(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】成形により部品を製造するための型および方法、その部品、ならびにそのような部品を備えたシューズ
(51)【国際特許分類】
B29C 33/08 20060101AFI20240902BHJP
B29D 35/02 20100101ALI20240902BHJP
A43B 13/18 20060101ALI20240902BHJP
A43B 13/04 20060101ALI20240902BHJP
B29C 33/40 20060101ALI20240902BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20240902BHJP
B29C 35/12 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
B29C33/08
B29D35/02
A43B13/18
A43B13/04
B29C33/40
B29C44/00 G
B29C35/12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022010554
(22)【出願日】2022-01-27
【審査請求日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】10 2021 200 759.7
(32)【優先日】2021-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】10 2021 205 928.7
(32)【優先日】2021-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510204998
【氏名又は名称】アディダス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100221327
【氏名又は名称】大川 亮
(72)【発明者】
【氏名】ヤルコ シルタマキ
(72)【発明者】
【氏名】バスティアン ゲーテ
(72)【発明者】
【氏名】ヘルゲ ウィーガー
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ゼーフリート
(72)【発明者】
【氏名】マクシミリアン ドレクスラー
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン シュナイダー
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル エス.プライス
(72)【発明者】
【氏名】ディートマール ケー.ドラマー
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0307041(US,A1)
【文献】特開平10-058475(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0032561(KR,A)
【文献】特開平07-186151(JP,A)
【文献】特開2014-158708(JP,A)
【文献】特開2016-141153(JP,A)
【文献】特開平08-052761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/08
B29C 33/40
B29C 44/00
B29C 35/12
A43B 13/18
A43B 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品を成形するための型であって、前記部品はスポーツ用衣類であり、
a.ポリマー材料およびフィラー材料の混合物を含み、
b.フィラー材料が、電磁場による前記型の内側での部品の加熱を可能にするように構成され、
前記ポリマー材料が、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリカーボネート(PC)、ポリケトン(PK)のうちの少なくとも1つを含む、型。
【請求項2】
フィラー材料が、前記型の熱伝導率を高くするように構成された、請求項1に記載の型。
【請求項3】
フィラー材料が、少なくとも2つの無機材料の混合物、金属窒化物、金属酸化物、金属炭化物、金属硫化物、金属ケイ酸塩、炭化ケイ素、および窒化ケイ素のうちの少なくとも1つ、又は、窒化ホウ素(BN)を含む、請求項1~
2のいずれか1つに記載の型。
【請求項4】
フィラー材料が、炭素材料および無機材料の混合物、炭素繊維、ガラス状炭素、カーボンナノチューブ、カーボンナノバッド、エアログラファイト、直鎖アセチレン炭素、q-炭素、グラフェン、塩、単結晶粉末、多結晶粉末、非晶質粉末、ガラス繊維のうちの少なくとも1つを含む、請求項1~
3のいずれか1つに記載の型。
【請求項5】
混合物が、1~75体積%、1~30体積%、1~25体積%、1~20体積%、5~20体積%10~40体積%、又は、15~35体積%の量のフィラー材料を含む、請求項1~
4のいずれか1つに記載の型。
【請求項6】
ポリマー材料が、発泡材料を含む、請求項1~
5のいずれか1つに記載の型。
【請求項7】
前記型が、ソール型であり、部品が、シューズソール、又は、ミッドソールである、請求項1~
6のいずれか1つに記載の型。
【請求項8】
電磁場が、30kHz~300GHz、1MHz~200MHz、1MHz~50MHz、又は25~30MHzの高周波帯域である、請求項1~
7のいずれか1つに記載の型。
【請求項9】
部品を製造する方法であって、前記部品はスポーツ用衣類であり、
a.請求項1~
8のいずれか1つに記載の型を用いて部品を成形するステップを含む、方法。
【請求項10】
b.発泡材料の粒子を含む部品の第1の材料を型に装填するステップと、
c.電磁場によって、第1の材料、型のポリマー材料およびフィラー材料の混合物、および/または型のサセプタを加熱するステップと、
のうちの少なくとも一方をさらに含む、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
サセプタが、少なくとも以下の材料:
発泡ポリプロピレン(ePP)、ポリウレタン(PU)、ポリラクチド(PLA)、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)、およびポリエチレンテレフタレート(PET)のうちの少なくとも1つを含む請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
加熱ステップが、粒子の表面を融着するステップを含む、請求項
10または
11に記載の方法。
【請求項13】
部品の粒子が、少なくとも以下の材料:
発泡熱可塑性ポリウレタン(eTPU)、発泡ポリアミド(ePA)、発泡ポリエーテルブロックアミド(ePEBA)、ポリラクチド(PLA)、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、熱可塑性ポリエステルエーテルエラストマ(TPEE)
