(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】水処理システム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20240902BHJP
B01D 61/00 20060101ALI20240902BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20240902BHJP
B01D 65/00 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
C02F1/44 A
B01D61/00 500
B01D61/58
B01D65/00
(21)【出願番号】P 2021032833
(22)【出願日】2021-03-02
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐野 健二
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭子
(72)【発明者】
【氏名】今田 敏弘
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/038402(WO,A1)
【文献】特開2019-162582(JP,A)
【文献】特表2016-506867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
B01D 61/00-71/82
C07C 209/82-86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィード液と、前記フィード液よりも高い浸透圧を有するドロー液とを正浸透膜を介して接触させることで、前記フィード液中の水を、前記ドロー液中に移動させる複数段の正浸透膜ユニットと、
除去部とを備え、
前段の正浸透膜ユニットのドロー液を、後段の正浸透膜ユニットのフィード液とすることによって、前記複数段の正浸透膜ユニットを、直列に接続し、
各段の正浸透膜ユニットにおけるドロー液の濃度はそれぞれ、前段の正浸透膜ユニットのドロー液の濃度よりも高く、
最終段の正浸透膜ユニットのドロー液として、熱によって水と相分離可能なモノマーを適用し、
前記除去部は、最初の段の正浸透膜ユニットにおいてドロー液と接触したフィード液から、前記最初の段の正浸透膜ユニットにおいてドロー液と接触したフィード液へ流失した、前記最終段の正浸透膜ユニットまたは前記後段の正浸透膜ユニットのドロー液を除去する、水処理システム。
【請求項2】
前記最終段の正浸透膜ユニットのドロー液は、最終段以外の正浸透膜ユニットのドロー液とは異なる、請求項1記載の水処理システム。
【請求項3】
前記最終段の正浸透膜ユニットのドロー液として適用されるモノマーは、アミンと酸性ガスとを含み、熱によってアミン相と水相とに分離可能である、請求項1または2に記載の水処理システム。
【請求項4】
フィード液と、前記フィード液よりも高い浸透圧を有するドロー液とを正浸透膜を介して接触させることで、前記フィード液中の水を、前記ドロー液中に移動させる複数段の正浸透膜ユニットと、
除去部とを備え、
前段の正浸透膜ユニットのドロー液を、後段の正浸透膜ユニットのフィード液とすることによって、前記複数段の正浸透膜ユニットを、直列に接続し、
各段の正浸透膜ユニットにおけるドロー液の濃度はそれぞれ、前段の正浸透膜ユニットのドロー液の濃度よりも高く、
前記後段の正浸透膜ユニットで濃縮されたフィード液が、前記前段の正浸透膜ユニットに、ドロー液として導入され、
最終段の正浸透膜ユニットのドロー液は、酸性ガスを供給すると水溶性になり、熱によって水と相分離可能なモノマーであるアミンを含み、
前記最終段以外の正浸透膜ユニットのドロー液は、最終段の正浸透膜ユニットのドロー液と異なる物質を含み、
前記除去部は、前記後段の正浸透膜ユニットで濃縮されたフィード液から、前記前段の正浸透ユニットにドロー液として導入される前に、前記後段の正浸透膜ユニットのフィード液へ流入した、前記最終段の正浸透膜ユニットのドロー溶液に含まれる前記アミンを除去する、水処理システム。
