(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】サイログロブリンの測定方法及び測定試薬
(51)【国際特許分類】
G01N 33/531 20060101AFI20240902BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
G01N33/531 B
G01N33/53 D
(21)【出願番号】P 2021522286
(86)(22)【出願日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2020020104
(87)【国際公開番号】W WO2020241443
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2019097525
(32)【優先日】2019-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306008724
【氏名又は名称】富士レビオ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大植 千春
(72)【発明者】
【氏名】八木 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】青柳 克己
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/047792(WO,A1)
【文献】特開2017-032583(JP,A)
【文献】特開2007-010418(JP,A)
【文献】特開2000-241429(JP,A)
【文献】国際公開第2014/122973(WO,A1)
【文献】特開平08-297123(JP,A)
【文献】西川光重 ほか,サイログロブリン (Tg),日本臨床,2010年,第68巻(増刊号7),pp.295-298
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から分離された試料と、アルカリ性物質を含む前処理液とを混和する前処理工程を含
み、前記前処理液が、非イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤及び尿素から成る群より選ばれる少なくとも1種をさらに含む、生体から分離された試料中のサイログロブリンをイムノアッセイにより測定する方法。
【請求項2】
前処理工程におけるアルカリ性物質の終濃度が0.05N超0.5N以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルカリ性物質と、
非イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤及び尿素から成る群より選ばれる少なくとも1種と
を含む前処理液を備える、サイログロブリンのイムノアッセイ用試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイログロブリンの測定方法及び測定試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
サイログロブリン(Tg)は、甲状腺濾胞細胞のみでつくられる分子量66万の糖蛋白である。生合成されたTgは濾胞腔へ放出される。この経過中に、ペルオキシダーゼの作用によってTg分子中のチロシン基にヨード分子が結合して、甲状腺ホルモンの合成が行われる。濾胞腔のTgは再度濾胞細胞にとりこまれ、濾胞細胞内で分解され、甲状腺ホルモンの放出が起こる。またこの過程は、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の働きにより活性化される。故に、正常時では、Tgそのものの血中への放出はごくわずか起こるのみであり、Tgの血中放出は甲状腺の何らかの異常を示す。よってTgは臓器特異性が高く甲状腺疾患にはきわめて有用なマーカーである。特に、血中Tgは、甲状腺分化癌の手術評価、および術後再発や転移の有無を知るマーカーとして使用される。その他、バセドウ病での治療の効果、寛解の指標、先天性甲状腺機能低下症の病型の決定や鑑別、治療モニタリングなどにも有用である。また、画像診断との組合せにより結節性甲状腺腫の術前診断や良性の甲状腺疾患と悪性腫瘍とを鑑別する可能性も示唆されている。
