(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】半導体装置、半導体装置の製造方法、インバータ回路、駆動装置、車両、及び、昇降機
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20240902BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20240902BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H01L29/78 652K
H01L29/78 652T
H01L29/78 658F
H01L29/78 658Z
(21)【出願番号】P 2021045127
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】清水 達雄
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-035051(JP,A)
【文献】特開2020-047668(JP,A)
【文献】特開2021-022706(JP,A)
【文献】特開2014-146748(JP,A)
【文献】国際公開第2014/103000(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/12
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
{0001}面に対して0度以上8度以下のオフ角を有する第1の面と、前記第1の面に対向する第2の面とを有し、4H-SiCの結晶構造を有する炭化珪素層であって、
前記第1の面に接するp型の炭化珪素領域を含み、
前記第1の面の最上層である1層目に存在する複数のシリコン原子の中で、第1のシリコン原子の占める割合が90%以上であり、前記第1のシリコン原子のサイト位置は、前記第1の面から3層目のシリコン原子のサイト位置と異なり、前記第1の面から5層目のシリコン原子のサイト位置と同じである炭化珪素層と、
ゲート電極と、
前記炭化珪素層と前記ゲート電極との間の酸化シリコン層と、
前記炭化珪素層と前記酸化シリコン層との間に位置し、窒素の濃度が1×10
21cm
-3以上の領域と、を備え、
前記炭化珪素層、前記酸化シリコン層、及び、前記領域の中の窒素の濃度分布が、前記領域にピークを有し、
前記ピークから前記酸化シリコン層の側に1nm離れた第1の位置における窒素の濃度が1×10
18cm
-3以下であり、前記ピークから前記炭化珪素層の側に1nm離れた第2の位置における窒素の濃度が1×10
18cm
-3以下である、半導体装置。
【請求項2】
前記領域の窒素の濃度は1×10
22cm
-3以上である請求項
1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記複数のシリコン原子の中の前記第1のシリコン原子以外のシリコン原子は、第2のシリコン原子又は第3のシリコン原子を含み、
前記第2のシリコン原子のサイト位置は、前記第1の面から3層目のシリコン原子のサイト位置と同じであり、前記第1の面から5層目のシリコン原子のサイト位置と同じであり、
前記第3のシリコン原子のサイト位置は、前記第1の面から3層目のシリコン原子のサイト位置と異なり、前記第1の面から5層目のシリコン原子のサイト位置とも異なる請求項
1又は請求項2記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第1の面の最上層である1層目に存在する複数のシリコン原子の中で、前記第1のシリコン原子の占める割合が95%以上である請求項
1ないし請求項3いずれか一項記載の半導体装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項
4いずれか一項記載の半導体装置を備えるインバータ回路。
【請求項6】
請求項1ないし請求項
4いずれか一項記載の半導体装置を備える駆動装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項
4いずれか一項記載の半導体装置を備える車両。
【請求項8】
請求項1ないし請求項
4いずれか一項記載の半導体装置を備える昇降機。
【請求項9】
表面が{0001}面に対して0度以上8度以下のオフ角を有する炭化珪素層にアルミニウム(Al)を第1のプロジェクテッドレンジ及び第1のドーズ量で注入する第1のイオン注入を行い、
前記炭化珪素層に炭素(C)を第2のプロジェクテッドレンジ及び前記第1のドーズ量の10倍以上のドーズ量である第2のドーズ量で注入する第2のイオン注入を行い、
前記第1のイオン注入及び前記第2のイオン注入の後に前記炭化珪素層の上に炭素膜を形成し、
前記炭素膜を形成した後、1600℃以上の第1の熱処理を行い、
前記第1の熱処理の後、前記炭素膜を除去し、
前記炭素膜を除去した後、水素を含む雰囲気の中で、1100℃以上の第2の熱処理を行い、
前記第2の熱処理の後、前記炭化珪素層の上に酸化シリコン膜を形成し、
前記酸化シリコン膜を形成した後に、窒素を含む雰囲気の中で第3の熱処理を行い、
前記酸化シリコン膜の上にゲート電極を形成する半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記窒素を含む雰囲気は、アンモニアガスを含む雰囲気である請求項
9記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記酸化シリコン膜は、気相成長法により形成する請求項
9又は請求項10記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記第1のイオン注入及び前記第2のイオン注入は、前記炭化珪素層の同一の領域に対して行われる請求項
9ないし請求項
11いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記第2のプロジェクテッドレンジは、前記第1のプロジェクテッドレンジの80%以上120%以下である請求項
9ないし請求項
12いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記第3の熱処理の後に、窒素酸化物ガスを含む雰囲気の中で第4の熱処理を、更に行う請求項
9ないし請求項
13いずれか一項記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、半導体装置、半導体装置の製造方法、インバータ回路、駆動装置、車両、及び、昇降機に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の半導体デバイス用の材料として炭化珪素(SiC)が期待されている。炭化珪素はシリコン(Si)と比較して、バンドギャップが3倍、破壊電界強度が約10倍、熱伝導率が約3倍と優れた物性を有する。この特性を活用すれば低損失かつ高温動作可能な半導体デバイスを実現することができる。
【0003】
例えば、炭化珪素を用いてMetal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor(MOSFET)を形成する場合、ゲート絶縁層の信頼性の低下や、キャリアの移動度の低下が生じるおそれがある。ゲート絶縁層の信頼性の低下や、キャリアの移動度の低下は、例えば、炭化珪素層とゲート絶縁層との間の界面準位に起因する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、特性が向上する半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の半導体装置は、{0001}面に対して0度以上8度以下のオフ角を有する第1の面と、前記第1の面に対向する第2の面とを有し、4H-SiCの結晶構造を有する炭化珪素層であって、前記第1の面に接するp型の炭化珪素領域を含み、前記第1の面の最上層である1層目に存在する複数のシリコン原子の中で、第1のシリコン原子の占める割合が90%以上であり、前記第1のシリコン原子のサイト位置は、前記第1の面から3層目のシリコン原子のサイト位置と異なり、前記第1の面から5層目のシリコン原子のサイト位置と同じである炭化珪素層と、ゲート電極と、前記炭化珪素層と前記ゲート電極との間の酸化シリコン層と、前記炭化珪素層と前記酸化シリコン層との間に位置し、窒素の濃度が1×1021cm-3以上の領域と、を備え、前記炭化珪素層、前記酸化シリコン層、及び、前記領域の中の窒素の濃度分布が、前記領域にピークを有し、前記ピークから前記酸化シリコン層の側に1nm離れた第1の位置における窒素の濃度が1×10
