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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】シラン系コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/08 20060101AFI20240902BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240902BHJP
   C08G 77/54 20060101ALI20240902BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240902BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
C09D183/08
C09D7/63
C08G77/54
B05D7/24 302T
B05D7/24 302Y
B32B27/00 101
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021566198
(86)(22)【出願日】2020-05-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-12
(86)【国際出願番号】 EP2020062594
(87)【国際公開番号】W WO2020225310
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-05-01
(31)【優先権主張番号】19172732.0
(32)【優先日】2019-05-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンスベルク,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】クライン,ギュンター
(72)【発明者】
【氏名】ヴェスリンク,エリザベート
(72)【発明者】
【氏名】ホーマン,カリン
(72)【発明者】
【氏名】シュレーダー,シュテファニー
(72)【発明者】
【氏名】ヴェンキンク,ウルリケ
(72)【発明者】
【氏名】ヒルゲ,オリファー
(72)【発明者】
【氏名】ツァミナー,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ミヒェル,クリスティン
(72)【発明者】
【氏名】ホフマン,ペーター
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-527867(JP,A)
【文献】特表2018-509483(JP,A)
【文献】特表2008-542416(JP,A)
【文献】特表2017-524747(JP,A)
【文献】特表平11-507091(JP,A)
【文献】国際公開第2019/098112(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1種以上の式(I)の樹脂;
R-[NH-CO-NR1-R2-Si(Ra3-x(Rbxy (I)
[式中、
Rは任意に、イソシアヌレート基、ウレトジオン基、イミノオキサジアジンジオン基、アロファネート基およびビウレット基からなる群から選択される1種以上の部分を含む、脂肪族ヒドロカルビル基であり、
1は、1~10個の炭素原子を含むアルキル基であり、
2は、1~6個の炭素原子を含むアルキレン基であり、
aは、1~4個の炭素原子を含むアルコキシ基であり、
bは、1~4個の炭素原子を含むアルキル基、又は1~4個の炭素原子を含むアルコキシ基であり、
xは、0又は1であり、且つ
yは、2~5である。]
(B)1種以上の式(II)の触媒及び/又は2-エチルヘキサン酸のアルカリ金属塩
z[H3C-C(Rc)(Rd)-C(=O)-O-] Mz+ (II)
[式中、
c及びRdは、独立して、水素、又は1~6個の炭素原子を含むアルキル基であり、ただし、残基Rc及びRdにおける炭素原子の数の合計は2~7の範囲であり、且つz=1~4であり、ただし、
z=1の場合、Mは、Li、K及びNaからなる群から選択され、
z=2の場合、Mは、Zn及びZrからなる群から選択され、
z=3の場合、Mは、Bi及びAlからなる群から選択され、
z=4の場合、Mは、Zr及びTiからなる群から選択される。]並びに
(C)1種以上の非プロトン性有機溶媒;
を含むコーティング組成物。
【請求項2】
式(I)において、
Rが、イソシアネート基が形式的に引き抜かれたジイソシアネート、若しくはイソシアネート基が形式的に引き抜かれたそのオリゴマーからなる群から選択され、且つ/又は
1は、2~8個の炭素原子を含むアルキル基であり、且つ/又は
2は、1~3個の炭素原子を含むアルキレン基であり、且つ/又は
aは、1~3個の炭素原子を含むアルコキシ基であり、且つ/又は
bは、メチル基、又は1若しくは2個の炭素原子を有するアルコキシ基であり、且つ/又は
x=0であり、且つ/又は
y=2~4であることを特徴とする請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
式(II)において、残基Rc及びRdにおける炭素原子の数の合計が5~7の範囲であり、且つ/又はz=1若しくは3であることを特徴とする請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記1種以上の式(II)の触媒が、カリウム又はリチウムのネオデカン酸塩であり、
前記2-エチルヘキサン酸のアルカリ金属塩が、カリウム又はリチウムの2-エチルヘキサン酸塩であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記1種以上の非プロトン性有機溶媒(C)が、脂肪族及び/又は芳香族炭化水素、ケトン、エステル、又は前述の溶媒の混合物からなる群から選択される請求項1~4のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
二環式第三級アミンの群から選択される1種以上の触媒(B2)をさらに含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
1種以上の式(III)のカルボン酸(D);
3C-C(Re)(Rf)-C(=O)-OH (III)
[式中、
e及びRfは、独立して、水素、又は1~6個の炭素原子を含むアルキル基であり、ただし、残基Rc及びRdにおける炭素原子の数の合計は2~7の範囲である。]
をさらに含むことを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
1種以上の式(IV)のエポキシ官能性化合物(E);
(X)n-R3-Ox (IV)
[式中、Oxは、オキシラン基であり、R3は2~15個の炭素原子を含み、任意にエーテル基及び/又はエステル基を含む脂肪族ヒドロカルビル基であり、n=1~5であり、且つn個のX基は、それぞれ独立して、Ox又は-Si(Rg3-v(Rhv;(式中、v=0又は1であり、Rgは、1~4個の炭素原子を含むアルコキシ基であり、且つRhは、1~4個の炭素原子を含むアルキル基、又は1~4個の炭素原子を含むアルコキシ基である)である。]
をさらに含むことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
