(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】積層シート、包装体、および包装体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20240902BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240902BHJP
B65D 65/40 20060101ALN20240902BHJP
【FI】
B32B27/32 102
B32B27/00 H
B32B27/32
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2020217771
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】500163366
【氏名又は名称】出光ユニテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】永富 風花
(72)【発明者】
【氏名】中野 康宏
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-138843(JP,A)
【文献】特開昭61-144345(JP,A)
【文献】特開平11-172059(JP,A)
【文献】特開2020-040258(JP,A)
【文献】特開平10-016153(JP,A)
【文献】特開2016-168820(JP,A)
【文献】特開2010-180407(JP,A)
【文献】特開昭61-130018(JP,A)
【文献】特開2004-268466(JP,A)
【文献】特開平04-001038(JP,A)
【文献】特開平03-288641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/00
B32B 27/32
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スメチカ晶を含むプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂を含有する基材層、並びに
バリア層
の少なくとも2層を積層してな
り、
前記バリア層の一方の面側に前記基材層としての第一の基材層を有し、前記バリア層の他方の面側に前記基材層としての第二の基材層を有する積層シート。
【請求項2】
前記基材層が、前記ポリエチレン系樹脂を0.1質量%以上40質量%以下含有する、
請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
前記ポリエチレン系樹脂の少なくとも一部が、バイオマス由来のポリエチレンである、
請求項1または請求項2に記載の積層シート。
【請求項4】
前記プロピレン系樹脂のアイソタクチックペンタッド分率が85モル%以上99モル%以下である、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項5】
前記プロピレン系樹脂の130℃での結晶化速度が、2.5min
-1以下である、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項6】
前記プロピレン系樹脂が、示差走査熱量測定曲線において、最大吸熱ピークの低温側に1.0J/g以上の発熱ピークを有する、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項7】
前記基材層が造核剤を含まない、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項8】
前記積層シートの厚さが、0.2mm以上1.2mm以下である、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項9】
前記バリア層は、エチレンビニルアルコール共重合樹脂を含有する、
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の積層シートを用いた包装体。
【請求項11】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の積層シートを、前記プロピレン系樹脂の融点以下の温度で熱成形してなる、包装体。
【請求項12】
前記包装体の内部ヘイズが15パーセント以下で、かつ、前記包装体の内部ヘイズ/熱成形前の前記積層シートの内部ヘイズの比が1以下である、
請求項11に記載の包装体。
【請求項13】
食品の包装に用いられる、請求項10から請求項12のいずれか一項に記載の包装体。
【請求項14】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の積層シートを、前記プロピレン系樹脂の融点以下の温度で熱成形する、包装体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層シート、包装体、および包装体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
包装体等として用いられる積層シートにおいては、包装体等とした際の内容物の視認性に優れるため、しばしば透明性の高いポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、二軸延伸ポリスチレン(OPS)樹脂、およびポリプロピレン(PP)樹脂等が使用されている。例えば、包装体を食品容器として用いる場合、近年、電子レンジにより加熱される包装体が増えており、耐油性および耐熱性の高いポリプロピレン系樹脂が用いられている。
例えば、特許文献1には、(a)ポリプロピレンを含む第一の層と、ポリエチレン、ポリアミド、エチレン-ビニルアルコール共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体からなる群より選択される1種以上を含む第二の層とを有する積層体を用いて成形体を製造する工程を含む成形体の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、内容物の保護性(例えば食品容器の場合であれば、フードロスを抑制し、美味しさを維持するため)として、包装体には、水蒸気および酸素に対するバリア性が要求されている。
しかしながら、高い透明性を維持しつつ、優れたバリア性を包装体に付与する積層シートがない。
特許文献1に記載の積層体は、樹脂成形体に加飾するための積層体であり、特許文献1は、高い透明性および優れたバリア性を成形体に付与するための積層体を開示するものではない。また、特許文献1に記載の積層体おいて、第二の層は、成形前に第一の層から分離させることを想定された層でもある。
