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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】安定なタンパク質組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20240902BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240902BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240902BHJP
   A61M 37/00 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
A61K38/17
A61K47/68
A61K47/10
A61M37/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022182235
(22)【出願日】2022-11-15
(62)【分割の表示】P 2021038817の分割
【原出願日】2016-10-14
(65)【公開番号】P2023025046
(43)【公開日】2023-02-21
【審査請求日】2022-12-12
(31)【優先権主張番号】62/242,412
(32)【優先日】2015-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】チェン ハンター
(72)【発明者】
【氏名】シュレジンジャー エリカ
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-098742(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0376342(US,A1)
【文献】特表2009-540001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 39/00-39-44
A61K 47/00-47/69
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
25mg/mL~150mg/mLの、ポリエチレングリコール(PEG)を含む沈殿剤賦形剤、
100mg/mL~1400mg/mLのVEGF受容体-Fc融合タンパク質であって、該タンパク質の50%未満が液相に存在し、該タンパク質の残部が固相に存在する、VEGF受容体-Fc融合タンパク質、及び
前記固相における前記VEGF受容体-Fc融合タンパク質の拡散を防止し、前記液相におけるVEGF受容体-Fc融合タンパク質の拡散を許容する半透膜であって、前記液相中のVEGF受容体-Fc融合タンパク質が、前記半透膜の内側から、外側水性環境へ拡散される、半透膜
を含む、二相性医薬製剤であって、
該二相性医薬製剤から放出されるときに、前記液相における前記VEGF受容体-Fc融合タンパク質の少なくとも80%が、ヒトの生理的温度で少なくとも30日間、元の立体構造、構造、または機能にある、
前記二相性医薬製剤。
【請求項2】
前記液相における前記VEGF受容体-Fc融合タンパク質が前記半透膜を通して前記外側水性環境へ拡散するにつれて、前記固相における前記VEGF受容体-Fc融合タンパク質が可溶化される、請求項1に記載の二相性医薬製剤。
【請求項3】
PEGの濃度が、25mg/mL~95mg/mLである、請求項1に記載の二相性医薬製剤。
【請求項4】
前記VEGF受容体-Fc融合タンパク質の濃度が、100mg/mL~500mg/mLである、請求項1に記載の二相性医薬製剤。
【請求項5】
前記液相におけるVEGF受容体-Fc融合タンパク質が、0.05mg/mL~50mg/mLのVEGF受容体-Fc融合タンパク質を含む、請求項1に記載の二相性医薬製剤。
【請求項6】
前記VEGF受容体-Fc融合タンパク質が、アフリベルセプトである、請求項1に記載の二相性医薬製剤。
【請求項7】
サイズ排除クロマトグラフィによって決定すると、ヒトの生理的温度で60日目に前記液相中の前記VEGF受容体-Fc融合タンパク質の少なくとも85%が元の分子量を有する、請求項1に記載の二相性医薬製剤。
【請求項8】
前記液相中の前記VEGF受容体-Fc融合タンパク質が、PEGを有さないかまたは閉鎖二相系内の、同等濃度の液相中のVEGF受容体-Fc融合タンパク質より安定である、請求項1に記載の二相性医薬製剤。
【請求項9】
前記外側水性環境が生理的環境である、請求項1に記載の二相性医薬製剤。
【請求項10】
a.VEGF受容体-Fc融合タンパク質溶解性を50mg/ml未満かつ0.5mg/ml超に制限する濃度の、ポリエチレングリコール(PEG)を含む沈殿剤賦形剤、
b.100mg/mL~1400mg/mLのVEGF受容体-Fc融合タンパク質であって、前記VEGF受容体-Fc融合タンパク質の70%未満が液相に存在し、前記VEGF受容体-Fc融合タンパク質の残部が固相に存在する、VEGF受容体-Fc融合タンパク質、及び
c.前記固相において前記VEGF受容体-Fc融合タンパク質の拡散を防止し、前記液相においてVEGF受容体-Fc融合タンパク質の拡散を許容する半透膜であって、前記液相中のVEGF受容体-Fc融合タンパク質が、前記半透膜の内側から、外側水性環境へ拡散される、半透膜
を含む、二相性医薬VEGF受容体-Fc融合タンパク質製剤。
【請求項11】
前記PEGが、完全に可溶性であり、液相にのみ存在し、かつ前記固相中の前記VEGF受容体-Fc融合タンパク質より低い濃度で前記液相中に存在する、請求項10に記載の製剤。
【請求項12】
構成成分薬物を必要とする患者の治療に使用するための二相性医薬製剤であって、
a.25mg/mL~150mg/mLの、ポリエチレングリコール(PEG)を含む沈殿剤賦形剤、
b.100mg/mL~1400mg/mLの構成成分薬物であって、該二相性医薬製剤の構成成分薬物の総量の50%未満が液相に存在し、前記構成成分薬物の残部が固相に存在する、構成成分薬物、及び
c.前記固相における前記構成成分薬物の拡散を防止し、前記液相における構成成分薬物の拡散を許容する半透膜であって、前記液相中の構成成分薬物が、前記半透膜の内側から、外側水性環境へ拡散される、半透膜;
を含み、
前記構成成分薬物はVEGF受容体-Fc融合タンパク質を含み、該二相性医薬製剤から放出されるときに、前記液相における前記VEGF受容体-Fc融合タンパク質の少なくとも80%が、ヒトの生理的温度で少なくとも30日間、元の立体構造、構造、または機能にある、
前記二相性医薬製剤。
【請求項13】
前記液相中のVEGF受容体-Fc融合タンパク質が、前記半透膜の内側から、より低い濃度のVEGF受容体-Fc融合タンパク質を有する外側水性環境へ拡散される、請求項12に記載の二相性医薬製剤。
【請求項14】
前記製剤が硝子体内に埋め込まれ、VEGF受容体-Fc融合タンパク質が眼内に放出される、請求項12に記載の二相性医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本発明は概して、長期間にわたって安定なタンパク質を作製する組成物及び方法に関する。本発明は、具体的には、治療用タンパク質の持続放出のために、生理的温度で安定した状態を保つ治療用タンパク質製剤を作製する組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
生物学的に関連する標的への治療用タンパク質の持続放出送達は、癌、循環器疾患、血管症状、整形外科的障害、歯の障害、創傷、自己免疫疾患、胃腸障害、及び眼疾患などの医学的状態の治療に望ましい。制御された長期の薬物送達のための生体適合性かつ生分解性のポリマー及び他の埋め込み型送達デバイスが、何十年も使用されている。例えば、あるポリマーベースの送達デバイスでは、ポリマーが経時的に分解するにつれて、治療薬が緩徐に放出される。
【0003】
持続放出は、患者コンプライアンスに望ましい場合がある。特に、とりわけ、眼内治療薬の場合など、医師が注射することが必要とされる場合には、注射の回数を低減させることが有益であり得る。可能な限り少ない注射で時間をかけて薬物を有効に送達するための持続放出製剤に対する医学的必要性は満たされていない。他の疾患、例えば、癌及び炎症の疾患の場合は、安定で有効なタンパク質治療薬を含有する、向上した埋め込み型持続放出製剤に対する必要性が存在する。
【0004】
抗体及び受容体Fc融合タンパク質などの治療用巨大分子は、その分子が患者への投与に適したものになるようにするだけでなく、保管中及び投与部位に存在する間にそれらの安定性を維持するように製剤化されなければならない。例えば、溶液中の治療用タンパク質(例えば、抗体)は、その溶液が適切に製剤化されていなければ、分解、凝集、及び/または望ましくない化学修飾を生じやすい。液体製剤中のタンパク質治療薬の安定性は、製剤に使用される賦形剤の種類、ならびに互いに対するこれらの賦形剤の量及び割合だけでなく、可溶性タンパク質の濃度にも依存する。治療用タンパク質製剤を調製するときには、安定性以外の考慮事項も考慮に入れなければならない。かかる追加的な考慮事項の例として、溶液の粘度及び所与の製剤に含まれ得る抗体の濃度が挙げられる。よって、持続放出のための治療用タンパク質を製剤化するときには、保管及び生理的温度で経時的に安定した状態を保ち、適正な濃度の抗体を含有し、かつ製剤を患者に好都合に投与できるようにする他の特性を有する製剤に達するために、細心の注意を払わなければならない。
【0005】
小分子の製剤はPEGを使用することができるが、含まれるタンパク質が大きくなると、PEGは沈殿を引き起こすことが知られている。PEGは、タンパク質を沈殿させて、精製、濃縮、及び緩衝剤の交換を容易にするために使用される。PEGは、生物物理学的解析のためにタンパク質を結晶化させるためにも使用される。PEGはまた、タンパク質を撹拌ストレスから保護するための賦形剤として少量(例えば、一般に3%w/v以下)で使用される。PEGによるタンパク質の沈殿は、タンパク質を凝集させること及びタンパク質の機能に有害であることも知られている。
【発明の概要】
【0006】
概要
一態様では、本発明は、少なくとも25mg/mLのポリエチレングリコール(PEG)及び少なくとも100mg/mLのタンパク質を含有する二相性医薬製剤であって、50mg/mL未満のタンパク質が可溶性相に存在し、タンパク質の残部が不溶性相に存在する、二相性医薬製剤を提供する。可溶性相及び不溶性相の両方のタンパク質は、生理的温度で少なくとも30日間安定であり、可溶性相のタンパク質は、より低い濃度のタンパク質を有する環境にアクセスできる。一実施形態では、半透膜または他の多孔質構造体によって、タンパク質が該環境にアクセスできる。
【0007】
一態様では、本発明は、少なくとも25mg/mLのポリエチレングリコール(PEG)及び0.1mg/mL~1400mg/mLまたはそれ以上のタンパク質を含有する二相性医薬製剤であって、タンパク質の総量の50%未満が可溶性相に存在し、タンパク質の残部が不溶性相に存在する、二相性医薬製剤を提供する。可溶性相及び不溶性相の両方のタンパク質は、生理的温度で少なくとも30日間安定であり、可溶性相のタンパク質は、より低い濃度のタンパク質を有する環境にアクセスできる。一実施形態では、半透膜または他の多孔質構造体によって、タンパク質が該環境にアクセスできる。
【0008】