のうちの少なくとも1つを含む、請求項
10~
12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
粒子が、発泡材料を含む、請求項
10~
13のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
電磁場が、30kHz~300GHz、1MHz~200MHz、1MHz~50MHz、又は25~30MHzの高周波帯域である、請求項
10~
14のいずれか1つに記載の方法。
【請求項16】
型に、電磁場によって溶融、溶融開始、軟化、又は硬化がない第2の材料がさらに装填される、請求項
10~
15のいずれか1つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部品、特に、スポーツ用衣類を成形するための型、このような型を用いて部品を製造する方法、およびこのような部品を備えたシューズに関する。
【背景技術】
【0002】
発泡粒子材料すなわち発泡プラスチック材料の個々の粒子により構成された材料の使用は、スポーツ用衣類の緩衝性要素の製造、特に、スポーツ用シューズのシューズソールの製造において一般的となっている。特に、型内での加圧蒸気への曝露(当技術分野においては、「スチームチェスト成形(steam chest molding)」と称することが多い)によって、それぞれの表面で融着される発泡熱可塑性ポリウレタン(eTPU)の粒子の使用がシューズソールの製造に対して検討されている。
【0003】
ただし、シューズソールのスチームチェスト成形のための従来の型は、使用材料の具体的な要件に適応されていない。たとえば、従来の型を用いて粒子により構成されるシューズソールのスチームチェスト成形プロセスでは、従来の型の質量が通常大きいため、型の加熱に大量のエネルギーを要する。さらに、このような型の冷却プロセスは、低速であるため、サイクル時間が長くなる。最後に、粒子によるシューズソールのスチームチェスト成形では、粒子の一様な相互接続を実現するため、加圧蒸気を粒子に対して均一に供給する必要がある。その点、従来の型は、このように均一な媒体供給に適応されていない。
【0004】
加圧蒸気以外のエネルギー担体も検討されている。特に、スポーツ用衣類の緩衝性要素を製造する方法であって、発泡材料の粒子を含む第1の材料を型に装填することと、少なくとも1つの電磁場の形態でエネルギーを供給して粒子の表面を融着することと、を含む、方法が独国特許出願公開第102015202013号明細書および欧州特許出願公開第3053732号明細書に記載されている。ただし、これらの方法では、特にランニングシューズのような最新性能の靴(具体的には、それぞれのソールおよびミッドソール)の製造に必要となる型材の特定の材料特性を十分には考慮していないため、改良の余地が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】独国特許出願公開第102015202013号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3053732号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来技術の上記欠点を克服して、部品、特に、スポーツ用衣類を成形するための改良された型を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、独立請求項の教示内容によって達成される。従属請求項には、有利な実施形態が含まれる。
【0008】
一実施形態において、部品、特に、スポーツ用衣類を成形するための型は、(a)ポリマー材料およびフィラー材料の混合物を含み、(b)フィラー材料が、電磁場による前記型の内側での部品の加熱を可能にするように構成されている。
【0009】
本発明の発明者らは驚くべきことに、このような型がスポーツ用衣類を成形するための改良された手法を提供することを見出した。このようなポリマー材料およびフィラー材料の混合物を使用することにより、成形プロセスにおいて、型のその他の材料特性(たとえば、その安定性)を損なうことなく、型材の特定の特性を大幅に改善可能である。さらに、型の内側のスポーツ用衣類を加熱するために電磁場、特に、電磁放射を使用すると、加熱のエネルギーが如何なる種類の媒体輸送(たとえば、加圧蒸気の導入)にも結合されないため、さまざまな厚さで複雑な形状を有する部品の製造も可能となる。電磁放射は、スポーツ用衣類の材料が装填された型に対して本質的に一様に透過し、本質的に一定量のエネルギーをスポーツ用衣類のすべての部分に供給するとともに、スポーツ用衣類全体およびスポーツ用衣類のあらゆる深さで一様かつ一定の成形が実現されるように選定され得る。
【0010】
この時点では、明瞭化のため、フィラー材料がポリマー材料に組み込まれた固体添加物であってもよいことを明示しておく。このように、フィラー材料は、ポリマー型材の性能向上のために用いられる機能性フィラーであってもよい。言い換えると、ポリマー材料に添加された場合は、フィラー材料の量が増えるにつれて、ポリマー型材の特定の特性がある程度まで改善される。さらに、フィラーの混合物は、材料特性を「調整」するとともに、型全体の機械的性能を誘電的挙動とバランスさせるのに役立ち得る。
【0011】
フィラー材料は、型の熱伝導率を高くするように構成されていてもよい。結果として、熱が型から出ていくため、熱流入としての型の加熱時の熱エネルギーの損失が大幅に増加する。さらに、型の熱伝導率を高くすることにより、成形後の熱流出としての冷却プロセスが改善されるが、これは、本発明に係るポリマー材料およびフィラー材料の混合物によってさらに後押しされる。また、部品を外部からも内部からも追加で冷却する必要がないため、成形プロセス全体が簡素化される。つまり、このような型によって、スポーツ用衣類の製造プロセスの全体的な生産性を向上可能である。
【0012】
本願において使用する場合の用語「熱伝導率(thermal conductivity)」は、熱を伝導する型材の能力を表す。言い換えると、熱伝導は、温度勾配を横切るランダムな分子運動によるエネルギーの輸送と定義される。これは、巨視的な流れも仕事をする内部応力も伴わない点で、対流および分子運動によるエネルギー輸送と区別される。国際単位系(SI)において、熱伝導率は、ワット毎メートル・ケルビン(W/(m・K))で測定される。
【0013】
フィラー材料は、部品と比較して、型の誘電率を高くするように構成されていてもよい。さらに、フィラー材料は、誘電体材料、特に、少なくとも2つの無機材料の混合物、好ましくは、金属窒化物、金属酸化物、金属炭化物、金属硫化物、金属ケイ酸塩、炭化ケイ素、および窒化ケイ素のうちの少なくとも1つ、最も好ましくは窒化ホウ素(BN)を含んでいてもよい。型の誘電率は、当業者による理解の通り、(一定の「外部」電磁場が型に印加されている場合の)型の内側の電磁場または電磁放射の電磁場強度に直接影響を及ぼし、また、型の内側の電磁場分布(たとえば、電磁場強度の局所値)にも影響を及ぼすことになる。型の誘電率を高くして電磁場分布に影響を及ぼすことの別の利点として、誘電率の値が多種多様なフィラー材料が既知かつ利用可能であることから、さまざまなフィラー材料の選定および/または組み合わせによって、このように大きな調整および適応が可能となる。さらに、型の誘電率を高くすることにより、電磁場密度が部品材料に集中して型材自体からは遠ざかる点で、成形プロセスにおける熱エネルギーの損失を間接的に抑えることができる。
