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特許7547288シミュレーション方法、シミュレーション装置、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】シミュレーション方法、シミュレーション装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G16Z 99/00 20190101AFI20240902BHJP
【FI】
G16Z99/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021107625
(22)【出願日】2021-06-29
(65)【公開番号】P2023005604
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】小林 義崇
【審査官】宮地 匡人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-049971(JP,A)
【文献】SHIIHARA Yoshinori,Fast quasi-implicit NOSB peridynamic simulation based on FIRE algorithm,Mechanical Engineering Journal,2019年04月10日,Vol.6 No.3,Paper No.18-00363
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16Z 99/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性を有する解析対象物を仮想的な複数の粒子の集合体として表し、
タイムステップごとに各粒子に作用する力を求め、
各粒子に作用する力に基づいて粒子ごとに運動方程式を解いて、各粒子の速度及び位置を更新するシミュレーション方法であって、
粒子ごとに運動方程式を解く際に、
前記解析対象物を剛体とみなし、タイムステップごとに求めた各粒子に作用する力、各粒子の速度及び位置に基づいて、前記解析対象物に作用する力及び前記解析対象物の速度を計算し、
前記解析対象物の運動に対してFIREを適用して、前記解析対象物に作用させるべき力を計算し、
前記解析対象物に作用させるべき力を複数の粒子に分配することにより、各粒子に追加的に作用させる力を求め、
各粒子に作用する力に、前記追加的に作用させる力を追加して、運動方程式を解くシミュレーション方法。
【請求項2】
前記解析対象物に作用する力として、並進力及びトルクと計算し、前記解析対象物の速度として、並進速度及び角速度を計算し、
前記解析対象物の運動に対してFIREを適用する際に、前記解析対象物の並進運動及び回転運動のそれぞれに対してFIREを適用し、
前記解析対象物に作用させるべき力として、並進力及びトルクを計算する請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項3】
弾性を有する解析対象物の挙動を、分子動力学法を用いてシミュレーションする装置であって、
シミュレーション条件が入力される入力部と、
前記入力部に入力されたシミュレーション条件に基づいて解析を行う処理部と
を備え、
前記処理部は、
前記解析対象物を仮想的な複数の粒子の集合体として表し、
タイムステップごとに各粒子に作用する力を求め、
各粒子に作用する力に基づいて粒子ごとに運動方程式を解いて、各粒子の速度及び位置を更新し、
粒子ごとに運動方程式を解く際に、
前記解析対象物を剛体とみなし、タイムステップごとに求めた各粒子に作用する力、各粒子の速度及び位置に基づいて、前記解析対象物に作用する力及び前記解析対象物の速度を計算し、
前記解析対象物の運動に対してFIREを適用して、前記解析対象物に作用させるべき力を計算し、
前記解析対象物に作用させるべき力を複数の粒子に分配することにより、各粒子に追加的に作用させる力を求め、
各粒子に作用する力に、前記追加的に作用させる力を追加して、運動方程式を解くシミュレーション装置。
【請求項4】
前記処理部は、
前記解析対象物に作用する力として、並進力及びトルクと計算し、前記解析対象物の速度として、並進速度及び角速度を計算し、
前記解析対象物の運動に対してFIREを適用する際に、前記解析対象物の並進運動及び回転運動のそれぞれに対してFIREを適用し、
前記解析対象物に作用させるべき力として、並進力及びトルクを計算する請求項3に記載のシミュレーション装置。
【請求項5】
シミュレーション条件を取得する手順と、
