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特許7547404二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造方法及び二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造方法及び二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20240902BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/04 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022020551
(22)【出願日】2022-02-14
(65)【公開番号】P2023117795
(43)【公開日】2023-08-24
【審査請求日】2023-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】林 英輝
(72)【発明者】
【氏名】梅原 将一
(72)【発明者】
【氏名】大代 直人
(72)【発明者】
【氏名】山田 大輝
(72)【発明者】
【氏名】工藤 優輝
(72)【発明者】
【氏名】岸本 尚也
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-176856(JP,A)
【文献】特開2016-225303(JP,A)
【文献】国際公開第2009/113672(WO,A1)
【文献】特開2018-125246(JP,A)
【文献】特開2015-035344(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ回折法で計測した頻度分布におけるメディアン径(d50)である粒子径において、異なる粒子径の絶縁材料の粒子径と圧縮度の関係から、粒子径と圧縮度の関係を示す検量線を作成する絶縁材料検量線作成のステップと、異なる粒子径の結着材の粒子径と圧縮度の関係から、粒子径と圧縮度の関係を示す検量線を作成する結着材検量線作成のステップとを含む検量線作成のステップと、
投入する前記絶縁材料の粒子径を測定する絶縁材料測定のステップと、投入する前記結着材の粒子径を測定する結着材測定のステップとを含む粒子径測定のステップと、
前記絶縁材料測定のステップで測定した粒子径と前記結着材測定のステップで測定した粒子径に基づいて設定した圧縮度となるように前記検量線を参照して最適な混合重量比率を求める混合重量比率決定のステップと、
前記混合重量比率決定のステップで決定した前記混合重量比率で、前記絶縁材料及び前記結着材を混粉する混粉のステップと、
前記混粉のステップで混粉した前記絶縁材料及び前記結着材を粉体投入装置に投入する粉体投入装置投入のステップと
前記粉体投入装置投入ステップで前記粉体投入装置により投入した粉体に溶媒を加えてスラリーを製造するスラリー製造のステップとを備えた二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造方法。
【請求項2】
前記検量線作成のステップは、
前記絶縁材料の粉体の嵩密度を測定する絶縁材料嵩密度測定のステップと、
前記絶縁材料嵩密度測定のステップで測定した前記絶縁材料の粉体の嵩密度に基づいて前記絶縁材料の粉体の圧縮度を算出する絶縁材料圧縮度算出のステップと、
前記絶縁材料の粉体の粒子径と圧縮度から検量線を算出する絶縁材料検量線算出のステップと、
前記結着材の粉体の嵩密度を測定する結着材嵩密度測定のステップと、
前記結着材嵩密度測定のステップで測定した前記結着材の粉体の嵩密度に基づいて前記結着材の粉体の圧縮度を算出する結着材圧縮度算出のステップと、
前記結着材の粉体の粒子径と圧縮度から検量線を算出する結着材検量線算出のステップとを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造方法。
【請求項3】
前記絶縁材料が、ベーマイトであることを特徴とする請求項1又は2に記載の二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造方法。
【請求項4】
前記結着材が、ポリフッ化ビニリデンであることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造方法。
【請求項5】
粉体投入装置は、表面粗さRa=0.02[μm]以下のロート形状の金属製のホッパを備え、前記ホッパの内壁の水平に対する傾斜角θが、60~70[°]の傾きを有し、前記ホッパの底部の排出口の内径Dhが100~200[mm]である場合に、
絶縁材料の粒子の平均粒子径Di(d50)が1.0[μm]以上、3.0[μm]以下であり、結着材の粒子の平均粒子径Db(d50)が、50[μm]以上、150[μm]以下であり、
前記絶縁材料と前記結着材の合計における前記結着材の混合重量比率[w%]が、15[w%]以上の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造方法。
【請求項6】
前記絶縁材料と前記結着材の合計における前記結着材の混合重量比率[w%]が、80[w%]以下の範囲である
ことを特徴とする請求項5に記載の二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造方法。
【請求項7】
前記絶縁材料と前記結着材の合計における前記結着材の混合重量比率[w%]が、25[w%]以下の範囲であることを特徴とする請求項5に記載の二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造方法。
【請求項8】
スラリー混練機と当該スラリー混練機に原料を投入する粉体投入装置と、前記粉体投入装置及び前記スラリー混練機を制御する制御装置を備えた絶縁保護層用スラリーSの製造装置であって、
前記粉体投入装置は、絶縁材料の粉体と、結着材の粉体を投入して均一な混合粉体を生成する粉体混合機と、当該粉体混合機で生成された前記混合粉体を前記スラリー混練機に投入するためのホッパとを備えたことを特徴とする絶縁保護層用スラリーSの製造装置。
【請求項9】