【0014】
さらに、フィラー材料は、炭素材料および無機材料の混合物、炭素繊維、ガラス状炭素、カーボンナノチューブ、カーボンナノバッド、エアログラファイト、直鎖アセチレン炭素、q-炭素、グラフェン、塩、単結晶粉末、多結晶粉末、非晶質粉末、ガラス繊維のうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。前述の効果の他、繊維または繊維複合材料は、軽量でありながら強度も非常に高い。特に、ガラスまたはガラス繊維はかなり安価で、耐湿性がある他、強度対重量比も高い。したがって、型材は、プロセス全体の性能に影響を及ぼし得るとともに、誘電特性の異なる型材を適切に選択することによって、効率的な誘電加熱およびその後の冷却のための最適な特性を実現可能となる。さらに、材料の選択においては、一定範囲の電気抵抗および機械的安定性と関連する特性が考慮されるようになっていてもよい。
【0015】
上述の実施形態には、形状、光学的特性、熱的および電気的特性、または材料特性が異なるさまざまなフィラー材料を含むが、これらはすべて、型の内側のスポーツ用衣類の誘電加熱およびその後の型全体の冷却による効率的な成形のための最適な特性を実現するという同じ考えに従う。たとえば、成形されるスポーツ用衣類がシューズソールである場合は、本発明の型によって、シューズソール製造時のサイクル時間の短縮およびシューズソールの高品質化の両者がもたらされ得る。
【0016】
本願において使用する場合の用語「スポーツ用衣類(sports apparel)」は、スポーツまたは運動のために着用される靴およびアクセサリ等の衣服を表し得る。スポーツ専用の衣服または衣料は、実用性、快適性、または安全性の理由から、ほとんどのスポーツおよび運動で着用され得る。一般的なスポーツ専用の衣料としては、トラックスーツ、ショートパンツ、Tシャツ、およびポロシャツが挙げられる。特殊な衣料としては、水着(水泳用)、ウェットスーツ(ダイビングまたはサーフィン用)、スキースーツ(スキー用)、およびレオタード(体操用)が挙げられる。スポーツ用靴としては、トレーニングシューズ、サッカーシューズ、乗馬ブーツ、およびアイススケート靴が挙げられる。また、スポーツウェアとしては、ビキニおよび一部のクロップトップ、ジョックストラップおよびスポーツブラ等の下着類も挙げられる。また、スポーツウェアは、カジュアルファッション衣服として着用される場合もある。
【0017】
上記混合物は、1~75体積%、特に1~30体積%、好ましくは1~25体積%、より好ましくは1~20体積%、最も好ましくは5~20体積%の量のフィラー材料を含んでいてもよいし、10~40体積%、特に15~35体積%の量のフィラー材料を含んでいてもよい。これらの指定値は、効率的な誘電加熱のために最適化された光学特性とその後の冷却に対して型の熱伝導率を高くするのに十分な熱的特性との間の合理的な妥協点をもたらすことが見出されている。
【0018】
ポリマー材料には、熱可塑性材料、好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリカーボネート(PC)、ポリケトン(PK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、またはポリエチレン(PE)のうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。さらに、ポリマー材料には、発泡材料を含んでいてもよい。これらの材料は、有利であることが判明しているため、本発明の背景において使用可能である。たとえば、POMは、高周波放射に対する誘電損失係数Dが約0.008である。したがって、この材料は、電磁放射のごく一部しか吸収しないため、高周波放射に対して本質的に透明であり、損失係数が比較的低いため、一定の厚さで形成可能である。
【0019】
ポリマー材料は、部品と比較して、型の誘電率を高くするように構成されていてもよい。たとえば、部品材料と比較して固有誘電率が高いことから、特定のポリマーグレードの特定のポリマー材料が使用され得る。したがって、型の誘電率が型の内側の電磁場または電磁放射の電磁場強度に直接影響を及ぼすことから、電磁場密度が部品材料に集中する点で型の熱流入および熱流出が最適化され得る。例として、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアミド、またはポリエチレンテレフタレート(PET)のうちの少なくとも1つが挙げられる。好適な実施形態において、型は、PETおよび30体積%の酸化アルミニウム(A12O3)の混合物またはPOMおよび二酸化チタン(TiO2)の混合物を含んでいてもよい。
【0020】
ポリマー材料は、型の誘電損失係数を高くするように構成されていてもよい。また、型の特定の部分が誘電損失係数を高くするように構成されていてもよいと考えられる。このような実施形態によれば、型材が電磁放射を大量に吸収し得るため、高い誘電損失によって、型全体または型内の特定の部分のみを選択的に局部加熱することができる。したがって、型の熱流入および熱流出が最適化され得る。例としては、ポリケトン(PK)、ポリフッ化ビニリデンもしくはポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)、またはポリアミドイミド(PAI)のうちの少なくとも1つが挙げられる。好適な一実施形態において、型は、POMおよび二酸化チタン(TiO2)の混合物を含んでいてもよい。
【0021】
型は、ソール型であってもよく、また、部品は、シューズソール、特に、ミッドソールであってもよい。シューズソールの誘電加熱による成形プロセスおよびその後の冷却プロセスは、非常に高速であるため、生産性を向上可能である。さらに、一様かつ一定の成形によって、最適な緩衝特性をもたらす軽量で耐久性のあるシューズソールの製造が可能となる。
【0022】
本発明はさらに、部品、特に、スポーツ用衣類を製造する方法であって、(a)本明細書に記載のような型を用いて部品を成形するステップを含む、方法に関する。さらに、この方法は、(b)発泡材料の粒子を含む部品の第1の材料を型に装填するステップと、(c)電磁場によって、第1の材料、型のポリマー材料およびフィラー材料の混合物、および/または型のサセプタを加熱するステップと、のうちの少なくとも一方をさらに含んでいてもよい。サセプタは、少なくとも以下の材料:発泡ポリプロピレン(ePP)、ポリウレタン(PU)、ポリラクチド(PLA)、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)、およびポリエチレンテレフタレート(PET)のうちの少なくとも1つを含んでもよい。