18
cm
-3
以下であり、前記ピークから前記炭化珪素層の側に1nm離れた第2の位置における窒素の濃度が1×10
18
cm
-3
以下である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図5】第1の実施形態の半導体装置の元素濃度分布を示す図。
【
図6】第1の実施形態の半導体装置の窒素原子の結合状態を示す模式図。
【
図7】第1の実施形態の半導体装置の炭化珪素層の表面構造の説明図。
【
図8】第1の実施形態の半導体装置の製造方法の工程フロー図。
【
図9】第1の実施形態の半導体装置の製造方法の説明図。
【
図10】第1の実施形態の半導体装置の製造方法の説明図。
【
図11】第1の実施形態の半導体装置の製造方法の説明図。
【
図12】第1の実施形態の半導体装置の製造方法の説明図。
【
図13】第1の実施形態の半導体装置の製造方法の説明図。
【
図14】第1の実施形態の半導体装置の製造方法の説明図。
【
図15】第1の実施形態の半導体装置の製造方法の説明図。
【
図16】第1の実施形態の半導体装置の製造方法の説明図。
【
図17】第1の実施形態の半導体装置の製造方法の説明図。
【
図18】第1の実施形態の半導体装置の製造方法の説明図。
【
図19】第1の実施形態の半導体装置の製造方法の説明図。
【
図20】第1の実施形態の半導体装置の製造方法の説明図。
【
図21】第1の実施形態の半導体装置の作用及び効果の説明図。
【
図22】第1の実施形態の半導体装置の作用及び効果の説明図。
【
図23】第1の実施形態の半導体装置の作用及び効果の説明図。
【
図24】第1の実施形態の半導体装置の作用及び効果の説明図。
【
図25】第1の実施形態の半導体装置の作用及び効果の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明では、同一又は類似の部材などには同一の符号を付し、一度説明した部材などについては適宜その説明を省略する。
【0009】
また、以下の説明において、n+、n、n-及び、p+、p、p-の表記がある場合は、各導電型における不純物濃度の相対的な高低を表す。すなわちn+はnよりもn型不純物濃度が相対的に高く、n-はnよりもn型不純物濃度が相対的に低いことを示す。また、p+はpよりもp型不純物濃度が相対的に高く、p-はpよりもp型不純物濃度が相対的に低いことを示す。なお、n+型、n-型を単にn型、p+型、p-型を単にp型と記載する場合もある。各領域の不純物濃度は、別段の記載がある場合を除き、例えば、各領域の中央部の不純物濃度の値で代表させる。
【0010】
不純物濃度は、例えば、Secondary Ion Mass Spectrometry(SIMS)により測定することが可能である。また、不純物濃度の相対的な高低は、例えば、Scanning Capacitance Microscopy(SCM)で求められるキャリア濃度の高低から判断することも可能である。また、不純物領域の幅や深さ等の距離は、例えば、SIMSで求めることが可能である。また。不純物領域の幅や深さ等の距離は、例えば、SCM像から求めることが可能である。
【0011】
トレンチの深さ、絶縁層の厚さ等は、例えば、SIMSのプロファイル、Transmission Electron Microscope(TEM)の画像上、又は、Scanning Electron Microscope(SEM)で計測することが可能である。
【0012】
また、炭化珪素層中のシリコン原子、炭素原子、窒素原子、及び、酸素原子の結合状態は、例えば、X線光電子分光法(XPS法)を用いることで同定できる。また、各種結合状態の濃度、及び、濃度の大小関係は、例えば、X線光電子分光法(XPS法)を用いることで決定できる。
【0013】
炭化珪素層の表面構造は、例えば、TEMの画像により観察することが可能である。例えば、炭化珪素層の表面の原子の配列は、TEMの画像により分析することが可能である。また、炭化珪素層の表面構造は、例えば、走査型トンネル分光法(STS法)により分析することが可能である。
【0014】
(第1の実施形態)
第1の実施形態の半導体装置は、{0001}面に対して0度以上8度以下のオフ角を有する第1の面と、第1の面に対向する第2の面とを有し、4H-SiCの結晶構造を有する炭化珪素層であって、第1の面に接するp型の炭化珪素領域を含み、第1の面の最上層である1層目に存在する複数のシリコン原子の中で、第1のシリコン原子の占める割合が90%以上であり、第1のシリコン原子のサイト位置は、第1の面から3層目のシリコン原子のサイト位置と異なり、第1の面から5層目のシリコン原子のサイト位置と同じである炭化珪素層と、ゲート電極と、炭化珪素層とゲート電極との間の酸化シリコン層と、炭化珪素層と酸化シリコン層との間に位置し、窒素の濃度が1×1021cm-3以上の領域と、を備える。
【0015】
図1は、第1の実施形態の半導体装置の模式断面図である。半導体装置は、MOSFET100である。MOSFET100は、pウェルとソース領域をイオン注入で形成する、Double Implantation MOSFET(DIMOSFET)である。また、MOSFET100は、電子をキャリアとするnチャネル型のMOSFETである。
【0016】
MOSFET100は、炭化珪素層10、ゲート絶縁層28(酸化シリコン層)、ゲート電極30、層間絶縁膜32、ソース電極34、ドレイン電極36、及び、界面終端領域40(領域)を備える。
【0017】
炭化珪素層10は、ドレイン領域12、ドリフト領域14、pウェル領域16(炭化珪素領域)、ソース領域18、pウェルコンタクト領域20を備える。
【0018】
炭化珪素層10は、単結晶のSiC半導体である。炭化珪素層10は、第1の面P1と、第1の面P1に対向する第2の面P2を有する。以下、第1の面P1を炭化珪素層10の表面、第2の面P2を炭化珪素層10の裏面と称する場合がある。
【0019】
本明細書中、「深さ」とは、第1の面P1を基準とする深さを意味する。
【0020】
炭化珪素層10は、ソース電極34とドレイン電極36との間に位置する。ソース電極34は、炭化珪素層10の第1の面P1の側に設けられる。ドレイン電極36は、炭化珪素層10の第2の面P2の側に設けられる。
【0021】
図2は、SiC半導体の結晶構造を示す図である。SiC半導体の代表的な結晶構造は、4H-SiCのような六方晶系である。六角柱の軸方向に沿うc軸を法線とする面(六角柱の頂面)の一方が(0001)面である。(0001)面と等価な面を、シリコン面(Si面)と称し{0001}面と表記する。シリコン面の最表面にはシリコン原子(Si)が配列している。
【0022】
六角柱の軸方向に沿うc軸を法線とする面(六角柱の頂面)の他方が(000-1)面である。(000-1)面と等価な面を、カーボン面(C面)と称し{000-1}面と表記する。カーボン面の最表面には炭素原子(C)が配列している。
【0023】
一方、六角柱の側面(柱面)が、(1-100)面と等価な面であるm面、すなわち{1-100}面である。また、隣り合わない一対の稜線を通る面が(11-20)面と等価な面であるa面、すなわち{11-20}面である。m面及びa面の最表面には、シリコン原子(Si)及び炭素原子(C)の双方が配列している。
