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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】エンドグルカナーゼ及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/42 20060101AFI20240902BHJP
   C12N 15/56 20060101ALI20240902BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240902BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240902BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240902BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240902BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240902BHJP
   C12P 19/14 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
C12N9/42
C12N15/56 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P19/14 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021534019
(86)(22)【出願日】2020-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2020028039
(87)【国際公開番号】W WO2021015158
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2019135102
(32)【優先日】2019-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000204686
【氏名又は名称】大関株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仙波 弘雅
(72)【発明者】
【氏名】坪井 宏和
(72)【発明者】
【氏名】坊垣 隆之
(72)【発明者】
【氏名】幸田 明生
(72)【発明者】
【氏名】山田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】石川 一彦
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-087583(JP,A)
【文献】特開2005-027572(JP,A)
【文献】特表2001-504352(JP,A)
【文献】UNSWORTH, L. D. et al.,Hyperthermophilic enzymes - stability, activity and implementation strategies for high temperature applications,FEBS J.,2007年,Vol. 274(16),pp. 4044-4056
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P19/14
C12N 1/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記特徴(A)及び(B)を満たすエンドグルカナーゼ:
(A)配列番号1のアミノ酸配列と0%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(B)K214E、D254E、及びS309Pから成る群より選択される一種以上のアミノ酸置換を有する。
【請求項2】
100℃で30分の熱処理後にエンドグルカナーゼ活性を有する、請求項1に記載のエンドグルカナーゼ。
【請求項3】
配列番号1のアミノ酸配列の第173番目、第271番目、及び第314番目のアミノ酸残基を保持している、請求項1または2に記載のエンドグルカナーゼ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエンドグルカナーゼをコードするDNA。
【請求項5】
請求項4に記載のDNAを組み込んだ発現ベクター。
【請求項6】
請求項5に記載のベクターで形質転換された形質転換体。
【請求項7】
請求項6に記載の形質転換体を培養する工程を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のエンドグルカナーゼの製造方法。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエンドグルカナーゼをセルロースを含む試料に70℃以上で作用させる工程を含む、還元糖を製造する方法。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載のエンドグルカナーゼを80℃以上で処理する工程を含む、エンドグルカナーゼの分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
エンドグルカナーゼに関する技術が開示される。
【背景技術】
【0002】
セルロースの糖化には様々な手法があるがエネルギー使用量が少なく、かつ糖収率の高い酵素糖化法が開発の主流となっている。セルロース分解酵素であるセルラーゼを大別すると、セルロースの結晶領域に作用するセロビオハイドラーゼとセルロース分子鎖内部から作用して分子量を低減させるエンドグルカナーゼとに分けられる。またβグルコシダーゼは、水溶性オリゴ糖又はセロビオースに作用し、そのβ-グリコシド結合を加水分解する反応を触媒する酵素である。
【0003】
エンドグルカナーゼ(エンドβ-1,4-グルカナーゼ(EC3.2.1.4))は、セルロースの構成成分であるD-グルコース同士のβ-1,4-グリコシド結合を加水分解することから、セルロースの加水分解処理に有効な酵素である。エンドグルカナーゼは、セルロースのみならず、通常、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースのようなセルロース誘導体、リグニン、穀物のβ-D-グルカンのような混合β-1,3-グルカン、キシログルカン及びセルロース部分を含有する他の植物材料などのβ-1,4-結合をエンド型で加水分解する反応を触媒する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許4228073号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Kishishita et al., J Ind Microbiol Biotechnol. 2015 42:137-141
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エンドグルカナーゼを用いた植物試料又は繊維製品などの処理は高温中で行う方が加水分解効率が高い。また、高温下で失活しないエンドグルカナーゼであれば、高温下でセルロースを加水分解できるだけでなく、高温条件によって他の酵素などの夾雑物を失活・変性させることができるため、目的産物を高純度で得ることができる、エンドグルカナーゼ自体を効率的に精製することも可能である。さらに、そのような耐熱性のエンドグルカナーゼであれば、使用後の回収及び再利用を効率的に行うことも可能となる。したがって、より耐熱性に優れたエンドグルカナーゼの提供が1つの課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
下記に代表される発明が提供される。
項1.