【0023】
加熱ステップは、粒子の表面を融着するステップを含んでいてもよい。前述の通り、電磁場、特に、電磁放射は、粒子が装填された型に対して本質的に一様に透過し、本質的に一定量のエネルギーをすべての粒子に供給するとともに、部品全体および部品のあらゆる深さで粒子表面の一様かつ一定の融着が実現されるように選定され得る。
【0024】
部品の粒子は、少なくとも以下の材料:発泡熱可塑性ポリウレタン(eTPU)、発泡ポリアミド(ePA)、発泡ポリエーテルブロックアミド(ePEBA)、ポリラクチド(PLA)、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、熱可塑性ポリエステルエーテルエラストマ(TPEE)、のうちの少なくとも1つを含んでもよい。たとえば、シューズソールの製造での使用に対して、eTPU、ePEBA、および/またはePAの粒子が有利であることが判明しているため、本発明の背景において使用可能である。
【0025】
粒子は、当技術分野において知られている従来技術(たとえば、充填ゲートを通じた圧力充填)によって、型に充填されるようになっていてもよい。
【0026】
粒子は、発泡材料を含んでいてもよい。たとえば、粒子および型表面の両者に発泡材料を使用することによって、同様の損失係数となるため、粒子および型の両者の実質的に均一な加熱によって、部品をより良好に表面融着可能である。
【0027】
電磁場は、30kHz~300GHzの高周波帯域であってもよい。電磁場は、たとえばマイクロ波帯域すなわち300MHz~300GHzの範囲の周波数の放射の形態で供給されるようになっていてもよい。
【0028】
マイクロ波発生器は市販されており、本発明に係る型を使用する製造装置に対して、比較的容易に実装されるようになっていてもよい。また、好適な装置によって、部品材料が装填される型のキャビティへとマイクロ波放射を本質的に集中させることにより、型を使用する方法のエネルギー効率を向上させることも可能と考えられる。さらに、マイクロ波放射の強度および周波数は、容易な変更および各要件への適応が可能である。
【0029】
電磁場は、1MHz~200MHz、より好ましくは1MHz~50MHz、最も好ましくは25~30MHzの高周波帯域であってもよい。好適な一実施形態において、電磁場は、27.12MHz前後の高周波帯域の周波数を有していてもよい。また、1つまたは複数の高周波または高周波帯域を使用可能と考えられる。
【0030】
高周波発生器は市販されており、製造装置に容易に実装されるようになっていてもよい。さらに、高周波放射が製造装置の各部に集中され、その強度および周波数が要件に対して適応されるようになっていてもよい。
【0031】
さらに、電磁場、特に、電磁放射は、前述の周波数帯域と異なる周波数帯域で供給可能である。
【0032】
型は、電磁場によって本質的に変化しない第2の材料がさらに装填されるようになっていてもよい。これは、たとえば顕著な吸収なく電磁場が透過する材料であってもよい。特に、第2の材料は、電磁場吸収材料を含んでいなくてもよい。「本質的に変化しない」は、第2の材料の溶融、溶融開始、軟化、または硬化がないことを意味し得る。
【0033】
上記すべての実施形態は、部品、特に、スポーツ用衣類を製造する改良された方法に関する。その他の詳細ならびに技術的効果および利点については、型に関して詳しく上述した通りである。
【0034】
また、本発明は、本明細書に記載のような方法により製造された部品、特に、スポーツ用衣類に関する。さらに、部品は、シューズソール、特に、ミッドソールであってもよい。
【0035】
また、本発明は、本明細書に記載のような部品を備えたシューズ、特に、スポーツ用シューズに関する。
【0036】
以下、図面を参照して、本発明の考え得る実施形態をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明に係る、ソール型の驚くべき効果を示した図である。
【
図2a】本発明に係る、型としての使用に適した材料の誘電率を示した図である。
【
図2b】本発明に係る、型としての使用に適した材料の誘電率を示した図である。
【
図2c】本発明に係る、型としての使用に適した材料の誘電率を示した図である。
【
図2d】本発明に係る、型としての使用に適した材料の誘電率を示した図である。
【
図3a】本発明に係る、型としての使用に適した材料の誘電損失係数を示した図である。
【
図3b】本発明に係る、型としての使用に適した材料の誘電損失係数を示した図である。
【
図3c】本発明に係る、型としての使用に適した材料の誘電損失係数を示した図である。
【
図3d】本発明に係る、型としての使用に適した材料の誘電損失係数を示した図である。
【
図4a】本発明に係る、型としての使用に適した材料の貯蔵弾性率を示した図である。
【
図4b】本発明に係る、型としての使用に適した材料の貯蔵弾性率を示した図である。
【
図5a】本発明に係る、型としての使用に適した材料の熱膨張を示した図である。
【
図5b】本発明に係る、型としての使用に適した材料の熱膨張を示した図である。
【
図6a】本発明に係る、型としての使用に適した材料の熱伝導率を示した図である。
【
図6b】本発明に係る、型としての使用に適した材料の熱伝導率を示した図である。
【
図6c】本発明に係る、型としての使用に適した材料の熱伝導率を示した図である。
【
図6d】本発明に係る、型としての使用に適した材料の熱伝導率を示した図である。
【
図7】本発明に係る、型としての使用に適した材料のプロセスサイクル時間の改善を示した図である。
【
図8a】本発明に係る、型としての使用に適した材料のプロセスサイクル時間の改善を示した図である。
【
図8b】本発明に係る、型としての使用に適した材料のプロセスサイクル時間の改善を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、以下の実施形態を含む。
【0039】
[1]部品(120)、特に、スポーツ用衣類(120)を成形するための型(100)であって、
a.ポリマー材料およびフィラー材料の混合物を含み、
b.フィラー材料が、電磁場による前記型(100)の内側での部品の加熱を可能にするように構成された、型(100)。
【0040】
[2]フィラー材料が、前記型(100)の熱伝導率を高くするように構成された、[1]に記載の型(100)。
【0041】
[3]フィラー材料が、部品(120)と比較して、前記型(100)の誘電率を高くするように構成された、[1]または[2]に記載の型(100)。
【0042】
[4]フィラー材料が、誘電体材料、特に、少なくとも2つの無機材料の混合物、好ましくは、金属窒化物、金属酸化物、金属炭化物、金属硫化物、金属ケイ酸塩、炭化ケイ素、および窒化ケイ素のうちの少なくとも1つ、最も好ましくは窒化ホウ素(BN)を含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載の型(100)。
【0043】