【請求項5】
前記最終段の正浸透膜ユニットのドロー液を加熱して、このドロー液から水相を分離する加熱部を備えた、請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項6】
前記水相を分離されたドロー液に、酸性ガスを供給して、このドロー液を再生する再生部を備えた、請求項
5に記載の水処理システム。
【請求項7】
前記最終段以外の正浸透膜ユニットのドロー液として、逆浸透膜によって濃縮可能な液体を用いた、請求項1乃至
6のいずれか1項に記載の水処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、多段式の正浸透膜ユニットによって構成される水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水処理の分野では、逆浸透膜法は既に多くの応用がなされている。その1つとして、例えば海水の淡水化がある。
【0003】
逆浸透膜法は、浸透膜の溶質のある側から圧力をかけ、浸透膜の反対側に純水を取り出す方式である。海水のように塩分(溶質)があると浸透圧が生じ、浸透膜の反対側から水を吸収しようとする力が働く。この力に逆らって圧力をかけるので、逆浸透(RO:Reverse Osmosis)膜法という。この時の圧力は海水の場合だと5メガパスカル(50気圧)以上になるため、ポンプに必要な電力も大きなものになり、コストと環境負荷も大きなものとなる。
【0004】
これに対して、対象となる処理液よりも高い浸透圧の溶液(以下、「ドロー液」と称する)を用いて、浸透膜の反対側から水を吸収し、対象液(以下、「フィード液」と称する)を濃縮する方式を正浸透(FO:Forward Osmosis)膜法という。FOの場合だと、自然の方向、すなわち浸透圧の方向に水が吸収されるので、加圧する必要はない。しかし、水の吸収によりドロー液は薄まるので、ドロー液を濃縮する必要が生じる。
【0005】
ドロー液の材料としては、フィード液の濃縮が容易にできるものが望ましく、例えば、熱で水相から相分離する低分子材料や、熱で水相から相分離する高分子材料のほか、炭酸アンモニウムのように、熱分解によってアンモニアガスと二酸化炭素ガスとに分離することによって水を分離することが可能な材料や、熱分解でアミン相と水相に分離するスイッチャブル材料などが知られている。
【0006】
前述したように、正浸透膜法の場合、フィード液から、正浸透膜を介して、浸透圧の方向、すなわちドロー液の方向に水が吸収される。
【0007】
しかしながら、ドロー液として低分子材料を適用した場合には、正浸透膜法であっても、浸透圧の方向と逆の方向、すなわちフィード液の方向に、ドロー液が透過することも知られている。浸透膜を介した物質の移動をフラックスと呼び、浸透圧の方向への水の移動をフラックスJw(mol/m2h)、浸透圧の方向と逆の方向へのドロー液の移動をフラックスJs(mol/m2h)という指標で表すことができる。
【0008】
これら指標はドロー液の性能を表すために使用することができ、フラックスJwが大きく、フラックスJsが小さいことが望ましい。フラックスJsが大きいことは、ドロー液の流失が大きいことを意味し、コスト増につながる。また、フィード液として、食品や飲料水を適用する場合、フラックスJsが大きいと、フィード液に混入するドロー液の量も増えるので、フィード液の品質の低下をもたらし、結局は、濃縮後のフィード液を、食品や飲料水として利用できなくなる場合もあり得る。
【0009】
一方、ドロー液として高分子材料を適用した場合には、フラックスJsは非常に小さい。特許文献1には、ドロー液として、熱によって水と相分離可能なポリマーが使用された技術が開示されている。しかしながら、ポリマーのような高分子材料は、分子量が大きいため、浸透圧に寄与するモル数では不利になり、濃厚な溶液にして大きな浸透圧を持たせることは難しい。したがって、大きなフラックスJwを実現することはできず、フィード液の濃縮効率も低くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、処理後のフィード液の品質を低下させることなく、フィード液の濃縮効率の向上を図ることが可能な水処理システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
