(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】含油排水の水処理方法および含油排水の水処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/56 20230101AFI20240902BHJP
C02F 3/12 20230101ALI20240902BHJP
【FI】
C02F1/56 F
C02F3/12 V
(21)【出願番号】P 2021139655
(22)【出願日】2021-08-30
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】矢出 乃大
(72)【発明者】
【氏名】北澤 卓也
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-018488(JP,A)
【文献】特開2011-083745(JP,A)
【文献】特開2017-176999(JP,A)
【文献】特開2019-037956(JP,A)
【文献】特開2016-052619(JP,A)
【文献】特開2016-047490(JP,A)
【文献】特開平09-038681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/52- 1/56
C02F 3/12
C02F 3/28- 3/34
C02F 11/00-11/20
B01D 21/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油分を含む含油排水から凝集フロックを形成させる凝集工程と、
凝集フロックを含む凝集水を固形物と分離液とに固液分離する固液分離工程と、
前記分離液を生物処理して処理水と分離汚泥を得る生物処理工程と、
前記生物処理工程で得られた前記分離汚泥の少なくとも一部に高分子凝集剤を添加し、得られた凝集汚泥を前記凝集工程に返送する高分子凝集剤添加・凝集汚泥返送工程と、を有し、
前記凝集工程における前記凝集フロックの形成が、前記返送された前記凝集汚泥の前記含油排水への混合によりなされることを特徴とする含油排水の水処理方法。
【請求項2】
前記凝集工程より前に、前記含油排水に油分除去剤を添加する油分除去剤添加工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の含油排水の水処理方法。
【請求項3】
前記高分子凝集剤添加・凝集汚泥返送工程において、前記分離汚泥に対する高分子凝集剤の添加率が0.05wt/wt%対SS以上5.0wt/wt%対SS以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の含油排水の水処理方法。
【請求項4】
油分を含む含油排水から凝集フロックを形成させる凝集手段と、
前記凝集フロックを含む凝集水を固形物と分離液とに固液分離する固液分離手段と、
前記分離液を生物処理して処理水と分離汚泥を得る生物処理手段と、
前記生物処理手段で得られた分離汚泥の少なくとも一部に高分子凝集剤を添加して凝集汚泥を得る高分子凝集剤添加手段と、
前記凝集手段に前記凝集汚泥を返送する返送手段と、を有し、
前記凝集手段における前記凝集フロックの形成が、前記返送手段から返送された前記凝集汚泥の前記含油排水への混合によりなされることを特徴とする含油排水の水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含油排水の水処理方法および含油排水の水処理装置に関し、特に、含油排水から適切に油分を除去した後に生物処理を行う、含油排水の水処理方法および含油排水の水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微生物を利用した生物処理が排水処理に用いられているが、油分を含有する排水(以下、含油排水ともいう)は微生物による分解に多くの時間を要する上、微生物の表面を油分が覆うと微生物の呼吸や発酵が阻害され、微生物の活性が失われて、生物処理が困難になったり、生物処理後の固液分離で油分を含む汚泥が浮上したりと、問題となっていた。
【0003】
例えば、固液分離の改善のために生物処理において膜分離式活性汚泥法(MBR法)を採用する場合、分離膜面に油分が付着する事で、膜分離が困難になるという問題がある。従って、生物処理を利用する場合には、事前に適切な油分の除去が必要である。
【0004】
含油排水から油分を除去する方法としては、オイルトラップ、凝集沈殿処理、加圧浮上処理などが挙げられる。例えば、凝集沈殿処理は、無機凝集剤や高分子凝集剤で排水の油分やSS(懸濁物質または浮遊物質)を凝集フロックにして、固液分離(重力分離)により油分やSSを取り込んだ凝集フロックを除去した分離水を得る方法である。
【0005】
しかし、無機凝集剤や高分子凝集剤の添加によっても油分やSSの小さな粒子が凝集せず、または得られた凝集フロックが小さいか、もしくは脆いために固液分離の際に油分やSSの一部が液部である分離水に残存することが懸念された。
【0006】
特許文献1は、本願出願人の発明であって、この固液分離の際に油分やSSの一部が液部に残存する問題に対処する発明を開示する。
図6は、従来の、生物処理の前に凝集処理を行う含油排水からの排水処理のフローシートである。
図6は凝集工程と、機械的固液分離工程と、生物処理工程で構成される。
【0007】
具体的には、
図6に示すように、特許文献1では、油分、SSを含む被処理水200に高分子凝集剤201を添加し、凝集処理を行った後、機械的に固液分離した後の分離液202を生物処理する。生物処理で発生し、分離された分離汚泥の一部を凝集工程または凝集工程の前に返送し、被処理水と混合して、凝集工程で凝集されて、凝集フロックが形成される。
【0008】