[5]フィラー材料が、炭素材料および無機材料の混合物、炭素繊維、ガラス状炭素、カーボンナノチューブ、カーボンナノバッド、エアログラファイト、直鎖アセチレン炭素、q-炭素、グラフェン、塩、単結晶粉末、多結晶粉末、非晶質粉末、ガラス繊維のうちの少なくとも1つを含む、[1]~[4]のいずれか1つに記載の型(100)。
【0044】
[6]混合物が、1~75体積%、特に1~30体積%、好ましくは1~25体積%、より好ましくは1~20体積%、最も好ましくは5~20体積%の量のフィラー材料を含むか、または、10~40体積%、特に15~35体積%の量のフィラー材料を含む、[1]~[5]のいずれか1つに記載の型(100)。
【0045】
[7]ポリマー材料が、熱可塑性材料、好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリカーボネート(PC)、ポリケトン(PK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、またはポリエチレン(PE)のうちの少なくとも1つを含む、[1]~[6]のいずれか1つに記載の型(100)。
【0046】
[8]ポリマー材料が、部品(120)と比較して、前記型(100)の誘電率を高くするように構成された、[1]~[7]のいずれか1つに記載の型(100)。
【0047】
[9]ポリマー材料が、前記型(100)の誘電損失係数を高くするように構成された、[1]~[8]のいずれか1つに記載の型(100)。
【0048】
[10]ポリマー材料が、発泡材料を含む、[1]~[9]のいずれか1つに記載の型(100)。
【0049】
[11]前記型(100)が、ソール型(100)であり、部品(120)が、シューズソール(120)、特に、ミッドソール(120)である、[1]~[10]のいずれか1つに記載の型(100)。
【0050】
[12]電磁場が、30kHz~300GHz、好ましくは1MHz~200MHz、より好ましくは1MHz~50MHz、最も好ましくは25~30MHzの高周波帯域である、[1]~[11]のいずれか1つに記載の型(100)。
【0051】
[13]部品(120)、特に、スポーツ用衣類(120)を製造する方法であって、
a.上記[1]~[12]のいずれか1つに記載の型(100)を用いて部品(120)を成形するステップを含む、方法。
【0052】
[14]b.発泡材料の粒子を含む部品(120)の第1の材料を型(100)に装填するステップと、
c.電磁場によって、第1の材料、型(100)のポリマー材料およびフィラー材料の混合物、および/または型(100)のサセプタを加熱するステップと、
のうちの少なくとも一方をさらに含む、[13]に記載の方法。
【0053】
[15]サセプタが、少なくとも以下の材料:
発泡ポリプロピレン(ePP)、ポリウレタン(PU)、ポリラクチド(PLA)、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)、およびポリエチレンテレフタレート(PET)
のうちの少なくとも1つを含む[13]または[14]に記載の方法。
【0054】
[16]加熱ステップが、粒子の表面を融着するステップを含む、[14]または[15]に記載の方法。
【0055】
[17]部品の粒子が、少なくとも以下の材料:
発泡熱可塑性ポリウレタン(eTPU)、発泡ポリアミド(ePA)、発泡ポリエーテルブロックアミド(ePEBA)、ポリラクチド(PLA)、ポリエーテルブロックアミド(PEBA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、熱可塑性ポリエステルエーテルエラストマ(TPEE)
のうちの少なくとも1つを含む、[14]~[16]のいずれか1つに記載の方法。
【0056】
[18]粒子が、発泡材料を含む、[14]~[17]のいずれか1つに記載の方法。
【0057】
[19]電磁場が、30kHz~300GHz、好ましくは1MHz~200MHz、より好ましくは1MHz~50MHz、最も好ましくは25~30MHzの高周波帯域である、[13]~[18]のいずれか1つに記載の方法。
【0058】
[20]型(100)が、電磁場によって本質的に変化しない第2の材料がさらに装填される、[14]~[19]のいずれか1つに記載の方法。
【0059】
[21][13]~[20]のいずれか1つに記載の方法により製造された部品(120)、特に、スポーツ用衣類(120)。
【0060】
[22]部品(120)が、シューズソール(120)、特に、ミッドソール(120)である、[21]に記載の部品(120)。
【0061】
[23][21]または[22]に記載の部品(120)を備えたシューズ、特に、スポーツ用シューズ。
【0062】
主に衣類、特に、ミッドソール等の緩衝性要素を成形するための型に関して、本発明のさまざまな態様の考え得る実施形態を以下の詳細な説明に記載する。ただし、本発明は、これらの実施形態に限定されない点が強調される。むしろ、スポーツ用品のさまざまな種類の緩衝性要素(たとえば、膝当てまたは肘当て)にも使用可能である。
【0063】
以下においてより詳細に説明できるのは、本発明の個々の実施形態のみである、という事実にもさらに言及する。ただし、当業者であれば、これら特定の実施形態を参照して説明する任意選択的な特徴および考え得る改良もまた、本発明の範囲から逸脱することなく、異なる様態または異なる副組み合わせでのさらなる改良および/または相互組み合わせが可能であることが理解されよう。個々の特徴は、所望の結果を得るのに不可欠ではない場合、省略することも可能である。重複を回避するために上記各項の説明を参照するが、これらは、以下の詳細な説明にも当てはまる。
【0064】
図1は、本発明に係る、ソール型100の驚くべき効果を示している。
【0065】
図1の実施形態は、従来技術のソール型および本発明に係るソール型100(誘電加熱およびその後の冷却によって、シューズソール120、特に、ミッドソール120が2つのソール型の内側に成形される)の熱放射すなわち放熱または温度のシミュレーションの比較を示している。それぞれの放熱の比較は、2つのソール型およびミッドソール120の10分間の冷却後のシミュレーションである。
【0066】
この冷却性能の改善に関する従来技術と本発明との間の型の比較は、誘電加熱現象および熱力学的熱伝導の両者が完全連成マルチフィジックスシミュレーションモデルを特徴とするシミュレーションモデルを用いて生成されたものである。このモデルでは、高周波電界の存在時に型構成の内側に誘導される熱エネルギーの計算に有限要素法を使用する。材料モデルがシューズソール120およびソール型100の部品の誘電特性を表しており、標準的な誘電加熱方程式によって、使用材料と誘導加熱パワーとの相関を偏微分方程式で計算可能である。
【0067】
本発明に係るソール型100は、ポリマー材料およびフィラー材料の混合物を含み、フィラー材料は、電磁場、特に、高周波放射によるソール型100の内側でのミッドソール120の加熱を可能にするように構成されている。