1種以上のコーティング添加剤(E)をさらに含むことを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
前記コーティング組成物の総質量に基づいて、25~95質量%の(A)1種以上の式(I)の樹脂;
100gの(A)当り、1~50mmolの(B)1種以上の式(II)の触媒;
前記コーティング組成物の総質量に基づいて、1~70質量%の(C)1種以上の非プロトン性有機溶媒;
(B)の総質量に基づいて、0~80質量%の請求項の(D)1種以上の式(III)のカルボン酸(D);
前記コーティング組成物の固形分に基づいて、0~20質量%の請求項8の(E)1種以上の式(IV)のエポキシ官能性化合物;
0~20質量%の(F)1種以上のコーティング添加剤;及び、存在する場合は、(B)対(B2)の質量比が1:1~8:1である触媒(B2);
を含む請求項1~9のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
クリアコート組成物であることを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項12】
コーティング組成物で基板をコーティングする方法であって、前記方法が、
a.請求項1~11のいずれか1項に記載のコーティング組成物を基板に塗布し、コーティング層を形成する工程、及び
b.前記コーティング層を10℃~180℃の範囲の温度で硬化する工程
を含む方法。
【請求項13】
請求項12の方法によって得られるコーティングされた基板。
【請求項14】
前記基板が、輸送手段の本体又はその部品、内部構造又は外部構造、家具、窓、ドア、プラスチック成形品、小型工業用部品、コイル、コンテナ、梱包材料、白物家電、シート、光学的、電気的及び機械的部品、ガラス製品、並びに日用品からなる群から選択されることを特徴とする請求項13に記載のコーティングされた基板。
【請求項15】
少なくとも2層コーティング層を含む多層コーティングであって、前記コーティング層の少なくとも1層が、請求項1~11のいずれか1項に記載のコーティング組成物から形成される多層コーティング。
【請求項16】
請求項15に記載の多層コーティングでコーティングされた基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン系(silane-based)コーティング組成物、特にクリアコート組成物、そのようなコーティング組成物で基板をコーティングする方法、それによりコーティングされた基板、多層コーティング、及びそれによりコーティングされた基板に関連する。
【背景技術】
【0002】
今日のクリアコート産業界において、法的な分類及び最大許容値が重要になってくるため、架橋剤としてのイソシアネート及びスズ触媒の使用は、ますます望まれなくなっている。
【0003】
しかしながら、ポリイソシアネートは、多くのコーティングシステム、特にクリアコートにおいて、標準的な架橋剤材料である。将来の環境、健康及び安全の要求事項、並びに技術的な最小要件を満たす合理的な代替案はまだ利用できない。さらに、顧客は、高速低温硬化(fast low-temperature-curing)コーティングシステムへの変更を要求する。
【0004】
これらの必要条件の全ては、標準的なポリイソシアネート架橋コーティングでは満たすことはできない。アルコキシシランの縮合反応はスズフリーで触媒され、周囲条件での硬化が達成可能であるので、クリアコートの形成用のアルコキシシラン含有材料の利用は、これらの点に対処し、ポリイソシアネート架橋剤と置き換えるための合理的な取り組みである。
【0005】
しかしながら、アルコキシシランの縮合のみに基づくコーティングは、激しい後硬化(post curing)及び脆性(brittle)フィルム等の好ましくない特性を示すことが多く、自動車用途のクリアコートとして不適切であった。特に、自動車補修用途(automotive refinish application)は、非架橋ベースコートの使用のため、オーダーメイドの(tailormade)クリアコートを必要とする。
【0006】
高速硬化性(fast curing)、迅速な研磨性(sandability)及び艶出し性(polishability)、良好な外観、層間接着性、並びに湿度及びUV照射に対する耐性等の重要なパラメーターが、まだ得られていないので、一般的な自動車用途、特に補修用途のために、良好な性能を示すアルコキシシラン架橋クリアコートは、まだ利用可能ではない。
【0007】
EP2641925A1は、イソシアナトアルキルトリアルコキシシランとジオールとの付加物(adduct)を含むコーティング組成物を開示する。しかしながら、EP2641925A1の実施例において、これらの付加物は、大量のポリアクリレートポリオールと共に使用されていた。本発明の触媒と共に唯一の樹脂として使用される場合、これらの付加物は、一定の気候試験を実施する前でさえ、比較的長いタックフリー時間(tack free time)、及び不良なクロスカット接着性(cross-cut adhesion)を示す。
【0008】
WO03/054049は、ポリウレタン系接着剤又はコーティング材料における接着促進剤としてのイソシアネート官能性(isocyanato-functional)シランを開示する。しかしながら、これらのシランは、イソシアネート含有であり、本発明において回避されるべきである。
【0009】
JP-A-2005-015644は、ポリイソシアネートとアミノシランとの、NCO対OH比が1:0.05~1:0.9での付加物、すなわち、過剰のイソシアネート基を有する付加物を記載する。これらの付加物は、さらなる樹脂と共に硬化性樹脂組成物に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】EP2641925A1
【文献】WO03/054049
【文献】JP-A-2005-015644
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、イソシアネート又はアミノプラスト架橋剤を使用せずに、低温及び高温で硬化する傾向がある、シラン架橋に基づく高速硬化性コーティング組成物を提供することであった。前記コーティング組成物は、自動車OEM、及び自動車補修コーティング等の自動車コーティング、好ましくはクリアコート組成物として特に適切である必要がある。前記コーティングはまた、耐溶剤性であり、さらに、良好な接着性、耐引っかき性、並びに耐UV性及び耐気候性(weathering resistance)、良好な光沢及び外観を示す必要がある。さらに、スズ含有触媒は必要とされるべきではない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は、
(A)1種以上の式(I)の樹脂;
R-[NH-CO-NR1-R2-Si(Ra3-x(Rbxy (I)
[式中、
Rは任意に、イソシアヌレート基、ウレトジオン(uretdione)基、イミノオキサジアジンジオン基、アロファネート基およびビウレット基からなる群から選択される1種以上の部分を含む、脂肪族ヒドロカルビル基であり、
1は、1~10個の炭素原子を含むアルキル基であり、
2は、1~6個の炭素原子を含むアルキレン基であり、
aは、1~4個の炭素原子を含むアルコキシ基であり、