【0024】
炭化珪素層10は、4H-SiCの結晶構造を有する。炭化珪素層10の第1の面P1は、{0001}面に対して0度以上8度以下のオフ角を有する。第1の面P1は、シリコン面に対し0度以上8度以下傾斜した面、第2の面P2は、カーボン面に対し0度以上8度以下傾斜した面である。
【0025】
図3は、4H-SiC半導体の結晶構造を示す図である。
図3は、4H-SiC半導体のシリコン原子と炭素原子の配列を示す。
【0026】
図3において、シリコン原子を白丸、炭素原子を黒丸で表す。四角で囲んだ領域が4H-SiCのユニットセルとなる。ユニットセルが繰り返し並進方向に繰り返し配置されることで4H-SiCが構成されている。
【0027】
4H-SiCは積層方向(c軸方向)の1周期中に4層のシリコン原子層が含まれる。シリコン原子のサイト位置には、Aサイト、Bサイト、及びCサイトの3つのサイト位置がある。
【0028】
図4は、4H-SiC半導体の表面構造を示す図である。
図4は、4H-SiC半導体の表面がとり得る表面構造の説明図である。
図4は、炭化珪素層10の第1の面P1がとり得る表面構造の説明図である。
図4(a)は第1の表面構造、
図4(b)は第2の表面構造、
図4(c)は第3の表面構造を示す。
図4中に示す第1ないし第5の層のぞれぞれは、上側のシリコン原子層と下側の炭素原子層で構成される。
【0029】
図4(a)に示す第1の表面構造の最表面の1層目に位置するシリコン原子は、第1のシリコン原子である。第1のシリコン原子のサイト位置は、第1の面P1から3層目のシリコン原子のサイト位置と異なり、第1の面P1から5層目のシリコン原子のサイト位置と同じである。
【0030】
第1の表面構造では、最表面の1層目に位置する第1のシリコン原子のサイト位置はAサイトである。第1の面P1から3層目のシリコン原子のサイト位置は、Cサイトである。第1の面P1から5層目のシリコン原子のサイト位置は、Aサイトである。したがって、第1のシリコン原子のサイト位置は、第1の面P1から3層目のシリコン原子のサイト位置と異なり、第1の面P1から5層目のシリコン原子のサイト位置と同じである。
【0031】
図4(b)に示す第2の表面構造の最表面の1層目に位置するシリコン原子は、第2のシリコン原子である。第2のシリコン原子のサイト位置は、第1の面P1から3層目のシリコン原子のサイト位置と同じであり、第1の面P1から5層目のシリコン原子のサイト位置と同じである。
【0032】
第2の表面構造では、最表面の1層目に位置する第2のシリコン原子のサイト位置はBサイトである。第1の面P1から3層目のシリコン原子のサイト位置は、Bサイトである。第1の面P1から5層目のシリコン原子のサイト位置は、Bサイトである。したがって、第2のシリコン原子のサイト位置は、第1の面P1から3層目のシリコン原子のサイト位置と同じであり、第1の面P1から5層目のシリコン原子のサイト位置と同じである。
【0033】
図4(c)に示す第3の表面構造の最表面の1層目に位置するシリコン原子は、第3のシリコン原子である。第3のシリコン原子のサイト位置は、第1の面P1から3層目のシリコン原子のサイト位置と異なり、第1の面P1から5層目のシリコン原子のサイト位置とも異なる。
【0034】
第3の表面構造では、最表面の1層目に位置する第3のシリコン原子のサイト位置はAサイトである。第1の面P1から3層目のシリコン原子のサイト位置は、Bサイトである。第1の面P1から5層目のシリコン原子のサイト位置は、Bサイトである。したがって、第3のシリコン原子のサイト位置は、第1の面P1から3層目のシリコン原子のサイト位置と異なり、第1の面P1から5層目のシリコン原子のサイト位置とも異なる。第3の表面構造では、最表面の1層目の周期性が崩れている。
【0035】
ドレイン領域12は、n+型のSiCである。ドレイン領域12は、例えば、窒素(N)をn型不純物として含む。ドレイン領域12のn型不純物濃度は、例えば、1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下である。
【0036】
ドリフト領域14は、ドレイン領域12の上に設けられる。ドリフト領域14は、n-型のSiCである。ドリフト領域14は、例えば、窒素をn型不純物として含む。
【0037】
ドリフト領域14のn型不純物濃度は、ドレイン領域12のn型不純物濃度より低い。ドリフト領域14のn型不純物濃度は、例えば、1×1015cm-3以上2×1016cm-3以下である。ドリフト領域14は、例えば、ドレイン領域12の上にエピタキシャル成長法により形成されたSiCのエピタキシャル成長層である。
【0038】
ドリフト領域14の厚さは、例えば、5μm以上100μm以下である。
【0039】
pウェル領域16は、ドリフト領域14の一部表面に設けられる。pウェル領域16は、ドリフト領域14とゲート絶縁層28との間に位置する。pウェル領域16は、第1の面P1に接する。pウェル領域16は、p型のSiCである。
【0040】
pウェル領域16は、例えば、アルミニウム(Al)をp型不純物として含む。pウェル領域16のp型不純物濃度は、例えば、1×1016cm-3以上1×1020cm-3以下である。
【0041】
pウェル領域16の深さは、例えば、0.4μm以上0.8μm以下である。pウェル領域16は、MOSFET100のチャネル領域として機能する。
【0042】
ソース領域18は、pウェル領域16の一部表面に設けられる。ソース領域18は、n+型のSiCである。ソース領域18は、例えば、リン(P)をn型不純物として含む。ソース領域18のn型不純物濃度は、例えば、1×1018cm-3以上1×1022cm-3以下である。
【0043】
ソース領域18の深さは、pウェル領域16の深さよりも浅い。ソース領域18の深さは、例えば、0.2μm以上0.4μm以下である。
【0044】
pウェルコンタクト領域20は、pウェル領域16の一部表面に設けられる。pウェルコンタクト領域20は、ソース領域18の側方に設けられる。pウェルコンタクト領域20は、p+型のSiCである。
【0045】
pウェルコンタクト領域20は、例えば、アルミニウムをp型不純物として含む。pウェルコンタクト領域20のp型不純物濃度は、例えば、1×1018cm-3以上1×1022cm-3以下である。
【0046】
pウェルコンタクト領域20の深さは、pウェル領域16の深さよりも浅い。pウェルコンタクト領域20の深さは、例えば、0.2μm以上0.4μm以下である。
【0047】
ゲート絶縁層28は、炭化珪素層10とゲート電極30との間に設けられる。ゲート絶縁層28は、ドリフト領域14とゲート電極30、及びpウェル領域16とゲート電極30との間に設けられる。ゲート絶縁層28は、ドリフト領域14及びpウェル領域16の上に設けられる。ゲート絶縁層28は、ドリフト領域14及びpウェル領域16の表面に、連続的に形成される。
【0048】
ゲート絶縁層28は、酸化シリコンを含む。ゲート絶縁層28は、酸化シリコン層の一例である。
【0049】
ゲート絶縁層28の厚さは、例えば、30nm以上100nm以下である。ゲート絶縁層28は、MOSFET100のゲート絶縁層として機能する。
【0050】
界面終端領域40は、炭化珪素層10とゲート絶縁層28との間に位置する。界面終端領域40は、ドリフト領域14とゲート絶縁層28、及びpウェル領域16とゲート絶縁層28との間に位置する。界面終端領域40は、炭化珪素層10のダングリングボンドを終端する終端元素として窒素(N)を含む。界面終端領域40は、領域の一例である。
【0051】
界面終端領域40の窒素の濃度は1×1021cm-3以上である。界面終端領域40の窒素の濃度は、例えば、1×1022cm-3以上である。
【0052】