凝集フロックは、機械的固液分離工程で油脂含有汚泥203と、分離液202に固液分離される。油脂含有汚泥203は脱水処理されたり、そのまま外部搬出されたりする。分離液202には被処理水200由来の油分や有機物が残留するので、生物処理で油分や有機物が分解除去される。
【0009】
特許文献1の発明によれば、凝集工程において、返送された分離汚泥に含まれるフロックが核となって凝集フロックが成長するので、従来の凝集沈殿処理と比較し、より大きく強固なフロックが得られ、固液分離後の分離液202中の油分やSSの残存量を減少させることができる。
【0010】
特許文献2は、廃水を活性汚泥返送ラインを有する生物処理工程とその後段の固液分離工程からなる活性汚泥処理システムとで生物処理する方法において、活性汚泥処理システムにおける活性汚泥混合液をスクリーンなどの多孔透水体に透過させることで、し尿系汚水などに含まれるトイレットペーパなどに起因する粗大な不活性SSを選択的に除去する発明を開示しており、第5図および請求項5は、余剰汚泥に有機高分子凝集剤を添加して凝集処理を行い活性フロックを増強したのち、多孔性透水体で分離することを開示する。
【0011】
このように、余剰汚泥に有機高分子凝集剤を添加して凝集処理を行い活性フロックを増強したのち、多孔性透水体で分離することで汚泥が充分濃縮され、従来のような大容量の濃縮工程を設けなくとも余剰汚泥を直接機械脱水機により容易に脱水することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許第6797089号公報
【文献】特開昭59-6984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、特許文献1によれば、固液分離後の分離液中の油分やSSの残存量を減少させることができるものの、含油排水の処理の現場からはさらなる油分除去効率の向上が求められていた。特に、高濃度の油分を含む排水を処理する場合に、そのニーズは大きい。
【0014】
特許文献2によれば、余剰汚泥に有機高分子凝集剤が添加されているが、その目的は余剰汚泥を効率良く濃縮・脱水し、系内から除去することであり、固液分離後の分離液中の油分やSSの残存量を減少させる目的や、生物処理の上流(具体的には、凝集処理)へと送られる汚泥に対して有機高分子凝集剤を添加することは何ら開示されていない。
【0015】
上記課題を鑑みてなされた本願発明の目的は、従来よりも含油排水から油分を効率良く除去し得る含油排水の水処理方法および水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記目的の達成に向け、鋭意検討したところ、油分およびSSの小さい粒子を含む被処理水に高分子凝集剤を添加して凝集フロックを形成・成長させるよりも、すでに一定の大きさの粒子を有する分離汚泥に高分子凝集剤を添加して得られた高分子凝集剤と分離汚泥の複合体に油分およびSSの小さい粒子を付着・吸着させた方が、凝集フロックへの油分およびSSの取り込み効率が高く、したがって固液分離後の分離液中の油分の残存量が少なくなることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0017】
すなわち、上記目的は、油分を含む含油排水から凝集フロックを形成させる凝集工程と、凝集フロックを含む凝集水を固形物と分離液とに固液分離する固液分離工程と、前記分離液を生物処理して処理水と分離汚泥を得る生物処理工程と、前記生物処理工程で得られた前記分離汚泥の少なくとも一部に高分子凝集剤を添加し、得られた凝集汚泥を前記凝集工程に返送する高分子凝集剤添加・凝集汚泥返送工程と、を有し、前記凝集工程における前記凝集フロックの形成が、前記返送された前記凝集汚泥の前記含油排水への混合によりなされることを特徴とする含油排水の水処理方法により達成されることが見いだされた。
【0018】
本発明に係る含油排水の水処理方法の好ましい態様は以下の通りである。
(1)凝集工程より前に、含油排水に油分除去剤を添加する油分除去剤添加工程を含む。これにより、含油排水中の油分が油分除去剤に吸着ないし付着し、含油排水中の油分およびSSをより効率良く取り除くことができる。
(2)高分子凝集剤添加・凝集汚泥返送工程において、前記分離汚泥に対する高分子凝集剤の添加率が0.05wt/wt%対SS以上5.0wt/wt%対SS以下である。
【0019】
また、上記目的は、油分を含む含油排水から凝集フロックを形成させる凝集手段と、前記凝集フロックを含む凝集水を固形物と分離液とに固液分離する固液分離手段と、前記分離液を生物処理して処理水と分離汚泥を得る生物処理手段と、前記生物処理手段で得られた分離汚泥の少なくとも一部に高分子凝集剤を添加して凝集汚泥を得る高分子凝集剤添加手段と、前記凝集手段に前記凝集汚泥を返送する返送手段と、を有し、前記凝集手段における前記凝集フロックの形成が、前記返送手段から返送された前記凝集汚泥の前記含油排水への混合によりなされることを特徴とする含油排水の水処理装置によっても達成することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、油分を含む含油排水からの凝集フロックの形成が、生物処理後に得られた分離汚泥の少なくとも一部に高分子凝集剤を添加して形成された凝集汚泥の含油排水への混合によりなされることから、含油排水に直接高分子凝集剤を添加する場合と比較して凝集フロックへの含油排水中の油分およびSSの取り込み効率が向上し、したがって、固液分離により得られる分離液中の油分およびSSの濃度を大きく低下させることができる。これにより、従来より高濃度の油分およびSSを含む含油排水の処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の含油排水の水処理方法を説明するためのフローチャートである。
【
図2】本発明の含油排水の水処理方法による処理フローの一例を示す模式図である。
【