bは、1~4個の炭素原子を含むアルキル基、又は1~4個の炭素原子を含むアルコキシ基であり、
xは、0又は1であり、且つ
yは、2~5である。]
(B)1種以上の式(II)の触媒;
z[H3C-C(Rc)(Rd)-C(=O)-O-] Mz+ (II)
[式中、
c及びRdは、独立して、水素、又は1~6個の炭素原子を含むアルキル基であり、ただし、残基Rc及びRdにおける炭素原子の数の合計は2~7の範囲であり、且つz=1~4であり、ただし、
z=1の場合、Mは、Li、K及びNaからなる群から選択され、
z=2の場合、Mは、Zn及びZrからなる群から選択され、
z=3の場合、Mは、Bi及びAlからなる群から選択され、
z=4の場合、Mは、Zr及びTiからなる群から選択される。]及び
(C)1種以上の非プロトン性有機溶媒;
を含むコーティング組成物を提供することによって達成された。
【0013】
本明細書において使用される用語「脂肪族」は、用語「脂環式」を含み、それぞれ、非芳香族基、部分、及び化合物に言及する。
【0014】
以下において、上記コーティング組成物は、「本発明に従うコーティング組成物」と称される。
【0015】
本発明のさらなる対象は、本発明に従うコーティング組成物で基板をコーティングする方法であって、前記方法が、
a.本発明に従うコーティング組成物を基板に塗布し、コーティング層を形成する工程、及び
b.前記コーティング層を10℃~180℃の範囲の温度で硬化する工程
を含む方法である。
【0016】
以下において、上記方法は、「本発明に従う方法」と称される。
【0017】
本発明の別の対象は、本発明に従う方法によって得られるコーティングされた基板である。
【0018】
本発明のさらに別の対象は、少なくとも2層コーティング層、好ましくは少なくとも1層のベースコート層及び少なくとも1層のクリアコート層を含む多層コーティングであって、前記コーティング層が、本発明のコーティング組成物から形成される多層コーティングである。さらなる対象は、それによりコーティングされた基板である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[コーティング組成物]
本発明のコーティング組成物は、少なくとも、1種以上の式(I)の樹脂、1種以上の式(II)の触媒、及び1種以上の非プロトン性溶媒を含む。
【0020】
前記コーティング組成物は、好ましくはクリアコート組成物である。
[樹脂(A)]
本発明のコーティング組成物は、1種以上の式(I)の樹脂;
R-[NH-CO-NR1-R2-Si(Ra3-x(Rbxy (I)
[式中、
Rは任意に、イソシアヌレート基、ウレトジオン基、イミノオキサジアジンジオン基、アロファネート基およびビウレット基からなる群から選択される1種以上の部分を含む、脂肪族ヒドロカルビル基であり、
1は、1~10個の炭素原子を含むアルキル基であり、
2は、1~6個の炭素原子を含むアルキレン基であり、
aは、1~4個の炭素原子を含むアルコキシ基であり、
bは、1~4個の炭素原子を含むアルキル基、又は1~4個の炭素原子を含むアルコキシ基であり、
xは、0又は1であり、且つ
yは、2~5である。]
を含む。
【0021】
上記式(I)に示されるように、前記式(I)の樹脂は、イソシアネート基(NCO基)を含まない。
【0022】
Rは、好ましくは、イソシアネート基が形式的に引き抜かれた(formally subtracted)ジイソシアネート又はそのようなジイソシアネートのオリゴマーから誘導される基である。例えば、Rは、ヘキサメチレン基であり得、これは形式的には、2個のイソシアネート基が形式的に引き抜かれたヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)から誘導される基である。別の例では、Rは、基(CH26-N(CO)2N-(CH26であり得、これは2個の末端イソシアネート基が形式的に引き抜かれたHDI二量体から誘導される基である。この基は、ウレトジオン基を含むヒドロカルビル基の例である。
【0023】
上記の種類の直鎖脂肪族ジイソシアネートに誘導可能な、好ましいR基は、例えば、エチレン、n-プロピレン、n-ブチレン、n-ペンチレン、n-ヘキシレン(すなわち、ヘキサメチレン)、n-ヘプチレン、n-オクチレン、n-ノニレンであり、上記の種類の脂環式ジイソシアネートに誘導可能な、そのようなR基は、例えば、4,4’-ジイソシアナトジシクロヘキシルメタンに誘導可能なシクロヘキシル-(CH26-シクロヘキシル基である。
【0024】
さらに好ましいR基は、例えば、前述のジイソシアネートのウレトジン二量体等の二量体、並びに例えば、前述のジイソシアネートのイソシアヌレート三量体及びイミノオキサジアジンジオン三量体等の三量体から誘導可能なものである。R基としてさらに適切なのは、前述のジイソシアネートのビウレット及びアロファネートから誘導可能なものである。
【0025】
Rは、イソシアヌレート基、ウレトジオン基、イミノオキサジアジンジオン基、アロファネート基、及びビウレット基から選択される2個以上の基を含むこともあり得る。オリゴマーも、2種以上のジイソシアネートから、例えば、同じ化合物において、HDI及びイソホロンジイソシアネート(IPDI)から形成され得る。
【0026】
好ましくは、R1は、2から8個の炭素原子、さらにより好ましくは4~6個の炭素原子を含むアルキル基、例えばブチル基等である。
【0027】
好ましくは、R2は、1~3個の炭素原子、さらにより好ましくは1又は3個、最も好ましくは3個の炭素原子を含むアルキレン基である。
【0028】
好ましくは、Raは、1~3個の炭素原子、さらにより好ましくは1又は2個の炭素原子、最も好ましくは1個の炭素原子を含むアルコキシ基である。
【0029】
好ましくは、Rbは、メチル基、又は1若しくは2個の炭素原子を有するアルコキシ基であり、さらにより好ましいRbは、1又は2個の炭素原子を有するアルコキシ基であり、最も好ましくはx=0である。
【0030】
好ましくはy=2~4である。
【0031】
式(I)の樹脂は、式(Ia)のジイソシアネート(y=2)又はポリイソシアネート(y=3~5);
R-[NCO]y (Ia)
を、式(Ib)の各アミノシラン;
HNR1-R2-Si(Ra3-x(Rbx (Ib)
と反応させることによって容易に調製され得る。式(Ia)及び(Ib)におけるR、R1、R2、Ra、Rb、x及びyは、式(I)で定義されたものと同じである。
【0032】
好ましい式(Ia)の直鎖脂肪族ジイソシアネートは、式(Iaa)の直鎖脂肪族ジイソシアネート;
OCN-(CH2p-NCO (Iaa)
[式中、p = 2~10、より好ましくは4~8、例えば6等である。]
である。ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、p = 6が、最も好ましい直鎖脂肪族ジイソシアネートである。
【0033】
好ましい式(Ia)の脂環式ジイソシアネートは、4,4’-ジイソシアネートジシクロヘキシルメタン(H12MDI)及びイソホロンジイソシアネート(IPDI)であり、4,4’-ジイソシアネートジシクロヘキシルメタンが最も好ましい脂環式ジイソシアネートである。
【0034】
好ましい式(Ib)のアミノシランは、α-アミノシラン(R2=CH2)およびγ-アミノシラン(R2=n-プロピル)であり、γ-アミノシランが本発明において最も好ましい。
