(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】プラズマエッチング方法及びプラズマエッチング装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
H01L21/302 105A
H01L21/302 101B
(21)【出願番号】P 2021002664
(22)【出願日】2021-01-12
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片岡 淳司
(72)【発明者】
【氏名】久保井 宗一
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-148314(JP,A)
【文献】特開2017-050413(JP,A)
【文献】特開平06-275568(JP,A)
【文献】特開2014-041849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン含有膜上にマスクを形成し、ハイドロフルオロカーボンガスのプラズマにより前記シリコン含有膜をエッチングする方法において、
前記ハイドロフルオロカーボンガスは、共役環状化合物としてC
xH
yF
z(x、y及びzは、x≧6かつ(z-y)/x≦1を満足する正の整数である。)で表される組成を有
し、
前記ハイドロフルオロカーボンガスは、C
6
HF
5
ガス、C
7
HF
7
ガス、C
7
H
2
F
6
ガス、C
7
H
3
F
5
ガス、C
8
HF
9
ガス、C
8
HF
7
ガス、C
9
HF
9
ガス及びC
9
H
2
F
8
ガスからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、プラズマエッチング方法。
【請求項2】
前記シリコン含有膜は、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜又はそれらの膜の積層膜である、請求項1に記載のプラズマエッチング方法。
【請求項3】
前記ハイドロフルオロカーボンガスの組成が、1/3≦(z-y)/x≦1を満たす、請求項1
または2に記載のプラズマエッチング方法。
【請求項4】
基板のエッチング処理が行われるチャンバと、
前記チャンバ内に配置された電極と、
共役環状化合物としてC
xH
yF
z(x、y及びzは、x≧6かつ(z-y)/x≦1を満足する正の整数である。)で表される組成を有する、ハイドロフルオロカーボンの液体又は固体原料を気化し、得られたハイドロフルオロカーボンガスの流量を制御して前記チャンバ内に導入するプロセスガス導入系と、
前記ハイドロフルオロカーボンガスのプラズマを生じさせる電圧を前記電極に印加する電源と、
を具備
し、
前記ハイドロフルオロカーボンガスは、C
6
HF
5
ガス、C
7
HF
7
ガス、C
7
H
2
F
6
ガス、C
7
H
3
F
5
ガス、C
8
HF
9
ガス、C
8
HF
7
ガス、C
9
HF
9
ガス及びC
9
H
2
F
8
ガスからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、プラズマエッチング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、プラズマエッチング方法及びプラズマエッチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいては、半導体基板等に形成されたシリコン酸化膜等のシリコン含有膜にコンタクトホール、ビアホール、トレンチ(溝)等を形成するために、プラズマエッチングが行われている。このような半導体デバイスの製造プロセスでは、半導体デバイスの電気性能等の確保のために、加工形状の精密制御、特にコンタクトホール等の側壁の垂直加工が重要である。例えば、近年の三次元構造デバイスは、アスペクト比の大きいホールを有する。このようなアスペクト比が大きいホールをプラズマエッチングで形成するにあたって、被加工膜とエッチングマスクの加工選択比を高めることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第5366590号明細書
【文献】米国特許第7794616号明細書
【文献】特開2016-51777号公報
【文献】国際公開第2019/151467号
【文献】国際公開第2020/054200号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の解決しようとする課題は、被加工膜とエッチングマスクの加工選択比を高めることを可能にしたプラズマエッチング方法及びプラズマエッチング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態のプラズマエッチング方法は、シリコン含有膜上にマスクを形成し、ハイドロフルオロカーボンガスのプラズマによりシリコン含有膜をエッチングする方法において、前記ハイドロフルオロカーボンガスは、共役環状化合物としてCxHyFz(x、y及びzは、x≧6かつ(z-y)/x≦1を満足する正の整数である。)で表される組成を有する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態のプラズマエッチング装置を示す断面図である。