図5は、第1の実施形態の半導体装置の元素濃度分布を示す図である。
図5は、ゲート絶縁層28、界面終端領域40、及び、炭化珪素層10の中の、元素濃度分布を示す図である。
図5は、窒素の濃度分布を示す。
【0053】
窒素の濃度分布は、界面終端領域40にピークを有する。ピークの窒素の濃度は、例えば、1×1021cm-3以上4×1023cm-3以下である。窒素の濃度分布のピークの窒素の濃度は、例えば、1×1021cm-3以上である。
【0054】
窒素の濃度分布のピークに対する半値全幅は、例えば、1nm以下である。窒素は、炭化珪素層10とゲート絶縁層28との間の界面に偏析している。
【0055】
窒素の濃度分布のピークからゲート絶縁層28の側に1nm離れた第1の位置(
図5中のX1)における窒素の濃度は1×10
18cm
-3以下である。また、窒素の濃度分布のピークから炭化珪素層10の側に1nm離れた第2の位置(
図5中のX2)における窒素の濃度は1×10
18cm
-3以下である。
【0056】
図6は、第1の実施形態の半導体装置の窒素原子の結合状態を示す模式図である。
図6(a)は窒素原子が3配位の場合、
図6(b)は窒素原子が4配位の場合である。
【0057】
図6(a)に示す3配位の場合、窒素原子は3個のシリコン原子と結合する。
図6(b)に示す4配位の場合、窒素原子は4個のシリコン原子と結合する。
【0058】
界面終端領域40において、3個のシリコン原子と結合する窒素原子の濃度が、4個のシリコン原子と結合する窒素原子の濃度よりも多い。言い換えれば、界面終端領域40において、3配位の窒素原子の濃度が、4配位の窒素原子の濃度よりも多い。
【0059】
例えば、界面終端領域40に存在する窒素原子の90%以上が、3配位の窒素原子である。3配位の窒素原子の濃度は、例えば、1×1021cm-3以上である。
【0060】
界面終端領域40に存在する3配位の窒素原子は、炭化珪素層10の表面のダングリングボンドを終端している。
【0061】
界面終端領域40の窒素原子は炭化珪素層10の最上層の炭素原子を置換する。界面終端領域40の窒素原子は、炭化珪素層10と3配位で結合していることになる。窒素原子は、炭化珪素の結晶構造の炭素原子の位置にある。窒素原子に、炭化珪素層10のシリコン原子が3配位している。
【0062】
界面終端領域40の窒素原子は炭化珪素層10の最上層を構成するバイレイヤの炭素原子を置換する。窒素原子は、最終的には、炭化珪素層10と3配位で結合している。余剰なシリコン原子や炭素原子は、炭化珪素層10からゲート絶縁層28側に放出されている。窒素原子は、炭化珪素の結晶構造の炭素原子の位置にある。最表面のシリコン原子の一部がゲート絶縁層28に入り、窒素原子は、炭化珪素層10のシリコン原子と3配位している。
【0063】
炭化珪素層10のバルク中に存在し、炭化珪素の結晶構造の炭素サイトを置換している窒素原子は、4配位となる。4配位の窒素原子は、n型のドーパントとして機能するため、MOSFETの閾値電圧を低下させる。
【0064】
第2の位置X2における4個のシリコン原子と結合する窒素原子の濃度は1×1018cm-3以下である。言い換えれば、第2の位置X2における4配位の窒素原子の濃度は1×1018cm-3以下である。
【0065】
図7は、第1の実施形態の半導体装置の炭化珪素層の表面構造の説明図である。
図7は、炭化珪素層10、界面終端領域40、及び、ゲート絶縁層28の原子の配列を示す。
【0066】
炭化珪素層10の第1の面P1は、第1の表面構造を有する。第1の面P1の最上層である1層目には第1のシリコン原子が存在する。
【0067】
第1のシリコン原子は、界面終端領域40の窒素原子と結合する。界面終端領域40の窒素原子は、ゲート絶縁層28のシリコン原子と結合する。ゲート絶縁層28のシリコン原子は、ゲート絶縁層28の酸素原子と結合する。
【0068】
炭化珪素層10の第1の面P1の最上層である1層目に存在する複数のシリコン原子の中で、第1のシリコン原子の占める割合は、90%以上である。炭化珪素層10の第1の面P1は、第1の表面構造が主たる表面構造である。
【0069】
炭化珪素層10の第1の面P1の最上層である1層目に存在する複数のシリコン原子の中の第1のシリコン原子以外のシリコン原子は、例えば、第2のシリコン原子又は第3のシリコン原子を含んでいても良い。炭化珪素層10の第1の面P1は、例えば、第2の表面構造又は第3の表面構造を含んでいても良い。
【0070】
ゲート電極30は、ゲート絶縁層28の上に設けられる。ゲート電極30は、炭化珪素層10との間にゲート絶縁層28を挟む。ゲート電極30は、ドリフト領域14との間にゲート絶縁層28を挟む。ゲート電極30は、pウェル領域16との間にゲート絶縁層28を挟む。
【0071】
ゲート電極30は、例えば、n型不純物又はp型不純物を含む多結晶シリコンである。
【0072】
層間絶縁膜32は、ゲート電極30上に形成される。層間絶縁膜32は、ゲート電極30とソース電極34との間に位置する。層間絶縁膜32は、例えば、酸化シリコン膜である。
【0073】
ソース電極34は、ソース領域18及びpウェルコンタクト領域20に電気的に接続される。ソース電極34は、pウェル領域16に電位を与えるpウェル電極としても機能する。ソース電極34は、例えば、ソース領域18及びpウェルコンタクト領域20に接する。
【0074】
ソース電極34は、例えば、Ni(ニッケル)のバリアメタル層と、バリアメタル層上のアルミニウムのメタル層との積層構造である。ニッケルのバリアメタル層と炭化珪素層は、反応してニッケルシリサイド(NiSi、Ni2Siなど)を形成しても構わない。ニッケルのバリアメタル層とアルミニウムのメタル層とは、反応により合金を形成しても構わない。
【0075】
ドレイン電極36は、炭化珪素層10のソース電極34と反対側、すなわち、裏面側に設けられる。ドレイン電極36は、ドレイン領域12に電気的に接続される。ドレイン電極36は、例えば、ドレイン領域12に接する。
【0076】
ドレイン電極36は、例えば、ニッケルである。ニッケルは、ドレイン領域12と反応して、ニッケルシリサイド(NiSi、Ni2Siなど)を形成しても構わない。
【0077】
なお、第1の実施形態において、n型不純物は、例えば、窒素やリンである。n型不純物としてヒ素(As)又はアンチモン(Sb)を適用することも可能である。
【0078】
また、第1の実施形態において、p型不純物は、例えば、アルミニウムである。p型不純物として、ボロン(B)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)を適用することも可能である。
【0079】
次に、第1の実施形態の半導体装置の製造方法の一例について説明する。
【0080】
第1の実施形態の半導体装置の製造方法は、炭化珪素層にアルミニウム(Al)を第1のプロジェクテッドレンジ及び第1のドーズ量で注入する第1のイオン注入を行い、炭化珪素層に炭素(C)を第2のプロジェクテッドレンジ及び第1のドーズ量の10倍以上のドーズ量である第2のドーズ量で注入する第2のイオン注入を行い、第1のイオン注入及び第2のイオン注入の後に炭化珪素層の上に炭素膜を形成し、炭素膜を形成した後、1600℃以上の第1の熱処理を行い、第1の熱処理の後、炭素膜を除去し、炭素膜を除去した後、水素を含む雰囲気の中で、1100℃以上の第2の熱処理を行い、第2の熱処理の後、炭化珪素層の上に酸化シリコン膜を形成し、酸化シリコン膜を形成した後に、窒素を含む雰囲気の中で第3の熱処理を行い、酸化シリコン膜の上にゲート電極を形成する。
【0081】
【0082】
