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▶ エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】質量分析のための試薬
(51)【国際特許分類】
   C07D 249/04 20060101AFI20240902BHJP
   C07D 249/06 20060101ALI20240902BHJP
   C07D 257/04 20060101ALI20240902BHJP
   C07D 401/04 20060101ALI20240902BHJP
   C07D 401/14 20060101ALI20240902BHJP
   C07D 403/04 20060101ALI20240902BHJP
   C07D 471/10 20060101ALI20240902BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240902BHJP
【FI】
C07D249/04 503
C07D249/06 501
C07D257/04 E
C07D257/04 P
C07D401/04 CSP
C07D401/14
C07D403/04
C07D471/10 101
G01N27/62 V
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021503801
(86)(22)【出願日】2019-07-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 EP2019069731
(87)【国際公開番号】W WO2020020851
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-07-08
(31)【優先権主張番号】18185356.5
(32)【優先日】2018-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100187540
【弁理士】
【氏名又は名称】國枝 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】ハインドル,ディーター
(72)【発明者】
【氏名】ヨーゼル,ハンス-ペーター
(72)【発明者】
【氏名】コボルト,ウーベ
(72)【発明者】
【氏名】ザイデル,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】レンプト,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ライネンバッハ,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】プレンシプ,ジュゼッペ
(72)【発明者】
【氏名】ベハー,ジルビア
(72)【発明者】
【氏名】ロイブル,ジーモン・フェルディナント
(72)【発明者】
【氏名】ガイアーマン,アンナ-スクロラン
(72)【発明者】
【氏名】ミリッチ,エレナ
(72)【発明者】
【氏名】パークル,ニコル
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-525639(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0157344(US,A1)
【文献】Journal of the American Chemical Society,2017年,Vol.139,pp.10359-10364
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
G01N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その任意の塩を含む式A
【化1】
(式中、
Xが、反応性単位であり、
L1及びL2が互いに対して独立に、置換又は無置換リンカーであり、
Yが、ニュートラルロス単位であり、
Zが、少なくとも1個の恒久的に荷電した部分を含む荷電単位である)
の化合物であって、
該化合物は以下
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
からなる群から選択される、前記化合物。
【請求項2】
請求項に記載の化合物を含む、組成物。
【請求項3】
請求項に記載の化合物又は請求項に記載の組成物を含む、キット。
【請求項4】
互いに共有結合した分析種分子と請求項に記載の化合物とを含む、共有結合付加体。
【請求項5】
請求項に記載の共有結合付加体であって、分析種分子と請求項に記載の化合物との化学反応によって形成された、前記共有結合付加体。
【請求項6】
請求項の化合物の、
又は、請求項に記載の組成物若しくは請求項に記載のキットの、
分析種分子に対する質量分析による測定のための使用。
【請求項7】
請求項に記載の使用であって、前記質量分析による測定がタンデム型質量分析による測定を含む、前記使用。
【請求項8】
請求項に記載の使用であって、前記質量分析による測定が、三連四重極デバイスにおけるタンデム型質量分析による測定を含む、前記使用。
【請求項9】
分析種分子に対する質量分析による測定のための方法であって、
(a)分析種分子を、請求項に規定された式Aの化合物と反応させ、これにより、分析種分子と請求項に記載された化合物との共有結合付加体を形成するステップと、
(b)ステップ(a)の付加体に、質量分析による分析を施すステップと、
を含む、前記方法。
【請求項10】
請求項に記載の方法であって、質量分析式分析ステップ(b)が、
(i)付加体のイオンに、質量分析による分析の第1の段階を施し、これにより、付加体のイオンを、質量/電荷(m/z)比によってキャラクタリゼーションするステップと、
(ii)付加体のイオンのフラグメンテーションを起こし、これにより、第1の中性要素、特に、分子量の低い中性要素を放出し、付加体のイオンとはm/z比が異なる付加体の娘イオンを生成するステップと、
(iii)付加体の娘イオンに、質量分析による分析の第2の段階を施し、これにより、付加体の娘イオンを、m/z比によってキャラクタリゼーションするステップを含む、前記方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、(ii)が、付加体イオンの代替的なフラグメンテーションをさらに含み、これにより、第1の中性要素とは異なる第2の中性要素を放出し、付加体の第2の娘イオンを生成し、
(iii)が、付加体の第1の娘イオン及び第2の娘イオンに、質量分析による分析の第2の段階を施し、これにより、付加体の第1の娘イオン及び第2の娘イオンを、m/z比によってキャラクタリゼーションすることをさらに含む、
前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析において使用されるのに適した試薬、並びに、前記試薬を使用する分析種分子に対する質量分析による測定の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析(MS)は、低分子から高分子に至るまでの化学物質の定性的及び定量的な分析のために幅広く使用されている技法である。一般に、質量分析は、複雑な生体試料、例えば環境試料又は臨床学的試料の分析さえも可能にする、感度が非常に高い特異的な方法である。しかしながら、いくつかの分析種に関しては、特に、血清等の複雑な生体マトリックスから分析される場合においては、測定感度が課題のままである。
【0003】
しばしば、MSは、クロマトグラフィー法、特に、ガスクロマトグラフィー、及び、例えばHPLC等の液体クロマトグラフィーと組み合わせられる。ここで、分析される着目する分子は、クロマトグラフィーによって分離され、質量分析による分析を個別に施される(Higashi et al.(2016)J.of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 130 p.181-190)。
【0004】
しかしながら、特に、存在度が低い分析種の分析を目的とする場合、又はわずかな物質(生検用組織等)しか利用できない場合においては、依然として、MS分析法の感度を高める必要性がある。
【0005】
当技術分野においては、これらの分析種に対する測定感度の改善を目的とする、いくつかの誘導体化試薬が公知である。特には、単一の機能単位として組み合わせられた荷電単位とニュートラルロス単位とを含む試薬が挙げられる(例えば、国際公開第2011/091436号パンフレット)。別個の単位を含む他の試薬は、構造が比較的大きく、これにより、試料調製及びMS測定のワークフロー全体が影響される(Rahimoff et al.(2017)J.Am.Chem.Soc.139(30),p.10359-10364)。公知の誘導体化試薬は、例えば、Cookson型試薬、Amplifex Diene、Amplifex Keto、Girard T、Girard Pである。標識効率がしばしば不十分であること、カップリング反応によって構造異性体が生成すること、イオン化効率が最適ではないこと、カップリング後のクロマトグラフィーによる分離に不利であること、フラグメンテーション経路が多数あることによりフラグメンテーション挙動が最適ではないこと、及び、高い衝突エネルギーを必要とすることを理由にして、前述の試薬のすべてには欠点がある。
【0006】
したがって、当技術分野においては、複雑な生体マトリックスから分析種を高い感度で検出することを可能にし、さらには、MS測定ワークフローに悪影響しない化学構造を示す、誘導体化試薬が喫緊に必要とされている。このような誘導体化試薬は、異なる化学的特性を示すいくつかの異なる分析種を短時間で測定しなければならないランダムアクセス方式の高スループット型MS構成においては、特に重要である。
【0007】
本発明は、生体試料に含まれるステロイド、タンパク質及び他の種類の分析種等の分析種分子を高い感度で測定することを可能にする、新規な試薬に関する。試薬は、特定の分析種を測定するときに生じる特定の必要性又は特定のワークフローの改変に応じた個別的な適合を可能にするために、モジュール式に設計されている。さらに、試薬は、可能な限り測定ワークフローに干渉しないために、特に、実際のMS測定の前に実施されるクロマトグラフィーによる濃縮プロセス及び分離プロセスに可能な限り干渉しないために、可能な限り小さくなるように設計されている。
【発明の概要】
【0008】
第1の態様において、本発明は、式A
【化1】
(式中、
Xが、特に分析種分子との間に共有結合を形成することができる反応性単位であり、
L1及びL2が互いに対して独立に、置換又は無置換リンカー、特に直鎖状リンカーであり、
Yが、ニュートラルロス単位であり、
Zが、少なくとも1個の恒久的に荷電した部分を含む荷電単位である。)
の化合物の任意の塩を含む、式Aの化合物に関する。
【0009】
第2の態様において、本発明は、本発明の第1の態様の化合物を含む、組成物に関する。
【0010】
第3の態様において、本発明は、第1の態様の化合物又は本発明の第2の態様の組成物を含む、キットに関する。
【0011】
第4の態様において、本発明は、分析種分子と、本発明の第1の態様の化合物とを含む共有結合付加体であって、特に、分析種分子と本発明の第1の態様の化合物との化学反応によって形成された、共有結合付加体に関する。
【0012】
第5の態様において、本発明は、分析種分子に対する質量分析による測定のための、本発明の第1の態様の化合物又は本発明の第2の態様の組成物又は本発明の第3の態様のキットの使用に関する。
【0013】
第6の態様において、本発明は、
(a)分析種分子を本発明の第1の態様の化合物と反応させ、これにより、分析種分子と式Aの化合物との共有結合付加体を形成するステップと、
(b)(a)の共有結合付加体に、質量分析による分析を施すステップと
を含む、分析種分子に対する質量分析による測定のための方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】標識1-テストステロン誘導体:(A)標識1-テストステロン誘導体のMSフラグメンテーション:トリアゾール基からのトリメチルアミン及びNの協奏的なニュートラルロス(Δ87Da);(B)異なる衝突エネルギーにおける標識1-テストステロン誘導体の親イオンのピーク面積(左軸、黒色の棒)及び娘イオンのピーク面積(右軸、灰色の棒);(C)30Vの衝突エネルギーにおける標識1-テストステロンのMSスペクトル。前駆イオンのm/z 483.2673、生成イオンのm/z 396.1974。
図1B】標識1-テストステロン誘導体:(A)標識1-テストステロン誘導体のMSフラグメンテーション:トリアゾール基からのトリメチルアミン及びNの協奏的なニュートラルロス(Δ87Da);(B)異なる衝突エネルギーにおける標識1-テストステロン誘導体の親イオンのピーク面積(左軸、黒色の棒)及び娘イオンのピーク面積(右軸、灰色の棒);(C)30Vの衝突エネルギーにおける標識1-テストステロンのMSスペクトル。前駆イオンのm/z 483.2673、生成イオンのm/z 396.1974。
図1C】標識1-テストステロン誘導体:(A)標識1-テストステロン誘導体のMSフラグメンテーション:トリアゾール基からのトリメチルアミン及びNの協奏的なニュートラルロス(Δ87Da);(B)異なる衝突エネルギーにおける標識1-テストステロン誘導体の親イオンのピーク面積(左軸、黒色の棒)及び娘イオンのピーク面積(右軸、灰色の棒);(C)30Vの衝突エネルギーにおける標識1-テストステロンのMSスペクトル。前駆イオンのm/z 483.2673、生成イオンのm/z 396.1974。
図2】他の試薬に対する比較0.1μg/mLのときの標識1-テストステロン、試薬A-テストステロン、Amplifex Keto-テストステロン、Girard P-テストステロン及び遊離13-テストステロンの最大強度における親イオンのピーク面積。
図3A】標識2-テストステロン誘導体(A)標識2-テストステロン誘導体のMSフラグメンテーション:トリアゾール基からのNのニュートラルロス(Δ28Da);(B)0.1μg/mLのときの標識2-テストステロン、試薬A-テストステロン、Amplifex Keto-テストステロン、Girard P-テストステロン及び遊離13-テストステロンの最大強度における親イオンのピーク面積。
図3B】標識2-テストステロン誘導体(A)標識2-テストステロン誘導体のMSフラグメンテーション:トリアゾール基からのNのニュートラルロス(Δ28Da);(B)0.1μg/mLのときの標識2-テストステロン、試薬A-テストステロン、Amplifex Keto-テストステロン、Girard P-テストステロン及び遊離13-テストステロンの最大強度における親イオンのピーク面積。
図4A】標識2-25(OH)ビタミンD3誘導体(A)標識された25-OH-ビタミンD3のLCクロマトグラム(左側)及び遊離25-OH-ビタミンD3のLCクロマトグラム(右側)、(B)標識された25-OH-ビタミンD3のMSフラグメンテーション:トリアゾール基からのNのニュートラルロス(Δ28Da)
図4B】標識2-25(OH)ビタミンD3誘導体(A)標識された25-OH-ビタミンD3のLCクロマトグラム(左側)及び遊離25-OH-ビタミンD3のLCクロマトグラム(右側)、(B)標識された25-OH-ビタミンD3のMSフラグメンテーション:トリアゾール基からのNのニュートラルロス(Δ28Da)
図5】誘導体化されていない25-(OH)ビタミンD3に対する比較0.1μg/mLのときの標識された25-OH-ビタミンD3誘導体及び遊離25-OH-ビタミンD3の最大強度における親イオンのピーク面積。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を詳細に記述する前に、本明細書において記述された特定の方法、プロトコル及び試薬は変更が可能であるため、本発明がこれらの方法、プロトコル及び試薬に限定されないことを理解すべきである。本明細書において使用されている用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図しないことも理解されるべきである。そうではないと規定されていない限り、本明細書において使用されているすべての専門用語及び科学技術用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0016】
本明細書の文面を通して、いくつかの文献が引用されている。本明細書において引用された各文献(すべての特許、特許出願、科学出版物、製造業者の仕様書、取扱説明書等を含む)は、前述したものであるか、後述するものであるかにかかわらず、その全体を参照により本明細書に組み込む。このような組み込まれた参考資料の規定又は教示の間、及び本明細書において言及された規定又は教示の間に矛盾がある場合、本明細書の文面が優先される。
【0017】
下記において、本発明の要素を記述する。これらの要素は、特定の実施形態と一緒にして列記されているが、これらの要素を、任意の様式によって任意の数だけ組み合わせて、さらなる実施形態を作り出すことも可能であることは、理解すべきである。様々な記述された例及び好ましい実施形態は、明示的に記述された実施形態にのみ本発明を限定すると解すべきでない。この記述は、明示的に記述された実施形態を、任意の数の開示された及び/又は好ましい要素と組み合わせた実施形態を裏付け、包含すると理解されるべきである。さらに、本出願において記述されたすべての要素のあらゆる順列及び組合せは、そうではないと文脈により示唆されていない限り、本出願の記述によって開示されたものとして考えられるべきである。
【0018】
定義
「含む」という語句、並びに「備える」及び「具備する」等の変更形態は、記載された整数若しくはステップ、又は整数若しくはステップの群の包含を示唆するが、他の任意の整数若しくはステップ、又は整数若しくはステップの群の排除を示唆しないと理解される。
【0019】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用されているとき、単数形「1つの」、「一」及び「前記」は、そうではないと文脈により明確に要求されていない限り、複数の参照対象を含む。
【0020】
百分率、濃度、量及び他の数値データは、本明細書において、「範囲」形式で表現又は提供されることもある。このような範囲形式は、簡潔にするために便宜上使用されているにすぎず、したがって、範囲の限界として明示的に言及された数値を含むだけでなく、当該範囲に包含されるすべての個別の数値又は部分範囲もまた、それぞれの数値及び部分範囲が明示的に言及された場合と全く同じようにして含むように柔軟に解釈されるべきであることを理解すべきである。一例示として、「4%~20%」の数値範囲は、4%~20%という明示的に言及された値を含むだけでなく、示された範囲に含まれる個別の値及び部分範囲も含むように解釈されるべきである。したがって、この数値範囲には、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、・・・18%、19%、20%等の個別の値、及び、4~10%、5~15%、10~20%等の部分範囲が含まれる。これと同じ原理は、最小値又は最大値に言及している範囲にも当てはまる。さらに、このような解釈は、記述されている範囲又は特徴の幅にかかわらず当てはまる。
【0021】
数値との関連で使用されているときの「約」という用語は、示された数値より5%小さい下限と、示された数値より5%大きい上限とを有する範囲内の数値を包含することを意味する。
【0022】
「質量分析」(「Mass Spec」又は「MS」)という用語は、質量によって化合物を同定するために使用される、分析技術に関する。MSは、質量対電荷比又は「m/z」にも基づいてイオンをフィルタにかけ、検出し、測定する方法である。MS技術は一般に、(1)化合物をイオン化して、荷電化合物を形成することと、(2)荷電化合物の分子量を検出し、質量対電荷比を計算することとを含む。化合物は、任意の適切な手段によってイオン化及び検出することができる。「質量分析計」は一般に、イオン化装置及びイオン検出器を含む。一般に、着目する1種以上の分子はイオン化され、これらのイオンは、続いて、質量分析用の機器に導入されるが、磁場と電場とが組み合わさることにより、これらのイオンは、質量(「m」)及び電荷(「z」)に応じた空間中の経路に追従する。「イオン化」又は「イオン化する」という用語は、1個以上の電子単位に等しい正味電荷を有する分析種イオンを生成するプロセスを指す。陰イオンは、1個以上の電子単位からなる正味負電荷を有する陰イオンであるが、1個以上の電子単位からなる正味正電荷を有する陽イオンである。MS法は、陰イオンが生成及び検出される「陰イオンモード」で実施することもできるし、又は陽イオンが生成及び検出される「陽イオンモード」で実施することもできる。
【0023】
「タンデム型質量分析」又は「MS/MS」は、質量分析による選別を行う複数のステップを含み、これらの段階の間には、分析種のフラグメンテーションが実施される。タンデム型質量分析計では、質量分析の第1の段階(MS1)において、イオン供給源でイオンが形成され、質量対電荷比によって分離される。特定の質量対電荷比のイオン(前駆イオン又は親イオン)が選別され、衝突によって誘起される解離、イオン-分子反応又は光解離によって、フラグメントイオン(又は娘イオン)が生成される。次いで、得られたイオンが分離され、質量分析の第2の段階(MS2)において検出される。
【0024】
MSにおける大部分の試料ワークフローは、例えば着目する分析種を、例えばガスクロマトグラフィー又は液体クロマトグラフィーを用いてマトリックスから分離する、試料調製ステップ及び/又は濃縮ステップをさらに含む。一般的に、質量分析による測定に関しては、次の3種のステップが実施される。
【0025】
1.着目する分析種を含む試料は、通常は、カチオンとの付加体の形成によってイオン化され、大抵の場合は、カチオンへのプロトン化によってイオン化される。イオン化発生源には、限定されるわけではないが、エレクトロスプレーイオン化(ESI)及び大気圧化学イオン化(APCI)が挙げられる。
【0026】
2.これらのイオンは、質量及び電荷に応じて分別及び分離される。高電界非対称波形イオン易動度スペクトロメトリー(FAIMS:High-field asymmetric-waveform ion-mobility spectrometry)を、イオンフィルタとして使用することができる。
【0027】
3.次いで、分離されたイオンが、例えば多重反応モード(MRM)で検出され、結果がチャートに表示される。
【0028】
「エレクトロスプレーイオン化」又は「ESI」という用語は、高い正電位又は負電位が端部に加えられた長さの短いキャピラリー管に沿って溶液が通される、方法を指す。キャピラリー管の端部に到達した溶液は、溶媒蒸気に取り込まれた状態の非常に小さな溶液の液滴からなるジェット又はスプレーになるように気化される(噴霧される)。この液滴のミストは、凝縮を防止し、溶媒を蒸発させるためにわずかに加熱された蒸発チャンバの中を通るように流れる。液滴がより小さくなるにつれて、表面電荷密度は、同じ電荷間の自然な反発作用によりイオン及び中性分子が放出されるときまで上昇していく。
【0029】
「大気圧化学イオン化」又は「APCI」という用語は、ESIに類似しているが、大気圧においてプラズマ中で起きるイオン-分子反応によってイオンを生成する、質量分析法を指す。プラズマは、スプレーキャピラリーと対電極との間の放電によって維持される。一般的に、イオンは次いで、差動排気される1組のスキマーステージを使用することで質量分析装置に抜き出される。予備加熱されて乾燥したNiガスの向流を使用して、溶媒の除去を改善することもできる。極性がより低い要素の分析に関しては、APCIにおける気相イオン化は、ESIより効果が高い可能性がある。
【0030】
「多重反応モード」又は「MRM」は、前駆イオン及び1種以上のフラグメントイオンが選択的に検出される、MS機器用の検出モードである。
【0031】
「タンデム型質量分析」又は「MS/MS」は、質量分析による選別を行う複数のステップを含み、これらの段階の間には、分析種のフラグメンテーションが実施される。タンデム型質量分析計では、質量分析の第1の段階(MS1)において、イオン供給源でイオンが形成され、質量対電荷比によって分離される。特定の質量対電荷比のイオン(前駆イオン又は親イオン)が選別され、衝突によって誘起される解離、イオン-分子反応又は光解離によって、フラグメントイオン(又は娘イオン)が生成される。次いで、得られたイオンが分離され、質量分析の第2の段階(MS2)において検出される。
【0032】
質量分析計は、質量がわずかに異なるイオンを分離及び検出するため、所与の元素の異なる同位体を容易に識別する。したがって、質量分析は、限定されるわけではないが分子量の低い分析種、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質が挙げられる、分析種に対する精度の高い質量測定及びキャラクタリゼーションのための重量な方法である。質量分析の用途には、タンパク質の同定及びタンパク質の翻訳後修飾の識別、タンパク質複合体、タンパク質複合体のサブユニット及びタンパク質複合体の機能的相互作用の解明、並びに、プロテオミクスにおけるタンパク質の全体的な測定が挙げられる。質量分析によるペプチド又はタンパク質の新規シーケンシング(de novo sequencing)は一般的に、アミノ酸配列に関する予備知識なしでも実施することができる。
【0033】
質量分析による測定は、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、特にHPLC等のクロマトグラフィー法及び/又はイオン易動度に基づいた分離法を含む、さらなる分析法と組み合わせることもできる。
【0034】
本開示との関連において、「分析種」、「分析種分子」又は「着目する分析種」という用語は、相互変換可能に使用されており、質量分析によって分析される化学種を指す。質量分析による分析に適した化学種、すなわち、分析種は、生物中に存在する任意の種類の分子であってよく、限定されるわけではないが、核酸(例えば、DNA、mRNA、miRNA、rRNA等)、アミノ酸、ペプチド、タンパク質(例えば、細胞表面受容体、サイトゾルタンパク質等)、代謝物質若しくはホルモン(例えば、テストステロン、エストロゲン、エストラジオール等)、脂肪酸、脂質、炭水化物、ステロイド、ケトステロイド、セコステロイド(例えば、ビタミンD)、別の分子に対する特定の修飾に特有の分子(例えば、タンパク質の糖部分又はホスホリル残基、ゲノムDNAのメチル残基)、又は、有機体に内在していた物質(例えば、治療薬、乱用薬物、毒素等)若しくはこのような物質の代謝物質が挙げられる。このような分析種は、バイオマーカーとして機能することができる。本発明との関連において、「バイオマーカー」という用語は、ある生体系に含まれており、前記生体系の生物学的状態の指標として使用される、物質を指す。