前記ホッパは、金属材料によりロート形状に形成され、内壁が表面粗さRa=0.02[μm]以下とされ、当該内壁の水平に対する傾斜角θが、60~70[°]の傾きを有し、底部の排出口の内径Dhが100~200[mm]であることを特徴とする請求項8に記載の絶縁保護層用スラリーSの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造方法及び二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造装置に係り、詳しくは、スラリーの組成のばらつきが少ない二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造方法及び二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの二次電池は、軽量で高いエネルギー密度が得られることから、車両搭載用の高出力電源等としても好ましく用いられている。このような二次電池では、正極と負極とがセパレータ等で絶縁された構成の蓄電要素が、一つの電池ケース内で積層される。また、円柱状または楕円柱状に積層捲回された捲回電極体を備えている場合がある。一般的にこのような電極体の正極と負極は、負極合材層の幅方向の寸法が正極合材層の幅方向の寸法よりも広くなるように設計されている。負極合材層が、セパレータを介して金属が露出した正極集電体と対向することになる。この場合、通常ではセパレータがあるため短絡を生じない。しかし、負極における金属の析出や、金属微粉などの侵入によりセパレータを貫通し、短絡することで発熱することがある。このような短絡を防止する目的で、正極集電体の表面に、正極活物質層の端部に沿って無機フィラーを含む絶縁保護層を備えることが開示されている。
【0003】
このような二次電池の絶縁保護層は、絶縁材料の粒子と、これを結着する結着材が配合され、これらに溶媒を加え、スラリーとして電極の所定位置に塗工することで形成される。
【0004】
特許文献1に示すように、このような絶縁材料の粒子としては、例えばベーマイトなどの無機セラミックが高い絶縁性のため採用されている。また、セラミックだけでは絶縁保護層が安定しないため、これを結着する結着材としては、例えばPVDF(ポリフッ化ビニリデン)などの樹脂が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-198218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図13は、従来技術のリチウムイオン二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造装置のブロック図である。このような製造装置を用いた従来のスラリー製造方法では、ベーマイトのような絶縁材料I用のホッパ2iと、これを結着するPVDFのような結着材B用のホッパ2bをそれぞれ備えた粉体投入装置101により投入されていた。そして、これらの粉体材料をそれぞれ電磁フィーダなどのコンベア4で送り出し、溶媒Eが添加されてスラリー混練機5でスラリーとされていた。
【0007】
図14は、従来技術のリチウムイオン二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造装置のベーマイト用のホッパ2iの模式図である。従来技術では、ベーマイトのような絶縁材料Iの粉体は、粒子径が小さいため粒子同士が凝集しやすい。そのため、図14に示すように粉体投入装置101のホッパ2iや、配管6iなどで凝集によるブリッジが生じて粉詰りが発生する場合があった。
【0008】
図15は、従来技術のリチウムイオン二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造装置のPVDF用のホッパ2bの模式図である。また従来技術では、結着材BであるPVDF(ポリフッ化ビニリデン)のような樹脂は、静電気を帯びやすく、図3に示すように粉体投入装置101のホッパ2bや配管6bなどに静電気によって付着しやすいという問題があった。
【0009】
このため、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)Bとベーマイトとが規定された混合比率にならず粉体材料の組成にばらつきが出るという問題があった。
本発明の二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造方法及び二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造装置が解決しようとする課題は、二次電池の絶縁保護層用スラリーの組成のばらつきを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造方法では、異なる粒子径の絶縁材料の粒子径と圧縮度の関係から、粒子径と圧縮度の関係を示す検量線を作成する絶縁材料検量線作成のステップと、異なる粒子径の結着材の粒子径と圧縮度の関係から、粒子径と圧縮度の関係を示す検量線を作成する結着材検量線作成のステップとを含む検量線作成のステップと、投入する前記絶縁材料の粒子径を測定する絶縁材料測定のステップと、投入する前記結着材の粒子径を測定する結着材測定のステップとを含む粒子径測定のステップと、前記絶縁材料測定のステップで測定した粒子径と前記結着材測定のステップで測定した粒子径に基づいて設定した圧縮度となるように前記検量線を参照して最適な混合重量比率を求める混合重量比率決定のステップと、前記混合重量比率決定のステップで決定した前記混合重量比率で、前記絶縁材料及び前記結着材を混粉する混粉のステップと、前記混粉のステップで混粉した前記絶縁材料及び前記結着材を粉体投入装置に投入する粉体投入装置投入のステップと前記粉体投入ステップで前記粉体投入装置により投入した粉体に溶媒を加えてスラリーを製造するスラリー製造のステップとを備えた。
【0011】
前記検量線作成のステップは、前記絶縁材料の粉体の嵩密度を測定する絶縁材料嵩密度測定のステップと、前記絶縁材料嵩密度測定のステップで測定した前記絶縁材料の粉体の嵩密度に基づいて前記絶縁材料の粉体の圧縮度を算出する絶縁材料圧縮度算出のステップと、前記絶縁材料の粉体の粒子径と圧縮度から検量線を算出する絶縁材料検量線算出のステップと、前記結着材の粉体の嵩密度を測定する結着材嵩密度測定のステップと、前記結着材嵩密度測定のステップで測定した前記結着材の粉体の嵩密度に基づいて前記結着材の粉体の圧縮度を算出する結着材圧縮度算出のステップと、前記結着材の粉体の粒子径と圧縮度から検量線を算出する結着材検量線算出のステップとを含むことができる。
【0012】
前記絶縁材料が、ベーマイトである場合に好適に実施することができる。また、前記結着材が、ポリフッ化ビニリデンである場合に好適に実施することができる。