【0005】
本発明の目的は、優れたバリア性と高い透明性を兼ね備えた積層シートおよび包装体、並びに当該包装体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、スメチカ晶を含むプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂を含有する基材層、並びにバリア層の少なくとも2層を積層してなる積層シートが提供される。
【0007】
本発明の一態様に係る積層シートにおいて、前記基材層が、前記ポリエチレン系樹脂を0.1質量%以上40質量%以下含有してもよい。
【0008】
本発明の一態様に係る包装体において、前記ポリエチレン系樹脂の少なくとも一部が、バイオマス由来のポリエチレンであってもよい。
【0009】
本発明の一態様に係る積層シートにおいて、前記プロピレン系樹脂のアイソタクチックペンタッド分率が85モル%以上99モル%以下であってもよい。
【0010】
本発明の一態様に係る積層シートにおいて、前記プロピレン系樹脂の130℃での結晶化速度が、2.5min-1以下であってもよい。
【0011】
本発明の一態様に係る積層シートにおいて、前記プロピレン系樹脂が、示差走査熱量測定曲線において、最大吸熱ピークの低温側に1.0J/g以上の発熱ピークを有してもよい。
【0012】
本発明の一態様に係る積層シートにおいて、前記基材層が造核剤を含まなくてもよい。
【0013】
本発明の一態様に係る積層シートにおいて、前記積層シートの厚さが、0.2mm以上1.2mm以下であってもよい。
【0014】
本発明の一態様に係る積層シートにおいて、前記バリア層は、エチレンビニルアルコール共重合樹脂を含有してもよい。
【0015】
本発明の一態様によれば、本発明の一態様に係る積層シートを用いた包装体が提供される。
【0016】
また、本発明の一態様によれば、本発明の一態様に係る積層シートを、前記プロピレン系樹脂の融点以下の温度で熱成形してなる、包装体が提供される。
【0017】
本発明の一態様に係る包装体において、前記包装体の内部ヘイズが15パーセント以下で、かつ、前記包装体の内部ヘイズ/熱成形前の前記積層シートの内部ヘイズの比が1以下であってもよい。
【0018】
本発明の一態様に係る包装体は、食品の包装に用いられてもよい。
【0019】
本発明の一態様によれば、本発明の一態様に係る積層シートを、前記プロピレン系樹脂の融点以下の温度で熱成形する、包装体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様によれば、優れたバリア性と高い透明性を兼ね備えた積層シートおよび包装体、並びに当該包装体の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る積層シートの拡大断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る積層シートの拡大断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る積層シートの拡大断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る包装体の概略図である。
【
図5】実施例1の積層シートを製造する製造装置を示す概略構成図である。
【
図6】比較例1の積層シートを製造する製造装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付すことにより、重複説明を省略する。
【0023】
〔第1実施形態〕
第1実施形態においては、本発明の一態様に係る積層シート、包装体、および当該包装体の製造方法、並びに本発明の一態様に係る包装体を含む容器について説明する。
【0024】
[積層シート]
図1は、本実施形態に係る積層シート1の拡大断面図である。後述の本実施形態に係る包装体は、基材層2およびバリア層3の少なくとも2層を積層してなる積層シート1を熱成形してなる。
【0025】
(基材層)
基材層2は、プロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂を含有する。
【0026】
・プロピレン系樹脂
プロピレン系樹脂は、少なくともプロピレンを含む重合体であればよい。なお、プロピレン系樹脂がプロピレンとエチレンとの共重合体である場合には、プロピレン単位を半数以上含む樹脂を指す。プロピレンを含む重合体としては、例えば、ホモポリプロピレン、およびプロピレンとオレフィンとの共重合体等が挙げられる。プロピレンとオレフィンとの共重合体は、ブロック共重合体であってもランダム共重合体であってもよい。あるいは、これらの混合物(ブロック共重合体およびランダム共重合体を含む混合物)であってもよい。
耐熱性および硬度の観点から、本実施形態におけるプロピレン系樹脂は、ホモポリプロピレンが好ましい。
【0027】
基材層2を形成するプロピレン系樹脂は、結晶構造としてスメチカ晶を含む。スメチカ晶は、準安定状態の中間相であり、1つ1つのドメインサイズが小さいことから、透明性に優れる。また、準安定状態であるため、スメチカ晶を含む積層シート1は、結晶化が進んだα晶を含むシートと比較して、低い熱量でシートが軟化することから、成形性に優れる。
【0028】
プロピレン系樹脂は、スメチカ晶の他に、β晶、γ晶、および非晶部等の他の結晶形を含んでもよい。例えば、プロピレン系樹脂の30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、または90質量%以上がスメチカ晶であり、それ以外が他の結晶形であってもよい。
【0029】
プロピレン系樹脂がスメチカ晶を含むことは、例えば小角X線散乱解析法により確認することができる。
【0030】
プロピレン系樹脂は、アイソタクチックペンタッド分率が85モル%以上99モル%以下であることが好ましい。アイソタクチックペンタッド分率が85モル%以上であれば、積層シート1は剛性に優れる。また、アイソタクチックペンタッド分率が99モル%以下であれば、積層シート1は透明性に優れる。
なお、アイソタクチックペンタッド分率とは、樹脂組成の分子鎖中のペンタッド単位(プロピレンモノマーが5個連続してアイソタクチック結合した単位)でのアイソタクチックペンタッド分率である。この分率の測定法は、例えば、マクロモレキュールズ(Macromolecules)第8巻(1975年)第687頁に記載されており、13C-NMRにより測定できる。
【0031】