図3】被処理水の油分とSSの濃度比と、凝集工程における凝集槽内の油分とSSの濃度比と、を示す模式図である。
【
図4】本発明の含油排水の水処理方法による処理フローの他の例を示す模式図である。
【
図5】本発明の含油排水の水処理装置の一例を示すブロック図である。
【
図6】従来の、生物処理の前に凝集沈殿処理を行う含油排水からの排水処理のフローシートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<含油排水の水処理方法>
図1は、本発明の含油排水の水処理方法を説明するためのフローチャートである。本発明は、
図1に示すように、油分を含む含油排水から凝集フロックを形成させる凝集工程(S110)と、凝集フロックを含む凝集水を固形物と分離液とに固液分離する固液分離工程(S120)と、分離液を生物処理して処理水と分離汚泥を得る生物処理工程(S130)と、生物処理工程で得られた前記分離汚泥の少なくとも一部に高分子凝集剤を添加し、得られた凝集汚泥を前記凝集工程に返送する高分子凝集剤添加・凝集汚泥返送工程(S140)と、を有する含油排水の水処理方法である。
【0023】
図1の油分除去剤添加工程(S100)については、任意工程であり、後述する。
【0024】
そして、本発明は、凝集工程(S110)における凝集フロックの形成が、返送された凝集汚泥の含油排水への混合によりなされることを特徴とする。以下により具体的に説明する。
【0025】
(被処理水(含油排水))
本発明において、処理の対象となる被処理水は、油分と、SSと、溶解性有機物、不溶解性有機物を含む含油排水であって、主に動植物油を扱う食品加工工場、食品製造工場、飲料生産工場、など各種事業所で発生する排水や下水、し尿、レストラン等の厨房排水を挙げることができる。
【0026】
油分とは常温で液体の油のみならず、常温で固体の脂肪、即ち、油脂類全般を示し、本発明ではこれら油脂類全般を油分とする。被処理水に含まれる油分としては、例えば、植物油、動物油、鉱物油などや、それらが界面活性剤等で乳化状態の油分があり、これら油分は1種又は2種以上が含有される。一般的に、排水中の油分の濃度は、工場排水試験方法JIS K0102:2019に従い、ヘキサン抽出物質として測定される。油分の濃度はヘキサン抽出物質濃度とする。本発明では、ヘキサン抽出物質として測定されるものすべてを油分とする。なお、本発明でいう含油排水の油分含有量の下限値は、ヘキサン抽出物質濃度として30mg/Lである。より高効率で油分を除去し得る本発明が要求される現場のニーズの観点からは、含油排水の油分含有量の下限値は、好ましくは100mg/Lであり、特に好ましくは300mg/Lである。
【0027】
有機物は、上記油分と、上記油分以外の有機物(溶解性有機物、不溶解性有機物)を全て含む概念で、生物処理対象のものである。有機性排水には、油分のみを含む場合と、油分に加え、油分以外の有機物も含む場合がある。有機物としては、炭水化物、タンパク質、脂質、核酸、植物油、動物油、鉱物油、アルコール類、脂肪酸、界面活性剤、塗料など1種以上の有機物を挙げることができる。また、有機物は、動植物由来の物質でも化学的に合成された物質でもよい。
【0028】
本発明の被処理水の油分とSSの濃度比(油分/SS)を限定するものではないが、被処理水の油分とSSの濃度比(油分/SS)は100以下が好適で、被処理水の油分とSSの濃度比(油分/SS)は10以下がより好適である。
【0029】
被処理水の油分とSSの濃度比(油分/SS)が100以下では、被処理水が流入する凝集工程(S110)(
図1、
図2参照)に高分子凝集剤7と混合された後述の凝集汚泥8を返送することで、凝集フロックに被処理水の油分が取り込めて、固液分離工程(S120)(
図1、
図2参照)で安定した固液分離ができる。さらに、被処理水の油分とSSの濃度比(油分/SS)が10以下では、被処理水のSSに対する油分濃度が低いので、より一層、安定した油分除去性能が発揮できる。
【0030】
(高分子凝集剤)
高分子凝集剤としては、カチオン性高分子凝集剤あるいは両性高分子凝集剤を使用することができ、市販品であっても、市販のモノマー、オリゴマーからの重合により得た合成品であってもよく、特に限定は無い。
【0031】
カチオン性高分子凝集剤はカチオン性モノマーを必須成分として有するものであり、カチオン性モノマーの単独重合体又は共重合体、カチオン性モノマーとノニオン性モノマーとの共重合体、カチオン性モノマーとアニオン性モノマーとの共重合体などから1種以上を選択して使用することができる。カチオン性モノマーとしては、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレートもしくはこれらの中和塩、4級塩などが挙げられる。
【0032】
また、両性高分子凝集剤は、カチオン性モノマー、アニオン性モノマー及びノニオン性モノマーを共重合し、分子内にカチオン単位、アニオン単位及びノニオン単位を有するものである。また、カチオン性高分子凝集剤や両性高分子凝集剤の態様は、粉末状、液状(ディスパージョン状、エマルジョン状)などが挙げられる。
【0033】
カチオン性高分子凝集剤や両性高分子凝集剤の分子量、粘度、カチオン度には特に限定されず、一般に汚泥処理等で使用されるカチオン性高分子凝集剤や両性高分子凝集剤が使用できる。
【0034】
カチオン性高分子凝集剤や両性高分子凝集剤は、水道水、工業用水、地下水、各種排水処理の処理水など溶解されて、それぞれの高分子凝集剤溶解液を調製して、凝集工程に使用する。
【0035】
(油分除去剤)
油分除去剤は、被処理水に添加、分散させて油分を吸着させたり、付着させたりする機能を有するもので、実用的には粉末活性炭などの無機粉末品、木綿などの天然の短繊維物、化学合成された短繊維物や再生短繊維物がある。プラスチック廃棄物から再生製糸した短繊維物やビスコースレーヨンからなる短繊維物が好適である。ビスコースレーヨンからなる短繊維物である繊維状助剤(例えばエバグロースU-700シリーズ、水ing(株)製)はその繊維長さが5~10mmで含水率が30~80wt/wt%である。