弾性を有する解析対象物を仮想的な複数の粒子の集合体として表す手順と、
タイムステップごとに各粒子に作用する力を求める手順と、
各粒子に作用する力に基づいて粒子ごとに運動方程式を解いて、各粒子の速度及び位置を更新する手順と、
粒子ごとに運動方程式を解く際に、
前記解析対象物を剛体とみなし、タイムステップごとに求めた各粒子に作用する力、各粒子の速度及び位置に基づいて、前記解析対象物に作用する力及び前記解析対象物の速度を計算する手順と、
前記解析対象物の運動に対してFIREを適用して、前記解析対象物に作用させるべき力を計算する手順と、
前記解析対象物に作用させるべき力を複数の粒子に分配することにより、各粒子に追加的に作用させる力を求める手順と、
各粒子に作用する力に、前記追加的に作用させる力を追加して、運動方程式を解く手順と
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーション方法、シミュレーション装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の粒子の運動をシミュレーションする方法として、分子動力学法(MD法)、繰込み群分子動力学法(RMD法)が知られている(特許文献1)。本明細書において、分子動力学法及び繰込み群分子動力学法を、単に「分子動力学法」ということとする。弾性を有する解析対象物を複数の粒子で表した解析モデルを生成し、粒子間に作用する力を定義し、これらの粒子の運動を、分子動力学法を用いて解析することにより、解析対象物の挙動をシミュレーションすることができる。
【0003】
分子動力学法を用いて粒子系の静解析を行う場合、求めるべき物理量の振動を短時間で収束させ、解を高速で得る手法として、FIRE(Fast Inertial Relaxation Engine)が知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-201828号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Erik Bitzek rt. al., "Structural Relaxation Made Simple", Physical Review Letters 97, 170201 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
FIREは、単体の粒子に対して適用されるものであり、弾性を有する解析対象物を表す粒子の集合体に対して適用することはできない。本発明の目的は、弾性を有する解析対象物を複数の粒子の集合体として表し、粒子ごとの運動方程式を解いて解析対象物の挙動をシミュレーションする際に、解を高速で得ることが可能なシミュレーション方法、シミュレーション装置、及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一観点によると、
弾性を有する解析対象物を仮想的な複数の粒子の集合体として表し、
タイムステップごとに各粒子に作用する力を求め、
各粒子に作用する力に基づいて粒子ごとに運動方程式を解いて、各粒子の速度及び位置を更新するシミュレーション方法であって、
粒子ごとに運動方程式を解く際に、
前記解析対象物を剛体とみなし、タイムステップごとに求めた各粒子に作用する力、各粒子の速度及び位置に基づいて、前記解析対象物に作用する力及び前記解析対象物の速度を計算し、
前記解析対象物の運動に対してFIREを適用して、前記解析対象物に作用させるべき力を計算し、
前記解析対象物に作用させるべき力を複数の粒子に分配することにより、各粒子に追加的に作用させる力を求め、
各粒子に作用する力に、前記追加的に作用させる力を追加して、運動方程式を解くシミュレーション方法が提供される。
【0008】
本発明の他の観点によると、
弾性を有する解析対象物の挙動を、分子動力学法を用いてシミュレーションする装置であって、
シミュレーション条件が入力される入力部と、
前記入力部に入力されたシミュレーション条件に基づいて解析を行う処理部と
を備え、
前記処理部は、
前記解析対象物を仮想的な複数の粒子の集合体として表し、
タイムステップごとに各粒子に作用する力を求め、
各粒子に作用する力に基づいて粒子ごとに運動方程式を解いて、各粒子の速度及び位置を更新し、
粒子ごとに運動方程式を解く際に、
前記解析対象物を剛体とみなし、タイムステップごとに求めた各粒子に作用する力、各粒子の速度及び位置に基づいて、前記解析対象物に作用する力及び前記解析対象物の速度を計算し、
前記解析対象物の運動に対してFIREを適用して、前記解析対象物に作用させるべき力を計算し、
