(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】導電性薄膜の基板貫通レーザパターン化及び絶縁
(51)【国際特許分類】
G02B 1/116 20150101AFI20240902BHJP
G02F 1/153 20060101ALN20240902BHJP
G02F 1/155 20060101ALN20240902BHJP
【FI】
G02B1/116
G02F1/153
G02F1/155
(21)【出願番号】P 2020539695
(86)(22)【出願日】2019-01-16
(86)【国際出願番号】 US2019013732
(87)【国際公開番号】W WO2019143646
(87)【国際公開日】2019-07-25
【審査請求日】2022-01-07
(32)【優先日】2018-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】509335373
【氏名又は名称】ビュー, インコーポレイテッド
【住所又は居所原語表記】195 S. Milpitas Blvd., Milpitas, CA 95035 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100171675
【氏名又は名称】丹澤 一成
(72)【発明者】
【氏名】クイラード ジェイムズ グレゴリー
(72)【発明者】
【氏名】ファン ミン-ファン
(72)【発明者】
【氏名】リー シンファ
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-500788(JP,A)
【文献】国際公開第2014/072137(WO,A1)
【文献】特開2006-267834(JP,A)
【文献】特開2008-181796(JP,A)
【文献】国際公開第2012/172612(WO,A1)
【文献】特開2006-269108(JP,A)
【文献】特開2011-124152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10-1/18
G02F 1/15-1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1の面と前記第1の面と反対側の第2の面とを有する基板層であって、180nmから1000nmの電磁スペクトルの少なくとも一部にわたって、2mmの厚みでの70%よりも高い光透過率と1kΩ-cm又はそれよりも高い抵抗率とを有する材料を含み、前記基板層はガラスである、前記基板層、
(b)材料を含む第1の導電層であって、前記材料が、180nmから20μmの電磁スペクトルの少なくとも一部にわたって光学的に不透明であり、10nm又はそれよりも大きい厚みを有し、少なくとも2つの領域、すなわち、非改質及び改質領域を含み、前記第1の導電層の前記非改質領域が、10Ω-cm又はそれよりも低い抵抗率を有し、前記第1の導電層の前記改質領域が、1kΩ-cm又はそれよりも高い抵抗率を有し、前記第1の導電層が、第1の面と第2の面を更に有し、前記第1の導電層の前記第1の面が、前記基板層の前記第2の面の少なくとも一部上に配置される前記第1の導電層、
(c)第1の面と第2の面を有する被覆層であって、前記第1の導電層の前記改質領域の少なくとも一部が前記被覆層と前記基板層の間に配置されるように、前記被覆層の前記第1の面が前記第1の導電層の前記第2の面の少なくとも一部上に配置される前記被覆層、及び
(d)前記被覆層の上に配置される第2の導電層であって、当該第2の導電層は改質領域を含まない、第2の導電層、を含むことを特徴とする複合構造体。
【請求項2】
前記改質領域の上方に配置された前記被覆層は、前記非改質領域の上方に配置された前記被覆層と物理的又は化学的に実質的に同じであ
り、
物理的に同じとは、前記改質領域が同じ抵抗率、同じ結晶構造、同じ非晶構造を有することを意味し、
化学的に同じとは、前記改質領域での単位胞内の化学構造又は化学成分の相対量が前記非改質領域と同じことを意味することを特徴とする請求項1に記載の複合構造体。
【請求項3】
前記改質領域は、前記非改質領域とは物理的又は化学的に異な
り、物理的に異なるとは、それが異なる抵抗率、結晶構造、異なる非晶構造を有するか又は非晶質にされること、又は前記被覆層と前記改質領域の間の接着又は接触が変更されることを意味し、化学的に異なるとは、前記改質領域での単位胞内の化学構造又は化学成分の相対量が前記非改質領域とは異なること、又は前記第1の導電層の前記改質領域の原子または電子が複合構造体内の別の層の中に相互拡散することを意味することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複合構造体。
【請求項4】
前記改質領域は、物理的に異な
る、
ことを特徴とする請求項3に記載の複合構造体。
【請求項5】
前記改質領域は、化学的に異な
る、
ことを特徴とする請求項3に記載の複合構造体。
【請求項6】
前記改質領域は、その上方に配置された前記被覆層と物理的に接触していることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項7】
前記第1の導電層の前記改質領域は、その上方に配置された前記被覆層から空間的に分離しており、前記空間的分離は、少なくとも10nmであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項8】
前記第1の導電層と前記被覆層の間の前記空間的に分離した領域は、空隙を含むことを特徴とする請求項7に記載の複合構造体。
【請求項9】
前記第1の導電層の前記改質領域は、前記第1の導電層の前記非改質領域からΔE≧2異なるCIE L
*a
*b
*色座標を有することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項10】
前記第1の導電層の前記改質領域は、前記第1の導電層の前記非改質領域からΔE≧3異なるCIE L
*a
*b
*色座標を有することを特徴とする請求項9に記載の複合構造体。
ことを特徴とするランプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、その内容に依存し、かつその全体が引用により本明細書に組み込まれている2018年1月17日出願の米国仮特許出願第62/618、291号の「35 U.S.C.§119」の下での優先権の利益を主張するものである。
