(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】7ベータ-ヒドロキシコレステロール及び脂質ビヒクルを含む組成物、並びに腫瘍性病態の処置におけるその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/58 20060101AFI20240902BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20240902BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240902BHJP
A61K 31/575 20060101ALN20240902BHJP
【FI】
A61K31/58
A61K47/44
A61P35/00
A61K31/575
(21)【出願番号】P 2021500678
(86)(22)【出願日】2019-07-11
(86)【国際出願番号】 EP2019068670
(87)【国際公開番号】W WO2020011916
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-06-21
(32)【優先日】2018-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512259248
【氏名又は名称】ベータ・イノブ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】メルセル,マルセル
(72)【発明者】
【氏名】ラコトアリブロ,クロビス
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-517269(JP,A)
【文献】特開平08-301759(JP,A)
【文献】特開昭61-233618(JP,A)
【文献】特許第6270823(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 31/33-33/44
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの7β-ヒドロキシコレステロール誘導体及び脂質ビヒクルを含む組成物であって、前記脂質ビヒクルは、
植物油又は
植物油の混合物を含み、ここで、前記7β-ヒドロキシコレステロール誘導体は、式(I):
【化1】
[式中:
Aは、以下を表し:
-C(O)R
1基であって、R
1は、5~14員を含みかつ
2個の
酸素原子を含む飽和複素環であって、該飽和複素環は、非置換であるか、又は少なくとも1つの直鎖状若しくは分枝鎖状C
1-C
6アルキルによって置換されており
;
Bは、-C(O)R
4基を表し、R
4は、直鎖状又は分枝鎖状C
1-C
12アルキル、好ましくはC
1-C
6アルキルであ
る。]
に相当する、組成物。
【請求項2】
経口経路による投与に好適な形態であることを特徴とする、請求項
1に記載の組成物。
【請求項3】
式(I)の化合物は、前記脂質ビヒクル中で溶解している、請求項1
又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記脂質ビヒクルは、アルガン油、アボカド油、亜麻仁油、ヒマワリ油、パーム油、キャベツパーム油、ココナツ油、グレープシード油、クロガラシ油、ケシ油、シアバター油、スイートアーモンド油、ダイズ油、落花生油、綿実油、胡麻油、オリーブ油、トウモロコシ油、ココア油、ヒマシ油、モリンガ油(又はベン油)、菜種油、アナットー油、小麦胚芽油、ベニバナ油、クルミ油、ヘーゼルナッツ油、カブ菜油又はそれらの混合物から選択される植物油を含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記脂質ビヒクルが、アルガン油である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
式(I)において、Aは-C(O)R
1基を表し、R
1は、5員を含みかつ2つの酸素原子を含む飽和複素環であって、該飽和複素環は、少なくとも1つの直鎖状又は分枝鎖状C
1-C
6アルキルで置換されていることを特徴とする、請求項1~
5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
式(I)において、Bはアシル基を表し、ここで、アルキル基は、C
1-C
6であ
る、請求項1~
6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記7β-ヒドロキシコレステロール誘導体が、式(I)の化合物であり、ここで、Aが-C(O)R
1基であり、R
1が2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン基であり、及びBがアセチル基であり、以下の式:
【化2】
の化合物である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
式(I)の化合物の含量が、前記組成物の総容積の0.1~3.5%(w/v)である、請求項1~
8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
式(I)の化合物の含量が、1~35mg/ml、好ましくは30mg/mlであることを特徴とする、請求項1~
9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
脂質ビヒクルの含量が、前記組成物の総容積の90~99%(v/v)であることを特徴とする、請求項1~
10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれか1項に記載の組成物を含む、医薬組成物。
【請求項13】
経口経路による投与に好適な形態であることを特徴とする、請求項
12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
以下の工程:
請求項1
~8のいずれか1項に規定される式(I)の7β-ヒドロキシコレステロール誘導体、
請求項1又は4に規定される植物油又は植物油の混合物を含む脂質ビヒクル及び共溶媒を含む、混合物を調製すること、
任意に、抗酸化剤を添加すること、及び
適用可能である場合、共溶媒を蒸散させること
を含む、請求項1~
9のいずれか1項に記載の組成物を調製するための方法。
【請求項15】
腫瘍性病態又は悪性血液疾患の処置における使用のための、請求項1~
13のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記腫瘍性病態が、多形神経膠芽腫である、請求項
15に記載の使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、7ベータ-ヒドロキシコレステロール誘導体及び脂質ビヒクルを含む組成物、その調製方法及び腫瘍性病態の処置におけるその使用、特に、多形神経膠芽腫の処置におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
脂質ビヒクルは、油又は油の混合物、有利には、植物油又は植物油の混合物を、含んでもよい。
【0003】
特に、本発明は、7ベータ-ヒドロキシコレステロール誘導体及び脂質ビヒクル(1つ以上の脂質層(単数又は複数)で形成される小胞、例えばリポソーム又はミセルタイプの小胞などからなる脂質ビヒクルを除く)を含む組成物に、関する。
【0004】
有利には、この組成物は、液体形態であり、経口経路によって投与され得る。
【0005】
特に、7ベータ-ヒドロキシコレステロール誘導体は、上記脂質ビヒクル中の溶液中にある。
【0006】
本記載において、「7ベータ-ヒドロキシコレステロール」又は「7β-ヒドロキシコレステロール」は、等しく使用される。
【0007】
多形神経膠芽腫(GBM)、又は第IVステージの星状細胞腫は、星状細胞を含むグリア細胞のがんへの形質転換によって本質的には性質決定される脳腫瘍である。
【0008】
免疫療法及びナノテクノロジーの分野においてと同様に、腫瘍学における実質的な科学的及び処置的進歩にもかかわらず、GBMは、なお不治のがんである。せいぜい、研究者ら及び医師らは、患者生存中央値が、最大で15ヶ月伸ばされ得るだけで満足である。
【0009】
GBMの処置によって課される主要な問題は:(a)幹細胞によって起こる再燃。実際、既存の療法が腫瘍のすべて又は一部を根絶することに成功した際、幹細胞は、多くの場合、腫瘍再発の原因である;(b)化学療法によって使用される分子は、容易に血液腫瘍関門(BTB)を通らず、それによって低量の抗GBM薬剤が腫瘍部位に到達する。BTBによって課される課題を回避するための、GBM腫瘍内に埋め込まれたmini-pumps(Alzet(登録商標))、レザバ(Mamiya(登録商標))又は支持体(Gliadel(登録商標))の使用は、化学療法の効果を有意に改善しない。BTBを可撓性にするための、化学療法の効能に対する脳の超音波照射の効果は、現在動物において研究中である。