前記粉体投入装置は、表面粗さRa=0.02[μm]以下のロート形状の金属製のホッパを備え、前記ホッパの内壁の水平に対する傾斜角θが、60~70[°]の傾きを有し、前記ホッパの底部の排出口の内径Dhが100~200[mm]である場合に、前記絶縁材料の粒子の平均粒子径Di(d50)が1.0[μm]以上、3.0[μm]以下であり、前記結着材の粒子の平均粒子径Db(d50)が、50[μm]以上、150[μm]以下であり、前記絶縁材料と前記結着材の合計における前記結着材の混合重量比率[w%]が、15[w%]以上の範囲であることが望ましい。
【0013】
前記絶縁材料と前記結着材の合計における前記結着材の混合重量比率[w%]が、80[w%]以下の範囲であることも好ましく、前記絶縁材料と前記結着材の合計における前記結着材の混合重量比率[w%]が、25[w%]以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0014】
本発明の二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造装置は、スラリー混練機と当該スラリー混練機に原料を投入する粉体投入装置と、前記粉体投入装置及び前記スラリー混練機を制御する制御装置を備え、前記粉体投入装置は、絶縁材料の粉体と、結着材の粉体を投入して均一な混合粉体を生成し、当該粉体混合機で生成された前記混合粉体を前記スラリー混練機に投入するためのホッパとを備えたことを特徴とする。
【0015】
前記ホッパは、金属材料によりロート形状に形成され、内壁が表面粗さRa=0.02[μm]以下とされ、当該内壁の水平に対する傾斜角θが、60~70[°]の傾きを有し、底部の排出口の内径Dhが100~200[mm]であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造方法及び二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造装置によれば、絶縁保護層用スラリーの組成のばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態のリチウムイオン二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造装置のブロック図である。
図2】本実施形態のリチウムイオン二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造装置のホッパの模式図である。
図3】PVDFの粒子の表面をベーマイトの粒子が覆っている状態を示す模式図である。
図4】本実施形態のリチウムイオン二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造方法のフローチャートである。
図5】本実施形態のリチウムイオン二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造方法の検量線作成の手順のフローチャートである。
図6】PVDFとベーマイトの合計に対するPEVEの混合重量比率と、PEVEの静電付着が生じないコーティングのベーマイトの必要量を示す表である。
図7】PVDFとベーマイトの混合粉体に対する混合重量比率と、PEVEの静電付着が生じないコーティングのベーマイトの必要量を示すグラフである。
図8】PVDFとベーマイトの合計に対するPEVEの混合重量比率と、圧縮度の関係を示す表である。
図9】PVDFとベーマイトの合計に対するPEVEの混合重量比率と、圧縮度の関係を示すグラフである。
図10】PVDFの粒子径とPVDFの圧縮度との関係を示すグラフである。
図11】ベーマイトの粒子径とベーマイトの圧縮度との関係を示すグラフである。
図12】PVDFの粒子径とベーマイトの量との関係を示すグラフである。
図13】従来技術のリチウムイオン二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造装置のブロック図である。
図14】従来技術のリチウムイオン二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造装置のベーマイト用のホッパの模式図である。
図15】従来技術のリチウムイオン二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造装置のPVDF用のホッパの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(本実施形態の概略)
以下、本発明の二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造方法を、リチウムイオン二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造方法により、図1~12を参照して説明する。本実施形態では、二次電池としてリチウムイオン二次電池を、絶縁材料Iとしてベーマイトを、結着材Bとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を一例に説明しているが、これらに限定されるものではない。
【0019】
(本実施形態の原理)
<本実施形態の課題>
従来技術では、図13に示すように絶縁材料Iは単独でホッパ2iに、結着材Bは、単独でホッパ2bにそれぞれ投入されていた。ベーマイトは、粒子径が小さく、凝集しやすい性質がある。このため、図14に示すようにホッパ2i内において凝集して、見かけの大きさが大きくなりブリッジを生じていた。このため、ホッパ2bや配管6bで、その一部がつまりや滞留を生じており、絶縁材料Iの投入量の全量がスラリー混練機5にまで到達しないことがあった。
【0020】
一方、PVDFの粒子の表面は帯電しやすい性質のため、図15に示すように、直接ホッパ2iの内壁に接触し、PVDFがホッパ2iの内壁に静電付着してしまうことがあった。このため、ホッパ2iや配管6iで、その一部がつまりや滞留を生じており、結着材Bの投入量の全量がスラリー混練機5にまで到達しないことがあった。
【0021】
これらの現象はランダムに生じるため、その都度絶縁材料Iと結着材Bとの配合が異なってしまうという問題があった。
<本実施形態の絶縁保護層用スラリーSの製造装置の概略>