実施形態によれば、水処理システムは、フィード液と、フィード液よりも高い浸透圧を有するドロー液とを正浸透膜を介して接触させることで、フィード液中の水を、ドロー液中に移動させる複数段の正浸透膜ユニットと、除去部とを備え、前段の正浸透膜ユニットのドロー液を、後段の正浸透膜ユニットのフィード液とすることによって、複数段の正浸透膜ユニットを、直列に接続して構成される。各段の正浸透膜ユニットにおけるドロー液の濃度はそれぞれ、前段の正浸透膜ユニットのドロー液の濃度よりも高い。最終段の正浸透膜ユニットのドロー液には、熱によって水と相分離可能なモノマーを適用し、除去部は、最初の段の正浸透膜ユニットにおいてドロー液と接触したフィード液から、最初の段の正浸透膜ユニットにおいてドロー液と接触したフィード液へ流失した、最終段の正浸透膜ユニットまたは後段の正浸透膜ユニットのドロー液を除去する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の実施形態の水処理システムの構成例を示す概念図である。
【
図2】最終段の正浸透膜ユニットにおけるドロー液として適用可能な5種類のスイッチャブルアミンのドロー性能の一例を示す表である。
【
図3】最終段以外の正浸透膜ユニットにおけるドロー液として適用可能な種々の物質のドロー性能の一例を示す表である。
【
図4】第2の実施形態の水処理システムの構成例を示す概念図である。
【
図5】第3の実施形態の水処理システムの構成例を示す概念図である。
【
図6】第4の実施形態の水処理システムの構成例を示す概念図である。
【
図7】第4の実施形態の水処理システムの変形構成例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、各実施形態の水処理システムを、図面を参照して説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態の水処理システムの構成例を示す概念図である。
【0016】
第1の実施形態の水処理システム10は、複数段の正浸透膜ユニット20を、直列に接続して構成する。
図1は、例として、最も単純な2段の正浸透膜ユニット20(#1)、(#n)を直列に接続した構成を示している。複数段とは少なくとも2以上の正浸透膜ユニットを備えることを指す。
【0017】
正浸透膜ユニット20(#1)の内部は、高さ方向に設けられた正浸透膜22(#1)によって、フィード液流通部24a(#1)と、ドロー液流通部24b(#1)とに区切られている。
【0018】
フィード液流通部24a(#1)には、図中上側からフィード液FSが導入され、図中下側から排出される。一方、ドロー液流通部24b(#1)には、図中下側からドロー液DS1が導入され、図中上側から排出される。
【0019】
これによって、正浸透膜ユニット20(#1)内において、フィード液FSとドロー液DS1とが正浸透膜22(#1)を介して対向しながら接触する。
【0020】
ドロー液DS1は、フィード液FSよりも高い浸透圧を有している。したがって、正浸透膜ユニット20(#1)では、フィード液FSとドロー液DS1とが正浸透膜22(#1)を介して接触することによって、フィード液FS中の水W(#1)が、ドロー液DS1中へ移動する。
【0021】
正浸透膜ユニット20(#n)の内部も、正浸透膜ユニット20(#1)と同様に、高さ方向に設けられた正浸透膜22(#n)によって、フィード液流通部24a(#n)と、ドロー液流通部24b(#n)とに区切られている。
【0022】
フィード液流通部24a(#n)には、図中上側から、正浸透膜ユニット20(#1)のドロー液流通部24b(#1)から排出されたドロー液DS1が、フィード液として導入され、図中下側から排出される。一方、ドロー液流通部24b(#n)には、図中下側からドロー液DS2が導入され、図中上側から排出される。
【0023】
これによって、正浸透膜ユニット20(#n)内においても、フィード液であるドロー液DS1と、ドロー液であるドロー液DS2とが正浸透膜22(#n)を介して対向しながら接触する。