【0035】
「検出限界」又は「LOD」という用語は、バイオアナリシス用の手順により、バックグラウンドノイズから分析種を確実に区別することができる、最も低い分析種の濃度である。
【0036】
「定量化の限界」、「計量の限界」又は「LOQ」という用語は、相対標準偏差(RSD%)が20%であり、精度が80%~120%である、許容される精密さ及び精度を伴って定量的に測定することができる、最も少ない試料中の分析種の量を指す。
【0037】
分析種は、着目する試料、例えば生体試料又は臨床学的試料中に存在してもよい。「試料」又は「着目する試料」という用語は、本明細書においては相互変換可能に使用されているが、一般的にはその組織、器官又は個体より小さく、組織、器官又は個体の全体を代表するように意図された、組織、器官又は個体の一部又は一片を指す。分析のとき、試料は、組織の状態、又は器官若しくは個体の健康若しくは病気の状態に関する情報を提供する。試料の例には、限定されるわけではないが、血液、血清、血漿、滑液、髄液、尿、唾液及びリンパ液等の流体試料、又は乾燥ろ紙血及び組織抽出物等の固体試料が挙げられる。試料のさらなる例は、細胞培養物又は組織培養物である。
【0038】
本開示との関連において、試料は、「個体」又は「対象」に由来することもある。一般的に、対象は、ほ乳類である。ほ乳類には、限定されるわけではないが、飼い慣らされた動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ及びウマ)、霊長類(例えば、ヒト、及び、サル等のヒト以外の霊長類)、ウサギ及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)が挙げられる。
【0039】
質量分析によって分析される前に、試料は、試料及び/又は分析種に対して特異的な様式で前処理されてもよい。本開示との関連において、「前処理」という用語は、後で質量分析によって所望の分析種を分析するために必要な任意の手段を指す。一般的に、前処理手段には、限定されるわけではないが、固体試料の溶出(例えば、乾燥ろ紙血の溶出)、全血試料への溶血試薬(HR:hemolizing reagent)の添加、及び尿試料への酵素試薬の添加が挙げられる。さらに、内部標準(ISTD)の添加は、試料の前処理として考えられる。
【0040】
「溶血試薬(HR)という用語は、試料中に存在する細胞を溶解させる試薬を指すが、本発明との関連においては、溶血試薬は特に、限定されるわけではないが全血試料の中に存在する赤血球を含む、血液試料中に存在する細胞を溶解させる試薬を指す。周知の溶血試薬は、水(HO)である。溶血試薬のさらなる例には、限定されるわけではないが、脱イオン水、容積オスモル濃度が高い液体(例えば、8M尿素)、イオン液体及び多様な界面活性剤が挙げられる。
【0041】
一般的に、内部標準(ISTD)は、質量分析による検出ワークフロー(すなわち、あらゆる前処理、濃縮及び実際の検出ステップを含む)を施されたときに、着目する分析種に類似した特性を示す、既知量の物質である。ISTDは、着目する分析種に類似した特性を示すが、それでも、着目する分析種から明確に識別することができる。例を挙げると、ガスクロマトグラフィー又は液体クロマトグラフィー等のクロマトグラフィーによる分離中、ISTDは、試料由来の着目する分析種と概ね同じ保持時間を有する。したがって、分析種とISTDとの両方が同時に質量分析計に進入する。しかしながら、ISTDは、試料由来の着目する分析種とは異なる分子量を示す。この結果、質量/電荷(m/z)比が相異なることを用いて、ISTD由来のイオンと分析種由来のイオンとを質量分析によって識別することができるようになる。ISTD由来のイオンと分析種由来のイオンは両方とも、フラグメンテーションに供され、娘イオンを生成する。これらの娘イオンは、m/z比によって互いに識別することが可能であり、それぞれの親イオンからも識別することができる。この結果、ISTD由来のシグナル及び分析種由来のシグナルを別々に判定及び定量化することができる。ISTDは既知量で加えられてあるため、試料由来の分析種のシグナル強度は、特定の定量的な量の分析種に帰属させることができる。したがって、ISTDの添加により、分析種が質量分析計に到達したときには、検出された分析種の量を相対的に比較することが可能であり、試料中に存在する着目する分析種を明快に同定及び定量化することができる。必須ではないが一般的には、ISTDは、着目する分析種の同位体標識バリアント(例えば、H、13C又は15N等の標識を含む)。
【0042】
前処理に加えて、試料は、1種以上の濃縮ステップを施されてもよい。本開示との関連において、「第1の濃縮プロセス」又は「第1の濃縮ワークフロー」という用語は、試料の前処理に続いて実施され、初期の試料に比べて濃縮された分析種を含む試料を生成する、濃縮プロセスを指す。第1の濃縮ワークフローは、化学的沈殿(例えば、アセトニトリルを使用する)又は固相の使用を含んでもよい。適切な固相には、限定されるわけではないが、固相抽出(SPE)カートリッジ及びビーズが挙げられる。ビーズは、非磁性であってもよいし、磁性であってもよいし、又は常磁性であってもよい。ビーズは、着目する分析種に対して特異的になるように様々にコーティングすることができる。コーティングは、所期の使用、すなわち、所期の捕捉分子に応じて様々であり得る。どのコーティングがどの分析種に適するかは、当業者に周知である。ビーズは、相異なる様々な材料から製造することができる。ビーズは、様々なサイズを有することができ、細孔のある表面又は細孔のない表面を備える。
【0043】
本開示との関連において、「第2の濃縮プロセス」又は「第2の濃縮ワークフロー」という用語は、試料の前処理及び第1の濃縮プロセスに続いて実施され、初期の試料及び第1の濃縮プロセス後の試料に比べて濃縮された分析種を含む試料を生成する、濃縮プロセスを指す。
【0044】
「クロマトグラフィー」という用語は、化学成分が液体若しくは固体の固定相の周りを流れ、又は液体若しくは固体の固定相を覆うように流れ去ったときに、化学成分が差異をつけて分配される結果として、液体又は気体によって運搬された化学混合物が各種成分に分離される、プロセスを指す。
【0045】
「液体クロマトグラフィー」又は「LC」という用語は、微細に分けられた物質のカラム又はキャピラリーの中を通って流体が一様に浸透していくにつれて、流体溶液の1種以上の成分を選択的に減速させる、プロセスを指す。この減速は、バルク流体が1種以上の固定相(すなわち、移動相)に対して移動するにつれて、固定相とバルク流体(すなわち、移動相)との間で混合物の成分が分配されることによって起きる。固定相の極性が移動相の極性より高い方法(例えば、移動相としてのトルエンと、固定相としてのシリカ)は、順相液体クロマトグラフィー(NPLC)と呼ばれ、固定相の極性が移動相の極性より低い方法(例えば、移動相としての水-メタノール混合物と、固定相としてのC18(オクタデシルシリル))は、逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)と呼ばれる。
【0046】
「高速液体クロマトグラフィー」又は「HPLC」は、圧力をかけながら移動相を固定相、典型的には、高密度に充填されたカラムに通すことによって分離度が高められた、液体クロマトグラフィーの方法を指す。一般的に、カラムは、不規則形状又は球状の粒子、多孔性モノリス層又は多孔性メンブレンから構成される固定相を充填されている。HPLCは、歴史的には、移動相及び固定相の極性に基づいて、異なる2種のサブクラスに分けられている。固定相の極性が移動相の極性より高い方法(例えば、移動相としてのトルエンと、固定相としてのシリカ)は、順相液体クロマトグラフィー(NPLC)と呼ばれ、この反対(例えば、移動相としての水-メタノール混合物と、固定相としてのC18(オクタデシルシリル))は、逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)と呼ばれる。Micro LCは、小さいカラム内径、一般的には1mm未満、例えば約0.5mmのカラム内径を有するカラムを使用する、HPLC法を指す。「超高速液体クロマトグラフィー」又は「UHPLC」は、120MPa(17,405lbf/in2)の圧力又は約1200気圧を用いる、HPLC法を指す。ラピッドLC(Rapid LC)は、上記内径と、2cm未満の短い長さ、例えば1cmとを有するカラムを使用し、上記流量及び上記圧力(Micro LC、UHPLC)を採用する、LC法を指す。ショートラピッドLCプロトコル(short Rapid LC protocol)は、単一の分析カラムを使用するトラッピング/洗浄/溶出ステップを含み、1分未満の非常に短い時間でLCを実現する。
【0047】
さらなる周知のLC変更形態には、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)、サイズ排除LC、イオン交換LC及びアフィニティLCが挙げられる。
【0048】
LC分離は、シングルチャネル型LCであってもよいし、又は、平行に配置された複数のLCチャネルを含むマルチチャネル型LCであってもよい。当業者には一般に公知のように、LCにおいて、分析種は、極性又はlog P値、サイズ又はアフィニティに応じて分離することができる。
【0049】
本発明との関連において、「化合物」という用語は、特定の化学構造を有する化学物質を指す。前記化合物は、1種以上の機能単位を含んでもよい。各単位は、異なる機能を果たすこともできるし、又は2種以上の機能単位が同じ機能を果たしてもよい。機能性単位には、限定されるわけではないが、反応性単位、荷電単位及びニュートラルロス単位が挙げられる。
【0050】
「ニュートラルロス単位」という用語は、電荷を有さない要素を解き放つことができる、すなわち、中性要素を放出することができる、単位を指す。一般的に、中性要素は、単一の原子又は複数の原子を含む。ニュートラルロス単位は、中性であってもよいし、正に荷電していてもよいし、又は負に荷電していてもよい。ニュートラルロス単位は、MSの条件下においては、例えば衝突誘起解離(CID)に供された場合においては、例えば三連四重極MSにおいては、フラグメンテーションされ、これにより、少なくとも1個の中性要素を放出することができる。中性要素の放出後、ニュートラルロス単位の残り部分は、元々の電荷のままである。したがって、ニュートラルロス単位が荷電していない場合、ニュートラルロス単位は、中性要素の喪失後も中性のままである。ニュートラルロス単位が正に荷電している場合、ニュートラルロス単位は、中性要素の喪失後も正のままである。ニュートラルロス単位が負に荷電している場合、ニュートラルロス単位は、中性要素の喪失も負のままである。必須ではないが一般的には、1個の中性要素が放出される。しかしながら、やはり、1個より多い中性要素が放出されてもよい。このような1個より多い中性要素の放出は、単一のフラグメンテーション事象(すなわち、2個以上の中性要素要素が同時に放出される)において起きてもよいし、又は、引き続いて起きる2つ以上のフラグメンテーション事象(最初に、1個の中性要素が放出され、続いて、1個以上のさらなる中性要素が放出される)。
【0051】
「フラグメンテーション」という用語は、単一の分子が、2個以上の別個の分子に解離することを指す。本明細書において使用されているとき、フラグメンテーションという用語は、フラグメンテーション事象が起きる親分子中の破壊点が明確であり、フラグメンテーション事象から生じる2個以上の娘分子が明確な特徴を定められている、特定のフラグメンテーション事象を指す。どのようにして親分子の破壊点及び得られる2個以上の娘分子を判定するかについては、当業者に周知である。得られた娘分子は、安定なものであってもよいし、又は後続するフラグメンテーション事象のときに解離してもよい。例を挙げると、フラグメンテーションを受ける親分子がトリアゾール単位又はテトラゾール単位を含む場合、当業者は、その親分子の全体構造に基づいて、トリアゾール単位又はテトラゾール単位がフラグメント化して、N2要素を放出するかを判定することが可能であり、すなわち、得られる娘分子は、N2分子と、N2を失った親分子(トリアゾール単位又はテトラゾール単位の残り部分を依然として含む)である。フラグメンテーションは、衝突誘起解離(CID)、電子捕獲解離(ECD)、電子移動解離(ETD)、負電子解離解離(NETD)、電子脱離解離(EDD)、光解離、特に赤外多光子解離解離(IRMPD)及び黒体赤外放射解離解離(BIRD)、表面誘起解離(SID)、高エネルギーCトラップ解離(HCD)、チャージリモートフラグメンテーションによって起き得る。
【0052】
「反応性単位」という用語は、別の分子と反応することができる単位、すなわち、着目する分析種等の別の分子と共有結合を形成することができる単位を指す。一般的に、このような共有結合は、他の分子中に存在する化学基との間に形成される。したがって、化学反応のとき、化合物の反応性単位は、分析種分子中に存在する適切な化学基との間に共有結合を形成する。この分析種分子中に存在する化学基が、化合物の反応性単位と反応する機能を果たすとき、分析種分子中に存在する化学基もまた、分析種の「官能基」と呼ばれる。共有結合の形成は、いずれの場合においても化学反応中に起き、新たな共有結合が反応性基の原子と、分析種の官能基との間に形成される。反応性基と分析種の官能基との間に共有結合を形成するとき、この化学反応中に原子が失われることは、当業者に周知である。
【0053】
「荷電単位」という用語は、荷電した部分を含む、化合物の単位を指す。電荷は、恒久的なものであってもよいし、又は周囲の状態に応じて変化してもよい。一般的に、電荷は、正又は負である。荷電単位が少なくとも1個の恒久的に荷電した部分を含む場合、電荷は、周囲の状態に応じて変化しないと考えられ、例えば、pH値の変化は、恒久的に荷電した単位の電荷の変化につながらない。
【0054】
化合物に属する異なる機能単位どうしは、リンカーによって接続されていてもよい。リンカーという用語は、一般的に置換又は無置換アルキル単位を含む、分岐状又は無分岐状の化学構造を指すが、任意選択により、1種以上のヘテロ原子をさらに含んでもよい。リンカーは、化合物に含まれる異なる機能単位を接続する。一般的に、無分岐状リンカーは、1つの化合物中にある2個の機能単位を接続し、すなわち、無分岐状リンカーは、二官能性リンカー又は直鎖状リンカーとも呼ばれることがある。分岐状リンカーは、前記リンカーが分岐を何個含むかに応じて、3個、4個又は5個以上の機能単位を含むことができる。
【0055】
本開示との関連において、「付加体」という用語は、化合物と分析種分子との反応によって生成された生成物を指す。この反応により、化合物と分析種との共有結合の形成が起きる。したがって、付加体という用語は、分析種分子との反応によって形成された、共有結合した反応生成物を指す。
【0056】
「キット」は、少なくとも1種の試薬、例えば、障害の処置のための医薬、又は本発明のバイオマーカー遺伝子又はタンパク質を特異的に検出するためのプローブを含む、任意の製品(例えば、包装又は容器)である。キットは好ましくは、本発明の方法を実施するための単位として奨励、流通又は販売される。一般的に、キットは、バイアル及びチューブ等の1種以上の容器手段を、隙間なく閉じ込めた状態にして受け入れるように区画化された、担体手段をさらに含んでもよい。特に、容器手段のそれぞれは、第1の態様の方法において使用される別個の要素のうちの1つを含む。キットは、限定されるわけではないがバッファー、希釈剤、フィルタ、針、シリンジ、及び、使用のための取扱説明書と一緒にした添付文書が挙げられるさらなる用具を含む、1種以上の他の容器をさらに含んでもよい。標識は、組成物が特定の用途のために使用されることを示すために容器に存在してもよいし、インビボでの使用又はインビトロでの使用に関する指示を示していてもよい。コンピュータプログラムコードは、光記録媒体(例えば、コンパクトディスク)等のデータ記録媒体若しくはデータ記録デバイスに用意されてもよいし、又は、コンピュータ若しくはデータ処理デバイスに直接用意されてもよい。さらに、キットは、較正を目的として、本明細書の他の場所において記述されたバイオマーカーに関する標準的な量を含んでもよい。
【0057】
「添付文書」は、治療用製品又は医薬の商用包装に慣例的に含まれる取扱説明書を指すために使用されており、この取扱説明書は、適応症、使用、投薬量、投与、禁忌、前述の包装された製品と併用すべき他の治療用製品、及び/又は、治療用製品若しくは医薬等の使用に関する警告についての情報を収載している。
【0058】
実施形態
第1の態様において、本発明は、式A
【化2】
(式中、
Xが、特に分析種分子との間に共有結合を形成することができる反応性単位であり、
L1及びL2が互いに対して独立に、置換又は無置換リンカー、特に直鎖状リンカーであり、
Yが、ニュートラルロス単位であり、
Zが、少なくとも1個の恒久的に荷電した部分、特に恒久的に荷電した1個の部分を含む荷電単位である。)
の化合物の任意の塩を含む、式Aの化合物に関する。
【0059】
本発明の第1の態様の実施形態において、本発明による式Aの化合物は、分析種分子と反応することができる反応性単位Xを含む。反応性単位Xは、式Aの化合物と分析種分子との共有結合が形成されるように、分析種分子と反応することができる。本発明の第1の態様の実施形態において、反応性単位Xは、式Aの化合物との間に共有結合を形成する。特に、共有結合は、式Aの化合物の反応性単位Xと、分析種分子中に存在する官能基との間に形成される。
【0060】
測定すべき分析種分子中の官能基に応じて、当業者は、式Aの化合物に適した反応性単位Xを選択する。どの反応性単位Xが着目する分析種の官能基への結合に適するかは、常識に含まれる。
【0061】
本発明の第1の態様の実施形態において、分析種分子は、それぞれが式Aの化合物の反応性単位Xとの間に共有結合を形成することができる、カルボニル基、ジエン基、ヒドロキシル基、アミン基、イミン基、チオール基、ジオール基、フェノール基、エポキシド基、ジスルフィド基及びアジド基からなる群より選択される官能基を含む。さらに、分析種分子に存在する官能基が、式Aの化合物の反応性単位Xとの反応のためにより容易に利用することができる別の基に最初に変換されることもまた、本発明の範囲に想定されている。
【0062】
本発明の第1の態様の実施形態において、分析種分子は、ステロイド、ケトステロイド、セコステロイド、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、炭水化物、脂肪酸、脂質、ヌクレオシド、ヌクレオチド、核酸、並びに、低分子代謝物質及び補因子を含む他の生体分子、並びに、治療薬、乱用薬物、毒素又はこれらの代謝物質からなる群より選択される。
【0063】
本発明の第1の態様の実施形態において、分析種分子は、カルボン酸基、アルデヒド基、ケト基、マスキングされたアルデヒド、マスキングされたケト基、エステル基、アミド基及び無水物基からなる群より選択される官能基としてのカルボニル基を含む。
【0064】
カルボニル基がアミド基である、本発明の第1の態様の実施形態において、当業者は、アミド基そのものは安定な基であるが、アミド基を加水分解して、アミド基をカルボン酸基及びアミノ基に変換できることを熟知している。アミド基の加水分解は、酸又は塩基を触媒とする反応又は酵素的プロセスによって達成することが可能であり、これらは両方とも、当業者に周知である。カルボニル基が、マスキングされたアルデヒド基又はマスキングされたケト基である、本発明の第1の態様の実施形態において、各カルボニル基は、ヘミアセタール基又はアセタール基、特に環状ヘミアセタール基又は環状アセタール基である。本発明の第1の態様の実施形態において、アセタール基は、式Aの化合物との反応前にアルデヒド基又はケト基に変換される。
【0065】
本発明の第1の態様の実施形態において、カルボニル基は、ケト基である。本発明の第1の態様の実施形態において、ケト基は、式Aの化合物の反応性単位との反応前に中間体イミン基中に移転されてもよい。本発明の第1の態様の実施形態において、1種以上のケト基を含む分析種分子は、ケトステロイドである。本発明の第1の態様の特定の実施形態において、ケトステロイドは、テストステロン、エピテストステロン、ジヒドロテストステロン(DHT)、デソキシメチルテストステロン(DMT)、テトラヒドロゲストリノン(THG)、アルドステロン、エストロン、4-ヒドロキシエストロン、2-メトキシエストロン、2-ヒドロキシエストロン、16-ケトエストラジオール、16α-ヒドロキシエストロン、2-ヒドロキシエストロン-3-メチルエ-テル、プレドニゾン、プレドニゾロン、プレグネノロン、プロゲステロン、DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)、17-OHプレグネノロン、17-OHプロゲステロン、17-OHプロゲステロン、アンドロステロン、エピアンドロステロン及びΔ4アンドロステンジオン)11-デソキシコルチゾール コルチコステロン、21-デオキシコルチゾール、11-デオキシコルチコステロン、アロプレグナノロン及びアルドステロンからなる群より選択される。
【0066】
本発明の第1の態様の実施形態において、カルボニル基は、カルボキシル基である。本発明の第1の態様の実施形態において、カルボキシル基は、式Aの化合物と直接反応し、又は、式Aの化合物との反応前に活性化エステル基に変換される。本発明の第1の態様の実施形態において、1個以上のカルボキシル基を含む分析種分子は、Δ8-テトラヒドロカンナビノール酸、ベンゾイルエクゴニン、サリチル酸、2-ヒドロキシ安息香酸、ガバペンチン、プレガバリン、バルプロ酸、バンコマイシン、メトトレキサート、ミコフェノール酸、モンテルカスト、レパグリニド、フロセミド、テルミサルタン、ゲムフィブロジル、ジクロロフェナク、イブプロフェン、インドメタシン、ゾメピラク、イソキセパック及びペニシリンからなる群より選択される。本発明の第1の態様の実施形態において、1個以上のカルボキシル基を含む分析種分子は、アルギニン、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン、アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、バリン、プロリン及びグリシンからなる群より選択されるアミノ酸である。
【0067】
本発明の第1の態様の実施形態において、カルボニル基は、アルデヒド基である。本発明の第1の態様の実施形態において、アルデヒド基は、式Aの化合物の反応性単位との反応前に中間体イミン基中に移転されてもよい。本発明の第1の態様の実施形態において、1個以上のアルデヒド基を含む分析種分子は、ピリドキサール、N-アセチル-D-グルコサミン、アルカフタジン、ストレプトマイシン、ジョサマイシンからなる群より選択される。
【0068】
本発明の第1の態様の実施形態において、カルボニル基は、カルボニルエステル基である。本発明の第1の態様の実施形態において、1個以上のエステル基を含む分析種分子は、コカイン、ヘロイン、リタリン、アセクロフェナク、アセチルコリン、アムシノニド、アミロキサート、アミロカイン、アニレリジン、アラニジピン及びアルテスネイト、ペチジンからなる群より選択される。
【0069】
本発明の第1の態様の実施形態において、カルボニル基は、無水物基である。本発明の第1の態様の実施形態において、1種以上の無水物基を含む分析種分子は、カンタリジン、無水コハク酸、トリメリット酸無水物及び無水マレイン酸からなる群より選択される。
【0070】
本発明の第1の態様の実施形態において、分析種分子は、官能基としての1個以上のジエン基、特に共役ジエン基を含む。本発明の第1の態様の実施形態において、1個以上のジエン基を含む分析種分子は、セコステロイドである。複数の実施形態において、セコステロイドは、コレカルシフェロール(ビタミンD3)、エルゴカルシフェロール(ビタミンD2)、カルシジオール、カルシトリオール、タキステロール、ルミステロール及びタカルシトールからなる群より選択される。特に、セコステロイドは、ビタミンD、特にビタミンD2若しくはD3又はこれらの誘導体である。特定の実施形態において、セコステロイドは、ビタミンD2、ビタミンD3、25-ヒドロキシビタミンD2、25-ヒドロキシビタミンD3、3-Epi-25-ヒドロキシビタミンD2、3-Epi-25-ヒドロキシビタミンD3、1,25-ジヒドロキシビタミンD2、1,25-ジヒドロキシビタミンD3、24,25-ジヒドロキシビタミンD2及び24,25-ジヒドロキシビタミンD3、ビタミンA、トレチノイン、イソトレチノイン、アリトレチノイン、ナタマイシン、シロリムス、アムホテリシンB、ナイスタチン、エベロリムス、テムシロリムス、フィダキソマイシンからなる群より選択される。
【0071】