下記特徴(A)及び(B)を満たすエンドグルカナーゼ:
(A)配列番号1のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(B)K214E、D254E、及びS309Pから成る群より選択される一種以上のアミノ酸置換を有する。
項2.
100℃で30分の熱処理後にエンドグルカナーゼ活性を有する、項1に記載のエンドグルカナーゼ。
項3.
配列番号1のアミノ酸配列の第173番目、第271番目、及び第314番目のアミノ酸残基を保持している、項1または2に記載のエンドグルカナーゼ。
項4.
項1~3のいずれか1項に記載のエンドグルカナーゼをコードするDNA。
項5.
項4に記載のDNAを組み込んだ発現ベクター。
項6.
項5に記載のベクターで形質転換された形質転換体。
項7.
項6に記載の形質転換体を培養する工程を含む、項1~3のいずれか1項に記載のエンドグルカナーゼの製造方法。
項8.
項1~3のいずれか1項に記載のエンドグルカナーゼをセルロースを含む試料に70℃以上で作用させる工程を含む、還元糖を製造する方法。
項9.
項1~3のいずれか1項に記載のエンドグルカナーゼを80℃以上で処理する工程を含む、エンドグルカナーゼの分離方法。
【発明の効果】
【0008】
より耐熱性に優れたエンドグルカナーゼが提供される。好適な一実施形態において、セルロースから効率的に還元糖を製造する手段が提供される。好適な一実施形態において、エンドグルカナーゼを効率的に分離する手段が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】アスペルギルス・ニガーで発現させた変異型EGPhの熱安定性を示す。エラーバーは標準誤差を示す。**はp<0.01(vs. wild type)を示し、N.D.はnot detectedを示す。
図2】大腸菌で発現させた変異型EGPhの熱安定性を示す。エラーバーは標準誤差を示す。**はp<0.01(vs. wild type)を示し、*はp<0.05(vs. wild type)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.エンドグルカナーゼ
エンドグルカナーゼは、下記の特徴(A)及び(B)を有することが好ましい。
(A)配列番号1のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有すること。
(B)K214E、D254E、及びS309Pから成る群より選択される一種以上のアミノ酸置換を有すること。
【0011】
配列番号1に示されるアミノ酸配列は、超好熱古細菌パイロコッカス・ホリコシイ由来の野生型エンドグルカナーゼを構成するアミノ酸配列(シグナルペプチドは含まない)である。
【0012】
エンドグルカナーゼは、(A)配列番号1のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列、及び(B)K214E、D254E、及びS309Pから成る群より選択される一種以上のアミノ酸置換、を有することが好ましい。当該変異により、熱の影響を受けやすい酵素表面に露出しているアミノ酸が置換され、熱安定性の高い立体構造を取るためと考えられる。ここで、前記(B)の各置換を表す記号に関して、数字は、配列番号1のアミノ酸配列におけるアミノ酸の位置を意味する。また、数字の前のアルファベットは、その位置に本来存在するアミノ酸の種類を意味する。数字の後のアルファベットは、本来存在するアミノ酸を置換するアミノ酸の種類を意味する。よって、例えば、「K214E」とは、配列番号1のアミノ酸配列における第214番目のリシン(K)がグルタミン酸(E)に置換されることを意味する。他の置換を表す記号についても同様である。
【0013】
(A)のアミノ酸配列の配列番号1との同一性は、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上であることが好ましい。一層好ましくは95%以上、より一層好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上である。
【0014】
アミノ酸配列の同一性は、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができ、例えば、ClustalW ver2.1 Pairwise Alignmen(http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/index.php?lang=ja)を使用し、デフォルト(初期設定)のパラメータを用いて算出することができる。また、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/においてデフォルトのパラメータを用いることにより、算出することができる。