図8に示すように、第1の実施形態の半導体装置の製造方法は、炭化珪素層準備(ステップS100)、アルミニウムイオン注入(ステップS101)、炭素イオン注入(ステップS102)、リンイオン注入(ステップS103)、アルミニウムイオン注入(ステップS104)、炭素膜形成(ステップS105)、第1の熱処理(ステップS106)、炭素膜除去(ステップS107)、第2の熱処理(ステップS108)、酸化シリコン膜形成(ステップS109)、第3の熱処理(ステップS110)、第4の熱処理(ステップS111)、ゲート電極形成(ステップS112)、層間絶縁膜形成(ステップS113)、及びソース電極/ドレイン電極形成(ステップS114)を備える。
【0083】
ステップS100では、炭化珪素層10を準備する(
図9)。炭化珪素層10は、n
+型のドレイン領域12とn
-型のドリフト領域14を備える。ドリフト領域14は、例えば、ドレイン領域12上にエピタキシャル成長法により形成される。
【0084】
ドレイン領域12は、n型不純物として窒素を含む。ドレイン領域12のn型不純物濃度は、例えば、1×1018cm-3以上1×1021cm-3以下である。
【0085】
ドリフト領域14は、n型不純物として窒素を含む。ドリフト領域14のn型不純物濃度は、例えば、1×1015cm-3以上2×1016cm-3以下である。ドリフト領域14の厚さは、例えば、5μm以上100μm以下である。
【0086】
ステップS101では、例えば、絶縁膜の形成と、フォトリソグラフィー及びエッチングによる絶縁膜のパターニングにより、第1のマスク材51を形成する。そして、第1のマスク材51をイオン注入マスクとして用いて、アルミニウムをドリフト領域14にイオン注入する。イオン注入によりpウェル領域16が形成される(
図10)。
【0087】
pウェル領域16を形成するイオン注入が第1のイオン注入の一例である。アルミニウムのイオン注入は、第1のプロジェクテッドレンジ及び第1のドーズ量で行われる。プロジェクテッドレンジは、平均投影飛程である。
【0088】
第1のプロジェクテッドレンジは、例えば、0.1μm以上0.6μm以下である。第1のドーズ量は、例えば、1×1012cm-2以上1×1014cm-2以下である。
【0089】
ステップS102では、第1のマスク材51をイオン注入マスクとして用いて、炭素をpウェル領域16にイオン注入する(
図11)。pウェル領域16に対する炭素のイオン注入が、第2のイオン注入の一例である。炭素のイオン注入は、第2のプロジェクテッドレンジ及び第2のドーズ量で行われる。その後、第1のマスク材51を除去する。
【0090】
第2のプロジェクテッドレンジは、例えば、0.1μm以上0.6μm以下である。第2のプロジェクテッドレンジは、例えば、第1のプロジェクテッドレンジの80%以上120%以下である。第2のドーズ量は、第1のドーズ量の10倍以上である。第2のドーズ量は、例えば、第1のドーズ量の1000倍以下である。第2のドーズ量は、例えば、1×1015cm-2以上1×1018cm-2以下である。
【0091】
図12は、第1のイオン注入で炭化珪素層10に注入されたアルミニウムの濃度分布と、第2のイオン注入で炭化珪素層10に注入された炭素の濃度分布を示す。
図12は、イオン注入直後の元素分布を示す。
【0092】
図12に示すように、炭素のイオン注入の第2のプロジェクテッドレンジRp2は、アルミニウムのイオン注入の第1のプロジェクテッドレンジRp1の近傍に位置する。そして、炭素のイオン注入の第2のドーズ量が、アルミニウムのイオン注入の第1のドーズ量の10倍以上であることから、イオン注入後の炭素の濃度分布は、例えば、イオン注入後のアルミニウムの濃度分布を完全に覆う。
【0093】
アルミニウムの分布のピークの濃度は、例えば、1×1016cm-3以上1×1020cm-3以下である。炭素の分布のピークの濃度は、例えば、1×1018cm-3以上1×1022cm-3以下である。
【0094】
ステップS103では、例えば、絶縁膜の形成と、フォトリソグラフィー及びエッチングによる絶縁膜のパターニングにより、第2のマスク材52を形成する。そして、第2のマスク材52をイオン注入マスクとして用いて、リンをドリフト領域14にイオン注入し、ソース領域18を形成する(
図13)。その後、第2のマスク材52を除去する。
【0095】
ステップS104では、例えば、絶縁膜の形成と、フォトリソグラフィー及びエッチングによる絶縁膜のパターニングにより、第3のマスク材53を形成する。第3のマスク材53をイオン注入マスクとして用いて、アルミニウムをドリフト領域14にイオン注入し、pウェルコンタクト領域20を形成する(
図14)。
【0096】
【0097】
ステップS105では、炭化珪素層10の上に炭素膜54を形成する(
図16)。
【0098】
ステップS106では、第1の熱処理を行う。第1の熱処理は、1600℃以上で行う。第1の熱処理は、非酸化性雰囲気で行う。第1の熱処理は、例えば、不活性ガス雰囲気で行う。第1の熱処理は、例えば、アルゴンガス雰囲気で行う。
【0099】
第1の熱処理により、炭化珪素層10の中にイオン注入されたアルミニウム及びリンが活性化される。第1の熱処理は、アルミニウム及びリンの活性化アニールである。また、第1の熱処理により、炭化珪素層10への炭素イオン注入により形成された格子間炭素が、炭化珪素層10の中の炭素空孔を埋める。
【0100】
炭素膜54は、第1の熱処理中に、炭化珪素層10からシリコンや炭素が雰囲気中に脱離することを抑制する。また、炭素膜54は、第1の熱処理中に、炭化珪素層10の中の余剰の格子間炭素を吸収する。
【0101】
第1の熱処理は、例えば、1600℃以上の第1ステップと、第1のステップの温度よりも温度の低い第2のステップで構成される。第2のステップは、例えば、1000℃以下である。
【0102】
例えば、第1のステップで、炭化珪素層10の中にイオン注入されたアルミニウム及びリンを活性化し、格子間炭素が炭素空孔を埋める。例えば、低温の第2のステップで、余剰の格子間炭素を炭化珪素層10から追い出し、炭素膜54に吸収させる。
【0103】
ステップS107では、炭素膜54を除去する(
図17)。
【0104】
ステップS108では、第2の熱処理を行う。第2の熱処理は、1100℃以上で行う。第2の熱処理は、水素を含む雰囲気の中で行う。
【0105】
第2の熱処理により、炭化珪素層10の表面の酸化膜がエッチングされる。第2の熱処理により、露出した炭化珪素層10の表面に原子のマイグレーションが生じる。
【0106】
炭化珪素層10の表面に第3の表面構造が形成される。炭化珪素層10の表面は、第3の表面構造が主たる表面となる。第3の表面構造の最表面の1層目に位置するシリコン原子は、第3のシリコン原子である。第3のシリコン原子のサイト位置は、第1の面P1から3層目のシリコン原子のサイト位置と異なり、第1の面P1から5層目のシリコン原子のサイト位置とも異なる。
【0107】
ステップS109では、炭化珪素層10の上に酸化シリコン膜55を形成する(
図18)。酸化シリコン膜55は、最終的に、ゲート絶縁層28となる。
【0108】
酸化シリコン膜55は、例えば、気相成長法により形成される。酸化シリコン膜55は、例えば、Chemical Vapor Deposition法(CVD法)、又は、Physical Vapor Deposition法(PVD法)により形成される。酸化シリコン膜55の形成温度は、例えば、800℃以下である。
【0109】
酸化シリコン膜55は、堆積膜である。酸化シリコン膜55の厚さは、例えば、30nm以上100nm以下である。
【0110】
酸化シリコン膜55は、例えば、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)をソースガスとしてCVD法により形成される酸化シリコン膜である。また、酸化シリコン膜55は、例えば、ジクロロシランガス(SiH2Cl2)と一酸化二窒素ガス(N2O)をソースガスとしてCVD法により形成される酸化シリコン膜である。
【0111】
ステップS110では、第3の熱処理が行われる。第3の熱処理は、アンモニアガス(NH3)を含む雰囲気で行われる。
【0112】