【0010】
化学療法において、主要な処置のひとつは、アバスチン(登録商標)(VEGFのそのレセプターへの結合の阻害)及びイリノテカン(登録商標)(トポイソメラーゼIのインヒビター)の投与からなる組み合わせ処置である。PVCタイプ(プロカルバジン、DNAアルキル化剤;ビンクリスチン、微小管重合の阻害;CCNU、非特異的アルキル化剤)の三重療法は、現在、非常に物議をかもしている。放射線療法と組み合わせたグアニンのアルキル化剤であるテモゾロミドは、高度メチル化DNA(Stuppプロトコール)を有する患者について2~3か月の生存中央値の増大を示した。Stuppプロトコールの補足として腫瘍処置分野(TTF)を用いる臨床試験アプローチは、進行中である。シレンジタイド(いくつかのインテグリンレセプターの阻害)及びタランパネル(AMPAタイプのグルタミン酸チャネルを遮断する)を試験する臨床試験(第III相)が、進行中である。
【0011】
また、GBM以外のがんに対する効力を示す化学療法は、GBMを有する患者についての生存中央値を改善しない。例えばブレオマイシン(ホジキンリンパ腫に投与された)、アファチニブジマレエート及びシスプラチン(非小細胞肺がんに投与される)及びシクロホスファミド(乳がんのために投与される)が、言及され得る。
【0012】
出願WO2013/168096は、GBMを含むヒトがん細胞に対するヒトがん細胞に対しインビトロで抗腫瘍効力を示す、特にリポソーム形態又はエタノール溶液の形態の、7β-ヒドロキシコレステロール誘導体のファミリーを記載する。特に、当該出願の実施例6において調製される化合物(本出願の実施例において「化合物BIM2b」と呼ばれる)は、ヒトGBM株であるU87-MG株(U87)上で、活性をインビトロで示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、上記の7β-ヒドロキシコレステロール誘導体、すなわち、処置的活性を有する分子が、血液腫瘍関門(BTB)の障害を通って、特に、脳に位置する腫瘍に到達することを可能にする処方物であって、十分な量のこの処置的分子を含む処方物の需要が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
処方物はまた、容易な投与、好ましくは経口経路による投与を可能にすること、及び、患者の不安定な健康状態を考慮して、数週間又は数か月にすら及び得る処置期間にわたって、毒性の効果を起こさないことが求められる。
【0016】
ステロイド性化合物、例えばステロイドホルモン、鉱質コルチコイド及び糖質コルチコイドは、コレステロールの一部及びオキシステロールファミリーの一部を形成する側鎖を欠く。また、特定のステロイド性化合物において、コレステロールや最も一般的なオキシステロールの場合にはない、アルコール官能基及び芳香族環と組み合わせた、ケトン官能基が存在する。
【0017】
したがって、ステロイド性化合物は、通常、コレステロール及び7β-ヒドロキシコレステロール誘導体、特に、下記の式(I)の化合物よりも、以下の理由によって、油中により容易に溶解する:
- ステロイド性化合物の立体障害は、上述のコレステロール及び7β-ヒドロキシコレステロール誘導体の立体障害よりも小さい、
- ステロイド性化合物は、コレステロール及び7β-ヒドロキシコレステロール誘導体よりも、多くの化学基及び環(非局在化した電子を有する)を有する、及び
- ステロイド性化合物に見出される極性の性質を有する化学基及び環状構造は、油中に存在する酸基、アルコール、二重結合及び特定の環(スピナステロール、ショッテノール)への結合を可能にし、したがって、コレステロール及び下記の式(I)の7β-ヒドロキシコレステロール誘導体よりも、油中によりよく溶解する。
【0018】
ここで、7β-ヒドロキシコレステロール誘導体と脂質ビヒクルとを組み合わせた処方物であって、前記脂質ビヒクルは、1つ以上の脂質層から形成される脂質小胞からなる脂質ビヒクルを除く、処方物は、このステロール誘導体がBTBを通ることを可能にし、動物においてインビボで顕著な抗GBM活性を得ることを可能にすることが、見いだされた。
【0019】
好ましくは、この処方物は、7β-ヒドロキシコレステロール誘導体と1つ以上の脂質層から形成される脂質小胞からなるか、又は非リポソーム形態の少なくとも1つのリン脂質からなる脂質ビヒクルを除く脂質ビヒクルとを、合わせる。
【0020】
有利には、この7β-ヒドロキシコレステロール誘導体は、本発明による脂質ビヒクル中で溶解している。
【0021】
これらの特性、すなわち、BTBの通過、十分な量の活性生成物の投与、毒性の不存在及びインビボでの処置的効果の獲得の組み合わせを得ることは、腫瘍性病態の分野においてはますます、達成することが特に困難であり、BTBの通過だけでも、活性生成物の効率に対する主要な障害である。
【0022】
本発明によると、脂質ビヒクルは、特に、薬学的に許容される脂質ビヒクルである。
【0023】
特に、脂質ビヒクルは、飽和及び/又は単価不飽和及び/又は多価不飽和の脂肪酸、又はその混合物、特に、モノ-、ジ-又はトリグリセリドの形態、又はその混合物を、含む。
【0024】
「1つ以上の脂質層で形成される脂質小胞」は、1つ以上の脂質層を含むか又はこれによって構成される脂質小胞、例えば、リポソーム又はミセルタイプの小胞などを意味する。
【0025】
有利には、本発明による脂質ビヒクルは、リン脂質ではない少なくとも1つの脂質を含み、このリン脂質はリポソーム形態又は非リポソーム形態である。
【0026】
有利には、この処方物は、約1.5のpH(ヒトにおける胃消化のpH)、及び約8.5~10のpH(ヒトにおけるファーター領域のレベルでの消化のpH)にて安定であることも見出されており、これは、特に、経口経路による投与の文脈で、活性化合物が作用部位に到達することを可能にするために求められている。
【0027】
したがって、本発明は、第1の局面により、少なくとも1つの7β-ヒドロキシコレステロール誘導体及び脂質ビヒクルを含む組成物であって、前記脂質ビヒクルは、1つ以上の脂質層から形成される脂質小胞からなる脂質ビヒクル、及び非リポソーム形態のリン脂質からなる脂質ビヒクルを除く、組成物に関し、ここで、前記7β-ヒドロキシコレステロール誘導体は、式(I):
【化1】
[式中:
Aは、以下を表し:
-C(O)R
1基であって、R
1は、5~14員を含みかつ1又は2のヘテロ原子を含む飽和複素環であって、該飽和複素環は、非置換であるか、又は少なくとも1つの直鎖状若しくは分枝鎖状C
1-C
6アルキル、又はOR、NRR’、NHR及びSRから選択される基によって置換されており、R及びR’は、独立して、水素、直鎖状又は分枝鎖状C
1-C
1アルキル、好ましくは、C
1-C
6アルキル、又は非置換アリールを表し;又は
-(R
2)
n-基であって、R
2は、C-末端で結合したアミノ酸残基であり、及びnは1~3であり、R
2のそれぞれは、同一であるか又は異なっており、前記アミノ酸のN末端は、-C(O)R
3基で置換されていてもよく、R
3は、単環式若しくは多環式のC
6-C
14アリールアルキル基;同一であるか又は異なっていてもよい1つ以上のヘテロ原子を含み得る、単環式若しくは多環式のC
5-C
14ヘテロアリールアルキル基;単環式若しくは多環式のC
6-C
14アリールアルキルオキシ基、又は同一であっても又は異なっていてもよい1つ以上のヘテロ原子を含み得る、単環式若しくは多環式のC
5-C
14ヘテロアリールアルキルオキシ基であり、
Bは、-C(O)R
4基を表し、R
4は、非置換であるか又は上で規定されるとおりの、OR、NRR’、NHR及びSRから選択される基によって置換されている、直鎖状又は分枝鎖状C
1-C
12アルキル、好ましくはC
1-C
6、アルキル;又は、非置換であるか、又は上で規定されるとおりの、OR、NRR’、NHR及びSRから選択される基によって置換されているアリール基であり;又は、R
4はOR
5を表し、R
5は、直鎖状又は分枝鎖状C
1-C
12アルキル、好ましくはC
1-C
6アルキルである。]
に相当する。
【0028】
アルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状のC1-C12基、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、sec-ペンチル、tert-ペンチル、neo-ペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、sec-ヘキシル、tert-ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル又はドデシル基を示し、直鎖状又は分枝鎖状C1-C6のアルキル基が、好ましい。