本発明の第1の態様の実施形態において、分析種分子は、官能基としての1個以上のヒドロキシル基を含む。本発明の第1の態様の実施形態において、分析種分子は、単一のヒドロキシル基又は2個のヒドロキシル基を含む。1個より多いヒドロキシル基が存在する実施形態において、2個のヒドロキシル基は、互いに隣り合うように配置されていてもよいし(1,2ジオール)、又は、1個、2個若しくは3個のC原子によって隔てられていてもよい(それぞれ1,3-ジオール、1,4-ジオール、1,5-ジオール)。第1の態様の特定の実施形態において、分析種分子は、1,2ジオール基を含む。1個のみのヒドロキシル基が存在する、複数の実施形態において、前記分析種は、第一級アルコール、第二級アルコール及び第三級アルコールからなる群より選択される。分析種分子が1個以上のヒドロキシル基を含む、本発明の第1の態様の実施形態において、分析種は、ベンジルアルコール、メントール、L-カルチニン、ピリドキシン、メトロニダゾール、イソソルビドモノニトレート、グアイフェネシン、クラブラネート、ミギトール、ザルシタビン、イソプレナリン、アシクロビル、メトカルバモール、トラマドール、ベンラファキシン、アトロピン、クロフェダノール、α-ヒドロキシアルプラゾラム、α-ヒドロキシトリアゾラム、ロラゼパム、オキサゼパム、テマゼパム、エチルグルクロニド、エチルモルヒネ、モルヒネ、モルヒネ-3-グルクロニド、ブプレノルフィン、コデイン、ジヒドロコデイン、p-ヒドロキシプロポキシフェン、O-デスメチルトラマドール、ジヒドロキニジン、キニジンからなる群より選択される。分析種分子が1個より多いヒドロキシル基を含む、本発明の第1の態様の実施形態において、分析種は、ビタミンC、グルコサミン、マンニトール、テトラヒドロビオプテリン、シタラビン、アザシチジン、リバビリン、フロクスウリジン、ゲムシタジン、ストレプトゾシン、アデノシン、ビダラビン、クラドリビン、エストリオール、トリフルリジン、クロファラビン、ナドロール、ザナミビル、ラクツロース、アデノシンモノホスフェート、イドクスウリジン、レガデノソン、リンコマイシン、クリンダマイシン、カナグリフロジン、トブラマイシン、ネチルマイシン、カナマイシン、チカグレロル、エピルビシン、ドキソルビシン、アルベカシン、ストレプトマイシン、ウアバイン、アミカシン、ネオマイシン、フラミセチン、パロモマイシン、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、ビンデシン、ジギトキシン、ジゴキシン、メトリザミド、アセチルジギトキシン、デスラノシド、フルダラビン、クロファラビン、ゲムシタビン、シタラビン、カペシタビン、ビダラビン、トリフルリジン、イドクスウリジン及びプリカマイシンからなる群より選択される。
【0072】
本発明の第1の態様の実施形態において、分析種分子は、官能基としての1個以上のチオール基(限定されるわけではないが、アルキルチオール基及びチオールアリール基が挙げられる)を含む。本発明の第1の態様の実施形態において、1個以上のチオール基を含む分析種分子は、チオマンデル酸、DL-カプトプリル、DL-チオルファン、N-アセチルシステイン、D-ペニシラミン、グルタチオン、L-システイン、ゾフェノプリラト、チオプロニン、ジメルカプロール、サクシマーからなる群より選択される。
【0073】
本発明の第1の態様の実施形態において、分析種分子は、官能基としての1個以上のジスルフィド基を含む。本発明の第1の態様の実施形態において、1個以上のジスルフィド基を含む分析種分子は、グルタチオンジスルフィド、ジピリチオン、硫化セレン、ジスルフィラム、リポ酸、L-シスチン、フルスルチアミン、オクトレオチド、デスモプレシン、バプレオチド、テルリプレシン、リナクロチド、ペギネサチドからなる群より選択される。
【0074】
本発明の第1の態様の実施形態において、分析種分子は、官能基としての1個以上のエポキシド基を含む。本発明の第1の態様の実施形態において、1個以上のエポキシド基を含む分析種分子は、カルバマゼピン10,11エポキシド、カルフィルゾミブ、フロセミドエポキシド及びホスホマイシン、セベラマー、セルレニン、スコポラミン、チオトロピウム、メチルスコポラミン臭化物、エプレレノン、ムピロシン、ナタマイシン、カルフィルゾミブ、トロレアンドマイシンからなる群より選択される。
【0075】
本発明の第1の態様の実施形態において、分析種分子は、官能基としての1個以上のフェノール基を含む。本発明の第1の態様の特定の実施形態において、1個以上のフェノール基を含む分析種分子は、ステロイド又はステロイド化合物である。本発明の第1の態様の実施形態において、1個以上のフェノール基を含む分析種分子は、sp混成したA環と、A環の3位にあるOH基とを有する、ステロイド又はステロイド様化合物である。本発明の第1の態様の特定の実施形態において、ステロイド又はステロイド様分析種分子は、エストロゲン、エストロゲン様化合物、エストロン(El)、エストラジオール(E2)、17a-エストラジオール、17p-エストラジオール、エストリオール(E3)、16-エピエストリオール、17-エピエストリオール及び16,17-エピエストリオール、並びに/又はこれらの代謝物質からなる群より選択される。複数の実施形態において、代謝物質は、エストリオール、16-エピエストリオール(16-epiE3)、17-エピエストリオール(17-epiE3)、16,17-エピエストリオール(16,17-epiE3)、16-ケトエストラジオール(16-ketoE2)、16a-ヒドロキシエストロン(16a-OHEl)、2-メトキシエストロン(2-MeOEl)、4-メトキシエストロン(4-MeOEl)、2-ヒドロキシエストロン-3-メチルエ-テル(3-MeOEl)、2-メトキシエストラジオール(2-MeOE2)、4-メトキシエストラジオール(4-MeOE2)、2-ヒドロキシエストロン(20HE1)、4-ヒドロキシエストロン(4-OHE1)、2-ヒドロキシエストラジオール(2-OHE2)、エストロン(El)、エストロンスルフェート(Els)、17a-エストラジオール(E2a)、17p-エストラジオール(E2b)、エストラジオールスルフェート(E2s)、エキリン(EQ)、17a-ジヒドロエキリン(EQa)、17p-ジヒドロエキリン(EQb)、エキレニン(EN)、17-ジヒドロエキレニン(ENa)、17β-ジヒドロエキレニン(ENb)、A8,9-デヒドロエストロン(dEl)、A8,9-デヒドロエストロンスルフェート(dEls)、Δ9-テトラヒドロカンナビノール、ミコフェノール酸からなる群より選択される。
【0076】
本発明の第1の態様の実施形態において、分析種分子は、官能基としてのアミン基を含む。本発明の第1の態様の実施形態において、アミン基は、アルキルアミン又はアリールアミン基である。本発明の第1の態様の実施形態において、1個以上のアミン基を含む分析種は、タンパク質及びペプチドからなる群より選択される。本発明の第1の態様の実施形態において、アミン基を含む分析種分子は、3,4-メチレンジオキシアンフェタミン、3,4-メチレンジオキシ-N-エチレンアンフェタミン、3,4-メチレンジオキシメタフェタミン、アンフェタミン、メタンフェタミン、N-メチル-1,3-ベンゾジオキソリルブタンアミン、7-アミノクロナゼパム、7-アミノフルニトラゼパム、3,4-ジメチルメトカチノン、3-フルオロメトカチノン、4-メトキシメトカチノン、4-メチルエトカチノン、4-メチルメトカチノン、アンフェプラモン、ブチロン、エトカチノン、フレフェドロン、メトカチノン、メチロン、メチレンジオキシピロバレロン、ベンゾイルエクゴニン、デヒドロノルケタミン、ケタミン、ノルケタミン、メサドン、ノルメサドン、6-アセチルモルヒネ、ジアセチルモルヒネ、モルヒネ、ノルヒドロコドン、オキシコドン、オキシモルフォン、フェンサイクリジン、ノルプロポキシフェン、アミトリプチリン、クロミプラミン、ドチエピン、ドキセピン、イミプラミン、ノルトリプチリン、トリミプラミン、フェンタニル、グリシルキシリジド、リドカイン、モノエチルグリシルキシリジド、N-アセチルプロカインアミド、プロカインアミド、プレガバリン、2-メチルアミノ-1-(3,4-メチレンジオキシフェニル)ブタン、2-アミノ-1-(3,4-メチレンジオキシフェニル)ブタン、ノルメペリジン、O-デストラマドール、トラマドール、リドカイン、N-アセチルプロカインアミド、プロカインアミド、ガバペンチン、ラモトリギン、テオフィリン、アミカシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、バンコマイシン、メトトレキサート、ガバペンチン、シソマイシン及び5-メチルシトシンからなる群より選択される。
【0077】
本発明の第1の態様の実施形態において、分析種分子は、炭水化物であり、又は、炭水化物部分、例えば糖タンパク質若しくはヌクレオシドを有する物質である。本発明の第1の態様の実施形態において、分析種分子は、特にリボース、デソキシリボース、アラビノース、リブロース、グリコース、マンノース、ガラクトース、フコース、フルクトース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、ノイラミン酸、N-アセチルノイラミン酸等からなる群より選択される単糖である。複数の実施形態において、分析種分子は、二糖、三糖、四糖、多糖からなる群より選択されるオリゴ糖である。本発明の第1の態様の実施形態において、二糖は、スクロース、マルトース及びラクトースからなる群より選択される。本発明の第1の態様の実施形態において、分析種分子は、上記単糖部分、二糖部分、三糖部分、四糖部分、オリゴ糖部分又は多糖部分を含む物質である。
【0078】
本発明の第1の態様の実施形態において、分析種分子は、アルキルアジド又はアリールアジドからなる群より選択される官能基としてのアジド基を含む。本発明の第1の態様の実施形態において、1個以上のアジド基を含む分析種分子は、ジドブジン及びアジドシリンからなる群より選択される。
【0079】
このような分析種分子は、体液、例えば血液、血清、血漿、尿、唾液、髄液等や、組織抽出物又は細胞抽出物等、生体試料又は臨床学的試料中に存在してもよい。本発明の第1の態様の実施形態において、分析種分子は、血液、血清、血漿、尿、唾液、髄液及び乾燥ろ紙血からなる群より選択される生体試料又は臨床学的試料中に存在する。本発明の第1の態様の一部の実施形態において、分析種分子は、精製又は部分的に精製された試料、例えば、精製又は部分的に精製されたタンパク質混合物又はタンパク質抽出物である試料中に存在してもよい。
【0080】
本発明の第1の態様の実施形態において、反応性単位Xは、カルボニル反応性単位、ジエン反応性単位、ヒドロキシル反応性単位、アミノ反応性単位、イミン反応性単位、チオール反応性単位、ジオール反応性単位、フェノール反応性単位、エポキシド反応性単位、ジスルフィド反応性単位及びアジド反応性単位からなる群より選択される。
【0081】
本発明の第1の態様の実施形態において、反応性単位Xは、カルボニル基を有する任意の種類の分子と反応することができるカルボニル反応性単位である。本発明の第1の態様の実施形態において、カルボニル反応性単位は、カルボキシル反応性単位、ケト反応性単位、アルデヒド反応性単位、無水物反応性単位、カルボニルエステル反応性単位及びイミド反応性単位からなる群より選択される。本発明の第1の態様の実施形態において、カルボニル反応性単位は、隣接するO原子若しくはN原子によるα効果によって強化された超求核性N原子NH2-N/O又はジチオール分子を有することができる。本発明の第1の態様の実施形態において、カルボニル反応性単位は、
(i)ヒドラジン単位、例えば、HN-NH-単位又はHN-NR-単位、(式中、Rが、アリール、1個以上のヘテロ原子を含有するアリール又はC1-4アルキルであり、特にC又はCアルキルであり、任意選択により例えばハロ、ヒドロキシル及び/又はC1-3アルコキシによって置換されていてもよい。)、
(ii)ヒドラジド単位、特にカルボヒドラジド単位又はスルホヒドラジド単位、特にHN-NH-C(O)-単位又はHN-NR-C(O)-単位(式中、Rが、アリール、1個以上のヘテロ原子を含有するアリール又はC1-4アルキルであり、特にC又はCアルキルであり、任意選択により例えばハロ、ヒドロキシル及び/又はC1-3アルコキシによって置換されていてもよい。)、
(iii)ヒドロキシルアミノ単位、例えばHN-O-単位及び
(iv)ジチオール単位、特に1,2-ジチオール単位又は1,3-ジチオール単位
の群より選択される。
【0082】
カルボニル反応性単位がカルボキシル反応性単位である、本発明の第1の態様の実施形態において、カルボキシル反応性単位は、分析種分子にあるカルボキシル基と反応する。本発明の第1の態様の実施形態において、カルボキシル反応性単位は、ジアゾ単位、アルキルハライド、アミン及びヒドラジン単位からなる群より選択される。
【0083】
本発明の第1の態様の実施形態において、反応性単位Xは、ジエン基を含む分析種と反応することができるジエン反応性単位である。本発明の第1の態様の実施形態において、ジエン反応性単位は、ジエノフィルとして作用することができるCookson型試薬、例えば1,2,4-トリアゾリン-3,5-ジオンからなる群より選択される。
【0084】
本発明の第1の態様の実施形態において、反応性単位Xは、ヒドロキシル基を含む分析種と反応することができるヒドロキシル反応性単位である。本発明の第1の態様の実施形態において、ヒドロキシル反応性単位は、フッ素の求核置換(T.Higashi J Steroid Biochem Mol Biol.2016 Sep;162:57-69)を可能とするスルホニルクロリド、活性化されたカルボン酸エステル(NHS又はイミダゾリン)及びフルオロアロメート/ヘテロアロメートからなる群より選択される。本発明の第1の態様の実施形態において、反応性単位Xは、分析種分子にあるジオール基と反応するジオール反応性単位である。反応性単位が1,2ジオール反応性単位である、本発明の第1の態様の実施形態において、1,2ジオール反応性単位は、ボロン酸を含む。さらなる実施形態において、ジオールを対応するケトン又はアルデヒドに酸化し、次いで、ケトン/アルデヒド反応性単位Xと反応させることができる。
【0085】
本発明の第1の態様の実施形態において、アミノ反応性単位は、分析種分子にあるアミノ基と反応する。本発明の第1の態様の実施形態において、アミノ反応性単位は、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル又はスルホ-NHSエステル、ペンタフルオロフェニルエステル、カルボニルイミダゾールエステル、四角酸エステル、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)エステル、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)エステル等の活性エステル基及びスルホニルクロリド単位からなる群より選択される。
【0086】
本発明の第1の態様の実施形態において、チオール反応性単位は、分析種分子にあるチオール基と反応する。本発明の第1の態様の実施形態において、チオール反応性単位は、ハロアセチル基からなる群より選択され、特に、Br/I-CH2-C(=O)-単位、アクリルアミド/エステル単位、マレイミド等の不飽和イミド単位、メチルスルホニルフェニルオキサジアゾール及びスルホニルクロリド単位からなる群より選択される。
【0087】
本発明の第1の態様の実施形態において、フェノール反応性単位は、分析種分子にあるフェノール基と反応する。本発明の第1の態様の実施形態において、フェノール反応性単位は、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル又はスルホ-NHSエステル、ペンタフルオロフェニルエステル、カルボニルイミダゾールエステル、四角酸エステル、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)エステル、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)エステル等の活性エステル単位及びスルホニルクロリド単位からなる群より選択される。分析種分子に存在するフェノール基は、ある反応(H.Ban et al J.Am.Chem.Soc.,2010,132(5),pp 1523-1525)によってトリアゾールジオンと反応させることが可能であり、若しくはジアゾ化によってトリアゾールジオンと反応させることも可能であり、又は代替的には、オルトニトロ化によってトリアゾールジオンと反応させた後、アミンに還元することも可能であり、このアミンの還元の後に、アミン反応性試薬と反応させることもできる。
【0088】
本発明の第1の態様の実施形態において、反応性単位Xは、エポキシド基を含む分析種と反応させることができるエポキシド反応性単位である。本発明の第1の態様の実施形態において、エポキシド反応性単位は、アミノ、チオール、隣接するO原子又はN原子によるα効果によって強化された超求核性N原子NH2-N/O分子からなる群より選択される。本発明の第1の態様の実施形態において、エポキシド反応性単位は、
(i)ヒドラジン単位、例えば、HN-NH-単位又はHN-NR-単位、(式中、Rが、アリール、1個以上のヘテロ原子を含有するアリール又はC1-4アルキルであり、特にC又はCアルキルであり、任意選択により例えばハロ、ヒドロキシル及び/又はC1-3アルコキシによって置換されていてもよい。)、
(ii)ヒドラジド単位、特にカルボヒドラジド単位又はスルホヒドラジド単位、特にHN-NH-C(O)-単位又はHN-NR-C(O)-単位(式中、Rが、アリール、1個以上のヘテロ原子を含有するアリール又はC1-4アルキルであり、特にC又はCアルキルであり、任意選択により例えばハロ、ヒドロキシル及び/又はC1-3アルコキシによって置換されていてもよい。)及び
(iii)ヒドロキシルアミノ単位、例えばHN-O-単位
の群から選択される。
【0089】
本発明の第1の態様の実施形態において、反応性単位Xは、ジスルフィド基を含む分析種と反応させることができるジスルフィド反応性単位である。本発明の第1の態様の実施形態において、ジスルフィド反応性単位は、チオールからなる群より選択される。さらなる実施形態において、ジスルフィド基を対応するチオール基に還元し、次いで、チオール反応性単位Xと反応させることができる。
【0090】
本発明の第1の態様の実施形態において、反応性単位Xは、分析種分子にあるアジド基と反応するアジド反応性単位である。本発明の第1の態様の実施形態において、アジド反応性単位は、アジド-アルキン付加環化によってアジド基と反応する。本発明の第1の態様の実施形態において、アジド反応性単位は、アルキン(アルキル又はアリール)、直鎖状アルキン又は環状アルキンからなる群より選択される。アジドとアルキンとの反応は、触媒を使用して進行させてもよいし、触媒の使用なしで進行させてもよい。本発明の第1の態様のさらなる実施形態において、アジド基を対応するアミノ基に還元し、次いで、アミノ反応性単位Xと反応させることができる。
【0091】
式Aの化合物は、ニュートラルロス単位Yを含む。ニュートラルロス単位Yは、電荷を有さない部分(中性要素)を解き放つことができる。ニュートラルロス単位Yは、フラグメンテーションされることが可能であり、言い換えると、MSの条件下においては、例えば衝突誘起解離(CID)に供された場合においては、例えば三連四重極MSにおいては、フラグメンテーションされ、これにより、中性要素を放出することができる。失われた中性要素は、単一の原子又は複数の原子である。中性要素の放出後、ニュートラルロス単位Yの残り部分は、依然として中性のままである。必須ではないが一般的には、1個の中性要素が放出される。本発明の第1の態様の特定の実施形態において、2個の中性要素が放出される。
【0092】
本発明の第1の態様の実施形態において、ニュートラルロス単位Yは、イオン化したときに少なくとも1個の中性要素を放出する。中性要素は、分子量の低い中性要素であり、特に、10~100Daの範囲、特に20~80Daの範囲、特に25~65Daの範囲である分子量の低い中性要素。特に、中性要素は、100Da以下、特に80Da以下、特に70Da以下、特に50Da以下、特に30Da以下の分子量を有する。
【0093】
本発明の第1の態様の実施形態において、中性要素は、N、NO、NO、S、SO、SO、CO、COからなる群より選択される。特定の実施形態において、中性要素は、N2である。
【0094】
本発明の第1の態様の実施形態において、中性要素の喪失は、質量/電荷比(m/z)を-28Da(N又はCOが失われた場合)、-30Da(NOが失われた場合)、-44Da(COが失われた場合)、-46Da(NOが失われた場合)、-48Da(SOが失われた場合)、-64Da(S又はSOが失われた場合)又は-87Da(N2及びトリメチルアミンが失われた場合)低下させる。
【0095】
本発明の第1の態様の実施形態において、1個の中性要素が放出される。本発明の第1の態様の実施形態において、2個の中性要素が放出される。特に、放出された第2の中性要素は、放出された第1の中性要素とは異なる。第2の中性要素の放出は、第1の中性要素の放出と同時に又はこれに続いて起きる。特に、第2の中性要素の放出は、第1の中性要素の放出と同時に起き、すなわち、両方の中性要素が一度に放出され、すなわち、1回のフラグメンテーション事象で放出される。
【0096】
本発明の第1の態様の実施形態において、ニュートラルロス単位Yは、フラグメンテーション可能な環状部分を含み、又はこのような環状部分からなる。本発明の第1の態様の実施形態において、ニュートラルロス単位Yは、4員、5員又は6員複素環式部分を含み、又はこのような複素環式部分からなり、特に、互いに隣り合う少なくとも2個のヘテロ原子、特に、互いに隣り合う2個のN原子を有する4員、5員、6員複素環式部分を含み、又はこのような複素環式部分からなる。本発明の第1の態様の実施形態において、ニュートラルロス単位Yは、トリアゾール部分、テトラゾール部分、テトラジン部分、オキサジアゾール部分、チアジアゾール部分又はこれらの水素化誘導体を含み、又は前述のものからなる。本発明の第1の態様の実施形態において、ニュートラルロス単位Yは、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール部分、1,4,5-トリアゾール、3,4,5-トリアゾール部分、1,2,3,4-テトラゾール部分、2,3,4,5-テトラゾール部分若しくは2,3,5,6テトラゾール部分又は1,2,4,5テトラジン部分を含み、又は前述の部分からなる。本発明の第1の態様の実施形態において、ニュートラルロス単位Yは、1,2,3-トリアゾール部分若しくは1,2,4-トリアゾール部分、又は1,2,3,4-テトラゾール部分若しくは1,2,4,5テトラジン部分を含み、又は前述の部分からなる。
【0097】
本発明の第1の態様の実施形態において、荷電単位Zは、特に中性条件下においては、特に6~8のpH値においては、恒久的に荷電している。
【0098】
本発明の第1の態様の実施形態において、荷電単位Zは、正又は負に荷電しており、好ましくは正に荷電している。
【0099】
本発明の第1の態様の実施形態において、荷電単位Zは、
(i)少なくとも1個の正に荷電した部分
又は
(ii)少なくとも1個の負に荷電した部分
を含み、又はこのような部分からなる。
【0100】
本発明の第1の態様の実施形態において、荷電単位Zは、正に荷電した単位である。本発明の第1の態様の実施形態において、正に荷電した単位Zは、得られる式Aの化合物が10以上のpKaを有し、より特定すると12以上のpKaを有するように選択される。本発明の第1の態様の実施形態において、正に荷電した単位Zは、第一級、第二級、第三級若しくは第四級アンモニウム、スルホニウム、イミダゾリウム、ピリジニウム又はホスホニウムからなる群より選択される。第1の態様の特定の実施形態において、正に荷電した部分は、トリメチルアンモニウム、N,N-ジメチルピペリジニウム又はN-アルキルキヌクリジニウムである。
【0101】
本発明の第1の態様の実施形態において、荷電単位Zは、負に荷電した単位である。本発明の第1の態様の実施形態において、負に荷電した単位Zは、得られる式Aの化合物が10以上のpKbを有し、より特定すると12以上のpKbを有するように選択される。本発明の第1の態様の実施形態において、負に荷電した単位Zは、ホスフェート、スルフェート、スルホネート又はカルボキシレートからなる群より選択される。
【0102】
本発明の第1の態様の実施形態において、リンカーL1及びL2は互いに対して独立に、直鎖状リンカーである。第1の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1及びL2は互いに対して独立に、式Aの化合物の2個の機能単位間の単結合であり、又は1~10個のC原子、特に1~6個のC原子、特に1個、2個若しくは3個のC原子を含む。第1の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1及びL2は互いに対して独立に、1個以上のヘテロ原子、特にN、O又はSを含む。本発明の第1の態様の実施形態において、リンカーL1及びL2は互いに対して独立に、置換されており、又は無置換であり、特にリンカーL1及びL2は、無置換である。本発明の第1の態様の実施形態において、リンカーL1及び/又はL2は、プロトン化することができない。本発明の第1の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1及び/又はL2は、安定化単位を含む。本発明の第1の態様の実施形態において、安定化単位は、フラグメンテーション事象中における荷電単位Zの喪失を防止する。本発明の第1の態様の実施形態において、安定化単位は、場合によっては形成されることもあるカルボカチオンを不安定化することによって、荷電単位Zの喪失を防止する。本発明の第1の態様の実施形態において、安定化単位は、1個のC原子によって荷電単位Zから隔てられている。本発明の第1の態様の実施形態において、安定化単位は、少なくとも1個のヘテロ原子を含む。本発明の第1の態様の実施形態において、安定化単位は、CO、又は、SO若しくはSO2等の等電性アナログからなる群より選択される。第1の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1は、反応性単位とニュートラルロス単位とを接続している単結合であり、リンカーL2は、式Aの化合物のニュートラルロス単位と正に荷電した単位とを接続しており、任意選択により1個又は2個のヘテロ原子、特に1個又は2個のO原子を含んでもよい、1個又は2個のC原子である。第1の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1は、反応性単位とニュートラルロス単位とを接続している1個のC原子を含み、リンカーL2は、式Aの化合物のニュートラルロス単位と正に荷電した単位とを接続している、1個又は2個のC原子及び1個のO原子を含む。第1の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1は、反応性単位とニュートラルロス単位とを接続している、3個のC原子及び1個のO原子を含み、リンカーL2は、式Aの化合物のニュートラルロス単位と正に荷電した単位とを接続している、1個のC原子及び1個のO原子を含む。第1の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1は、反応性単位とニュートラルロス単位とを接続している、6個のC原子及び1個のO原子を含み、リンカーL2は、式Aの化合物のニュートラルロス単位と正に荷電した単位とを接続している、2個のC原子及び1個のO原子を含む。第1の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1は、反応性単位とニュートラルロス単位とを接続している、7個のC原子及び1個のO原子を含み、リンカーL2は、式Aの化合物のニュートラルロス単位と正に荷電した単位とを接続している単結合である。