【0035】
式(I)の化合物についてのR1、R2、Ra、Rb及びxのいずれの好ましい定義は、式(Ib)のアミノシランについても同様に好ましい。N-アルキルアミノ-アルキル-トリアルコキシシランが特に好ましく、その中で、N-ブチルアミノ-プロピル-トリメトキシシラン等のN-アルキルアミノ-プロピル-トリメトキシシランが最も好ましい。
【0036】
式(Ia)及び(Ib)の化合物からの式(I)の化合物の調製は、式(Ia)の化合物のすべての遊離イソシアネート基が消費されるまで、溶媒なしか、又は非プロトン性溶媒中で実施され得る。
【0037】
前記コーティング組成物中の樹脂(A)の量は、前記コーティング組成物の総質量に基づいて、好ましくは25~95質量%、より好ましくは35~90質量%、最も好ましくは40~80質量%である。前記コーティング組成物に使用されるこの樹脂(A)の量は、樹脂(A)の製造に使用される反応物の質量の合計が、樹脂(A)の最終的な質量と等しいという条件に基づいて計算された樹脂(A)の理論量である。
【0038】
以下に記載するように、早期の架橋(pre-mature crosslinking)を回避するため、樹脂(A)並びに触媒(B1)及び(B2)は、コーティング組成物の使用直前に混合されることが好ましいが、塗布まで前記組成物から微量の水も排除される場合は、貯蔵安定な一成分組成物も実現され得る。
【0039】
[触媒(B1)]
本発明のコーティング組成物は、1種以上の式(II)の触媒(B)(本明細書においては、触媒(B1)としても表わされる);
z[H3C-C(Rc)(Rd)-C(=O)-O-] Mz+ (II)
[式中、
c及びRdは、独立して、水素、又は1~6個の炭素原子を含むアルキル基であり、ただし、残基Rc及びRdにおける炭素原子の数の合計は2~7の範囲であり、且つz=1~4であり、ただし、
z=1の場合、Mは、Li、K及びNaからなる群から選択され、
z=2の場合、Mは、Zn及びZrからなる群から選択され、
z=3の場合、Mは、Bi及びAlからなる群から選択され、
z=4の場合、Mは、Zr及びTiからなる群から選択される。]
を含む。
【0040】
好ましくは、残基Rc及びRdにおける炭素原子の数の合計は5~7の範囲である。
【0041】
好ましくはz=1又は3であり、最も好ましくはz=1である。
【0042】
最も好ましい触媒(B1)は、ネオデカン酸及び2-エチルヘキサン酸のアルカリ金属塩、例えばネオデカン酸カリウム等である。最も好ましくは、M=K又はLiであり、さらにより好ましくはカリウムである。
【0043】
多くの場合、式(II)の触媒は、酸安定化された形態で製造業者から供給される。そのような酸安定化された式(II)の触媒を使用することは、それらのより高い貯蔵安定性のためだけではなく、それらが、本発明に従うコーティング組成物中に遊離酸を導入するためにも好ましい。そのような酸は、触媒(B2)との組み合わせにおいて、有益であることが知られている。安定化酸は、一般に、式(II)の触媒に対応する分岐遊離カルボン酸と同じである。
【0044】
触媒の供給形態が、H3C-C(Rc)(Rd)-C(= O)-OHを含む場合、この酸の含有量は、以下に記載されるように、式(III)のカルボン酸(D)に組み入れられる。
【0045】
前記コーティング組成物の樹脂(A)の量に基づく触媒(B1)の量は、好ましくは、100gの樹脂(A)固形物当り、1mmol~50mmol、より好ましくは5mmol~40mmol、最も好ましくは15~25mmolの金属の範囲である。
【0046】
[触媒(B2)]
好ましくは、前記コーティング組成物は、二環式第三級アミンの群から選択される触媒(B2)をさらに含む。最も好ましい二環式第三級アミンは、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノン-5-エン(以下、DBNと称する)、1,5-ジアザビシクロ(4,4,0)デセン-5 (以下、DBDと称する)、又は1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(本明細書において、DBUと称する)及び1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(本明細書において、DABCOと称する )である。その中でも、DBU及びDBNが好ましい。DBUが特に好ましい。そのような二環式第三級アミンは、単独で使用されてもよく、又はそれらの2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0047】
本発明のコーティング組成物において、そのような触媒(B2)を触媒(B1)なしで使用することは、不十分な接着性を有するコーティングの原因となり、したがって、想定される適用分野に適切ではない。
【0048】
しかしながら、触媒(B1)との組み合わせにおいては、触媒(B1)の単独使用と比較して、接着性がさらに改善され得る。したがって、触媒(B1)と触媒(B2)との組み合わせが通常好ましい。
【0049】
触媒(B1)対触媒(B2)の質量比は、好ましくは1:1~8:1、より好ましくは2:1~6:1、最も好ましくは3:1~5:1、例えば4:1等である。
【0050】
[非プロトン性有機溶媒(C)]
本発明に従うコーティング組成物は、1種以上の非プロトン性溶媒を含む。前記コーティング組成物中の非プロトン性溶媒は、樹脂(A)に対して化学的に不活性であり、すなわち、前記コーティング組成物が硬化されるとき、それらは樹脂(A)と反応しない。
【0051】
そのような溶媒の例は、脂肪族及び/又は芳香族炭化水素、例えばトルエン、キシレン、ソルベントナフサ(solvent naphtha)、Solvesso100又はHydrosol(登録商標)(APALから)等、ケトン、例えばアセトン、メチルエチルケトン又はメチルアミルケトン等、エステル、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル又はエポキシプロピオン酸エチル等、エーテル、又は前述の溶媒の混合物である。前記非プロトン性溶媒又は溶媒混合物は、好ましくは、前記溶媒に基づいて、1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下の含水量を有する。
【0052】
本発明に従うコーティング組成物は、好ましくは、実質的に水を含まず、且つプロトン性有機溶媒を含まない(前記コーティング組成物の総質量に基づいて、10質量%未満、好ましくは5質量%未満の水及び/又はプロトン性有機溶媒である)。しかしながら、本明細書において使用されるいくつかの添加剤又は触媒は、プロトン性有機溶媒中で販売されているため、場合によっては、それらを使用する前に溶媒交換を行わない限り、いくらかの不必要なプロトン性溶媒を取り込むことを避けることができない。そのようなプロトン性溶媒の量が、上記の限度内に保たれる場合、そのような量は、通常無視され得る。例えば添加剤によって取り込まれた、プロトン性溶媒の存在に起因して望ましくない早期の架橋が発生する場合、そのような添加剤は、好ましくは、前記コーティング組成物を塗布する直前に前記コーティング組成物に導入される。別の可能性は、溶媒交換を行うことである。
【0053】