【0036】
以下、
図1および
図2に基づき、本発明の含油排水の水処理方法を説明する。
図2は、本発明の含油排水の水処理方法による処理フローの一例を示す模式図である。
【0037】
[凝集工程(S110)]
本工程では、油分を含む含油排水1から凝集フロックを形成させる。この凝集フロックの形成は、後述する、返送された凝集汚泥8の含油排水1への混合によりなされる。これにより、含油排水1中の油分やSSの凝集汚泥8への取り込み効率が向上し、従来より凝集フロックを効率よく形成することができる。
【0038】
凝集工程は、被処理水(含油排水1)および凝集汚泥8が流入する凝集槽において実施されることが好ましく、凝集槽の汚泥濃度は、SSを指標値とする場合には、SS濃度は100mg/L以上10,000mg/L以下が好ましく、500mg/L以上2,000mg/L以下であることが特に好ましい(以上、凝集工程(S110))。
【0039】
[固液分離工程(S120)]
本工程では、凝集フロックを含む凝集水2を固形物4(油脂含有汚泥)と分離液3とに固液分離する。
【0040】
本発明では、固液分離には以下の2つの手法を適用可能である。
(1)加圧浮上による固液分離
(2)スクリーンや円板による機械的固液分離
水よりも比重が小さく、疎水性の物質に付着しやすい油分の特性を考慮すると、固液分離装置としては、凝集処理した後の加圧浮上処理装置と、凝集処理した後のスクリーン等による機械的固液分離装置と、から選択される固液分離装置を用いることが好ましい。
【0041】
固液分離のためには凝集で固液分離可能な強固な凝集フロックを生成することが必要であるが、被処理水の油分とSSの濃度比(油分/SS)が3.0以上と大きいと、凝集フロックの油分含有量が多いために凝集フロックの強度が弱くなったりするが、それでも凝集フロックが維持できる固液分離方法である加圧浮上処理が好適である。
【0042】
一方、被処理水の油分とSSの濃度比(油分/SS)が3.0未満では凝集フロックの強度が得られ、凝集フロックがスクリーンや、回転する複数の円板上において機械的固液分離で分離できるので、機械的固液分離装置が好適である。
【0043】
また、本発明では、高分子凝集剤7が添加され、形成された凝集汚泥8を凝集工程(S110)に返送することによって、凝集工程(S110)での油分とSSの濃度比(油分/SS)が3.0未満とすることが、凝集汚泥8を添加しない場合よりも、より高強度な凝集フロックが得られ、加圧浮上処理装置や機械的固液分離装置が適用でき、安定した固液分離ができる観点から好ましい。
図3は、被処理水の油分とSSの濃度比と、凝集工程における凝集槽内の油分とSSの濃度比を示す模式図である。図示のように、例えば、被処理水の油分/SSの濃度比が4.0と大きい場合でも、凝集工程(S110)に凝集汚泥8を返送することで凝集槽内の油分/SSの濃度比を1.0と小さくすることができ、これにより凝集フロックの強度が向上し、安定した固液分離が可能となる。
【0044】
固液分離装置は特に限定されず、加圧浮上装置のような凝集浮上分離装置でも使用可能であるが、市販の装置で、傾斜型スクリーン、ドラムスクリーン、ウエッジワイヤースクリーン、バースクリーン、振動スクリーン、ベルト濃縮機、楕円板型濃縮機、多重円板型脱水機、多重板型スクリュープレス脱水機などが好ましく使用できる。
【0045】
上記いずれの固液分離装置を用いた場合も、被処理水の油分やSSを分離汚泥6に高分子凝集剤を添加して形成された凝集汚泥8で凝集することが必須である。
【0046】
また、上記いずれの固液分離装置を用いた場合も、固液分離後の分離液3には被処理水由来の油分や有機物が残留するので、生物処理工程に送られ、生物処理で油分や有機物が分解除去される。また、固液分離装置で分離された固形物4(油脂含有汚泥)は産業廃棄物として外部搬出されたり、脱水して産業廃棄物処分されたりする(以上、固液分離工程(S120))。
【0047】
[生物処理工程(S130)]
本工程では、分離液3を生物処理して処理水5と分離汚泥6を得る。生物処理工程は、好気性微生物で分離液3中の油分や有機物を分解除去する生物処理操作と、その生物処理操作の後段の、微生物を含む活性汚泥混合液から分離汚泥6と処理水5に固液分離する固液分離操作と、を含む。
【0048】
生物処理操作は好気的生物処理であり、標準活性汚泥処理や微生物が付着した担体を浮遊させる担体流動処理方式や膜分離活性汚泥処理(MBR法)などが挙げられる。
【0049】
生物処理操作の後段の固液分離操作は、重力式沈殿処理や加圧浮上処理や膜分離処理によって微生物を含む活性汚泥混合液から分離汚泥6と処理水5に固液分離する。分離汚泥6は、生物処理工程の沈殿槽や分離膜装置を有する生物処理槽の外に引き抜かれる。そして、生物処理操作における活性汚泥濃度を維持するために生物処理工程に返送される返送汚泥(図示せず)と、余りの分離汚泥と、に分けられ、本発明においては、後述するように、分離汚泥の一部に高分子凝集剤が添加されて凝集工程に返送される凝集汚泥8となる。残りの分離汚泥は、脱水等の汚泥処理が施され、脱水ケーキは焼却や外部搬出される。処理水5は、水質に応じてそのまま放流され、あるいは必要に応じて凝集沈殿処理等の高度処理が施される(以上、生物処理工程(S130))。
【0050】
[高分子凝集剤添加・凝集汚泥返送工程(S140)]
本工程では、生物処理工程(S130)で得られた分離汚泥6の少なくとも一部に高分子凝集剤7を添加し、得られた凝集汚泥8を凝集工程(S110)に返送する。
【0051】
高分子凝集剤7の添加場所は、分離汚泥の一部を凝集工程(S110)に返送する返送ポンプの吸込部や吐出部や返送配管の途中に設けたラインミキサーや混合槽に添加しても良い。返送配管の途中に設けた混合槽の撹拌は、機械撹拌でも余剰汚泥による水流による撹拌でもよい。