プロピレン系樹脂は、130℃での結晶化速度が2.5min-1以下であることが好ましい。結晶化速度が2.5min-1以下であると、熱成形の際に金型へ接触した部分が急速に硬化すること等を抑制でき、意匠性の低下を防止することができる。結晶化速度は、実施例に記載の方法により測定できる。
【0032】
プロピレン系樹脂は、示差走査熱量測定曲線において、最大吸熱ピークの低温側に1.0J/g以上の発熱ピークを有することが好ましく、1.5J/g以上の発熱ピークを有することがより好ましい。発熱ピークの上限値は、特に限定されない。発熱ピークの上限値は、通常、10J/g以下である。
発熱ピークは、示差走査熱量測定器を用いて測定できる。
【0033】
基材層2におけるプロピレン系樹脂の含有量の下限は、60質量%以上であることが好ましい。また、プロピレン系樹脂の含有量の上限は、99.9質量%以下であることが好ましい。基材層2におけるプロピレン系樹脂の含有量がこの範囲内であれば、高い透明性を有し、剛性および耐熱性に優れた積層シートおよび包装体(例えば、容器本体および蓋体等)を提供できる。基材層2におけるプロピレン系樹脂の含有量の下限は、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることがさらにより好ましく、93質量%以上であることが特に好ましい。特に透明性を向上させる観点では、下限は94.5質量%以上であることがより好ましく、95.5質量%以上であることがさらに好ましく、97質量%以上であることがさらにより好ましく、98質量%以上であることが特に好ましい。また、基材層2におけるプロピレン系樹脂の含有量の上限は、99.5質量%以下であることがより好ましく、99.2質量%以下であることがさらに好ましく、97質量%以下であることがさらにより好ましい。特に透明性を向上させる観点では、上限は、99.5質量%以下であることがより好ましく、99.2質量%以下であることがさらに好ましい。なお、積層シートが複数の基材層2を有する場合、複数の基材層2全体に対するプロピレン系樹脂の含有量が、上記範囲内であることが好ましい。
【0034】
・ポリエチレン系樹脂
ポリエチレン系樹脂は、少なくともエチレンを含む重合体であればよい。なお、ポリエチレン系樹脂がプロピレンとエチレンとの共重合体である場合には、エチレン単位を過半数以上含む樹脂を指す。
ポリエチレン系樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン系樹脂((Linear)Low Density Polyethylene:LDPE)等の低密度ポリエチレン系樹脂、および高密度ポリエチレン(High Density Polyethylene:HDPE)等が挙げられる。
基材層2がポリエチレン系樹脂を含有することで、透明性、剛性、および積層シートの成形性が向上する。剛性が高まることにより、積層シートを巻き取った際の巻きこぶ抑制の効果および収縮たるみ抑制の効果が期待される。通常、ポリエチレン系樹脂を加えることにより剛性は低下すると推測されるが、本発明において剛性が高まる理由は、ポリエチレン系樹脂と、プロピレン系樹脂におけるスメチカ晶の微小結晶との相互作用によると推測される。また、後述する通り、ポリエチレン系樹脂の含有量を所定の範囲とすることで、透明性も向上する。また、積層シートを用いて成形した包装体の水蒸気バリア性も、従来と同等以上に向上する傾向がある。通常、ポリエチレン系樹脂を加えることにより水蒸気バリア性は低下すると推測されるが、本発明において水蒸気バリア性が同等以上に向上する傾向がみられる理由は、ポリエチレン系樹脂と、プロピレン系樹脂におけるスメチカ晶の微小結晶との相互作用によると推測される。
【0035】
本実施形態におけるポリエチレン系樹脂は、少なくとも一部にバイオマス由来のポリエチレンを含有することが好ましい。近年、環境負荷低減を目的に、バイオマスの利用が注目されている。バイオマスは、二酸化炭素および水から光合成された有機化合物であり、バイオマスを利用することにより、再度、二酸化炭素と水になる、いわゆるカーボンニュートラルな再生可能エネルギーである。そのため、ポリエチレン系樹脂がバイオマス由来のポリエチレンを含むことで、環境に対する負荷を少なくできる。
【0036】
バイオマス由来のポリエチレンの材料としては、例えば、トウモロコシ、キャッサバ、サトウキビ、さとう大根、パームヤシ、大豆、ヒマ等が挙げられる。また、バイオマス由来のポリエチレンは、発酵、菌発酵、化学変化、および培養抽出等、どのような方法で製造されたものであってもよい。このようなバイオマス由来のポリエチレンは、例えば、バイオマス由来の低密度ポリエチレンであってもよい。
本実施形態におけるポリエチレン系樹脂がバイオマス由来のポリエチレンを含有する場合、当該ポリエチレン系樹脂は、バイオマス由来のポリエチレン系樹脂と、化石燃料由来のポリエチレン系樹脂との混合樹脂であってもよく、バイオマス由来のポリエチレン系樹脂のみからなる樹脂であってもよい。
【0037】
ポリエチレン系樹脂は、MFR(Melt Flow Rate)の下限が0.5g/10min以上であることが好ましい。また、ポリエチレン系樹脂は、MFRの上限が6g/10min以下であることが好ましい。ポリエチレン系樹脂のMFRがこの範囲であれば、高い透明性を有し、成形性にも優れた積層シートおよび包装体(例えば、容器本体および蓋体等)を提供できる。
ポリエチレン系樹脂のMFRの下限は、0.8g/10min以上であることがより好ましく、1.0g/10min以上であることがさらに好ましく、1.5g/10min以上であることがさらにより好ましい。
また、ポリエチレン系樹脂のMFRの上限は5g/10min以下であることがより好ましく、4g/10min以下であることがさらに好ましい。
なお、本明細書におけるMFRは、ASTM D1238-89に準拠して、測定温度190℃、荷重2.16kgで測定できる。
【0038】
ポリエチレン系樹脂は、密度の下限が870g/cm3以上であることが好ましい。また、ポリエチレン系樹脂は、密度の上限が940g/cm3以下であることが好ましい。ポリエチレン系樹脂の密度がこの範囲であれば、高い透明性を有し、成形性にも優れた積層シートおよび包装体(例えば、容器本体および蓋体等)を提供できる。
ポリエチレン系樹脂の密度の下限は、890g/cm3以上であることがより好ましく、898g/cm3以上であることがさらに好ましい。
また、ポリエチレン系樹脂の密度の上限は、930g/cm3以下であることがより好ましく、920g/cm3以下であることがさらに好ましい。
【0039】