前記非プロトン性溶媒は、通常、非プロトン性溶媒又は非プロトン性溶媒の混合物中の樹脂(A)の溶液又は分散液を使用することによって導入される。前記非プロトン性溶媒(複数可)のさらなる部分は、前記コーティング組成物の粘度を、適切な塗布粘度に調整するために導入される。
【0054】
前記非プロトン性溶媒(C)の量は、前記コーティング組成物の総質量に基づいて、好ましくは1~70質量%、より好ましくは20~60質量%、最も好ましくは30~50質量%である。
【0055】
[カルボン酸(D)]
本発明のコーティング組成物は、好ましくは1種以上の式(III)のカルボン酸(D);
3C-C(Re)(Rf)-C(=O)-OH (III)
[式中、
e及びRfは、独立して、水素、又は1~6個の炭素原子を含むアルキル基であり、ただし、残基Rc及びRdにおける炭素原子の数の合計は2~7の範囲である。]
を含む。
特に好ましい前記式(III)のカルボン酸は、前記式(II)の触媒のカルボン酸アニオンに対応する遊離カルボン酸である。最も好ましい前記カルボン酸(D)は、酸安定化された触媒(B1)を使用することによって導入される。
【0056】
前記カルボン酸(D)の量は、前記触媒(B1)の総質量に基づいて、好ましくは0~80質量%より好ましくは30~70質量%、最も好ましくは50~60質量%である。
【0057】
[エポキシ官能性化合物(E)]
好ましくは、本発明のコーティング組成物は、1種以上の式(IV)のエポキシ官能性化合物(E);
(X)n-R3-Ox (IV)
[式中、Oxは、オキシラン基であり、R3は2~15個の炭素原子を含み、任意にエーテル基及び/又はエステル基を含む脂肪族ヒドロカルビル基であり、n=1~5であり、且つn個のX基は、それぞれ独立して、Ox又は-Si(Rg3-v(Rhv(式中、v=0又は1であり、Rgは、1~4個の炭素原子を含むアルコキシ基であり、且つRhは、1~4個の炭素原子を含むアルキル基、又は1~4個の炭素原子を含むアルコキシ基である)である。]
をさらに含む。
【0058】
好ましくは、前記エポキシ官能性化合物(E)は、n個のX基を有する、脂肪族グリシジルエーテル、脂肪族グリシジルエステル(前記用語は、脂環式グリシジルエーテル及び脂環式グリシジルエステルを含む)から選択される。
【0059】
n個のX基がオキシラン基である場合、前記式(IV)の化合物は、脂肪族ジグリシジルエーテル、脂肪族ポリグリシジルエーテル、脂肪族ジグリシジルエステル及び/又は脂肪族ポリグリシシジルエステルである。
【0060】
脂肪族ジグリシジルエーテル、又はポリグリシジルエーテルの例は、1,4-ブタンジオール-ジグリシジルエーテル(Heloxy67)、1,6-ヘキサンジオール-ジグリシジルエーテル(Heloxy modifier HD)、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(Heloxy48)、及びネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(Heloxy68)、水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル(例えば、CVC Specialty ChemicalsからEpalloy5000及びEpalloy5001、又はJapanese Epoxy Resins Co. Ltd.からYX8000の商品名で販売される)、シクロヘキサンジメチロールジグリシジルエーテル(例えば、HexionからHeloxy107の商品名で販売される)、トリシクロデカンジメタノールジグリシジルエーテル(例えば、AdekaからEP4088Sの商品名で販売される)、1,3-プロパンジオール、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-ポリマーと2-(クロロメチル)オキシランから合成された化合物(Basocoll OV)又はグリセロールジグリシジルエーテルである。
【0061】
脂肪族ジグリシジルエステル、又はポリグリシジルエステルの例は、リノール酸二量体のグリシジルエステル(例えば、CVC Specialty ChemicalsからErisys GS-120の商品名で販売される)、二量体酸(dimer acid)ジグリシジルエステル(例えば、HexionからHeloxy Modifier71の商品名で販売される)、及びジグリシジル1,2-シクロヘキサンジカルボキシレート(例えば、CVC Specialty ChemicalsからEpalloy5200の商品名で販売される)を含む。
【0062】
n個のX基の少なくとも1個が、-Si(Rg3-v(Rhv基である場合、式(IV)の化合物は、グリシドキシアルキルジアルコキシアルキルシラン及びグリシドキシアルキルトリアルコキシシラン等のエポキシシランである。好ましいエポキシシラン化合物は、例えば、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ジメトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン及び2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランである。
【0063】
前記エポキシ官能性化合物(E)の量は、前記コーティング組成物の固形分に基づいて、好ましくは0~20質量%、より好ましくは2.5~15質量%、最も好ましくは5~10質量%である。
【0064】
前記コーティング組成物の固形分は、約1gの前記コーティング組成物を130℃で60分間乾燥させることによって測定される。
【0065】
エポキシシランがエポキシ官能性化合物(E)として使用される場合、(E)は樹脂(A)と予備混合され、早期の架橋を回避するため、上記の触媒(B1)及び(B2)は、(A)及び(E)と前記コーティング組成物を使用する直前に混合されることが好ましいが、塗布まで前記組成物から微量の水も排除され得る場合は、貯蔵安定な一成分組成物も実現され得る。
【0066】
[添加剤(F)]
本発明のコーティング組成物は、典型的な量、すなわち、それぞれの場合、前記コーティング組成物の総質量に基づいて、好ましくは0~20質量%、より好ましくは0.005~15質量%、特に0.01~10質量%の量で、少なくとも1種の慣例且つ公知のコーティング添加剤をさらに含み得る。前述の質量パーセントの範囲は、すべての添加剤の合計にも同様に適用される。
【0067】
適切なコーティング添加剤の例は、UV吸収剤;HALS化合物、ベンゾトリアゾール又はオキサルアニリド等の光安定剤;タレ制御剤(sagging control agent)(尿素結晶変性樹脂(urea crystal modified resin))等のレオロジー調整剤(reology modifier);フリーラジカルスカベンジャー;スリップ添加剤;重合防止剤;消泡剤;湿潤剤;フッ素化合物;接着促進剤;レベリング剤;セルロース誘導体等のフィルム形成助剤;充填剤、例えば、シリカ、アルミナ又は酸化ジルコニウムに基づくナノ粒子等;さらなる詳細については、Roempp Lexikon「Lacke und Druckfarben」、George Thieme Verlag、シュトゥットガルト、1998年、250~252頁を参照;例えば、特許WO94/22968、EP-A-0276501、EP-A-0249201又はWO97/12945からのもの等のレオロジー制御添加剤;例えば、EP-A-0008127に開示されているような架橋ポリマー微粒子;モンモリロナイト型のアルミニウムマグネシウムシリケート、ナトリウムマグネシウム及びナトリウムマグネシウムフッ素リチウムフィロシリケート等の無機フィロシリケート;Aerosils(登録商標)等のシリカ;有機増粘剤;及び/又は難燃剤である。