図1は、本実施形態のリチウムイオン二次電池の絶縁保護層用スラリーSの製造装置のブロック図である。本実施形態のリチウムイオン二次電池の絶縁保護層用スラリーSの製造装置は、スラリー混練機5に原料を投入する粉体投入装置1と、スラリー混練機5を備える。粉体投入装置1は、絶縁材料Iの粉体と、結着材Bの粉体を投入して均一な混合粉体Mを生成する粉体混合機3を備える。また、ここで形成された混合粉体Mをスラリー混練機5に投入するためのホッパ2を備える。ホッパ2に投入された混合粉体Mは、スラリー混練機5に投入される。スラリー混練機5に投入された混合粉体Mは、有機溶剤などの溶媒Eと混練されて絶縁保護層用スラリーSとなる。本実施形態の絶縁保護層用スラリーSの製造装置は、図示しないコンピュータを備えた制御装置を備え、本実施形態の絶縁保護層用スラリーSの製造方法を実施する。
【0022】
本実施形態では、このような製造装置において、絶縁材料Iの粉体と結着材Bの粉体を所定の混合重量比率[w%]で混合し混合粉体Mを生成する。そして、この所定の混合重量比率[w%]の混合粉体Mをホッパ2に投入する点に特徴がある。
【0023】
<本実施形態の主な作用・効果>
図3は、本実施形態の結着材BであるPVDFの粒子の表面を絶縁材料Iのベーマイトの粒子が覆っている状態を示す模式図である。本実施形態では、ホッパ2に投入する前に、粉体混合機3により絶縁材料Iの粉体と、結着材Bの粉体が、予め混合され混合粉体Mとされる。このような混合の結果、混合粉体Mでは、比較的粒子径の小さい絶縁材料Iが、比較的粒子径の大きな結着材Bに表面を静電気により過不足なく覆うように付着している。このため、結着材Bにおいては、その表面がホッパ2の内面に静電付着することを抑制することができた。
【0024】
一方、粒子径の小さい絶縁材料Iは、結着材Bの表面に付着することで分散し、凝集することを抑制することができた。
本実施形態の場合、ホッパ2を共通のものとし、混合粉体Mは静電付着をしにくく、凝集によるブロック化も抑制されているため、円滑にスラリー混練機5の絶縁材料Iと結着材Bの全量をもれなく円滑に投入することができる。そのため、リチウムイオン二次電池の絶縁保護層用スラリーSの組成のばらつきを抑制することができる。
【0025】
以下、本実施形態のリチウムイオン二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造方法を詳細に説明する。
<絶縁保護層用スラリーSの製造装置>
絶縁保護層用スラリーSの製造装置は、粉体投入装置1とスラリー混練機5を備える。粉体投入装置1は、粉体混合機3、ホッパ2を備える。以下それぞれについて詳細に説明する。
【0026】
<粉体混合機3>
粉体混合機3は、絶縁材料Iの粉体と、結着材Bの粉体を投入して均一な混合粉体Mを生成する。粉体混合機3は、上部に大きな材料投入用の開口部31と下部を閉止する底面32と、円筒形の側面33を備えた平面視円形の装置である。中心には攪拌用の攪拌羽根34を回転させる垂直な駆動軸35を備え、駆動部36により回転し、内部の粉体を攪拌する。粉体混合機3は例示したものには限定されず、攪拌羽根34に替えてスクリューなどで攪拌するようなものでもよい。さらに駆動軸が水平あるいは斜めの円筒形ドラムを備え容器自体が回転するようなものでもよい。
【0027】
図示を省略するが、底面32に設けられた排出口を備え、混合した混合粉体Mをホッパ2に投入する。また、全体を傾動させて混合粉体Mをホッパ2に投入するようにしてもよい。
【0028】
<ホッパ2>
図2は、本実施形態のリチウムイオン二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造装置のホッパ2の模式図である。ホッパ2は、粉体混合機3で混合して生成した混合粉体Mをスラリー混練機5に投入する。上部22は開口部21を備えた円筒形で、ここから連続する下部23は、テーパ状に狭くなった中空逆円錐台の形状となっている。下端には円形の排出口24が開口している。
【0029】
ホッパ2は、例えばSUS304などのステンレススチールから形成され、表面粗さRa=0.02[μm]以下となっている。表面粗さRa=0.02[μm]を超える場合は、混合粉体Mとの滑りが悪くなるため望ましくないが、既存の設備の場合は、数値範囲外でも使用は可能である。
【0030】
ホッパ2の、下部23の内壁の水平に対する傾斜角θが、60~70[°]の傾きを有している。また、ホッパ2の底部の排出口24の内径Dhが100~200[mm]である。これらも既存の設備の場合は、数値範囲外でも使用は可能である。
【0031】
<配管6>
ホッパ2の底部の排出口24には、同じ内径の配管6を備えることができる。
<スラリー混練機5>
スラリー混練機5は、ホッパ2に投入された混合粉体Mを受け入れるとともに、有機溶剤などの溶媒Eと混練して絶縁保護層用スラリーSを製造する。混合粉体Mと溶媒が均質に混錬されれば特に混錬機の形式については制限がない。
【0032】
<絶縁材料I>
絶縁材料Iとしては、絶縁性、耐熱性が高く、安価で品質が安定しており、均一な粒子が望まれる。
【0033】
絶縁材料Iとしては、無機セラミック、例えばシリカ(SiO)、アルミナ(Al)、チタニア(TiO)、チタン酸リチウム(LiTi12)、ジルコニア(ZrO)もしくはチタン酸バリウム(BaTiO)等の酸化物、又はベーマイト(Al・3HO)等の水酸化物等が挙げられる。
【0034】
特に、アルミナ(Al)、チタン酸リチウム(LiTi12)、チタン酸バリウム(BaTiO)、又はベーマイト(Al・3HO)が好ましい。本実施形態では、絶縁材料Iとしてベーマイトを例示しているが、これに限定されるものではない。
【0035】
本実施形態の絶縁材料Iの粒子の平均粒子径Di(d50)は、例えば1.0[μm]以上、3.0[μm]以下である。絶縁材料Iの平均粒子径Di(d50)は、比較的小さいため、凝集が生じやすいものとなっている。本実施形態では、このような凝集しやすい絶縁材料Iの凝集を抑制する。ここで、本願において「粒子径」若しくは「平均粒子径」は、特にことわりが無い限りレーザ回折法で計測した頻度分布におけるメディアン径(d50)をいう。
【0036】
絶縁材料Iは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
<結着材B>
結着材B(バインダ)は、絶縁材料Iの粒子を安定して結着するものである。結着材Bでは、絶縁性、耐熱性が高く、安価で品質が安定しており、均一な粒子が望まれる。
【0037】
本実施形態では、結着材Bとしてポリフッ化ビニリデン(以下「PVDF」と略記する場合がある。)を例示した。PVDFのような樹脂は、結着力が強い。その反面、帯電しやすく、粉体投入装置1のホッパ2や配管6などに静電気によって付着しやすいという問題があった。本実施形態では、結着材Bの帯電に起因する問題を解決する。
【0038】