【0103】
本発明の第1の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、カルボニル反応性単位であり、ニュートラルロス単位Yが、5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、恒久的に正に荷電した単位である、式Aの構造を有する。
【0104】
本発明の第1の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、ジエン反応性単位であり、ニュートラルロス単位Yが、5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、恒久的に正に荷電した単位である、式Aの構造を有する。
【0105】
本発明の第1の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、ヒドラジン単位であり、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式部分であり、荷電単位Zが、第三級アンモニウム基である、式Aの構造を有する。
【0106】
本発明の第1の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、ヒドラジド単位であり、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、第三級アンモニウム基である、式Aの構造を有する。
【0107】
本発明の第1の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、ヒドラジン単位であり、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式部分であり、荷電単位Zが、ピペリジン単位である、式Aの構造を有する。
【0108】
本発明の第1の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、ヒドラジド単位であり、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、ピペリジン単位である、式Aの構造を有する。
【0109】
本発明の第1の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、ヒドラジン単位であり、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式部分であり、荷電単位Zが、ピリジン単位である、式Aの構造を有する。
【0110】
本発明の第1の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、ヒドラジド単位であり、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、ピリジン単位である、式Aの構造を有する。
【0111】
本発明の第1の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、Cookson型試薬であり、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、第三級アンモニウム基である、式Aの構造を有する。
【0112】
本発明の第1の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、Cookson型試薬であり、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、ピペリジン単位である、式Aの構造を有する。
【0113】
本発明の第1の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、Cookson型試薬であり、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、ピリジン単位である、式Aの構造を有する。
【0114】
本発明の第1の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、HN-NH-であり、ニュートラルロス単位Yが、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、1,2,3,4-テトラゾール又は1,2,4,5-テトラジンであり、荷電単位Zが、第三級アンモニウム単位である、式Aの構造を有する。
【0115】
本発明の第1の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、HN-NH-であり、ニュートラルロス単位Yが、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、1,2,3,4-テトラゾール又は1,2,4,5-テトラジンであり、荷電単位Zが、ピペリジン単位である、式Aの構造を有する。
【0116】
本発明の第1の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、HN-NH-であり、ニュートラルロス単位Yが、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、1,2,3,4-テトラゾール又は1,2,4,5-テトラジンであり、荷電単位Zが、ピリジン単位である、式Aの構造を有する。
【0117】
本発明の第1の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、HN-O-C-、ニュートラルロス単位Yが、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、1,2,3,4-テトラゾール又は1,2,4,5-テトラジンであり、荷電単位Zが、ジメチルピペリジン又はキヌクリジン単位である、式Aの構造を有する。
【0118】
本発明の第1の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、1,2,4-トリアゾリン-3,5-ジオンであり、ニュートラルロス単位Yが、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、1,2,3,4-テトラゾール又は1,2,4,5-テトラジンであり、荷電単位Zが、ジメチルピペリジン又はキヌクリジン部分である、式Aの構造を有する。
【0119】
本発明の第1の態様の実施形態において、式Aの化合物は、
(i)標識1
【化3】
(ii)標識2
【化4】
及び
(iii)標識3
【化5】
からなる群より選択される。
【0120】
式Aの化合物の
さらなる例は、次の通りである。
(iv)標識4
【化6】
(v)標識5
【化7】
(vi)標識6
【化8】
(vii)標識7
【化9】
(viii)標識8
【化10】
(ix)標識9
【化11】
(x)標識10
【化12】
(xi)標識11
【化13】
(xii)標識12
【化14】
【0121】
第2の態様において、本発明は、本発明の第1の態様に関して上記で詳細に開示された式Aの化合物を含む、組成物に関する。
【0122】
第3の態様において、本発明は、本明細書において本発明の第1の態様に関して上記で詳細に開示された式Aの化合物、又は本明細書において上記で詳細に開示され本発明の第2の態様の組成物を含む、キットに関する。
第4の態様において、本発明は、分析種分子と、本明細書において上記で開示された本発明の第1の態様化合物Aとの反応によって形成された付加体であって、分析種分子と本発明の第1の態様の化合物Aとが、互いに対して共有結合している、付加体に関する。複数の実施形態において、付加体は、式A’
【化15】
(式中、
Tが、分析種分子であり、
X’が、式Aの化合物の反応性単位Xと分析種分子Tとの化学反応から生じた部分であり、
L1及びL2が互いに対して独立に、置換又は無置換リンカー、特に直鎖状リンカーであり、
Yが、ニュートラルロス単位であり、
Zが、少なくとも1個の恒久的に荷電した部分を含む荷電単位、特に恒久的に荷電した1個の部分である。)
の構造の任意の塩を含む、式A’の構造を有する。
【0123】
本発明の第4の態様の実施形態において、式A’の付加体は、式Aの化合物の反応性単位Xと、分析種分子中に存在する官能基Tとの間での共有結合の形成から生じたX’を含む。式Aの化合物の反応性単位X及び分析種の官能基分子Tに応じて、当業者は、式Aの化合物の反応性単位Xと、分析種の官能基分子Tとの間に形成された共有結合をうまく判定することができる。
【0124】
本発明の第4の態様の実施形態において、分析種分子は、それぞれが式Aの化合物の反応性単位Xとの間に共有結合を形成することができる、カルボニル基、ジエン基、ヒドロキシル基、アミン基、イミン基、チオール基、ジオール基、フェノール基、エポキシド基、ジスルフィド基及びアジド基からなる群より選択される官能基を含む。さらに、分析種分子に存在する官能基が、式Aの化合物の反応性単位Xとの反応のためにより容易に利用することができる別の基に最初に変換されることもまた、本発明の範囲に想定されている。
【0125】
本発明の第4の態様の実施形態において、分析種分子は、ステロイド、ケトステロイド、セコステロイド、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、炭水化物、脂肪酸、脂質、ヌクレオシド、ヌクレオチド、核酸、並びに、低分子代謝物質及び補因子を含む他の生体分子、並びに、治療薬、乱用薬物、毒素又はこれらの代謝物質からなる群より選択される。
【0126】
本発明の第4の態様の実施形態において、分析種分子は、カルボン酸基、アルデヒド基、ケト基、マスキングされたアルデヒド、マスキングされたケト基、エステル基、アミド基及び無水物基からなる群より選択される官能基としてのカルボニル基を含む。
【0127】
カルボニル基がアミド基である、本発明の第4の態様の実施形態において、当業者は、アミド基そのものは安定な基であるが、アミド基を加水分解して、アミド基をカルボン酸基及びアミノ基に変換できることを熟知している。アミド基の加水分解は、酸又は塩基を触媒とする反応又は酵素的プロセスによって達成することが可能であり、これらは両方とも、当業者に周知である。カルボニル基が、マスキングされたアルデヒド基又はマスキングされたケト基である、本発明の第4の態様の実施形態において、各カルボニル基は、ヘミアセタール基又はアセタール基、特に環状ヘミアセタール基又は環状アセタール基である。本発明の第4の態様の実施形態において、アセタール基は、式Aの化合物との反応前にアルデヒド基又はケト基に変換される。
【0128】
本発明の第4の態様の実施形態において、カルボニル基は、ケト基である。本発明の第4の態様の実施形態において、ケト基は、式Aの化合物の反応性単位との反応前に中間体イミン基中に移転されてもよい。本発明の第4の態様の実施形態において、1種以上のケト基を含む分析種分子は、ケトステロイドである。本発明の第4の態様の特定の実施形態において、ケトステロイドは、テストステロン、エピテストステロン、ジヒドロテストステロン(DHT)、デソキシメチルテストステロン(DMT)、テトラヒドロゲストリノン(THG)、アルドステロン、エストロン、4-ヒドロキシエストロン、2-メトキシエストロン、2-ヒドロキシエストロン、16-ケトエストラジオール、16α-ヒドロキシエストロン、2-ヒドロキシエストロン-3-メチルエ-テル、プレドニゾン、プレドニゾロン、プレグネノロン、プロゲステロン、DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)、17-OHプレグネノロン、17-OHプロゲステロン、17-OHプロゲステロン、アンドロステロン、エピアンドロステロン及びΔ4アンドロステンジオン)11-デソキシコルチゾール コルチコステロン、21-デオキシコルチゾール、11-デオキシコルチコステロン、アロプレグナノロン及びアルドステロンからなる群より選択される。
【0129】
本発明の第4の態様の実施形態において、カルボニル基は、カルボキシル基である。本発明の第4の態様の実施形態において、カルボキシル基は、式Aの化合物と直接反応し、又は、式Aの化合物との反応前に活性化エステル基に変換される。本発明の第4の態様の実施形態において、1個以上のカルボキシル基を含む分析種分子は、Δ8-テトラヒドロカンナビノール酸、ベンゾイルエクゴニン、サリチル酸、2-ヒドロキシ安息香酸、ガバペンチン、プレガバリン、バルプロ酸、バンコマイシン、メトトレキサート、ミコフェノール酸、モンテルカスト、レパグリニド、フロセミド、テルミサルタン、ゲムフィブロジル、ジクロロフェナク、イブプロフェン、インドメタシン、ゾメピラク、イソキセパック及びペニシリンからなる群より選択される。本発明の第4の態様の実施形態において、1個以上のカルボキシル基を含む分析種分子は、アルギニン、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン、アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、バリン、プロリン及びグリシンからなる群より選択されるアミノ酸である。
【0130】
本発明の第4の態様の実施形態において、カルボニル基は、アルデヒド基である。本発明の第4の態様の実施形態において、アルデヒド基は、式Aの化合物の反応性単位との反応前に中間体イミン基中に移転されてもよい。本発明の第4の態様の実施形態において、1個以上のアルデヒド基を含む分析種分子は、ピリドキサール、N-アセチル-D-グルコサミン、アルカフタジン、ストレプトマイシン、ジョサマイシンからなる群より選択される。
【0131】
本発明の第4の態様の実施形態において、カルボニル基は、カルボニルエステル基である。本発明の第4の態様の実施形態において、1個以上のエステル基を含む分析種分子は、コカイン、ヘロイン、リタリン、アセクロフェナク、アセチルコリン、アムシノニド、アミロキサート、アミロカイン、アニレリジン、アラニジピン及びアルテスネイト、ペチジンからなる群より選択される。
【0132】
本発明の第4の態様の実施形態において、カルボニル基は、無水物基である。本発明の第4の態様の実施形態において、1種以上の無水物基を含む分析種分子は、カンタリジン、無水コハク酸、トリメリット酸無水物及び無水マレイン酸からなる群より選択される。
【0133】
本発明の第4の態様の実施形態において、分析種分子は、官能基としての1個以上のジエン基、特に共役ジエン基を含む。本発明の第4の態様の実施形態において、1個以上のジエン基を含む分析種分子は、セコステロイドである。複数の実施形態において、セコステロイドは、コレカルシフェロール(ビタミンD3)、エルゴカルシフェロール(ビタミンD2)、カルシジオール、カルシトリオール、タキステロール、ルミステロール及びタカルシトールからなる群より選択される。特に、セコステロイドは、ビタミンD、特にビタミンD2若しくはD3又はこれらの誘導体である。特定の実施形態において、セコステロイドは、ビタミンD2、ビタミンD3、25-ヒドロキシビタミンD2、25-ヒドロキシビタミンD3、3-Epi-25-ヒドロキシビタミンD2、3-Epi-25-ヒドロキシビタミンD3、1,25-ジヒドロキシビタミンD2、1,25-ジヒドロキシビタミンD3、24,25-ジヒドロキシビタミンD2及び24,25-ジヒドロキシビタミンD3、ビタミンA、トレチノイン、イソトレチノイン、アリトレチノイン、ナタマイシン、シロリムス、アムホテリシンB、ナイスタチン、エベロリムス、テムシロリムス、フィダキソマイシンからなる群より選択される。
【0134】
本発明の第4の態様の実施形態において、分析種分子は、官能基としての1個以上のヒドロキシル基を含む。本発明の第4の態様の実施形態において、分析種分子は、単一のヒドロキシル基又は2個のヒドロキシル基を含む。1個より多いヒドロキシル基が存在する実施形態において、2個のヒドロキシル基は、互いに隣り合うように配置されていてもよいし(1,2ジオール)、又は、1個、2個若しくは3個のC原子によって隔てられていてもよい(それぞれ1,3-ジオール、1,4-ジオール、1,5-ジオール)。第4の態様の特定の実施形態において、分析種分子は、1,2ジオール基を含む。1個のみのヒドロキシル基が存在する、複数の実施形態において、前記分析種は、第一級アルコール、第二級アルコール及び第三級アルコールからなる群より選択される。分析種分子が1個以上のヒドロキシル基を含む、発明の第4の態様の実施形態において、分析種は、ベンジルアルコール、メントール、L-カルチニン、ピリドキシン、メトロニダゾール、イソソルビドモノニトレート、グアイフェネシン、クラブラネート、ミギトール、ザルシタビン、イソプレナリン、アシクロビル、メトカルバモール、トラマドール、ベンラファキシン、アトロピン、クロフェダノール、α-ヒドロキシアルプラゾラム、α-ヒドロキシトリアゾラム、ロラゼパム、オキサゼパム、テマゼパム、エチルグルクロニド、エチルモルヒネ、モルヒネ、モルヒネ-3-グルクロニド、ブプレノルフィン、コデイン、ジヒドロコデイン、p-ヒドロキシプロポキシフェン、O-デスメチルトラマドール、ジヒドロキニジン、キニジンからなる群より選択される。分析種分子が1個より多いヒドロキシル基を含む、本発明の第4の態様の実施形態において、分析種は、ビタミンC、グルコサミン、マンニトール、テトラヒドロビオプテリン、シタラビン、アザシチジン、リバビリン、フロクスウリジン、ゲムシタジン、ストレプトゾシン、アデノシン、ビダラビン、クラドリビン、エストリオール、トリフルリジン、クロファラビン、ナドロール、ザナミビル、ラクツロース、アデノシンモノホスフェート、イドクスウリジン、レガデノソン、リンコマイシン、クリンダマイシン、カナグリフロジン、トブラマイシン、ネチルマイシン、カナマイシン、チカグレロル、エピルビシン、ドキソルビシン、アルベカシン、ストレプトマイシン、ウアバイン、アミカシン、ネオマイシン、フラミセチン、パロモマイシン、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、ビンデシン、ジギトキシン、ジゴキシン、メトリザミド、アセチルジギトキシン、デスラノシド、フルダラビン、クロファラビン、ゲムシタビン、シタラビン、カペシタビン、ビダラビン、トリフルリジン、イドクスウリジン及びプリカマイシンからなる群より選択される。
【0135】
本発明の第4の態様の実施形態において、分析種分子は、官能基としての1個以上のチオール基(限定されるわけではないが、アルキルチオール基及びチオールアリール基が挙げられる)を含む。本発明の第4の態様の実施形態において、1個以上のチオール基を含む分析種分子は、チオマンデル酸、DL-カプトプリル、DL-チオルファン、N-アセチルシステイン、D-ペニシラミン、グルタチオン、L-システイン、ゾフェノプリラト、チオプロニン、ジメルカプロール、サクシマーからなる群より選択される。
【0136】
本発明の第4の態様の実施形態において、分析種分子は、官能基としての1個以上のジスルフィド基を含む。本発明の第4の態様の実施形態において、1個以上のジスルフィド基を含む分析種分子は、グルタチオンジスルフィド、ジピリチオン、硫化セレン、ジスルフィラム、リポ酸、L-シスチン、フルスルチアミン、オクトレオチド、デスモプレシン、バプレオチド、テルリプレシン、リナクロチド、ペギネサチドからなる群より選択される。
【0137】
本発明の第4の態様の実施形態において、分析種分子は、官能基としての1個以上のエポキシド基を含む。本発明の第4の態様の実施形態において、1個以上のエポキシド基を含む分析種分子は、カルバマゼピン10、11エポキシド、カルフィルゾミブ、フロセミドエポキシド及びホスホマイシン、セベラマー、セルレニン、スコポラミン、チオトロピウム、メチルスコポラミン臭化物、エプレレノン、ムピロシン、ナタマイシン、カルフィルゾミブ、トロレアンドマイシンからなる群より選択される。
【0138】
本発明の第4の態様の実施形態において、分析種分子は、官能基としての1個以上のフェノール基を含む。本発明の第4の態様の特定の実施形態において、1個以上のフェノール基を含む分析種分子は、ステロイド又はステロイド化合物である。本発明の第4の態様の実施形態において、1個以上のフェノール基を含む分析種分子は、sp混成したA環と、A環の3位にあるOH基とを有する、ステロイド又はステロイド様化合物である。本発明の第4の態様の特定の実施形態において、ステロイド又はステロイド様分析種分子は、エストロゲン、エストロゲン様化合物、エストロン(El)、エストラジオール(E2)、17a-エストラジオール、17p-エストラジオール、エストリオール(E3)、16-エピエストリオール、17-エピエストリオール及び16,17-エピエストリオール、並びに/又はこれらの代謝物質からなる群より選択される。複数の実施形態において、代謝物質は、エストリオール、16-エピエストリオール(16-epiE3)、17-エピエストリオール(17-epiE3)、16,17-エピエストリオール(16,17-epiE3)、16-ケトエストラジオール(16-ketoE2)、16a-ヒドロキシエストロン(16a-OHEl)、2-メトキシエストロン(2-MeOEl)、4-メトキシエストロン(4-MeOEl)、2-ヒドロキシエストロン-3-メチルエ-テル(3-MeOEl)、2-メトキシエストラジオール(2-MeOE2)、4-メトキシエストラジオール(4-MeOE2)、2-ヒドロキシエストロン(20HE1)、4-ヒドロキシエストロン(4-OHE1)、2-ヒドロキシエストラジオール(2-OHE2)、エストロン(El)、エストロンスルフェート(Els)、17a-エストラジオール(E2a)、17p-エストラジオール(E2b)、エストラジオールスルフェート(E2s)、エキリン(EQ)、17a-ジヒドロエキリン(EQa)、17p-ジヒドロエキリン(EQb)、エキレニン(EN)、17-ジヒドロエキレニン(ENa)、17β-ジヒドロエキレニン(ENb)、A8,9-デヒドロエストロン(dEl)、A8,9-デヒドロエストロンスルフェート(dEls)、Δ9-テトラヒドロカンナビノール、ミコフェノール酸からなる群より選択される。
【0139】
本発明の第4の態様の実施形態において、分析種分子は、官能基としてのアミン基を含む。本発明の第4の態様の実施形態において、アミン基は、アルキルアミン又はアリールアミン基である。本発明の第4の態様の実施形態において、1個以上のアミン基を含む分析種は、タンパク質及びペプチドからなる群より選択される。本発明の第4の態様の実施形態において、アミン基を含む分析種分子は、3,4-メチレンジオキシアンフェタミン、3,4-メチレンジオキシ-N-エチレンアンフェタミン、3,4-メチレンジオキシメタフェタミン、アンフェタミン、メタンフェタミン、N-メチル-1,3-ベンゾジオキソリルブタンアミン、7-アミノクロナゼパム、7-アミノフルニトラゼパム、3,4-ジメチルメトカチノン、3-フルオロメトカチノン、4-メトキシメトカチノン、4-メチルエトカチノン、4-メチルメトカチノン、アンフェプラモン、ブチロン、エトカチノン、フレフェドロン、メトカチノン、メチロン、メチレンジオキシピロバレロン、ベンゾイルエクゴニン、デヒドロノルケタミン、ケタミン、ノルケタミン、メサドン、ノルメサドン、6-アセチルモルヒネ、ジアセチルモルヒネ、モルヒネ、ノルヒドロコドン、オキシコドン、オキシモルフォン、フェンサイクリジン、ノルプロポキシフェン、アミトリプチリン、クロミプラミン、ドチエピン、ドキセピン、イミプラミン、ノルトリプチリン、トリミプラミン、フェンタニル、グリシルキシリジド、リドカイン、モノエチルグリシルキシリジド、N-アセチルプロカインアミド、プロカインアミド、プレガバリン、2-メチルアミノ-1-(3,4-メチレンジオキシフェニル)ブタン、2-アミノ-1-(3,4-メチレンジオキシフェニル)ブタン、ノルメペリジン、O-デストラマドール、トラマドール、リドカイン、N-アセチルプロカインアミド、プロカインアミド、ガバペンチン、ラモトリギン、テオフィリン、アミカシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、バンコマイシン、メトトレキサート、ガバペンチン、シソマイシン及び5-メチルシトシンからなる群より選択される。
【0140】
本発明の第4の態様の実施形態において、分析種分子は、炭水化物であり、又は、炭水化物部分、例えば糖タンパク質若しくはヌクレオシドを有する物質である。本発明の第4の態様の実施形態において、分析種分子は、特にリボース、デソキシリボース、アラビノース、リブロース、グリコース、マンノース、ガラクトース、フコース、フルクトース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、ノイラミン酸、N-アセチルノイラミン酸等からなる群より選択される単糖である。複数の実施形態において、分析種分子は、二糖、三糖、四糖、多糖からなる群より選択されるオリゴ糖である。本発明の第4の態様の実施形態において、二糖は、スクロース、マルトース及びラクトースからなる群より選択される。本発明の第4の態様の実施形態において、分析種分子は、上記単糖部分、二糖部分、三糖部分、四糖部分、オリゴ糖部分又は多糖部分を含む物質である。
【0141】
本発明の第4の態様の実施形態において、分析種分子は、アルキルアジド又はアリールアジドからなる群より選択される官能基としてのアジド基を含む。本発明の第4の態様の実施形態において、1個以上のアジド基を含む分析種分子は、ジドブジン及びアジドシリンからなる群より選択される。
【0142】
このような分析種分子は、体液、例えば血液、血清、血漿、尿、唾液、髄液等や、組織抽出物又は細胞抽出物等、生体試料又は臨床学的試料中に存在してもよい。本発明の第4の態様の実施形態において、分析種分子は、血液、血清、血漿、尿、唾液、髄液及び乾燥ろ紙血からなる群より選択される生体試料又は臨床学的試料中に存在する。本発明の第4の態様の一部の実施形態において、分析種分子は、精製又は部分的に精製された試料、例えば、精製又は部分的に精製されたタンパク質混合物又はタンパク質抽出物である試料中に存在してもよい。
【0143】
本発明の第4の態様の実施形態において、反応性単位Xは、カルボニル反応性単位、ジエン反応性単位、ヒドロキシル反応性単位、アミノ反応性単位、イミン反応性単位、チオール反応性単位、ジオール反応性単位、フェノール反応性単位、エポキシド反応性単位、ジスルフィド反応性単位及びアジド反応性単位からなる群より選択される。