一態様では、本発明は、生理的温度で長期間にわたって安定した状態を保つ薬物を長期送達するための薬物送達デバイスを提供する。本発明の薬物送達デバイスは、安定な二相性医薬製剤、該安定な二相性医薬製剤を含有するリザーバチャンバ、該リザーバチャンバを包含する筐体、及び薬物が該リザーバチャンバから外部の水性環境に拡散することを可能にする、該筐体内の半透膜または他の多孔質構造体を含む。この態様では、安定な二相性医薬製剤は、少なくとも25mg/mLのポリエチレングリコール(PEG)、薬物である0.1mg/mL~1,400mg/mLまたはそれ以上のタンパク質を含有し、可溶性相が、タンパク質の50%未満及びある量の前記PEGを含有し、不溶性相が、可溶性相の中にないタンパク質の残量を含有する。本発明のこの態様では、可溶性相及び不溶性相におけるタンパク質は、生理的温度で少なくとも30日間安定である。
【0009】
一態様では、本発明は、医薬用タンパク質の持続放出をもたらす方法を提供する。この態様によれば、タンパク質とポリエチレングリコール(PEG)とを、タンパク質の最終濃度が少なくとも100mg/mL、かつPEGの最終濃度が少なくとも50mg/mLになるように組み合わせて、二相性混合物を形成する。一実施形態では、タンパク質の最終濃度が総量当たりのタンパク質の質量で表されるように、タンパク質は固体でPEGと組み合わされる。二相性混合物は、不溶性形態及び可溶性形態のタンパク質を含有する。一実施形態では、タンパク質の総量の50%未満が、ある量のPEGと共に可溶性形態である。この態様によれば、可溶性タンパク質は、より低い濃度のタンパク質を有する外側環境にアクセスできる。一実施形態では、半透膜または他の多孔質構造体によって、タンパク質が外側環境にアクセスできるようになる。経時的に、タンパク質は半透膜または他の多孔質構造体を通して周囲の水性環境内に拡散し、二相性混合物中のタンパク質の全体的な濃度は最終的に100mg/mLより下に低下する。しかし、不溶性相が枯渇して可溶性相のタンパク質の濃度が溶解限度を下回るまで、可溶性相は一定の所定のタンパク質濃度を有することとなる。可溶性相における所定のタンパク質濃度は、PEGの存在下でのタンパク質の溶解性及びリザーバ内のPEGの濃度に基づく。
【0010】
一態様では、本発明は、構成成分薬物を必要とする患者の治療に使用するための二相性医薬製剤を提供する。本発明はまた、二相性医薬製剤を患者に投与することによって、構成成分薬物を必要とする患者を治療する方法を提供する。一実施形態では、二相性医薬製剤は、患者に埋め込まれたリザーバデバイス内に含有される。一実施形態では、二相性医薬製剤は、少なくとも25mg/mLのPEG、及びタンパク質である少なくとも100mg/mLの構成成分薬物を含有する。薬物の50%未満が、ある量のPEGと共に可溶性相に存在する。薬物の残部が不溶性相に存在する。可溶性薬物は、半透膜または他の多孔質構造体を通して、より低い濃度の薬物(例えば、デバイスの外側の患者組織または水性流体)を有する環境にアクセスでき、患者内のその標的に拡散する。リザーバデバイスに含有される二相性医薬製剤の幾つかの実施形態では、可溶性薬物は、半透膜などの出入口を通して該環境にアクセスできる。薬物は、この態様によれば、生理的条件下で少なくとも30日間安定であり、薬物が二相性医薬製剤から拡散するにつれ、製剤中の薬物の量は、その当初濃度未満に低下する。
[本発明1001]
a.少なくとも25mg/mLのポリエチレングリコール(PEG)、
b.少なくとも100mg/mLのタンパク質、
c.前記タンパク質の50%未満を含む、可溶性相、及び
d.前記PEGによって前記可溶性相から除かれた前記タンパク質を含む、不溶性相
を含む、二相性医薬製剤であって、
前記タンパク質が、生理的温度で少なくとも30日間安定であり、
前記可溶性相が、半透膜を通してより低い濃度の前記タンパク質を有する環境にアクセスできる、
前記二相性医薬製剤。
[本発明1002]
前記タンパク質が、100mg/mL~1400mg/mLのタンパク質である、本発明1001の二相性医薬製剤。
[本発明1003]
PEGの濃度が、25mg/mL~150mg/mLである、本発明1001または1002の二相性医薬組成物。
[本発明1004]
前記タンパク質の濃度が、100mg/mL~500mg/mLである、本発明1001または1002の二相性医薬組成物。
[本発明1005]
前記可溶性相が、約0.05mg/mL~約50mg/mLの前記タンパク質を含む、本発明1001または1002の二相性医薬組成物。
[本発明1006]
前記タンパク質が、約25kD~約160kDの分子量を有する、本発明1001または1002の二相性医薬組成物。
[本発明1007]
前記タンパク質が、受容体-Fc融合タンパク質、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、Fab断片、一本鎖可変断片(scFv)、及びナノボディからなる群より選択される、本発明1001または1002の二相性医薬組成物。
[本発明1008]
前記可溶性相中の前記タンパク質が、生理的温度で少なくとも60日間安定である、本発明1001または1002の二相性医薬組成物。
[本発明1009]
サイズ排除クロマトグラフィによって決定すると、生理的温度で60日目に前記可溶性相中の前記タンパク質の少なくとも約85%が元の分子量を有する、本発明1001または1002の二相性医薬組成物。
[本発明1010]
前記可溶性相中の前記タンパク質が、PEGを有さないかまたは閉鎖二相系内の、同等濃度の可溶性タンパク質より安定である、本発明1001または1002の二相性医薬組成物。
[本発明1011]
多孔質構造体を有するリザーバデバイス内に含有される、本発明1001または1002の二相性医薬組成物。
[本発明1012]
前記リザーバデバイスが、約5μl~約25μlの容量を有する、本発明1011の二相性医薬組成物。
[本発明1013]
前記リザーバデバイスが、約0.1mg~約5mgの前記タンパク質を含有する、本発明1012の二相性医薬組成物。
[本発明1014]
前記リザーバデバイスが、約25μl~約150μlの容量を有する、本発明1011の二相性医薬組成物。
[本発明1015]
前記リザーバデバイスが、約5mg~約180mgの前記タンパク質を含有する、本発明1014の二相性医薬組成物。
[本発明1016]
前記環境が生理的環境である、本発明1001または1002の二相性医薬組成物。
[本発明1017]
a.i.少なくとも25mg/mLのポリエチレングリコール(PEG)、
ii.100mg/mL~1400mg/mLのタンパク質、
iii.前記タンパク質の50%未満を含む、可溶性相、及び
iv.前記可溶性相の中にない前記タンパク質を含む、不溶性相
を含む、安定な二相性医薬製剤、
b.前記安定な二相性医薬製剤を含有する、リザーバチャンバ、
c.前記リザーバチャンバを包含する、筐体、ならびに
d.前記可溶性相がより低い濃度の前記タンパク質を有する環境にアクセスすることを可能にする、前記筐体内の多孔質構造体
を含む、生理的温度で長期間にわたって安定した状態を保つ薬物を長期送達するための薬物送達デバイスであって、
前記可溶性相中の前記タンパク質が、生理的温度で少なくとも30日間安定である、
前記薬物送達デバイス。
[本発明1018]
前記筐体がポリマーを含む、本発明1017の薬物送達デバイス。
[本発明1019]
前記多孔質構造体が、1つまたは複数のミクロ細孔またはナノ細孔を含む、本発明1017または1018の薬物送達デバイス。
[本発明1020]
約10μl~約25μlの容量を有する、本発明1017の薬物送達デバイス。
[本発明1021]
前記リザーバチャンバが、約0.1mg~約5mgの前記タンパク質を含有する、本発明1020の薬物送達デバイス。
[本発明1022]
前記リザーバデバイスが、約25μl~約150μlの容量を有する、本発明1017の薬物送達デバイス。
[本発明1023]
前記リザーバデバイスが、約5mg~約180mgの前記タンパク質を含有する、本発明1022の薬物送達デバイス。
[本発明1024]
二相性混合物を形成するために、医薬用タンパク質とポリエチレングリコール(PEG)とを、前記タンパク質の最終濃度が少なくとも100mg/mL、かつ前記PEGの最終濃度が少なくとも25mg/mLになるように組み合わせることを含む、医薬用タンパク質の持続放出をもたらす方法であって、
前記タンパク質が、前記二相性混合物中に可溶性形態及び不溶性形態で存在し、
前記タンパク質の50%以下が可溶性形態である、
前記方法。
[本発明1025]
前記タンパク質が、約25kD~約160kDの分子量を有する、本発明1024の方法。
[本発明1026]
前記タンパク質が、受容体-Fc融合タンパク質、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、Fab断片、一本鎖可変断片(scFv)、及びナノボディからなる群より選択される、本発明1025の方法。
[本発明1027]
0.05mg/mL~50mg/mLの前記タンパク質が可溶性形態である、本発明1020~1022のいずれかの方法。
[本発明1028]
前記PEGの前記最終濃度が、約30mg/mL、約65mg/mL、約80mg/mL、または約150mg/mLである、本発明1024の方法。
[本発明1029]
a.タンパク質溶解性を50mg/ml未満かつ0.5mg/ml超に制限する濃度のポリエチレングリコール(PEG)、
b.少なくとも100~1400mg/mLのタンパク質、
c.前記タンパク質の70%未満を含む、可溶性相、及び
d.前記可溶性相の中にない前記タンパク質を含む、不溶性相
を含む、二相性医薬製剤であって、
前記タンパク質が、前記二相性製剤から放出される際に生理的温度で少なくとも30日間安定であり、
可溶性タンパク質が、半透膜を通して拡散することができる、
前記二相性医薬製剤。
[本発明1030]
前記PEGが、完全に可溶性であり、可溶性相にのみ存在し、かつ前記不溶性相中の前記タンパク質より低い濃度で前記可溶性相中に存在する、本発明1029の製剤。
[本発明1031]
a.少なくとも25mg/mLのポリエチレングリコール(PEG)、
b.少なくとも100mg/mLの構成成分薬物、
c.50mg/mL未満の前記構成成分薬物を含む、可溶性相、及び
d.前記可溶性相の中にない前記構成成分薬物を含む、不溶性相
を含む、前記構成成分薬物を必要とする患者の治療に使用するための二相性医薬製剤であって、
前記構成成分薬物がタンパク質であり、前記可溶性相が生理温度で少なくとも30日間安定であり、前記可溶性相が、多孔質構造体を通して、より低い濃度の前記タンパク質を有する前記患者内の環境にアクセスできる、
前記二相性医薬製剤。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】様々な賦形剤が可溶性タンパク質濃度に及ぼす効果を示す線グラフである。X軸は、賦形剤の濃度を1ミリリットル当たりのミリグラム(mg/mL)で示す。白抜きの四角(□)はデキストラン6000の賦形剤を表し、白抜きの菱形(◇)はデキストラン40000の賦形剤を表し、黒塗りの菱形(◆)は分子量3,350のポリエチレングリコール(PEG3350)の賦形剤を表し、黒塗りの四角(■)はPEG8000の賦形剤を表し、黒塗りの三角(▲)はPEG20000の賦形剤を表す。Y軸は、タンパク質濃度(mg/mL)の対数を示す。
図2】ポリエチレングリコール濃度(mg/mL)(X軸)が、タンパク質溶解性(mg/mLで表す)(Y軸)に及ぼす効果を示す線グラフである。
図3】様々な分子量の形態のPEG賦形剤が可溶性タンパク質濃度に及ぼす効果を示す線グラフである。X軸は、賦形剤濃度を1ミリリットル当たりのミリグラム(mg/mL)で示す。実線はPEG3350の賦形剤を表し、点線はPEG8000の賦形剤を表し、破線はPEG20000の賦形剤を表す。Y軸は、タンパク質濃度(mg/mL)の対数を示す。
図4】80mg/mLの様々な分子量形態のPEGの存在下における4.5mg/mLの水溶液濃度(総濃度30mg/ml)での二相性タンパク質の安定性を、リン酸緩衝食塩水(pH7.2)中37℃でのインキュベーション時間の関数として示す線グラフである。実線はPEG3350の賦形剤を表し、破線はPEG8000の賦形剤を表し、点線はPEG20000の賦形剤を表す。X軸は、週単位のインキュベーション時間を示す。Y軸は、元の立体構造を有するタンパク質の相対的割合(%)を示す(予想される流体力学半径)。