【0024】
各段の正浸透膜ユニット20におけるドロー液DSの濃度は、前段の正浸透膜ユニット20のドロー液DSの濃度よりも高くする。したがって、
図1の例の場合、ドロー液DS2の濃度は、ドロー液DS1の濃度よりも高い。これにより、正浸透膜ユニット20(#n)では、フィード液であるドロー液DS1と、ドロー液であるドロー液DS2とが正浸透膜22(#n)を介して接触することによって、ドロー液DS1中の水W(#n)が、ドロー液DS2中へ移動する。
【0025】
また、本実施形態の水処理システム10では、最終段の正浸透膜ユニット20(#n)のドロー液DS2には、最終段以外の正浸透膜ユニット20のドロー液DS1と同じ材料を用いてもよいし、異なる材料を適用してもよい。具体的には、ドロー液DS2として、熱によって水と相分離可能なモノマーを適用する。この種のモノマーとしては、アミンと酸性ガスとを含み、熱によってアミン相と水相とに分離するスイッチャブル液体であるスイッチャブルアミンが好適である。一方、ドロー液DS2と異なる場合、最終段以外の正浸透膜ユニット20(#1)のドロー液DS1としては、例えばサッカロースのように、逆浸透膜によって濃縮可能な液体を適用するのが好適である。
【0026】
したがって、以下では、ドロー液DS1としてサッカロースを、ドロー液DS2としてモノマーのスイッチャブルアミンを適用した例について説明する。
【0027】
最終段である正浸透膜ユニット20(#n)の下流側には、加熱部30と再生部40とをこの順に直列に配置しており、ドロー液流通部24b(#n)から排出されたドロー液DS2は、加熱部30へ導入される。加熱部30は、ドロー液DS2を加熱する。
【0028】
ドロー液DS2であるスイッチャブルアミンは、熱によって水と相分離可能なモノマーであるので、加熱部30によって加熱されると、アミン相と水相とに分離する。加熱部30には水回収ライン32が接続されており、水相に分離された水は、水回収ライン32によって系外へ排出される。一方、アミン相に分離されたアミンは、再生部40へ導入される。
【0029】
再生部40は、加熱部30から導入されたアミンに、例えばCO2ガスのような酸性ガスを供給する。これによって、アミンは再び水溶性となる。このようにしてアミンは、ドロー液DS2として再生され、最終段である正浸透膜ユニット20(#n)のドロー液流通部24b(#n)に図中下側から導入される。
【0030】
次に、以上のように構成した本実施形態の水処理システム10の性能について説明する。
【0031】
ドロー液DS2の濃度は、ドロー液DS1の濃度よりも高い。本実施形態では、一例として、ドロー液DS1であるサッカロースのモル濃度を1.2(mol/L)、ドロー液DS2であるスイッチャブルアミンのモル濃度を2.7~5.3(mol/L)とする。
【0032】
図2は、最終段の正浸透膜ユニット20(#n)におけるドロー液DS2として適用可能なモノマーである5種類のスイッチャブルアミンのドロー性能の一例を示す表である。
【0033】
図3は、最終段以外の正浸透膜ユニット20(#1)におけるドロー液DS1として適用可能な種々の物質のドロー性能の一例を示す表である。ドロー液DS1としては、前述したサッカロースの他にも、キシリトール、NaCl、MgCl
2も適用可能であるので、
図3では、これら物質のドロー性能も示している。NaClが3.5wt.%でも用いることができるので、海水をドロー液DS1として用いた場合も、NaClが3.5wt.%と同様のドロー性能を得ることができることがわかる。
【0034】
図2に示すモノマーである5種類のスイッチャブルアミンは何れも非水溶性であるが、CO
2と反応して、水溶性のアミン塩となる。
図2に示す値は、所定の重量濃度のアミン水溶液を作り、CO
2で約1時間バブル攪拌し、均一になったものをドロー液DS2として用い、実際に正浸透膜を用いた実験を行うことによって得た。
【0035】