【0003】
しかし、被験者が抗サイログロブリン抗体(TgAb)陽性の場合、実際はTg高値でも測定上の問題で低値になることがある。例えば、甲状腺癌では患者の20~30%がTgAb陽性のため、Tg測定に際しては同時にTgAbを測定する必要があった。また、TgAb陽性の橋本病ではTgの量を正確に測定することは困難であり、同様にTgAb陽性が観察される他の自己免疫性疾患(バセドウ病)でもTgの量が正確に測定出来ていないおそれがあった。
【0004】
この問題を解決すべく、本願出願人は、先に、試料を界面活性剤及び酸性化剤のいずれか又は両方を含む前処理液で処理する方法を発明し、特許出願した(特許文献1)。特許文献1記載の方法は、有効であるが、イムノアッセイに用いる抗体としては、酸性化剤や界面活性剤に対して耐性のあるものを用いる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなTgAb陽性の患者であっても、Tgの量を正確に測ることが可能となれば、甲状腺疾患の治療モニタリングに広く利用できる可能性がある。本発明は、抗サイログロブリン抗体の干渉の影響を受けることなく、単独検査でより正確なサイログロブリン量を測定可能な、サイログロブリンの測定方法及び測定試薬であって、酸性化剤や界面活性剤に対して耐性が低い抗体をもイムノアッセイに用いることができる、測定方法及び測定試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、生体試料中のサイログロブリンの測定に際し、前記生体試料を免疫反応に供する前に、アルカリ性物質を含む前処理液と混和する前処理工程を介することで、抗サイログロブリン抗体の影響を受けず、より正確なサイログロブリン測定値が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、以下のものを提供する。
(1)生体から分離された試料と、アルカリ性物質を含む前処理液とを混和する前処理工程を含み、前記前処理液が、非イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤及び尿素から成る群より選ばれる少なくとも1種をさらに含む、生体から分離された試料中のサイログロブリンをイムノアッセイにより測定する方法。
(2)前処理工程におけるアルカリ性物質の終濃度が0.05N超0.5N以下である、(1)に記載の方法。
(3) アルカリ性物質と、
非イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤及び尿素から成る群より選ばれる少なくとも1種と
を含む前処理液を備える、サイログロブリンのイムノアッセイ用試薬。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、抗サイログロブリン抗体(TgAb)を含有する生体試料中であっても、サイログロブリン(Tg)をTgAbから遊離させ、相互作用の影響を低減させることにより、試料に含まれるTg量をより正確に測定し得る、Tgの測定方法及び測定試薬を提供することができる。また、酸性化剤や界面活性剤に耐性の低い抗体をイムノアッセイに用いることも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書中で記載される「%」の濃度は、特に記載のない限り、重量/体積(w/v、g/100mL)の濃度表示である。
【0011】
<サイログロブリンの測定方法>
本発明で測定されるサイログロブリン(Tg)は、任意の動物由来のTgであるが、好ましくは、哺乳動物(例、ヒト、サル、チンパンジー等の霊長類;マウス、ラット、ウサギ等の齧歯類;イヌ、ネコ等の愛玩動物;ブタ、ウシ等の家畜;ウマ、ヒツジ等の使役動物)由来のTgであり、より好ましくは霊長類由来のTgであり、特に好ましくは、ヒト由来のTgである。
【0012】
1.前処理工程
本発明の方法は、生体試料と抗体とを反応させる免疫反応により生体試料中に存在するTgを測定する方法であるが、免疫反応(反応工程)の前に、生体試料と前処理液とを混和することによる前処理工程を含むことを特徴とする。前処理工程により、Tgを自己抗体(TgAb)等から遊離させた状態とすることができる。前処理液は、アルカリ性物質を含む。
【0013】