なお、結着材BはPVDFに限定されず、同様に帯電しやすい結着材Bとしては、カルボメチルセルロース(CMC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などが例示できる。
【0039】
さらに、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、四フッ化エチレン(PTFE)などが挙げられる。このような結着材Bにおいても、本実施形態の発明を適用できる。
【0040】
本実施形態の結着材BであるPVDFの粒子の平均粒子径Db(d50)が、例えば、50[μm]以上、150[μm]以下である。このように、結着材Bの平均粒子径Db(d50)は、絶縁材料Iの粒子の平均粒子径Di(d50)の1.0[μm]以上、3.0[μm]以下と比較すると大きなものとなっている。
【0041】
<混合粉体M>
混合粉体Mは、絶縁材料Iの粉体と、結着材Bの粉体が、粉体混合機3により均質に混合されたものである。
【0042】
なお、絶縁材料Iと結着材B以外にも、例えば、分散剤や増粘剤を添加することができるが、本実施形態の説明においては、便宜上他の成分の説明は省略し、混合粉体Mは、絶縁材料Iと結着材Bが混合重量比率[w%]で配合されたものとして説明する。
【0043】
<混合粉体Mの配合>
本実施形態の混合粉体M、すなわち絶縁材料Iと結着材Bの合計における絶縁材料Iの混合重量比率[w%]が、15[w%]以上の範囲とされている。
【0044】
一方、絶縁材料Iと結着材Bの合計における絶縁材料Iの混合重量比率[w%]が、80[w%]以下の範囲である。望ましくは、絶縁材料Iと結着材Bの合計における絶縁材料Iの混合重量比率[w%]が、25[w%]以下の範囲である。
【0045】
<絶縁保護層の機能>
本実施形態の目的は、リチウムイオン二次電池の絶縁保護層を形成するために最適な絶縁保護層用スラリーの製造方法である。絶縁保護層の機能は、極板間に存在する金属粉などの異物や、極板に析出した金属などが、セパレータを貫通し、微小短絡を生じることを抑制することにある。そのため絶縁保護層には、高い絶縁性能と、高い機械的強度が求められる。このような観点からベーマイトのような材料が好適に使用することができる。このため、絶縁保護層には、十分な絶縁材料Iが含まれることが前提である。
【0046】
よって、本実施形態における混合粉体Mにおける絶縁材料Iであるベーマイトの混合重量比率[w%]は、より高いことが望まれる。
<絶縁保護層の安定化>
そもそも、絶縁材料Iの粒子に結着材Bを添加するのは、形成する絶縁保護層の安定化のためである。この観点からは、本実施形態の結着材BであるPVDFの混合重量比率[w%]は、15[w%]以上であることが望まれる。PVDFの混合重量比率[w%]は、15[w%]未満であると、形成した絶縁保護層から絶縁材料Iであるベーマイトの脱落が生じやすくなる。
【0047】
他方、PVDFの混合重量比率[w%]は、25[w%]以上とすると、絶縁材料Iであるベーマイトの混合重量比率[w%]が相対的に低下してしまう。また、スラリーの塗工時に粘度が高すぎて、均一に塗工することが困難になる。
【0048】
<静電付着抑制のためのベーマイトの必要量>
図6は、PVDFとベーマイトの合計に対するPEVEの混合重量比率[w%]と、PEVEの静電付着が生じないコーティングのベーマイトの必要量を示す表である。
【0049】
本実施形態の結着材BであるPVDFと、絶縁材料Iであるベーマイトについて、図3に示すように絶縁材料Iの粒子が、結着材Bの粒子を被覆するのに必要な量を求める。図6に示すように、すべて100%がベーマイトで、PVDFが0%であれば、このPVDFの表面をコーティングするベーマイトの必要量は、当然に混合粉体Mの0[w%]である。PVDFが10%となると、このPVDFの表面をコーティングするためのベーマイトの量は、混合粉体Mの2.54[w%]となるが、ベーマイトは混合粉体Mの90[w%]含まれているので、十分な量が確保されている。このように見ていくと、PVDFが70%となると、このPVDFの表面をコーティングするためのベーマイトの量は、混合粉体Mの17.75[w%]となるが、ベーマイトは混合粉体Mの30[w%]含まれているので、まだ十分な量が確保されている。また、PVDFが80%となると、このPVDFの表面をコーティングするためのベーマイトの量は、混合粉体Mの20.29[w%]となる。この場合ベーマイトは混合粉体Mの20[w%]含まれているので、静電付着を効果的に抑制するには、ほぼ十分な量が確保されている。そして、PVDFが90%となると、このPVDFの表面をコーティングするためのベーマイトの量は、混合粉体Mの22.82[w%]となる。しかしながら、ベーマイトは混合粉体Mの10[w%]しか含まれていないので、ベーマイトによりPVDFの表面をコーティングするための量が確保できない。
【0050】
このように、図6に示す表から、絶縁材料Iと結着材Bの合計における結着材Bの混合重量比率[w%]が、80[w%]以下の範囲であることが好ましいことがわかる。言い換えると、ベーマイトは、混合粉体Mの20[w%]以上が好ましい。
【0051】
図7は、PVDFとベーマイトの混合粉体に対する混合重量比率と、PEVEの静電付着が生じないコーティングのベーマイトの必要量を示すグラフL2である。グラフL2は混合重量比率[w%]を示しグラフL2は、そのときのPVDFをコーティングするのに必要なベーマイトの必要量を示している。図7は、図6に示す関係をグラフとしたものである。ここからもわかるように、PEVEが静電付着が生じないコーティングをするためには、ベーマイトの必要量は、混合粉体Mの20[w%]以上であることが確認できる。
【0052】
よって、本実施形態において静電付着の抑制の観点からは、混合粉体Mにおけるベーマイトは、20[w%]以上が好ましい。
<圧縮度C>
図10は、PVDFの粒子径Db[μm]とPVDFの圧縮度Cとの関係を示すグラフである。図11は、ベーマイトの粒子径とベーマイトの圧縮度C[%]との関係を示すグラフである。
【0053】
ここで、「圧縮度C[%]」とは、「ρtapped」を「固め嵩密度」とし、「ρbulk」を「緩め嵩密度」としたとき、圧縮度C[%]={(ρtapped-ρbulk)/ρtapped}×100で定義される。圧縮度C[%]の考え方としては、粉体の粒子径が小さいほど、固め嵩密度ρtapped(押し固められた時の密度)が小さくなる。つまり、粒子径が小さいほど、圧縮度C[%]が高くなる。また、圧縮度C[%]が高くなると流動性が悪くなる。
【0054】
