア入力信号S2が出力されている。この判別ルールは、本変形例のように上記一方の行(前行)及び上記一方の列(前列)の何れにも含まれない周囲電極部B,B,Bが特定電極となっている場合に有効である。
【0076】
これらの判別パターンP1~P10には、上記一方の行(前行)及び上記一方の列(前列)の何れにも含まれず、且つ自電極部Bを含む行又は列に含まれる周囲電極部B,Bのうち、少なくとも一つの周囲電極部にキャリアが入力され、且つ、自電極部Bにキャリアが入力される場合の全てのキャリア入力パターンに相当するパターンが含まれている。言い換えれば、自電極部Bを含む行又は列に含まれる特定電極部B,Bのうち少なくとも一つの特定電極部にキャリアが入力され、且つ自電極部Bにキャリアが入力される場合のキャリア入力パターンが、複数の判別パターンP1~P10の何れかと必ず合致する。具体的には、周囲電極部B及び自電極部Bにキャリアが入力される場合の全てのパターンが、判別パターンP2,P5,P7,P8によって表されている。周囲電極部B及び自電極部Bにキャリアが入力される場合の全てのパターンが、判別パターンP3,P6,P7,P8によって表されている。このような判別ルールに則って判別パターンが設定されることにより、当該画素回路5aにおけるX線の光子数の加算の可否を適切に判定することができる。
【0077】
これらの判別パターンP1~P10には、上記一方の列(前列)に含まれず且つ自電極部Bを含む行に含まれる周囲電極部Bにキャリアが入力され、上記一方の行(前行)に含まれず且つ自電極部Bを含む列に含まれる周囲電極部Bにキャリアが入力され、且つ、自電極部Bにキャリアが入力されない場合のキャリア入力パターンに相当するパターンが含まれている。具体的には、周囲電極部B,Bの双方にキャリアが入力され、自電極部Bにキャリアが入力されない全てのパターンが判別パターンP9,P10によって表されている。このような判別ルールに則って判別パターンが設定されることにより、当該画素回路5aにおけるX線の光子数の加算の可否を適切に判定することができる。判別パターンP1~P10には、チャージシェアの影響がほとんどなく、自電極部Bにのみキャリアが入力される場合の判別パターンP1も含まれている。
【0078】
本変形例によれば、X線の入射によって発生した複数のキャリアが二以上の画素電極部Bに分散して収集された場合に、検出回路5が、そのX線が入射した位置に対応する画素電極部Bを判定して、その画素電極部Bにおけるキャリア量を補正して評価することができる。なお、本変形例の詳細は特許文献2に記載されている。
【0079】
本開示によるX線検出装置は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上述した実施形態及び各変形例を、必要な目的及び効果に応じて互いに組み合わせてもよい。また、上記実施形態では、キャピラリプレート2の複数のX線通過領域23が三角格子上に配置され、X線検出素子3の複数の画素電極部Bが行方向および列方向に並んで配置されている場合を例示したが、X線通過領域23及び画素電極部Bの配列形式はこれらに限られない。例えば、X線通過領域23及び画素電極部Bが互いに同じ配列形式(例えば三角格子上の配列、または行方向および列方向への配列)を有してもよい。
【符号の説明】
【0080】
1…X線検出装置、2…キャピラリプレート、2A…キャピラリレンズ、3…X線検出素子、3A…第1の素子列、3B…第2の素子列、4…半導体集積素子、5…検出回路、5a…画素回路、6…ベース部材、7…ヒートシンク、8…ペルチェ素子、9…回路基板、10…容器、11,12…空間、13…仕切り板、13a…開口、14…窓材、15…支持部、16…ファン、17…接着剤、18…支持体、21…表面(第1面)、22…裏面(第2面)、23…X線通過領域、24…X線遮蔽領域、25…不通過領域、26…側面、27,28…端面、31…変換部、31a…表面、31b…裏面、31c…側面、33…バイアス電極、34…ガードリング、41…バンプ、42,43…ボンディングワイヤ、51…信号生成部、52a,52b…電流出力部、53…加算部、54…比較部、55…キャリア入力信号生成部、56…キャリア入力パターン判別部、57…計数部、61…搭載面、62…裏面、71…上面、72…フィン、110…開口部、A…暗電流、B…画素電極部、b…電極、B…自電極部、B~B…周囲電極部、C…目的物、D1,D2…X線源、S1…判定結果信号、S2…キャリア入力信号、S3…判別信号、SC…電流信号、SP1…入力信号、SP2…電圧信号、XR,XR3,XR4…X線、XR1…励起X線、XR2…蛍光X線。
図1
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