前記前処理工程において混和する生体試料と前処理液の体積比は、1:10~10:1、特に1:5~5:1、さらに1:3~3:1とすることが好ましい。本発明で用いられる生体試料は、Tgを含有し得る試料であれば特に限定されず、例えば、血清、血漿、全血、尿、便、口腔粘膜、咽頭粘膜、腸管粘膜および生検試料(例、甲状腺穿刺吸引細胞診(Fine needle aspiration:FNA)試料、腸管試料、肝臓試料)が挙げられる。好ましくは、生体試料は、血清または血漿である。
【0014】
前記前処理液に含まれるアルカリ性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物等を好適に使用できる。前処理液のアルカリ性物質の規定度は、前処理時の終濃度として、0.05N超0.5N以下、特に0.1N以上0.4N以下とすることが好ましい。アルカリ性物質の規定度を0.05N超0.5N以下とすることで、前処理の効果が十分に得られ、かつ、後段の反応工程への影響を最小化することが可能である。
【0015】
本発明において、アルカリ性物質を含む前処理液と試料とを混和した際のpHは、添加するアルカリ性物質にもよるが、例えばpH10.0以上、好ましくはpH11.0以上、より好ましくはpH12.0以上である。また、本発明において、アルカリ性物質を含む前処理液と試料とを混和した際のpHは、添加するアルカリ性物質にもよるが、例えばpH13.7以下、好ましくはpH13.5以下、より好ましくはpH13.3以下である。具体的には、アルカリ性物質を含む前処理液と試料とを混和した際のpHは、例えばpH10.0~13.7、好ましくはpH11.0~13.5、より好ましくはpH12.0~13.3である。前処理工程におけるpHをこれらの範囲とすることで、前処理の効果が十分に得られ、かつ、後段の反応工程への影響を最小化することが可能である。
【0016】
前処理液には、さらに、非イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤及び尿素から成る群より選ばれる少なくとも1種が含まれていてもよく、これにより、イムノアッセイの感度を向上させることができる。非イオン界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(商品名Triton X-100等)及びポリオキシエチレンアルキルエーテル(商品名Brij 35等)等を挙げることができる。両イオン性界面活性剤の例としては、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]プロパンスルホネート(CHAPS)、N-ドデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート(C12APS)、N-テトラデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート(C14APS)、N-ヘキサデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート(C16APS)などが挙げられる。陰イオン界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、N-ラウロイルサルコシンナトリウム(NLS)、ドデシル硫酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デオキシコール酸等を挙げることができる。
【0017】
前処理液が上記した界面活性剤又は尿素を含む場合、感度向上の観点から、非イオン性界面活性剤の濃度は、前処理時の終濃度で0.01%~5%が好ましく、さらに0.05%~5%が好ましい。両イオン性界面活性剤の終濃度は、0.01%~1%が好ましい。陰イオン界面活性剤の終濃度は0.01%~2.5%が好ましい。尿素の終濃度は、0.01~0.1Mが好ましい。
【0018】
前処理液には、必要に応じて、チオ尿素等、他のタンパク変性剤が含まれていてもよい。変性剤の濃度は、処理時濃度で0.1M以上が好ましく、さらに0.5M以上4M未満が好ましい。また、前処理液には、処理効果を増強させるために、単糖類、二糖類、クエン酸、及びクエン酸塩類のいずれか、またはこれらを組合せて添加してもよい。さらに、前処理液には、EDTA等のキレート剤が含まれていてもよい。
【0019】