図5】様々な量のPEG3350の存在下での可溶性タンパク質の安定性を、37℃でのインキュベーション時間の関数として示す線グラフである。実線及びべた塗りの四角(■)は、4.5mg/mLのタンパク質を有する、PEGを含まない対照を表し、実線及びべた塗りの丸(●)は、10mg/mLのタンパク質を有する、PEGを含まない対照を表し、破線及びべた塗りの三角(▲)は80mg/mLのPEG3350及び4.5mg/mLの可溶性タンパク質を表し、破線及びべた塗りの四角(■)は65mg/mLのPEG3350及び10mg/mLの可溶性タンパク質を表す。X軸は、週単位のインキュベーション時間を示す。Y軸は、元の立体構造を有するタンパク質の相対的割合(%)を示す(予想される流体力学半径)。
図6A】PEG3350の存在下での単相性可溶性タンパク質及び二相性可溶性タンパク質の安定性を、37℃でのインキュベーション時間の関数として示す線グラフである。べた塗りの四角(■)を有するデータ点は、4.5mg/mLのタンパク質を有するPEGを含まない対照試料を表し、べた塗りの三角(▲)を有するデータ点は4.5mg/mLの濃度における単相性可溶性タンパク質及び約80mg/mLにおけるPEG3350を表し、べた塗りの丸(●)を有するデータ点は、4.5mg/mLの濃度における二相性可溶性タンパク質、約80mg/mLにおけるPEG3350、及び25.5mg/mLの二相不溶性タンパク質を表す。X軸は、週単位のインキュベーション時間を示す。Y軸は、元の立体構造を有するタンパク質の相対的割合(%)を示す(予想される流体力学半径)。
図6B】PEG3350の存在下での単相性可溶性タンパク質及び二相性可溶性タンパク質の安定性を、37℃でのインキュベーション時間の関数として示す線グラフである。べた塗りの丸(●)を有するデータ点は、10mg/mLのタンパク質を有するPEGを含まない対照試料を表し、べた塗りの四角(■)を有するデータ点は10mg/mLの濃度における単相性可溶性タンパク質及び約65mg/mLにおけるPEG3350を表し、べた塗りの菱形(◆)を有するデータ点は、10mg/mLの濃度における二相性可溶性タンパク質、約65mg/mLにおけるPEG3350、及び20mg/mLの二相不溶性タンパク質を表す。X軸は、週単位のインキュベーション時間を示す。Y軸は、元の立体構造を有するタンパク質の相対的割合(%)を示す(予想される流体力学半径)。
図7】150mg/mlのPEG3350の存在下での不溶性タンパク質の安定性を、37℃でのインキュベーション時間の関数として示す線グラフである。150mg/mLのPEG3350の存在下での30mg/mLの不溶性タンパク質を、黒塗りの菱形(◆)を有する短い破線で表す。150mg/mLのPEG3350の存在下での60mg/mLの不溶性タンパク質を、黒塗りの四角(■)を有する実線で表す。150mg/mLのPEG3350の存在下での120mg/mLの不溶性タンパク質を、黒塗りの三角(▲)を有する点線で表す。X軸は、週単位のインキュベーション時間を示す。Y軸は、高分子量を有するタンパク質の、総タンパク質に対する割合(%)を示す。37℃での2週間のインキュベーション後に、不溶性タンパク質は完全に回収できず、正確なレベルの凝集体を判断できなかった。
図8】タンパク質凝集の速度及び高分子量種の形成に及ぼすタンパク質濃度の効果及び予想効果を示す線グラフである。X軸は、タンパク質濃度をmg/mLで示す。Y軸は、週当たりの高分子量種形成の変化の割合(%)を示す。
図9】二相性製剤を含有するリザーバチャンバを囲む(包含する)外側筐体を含む、リザーバデバイスの概略図である。筐体は、リザーバから薬物を放出させる出入口を含有する。
図10】アフリベルセプト(VEGFトラップ)の溶解性(mg/mlで表す)を、PEG3350の濃度の関数として示す。白抜きの丸(〇)は、固体(乾燥)アフリベルセプト(スクロースを含む)に乾燥PEGを加え、後で水和させた、再構成したものの溶解性を表す。黒塗りの丸(●)は、スクロースを含まない、PEG及びアフリベルセプト液体製剤の溶解性を表す。
図11】アフリベルセプトの溶解性(log(mg/ml)で表す)を、PEG3350の濃度の関数として示す図である。四角(□)は、後で水和させた、乾燥アフリベルセプト(スクロースを含む)に乾燥PEGを加えた組み合わせを表す。菱形(◇)は、スクロースを含まない、PEG溶液とアフリベルセプト溶液との組み合わせを表す。
図12】アフリベルセプトの放出速度(1日に多孔質構造体の表面積1平方ミリメートル当たりに放出されるミリグラムで表す)を、可溶性アフリベルセプトの濃度の関数として示す図である。
図13】アフリベルセプトの放出速度(1日に1mg/mlの可溶性アフリベルセプト当たりに放出されるミリグラムで表す)を、多孔質構造体の表面積の関数として示す図である。
図14A】アフリベルセプトの累積放出(ミリグラムで表す)(菱形[◇])、及びアフリベルセプトの安定性(サイズ排除クロマトグラフィによって決定される元の立体構造の割合(%)として表す)(四角[□])を、生理的温度及びpHでの時間の関数として示す図である。パネルAは、100(±3)mg/mlのPEG3350(n=2)の結果を示す。
図14B】アフリベルセプトの累積放出(ミリグラムで表す)(菱形[◇])、及びアフリベルセプトの安定性(サイズ排除クロマトグラフィによって決定される元の立体構造の割合(%)として表す)(四角[□])を、生理的温度及びpHでの時間の関数として示す図である。パネルBは、70(±3)mg/mlのPEG3350(n=4)の結果を示す。
図15】放出されたアフリベルセプトの安定性を、時間の関数として示す図である。X軸は、生理的温度での時間を日数で示す。Y軸は、試料中に残存する元のアフリベルセプトの相対量を示す(純度パーセント)。黒塗りの三角(▲)は、80mg/mL±20mg/mLのPEG3350を含有する製剤から放出されたアフリベルセプトを表す。黒塗りの丸(●)は、スクロースのみ(PEGを含まない)を含有する製剤から放出されたアフリベルセプトを表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
本発明は、記載する特定の方法及び実験条件に限定されない。かかる方法及び条件は多様であり得るからである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって定められるので、本明細書に使用される用語は、特定の実施形態を記載することのみを目的としており、限定を意図するものではないことも理解されるべきである。
【0013】
別様に定義しない限り、本明細書に使用されるすべての技術及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者に通常理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと同様なまたは等価な任意の方法及び材料を本発明の実践または試験において使用することができるが、ここでは特定の方法及び材料を記載する。言及されるすべての刊行物は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0014】
二相系
タンパク質バイオ治療薬を高濃度で製剤化することは、バイオ医薬品業界にとって大きな課題を生み出す。高濃度(例えば、50mg/mL超)のタンパク質は、不安定になりがちであり、凝集速度が増加する傾向がある。これは、高レベルの薬物が必要とされる持続放出製剤ではとりわけ問題となる。持続放出製剤は、生理的環境で長期間にわたって薬物を放出するように設計されるので、薬物はこうした長期間を通して安定かつ生物学的に活性でなければならない。
【0015】
本発明は、液体飽和可溶性形態のタンパク質と平衡状態にある固体沈殿物形態の安定なタンパク質を提供するために、ポリエチレングリコール(PEG)とタンパク質とを組み合わせることを含み、ここでは、可溶性相は、より低い濃度のタンパク質を有する環境にアクセスできる(すなわち、系は開放系であって、閉鎖系ではない)。いずれの機序にも制限されるものではないが、理論的には、タンパク質は両方の相において安定であり、不溶性相中のタンパク質は可溶性相に送り込まれ、それは次に半透膜を通したタンパク質の拡散を駆動する。タンパク質の安定性は、リザーバの外に拡散するタンパク質を指している。ある態様では、開放二相系は、半透膜または他の多孔質構造体にPEGを優先的に保持させながら、タンパク質を拡散させる。
【0016】
開放系のある例は、可溶性形態のタンパク質を外側環境にアクセスできるようにし、可溶性形態のタンパク質を経時的に放出させる多孔質壁を有するデバイスである。幾つかの実施形態では、可溶性相は、半透膜または他の多孔質構造体などの出入口を通して環境にアクセスできる。本発明の半透膜は、それを通して水及びタンパク質を自由に通過させることができる。幾つかの実施形態では、半透膜は、ナノ細孔及び/またはミクロ細孔を含む。幾つかの実施形態では、半透膜は、ナノ多孔質及び/またはミクロ多孔質ポリマーフィルムである。
【0017】
幾つかの実施形態では、PEGの最終濃度は25mg/mL以上である。幾つかの実施形態では、非溶解形態及び溶解形態のタンパク質の濃度は100mg/mL以上である。幾つかの実施形態では、タンパク質は、凍結乾燥タンパク質または噴霧乾燥タンパク質などの固体形態でPEGと組み合わされる。
【0018】
本発明は、安定な薬物の長期送達のための二相系を含む。二相とは、薬物が2つの相、すなわち、不溶性(沈殿した)相すなわち固相、及び可溶性相すなわち液相に存在することを意味する。不溶性相は、薬物リザーバとしての機能を果たし、可溶性相は、生理的系内に拡散し、生理的標的に接触する、活性型の薬物として機能する。バイアル内のような閉鎖二相系では、可溶性相は、沈殿物と平衡状態にある薬物の飽和溶液である。しかし、開放二相系では、外側水性環境にアクセスできる可溶性薬物が飽和可溶性相から拡散するにつれて、沈殿した薬物の一部が可溶化し、飽和可溶性相に入って、環境内に拡散された可溶性薬物に置き換わる。沈殿相中のタンパク質は緩徐に可溶化して飽和相との平衡状態を維持する。すなわち、沈殿相は可溶性相を補充し、可溶性相は生理的系内に拡散して薬物標的に関与する(式1)。沈殿剤賦形剤(すなわち、PEG)の濃度を制御することによって、飽和可溶性相中の薬物の可溶性濃度が制御される。
【0019】
一実施形態では、二相系は、標的の生理的環境内に埋め込まれる。例えば、薬物標的組織が、網膜、黄斑、または他の内部眼構造である場合には、二相系を硝子体液中に送達することができる。他の標的の場合、系を、皮下、真皮下、または腹腔内に埋め込むことができる。
【0020】
二相系は、部分的に障壁内に包囲される。部分的に包囲されるとは、障壁が二相系から可溶化薬物を拡散させることを意味する。障壁は、薬物二相系の外に拡散させ、標的に接触させるが、沈殿剤賦形剤が急速に外に拡散するのを防止する。障壁は、特定の速度で薬物を放出させるように設計し、調整することができる。例えば、障壁は、薬物が通過できる細孔を含有する膜であってもよい。細孔の数及び/もしくはサイズまたは構造だけでなく、半透膜または他の多孔質構造体の全体面積も、薬物の放出速度を調節するために設計することができる。
【0021】