【0015】
アミノ酸の置換を特定のアミノ酸配列に加える技術は当該技術分野において公知であり、任意の手法を用いて行うことができる。例えば、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼやDNAリガーゼ等による処理、位置指定突然変異導入法、ランダム突然変異導入法等を利用して行なうことができる。
【0016】
上記特定のアミノ酸置換(B)は、1種だけが配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列に加えられていてもよく、2種以上の組み合わせで配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列に加えられていてもよい。アミノ酸置換が1種のみ加えられる場合は、K214E又はS309Pが好ましく、S309Pがより好ましい。2種以上のアミノ酸置換が組み合わせて配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1のアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列に加えられる場合、その組み合わせは任意であり、K214E及びD254E、K214E及びS309P、D254E及びS309P、並びにK214E、D254E及びS309Pであり得る。
【0017】
エンドグルカナーゼ活性は、任意の手法によって測定することができるが、本書においては、特に断りがない限り、ソモギーネルソン法で測定される。具体的には、基質として終濃度1重量%のCarboxymethylcellulose sodium saltを含む50 mM 酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)200μlを準備し、そこに一定量のエンドグルカナーゼを加えて反応を開始し、70℃、10分間で生じた還元糖量をソモギーネルソン法にて定量する。1分間に1μmolのグルコースに相当する還元糖を遊離させる酵素量を1Uと定義して、単位重量当たりのエンドグルカナーゼ活性を測定することができる。
【0018】
一実施形態において、エンドグルカナーゼは、100℃で30分の熱処理後にエンドグルカナーゼ活性を有していることが好ましい。一実施形態において、エンドグルカナーゼは、熱処理をしない場合に対する100℃で30分の熱処理後のソモギーネルソン法にて測定したエンドグルカナーゼ活性(残存活性)が、5%以上、8%以上、10%以上、20%以上、30%以上、又は35%以上であることが好ましい。
【0019】
一実施形態において、エンドグルカナーゼは、熱処理をしない場合に対する98℃で30分の熱処理後のソモギーネルソン法にて測定したエンドグルカナーゼ活性(残存活性)が、30%以上、40%以上、50%以上、又は60%以上であることが好ましい。一実施形態において、エンドグルカナーゼは、熱処理をしない場合に対する98℃で30分の熱処理後のソモギーネルソン法にて測定したエンドグルカナーゼ活性(残存活性)が、野生型の残存活性と比較して、1.2倍以上、1.4倍以上、1.6倍以上、又は2倍以上であることが好ましい。
【0020】
熱処理は、終濃度200mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)にエンドグルカナーゼを1U/mlとなる量で添加し、溶解又は懸濁し、恒温槽で所定温度に設定し、所定の時間(例えば、30分間)保持して行うことができる。
【0021】
配列番号1のアミノ酸配列を有するエンドグルカナーゼの高次構造、表現形又は特性に顕著な負の影響を与えないという観点から、配列番号1のアミノ酸配列の第173番目、第271番目、及び第314番目のアミノ酸残基が保存されていることが好ましい。これらのアミノ酸残基は、エンドグルカナーゼの活性中心に該当すると考えられる。また、配列番号1のアミノ酸配列の第41番目、第44番目、第74番目、第127番目、第128番目、第172番目、第245番目、第269番目、第349番目、及び第357番目のアミノ酸残基が保存されていることが好ましい。これらのアミノ酸残基はエンドグルカナーゼの基質の結合に関連するアミノ酸残基であると考えられる。
【0022】