【0052】
返送配管の途中に設けた混合槽での分離汚泥の滞留時間は撹拌方法や撹拌強度、返送流量やその濃度で変化するが、例えば0.2~3分間とすることができる。滞留時間が0.2分以上であれば高分子凝集剤7と分離汚泥の混合が十分となる。一方、滞留時間が3分間以下であれば、返送配管の途中に設けた混合槽内に汚泥の凝集物が堆積する可能性や凝集性が低下する可能性を低く抑えることができる。
【0053】
分離汚泥6に添加する高分子凝集剤7は上述のとおりカチオン性でも両性でも良く、凝集工程(S110)のSSの主体は活性汚泥であるので、任意のカチオン度や分子量の高分子凝集剤7が使用できる。
【0054】
従来のように、被処理水に高分子凝集剤を添加する場合は、高分子凝集剤注入率は被処理水量に対する高分子凝集剤の重量(mg/L)により算出されたが、本発明のように、高分子凝集剤7を分離汚泥6に添加する場合には、高分子凝集剤添加率としては汚泥処理の脱水等で使用されている「wt/wt%対SS」を指標とするのが好適である。
【0055】
なお、汚泥濃度の指標はSS(懸濁物質)やTS(Total solids:全蒸発残留物)がある。したがって、汚泥濃度の指標としてはSSだけではなく、TSを用いてもよい。下水のような溶解塩類濃度(食塩などの溶解塩類濃度)が低い汚泥ではSSとTSの測定値は同じであるが、溶解塩類濃度が高いし尿処理などでは汚泥のSSとTSの数値が異なる場合、汚泥濃度はSSを採用することが好ましい。
【0056】
なお、本発明において、SSおよびTSは以下の定義に従う。
SS:K 0102:2019 工場排水試験方法 14.1 懸濁物質
TS:K 0102:2019 工場排水試験方法 14.2 全蒸発残留物
汚泥濃度の指標としてSSを採用する場合、本工程において、高分子凝集剤7を分離汚泥6に対して0.05wt/wt%対SS以上5.0wt/wt%対SS以下の濃度で添加することが好ましく、0.1wt/wt対SS%以上4.0wt/wt%対SS以下の濃度で添加することがさらに好ましい。
【0057】
沈殿槽や分離膜装置を有する生物処理槽から引き抜かれる分離汚泥6は、生物処理工程に返送される返送汚泥(図示せず)と、脱水等汚泥処理される分離汚泥とで、それぞれ専用の引き抜きポンプと専用の返送配管を設けるが、分離汚泥の一部に高分子凝集剤7が添加されて凝集工程に返送される凝集汚泥8も、専用の引き抜きポンプと専用の返送配管を設けることが好ましい。分離汚泥についてこのように2系列の移送系が存在することで、1系列を脱水等の汚泥処理への送泥用に、もう1系列を凝集工程に返送する返送用に運用でき、安定した汚泥量の移送や返送が可能となる。しかし、
図2に示すように、分離汚泥用の1系列の移送ラインを分岐させ、一方を汚泥処理に移送し、他方(分離汚泥の一部)を凝集工程に返送することとしても本発明において問題はない。
【0058】
沈殿槽から引き抜かれる返送汚泥と分離汚泥の物性が同一であるので、生物処理槽の活性汚泥濃度を維持する必要な返送汚泥量以上に返送汚泥量に余裕がある場合には、その余裕分の返送汚泥の少なくとも一部に高分子凝集剤を添加して得られた凝集汚泥8を凝集工程(S110)に返送してもよい。また、生物処理槽に返送される返送汚泥配管(図示せず)から返送汚泥の一部を分取して、その返送汚泥に高分子凝集剤7を添加して凝集汚泥8とし、凝集工程(S110)に返送してもよい。さらに、生物処理槽に返送する返送汚泥流量10部に対して、凝集工程(S110)に返送する分離汚泥6の流量が2部以下なら、被処理水量の変動などを考慮しても生物処理槽の活性汚泥濃度への影響が小さいので、生物処理槽に返送される返送汚泥配管から返送汚泥の一部を分取して、その分取した汚泥に高分子凝集剤7を添加して凝集汚泥8とし、凝集工程(S110)に返送することで、設備費用を抑えることができる。
【0059】
また、凝集工程(S110)への返送用の返送配管の途中に汚泥流量計や汚泥濃度計を設置して、返送流量や汚泥濃度のモニターすることが、凝集工程(S110)への汚泥の返送量を制御できるため、安定した固液分離の観点から好ましい。
【0060】
汚泥濃度の検出は近赤外光式汚泥濃度計、レーザー光式汚泥濃度計、マイクロ波汚泥濃度計などの市販の汚泥濃度計が使用できる。汚泥流量の検出は市販の電磁流量計や超音波流量計などが使用できる。汚泥を返送するポンプは市販品でよく、回転数制御で設定流量に調節して返送することができる(以上、高分子凝集剤添加・凝集汚泥返送工程(S140))。
【0061】
本発明によれば、高分子凝集剤7は被処理水の油分やSS、分離汚泥6の汚泥粒子の凝集を行うもので、SS等の固形物重量に対して、高分子凝集剤7の添加量が決められるべきものである。処理水量に対する高分子凝集剤7の添加量(mg/L)では、高分子凝集剤7が作用するSSや汚泥の固形物量が考慮されていない。
【0062】
凝集工程(S110)で、凝集汚泥8のSSを含む被処理水SS濃度は凝集汚泥8の返送条件で変化するので、被処理水量または、処理水量に対する高分子凝集剤の重量とする高分子凝集剤添加量(単位としてはmg/L)では高分子凝集剤注入量の適正な管理や制御ができない。
【0063】
本発明のように汚泥重量を基準として高分子凝集剤7を添加して得られた凝集汚泥8を凝集工程(S110)に返送して、被処理水と凝集汚泥8を凝集工程(S110)で混合することで、従来の被処理水の流量を基準とした高分子凝集剤の注入率設定方法に比べて、被処理水の性状及び被処理水の排水処理状況に関わらず、常に最適な添加量で高分子凝集剤7を添加することが可能となる。これにより、高分子凝集剤7の使用量を最適化して効率的な処理を行いながら、高い凝集効果を安定して継続的に得ることが可能となる。
【0064】