沈殿剤賦形剤は、薬物溶出デバイスの仕様に基づいて、公知のタンパク質沈殿剤から選択されてもよい。一般的な沈殿剤として、硫酸アンモニウムなどのリオトロピック塩、アセトンのような混和性溶媒、ならびにデキストラン及びPEGのような非イオン性巨大分子が挙げられる。沈殿剤の選択は、包囲障壁の場合と同様に、可溶性相中での薬物の溶解性及び所望の薬物濃度に依存する。例えば、デキストランは、タンパク質を沈殿させるために使用されると報告されるが、PEGと同じ範囲の賦形剤濃度でタンパク質の溶解性を制限しない。図1は、PEG3350(黒塗りの菱形[◆])、PEG8000(黒塗りの四角[■])、PEG20000(黒塗りの三角[▲])、デキストラン6000(白抜きの四角[□])、及びデキストラン40000(白抜きの菱形[◇])がタンパク質の溶解性に及ぼす効果の比較を示す。両方の分子量形態のデキストランは、類似の賦形剤濃度のPEGより多くのタンパク質を可溶性相に残すことに留意されたい。より低い濃度のPEGと同じレベルのタンパク質の沈殿を達成するために、より高い濃度のデキストランが必要である。一実施形態では、PEGは、より少ない用量の薬物をより長い期間にわたって持続放出するための大きなリザーバを有する二相性製剤を形成するために好ましい。
【0022】
一実施形態では、PEGが長期間埋め込み型の開放二相性治療用タンパク質製剤のための沈殿剤賦形剤として選択される。二相系の可溶性相中のタンパク質の濃度は、PEGの濃度を調整することによって制御できる。例えば、約16mg/mLの150kDaのタンパク質を約25mg/mL~約150mg/mLのPEGと組み合わせると、可溶性画分中のタンパク質の濃度の範囲は約14mg/mL~1mg/mL未満となる(図2)。タンパク質溶解性に及ぼすPEGのこの効果は、PEGのモル濃度ではなく、PEGの質量濃度に依存する。言い換えれば、タンパク質溶解性(すなわち、飽和可溶性相中のタンパク質の濃度)に及ぼす同じ効果が、同量の質量のPEG3350、PEG8000、及びPEG20000で観察された(図3)。つまり、80mg/mLのPEG20000は、80mg/mLのPEG3350と同じ効果を同じタンパク質に及ぼす。
【0023】
可溶性相中の薬物の濃度は、賦形剤の濃度に依存し、全体の薬物含量には依存しないが、不溶性相中の薬物の量は、飽和可溶性相中の薬物を超えるすべての薬物を含む。したがって、不溶性相中の薬物の量は、PEG濃度と薬物の総量または最終濃度との両方に依存する。
【0024】
PEGは、タンパク質の溶解性だけでなく、タンパク質の安定性にも影響を及ぼすことが予想される。PEGの特定の分子量種は、単相系では、完全に溶解したタンパク質の安定性にほとんどまたは全く影響を及ぼさないが、二相系では、完全に溶解したタンパク質の安定性に効果を有する。分子量が低い方のPEG、例えば、PEG3350は、分子量が高い方の種のPEG、例えば、PEG8000またはPEG20000よりも、二相系の可溶性相中の100kDa~150kDaのタンパク質の安定性に及ぼす悪影響が少ない(図4)。
【0025】
PEG3350は、より高い分子量の形態より可溶性相中のタンパク質の安定性に及ぼす悪影響が少ないとはいえ、閉鎖系では依然としてタンパク質を不安定化する。図5に示すように、完全に溶解した単相系におけるタンパク質の安定性は、PEG3350が存在すると、PEGがない場合に対して減少する。PEGのタンパク質不安定化作用は、閉鎖二相系でより顕著であり(図6A及び6B)、それによって、閉鎖系でのタンパク質の安定性が、溶解相ではなく不溶性相に保持されているときに減少することが示されるが、示される濃度では、完全に溶解した系または二相系のいずれにも有益性はない。
【0026】
閉鎖系でPEG濃度が増加すると、凝集速度の増加によって測定される不溶性相中のタンパク質の安定性が減少する(図4~7を参照されたい)。PEGが、タンパク質溶解性を0.1mg/ml未満に制限する濃度で存在するとき、不可逆的なタンパク質の沈殿が観察される。本発明のある態様では、閉鎖系内では、系の不溶性相中の凝集は、溶液相より多い。
【0027】
閉鎖系の可溶性相中のタンパク質濃度が高いと、PEGを含まない製剤及びPEGを含む製剤の両方でタンパク質の安定性が低減する(図6A及び6B)。例えば、均一条件下の単相系でスクロースのみ(PEGを含まない)の場合、100kDa~150kDaのタンパク質は、約4.5mg/mLで約0.35%HMW/週、約120mg/mLで約2.7%HMW/週の凝集速度、及び500mg/mLの予測濃度で約10.2%HMW/週の補外凝集速度を有する(図8)。この高い凝集速度は、高濃度タンパク質製剤の医薬用途では許容できない。
【0028】
閉鎖系とは対照的に、開放二相系では、PEGを添加すると、高度に濃縮されたタンパク質の安定性が向上する。例えば、65mg/mLのPEGを含有する飽和可溶性タンパク質の閉鎖単相系での凝集速度は、10mg/mLで約1.3%HMW/週であり得る。65mg/mLのPEGを含有する、10mg/mLの可溶性相タンパク質及び20mg/mLの不溶性相タンパク質を含有する閉鎖二相系では、凝集速度は約2.5%HMW/週であり得、65mg/mlのPEGを含有する、10mg/mlの可溶性相タンパク質及び110mg/mlの不溶性相タンパク質を含有する閉鎖二相系では、凝集速度は約10%HMW/週であり得るが、75mg/mlのPEG及び100mg/ml超の総タンパク質を含有する開放二相系では、凝集速度は約0.8%HMW/週であり得る。
【0029】
バイアル内などの閉鎖系ではタンパク質は放出されず、タンパク質の質量は不溶性相から可溶性相に移動しない。開放系では、例えば、二相系が生理的系に埋め込まれている場合では、タンパク質が飽和相から生理的環境内に拡散し、タンパク質が不溶性相から飽和可溶性相に移動するにつれて、不溶性相中のタンパク質の濃度(すなわち、沈殿物中のタンパク質の総質量)は減少する。不溶性相から可溶性相へのタンパク質の連続的な移行を考慮すると、可溶性タンパク質が二相性リザーバから出ていく動的開放二相系でのタンパク質は、閉鎖系または単相の溶液より安定である。
【0030】
二相系を作製するために組み合わされるPEG及びタンパク質の量に加えて、PEGがタンパク質の溶解性及び相分配に及ぼす効果は、例えばタンパク質のサイズ及び/または等電点などの特定のタンパク質の属性に部分的に依存する。表1は、様々な量のPEGが、受容体Fc融合タンパク質(トラップ)、免疫グロブリンタンパク質(IgG)、ヒト血清アルブミン(HSA)、及びフィブリノーゲンの溶解性に及ぼす、予想されるまたは実際の効果を示す。IgG#2、HSA、及びフィブリノーゲンの溶解性に及ぼすPEGの効果についての記載に関して、Atha et al,“Mechanism of Precipitation of Proteins by Polyethylene Glycols,” J.of Bio.Chem.256(23):12108-12117(1981)が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0031】
【表1】
【0032】
リザーバデバイス
幾つかの実施形態では、生体分子、治療用生体分子、または他の薬物を患者に送達するための開放二相系は、リザーバデバイス内に収容される。本発明のリザーバデバイスは環境に対して部分的に開放されており、二相系からの拡散の速度または可溶性相薬物の移動は調節することができる。幾つかの実施形態では、二相性薬物が充填されたリザーバデバイスシステムが、皮下送達などによって患者の中に埋め込まれる。本発明のデバイスは生理的微小環境と接触することができ、可溶化薬物がデバイスから出てきて、所定の速度で生理的微小環境内に拡散する。溶液中のタンパク質の濃度に加えて、この放出速度は、送達速度を変えるように調整することができるデバイスの特性によって決定される。こうした調整可能な特性は、リザーバデバイスのサイズ、構造、多孔性、フィルタサイズなどである。これらを実現するための送達速度及びデバイス特性の説明については、Drug Delivery:Engineering Principles for Drug Therapy by W.Mark Saltzman,in Topics in Chemical Engineering,1st Edition,Oxford University Press,New York,2001;国際特許出願公開第2008109886A1号、Desai et al、2008年9月12日公開;国際特許出願公開第2012142318A1号、Desai et al、2012年10月18日公開;米国特許出願公開第20140170204A1号、Desai et al、2014年6月6日公開;及び米国特許出願公開第20150216829A1号、Desai et al、2015年8月6日公開(これらは参照によって本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0033】
微小環境への送達は、リザーバデバイスのサイズ、形状、及び構成材料に影響を及ぼす。例えば、内膜へ送達するためのリザーバデバイスは、カテーテルを通して送達されることとなるステントの壁内に適合するようなサイズ及び形状にされてもよい。二相性薬物を充填したデバイスは、局所的に(例えば、皮膚パッチ型デバイス)、経腸的に(例えば、カプセル剤または坐剤)、または非経口的に(例えば、埋め込みデバイス)、患者に送達されてもよい。例示的な微小環境として、胃腸系、中枢神経系(例えば、硬膜外、脳内、脳室内、髄腔内)、羊膜-胎児系(例えば、羊膜外)、黄斑、網膜、または他の眼構造(例えば、硝子体内、眼内)、静脈-動脈系(例えば、動脈内)、骨及び関節系(例えば、骨内、関節内)、筋肉、皮下、皮膚、腹膜、粘膜などが挙げられる。
【0034】
本発明の一実施形態では、リザーバデバイスは、「チャンバ」(「リザーバチャンバ」)、及びチャンバを包含する「筐体」を含む。筐体は、1つまたは複数の開口部、出入口、窓、細孔、多孔質構造体または透過性もしくは半透過性材料(まとめて「多孔質構造体」と呼ぶ)を含む。「多孔質構造体」は、薬物が通過してリザーバデバイスの外に出ることを可能にし、幾つかの実施形態では、生理的溶媒及び溶質が入ることが可能になる。幾つかの実施形態では、筐体全体が多孔質構造体を含む。他の実施形態では、多孔質構造体は筐体の一部のみを構成して、それ以外は不透過性である筐体における窓様構造としての機能を果たす。薬物の二相系は、リザーバチャンバ内に保持される。幾つかの実施形態では、不溶性相は薬物コアを提供し、可溶性相は薬物表層を提供する。図9は、例示的なリザーバデバイスの概略図を示す。
【0035】
本発明のリザーバデバイスは、特定の標的に対応するように任意の材料及び任意のサイズで作製されてもよい。例えば、デバイスは、ある場合にはインスリンポンプなど体外に装着されてもよく、したがって比較的大きくてもよい。デバイスは、体内、例えば、皮下または硝子体内の位置に埋め込まれてもよく、この場合はデバイスが小さいことが必要とされる。例えば、硝子体内のデバイスは、1~50μl程度の容量を有し得る。
【0036】
本発明のある実施形態では、生理的系内に埋め込まれるリザーバデバイスは、生体適合性材料で作製されてもよく、その例として、金属(シリコン、チタン、ステンレス鋼、及びニッケル-チタン合金が挙げられる)、及びポリマー(ポリ乳酸(PLA)、ポリグルタミン酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリオルトエステル、ポリ酸無水物、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレート、ポリ(アミノ酸)、コラーゲン、酢酸セルロース、ナイロン、ポリカーボネート、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、アクリレート、ポリアクリレート、メタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリシアノアクリレート、シロキサン、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリウレタン、及びポリビニリデンが挙げられる)が挙げられる。
【0037】