【
図2】実施形態のプラズマエッチング装置の変形例を示す断面図である。
【
図3】実施形態のプラズマエッチング方法に用いるハイドロフルオロカーボンガスの一例を示す図である。
【
図4】プラズマエッチング方法に用いるハイドロフルオロカーボンガスの各元素の原子数の比((z-y)/x比)に対する堆積物の高さと幅の比(h/w比)との関係の一例を示す図である。
【
図5】
図4における、堆積物の縦横比を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態のプラズマエッチング方法及びプラズマエッチング装置について、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。説明中の上下等の方向を示す用語は、特に明記が無い場合には後述する基板のプラズマエッチング面(加工面)を上とした場合の相対的な方向を示し、重力加速度方向を基準とした現実の方向とは異なる場合がある。
【0008】
図1は実施形態によるプラズマエッチング装置を示す断面図である。
図1に示すプラズマエッチング装置1は、容量結合型(平行平板型)の反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching:RIE)装置であり、チャンバ2、排気口3、プロセスガス導入口4、下部電極(基板電極)5、上部電極(対向電極)6、第1のプロセスガス導入系7、第2のプロセスガス導入系8、第1の電源系統9、及び第2の電源系統10を備える。
【0009】
チャンバ2には、排気口3とプロセスガス導入口4が設けられている。排気口3は、図示しない圧力調整バルブや排気ポンプ等に接続されている。チャンバ2内の気体は、排気口3から排出され、チャンバ2内が高真空に保たれる。また、プロセスガス導入口4からプロセスガスを導入するにあたって、プロセスガス導入口4から流入するガスの流量と排気口3から流出するガスの流量とを釣り合わせることによって、チャンバ2内の圧力を一定の真空圧に保つことが可能とされている。
【0010】
チャンバ2のプロセスガス導入口4には、第1のプロセスガス導入系7及び第2のプロセスガス導入系8が接続されている。さらに、チャンバ2には、上部電極6の複数のガス吐出口11に面するガス導入空間12がプロセスガス導入口4と接続されるように設けられている。第1のプロセスガス導入系7は、常温で液体又は固体のプロセスガス原料を気化してチャンバ2内に導入する機構を有する。第2のプロセスガス導入系8は、常温で気体のプロセスガスをチャンバ2内に導入するものであり、ガス供給源13とガス流量を制御するマスフローコントローラ14と開閉バルブ15と配管16とを有している。配管16の一端はガス供給源13に接続され、他端はプロセスガス導入口4に接続されている。常温で気体のプロセスガスとしては、He、Ar、Kr、Xe等の希ガス、N2、O2、H2、CO、CH4、NF3、SF6等のガス、CF4、C4F6、C4F8等の一般的なCF(フルオロカーボン)系ガス、CHF3、CH2F2、CH3F等のCHF(ハイドロフルオロカーボン)系ガスが用いられる。
【0011】
第1のプロセスガス導入系7は、液体のプロセスガス原料GSを収容する原料タンク17と、液体流量制御器18と、液体のプロセスガス原料GSを気化する気化器19と、これら原料タンク17、液体流量制御器18、及び気化器19を接続する配管20とを有している。配管20の一端は原料タンク17内に開口されており、他端はプロセスガス導入口4に接続されている。原料タンク17には、不活性ガス供給ライン21が接続されている。気化器19にはプロセスガス原料GSの気化成分(プロセスガス)をチャンバ2内に送るキャリアガスを供給するキャリアガス供給ライン22が接続されている。気化器19の周囲は、断熱材23で覆われている。さらに、配管20内でプロセスガス原料GSの気化成分が液化しないように、気化器19からプロセスガス導入口4までの配管20の周囲には、ヒータ24が設けられている。配管20、不活性ガス供給ライン21、及びキャリアガス供給ライン22には、必要箇所に応じて開閉バルブ25が設けられている。
【0012】
第1のプロセスガス導入系7においては、不活性ガス供給ライン21から不活性ガスを原料タンク17に供給することによって、プロセスガス原料GSが液体流量制御器18を介して気化器19に送られる。液体流量制御器18で流量が制御された液体のプロセスガス原料GSは、気化器19で気化される。液体流量制御器18で液体のプロセスガス原料GSの流量が制御されているため、気化器19で気化されたプロセスガス原料GSの気化成分は、所定のガス流量としてプロセスガス導入口4を介してチャンバ2内に送られる。液体のプロセスガス原料GS及びその気化成分については、後に詳述する。