剛性の観点から、基材層2におけるポリエチレン系樹脂の含有量の下限は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、0.8質量%以上であることがさらに好ましく、3質量%以上であることがさらにより好ましい。また、剛性の観点から、基材層2におけるポリエチレン系樹脂の含有量の上限は、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることがさらにより好ましく、7質量%以下であることが特に好ましい。また、この範囲とすると、ポリエチレン系樹脂を含有しない場合と比べ、水蒸気バリア性が同等以上に向上する傾向がある。
一方、透明性の観点では、基材層2におけるポリエチレン系樹脂の含有量の下限は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、0.8質量%以上であることがさらに好ましい。また、透明性の観点から、基材層2におけるポリエチレン系樹脂の含有量の上限は、5.5質量%以下であることが好ましく、4.5質量%以下であることがより好ましく、3.0質量%以下であることがさらに好ましく、2.0質量%以下であることがさらにより好ましい。
【0040】
また、ポリエチレン系樹脂がバイオマス由来のポリエチレンを含有する場合、環境への負荷軽減の観点から、基材層2における当該バイオマス由来のポリエチレンの含有量の下限は、基材層2全体に対して0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、0.8質量%以上であることがさらに好ましく、3質量%以上であることがさらにより好ましい。また、基材層2における当該バイオマス由来のポリエチレンの含有量の上限は、透明性の観点から、基材層2全体に対して40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることがさらにより好ましく、7質量%以下であることが特に好ましい。
さらに、透明性の観点では、ポリエチレン系樹脂がバイオマス由来のポリエチレンを含有する場合、基材層2における当該バイオマス由来のポリエチレンの含有量の下限は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、0.8質量%以上であることがさらに好ましい。また、透明性の観点から、ポリエチレン系樹脂がバイオマス由来のポリエチレンを含有する場合、基材層2における当該バイオマス由来のポリエチレンの含有量の上限は、5.5質量%以下であることが好ましく、4.5質量%以下であることがより好ましく、3.0質量%以下であることがさらに好ましく、2.0質量%以下であることがさらにより好ましい。
【0041】
なお、積層シートが複数の基材層2を有する場合、複数の基材層2全体に対するポリエチレン系樹脂およびバイオマス由来のポリエチレンの含有量が、上記範囲内であることが好ましい。
【0042】
基材層2は、プロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂の他にも、プロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂以外の樹脂、並びに添加剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で含有していてもよい。
なお、この場合も、基材層2におけるプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂の含有量は、上述の含有量を満たすことが好ましい。
【0043】
基材層2は、造核剤を含まないことが好ましい。基材層2が造核剤を含まないことで、基材層2におけるα晶および球晶数が増加等することなく、基材層2の結晶化度が高くなることもない。
造核剤としては、例えば、ソルビトール系結晶核剤等が挙げられる。市販品としては、例えば、ゲルオールMD(新日本理化株式会社)、リケマスターFC-2(理研ビタミン株式会社)等が挙げられる。
【0044】
基材層2の厚さTB1は、特に限定されない。基材層2の厚さTB1は、包装体の用途によって適宜設定される。
【0045】
(バリア層)
バリア層3は、内容物の酸化劣化を抑制する酸素バリア性を有する層である。
バリア層3は、例えば、エチレンビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン樹脂(PVDC)、およびポリアクリロニトリル樹脂(PAN)からなる群から選択される少なくともいずれかの樹脂等で形成される。あるいは、後述するように、基材層2にバリア層3の材料をコーティングする方法等によりバリア層3を形成する場合、バリア層3を形成する材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、アルミ、および窒化ケイ素等の無機系材料、ポリビニルアルコール(PVA)等の有機系材料、並びにシリカ/
PVA等の有機無機ハイブリッド材料等からなる群から選択されるコート材料等が挙げられる。
【0046】
バリア層3は、エチレンビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)を含有することが好ましい。EVOHを含むバリア層によって、高い酸素バリア性が実現される。
透明性および熱成形性の観点から、EVOHは、エチレン共重合比率が38モル%以上47モル%以下であることが好ましい。
【0047】
バリア層3がエチレンビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)を含有する場合、積層シート1を熱成形してなる包装体は、酸素バリア性に優れる。本実施形態に係る積層シート1が有する基材層2は、水蒸気バリア性が高い。そのため、積層シート1においては、基材層2が、エチレンビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)で形成されたバリア層3の水または水蒸気との接触による酸素バリア性の低下を抑制し、その結果、バリア層3を有する積層シート1を熱成形してなる包装体(例えば、容器本体および蓋体等)の酸素バリア性が優れる。
【0048】
バリア層3がエチレンビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)で形成されている場合、積層シート1全体の厚さTとバリア層3の厚さTB2との比率[(TB2/T)×100]が、2%以上15%以下であることが好ましい。この比率が2%以上であれば、優れた酸素バリア性を得やすく、15%以下であれば、積層シート1を熱成形しやすくなり、積層シート1のコストアップも抑制できる。
【0049】