本発明のリザーバデバイスは、剛性であっても可撓性であってもよく、使い捨てであっても再充填可能であってもよい。点眼薬を眼に送達するための剛性で再充填可能な生体適合性の硝子体内リザーバデバイス(例えば、FORSIGHT(商標)Vision4デバイス)に関して、米国特許出願第2015/0250647号、第2011/046870号、第2013/0324942号、ならびに米国特許第9,033,911号及び第8,623,395号が参照によって本明細書に組み込まれる。一実施形態では、本発明のデバイスはチタンから作製され、再充填可能である。再充填可能デバイスとして、それは、リザーバデバイスの近接端部に位置するまたは付近にある透過障壁を含有することができ、それを通して薬物がカニューレを介して入れられる。かかる実施形態では、多孔質構造体は焼結金属を含む。
【0038】
本発明の可撓性デバイスの筐体材料はポリマーであってもよく、半透膜または他の多孔質構造体は、ミクロ細孔、ナノ細孔、または他のチャネルを含有するポリマーフィルムであってもよい。可撓性で使い捨てのポリマーデバイス及びそれらを作製する方法は、Bernards(2012)、米国特許出願公開第2014/0170204号及び第2015/0119807号、ならびに欧州特許出願第EP2164425A1号に開示されている。米国第2015/0119807A1号は、本発明のデバイスに使用することができる、ナノ多孔質ポリカプロラクトン(PCL)フィルムまたはミクロ多孔質PCLと非多孔質バッキングとの組み合わせを含む薄膜サンドイッチ構造の説明に関して、参照によって本明細書に組み込まれる。かかる実施形態では、原薬がポリマーフィルム層の間に装填され、次いでそれらがヒートシールされる。細孔のサイズ及び構造だけでなく、半透膜または他の多孔質構造体の表面積も、デバイスからの薬物の溶出速度を制御する。畳まれた薬物装填デバイスは、針カニューレを通して、例えば硝子体内に注入することができる。
【0039】
「ナノ細孔」という用語は、細孔の一方の側(例えば、内部環境)の材料を細孔の他方の側(例えば、外側または外部環境)の材料にアクセスできるようにする、障壁中の細孔またはチャネル開口部の概略の直径のことを言う。約100nm以下の直径を有する細孔が、一般に、ナノ細孔と見なされる。
【0040】
本発明のリザーバデバイスのナノ細孔は、約0.2nm~約100nmの直径を有する。幾つかの実施形態では、ナノ細孔は、約0.2nm~約2nm、約2nm~約50nm、または約50nm~約100nmの直径を有する。幾つかの実施形態では、本発明のリザーバデバイスのナノ細孔は、約10nm、約11nm、約12nm、約13nm、約14nm、約15nm、約16nm、約17nm、約18nm、約19nm、約20nm、約21nm、約22nm、約23nm、約24nm、約25nm、約26nm、約27nm、約28nm、約29nm、または約30nmの直径を有する。
【0041】
本発明のミクロ多孔質フィルムは、ミクロ細孔を含有する。本発明のミクロ細孔は、約1ミクロン~約2ミクロン、約2ミクロン~約5ミクロン、約1ミクロン、約1.1ミクロン、約1.2ミクロン、約1.3ミクロン、約1.4ミクロン、約1.5ミクロン、約1.6ミクロン、約1.7ミクロン、約1.8ミクロン、約1.9ミクロン、または約2ミクロンの断面直径を有する。幾つかの実施形態では、ミクロ細孔は、約10ミクロン未満の直径を有する。幾つかの実施形態では、ミクロ細孔は、約1ミクロン未満の連通孔径を有する。
【0042】
本発明のリザーバデバイスは、埋め込み型の自動制御式メカノケミカルポンプであり得る。かかるデバイスは、微小環境の変化に応答する酵素が包埋された可撓性膜を使用する。これらの変化は膜の膨潤を引き起こし、結果的にその細孔を開いて、可溶性タンパク質を外側環境にアクセスできるようにし、結果的に可溶性薬物を流出させる。例えば、架橋ヒドロゲル膜を、ポリマー側鎖のアミン基がプロトン化されると膨潤するように設計してもよく、それによってデバイスが微小環境のpHの変化に応答して開くことが可能になる。続いて、薬物が、リザーバチャンバから生理的系内に「送り出される」。特定の化学物質を還元するまたは酸化する酵素を膜内に包埋して、プロトンの供給源または吸い込み口として機能するようにしてもよい。メカノケミカルデバイスの例については、Kost,et al J.Biomed.Mater.Res.19,1117-1133(1985)、Albin et al,J.Controlled Release 6,267-291(1987)]、Ishihara et al,Polymer J.16,625-631(1984)、及びDe Juan et al、米国特許第9,033,911号、2015年5月19日を参照されたい。
【0043】
定義
本発明は、単相の溶液と比較して長期間にわたって向上したタンパク質の溶解性のための製剤を含む。別の態様では、本発明は、生理的温度で長期間にわたって安定した状態を保つ薬物を長期送達するための薬物送達デバイスを提供する。また、かかる送達デバイスのための前記製剤を作製する方法、及び(iii)構成成分薬物を必要とする患者を治療するための前記製剤またはデバイスの使用を提供する。本発明の製剤は、可溶性相及び不溶性相に存在する「第1の分子」と、第1の分子の有効溶解性を低減させる賦形剤である「第2の分子」とを含有する二相系を含む。幾つかの実施形態では、二相系はリザーバチャンバ内に含有され、リザーバチャンバは筐体に囲まれて、リザーバデバイスを形成してもよい。「第1の分子」は一般に、医療上の有用性を有する生物学的分子または他の薬物もしくは原薬である。
【0044】
「二相」という用語は、固体沈殿相及び飽和可溶性相中に共存する分子の状態を指す。分子の二相性混合物は、平衡状態にある。閉鎖系での(例えば、生理的系に接触していないバイアルまたは他の容器中のような)二相性混合物では、各相中の分子の全体量は、比較的一定な状態を保つ。可溶性形態の分子が二相性混合物から拡散して出ていくことができる、開放系での二相性混合物では(例えば、埋め込まれているか、さもなければ生理的または他の系と連通しているとき)、二相系内の分子の量は、経時的に低下することとなる。開放系では、分子の不溶性画分が、分子の予備形態としての機能を果たす。例えば、同じタンパク質の飽和溶液に囲まれた沈殿タンパク質は「二相系」であり、そのタンパク質は「二相」である。
【0045】
「生体分子」という用語は、生物学的分子を意味し、それには、巨大分子、例えば、タンパク質、炭水化物、脂質、核酸、及びアプタマーなどの合成複合分子、ならびに小分子、例えば、一次代謝産物、二次代謝産物、及び生体系によって産生される産物が含まれる。生物学的分子には、とりわけ、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、及びアミノ酸、アプタマー、脂質、ヌクレオシド、ヌクレオチド、及び核酸、ならびに炭水化物が含まれる。生体分子は、天然に存在するもの、すなわち、天然に存在する生物、ウイルス、及び環境において産生されるものであっても、人工的なもの、すなわち、合成化学手段によって、または組換えもしくは異所性核酸を含有する生体系において産生されるものであってもよい。幾つかの特定の実施形態では、生体分子は治療用生体分子である。治療用生体分子は、「薬物」または「原薬」である。幾つかの実施形態では、デバイスの「第1の分子」はタンパク質である。
【0046】
「タンパク質」という用語は、アミド結合を介して共有結合した約50超のアミノ酸を有する任意のアミノ酸ポリマーを意味する。タンパク質は、当技術分野で一般に「ポリペプチド」として公知の1つまたは複数のアミノ酸ポリマー鎖を含有する。タンパク質は、1つまたは複数のポリペプチドを含有して、単一の機能性生体分子を形成し得る。「ポリペプチド」は一般に50を超えるアミノ酸を含有し、それに対して「ペプチド」は一般に50以下のアミノ酸を含有する。
【0047】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」には、バイオ治療薬タンパク質、研究または療法で使用される組換えタンパク質、トラップタンパク質及び他のキメラ受容体Fc融合タンパク質、キメラタンパク質、抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、ならびに二重特異性抗体のいずれかが含まれ得る。別の態様では、タンパク質には、抗体断片、ナノボディ、組換え抗体キメラ、サイトカイン、ケモカイン、ペプチドホルモンなどが含まれ得る。タンパク質は、昆虫バキュロウイルス(bacculovirus)系、酵母系(例えば、Pichia sp.)、哺乳動物系(例えば、CHO細胞及びCHO-K1細胞のようなCHO誘導体)などの組換え細胞ベースの産生系を使用して産生されてもよい。バイオ治療薬タンパク質及びそれらの産生について考察する最近の論評については、Ghaderi et al.,“Production platforms for biotherapeutic glycoproteins Occurrence,impact,and challenges of non-human sialylation,” 28 Biotechnol Genet Eng Rev.147-75(2012)を参照されたい。幾つかの実施形態では、タンパク質は、修飾、付加物、及び他の共有結合部分を含有する。これらの修飾、付加物、及び部分として、例えば、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、グリカン(例えば、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、ノイラミン酸、N-アセチルグルコサミン、フコース、マンノース、及び他の単糖)、PEG、ポリヒスチジン、FLAGタグ、マルトース結合タンパク質(MBP)、キチン質結合タンパク質(CBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)myc-エピトープ、蛍光標識及び他の色素などが挙げられる。
【0048】
抗体は、治療用生体分子としてよく使用される。「抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、4つのポリペプチド鎖、すなわち、ジスルフィド結合によって相互に連結された2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖から構成される免疫グロブリン分子を含む。
【0049】
「Fc含有タンパク質」という表現には、抗体、二重特異性抗体、イムノアドヘシン、ならびに免疫グロブリンCH2及びCH3領域の少なくとも機能的な部分を含む他の結合タンパク質が含まれる。「機能的な部分」とは、Fc受容体(例えば、FcγR、またはFcRn、すなわち、新生児Fc受容体)と結合することができる、及び/または補体の活性化に関与することができる、CH2及びCH3領域を指す。いずれのFc受容体にも結合できないようになり、かつ補体の活性化もできないようになる、欠失、置換、及び/もしくは挿入、または他の修飾を、CH2及びCH3領域が含有するならば、そのCH2及びCH3領域は機能的ではない。
【0050】
Fc含有タンパク質は、免疫グロブリンドメインに修飾を含むことができ、それには、修飾が結合タンパク質の1つまたは複数のエフェクター機能に影響をする場合も含まれる(例えば、FcγR結合性、FcRn結合性に影響し、それによって半減期及び/またはCDC活性に影響する修飾)。
【0051】
VEGFアンタゴニストには、VEGF刺激チロシンキナーゼを抑制する小分子が含まれ、例えば、ラパチニブ、スニチニブ、ソラフェニブ、アキシチニブ、及びパゾパニブ(Yadav、2015)が挙げられる。VEGFの巨大分子阻害剤として、モノクローナル抗体であるベバシズマブ、Fab断片であるラニビズマブ、トラップであるアフリベルセプト、トラップであるコンバセプト、及びペグ化されたアプタマーであるペガプタニブが挙げられる。