<混合重量比率[%]と圧縮度C[%]>
図12は、PVDFの粒子径Db[μm]とベーマイトの量との関係を示すグラフである。前述のとおり、ベーマイトの粒子径Di[μm]は、PVDFの粒子径Db[μm]より小さい。そうすると、粒子径Db[μm]が小さいほど、圧縮度C[%]が高くなることから、粒子径Di[μm]の小さいベーマイトの量が多くなるほど、圧縮度C[%]が高くなる。図12に示すように、ベーマイトの粒子径Di[μm]が同一だと仮定する。このとき、混合粉体Mの圧縮度C[%]を一定に維持するためのベーマイトの混合重量比率[%]を考える。そうすると、PVDFの粒子径Db[μm]が小さいときは、ベーマイトの混合重量比率[%]は、比較的多いが、PVDFの粒子径Db[μm]が大きいときは、ベーマイトの混合重量比率[%]は、比較的小さくなることがわかる。つまり、PVDFの粒子径Db[μm]が変化しても、ベーマイトの混合重量比率[%]を変化させることで、設定した圧縮度C[%]にすることができる。
【0055】
<本実施形態の混合粉体Mの圧縮度C[%]の調整>
図8は、本実施形態のPVDFとベーマイトの合計である混合粉体Mに対するPEVEの混合重量比率[w%]と、圧縮度C[%]の関係を示す表である。また、図9は、PVDFとベーマイトの合計に対するPEVEの混合重量比率[w%]と、圧縮度C[%]の関係を示すグラフL3である。
【0056】
まず、PVDFが0%、すなわちベーマイトにPVDFを添加していない場合の圧縮比[%]は、ベーマイト自体の圧縮度C[%]となり、本実施形態では、53.1[%]であった。この状態では、ベーマイトの圧縮度C[%]が高すぎて、凝集を生じ、流動性が悪化する。このため、従来技術の問題点でも述べたとおり、ホッパ2や配管6において凝集を原因とするブリッジが生じ、円滑に混合粉体Mをスラリー混練機5に全量を投入することができない。
【0057】
一方、参考のためPVDFが100%、すなわちすべてがPVDFで、ベーマイトが存在しない場合の圧縮比[%]は、PVDF自体の圧縮度C[%]となり、本実施形態では、9.7[%]であった。この状態では、混合粉体Mの圧縮度C[%]が低く凝集が生じにくい。このため、流動性のみを考えると問題はないが、もちろん絶縁材料Iであるベーマイトが含まれていないので、絶縁保護層を形成することができない。
【0058】
ここで、ホッパ2や配管6において凝集を原因とするブリッジが生じない圧縮度C[%]は、本発明者らの研究により本実施形態では、47[%]程度であることがわかっている。
【0059】
そこで次に、PVDFが10[w%]とした場合は、圧縮度C[%]は、48.8[%]となり、圧縮度C[%]は改善されたが、まだこの状態では、混合粉体Mの圧縮度C[%]が高すぎて、凝集を生じ、流動性が悪化する。
【0060】
さらにPVDFが15[w%]とした場合は、圧縮度C[%]は、46.6[%]となり、目標とする圧縮度C[%]=47[%]を下回った。この状態であれば、混合粉体Mの圧縮度C[%]が十分低下し、凝集を原因とするブリッジの発生を抑制し、流動性が悪化することを有効に抑制することができる。
【0061】
したがって、図9に示すように、混合粉体Mは、PVDFが15[w%]以上、ベーマイトが85[w%]未満であれば、圧縮度C[%]の観点から好ましいことがわかる。
<絶縁保護層用スラリーの製造方法>
図4は、本実施形態のリチウムイオン二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造方法のフローチャートである。以下、図4を参照して本実施形態のリチウムイオン二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造方法について説明する。
【0062】
絶縁保護層用スラリーの製造方法は、検量線作成のステップ(S1)、粒子径測定のステップ(S2)、混合重量比率決定のステップ(S3)、混粉のステップ(S4)、粉体投入装置投入のステップ(S5)、スラリー製造のステップ(S6)とからなる。
【0063】
<検量線作成のステップ(S1)>
検量線作成のステップ(S1)では、異なる粒子径[μm]の絶縁材料Iの粒子径[μm]と圧縮度C[%]の関係から、粒子径[μm]と圧縮度C[%]の関係を示す検量線を作成する絶縁材料検量線作成のステップを含む。また、異なる粒子径[μm]の結着材Bの粒子径[μm]と圧縮度C[%]の関係から、粒子径[μm]と圧縮度C[%]の関係を示す検量線を作成する結着材検量線作成のステップとを含む検量線作成のステップと含む。
【0064】
ここで「検量線」とは、予め実験により測定したデータから導いた異なる粒子径[μm]と、これに対応する圧縮度C[%]の関係を示すグラフである。このため、粒子径[μm]を測定することで、検量線を参照することでその粉体の圧縮度C[%]を推定することができるものである。
【0065】
<検量線作成のステップ(S1)の詳細>
図5は、本実施形態のリチウムイオン二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造方法の検量線作成の手順のフローチャートである。本実施形態の検量線作成のステップ(S1)は、以下のような手順を含む。
【0066】
嵩密度測定のステップ(S11)と、圧縮度算出のステップ(S12)と、これらが完了した後に行う検量線算出のステップ(S14)である。
<嵩密度測定のステップ(S11)>
嵩密度測定のステップ(S11)は、さらに、絶縁材料Iの粉体の嵩密度を測定する絶縁材料嵩密度測定のステップと、結着材Bの粉体の嵩密度を測定する結着材嵩密度測定のステップとを含む。手順としては、測定する対象が異なるだけであるので、まとめて説明する。
【0067】
ここで、「嵩密度ρ」とは、見かけの体積における密度[g/cm]である。また、「緩み嵩密度ρ bulk(Aerated Bulk Density)」と、「固め嵩密度ρ tapped(Packed Bulk Density)」とがある。「緩み嵩密度ρ bulk」は粗充填密度ともいい、軽く充填した時で空間率(Void)又は空隙率(Porosity)が大きい方の値である。「固め嵩密度ρ tapped」は密充填密度ともいわれ、最も密に充填した時で空間率(Void)又は空隙率(Porosity)が小さい方の値である。測定方法は、対象となる粉体の質量[g]と体積[cm]をそれぞれ測定し、質量[g]を体積[cm]で除する。
【0068】