【0002】
本発明の開示は、一般的に薄膜のレーザ照射に関連し、より具体的には、レーザを使用して導電層を改質かつ絶縁する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
多くの新しい製品は、薄膜の導電化、半導電化、又は絶縁化に基づいている。ほとんどの用途では、膜厚は、ナノメートルからマイクロメートルの範囲であり、膜の主な機能は、光学的及び電気的な性質である。これらの膜をパターン化するための有用な処理技術は、高い処理速度、小さい構造サイズ、及び大面積への適用性を要求する。高速印刷方法と直接レーザパターン化との組合せは、高スループットでの高解像度を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レーザアブレーション(Laser ablation、レーザ切除)は、薄膜構造化のための汎用ツールとして立証されている。しかし、照射区域内及びその周囲でのデブリ、熱損傷、並びに膨隆は、全てが潜在的な問題である。処理雰囲気、波長、空間的及び時間的パルス形状のようなパラメータを制御することにより、かつレーザアブレーション後に洗浄段階を含めることによってこれらの問題を軽減する方法が開発されている。しかし、薄膜の導電性及び他の電気的態様を調整するための薄膜の制御式パターン化を考慮する技術に対する満たされていない必要性が引き続き存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
態様(1)では、本発明の開示は、(a)第1の面と第1の面の反対側の第2の面とを有する基板層であって、約180nmから約1000nmの電磁スペクトルの少なくとも一部にわたって、2mmの厚みでの70%よりも高い光透過率と約1kΩ-cm又はそれよりも高い抵抗率とを有する材料を含む上記基板層と、(b)材料を含む導電層であって、材料が、約180nmから約20μmの電磁スペクトルの少なくとも一部にわたって光学的に不透明であり、約10nm又はそれよりも大きい厚みを有し、少なくとも2つの領域、すなわち、非改質及び改質領域を含み、導電層の非改質領域が10Ω-cm又はそれよりも低い抵抗率を有し、導電層の改質領域が約1kΩ-cm又はそれよりも高い抵抗率を有し、導電層が第1の面と第2の面を更に有し、導電層の第1の面が基板の第2の面の少なくとも一部上に配置される上記導電層と、(c)第1の面と第2の面を有する被覆層であって、導電層の改質領域の少なくとも一部が被覆層と基板層の間に配置されるように、被覆層の第1の面が、導電層の第2の面の少なくとも一部上に配置される上記被覆層とを含む複合構造体を提供する。
【0006】
態様(2)では、本発明の開示は、態様(1)の複合構造体を提供し、改質領域の上方に配置された被覆層は、非改質領域の上方に配置された被覆層と物理的又は化学的に実質的に同じである。態様(2)では、本発明の開示は、態様(1)又は態様(2)の複合構造体を提供し、改質領域は、非改質領域と物理的又は化学的に異なっている。態様(4)では、本発明の開示は、態様(3)の複合構造体を提供し、改質領域は、物理的に異なっており、物理的に異なるとは、それが異なる抵抗率、結晶構造、異なる非晶構造を有するか又は非晶質にされること、被覆層と改質領域の間の接着又は接触が変化すること、又は導電層の改質領域の少なくとも一部が複合構造体内の別の層の中に相互拡散することを意味する。態様(5)では、本発明の開示は、態様(3)の複合構造体を提供し、改質領域は、化学的に異なっており、化学的に異なるとは、改質領域内の単位胞内の化学構造又は化学成分の相対量が非改質領域と異なっていることを意味する。
【0007】
態様(6)では、本発明の開示は、態様(1)-(5)のうちのいずれかの複合構造体を提供し、改質領域は、その上方に配置された被覆層と物理的に接触している。態様(7)では、本発明の開示は、態様(1)-(6)のうちのいずれかの複合構造体を提供し、複合構造体は、請求項1のものであり、導電層の改質領域は、その上方に配置された被覆層から空間的に分離しており、空間的分離は、少なくとも10nmである。態様(8)では、本発明の開示は、態様(7)の複合構造体を提供し、導電層と被覆層の間の空間的分離領域は、ガス又は空隙を含む。態様(9)では、本発明の開示は、態様(1)-(8)のうちのいずれかの複合構造体を提供し、導電層の改質領域は、導電層の非改質領域から約ΔE≧3異なるCIE L*a*b*色座標を有する。態様(10)では、本発明の開示は、態様(9)の複合構造体を提供し、導電層の改質領域は、導電層の非改質領域から約ΔE≧2異なるCIE L*a*b*色座標を有する。
【0008】
態様(11)では、本発明の開示は、態様(1)-(10)のうちのいずれかの複合構造体を提供し、導電層は、酸化物、金属ベースの材料、合金、及びドープ材料から構成される群から選択された材料を含む。態様(12)では、本発明の開示は、態様(11)の複合構造体を提供し、酸化物は、透明導電酸化物を含む。態様(13)では、本発明の開示は、態様(11)の複合構造体を提供し、透明導電酸化物は、金属酸化物を含む。態様(14)では、本発明の開示は、態様(13)の複合構造体を提供し、金属酸化物は、セリウムの酸化物、チタンの酸化物、ジルコニウムの酸化物、ハフニウムの酸化物、タンタルの酸化物、過酸化亜鉛、スズ酸亜鉛、スズ酸カドミウム、酸化亜鉛インジウム、酸化マグネシウムインジウム、酸化インジウムスズ、及び酸化ガリウム-酸化インジウムから構成される群から選択される。態様(15)では、本発明の開示は、態様(3)の複合構造体を提供し、導電層は、レーザを用いて少なくとも導電層を照射することから発生する熱に応答して膨張するように構成される。態様(16)では、本発明の開示は、態様(3)の複合構造体を提供し、物理的に異なる態様は、層間剥離を含み、層間剥離は、導電層を基板から分離する。態様(17)では、本発明の開示は、態様(3)の複合構造体を提供し、物理的に異なる態様は、層間剥離を含み、層間剥離は、導電層を被覆層から分離する。
【0009】