前記解析対象物に作用させるべき力を複数の粒子に分配することにより、各粒子に追加的に作用させる力を求め、
各粒子に作用する力に、前記追加的に作用させる力を追加して、運動方程式を解くシミュレーション装置が提供される。
【0009】
本発明のさらに他の観点によると、
シミュレーション条件を取得する手順と、
弾性を有する解析対象物を仮想的な複数の粒子の集合体として表す手順と、
タイムステップごとに各粒子に作用する力を求める手順と、
各粒子に作用する力に基づいて粒子ごとに運動方程式を解いて、各粒子の速度及び位置を更新する手順と、
粒子ごとに運動方程式を解く際に、
前記解析対象物を剛体とみなし、タイムステップごとに求めた各粒子に作用する力、各粒子の速度及び位置に基づいて、前記解析対象物に作用する力及び前記解析対象物の速度を計算する手順と、
前記解析対象物の運動に対してFIREを適用して、前記解析対象物に作用させるべき力を計算する手順と、
前記解析対象物に作用させるべき力を複数の粒子に分配することにより、各粒子に追加的に作用させる力を求める手順と、
各粒子に作用する力に、前記追加的に作用させる力を追加して、運動方程式を解く手順と
をコンピュータに実行させるプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
弾性を有する解析対象物を複数の粒子の集合体として表し、粒子ごとの運動方程式を解いて解析対象物の挙動をシミュレーションする際に、解を高速で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1Aは、弾性を有する解析対象物を複数の粒子の集合体で表した解析モデルを示す模式図であり、図1Bは、剛体とみなした解析対象物に定義される物理量を示す模式図である。
図2図2は、本実施例によるシミュレーション装置のブロック図である。
図3図3は、本実施例によるシミュレーション方法のフローチャートである。
図4図4は、回転体の一方の端面の一部の領域を固定した固定部材に加わるトルクの時間変化を示すグラフである。
図5図5は、回転体を剛体とみなしたときの角速度ωの時間変化を示すグラフである。
図6図6A及び図6Bは、FIREを適用して解析する解析モデルの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[一般的なFIRE]
実施例について説明する前に、図6を参照して、分子動力学法を用いたシミュレーションにおいて解を高速で得る一手法であるFIREについて説明する。
【0013】
図6A及び図6Bは、FIREを適用して解析する解析モデルの模式図である。解析空間に粒子20が配置されている。粒子20の速度をv、粒子20に作用する力をfと標記する。FIREを適用する際には、タイムステップごとに、以下の判定値P(t)を計算する。
【数1】
【0014】
判定値P(t)が負またはゼロのとき、すなわち、図6Aに示すように速度vと力fとのなす角度が90°以上のとき、次状態における粒子20の速度v(t+Δt)を、以下のように決定する。
【数2】
言い換えると、力が粒子20を減速させる方向に作用する場合、その粒子20の次状態の速度をゼロにする。
【0015】
判定値P(t)が正のとき、すなわち、図6Bに示すように速度vと力fとのなす角度が90°未満のとき、粒子20について以下の運動方程式を解くことにより、次状態の速度v(t+Δt)を求める。
【数3】

ここで、mは粒子20の質量であり、γは減衰定数である。ベクトルに付されたハットは、単位ベクトルであることを意味する。式(3)は、粒子20を、力fの方向に、より加速させることを意味する。
【0016】
[参考例によるFIRE]
次に、弾性を有する解析対象物を粒子の集合体で表した解析モデルに適用する参考例によるFIREについて説明する。
【0017】
参考例によるFIREにおいては、判定値P(t)を以下の式で定義する。
【数4】
ここで、fはi番目の粒子に作用する力であり、vは、i番目の粒子の速度である。Nは粒子の個数であり、式(4)の右辺のΣは、解析対象物を構成するすべての粒子について合計することを意味する。
【0018】
判定値P(t)が負またはゼロのとき、次状態におけるi番目の粒子20の速度v(t+Δt)を、以下のように決定する。
【数5】
【0019】
判定値P(t)が正のとき、i番目の粒子20について以下の運動方程式を解くことにより、次状態の速度v(t+Δt)を求める。
【数6】
ここで、mは、i番目の粒子の質量である。
【0020】
上記参考例によるFIREは、以下の課題を有する。