図1に見られるように、ソール型100の熱伝導率を高くするように構成されたフィラー材料は、ソール型100およびミッドソール120の両者について、冷却時間の劇的な短縮を示す。さらに、本発明者らは、熱伝導率を高くしても誘電加熱プロセスには影響が及ばないことを見出した。従来技術のソール型は、ポリエチレンテレフタレート(PET)を含んでおり、熱伝導率が約0.35W/(m・K)である。
【0068】
図1の例示的な実施形態において、本発明のソール型100は、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびフィラー材料としての窒化ホウ素(BN)の混合物を30体積%の量で含んでいるため、熱伝導率が約1.85W/(m・K)である。すなわち、従来のソール型に対して5倍高い値を有する。本発明者らは、このように熱伝導率を高くすることにより、従来のソール型と比較して、冷却時間が大幅に短縮されることを見出した。
【0069】
図1に示す場合において、ソール型100は、下部105a、上部105b、および側部105cを含む。たとえば、ソール型100の下部105aおよび上部105bは、寸法が200×200×10mm
3のプレートであってもよい。ソール型100の他の型形状の他、部品を増やしたり減らしたりすることも考えられる。
【0070】
実験的な調査対象である本発明の別の実施形態において、ソール型は、発泡PETおよびフィラー材料としてのBNの混合物を15体積%の量で含んでおり、これによって、熱伝導率が約0.85W/(m・K)となる。本発明者らは、この実験的な調査対象である実施形態により、前述のような従来のソール型の場合の10分間と比較して、冷却時間が約5.9分になることを見出した。言い換えると、冷却時間は、約41%短くなる。
【0071】
以下の
図2a~
図8bは、対応するポリマー材料およびフィラー材料を含むさまざまなマトリクス材料の誘電特性および熱的特性の解析を示している。
【0072】
ポリオキシメチレン(POM)およびポリエチレンテレフタレート(PET)を含む材料の(相対)誘電率を(ソール型100での使用に適した)20℃~100℃の温度範囲で、約27.12MHzの周波数で測定した値を
図2a~
図2dに示す。
図2aの曲線210(正方形)は、フィラー材料を伴わないPOMの誘電率を示している。ここで、測定誘電率は3.00から3.55まで上昇しており、誘電率の安定した上昇は、ポリマー分子の移動度が高く、電界に対する整列度が高いことに起因していると考えられる。
曲線215(円形)は、曲線210と同じ温度範囲にわたって、POMおよび15体積%の量のフィラー材料としての窒化ホウ素(BN)の混合物の誘電率を示している。誘電率の値は、同じく3.00から3.55まで上昇している。
POMおよび30体積%の量のフィラー材料としてのBNの混合物の誘電率を示す曲線220(三角形)の値にも同じことが当てはまる。
図2bの曲線225(正方形)は、フィラー材料を伴わないPOMの誘電率を示しており、測定誘電率は、
図2aの曲線210に酷似して、同じく3.00から3.55まで上昇している。
曲線230(円形)は、POMおよび15体積%の量のフィラー材料としてのSILATHERM(登録商標)(Al
2O
3およびSiO
2の混合物)の混合物の誘電率を示している。
曲線235(三角形)は、POMおよび30体積%の量のSILATHERM(登録商標)の混合物の誘電率を示している。
ここで、2つのフィラー材料BNおよびSILATHERM(登録商標)について、測定誘電率に対する影響は明確に異なる。一方のBNは、POMの誘電率に大きな影響を及ぼし得ない。したがって、その誘電率はPOMに近いものと仮定できる。他方、SILATHERM(登録商標)を含む場合の誘電率は、フィラー含有量の増大とともに高い値へとシフトしている。傾きは同じままである。これは、SILATHERM(登録商標)の誘電率がPOMより高いものの、調査した温度範囲では安定していることを示唆し得る。安定した上昇は、POMによるものと考えられる。
図2cの曲線240(正方形)は、フィラー材料を伴わないPETの誘電率を示している。PETの誘電率は、温度の上昇とともに2.75から最大3.48まで上昇している。
図2aおよび
図2bのPOMと比較して、全体的な誘電率は調査した温度範囲で低いものの、その勾配は大きい。
曲線245(円形)、250(上向き三角形)、および255(下向き三角形)はそれぞれ、PETならびに10体積%(円形)、20体積%(上向き三角形)、および30体積%(下向き三角形)の量のフィラー材料としてのBNの混合物の誘電率を示している。BNの影響は極めて小さく、
図2aに示すPOMに類似している。
図2dの曲線260(正方形)、265(円形)、270(上向き三角形)、および275(下向き三角形)はそれぞれ、フィラー材料を伴わないPET(正方形)ならびに10体積%(円形)、20体積%(上向き三角形)、および30体積%(下向き三角形)の量のフィラー材料としてのSILATHERM(登録商標)との混合物の誘電率を示している。この場合も同様に、SILATHERM(登録商標)の含有量が増えると、誘電率の値が高くなり得る。
図2bに示すPOMと比較して、SILATHERM(登録商標)が30体積%の場合の最大値は、低くなっている。部品の誘電率が材料の値の影響を受けることから、この結果は、PETの値が低いことによるものと考えられる。
【0073】
本発明に係るフィラー材料としてのBNまたはSILATHERM(登録商標)とともにPOMおよびPETを含む材料の誘電損失係数の(ソール型100での使用に適した)20℃~100℃の温度範囲での値を
図3a~
図3dに示す。
図3aの曲線310(正方形)は、フィラー材料を伴わないPOMの誘電損失係数を示している。ここで、POMは、誘電損失係数の低下が見られる。曲線315(円形)は、曲線310と同じ温度範囲にわたって、POMおよび15体積%の量のフィラー材料としてのBNの混合物の誘電率を示している。曲線320(三角形)の値は、POMおよび30体積%の量のBNの混合物の誘電率を示している。
フィラーを伴わないPOMの誘電損失係数は、20℃で最大38mUと測定され、温度上昇により誘電損失係数は一定の減少を示し、100℃で最小8.6mUとなった。高温による分子の動きの活発化およびその結果としての鎖間相互作用の減少が、このような挙動の原因と考えられる。
図3bにおいて、曲線325(正方形)は、フィラーを伴わないPOMの誘電損失係数を示し、曲線330(円形)は、POMおよび15体積%の量のSILATHERM(登録商標)の混合物の誘電損失係数を示し、曲線335は、POMおよび30体積%の量のフィラー材料としてのSILATHERM(登録商標)の混合物の誘電損失係数を示している。両フィラーについて、フィラー含有量に応じた低い値へのシフトが測定された。ただし、曲線の進み方はわずかに異なる。