態様(18)では、本発明の開示は、(a)第1の面及び第2の面を有する基板層、第1の面及び第2の面を有する導電層、及び第1の面及び第2の面を有する被覆層を含む少なくとも3つの層を含む多層構造体を与える段階であって、導電層の第1の面が基板層の第2の面に隣接し、導電層の第2の面が被覆層の第1の面に隣接し、基板層が、約180nmから約1000nmの電磁スペクトルの少なくとも一部にわたって70%よりも高い2mmの厚みでの光透過率と約1kΩ-cm又はそれよりも高い抵抗率とを有する材料を含み、導電層が、約10nm又はそれよりも大きい厚みを有する層を含み、非改質及び改質領域を含み、導電層の非改質領域が、10Ω-cm又はそれよりも低い抵抗率を有し、導電層が、第1の面と第2の面を更に有し、導電層の第1の面が、基板の第2の面の少なくとも一部上に配置され、被覆層が、第1の面と第2の面を有し、導電層の改質領域の少なくとも一部が被覆層と基板層の間に配置されるように、被覆層の第1の面が、導電層の第2の面の少なくとも一部上に配置される上記与える段階と、(b)約180nmから約20μmの範囲にある波長を有するレーザを使用することによって基板層を通して導電層の一部分を照射して、レーザによって照射された導電層の改質領域が物理的又は化学的改質を受け、かつ約1kΩ-cm又はそれよりも高い抵抗率を有する一方で、改質領域上に配置された被覆層が変化しない抵抗率を有するような改質領域を生成する段階とを含む多層構造体を改質する方法を提供する。
【0010】
態様(19)では、本発明の開示は、態様(18)の方法を提供し、基板は、ガラスを含む。態様(20)では、本発明の開示は、態様(18)又は態様(19)の方法を提供し、物理的変化は、少なくとも1つの導電層の結晶化、非晶化、隣接層の間の相互拡散又は層間剥離のうちの少なくとも1つを含む。態様(21)では、本発明の開示は、態様(20)の方法を提供し、層間剥離は、基板との少なくとも1つの導電層の間の層間剥離を更に含む。態様(22)では、本発明の開示は、態様(20)の方法を提供し、層間剥離は、被覆層との少なくとも1つの導電層の間の層間剥離を更に含む。態様(23)では、本発明の開示は、態様(18)-(22)のうちのいずれかの方法を提供し、レーザ照射は、導電層のレーザアブレーションに対する閾値よりも低く留まる。態様(24)では、本発明の開示は、態様(18)-(23)のうちのいずれかの方法を提供し、少なくとも1つの導電層は、酸化物、金属ベースの材料、合金、及びドープ材料から構成される群から選択された材料を含む。態様(25)では、本発明の開示は、態様(18)-(24)のうちのいずれかの方法を提供し、少なくとも1つの導電層の厚みは、約1ミクロンよりも小さい。態様(26)では、本発明の開示は、態様(18)-(25)のうちのいずれかの方法を提供し、被覆層は、2つの導電層の間に挟まれる。態様(27)では、本発明の開示は、態様(26)の方法を提供し、被覆層は、遷移金属酸化物及び酸化アルミニウム(Al2O3)から構成される群から選択された材料で作られる。態様(28)では、本発明の開示は、態様(18)-(27)のうちのいずれかの方法を提供し、レーザの波長は、約240nmから約360nmまで及び約1.0ミクロンから約5.0ミクロンまでから構成される群から選択される。態様(29)では、本発明の開示は、態様(28)の方法を提供し、レーザの波長は、約266nmである。態様(30)では、本発明の開示は、態様(28)の方法を提供し、レーザの波長は、約2ミクロンである。
【0011】
本発明の開示の追加の特徴及び利点は、以下の詳細説明に列挙され、一部はその説明から当業者に容易に明らかであり、又は以下の詳細説明、特許請求の範囲、及び添付図面を含む本明細書に説明する実施形態を実施することによって認識されるであろう。
【0012】
以上の全体説明及び以下の詳細説明の両方は様々な実施形態を説明し、かつ主張する主題の性質及び特性を理解するための概要又はフレームワークを提供することを意図していることは理解されるものとする。添付図面は、様々な実施形態の更なる理解を提供するために含まれており、かつ本明細書に組み込まれてその一部を構成する。図面は、本明細書に説明する様々な実施形態を例示し、かつその説明と共に主張する主題の原理及び作動を解説するのに寄与する。
【0013】
以下は、添付図面内の図の説明である。図は必ずしも縮尺通りではなく、図のある一定の特徴及びある一定の視野は、明瞭さ又は簡潔さのために縮尺を誇張して又は概略的に示す場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】下側酸化インジウムスズ層に対するレーザ破壊を示すエレクトロクロミックデバイスの概略断面図である。
【
図2】一実施形態による
図1に示すようなエレクトロクロミックデバイスを作る方法の流れ図である。
【
図3】本発明の開示に該当する2つの市販レーザ(266nm及び2ミクロン)の波長も示す裸の及び酸化インジウムスズ膜付きのEAGLE XG(登録商標)ガラスの透過率対波長を示すグラフである。
【
図4】挿入図が層間剥離した区域のうちの1つの拡大図である266nmでの背面照射後に層間剥離したITO/Al
2O
3/ITOスタックのSEM顕微鏡写真画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以上の概要、並びにある一定の革新的技術の以下の詳細説明は、図と共に読む時に良く理解されるであろう。特許請求の範囲は、図に示す配置及び手段に限定されないことを理解しなければならない。更に、図に示す外観は、装置の定められた機能を達成するのに使用することができる多くの装飾的外観のうちの1つである。
【0016】
本発明の開示は、以下の詳細説明、図面、実施例、及び特許請求の範囲、及びそれらの上述及び以下の説明を参照することによってより容易に理解することができる。しかし、本発明の構成物、物品、デバイス、及び方法を開示して説明する前に、本発明の開示は、別途指定しない限り、開示する特定の構成物、物品、デバイス、及び方法に限定されず、従って勿論変化する可能性があることは理解されるものとする。本明細書に使用する用語は、特定の態様を説明することだけを目的とし、限定することを意図していないことも理解されるものとする。
【0017】
本発明の開示の以下の説明は、その現在公知の実施形態での本発明の開示の授権教示として提供するものである。この目的に向けて、当業者は、本明細書に説明する開示の様々な態様に多くの修正を加える一方で依然として本発明の開示の有益な結果を取得することができることを認識して認めるであろう。本発明の開示の望ましい利益の一部は、他の特徴を利用せずに本発明の開示の特徴の一部を選択することによって取得することができることも明らかであろう。従って、本発明の開示に対する多くの修正及び適応が可能であり、ある一定の状況では更に望ましい可能性があり、かつ本発明の開示の一部であることを当業者は認識するであろう。すなわち、以下の説明は、本発明の開示の原理の例示としてかつその限定ではなく提供するものである。