前処理工程は、生体試料と前処理液を単に混和し、混合液を室温で放置することにより行うことができる。混合液は、加熱してもよい(例えば温度35℃~95℃)が、室温で行うことが簡便でコストもかからず好ましい。前処理時間は、1分以上、特に3分以上、さらに5分以上とすることが好ましい。前処理時間の上限は特に存在しないが、30分以下、特には15分以下でよい。前処理後、塩酸等の酸でアルカリ性物質を中和することが好ましい。
【0020】
2.反応工程
本発明の方法の上記前処理工程で得られた生体試料混和液は、次いでイムノアッセイの反応工程に供される。反応工程においては、生体試料混和液を緩衝液と混合させ、混合液中の抗原をTgに対する抗体と反応させる。なお、Tgのイムノアッセイ自体は種々の方法が周知であり、Tgを定量可能ないずれのイムノアッセイをも採用することができる。
【0021】
前記緩衝液としては、例えば、MES緩衝液、リン酸緩衝液、Tris緩衝液、炭酸緩衝液をベースとしたものが挙げられ、特にリン酸緩衝液をベースとしたものを好適に使用できる。前処理液として界面活性剤を含有するものを使用した場合には、未反応の界面活性剤を吸収するために、例えば、BSA、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、デキストラン硫酸ナトリウム等の水溶性高分子を前処理後の混和液と混合した際の終濃度で0.01~10.0%、特に0.05~5.0%程度含む緩衝液を使用することが好ましい。前処理工程の混和液と緩衝液との混合は、体積比で、1:10~10:1、特に1:5~5:1、さらに1:3~3:1とすることが好ましい。
【0022】
本発明の方法で使用されるTgに対する抗体は、Tgのアミノ酸配列の少なくとも一部をエピトープとして認識する抗体である。Tgに対する抗体は、特に限定されず、既知のエピトープを認識する抗体をいずれも使用することができるが、好ましくは、Tgに対する抗体は、Tg特異的エピトープ(特に、ヒトTg特異的エピトープ)を認識する抗体である。
【0023】
Tgに対する抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体のいずれであってもよい。Tgに対する抗体は、免疫グロブリン(例、IgG、IgM、IgA、IgD、IgE、IgY)のいずれのアイソタイプであってもよい。Tgに対する抗体はまた、全長抗体であってもよい。全長抗体とは、可変領域および定常領域を各々含む重鎖および軽鎖を含む抗体(例、2つのFab部分およびFc部分を含む抗体)をいう。Tgに対する抗体はまた、このような全長抗体に由来する抗体断片であってもよい。抗体断片は、全長抗体の一部であり、例えば、定常領域欠失抗体(例、F(ab’)2、Fab’、Fab、Fv)が挙げられる。Tgに対する抗体はまた、単鎖抗体等の改変抗体であってもよい。
【0024】
Tgに対する抗体は、従前公知の方法を用いて作製することができる。例えば、Tgに対する抗体は、上記のエピトープを抗原として用いて作製することができる。また、上述したようなエピトープを認識するTgに対する多数の抗体が市販されているので、このような市販品を使用することもできる。
【0025】
Tgに対する抗体は、固相に固相化されていてもよい。本明細書において、固相に固相化された抗体を、単に固相化抗体ということがある。固相としては、例えば、液相を収容または搭載可能な固相(例、プレート、メンブレン、試験管等の支持体、及びウェルプレート、マイクロ流路、ガラスキャピラリー、ナノピラー、モノリスカラム等の容器)、ならびに液相中に懸濁または分散可能な固相(例、粒子等の固相担体)が挙げられる。固相の材料としては、例えば、ガラス、プラスチック、金属、及びカーボンが挙げられる。固相の材料としてはまた、非磁性材料、又は磁性材料を用いることができるが、操作の簡便性等の観点から、磁性材料が好ましい。固相は、好ましくは固相担体であり、より好ましくは磁性固相担体であり、さらにより好ましくは磁性粒子である。抗体の固相化方法としては、従前公知の方法を利用することができる。このような方法としては、例えば、物理的吸着法、共有結合法、親和性物質(例、ビオチン、ストレプトアビジン)を利用する方法、及びイオン結合法が挙げられる。特定の実施形態では、Tgに対する抗体は、固相に固相化された抗体であり、好ましくは、磁性の固相に固相化された抗体であり、より好ましくは、磁性粒子に固相化された抗体である。
【0026】