この実験は、静置型のセルで行い、正浸透膜としてCTA-ES膜を用い、フィード液FSからドロー液DS2への20分間における水Wの移動量を計測することによって、フラックスJwを算出した。また、フィード液FSを、株式会社島津製作所製のTOCで分析することによって、ドロー液DS2のフラックスJsを算出し、算出されたフラックスJsから、最終段の正浸透膜ユニット20(#n)におけるドロー液流通部24b(#n)側から正浸透膜22(#n)を介したフィード液流通部24a(#n)側への流失速度に相当するドロー液DS2の1回目流失(mol%/h)を算出した。
【0036】
さらに、正浸透膜22(#1)にも正浸透膜22(#n)と同じ膜を使用し、ドロー液DS2が正浸透膜22を介して同じ割合で流失すると仮定して、正浸透膜ユニット20(#1)におけるドロー液流通部24b(#1)側から正浸透膜22(#1)を介したフィード液流通部24a(#1)側への流失速度に相当するドロー液DS2の2回目流失(mol%/h)を算出した。
【0037】
図3に記載される諸元値も、ドロー液DS1をそれぞれNaCl、MgCl
2、サッカロース、キシリトールとして、上記同様の実験を行うことによってドロー液DS1の流失値を得た。
【0038】
図2に示す結果は、モノマーであるスイッチャブルアミンをドロー液DS2として適用した場合、溶解できる分子数が著しく増加し、吸引力が上がることにより、大きなフラックスJwが得られることに加え、フラックスJsが小さいので、ドロー液DS2として優れた特性を有していることを示している。なお、アミンは、価格が高価であることや、フィード液FSへ流入するとフィード液FSの利用に影響を与えることが考えられるので、フィード液FSへの流入を低減する必要がある。
【0039】
図2に記載されているように、モノマーである5種類のスイッチャブルアミンをドロー液DS2として適用した場合、正浸透膜22を介した1回目のドロー液DS2の流失率の平均値は0.03(mol%/h)である。つまり、
図1に示されているように、正浸透膜ユニット20(#n)において、ドロー液流通部24b(#n)側から正浸透膜22(#n)を介してフィード液流通部24a(#n)側へ、1時間に0.03(mol%)の割合で、スイッチャブルアミンが流失する。
【0040】
フィード液流通部24a(#n)側へ流失したスイッチャブルアミンは、ドロー液DS1であるサッカロースと混合されて正浸透膜ユニット20(#1)のドロー液流通部24b(#1)へ導入される。そして、正浸透膜ユニット20(#1)においても、ドロー液流通部24b(#1)側から正浸透膜22(#1)を介してフィード液流通部24a(#1)側へ、スイッチャブルアミンが流失する。
【0041】
この2回目の流失における5種類のスイッチャブルアミンの流失率(mol%/h)の平均値は、2×10-5(mol%/h)である。
【0042】
すなわち、正浸透膜ユニット20を1段多く設けることによって、スイッチャブルアミンのフィード液側への流失率を、3×10-2(mol%/h)から2×10-5(mol%/h)へと3桁改善できる。
【0043】
なお、最初の段の正浸透膜ユニット20(#1)で使用されるドロー液DS1であるサッカロースは、0.02(mol%/h)の流失率でフィード液FSへ流失するが、サッカロースは、人体への影響はない。
【0044】
以上説明したように、本実施形態の水処理システム10によれば、前段の正浸透膜ユニット20(#1)のドロー液DS1を、後段の正浸透膜ユニット20(#n)のフィード液とすることによって、複数段の正浸透膜ユニット20(#1)、(#n)を直列に接続し、最終段の正浸透膜ユニット20(#n)で使用されるドロー液DS2を、ドロー液DS1とは異なり、ドロー液DS1よりも高濃度のモノマーのスイッチャブルアミンとすることによって、ドロー液DS2のフィード液FSへの流失率を著しく低下させながら、フィード液FSの高い濃縮効率を達成することができる。
【0045】
このように、本実施形態の水処理システム10によれば、処理後のフィード液FSの品質を低下させることなく、フィード液FSの濃縮効率の向上を図ることが可能となる。
【0046】
(第2の実施形態)
図4は、第2の実施形態の水処理システムの構成例を示す概念図である。
【0047】