参考例によるFIREにおいては、式(4)に示すように、粒子のそれぞれに作用する力と粒子の速度との内積の合計値を判定値P(t)として用いている。このため、解析対象物の重心速度がゼロであっても、内部振動によって判定値P(t)がゼロではなく、ある値を持つ。解析対象物の温度が高い場合や、解析対象物の速度が収束に近づくと、判定値P(t)が負という条件が度々満たされてしまう。この条件が満たされると、各粒子の速度がゼロになるため、収束が遅くなってしまう。
【0021】
さらに、判定値P(t)が正のとき、式(6)に示すように、各粒子に対して、力の方向に向かって加速する力を追加的に付与した運動方程式を解くことになる。減衰定数γ(t)は、粒子20の各々に設定する必要がある。粒子20の間で、質量や周囲との相互作用が異なるため、減衰定数γの設定が困難であり、計算が破綻する場合がある。
【0022】
[実施例]
次に、図1図5を参照して、一実施例によるシミュレーション方法、シミュレーション装置、及びプログラムについて説明する。
【0023】
図1Aは、弾性を有する解析対象物10を複数の粒子11の集合体で表した解析モデルを示す模式図である。なお、図1Aでは、解析対象物10を構成する粒子11の一部のみを表している。解析空間にxyz直交座標系を定義し、i番目の粒子11の位置ベクトルをrと標記し、i番目の粒子11の速度をvと標記する。
【0024】
実施例においては、弾性を有する解析対象物10を一つの剛体と仮定し、剛体とみなした解析対象物10に対して物理量を定義する。
【0025】
図1Bは、剛体とみなした解析対象物10に定義される物理量を示す模式図である。解析対象物10の重心の位置ベクトルをRと標記する。解析対象物10の重心に作用する並進力をFと標記し、重心を回転中心とした場合のトルクをTと標記する。解析対象物10の重心の並進速度をVと標記し、角速度をωと標記する。例えば、解析対象物が、金属部材のように極わずかの変形しかしないような場合は、解析対象物を剛体とみなして、解析対象物に加わる並進力F、トルクT、並進速度V、及び角速度ωを定義することができる。
【0026】
図2は、本実施例によるシミュレーション装置のブロック図である。本実施例によるシミュレーション装置は、入力部40、処理部41、出力部42、及び記憶部43を含む。入力部40から処理部41にシミュレーション条件等が入力される。さらに、ユーザから入力部40に各種指令(コマンド)等が入力される。入力部40は、例えば通信装置、リムーバブルメディア読取装置、キーボード、ポインティングデバイス等で構成される。
【0027】
処理部41は、入力されたシミュレーション条件及び指令に基づいて分子動力学法によるシミュレーションを実行する。さらに、シミュレーション結果を出力部42に出力する。シミュレーション結果には、例えば、シミュレーション対象物を構成する粒子11(図1A)の位置の時間変化等を表す情報が含まれる。処理部41は、例えばコンピュータの中央処理ユニット(CPU)を含む。分子動力学法によるシミュレーションをコンピュータに実行させるためのプログラムが、記憶部43に記憶されている。出力部42は、通信装置、リムーバブルメディア書込み装置、ディスプレイ等を含む。
【0028】
図3は、本実施例によるシミュレーション方法のフローチャートである。処理部41(図2)が記憶部43(図2)に格納されているプログラムを実行することにより、シミュレーション方法の各ステップの処理が実行される。
【0029】
まず、処理部41は、入力部40から入力されたシミュレーション条件に基づいて、弾性を有する解析対象物10(図1A)を複数の粒子の集合体で表した解析モデルを生成する(ステップS1)。シミュレーション条件には、解析対象物10の形状、解析対象物10の物性値に依存する情報、シミュレーションの初期条件及び境界条件、時間刻み幅、解析終了条件等が含まれる。解析対象物10の物性値に依存する情報には、解析モデルにおける粒子間相互作用ポテンシャルを定義する情報が含まれる。
【0030】
次に、粒子11(図1A)ごとに運動方程式を解いて、粒子11のそれぞれの速度及び位置を1タイムステップ分更新する。
【0031】
次に、解析対象物10(図1B)を剛体とみなして、粒子11の位置及び速度に基づいて、解析対象物10に作用する力、及び解析対象物10の速度を計算する(ステップS3)。解析対象物10の速度には、重心の並進速度と、重心を中心とした角速度とが含まれる。
【0032】
解析対象物10に作用する並進力Fは、以下の式で計算する。
【数7】
すなわち、解析対象物10に作用する並進力Fは、粒子11のそれぞれに作用する力fのベクトル和である。
【0033】
解析対象物10の並進速度Vは、以下の式で計算する。
【数8】