【0013】
プロセスガス原料GSを気化させる機構としては、
図1に示した気化器19を用いた構成に限られるものではない。
図2は、実施形態のプラズマエッチング装置の変形例を示す断面図である。
図2に示すように、液体又は固体のプロセスガス原料GSを収容する原料タンク17を直接加熱することによって、液体又は固体のプロセスガス原料GSを気化させるようにしてもよい。すなわち、
図2に示す第1のプロセスガス導入系7においては、液体又は固体のプロセスガス原料GSを収容する原料タンク17の周囲にヒータ26が設けられており、さらに原料タンク17及びヒータ26の周囲が断熱材27で覆われている。原料タンク17からプロセスガス導入口4までの配管20には、気体流量制御器28が設けられている。配管20及び気体流量制御器28の周囲にはヒータ24が設けられている。
【0014】
図2に示す第1のプロセスガス導入系7において、液体又は固体のプロセスガス原料GSが収容された原料タンク17は、ヒータ26により直接加熱される。ヒータ26により加熱された液体又は固体のプロセスガス原料GSは気化し、配管20に送られる。プロセスガス原料GSの気化成分は、気体流量制御器28で流量が制御され、この状態でプロセスガス導入口4を介してチャンバ2内に送られる。
【0015】
チャンバ2内には、半導体ウエハW等の基板を載置する載置台(保持部)を兼ねた上下動自在な基板電極として下部電極5が設けられている。下部電極5の上部には、図示しない静電チャックが設けられており、半導体ウエハWを下部電極5に保持することができるように構成されている。下部電極5の上方には、対向電極としてプロセスガス吐出用のシャワーヘッドを兼ねる上部電極6が、ガス導入空間12と半導体ウエハWのエッチング処理が行われる処理空間とを区画する位置に配置されている。上部電極6には、プロセスガスをガス導入空間12から半導体ウエハWの処理空間へと供給するように、複数のガス吐出口11が設けられている。チャンバ2はアースされている。
【0016】
基板電極としての下部電極5には、第1の電源系統9及び第2の電源系統10が接続されている。第1の電源系統9は整合器30及び第1の高周波電源31を有し、第2の電源系統10は整合器32及び第2の高周波電源33を有する。第1の高周波電源31は、プロセスガスをイオン化して、プラズマを発生させるための第1の高周波電圧(Va)を出力する電源であり、出力された第1の高周波電圧(Va)が下部電極5に印加される。第2の高周波電源33は、プラズマからイオンを半導体ウエハWに引き込むための、第1の高周波電圧(Va)より周波数が低い第2の高周波電圧(Vb)を出力する電源であり、出力された第2の高周波電圧(Vb)が下部電極5に印加される。電圧Va及び電圧Vbは共に、一般には高周波と呼ばれるが、それぞれの周波数の違いを説明するため、便宜的に第1の高周波電圧(Va)をRF高周波電圧、第2の高周波電圧(Vb)をRF低周波電圧と称する。
【0017】
第1の高周波電源31が出力するRF高周波電圧(Va)は、プラズマの発生力を高めるために27MHz以上であることが好ましく、例えば100MHz、60MHz、40MHz、27MHz等であることが好ましい。第2の高周波電源33が出力するRF低周波電圧(Vb)は、プラズマからのイオンの引き込み性を高めるために3MHz以下であることが好ましく、例えば3MHz、2MHz、400kHz、100kHz等であることが好ましい。また、第2の高周波電源33から下部電極5に印加されるRF低周波電圧(Vb)の上下のピーク間電圧は1000V以上であることが好ましい。
【0018】
図1および
図2では、第1の電源系統9及び第2の電源系統10を、下部電極5に接続している例を示しているが、下部電極5ではなく上部電極6と接続するようにしてもよい。また、下部電極5および上部電極6の両方に電源系統を接続して、所定の電圧を印加できるようにすることもできる。
【0019】
第1のプロセスガス導入系7からのチャンバ2内へのプロセスガスの導入、及び必要に応じて第2のプロセスガス導入系8からのチャンバ2内へのプロセスガスの導入と同時に、上記した第1の高周波電源31からRF高周波電圧(Va)及び第2の高周波電源33からRF低周波電圧(Vb)を下部電極5に印加することによって、下部電極5と上部電極6との間にプラズマが発生する。すなわち、第1の高周波電源31からのRF高周波電圧(Va)と第2の高周波電源33からのRF低周波電圧(Vb)とが重畳して下部電極5に印加されることによって、プロセスガスがイオン化して下部電極5と上部電極6との間にプロセスガスのプラズマが形成されると共に、下部電極5側へのイオンの引き込みが行われる。
【0020】