前述したように、第1の実施形態の水処理システム10は、2段の正浸透膜ユニット20(#1)、(#n)を直列に接続した構成であるが、第2の実施形態の水処理システム10Aは、3段の正浸透膜ユニット20(#1)、(#2)、(#n)を直列に接続した構成としている。水処理システム10Aにおけるその他の構成は、第1の実施形態の水処理システム10と同一であるので、以下の説明では、第1の実施形態で説明した箇所には、同一部分を付すことによって、重複説明を避ける。
【0048】
正浸透膜ユニット20(#2)の内部もまた、正浸透膜ユニット20(#1)、(#n)と同様に、高さ方向に設けられた正浸透膜22(#2)によって、フィード液流通部24a(#2)と、ドロー液流通部24b(#2)とに区切られている。
【0049】
フィード液流通部24a(#2)には、正浸透膜ユニット20(#1)のドロー液流通部24b(#1)から排出されたドロー液DS1(#1)が、図中上側からフィード液として導入され、図中下側から排出される。
【0050】
一方、ドロー液流通部24b(#2)には、フィード液流通部24a(#n)から排出されたフィード液が、ドロー液DS1(#2)として、図中下側からが導入され、図中上側から排出され、フィード液流通部24a(#n)へフィード液として導入される。
【0051】
これによって、正浸透膜ユニット20(#2)内においても、正浸透膜ユニット20(#1)からフィード液として供給されるドロー液DS1(#1)と、正浸透膜ユニット20(#2)においてドロー液として使用されるドロー液DS1(#2)とが、正浸透膜22(#n)を介して対向しながら接触する。
【0052】
正浸透膜ユニット20(#1)においてドロー液として使用されるドロー液DS1(#1)と、正浸透膜ユニット20(#2)においてドロー液として使用されるドロー液DS1(#2)には、同じ物質を適用することができ、本実施形態ではともにサッカロースを適用する。
【0053】
しかしながら、第1の実施形態で説明したように、各段の正浸透膜ユニット20におけるドロー液DSの濃度は、前段の正浸透膜ユニット20のドロー液DSの濃度よりも高くするので、ドロー液DS1(#2)の濃度は、ドロー液DS1(#1)の濃度よりも高い。本実施形態では、一例として、ドロー液DS1(#1)の濃度を、0.6(mol/L)とし、ドロー液DS1(#2)の濃度を、1.2(mol/L)とした。また、ドロー液DS2としては、第1の実施形態と同様に、モノマーのスイッチャブルアミンを適用し、濃度としては、ドロー液DS1(#2)の濃度よりも高い2.7~5.3(mol/L)とした。
【0054】
これによって、正浸透膜ユニット20(#2)でも、フィード液であるドロー液DS1(#1)と、ドロー液であるドロー液DS1(#2)との正浸透膜22(#2)を介した接触によって、ドロー液DS1(#1)中の水W(#2)は、ドロー液DS1(#2)中へ移動する。
【0055】
次に、以上のように構成した本実施形態の水処理システム10Aの性能について説明する。
【0056】
第1の実施形態で説明したものと同様の実験を、水処理システム10Aに対しても実施した結果、最初の段の正浸透膜ユニット20(#1)のドロー液流通部24b(#1)から、正浸透膜22(#1)を介して、フィード液流通部24a(#1)へ流失するドロー液DS2の流失率を、5種類のスイッチャブルアミンの平均値として求めると、8×10-7(mol%/h)という結果が得られた。
【0057】
すなわち、本実施形態の水処理システム10Aによれば、第1の実施形態の水処理システム10よりも正浸透膜ユニット20を1段多く設けることによって、フィード液FSへ流失するスイッチャブルアミンの流失率を、2×10-5(mol%/h)から8×10-7(mol%/h)へとさらに2桁程度改善できることが分かる。
【0058】
このように、本実施形態の水処理システム10Aによれば、正浸透膜ユニット20の段数を増加させることによって、ドロー液DS2として適用されたスイッチャブルアミンが、フィード液FSへ流失する割合を、さらに低減することができる。
【0059】
正浸透膜ユニット20を3段以上設けることもできる。多段にすればするほど、最初の段の正浸透膜ユニット20(#1)のドロー液流通部24b(#1)から、正浸透膜22(#1)を介して、フィード液流通部24a(#1)へ流失するドロー液DS2の流失率をさらに低減させることができる。