【0018】
開示するのは、開示する方法及び構成物に使用することができ、それらと併せて使用することができ、それらの準備に使用することができる材料、化合物、構成物、及び構成要素であり、又はそれらの実施形態である。これら及び他の材料は、本明細書に開示されており、かつこれらの材料の組合せ、部分集合、相互作用、群などが開示される時にこれらの化合物の各様々な個々の及び集合的な組合せ及び置換に関する特定の関連は明示的に開示されない場合があるが、各々は本明細書で具体的に考えられており、かつ説明されていることは理解される。
【0019】
ここで添付図面にその例を示す本発明の実施形態を詳細に以下に参照する。それぞれの図での特定の参照文字の使用は、同じか又は類似の部分を示している。
【0020】
広義には、本発明の開示は、導電膜の選択的レーザ照射に関連し、より具体的には、支持基板を通して視準したレーザを使用して導電薄層を改質かつ絶縁する方法に関する。多くの用途は、ガラス上の薄膜コーティングに関わっている。本明細書に使用する場合、薄膜をその上に有する基板を参照する時に、基板は、底部上にあると見なされることになり、第1のコーティングは、基板の「上部」上に置かれ、各その後のコーティングは、後のコーティングの「下」にある前のコーティング「の上に」被覆される。
【0021】
薄膜コーティングのパターン化は、レーザを使用して材料をスクライビング又は除去することを含む幾つもの方法で行うことができる。文献は、薄膜のレーザパターン化に関する多くの例を提供している。しかし、文献におけるほとんど全てのパターン化は、レーザが基板を通過する必要がない「トップダウン」方式で行われる。基板を通してビームを向けないことの利点は多く、基板の吸光度を考慮する必要がない、焦点光学系の設計が容易である、基板に損傷を与える可能性がないなどである。しかし、トップダウン手法にも制限がある。一部の事例では、全ての層を被覆した後に多層構造のある一定の層だけをパターン化する又は一部の膜層を選択的にパターン化し、一方で他の層は触らずに無傷のままに残すことが必要である又は望ましい場合がある。各層は、一般的に非常に薄いので(厚みがnmからμm)、上部コーティングの下のコーティングのいずれかを選択的にパターン化するのにトップダウン手法を使用することは、上部コーティングも同様に除去しない限り、ほとんど不可能である。要するに、文献は、パターン化することが望ましい膜のレベルと同等の深さを有するチャネルをパターン化するのにレーザを使用することが許容できる事例にトップダウン手法が制限されることを示している。
【0022】
本発明の開示は、上述のトップダウン手法に対する代替に関する。基板を通してレーザを向ける本発明の開示のボトムアップ手法は、上部被覆を除去する、損傷する、又は通過することなく最初に被覆された膜層の選択的パターン化を可能にする。従来のトップダウンレーザアブレーション処理は、隣接する膜の損傷に至る衝撃波及び局所圧力増大を発生させるので、他の隣接する薄膜層を損傷することなくガラスと接触している薄膜の物理的又は化学的特性を変更することができるレーザ処理は特に有利である。レーザパターン化に対するボトムアップ手法は、様々な層を操作して薄膜デバイス設計に新しい柔軟性を導入する新しい方法を提供し、かつ後述するように処理設計の改善を可能にする。
【0023】
本発明の開示から利益を得る特定の薄膜用途は、エレクトロクロミック膜の分野である。エレクトロクロミズムは、典型的には電圧変化を受けることによって異なる電子状態に置かれた時に材料が光学特性の可逆的な電気化学的介在性変化を示す現象である。その光学特性は、典型的には、色、透過率、吸光度、及び反射率のうちの1又は2以上である。エレクトロクロミックデバイスは、例えば、自動車のミラーに使用されているが、窓を製造するための処理に関連付けられたコストのために市販及び家庭用アーキテクチャには実質的に拡張されていない。
【0024】
エレクトロクロミック窓は、1枚の透明材料の上にエレクトロクロミックデバイスを形成することによって製造される。塵埃及び他の粒子に対する膜の感度のために、及びほとんどのエレクトロクロミック膜の場合に材料が湿気又は酸素に敏感であるために、コーティング処理は、一般的に、制御された環境で真空又は低圧の下で行われる。エレクトロクロミック膜の色合いを均一にするために、機械的分離又はレーザ分離を使用して膜スタック内に明確な領域を定めなければならない。分離は、従来、膜堆積シーケンス内の2時点でレーザアブレーションによって行われ、すなわち、スタックにおける第1の層の後に1回と最後の層の後にもう1回である。十分に高いレーザ流束で上面から膜にレーザを集束させて膜材料をアブレーション(切除)するか、又は材料をプラズマに変換してガラス面から完全に除去する。
【0025】
しかし、複数の分離段階を行うために膜堆積処理を中断することは2つの欠点がある。第1に、コーティング処理を中断する必要があるために複雑さが増し、収量が低下する。真空の破壊は処理を遅らせ、粒子が膜に取り込まれる可能性を増大させ、それにより、完成したデバイスに電気的短絡欠陥がもたらされる場合がある。第2に、初期層の分離/パターン化は、処理の開始時に最終製品の形状を知ることが必要である。これは製造の柔軟性を制限し、窓がほとんど無数のサイズになる可能性があり、購入要求の納期が典型的に非常に短い建築用窓の場合に特に困難である。これらの理由から、膜堆積の完了後に下側導電膜層に絶縁領域を定める方法が好ましいことになる。それは、製造され、保管され、その後にパターン化されて購入要求に適合するように切断される完全に被覆された大きい「マザーシート」の生成を可能にすると考えられる。
【0026】
一実施形態では、本発明の開示は、層間剥離及び絶縁手法を使用して透明基板と接触する酸化インジウムスズのような導電酸化物薄膜層を絶縁する処理を教示する。より具体的には、本発明の開示は、透明基板を通して向けられたレーザを使用して膜堆積の完了後に膜スタック内に絶縁領域を定める方法を説明する。処理によって膜のシート抵抗/抵抗率が破壊される層の切除ではなく、レーザは、最小限の吸収でガラスを通過し、かつ膜スタックの最下層で優先的に吸収される。
【0027】