上述のエンドグルカナーゼは、後述するDNAを利用して、遺伝子工学的な手法で製造することができる。同エンドグルカナーゼは、配列番号1に示されるアミノ酸配列の情報に基づいて、一般的なタンパク質の化学合成法(例えば、液相法及び固相法)を用いて製造することも可能である。
【0023】
2.エンドグルカナーゼをコードするDNA
エンドグルカナーゼをコードするDNAの塩基配列は特に制限されない。一実施形態において、DNAは、配列番号2の塩基配列と一定以上の同一性を有する塩基配列を有することが好ましい。一定以上の同一性とは、例えば、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上である。配列番号2は配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列である。
【0024】
塩基配列の同一性は、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができ、例えば、FASTA、BLAST、PSI-BLAST、SSEARCH等のソフトウェアを用いて計算される。具体的には、BLAST検索に一般的に用いられる主な初期条件は、以下の通りである。即ち、Advanced BLAST 2.1において、プログラムにblastnを用い、各種パラメータはデフォルト値に設定して検索を行うことにより、ヌクレオチド配列の同一性の値(%)を算出することができる。
【0025】
一実施形態において、DNAは、単離された状態で存在するDNAであることが好ましい。ここで「単離されたDNA」とは、天然状態において共存するその他の核酸やタンパク質等の成分から分離された状態であることをいう。但し、天然状態において隣接する核酸配列(例えばプロモーター領域の配列やターミネーター配列など)など一部の他の核酸成分を含んでいてもよい。cDNA分子など遺伝子工学的手法によって調製されるDNAの場合の「単離された」状態では、好ましくは、細胞成分や培養液などを実質的に含まない。同様に、化学合成によって調製されるDNAの場合の「単離されたDNA」は、好ましくは、dNTPなどの前駆体(原材料)や合成過程で使用される化学物質等を実質的に含まないことを意味する。
【0026】
DNAは、配列番号2の塩基配列に基づいて、化学的なDNAの合成法(例えば、フォスフォアミダイト法)や遺伝子工学的手法を用いて容易に取得することができる。
【0027】
3.ベクター
ベクターは、上記DNAを発現可能な様式で含むことが好ましい。ベクターの種類は、宿主細胞の種類を考慮して適宜選択することができる。例えば、プラスミドベクター、コスミドベクター、ファージベクター、ウイルスベクター(アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター等)等を挙げることができる。
【0028】
大腸菌で発現可能なベクターとしては、例えば、pUC19、pUC18、pBR322、pHSG299、pHSG298、pHSG399、pHSG398、RSF1010、pMW119、pMW118、pMW219、pMW218、pQE、及びpET等を挙げることができる。酵母で発現可能なベクターとしては、例えば、pBR322、pJDB207、pSH15、pSH19、pYepSec1、pMFa、pYES2、pHIL、pPIC、pAO815、及びpPink等を挙げることが出来る。昆虫で発現可能なベクターとしては、例えば、pAc、pVL、及びpFastbac等を挙げることが出来る。
【0029】
宿主細胞として真核細胞を使用する場合は、発現ベクターとして、発現しようとするポリヌクレオチドの上流にプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位及び転写終了配列等を保有するものを使用することができ、更に必要により複製起点、分泌シグナル、エンハンサー、及び/又は選択マーカーを有していてもよい。
【0030】
4.形質転換体
形質転換体は、上記ベクターで形質転換されているものが好ましい。形質転換体中において、ベクターは、宿主細胞中において自律的に存在してもゲノム中に相同組換え的または非相同組換え的に組み込まれて存在してもよい。形質転換に使用する宿主細胞は、上記エンドグルカナーゼを産生できる限り特に制限されず、原核細胞及び真核細胞のいずれでもよい。具体的には、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌(例えば、HB101、MC1061、JM109、CJ236、MV1184等)、コリネバクテリウム・グルタミカム等のコリネ型細菌、ストレプトミセス属細菌等の放線菌、バチルス・サブチリス等のバチルス属細菌、ストレプトコッカス属細菌、スタフィロコッカス属細菌等の原核細胞;サッカロミセス属、ピシア属及びクルイベロマイセス属等の酵母、アスペルギルス属、ペニシリウム属、タラロマイセス属、トリコデルマ属、ハイポクレア属及びアクレモニウム属等の真菌細胞;ドロソフィラS2、スポドプテラSf9、カイコ培養細胞等の昆虫細胞;並びに植物細胞等を挙げることができる。枯草菌、酵母、真菌、放線菌等のタンパク質分泌能を利用して、エンドグルカナーゼを培地中に生産させることもできる。