【0060】
(第3の実施形態)
図5は、第3の実施形態の水処理システムの構成例を示す概念図である。
【0061】
第1および第2の実施形態で説明したように、水処理システム10、10Aによれば、ドロー液DS2として適用されたスイッチャブルアミンが、フィード液FSへ流失する割合を低減することができる。しかしながら、フィード液FSへ流失するスイッチャブルアミンは、水処理システム10、10Aの運転に伴い蓄積するので、ドロー液DS2として適用されたスイッチャブルアミンの、フィード液FSへの流失を完全に抑えることができる訳ではない。
【0062】
これに対処するために、第3の実施形態の水処理システム10Bは、
図5に例示するように、フィード液流通部24a(#n)から、ドロー液流通部24b(#1)への戻り経路上に、正浸透膜ユニット20(#n)においてドロー液DS1に流入したドロー液DS2を除去するための除去部60を付加した構成をしている。
【0063】
図5に例示する水処理システム10Bは、除去部60以外の構成は、
図1に示す第1の実施形態の水処理システム10と同一である。したがって、以下の説明では、第1の実施形態で説明した部位には、同一部分を付すことによって、重複説明を避ける。
【0064】
ドロー液DS2として、スイッチャブルアミンを適用した場合、除去部60は、例えば酸性ガスによって生成されたアミンカチオンのイオン交換樹脂によって実現できる。
【0065】
このように構成された除去部60によれば、ドロー液DS1に流失した、ドロー液DS2であるスイッチャブルアミンに含まれるアミンカチオンをトラップすることによって、ドロー液DS1から、スイッチャブルアミンを除去できる。
【0066】
これによって、ドロー液流通部24b(#1)へ導入されるドロー液DS1から、ドロー液DS2であるスイッチャブルアミンが除去されるので、正浸透膜ユニット20(#1)においてフィード液FSへ流失するスイッチャブルアミンの量を大幅に低減することができる。
【0067】
なお、アミンカチオンをトラップしたイオン交換樹脂は、定期的に交換することができる。
【0068】
以上のように構成した本実施形態の水処理システム10Bによれば、ドロー液DS2として適用されたスイッチャブルアミンの、フィード液FSへの流失量を、大幅に低減することができる。
【0069】
これによって、本実施形態の水処理システム10Bは、ドロー液DS2としてスイッチャブルアミンを適用した場合であっても、スイッチャブルアミンの含有量の少ない濃縮フィード液FSを生成できる。したがって、水処理システム10Bを、フィード液FSが食品系や医薬品系である場合に好適に使用することができる。
【0070】
なお、除去部60の変形例として、イオン交換樹脂を定期的に交換することに代えて、イオン交換樹脂を定期的に洗浄することによって、同一のイオン交換樹脂を繰り返し使用するようにしてもよい。これを行うために、例えば、イオン交換樹脂を洗浄する洗浄ライン(図示せず)を設け、この洗浄ラインを使ってイオン交換樹脂を定期的に洗浄し、イオン交換樹脂によってトラップされたアミンカチオンを除去して、イオン交換機能を再生させることができる。
【0071】
また、除去部60は、イオン交換樹脂に限定されるものではなく、酸性ガスとアミンによって生成した塩類を単に吸着したものを適用することもできる。
【0072】
さらにまた、上記では、2段の正浸透膜ユニット20(#1)、(#n)によって構成された水処理システム10Bへの適用例を説明した。しかしながら、本実施形態で説明した除去部60は、2段以上の正浸透膜ユニット20を備えた水処理システムにおいて、例えば、
図4におけるフィード液流通部24a(#n)とドロー液流通部24b(#2)との間のように、任意の隣接する正浸透膜ユニット20間に適用することもできる。これによって、任意の段の正浸透膜ユニット20におけるドロー液から、それよりも後段にある任意の正浸透膜ユニット20(最終段の正浸透膜ユニット20(#n)も含む)のドロー液を除去することもできる。
【0073】
(第4の実施形態)
図6は、第4の実施形態の水処理システムの構成例を示す概念図である。