バリア層3は、EVOHの他にも、EVOH以外の樹脂および添加剤等を含有していてもよい。
【0050】
積層シート1の厚さは、包装体の用途によって適宜設定される。例えば、積層シート1の厚さは、0.2mm以上1.2mm以下とすることができる。
【0051】
積層シート1は、必要に応じて、防曇剤を含有していてもよい。積層シート1が防曇剤を含有する場合、基材層2およびバリア層3の少なくともいずれかが防曇剤を含有していてもよい。
防曇剤としては、特に限定されないが、例えば、ショ糖系脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸3級アミド、高級アルコール脂肪酸エステルおよびプロピレングリコール脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくともいずれかの防曇剤であることが好ましく、これらの中でも、透明性および防曇性などの観点から、ショ糖系脂肪酸エステルが好ましく、ショ糖と炭素数12以上22以下の脂肪族モノカルボン酸との部分エステル化合物がより好ましい。防曇剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
また、包装体に使用される積層シートは、積層シート1のように基材層2およびバリア層3からなる2層構造に限定されず、3層以上の多層構造でもよい。3層以上の多層構造の積層シートは、例えば、基材層およびバリア層以外に、その他の層を有していてもよい。例えば、
図1の積層シート1において、基材層2とバリア層3との間に、図示しないその他の層を有する積層シートが挙げられる。その他の層としては、例えば、接着層または防曇剤を含有する防曇層等が挙げられる。
【0053】
積層シートが防曇層を有する場合、防曇層は、防曇剤およびバインダー成分を混合した樹脂組成物で形成されていることが好ましい。
バインダー成分としては、特に限定されないが、アクリル系接着剤であることが好ましく、透明性、成形性および防曇層のべたつきの観点から、親水性アクリル樹脂であることがより好ましい。親水性アクリル樹脂としては、特に限定はないが、ポリアクリル酸エステルなどの共重合体を採用することができる。ここで、ポリアクリル酸エステルを構成するアクリル酸エステルとしては、アクリル酸のメチルエステル、エチルエステル、ブチルエステル、オクチルエステル、および2-エチルヘキシルエステルなどが挙げられる。そして、ポリアクリル酸エステルとしては、これらのアクリル酸エステルを、例えば、メタクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリル、塩化ビニルおよび酢酸ビニルからなる群から選択される少なくともいずれかのモノマーと共重合させた共重合体を採用できる。また、ポリアクリル酸エステルとしては、これらのアクリル酸エステルと、例えば、アクリル酸、アクリルアミド、メチロールアクリルアミド、およびヒドロキシジアルキルメタクリレートからなる群から選択される少なくともいずれかの官能性モノマーとを共重合させた共重合体を採用することもできる。
【0054】
また、包装体に使用される積層シートは、複数の基材層2を有していてもよい。例えば、
図2に示すように、第一の基材層2Aと、バリア層3と、第二の基材層2Bとが、この順に積層された積層シート1Aでもよい。なお、包装体に使用される積層シートが複数の基材層2を有する場合、当該複数の基材層2におけるプロピレン系樹脂は、互いに同一でも異なっていてもよい。また、当該複数の基材層2におけるポリエチレン系樹脂は、互いに同一でも異なっていてもよい。
また、例えば、第一の基材層とバリア層との間、並びにバリア層と第二の基材層との間に、それぞれ独立に、その他の層を有する積層シートでもよい。例えば、
図3に示すように、第一の基材層2Aと、第一の接着層4Aと、バリア層3と、第二の接着層4Bと、第二の基材層2Bとが、この順に積層された積層シート1Bでもよい。これら積層シート1Aおよび積層シート1Bにおいては、第一の基材層2Aおよび第二の基材層2Bが前述の基材層2に相当する。
包装体に使用される積層シートは、積層シート1Aまたは積層シート1Bのように、バリア層3の一方の面側に第一の基材層2Aを有し、バリア層3の他方の面側に第二の基材層2Bを有することにより、バリア層を複数の基材層で挟んだ構造を有することが好ましい。積層シートにおいてバリア層が複数の基材層で挟まれていることで、水蒸気によってバリア層の酸素バリア能が劣化するのをさらに防止し易く、その結果、当該積層シートを熱成形してなる包装体(例えば、容器本体および蓋体等)の酸素バリア性がさらに優れる。
【0055】
[積層シートの製造]
本実施形態に係る積層シート1は、例えば、実施例1に記載の方法により製造することができる。あるいは、実施例1に記載の製造装置により基材層2を製造した後、基材層2にバリア層3の材料をコーティングする方法等により、バリア層3を形成してもよい。
【0056】
[包装体および包装体の製造]
本発明の一態様に係る積層シートは、包装体として用いることができる。
本実施形態に係る包装体は、例えば、本実施形態に係る積層シート1を熱成形することにより製造できる。この場合、積層シート1の基材層2におけるプロピレン系樹脂の融点以下の温度で熱成形することが好ましい。具体的には、実施例に記載の方法にて、本実施形態に係る包装体を製造すればよい。
【0057】
本実施形態に係る包装体は、例えば、食品用等の容器の容器本体および蓋体等として使用できる。
以下に、本実施形態に係る包装体を、容器の蓋体として用いた例を挙げて説明する。
【0058】
[容器]
図4は、本実施形態の容器を示す断面図である。
図4に示されるように、本実施形態の容器50は、容器本体30と蓋体40とから構成されている。本実施形態の容器50では、蓋体40に、上述の積層シート1を成形、具体的には加熱により成形した包装体を用いている。積層シート1を熱成形して得た包装体において、基材層2とバリア層3とは、互いに分離されずに、包装体を構成する要素として使用される。
なお、本実施形態で説明する容器としては、例えばノッチを設けた層間剥離で開封する構成、ノッチを設けない凝集剥離で開封する構成等、適宜選択される。
【0059】
[容器本体の構成]
図4に示されるように、容器本体30は、基材層31と、表面層32と、から構成される。
容器本体30の基材層31は、基本的には熱成形可能な素材であれば特に限定されない。例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、およびポリエチレンナフタレート等が例示される。これらの素材は単独で使用しても、組み合わせて使用してもよい。好ましくは、ポリプロピレンを用いる。ポリプロピレンとしては、例えば、ホモポリプロピレン、プロピレンとエチレンとのブロックコポリマーまたはランダムコポリマー、およびプロピレンとエチレンとブテンとのブロックコポリマーまたはランダムコポリマー等が例示される。