【0031】
組換え発現ベクターの宿主細胞内への導入方法は、従来の慣用的に用いられている方法により行うことができる。例えば、コンピテントセル法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、リポソーム融合法等の種々の方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
形質転換体は、エンドグルカナーゼを産生可能であるため、エンドグルカナーゼを製造するために用いることが可能であり、また形質転換体の状態で、セルロースを含む試料からグルコース、セロビオース、セロオリゴ糖などの還元糖を製造するために使用することもできる。
【0033】
5.形質転換体を用いたエンドグルカナーゼの製造方法
上記形質転換体を培養し、培養物からエンドグルカナーゼを回収することにより、上述のエンドグルカナーゼを製造することができる。培養は、宿主に適した培地を用いて継代培養又はバッチ培養を行うことができる。また、培養は、形質転換体の内外に生産されたエンドグルカナーゼの活性を指標にして、適当量得られるまで実施することができる。
【0034】
培地としては、宿主細胞の種類に応じて慣用される各種のものを適宜選択利用でき、培養も宿主細胞の生育に適した条件下で実施できる。例えば、大腸菌の培養にはLB培地などの栄養培地や、M9培地などの最少培地に炭素源、窒素源、ビタミン源等を添加した培地を用いることができる。
【0035】
培養条件は宿主の種類に応じて適宜設定することができる。通常、16~42℃、好ましくは25~37℃で5~168時間、好ましくは8~72時間培養される。宿主に依存して、振盪培養と静置培養のいずれも可能であるが、必要に応じて攪拌及び/又は通気を行ってもよい。遺伝子発現のために誘導型プロモーターを用いる場合は、培地にプロモーター誘導剤を添加して培養を行うこともできる。
【0036】
培養上清からのエンドグルカナーゼの精製又は単離は、公知の手法を適宜組み合わせて行うことができる。例えば、硫酸アンモニウム沈殿、エタノール等の溶媒沈殿、透析、限外濾過、酸抽出、及び各種クロマトグラフィー(例えば、ゲル濾過クロマトグラフィー、アニオン又はカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー及びレクチンクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等)等を用いた手法が挙げられる。アフィニティークロマトグラフィーに用いる担体としては、例えば、エンドグルカナーゼに対する抗体を結合させた担体や、エンドグルカナーゼにペプチドタグを付加した場合は、このペプチドタグに親和性のある物質を結合した担体を利用することもできる。
【0037】
エンドグルカナーゼが宿主の細胞内に蓄積される場合は、形質転換細胞を破砕し、破砕物の遠心上清から上記と同様にしてエンドグルカナーゼを精製又は単離することができる。例えば、培養終了後、遠心により集菌した菌体を菌体破砕用バッファー(20~100mM Tris-HCl(pH8.0)、5mM EDTA)に懸濁し、超音波破砕し、破砕処理液を10000~15000rpmで10~15分間遠心して上清を得ることができる。遠心後の沈殿は、必要に応じて塩酸グアニジウム又は尿素などで可溶化したのち更に精製することもできる。
【0038】
6.エンドグルカナーゼを用いた還元糖の製造方法
エンドグルカナーゼを、セルロースを含む試料(例えば、バイオマス資源)に作用させることにより、セルロースを分解し、還元糖を含む糖液を製造することができる。還元糖としては、例えば、グルコース、セロビオース、セロオリゴ糖などが挙げられる。また、セルロースを含む試料として、バイオマス資源を使用する場合は、上述のエンドグルカナーゼに加えて、他のセルラーゼ等の酵素を併用し、より効率的に糖液を製造することが好ましい。
【0039】
セルロースを含む試料の種類は、本発明のエンドグルカナーゼによって分解可能である限り特に制限されないが、例えば、バガス、木材、ふすま、麦わら、稲わら、イネ科もしくはマメ科等の牧草、コーンコブ、ササ、パルプ、もみがら、小麦フスマ、大豆粕、大豆オカラ、コーヒー粕、コメ糠等を挙げることができる。