【0052】
幾つかの実施形態によれば、第2の分子(二相系の「溶解性を低減させる分子」とも呼ぶ)は、第1の分子(すなわち、バイオ治療薬または他の薬物もしくは生体分子)の溶解性を低減させる。通常、「溶解性」は、温度、圧力、及びpHなどの変数に依存する、所与の溶媒中の溶質の固有の物理的特性を指すが、ここでは、「溶解性」はより広い意味を持つ。本明細書で使用される場合、「溶解性」は、溶媒中の溶質の濃度を意味する。したがって、溶解性は、他の試薬、とりわけ塩などの加減、追加の溶媒、及び/または非イオン性巨大分子、もしくは溶媒を除去して溶質を溶解させることができる溶媒の量を有効に低減させるように機能する他の巨大分子によって影響される。
【0053】
本発明のある実施形態では、「溶解性を低減させる分子」には、「非イオン性巨大分子」(「水溶性非イオン性ポリマー」とも呼ぶ)が含まれる。これらの分子は、溶媒を除去し、タンパク質の溶媒和に利用できる水の全体量を低減させることによって部分的に作用する。非イオン性巨大分子として、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、デキストラン、アルギネート、ペクチネート、カルボキシメチルセルロースすなわちデンプン、ヒドロキシエチルセルロースまたはデンプン、ヒドロキシプロピルセルロースまたはデンプン、メチルセルロースまたはデンプン、ポリアクリル酸及びポリメタクリル酸(polymetaacrylic acid)、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、ポリオキシエチレン、ポリビニルピロリドン(PVP)、FICOLL(登録商標)、PERCOLL(登録商標)などが挙げられる。
【0054】
「ポリエチレングリコール」または「PEG」とは、生体分子の溶解性を低減させる分子として有用な非イオン性巨大分子の一例を指す。PEGは、食品、薬、及び化粧品に一般に使用される、エチレンオキシドのポリエーテルポリマーである。PEGは、300g/molから10,000,000g/molの範囲の様々な分子量で市販されている。本発明のある態様では、PEG20000、PEG8000、及びPEG3350が有用である。3350グラム/モル(PEG3350)の分子量を有するPEGが、本発明で使用するのに好ましい。PEGは、直鎖状、分岐(3~10個の鎖が中央コアに結合)、星型(10~100個の鎖が中央コアに結合)、及び櫛型(複数の鎖がポリマー骨格に結合)を含めた、様々な形状で利用できる。
【0055】
「デキストラン」は、生体分子の溶解性を減少させる分子として有用であり得る、非イオン性巨大分子の別の例である。デキストランは、とりわけ増量剤としてよく使用される分岐鎖グルカンである。それは一般に安全であると認識されており、他の用途においてタンパク質を安定化させるために使用されている。
【0056】
幾つかの実施形態では、第1の分子は、第2の分子と組み合わせて使用するとき、(1)溶液中に存在する、及び(2)溶液中に存在しない、という2つの溶解性状態で存在する。「溶解した」、「溶質」、「可溶性」、「可溶化した」、「可溶性画分」、「可溶性部分」、「可溶性相」、「飽和溶液」という用語はそれぞれ、溶液中に存在する第1の分子の全体の部分を指す。「固体」、「沈殿物」、「非可溶性画分」、「非可溶性部分」、「不溶性画分」、「不溶性」、「不溶性相」という用語はそれぞれ、溶液中に存在しない第1の分子の全体の部分を指す。
【0057】
開放二相系の一態様では、薬物の溶解性をPEGで低減させると、第1の分子の長期間にわたる安定性が強化される。「安定性」という用語は、第1の分子の許容可能な程度の物理的構造(コロイド、性質)、化学構造、または生物学的機能が、リザーバチャンバの可溶性画分などの生理学的に関連する環境内に配置された後に、経時的に保持されることを指す。第1の分子は、その構造または機能を100%維持しないとしても、規定量の時間保管または配置された後に安定であり得る。ある種の状況下で、第1の分子の約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、または約99%が元の立体構造、構造、または機能を有しているならば、可溶性画分中のタンパク質及び製剤は「安定」と見なすことができる。
【0058】
安定性は、とりわけ、規定の温度で規定量の時間保管または配置された後に製剤中に残存する元の分子の割合(%)を決定することによって測定することができる。元の分子の割合(%)は、「元」とは凝集せず、分解もしないことを意味するというように、とりわけ、サイズ排除クロマトグラフィ(例えば、サイズ排除高速液体クロマトグラフィ[SE-HPLC])によって決定することができる。ある特定の実施形態では、配置(例えば、埋め込み)後に、規定の温度または生理状態下で規定量の時間の後に、製剤中に元の形態の第1の分子の少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%を検出することができる。安定性を測定する前の規定量の時間は、約14日、約28日、約1か月、約2か月、約3か月、約4か月、約5か月、約6か月、約7か月、約8か月、約9か月、約10か月、約11か月、約12か月、約18か月、約24か月、またはそれ以上であることができる。安定性を評価するときに、第1及び第2の分子を含有するデバイスを保持し得る温度は、約-80℃~約45℃の任意の温度であることができ、例えば、約-80℃、約-30℃、約-20℃、約0℃、約4°~8℃、約5℃、約25℃、約35℃、約37℃もしくは他の生理的温度、または約45℃で保管することができる。例えば、第1の分子は、生理的条件下で3か月後に元の分子の約75%、80%、85%、または90%より多くがSE-HPLCまたは他のサイズ排除またはサイズ決定方法によって可溶性画分中に検出されれば、安定であると見なされてもよい。「生理的温度」には、任意の脊椎動物の体温が含まれる。例えば、ヒトの生理的温度は約37℃である。本発明の幾つかの実施形態では、生理的温度は約25℃~約45℃である。幾つかの実施形態では、生理的温度は、約25℃、約26℃、約27℃、約28℃、約29℃、約30℃、約31℃、約32℃、約33℃、約34℃、約35℃、約36℃、約37℃、約38℃、約39℃、約40℃、約41℃、約42℃、約43℃、約44℃、及び約45℃である。
【0059】
安定性は、とりわけ、規定の温度での規定量の時間の後に、リザーバデバイス内でPEGなどの第2の分子の存在下で凝集体(すなわち、高分子量種)を形成した、タンパク質などの第1の分子の割合(%)を決定することによって測定でき、ここでは、安定性は、可溶性画分中に形成された高分子量(HMW)種の割合(%)に反比例する。タンパク質の安定性は、PEGなどの第2の分子の存在下にあった開放二相系からの放出後に測定することができる。可溶性画分中の第1の分子のHMW種の割合(%)は、とりわけ、上述のようなサイズ排除クロマトグラフィによって決定することができる。医薬製剤はまた、生理的条件で3か月後に、第1の分子の約15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、または0.1%未満がHMW形態で検出されれば、安定と見なされてもよい。
【0060】
安定性は、とりわけ、規定の温度での規定量の時間の後に、PEGなどの第2の分子の存在下にあった開放二相系からの放出後に、分解した、または低分子量種(LMW)として見いだされるタンパク質などの第1の分子の割合(%)を決定することによって測定することができる。安定性は、可溶性画分中に形成されたLMW種の割合(%)に反比例する。可溶性画分中の第1の分子のLMW種の割合(%)は、とりわけ、上述のようなサイズ排除クロマトグラフィによって決定することができる。医薬製剤はまた、生理的条件で3か月後に、第1の分子の約15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、または0.1%未満がLMW形態で検出されれば、安定と見なされてもよい。
【0061】
幾つかの実施形態では、開放二相性薬物系が、「リザーバデバイス」内に含有される。「リザーバデバイス」という用語は、二相性薬物を含有する任意の容器を包含し、二相性薬物を周囲環境から部分的に隔離し、出入口を通して可溶性薬物が所定の速度で流出することを可能にする。リザーバデバイスは、二相系を含む制御された開放系に相当する。閉鎖二相系は、リザーバデバイスではない別の容器内に含有されてもよい。例えば、別の溶液に接触していないバイアル内の二相系は、可溶性分子が拡散して出ていかないので閉鎖系である。二相性薬物の経時的な安定性は、閉鎖系より開放系内の方が大きくなり得る。
【0062】
本発明の幾つかの実施形態では、二相系は、追加的な成分または賦形剤を含む。「賦形剤」には、薬物を緩衝する、可溶化する、安定化する、及び/または保護する、ならびに製剤の張度を維持するまたは調整することを含めた、様々な目的のために使用される様々な物質が含まれる。保護剤は、熱負荷及び/または撹拌などの物理的負荷から保護する。緩衝剤は、当技術分野で周知である。
【0063】
幾つかの実施形態では、緩衝剤が本主題の二相性製剤に含まれる。幾つかの実施形態では、本主題の二相性製剤は、緩衝剤を、約1mM~約100mM、約5mM~約50mM、または約10mM~約20mMの濃度で含有する。幾つかの実施形態では、緩衝剤は、5mM±0.75mM~15mM±2.25mM、6mM±0.9mM~14mM±2.1mM、7mM±1.05mM~13mM±1.95mM、8mM±1.2mM~12mM±1.8mM、9mM±1.35mM~11mM±1.65mM、10mM±1.5mM、または約10mMの濃度で本主題の二相性製剤に含まれる。幾つかの実施形態では、緩衝剤は、ヒスチジン、リン酸塩、炭酸塩、コハク酸塩、及び/または酢酸塩である。
【0064】
幾つかの実施形態では、緩衝剤は、約3~約9のpH範囲内、または約3.7~約8.0のpH範囲内のどこかに緩衝する能力がある化学物質から選択される。例えば、二相性製剤のpHは、約3.4、約3.6、約3.8、約4.0、約4.2、約4.4、約4.6、約4.8、約5.0、約5.2、約5.4、約5.6、約5.8、約6.0、約6.2、約6.4、約6.6、約6.8、約7.0、約7.2、約7.4、約7.6、約7.8、または約8.0であってもよい。
【0065】
緩衝剤は、例えば、ヒスチジンと酢酸塩との組み合わせ(his-酢酸塩緩衝液)など、個々の緩衝剤の組み合わせであってもよい。一実施形態では、緩衝剤は、酢酸塩によって緩衝される範囲のような、約3.5~約6、または約3.7~約5.6の緩衝範囲を有する。一実施形態では、緩衝剤は、リン酸塩によって緩衝される範囲のような、約5.5~約8.5、または約5.8~約8.0の緩衝範囲を有する。一実施形態では、緩衝剤は、ヒスチジンによって緩衝される範囲のような、約5.0~約8.0、または約5.5~約7.4の緩衝範囲を有する。
【0066】
賦形剤は、安定剤を含む。本明細書で使用される場合、安定剤を本主題の二相性製剤に添加して、タンパク質を凝集または他の分解から安定化させてもよい。本主題の二相性製剤に含まれてもよい安定剤として、ポリオール、糖、塩(例えば、塩化ナトリウム)、アミノ酸などが挙げられる。場合によっては、安定剤は、二相性製剤の浸透圧重量モル濃度を、二相性製剤が配置される生理的環境の浸透圧重量モル濃度と合うように調整する等張化剤(tonicifier)として作用する。例えば、塩化ナトリウム及びスクロースはそれぞれ等張化剤として機能する。様々な個々の安定剤を、最適な安定化または等張化(tonicifying)効果のために、単独で、または1つもしくは複数の他の安定剤を組み合わせて使用してもよい。例えば、ポリオールを糖と、糖をアミノ酸と、ポリオールをアミノ酸と、塩を糖と、塩をアミノ酸と、塩をポリオールとなど、組み合わせてもよい。
【0067】