また、例えば、ポリプロピレンとポリスチレン、およびゴム変性ポリスチレン等のポリマーアロイを用いて、剛性および成形性を改善させることができる。
さらに、容器本体30の基材層31は、樹脂に各種添加剤を含むことができる。例えば、剛性を向上させるために、無機フィラーを含むことができる。
【0060】
また、容器本体30の基材層31は、必要に応じて、一層だけから構成されるだけでなく、複数の層を積層して構成してもよい。例えば、接着性樹脂層等を含むこともできる。
容器本体30の表面層32は、耐油性、耐薬品性、および耐熱性を踏まえて、ポリプロピレン樹脂またはポリエチレン樹脂から構成されるのが好ましい。
また、容器本体30は、基材層31と、表面層32と、から構成される樹脂シートを、
図4に示すフランジ30aを有する所望の形状に成形することにより得られる。成形方法としては、真空成形法や圧空成形法等が挙げられる。
【0061】
[蓋体の構成]
図4に示されるように、蓋体40は、基材層41と、バリア層42と、から構成される。
蓋体40は、上記本実施形態の積層シート1を用いて成形される。したがって、蓋体40の基材層41は、前述した積層シート1の基材層2、蓋体40のバリア層42は、前述した積層シート1のバリア層3から構成されている。
また、蓋体40は、本実施形態の積層シート1を、
図4に示すフランジ40aを有する所望の形状に成形することにより得られる。成形方法としては、真空成形法や圧空成形法等が挙げられる。なお、この際、蓋体40は、積層シート1の基材層2におけるプロピレン系樹脂の融点以下の温度で熱成形される。プロピレン系樹脂の融点以下の温度で蓋体40を熱成形することで、微細結晶構造が保たれ、透明性の高い蓋体となる。包装体の高い透明性を維持するため、基材層におけるプロピレン系樹脂の融点以下の温度で積層シートを熱成形して包装体を得ることについては、加飾成形体の製造方法に関する特許文献1には記載されていない。
なお、積層シートの基材層におけるプロピレン系樹脂の融点は、示差走査熱量測定(DSC)により測定することができる。
本実施形態における蓋体40は、上記本実施形態の積層シート1を用いて成形されているので、優れたバリア性を有する。また、良好な透明性を有するとともに、耐寒衝撃性、耐熱性、剛性等の諸物性においても優れた性能を兼ね備える。
【0062】
[容器本体と蓋体とのシール方法]
容器本体30と蓋体40とをシールして密封する際には、容器本体30のフランジ30aと、蓋体40のフランジ40aとを重ね合わせ、重ねたフランジ30a,40aをシールバーで蓋体側からヒートシールして密着させることにより密閉される。
シール温度は170℃以上220℃以下が好ましく、180℃以上200℃以下がより好ましい。シール温度が170℃以上であれば、シール時間を短くでき、生産性が向上する。また、220℃以下であれば、基材層が溶融してエッジ切れを起こす恐れもない。
シール圧力としては、1MPa以上5MPa以下、シール時間は0.5秒以上5秒以下が好ましく、シール圧力が2MPa以上4MPa以下、シール時間は1秒以上3秒以下がより好ましい。シール圧力が1MPa以上であれば、十分なシール強度が得られる。また、シール圧力が5MPa以下であれば、エッジ切れを起こす恐れもない。
上記ヒートシール条件でヒートシールすることにより、高密封性を有する容器とすることができる。
【0063】
透明性を向上させる観点から、容器50は、包装体としての蓋体40の内部ヘイズが15パーセント以下であることが好ましい。また、包装体としての蓋体40の内部ヘイズ/熱成形前の積層シート1の内部ヘイズの比(熱成形前の積層シート1の内部ヘイズに対する包装体(蓋体40)の内部ヘイズの比)が1以下であることも好ましい。
容器50は、包装体としての蓋体40の内部ヘイズが15パーセント以下で、かつ、包装体としての蓋体40の内部ヘイズ/熱成形前の積層シートの内部ヘイズの比が1以下であることがより好ましい。包装体としての蓋体40の内部ヘイズが15パーセント以下で、かつ包装体としての蓋体40の内部ヘイズ/熱成形前の積層シートの内部ヘイズの比が1以下であれば、容器50はより透明性の高い容器となる。
なお、内部ヘイズとは、シート等の表面の粗さ等の影響を排除して測定した、樹脂そのもののヘイズである。内部ヘイズは、JIS-K-7136に準拠して、ヘイズメーターNDH2000(日本電色工業株式会社製)によって測定できる。
【0064】
容器50は、その内部に、例えば、食料品、調味料、食品原料、および飲料等を充填する食品用途、医薬品二次包装用途、並びに日用雑貨用途として使用される。さらには、固体に限らず、液体、それらの混合物等、各種の被包装物を充填の対象とすることができる。
【0065】
[本実施形態の効果]
本実施形態に係る容器50は、包装体として、基材層41およびバリア層42の少なくとも2層を積層してなる積層シートを熱成形してなる蓋体40を含む。そして、基材層41は、スメチカ晶を含むプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂を含有し、当該プロピレン系樹脂の融点以下の温度で、蓋体40が熱成形される。これにより、容器50は、優れたバリア性と高い透明性を兼ね備えた容器となる。
また、本発明者の知見によれば、原料に透明結晶性樹脂であるプロピレン系樹脂を用いる場合、さらに原料としてポリエチレン系樹脂を添加すると、剛性の低下および透明性の悪化等の問題が発生することが分かっている。本実施形態に係る容器50は、蓋体40における基材層41がスメチカ晶を含むプロピレン系樹脂を含有することで、ポリエチレン系樹脂を添加した場合も、剛性および透明性に優れた容器となる。
【0066】
[変形例]
なお、本発明を実施するための最良の構成等は、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
したがって、上記に開示した材質、層構成等を限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではない。このことから、それらの材質等の限定の一部若しくは全部の限定を外した名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【0067】
例えば、上記実施形態において、包装体が蓋体40である容器50を例示したが、容器における包装体は、容器本体等であってもよい。