【0029】
アリール基は、不飽和、単環式又は多環式の、炭素環式C6-C14基をいい、例えば、フェニル、ナフチル、インデニル、アントラセニル基をいい、より特に、フェニル基である。
【0030】
「ヘテロ原子」は、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を意味する。
【0031】
有利なアミノ酸残基は、例えば、メチオニル、グリシニル又はアラニル単位である。
【0032】
式(I)の化合物の調製は、出願EP2666382及びWO2013/168096に記載される。
【0033】
「含む(comprising)」は、本記載の意味の範囲内で、「含む(containing)」、「によって構成される(constituted by)」又は「からなる(consisting of)」を包含すると理解され得る。
【0034】
「によって構成される(constituted by)」又は「からなる(consisting of)」は、本記載の意味の範囲内で、この語に続く特徴の他の特徴の存在を除外する。
【0035】
有利には、7β-ヒドロキシコレステロール誘導体は、上記脂質ビヒクル中で溶解している。
【0036】
好ましくは、脂質ビヒクルは、油又は油の混合物、有利には、植物油又は植物油の混合物を、含む。
【0037】
さらなる局面において、本発明は、少なくとも1つの7β-ヒドロキシコレステロール誘導体と脂質ビヒクルとを含む組成物に関し、ここで、この脂質ビヒクルは、油又は油の混合物を含み、ここで、7β-ヒドロキシコレステロール誘導体は、以下の式(I):
【化2】
[式中:
Aは、以下を表し:
-C(O)R
1基であって、R
1は、5~14員を含みかつ1又は2のヘテロ原子を含む飽和複素環であって、該飽和複素環は、非置換であるか又は少なくとも1つの直鎖状若しくは分枝鎖状C
1-C
6アルキル、又はOR、NRR’、NHR及びSRから選択される基によって置換されており、R及びR’は、独立して、水素、直鎖状又は分枝鎖状C
1-C
12アルキル、好ましくは、C
1-C
6アルキル、又は非置換アリールを表し;又は
-(R
2)
n-基であって、R
2は、C-末端で結合したアミノ酸残基であり、及びnは1~3であり、R
2のそれぞれは、同一であるか又は異なっており、前記アミノ酸のN末端は、-C(O)R
3基で置換されていてもよく、R
3は、単環式若しくは多環式のC
6-C
14アリールアルキル基;同一であるか又は異なっていてもよい1つ以上のヘテロ原子を含み得る、単環式若しくは多環式のC
5-C
14ヘテロアリールアルキル基;単環式若しくは多環式のC
6-C
14アリールアルキルオキシ基、又は同一であっても又は異なっていてもよい1つ以上のヘテロ原子を含み得る、単環式若しくは多環式のC
5-C
14ヘテロアリールアルキルオキシ基であり、
Bは、-C(O)R
4基を表し、R
4は、非置換であるか、又は上で規定されるとおりの、OR、NRR’、NHR及びSRから選択される基によって置換されている、直鎖状又は分枝鎖状C
1-C
12アルキル、好ましくはC
1-C
6アルキル;又は非置換であるか、又は上で規定されるようにOR、NRR’、NHR及びSRから選択される基によって置換されているアリール基であり;又は、R
4はOR
5を表し、R
5は直鎖状又は分枝鎖状C
1-C
12アルキル、好ましくはC
1-C
6アルキルである。]
に相当する。
【0038】
特に、この脂質ビヒクルは、油又は油の混合物、有利には、植物油又は植物油の混合物によって、構成される。
【0039】
特に、7ベータ-ヒドロキシコレステロール誘導体は、油又は油の混合物、好ましくは植物油又は植物油の混合物中の溶液中にあり、有利には、油又は油の混合物、好ましくは植物油又は植物油の混合物中に、完全に溶解している。
【0040】
「植物油」は、油質の植物、すなわち、植物の特定の部位、例えば脂質を含む種子、堅果又は果実から抽出された脂質物質、特に食用油を意味する。
【0041】
植物油は、植物起源の飽和、単価不飽和及び/又は多価不飽和脂肪酸を含み、これは主に、グリセリドとも呼ばれるアシルグリセロール(グリセロールと脂肪酸とのエステル)の形態で存在している。このようなアシルグリセロールは、油の主要な構成要素であり、特に、植物油の量の少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、又はなお少なくとも95%である。このアシルグリセロールは、モノ-、ジ-又はトリ-グリセリド、又はこれらの混合物の形態であってもよい。
【0042】
好ましくは、植物期限の脂肪酸は、4~24の炭素原子(C4~C24)を含み、特に、10、12、14、16、18、20又は22の炭素原子を含む。この脂肪酸は、例えば、炭素鎖中に、1~3の二重結合を含んでもよい。
【0043】
植物油はまた、例えば、少量の、例えば、化合物の20%未満、好ましくは10%未満、又はなお5%未満の、アシルグリセロール以外の化合物、例えば、リン脂質、フィトステロール、トコフェロール、スフィンゴ脂質、カルテノイド類を、含んでもよい。
【0044】
植物油は、例えば、アルガン油、アボカド油、亜麻仁油、ヒマワリ油、パーム油、キャベツパーム油、ココナツ油、グレープシード油、クロガラシ油、ケシ油、シアバター油、スイートアーモンド油、ダイズ油、落花生油、綿実油、胡麻油、オリーブ油、トウモロコシ油、ココア油、ヒマシ油、モリンガ油(orベン油)、菜種油、アナットー油、小麦胚芽油、ベニバナ油、クルミ油、ヘーゼルナッツ油、カブ菜油又はそれらの混合物から選択されてもよい。
【0045】
低ビタミンE含量の植物油、特にアルガン油が、好ましく使用される。
【0046】
植物油はまた、合成によって、類似の化学組成を有する油を調製すること、例えばグリセリドを含む油を調製することによって、合成的に生成されてもよい。
【0047】
油又は油の混合物、有利には植物油又は植物油の混合物の、組成物中の脂質ビヒクルとしての使用は、血液腫瘍関門(BTB)の通過及び所望の処置的活性の両方を得るために、十分な量の式(I)の化合物を含み得る組成物を得ることを可能にする。
【0048】
上記油、特に植物油は、好ましくは、薬学的に許容される形態で使用される。
【0049】
さらに、このような脂質ビヒクルを含む本発明による処方物は、両極端のpH、例えば、約1.5のpH(ヒトにおける胃の消化のpH)及び約8.5~10のpH(ヒトにおけるファーター領域のレベルでの消化のpH)において、非常に良好な安定性を有し、式(I)の化合物の活性を維持することを可能にする。このような特性は、1つ以上の脂質層から形成される脂質小胞、例えば、リポソーム又はミセルタイプの小胞の場合には示されない。
【0050】
好ましい式(I)の化合物は、以下のものである:
- Aは、-C(O)R1基を表し、R1は、5~14員を含みかつ1又は2のヘテロ原子を含む飽和複素環であって、該飽和複素環は、非置換であるか又は少なくとも1つの直鎖状若しくは分枝鎖状C1-C6アルキルによって置換されている;
- Bは、-C(O)R4基を表し、R4は、直鎖状又は分枝鎖状C1-C12アルキル、好ましくはC1-C6アルキル;又は、R4はOR5を表し、R5は直鎖状又は分枝鎖状C1-C12アルキル、好ましくはC1-C6アルキルである。
【0051】
好ましい局面において、R1は、5員を含みかつ2つの酸素原子を含む、少なくとも1つの直鎖状又は分枝鎖状C1-C6アルキル、特にメチル基で置換された、飽和複素環である。特に、R1は、2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン基である。
【0052】
好ましくは、R4は、直鎖状又は分枝鎖状C1-C6アルキルであり、特にメチル基である。
【0053】
好ましい局面において、Bは、アシル基を表し、ここで、アルキル基は、C1-C6、特にアセチルであり、又は、アルコキシカルボニル基を表し、ここで、アルキル基は、C1-C6であり、特に、tert-ブトキシカルボニル基である。
【0054】
式(I)の他の好ましい化合物は、以下のものである:
- Aは、-(R2)n-基を表し、R2がアミノ酸残基であり、及びnが2であるか;又は
- Aは、-(R2)n-基を表し、R2がアミノ酸残基であり、及びnが2であり、かつ前記アミノ酸のN末端が、アリールアルコキシカルボニル基、特にベンジルオキシカルボニルで置換されているか;又は
- Aは、グリシニル基に結合したアラニル基を表し、任意に、そのN末端において、アリールアルコキシカルボニル基、特にベンジルオキシカルボニルが置換しているか;又は