次に、上記したプラズマエッチング装置1を用いた半導体ウエハWのプラズマエッチング方法について説明する。実施形態のプラズマエッチング方法においては、まず下部電極5上にエッチング処理における被加工物である半導体ウエハW等の基板を載置する。被加工物である半導体ウエハWは、シリコン、タングステン、アルミニウム、チタン、モリブデン、及びタンタルからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む半導体膜又は金属膜上に形成されたシリコン酸化膜(SiO膜)やシリコン窒化膜(SiN膜)等のシリコン含有膜を有する。
【0021】
このようなSiO膜やSiN膜等のシリコン含有膜を有する半導体ウエハW上にエッチングマスクを形成すると共に、エッチングマスクをパターニングして開口部を形成した後、プラズマエッチング処理を行うことによって、エッチングマスクの開口部に応じてシリコン含有膜にコンタクトホールのようなホール部を形成する。ここで用いるマスクの材料は、プラズマエッチングに用いることができる公知の材料が限定されることなく使用でき、例えば、カーボン、シリコン、タングステン等が挙げられ、これらの少なくとも1つ以上を有する材料から形成されることが好ましい。
【0022】
シリコン含有膜にコンタクトホール等を形成するにあたって、第1のプロセスガス導入系7からチャンバ2内へプロセスガスを導入すると同時に、エッチングマスクが形成された半導体ウエハWが載置された下部電極5に対して、第1の高周波電源31からRF高周波電圧(Va)及び第2の高周波電源33からRF低周波電圧(Vb)を印加する。これにより、下部電極5と上部電極6との間にプラズマを発生させると共に、プラズマ中のイオンを半導体ウエハWに引き込むことによって、シリコン含有膜をエッチング処理する。シリコン含有膜のエッチング処理は、例えばSiO膜に対して実施される。エッチング処理が実施されるシリコン含有膜は、SiO膜の単独膜に限らず、SiO膜とSiN膜との積層膜であってもよい。シリコン含有膜のエッチング処理において、シリコン含有膜と上記した下地の半導体膜や金属膜とのエッチングレートの違いに基づいて、シリコン含有膜を選択的に加工することができる。
【0023】
上記したシリコン含有膜のプラズマエッチング処理において、本実施形態では、第1のプロセスガス導入系7の原料タンク17に収容されるプロセスガス原料GSとしては、共役環状化合物としてC
xH
yF
z(x、y及びzは、x≧6かつ(z-y)/x≦1を満足する正の整数である。)で表される組成を有するハイドロフルオロカーボンが用いられる。上記した組成のハイドロフルオロカーボン(以下、共役環状ハイドロフルオロカーボンと呼ぶ。)は、常温で液体又は固体であるため、
図1及び
図2に示したような液体又は固体のプロセスガス原料GSを気化させる機構が用いられる。
【0024】
上記した共役環状ハイドロフルオロカーボンは、x≧6かつ(z-y)/x≦1の組成を満足する構造を有することで、シリコン含有膜を選択的にエッチングするとともに、マスク上に堆積物を形成して、マスクのエッチングによる薄膜化を防止できる。なお、このような堆積物を形成し得るフルオロカーボンやハイドロフルオロカーボンも他に知られてはいるが、一般に、堆積物が縦方向のみならず横方向へも堆積し、これにより開口部が徐々に狭まり、所望のエッチングを進められないことが多い。これに対して、本実施形態の共役環状ハイドロフルオロカーボンは、縦方向には十分堆積物を形成しつつ、横方向への堆積を抑制できる。したがって、本実施形態の共役環状ハイドロフルオロカーボンを用いることで、マスク上に堆積させる際、マスクの開口部を閉塞しにくいため、エッチング加工形状への悪影響を抑制できる。
【0025】
この堆積特性としては、エッチングガスとしてのハイドロフルオロカーボンにおいて、炭素原子の数に対するフッ素原子の数の比(F/C比)が小さい方が、プラズマ化により生成し、堆積に寄与するCFxラジカルのマスクに対する付着係数が高くなる。
【0026】
また、C=C結合のような構造を有する化合物は、π-π*結合の開裂を起点とした架橋反応でポリマー化して堆積しやすいと考えられ、共役化合物としてπ結合を多量に導入するほど堆積性を高めることができる。
【0027】
一方、付着係数や堆積しやすさを高めすぎると、上記したように横方向への堆積も進んでしまい、開口部が閉塞しやすくなると考えられる。これに対して、上記本実施形態の化学式に示したように、化合物中に水素原子を含有し、かつ、他の元素と所定の関係を満たすように含有させることで、縦方向の堆積性が格段に高められることを本発明者らは見出した。これは、C-F結合の結合乖離エネルギー(513kJ/mol)に対し、C-H結合の結合乖離エネルギー(338.72kJ/mol)が低いため、堆積物のエッチング耐性が低くなる。これにより、ラジカルの付着量が少ない横方向の堆積物が除去されやすくなるからと考えられる。
【0028】
以上のように種々の要因で各化合物の堆積性は変わるが、本実施形態の共役環状ハイドロフルオロカーボンは、水素原子を導入したことによる堆積物のエッチング耐性の低下に対し、F/C比が小さい共役環状構造を有することで堆積特性を高め、これらのバランスをとることで、これまでにない良好な堆積性を有し、かつ、優れたエッチング特性を示す。従って、半導体ウエハWに形成されたシリコン酸化膜(SiO)等のシリコン含有膜をエッチングするにあたって、被加工膜とエッチングマスクの加工選択比を高めることができる。