【0040】
エンドグルカナーゼをセルロースを含む試料に反応させる温度は、70℃以上、75℃以上、80℃以上、85℃以上、90℃以上、95℃以上、又は98℃以上であることが好ましい。
【0041】
セルロースを含む試料から還元糖を含む糖液を製造する方法は、公知の手法に従って行うことができる。利用するバイオマス資源は、乾燥物でも、湿潤物でもよいが、処理効率を高めるために予め100~10000μmサイズに粉砕されていることが好ましい。粉砕はボールミル、振動ミル、カッターミル、ハンマーミル等の装置を用いて行うことができる。そして、粉砕したバイオマス資源は、水、蒸気もしくはアルカリ溶液などに浸漬して60~200℃の間で高温処理もしくは高温高圧処理を施して、酵素処理効率をさらに高めることもできる。例えば、アルカリ処理は、苛性ソーダやアンモニア等を用いて行うことができる。このような前処理がされたバイオマス試料を水性媒体中に懸濁し、エンドグルカナーゼと他のセルラーゼを加え、攪拌しながら加温して、バイオマス資源を分解または糖化することができる。
【0042】
エンドグルカナーゼを水溶液中でセルロースを含む試料に作用させる場合は、反応液のpH等の条件は、エンドグルカナーゼが失活しない範囲であればよい。
【0043】
還元糖を含有する糖液は、そのまま利用しても良く、水分を除去して乾燥物として使用しても良く、目的に応じて、更に化学反応又は酵素反応によって異性化又は分解することも可能である。糖液又はその分画物は、例えば、発酵法によりメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ブタンジオール等のアルコールの原料として使用することができる。
【0044】
7.エンドグルカナーゼの分離方法
エンドグルカナーゼの精製時にエンドグルカナーゼ含有試料を80℃以上で処理することができ、それにより夾雑タンパク質を失活させて、純度の高いエンドグルカナーゼを得ることができる。また、エンドグルカナーゼをセルロースを含む試料に作用させた後の溶液など、エンドグルカナーゼの他に夾雑物(例えば、他の酵素や微生物など)を含有する溶液を80℃以上で処理することにより、エンドグルカナーゼの活性は保持したまま、夾雑酵素及び微生物類を失活させることもできる。一実施形態において、処理温度は、80℃以上、85℃以上、90℃以上、95℃以上、98℃以上、又は100℃以上とすることができる。処理時間は、エンドグルカナーゼが失活しない範囲であればよい。
【0045】
エンドグルカナーゼを分離する方法は、公知の手法に従って行うことができる。例えば、濾過、遠心分離、精密濾過、回転真空濾過、限外濾過、加圧濾過、クロス式膜精密濾過、クロスフロー式膜精密濾過、又は同様の方法などにより、エンドグルカナーゼと夾雑物を分離することができる。
【実施例
【0046】
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0047】
1.野生型エンドグルカナーゼ発現ベクターの構築
配列番号2に記載のエンドグルカナーゼ遺伝子を合成し、発明者らが以前に作製したプラスミドpSENSU(Takaya, T. et al. Appl Microbiol Biotechnol (2011) 90: 1171.)に挿入した。このプラスミドは、α-アミラーゼ遺伝子由来分泌シグナルを含み、PmlI-XbaI処理により分泌シグナルとターミネーターの間に目的遺伝子を導入することができる。
【0048】
配列番号2に記載するエンドグルカナーゼ遺伝子を次の手順でpSENSUベクターに導入した。pSENSUをPmlI-XbaI消化した後、アガロースゲル電気泳動に供し、pSENSU-PmlI-XbaI消化断片を単離、精製した。合成した配列番号2に記載のエンドグルカナーゼ遺伝子を鋳型として、配列番号3および配列番号4に記載のプライマーを用いて、PCR法にて挿入断片を増幅した。増幅した断片はXbaIにて消化後、アガロースゲル電気泳動に供し、単離、精製した。得られたエンドグルカナーゼ遺伝子をpSENSUのPmlI-XbaIサイトにライゲーションすることにより、エンドグルカナーゼ発現ベクターpSENSU-EGPhを構築した。
【0049】
2.アミノ酸置換導入エンドグルカナーゼ発現ベクターの構築