別の実施形態では、抵抗率又は導電率のような膜の電子特性は、膜の物理的又は化学的な改質に起因して変更することができる。そのような変更は、バルク構造の変化、すなわち、レーザ処理前の均質な膜の物理構造を機械的に変更することができる、例えば、バルクから粒子に変換される、破砕される、分離されるなど、結晶性の変化、すなわち、結晶系の変化、欠陥(格子間原子、原子孔隙、フレンケル欠陥、線欠陥、面欠陥、バルク欠陥など)の追加、又は結晶から非晶(非晶化)又は非晶から結晶の変化のような結晶構造に対する変化又は改質、隣接する層間の原子又は電子の相互拡散、又は膜の化学量論組成の変化、固体膜から液体又は気体への過渡的な相変化(アブレーションとは対照的に気化)、膜材料単独又は隣接材料と組み合わせた化学反応、又はその組合せを含むことができる。有利なことに、本明細書に説明する処理は、被覆層の導電率が比較的不変に留まることを可能にする。
【0028】
一部の実施形態では、改質された領域は、例えば、光学顕微鏡、電子顕微鏡、原子間力顕微鏡、走査型トンネル顕微鏡などを含む光学的、微視的、又は分光学的方法によって識別可能であることになる。他の実施形態では、改質された領域は、非改質領域と同一に見える場合があり、電気的方法は、改質領域がどこに位置付けられるかを決定する唯一の方法である場合がある。
【0029】
エレクトロクロミックデバイスのような複合構造体100が基板層120、第1の導電層140、及び被覆層160、すなわち、エレクトロクロミック膜を含むことができる例示的薄膜デバイスが
図1に示されている。基板120は、第1の面124と第1の面124の反対側の第2の面122と、互いに隣接している改質領域144と非改質領域142又は14
6とを有することができる。第1の導電層140は、第1の面148と第2の面149を有することができる。被覆層160は、第1の面162と第2の面166を含むことができる。第1の導電層140の第1の面148は、基板層120の第2の面122に隣接し、導電層140の第2の面149は、被覆層160の第1の面162に隣接する。第1の導電層140は、基板120の第2の面122の少なくとも一部上に配置することができる。導電層140の第1の面148は、基板層120の第2の面122に隣接し、導電層140の第2の面149は、被覆層160の第1の面162に隣接する。
【0030】
被覆層160は、第1の導電層140が被覆層160と基板120の間に配置されるように第1の導電層140の少なくとも一部上に配置することができる。複合構造体100は、被覆層160が第1の導電層140と第2の導電層180の間に配置されるように第2の導電層180を更に含むことができる。第1のバスバー192は、第2の導電層180の上部上に配置することができる。第2のバスバー194は、第1の導電層140の上部上に配置することができる。第1のバスバー192及び第2のバスバー194を使用して複合構造体100に給電することができる。
【0031】
基板層120は、例えば、約180nmから約20μmの電磁スペクトルの少なくとも一部にわたって光学透明の材料を含むことができる。第1の導電層140は、例えば、約10nm又はそれよりも大きい厚みを有し、例えば、約100、50、25、10、又は5Ω-cm又はそれよりも低い抵抗率を有する層を有することができる。被覆層、すなわち、エレクトロクロミック層180は、例えば、約180nmから約20μmの電磁スペクトルの少なくとも一部にわたって光学的に不透明な材料を含むことができる。一部の実施形態では、エレクトロクロミック層180は、180nmから20μmの電磁スペクトルの>50、60、70、80、又は90%にわたってITOよりも高い光学的吸収性を有する材料を含むことができる。
【0032】
一実施形態では、導電層140の改質領域144は、導電層140の非改質領域142又は146よりも例えば少なくとも約10倍、20倍、30倍、又は50倍又はそれよりも大きく高い抵抗率を有することができる。一部の実施形態では、導電層140の改質領域144は、少なくとも約500Ω-cm、750Ω-cm、1kΩ-cm、1.5kΩ-cm、2kΩ-cm、又は5kΩ-cmの抵抗率を有することができる。導電層140の改質領域144は、導電層140の非改質領域142又は146と化学的又は機械的に異なるものとすることができる。上述のように、化学的又は機械的に異なるとは、膜の改質領域が非改質領域と比べて物理的又は化学的に改質されたために抵抗率又は導電率のような膜の電子特性が変更されることを指す。それにより、バスバー192を通してデバイスに流入する電流は、底部ITO層に直接短絡するのではなく、より低抵抗の上部ITO層に沿って優先的に広がるように向けられる。バスバー194から第1の導電層140に電流を向けるために、
図1の右側では類似の領域が除去されている。別の実施形態では、改質領域144のような導電層の少なくとも一部は、隣接層から既に剥離されている場合がある。導電層140の改質領域144は、抵抗率、結晶化、非晶化のうちの少なくとも1つを変化させることができる。層間剥離は、第1の導電層140を基板120から分離することができる。層間剥離は、第1の導電層140を被覆層160から分離することができる。
【0033】
層間剥離に起因して、第1の導電層140と基板120の間、又は第1の導電層140と被覆層160の間には空間又は空気が存在すると考えられる。第1の導電層140は、レーザ110で基板120を通して少なくとも導電層140を照射することで生じる熱に応答して膨張するように構成することができる。
【0034】
空間又は空気又は膜に対する他の物理的変化に起因して、一実施形態では、導電層140の改質領域144は、導電層140の非改質領域142又は146と約ΔE≧3異なるCIE L*a*b*色座標によって定量化される色変化を有することができると更に考えられている。別の実施形態では、導電層140の改質領域144は、導電層140の非改質領域142又は146と約ΔE≧2異なるCIE L*a*b*色座標によって定量化される色変化を有することができる。
【0035】
導電層140は、例えば、透明な金属酸化物(例えば、ITO、IZO、AZO、BaSnO3、CdO:Inなど)のような酸化物、金属ベース(例えば、銀ベース、パラジウムベース)の材料、合金(例えば、ITO合金、銀合金)、ドープ材料(例えば、酸化セリウムをドープしたITO)、多層導電膜(例えば、Au/Ag/Au)、カーボンナノチューブ又はグラフェン、導電性ポリマー、ナノ粒子、又はその組合せから構成される群から選択された材料を含むことができる。別の実施形態では、酸化物は、フッ素酸化スズ(FTO)とすることができる。