【0144】
本発明の第4の態様の実施形態において、反応性単位Xは、カルボニル基を有する任意の種類の分子と反応することができるカルボニル反応性単位である。本発明の第4の態様の実施形態において、カルボニル反応性単位は、カルボキシル反応性単位、ケト反応性単位、アルデヒド反応性単位、無水物反応性単位、カルボニルエステル反応性単位及びイミド反応性単位からなる群より選択される。本発明の第4の態様の実施形態において、カルボニル反応性単位は、隣接するO原子若しくはN原子によるα効果によって強化された超求核性N原子NH2-N/O又はジチオール分子を有することができる。本発明の第4の態様の実施形態において、カルボニル反応性単位は、
(i)ヒドラジン単位、例えば、HN-NH-単位又はHN-NR-単位、(式中、Rが、アリール、1個以上のヘテロ原子を含有するアリール又はC1-4アルキルであり、特にC又はCアルキルであり、任意選択により例えばハロ、ヒドロキシル及び/又はC1-3アルコキシによって置換されていてもよい。)、
(ii)ヒドラジド単位、特にカルボヒドラジド単位又はスルホヒドラジド単位、特にHN-NH-C(O)-単位又はHN-NR-C(O)-単位(式中、Rが、アリール、1個以上のヘテロ原子を含有するアリール又はC1-4アルキルであり、特にC又はCアルキルであり、任意選択により例えばハロ、ヒドロキシル及び/又はC1-3アルコキシによって置換されていてもよい。)、
(iii)ヒドロキシルアミノ単位、例えばHN-O-単位及び
(iv)ジチオール単位、特に1,2-ジチオール単位又は1,3-ジチオール単位
の群より選択される。
【0145】
カルボニル反応性単位がカルボキシル反応性単位である、本発明の第4の態様の実施形態において、カルボキシル反応性単位は、分析種分子にあるカルボキシル基と反応する。本発明の第4の態様の実施形態において、カルボキシル反応性単位は、ジアゾ単位、アルキルハライド、アミン及びヒドラジン単位からなる群より選択される。
【0146】
本発明の第4の態様の実施形態において、反応性単位Xは、ジエン基を含む分析種と反応することができるジエン反応性単位である。本発明の第4の態様の実施形態において、ジエン反応性単位は、ジエノフィルとして作用することができるCookson型試薬、例えば1,2,4-トリアゾリン-3,5-ジオンからなる群より選択される。
【0147】
本発明の第4の態様の実施形態において、反応性単位Xは、ヒドロキシル基を含む分析種と反応することができるヒドロキシル反応性単位である。本発明の第4の態様の実施形態において、ヒドロキシル反応性単位は、フッ素の求核置換(T.Higashi J Steroid Biochem Mol Biol.2016 Sep;162:57-69)を可能とするスルホニルクロリド、活性化されたカルボン酸エステル(NHS又はイミダゾリン)及びフルオロアロメート/ヘテロアロメートからなる群より選択される。本発明の第4の態様の実施形態において、反応性単位Xは、分析種分子にあるジオール基と反応するジオール反応性単位である。反応性単位が1,2ジオール反応性単位である、本発明の第4の態様の実施形態において、1,2ジオール反応性単位は、ボロン酸を含む。さらなる実施形態において、ジオールを対応するケトン又はアルデヒドに酸化し、次いで、ケトン/アルデヒド反応性単位Xと反応させることができる。
【0148】
本発明の第4の態様の実施形態において、アミノ反応性単位は、分析種分子にあるアミノ基と反応する。本発明の第4の態様の実施形態において、アミノ反応性単位は、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル又はスルホ-NHSエステル、ペンタフルオロフェニルエステル、カルボニルイミダゾールエステル、四角酸エステル、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)エステル、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)エステル等の活性エステル基及びスルホニルクロリド単位からなる群より選択される。
【0149】
本発明の第4の態様の実施形態において、チオール反応性単位は、分析種分子にあるチオール基と反応する。本発明の第4の態様の実施形態において、チオール反応性単位は、ハロアセチル基からなる群より選択され、特に、Br/I-CH2-C(=O)-単位、アクリルアミド/エステル単位、マレイミド等の不飽和イミド単位、メチルスルホニルフェニルオキサジアゾール及びスルホニルクロリド単位からなる群より選択される。
【0150】
本発明の第4の態様の実施形態において、フェノール反応性単位は、分析種分子にあるフェノール基と反応する。本発明の第4の態様の実施形態において、フェノール反応性単位は、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル又はスルホ-NHSエステル、ペンタフルオロフェニルエステル、カルボニルイミダゾールエステル、四角酸エステル、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)エステル、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)エステル等の活性エステル単位及びスルホニルクロリド単位からなる群より選択される。分析種分子に存在するフェノール基は、ある反応(H.Ban et al J.Am.Chem.Soc.,2010,132(5),pp 1523-1525)によってトリアゾールジオンと反応させることが可能であり、若しくはジアゾ化によってトリアゾールジオンと反応させることも可能であり、又は代替的には、オルトニトロ化によってトリアゾールジオンと反応させた後、アミンに還元することも可能であり、このアミンの還元の後に、アミン反応性試薬と反応させることもできる。
【0151】
本発明の第4の態様の実施形態において、反応性単位Xは、エポキシド基を含む分析種と反応させることができるエポキシド反応性単位である。本発明の第4の態様の実施形態において、エポキシド反応性単位は、アミノ、チオール、隣接するO原子若しくはN原子によるα効果によって強化された超求核性N原子NH2-N/O分子からなる群より選択される。本発明の第4の態様の実施形態において、エポキシド反応性単位は、
(i)ヒドラジン単位、例えば、HN-NH-単位又はHN-NR-単位、(式中、Rが、アリール、1個以上のヘテロ原子を含有するアリール又はC1-4アルキルであり、特にC又はCアルキルであり、任意選択により例えばハロ、ヒドロキシル及び/又はC1-3アルコキシによって置換されていてもよい。)、
(ii)ヒドラジド単位、特にカルボヒドラジド単位又はスルホヒドラジド単位、特にHN-NH-C(O)-単位又はHN-NR-C(O)-単位(式中、Rが、アリール、1個以上のヘテロ原子を含有するアリール又はC1-4アルキルであり、特にC又はCアルキルであり、任意選択により例えばハロ、ヒドロキシル及び/又はC1-3アルコキシによって置換されていてもよい。)及び
(iii)ヒドロキシルアミノ単位、例えばHN-O-単位
の群から選択される。
【0152】
本発明の第4の態様の実施形態において、反応性単位Xは、ジスルフィド基を含む分析種と反応させることができるジスルフィド反応性単位である。本発明の第4の態様の実施形態において、ジスルフィド反応性単位は、チオールからなる群より選択される。さらなる実施形態において、ジスルフィド基を対応するチオール基に還元し、次いで、チオール反応性単位Xと反応させることができる。
【0153】
本発明の第4の態様の実施形態において、反応性単位Xは、分析種分子にあるアジド基と反応するアジド反応性単位である。本発明の第4の態様の実施形態において、アジド反応性単位は、アジド-アルキン付加環化によってアジド基と反応する。本発明の第4の態様の実施形態において、アジド反応性単位は、アルキン(アルキル又はアリール)、直鎖状アルキン又は環状アルキンからなる群より選択される。アジドとアルキンとの反応は、触媒を使用して進行させてもよいし、触媒の使用なしで進行させてもよい。本発明の第4の態様のさらなる実施形態において、アジド基を対応するアミノ基に還元し、次いで、アミノ反応性単位Xと反応させることができる。
【0154】
式Aの化合物は、ニュートラルロス単位Yを含む。ニュートラルロス単位Yは、電荷を有さない部分(中性要素)を解き放つことができる。ニュートラルロス単位Yは、フラグメンテーションされることが可能であり、言い換えると、MSの条件下においては、例えば衝突誘起解離(CID)に供された場合においては、例えば三連四重極MSにおいては、フラグメンテーションされ、これにより、中性要素を放出することができる。失われた中性要素は、単一の原子又は複数の原子である。中性要素の放出後、ニュートラルロス単位Yの残り部分は、依然として中性のままである。必須ではないが一般的には、1個の中性要素が放出される。本発明の第4の態様の特定の実施形態において、2個の中性要素が放出される。
【0155】
本発明の第4の態様の実施形態において、ニュートラルロス単位Yは、イオン化したときに少なくとも1個の中性要素を放出する。中性要素は、分子量の低い中性要素であり、特に、10~100Daの範囲、特に20~80Daの範囲、特に25~65Daの範囲である分子量の低い中性要素。特に、中性要素は、100Da以下、特に80Da以下、特に70Da以下、特に50Da以下、特に30Da以下の分子量を有する。
【0156】
本発明の第4の態様の実施形態において、中性要素は、N、NO、NO、S、SO、SO、CO、COからなる群より選択される。特定の実施形態において、中性要素は、Nである。
【0157】
本発明の第4の態様の実施形態において、中性要素の喪失は、質量/電荷比(m/z)を-28Da(N又はCOが失われた場合)、-30Da(NOが失われた場合)、-44Da(COが失われた場合)、-46Da(NOが失われた場合)、-48Da(SOが失われた場合)、-64Da(S又はSOが失われた場合)又は-87Da(N2及びトリメチルアミンが失われた場合)低下させる。
【0158】
本発明の第4の態様の実施形態において、1個の中性要素が放出される。本発明の第4の態様の実施形態において、2個の中性要素が放出される。特に、放出された第2の中性要素は、放出された第1の中性要素とは異なる。第2の中性要素の放出は、第1の中性要素の放出と同時に又はこれに続いて起きる。特に、第2の中性要素の放出は、第1の中性要素の放出と同時に起き、すなわち、両方の中性要素が一度に放出され、すなわち、1回のフラグメンテーション事象で放出される。
【0159】
本発明の第4の態様の実施形態において、ニュートラルロス単位Yは、フラグメンテーション可能な環状部分を含み、又はこのような環状部分からなる。
【0160】
本発明の第4の態様の実施形態において、ニュートラルロス単位Yは、4員、5員又は6員複素環式部分を含み、又はこのような複素環式部分からなり、特に、互いに隣り合う少なくとも2個のヘテロ原子、特に、互いに隣り合う2個のN原子を有する4員、5員、6員複素環式部分を含み、又はこのような複素環式部分からなる。本発明の第4の態様の実施形態において、ニュートラルロス単位Yは、トリアゾール部分、テトラゾール部分、テトラジン部分、オキサジアゾール部分、チアジアゾール部分又はこれらの水素化誘導体を含み、又は前述のものからなる。本発明の第4の態様の実施形態において、ニュートラルロス単位Yは、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール部分、1,4,5-トリアゾール、3,4,5-トリアゾール部分、1,2,3,4-テトラゾール部分、2,3,4,5-テトラゾール部分若しくは2,3,5,6テトラゾール部分又は1,2,4,5テトラジン部分を含み、又は前述の部分からなる。本発明の第4の態様の実施形態において、ニュートラルロス単位Yは、1,2,3-トリアゾール部分若しくは1,2,4-トリアゾール部分、又は1,2,3,4-テトラゾール部分若しくは1,2,4,5テトラジン部分を含み、又は前述の部分からなる。
【0161】
本発明の第4の態様の実施形態において、荷電単位Zは、特に中性条件下においては、特に6~8のpH値においては、恒久的に荷電している。
【0162】
本発明の第4の態様の実施形態において、荷電単位Zは、正又は負に荷電しており、好ましくは正に荷電している。
本発明の第4の態様の実施形態において、荷電単位Zは、
(i)少なくとも1個の正に荷電した部分
又は
(ii)少なくとも1個の負に荷電した部分
を含み、又はこのような部分からなる。
【0163】
本発明の第4の態様の実施形態において、荷電単位Zは、正に荷電した単位である。本発明の第4の態様の実施形態において、正に荷電した単位Zは、得られる式Aの化合物が10以上のpKaを有し、より特定すると12以上のpKaを有するように選択される。本発明の第4の態様の実施形態において、正に荷電した単位Zは、第一級、第二級、第三級若しくは第四級アンモニウム、スルホニウム、イミダゾリウム、ピリジニウム又はホスホニウムからなる群より選択される。第4の態様の特定の実施形態において、正に荷電した部分は、トリメチルアンモニウム、N,N-ジメチルピペリジニウム又はN-アルキルキヌクリジニウムである。
【0164】
本発明の第4の態様の実施形態において、荷電単位Zは、負に荷電した単位である。本発明の第4の態様の実施形態において、負に荷電した単位Zは、得られる式Aの化合物が10以上のpKbを有し、より特定すると12以上のpKbを有するように選択される。本発明の第4の態様の実施形態において、負に荷電した単位Zは、ホスフェート、スルフェート、スルホネート又はカルボキシレートからなる群より選択される。
【0165】
本発明の第4の態様の実施形態において、リンカーL1及びL2は互いに対して独立に、直鎖状リンカーである。第4の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1及びL2は互いに対して独立に、式Aの化合物の2個の機能単位間の単結合であり、又は1~10個のC原子、特に1~6個のC原子、特に1個、2個若しくは3個のC原子を含む。第4の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1及びL2は互いに対して独立に、1個以上のヘテロ原子、特にN、O又はSを含む。本発明の第4の態様の実施形態において、リンカーL1及びL2は互いに対して独立に、置換されており、又は無置換であり、特にリンカーL1及びL2は、無置換である。本発明の第4の態様の実施形態において、リンカーL1及び/又はL2は、プロトン化することができない。本発明の第4の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1及び/又はL2は、安定化単位を含む。本発明の第4の態様の実施形態において、安定化単位は、フラグメンテーション事象中における荷電単位Zの喪失を防止する。本発明の第4の態様の実施形態において、安定化単位は、場合によっては形成されることもあるカルボカチオンを不安定化することによって、荷電単位Zの喪失を防止する。本発明の第4の態様の実施形態において、安定化単位は、1個のC原子によって荷電単位Zから隔てられている。本発明の第4の態様の実施形態において、安定化単位は、少なくとも1個のヘテロ原子を含む。本発明の第4の態様の実施形態において、安定化単位は、CO、又は、SO若しくはSO2等の等電性アナログからなる群より選択される。第4の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1は、反応性単位とニュートラルロス単位とを接続している単結合であり、リンカーL2は、式Aの化合物のニュートラルロス単位と正に荷電した単位とを接続しており、任意選択により1個又は2個のヘテロ原子、特に1個又は2個のO原子を含んでもよい、1個又は2個のC原子である。第4の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1は、反応性単位とニュートラルロス単位とを接続している1個のC原子を含み、リンカーL2は、式Aの化合物のニュートラルロス単位と正に荷電した単位とを接続している、1個又は2個のC原子及び1個のO原子を含む。第4の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1は、反応性単位とニュートラルロス単位とを接続している、3個のC原子及び1個のO原子を含み、リンカーL2は、式Aの化合物のニュートラルロス単位と正に荷電した単位とを接続している、1個のC原子及び1個のO原子を含む。第4の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1は、反応性単位とニュートラルロス単位とを接続している、6個のC原子及び1個のO原子を含み、リンカーL2は、式Aの化合物のニュートラルロス単位と正に荷電した単位とを接続している、2個のC原子及び1個のO原子を含む。第4の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1は、反応性単位とニュートラルロス単位とを接続している、7個のC原子及び1個のO原子を含み、リンカーL2は、式Aの化合物のニュートラルロス単位と正に荷電した単位とを接続している単結合である。
【0166】
本発明の第4の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、カルボニル反応性単位であり、ニュートラルロス単位Yが、5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、恒久的に正に荷電した単位である、式Aの構造を有する。
【0167】
本発明の第4の態様の実施形態において、付加体は、X’が、ジエン反応性単位Xと、分析種分子Tとの反応から生じており、ニュートラルロス単位Yが、5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、恒久的に正に荷電した単位である、式A’の構造を有する。
【0168】
本発明の第4の態様の実施形態において、付加体は、X’が、ヒドラジン単位Xと、分析種分子Tとの反応から生じており、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式部分であり、荷電単位Zが、第三級アンモニウム基である、式A’の構造を有する。
【0169】
本発明の第4の態様の実施形態において、付加体は、X’が、ヒドラジド単位Xと、分析種分子Tとの反応から生じており、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、第三級アンモニウム基である、式A’の構造を有する。
【0170】
本発明の第4の態様の実施形態において、付加体は、X’が、ヒドラジン単位Xと、分析種分子Tとの反応から生じており、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式部分であり、荷電単位Zが、ピペリジン単位である、式A’の構造を有する。
【0171】
本発明の第4の態様の実施形態において、付加体は、X’が、ヒドラジド単位Xと、分析種分子Tとの反応から生じており、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、ピペリジン単位である、式A’の構造を有する。
【0172】
本発明の第4の態様の実施形態において、付加体は、X’が、ヒドラジン単位Xと、分析種分子Tとの反応から生じており、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式部分であり、荷電単位Zが、ピリジン単位である、式A’の構造を有する。
【0173】
本発明の第4の態様の実施形態において、付加体は、X’が、ヒドラゾン単位Xと、分析種分子Tとの反応から生じており、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、ピリジン単位である、式A’の構造を有する。
【0174】
本発明の第4の態様の実施形態において、付加体は、X’が、Cookson型試薬と、分析種分子Tとの反応から生じており、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、第三級アンモニウム基である、式A’の構造を有する。
【0175】
本発明の第4の態様の実施形態において、付加体は、X’が、Cookson型試薬と、分析種分子Tとの反応から生じており、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、ピペリジン単位である、式A’の構造を有する。
【0176】
本発明の第4の態様の実施形態において、付加体は、X’が、Cookson型試薬と、分析種分子Tとの反応から生じており、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、ピリジン単位である、式A’の構造を有する。
【0177】
本発明の第4の態様の実施形態において、付加体は、X’が、HN-NH-と、分析種分子Tとの反応から生じており、ニュートラルロス単位Yが、1,2,3-トリアゾール、2,3,4,5-テトラゾール又は2,3,5,6テトラゾールであり、荷電単位Zが、第三級アンモニウム単位である、式A’の構造を有する。
【0178】
本発明の第4の態様の実施形態において、付加体は、X’が、HN-NH-と、分析種分子Tとの反応から生じており、ニュートラルロス単位Yが、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、1,2,3,4-テトラゾール又は1,2,4,5-テトラジンであり、荷電単位Zが、ピペリジン単位である、式A’の構造を有する。
【0179】
本発明の第4の態様の実施形態において、付加体は、X’が、HN-NH-と、分析種分子Tとの反応から生じており、ニュートラルロス単位Yが、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、1,2,3,4-テトラゾール又は1,2,4,5-テトラジンであり、荷電単位Zが、ピリジン単位である、式A’の構造を有する。
【0180】
本発明の第4の態様の実施形態において、付加体は、X’が、HN-O-C-と、分析種分子Tとの反応から生じており、ニュートラルロス単位Yが、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、1,2,3,4-テトラゾール又は1,2,4,5-テトラジンであり、荷電単位Zが、ジメチルピペリジン又はキヌクリジン単位である、式A’の構造を有する。
【0181】
本発明の第4の態様の実施形態において、付加体は、X’が、1,2,4-トリアゾリン-3,5-ジオンと、分析種分子Tとの反応から生じており、ニュートラルロス単位Yが、1,2,3-トリアゾール、2,3,4,5-テトラゾール又は2,3,5,6であり、荷電単位Zが、ジメチルピペリジン又はキヌクリジン部分である、式A’の構造を有する。
【0182】
複数の実施形態において、式A’の付加体は、
(i)付加体1
【化16】
(ii)付加体2
【化17】
(iii)付加体3
【化18】
からなる群より選択される。
【0183】
第5の態様において、本発明は、式A
【化19】
(式中、
Xが、反応性単位であり、
L1及びL2が互いに対して独立に、置換又は無置換リンカー、特に直鎖状リンカーであり、
Yが、ニュートラルロス単位であり、
Zが、少なくとも1個の恒久的に荷電した部分を含む荷電単位、特に恒久的に荷電した1個の部分である。)
の化合物の任意の塩を含む、式Aの化合物の
、又は、少なくとも1種の式Aの化合物を含む、組成物若しくはキットの、
分析種分子に対する質量分析による測定、特に、タンデム型質量分析による測定を含む、質量分析による測定、より特定すると、三連四重極デバイスにおけるタンデム型質量分析による測定を含む、質量分析による測定のための使用に関する。
【0184】
本発明の第5の態様の実施形態において、式Aの化合物の使用は、誘導体化試薬としての使用を含む。本発明の第5の態様の実施形態において、式Aの化合物は、MS測定の感度を高めるために使用される。複数の実施形態において、式Aの化合物は、着目する分析種を、より低いレベルの検出において、特に、より低いレベルの定量化において検出するときに検出するために使用される。
【0185】
本発明の第5の態様の実施形態において、本発明による式Aの化合物は、分析種分子と反応することができる反応性単位Xを含む。反応性単位Xは、式Aの化合物と分析種分子との共有結合が形成されるように、分析種分子と反応することができる。本発明の第5の態様の実施形態において、反応性単位Xは、式Aの化合物との間に共有結合を形成する。特に、共有結合は、式Aの化合物の反応性単位Xと、分析種分子中に存在する官能基との間に形成される。
【0186】
測定すべき分析種分子中の官能基に応じて、当業者は、式Aの化合物に適した反応性単位Xを選択する。どの反応性単位Xが着目する分析種の官能基への結合に適するかは、常識に含まれる。
【0187】
本発明の第5の態様の実施形態において、分析種分子は、それぞれが式Aの化合物の反応性単位Xとの間に共有結合を形成することができる、カルボニル基、ジエン基、ヒドロキシル基、アミン基、イミン基、チオール基、ジオール基、フェノール基、エポキシド基、ジスルフィド基及びアジド基からなる群より選択される官能基を含む。さらに、分析種分子に存在する官能基が、式Aの化合物の反応性単位Xとの反応のためにより容易に利用することができる別の基に最初に変換されることもまた、本発明の範囲に想定されている。
【0188】
本発明の第5の態様の実施形態において、分析種分子は、ステロイド、ケトステロイド、セコステロイド、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、炭水化物、脂肪酸、脂質、ヌクレオシド、ヌクレオチド、核酸、並びに、低分子代謝物質及び補因子を含む他の生体分子、並びに、治療薬、乱用薬物、毒素又はこれらの代謝物質からなる群より選択される。
【0189】
本発明の第5の態様の実施形態において、分析種分子は、カルボン酸基、アルデヒド基、ケト基、マスキングされたアルデヒド、マスキングされたケト基、エステル基、アミド基及び無水物基からなる群より選択される官能基としてのカルボニル基を含む。
【0190】