反応工程は、前処理工程の混和液と緩衝液とを混合した後、固相化した抗体に接触させてもよく、また、緩衝液中に例えば粒子上に固相化した抗体を予め入れて粒子液とし、前記混和液と粒子液とを混合させてもよい。反応工程は、例えば免疫凝集法や競合法のように一次反応工程のみで実施してもよいが、サンドイッチ法のように二次反応工程を設けてもよい。なお、二次反応工程を設ける場合、一次反応工程と二次反応工程の間に、未反応成分を除去するための洗浄工程を設けてもよい。
【0027】
Tgに対する抗体は、標識物質で標識化されていてもよい。本明細書において、標識物質で標識化された抗体を、単に標識化抗体ということがある。標識物質としては、例えば、酵素(例、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ)、親和性物質(例、ストレプトアビジン、ビオチン)、蛍光物質またはタンパク質(例、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質)、発光又は吸光物質(例、ルシフェリン、エクオリン、アクリジニウム、ルテニウム)、放射性物質(例、3H、14C、32P、35S、125I)が挙げられる。また、本発明の方法では二次反応を設ける場合、二次反応に用いる抗体は、このような標識物質で標識化されていてもよい。
【0028】
特定の実施形態では、本発明の方法は、二次反応に用いる抗体として、一次反応に用いるTgに対する抗体と異なるエピトープを認識するTgに対する別の抗体を含む。このような別の抗体が認識するエピトープの詳細は、上述したTgに対する抗体について詳述したエピトープと同様である(但し、併用される場合、エピトープの種類は異なる)。Tgに対する抗体により認識されるエピトープと、Tgに対する別の抗体により認識されるエピトープとの組合せは、特に限定されない。このような別の抗体の使用は、例えば、サンドイッチ法が利用される場合に好ましい。
【0029】
3. 検出工程
本発明の方法は、反応工程におけるTgに対する抗体と標的抗原(Tg)との結合を検出する工程をさらに含んでいてもよい。反応工程において、一次反応又は二次反応に用いる抗体に標識を用いた場合、使用する標識に適した方法、例えば酵素標識を用いた場合は酵素の基質を添加することによって、検出することができる。例えば、アルカリホスファターゼ(ALP)を標識抗体に用いた場合は、3-(2’-スピロアダマンタン)-4-メトキシ-4-(3’-ホスホリルオキシ)フェニル-1,2-ジオキセタン・2ナトリウム塩(AMPPD)を酵素基質として用いた化学発光酵素イムノアッセイ法(CLEIA)の系とすることができる。
【0030】
本発明の方法は、Tgに対する抗体を使用するイムノアッセイである。このようなイムノアッセイとしては、例えば、直接競合法、間接競合法、及びサンドイッチ法が挙げられる。また、このようなイムノアッセイとしては、例えば、化学発光酵素イムノアッセイ法(CLEIA)、化学発光イムノアッセイ(CLIA)、免疫比濁法(TIA)、酵素イムノアッセイ法(EIA)(例、直接競合ELISA、間接競合ELISA、及びサンドイッチELISA)、放射イムノアッセイ(RIA)、ラテックス凝集反応法、蛍光イムノアッセイ(FIA)、及びイムノクロマトグラフィー法が挙げられる。これらのイムノアッセイ自体は周知であり、ここで詳しく述べる必要はないが、それぞれ簡単に説明する。
【0031】
直接競合法は、測定すべき標的抗原(本発明ではTg)に対する抗体を固相に固相化し(固相及び固相化については上記のとおり)、非特異吸着を防ぐためのブロッキング処理(血清アルブミン等のタンパク質溶液で固相を処理)後、この抗体と、前記標的抗原を含む被検試料(本発明では、上記のとおり前処理工程を行った生体試料)と、一定量の標識した抗原(標識は上記のとおり)とを反応させ、洗浄後、固相に結合した標識を定量する方法である。被検試料中の抗原と標識抗原とが、抗体に対して競合的に結合するので、被検試料中の抗原量が多いほど、固相に結合する標識の量が少なくなる。種々の既知濃度の抗原標準液を作製し、それぞれについて固相に固定化された標識量(標識の性質に応じて、吸光度、発光強度、蛍光強度等、以下同じ)を測定して、抗原濃度を横軸、標識量を縦軸にとった検量線を作成する。未知の被検試料について、標識量を測定し、測定された標識量を検量線に当てはめることにより、未知の被検試料中の抗原量を測定することができる。直接競合法自体はこの分野において周知であり、例えば、US20150166678Aに記載されている。