例えば、炭化珪素層10が入れられた反応炉に、アンモニアガス(NH3)を供給して熱処理を行う。
【0113】
第3の熱処理の温度は、例えば、1200℃以上1600℃以下である。第3の熱処理の雰囲気のアンモニアガスの分圧は、例えば、90%以上である。
【0114】
第3の熱処理により、炭化珪素層10と酸化シリコン膜との界面に、界面終端領域40が形成される(
図19)。第3の熱処理により、炭化珪素層10の表面が第1の表面構造に変換される。
【0115】
第3の熱処理は、酸化シリコン膜のデンシファイアニールとしても機能する。第3の熱処理により、酸化シリコン膜55が高密度な膜となる。
【0116】
ステップS111では、第4の熱処理が行われる。第4の熱処理は、窒素酸化物ガス(NOx)を含む雰囲気で行われる。窒素酸化物ガスは、例えば、一酸化窒素ガス(NO)である。また、窒素酸化物ガスは、例えば、一酸化二窒素ガス(N2O)である。
【0117】
例えば、炭化珪素層10が入れられた反応炉に、窒素酸化物ガス(NOx)を供給して熱処理を行う。
【0118】
第4の熱処理の温度は、例えば、750℃以上1050℃以下である。第4の熱処理の温度は、例えば、第3の熱処理の温度よりも低い。
【0119】
第4の熱処理の雰囲気の窒素酸化物ガスの分圧は、例えば、10%以上である。
【0120】
第4の熱処理により、酸化シリコン膜の中の窒素が除去される。第4の熱処理により、窒素欠陥の低減された酸化シリコン膜が形成される。
【0121】
ステップS112では、ゲート絶縁層28の上に、ゲート電極30を形成する。ゲート電極30は、例えば、n型不純物又はp型不純物を含む多結晶シリコンである。
【0122】
ステップS113では、ゲート電極30の上に、層間絶縁膜32が形成される(
図20)。層間絶縁膜32は、例えば、酸化シリコン膜である。
【0123】
ステップS114では、ソース電極34及びドレイン電極36が形成される。ソース電極34は、ソース領域18、及び、pウェルコンタクト領域20の上に形成される。ソース電極34は、例えば、ニッケル(Ni)とアルミニウム(Al)のスパッタにより形成される。ドレイン電極36は、炭化珪素層10の裏面側に形成される。ドレイン電極36は、例えば、ニッケルのスパッタにより形成される。
【0124】
以上の製造方法により、
図1に示すMOSFET100が形成される。
【0125】
次に、第1の実施形態の半導体装置及び半導体装置の製造方法の作用及び効果について説明する。
【0126】
第1の実施形態のMOSFET100は、炭化珪素層10の表面において、炭化珪素層10とゲート絶縁層28との間の界面準位の少ない第1の表面構造を主たる表面構造とする。したがって、界面準位に起因するゲート絶縁層の信頼性の低下や、界面準位に起因するキャリアの移動度の低下が抑制される。また、炭化珪素層10とゲート絶縁層28との間に窒素が偏析した界面終端領域40を備える。したがって、炭化珪素層10の表面のダングリングボンドが低減され、キャリアの移動度の低下が抑制される。よって、MOSFET100の特性が向上する。
【0127】
また、第1の実施形態のMOSFET100の製造方法では、界面準位の少ない第1の表面構造を主たる表面構造とするために、製造途中で炭化珪素層10の表面に第3の表面構造を形成する。その後、第3の表面構造を第1の表面構造に変換することで、第1の表面構造を最終的に主たる表面構造とする。
【0128】
以下、第1の実施形態の半導体装置及び半導体装置の製造方法の作用及び効果について詳述する。
【0129】
図21は、第1の実施形態の半導体装置の作用及び効果の説明図である。
図21は、
図4に示した炭化珪素層の各表面構造のエネルギー状態を第1原理計算によって、計算した結果を示す図である。
図21(a)は、
図4(a)に示した第1の表面構造の場合、
図21(b)は、
図4(b)に示した第2の表面構造の場合、
図21(c)は、
図4(c)に示した第3の表面構造の場合である。
【0130】
図21は、各表面構造のバンド図を示す。
図21は、炭化珪素層(SiC)と酸化シリコン層(SiO
2)が、理想的に結合した状態について計算した結果である。
【0131】
図21(a)に示すように、第1の表面構造の場合は、炭化珪素層(SiC)と酸化シリコン層(SiO
2)との間に界面準位は形成されない。
【0132】
一方、
図21(b)に示すように、第2の表面構造の場合は、炭化珪素層(SiC)の伝導帯下端から1.2eV高い位置に界面準位が形成される。MOS構造の場合、この界面準位を介したゲート絶縁層のリーク電流が生じ、ゲート絶縁層の信頼性が低下するおそれがある。
【0133】
また、
図21(c)に示すように、第3の表面構造の場合は、炭化珪素層(SiC)の伝導帯下端から0.3eV低い位置に界面準位が形成される。MOSFETの場合、この界面準位に電子がトラップされ、キャリアの移動度が低下するおそれがある。
【0134】
以上の計算結果より、MOSFETの特性を向上させるためには、炭化珪素層の表面を第1の表面構造にすることが望ましいことが分かる。
【0135】
第1の実施形態のMOSFET100は、第1の面P1の最上層である1層目に存在する複数のシリコン原子の中で、第1のシリコン原子の占める割合が90%以上である。したがって、炭化珪素層10の表面の90%以上が第1の表面構造となる。よって、界面準位に起因するゲート絶縁層28の信頼性の低下や、界面準位に起因するキャリアの移動度の低下が抑制され、MOSFET100の特性が向上する。
【0136】
ゲート絶縁層28の信頼性の低下や、キャリアの移動度の低下を抑制する観点から、第1の面P1の最上層である1層目に存在する複数のシリコン原子の中で、第1のシリコン原子の占める割合が95%以上であることが好ましく、98%以上であることが更に好ましい。
【0137】
炭化珪素層10の表面を第1の表面構造としても、炭化珪素層10とゲート絶縁層28との間の結合状態を完全な状態にすることは、製造上困難である。炭化珪素層10の表面には、シリコン原子又は炭素原子のダングリングボンドが生じ得る。炭化珪素層10の表面にダングリングボンドが存在すると、炭化珪素層10とゲート絶縁層28との間の界面に界面準位が形成され、キャリアの移動度の低下が生じる。
【0138】
第1の実施形態のMOSFET100は、炭化珪素層10とゲート絶縁層28との間に窒素が偏析した界面終端領域40を備える。界面終端領域40では、窒素原子がシリコン原子と3配位で結合することにより、ダングリングボンドが低減される。したがって、キャリアの移動度の低下が抑制されたMOSFETが実現される。
【0139】
界面終端領域40の窒素濃度は、1×1021cm-3以上である。MOSFET100のキャリアの移動度の低下を抑制する観点から、界面終端領域40の窒素の濃度は、1×1022cm-3以上であることが好ましく、5×1022cm-3以上であることがより好ましい。MOSFET100のキャリアの移動度の低下を抑制する観点から、窒素の濃度分布の界面終端領域40のピークの窒素の濃度は、1×1022cm-3以上であることが好ましく、5×1022cm-3以上であることがより好ましい。
【0140】
界面終端領域40の余剰の窒素は電荷トラップとなるおそれがある。したがって、窒素の濃度分布の界面終端領域40のピークの窒素の濃度は、4×1023cm-3以下であることが好ましく、1×1023cm-3以下であることがより好ましい。
【0141】
窒素の濃度分布の界面終端領域40のピークの窒素の濃度は、5.0×1022cm-3±5%であることが好ましい。ピークの窒素の濃度が5.0×1022cm-3±5%の範囲にある場合、MOSFET100が特に電荷トラップの少ない良好な特性を示す。
【0142】
界面終端領域40の窒素の面密度は、1×1014cm-2以上2.5×1015cm-2以下であることが好ましい。界面終端領域40の窒素の面密度は、1.4×1015cm-2±5%であることが好ましい。窒素の面密度が上記範囲にある場合、MOSFET100が特に電荷トラップの少ない良好な特性を示す。