カルボニル基がアミド基である、本発明の第5の態様の実施形態において、当業者は、アミド基そのものは安定な基であるが、アミド基を加水分解して、アミド基をカルボン酸基及びアミノ基に変換できることを熟知している。アミド基の加水分解は、酸又は塩基を触媒とする反応又は酵素的プロセスによって達成することが可能であり、これらは両方とも、当業者に周知である。カルボニル基が、マスキングされたアルデヒド基又はマスキングされたケト基である、本発明の第5の態様の実施形態において、各カルボニル基は、ヘミアセタール基又はアセタール基、特に環状ヘミアセタール基又は環状アセタール基である。本発明の第5の態様の実施形態において、アセタール基は、式Aの化合物との反応前にアルデヒド基又はケト基に変換される。
【0191】
本発明の第5の態様の実施形態において、カルボニル基は、ケト基である。本発明の第5の態様の実施形態において、ケト基は、式Aの化合物の反応性単位との反応前に中間体イミン基中に移転されてもよい。本発明の第5の態様の実施形態において、1種以上のケト基を含む分析種分子は、ケトステロイドである。本発明の第5の態様の特定の実施形態において、ケトステロイドは、テストステロン、エピテストステロン、ジヒドロテストステロン(DHT)、デソキシメチルテストステロン(DMT)、テトラヒドロゲストリノン(THG)、アルドステロン、エストロン、4-ヒドロキシエストロン、2-メトキシエストロン、2-ヒドロキシエストロン、16-ケトエストラジオール、16α-ヒドロキシエストロン、2-ヒドロキシエストロン-3-メチルエ-テル、プレドニゾン、プレドニゾロン、プレグネノロン、プロゲステロン、DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)、17-OHプレグネノロン、17-OHプロゲステロン、17-OHプロゲステロン、アンドロステロン、エピアンドロステロン及びΔ4アンドロステンジオン)11-デソキシコルチゾール コルチコステロン、21-デオキシコルチゾール、11-デオキシコルチコステロン、アロプレグナノロン及びアルドステロンからなる群より選択される。
【0192】
本発明の第5の態様の実施形態において、カルボニル基は、カルボキシル基である。本発明の第5の態様の実施形態において、カルボキシル基は、式Aの化合物と直接反応し、又は、式Aの化合物との反応前に活性化エステル基に変換される。本発明の第5の態様の実施形態において、1個以上のカルボキシル基を含む分析種分子は、Δ8-テトラヒドロカンナビノール酸、ベンゾイルエクゴニン、サリチル酸、2-ヒドロキシ安息香酸、ガバペンチン、プレガバリン、バルプロ酸、バンコマイシン、メトトレキサート、ミコフェノール酸、モンテルカスト、レパグリニド、フロセミド、テルミサルタン、ゲムフィブロジル、ジクロロフェナク、イブプロフェン、インドメタシン、ゾメピラク、イソキセパック及びペニシリンからなる群より選択される。本発明の第5の態様の実施形態において、1個以上のカルボキシル基を含む分析種分子は、アルギニン、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン、アラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、バリン、プロリン及びグリシンからなる群より選択されるアミノ酸である。
【0193】
本発明の第5の態様の実施形態において、カルボニル基は、アルデヒド基である。本発明の第5の態様の実施形態において、アルデヒド基は、式Aの化合物の反応性単位との反応前に中間体イミン基中に移転されてもよい。本発明の第5の態様の実施形態において、1個以上のアルデヒド基を含む分析種分子は、ピリドキサール、N-アセチル-D-グルコサミン、アルカフタジン、ストレプトマイシン、ジョサマイシンからなる群より選択される。
【0194】
本発明の第5の態様の実施形態において、カルボニル基は、カルボニルエステル基である。本発明の第5の態様の実施形態において、1個以上のエステル基を含む分析種分子は、コカイン、ヘロイン、リタリン、アセクロフェナク、アセチルコリン、アムシノニド、アミロキサート、アミロカイン、アニレリジン、アラニジピン及びアルテスネイト、ペチジンからなる群より選択される。
【0195】
本発明の第5の態様の実施形態において、カルボニル基は、無水物基である。本発明の第5の態様の実施形態において、1種以上の無水物基を含む分析種分子は、カンタリジン、無水コハク酸、トリメリット酸無水物及び無水マレイン酸からなる群より選択される。
【0196】
本発明の第5の態様の実施形態において、分析種分子は、官能基としての1個以上のジエン基、特に共役ジエン基を含む。本発明の第5の態様の実施形態において、1個以上のジエン基を含む分析種分子は、セコステロイドである。複数の実施形態において、セコステロイドは、コレカルシフェロール(ビタミンD3)、エルゴカルシフェロール(ビタミンD2)、カルシジオール、カルシトリオール、タキステロール、ルミステロール及びタカルシトールからなる群より選択される。特に、セコステロイドは、ビタミンD、特にビタミンD2若しくはD3又はこれらの誘導体である。特定の実施形態において、セコステロイドは、ビタミンD2、ビタミンD3、25-ヒドロキシビタミンD2、25-ヒドロキシビタミンD3、3-Epi-25-ヒドロキシビタミンD2、3-Epi-25-ヒドロキシビタミンD3、1,25-ジヒドロキシビタミンD2、1,25-ジヒドロキシビタミンD3、24,25-ジヒドロキシビタミンD2及び24,25-ジヒドロキシビタミンD3、ビタミンA、トレチノイン、イソトレチノイン、アリトレチノイン、ナタマイシン、シロリムス、アムホテリシンB、ナイスタチン、エベロリムス、テムシロリムス、フィダキソマイシンからなる群より選択される。
【0197】
本発明の第5の態様の実施形態において、分析種分子は、官能基としての1個以上のヒドロキシル基を含む。本発明の第5の態様の実施形態において、分析種分子は、単一のヒドロキシル基又は2個のヒドロキシル基を含む。1個より多いヒドロキシル基が存在する実施形態において、2個のヒドロキシル基は、互いに隣り合うように配置されていてもよいし(1,2ジオール)、又は、1個、2個若しくは3個のC原子によって隔てられていてもよい(それぞれ1,3-ジオール、1,4-ジオール、1,5-ジオール)。第5の態様の特定の実施形態において、分析種分子は、1,2ジオール基を含む。1個のみのヒドロキシル基が存在する、複数の実施形態において、前記分析種は、第一級アルコール、第二級アルコール及び第三級アルコールからなる群より選択される。分析種分子が1個以上のヒドロキシル基を含む、本発明の第5の態様の実施形態において、分析種は、ベンジルアルコール、メントール、L-カルチニン、ピリドキシン、メトロニダゾール、イソソルビドモノニトレート、グアイフェネシン、クラブラネート、ミギトール、ザルシタビン、イソプレナリン、アシクロビル、メトカルバモール、トラマドール、ベンラファキシン、アトロピン、クロフェダノール、α-ヒドロキシアルプラゾラム、α-ヒドロキシトリアゾラム、ロラゼパム、オキサゼパム、テマゼパム、エチルグルクロニド、エチルモルヒネ、モルヒネ、モルヒネ-3-グルクロニド、ブプレノルフィン、コデイン、ジヒドロコデイン、p-ヒドロキシプロポキシフェン、O-デスメチルトラマドール、ジヒドロキニジン、キニジンからなる群より選択される。分析種分子が1個より多いヒドロキシル基を含む、本発明の第5の態様の実施形態において、分析種は、ビタミンC、グルコサミン、マンニトール、テトラヒドロビオプテリン、シタラビン、アザシチジン、リバビリン、フロクスウリジン、ゲムシタジン、ストレプトゾシン、アデノシン、ビダラビン、クラドリビン、エストリオール、トリフルリジン、クロファラビン、ナドロール、ザナミビル、ラクツロース、アデノシンモノホスフェート、イドクスウリジン、レガデノソン、リンコマイシン、クリンダマイシン、カナグリフロジン、トブラマイシン、ネチルマイシン、カナマイシン、チカグレロル、エピルビシン、ドキソルビシン、アルベカシン、ストレプトマイシン、ウアバイン、アミカシン、ネオマイシン、フラミセチン、パロモマイシン、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、ビンデシン、ジギトキシン、ジゴキシン、メトリザミド、アセチルジギトキシン、デスラノシド、フルダラビン、クロファラビン、ゲムシタビン、シタラビン、カペシタビン、ビダラビン、トリフルリジン、イドクスウリジン及びプリカマイシンからなる群より選択される。
【0198】
本発明の第5の態様の実施形態において、分析種分子は、官能基としての1個以上のチオール基(限定されるわけではないが、アルキルチオール基及びチオールアリール基が挙げられる)を含む。本発明の第5の態様の実施形態において、1個以上のチオール基を含む分析種分子は、チオマンデル酸、DL-カプトプリル、DL-チオルファン、N-アセチルシステイン、D-ペニシラミン、グルタチオン、L-システイン、ゾフェノプリラト、チオプロニン、ジメルカプロール、サクシマーからなる群より選択される。
【0199】
本発明の第5の態様の実施形態において、分析種分子は、官能基としての1個以上のジスルフィド基を含む。本発明の第5の態様の実施形態において、1個以上のジスルフィド基を含む分析種分子は、グルタチオンジスルフィド、ジピリチオン、硫化セレン、ジスルフィラム、リポ酸、L-シスチン、フルスルチアミン、オクトレオチド、デスモプレシン、バプレオチド、テルリプレシン、リナクロチド、ペギネサチドからなる群より選択される。
【0200】
本発明の第5の態様の実施形態において、分析種分子は、官能基としての1個以上のエポキシド基を含む。本発明の第5の態様の実施形態において、1個以上のエポキシド基を含む分析種分子は、カルバマゼピン10、11エポキシド、カルフィルゾミブ、フロセミドエポキシド及びホスホマイシン、セベラマー、セルレニン、スコポラミン、チオトロピウム、メチルスコポラミン臭化物、エプレレノン、ムピロシン、ナタマイシン、カルフィルゾミブ、トロレアンドマイシンからなる群より選択される。
【0201】
本発明の第5の態様の実施形態において、分析種分子は、官能基としての1個以上のフェノール基を含む。本発明の第5の態様の特定の実施形態において、1個以上のフェノール基を含む分析種分子は、ステロイド又はステロイド化合物である。本発明の第5の態様の実施形態において、1個以上のフェノール基を含む分析種分子は、sp混成したA環と、A環の3位にあるOH基とを有する、ステロイド又はステロイド様化合物である。本発明の第5の態様の特定の実施形態において、ステロイド又はステロイド様分析種分子は、ストロゲン、エストロゲン様化合物、エストロン(El)、エストラジオール(E2)、17a-エストラジオール、17p-エストラジオール、エストリオール(E3)、16-エピエストリオール、17-エピエストリオール及び16,17-エピエストリオール、並びに/又はこれらの代謝物質からなる群より選択される。複数の実施形態において、代謝物質は、エストリオール、16-エピエストリオール(16-epiE3)、17-エピエストリオール(17-epiE3)、16,17-エピエストリオール(16,17-epiE3)、16-ケトエストラジオール(16-ketoE2)、16a-ヒドロキシエストロン(16a-OHEl)、2-メトキシエストロン(2-MeOEl)、4-メトキシエストロン(4-MeOEl)、2-ヒドロキシエストロン-3-メチルエ-テル(3-MeOEl)、2-メトキシエストラジオール(2-MeOE2)、4-メトキシエストラジオール(4-MeOE2)、2-ヒドロキシエストロン(20HE1)、4-ヒドロキシエストロン(4-OHE1)、2-ヒドロキシエストラジオール(2-OHE2)、エストロン(El)、エストロンスルフェート(Els)、17a-エストラジオール(E2a)、17p-エストラジオール(E2b)、エストラジオールスルフェート(E2s)、エキリン(EQ)、17a-ジヒドロエキリン(EQa)、17p-ジヒドロエキリン(EQb)、エキレニン(EN)、17-ジヒドロエキレニン(ENa)、17β-ジヒドロエキレニン(ENb)、A8,9-デヒドロエストロン(dEl)、A8,9-デヒドロエストロンスルフェート(dEls)、Δ9-テトラヒドロカンナビノール、ミコフェノール酸からなる群より選択される。
【0202】
本発明の第5の態様の実施形態において、分析種分子は、官能基としてのアミン基を含む。本発明の第5の態様の実施形態において、アミン基は、アルキルアミン又はアリールアミン基である。本発明の第5の態様の実施形態において、1個以上のアミン基を含む分析種は、タンパク質及びペプチドからなる群より選択される。本発明の第5の態様の実施形態において、アミン基を含む分析種分子は、3,4-メチレンジオキシアンフェタミン、3,4-メチレンジオキシ-N-エチレンアンフェタミン、3,4-メチレンジオキシメタフェタミン、アンフェタミン、メタンフェタミン、N-メチル-1,3-ベンゾジオキソリルブタンアミン、7-アミノクロナゼパム、7-アミノフルニトラゼパム、3,4-ジメチルメトカチノン、3-フルオロメトカチノン、4-メトキシメトカチノン、4-メチルエトカチノン、4-メチルメトカチノン、アンフェプラモン、ブチロン、エトカチノン、フレフェドロン、メトカチノン、メチロン、メチレンジオキシピロバレロン、ベンゾイルエクゴニン、デヒドロノルケタミン、ケタミン、ノルケタミン、メサドン、ノルメサドン、6-アセチルモルヒネ、ジアセチルモルヒネ、モルヒネ、ノルヒドロコドン、オキシコドン、オキシモルフォン、フェンサイクリジン、ノルプロポキシフェン、アミトリプチリン、クロミプラミン、ドチエピン、ドキセピン、イミプラミン、ノルトリプチリン、トリミプラミン、フェンタニル、グリシルキシリジド、リドカイン、モノエチルグリシルキシリジド、N-アセチルプロカインアミド、プロカインアミド、プレガバリン、2-メチルアミノ-1-(3,4-メチレンジオキシフェニル)ブタン、2-アミノ-1-(3,4-メチレンジオキシフェニル)ブタン、ノルメペリジン、O-デストラマドール、トラマドール、リドカイン、N-アセチルプロカインアミド、プロカインアミド、ガバペンチン、ラモトリギン、テオフィリン、アミカシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、バンコマイシン、メトトレキサート、ガバペンチン、シソマイシン及び5-メチルシトシンからなる群より選択される。
【0203】
本発明の第5の態様の実施形態において、分析種分子は、炭水化物であり、又は、炭水化物部分、例えば糖タンパク質又はヌクレオシドを有する物質である。本発明の第5の態様の実施形態において、分析種分子は、リボース、デソキシリボース、アラビノース、リブロース、グリコース、マンノース、ガラクトース、フコース、フルクトース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、ノイラミン酸、N-アセチルノイラミン酸等からなる群より選択される単糖である。複数の実施形態において、分析種分子は、二糖、三糖、四糖、多糖からなる群より選択されるオリゴ糖である。本発明の第5の態様の実施形態において、二糖は、スクロース、マルトース及びラクトースからなる群より選択される。本発明の第5の態様の実施形態において、分析種分子は、上記単糖部分、二糖部分、三糖部分、四糖部分、オリゴ糖部分又は多糖部分を含む物質である。
【0204】
本発明の第5の態様の実施形態において、分析種分子は、アルキルアジド又はアリールアジドからなる群より選択される官能基としてのアジド基を含む。本発明の第5の態様の実施形態において、1個以上のアジド基を含む分析種分子は、ジドブジン及びアジドシリンからなる群より選択される。
【0205】
このような分析種分子は、体液、例えば血液、血清、血漿、尿、唾液、髄液等や、組織抽出物又は細胞抽出物等、生体試料又は臨床学的試料中に存在してもよい。本発明の第5の態様の実施形態において、分析種分子は、血液、血清、血漿、尿、唾液、髄液及び乾燥ろ紙血からなる群より選択される生体試料又は臨床学的試料中に存在する。本発明の第5の態様の一部の実施形態において、分析種分子は、精製又は部分的に精製された試料、例えば、精製又は部分的に精製されたタンパク質混合物又はタンパク質抽出物である試料中に存在してもよい。
【0206】
本発明の第5の態様の実施形態において、反応性単位Xは、カルボニル反応性単位、ジエン反応性単位、ヒドロキシル反応性単位、アミノ反応性単位、イミン反応性単位、チオール反応性単位、ジオール反応性単位、フェノール反応性単位、エポキシド反応性単位、ジスルフィド反応性単位及びアジド反応性単位からなる群より選択される。
【0207】
本発明の第5の態様の実施形態において、反応性単位Xは、カルボニル基を有する任意の種類の分子と反応することができるカルボニル反応性単位である。本発明の第5の態様の実施形態において、カルボニル反応性単位は、カルボキシル反応性単位、ケト反応性単位、アルデヒド反応性単位、無水物反応性単位、カルボニルエステル反応性単位及びイミド反応性単位からなる群より選択される。本発明の第5の態様の実施形態において、カルボニル反応性単位は、隣接するO原子若しくはN原子によるα効果によって強化された超求核性N原子NH2-N/O又はジチオール分子を有することができる。本発明の第5の態様の実施形態において、カルボニル反応性単位は、
(i)ヒドラジン単位、例えば、HN-NH-単位又はHN-NR-単位、(式中、Rが、アリール、1個以上のヘテロ原子を含有するアリール又はC1-4アルキルであり、特にC又はCアルキルであり、任意選択により例えばハロ、ヒドロキシル及び/又はC1-3アルコキシによって置換されていてもよい。)、
(ii)ヒドラジド単位、特にカルボヒドラジド単位又はスルホヒドラジド単位、特にHN-NH-C(O)-単位又はHN-NR-C(O)-単位(式中、Rが、アリール、1個以上のヘテロ原子を含有するアリール又はC1-4アルキルであり、特にC又はCアルキルであり、任意選択により例えばハロ、ヒドロキシル及び/又はC1-3アルコキシによって置換されていてもよい。)、
(iii)ヒドロキシルアミノ単位、例えばHN-O-単位及び
(iv)ジチオール単位、特に1,2-ジチオール単位又は1,3-ジチオール単位
の群より選択される。
【0208】
カルボニル反応性単位がカルボキシル反応性単位である、本発明の第5の態様の実施形態において、カルボキシル反応性単位は、分析種分子にあるカルボキシル基と反応する。本発明の第5の態様の実施形態において、カルボキシル反応性単位は、ジアゾ単位、アルキルハライド、アミン及びヒドラジン単位からなる群より選択される。
【0209】
本発明の第5の態様の実施形態において、反応性単位Xは、ジエン基を含む分析種と反応することができるジエン反応性単位である。本発明の第5の態様の実施形態において、ジエン反応性単位は、ジエノフィルとして作用することができるCookson型試薬、例えば1,2,4-トリアゾリン-3,5-ジオンからなる群より選択される。
【0210】
本発明の第5の態様の実施形態において、反応性単位Xは、ヒドロキシル基を含む分析種と反応することができるヒドロキシル反応性単位である。本発明の第5の態様の実施形態において、ヒドロキシル反応性単位は、フッ素の求核置換(T.Higashi J Steroid Biochem Mol Biol.2016 Sep;162:57-69)を可能とするスルホニルクロリド、活性化されたカルボン酸エステル(NHS又はイミダゾリン)及びフルオロアロメート/ヘテロアロメートからなる群より選択される。本発明の第5の態様の実施形態において、反応性単位Xは、分析種分子にあるジオール基と反応するジオール反応性単位である。反応性単位が1,2ジオール反応性単位である、本発明の第5の態様の実施形態において、1,2ジオール反応性単位は、ボロン酸を含む。さらなる実施形態において、ジオールを対応するケトン又はアルデヒドに酸化し、次いで、ケトン/アルデヒド反応性単位Xと反応させることができる。
【0211】
本発明の第5の態様の実施形態において、アミノ反応性単位は、分析種分子にあるアミノ基と反応する。本発明の第5の態様の実施形態において、アミノ反応性単位は、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル又はスルホ-NHSエステル、ペンタフルオロフェニルエステル、カルボニルイミダゾールエステル、四角酸エステル、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)エステル、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)エステル等の活性エステル基及びスルホニルクロリド単位からなる群より選択される。
【0212】
本発明の第5の態様の実施形態において、チオール反応性単位は、分析種分子にあるチオール基と反応する。本発明の第5の態様の実施形態において、チオール反応性単位は、ハロアセチル基からなる群より選択され、特に、Br/I-CH2-C(=O)-単位、アクリルアミド/エステル単位、マレイミド等の不飽和イミド単位、メチルスルホニルフェニルオキサジアゾール及びスルホニルクロリド単位からなる群より選択される。
【0213】
本発明の第5の態様の実施形態において、フェノール反応性単位は、分析種分子にあるフェノール基と反応する。本発明の第5の態様の実施形態において、フェノール反応性単位は、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル又はスルホ-NHSエステル、ペンタフルオロフェニルエステル、カルボニルイミダゾールエステル、四角酸エステル、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)エステル、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)エステル等の活性エステル単位及びスルホニルクロリド単位からなる群より選択される。分析種分子に存在するフェノール基は、ある反応(H.Ban et al J.Am.Chem.Soc.,2010,132(5),pp 1523-1525)によってトリアゾールジオンと反応させることが可能であり、若しくはジアゾ化によってトリアゾールジオンと反応させることも可能であり、又は代替的には、オルトニトロ化によってトリアゾールジオンと反応させた後、アミンに還元することも可能であり、このアミンの還元の後に、アミン反応性試薬と反応させることもできる。
【0214】
本発明の第5の態様の実施形態において、反応性単位Xは、エポキシド基を含む分析種と反応させることができるエポキシド反応性単位である。本発明の第5の態様の実施形態において、エポキシド反応性単位は、アミノ、チオール、隣接するO原子若しくはN原子によるα効果によって強化された超求核性N原子NH2-N/O分子からなる群より選択される。本発明の第5の態様の実施形態において、エポキシド反応性単位は、
(i)ヒドラジン単位、例えば、HN-NH-単位又はHN-NR-単位、(式中、Rが、アリール、1個以上のヘテロ原子を含有するアリール又はC1-4アルキルであり、特にC又はCアルキルであり、任意選択により例えばハロ、ヒドロキシル及び/又はC1-3アルコキシによって置換されていてもよい。)、
(ii)ヒドラジド単位、特にカルボヒドラジド単位又はスルホヒドラジド単位、特にHN-NH-C(O)-単位又はHN-NR-C(O)-単位(式中、Rが、アリール、1個以上のヘテロ原子を含有するアリール又はC1-4アルキルであり、特にC又はCアルキルであり、任意選択により例えばハロ、ヒドロキシル及び/又はC1-3アルコキシによって置換されていてもよい。)及び
(iii)ヒドロキシルアミノ単位、例えばHN-O-単位
の群から選択される。
【0215】
本発明の第5の態様の実施形態において、反応性単位Xは、ジスルフィド基を含む分析種と反応させることができるジスルフィド反応性単位である。本発明の第5の態様の実施形態において、ジスルフィド反応性単位は、チオールからなる群より選択される。さらなる実施形態において、ジスルフィド基を対応するチオール基に還元し、次いで、チオール反応性単位Xと反応させることができる。
【0216】
本発明の第5の態様の実施形態において、反応性単位Xは、分析種分子にあるアジド基と反応するアジド反応性単位である。本発明の第5の態様の実施形態において、アジド反応性単位は、アジド-アルキン付加環化によってアジド基と反応する。本発明の第5の態様の実施形態において、アジド反応性単位は、アルキン(アルキル又はアリール)、直鎖状アルキン又は環状アルキンからなる群より選択される。アジドとアルキンとの反応は、触媒を使用して進行させてもよいし、触媒の使用なしで進行させてもよい。本発明の第5の態様のさらなる実施形態において、アジド基を対応するアミノ基に還元し、次いで、アミノ反応性単位Xと反応させることができる。
【0217】
式Aの化合物は、ニュートラルロス単位Yを含む。ニュートラルロス単位Yは、電荷を有さない部分(中性要素)を解き放つことができる。ニュートラルロス単位Yは、フラグメンテーションされることが可能であり、言い換えると、MSの条件下においては、例えば衝突誘起解離(CID)に供された場合においては、例えば三連四重極MSにおいては、フラグメンテーションされ、これにより、中性要素を放出することができる。失われた中性要素は、単一の原子又は複数の原子である。中性要素の放出後、ニュートラルロス単位Yの残り部分は、依然として中性のままである。必須ではないが一般的には、1個の中性要素が放出される。本発明の第5の態様の特定の実施形態において、2個の中性要素が放出される。
【0218】
本発明の第1の態様の実施形態において、ニュートラルロス単位Yは、イオン化したときに少なくとも1個の中性要素を放出する。中性要素は、分子量の低い中性要素であり、特に、10~100Daの範囲、特に20~80Daの範囲、特に25~65Daの範囲である分子量の低い中性要素。特に、中性要素は、100Da以下、特に80Da以下、特に70Da以下、特に50Da以下、特に30Da以下の分子量を有する。
【0219】
本発明の第1の態様の実施形態において、中性要素は、N、NO、NO、S、SO、SO、CO、COからなる群より選択される。特定の実施形態において、中性要素は、Nである。
【0220】
本発明の第1の態様の実施形態において、中性要素の喪失は、質量/電荷比(m/z)を-28Da(N又はCOが失われた場合)、-30Da(NOが失われた場合)、-44Da(COが失われた場合)、-46Da(NOが失われた場合)、-48Da(SOが失われた場合)、-64Da(S又はSOが失われた場合)又は-87Da(N2及びトリメチルアミンが失われた場合)低下させる。.