- Aは、グリシニル基に結合するメチオニル基を表し、任意に、そのN末端において、任意選択的に、アリールアルコキシカルボニル基、特にベンジルオキシカルボニルが置換している、及び
- Bは、上で規定されるように、その一般的又は好ましい既定のものである。
【0055】
式(I)の好ましい化合物は、以下のとおりである:
- 7-((tert-ブトキシカルボニル)オキシ)-10,13-ジメチル-17-(6-メチルヘプタン-2-イル)-2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17-テトラデカヒドロ-1H-シクロペンタ[a]フェナントレン-3-イル2-(2-(((ベンジルオキシ)カルボニル)アミノ)-アセトアミド)プロピオネートであり、単純化して、「3-ベンジルオキシカルボニル-グリシニル-アラニル-7-β-O-tert-ブチルオキシカルボニル-コレステロール」又は化合物BIM1aとも名付けられる;
- 7-アセトキシ-10,13-ジメチル-17-(6-メチルヘプタン-2-イル)-2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17-テトラデカヒドロ-1H-シクロペンタ[a]フェナントレン-3-イル2-(2-(((ベンジルオキシ)カルボニル)アミノ)-アセトアミド)プロピオネートであり、単純化して、「3-ベンジルオキシカルボニル-グリシニル-アラニル-7-β-O-アセチル-コレステロール」又は化合物BIM1bとも名付けられる;
- 7-((tert-ブトキシカルボニル)オキシ)-10,13-ジメチル-17-(6-メチルヘプタン-2-イル)-2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17-テトラデカヒドロ-1H-シクロペンタ[a]フェナントレン-3-イル2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-カルボキシレートであり、単純化して、「3-(S)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-カルボキシル-7-β-O-tert-ブチルオキシカルボニル-コレステロール」又は化合物BIM2aとも名付けられる;
- 7-アセトキシ-10,13-ジメチル-17-(6-メチルヘプタン-2-イル)-2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17-テトラデカヒドロ-1H-シクロペンタ[a]フェナントレン-3-イル2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-カルボキシレートであり、単純化して、「3-(S)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-カルボキシル-7-β-O-アセチル-コレステロール」又は「コレステ-5-エン-3,7-ジオール、7-アセテート3-[[(4S)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-イル]カルボキシレート]、(3β,7β)」又は化合物BIM2bとも名付けられる。
【0056】
これらの式(I)の化合物は、それぞれ、出願WO2013/168096の実施例3、4、5及び6に記載される。
【0057】
本発明の目的のために特に好ましい式(I)の化合物は、上述の「化合物BIM2b」であり、すなわち、Aが-C(O)R1基であり、R1が2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン基であり、及びBがアセチル基である、式(I)の化合物である。
【0058】
【0059】
化合物BIM1aは、Aが3-ベンジルオキシカルボニル-グリシニル-アラニル基であり、及びBがtert-ブトキシカルボニル基である、式(I)の化合物である。
【0060】
化合物BIM1bは、Aが3-ベンジルオキシカルボニル-グリシニル-アラニル基であり、及びBがアセチル基である、式(I)の化合物である。
【0061】
化合物BIM2aは、Aが-C(O)R1基であり、R1が2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン基であり、及びBがtert-ブトキシカルボニル基である、式(I)の化合物である。
【0062】
本記載において、他に明記されない限り、示された値の範囲は、包括的である。
【0063】
本発明による組成物における式(I)の化合物の含量は、好ましくは、組成物の総容積の0.1~3.5%(w/v)、好ましくは3%である。好ましくは、この組成物は、式(I)の化合物を、1~35mg/ml、好ましくは30mg/mlの割合で含む。
【0064】
本発明による組成物中における脂質ビヒクル、特に植物油の含量は、好ましくは、組成物の総容積の90~99%、特に、95~99%(v/v)である。
【0065】
本発明による組成物はまた、油性組成物の場合に、少なくとも1つの通常の賦形剤又は添加剤、例えば共溶媒、例えばアルコール、又は抗酸化剤などを含む。
【0066】
例えばアルコールなどの共溶媒は、組成物中に、例えば、組成物の総容積の0~5%、特に1~5%(v/v)の割合で、存在してもよい。
【0067】
アルコールとしては、好ましくは式R-OHのアルコールが使用され、ここで、Rは、C2-C6炭化水素基であり、好ましくはエタノールを表す。
【0068】
抗酸化剤は、この分野で通常のものである化合物から選択されてもよく、例えば:
- ヒドロキシル化物質、例えばクエン酸及びその誘導体、特に、クエン酸ナトリウム、クエン酸カルシウム又はクエン酸カリウム;アスコルビン酸及びその誘導体、特に、イソアスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム又はアスコルビン酸カルシウム;
- チオール誘導体、例えばシステイン、アセチルシステイン、ジチオトレイトールなど;
- エチレン性不飽和物質、例えばソルビン酸など
である。
【0069】
この抗酸化剤は、組成物中に、例えば、0.005~0.020%(w/v)、特に0.005~0.015%(w/v)、好ましくは0.01%の割合で存在してもよい。
【0070】
好ましい抗酸化剤は、アスコルビン酸及びその誘導体から選択される。
【0071】
本発明による好ましい組成物は、3%(w/v)の式(I)の7β-ヒドロキシコレステロール誘導体、特に、上述の好ましい式(I)の化合物の1つ、より好ましくは化合物BIM2b、0.01%の無水クエン酸(w/v)1%のエタノール(v/v)を、アルガン油中に含む。この組成物はまた、エタノール非含有であってもよい。
【0072】
本発明はまた、上述の組成物を含む医薬組成物に関する。
【0073】
医薬組成物はまた、脂質媒体中に溶解する別の活性成分、例えば抗炎症剤、特にコルチコイド、又は抗てんかん薬剤などをも含んでもよい。
【0074】
本発明による医薬組成物は、好ましくは、経口経路による投与に好適な形態であってもよく、特に、液体形態、例えば経口溶液、経口懸濁液、ドロップなど、又はカプセル封入形態、例えば、液体製剤をカプセル封入したカプセル、特に、ゼラチンベースの硬質又は軟質カプセルであってもよい。
【0075】
本発明はまた、上述の7β-ヒドロキシコレステロール誘導体及び脂質ビヒクルを含む組成物を調製する方法にも関し、以下の工程を含む:
- 上述の式(I)の7β-ヒドロキシコレステロール誘導体、脂質ビヒクル及び共溶媒を含む、混合物を調製すること、
- 任意に、抗酸化剤を添加すること、及び
- 適用可能である場合、共溶媒を蒸散させること。
【0076】
脂質ビヒクル、抗酸化剤及び共溶媒は、上で規定されるとおりである。上述の好ましい局面もまた、本発明による方法に適用される。
【0077】
特に、油又は油の混合物、有利には植物油又は植物油の混合物からなる上記脂質ビヒクルは、特にアルガン油である。
【0078】
上記油、特に植物油は、好ましくは、薬学的に許容される形態で使用される。
【0079】
上記方法の好ましい条件は、以下のとおりである:
- 混合物は、およそ22~35℃、好ましくは33℃で調製される;
- 混合物中の式(I)の化合物の含量は、0.1~3.5%(w/v)である;
- 共溶媒、好ましくはエタノールの、混合物中の初期含量は、およそ1~5%、好ましくは2.5%(v/v)である;
- 抗酸化剤、好ましくはクエン酸及びその誘導体の、混合物中の含量は、0.005~0.020%(w/v)、特に0.005~0.15%、好ましくは0.01%(w/v)である。
【0080】