【0074】
第4の実施形態の水処理システム10Cは、第3の実施形態の水処理システム10Bの変形例であるので、以下では、第3の実施形態と異なる点について説明し、重複説明を避ける。
【0075】
すなわち、第4の実施形態の水処理システム10Cは、除去部60を、フィード液流通部24a(#n)から、ドロー液流通部24b(#1)への戻り経路上ではなく、最初の段の正浸透膜ユニット20(#1)においてドロー液DS1と接触したフィード液FSの排出経路上に備えたことのみ、第3の実施形態の水処理システム10Bと異なる。
【0076】
フィード液FSがイオン性のものではない場合、除去部60は、第3の実施形態で説明したように、例えば酸性ガスによって生成されたアミンカチオンのイオン交換樹脂によって実現できる。
【0077】
このようにイオン交換樹脂によって実現される除去部60は、正浸透膜ユニット20(#1)において生成された濃縮フィード液FSに流失した、ドロー液DS2であるスイッチャブルアミンに含まれるアミンカチオンをトラップすることによって、濃縮フィード液FSから、スイッチャブルアミンを除去する。
【0078】
これによって、水処理システム10Cでもまた、ドロー液DS2としてスイッチャブルアミンを適用した場合であっても、安全な濃縮フィード液FSを生成できる。したがって、水処理システム10Cを、フィード液FSが食品系や医薬品系である場合に好適に使用することができる。
【0079】
また、本実施形態の水処理システム10Cでもまた、アミンカチオンをトラップしたイオン交換樹脂は、第3の実施形態で説明したように、定期的な交換あるいは洗浄を要する。しかしながら、第1の実施形態で説明したように、正浸透膜ユニット20(#1)においてフィード液FSへ流失するドロー液DS2の流失率は、正浸透膜ユニット20(#n)においてドロー液DS1へ流失するドロー液DS2の流失率よりも3桁も少ない。したがって、
図6に例示する水処理システム10Cにおける除去部60は、
図5に例示する水処理システム10Bにおける除去部60よりも、除去するドロー液DS2の量は少ない。
【0080】
このため、水処理システム10Cでは、水処理システム10Bよりも、除去部60のイオン交換樹脂の交換あるいは洗浄の頻度をより低くすることができる。このため、イオン交換樹脂の交換あるいは洗浄に係る費用が低減されるので、経済的である。
【0081】
水処理システム10Cでも同様に、フィード液FSがイオン性のものである場合、除去部60として酸性ガスとアミンによって生成した塩類を単に吸着したものを適用することができる。この場合であっても、同様に、交換の頻度を低くすることができるので、経済的である。
【0082】
さらにまた、上記では、2段の正浸透膜ユニット20(#1)、(#n)によって構成された水処理システム10への適用例を説明したが、本実施形態で説明した除去部60もまた、2段以上の正浸透膜ユニット20を備えた水処理システムにも同様に適用できることを当業者であれば理解できる。
【0083】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
【0084】
図7は、第4の実施形態の水処理システムの変形構成例を示す概念図である。
【0085】
図7に例示する本変形例の水処理システム10Dは、
図6に例示する水処理システム10Cに、第3の実施形態で説明され、
図5に例示される除去部60をさらに備えた構成としている。
【0086】
本変形例の水処理システム10Dは、このように2つの除去部60を備えることによって、正浸透膜22を介して流失したドロー液DS2であるスイッチャブルアミンの除去能力をさらに高めることができる。このように、除去部60は、正浸透膜ユニット20同士の間ごとに設けてもよい。
【0087】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0088】
10、10A、10B、10C、10D・・水処理システム、20・・正浸透膜ユニット、22・・正浸透膜、24a・・フィード液流通部、24b・・ドロー液流通部、30・・加熱部、32・・水回収ライン、40・・再生部、60・・除去部