【0221】
本発明の第5の態様の実施形態において、1個の中性要素が放出される。本発明の第5の態様の実施形態において、2個の中性要素が放出される。特に、放出された第2の中性要素は、放出された第1の中性要素とは異なる。第2の中性要素の放出は、第1の中性要素の放出と同時に又はこれに続いて起きる。特に、第2の中性要素の放出は、第1の中性要素の放出と同時に起き、すなわち、両方の中性要素が一度に放出され、すなわち、1回のフラグメンテーション事象で放出される。
【0222】
本発明の第5の態様の実施形態において、ニュートラルロス単位Yは、フラグメンテーション可能な環状部分を含み、又はこのような環状部分からなる。本発明の第5の態様の実施形態において、ニュートラルロス単位Yは、4員、5員又は6員複素環式部分を含み、又はこのような複素環式部分からなり、特に、互いに隣り合う少なくとも2個のヘテロ原子、特に、互いに隣り合う2個のN原子を有する4員、5員、6員複素環式部分を含み、又はこのような複素環式部分からなる。本発明の第5の態様の実施形態において、ニュートラルロス単位Yは、トリアゾール部分、テトラゾール部分、テトラジン部分、オキサジアゾール部分、チアジアゾール部分又はこれらの水素化誘導体を含み、又は前述のものからなる。本発明の第5の態様の実施形態において、ニュートラルロス単位Yは、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール部分、1,4,5-トリアゾール、3,4,5-トリアゾール部分、1,2,3,4-テトラゾール部分、2,3,4,5-テトラゾール部分若しくは2,3,5,6テトラゾール部分又は1,2,4,5テトラジン部分を含み、又は前述の部分からなる。本発明の第5の態様の実施形態において、ニュートラルロス単位Yは、1,2,3-トリアゾール部分若しくは1,2,4-トリアゾール部分、又は1,2,3,4-テトラゾール部分若しくは1,2,4,5テトラジン部分を含み、又は前述の部分からなる。
【0223】
本発明の第5の態様の実施形態において、荷電単位Zは、特に中性条件下においては、特に6~8のpH値においては、恒久的に荷電している。
【0224】
本発明の第5の態様の実施形態において、荷電単位Zは、正又は負に荷電しており、好ましくは正に荷電している。
【0225】
本発明の第5の態様の実施形態において、荷電単位Zは、
(i)少なくとも1個の正に荷電した部分
又は
(ii)少なくとも1個の負に荷電した部分
を含み、又はこのような部分からなる。
【0226】
本発明の第5の態様の実施形態において、荷電単位Zは、正に荷電した単位である。本発明の第5の態様の実施形態において、正に荷電した単位Zは、得られる式Aの化合物が10以上のpKaを有し、より特定すると12以上のpKaを有するように選択される。本発明の第5の態様の実施形態において、正に荷電した単位Zは、第一級、第二級、第三級若しくは第四級アンモニウム、スルホニウム、イミダゾリウム、ピリジニウム又はホスホニウムからなる群より選択される。第5の態様の特定の実施形態において、正に荷電した部分は、トリメチルアンモニウム、N,N-ジメチルピペリジニウム又はN-アルキルキヌクリジニウムである。
【0227】
本発明の第5の態様の実施形態において、荷電単位Zは、負に荷電した単位である。本発明の第5の態様の実施形態において、負に荷電した単位Zは、得られる式Aの化合物が10以上のpKbを有し、より特定すると12以上のpKbを有するように選択される。本発明の第5の態様の実施形態において、負に荷電した単位Zは、ホスフェート、スルフェート、スルホネート又はカルボキシレートからなる群より選択される。
【0228】
本発明の第5の態様の実施形態において、リンカーL1及びL2は互いに対して独立に、直鎖状リンカーである。第5の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1及びL2は互いに対して独立に、式Aの化合物の2個の機能単位間の単結合であり、又は1~10個のC原子、特に1~6個のC原子、特に1個、2個若しくは3個のC原子を含む。第5の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1及びL2は互いに対して独立に、1個以上のヘテロ原子、特にN、O又はSを含む。本発明の第5の態様の実施形態において、リンカーL1及びL2は互いに対して独立に、置換されており、又は無置換であり、特にリンカーL1及びL2は、無置換である。本発明の第5の態様の実施形態において、リンカーL1及び/又はL2は、プロトン化することができない。本発明の第5の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1及び/又はL2は、安定化単位を含む。本発明の第5の態様の実施形態において、安定化単位は、フラグメンテーション事象中における荷電単位Zの喪失を防止する。本発明の第5の態様の実施形態において、安定化単位は、場合によっては形成されることもあるカルボカチオンを不安定化することによって、荷電単位Zの喪失を防止する。本発明の第5の態様の実施形態において、安定化単位は、1個のC原子によって荷電単位Zから隔てられている。本発明の第5の態様の実施形態において、安定化単位は、少なくとも1個のヘテロ原子を含む。本発明の第5の態様の実施形態において、安定化単位は、CO、又は、SO若しくはSO2等の等電性アナログからなる群より選択される。第5の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1は、反応性単位とニュートラルロス単位とを接続している単結合であり、リンカーL2は、式Aの化合物のニュートラルロス単位と正に荷電した単位とを接続しており、任意選択により1個又は2個のヘテロ原子、特に1個又は2個のO原子を含んでもよい、1個又は2個のC原子である。第5の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1は、反応性単位とニュートラルロス単位とを接続している1個のC原子を含み、リンカーL2は、式Aの化合物のニュートラルロス単位と正に荷電した単位とを接続している、1個又は2個のC原子及び1個のO原子を含む。第5の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1は、反応性単位とニュートラルロス単位とを接続している、3個のC原子及び1個のO原子を含み、リンカーL2は、式Aの化合物のニュートラルロス単位と正に荷電した単位とを接続している、1個のC原子及び1個のO原子を含む。第5の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1は、反応性単位とニュートラルロス単位とを接続している、6個のC原子及び1個のO原子を含み、リンカーL2は、式Aの化合物のニュートラルロス単位と正に荷電した単位とを接続している、2個のC原子及び1個のO原子を含む。第5の態様の実施形態において、直鎖状リンカーL1は、反応性単位とニュートラルロス単位とを接続している、7個のC原子及び1個のO原子を含み、リンカーL2は、式Aの化合物のニュートラルロス単位と正に荷電した単位とを接続している単結合である。
【0229】
本発明の第5の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、カルボニル反応性単位であり、ニュートラルロス単位Yが、5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、恒久的に正に荷電した単位である、式Aの構造を有する。
【0230】
本発明の第5の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、ジエン反応性単位であり、ニュートラルロス単位Yが、5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、恒久的に正に荷電した単位である、式Aの構造を有する。
【0231】
本発明の第5の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、ヒドラジン単位であり、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式部分であり、荷電単位Zが、第三級アンモニウム基である、式Aの構造を有する。
【0232】
本発明の第5の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、ヒドラジド単位であり、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、第三級アンモニウム基である、式Aの構造を有する。
【0233】
本発明の第5の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、ヒドラジン単位であり、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式部分であり、荷電単位Zが、ピペリジン単位である、式Aの構造を有する。
【0234】
本発明の第5の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、ヒドラジド単位であり、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、ピペリジン単位である、式Aの構造を有する。
【0235】
本発明の第5の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、ヒドラジン単位であり、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式部分であり、荷電単位Zが、ピリジン単位である、式Aの構造を有する。
【0236】
本発明の第5の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、ヒドラジド単位であり、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、ピリジン単位である、式Aの構造を有する。
【0237】
本発明の第5の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、Cookson型試薬であり、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、第三級アンモニウム基である、式Aの構造を有する。
【0238】
本発明の第5の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、Cookson型試薬であり、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、ピペリジン単位である、式Aの構造を有する。
【0239】
本発明の第5の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、Cookson型試薬であり、ニュートラルロス単位Yが、少なくとも3個のヘテロ原子を含む5員複素環式単位であり、荷電単位Zが、ピリジン単位である、式Aの構造を有する。
【0240】
本発明の第5の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、HN-NH-であり、ニュートラルロス単位Yが、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、1,2,3,4-テトラゾール又は1,2,4,5-テトラジンであり、荷電単位Zが、第三級アンモニウム単位である、式Aの構造を有する。
【0241】
本発明の第5の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、HN-NH-であり、ニュートラルロス単位Yが、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、1,2,3,4-テトラゾール又は1,2,4,5-テトラジンであり、荷電単位Zが、ピペリジン単位である、式Aの構造を有する。
【0242】
本発明の第5の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、HN-NH-であり、ニュートラルロス単位Yが、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、1,2,3,4-テトラゾール又は1,2,4,5-テトラジンであり、荷電単位Zが、ピリジン単位である、式Aの構造を有する。
【0243】
本発明の第5の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、HN-O-C-、ニュートラルロス単位Yが、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、1,2,3,4-テトラゾール又は1,2,4,5-テトラジンであり、荷電単位Zが、ジメチルピペリジン又はキヌクリジン単位である、式Aの構造を有する。
【0244】
本発明の第5の態様の実施形態において、化合物は、反応性単位Xが、1,2,4-トリアゾリン-3,5-ジオンであり、ニュートラルロス単位Yが、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、1,2,3,4-テトラゾール又は1,2,4,5-テトラジンであり、荷電単位Zが、ジメチルピペリジン又はキヌクリジン部分である、式Aの構造を有する。
【0245】
本発明の第5の態様の実施形態において、式Aの化合物は、
(i)標識1
【化20】
(ii)標識2
【化21】
及び
(iii)標識3
【化22】
からなる群より選択される。
【0246】
式Aの化合物の
さらなる例は、次の通りである。
(iv)標識4
【化23】
(v)標識5
【化24】
(vi)標識6
【化25】
(vii)標識7
【化26】
(viii)標識8
【化27】
(ix)標識9
【化28】
(x)標識10
【化29】
(xi)標識11
【化30】
(xii)標識12
【化31】
【0247】

第6の態様において、本発明は、
(a)分析種分子を、本明細書において本発明の第1の態様に関して上記で開示された式Aの化合物と反応させ、これにより、分析種分子と式Aの化合物との共有結合付加体を形成するステップと、
(b)ステップ(a)の付加体に、質量分析による分析を施すステップと
を含む、分析種分子に対する質量分析による測定のための方法に関する。
【0248】
ステップ(a)は、質量分析による測定の前に、試料調製ワークフローに含まれる様々な段階で実施することができる。分析種分子を含む試料は、様々な方法によって前処理及び/又は濃縮することができる。前処理方法は、血液(新鮮な血液又は乾燥した血液)、血漿、血清、尿又は唾液等の試料の種類によるが、濃縮方法は、着目する分析種による。どの前処理試料がどの試料の型に適するかは、当業者に周知である。どの濃縮方法がどの着目する分析種に適するかも、当業者に周知である。
【0249】
本発明の第6の態様の実施形態において、分析種分子に対する質量分析による測定のための本方法のステップ(a)は、i)試料の前処理ステップの後に実施され、ii)試料の第1の濃縮の後に実施され、又はiii)試料の第2の濃縮の後に実施される。
【0250】
試料が全血試料である、本発明の第6の態様の実施形態において、試料は、両方のワークフローが内部標準(ISTD)及び溶血試薬(HR)の添加と、後続する所定のインキュベーション期間(Inc)とを含む、所定の2種の試料前処理(PT)ワークフローのうちの1つに供されるが、これらの2種のワークフローの相違点は、内部標準(ISTD)及び溶血試薬(HR)を添加する順番である。複数の実施形態において、水は、試料1mL当たり水が0.5:1~20:1mLの量、特に試料1mL当たり水が1:1~10:1mLの量、特に試料1mL当たり水が2:1~5:1mLの量で溶血試薬として加えられる。
【0251】
試料が尿試料である、本発明の第6の態様の実施形態において、試料は、両方のワークフローが内部標準及び酵素試薬の添加と、後続する所定のインキュベーション期間とを含む、他の所定の2種の試料PTワークフローのうちの1つに供されるが、これらの2種のワークフローの相違点は、内部標準及び酵素試薬を加える順番である。酵素試薬は一般的に、グルクロニド開裂若しくはタンパク質開裂、又は、分析種若しくはマトリックスの何らかの前処理のために使用される試薬である。さらなるステップにおいて、本明細書において上記又は下記で開示された本発明の化合物等の誘導体化試薬が、インキュベーション期間後に加えられる。
【0252】
本発明の第6の態様の実施形態において、酵素試薬は、グルクロニダーゼ、(部分的)脱グリコシル化細胞外若しくは細胞内酵素又はエキソプロテアーゼ若しくはエンドプロテアーゼからなる群より選択される。複数の実施形態において、グルクロニダーゼが、0.5~10mg/mlの量、特に1~8mg/mlの量、特に2~5mg/mlの量で加えられる。
【0253】
試料が血漿又は血清である、本発明の第6の態様の実施形態において、試料は、内部標準(ISTD)のみの添加と、後続する所定のインキュベーション時間とを含む、別の所定のPTワークフローに供される。
【0254】
本明細書において上記又は下記で名前を挙げて検討された試料処理、化学反応又は方法ステップのために、どのインキュベーション時間及び温度を選択するかは、当業者に周知である。特に、当業者は、例えば、一般的には高温がインキュベーション期間の短縮につながり、逆もまた真であるため、インキュベーション時間とインキュベーション温度とが互いに依存することを知っている。本発明の第6の態様の実施形態において、インキュベーション温度は、4~45℃の範囲、特に10~40℃の範囲、特に20~37℃である。複数の実施形態において、インキュベーション時間は、30秒~120分の範囲、特に30秒~1分の範囲、30秒~5分の範囲、30秒~10分の範囲、1分~10分の範囲又は1分~20分の範囲、10分~30分の範囲、30分~60分の範囲又は60分~120分の範囲である。特定の実施形態において、インキュベーション時間は、36秒の倍数である。
【0255】
したがって、本方法の実施形態、ステップa)は、上記開示された試料の前処理プロセスのいずれかの後に実施される。
【0256】
ステップa)における式(A)の化合物と分析種分子との反応が、あらゆる濃縮プロセスの前に実施される、本発明の第6の態様の実施形態において、式(A)の化合物は、前処理された着目する試料に加えられる。この結果、前処理の後、第1の濃縮プロセスの前に、分析種分子と(I)の化合物との付加体が形成される。この結果、付加体は、ステップb)の質量分析による分析を施される前に、第1の濃縮プロセス及び第2の濃縮プロセスを施される。
【0257】
前処理された試料には、分析種濃縮ワークフローをさらに施してもよい。分析種濃縮ワークフローは、1種以上の濃縮方法を含むことができる。濃縮方法は、当技術分野において周知であり、限定されるわけではないが化学沈殿を含む化学濃縮方法と、限定されるわけではないが固相抽出法、ビーズ式ワークフロー及びクロマトグラフィー法(例えば、ガスクロマトグラフィー又は液体クロマトグラフィー)を含む、固相を使用する濃縮方法とが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0258】
本発明の第6の態様の実施形態において、第1の濃縮ワークフローは、分析種に対して選択的な基を有する固相、特に固体ビーズを、前処理された試料に加えることを含む。本発明の第6の態様の実施形態において、第1の濃縮ワークフローは、分析種に対して選択的な基を有する磁性又は常磁性ビーズを、前処理された試料に加えることを含む。本発明の第6の態様の実施形態において、磁性ビーズの添加は、撹拌又は混合を含む。着目する分析種をビーズに捕捉するための所定のインキュベーション期間が後続する。本発明の第6の態様の実施形態において、ワークフローは、磁性ビーズと一緒にしてのインキュベーション後に、洗浄ステップ(W1)を含む。分析種に応じて、1種以上のさらなる洗浄ステップ(W2)が実施される。1つの洗浄ステップ(W1、W2)は、磁石又は電磁石を含む磁性ビーズハンドリングユニットによる磁性ビーズ分離、液体吸引、洗浄用バッファーの添加、磁性ビーズの再懸濁、別の磁性ビーズ分離ステップ及び別の液体吸引を含む、一連のステップを含む。さらに、洗浄ステップどうしは、体積以外の溶媒(水/有機物/塩/pH)の種類及び洗浄サイクル回数又は組合せが異なってもよい。どのようにして各パラメータを選択するかは、当業者に周知である。最後の洗浄ステップ(W1、W2)の後に溶出試薬を添加し、続いて、磁性ビーズを再懸濁させ、磁性ビーズから着目する分析種を放出するための所定のインキュベーション期間を置く。次いで、拘束されていない磁性ビーズが分離され、誘導体化された着目する分析種を含有する上澄みが捕集される。
【0259】
本発明の第6の態様の実施形態において、第1の濃縮ワークフローは、マトリックスに対して選択的な基を有する磁性ビーズを、前処理された試料に加えることを含む。本発明の第6の態様の実施形態において、磁性ビーズの添加は、撹拌又は混合を含む。マトリックスをビーズに捕捉するための所定のインキュベーション期間が後続する。ここで、着目する分析種は、磁性ビーズに結合せず、上澄み中に残留する。その後、磁性ビーズが分離され、濃縮された着目する分析種を含有する上澄みが収集される。
【0260】
本発明の第6の態様の実施形態において、上澄みは、第2の濃縮ワークフローを施される。ここで、上澄みは、LCステーションに移送され、又は希釈用液体の添加による希釈ステップの後にLCステーションに移送される。例えば溶媒の種類(水/有機物/塩/pH)及び体積を変更することによって、異なる溶出手順/試薬を使用することもできる。様々なパラメータが当業者に周知であり、容易に選択される。
【0261】
本方法のステップa)が前処理方法の直後に実施されなかった、本発明の第6の態様の実施形態において、ステップa)は、本明細書において上述された磁性ビーズを使用する第1の濃縮ワークフローの後に実施されてもよい。
【0262】
分析種に対して特異的な磁性ビーズが使用される、本発明の第6の態様の実施形態において、本明細書において上記又は下記で開示された式(A)の化合物は、洗浄ステップ(W1、W2)が終了した後で溶出試薬より先に、溶出試薬と一緒に、又は溶出試薬に続いて、着目する試料に加えられ、この後、インキュベーション期間(規定された時間及び温度)が置かれる。
【0263】
本発明の第6の態様の実施形態において、次いで、拘束されていない磁性ビーズが分離され、ステップa)の付加体を含有する上澄みが収集される。本発明の第6の態様の実施形態において、ステップa)の付加体を含有する上澄みは、第2の濃縮ワークフローに移送され、特に、LCステーションに直接移送され、又は希釈用液体の添加による希釈ステップ後にLCステーションに移送される。
【0264】
マトリックスに対して特異的な磁性ビーズが使用される、本発明の第6の態様の実施形態において、本明細書において上記で開示された式(A)の化合物は、磁性ビーズの分離前、磁性ビーズの分離と同時又は磁性ビーズの分離後に着目する試料に加えられる。本発明の第6の態様の実施形態において、ステップa)の付加体を含有する上澄みは、第2の濃縮ワークフローに移送され、特に、LCステーションに直接移送され、又は希釈用液体の添加による希釈ステップの後にLCステーションに移送される。
【0265】
したがって、ステップa)における式(A)の化合物と分析種分子との反応が第1の濃縮プロセスの後に実施される、本発明の第6の態様の実施形態において、式(A)の化合物は、第1の濃縮プロセス、特に、磁性ビーズを使用する第1の濃縮プロセスが終了した後に、着目する試料に加えられる。したがって、試料は、最初に、本明細書において上述されたように前処理され、次いで、本明細書において上述された分析種に対して選択的な基を有する第1の濃縮プロセス、特に、磁性ビーズを使用する第1の濃縮プロセスを施され、ビーズからの溶出の前に、溶出と同時に、又は溶出の後に、式(A)の化合物が加えられる。したがって、分析種分子と式(A)の化合物との付加体は、第1の濃縮プロセスの後、第2の濃縮プロセスの前に形成される。この結果、付加体は、ステップb)の質量分析による分析を施される前に、第2の濃縮プロセスを施される。
【0266】
本発明の第6の態様の別の実施形態において、本方法のステップ(a)は、第2の分析種濃縮ワークフローの後に実施される。第2の濃縮ワークフローにおいて、クロマトグラフィーによる分離を使用して、試料中の着目する分析種をさらに濃縮する。本発明の第6の態様の実施形態において、クロマトグラフィーによる分離は、ガスクロマトグラフィー又は液体クロマトグラフィーである。両方の方法が当業者に周知である。本発明の第6の態様の実施形態において、液体クロマトグラフィーは、HPLC、ラピッドLC、マイクロLC、フローインジェクション及びトラップ溶出法(trap and elute)からなる群より選択される。
【0267】
本発明の第6の態様の実施形態において、本方法のステップa)は、クロマトグラフィーによる分離と同時又はクロマトグラフィーによる分離の後に実施される。本発明の第6の態様の実施形態において、式(A)の化合物は、溶出バッファーと一緒にカラムに加えられる。代替的な実施形態において、式(A)の化合物は、ポストカラムに加えられる。
【0268】