【0036】
酸化インジウムスズ(ITO)は、優れた環境安定性、90%までの透過率、及び1x10-3Ω-cm未満までの抵抗率を有する対費用効果の高い導体である。例示的ITO層140は、光の可視領域(約400nmから700nm)では、T≧80%を有するので、この膜はディスプレイ用途に有用である。別の実施形態では、少なくとも1つの導電層140又は180は、多結晶である低温ITOの層を有する。ITO層は、ガラス上で1~60Ω/平方のシート抵抗を達成するために50~400nmの厚みとすることができる。
【0037】
少なくとも1つの導電層140又は180は、酸化インジウム、二酸化チタン、酸化カドミウム、酸化ガリウムインジウム、五酸化ニオブ、及び二酸化スズのような他の金属酸化物を含むことができる。ITOのような1次酸化物に加えて、少なくとも1つの導電層140又は180は、セリウムの酸化物、チタンの酸化物、ジルコニウムの酸化物、ハフニウムの酸化物、タンタルの酸化物(TaO3)、過酸化亜鉛(ZnO2)、スズ酸亜鉛(Zn2SnO4)、スズ酸カドミウム(Cd2SnO4)、酸化亜鉛インジウム(Zn2In2O5)、酸化マグネシウムインジウム(MgIn2O4)、酸化ガリウム-酸化インジウム(Ga2O3-In2O3)のような2次金属酸化物を含むこともできる。少なくとも1つの導電層140又は180は、例えば、下にある層の材料に応じて(低温)スパッタリング技術により又は直流スパッタリング技術(DCスパッタリング又はRF-DCスパッタリング)によって形成される。
【0038】
より高い導電率に関して、少なくとも1つの導電層140又は180は、銀だけを含有するか又はアルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、カドミウム(Cd)、金(Au)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、スズ(Sn)、インジウム(In)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)、シリコン(Si)、鉛(Pb)、又はパラジウム(Pd)を含有する銀を含有する銀ベースの層を含むことができる。一実施形態では、少なくとも1つの導電層140又は180は、金、銀、及び金/銀合金のうちの少なくとも1つ、例えば、金の膜層で片側又は両側を被覆した銀の層を有することができる。これらの高導電性構造は、例えば、直接スパッタリング技術を使用して形成される。
【0039】
元素アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、カドミウム(Cd)、金(Au)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、スズ(Sn)、インジウム(In)、タンタル(Ta )、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)、シリコン(Si)、鉛(Pb)、又はパラジウム(Pd)を他の導電性元素又は合金内に使用して導電層140又は180を形成することができる。
【0040】
一部の実施形態では、第2のレーザ段階を使用して導電層の改質領域の少なくとも一部がアブレーションされる。改質段階は、ガラス-薄膜の相互作用又は膜-膜界面を変化させ、他の薄膜層の変化を最小にした底部導電層の局所的なアブレーションを可能にする。特に、導電層の改質が層間剥離である場合に、それは、他の薄膜層に損傷を与えない2次アブレーションに好適である。
【0041】
基板120は、ガラス、ポリマー、ガラスセラミック、及びプラスチックから構成される群から選択することができる。特に、ガラスは、水及び酸素に対する一般的な不浸透性のために有利である。ガラスは、ソーダ石灰ケイ酸塩ガラス(SLG)とすることができる。ガラスは、Corning・インコーポレーテッド(ニューヨーク州コーニング)製造のEAGLE XG(登録商標)ガラス又はGorilla(登録商標)ガラスのような無アルカリ又はアルカリ含有アルミノホウケイ酸塩又はアルミノケイ酸塩とすることができる。
【0042】
例示的基板120は、可視光透過率材料、プラスチック又はプラスチックフィルムのような可撓性材料を含むことができる。「プラスチック」とは、通常ポリマー合成樹脂から製造されるポリマー化合物を意味し、硬化剤、充填剤、強化剤、着色剤、可塑剤のような他の成分と組み合わせることができる。「樹脂」とは、合成又は天然からのポリマーである。プラスチックは、その完成した状態では固体であり、その製造中又は完成品への加工中の何らかの段では流動による成形が可能である。プラスチックは、熱可塑性材料と熱硬化性材料を含む。
【0043】
例示的基板120は、熱安定化ポリエチレンテレフタレート(HS-PET)を有することができる。しかし、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリイミド(PI)、テフロンポリ(パーフルオロ-アルカルボキシ)、フルオロポリマー(PFA)、ポリ(エーテルケトン)(PEEK)、ポリ(エーテルケトン)(PEK)、ポリ(エチレンテトラフルオロエチレン)フルオロポリマー(PETFE)、及びポリ(メチルメタクリレート)、及び様々なアクリレート/メタクリレートコポリマー(PMMA)のような他の適切なプラスチック基板を使用することができる。これらのプラスチック基板のある一定のものは、損傷せずに少なくとも約200℃まで(一部は約300~350℃まで)のより高い加工温度に耐えることができる。様々な環状ポリオレフィン、例えば、JSR・コーポレーション製のARTON、Zeon Chemicals L.P.製のZeonor、及びCelanese AG製のTopasも基板120に適している。Ausimont U.S.A.インコーポレーテッドによりHALARの商標で製造されるエチレンクロロトリフルオロエチレン(E-CTFE)、Dupont・コーポレーションによりTEFZELの商標で製造されるエチレンテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ガラス繊維強化プラスチック(FEP)、及び高密度ポリエチレン(HDPE)を含む他の低温プラスチック基板(可撓性と剛性の両方)を使用することもできる。プラスチック基板の様々な例を上述したが、基板120は、セラミックガラス及び石英のような他の材料から形成することができることが認められよう。