ポリオールは、2つ以上のヒドロキシル基(-OH)を有する有機分子である。ポリオールには、モノマーだけでなくポリマーも含まれる。糖アルコールは、ポリオールのサブグループである。有用な安定剤として機能することができる糖アルコールとして、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、イソマルト、エリスリトール、マルチトール、及びグリセロールが挙げられる。他のモノマーポリオールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、及びペンタエリスリトールが挙げられる。ポリマーポリオールは、ポリオールサブユニットのポリエステルまたはポリエーテルであってもよい。有用な代表例のポリマーポリオールとして、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、及びポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールが挙げられる。
【0068】
トレハロース及びスクロースのような糖を、本主題の二相性製剤において安定剤として使用してもよい。幾つかの実施形態では、スクロースは、本主題の二相性製剤に約0.5%(w/v)~約25%(w/v)の濃度で含まれる。一実施形態では、スクロースは、本主題の二相性製剤に、約0.5%(w/v)、約1%(w/v)、約1.5%(w/v)、約2%(w/v)、約2.5%(w/v)、約3%(w/v)、約3.5%(w/v)、約4%(w/v)、約4.5%(w/v)、約5%(w/v)、約6%(w/v)、約7%(w/v)、約8%(w/v)、約9%(w/v)、約10%(w/v)、約11%(w/v)、約12%(w/v)、約13%(w/v)、約14%(w/v)、約15%(w/v)、約16%(w/v)、約17%(w/v)、約18%(w/v)、約19%(w/v)、約20%(w/v)、約21%(w/v)、約22%(w/v)、約23%(w/v)、約24%(w/v)、または約25%(w/v)の濃度で含まれる。
【0069】
アミノ酸も、本主題の二相性製剤に安定剤または等張化剤として含まれてもよい。有用なアミノ酸として、グリシン、アルギニン、アラニン、及びプロリンが挙げられる。幾つかの実施形態では、アルギニンが安定剤及び粘度降下剤として使用される。
【0070】
場合によって、1つまたは複数の界面活性剤が、賦形剤として本主題の二相性製剤に採用されてもよい。界面活性剤は、タンパク質-タンパク質疎水性相互作用を低減させ、その結果として高分子量種(すなわち、凝集体)の形成を低減させることによって、追加的な安定性をもたらす。本主題の二相性製剤に含むことができる代表的な非イオン性界面活性剤として、例えば、アルキルポリ(エチレンオキシド)、アルキルポリグルコシド(例えば、オクチルグルコシド、及びデシルマルトシド)、セチルアルコール及びオレイルアルコールなどの脂肪アルコール、コカミドMEA、コカミドDEA、ならびにコカミドTEAが挙げられる。前に凍結乾燥されていた水溶液(または再構成した後の溶液)に含むことができる特定の非イオン性界面活性剤として、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンエステル(ポリソルベートとも呼ばれる)、例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート28、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート81、及びポリソルベート85;ポロキサマー、例えば、ポロキサマー188、ポロキサマー407;ポリエチレン-ポリプロピレングリコール;またはポリエチレングリコール(PEG)が挙げられる。ポリソルベート20は、TWEEN20、ソルビタンモノラウレート、及びポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートとしても公知である。ポリソルベート80は、TWEEN80、ソルビタンモノオレエート、及びポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートとしても公知である。
【0071】
幾つかの実施形態では、ポリソルベート20またはポリソルベート80が、本主題の二相性製剤に約0.001%(w/v)~約0.5%(w/v)の濃度で含まれてもよい。幾つかの実施形態では、本主題の二相性製剤は、約0.001%、約0.0015%、約0.002%、約0.0025%、約0.003%、約0.0035%、約0.004%、約0.0045%、約0.005%、約0.0055%、約0.006%、約0.0065%、約0.007%、約0.0075%、約0.008%、約0.0085%、約0.009%、約0.0095%、約0.01%、約0.015%、約0.016%、約0.017%、約0.018%、約0.019%、約0.02%、約0.021%、約0.022%、約0.023%、約0.024%、約0.025%、約0.026%、約0.027%、約0.028%、約0.029%、約0.03%、約0.031%、約0.032%、約0.033%、約0.034%、約0.035%、約0.036%、約0.037%、約0.038%、約0.039%、約0.04%、約0.041%、約0.042%、約0.043%、約0.044%、約0.045%、約0.046%、約0.047%、約0.048%、約0.049%、約0.05%、約0.051%、約0.052%、約0.053%、約0.054%、約0.055%、約0.056%、約0.057%、約0.058%、約0.059%、約0.06%、約0.061%、約0.062%、約0.063%、約0.064%、約0.065%、約0.066%、約0.067%、約0.068%、約0.069%、約0.07%、約0.071%、約0.072%、約0.073%、約0.074%、約0.075%、約0.076%、約0.077%、約0.078%、約0.079%、約0.08%、約0.081%、約0.082%、約0.083%、約0.084%、約0.085%、約0.086%、約0.087%、約0.088%、約0.089%、約0.09%、約0.091%、約0.092%、約0.093%、約0.094%、約0.095%、約0.096%、約0.097%、約0.098%、約0.099%、約0.10%、約0.15%、約0.20%、約0.25%、約0.30%、約0.35%、約0.40%、約0.45%、または約0.50%のポリソルベート20またはポリソルベート80を含有する。
【0072】
実施形態
一態様では、本発明は、生体分子及び該生体分子の溶解性を制限する分子を含有する安定な二相性医薬製剤を提供する。生体分子は、製剤中に二相系として存在し、それにおいて、生体分子の一部は可溶性形態であり(溶解している)、一部は不溶性形態である(沈殿物)。一実施形態では、製剤は、可溶性生体分子が外側の水性環境にアクセスできない閉鎖系であっても、可溶性生体分子がより低い濃度の生体分子を有する環境にアクセスできる開放系であってもよい。開放系の幾つかの実施形態では、組成物はリザーバチャンバ内に含有され、リザーバチャンバは、リザーバデバイス内に収容され、多孔質構造体によって囲まれている。リザーバデバイスは、半透膜または他の多孔質構造体を介して環境に開放されており、患者内に埋め込んで治療的有効量の生体分子を患者内の治療標的に送達することができる。
【0073】
一態様では、本発明は、少なくとも25mg/mLのポリエチレングリコール(PEG)、少なくとも100mg/mLのタンパク質、タンパク質の総量の50%未満及びある量のPEGを含有する可溶性相、ならびに不溶性タンパク質を含む不溶性相を含む、二相性医薬製剤を提供する。可溶性相のタンパク質は、生理的温度で少なくとも30日間安定であり、半透膜または他の多孔質構造体を通して、より低い濃度のタンパク質を有する環境にアクセスできる(すなわち、開放系)。
【0074】
幾つかの実施形態では、二相性医薬製剤は、患者に投与されるか、さもなければ外側環境内に置かれ、そこにおいて、可溶性タンパク質が、多孔質構造体を通して濃度勾配の低い方に経時的に拡散し、該環境に入る。したがって、本主題の二相性医薬製剤中のタンパク質の総量は、経時的に低下し、最終的に枯渇する。したがって、幾つかの実施形態では、製剤中のタンパク質の量は、最初の100mg/mL以上の量より少なく、それは、製剤が、より低いタンパク質濃度を有する環境にどれだけ長くアクセスしていたかに依存する。幾つかの実施形態では、本主題の二相性医薬製剤中のタンパク質の総量は、患者内で使用される本発明のデバイスの存続期間にわたって0.1mg/mL~500mg/mLのタンパク質になると見込まれる。
【0075】
幾つかの実施形態では、本主題の二相性医薬製剤のタンパク質の分子量は、約10kD(すなわち10,000ダルトン、つまり1モル当たり10,000グラム)~約200kD、約25kD~約160kDa、約10kD~約15kD、約15kD~約20kDa、約20kD~約25kDa、約25kD~約30kDa、約30kD~約35kDa、約35kD~約40kDa、約40kD~約45kDa、約45kD~約50kDa、約50kD~約55kDa、約55kD~約60kDa、約60kD~約65kDa、約65kD~約70kDa、約75kD~約80kDa、約80kD~約85kDa、約85kD~約90kDa、約90kD~約95kDa、約95kD~約100kDa、約100kD~約105kDa、約105kD~約110kDa、約110kD~約115kDa、約115kD~約120kDa、約120kD~約125kDa、約125kD~約130kDa、約130kD~約135kDa、約135kD~約140kDa、約140kD~約145kDa、約145kD~約150kDa、約150kD~約155kDa、約155kD~約160kDa、約160kD~約165kDa、約165kD~約170kDa、約170kD~約175kDa、約175kD~約180kDa、約180kD~約185kDa、約185kD~約190kDa、約190kD~約195kD、または約195kD~約200kDである。幾つかの実施形態では、タンパク質は、約12~15kDの分子量を有する、ナノボディまたは同様のサイズのタンパク質である。幾つかの実施形態では、タンパク質は、約50kDの分子量を有する、Fabなどの抗体断片または同様のサイズのタンパク質である。幾つかの実施形態では、タンパク質は、約25kDの分子量を有する、一本鎖可変断片(scFv)または同様のサイズのタンパク質である。幾つかの実施形態では、タンパク質は、約90kD~110kDの分子量を有する、受容体-Fc融合タンパク質または同様のサイズのタンパク質である。幾つかの実施形態では、タンパク質は、約150kD~160kDの分子量を有する、抗体または同様のサイズのタンパク質である。
【0076】
幾つかの実施形態では、タンパク質は、VEGFアンタゴニスト、例えば、トラップ分子であるアフリベルセプト、抗体であるラニビズマブ及びベバシズマブである。幾つかの実施形態では、生体分子はPDGFアンタゴニストであり、それは、例えば、小分子阻害剤、可溶性受容体、トラップ分子、もしくは他の融合タンパク質、抗PDGF抗体、RNA、またはアプタマーであり得る。幾つかの実施形態では、生体分子はAng2アンタゴニストであり、それは、例えば、小分子阻害剤、可溶性受容体、トラップ分子もしくは他の融合タンパク質、抗Ang2抗体、RNA、またはアプタマーであり得る。
【0077】