本発明の第6の態様の実施形態において、第1の濃縮プロセスは、分析種に対して選択的な磁性ビーズの使用を含む。本発明の第6の態様の実施形態において、第2の濃縮プロセスは、クロマトグラフィーによる分離、特に、液体クロマトグラフィーを使用するクロマトグラフィーによる分離を含む。
【0269】
複数の実施形態において、質量分析による分析ステップ(b)は、
(i)付加体のイオンに、質量分析による分析の第1の段階を施し、これにより、付加体の親イオンを、質量/電荷(m/z)比によってキャラクタリゼーションするステップと、
(ii)付加体の親イオンのフラグメンテーションを起こし、これにより、第1の中性要素を放出し、付加体の親イオンとはm/z比が異なる付加体の娘イオンを生成するステップと、
(iii)付加体の娘イオンに、質量分析による分析の第2の段階を施し、これにより、付加体の娘イオンを、m/z比によってキャラクタリゼーションするステップとを含み、及び/又は
(ii)が、付加体のイオンの代替的なフラグメンテーションを行い、これにより、第1の中性要素とは異なる第2の中性要素を放出し、付加体の第2の娘イオンを生成することをさらに含むことができ、
(iii)が、付加体の第1の娘イオン及び第2の娘イオンに、質量分析による分析の第2の段階を施し、これにより、付加体の第1の娘イオン及び第2の娘イオンを、m/z比によってキャラクタリゼーションすることをさらに含むことができる。
【0270】
したがって、ステップa)における式(A)の化合物と分析種分子との反応が、第2の濃縮プロセスの後に実施される、本発明の第6の態様の実施形態において、式(A)の化合物は、クロマトグラフィー、特に、液体クロマトグラフィーを使用する第2の濃縮プロセスが終了した後に、着目する試料に加えられる。したがって、この場合、試料は、最初に、本明細書において上述されたように前処理され、次いで、本明細書において上述された第1の濃縮プロセス、特に、磁性ビーズを使用する第1の濃縮プロセスを施され、続いて、特に液体クロマトグラフィーを使用するクロマトグラフィーによる分離を施され、クロマトグラフィーによる分離の後に、式(A)の化合物が加えられる。したがって、分析種分子と式(A)の化合物との付加体は、第2の濃縮プロセスの後に形成される。この結果、付加体は、ステップb)の質量分析による分析を施される前に、濃縮プロセスを施されない。
【0271】
さらなる実施形態において、本発明は、次の態様に関する。
【0272】
1.式A
【化32】
(式中、
Xが、特に分析種分子との間に共有結合を形成することができる反応性単位であり、
L1及びL3が互いに対して独立に、置換又は無置換リンカー、特に直鎖状リンカーであり、
Yが、ニュートラルロス単位であり、
Zが、少なくとも1個の恒久的に荷電した部分、特に恒久的に荷電した1個の部分を含む荷電単位である。)
の化合物の任意の塩を含む、式Aの化合物。
【0273】
2.反応性単位Xが、カルボニル反応性単位、ジエン反応性単位、ヒドロキシル反応性単位、アミノ反応性単位、イミン反応性単位、チオール反応性単位、ジオール反応性単位、フェノール反応性単位、エポキシド反応性単位、ジスルフィド反応性単位及びアジド反応性単位からなる群より選択される、態様1の化合物。
【0274】
3.反応性単位Xが、カルボニル反応性基であり、特に、Xが、
(i)ヒドラジン単位、特にH2N-NH-単位又はH2N-NR1-単位(式中、R1は、任意選択により置換されていてもよい、アリール又はC1-4アルキルであり、特にC1又はC2アルキルである。)
(ii)ヒドラジド単位、特にカルボヒドラジド又はスルホヒドラジド、特にH2N-NH-C(O)-単位又はH2N-NR2-C(O)-単位(式中、R2は、任意選択により置換されていてもよい、アリール又はC1-4アルキルであり、特にC1又はC2アルキルである。)、
(iii)ヒドロキシルアミノ単位、特にH2N-O-単位及び
(iv)ジチオール単位、特に1,2-ジチオール単位又は1,3-ジチオール単位
からなる群より選択される、態様1又は2の化合物。
【0275】
4.反応性単位Xが、チオール反応性基であり、又は、活性エステル基、例えばN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル又はスルホ-NHSエステル、ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)エステル若しくは1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)エステル基等のアミノ反応性基である、態様1又は2の化合物。
【0276】
5.ニュートラルロス単位Yが、イオン化したときに中性要素を放出する、態様1から4のいずれかの化合物。
【0277】
6.荷電単位Zが、恒久的に荷電している、態様1から5のいずれかの化合物。
【0278】
7.リンカーL1 L2が互いに対して独立に、1~10個のC原子、任意選択により1個以上のヘテロ原子を含んでもよい、態様1から6のいずれかの化合物。
【0279】
8.反応性単位Xが、カルボニル反応性基であり、ニュートラルロス単位Yが、5員複素環式部分であり、荷電単位Zが、1個の恒久的に正に荷電した部分を含む、態様1から7のいずれかの化合物
【0280】
9.反応性単位Xが、HN-NH-であり、ニュートラルロス単位Yが、トリアゾール又はテトラゾールであり、荷電単位Zが、ピペリジン単位を含む、態様1から8のいずれかの化合物。
【0281】
10.態様1から9のいずれかの化合物を含む、組成物。
【0282】
11.態様1から9のいずれかの化合物又は態様10の組成物を含む、キット。
【0283】
12.互いに対して共有結合した分析種分子と、態様1から9のいずれかの化合物とを含む、共有結合付加体であって、特に、分析種分子と態様1から9のいずれかの化合物との化学反応によって形成された、共有結合付加体。
【0284】
13.式A
【化33】
(式中、
Xが、特に分析種分子との間に共有結合を形成することができる反応性単位であり、
L1及びL2が互いに対して独立に、置換又は無置換リンカー、特に直鎖状リンカーであり、
Yが、ニュートラルロス単位であり、
Zが、少なくとも1個の恒久的に荷電した部分、特に恒久的に荷電した1個の部分を含む荷電単位である。)
の化合物の任意の塩を含む、式Aの化合物の、
又は、少なくとも1種の式Aの化合物を含む、組成物若しくはキットの、
分析種分子に対する質量分析による測定、特に、タンデム型質量分析による測定を含む、質量分析による測定、より特定すると、三連四重極デバイスにおけるタンデム型質量分析による測定を含む、質量分析による測定のための使用。
【0285】
14.(a)分析種分子を、請求項1から9のいずれか一項に規定された式Aの化合物と反応させ、これにより、分析種分子と式Aの化合物との共有結合付加体を形成するステップと、
(b)ステップ(a)の付加体に、質量分析による分析を施すステップと
を含む、分析種分子に対する質量分析による測定のための方法であって、
好ましくは、質量分析による分析ステップ(b)が、
(i)付加体のイオンに、質量分析による分析の第1の段階を施し、これにより、付加体のイオンを、質量/電荷(m/z)比によってキャラクタリゼーションするステップと、
(ii)付加体のイオンのフラグメンテーションを起こし、これにより、第1の中性要素、特に、分子量の低い中性要素を放出し、付加体のイオンとはm/z比が異なる付加体の娘イオンを生成するステップと、
(iii)付加体の娘イオンに、質量分析による分析の第2の段階を施し、これにより、付加体の娘イオンを、m/z比によってキャラクタリゼーションするステップとを含み、及び/又は
(ii)が、付加体のイオンの代替的なフラグメンテーションを行い、これにより、第1の中性要素とは異なる第2の中性要素を放出し、付加体の第2の娘イオンを生成することをさらに含むことができ、
(iii)が、付加体の第1の娘イオン及び第2の娘イオンに、質量分析による分析の第2の段階を施し、これにより、付加体の第1の娘イオン及び第2の娘イオンを、m/z比によってキャラクタリゼーションすることをさらに含むことができる。
【実施例
【0286】
次の例は説明のために提供されており、ここで主張されている本発明を限定するものではない。
【0287】
実施例1 標識1の合成
1.ステップ:[1-(2-メトキシ-2-オキソ-エチル)トリアゾール-4-イル]メチルトリメチルアンモニウム;2,2,2-トリフルオロアセテートの合成
【化34】
【0288】
10mlのメタノール中のN、N、N-トリメチルプロパルギルアンモニウムヨージド(270mg、1.20mmol)の溶液に、アルゴン雰囲気下でメチルアジドアセテート(117μL、138mg、1.20mmol)を加えた。CuBr(PPh(112mg、0.12mmol)を加え、懸濁液を室温で終夜撹拌した反応混合物を真空下で濃縮し、分取HPLCによって粗製生成物を精製して、黄色固体のTFA塩として143mgの所望の生成物を37%の収率で得た。
【0289】
HPLC法 C-18カラム:
0分:98%HO 0.1%TFA、2%CHCN 0.1%TFA;
0~10分:98%HO 0.1%TFA、2%CHCN 0.1%TFA;
10~60分:70%HO 0.1%TFA;30%CHCN 0.1%TFA;
60~90分:20%HO 0.1%TFA;80%CHCN 0.1%TFA;
H NMR(400MHz,メタノール-d):δppm 3.18(s,9H)3.82(s,3H)4.74(s,2H)5.45(s,2H)8.43(s,1H).
13C NMR(101MHz,メタノール-d):δppm 51.96(1C)53.55-53.66(1C),61.28(1C),131.03(1C),137.16(1C),169.06(1C).
HPLC-MS(m/z)[M]+計算値213.1351 測定値213.4
【0290】
2.ステップ:[1-(2-ヒドラジノ-2-オキソ-エチル)トリアゾール-4-イル]メチルトリメチルアンモニウム;2,2,2-トリフルオロアセテートの合成
【化35】
【0291】
10mlのメタノール中のエステル(91.3mg、280μmol)の溶液に、ヒドラジン一水和物(約65%、209μL、216mg、2.80mmol)を加え、反応混合物を室温で4時間撹拌した。混合物を真空下で濃縮し、分取HPLCを施して、無色油状物のTFA塩として59mg、48%の所望の生成物を得た。
H NMR(400MHz,アセトニトリル-d):δppm 3.05(s,9H)4.55(s,2H)5.16(s,2H)8.22(s,1H).
13C NMR(101MHz,アセトニトリル-d):δppm 51.71(1C)53.60(1C)53.64(1C)53.67(1C)61.19(1C)130.49(1C)136.39(1C)170.50(1C).
HPLC-MS(m/z)[M]+計算値213.14638 測定値213.4
【0292】
実施例2 標識2の合成
1.ステップ:4-エチニル-1,1-ジメチルピペリジン-1-イウム;2,2,2-トリフルオロアセテートの合成
【化36】
【0293】
25mlのDMF中の4-エチルピペリジンヒドロクロリド(561mg、3.85mmol)の溶液に、2,2’,6,6’-テトラメチルピペリジン(1.43ml、1.20g、8.47mmol)及びメチルヨージド(1.84ml、4.20g、19.3mmol)を加えた。反応混合物を8時間還流させ、室温に冷却し、さらに16時間撹拌した。混合物を真空下で濃縮し、得られた粗製物質をアセトンによって(3回)洗浄した。残留固体は、還流させながら、最低限の量のメタノール(約10mL)及び加えられた2倍体積のアセトンに溶解させた。溶液を4℃で16時間貯蔵した。黄色結晶固体を収集し、アセトンによって洗浄し、真空下で乾燥させて、242mgの所望の生成物を24%の収率で無色油状物を得た。
H NMR(400MHz,DMSO-d):δppm 1.81-1.92(m,2H)1.98-2.07(m,2H)2.65-2.73(m,1H)3.05(d,J=2.38Hz,1H)3.07(d,J=1.76Hz,6H)3.27-3.42(m,4H)。
13C NMR(101MHz,DMSO-d):δppm 23.64(1C)25.61(1C)53.1(2C)60.18(1C)73.14(1C)85.28(1C).
HPLC-MS(m/z)[M]+計算値138.1283 測定値138.2
【0294】
2.ステップ:メチル2-[4-(1,1-ジメチルピペリジン-1-イウム-4-イル)トリアゾール-1-イル]アセテート;2,2,2-トリフルオロアセテートの合成
【化37】
【0295】
10mlのメタノール中のアルキン(265mg、1.00mmol)の溶液に、アルゴン雰囲気下でメチルアジドアセテート(97.3μL、115mg、1.00mmol)を加えた。CuBr(PPh(93mg、0.1mmol)を加え、懸濁液を室温で終夜撹拌した。反応混合物を真空下で濃縮し、分取HPLCによって粗製生成物を精製して、無色油状物のTFA塩として32mg、9%の所望の生成物を得た。
H NMR(400MHz,メタノール-d):δppm 2.18-2.29(m,4H)3.11-3.19(m,1H)3.20(s,3H)3.23(s,3H)3.48-3.64(m,4H)3.73(s,1H)3.80(s,3H)5.33(s,2H)7.93-7.95(m,1H).
13C NMR(101MHz,メタノール-d):δppm 27.20(1C)31.38(1C)50.01(1C)51.75(1C)53.48(2C)63.21(1C)124.50(1C)150.50(1C)169.10(1C).
HPLC-MS(m/z)[M]+計算値253.16645 測定値253.4
【0296】
3.ステップ:2-[4-(1,1-ジメチルピペリジン-1-イウム-4-イル)トリアゾール-1-イル]アセトヒドラジド;2,2,2-トリフルオロアセテートの合成:
【化38】
【0297】
10mlのメタノール中のエステル(110mg、300μmol)の溶液に、ヒドラジン一水和物(約65%、224μL、231mg、3.0mmol)を加え、反応混合物を室温で4時間撹拌した。混合物を真空下で濃縮し、分取HPLCによって粗製生成物を精製して、無色油状物のTFA塩として111mgの所望の生成物を77%の収率で得た。
H NMR(400MHz,メタノール-d):δppm 2.16-2.29(m,4H)3.15(m,1H)3.20(s,3H)3.24(s,3H)3.47-3.65(m,4H)5.22(s,2H)7.97(s,1H).
13C NMR(101MHz,メタノール-d):δppm 27.13(1C)31.30(1C)52.94(2C)56.14(1C)63.11(1C)124.7(1C)150.5(1C)171.1(1C).
HPLC-MS(m/z)[M]+計算値253.1777 測定値253.4
【0298】
実施例3 標識3の合成
1.ステップ:4-[4-[2-[4-(1,1-ジメチルピペリジン-1-イウム-4-イル)トリアゾール-1-イル]エトキシ]フェニル]-1,2,4-トリアゾリジン-3,5-ジオン;2,2,2-トリフルオロアセテートの合成。
【化39】
【0299】
30mlの50%アセトニトリル水溶液中の4-エチニル-1,1-ジメチルピペリジン-1-イウムヨージド(151mg、570μmol)及び4-(4-(2-アジドエトキシ)フェニル)-1,2,4-トリアゾリジン-3,5-ジオン(99.6mg、380μmol)の溶液に、あらかじめ形成しておいたCu-THPTA錯体(1mLの50%アセトニトリル水溶液中の171μmol)を加えた。注目すべき点として、Cu-THPTA錯体は、アルゴン雰囲気下でCuBr(24.4mg、171μmol)及びトリス(3-ヒドロキシプロピルトリアゾリルメチル)アミン(74.2mg、171μmol)を、1mlの50%アセトニトリル水溶液に溶解させることによって得た6時間後、さらなるCu-THPTA錯体(0.5mLの50%アセトニトリル水溶液中の114μmol)を加え、反応混合物を終夜撹拌した。反応混合物を真空下で濃縮し、RP-HPLCによって粗製生成物を精製した。凍結乾燥により、無色油状物として生成物(62mg、32%、1xTFA塩)を得た。
1H NMR(400MHz,メタノール-d4):δ[ppm]=2.17(br s,4H)3.05-3.14(m,1H)3.16(s,3H)3.21(s,3H)3.43-3.59(m,4H)4.47(t,J=4.89Hz,2H)4.81(t,J=4.83Hz,2H)6.93-7.03(m,2H)7.28-7.36(m,2H)7.92-8.12(m,1H).
ESI-MS:m/z=400.4(C19H26N7O3[M]+,calc.:400.2);
【0300】
2.ステップ:25-ヒドロキシビタミンD3コンジュゲートの合成。
【化40】
【0301】
1.5mL無水DMF中の4-[4-[2-[4-(1,1-ジメチルピペリジン-1-イウム-4-イル)トリアゾール-1-イル]エトキシ]フェニル]-1,2,4-トリアゾリジン-3,5-ジオン;2,2,2-トリフルオロアセテート(15.4mg、30μmol)の溶液に、1,3-ジブロモー5,5-ジメチルヒダントイン(9.43mg、33μmol)を加えた。酸化反応の事象は、無色から赤色への瞬間的な色の変化によって指し示された。60分後、44%硫酸によって被覆された45mgのシリカを加え、懸濁液を30分撹拌する。溶液をフィルタにかけ、25-ヒドロキシビタミンD3(13.0mg、30μmol)に加えて、共役反応を促進したが、この反応は、赤色から黄色への瞬間的な色の変化によって指し示された。反応混合物を真空下で濃縮し、RP-HPLCによって粗製生成物を精製した。凍結乾燥により、生成物である25-ヒドロキシビタミンD3コンジュゲート(0.86mg)を無色固体として得た。
ESI-MS:m/z=798.6(C46H68N7O5[M]+,calc.:798.5);MW=913.1g/mol(C46H68N7O5・C2HF3O2)。
【0302】
実施例4 標識1-テストステロン誘導体の調製及びMSによるその分析
【化41】
【0303】
テストステロンを、1mg/mLの最終濃度になるようにMSグレードのメタノールに溶解させた。標識1([1-(2-ヒドラジノ-2-オキソ-エチル)トリアゾール-4-イル]メチルトリメチルアンモニウム;2,2,2-トリフルオロアセテート)を、100mg/mLの最終濃度になるようにMSグレードのメタノールに溶解させた。70μLのMSグレードのメタノール及び10μLの氷酢酸の中で、10μLの標識1によって10μLのテストステロンを誘導体化した。誘導体化反応は、Eppendorf Thermomixerの中で45℃、1200rpmで2時間インキュベートした。無標識テストステロンの面積に基づいてLC-MS分析によって計算して、収率=96%。
【0304】
(80%メタノール中に1:1000で)希釈された10μLの誘導体化反応物を、陽イオンモードのLC-MSフルスキャンによって、5V、10V、15V、20V、30V、35V、40V、50V及び60Vの衝突エネルギーのそれぞれで分析した。
【0305】
LC/MS分析に関しては、Waters Acquity H UPLC(R)Class HPLCに接続されたXevo G2-XS-QTof LC-MSシステム(Waters)によって試料を分析した。移動相として水(A)又はメタノール(B)中の2mM NHAcと0.1%ギ酸を450μL/分の流量で用いるC18-カラム(Acquity UPLC HSS T3 1.8μm、2.1×50mmカラム、Waters)を使用して、クロマトグラフィーによる分離を45℃で実施した。0~2分が25%Bで、2~6分が25~99.9%Bで、6~8分が99.9%Bで、8~10分が25%Bであるステップグラジエントを使用した。最適化されたESI発生源の条件は、次の通りである:脱溶媒温度650℃、ソース温度150℃、コーンガス流量150L/時、脱溶媒ガス流量800L/時、衝突ガス流量0.18mL/分、ソースオフセット80V及びキャピラリー3.5V。TOF-MSの質量飛程は50~1200Daであり、データフォーマットはcentroidであり、スキャン時間は0.2秒であり、アナライザモードはsensitivityであり、ダイナミックレンジはノーマルであり、低質量分解能は15であり、高質量分解能は10だった。データは、MassLynxソフトウェア(バ-ジョン4.1、SCN949)によって取得し、TargetLynx(バ-ジョン4.1、SCN909)によって評価した。
【0306】
気相中において、誘導体標識1-テストステロンは、トリアゾール基からのトリメチルアミン及びNの協奏的なニュートラルロス(Δ87Da)を受けるが、図1Aに示されているように、正電荷は生成イオンに残留している。
【0307】
表1は、標識1-テストステロン誘導体の前駆イオン及び生成イオンに関する計算m/z値及び測定m/z値を示している。
【表1】
【0308】
標識1-テストステロン誘導体は、陽イオンモードのフルスキャンによって、異なる衝突エネルギーにおいて分析された。対応する前駆イオン及び生成イオンのピーク面積が、図1Bに示されている。生成イオンの最大強度は、30Vの衝突エネルギーにおいて得られる。対応するMSスペクトルが図1Cに示されており、前駆イオンのm/zは、483.2673であり、生成イオンのm/zは、396.1974である。
【0309】
同じ分析種濃度(0.1μg/mL)において、標識1-テストステロン誘導体の前駆イオンの最大ピーク面積と、無標識13-テストステロン及びRahimoff et al.(2017)の試薬Aによって標識されたテストステロンとを比較すると、両方の場合において、7倍の強度増大が観察されている(図2)。さらに、標識1は、同じ分析種濃度(0.1μg/mL、図2)において、Amplifex Keto試薬より強度が3倍高く、Girard P試薬より強度が2倍超高い前駆イオンを生成する。
【0310】
実施例5 標識2-テストステロン誘導体の調製及びMSによるその分析
【化42】
【0311】
テストステロンを、1mg/mLの最終濃度になるようにMSグレードのメタノールに溶解させた。標識2(2-[4-(1,1-ジメチルピペリジン-1-イウム-4-イル)トリアゾール-1-イル]アセトヒドラジド;2,2,2-トリフルオロアセテート)を、100mg/mLの最終濃度になるようにMSグレードのメタノールに溶解させた。70μLのMSグレードのメタノール及び10μLの氷酢酸の中で、10μLの標識2によって10μLのテストステロンを誘導体化した。誘導体化反応は、Eppendorf Thermomixerの中で45℃、1200rpmで2時間インキュベートした。無標識テストステロンの面積に基づいてLC-MS分析によって計算して、収率=96%。
【0312】
(80%メタノール中に1:1000で)希釈された10μLの誘導体化反応物を、陽イオンモードのLC-MSフルスキャンによって、5V、10V、15V、20V、30V、35V、40V、50V及び60Vの衝突エネルギーのそれぞれで分析した。
【0313】
LC/MS分析を、上記実施例4のように実施した。
【0314】
気相中において、誘導体標識2-テストステロンは、トリアゾール基からのNのニュートラルロス(Δ28Da)を受けるが、図3Aに示されているように、正電荷は、生成イオンにおいては、1,1-ジメチルピペリジニウム基のところで安定な状態のままである。
【0315】
表2は、標識2-テストステロン誘導体の前駆イオン及び生成イオンに関する計算m/z値及び測定m/z値を示している。
【表2】
【0316】
同じ分析種濃度(0.1μg/mL)において、標識2-テストステロン誘導体の前駆イオンの最大ピーク面積と、無標識13-テストステロン及びRahimoff et al.(2017)の試薬Aによって標識されたテストステロンとを比較すると、9倍の強度増大が観察されている(図3B)。さらに、標識1は、同じ分析種濃度(0.1μg/mL)において、Amplifex Keto試薬より強度が4倍高く、Girard P試薬より強度が3倍超高い前駆イオンを生成する。
【0317】
実施例6 MSによる標識3-25-OHビタミンD3誘導体の分析
25-OH-ビタミンD3誘導体を、0.1μg/mLの最終濃度になるまでMSグレードのメタノールに溶解させ、陽イオンモードのLC-MSフルスキャンによって、5V、10V、15V、20V、30V、35V、40V、50V及び60Vの衝突エネルギーのそれぞれで分析した。
【0318】
LCカラムにおいては、標識3によって誘導体化された25-OH-ビタミンD3は、誘導体化されていない25-OH-ビタミンD3より強度が180倍高い(図4)明瞭な単一のピークを生じさせている。
【0319】
気相中において、標識された25-OH-ビタミンD3は、トリアゾール基からのNのニュートラルロス(Δ28Da)を受けるが、図5Aに示されているように、正電荷は、生成イオンにおいては、1,1-ジメチルピペリジニウム基のところで安定な状態のままである。
【0320】
表3は、標識された25-OH-ビタミンD3の前駆イオン及び生成イオンに関する計算m/z値及び測定m/z値を示している。
【表3】
【0321】
同じ分析種濃度(0.1μg/mL)において、標識された25-OH-ビタミンD3の前駆イオンの最大ピーク面積と、無標識25-OH-ビタミンD3とを比較すると、37倍の強度増大が観察されている(図5B)。
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5