【0068】
上記の添加剤の中でも、最も好ましい添加剤は、好ましくは0.25~2.5質量%の量で存在するUV吸収剤、好ましくは0.25~2.5質量%の量で存在する光安定剤、及び好ましくは0.25~2.5質量%の量で存在するレベリング剤であり、前記範囲は前記コーティング組成物の総質量に基づいている。
【0069】
前記コーティング組成物が、成分(A)~(F)とは異なるバインダーをさらに含むことは可能であるが、望ましくはない。しかしながら、そのようなバインダーは、仮に存在する場合でも、本発明に従うコーティング組成物中に、本発明のコーティング組成物に存在する樹脂(A)の質量に基づいて、好ましくは10質量%未満、より好ましくは5質量%未満の量で含まれる。仮に存在する場合でも、ヒドロキシ官能性ポリシロキサン及び/又はアルコキシ官能性ポリシロキサンは、本発明に従うコーティング組成物中に、本発明のコーティング組成物に存在する樹脂(A)の質量に基づいて、好ましくは10質量%未満、より好ましくは5質量%未満、さらにより好ましくは3質量%未満の量で含まれることが特に好ましい。最も好ましい本発明のコーティング組成物は、ヒドロキシ官能性ポリシロキサン及び/又はアルコキシ官能性ポリシロキサンを含まない。
【0070】
前記添加剤は、触媒(B1)及び(B2)と異なるさらなる触媒、スズ含有触媒等の触媒でさえも含み得る。しかしながら、本発明のコーティング組成物にはスズ含有触媒は必要ないので、スズ含有触媒が含まれないことが好ましく、触媒(B1)及び(B2)の他の触媒が本発明のコーティング組成物中に含まれないことも好ましい。
【0071】
前記コーティング組成物は、最も好ましくは、遊離イソシアネート基を含む種を含まず、さらにより好ましくは、それらは、遊離イソシアネート基を有する種及びブロックイソシアネート基(blocked isocyanate group)を有する種を含まない。好ましくは、本発明のコーティング組成物は、アミノ樹脂、遊離ポリイソシアネート及びブロックポリイソシアネートからなる群から選択されるいずれの架橋剤も含まない。本発明において、イソシアヌレート基、ウレチオン基、イミノオキサジアジンジオン基、アロファネート基及びビウレット基からなる群から選択される部分は、ブロックイソシアネートの定義に属していない。
【0072】
[基板をコーティングする方法]
本発明のさらなる対象は、本発明に従うコーティング組成物で基板をコーティングする方法であって、前記方法は、本発明に従うコーティング組成物を基板に塗布し、コーティング層を形成する工程、及び前記コーティング層を10℃~180℃の範囲の温度で硬化する工程を含む。
【0073】
[基板]
本発明の方法においては、多種多様な材料が基板として使用され得る。好ましくは、前記基板材料は、金属、ポリマー、木材、ガラス、鉱物ベースの材料、及び前述の材料のいずれかの複合材料からなる群から選択される。
【0074】
用語「金属」は、鉄、アルミニウム、亜鉛、銅等のような金属元素、並びに
冷間圧延鋼(cold-rolled steel)、亜鉛メッキ鋼等のような鋼等の合金を含む。ポリマーは、熱可塑性、デュロプラスチック(duroplastic)又はエラストマーポリマーであり得、デュロプラスチック及び熱可塑性ポリマーが好ましい。鉱物ベースの材料は、例えば、硬化セメント及びコンクリート等の材料を包含する。複合材料は、例えば、繊維強化ポリマー等である。
【0075】
もちろん、前処理された基板を使用することが可能であり、前記前処理は、通常は基板の化学的性質に依存する。
【0076】
好ましくは、前記基板は、例えば、通常、ほこり、脂肪、油、又はコーティングの良好な接着を妨げるその他の物質を除去するため、使用前に洗浄される。前記基板は、それに続くコーティングの接着性を高めるため、さらに接着促進剤で処理され得る。
【0077】
金属基板は、本発明に従うコーティング組成物でコーティングされる前に、いわゆる化成皮膜層(conversion coat layer)及び/又は電着塗装層(electrodeposition coat layer) を含み得る。これは特に、自動車OEM及び自動車補修コーティング等の自動車コーティング分野における基板の場合である。
【0078】
ポリマー基板の場合、前処理は、例えば、フッ素による処理、又はプラズマ、コロナ、若しくは火炎処理が含まれ得る。多くの場合、表面も研磨されるか(sanded)及び/又は艶出しされる(polished)。前記洗浄は、事前の研磨(grinding)の有り若しくは無しで、手動で溶媒で拭くことによって、又は二酸化炭素洗浄等の一般的な自動化された手順によっても行われ得る。
【0079】
上記基板のいずれも、前記コーティング層の形成前に、1種以上の充填剤、及び/又は1種以上のベースコートでプレコートされ得る。そのような充填剤及びベースコートは、着色顔料、及び/又は例えば、アルミニウム顔料等の金属効果顔料、若しくは例えば、マイカ顔料等の真珠光沢顔料等の効果顔料を含み得る。これは特に、自動車OEM及び自動車補修コーティング等の自動車コーティング分野における基板の場合である。
[塗布]
本発明のコーティング組成物は、例えば、スプレー(spraying)、ナイフコーティング、ブラッシング、フローコーティング、浸漬、含浸、トリクリング(trickling)又はローリング(rolling)等の慣例の塗布方法のいずれかによって塗布され得る。コーティングされる前記基板は、塗布装置又はユニットが動いている状態で、それ自体は静止していてもよい。別法として、コーティングされる前記基板、特にコイルは、塗布ユニットが基板に対して静止しているか、又は適切に動いている状態で、動いていてもよい。
【0080】
工業規模では、圧縮空気スプレー、エアレススプレー、高速回転、又は静電スプレー塗布(ESTA)等のスプレー塗布方法を使用することが好ましい。
[硬化]
前記コーティング層の硬化は、一定の休止時間(rest time)の後に行われ得る。この休止時間は、例えば、コーティングフィルムのレベリング及び脱気のため、又は溶媒の蒸発のために使用される。前記休止時間は、これが早期の完全な架橋等のコーティングフィルムへの損傷又は変化を伴わない場合、高温の適用によって促進及び/又は短縮され得る。
【0081】
前記コーティング組成物の硬化は、その方法に関する限り、特定の特徴を有さないが、その代わりに、強制空気オーブン中の加熱又はIRランプの照射等の従来の方法に従って行われる。硬化はまた、段階的に行われてもよい。別の好ましい硬化方法は、近赤外線(NIR)放射を用いて硬化する方法である。硬化は、10~180℃、好ましくは20~150℃、より好ましくは20~140℃又は最も好ましくは20~70℃の温度で、2分間~2時間、より好ましくは3分間~1時間、特に5分間~30分間の時間で行われる。相対湿度は、好ましくは20%~90%の範囲であるべきである。相対湿度が20%を下回ると、硬化が遅過ぎることになり得る。
【0082】