式(I)の7β-ヒドロキシコレステロール誘導体、脂質ビヒクル及び共溶媒、並びに任意選択的に抗酸化剤を含む混合物は、例えば、回転蒸発装置を用いて攪拌しながら、式(I)の化合物が溶解するまで混合してもよい。
【0081】
混合は、例えば、式(I)の7β-ヒドロキシコレステロール誘導体と脂質ビヒクルとを混合し、次いで、共溶媒及び任意選択的に抗酸化剤を添加することによって、実施されてもよい。
【0082】
蒸散後に得られた、共溶媒、特にアルコール(特にエタノール)の含量は、医薬形態の現行の規則(ICHQ3C(R6)規則)に適合している。
【0083】
本発明はまた、腫瘍性病態、特に多形神経膠芽腫の処置における使用のための、上で規定されるような、式(I)の7β-ヒドロキシコレステロール誘導体及び脂質ビヒクルを含む組成物にも関する。
【0084】
本発明はまた、悪性血液疾患(malignant haemopathy)、特に骨髄タイプの悪性血液疾患の処置における使用のための、上で規定されるような、式(I)の7β-ヒドロキシコレステロール誘導体及び脂質ビヒクルを含む組成物にも関する。
【0085】
本発明はまた、腫瘍性病態、特に多形神経膠芽腫を処置するための、上で規定されるような、式(I)の7β-ヒドロキシコレステロール誘導体及び脂質ビヒクルを含む有効な濃度の組成物を、上記処置を必要とする患者に投与することを含む、方法にも関する。
【0086】
本発明はまた、悪性血液疾患、特に骨髄タイプの悪性血液疾患を処置するための、上で規定されるような、式(I)の7β-ヒドロキシコレステロール誘導体及び脂質ビヒクルを含む有効な濃度の組成物を、上記処置を必要とする患者に投与することを含む、方法にも関する。
【0087】
本発明はまた、腫瘍性病態、特に多形神経膠芽腫の処置における使用、又は悪性血液疾患、特に骨髄タイプの悪性血液疾患の処置における使用のための、上で規定されるような、式(I)の7β-ヒドロキシコレステロール誘導体及び脂質ビヒクルを含む組成物を含む、医薬組成物にも関する。
【0088】
上述の一般的かつ好ましい局面、特に、式(I)の7β-ヒドロキシコレステロール誘導体及び脂質ビヒクルについての局面もまた、使用及び方法に適用される。
【0089】
投与される用量は、例えば、例えば84~105日間に及ぶ期間に、例えば、1日に3~5mg/kgであってもよい。しかし、用量は、患者の状態及び疾患の段階に依存して、30mg/kg/日まで増大してもよく、処置期間は、例えば2か月間まで延長してもよい。
【0090】
本発明は、実施例1~2(調製)及び実施例3~8(結果)によって説明される。
【0091】
BIM2bの可溶化方法は、実施例1及び2に詳述されるように、BIM2bを油中、特にアルガン油中に溶解させることができた。有利な局面において、油1~500mlの範囲にわたり、BIM2b粉末を油に添加する条件、BIM2b/油系を混合する条件及び混合が行われる表面積/容積比は、BIM2b粉末の油中への完全な溶解をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【
図1】
図1は、実施例2の油性処方物で処置した健康なマウスの脳からの脂質抽出物の、シリカカラムクロマトグラフィーを示す。
【
図2】
図2は、実施例2の油性処方物で処置した神経膠芽腫を有するイヌの脳からの脂質抽出物の、シリカカラムクロマトグラフィーを示す。
【
図3】
図3は、極度のpHに対する抵抗性の試験後の、実施例2の油性処方物の安定性のモニタリングを、HPTLCによって示す。
【
図4】
図4は、実施例2の油性処方物で処置した神経膠芽腫を有するイヌにおける腫瘍の全体的退縮を示す。
【発明を実施するための形態】
【0093】
以下の略号が、使用される:
7β-アセチル-CH:7β-アセチル-コレステロール
7β-OHCH:7β-ヒドロキシコレステロール
APCI:大気圧化学イオン化源
TLC:薄層クロマトグラフィー
CH:コレステロール
CHCl3:クロロホルム
化合物BIM2b:化合物7-アセトキシ-10,13-ジメチル-17-(6-メチルヘプタン-2-イル)-2,3,4,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17-テトラデカヒドロ-1H-シクロペンタ[a]フェナントレン-3-イル2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-カルボキシレート。コレステ-5-エン-3,7-ジオール、7-アセテート3-[[(4S)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-イル]カルボキシレート]、(3β,7β)とも呼ぶ
化合物BIM2b PO:経口経路による投与のための、実施例2の油性処方物の形態の、化合物BIM2b
EtOH:エタノール
Folch:CHCl3:MetOH(2:1、v:v)
AO:アルガン油
HCl:塩酸
GBM:多形神経膠芽腫
HPTLC:高速薄層クロマトグラフィー
KCl:塩化カリウム
MetOH:メタノール
NaOH:水酸化ナトリウム
p:重量
MW:分子量
RT:周囲温度
UPLC MS:超高速液体クロマトグラフィー質量分析
v:容積
【0094】
<A/使用した分子及びビヒクル及び分析>
<1)活性物質>
コレステ-5-エン-3,7-ジオール、7-アセテート3-[[(4S)-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-イル]カルボキシレート]、(3β,7β)を、GLP/GMP等級にて、出願WO2013/168096に記載されるように合成した(実施例6で詳述するとおり、粉末の形態で得た)。
【0095】
以下に示す式のこの分子は、実施例の節を通して、BIM2bと呼ばれる。
【化4】
【0096】
<2)活性物質の分解生成物及び主要な代謝物>
a) 7β-アセチル-コレステロールを、出願WO2013/168096に詳述されるように合成した(化合物1.4)。
【0097】
以下に示す式のこの分子は、実施例の節を通して、7β-アセチル-CHと呼ばれる。
【化5】
【0098】
b) 7β-ヒドロキシコレステロールは、SIGMAによって供給された(参照700035P)。
【0099】
以下に示す式のこの分子は、実施例の節を通して、7β-OHCHと呼ばれる。
【化6】
【0100】
c) コレステロールは、SIGMAによって供給された(参照C8503)。
【0101】
以下に示す式のこの分子は、実施例の節を通して、CHと呼ばれる。
【化7】
【0102】
d) 選択したビヒクルは、アルガン油(Olsana、France)であり、実施例の節を通して、AOと呼ばれる。
【0103】
<B)資材及び方法>
<I)資材>
<I.1)クロマトグラフィー>
<I.1.1)高速薄層クロマトグラフィー(HPTLC)及び従来のシリカカラム上の吸着クロマトグラフィー>
- クロマトグラフィー用マルチプレートタンク 20×20cm(参照552-0359)
- ガラスフリットを有するクロマトグラフィーカラム(有効長さ:300mm;内径=11mm;キー操作PTFEストップコック 1.5mm)(Analytic Lab、参照LE-AT1811)
- 粉末シリカゲル60(0.063~0.200mm)(参照1.07734.1000)
- HPTLCプレート:アルミ箔(VWR、参照1055830001)上の濃縮領域(2.5cm)を有するシリカゲル60 F254
- ネブライザー及び三角フラスコ100ml(Witeg、参照2147100、NS14.5/23)
- ホットプレート(Stuart SB162)
- ホウケイ酸ガラス管
- スキャナー(Epson Perfection V370 Photo)
- マイクロキャピラリードラモンド 10μl(Sigma、参照P1924)
【0104】
<I.1.2)吸着カートリッジ又は逆相上のクロマトグラフィー>
- SEP PAK Classic Silica(Waters、参照WAT051900)
- SEP PAK Plus C18(Waters、参照WAT023635)
【0105】
<I.1.3)超高速液体クロマトグラフィー-質量分析(UPLC-MS)>
調査する分子(BIM2b及びその代謝物)の定量を、Kinetex EVO C18カラム(粒子サイズ:1.9μm;カラム寸法:100×2.1mm、Phenomenex)を備えたNexera X2 UPLCシステム(Shimadzu)を用いて行った。APCI検出を、四重で実施した(LCMS 8050、Shimadzu)。
【0106】
<I.2) 経口経路による投与のためのBIM2bの処方物(BIM2b PO)>
- Sartorius Quintix精密秤(Sartorius、参照QUINTIX 124-1S)
- 5ml ホウケイ酸ガラス管12×75mm(Kimble、参照73500-1275)