分離汚泥6に高分子凝集剤7を最適量で添加して凝集工程(S110)に返送すれば、さらに高分子凝集剤7を凝集工程(S110)で追加添加する必要はない。凝集工程(S110)に追加添加しても、高分子凝集剤溶液の粘性のために凝集工程で分散や均一化に時間がかかるので、かえって処理性能が低下する可能性がある。
【0065】
以上、本発明の含油排水の水処理方法の一例を、
図1および
図2に基づき説明したが、本発明はこの一例に限られない。例えば、生物処理工程(S130)において、被処理水を凝集工程(S110)に供し、得られた凝集水2を固液分離工程(S120)に供し、得られた分離水3を生物処理工程(S130)に供しているが、分離水3とともに、別の被処理水に対して凝集沈殿処理などの前処理を行い、得られた処理水を上記生物処理工程(S130)に供することとしてもよい。
【0066】
さらに、上記分離水3とともに、別の被処理水を前処理することなく上記生物処理工程(S130)に供することとしてもよい。
【0067】
この場合、凝集汚泥8のもととなる分離汚泥6は、上記分離水3を生物処理工程(S130)で生物処理して発生した汚泥であり、分離水3とともに、別の被処理水に対して凝集沈殿処理などの前処理を行い、得られた処理水を上記生物処理工程(S130)に供して得られた汚泥であり、また、分離水3とともに、別の被処理水を前処理することなく上記生物処理工程(S130)に供して得られた汚泥である。
【0068】
また、凝集汚泥8は、別の敷地、別の事業所で凝集処理および固液分離がなされて得られた分離液を上記生物処理工程(S130)に供して得られた汚泥に対して高分子凝集剤7を添加して得られた凝集汚泥であってもよく、生物処理自体を別の排水処理系統で行い、そこで得られた汚泥に対して高分子凝集剤7を添加して得られた凝集汚泥であってもよい。
【0069】
さらに、凝集汚泥8は、生物処理工程(S130)の前段の生物処理操作における曝気槽混合液の一部を返送し、高分子凝集剤7を添加して得られたものであってもよく、分離汚泥6を濃縮した濃縮汚泥の一部を返送して、高分子凝集剤7を添加して得られたものであってもよい。
【0070】
そのうえ、凝集工程(S110)において、あるいは凝集工程(S110)の前に、被処理水に無機凝集剤を添加してもよい。無機凝集剤は、市販品の硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、ポリ硫酸第2鉄(ポリ鉄)、塩化第2鉄あるいはこれらの混合物が使用できる。また、これらの無機凝集剤を使用すると、被処理水のpHが低下することから、適正な凝集pHに調整するために、アルカリ剤として市販の苛性ソーダ等を使用する。
【0071】
さらに、
図1に示すように、被処理水を凝集工程(S110)に供する前に油分除去剤添加工程(S100)に供してもよい。
【0072】
図4は、本発明の含油排水の水処理方法による処理フローの他の例を示す模式図である。
図4の例では、
図2の例に加えて、凝集工程(S110)より前に、被処理水(含油排水1)に油分除去剤9を添加する油分除去剤添加工程(S100)を含む点において
図2の例と相違する。したがって、ここでは油分除去剤添加工程のみを説明する。
【0073】
[油分除去剤添加工程(S100)]
本工程では、凝集工程より前に、被処理水(含油排水1)に油分除去剤9を添加する。油分除去剤は、上述のとおり、被処理水に添加、分散させて油分を吸着させたり、付着させたりする機能を有するものである。
【0074】
本発明では、プラスチック廃棄物から再生製糸した短繊維物やビスコースレーヨンからなる短繊維物が好適である。中でもビスコースレーヨンからなる短繊維物である繊維状助剤(例えばエバグロースU-700シリーズ、水ing(株)製)は、被処理水への分散性が良く、被処理水の油分の親油性、SSとの親和性が優れて、その繊維長さが5~10mmで含水率が30~80wt/wt%の繊維状助剤が好適である。油分除去剤9の添加率は被処理水あたり、好ましくは50~1000mg/Lであり、より好ましくは100~500mg/Lである。
【0075】
油分除去剤9の添加率は被処理水あたり、50mg/L以上なら、被処理水からの油分除去効果が高く、後段の凝集工程(S110)で、繊維のために強固な凝集フロックができ、固液分離工程(S120)で固液分離性が向上する。つまり、固液分離において、固形物4(油脂含有汚泥)の水分量の低下、固液分離速度の向上、分離液3の油分やSS濃度やBOD濃度の低減が発揮される。分離液3は後段の生物処理工程(S130)で生物処理されるので、生物処理の負荷低減で安定処理できたり、生物処理工程(S130)での曝気用の動力費が低減できたりする。
【0076】
また、添加率が1000mg/L未満なら、被処理水中に油分除去剤9を均一に混合できて、被処理水の油分やSSを効果的に捕捉でき、また経済的にも有利である
さらに、油分除去剤9の併用で、油分除去剤9自体、油分やSSの捕捉機能以外に、生物処理で生成する汚泥に対する凝集効果が高いので、凝集工程(S110)への凝集汚泥8の返送量の削減や、分離汚泥6への高分子凝集剤7の添加率の削減が期待できる(以上、油分除去剤添加工程(S100))。
【0077】
そのうえ、
図1および
図2において図示していないが、凝集工程の前に、混合槽を設けて、凝結工程を付加することもできる。凝結工程ではpH調整剤(酸・アルカリ等)、無機凝集剤が添加されて、被処理水の油分やSSを無機凝集剤の加水分解物で荷電中和して微細な粒子を形成する。無機凝集剤の添加で被処理水のpHが低下する場合には、無機凝集剤の最適凝集範囲になるように、苛性ソーダ等のアルカリ剤でpH調整する。また、被処理水のpHが無機凝集剤を添加混合しても最適凝集pH範囲にならないくらい高い場合には、硫酸等の酸の添加でpH調整する。
<含油排水の水処理装置>
図5は、本発明の含油排水の水処理装置の一例を示すブロック図である。図示のように、本発明の含油排水の水処理装置10は、凝集手段14と、固液分離手段16と、生物処理手段18と、高分子凝集剤添加手段20と、返送手段22と、を有する。