絶縁材料Iの粉体の嵩密度ρを測定する絶縁材料嵩密度測定のステップでは、絶縁材料Iの粉体の質量[g]を体積[cm]で除して「絶縁材料嵩密度ρi」を測定する。結着材Bの粉体の嵩密度ρを測定する結着材嵩密度測定のステップでは、結着材Bの粉体の質量[g]を体積[cm]で除して「結着材嵩密度ρb」を測定する。
【0069】
<圧縮度算出のステップ(S12)>
圧縮度算出のステップ(S12)は、絶縁材料圧縮度算出のステップと結着材圧縮度算出のステップとを備える。絶縁材料圧縮度算出のステップと結着材圧縮度算出のステップは手順としては、算出する対象が異なるだけであるので、まとめて説明する。
【0070】
「絶縁材料圧縮度算出のステップ」では、「嵩密度測定のステップ(S11)」で測定した絶縁材料Iの粉体の嵩密度ρiに基づいて絶縁材料Iの粉体の圧縮度C[%]を算出する。
【0071】
前述のとおり、「圧縮度C[%]」は、「ρtapped」を「固め嵩密度」とし、「ρbulk」を「緩め嵩密度」としたとき、「圧縮度C[%]={(ρtapped-ρbulk)/ρtapped}×100」で算出できる。
【0072】
「結着材圧縮度算出のステップ」も同様な手順で行い、「結着材圧縮度」を算出する。
<異なる粒子径での測定>
嵩密度測定のステップ(S11)と、圧縮度算出のステップ(S12)とは、上述したような手順で行う。このステップの目的は、異なる粒子径の絶縁材料Iと圧縮度C[%]の関係及び、異なる粒子径の結着材Bと圧縮度C[%]の関係をそれぞれ取得するための手順である。そのため、これらの「粒子径[μm]」と、「圧縮度C[%]」の組み合わせをグラフ上にプロットして、「粒子径[μm]」と、「圧縮度C[%]」の関係を解析する必要がある。そのため嵩密度測定のステップ(S11)と、圧縮度算出のステップ(S12)は、それぞれ異なる粒子径[μm]を3回以上測定する必要がある。
【0073】
そこで、ステップ(S13)では、これらの測定が3回以上であるか否かを判断し、3回未満であれば(S13:NO)、嵩密度測定のステップ(S11)に戻り、異なる粒子径[μm]で測定する。また、3回以上であれば(S13:YES)、検量線算出のステップ(S14)に進む。
【0074】
<検量線算出のステップ(S14)>
検量線算出のステップ(S14)では、「絶縁材料検量線算出のステップ」と「結着材検量線算出のステップ」とを含む。「絶縁材料検量線算出のステップ」は、絶縁材料Iの粉体の粒子径[μm]と圧縮度C[%]から検量線を算出する。「結着材検量線算出のステップ」は、結着材Bの粉体の粒子径[μm]と圧縮度C[%]から検量線を算出する。
【0075】
「絶縁材料検量線算出のステップ」と「結着材検量線算出のステップ」は、対象が異なるだけでその手順は同じであるのでまとめて説明する。
「絶縁材料検量線算出のステップ」では、嵩密度測定のステップ(S11)と、圧縮度算出のステップ(S12)において、それぞれ異なる粒子径[μm]を3回以上測定した。検量線算出のステップ(S14)は、異なる粒子径の絶縁材料Iと圧縮度C[%]の関係及び、異なる粒子径の結着材Bと圧縮度C[%]の関係をそれぞれ取得するための手順である。そのため、嵩密度測定のステップ(S11)と、圧縮度算出のステップ(S12)において測定した「粒子径[μm]」と、「圧縮度C[%]」の組み合わせをグラフ上にプロットする。このようにグラフ上にプロットした「粒子径[μm]」と、「圧縮度C[%]」の関係を示す複数の点に基づいて、これらのプロットした点を通るようなグラフを作成する。3点であればグラフは、2次曲線として生成する。なお、プロット点は2点でもよく2点であれば一次関数とする。また、プロット点を多数取ったときには、回帰分析により最小二乗法などで関係を特定する。これらの関係は、図示しないコンピュータに記憶する。
【0076】
以上のような手順で、「絶縁材料検量線」と「結着材検量線」を導き出す。「絶縁材料検量線」を用いることで、絶縁材料Iの粒子径Di[μm](d50)を測定すれば、直ちに絶縁材料Iの圧縮度C[%]が分かる。同様に「結着材検量線」を用いることで、結着材Bの粒子径Db[μm](d50)を測定すれば、直ちに結着材Bの圧縮度C[%]が分かる。
【0077】
<粒子径測定のステップ(S2)>
粒子径測定のステップ(S2)は、投入する絶縁材料Iの粒子径Di(d50)を測定する「絶縁材料測定のステップ」と、投入する結着材Bの粒子径Db(d50)を測定する「結着材測定のステップ」とを含む。
【0078】
「絶縁材料測定のステップ」と、「結着材測定のステップ」とは、測定する対象が異なるだけでその手順は共通するため、まとめて説明する。
投入する絶縁材料Iの粒子の平均粒子径Di及び結着材Bの平均粒子径Dbは、いずれも、レーザ回析法により求めた平均メディアン径である。
【0079】
<混合重量比率決定のステップ(S3)>
混合重量比率決定のステップ(S3)では、粒子径測定のステップ(S2)で求めた、絶縁材料Iの粒子の平均粒子径Di及び結着材Bの平均粒子径Dbを、圧縮度C[%]に換算する。圧縮度C[%]への換算は、検量線算出のステップ(S14)で算出した「絶縁材料検量線」と「結着材検量線」を参照して行う。
【0080】
絶縁材料Iと結着材Bの圧縮度C[%]から混合粉体Mの圧縮度C[%]が設定した圧縮度C[%]となるように、絶縁材料Iと結着材Bの混合重量比率[w%]を決定する。ここでは、例えば図9に示したように、算出したIと結着材Bの圧縮度C[%]に基づいて結着材Bが0[%]から100[%]の場合の混合粉体Mの圧縮度C[%]を示すグラフL3を作成する。そして、ブリッジが発生しないとされる圧縮度C[%]以下の圧縮度C[%]となるように、混合粉体Mの絶縁材料Iと結着材Bの混合重量比率[w%]を決定する。
【0081】
<混粉のステップ(S4)>
混粉のステップ(S4)では、混合重量比率決定のステップ(S3)で決定した絶縁材料Iと結着材Bの混合重量比率[w%]で、絶縁材料I及び結着材Bを図1に示す粉体混合機3に開口部31から投入して混粉する。このときは、溶媒を加えない乾燥した状態で混粉する。粉体混合機3では、駆動部36により駆動軸35が回転され、攪拌羽根34により、絶縁材料I及び結着材Bが均質になるように混粉される。
【0082】
<粉体投入装置投入のステップ(S5)>
粉体投入装置投入のステップ(S5)では、混粉のステップ(S4)で絶縁材料I及び結着材Bを混粉して均一となった混合粉体Mを粉体投入装置1のホッパ2に投入する。投入は、粉体混合機3の底面32に設けられた排出口(不図示)を開放して重力により落下させる。粉体混合機3を傾動させてもよい。さらに、空気圧によりポンプで吸引してホッパ2に投入してもよい。この場合でも、混合粉体Mは、凝集にせず静電付着もしないため、円滑にホッパ2に投入することができる。