【0029】
以下、共役環状ハイドロフルオロカーボンCxHyFz(x、y及びzは、x≧6かつ(z-y)/x≦1を満足する正の整数である。)について、さらに具体的に説明する。
【0030】
共役環状ハイドロフルオロカーボンは、上記したようなエッチングマスクとの加工選択性やエッチングレートを所望のものとするために、共役環状構造を有している。共役環状構造を有することで、上記F/C比の調整と、安定した多量のπ結合導入が実現される。なかでも、共役環状構造として芳香族性を有する化合物(例えば、ベンゼン環を有する化合物)であると、化合物自体の安定性が高くなり、母ガスの組成をある程度維持しやすくなるため、堆積物を安定して形成することができ好ましい。
【0031】
共役環状ハイドロフルオロカーボンCxHyFz(x、y及びzは、x≧6かつ(z-y)/x≦1を満足する正の整数である。)としては、例えば、C6HF5、C7HF7、C7H2F6、C7H3F5、C8HF9、C8HF7、C9HF9、C9H2F8等が挙げられる。
【0032】
上記した共役環状ハイドロフルオロカーボンの構造例を
図3に示す。
図3に示すように、いずれもベンゼン環構造を有し、ベンゼン環又はそのフッ化置換基中に水素原子が導入されている。なお、
図3に示した構造は一例であって、水素原子の導入位置によって複数の構造異性体が得られる場合、いずれの構造異性体でもよい。このような構造異性体において、水素原子がベンゼン環に直接結合している場合と、側鎖に結合している場合とで、上記したエッチング時の作用、効果についてはほとんど変わりがない。
【0033】
このように、第1のプロセスガス導入系7からチャンバ2内に導入するプロセスガスは、C6HF5ガス、C7HF7ガス、C7H2F6ガス、C7H3F5ガス、C8HF9ガス、C8HF7ガス、C9HF9ガス、C9H2F8ガスからなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0034】
図4に、共役環状ハイドロフルオロカーボンの各元素の原子数の比に対する縦方向の堆積性(デポ性;[(z-y)/x比]と[h/w比]との関係)の一例を示す。h/w比は、マスク上に堆積した堆積物の幅(w)に対する高さ(h)の比であり、その算出の概念図を
図5に示した。幅(w)は、マスクの中央から横方向に堆積物が堆積した最大長さ(幅)であり、高さ(h)は、マスクの上端から上方向に堆積物が堆積した長さ(高さ)である。
【0035】
図4では、共役環状ハイドロフルオロカーボンガスの一例として、C
7HF
7ガス及びC
7H
3F
5ガスの特性を実施例として示している。また、
図4は比較のために、C
4F
6ガス、C
6F
6ガス及びC
7F
8ガスの特性も合わせて示している。
【0036】
図4に示すように、共役環状ハイドロフルオロカーボンの気化成分からなるハイドロフルオロカーボンガスによれば、その縦方向における堆積性が良好で、被加工膜とエッチングマスクの加工選択比を高めることができる。従って、実施形態によれば、例えばSiO膜やSiO膜とSiN膜との積層膜にアスペクト比が大きいコンタクトホール等を形成することが可能になる。
【0037】
なお、共役環状ハイドロフルオロカーボン中の水素原子の比率が大きくなると、SiO2等のシリコン含有膜のエッチングレートが遅くなるため、水素原子よりもフッ素原子を多く含有すること(z>y)が好ましい。
【0038】
また、共役環状ハイドロフルオロカーボン中の水素原子の比率が大きくなると、h/w比が低くなる傾向がみられ、共役環状ハイドロフルオロカーボンCxHyFzにおける、各元素の原子数の関係は、1/3≦(z-y)/x≦1が好ましく、1/2≦(z-y)/x≦1がより好ましく、2/3≦(z-y)/x≦1がさらに好ましい。水素原子の数yがこのような関係を満たすことで、縦方向への堆積性を良好なものとでき、例えば化合物中に含有させる水素原子の数は1つであってもよい。
【0039】
なお、上述した各実施形態の構成は、それぞれ組合せて適用することができ、また一部置き換えることも可能である。ここでは、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図するものではない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の省略、置き換え、変更等を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0040】
1…プラズマエッチング装置、2…チャンバ、3…排気口、4…プロセスガス導入口、5…下部電極(基板電極)、6…上部電極(対向電極)、7…第1のプロセスガス導入系、8…第2のプロセスガス導入系、9…第1の電源系統、10…第2の電源系統、
17…原料タンク、18…液体流量制御器、19…気化器、20…配管、24,26ヒータ、28…気体流量制御器