【0078】
凝集手段14は、凝集槽を有し、油分を含む含油排水1(被処理水)から凝集フロックを形成させる手段である。
【0079】
凝集槽には、被処理水および凝集汚泥8が流入し、これらが混合されることで、凝集フロックが形成される。凝集フロックを含む凝集水2は、凝集手段14の下流に配置された固液分離手段16に送られる。
【0080】
固液分離手段16としては、上述のとおり、(1)加圧浮上による固液分離、(2)スクリーンや円板による機械的固液分離の2つの固液分離装置が挙げられ、凝集フロックを含む凝集水2を固形物4(油脂含有汚泥)と分離液3とに固液分離する。
【0081】
被処理水の油分やSSを、返送された凝集汚泥8で凝集させ、強固な凝集フロックにした後に、固液分離するが、凝集フロックは油分を含むので、浮上で分離させたり、スクリーンの洗浄が容易なスクリーン等で固液分離したりする。
【0082】
加圧浮上処理装置と、スクリーン等による機械的固液分離装置の使いわけは以下の通りであるが、これに限定するものでない。
【0083】
経験的に処理水量が100m3/日以上では設備が機械式固液分離装置より少ない大水量処理に適した加圧浮上処理装置が、100m3/日未満では市販の豊富な標準機種が適用できるので機械的固液分離装置が安くなり、維持管理が容易なスクリーン等による機械的固液分離装置が好適である。
【0084】
また、被処理水の油分とSSの濃度比(油分/SS)が3.0以上では加圧浮上処理装置が、油分とSSの濃度比(油分/SS)が3.0未満では機械的固液分離装置が好適である。
【0085】
固液分離装置は特に限定されないが、加圧浮上装置のような凝集浮上分離装置や、市販の装置で、傾斜型スクリーン、ドラムスクリーン、ウエッジワイヤースクリーン、バースクリーン、振動スクリーン、ベルト濃縮機、楕円板型濃縮機、多重円板型脱水機、多重板型スクリュープレス脱水機などが使用できる。固形物4は産業廃棄物として外部搬出されたり、脱水して産業廃棄物処分されたりする一方、分離液3は生物処理手段18に送られる。
【0086】
生物処理手段18は、好気性微生物で被処理水の油分や有機物を分解除去する前段の生物処理槽と、その生物処理槽の後段の、微生物を含む活性汚泥混合液から汚泥と処理水5に固液分離する第二の固液分離装置と、を有する。生物処理槽と、第二の固液分離装置の様式については、<含油排水の水処理方法>の項目で述べたとおりであり、ここではその記載を省略する。第二の固液分離装置から分離された汚泥(分離汚泥6)は、生物処理手段18に返送される返送汚泥(図示せず)と、余りの分離汚泥と、に分けられ、分離汚泥の一部が以下の返送手段22により凝集手段14へと返送される。残りの分離汚泥は、脱水機等の汚泥処理手段に送られる。
【0087】
返送手段22は、生物処理手段18と凝集手段14とをつなぐ返送配管であり、返送ポンプなどの動力により上記分離汚泥の一部を凝集手段14へと返送する。
【0088】
高分子凝集剤添加手段20は、例えば、上記返送ポンプの吸込部、吐出部または返送配管の途中に設けたラインミキサーや混合槽である。高分子凝集剤添加手段20において高分子凝集剤7が汚泥中に添加・混合されることで、汚泥が凝集汚泥8となり、凝集手段14へと返送される。すなわち、返送手段22は、凝集手段14に凝集汚泥8を返送する返送手段である。
【0089】
図5において、含油排水の水処理装置10は凝集手段14の上流に何も設けられていないが、任意に油分除去剤添加手段を設けてもよい。油分除去剤添加手段は、油分除去剤9の添加・混合の場であり、例えば、凝集手段14の上流の配管に設けられたインラインミキサーの形態でもよく、被処理水のバッファタンクを利用してもよい。
【0090】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
【実施例】
【0091】
1.実施例1
1-1.試験条件
被処理水(含油排水):レストラン厨房排水(pH 6.0、SS 450mg/L、ヘキサン抽出物質 750mg/L、BOD 1300mg/Lで、ヘキサン抽出物質は全て動植物油であった。なお、BODは、工場排水試験法JIS K0102:2019の「21.生物化学的酸素消費量(BOD)」の項目の記載に従って測定した。)
【0092】
水処理装置:被処理水が流入する上流側から混合槽(油分除去剤添加手段)、凝集槽(凝集手段)、スクリーン分離装置(固液分離手段)、ならびに曝気槽および重力式沈殿装置を含む生物処理手段を有する水処理装置である。装置仕様と試験条件を表1に示す。
【0093】
処理フロー:
図2のフローシートに従って被処理水の処理を行った。
【0094】
【0095】
1-2.油分除去試験
上記「1-1.試験条件」の被処理水に対して、同じく上記「1-1.試験条件」の水処理装置を用いて表1の条件にて、処理水量4.5m3/日、液温20~25℃でワイヤのスリット幅1mmのスクリーンで油分除去試験を行った。
【0096】
実施例1では、混合槽で油分除去剤を添加・混合することなく、凝集槽で被処理水に対して、添加濃度条件を段階的に変えてカチオン性高分子凝集剤(エバグロースCS402 水ing(株)製)を、分離汚泥に対して0.05~5.0wt/wt%対SSの添加率で添加して得られた凝集汚泥を添加・混合して凝集フロックを形成させた。
【0097】
その凝集フロックをスクリーン分離装置で固液分離して、油脂含有汚泥と分離液を得た。分離液のヘキサン抽出濃度を測定して、油分除去性能を評価した。固液分離工程後の分離液のBODは500~600mg/Lであり、この分離液4.0m3/日を使用し、BOD汚泥負荷 0.2kg/kg/日、MLSS 4,000mg/Lで活性汚泥処理試験(生物処理)を行い、汚泥濃度 8,000~10,000mg/Lの分離汚泥を得た。その分離汚泥の一部に上記カチオン性高分子凝集剤を添加して凝集汚泥を得て、この凝集汚泥を凝集槽に返送した。