本発明のコーティング組成物は、迅速に硬化する新規な硬化コーティング、特にクリアコート、成形品、特に光学成形品、及び自立式シート(self-supporting sheet)を提供する。前記硬化コーティングは、優れた接着性、迅速な研磨性と艶出し性、優れた外観並びに耐引っかき性及び耐溶剤性、並びに特にCAM180試験における優れた性能を示します。本発明のコーティング及びコーティングシステム、特に前記クリアコートはまた、特にコートの厚さが40μmを超える場合でも、応力亀裂の発生なしに製造され得る。通常、層の厚さは15μm~80μm、好ましくは20μm~70μm、又は30μm~65μm、例えば40μm~60μm等の範囲である。
【0083】
[コーティングされた基板]
本発明のさらなる対象は、本発明に従う方法によって得られるコーティングされた基板である。
【0084】
選択される基板材料に応じて、前記コーティング組成物は、多種多様な異なる塗布領域に塗布され得る。多くの種類の基板がコーティングされ得る。したがって、本発明のコーティング組成物は、装飾及び保護コーティングシステムとして、特に輸送手段(特にオートバイ、バス、トラック又は自動車等の動力車(motor vehicle))の本体、又はそれらの部品用への使用が非常に適切である。前記基板は、好ましくは自動車コーティングに使用されるように多層コーティングを含む。
【0085】
本発明のコーティング組成物はまた、構造(内部及び外部)、家具、窓及びドア、プラスチック成形品、特にCD及び窓、小型工業用部品、コイル、コンテナ、及び梱包材料、白物家電、シート、光学的、電気的及び機械的部品、並びに中空ガラス製品及び日用品での使用に適切である。
【0086】
[多層コーティング及び多層コーティングされた基板]
本発明のさらに別の対象は、少なくとも2層コーティング層を含む多層コーティングであって、その少なくとも1層が、本発明に従うコーティング組成物から形成される多層コーティングである。
【0087】
通常は、前記多層コーティングは、3層以上のコーティング層を含む。
【0088】
好ましい多層コーティングは、少なくともベースコート層及びクリアコート層を含む。本発明のコーティング組成物は、好ましくはクリアコート層を形成する。
【0089】
さらにより好ましくは、少なくとも1層のベースコート層でコーティングされた、少なくとも1層のフィラーコート層(filler coat layer)を含む多層コーティングであり、さらにこの場合も少なくとも1層のクリアコート層でコーティングされ、前記クリアコート層は、好ましくは本発明のコーティング組成物から形成される。
【0090】
特に、自動車コーティングに限定されるものではないが、多層コーティングは、好ましくは、エレクトロコート層(electro coat layer)、前記エレクトロコート層の上に、少なくとも1層のベースコート層でコーティングされた、少なくとも1層のフィラーコート層を含み、さらにこの場合も少なくとも1層のクリアコート層でコーティングされ、前記クリアコート層は、好ましくは本発明のコーティング組成物から形成される。
【0091】
上記の多層コーティングは、上記のいずれの基板にも塗布され得、通常、ただし限定されるものではないが、前処理された基板に塗布される。したがって、本発明の別の対象は、上記のいずれかの多層コーティングでコーティングされた、多層コーティングされた基板である。
【0092】
以下の実施例の節において、本発明はさらに説明される。
【実施例
【0093】
[シラン化樹脂の調製]
[樹脂1]
樹脂1は、26.30gのヘキサメチレンジイソシアネート(HDI、モノマー)を2当量のN-(n-ブチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(73.70g)と、溶媒なしで、60℃で残りのNCO含有量が0%に達するまで反応させることによって調製した。
[樹脂2]
樹脂2は、樹脂1と同じ方法で調製したが、HDIの代わりに、HDI系(HDI-based)ウレトジオン(35.59g、DESMODUR XP2840)を3当量のN-(n-ブチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(44.41g)と、20gの酢酸ブチル中、60℃で残りのNCO含有量が0%に達するまで反応させた。
[樹脂3]
樹脂3は、樹脂1と同じ方法で調製したが、HDIの代わりに、HDI三量体(35.84g、Desmodur N3300)を3.5当量のN-(n-ブチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(44.16g)と、20gの酢酸ブチル中、60℃で残りのNCO含有量が0%に達するまで反応させた。
[樹脂4]
樹脂4は、樹脂1と同じ方法で調製したが、HDIの代わりに4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(28.60g、Desmodur W)を2当量のN-(n-ブチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(51.40g)と、20gの酢酸ブチル中、60℃で残りのNCO含有量が0%に達するまで反応させた。
【0094】
[樹脂A(EP2641925A1)]
樹脂Aは、溶剤なしで、21.78gの1,6-ヘキサンジオールを2当量の3-(トリメトキシシリル)プロピルイソシアネート(78.01g)と反応させることによって調製し、0.22gのDBTLを60℃で触媒として使用した。
【0095】
[本発明のコーティング組成物1~7、並びに比較コーティング組成物A及びB]
本発明のコーティング組成物1~7の材料、及び比較コーティング組成物Aの材料を表1に示す量で混合した。最初、材料Iを混合し、その後、予備混合した材料IIを加えた。全ての量は質量部(すなわち、g単位)である。
【0096】
【表1】
【0097】
[補修ビルドアップ(Refinish-Built-Up)におけるコーティングの塗布]
以下に説明するように、鋼製パネルを前処理し、電着コーティングし、プライマー及びベースコートでコーティングし、続いて、本発明のコーティング組成物及び比較コーティング組成物で、それぞれコーティングした。
【0098】
[前処理]
鋼製パネルを、最初に、Gardobond(登録商標)R亜鉛リン酸処理(zinc phosphatation)(Chemetall GmbHから市販)で前処理した。
【0099】
[電着コーティング]
その後、前記前処理された鋼製パネルを、電着コーティング(EDコーティング)(Cathogard(登録商標)800、BASF Coatings GmbHから市販)でコーティングした。
【0100】
[プライマーコーティング]
その後、これらのEDコーティングされたパネルを、プライマー(Glasurit(登録商標)285-230)でスプレーコーティングし、60℃で硬化させた後、研磨した。
【0101】
[ベースコートコーティング]
次に、水性ベースコートを塗布し(Glasurit Line90-1250Deep Black)、続いてベースコート層が手で触れるくらいに乾く(touch dry)まで周囲条件でフラッシュオフ(flash-off)した。
【0102】
[本発明のコーティング組成物1~7又は比較コーティング組成物A及びBでのコーティング]
次の工程では、クリアコート組成物1~7、又はA及びBを塗布し、さらにこの場合も周囲条件で硬化させた。すべての組成物は、乾燥したベースコート上に正常なフィルム(proper film)を形成した。
【0103】