【0044】
複合構造体のコアとしての例示的用途では、基板120(例えば、厚みが700μm)は、膜構造のうちで飛び抜けて最も厚い層である。その結果、基板は、完全に構造化された複合構造体の機械的及び熱的安定性を大部分決定する。
【0045】
一実施形態では、
図2に示すように、複合構造体100のような多層導体/基板構造体を改質する方法200は、段階220では、基板120の少なくとも一部を被覆する少なくとも1つの導電層140を含む多層導体/基板構造体を与えることによって実行することができる。段階240では、少なくとも1つの導電層140の改質領域144が物理的に変化するように、レーザ110を使用することによって基板120を通して少なくとも1つの導電層140を照射することができる。一実施形態では、段階260では、照射された領域の抵抗率が隣接領域よりも少なくとも約10倍高くなるように、物理的変化は、少なくとも1つの導電層の結晶化、非晶化のうちの少なくとも一方を含むことができる。別の実施形態では、層間剥離は、基板120との又は追加の被覆層又は隣接する層160との少なくとも1つの導電層140の間で行うことができる。必要に応じて追加の加工段階は、段階290で照射領域の抵抗率が隣接する領域よりも約10倍高くなるように更に別のレーザ照射を含むことができる。
【0046】
一実施形態では、多層導体/基板構造体は、2つの導電層140及び180の間に挟まれた被覆層160を含む。一実施形態では、被覆層160は、遷移金属酸化物及び酸化アルミニウム(Al2O3)から構成される群から選択された材料で製造することができる。遷移金属は、酸化タングステン(WOx)、酸化チタン、及び酸化ニッケルから構成される群から選択することができる。一部の実施形態での被覆層は、ポリピロール、ビオロゲン、PDOT、ポリアニリンのような半導電性又は導電性ポリマーとすることができる。
【0047】
一実施形態では、第1の導電層140は、スパッタリング技術又は直流スパッタリング技術によって基板層120の上に堆積される。一実施形態では、エレクトロクロミック膜及び第2の導電層が統合堆積システムで製造され、ガラス基板は製造中のいずれの時も統合堆積システムを離れることがない。一実施形態では、第1の導電層も、統合堆積システムを使用して形成され、ガラスシートはEC膜及び第2の導電層の堆積中に統合堆積システムを離れることがない。一実施形態では、第1の導電層、EC膜、及び第2の導電層を含む層の全ては、統合堆積システムを使用して形成され、ガラスシートは、堆積中に統合堆積システムを離れることがない。
【0048】
本発明の開示の一実施形態は、2段階手法を使用して底部導電層140を電気的に絶縁する手法を教示するものである。第1の段階は、
図1に示すようにガラス基板から又は膜-膜界面(被覆層160の第1の面162)で薄膜層を剥離するのに適する波長のレーザ110を使用する段階を伴う。層間剥離は、底部導電膜層を電気的に絶縁するその後のレーザアブレーション段階のための緩衝領域をもたらす。一実施形態では、レーザ照射は、レーザアブレーションに対する閾値未満のままとすることができる。レーザの波長は、約240nmから約360nmまで及び約1.0ミクロンから約5.0ミクロンまでから構成される群から選択することができる。
【0049】
層間剥離段階に適するレーザは、導電性層又はWOx膜又はその両方による吸収性が高いものとすることができる。導電層の厚みが約ミクロン(1μm)未満であるので、レーザ波長での薄膜の吸収係数は、1/(1μm)=104cm-1よりも高いことが望ましい。104cm-1の吸収係数を用いて、レーザビームの63%は、膜厚1μm以内で吸収され、レーザビームの37%が反射又は透過される。一実施形態では、レーザの波長は約266nmである。別の実施形態では、レーザの波長は約2ミクロンである。深UVレーザ(266nm)又はIRレーザ(2μmから5μm)が適切な候補である。層間剥離は、ガラス薄膜又は膜-膜界面の間で生じ、他の薄膜層への変化を最小にしながら底部ITO薄膜の局所的なアブレーションを可能にする。
【0050】
ITO薄膜は、1μΩ-cmの程度の抵抗率を有することができる。対照的に、EC膜スタックは、10GΩ-cmに近い抵抗率を有する。従って、EC膜は、アブレーションされた線にわたる短絡を防止する。しかし、電気的モデル化によると、アブレーション領域における材料の抵抗率が約10kΩ-cmを超える場合に有効絶縁を達成することができることが示されている。ここでは、有効絶縁とは、短絡に対して失われる全デバイス電流の<0.1%として定めることができる。従って、ITO層を完全にアブレーションする必要はない。望ましい位置で膜のシート抵抗/抵抗率を単に減らすことで十分である。
【0051】
ITOのシート抵抗/抵抗率の崩壊は、基板の下からのレーザ照射によって達成される。この段階は、ITO層の直後ではなく、膜堆積の最後に実行される。レーザは最小限の吸収でガラスを通過することができ、ITO又は隣接層で優先的に吸収されるものとすることができる。一実施形態では、特にこの目的のために、吸収層をITOと接触して配置することができる。別の実施形態では、吸収層をITOの上に重ねて配置することができる。ITOの抵抗率は、結晶化、非晶化、隣接層間の相互拡散、膜の化学量論的組成の変化、又はその組合せによって変更することができる。レーザ流束が十分に高い場合にデバイス絶縁を達成することができ、レーザ流束がアブレーションの閾値を下回ったままである限り、被覆層の抵抗率は比較的変化しない。一実施形態では、被覆層の抵抗率がいくらか減少しても、依然として適正なデバイス作動が可能になると考えられる。
【0052】
図3は、EAGLE XG(登録商標)ガラス及びITO膜で被覆されたEAGLE XG(登録商標)の吸収を示している。ITO薄膜は、深UV(<275nm)で及び中IRを超える(>1350nm)時に強い吸収を有することを見ることができる。2つの市販パルスレーザ、すなわち、266nmの波長を有する周波数4倍化Nd:YVO
4レーザ及び2μm波長のQスイッチ型ツリウムドープファイバレーザは、層間剥離及びアブレーション処理に適する候補である。
【0053】
実験