【0098】
試験結果を表2に示す。
【0099】
【0100】
表2に示すように、凝集槽SS 500mg/L、凝集槽SS/被処理水SS 1.1、高分子凝集剤添加率 1.0wt/wt%対SSでは分離液のSSが410mg/L、ヘキサン抽出物質が650mg/Lであった(試験番号No.1)。
【0101】
凝集槽SS 1,000~1,500mg/L、凝集槽SS/被処理水SS 2.2~3.3、高分子凝集剤添加率 1.0wt/wt%対SSでは分離液のSSが120~270mg/L、ヘキサン抽出物質が80~330mg/Lと分離液からの油分の除去性能が向上した(試験番号No.2~3)。
【0102】
凝集槽SS 2,000~3,000mg/L、凝集槽SS/被処理水SS 4.4~6.6、高分子凝集剤添加率1.0wt/wt%対SSでは分離液のSSが50~80mg/L、ヘキサン抽出物質が35~60mg/Lと分離液からの油分の除去性能がさらに向上した(試験番号No.4~6)。
【0103】
2.実施例2
2-1.試験条件
被処理水および水処理装置は実施例1と同一である。
処理フロー:
図4のフローシートに従って被処理水の処理を行った。
2-2.油分除去試験
凝集槽SS/被処理水SS 3.3の条件で、混合槽において被処理水に油分除去剤としてエバグロースU-700(繊維長さ5mm、水ing(株)製)を50~1,000mg/Lで添加した点以外は実施例1と同様の条件で油分除去試験を行った。結果を表3に示す。
【0104】
【0105】
油分除去剤添加量 50~100mg/L、高分子凝集剤添加率 1.0wt/wt%対SSの条件では分離液のSSが75~100mg/L、ヘキサン抽出物質が62~70mg/Lであった(試験番号No.15~16)。油分除去剤の併用で、表2の油分除去剤無添加時(表2の試験番号No.3)の分離液のSS 120mg/L、ヘキサン抽出物質 80mg/Lに比べて、SSや油分の除去性能が向上した。
【0106】
油分除去剤添加量 200~1,000mg/L、高分子凝集剤添加率1.0wt/wt%対SSでは分離液のSSが38~50mg/L、ヘキサン抽出物質が33~43mg/Lとなり、SSや油分の除去性能が更に向上した(試験番号No.17~20)。
【0107】
油分除去剤添加量 200mg/L、高分子凝集剤添加率 0.5~0.75wt/wt%対SSでは分離液のSSが42~56mg/L、ヘキサン抽出物質が35~48mg/Lとなり、高分子凝集剤添加率を下げても、良好なSSや油分の除去性能を示していた。(試験番号No.22~23)。
【0108】
3.実施例3
3-1.試験条件
被処理水および水処理装置は実施例1と同一である。
処理フロー:
図4のフローシートに従って被処理水の処理を行った。
【0109】
3-2.油分除去試験
凝集槽SS/被処理水SS 1.1~2.2、高分子凝集剤添加率 1.0wt/wt%対SSの条件で、混合槽において被処理水に油分除去剤としてエバグロースU-700(繊維長さ5mm、水ing(株)製)を50~1,000mg/Lで添加した点以外は実施例1と同様の条件で油分除去試験を行った。結果を表4に示す。
【0110】
【0111】
凝集槽SS/被処理水SS 1.1では分離液のSSが290mg/L、ヘキサン抽出物質が310mg/Lであった(試験番号No.24)。凝集槽SS/被処理水SSの比率を下げて、分離汚泥の返送量を減らしても油分除去剤の併用することで、実施例1の表2の試験番号No.1の結果に比べて、分離液のSSや油分の除去性能が向上した。
【0112】
凝集槽SS/被処理水SS 1.7~2.2にすると、分離液のSSが75~110mg/L、ヘキサン抽出物質が65~75になり、分離液のSSや油分の除去性能が更に向上した(試験番号No.25~26)。
【0113】
4.比較例
4-1.試験条件
被処理水および水処理装置は実施例1と同一である。
【0114】
処理フロー:
図6のフローシートに従って被処理水の処理を行った。
【0115】
4-2.油分除去試験
凝集槽で実施例1の被処理水に実施例1の高分子凝集剤を添加量 5.0~50mg/Lで添加し、高分子凝集剤を添加しない分離汚泥を、凝集槽SS/被処理水SS 3.3になるように凝集槽に返送する点以外は実施例1と同様条件で油分除去試験を行った。結果を表5に示す。なお、表5中、高分子凝集剤添加量(mg/L)の括弧()内の数値は、上記高分子凝集剤の添加量と、凝集槽SS/被処理水SSと、から計算して求めた、凝集槽に添加された分離汚泥に対する高分子凝集剤の添加率(単位:wt/wt%対SS)である。
【0116】
【0117】
高分子凝集剤添加量 5.0~10mg/L(高分子凝集剤添加率換算値 0.5~1.0wt/wt%対SS)では分離液のSSが160~200mg/L、ヘキサン抽出物質が120~130mg/Lであった(試験番号No.C1~C2)。これに対して、表2の高分子凝集剤添加率0.5~1.0wt/wt%対SSでは分離液のSSが120~140mg/L、ヘキサン抽出物質が80~90mg/Lと試験番号No.C1~C2と比較して分離液のSSおよびヘキサン抽出物質濃度を小さくすることができていた(試験番号No.3、10)。この結果から、被処理液に分離汚泥を返送した後で凝集槽に高分子凝集剤を添加するよりも、高分子凝集剤を添加して得られた凝集汚泥を凝集槽に返送して凝集させたほうがSSや油分の除去性能がはるかに向上することがわかった。
【0118】
また、高分子凝集剤添加量 20mg/L以上(高分子凝集剤添加率換算値 2.0wt/wt%対SS以上)でも分離液のSSやヘキサン抽出物質の低減は見られなかった(試験番号No.C3~C5)。
【符号の説明】
【0119】
10 含油排水の水処理装置
14 凝集手段
16 固液分離手段
18 生物処理手段
20 高分子凝集剤添加手段
22 返送手段