【0032】
間接競合法では、標的抗原(本発明ではTg)を固相に固相化する(固相及び固相化については上記のとおり)。次いで、固相のブロッキング処理後、標的抗原を含む被検試料(本発明では、上記のとおり前処理工程を行った生体試料)と、一定量の抗標的抗原抗体とを混合し、前記固相化抗原と反応させる。洗浄後、固相に結合された前記抗標的抗原抗体を定量する。これは、前記抗標的抗原抗体に対する標識した二次抗体(標識は上記のとおり)を反応させ、洗浄後、標識量を測定することにより行うことができる。種々の既知濃度の抗原標準液を作製し、それぞれについて固相に固定化されて標識量を測定して、検量線を作成する。未知の被検試料について、標識量を測定し、測定された標識量を検量線に当てはめることにより、未知の被検試料中の抗原量を測定することができる。なお、標識二次抗体を用いずに、標識した一次抗体を用いることも可能である。間接競合法自体はこの分野において周知であり、例えば、上記したUS20150166678Aに記載されている。
【0033】
サンドイッチ法のうち、フォワードサンドイッチ法は、固相に抗標的抗原抗体を固相化し(固相及び固相化については上記のとおり)、ブロッキング処理後、標的抗原を含む被検試料(本発明では、上記のとおり前処理工程を行った生体試料)を反応させ、洗浄後、標的抗原に対する標識した二次抗体(標識は上記のとおり)を反応させ、洗浄後、固相に結合した標識を定量する方法である。サンドイッチ法のうち、リバースサンドイッチ法は、二次抗体と被験試料を先に反応させ、二次抗体と標的抗原との結合により生じた抗原抗体複合物を固相化抗体(一次抗体)と反応させ、洗浄後、固相に結合した標識を定量する方法である。さらに、固相化抗体と、被験試料と、二次抗体を同時に反応させるサンドイッチ法もある。種々の既知濃度の抗原標準液を作製し、それぞれについて固相に固定化された標識量を測定して、検量線を作成する。未知の被検試料について、標識量を測定し、測定された標識量を検量線に当てはめることにより、未知の被検試料中の抗原量を測定することができる。サンドイッチ法自体はこの分野において周知であり、例えば、US 20150309016 Aに記載されている。
【0034】
上記した各種イムノアッセイのうち、化学発光酵素イムノアッセイ法(CLEIA)、化学発光イムノアッセイ(CLIA)、酵素イムノアッセイ法(EIA)、放射イムノアッセイ(RIA)、蛍光イムノアッセイ(FIA)は、上記した直接競合法、間接競合法、サンドイッチ法等を行う際に用いる標識の種類に基づいて分類したイムノアッセイである。化学発光酵素イムノアッセイ法(CLEIA)は、標識として酵素(例えば、上記したアルカリフォスファターゼ)を用い、基質として化学発光性化合物を生じる基質(例えば、上記したAMPPD)を用いる、イムノアッセイである。酵素イムノアッセイ法(EIA)は、標識として酵素(例えば、上記したペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ等)を用いるイムノアッセイである。各酵素の基質としては、吸光度測定等により定量可能な化合物が用いられる。例えば、ペルオキシダーゼの場合には、1,2-フェニレンジアミン(OPD)や3,3'5,5'-テトラメチルベンチジン(TMB)等、アルカリフォスファターゼの場合には、p-ニトロフェニルフォスフェート(pNPP)等、β-ガラクトシダーゼの場合には、MG:4-メチルウンベリフェリルガラクトシド、NG:ニトロフェニルガラクトシド等、ルシフェラーゼの場合には、ルシフェリン等が用いられる。放射イムノアッセイ(RIA)は、標識として放射性物質を用いる方法であり、放射性物質としては、上記のとおり3H、14C、32P、35S、125I等の放射性元素が挙げられる。蛍光イムノアッセイ(FIA)は、標識として蛍光物質または蛍光タンパク質を用いる方法であり、蛍光物質または蛍光タンパク質としては、上記のとおりフルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質等が挙げられる。これらの標識を用いるイムノアッセイ自体はこの分野において周知であり、例えば、US8039223BやUS20150309016Aに記載されている。
【0035】