【0143】
MOSFET100のキャリアの移動度の低下を抑制する観点から、界面終端領域40に存在する窒素原子の90%以上が3配位の窒素原子であることが好ましく、99%以上が3配位の窒素原子であることがより好ましい。界面終端領域40に存在する3配位の窒素原子の濃度は、例えば、1×1021cm-3以上である。界面終端領域40に存在する4配位の窒素原子の濃度は、例えば、1×1019cm-3以下である。
【0144】
MOSFET100の閾値電圧の低下を抑制する観点から、4配位の窒素原子の濃度は、1×1018cm-3以下であることが好ましく、1×1017cm-3以下であることがより好ましい。
【0145】
界面終端領域40は、ゲート絶縁層28を形成した後に、炭化珪素層10とゲート絶縁層28との界面に、窒素を供給することにより形成する。界面終端領域40は、炭化珪素層10の表面の最上層の炭素原子を窒素原子で置換することによって形成される。この際、最上層のシリコン原子は、ゲート絶縁層28の中の酸素原子と結合し、ゲート絶縁層28の一部となる。
【0146】
図22は、第1の実施形態の半導体装置の作用及び効果の説明図である。
図22は、第1の表面構造を有する炭化珪素層の表面に、ゲート絶縁層及び界面終端領域を形成した場合の、表面構造の変化を示す図である。
【0147】
図22に示すように、界面終端領域を形成する際に、最上層である第1層の炭素原子は窒素原子に置換される。最上層である第1層のシリコン原子は、ゲート絶縁層の中の酸素原子と結合し、ゲート絶縁層の一部となる。界面終端領域の形成前には、左図に示すように第1層のシリコン原子は、第1のシリコン原子である。一方、界面終端領域の形成後には、右図に示すように第1層のシリコン原子は、第2のシリコン原子である。言い換えれば、界面終端領域の形成後には、炭化珪素層の表面が第1の表面構造から第2の表面構造に変換される。
【0148】
図23は、第1の実施形態の半導体装置の作用及び効果の説明図である。
図23は、第2の表面構造を有する炭化珪素層の表面に、ゲート絶縁層及び界面終端領域を形成した場合の、表面構造の変化を示す図である。
【0149】
図23に示すように、界面終端領域を形成する際に、最上層である第1層の炭素原子は窒素原子に置換される。最上層である第1層のシリコン原子は、ゲート絶縁層の中の酸素原子と結合し、ゲート絶縁層の一部となる。界面終端領域の形成前には、左図に示すように第1層のシリコン原子は、第2のシリコン原子である。一方、界面終端領域の形成後には、右図に示すように第1層のシリコン原子は、第1のシリコン原子である。言い換えれば、界面終端領域の形成後には、炭化珪素層の表面が第2の表面構造から第1の表面構造に変換される。
【0150】
図24は、第1の実施形態の半導体装置の作用及び効果の説明図である。
図24は、第3の表面構造を有する炭化珪素層の表面に、ゲート絶縁層及び界面終端領域を形成した場合の、表面構造の変化を示す図である。
【0151】
図24に示すように、界面終端領域を形成する際に、最上層である第1層の炭素原子は窒素原子に置換される。最上層である第1層のシリコン原子は、ゲート絶縁層の中の酸素原子と結合し、ゲート絶縁層の一部となる。界面終端領域の形成前には、左図に示すように第1層のシリコン原子は、第3のシリコン原子である。一方、界面終端領域の形成後には、右図に示すように第1層のシリコン原子は、第1のシリコン原子である。言い換えれば、界面終端領域の形成後には、炭化珪素層の表面が第3の表面構造から第1の表面構造に変換される。
【0152】
上述のように、MOSFETの特性を向上させる観点から、炭化珪素層の表面は第1の表面構造であることが好ましく、第2の表面構造又は第3の表面構造であることは好ましくない。
【0153】
図22、
図23、
図24で説明したように、界面終端領域の形成後に炭化珪素層の表面を第1の表面構造にするためには、界面終端領域の形成前に炭化珪素層の表面が第2の表面構造又は第3の表面構造としておくことが必要である。
【0154】
図25は、第1の実施形態の半導体装置の作用及び効果の説明図である。
図25は、炭化珪素層の表面構造の存在割合の不純物濃度依存性を示す図である。
図25は、炭化珪素層に含まれるp型不純物又はn形不純物の濃度をパラメータとして、炭化珪素層の表面に安定して存在し得る表面構造の存在割合を計算した結果である。計算は、第1原理計算により行われている。
【0155】
図25に示すように、炭化珪素層に含まれるp型不純物の濃度が高くなると、第1の表面構造及び第2の表面構造の存在割合が高くなる。一方、炭化珪素層に含まれるn型不純物の濃度が高くなると、第3の表面構造の存在割合が高くなる。
【0156】
上述のように、界面終端領域の形成後に炭化珪素層の表面を第1の表面構造にするためには、界面終端領域の形成前に炭化珪素層の表面が第2の表面構造又は第3の表面構造としておくことが必要である。
【0157】
界面終端領域の形成前に炭化珪素層にn形不純物が含まれていれば、第3の表面構造の存在割合を高くすることができる。特に、炭化珪素層に含まれるn形不純物の濃度が2×1017cm-3程度になると、第3の表面構造の存在割合を100%にすることができる。
【0158】
MOSFET100は、nチャネル型のMOSFETである。したがって、MOS構造はp型のpウェル領域16に形成されることになる。このため、界面終端領域40の形成前の炭化珪素層10に含まれる不純物はp型不純物となる。よって、界面終端領域40の形成前に炭化珪素層10にn形不純物を2×1017cm-3程度含ませておくことは困難である。
【0159】
炭化珪素層にn型不純物が含まれている場合に、第3の表面構造の存在割合を高くなるのは、n型不純物から電子が供給されることで、第3の表面構造が安定になるからであると考えられる。
【0160】
そこで、第1の実施形態のMOSFET100の製造方法では、界面終端領域40の形成前に、ステップS108で、第2の熱処理を行う。第2の熱処理は、1100℃以上の水素を含む雰囲気の中で行う。
【0161】
第2の熱処理により、炭化珪素層10の表面の酸化膜がエッチングされる。炭化珪素層10の表面の酸化膜がエッチングされることで、炭化珪素層10の表面に多数のシリコン原子のダングリングボンドが形成される。ダングリングボンドは電子の供給源として機能する。
【0162】
第2の熱処理により、露出した炭化珪素層10の表面に原子のマイグレーションが生じる。ダングリングボンドから電子が供給され得る状態で、原子のマイグレーションが生ずるため、炭化珪素層10の表面に第3の表面構造が安定な構造として形成される。
【0163】
ただし、第2の熱処理を行う際に、炭化珪素層10の中に多数の炭素空孔(carbon vacancy)が存在すると、ダングリングボンドから供給された電子が炭素空孔にトラップされ、炭化珪素層10の表面での第3の表面構造の形成を阻害するおそれがある。
【0164】
そこで、第1の実施形態のMOSFET100の製造方法では、ステップS102で、炭素をpウェル領域16にイオン注入する。pウェル領域16は、ステップS101におけるアルミニウムのイオン注入で形成される。アルミニウムのイオン注入でpウェル領域16には多量の炭素空孔が形成される。
【0165】
アルミニウムのイオン注入で形成された多量の炭素空孔を、炭素をpウェル領域16にイオン注入することで消滅させる。炭素の第2のドーズ量をアルミニウムの第1のドーズ量の10倍以上とすることで、多量の炭素空孔を消滅させる。
【0166】
pウェル領域16の中の、炭素空孔が減少するため、炭素空孔による電子のトラップが起こらない。したがって、炭化珪素層10の表面での第3の表面構造の形成は阻害されない。
【0167】
そして、炭素のイオン注入によりpウェル領域16の中の炭素空孔が減少し、炭素空孔によるキャリアの散乱が抑制される。したがって、MOSFET100のキャリアの移動度が更に向上する。