- 25ml ホウケイ酸ガラス管Pyrex 18×180mm(Dutscher、参照090482)
- 5ml ビーカー
- 擦りガラスストッパーつき1リットル反応フラスコ(メス、29/32NS)(VWR、参照201-1359)
- R-215 Buchi回転蒸発装置
- 位相差倒立顕微鏡Eclipse TS-100F三眼鏡Nikon(Dutscher、参照:094501)、Cマウントデジタルカメラ(NIKON、DCMC510)との組み合わせ
【0107】
<I.3)調査下にある分子の定量(BIM2b及びその代謝物):野生型マウスの脳及びGBMを有するイヌの脳の剖検後に得た腫瘍の、ホモジナイゼーション>
- ホモジナイザー(Ika eurostar 20 digital)
- Potter-Elvehjem組織粉砕機(容量:4ml;長さ:120mm;外径:11mm)(VWR、参照432-0200)
- 球形分液漏斗、250ml、PTFEストップコックつき(Dutscher、参照479036)
- 分液漏斗、50ml、PTFEストップコックつき(Dutscher、参照084118)
【0108】
<I.4)有機溶媒及び他の消耗品>
- カラムクロマトグラフィー用シリカ、シリカゲル60(0.063~0.200mm)(Merck、参照1.07734.1000)
- CHCl3、HPLC等級(Sigma、参照528730)
- 無水EtOH(Sigma、参照SI-32221)
- MetOH chromasolv HPLC用≧99.9%(SIGMA、参照34860)
- N-ヘキサン HPLC用(Fisher Scientific、参照1070361)
- 酸化ジエチル、HPLC用に安定化(Analytic Lab、参照FI-10254914)
- アセトン(Sigma-Aldrich、参照322201)
- オルトリン酸99%(Analytic Lab、参照U1B203102H)
- 酢酸銅98%(Sigma、参照326755/
- ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT;Sigma、W218405、参照W218405)
-塩 酸 最低37%(HCl、Thermofisher、参照M0643H)
- ナトリウム(NaOH/Thermofisher、参照04815)
- 炭酸アンモニウム(Sigma、参照207861)
- 塩化カリウム(Fisher Scientific、参照W2752)
- ホルマリン又はホルムアルデヒド溶液(36.5~38%、水中)(Sigma、参照F8775)
-酢酸アンモニウム(Merck、参照C138315)
【0109】
<II)方法>
<II.1)HPTLCクロマトグラフィー>
医薬(BIM2bPO)、野生型マウスの脳及びGBM腫瘍を有するイヌ由来のGBM腫瘍における、BIM2b、その分解生成物及びその主要な代謝産物を定量するために、分析アプローチを使用した。実験的に決定したBIM2b及びその分解生成物(7β-アセチル-CH及び7β-OHCH)の検出の閾値は、0.5μgである。
【0110】
本方法を、UPLC-MSによって評価した。
【0111】
- HPTLCプレートの処理
マルチプレートクロマトグラフィータンクを、溶出系:CHCl3:MetOH混合物(1:1;v:v)で、1時間にわたって飽和させる。HPTLCプレートを、タンク内に入れる;溶出を、溶出フロントがプレートの上端から1.5~2cmに達したときに停止する。次いで、これを周囲温度で1時間にわたり乾燥させる。次に、これらのプレートを、110℃で15分間にわたって活性化する。いったん冷めた後、これらをアルミニウム箔で包み、光と湿度とを避けて保存する。
【0112】
- HPTLCプレート上のサンプルの堆積及びクロマトグラフィー条件
全てのサンプルを、アセトン中で可溶化し、ドラモンドキャピラリー(10μl)でHPTLCプレート上の濃縮領域上に堆積させる。BIM2b、7β-アセチル-CH及び7β-OHCHの標準範囲を使用する際、各参照分子につき0.1mg/mlのエタノールストック溶液から、これらを調製する。
【0113】
クロマトグラフィー分離を、2工程で行う:濃縮領域のための溶出系としてCHCl3:MetOH混合物(2:1、v/v)を用いる溶出前工程(3回)、その後、分離領域について、ヘキサン:エーテル混合物(3:7、v/v)を溶出系として用いて分離工程を実施し(3回)、ステロールを同定及び定量する。
【0114】
クロマトグラフィー前に、濃縮及び分離のために、タンクをそれぞれの溶出系で飽和させる。
【0115】
各溶出の間で、ヘアドライヤーからの冷空気流を用いて、プレートを乾燥させる。
【0116】
<オキシステロールの可視化及び定量>
オキシステロールを、Macala方法(1)にしたがって可視化する。Macala試薬は、8%(w/v)のオルトリン酸及び3%(w/v)の酢酸銅の水溶液からなる。クロマトグラフィー後、HPTLCプレートを乾燥させ、Macala試薬を噴霧し、そしてホットプレート上で140℃まで加熱する。オキシステロールは、プルシャンブル―になり、コレステロールは、モーブ色になる。染色された点をスキャンし、次いで、Image J(version 1.50g)で定量する。
【0117】
オキシステロール及びコレステロールの、HPTLC方法による定量を、UPLC-MSによって評価した。
【0118】
<II.2)UPLC-MS>
溶出及び検出の実験条件:
- BIM2b及び7β-OHCHの定量:
定組成溶離を、5mMの酢酸アンモニウムを含むMetOHからなる移動相で実施する。
【0119】
- 7β-アセチル-CHの定量:
溶出を、線形二成分勾配を用いて実施する。溶出液Aは、0.1%(v:v)のギ酸であり、溶出液Bは、0.1%のギ酸を含むMetOHであった。溶出を、20%のAと80%のB(v:v)との混合物で開始し、溶出液B100%で停止する;勾配の間隔は、3分間である。
【0120】
注入の容積は、10μlであり、検出を、ポジティブモードのAPCIによって実施する。
【0121】
<II.3)BIM2b及びその分解生成物の抽出及び精製>
製剤化されたBIM2b(BIM2b PO)におけるBIM2bに対する安定性試験の間のBIM2b、7β-アセチル-CH及び7β-OHCHの定量(BIM2b POのサンプルがHPTLCプレート上に直接施用される)を除き、オキシステロールの抽出及び精製は、両極端のpHの条件にさらしたBIM2b PO、BIM2 POを経管栄養で経口投与した野生型マウスの脳、並びに自然に生じたGBMを有し、経口経路によりBIM2bで処置して8ケ月生存したイヌ(GBMイヌ対象)(化学療法処置を行ってもGBMを有するイヌの平均生存は2~3ヶ月である)の剖検から得たGBM腫瘍における、これらの分子の定量のために、必須である。
【0122】
オキシステロールを、Folchらによって推奨される方法(2)によって、抽出する。抽出を、分液漏斗内で行う。簡潔には、抽出を、CHCl3:MetOH混合物(2:1、v:v;Folch)によって行う;この方法のための、Folchの容積対水性サンプルの容積の比は、19である。KClを0.74%で含む水溶液の0.2容量の有機相により、相をすすぎそして破壊する。
【0123】
BIM2b POで経口経路により処置した健康なマウスの脳又はBIM2b POで経口経路により処置したイヌのGBM腫瘍からのオキシステロールの抽出の場合、0.74% KClですすいだ有機相を、0.4容量のCHCl3:MetOH:H2O混合物(3:48:47;v:v:v;Folchの上相)で再びすすぐ。次いで、乾燥した残渣を、抽出工程後の実験方法のために、好適な溶媒中で溶解する。
【0124】
<II.4) オキシステロールの分離及び定量の前に抽出を必要とするサンプル>
- 極端な酸性pH及びその後の塩基性pHでのインキュベーションに対するBIM2b POの抵抗性の試験
これらの試験のために、BIM2b POを、まずpH1.5の酸性浴中でインキュベートし、次いで、pH8.5の塩基性浴中でインキュベートする。これらの2値は、それぞれ、ヒトの胃消化及びファーター膨大部のレベルにおける消化の生理学的pHに対応する。
【0125】
酸性水溶液浴は、1M及び0.1M HClのストック溶液から調製する。塩基性浴は、25mMの炭酸アンモニウムである。
【0126】
実験を開始する前に、4mlの酸浴(pH1.5)を含む第1ビーカーを、37℃まで加熱する;次いで、2mlのBIM2b POを、浴の表面上に静かに置く。反応混合物を、磁気棒で10時間撹拌する。撹拌をやめ、反応混合物を2時間そのままにし、油上相を正しく再形成させる。反応混合物を置いておく2時間の間に、塩基性浴(pH8.5)を、第2ビーカー内で調製し、37℃まで加熱する。1mlサンプルを、酸性浴の脂質相から取り出し、塩基性浴の水性表面に静かに置く。インキュベーション10時間にわたり、撹拌を開始する。撹拌を止めてから、混合物全体(BIM2b PO及び塩基性浴)を、有機相をFolch上相で再度洗浄することなく、Folch抽出に供する。