前記実施形態では、積層シート1を加熱により成形した包装体としての蓋体40を有する容器50を例に挙げて説明したが、本発明は、このような態様に限定されない。例えば、容器本体が、積層シート1を加熱により成形した包装体であってもよい。この場合、蓋体および容器本体の両方が、積層シート1を加熱により成形した包装体の組合せであってもよいし、容器本体が、積層シート1を加熱により成形した包装体であり、蓋体は、汎用的なフィルムであってもよい。
【0068】
また、容器50としては、円形、角形、楕円形の他、各種形状とすることができる。さらに、蓋体40としてドーム形状を例示したが、平坦なシート状の形態でもよい。
【0069】
また、容器本体30と蓋体40との接合としては、ヒートシールに限らず、例えば超音波による溶着、接着剤等を用いた接着等、各種接合方法を利用できる。
さらに、容器本体30と蓋体40とを開封する構成としては、層間剥離による開封、あるいは凝集剥離による開封のいずれの構成とすることもできる。
そして、容器本体30のフランジ30aと蓋体40のフランジ40aのヒートシールは、外周縁に沿って環状にヒートシール部を形成して密封性を付与する場合に限らず、外周方向でヒートシール部が点在するように部分的にヒートシールしてもよい。
【0070】
また、蓋体40を形成する積層シートとして、基材層41とバリア層42との2層構成で説明したが、基材層41を2層以上の多層構造としたシートでもよい。
また、蓋体40を形成する積層シートは、基材層41とバリア層42との間に、その他の層を有する、3層以上の多層構造としたシートであってもよい。その他の層としては、例えば、接着層等が挙げられる。
また、蓋体40を形成する積層シートは、第一の基材層と、バリア層と、第二の基材層とが、この順に積層されたシートであってもよい。
さらに、容器本体30についても、3層以上の多層構造としてもよい。
【0071】
さらに、容器本体30と蓋体40とで構成した容器50の形態のみならず、容器本体30と蓋体40との間に被接合部分が介在する形態としてもよい。
【実施例】
【0072】
以下、本発明に係る実施例を説明する。本発明は、これらの実施例によって何ら限定されない。
【0073】
(実施例1)
[積層シートの製造]
図5に示す製造装置10を用いて、下記のようにして、積層シート1Bを製造した。
下記3種の溶融樹脂(基材層の樹脂、バリア層の樹脂、および接着剤層の樹脂を、それぞれ溶融させた樹脂)を、シート状物1aとして押出機のTダイ11より共押出し、シート状物1aを第1冷却ロール21上で金属製エンドレスベルト25と第4冷却ロール22との間に挟み込んだ。この状態で、シート状物1aを、第1冷却ロール21の中心角度θ1に対応する円弧部分で、第1冷却ロール21および第4冷却ロール22で圧接するとともに急冷した。
続いて、第4冷却ロール22の略下半周に対応する円弧部分で金属製エンドレスベルト25と第4冷却ロール22とにシート状物1aが挟まれた状態で面状圧接するとともに、冷却水吹き付けノズル26による金属製エンドレスベルト25の裏面側への冷却水の吹き付けにより、さらにシート状物1aを急冷した。なお、吹き付けられた冷却水は、水槽27に回収されるとともに、回収された水は排水溝27aにより排出した。
第4冷却ロール22で面状圧接および冷却した後、金属製エンドレスベルト25に密着したシート状物1aを、金属製エンドレスベルト25の回動とともに第2冷却ロール23上に移動した。ここで、剥離ロール29によりガイドされて第2冷却ロール23側に押圧されたシート状物1aを、前述同様、第2冷却ロール23の略上半周に対応する円弧部分で金属製エンドレスベルト25により面状圧接し、再び冷却した。なお、金属製エンドレスベルト25の裏面に付着した水は、第4冷却ロール22から第2冷却ロール23への移動途中に設けられている吸水ロール28により除去した。
第2冷却ロール23上で冷却されたシート状物1a(積層シート1B)を、その後剥離ロール29により金属製エンドレスベルト25から剥離した。
なお、第1冷却ロール21の表面には、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)製の弾性材21aが被覆されている。また、第2冷却ロール23の表面にも、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)製の弾性材(図示省略)が被覆されている。
また、第3冷却ロール24等に内蔵された水冷式等の冷却手段(図示省略)により、金属製エンドレスベルト25の温度調節が可能となっている。
【0074】
積層シート1Bの製造条件は以下の通りである。また、各層における樹脂の配合量は、表1に記載の通りである。なお、直鎖状低密度ポリエチレンは、植物(サトウキビ)由来のバイオポリエチレンである。
・基材層の樹脂:PP1(ホモポリプロピレンF-300SP(株式会社プライムポリマー製)(MFR:3.0g/10min(230℃、2.16kg)、融点:160℃、アイソタクチックペンタッド分率:[mmmm]=94%))およびPE((直鎖状低密度ポリエチレンSLH218(ブラスケム社製)(MFR:2.3g/10min(190℃、2.16kg)、密度:916kg/m3)
・バリア層の樹脂:EVOH(エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂 Gソアノール(三菱ケミカル株式会社製))
・接着層の樹脂:AD(モディックP674V(三菱ケミカル株式会社製))
・押出機の直径:150mm
・Tダイ11の幅(ダイスの端のサイズ):1400mm
・積層シート1Bの厚さ:0.3mm
・積層シート1Bの引き取り速度:25m/分
・第4冷却ロール22および金属製エンドレスベルト25の表面温度:17℃
・冷却速度:10,800℃/分(180℃/秒)
・造核剤:なし
【0075】
なお、得られた積層シート1Bにおいて、積層シート1B全体の厚さTに対する基材層の厚さTB1の比率[(TB1/T)×100]は、92%であった。また、積層シート1B全体の厚さTに対するバリア層の厚さTB2の比率[(TB2/T)×100]は、4%であった。
また、得られた積層シート1Bは、第一の基材層と、第一の接着層と、バリア層と、第二の接着層と、第二の基材層とが、この順に積層された5層構造のシートであった。
【0076】
(融点)
基材層の樹脂(ポリプロピレン)の融点は、以下のようにして測定した。
示差走査熱量測定器(DSC)(株式会社パーキンエルマージャパン製「Diamond DSC」)を用いて、ポリプロピレンを10℃/分にて50℃から200℃に昇温し、220℃にて5分間保持し、10℃/分にて220℃から50℃に冷却した。この時得られた吸熱ピークの最大値を示す温度を、ポリプロピレンの融点とした。