【0168】
pウェル領域16のp型不純物濃度を適正に保つ観点から、アルミニウムの第1のドーズ量は、1×1014cm-2以下であることが好ましい。pウェル領域16の中の炭素空孔の量を低減する観点から、炭素の第2のドーズ量は1×1015cm-2以上であることが好ましく、1×1016cm-2以上であることがより好ましい。
【0169】
pウェル領域16の中の炭素空孔の量を低減する観点から、炭素の第2のドーズ量は、アルミニウムの第1のドーズ量の100倍以上であることが好ましい。
【0170】
pウェル領域16の中の炭素空孔の量を低減する観点から、炭素のイオン注入の第2のプロジェクテッドレンジRp2は、アルミニウムのイオン注入の第1のプロジェクテッドレンジRp1の80%以上120%以下であることが好ましく、90%以上110%以下であることがより好ましい。
【0171】
第1のプロジェクテッドレンジRp1と第2のプロジェクテッドレンジRp2を近づけることで、イオン注入後の炭素の濃度分布が、イオン注入後のアルミニウムの濃度分布を完全に覆うことが容易となる。イオン注入後の炭素の濃度分布が、イオン注入後のアルミニウムの濃度分布を完全に覆うことで、pウェル領域16の中の炭素空孔の量が低減される。
【0172】
pウェル領域16の深さを適切に保つ観点から、第1のプロジェクテッドレンジRp1、及び第2のプロジェクテッドレンジRp2は、0.6μm以下であることが好ましい。
【0173】
第1の実施形態のMOSFET100の製造方法では、ステップS102で炭化珪素層10に炭素をイオン注入し、ステップ103で水素を含む雰囲気中で1100℃以上の熱処理を行う。これにより、炭化珪素層10の表面がp型であっても、炭化珪素層10の表面の第3の表面構造の存在割合を高くすることが可能となる。
【0174】
また、第1の実施形態のMOSFET100の製造方法では、ゲート絶縁層28を気相成長法により形成する。したがって、炭化珪素層10の表面の酸化が抑制される。よって、炭化珪素層10の表面に形成された第3の表面構造がゲート絶縁層28の形成後も維持される。
【0175】
また、第1の実施形態のMOSFET100の製造方法では、アンモニアガス(NH3)を含む雰囲気の第3の熱処理により界面終端領域40を形成する。アンモニアガスを含む雰囲気で、界面酸化を伴わずに、界面終端領域40を形成する。これにより、第3の表面構造の最上層である第1層のシリコン原子のみ、ゲート絶縁層28の中の酸素原子と結合させる。よって、界面終端領域40の形成後の炭化珪素層10の表面を、制御性良く第1の表面構造に変換することが可能となる。
【0176】
以上、第1の実施形態によれば、特性の向上する半導体装置及び半導体装置の製造方法が実現される。
【0177】
(第2の実施形態)
第2の実施形態のインバータ回路及び駆動装置は、第1の実施形態の半導体装置を備えるインバータ回路及び駆動装置である。
【0178】
図26は、第2の実施形態の駆動装置の模式図である。駆動装置700は、モーター140と、インバータ回路150を備える。
【0179】
インバータ回路150は、第1の実施形態のMOSFET100をスイッチング素子とする3個の半導体モジュール150a、150b、150cで構成される。3個の半導体モジュール150a、150b、150cを並列に接続することで、3個の交流電圧の出力端子U、V、Wを備える三相のインバータ回路150が実現される。インバータ回路150から出力される交流電圧により、モーター140が駆動する。
【0180】
第2の実施形態によれば、特性の向上したMOSFET100を備えることで、インバータ回路150及び駆動装置700の特性が向上する。
【0181】
(第3の実施形態)
第3の実施形態の車両は、第1の実施形態の半導体装置を備える車両である。
【0182】
図27は、第3の実施形態の車両の模式図である。第3の実施形態の車両800は、鉄道車両である。車両800は、モーター140と、インバータ回路150を備える。
【0183】
インバータ回路150は、第1の実施形態のMOSFET100をスイッチング素子とする3個の半導体モジュールで構成される。3個の半導体モジュールを並列に接続することで、3個の交流電圧の出力端子U、V、Wを備える三相のインバータ回路150が実現される。インバータ回路150から出力される交流電圧により、モーター140が駆動する。モーター140により車両800の車輪90が回転する。
【0184】
第3の実施形態によれば、特性の向上したMOSFET100を備えることで、車両800の特性が向上する。
【0185】
(第4の実施形態)
第4の実施形態の車両は、第1の実施形態の半導体装置を備える車両である。
【0186】
図28は、第4の実施形態の車両の模式図である。第4の実施形態の車両900は、自動車である。車両900は、モーター140と、インバータ回路150を備える。
【0187】
インバータ回路150は、第1の実施形態のMOSFET100をスイッチング素子とする3個の半導体モジュールで構成される。3個の半導体モジュールを並列に接続することで、3個の交流電圧の出力端子U、V、Wを備える三相のインバータ回路150が実現される。
【0188】
インバータ回路150から出力される交流電圧により、モーター140が駆動する。モーター140により車両900の車輪90が回転する。
【0189】
第4の実施形態によれば、特性の向上したMOSFET100を備えることで、車両900の特性が向上する。
【0190】
(第5の実施形態)
第5の実施形態の昇降機は、第1の実施形態の半導体装置を備える昇降機である。
【0191】
図29は、第5の実施形態の昇降機(エレベータ)の模式図である。第5の実施形態の昇降機1000は、かご610、カウンターウエイト612、ワイヤロープ614、巻上機616、モーター140と、インバータ回路150を備える。
【0192】
インバータ回路150は、第1の実施形態のMOSFET100をスイッチング素子とする3個の半導体モジュールで構成される。3個の半導体モジュールを並列に接続することで、3個の交流電圧の出力端子U、V、Wを備える三相のインバータ回路150が実現される。
【0193】
インバータ回路150から出力される交流電圧により、モーター140が駆動する。モーター140により巻上機616が回転し、かご610が昇降する。
【0194】
第5の実施形態によれば、特性の向上したMOSFET100を備えることで、昇降機1000の特性が向上する。
【0195】
第1の実施形態では、nチャネル型のMOSFETを例に説明したが、nチャネル型のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)にも本発明を適用することは可能である。
【0196】
また、第3ないし第5の実施形態において、本発明の半導体装置を車両やエレベータに適用する場合を例に説明したが、本発明の半導体装置を例えば、太陽光発電システムのパワーコンディショナーなどに適用することも可能である。
【0197】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。例えば、一実施形態の構成要素を他の実施形態の構成要素と置き換え又は変更してもよい。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0198】
10 炭化珪素層
16 pウェル領域(炭化珪素領域)
28 ゲート絶縁層(酸化シリコン層)
30 ゲート電極
40 界面終端領域(領域)
54 炭素膜
55 酸化シリコン膜
100 MOSFET(半導体装置)
150 インバータ回路
700 駆動装置
800 車両
900 車両
1000 昇降機
P1 第1の面
P2 第2の面
Rp1 第1のプロジェクテッドレンジ
Rp2 第2のプロジェクテッドレンジ
X1 第1の位置
X2 第2の位置