【0127】
- BIM2b PO(経口経路)で処置した健康なマウスの脳由来のオキシステロール及びその代謝物の抽出及び定量
乾燥させ、そして180℃にて液体窒素中でクライオチューブ内に個別に保存したマウス脳を、周囲温度に戻す。各脳を計量し、Potterに入れる;4mlの0.74%の冷KClを加え、残りの手順を氷床上で行う。各脳を、1000rev/分で6回、各回とも5分間のグラインドと5分間の休憩を行うことによって、つぶす。オキシステロールを、上で説明したとおり(II.3.)、Folch手順にしたがって、抽出する。次いで、脂質残渣を、シリカカラム上の吸着クロマトグラフィーにかける。
【0128】
シリカ(8g)を、40mlのヘキサン:エーテル混合物(ジエチルオキシド(3:7、v/v)中に調製し、次いで、適切なカラムに注ぐ。シリカ床の高さは、18cmであり、容量は15mlである。
【0129】
好適な量のマウス脳抽出物を、1mlの第1溶出系中に溶解し、シリカ床上に置く。溶出を4工程で行い、オキシステロールを含む画分を濃縮して、マウス脳に夾雑する脂質、特にコレステロールを、可能な限り取り除く。
【0130】
溶出を以下の通り進める:
第1溶出:ヘキサン:エーテル(3:7、v:v)
第2溶出:アセトン:EtOH(95:5、v:v)
第3溶出:アセトン:EtOH(93:7、v:v)
第4溶出:EtOH
【0131】
【0132】
画分の群を、乾燥するまで蒸散させ、アセトンに溶解し、適切な量をHPTLCクロマトグラフィーに供する。
【0133】
- BIM2b PO(経口経路)で処置したイヌにおけるGBM腫瘍からのBIM2b及びその代謝物の抽出及び定量
GBM腫瘍を、BIM2b POにより経口経路で処置した、神経膠芽腫を有するイヌ(8ヶ月の間良好なクオリティオブライフで生きた)の剖検から得た。剖検を、BIM2b POによる処置を停止した後21日目に行った。腫瘍を、主に組織病理学分析のためにホルマリン中に固定し、残った断片を、BIM2bの定量のために分析した。
【0134】
GBMを有さないイヌの脳の断片及び腫瘍断片の一部において、全ての確認を行って、ホルマリンによる固定が、オキシステロールの質又はそのFolch技術による抽出物中の収量を変更させないことを実証した。
【0135】
ホルマリンの浴中のクライオチューブ内に、+4℃で個別に保存したイヌ脳の断片を、ソパリン紙上で乾燥させ、その後、これらの重量を量り、Potterに入れる。マウス脳の抽出物と同様に、4mlの0.74% 冷KClを添加した後、各断片を抽出した。ホモジナイゼーション及び抽出の手順は、方法の節でマウス脳について記載したものと同じである。
【0136】
こうして、イヌGBM腫瘍断片の乾燥脂質抽出物を得、SEP PAK Classicシリカカートリッジ上に順次クロマトグラフィーした;次いで、SEP PAK Plus C18(溶出液 A=5mMの酢酸アンモニウム/超純水、及びB=5mMの酢酸アンモニウム/MetOH)上でクロマトグラフした。SEP PAKカラム上のクロマトグラフィープロセスを、
図2に示す。
【実施例】
【0137】
<C.調製の実施例及び結果>
<実施例1:脂質ビヒクルにおける試験>
試験する油は、アルガン油、アボカド油、オリーブ油、落花生油及びグレープシード油である。試験を、試験管規模で行った。
【0138】
種々の量のBIM2b(1~35mgの範囲に及ぶ)を、1mlの選択した油に数回加え、決められた量に到達した。試験管を、BIM2bの各添加の間、静かに撹拌する。
【0139】
試験管を、37℃で24時間にわたり、インキュベーターに入れる。インキュベーションの最初の5時間の間、管を、毎時間インキュベーターから出して静かに混ぜ、インキュベーターに戻して一晩置いた。翌日、油とBIM2bとの混合物の外観を視認して、粉末の油中への溶解度を決定した。BIM2bが裸眼で油中に完全に溶けたように見える場合、顕微鏡による試験を行い、粉末又は結晶の形態にあるBIM2bの存在又は不存在を確認する。
【0140】
結果は、BIM2bが、アボカド油、オリーブ油、落花生油、及びグレープシード油中に、3mgのBIM2b/ml油の濃度で完全に溶解することを示す。
【0141】
アルガン油(AO)中で、BIM2bは、30mg(52μmol)のBIM2b/ml AOの濃度まで溶解する。
【0142】
<実施例2:BIM2b POの調製>
285mlのアルガン油(Olsana、France)を、1Lフラスコ中に入れ、生産用容器として使用した。フラスコの位置を傾け、その軸の周りを手動で回し、フラスコの壁に、面積/容積比:1.6cm-1(計算結果:460cm2/285cm3)で油を均等に行きわたらせる。この位置を維持し、9gのBIM2b粉末を、壁全体にわたって取り込ませ、フラスコの表面全体を覆う。次に、30mgのクエン酸を含む3mLのエタノールを添加する(10mgのクエン酸/mlのエタノールのストック液から);次いで、12mlのエタノール(すなわち、5%のエタノール)。フラスコを、30℃の水浴中のBuchi(登録商標)R-215 斜軸式回転蒸発装置に、15rpmの速度で、2時間にわたって載せた。エタノールを蒸散させるために、次いで、30℃の水浴中で一晩蒸散させた。
【0143】
こうして、BIM2bをアルガン油中に30mg/mlの濃度で含む、300mlの組成物を得た。
【0144】
こうして得られたBIM2b PO処方物は、3%(w/v)のBIM2b、0.01%(w/v)の無水クエン酸及び1%のEtOH(v/v)(蒸散後)をアルガン油中に含み、これを以下の実施例で使用する。
【0145】
本バッチの生成の直後における、BIM2b PO中のBIM2b及びその分解生成物の定量は、何ら分解生成物のない、POの30mgのBIM2b/mlBIM2b POの濃度を示す。
【0146】
本方法によって生成されたBIM2b POバッチの安定性の研究は、実験条件下で、6ヶ月にわたる保存の後の1%の分解生成物(w/v)の存在、及び同じバッチの12か月にわたる保存の後では、2%(w/v)以下だったことを示す。
【0147】
<実施例3:BIM2b POの酸性pH及びその後の塩基性pHでのインキュベーションに対する耐性試験>
試験手順は、上の第II節)方法において記載される。
【0148】
BIM2b POの連続的な酸性(pH1.5)及び塩基性(pH8.5)浴のインキュベーション後、乾燥脂質抽出物を、アセトン中に溶解した。スペースが不足していたため(理論上15、30、40及び60μgの、4通りの追跡)、標準範囲は堆積しなかった。
【0149】
図3で示されるHPTLCからの分析結果は、堆積量に関係なく、BIM2bの一本のバンドの検出を、0.5~0.64の保持係数(Rf)と共に示す。実験的に決定した分解生成物7β-アセチル-CH及び7β-OHCH(視認できない)のRf値は、それぞれ0.37及び0.24である。これらの結果は、BIM2b POが、分解することなく、極端なpHの条件を耐えることを示す。
【0150】
<実施例4:BIM2b POの健康なマウスにおける毒性の調査>
実施例2からの組成物を、野生型マウスに動物あたり1.5mg(50μlのBIM2 PO)、1日2回、7日中5日、最大処置期間21日間で、(管により)経口投与する。並行して、野生型マウスの対照群は、何ら処置を受けなかった。
【0151】
処置群において、2匹のマウスを18日後に屠殺し、3匹のマウスを21日後後に屠殺した。対照群において、3匹のマウスを21日後に屠殺した。
【0152】
内部器官(胃、消化管、肝臓、腎臓、肺、心臓)のサンプルを、4%ホルムアルデヒド中に72時間にわたって浸漬し、4℃で保存して、パラフィン内に包埋した。サンプルは、切片化の前及び後に顕微鏡分析を経た。
【0153】
ホルムアルデヒドで固定した内部器官の組織学的実験及び毒性学的定量を、学名命名法(3)に適合した4レベル評価システムにしたがって、ヘマトキシリン-エオシン-サフランで染色した切片において実施した。
【0154】
全ての切片を、細胞変化、分解、壊死、炎症、繊維症などの、可能性のある兆候について試験した。結論を以下に示す(各器官について)。
- 胃:どの処置マウスにおいても病変なし
- 小腸:バックグラウンドノイズの一部を形成すると解釈される、リンパ形質細胞性の性質の最小の炎症。有意な病変なし。
- 大腸:どのマウスにも病変なし
- 肝臓:細胞質保存の低下及び肝細胞肥大の傾向が、対照マウスと比して、処置マウスにおいて観察された。この変化は、非常に拡散的なままであり、処置に対する確実性に寄与することはできなかった。