【0077】
(結晶化速度)
示差走査熱量測定器(DSC)(株式会社パーキンエルマージャパン製「Diamond DSC」)を用いて、基材層に用いたポリプロピレンの結晶化速度を測定した。具体的には、ポリプロピレンを10℃/分にて50℃から230℃に昇温し、230℃にて5分間保持し、80℃/分で230℃から130℃に冷却し、その後130℃に保持して結晶化を行った。130℃になった時点から熱量変化について測定を開始し、DSC曲線を得た。得られたDSC曲線から、以下の手順(i)~(iv)により結晶化速度を求めた。
(i)測定開始からピークトップまでの時間の10倍の時点から、20倍の時点までの熱量変化を直線で近似したものをベースラインとした。
(ii)ピークの変曲点における傾きを有する接線とベースラインとの交点を求め、結晶化開始および終了時間を求めた。
(iii)得られた結晶化開始時間から、ピークトップまでの時間を結晶化時間として測定した。
(iv)得られた結晶化時間の逆数から、結晶化速度を求めた。
基材層に用いたポリプロピレンの結晶化速度は0.9min-1であった。
【0078】
[容器の成形]
上記の通り製造した積層シート1Bを、赤外線ヒーターにて基材層の樹脂の融点以下の温度に加熱し、金型に真空および圧縮空気にて押し付けて冷却することで、直径95mmのカップ容器を成形した。
【0079】
(比較例1)
図6に示す製造装置を用いて、以下に示す製造条件で積層シート71を製造した以外は、実施例1と同様の材料および方法で、容器を成形した。
当該製造装置において、押出機のTダイ72より共押出された溶融樹脂をエアナイフ74により冷却ロール76に密着し、冷却ロール76および78により冷却して積層シート71を製造した。
[製造条件]・押出機の直径:30mm
・Tダイ72の幅:350mm
・積層シート71の引取速度:2.1m/分
・冷却ロール76および78の表面温度:30℃
【0080】
(比較例2)
基材層の樹脂にPE((直鎖状低密度ポリエチレンSLH218(ブラスケム社製)(MFR:2.3g/10min(190℃、2.16kg)、密度:916kg/m3)を用いなかった以外は実施例1と同様にして、比較例2の積層シートを製造した。
【0081】
【0082】
なお、実施例1並びに比較例1および2の積層シートのそれぞれの基材層を小角X線散乱解析法より解析したところ、実施例1および比較例2の積層シートは、プロピレン系樹脂がスメチカ晶を含有していることが確認できた。
【0083】
(水蒸気バリア性評価)
成形した直径95mmのカップ容器に、80gの水を充填シールし、40℃ドライ条件にて保存した。保存1日後、4日後、および6日後の水分ロス質量(%)を測定した。充填シール直後のカップ容器内の水分質量が80gであり、保存1日後、4日後、および6日後に測定したカップ容器内の水分質量をWx(単位は、g)として、水分ロス質量(%)={(80-Wx)/80}×100の計算式により、水分ロス質量(%)を算出した。結果を表2に示す。
【0084】
(引張特性評価)
引張特性として、JIS K 7161に基づき、引張試験機にてサンプルを50mm/分で引張試験することにより、「弾性率」、「降伏強度」、「破断強度」、および「伸び」を測定して、比較および評価した。結果を表3に示す。
なお、積層シートについては、成形の押出方向(MD)と、MDの垂直方向(TD)に対して測定を行った。
【0085】
(ヘイズ評価)
ヘイズメーター(NDH-2000、日本電色工業株式会社製)を使用して、積層シートおよびカップ容器の全ヘイズを測定した。
また、積層シートについては、内部ヘイズおよび外部ヘイズも測定した。積層シートの内部ヘイズは、シートの両面にシリコーンオイルを塗布した後、ガラス板でこのシートの両面を挟み、シート外側の影響を消去してヘイズメーターで測定した。また、積層シートの外部ヘイズは、積層シートの全ヘイズから積層シートの内部ヘイズを引いて算出した。
それぞれの結果を表4に示す。
【0086】
(成形性評価)
上記で成形した容器の成形性を、外観およびフランジ首下の肉回りのバラツキから、以下のように評価した。結果を表5に示す。
A:外観良好で、フランジ首下の肉回りのバラツキが少ない
B:容器に皺があるおよび/またはフランジ首下の肉回りのバラツキがあるが、いずれも許容範囲内である
C:容器に皺があるおよび/またはフランジ首下の肉回りのバラツキが大きい
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
表2に示した結果より、実施例1の容器は、比較例1の容器と比べ、水蒸気バリア性に優れることがわかる。また、実施例1の容器は、比較例2の容器と比べても、同等以上に水蒸気バリア性に優れることがわかる。
また、表3に示した結果より、実施例1の積層シートは、比較例2の積層シートと比べ、剛性に優れることがわかる。これは、実施例1において、基材層がスメチカ晶を含むプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂を含有することの、相乗効果であると考えられる。また、基材層がプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂を含有することで、従来は容器においても剛性の低下がみられたところ、実施例1の容器は、比較例2の容器と同等以上に剛性に優れることがわかる。
また、表4に示した結果より、実施例1の積層シートは、比較例1および2の積層シートと比べ、内部ヘイズが改善されており、透明性に優れることがわかる。
また、表5に示した結果より、実施例1の容器は、比較例1および2の容器と比べ、成形性に優れることがわかる。
【0092】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、各種の変形例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0093】
1,1A,1B…積層シート、1a…シート状物、2,41…基材層、2A…第一の基材層、2B…第二の基材層、3,42…バリア層、4A…第一の接着層、4B…第二の接着層、10…製造装置、11…Tダイ、21…第1冷却ロール、21a…弾性材、22…第4冷却ロール、23…第2冷却ロール、24…第3冷却ロール、25…金属製エンドレスベルト、26…冷却水吹き付けノズル、27…水槽、27a…排水溝、28…吸水ロール、29…剥離ロール、30…容器本体、30a,40a…フランジ、31…基材層、32…表面層、40…蓋体、50…容器、θ1…中心角度。