ここで、Mは、解析対象物10を構成するすべての粒子11の質量の和である。解析対象物10の並進速度Vは、解析対象物10を構成する粒子11の速度vを、粒子11の質量mで重みづけして平均した値である。
【0034】
解析対象物10に作用するトルクT=(T,T,T)は、以下の式で計算する。
【数9】
ここで、T,T,Tは、それぞれ解析対象物10に作用するトルクTのx成分、y成分、及びz成分である。x、y、zは、それぞれ解析対象物10の重心を原点としたときのi番目の粒子11のx座標、y座標、及びz座標である。fi,x、fi,y、fi,zは、それぞれi番目の粒子11に作用する力fのx成分、y成分、及びz成分である。
【0035】
解析対象物10の角速度ω=(ω,ω,ω)は、以下の式で計算する。
【数10】
ここで、ω、ω、ωは、それぞれ角速度ωのx成分、y成分、z成分である。vi,x、vi,y、vi,zは、それぞれi番目の粒子11の速度のx成分、y成分、及びz成分である。
【0036】
、I、Iは、それぞれx軸、y軸、z軸の周りの慣性モーメントであり、以下の式で定義される。
【数11】
【0037】
ステップS3(図3)の後、処理部41(図2)は、剛体とみなした解析対象物10の運動を規定する物理量の振動を緩和させるように、解析対象物10の運動に対してFIREを適用する。これにより、剛体とみなした解析対象物10に作用させるべき力を計算する。より具体的には、解析対象物10に作用させるべき並進力とトルクとを計算する(ステップS4)。
【0038】
以下、ステップS4の処理について詳細に説明する。
解析対象物10の運動を、並進運動と回転運動とに分離し、それぞれに対してFIREを適用する。まず、並進運動に対して適用するFIREについて説明する。
【0039】
並進運動に対して適用するFIREの判定値P(t)を、以下のように定義する。
【数12】
これは、個別の粒子に適用するFIREの判定値(式(1))における粒子に作用する力fを解析対象物10に作用する並進力Fに置き換え、粒子の速度vを解析対象物10の並進速度Vに置き換えたものである。
【0040】
解析対象物10の並進運動にFIREを適用する場合には、判定値P(t)がゼロ、または負のとき、次状態における解析対象物10の並進速度V(t+Δt)を、以下のように決定するとよい。
【数13】
式(13)は、粒子の速度vをゼロにする式(2)に対応する。
【0041】
判定値P(t)が正のとき、解析対象物10について以下の運動方程式を解くことにより、次状態の並進速度V(t+Δt)を求めるとよい。
【数14】
式(14)は、粒子に対する運動方程式(式(3))に対応する。ここで、αは減衰定数である。
【0042】
回転運動に対して適用するFIREの判定値P(t)を、以下のように定義する。
【数15】
式(15)は、並進運動に対する式(12)の並進力F及び並進速度Vを、それぞれトルクT及び角速度ωに置き換えたものである。
【0043】
解析対象物10の回転運動にFIREを適用する場合には、判定値P(t)がゼロ、または負のとき、次状態における解析対象物10の角速度ω(t+Δt)を、以下のように決定するとよい。
【数16】
式(16)は、解析対象物10の並進速度Vをゼロにする式(13)に対応する。
【0044】
判定値P(t)が正のとき、解析対象物10について以下の運動方程式を解くことにより、次状態の角速度ω(t+Δt)を求めるとよい。
【数17】
式(17)は、並進運動に対する運動方程式(式(14))に対応する。ここで、βは減衰定数である。Iは、解析対象物10の慣性モーメントであり、式(11)で定義される。ここで、T(t)/Iは、ベクトル(Tx/Ix、Ty/Iy,Tz/Iz)を意味する。
【0045】
式(14)から、FIREによって解析対象物10に追加的に作用させるべき並進力Faddは、以下の式で記述される。
【数18】
【0046】
式(17)から、FIREによって解析対象物10に追加的に作用させるべきトルクTaddのx成分は、以下の式で記述される。トルクTaddのy成分及びz成分についても同様である。
【数19】
【0047】
ステップS4の後、処理部41は、解析対象物10に追加的に作用させる並進力Fadd及びトルクTaddを、各粒子11に分配し、各粒子11に追加的に作用させる力を計算する(ステップS5)。
【0048】
追加的に作用させる並進力Faddは、以下の式に基づいて、各粒子11に分配する。
【数20】
【0049】
追加的に作用させるトルクTaddを、各粒子11に分配したときのi番目の粒子11に作用させるべき力のx成分ti,x、y成分ti,y、z成分ti,zは、以下の式で記述される。
【0050】
【数21】
【0051】