シラン系クリアコートは、塩基(組成物B)、金属カルボン酸塩(組成物3)、又はそれらの混合物(組成物2)のいずれかで硬化され得る。硬化時間は30~60分の範囲である。
【0104】
【表2】
【0105】
[コーティング組成物1~7並びに比較コーティング組成物A及びBから得られたコーティングの試験]
コーティング組成物1~7並びにA及びBからの本発明のコーティング及び比較コーティングを、それぞれ、それらの手で触れるくらいに乾く時間(touch dry time)、耐溶剤性(キシレン試験)、接着性(一定の気候試験有り、又は無しでのクロスカット試験)、外観、研磨可能/艶出し可能になるまでの時間、それらの耐引っかき性(クロックメーター試験(Crockmeter test))、及びそれらの耐気候性(WOM CAM180試験)について試験した。
【0106】
それぞれの試験について、以下により詳細に記載する。
【0107】
[タックフリー時間]
タックフリー時間は、DIN EN ISO9117-5に従うギロチン試験(Guillotine test)によって測定する。この試験では、1.5gの海砂を前記クリアコートに振りかける(pour)。過剰の砂を、前記パネルから振り落とす(pour off)。その後、前記パネルを、自己落下誘導方式(self-falling guided manner)で表面から30cm上方から前記パネルを落とすことができる装置(ギロチン)に移す。前記パネルを、前記表面上に端で落下させ、その後、残っている砂の粒子をチェックする。コーティング表面上に砂の粒子が残っていない場合、ギロチン試験はOKで、前記コーティングは「タックフリー」であると見なされる。
【0108】
[キシレン試験]
前記コーティングの塗布から7日後、キシレンの大きな滴(約2mL)を、前記コーティングに塗布し、4分後に再び除去する。1時間後、PK700クレンザー(R-M Automotive Refinish Paintsから入手可能)で表面を洗浄し、コーティングを観察する。前記滴の端の可視性は、0~5の範囲で測定する(0は目に見えるリングがないことを意味し、5はクリアコートが完全に除去されていることを意味する)。
【0109】
[クロスカット接着性]
クロスカット接着性は、DIN EN ISO 2409ENに従って行った。
【0110】
[研磨性試験]
前記クリアコートを少量の脱イオン水で湿らせてから、3M P1500/P2000及び3M Finesse-it Trizact50079研磨紙(sanding paper)で研磨する。研磨具が、前記クリアコート表面上を滑らかにスライドするとすぐに、前記コーティングは研磨可能であると見なされ、時間を記録する。
【0111】
[艶出し性試験]
前記クリアコートの研磨性が認められた後、艶出し性を試験する。研磨した領域を、最初に3M(商標)Perfect-it III Schleifpaste Plus(PN50417)と対応するパッドで艶出しし、その後、3M(商標)Perfect-it(商標)III Extra Fine Schleifpasteと対応するパッドで艶出しする。サンディングペースト(sandingpaste)が前記クリアコートに付着しておらず、滑らかな艶出し仕上げ(polishing finish)が達成される場合、コーティングは艶出し可能であると見なす。
【0112】
[クロックメーター試験]
クロックメーター試験は、DIN55654に従って行った。
【0113】
[CAM180試験]
硬化コーティングされた鋼製パネルを、いわゆるCAM180試験(SAE J2527_Sep17に従う)でUV放射と乾湿サイクルにさらした。前記コーティングについて、亀裂の発生を調べた。最初に亀裂が観察された時間を表2に示す。
【0114】
【表3】
【0115】
全ての本発明のコーティング組成物1~7は、30分以内に「ドライタッチ(dry touch)」への迅速な硬化を示すが、一方、比較コーティング組成物A(EP2641925A1からの先行技術の樹脂)及びB(触媒(B2)のみ使用された)は、「ドライタッチ」へ60分を必要とする。。
【0116】
塗布及び硬化7日後のクロスカット接着性は、本発明のコーティング組成物1~7の優れた性能~許容できる性能を明らかに示すが、一方、比較コーティング組成物A及びBは許容できない。触媒(B1)を使用したコーティング組成物のみが、この試験で良好な結果を示す。
【0117】
触媒(B1)及び(B2)の組み合わせは、通常、塗布及び硬化7日後のクロスカット接着性のさらなる改善をもたらす。
【0118】
全体として最高の結果は、一定の気候試験後に、さらに良好な接着性の結果を有する本発明のコーティング組成物1、4及び7(エポキシシランを含む)に示される。
【0119】
CAM180耐候性試験(weathering test)における極めて優れた性能が、触媒(B1)及び(B2)並びにエポキシシランの組み合わせを使用した本発明のコーティング組成物1及び7に見出されている。亀裂は、2000時間後に観察されなかった。
【0120】
さらに、本発明のコーティング組成物1及び7は、それぞれ50分後及び80分後に研磨可能及び艶出し可能であった。一般に、90分以下の硬化時間は、周囲硬化クリアコートについて補修ボディショップ(refinish bodyshop)で受け入れられる。
【0121】
本発明のコーティング組成物1は、表1に示す通り、外観、レベリング及び光沢についてさらに試験され、典型的な要件に合格した。外観は、BYK Gardnerによって製造及び流通された測定装置Wave-Scan Dual及びMicro-Haze Plusを使用して測定した。
【0122】
【表4】
【0123】
[OEMビルドアップ(OEM-Built-Up)でのコーティングの塗布]
エレクトロコーティングされたパネルを、標準OEMフィラー(BASF Coatings GmbHから市販)でコーティングし、70℃で5分間フラッシュオフした後、155℃で20分間硬化した。その後、黒色の標準OEMベースコート(BASF Coatings GmbHから市販)を塗布し、80℃で10分間フラッシュオフを行い、続いてコーティング組成物7を塗布し、室温で10分間フラッシュオフした後、140℃で20分間硬化した。
【0124】
【表5】
【0125】
[コーティング組成物7から得られたコーティングの試験]
[クロスカット接着性]
クロスカット接着性試験は、DIN EN ISO 2409ENに従って行った。
【0126】
[ストーンチップ試験]
耐ストーンチップ(stone-chip resistance)試験は、DIN EN ISO20567-1EN及びDIN EN ISO 21227-2ENに従って行った。
【0127】
[水蒸気噴流試験]
水蒸気噴流接着性(Steam-Jet Adhesion)は、DIN55662DEに従って行った。
【0128】
外観は、BYK Gardnerによって製造及び流通された測定装置Wave-scan dual及びmicro-haze plusを使用して測定した。
【0129】
【表6】
【0130】
水蒸気噴流及びクロスカット接着性において、非常に良好な性能が測定された。ストーンチップ試験後の接着性は、OEMクリアコーティングに関して許容できる規模である。そして、視覚的外観測定は、標準的なベースコート化学と新規なイソシアネートを含まないシラン系架橋化学との間に、非互換性が存在しないことを明らかにした。