実験は、ITO/WOx/ITO又はITO/Al2O3/ITO膜スタックを使用して試験サンプルに対して行われる。レーザは、266及び355nmの波長を有する。これらの波長では、ITO(及びWOx)は高吸収性である。レーザは、背面照射を使用して底部ITOの抵抗率を崩壊することができる。しかし、上に重なる膜も何らかの損傷の兆候を示している。これは、ガラス基板もこれらの波長で吸収性であるという事実に一部起因していると考えられる。例えば、厚み0.7mmのEAGLE XG(登録商標)は、266nmで僅か15~20%の透過率を有するに過ぎない。薄いガラスほど吸収が少なく、すなわち、基板としてより薄いガラスを使用することは、より短い波長でより広い処理窓を得るのに役立つ可能性がある。>1.5μmのようなより長い波長は、選択的に底部ITOに影響を与える場合により有効であると考えられる。266nmと1.5μm超の波長で作動するレーザは、単一ITO膜内で限定されたITOの改質を可能にする。レーザパルスエネルギ、パルス重複、及び速度を制御することにより、改質は底部ITO膜に限定される。
【0054】
図4は、(ITO/Al
2O
3/ITO)薄膜層から構成される剥離された薄膜スタックを示している。薄膜スタックは、0.3mmのEXGガラス上に堆積され、層の厚みはそれぞれ約400nm、全厚は1.2μmである。ナノ秒266nmレーザを層間剥離処理に使用する。レーザ電力は約1.5Wであり、45kHzの反復速度で稼働する。レーザビームは、約60μmのスポットサイズに集束させる。レーザビームは、ガラス側から薄膜スタックに入射する。約80mm/sの速度では、底部ITO層とAl
2O
3薄膜層の間に連続的な層間剥離が観察される。
図4の右側のSEM画像は、Al
2O
3薄膜層と底部ITO層の間に明らかな空隙を示している。
【0055】
薄膜スタックが基板から剥離された状態で、第2のレーザ段階では、膜スタックの残りから底部ITO層をアブレート(ablate 除去)する。底部ITO層は十分に高いレーザ流束を吸収し、ITO材料の一部又は全てをプラズマに変換して除去する。それにより、底部ITO層の抵抗が増加し、デバイス内の電流は低抵抗の上部ITO層に沿って優先的に広がるようになる。
【0056】
本発明の開示の主題を詳細にかつその特定の実施形態を参照して説明したが、特定の要素が本説明に付随する各図面に示されている場合でも、本明細書に開示する様々な詳細は、これらの詳細が本明細書に説明した様々な実施形態の本質的な構成要素である要素と関連があることを意味すると解釈すべきではないことに注意されたい。例えば、
図1は、本発明の開示の一実施形態によるエレクトロクロミックデバイスのような複合構造体100の層状構造の概略図に過ぎない。本明細書ではエレクトロクロミックデバイス構成を考えており、その構造の詳細は、本説明、添付図面、及び特許請求の範囲から便宜的に集めることができる。
図1は例示目的で示され、そこに示す様々な態様の各々が本明細書で考えられている様々な実施形態の必要な部分であるという推定を与えることを意図していない。
【0057】
本明細書に添付する特許請求の範囲は、本発明の開示の範囲及び本明細書に説明した様々な実施形態の対応する範囲の唯一の表現として解釈しなければならない。更に、特許請求の範囲に定められる本発明の範囲から逸脱することなく修正及び変形が可能であることは明らかであろう。より具体的には、本発明の開示の一部の態様は本明細書では好ましい又は特に有利であると認定するが、本発明の開示は、必ずしもこれらの態様に限定されないように意図している。
【0058】
以下の特許請求の範囲の1又は2以上は、移行句として用語「wherein」を利用することに注意されたい。本発明の開示を定めるために、この用語は、本発明の構造に関する一連の特徴の列挙を導入するのに使用される無制限の移行句として特許請求の範囲に導入され、より一般的に使用される無制限の前文用語「comprising」と同様に解釈しなければならないことに注意されたい。
【0059】
本明細書での「少なくとも1つ」の構成要素、要素などの列挙は、冠詞「a」又は「an」の代替使用を単一構成要素、要素などに限定しなければならないという推論を与えるのに使用してはならないことにも注意されたい。
【0060】
本明細書での本発明の開示の構成要素の列挙が特定の特性を具現化するように又は特定の方式で機能するように特定の方法で「構成される」ということは、意図する使用の列挙とは違って構造的な列挙であることに更に注意されたい。より具体的には、構成要素が「構成される」方式への本明細書での参照は、構成要素の既存の物理的状態を示し、従って、構成要素の構造的特徴の明確な列挙として解釈しなければならない。
【0061】
本明細書に使用する時に、用語「約」は、当業者によって理解されることになり、かつ使用される状況に応じてある程度変わることになる。使用される状況を考慮しても当業者に明らかでない用語を使用する時に、「約」は、特定用語の±20%までを意味することになる。
【0062】
本明細書に使用する時に、用語「層間剥離」は、当業者によって理解されることになり、かつ使用される状況に応じてある程度変わることになる。使用される状況を考慮しても当業者に明らかではない用語を使用する時に、以下に使用する「層間剥離」とは、接続方法を問わず、生じる可能な接触において1つの層と別の層との接続の解除を指す。
【0063】
本明細書に使用する時に、光学透明基板又は光学透明プラスチック又はガラス材料に適用される用語「光学的に透明」とは、基板又はプラスチック材料が1未満の吸光度を有することを意味する。すなわち、入射光の少なくとも10%は、約300~約800ナノメートルの範囲にある少なくとも1つの波長で材料を透過する。
【0064】
本明細書に使用する時に、用語「光学的」は、可視光、紫外線及び赤外線光の範囲を指す。用語「不透明」は、エンクロージャの光学特性を定めるのに使用される。本質的に、これは、エンクロージャが入射光の全て、すなわち、可視光、紫外線及び赤外線光を遮断する材料で作られることを意味する。
【0065】
本発明を限られた数の実施形態に関して説明したが、本発明の開示の利益を受ける当業者は、本明細書に開示する本発明の範囲から逸脱しない他の実施形態を考案することができることを認めるであろう。従って、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ制限されるべきである。
【符号の説明】
【0066】
100 複合構造体
110 レーザ
142、146 非改質領域
144 改質領域
160 被覆層(エレクトロクロミック膜)