解析対象物10の並進運動に対する判定値P(t)がゼロまたは負のとき、粒子11の各々の速度vから現時点の解析対象物10の並進速度Vを減じることにより、式(8)で定義される並進速度Vをゼロにする。回転運動に対する判定値P(t)がゼロまたは負のとき、粒子11の各々の速度vから、解析対象物10の回転速度に相当する粒子11の各々の速度rωを減じることにより、式(10)のω、ω、及びωをゼロにする。
【0052】
ステップS2からステップS5までの手順を、解析終了条件が満たされるまで繰り返す(ステップS6)。ステップS2で運動方程式を解くときには、ステップS5で求めた追加的に作用させる力を、粒子11のそれぞれに追加する。
【0053】
次に、上記実施例の優れた効果について説明する。
上記実施例では、ステップS4(図3)において、剛体とみなした解析対象物10の運動に対してFIREを適用するため、解析対象物10全体としてつり合い状態に達するまでの計算時間を短縮することができる。
【0054】
上記実施例の優れた効果を確認するために、上記実施例によるシミュレーション方法を用いて円柱状の回転体の静解析を行った。次に、図4及び図5を参照して、このシミュレーション結果について説明する。シミュレーションにおいて、回転体の一方の端面の一部の領域を固定部材に取り付けて固定し、回転体の外周面に一定のトルクを印加した。
【0055】
図4は、回転体の一方の端面の一部の領域を固定した固定部材に加わるトルクの時間変化を示すグラフである。横軸は、解析開始から一定時間経過したときからの経過時間を表し、縦軸は、印加したトルクで規格化したトルクを表す。図4の太い実線は、上記実施例によるシミュレーション方法を用いて求めたトルクを示し、細い実線は、式(4)~式(6)を用いた参考例によるシミュレーション方法を用いて求めたトルクを示し、破線は、FIREを適用しないでシミュレーションして求めたトルクを示す。つり合い状態では、固定部材に加わるトルクは、印加したトルクに等しくなる。すなわち、規格化したトルクが1になる。
【0056】
FIREを適用しない場合は、トルクの計算値が、つり合いの値を中心として振動する。参考例によるトルクの計算値は、オーバシュートした後、緩やかにつり合いの値に近づく。これに対して上記実施例によるトルクの計算値は、ほぼつり合いの値でトルクの計算値の上昇が緩やかになり、短時間でほぼつり合いの状態に達する。
【0057】
図5は、回転体を剛体とみなしたときの角速度ωの時間変化を示すグラフである。横軸は、解析開始から一定時間経過したときからの経過時間を表し、縦軸は、最大値を1として規格化した角速度を表す。図4の太い実線は、上記実施例によるシミュレーション方法を用いて求めた角速度を示し、細い実線は、式(4)~式(6)を用いた参考例によるシミュレーション方法を用いて求めた角速度を示し、破線は、FIREを適用しないでシミュレーションして求めた角速度を示す。つり合い状態では、角速度がゼロになる。
【0058】
FIREを適用しない場合は、角速度の計算値がゼロを中心として振動する。参考例による角速度の計算値は、最大になった後に低下し、つり合い状態の直前で不連続にゼロになっている。角速度の計算値が不連続にゼロになる時点は、式(4)の判定値P(t)がゼロまたは負になったことを示している。これに対して上記実施例による角速度の計算値は、角速度の計算値がほぼ最大値になった直後に、角速度の計算値が不連続にゼロになっている。角速度の計算値が不連続にゼロになる時点は、式(12)の判定値P(t)または式(15)の判定値P(t)がゼロまたは負になったことを示している。なお、本シミュレーションにおいては、判定値P(t)がゼロまたは負になっている。
【0059】
図4及び図5に示したように、上記実施例によるシミュレーション方法を用いることにより、FIREを適用しない場合、及び参考例によるシミュレーション方法を用いた場合と比べて、つり合い状態に到達するまでの時間が短縮されていることがわかる。
【0060】
次に、上記実施例の変形例について説明する。
上記実施例では、ステップS3(図3)において、剛体とみなした解析対象物10の速度として、並進速度と角速度とを求めたが、並進速度及び角速度の一方のみを求め、解析対象物10の並進運動及び回転運動の一方のみに対してFIREを適用してもよい。
【0061】
上述の実施例は例示であり、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0062】
10 解析対象物
11、20 粒子
40 入力部
41 処理部
42 出力部
43 記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6