- 腎臓:どのマウスにおいても有意な病変は検出されなかった。
- 肺:最小の組織球増殖症及びわずかな肺胞炎症が、処置マウスの1匹にあったが、おそらくは強制経口給餌によって起きたのだろう。
- 心臓:どのマウスにも病変なし
【0155】
結論として、結果は、分子BIM2bが、何ら毒性を有さないことを示した。指定した薬量、1日2回、週5日間、週末に処置の休止でのBIM2bの投与は、望まぬ臨床効果を起こさなかった。同様に、調査した生物学的パラメータは、肝臓毒性又は腎臓毒性を示さなかった。ステロイドの投与で予測される糖尿病及び高コレステロール血症は、観察されなかった。
【0156】
<実施例5:変更なイヌにおけるBIM2b POの耐性研究>
実施例2からの組成物を、平均体重11kgの3頭のビーグル犬に、15mg(0.5ml)の割合で、1日2回(朝は食餌の後に、午後は絶食中に)、7日間のうちの5日間、21日間の処置期間で、経口投与した。
【0157】
投与した用量の計算は、投与に特異的な値に基づいており、1日に3mg/kgである。
【0158】
動物の完全な臨床試験を、D0~D21に、平日に毎日実施した:体重測定、直腸検温、一般状態、食欲。週末には(投与なしの休息期)、動物は、単純な観察のみを行い、一般状態及び行動が正常であるかを確認した。
【0159】
全血球数(FBC)及び生化学アッセイのための血液サンプルを、開始時及び処置の最後(D0及びD21)に採取した。全てのイヌが、全ての処置を受けた。イヌを試験した際、副作用は観察されなかった。
【0160】
研究の結果は、以下のとおりである:
【0161】
ステロイドの使用は体重増加を引き起こすので、イヌを、毎処置日に体重計量した。予測に反して、全てのイヌについて約4.5%の体重減少が観察された。
【0162】
コレステロール及びトリグリセリドのレベルの上昇は、検出されなかった。対照的に、これらの分子の量の低下が測定された:コレステロールについて平均で-2.3%、トリグリセリドについて平均で-30%。
【0163】
ステロイドの使用はまた、糖尿病の発症の源でもあり得る。D21において、糖血症の増大は観察されなかった。対照的に、平均12.9%のグルコースの低下が、観察された。
【0164】
行った腎臓バランス(尿素及びクレアチニン)に基づいて、3頭のイヌにおいて、腎臓毒性は、観察されなかった。
【0165】
3頭のイヌの肝臓バランス(アルブミン、タンパク質、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)及びアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)(AST/ALT比)、アルカリホスファターゼ、総ビリルビン)は、処置後、正常であった。その上、血液学的及び生化学的パラメータの有意な変化も観察されなかった。
【0166】
結果として、BIM2b PO組成物形態で投与した化合物BIM2bは、何ら毒性をもたらさなかった。30mg/mlの化合物BIM2bの薬量、1日2回、週に5日、21日間でのこの組成物の投与は、望まぬ臨床結果を生じなかった。同様に、研究したパラメータは、肝臓毒性及び腎臓毒性を実証しなかった。
【0167】
<実施例6:自然発生した神経膠腫を有するイヌ(「GBMイヌ対象」と呼ぶ)に経口経路で投与されたBIM2b POの抗GBM効力の研究>
本研究の目的は、本発明による組成物で投与された化合物BIM2bの、イヌ神経膠腫の処置における効力を、評価することであった。
【0168】
自然発生した神経膠腫を有すると画像診断された9頭のイヌを、本研究に組み込んだ。イヌを、5kgあたり日用量の3mg/kgの化合物BIM2b(実施例2からの組成物1ml)で経口により処置した。
【0169】
本研究は、21日間の5サイクル(105日間)の処置、及びその後の3ヶ月の2サイクルの観察を含む。状態及び腫瘍容積は、MRIによって評価される。
【0170】
D0日目(第1回投与)に、GBMイヌ対象を、臨床試験し、血液サンプルを、生化学的パラメータの分析のために収集する。D15に、心電図を記録し、血液サンプルを採取する。D21日目から開始して、用量を見直し、腫瘍応答及び/又は毒性に依存して、上げた(元の用量の+25%)か又は下げた(元の用量の-25%)。
【0171】
心電図、血液サンプル及びMRIを、D42、D63、D84及びD105に、次いで、処置の停止後3ヶ月後及び6ヶ月後に実施する。
【0172】
腫瘍応答を、RECIST基準(固形腫瘍における応答評価基準)に基づき、MRIによって評価する。これらの基準は、以下のような腫瘍応答を規定する。
- 進行は、以前のMRIと比較して20%を超える、腫瘍の最大軸の大きさの増大によって規定される。
- 退縮は、以前のMRIと比較して30%を超える、腫瘍の最大軸の大きさの減少によって規定される。
- 安定は、30%未満の減少と20%未満の増大との間の、腫瘍の大きさの変化によって規定される。
【0173】
<結果>
本研究は、22ヶ月続いた。組み込んだ9頭のイヌのうちの3頭は、D42に到達しなかったため、分析しなかった(特に、組み込むには疾患のステージが進みすぎていたことに起因する死)。残りの6頭のイヌの中で、2頭のイヌ(N及びG)は、D165(5.5ヶ月)及びD126(4.2ヶ月)に、それぞれ死亡した。GBMイヌ対象N由来の腫瘍を、BIM2b及びその代謝物を定量するために使用した(実施例8)。
【0174】
残りの4頭のGBMイヌ対象について、経口経路による処置には、十分に耐えていたことが見出された。臨床兆候の改善が、4頭全てのイヌについて留意された。2頭は安定なままであり、他の2頭の場合には、非常に明確な退縮が観察され、そのうちの1頭(D)においては病変がほぼ消滅した。
図4は、イヌDのD42における腫瘍の消失を示す。
【0175】
<実施例7:BIM2b POにより経口で処置されたマウスの脳におけるBIM2bの分析>
健康なマウスのBIM2b POによる経口での処置及び脳の起源を、実施例4に記載する。
【0176】
方法の節で記載したように、脳における化合物BIM2b及びその代謝物を、HPTLCによって分離し、検出し、そして定量する。結果を下の表1に示す。
【表1】
【0177】
結果は、化合物BIM2bが、本発明による組成物中のBIM2b POによって経口経路で処置されたマウスの脳において見出されることを示す。これは、化合物BIM2bが、処置された健康なマウスの血液脳関門(BBB)を通ることを示す。D22には、マウス脳におけるBIM2bの含量の顕著な低下(91.5%)とD20に処置を停止したこととの間に、明確な相関性が観察された。代謝物は、痕跡量としてのみしか見出されない。
【0178】
腫瘍性病態の場合、BBBよりもむしろ、BTB(血液腫瘍関門)に対して言及がなされる。BTBは、腫瘍の存在によって、そしてその生理学によって、弱体化する。研究は、分子がBBBをよりも容易にBTBを通ることを示す。
【0179】
BBBの通過は、したがって、BTBを通る予測としてみなされていてもよい。
【0180】
脳内で見出されるBIM2bの百分率は、マウスが摂取した全量と比較して、D18に、0.013%である。
【0181】
<実施例8:BIM2b POにより経口経路で処置されたGBMイヌ対象の腫瘍におけるBIM2bの分析>
GBM腫瘍は、実施例6におけるイヌNに由来する。
【0182】
腫瘍における化合物BIM2b及びその代謝物を、節II)方法において記載されるように、HPTLCによって分離し、検出し、そして定量する。
【0183】
結果は、分析した212.7mgの分析した腫瘍断片中に、3.7μgのBIM2が存在することを示す。腫瘍全体に見出されるBIM2bの重量百分率は、イヌが摂取したBIM2bの全量に比較して、0.39%である;すなわち、健康なマウスの脳において見出される重量百分率より、30倍高い(実施例7)。
【0184】
腫瘍の剖検を、処置をやめてから21日目に行った事実、及びBIM2bは腫瘍内でなお見出される事実は、BIM2b POに含まれる化合物BIM2bが、BTBを通って、GBM腫瘍内に優先的に見出されることを示す。
【0185】
参考文献
1. Macala,LJ,Yu RK and Ando,S.J.Lip.Res.(1983),24:1243-1250.
2. Folch,J,Lees,M and Sloane-Stanley,GH.J.Biol.Chem.(1957),226:497-509.
3. Mann PC,Vahle J.,Keenan,CM,Baker JF,Bradley,AE,Goodman,DG,Harada,T,Herbert,R,Kaufmann,W,Kellner,R,Nolte,T,Rittinghausen,S,and Tanaka,T.Toxicologic Pathology(2012),40(4 Suppl).