免疫比濁法(TIA)は、測定すべき標的抗原(本発明ではTg)と、該抗原に対する抗体との抗原抗体反応により生成された抗原抗体複合物により濁度が増大する現象を利用したイムノアッセイである。抗標的抗原抗体溶液に、種々の既知濃度の抗原を添加し、それぞれ濁度を測定し、検量線を作成する。未知の被検試料について、同様に濁度を測定し、測定された濁度を検量線に当てはめることにより、未知の被検試料中の抗原量を測定することができる。免疫比濁法自体は周知であり、例えば、US20140186238Aに記載されている。ラテックス凝集法は、免疫比濁法と類似しているが、免疫比濁法における抗体溶液に代えて、表面に抗標的抗原抗体を固定化したラテックス粒子の浮遊液を用いる方法である。免疫比濁法及びラテックス凝集法自体はこの分野において周知であり、例えば、US7820398Bに記載されている。
【0036】
イムノクロマトグラフィー法は、ろ紙、セルロースメンブレン、ガラス繊維、不織布等の多孔性材料で形成された基体(マトリックスやストリップとも呼ばれる)上で上記したサンドイッチ法や競合法を行う方法である。例えば、サンドイッチ法によるイムノクロマトグラフィー法の場合、抗標的抗原抗体を固定化した検出ゾーンを上記基体上に設け、標的抗原を含む被検試料(本発明では、上記のとおり前処理工程を行った生体試料)を基体に添加し、上流側から展開液を流して標的抗原を検出ゾーンまで移動させ、検出ゾーンに固定化させる。固定化された標的抗原を、標識した二次抗体でサンドイッチして、検出ゾーンに固定化された標識を検出することにより、被検試料中の標的抗原を検出する。標識二次抗体を含む標識ゾーンを検出ゾーンよりも上流側に形成しておくことにより、標的抗原と標識二次抗体との結合体が検出ゾーンに固定化される。標識が酵素の場合には、酵素の基質を含めた基質ゾーンも検出ゾーンよりも上流側に設けられる。競合法の場合には、例えば、検出ゾーンに標的抗原を固定化しておき、被検試料中の標的抗原と、検出ゾーンに固定化された標的抗原とを競合させることができる。検出ゾーンよりも上流側に標識抗体ゾーンを設けておき、被検試料中の標的抗原と標識抗体を反応させ、未反応の標識抗体を検出ゾーンに固定化して標識を検出又は定量することにより、被検試料中の標的抗原を検出又は定量することができる。イムノクロマトグラフィー法自体は、この分野において周知であり、例えばUS6210898Bに記載されている。
【0037】
<Tgの測定試薬>
本発明のTgの測定試薬は、上述のTgの測定方法を実現し得る測定試薬である。本発明の測定試薬は、通常のイムノアッセイに使用される構成に加え、アルカリ性物質を含むことを特徴とする。
【0038】
本発明の試薬は、互いに隔離された形態または組成物の形態において各構成成分を含む。具体的には、各構成成分はそれぞれ異なる容器(例、チューブ、プレート)に収容された形態で提供されてもよいが、一部の構成成分が組成物の形態(例、同一溶液中)で提供されてもよい。あるいは、本発明の試薬は、デバイスの形態で提供されてもよい。具体的には、構成成分の全部がデバイス中に収容された形態で提供されてもよい。あるいは、構成成分の一部がデバイス中に収容された形態で提供され、残りのものがデバイス中に収容されない形態(例、異なる容器に収容された形態)で提供されてもよい。この場合、デバイス中に収容されない構成成分は、標的物質の測定の際に、デバイス中に注入されることにより使用されてもよい。
【0039】
好ましい実施形態では、本発明の試薬は、採用されるべきイムノアッセイの種類に応じた構成を有していてもよい。例えば、サンドイッチ法が採用される場合、本発明の試薬は、必須の構成成分として、i)前処理液、ii)Tgに対する抗体、iii)緩衝液、並びに任意の構成成分として、iv)Tgに対する別の抗体、v)標識物質、vi)希釈液、及び、必要に応じて、vii)標識物質と反応する基質を含んでいてもよい。ii)及びiii)の構成成分は、同一溶液に含まれていてもよい。iv)の構成成分は、v)標識物質で標識化されていてもよい。好ましくは、Tgに対する抗体は、磁性粒子に固相化されていてもよい。
【実施例】
【0040】
<実施例1 アルカリ化前処理の効果確認試験>
(1)抗サイログロブリン抗体プレートの作成