図3aにおいて、BNの体積含有量が15体積%または30体積%の場合、20℃での測定損失はそれぞれ、32.5mUおよび27.0mUまで低下し得る。BNの5~10mUの誘電損失係数と組み合わせて体積に応じた損失係数の混合を仮定すると、これらの値は、体積率に応じた値とほぼ一致する。温度上昇の場合、曲線は純粋なPOMの軌跡にゆっくりと近づき、100℃でほぼ同じレベルとなる。これに対して、SILATHERM(登録商標)を使用すると、より低い誘電損失値へと全体的にシフトし得る。これにより、SILATHERM(登録商標)の誘電損失係数は0mUに近くなり得る、という仮定が考えられる。
図3cの曲線340(正方形)は、フィラー材料を伴わないPETの誘電損失係数を示している。曲線345(円形)、350(上向き三角形)、および355(下向き三角形)はそれぞれ、PETならびに10体積%(円形)、20体積%(上向き三角形)、および30体積%(下向き三角形)の量のフィラー材料としてのBNの混合物の誘電損失係数を示している。PETは、誘電損失係数の一貫した上昇が見られる。測定曲線340~355の傾きは、20~70℃の温度範囲でほぼ一定である。温度がさらに高くなると、誘電損失係数の上昇が加速して、フィラーを伴わないPETの誘電損失は、12mU(20℃)から55mU(100℃)まで達する。この場合も同様に、フィラー材料の使用によって、測定値が低下し得る。
図3dの曲線360(正方形)は、フィラー材料を伴わないPETの誘電損失係数を示している。曲線365(円形)、370(上向き三角形)、および375(下向き三角形)はそれぞれ、PETならびに10体積%(円形)、20体積%(上向き三角形)、および30体積%(下向き三角形)の量のフィラー材料としてのSILATHERM(登録商標)の混合物の誘電損失係数を示している。
【0074】
POMもしくはPETならびに本発明に係るフィラー材料を含む材料の貯蔵弾性率を20℃~160℃の温度範囲で調査した値を
図4aおよび
図4bに示す。
曲線410、415、420、425、および430は、POMならびに15体積%もしくは30体積%の量のフィラー材料としてのBNもしくはSILATHERM(登録商標)の混合物の貯蔵弾性率を示している。
曲線435、440、445、450、および460は、PETならびに10体積%もしくは30体積%の量のフィラー材料としてのBNもしくはSILATHERM(登録商標)の混合物の熱膨張を示している。
POMのガラス転移温度は、およそ60℃で測定され得る。このため、調査した温度範囲では、機械的特性が一定の低下を示す。20℃の開始温度では、最大2816N/mm
2が測定された。弾性率は、160℃での最小205N/mm
2まで連続的に低下する。
フィラーの使用により、最大値は上昇する。ただし、曲線の進み方は急峻で、フィラーを伴わないPOMとほぼ同じ最小値となる。貯蔵弾性率の上昇は、フィラー材料のより高い剛性によるものと考えられる。また、フィラーの形状も影響を及ぼす。BNは、その板状構造のため、不規則形状のSILATHERM(登録商標)よりも高い値の貯蔵弾性率となり得る。
【0075】
POMもしくはPETならびに本発明に係るフィラー材料を含む材料の熱膨張を20℃~100℃の温度範囲で調査した値を
図5aおよび
図5bに示す。部品に関する用語「熱膨張(thermal expansion)」は、個々の使用材料およびそれぞれの濃度の値で構成される。また、熱膨張は、適用温度によって決まるため、全温度範囲で一定とはならない。
曲線510、515、520、525、および530は、POMならびに15体積%もしくは30体積%の量のフィラー材料としてのBNもしくはSILATHERM(登録商標)の混合物の熱膨張を示している。
曲線535、540、545、550、および560は、PETならびに10体積%もしくは30体積%の量のフィラー材料としてのBNもしくはSILATHERM(登録商標)の混合物の熱膨張を示している。
一般的に、POMに基づく部品は、PETに基づく部品よりも高い値の熱膨張を示す。フィラーを伴わないPETの場合は、85℃での横ばいおよび120℃での極小を含めて、曲線の進み方が不安定となり得るが、この横ばいは、材料のガラス転移およびその結果としての生成関連応力の緩和によるものと考えられる。ただし、極小は、材料の事後結晶化による可能性が考えられる。PETの結晶化速度は極めて遅いため、射出成形プロセスの冷却後に結晶化が終わっていない可能性もある。これらの影響は、フィラーを伴うPET部品の場合には測定されない。
ただし、両フィラーとも、使用プラスチック材料とは無関係に、熱膨張の低下の原因となり得る。同じ量のフィラーでは、SILATHERM(登録商標)よりもBNで、熱膨張が低くなる。フィラー含有量が増えると、熱膨張はさらに低下する。
さらに、型がアルミニウムプレートに固定される場合もあることから、熱による応力を回避するため、両材料の熱膨張係数を可能な限り近づけるものとする。アルミニウムの熱膨張係数は23.8μm/(m・K)であり、20℃~100℃の温度範囲については、POMの平均熱膨張係数として、141.0μm/(m・K)が測定されている。これは、30体積%のSILATHERM(登録商標)の使用により、91.3μm/(m・K)まで低下し得る。30体積%のフィラー材料としてのBNとの組み合わせにおいては、65.1μm/(m・K)の係数を実現することも可能である。
図5bに示すPETの場合、初期値111.2μm/(m・K)は、30体積%のSILATHERM(登録商標)に対して52.5μm/(m・K)まで低下した。同じ体積のBNでは熱膨張係数が34.3μm/(m・K)となり得るが、これは、アルミニウムの熱膨張係数にかなり近い。このように、熱膨張に関しては、PETおよび30体積%のBNの混合物を含む部品が最良の材料と考えられる。
【0076】
異なるフィラー濃度のフィラー材料としてのBNまたはSILATHERM(登録商標)と組み合わせたPOMおよびPETの熱伝導率の値を
図6a~
図6dに示す。これらの値は、3つの方向X、Y、およびZについて調査したものであり、Xが射出方向、Yが直交面方向、Zが貫通面方向を表す。
図6aは、POMおよびフィラー材料としてのBNの混合物の熱伝導率を示しており、曲線610がX(正方形)、曲線615がY(円形)、曲線620がZ(三角形)を表す。
図6bは、POMおよびフィラー材料としてのSILATHERM(登録商標)の混合物の熱伝導率を示しており、曲線625がX(正方形)、曲線630がY(円形)、曲線635がZ(三角形)を表す。
図6cは、PETおよびフィラー材料としてのBNの混合物の熱伝導率を示しており、曲線640がX(正方形)、曲線645がY(円形)、曲線650がZ(三角形)を表す。
図6dは、PETおよびフィラー材料としてのSILATHERM(登録商標)の混合物の熱伝導率を示しており、曲線655がX(正方形)、曲線660がY(円形)、曲線665がZ(三角形)を表す。
図6a~
図6dの両フィラー材料について、熱伝導率は、フィラー濃度が高くなるにつれて上昇する。板状のBNとの組み合わせにおいては、XおよびY方向の熱伝導率が大幅に上昇する一方、Z方向については、わずかな改善が測定されるのみである。この挙動は、フィラーの配向および形状に応じたフィラーの熱伝導率の組み合わせによるものと考えられる。射出成形プロセスにおいては、板状フィラーがXY平面において多く配向し得るが、これは射出成形プロセスで発生する剪断流動および膨張流動の結果である。また、BNの熱伝導率は、上記平面に沿っては400W/(m・K)である一方、平面貫通方向ではわずか2W/(m・K)である。POMの場合は、X方向で最大3.70W/(m・K)、Z方向で0.76W/(m・K)の値が測定された。PETの場合、X方向の最大2.97W/(m・K)は相対的に低いが、Z方向の最大0.77W/(m・K)は同等である。