【0083】
なお、さらに円滑な投入のため、粉体混合機3や配管6をバイブレータなどで振動させてもよい。また、中途で電磁フィーダなどで搬送してもよい。
<スラリー製造のステップ(S6)>
図1に示すように、ホッパ2に投入した混合粉体Mは、配管6を介して、スラリー混練機5に投入される。スラリー製造のステップ(S6)では、スラリー混練機5により、混合粉体Mに溶媒Eを加えて混錬して絶縁保護層用スラリーSを製造する。
【0084】
(実施形態の作用)
本実施形態では、ホッパ2に投入する前に、粉体混合機3により絶縁材料Iの粉体と、結着材Bの粉体が、予め混合され混合粉体Mとされる。このような混合の結果、混合粉体Mでは、比較的粒子径の小さい絶縁材料Iが、比較的粒子径の大きな結着材Bに表面を過不足なく覆うように付着している。このため、結着材Bにおいては、その表面が静電付着することを抑制することができた。
【0085】
一方、粒子径の小さい絶縁材料Iは、結着材Bの表面に付着することで分散し、凝集することを抑制することができた。
本実施形態の場合、ホッパ2を共通のものとし、混合粉体Mは静電付着をしにくく、凝集によるブロック化も抑制されているため、円滑にスラリー混練機5の絶縁材料Iと結着材Bの全量をもれなく円滑に投入することができる。そのため、リチウムイオン二次電池の絶縁保護層用スラリーSの組成のばらつきを抑制することができる。
【0086】
(実施形態の効果)
(1)本実施形態のリチウムイオン二次電池の絶縁保護層用スラリーの製造方法によれば、絶縁保護層用スラリーSの組成のばらつきを抑制することができる。
【0087】
(2)混粉により、帯電しやすい絶縁材料Iの表面を帯電しにくい結着材Bを吸着させてコーティングすることで、混合粉体Mが静電気よるホッパ2や配管6への付着することを抑制することができる。
【0088】
(3)混粉により粒子径の小さい絶縁材料Iを帯電しやすい結着材Bの表面に付着させることで分散させ、絶縁材料Iが凝集することを抑制することができる。
(4)最適な比率で混粉することで最適化された混合粉体Mは、圧縮度C[%]を下げることができ、粉の流動性を担保できる。
【0089】
(5)粉体投入装置1のホッパ2は、表面粗さRa=0.02[μm]以下のロート形状の金属製であり、ホッパ2の内壁の水平に対する傾斜角θが、60~70[°]の傾きを有し、底部の排出口の内径Dhを100~200[mm]とした。
【0090】
そのため、混合粉体Mはホッパ2に対して、付着することなく円滑に滑り落ちることで、その全量をスラリー混練機5に投入することができる。
(6)絶縁材料Iと結着材Bを混粉することで混合粉体Mとしたため、ホッパ2を単一で共通のものとすることができる。そのため、複数のホッパを備える必要が無く、複数のホッパ間を搬送する設備も不要となる。
【0091】
(7)絶縁材料Iと結着材Bの合計における結着材Bの混合重量比率[w%]を15[w%]以上とした。そのため、絶縁材料Iの剥離や脱落を有効に抑制することができる。
(8)絶縁材料Iと結着材Bの合計における結着材Bの混合重量比率[w%]を15[w%]以上とした。そのため、絶縁材料Iの凝集を抑制し、絶縁材料Iのホッパ2におけるブリッジの発生を効果的に抑制することができる。
【0092】
(9)絶縁材料Iと結着材Bの合計における前記結着材Bの混合重量比率[w%]を80[w%]以下とした。そのため、結着材Bの表面を絶縁材料Iで被覆し、静電付着を効果的に抑制することができる。
【0093】
(10)絶縁材料Iと結着材Bの合計における結着材Bの混合重量比率[w%]を25[w%]以下とした。このため、絶縁保護層の絶縁性を高めるとともに、金属などの侵入を効果的に抑制することができる。
【0094】
(11)検量線作成のステップ(S1)では、絶縁材料検量線作成のステップと結着材検量線作成のステップとを含む検量線作成のステップを含む。絶縁材料検量線作成のステップは、異なる粒子径Diと圧縮度C[%]の関係を示す検量線を作成する。結着材検量線作成のステップは、異なる粒子径と圧縮度C[%]の関係を示す検量線を作成する。このため、絶縁材料検量線L5と結着材検量線L4を参照すれば、投入しようとする絶縁材料Iと結着材Bの粒子径を測定することで、これらの圧縮度C[%]を取得することができる。
【0095】
(12)検量線作成のステップ(S1)では、嵩密度測定のステップ(S11)と圧縮度算出のステップ(S12)を備える。これらを繰り返し行うことで、絶縁材料検量線L5と結着材検量線L4を作成することができる。
【0096】
(別例)
○本実施形態では、二次電池の例としてリチウムイオン二次電池を例示して説明したが、本発明はリチウムイオン二次電池に限定されるものではなく、本発明が実施できる限り絶縁保護層を有した他の二次電池でも実施することができる。
【0097】
○本実施形態では、絶縁材料Iとしてベーマイトを例示して説明したが、アルミナ等他のIに置き換えて実施できる。また、結着材BとしてPVDFを例示して説明したが、他の帯電しやすい樹脂などを結着材Bとして実施することができる。
【0098】
○本実施形態で例示したホッパ2は、好ましい一例であり、既存のホッパを利用することができる。この場合、当業者は、当該ホッパに適合させるため、求められる圧縮度C[%]などを最適化して実施できることは言うまでもない。
【0099】
○本実施形態で示した数値、範囲は例示であり、当業者において最適化できる。
図4図5に示すフローチャートは一例であり、当業者により、その手順を付加し、削除し、変更し、順序を入れ替えて実施できる。
【0100】
○本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で、当業者によりその構成を付加し、削除し、変更して実施できる。
【符号の説明】
【0101】
1、101…粉体投入装置
2…ホッパ
2i…絶縁材料用ホッパ
2b…結着材用ホッパ
21…開口部
22…上部
23…下部
24…排出口
3…粉体混合機
31…開口部
32…底面
33…側面
34…攪拌羽根
35…駆動軸
36…駆動部
4…コンベア
5…スラリー混練機
6、6i、6b…配管
I…絶縁材料(ベーマイト)
B…結着材(ポリフッ化ビニリデン(PVDF))
M…混合粉体
E…溶媒
S…(絶縁保護層用)スラリー
ρ…嵩密度
L1~L6…グラフ
θ…傾斜角(ホッパの内壁の水平に対する)
Dh…(ホッパの底部の排出口の)内径
Di(d50)…(絶縁材料の)平均粒子径
Db(d50)…(結着材の)平均粒子径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15