ポリスチレン製96穴マイクロウェルプレート(Thermo F16 Black Maxisorp)にマウス抗ヒトTg抗体64-1(富士レビオ社製)を2μg/mL含む抗体希釈液(0.1M 炭酸水素ナトリウム、0.1M 塩化ナトリウム、pH9.6)を100μL/ウェル分注し、4℃で一晩インキュベーションを行った。マイクロウェルプレートをPBSで3回洗浄し、次いで、ブロッキング液(1.0% BSA、3% スクロース、PBS)を350μL/ウェル分注し、室温で3時間インキュベーションを行った。ブロッキング液を除去した後、プレートを真空乾燥させ、抗Tg抗体プレートとした。
【0041】
(2)アルカリフォスファターゼ標識マウス抗ヒトTgモノクローナル抗体の作製
マウス抗ヒトTg抗体5E6(AbD Serotec社製)を、常法に従い酵素標識し、アルカリフォスファターゼ標識マウス抗ヒトTgモノクローナル抗体(標識抗体)を調製した。標識抗体を抗体希釈液(0.02M KH2PO4、0.076M K2PO4、0.25M NaCl、1% PVP、1% BSA、0.05% カゼインNa、0.05% Tween20(商品名、pH7.0))で0.5μL/mLとなるように希釈し、標識抗体液を調製した。
【0042】
(3)検体調製
購入健常人血清(Tg濃度 10ng/mL)にヒトTg(No.ab96518、アブカム社製)を0μg/mL(陰性コントロール)、1.0μg/mL、10μg/mLとなるように添加しモデル検体とした。各モデル検体に、抗Tg抗体64-1を50μg/mLとなるように添加して、自己抗体陽性モデル検体とした。抗Tg抗体を添加しないTg陽性検体については、自己抗体陰性モデル検体とした。
【0043】
(4)検体前処理
検体各30μLを前処理液(0.2M NaOH)50μLと混和し、室温で10分間静置した。次いで、中和液(0.2M HCl 50μL)を添加して中和した(前処理あり検体)。同時に、同検体各30μLについて、0.2M NaCl溶液50μLと混和し、室温で10分間静置した後、50μLの純水と混和した(前処理なし検体)。
【0044】
(5)Tg測定
(1)で調製した抗Tg抗体プレートの各ウェルに一次反応液(0.02M KH2PO4、0.076M K2HPO4、0.25M NaCl、0.02M EDTA2Na、1% PVP、1% BSA、0.05% カゼインNa、0.05% Tween20(商品名、pH7.3))を100μLずつ分注し、次いで、各ウェルに上記の前処理あり検体または前処理なし検体を100μL添加した。室温で60分間静置した後、洗浄液(0.05% Tween20(商品名)、PBS)で5回洗浄した。各ウェルに標識抗体液を100μLずつ分注し、室温で30分間静置した後、洗浄液(0.05% Tween20(商品名)、PBS)で5回洗浄した。各ウェルにAMPPD基質液(ルミパルス基質液(富士レビオ社製))を100μLずつ分注して10分間発光させ、マイクロプレートリーダーにて波長477nmの発光量を測定した。各条件における発光量(カウント)を表1に示す。
【0045】
【0046】
自己抗体陰性モデル検体と陽性モデル検体を比較して、前処理なしの条件でTgの検出を行うと、陽性モデル検体のカウントが陰性モデル検体の1割程度となり、自己抗体の影響によりシグナルが顕著に低下することが確認された。一方、前処理ありの条件では、アルカリの影響により、全体的にカウント値は低下するものの、陽性モデル検体のカウントは陰性モデル検体の8~9割程度まで回復し、検体中に自己抗体が存在していても自己抗体のない検体とほぼ同等にTgの測定できることが示された。
【0047】
<実施例2 各種界面活性剤・変性剤添加効果試験>
実施例1の自己抗体陽性モデル検体について、前処理液に各種界面活性剤(非イオン性界面活性剤(Triton X-100、Brij 35)、両イオン性界面活性剤(CHAPS、C12APS、C14APS)、陰イオン性界面活性剤(SDS、NLS))または変性剤(尿素)を前処理時の濃度が表2に示す濃度となるように加えた以外は、実施例1と同様の方法でTgの測定を行った。各条件での測定時には、界面活性剤・変性剤を含まない前処理液で前処理を行った検体も同時に測定した。各条件下での測定カウントを表2に示す。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
表2より、アルカリ処理に加えて、非イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤または尿素を至適濃度で添加することで、Tgのシグナルを向上できることが示された。