不規則な立方体状のSILATHERM(登録商標)との組み合わせにおいて、部品の熱伝導率がより等方的となる。BNとは対照的に、SILATHERM(登録商標)の熱伝導率は、すべてのフィラー方向で等しい。ただし、最大到達値は低い。これは、SILATHERM(登録商標)の熱伝導率が14W/(m・K)と低いことが原因と考えられる。POMのSILATHERM(登録商標)との組み合わせの場合は、最大1.48W/(m・K)が測定された。ただし、PETの場合は、熱伝導率の最高値が1.16W/(m・K)であった。これは、マトリクス材料PETの熱伝導率が比較的低いことによるものと考えられる。
提示の通り、BNを含む部品は、SILATHERM(登録商標)との組み合わせと比較して、熱伝導率の値が高い。これは、フィラーの固有熱伝導率の差によるものと考えられる。
【0077】
次に、改良した型材の使用によるプロセスサイクル時間の改善について調査した。ここでは、フィラーを伴わないPOMおよびPETを型材として使用した。
図7は、加熱および冷却時に溶着発泡体および型の内側で測定された温度を示している。十分な融着に必要な最低温度T
fuseに対して、与えられたすべての温度を表示している。
【0078】
ソール型材としてPOMが用いられる場合(曲線710)、発泡体の最高温度は、Tfuseを18%超える。型のピーク温度は、43%であった。プロセスサイクルは、432秒後に終了する。型材としてPETの場合(曲線720)、発泡体温度のピークは、115%である。型が達する最高温度は、わずか39%である。発泡体の離型温度(曲線730)は、413秒後に達成される。発泡体(曲線710および720)ならびに型(曲線740および750)において達した最高温度は、POMの使用の場合に4%高い。POMの熱伝導率がより高いことから、発泡体温度は、最初に急速に低下し得る。発泡体温度がTfuseの75%に達すると直ちに、両型材の冷却が等しくなる。低温では、PETの場合に冷却が急速となる。これは、PETの場合の発泡体と型との間の温度差が大きいことによるものと考えられる。1サイクルの最大部分が受動冷却により消費され得るようにも見える。フィラーを伴わない型材について、冷却はそれぞれ、393秒(PET)および412秒(POM)を要する。これは、発泡体および型材の熱伝導率が低いことによるものと考えられる。型材とは無関係に、20秒間の加熱は比較的短い。
【0079】
図8aおよび
図8bは、POMまたはPETと併せて、BNの15体積%および30体積%のフィラー濃度の場合を示している。ここで、改良したPOMについて、発泡体および型の内側で測定された温度を
図8aに示している。フィラー含有量の増大とともに、発泡体ピーク温度(曲線810、815、および820)は、わずかに低下する。フィラーを伴わないPOM(曲線810)のT
fuse比118%との比較で、15体積%のBNを伴うPOMおよび30体積%のBNを伴うPOM(曲線815および820)については、113%および111%が測定された。その一方、型の内側の温度は低い(曲線840、845、および850)。熱伝導性フィラーによる誘電損失係数の低下により、型のピーク温度は、T
fuse比で32%および31%(曲線845および850)が得られているものと考えられる。型の熱伝導率の増大および温度低下の組み合わせによって、冷却時間が大幅に短縮され得る。15体積%のBNを伴うPOMの処理時間は、307秒であるが、30体積%のBNの使用によって、251秒までさらに短縮される。これは、サイクル時間の最大29%および40%の短縮を意味し得る。
【0080】
図8bのPETおよび15体積%のBNに対しても、同じ解析を行った。
図8aのPOMの場合の結果と比較して、ピーク温度は、フィラーを伴う型材およびフィラーを伴わない型材(曲線855および860)について類似する。また、PETおよび15体積%のBNの混合物を含む型(曲線870)のピーク温度は、フィラーを伴わない型(曲線865)と比較して4%高い。誘電特性化によれば、両材料の誘電損失係数は酷似しており、同程度の温度発現となる可能性がある。それにも関わらず、熱伝導率の増大によって、発泡体から型材への伝熱が高速となり得る。これによって、熱伝導性型材のピーク温度は、より高くなり得る。熱伝導率の増大のため、発泡体および型の両者がさらに急速に冷却される可能性もある。サイクル時間として313秒が実現され得るが、これは、サイクル時間の20%短縮に等しい。
【0081】
当業者であれば、前述のような他のフィラー材料または混合物も考えられることが理解されよう。たとえば、フィラー材料は、誘電体材料、特に、少なくとも2つの無機材料の混合物、好ましくは、金属窒化物、金属酸化物、金属炭化物、金属硫化物、金属ケイ酸塩、炭化ケイ素、および窒化ケイ素のうちの少なくとも1つ、最も好ましくは窒化ホウ素(BN)、SILATHERM(登録商標)(Al2O3およびSiO2の混合物)、またはSILATHERM(登録商標)Advanceを含んでいてもよい。この代替または追加として、フィラー材料は、炭素材料および無機材料の混合物、炭素繊維、ガラス状炭素、カーボンナノチューブ、カーボンナノバッド、エアログラファイト、直鎖アセチレン炭素、q-炭素、グラフェン、塩、単結晶粉末、多結晶粉末、非晶質粉末、ガラス繊維のうちの少なくとも1つを含む。上述の通り、上記実施形態はすべて、ソール型の内側のミッドソールの誘電加熱ならびにその後のソール型およびミッドソールの冷却による効率的な成形のための最適な特性を実現する、という同じ考えに従う。
【0082】
上記の代替または追加として、本発明に係る独創的な型の使用により、部品、特に、ミッドソール120のようなスポーツ用衣類の異なるエリアにおいて、規定された物理的または機械的特性を得るためのフィラー材料を選定することも可能である。これには、上記異なるエリアにおける異なるレベルの融着ひいてはミッドソール120における等級別の物理的または機械的特性を含んでいてもよい。たとえば、型の異なるエリアにおいて、ポリマー材料およびフィラー材料の異なる混合物が用いられるようになっていてもよい。したがって、このような実施形態は、再現性のある製造プロセスにおいて、等級別ひいては調整済みのミッドソール特性を提供する可能性を開く。
【0083】
以上のまとめとして、本発明に係るソール型を使用すると、最終製品の品質が向上するのみならず、スポーツ用衣類の分野において、特にシューズソールのサイクル時間の短縮等、成形プロセス全体に大きな利益をもたらして、全体的な生産性を向上可能である。
【符号の説明】
【0084】
100 型(ソール型)
105a 下部
105b 上部
105c 側部
120 部品(ミッドソール)