配列番号2に示される塩基配列と比較して、V25Pは第25位のバリンがプロリンに置換されたアミノ酸置換を、H48Yは第48位のヒスチジンがチロシンに置換されたアミノ酸置換を、Q87Mは第87位のグルタミンがメチオニンに置換されたアミノ酸置換を、H133Fは第133位のヒスチジンがフェニルアラニンに置換されたアミノ酸置換を、K214Eは第214位のリシンがグルタミン酸に置換されたアミノ酸置換を、D254Eは第254位のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換されたアミノ酸置換を、S309Pは第309位のセリンがプロリンに置換されたアミノ酸置換を有する。これらのアミノ酸置換導入エンドグルカナーゼ遺伝子を合成し、野生型と同様の方法でpSENSU-EGPh_V25P、pSENSU-EGPh_H48Y、pSENSU-EGPh_Q87M、pSENSU-EGPh_H133F、pSENSU-EGPh_K214E、pSENSU-EGPh_D254E、pSENSU-EGPh_S309Pを構築した。
【0050】
3.形質転換体及びエンドグルカナーゼの取得
pSENSU-EGPh、pSENSU-EGPh_V25P、pSENSU-EGPh_H48Y、pSENSU-EGPh_Q87M、pSENSU-EGPh_H133F、pSENSU-EGPh_K214E、pSENSU-EGPh_D254EまたはpSENSU-EGPh_S309Pを用いて、アスペルギルス・ニガーNS48株(変異処理により取得したniaD、sC二重欠損株)をプロトプラスト-PEG法にて形質転換した。得られた形質転換体からゲノムDNAを抽出し、リアルタイムPCR法によりプラスミドが1コピー以上導入された形質転換体を取得した。これらの形質転換体をデキストリン-ペプトン培地(4重量%デキストリン、2重量%ポリペプトン、2重量%酵母エキス、0.5重量% KH2PO4、0.05重量%MgSO4・7H2O)にて6日間培養し、培養上清を粗酵素液としてエンドグルカナーゼ活性を測定した。エンドグルカナーゼ活性測定は基質として終濃度1重量%のCarboxymethylcellulose sodium saltを含む50mM酢酸ナトリウムバッファー(pH5.0)200μlに粗酵素液10μlを加えて反応を開始し、70℃、10分間で生じた還元糖量をソモギーネルソン法にて定量することで行った。1分間に1μmolのグルコースに相当する還元糖を遊離させる酵素量を1Uと定義し、粗酵素液1mlあたり0.1U以上のエンドグルカナーゼ活性を有する株をエンドグルカナーゼ生産株として取得した。
【0051】
4.熱安定性の比較
上記で得た各粗酵素液を80℃、30分間加熱後、13,000rpm、5分間遠心分離を行い、その上清を粗精製酵素溶液とした。粗精製酵素液をヒートブロックにて98℃、30分間加熱し、13,000rpm、5分間遠心分離後、上清に対して上記3に記載の方法でエンドグルカナーゼ活性測定を実施した。コントロールとして加熱していないサンプルについても同様に活性測定を行い、加熱後の残存活性を相対値として算出した。実験は3連で行い、その平均値と
標準誤差を算出した。その結果を図1に示す。
【0052】
H48Y、Q87M、及びH133Fは、残存活性が確認されず、V25Pは野生型よりも残存活性が低下したのに対して、K214E、D254E、及びS309Pは有意な熱安定性の向上が見られ、特にS309Pは残存活性が野生型の3倍以上となった。
【0053】
また、粗精製酵素液を100℃で、30分間加熱した場合は、野生型ではエンドグルカナーゼ活性が消失したのに対し、K214E、D254E、及びS309Pは、エンドグルカナーゼ活性が残存した。
【0054】
5.大腸菌形質転換体及びエンドグルカナーゼの取得
K214E,D254E,S309Pは第214位のリシンがグルタミン酸に置換され、第254位のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換され、第309位のセリンがプロリンに置換されたアミノ酸置換を有する。K214E、S309P、又はK214E,D254E,S309Pのアミノ酸置換導入エンドグルカナーゼ遺伝子の発現ベクターを常法により構築し、大腸菌BL21 (DE3)株を形質転換して得たエンドグルカナーゼ生産株から、粗酵素液を抽出し、上記4に記載の方法でエンドグルカナーゼ活性測定を行った。その結果を図2に示す。図2に示す通り、野生型と比較してアミノ酸置換の導入により熱安定性の向上が見られた。
【0055】
以上の結果から、K214E、D254E、及びS309Pから成る群より選択される一種以上のアミノ酸置換を導入することによってエンドグルカナーゼの熱安定性が向上することが判明した。
図1
図2
【配列表】
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