幾つかの実施形態では、本主題の二相性医薬製剤中のタンパク質の総濃度は、約25mg/mL~1,400mg/mL以上である。幾つかの実施形態では、乾燥タンパク質(例えば、凍結乾燥または噴霧乾燥したもの)がPEGと組み合わされる。所与の容量内に収まることができるタンパク質の総量は、固体タンパク質の密度ならびに混合物中にタンパク質と共に含まれるPEG及び他の賦形剤の量に依存する。デバイス内の薬物の用量及び濃度に関して、米国特許出願第2013/0324942号が参照によって組み込まれる。デバイス内で利用可能な容量によって、デバイス内に入れることができるタンパク質濃度がある程度制限されることとなる。その上限は、タンパク質粉末の密度及びリザーバ容量内にどれだけ多く充填できるか(これはタンパク質製剤に依存することとなる)についての制限によって定義されることとなる。デバイスの容量、及びアフリベルセプトを含めたVEGFアンタゴニストなどのタンパク質含有量に関して、米国特許第8,623,395号が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0078】
幾つかの実施形態では、タンパク質の総濃度は、1,400mg/mLを超えてもよい。幾つかの実施形態では、タンパク質または他の生体分子の総濃度は、約25mg/mL、約26mg/mL、約27mg/mL、約28mg/mL、約27mg/mL、約30mg/mL、約35mg/mL、40mg/mL、約45mg/mL、50mg/mL、約55mg/mL、約60mg/mL、約65mg/mL、70mg/mL、約75mg/mL、約80mg/mL、約85mg/mL、90mg/mL、約95mg/mL、100mg/mL、110mg/mL、約120mg/mL、約130mg/mL、約140mg/mL、約150mg/mL、約160mg/mL、約170mg/mL、約180mg/mL、約190mg/mL、約200mg/mL、約210mg/mL、約220mg/mL、約230mg/mL、約240mg/mL、約250mg/mL、約260mg/mL、約270mg/mL、約280mg/mL、約290mg/mL、約300mg/mL、約310mg/mL、約320mg/mL、約330mg/mL、約340mg/mL、約350mg/mL、約360mg/mL、約370mg/mL、約380mg/mL、約390mg/mL、約400mg/mL、約410mg/mL、約420mg/mL、約430mg/mL、約440mg/mL、約450mg/mL、約460mg/mL、約470mg/mL、約480mg/mL、約490mg/mL、約500mg/mL、約510mg/mL、約520mg/mL、約530mg/mL、約540mg/mL、約550mg/mL、約560mg/mL、約570mg/mL、約580mg/mL、約590mg/mL、約600mg/mL、約610mg/mL、約620mg/mL、約630mg/mL、約640mg/mL、約650mg/mL、約660mg/mL、約670mg/mL、約680mg/mL、約690mg/mL、約700mg/mL、約710mg/mL、約720mg/mL、約730mg/mL、約740mg/mL、約750mg/mL、約760mg/mL、約770mg/mL、約780mg/mL、約790mg/mL、約800mg/mL、約810mg/mL、約820mg/mL、約830mg/mL、約840mg/mL、約850mg/mL、約860mg/mL、約870mg/mL、約880mg/mL、約890mg/mL、約900mg/mL、約910mg/mL、約920mg/mL、約930mg/mL、約940mg/mL、約950mg/mL、約960mg/mL、約970mg/mL、約980mg/mL、約990mg/mL、約1000mg/mL、約1025mg/mL、約1050mg/mL、約1075mg/mL、約1100mg/mL、約1125mg/mL、約1150mg/mL、約1175mg/mL、約1200mg/mL、約1225mg/mL、約1250mg/mL、約1275mg/mL、約1300mg/mL、約1325mg/mL、約1350mg/mL、約1375mg/mL、約1400mg/mL、または約1425mg/mLである。幾つかの実施形態では、総タンパク質濃度は、1400mg/mL超である。
【0079】
幾つかの実施形態では、本主題の二相性医薬製剤の可溶性相中のタンパク質の濃度は、約0.05mg/mL~約100mg/mLである。幾つかの実施形態では、可溶性相中のタンパク質または他の生体分子の濃度は、約0.05mg/mL、約0.06mg/mL、約0.07mg/mL、約0.08mg/mL、約0.09mg/mL、約0.1mg/mL、約0.5mg/mL、約1mg/mL、約1.5mg/mL、約2mg/mL、約2.5mg/mL、約3mg/mL、約3.5mg/mL、約4mg/mL、約4.5mg/mL、約5mg/mL、約5.5mg/mL、約6mg/mL、約6.5mg/mL、約7mg/mL、約7.5mg/mL、約8mg/mL、約8.5mg/mL、約9mg/mL、約9.5mg/mL、約10mg/mL、約11mg/mL、約12mg/mL、約13mg/mL、約14mg/mL、約15mg/mL、約16mg/mL、約17mg/mL、約18mg/mL、約19mg/mL、約20mg/mL、約21mg/mL、約22mg/mL、約23mg/mL、約24mg/mL、約25mg/mL、約26mg/mL、約27mg/mL、約28mg/mL、約29mg/mL、約30mg/mL、約31mg/mL、約32mg/mL、約33mg/mL、約34mg/mL、約35mg/mL、約36mg/mL、約37mg/mL、約38mg/mL、約39mg/mL、約40mg/mL、約41mg/mL、約42mg/mL、約43mg/mL、約44mg/mL、約45mg/mL、約46mg/mL、約47mg/mL、約48mg/mL、約49mg/mL、約50mg/mL、約51mg/mL、約52mg/mL、約53mg/mL、約54mg/mL、約55mg/mL、約56mg/mL、約57mg/mL、約58mg/mL、約59mg/mL、約60mg/mL、約61mg/mL、約62mg/mL、約63mg/mL、約64mg/mL、約65mg/mL、約66mg/mL、約67mg/mL、約68mg/mL、約69mg/mL、約70mg/mL、約71mg/mL、約72mg/mL、約73mg/mL、約74mg/mL、約75mg/mL、約76mg/mL、約77mg/mL、約78mg/mL、約79mg/mL、約80mg/mL、約81mg/mL、約82mg/mL、約83mg/mL、約84mg/mL、約85mg/mL、約86mg/mL、約87mg/mL、約88mg/mL、約89mg/mL、約90mg/mL、約91mg/mL、約92mg/mL、約93mg/mL、約94mg/mL、約95mg/mL、約96mg/mL、約97mg/mL、約98mg/mL、約99mg/mL、または約100mg/mLである。幾つかの実施形態では、可溶性相中のタンパク質または他の生体分子は、100mg/mL超であり得る。
【0080】
二相性製剤の幾つかの実施形態では、二相性製剤中のタンパク質の総量(可溶性相と不溶性相の両方)に対する可溶性相中のタンパク質の割合は、50%未満である。幾つかの実施形態では、二相性製剤中のタンパク質の総量に対する可溶性相中のタンパク質の割合は、約50%、約49%、約48%、約47%、約46%、約45%、約44%、約43%、約42%、約41%、約40%、約39%、約38%、約37%、約36%、約35%、約34%、約33%、約32%、約31%、約30%、約29%、約28%、約27%、約26%、約25%、約24%、約23%、約22%、約21%、約20%、約19%、約18%、約17%、約16%、約15%、約14%、約13%、約12%、約11%、約10%、約9%、約8%、約7%、約6%、約5%、約4%、約3%、約2%、約1%、約0.1%~約1%、または0.1%未満である。
【0081】
幾つかの実施形態では、PEGは、組成物中に約25mg/mL~約150mg/mLの濃度で存在する。幾つかの実施形態では、組成物中のPEGの濃度は、約25mg/mL、約30mg/mL、約35mg/mL、約40mg/mL、約45mg/mL、約50mg/mL、約60mg/mL、約65mg/mL、約70mg/mL、約75mg/mL、約80mg/mL、約85mg/mL、約90mg/mL、約95mg/mL、約100mg/mL、約105mg/mL、約110mg/mL、約115mg/mL、約120mg/mL、約125mg/mL、約130mg/mL、約135mg/mL、約140mg/mL、約145mg/mL、または約150mg/mLである。
【0082】
幾つかの実施形態では、スクロースが、本主題の二相製剤中に約0.5%(w/v)~約25%(w/v)の濃度で含まれる。一実施形態では、スクロースは、本主題の二相製剤中に、約0.5%(w/v)、約1%(w/v)、約1.5%(w/v)、約2%(w/v)、約2.5%(w/v)、約3%(w/v)、約3.5%(w/v)、約4%(w/v)、約4.5%(w/v)、約5%(w/v)、約6%(w/v)、約7%(w/v)、約8%(w/v)、約9%(w/v)、約10%(w/v)、約11%(w/v)、約12%(w/v)、約13%(w/v)、約14%(w/v)、約15%(w/v)、約16%(w/v)、約17%(w/v)、約18%(w/v)、約19%(w/v)、約20%(w/v)、約21%(w/v)、約22%(w/v)、約23%(w/v)、約24%(w/v)、または約25%(w/v)の濃度で含まれる。
【0083】
別の態様では、本発明は、生理的温度で長期間にわたって安定した状態を保つ薬物を長期送達するための薬物送達デバイスを提供する。本主題の薬物送達デバイスは、本主題の安定な二相性医薬製剤、該安定な二相性医薬製剤を含有するリザーバチャンバ、該リザーバチャンバを包含する筐体、及び可溶性相タンパク質がより低い濃度のタンパク質を有する環境にアクセスすることを可能にする、該筐体内の半透膜または他の多孔質構造体を含有する。
【0084】
一実施形態では、本主題の薬物送達デバイスの容量は、約5μl~約50μl、約10μl~約25μl、約5μl、約6μl、約7μl、約8μl、約9μl、約10μl、約11μl、約12μl、約13μl、約14μl、約15μl、約16μl、約17μl、約18μl、約19μl、約20μl、約21μl、約22μl、約23μl、約24μl、約25μl、約26μl、約27μl、約28μl、約29μl、約30μl、約31μl、約32μl、約33μl、約34μl、約35μl、約36μl、約37μl、約38μl、約39μl、約40μl、約41μl、約42μl、約43μl、約44μl、約45μl、約46μl、約47μl、約48μl、約49μl、または約50μlである。
【0085】
一実施形態では、本主題のリザーバチャンバは、約0.1mg~約10mgの本主題のタンパク質を含有する。幾つかの実施形態では、リザーバチャンバは、タンパク質の総量を、約0.1mg、約0.2mg、約0.3mg、約0.4mg、約0.5mg、約0.6mg、約0.7mg、約0.8mg、約0.9mg、約1mg、約2mg、約3mg、約4mg、約5mg、約6mg、約7mg、約8mg、約9mg、または約10mgで含有する。
【0086】
幾つかの実施形態では、本主題のリザーバチャンバは、デバイスを眼の硝子体、または他の遠近調節組織中に挿入できるサイズを有する。
【0087】
幾つかの実施形態では、本主題のリザーバチャンバは、デバイスを患者内で皮下に配置できるサイズを有する。
【0088】
一実施形態では、本主題の薬物送達デバイスの容量は、約25μl~約150μl、約25μl、約30μl、約35μl、約40μl、約45μl、約50μl、約55μl、約60μl、約65μl、約70μl、約75μl、約80μl、約85μl、約90μl、約95μl、約100μl、約105μl、約110μl、約115μl、約120μl、約125μl、約130μl、約135μl、約140μl、約145μl、または約150μlである。
【0089】
一実施形態では、本主題のリザーバチャンバは、約25mg~約180mgの本主題のタンパク質を含有する。幾つかの実施形態では、リザーバチャンバは、タンパク質の総量を、約25mg、約30mg、約35mg、約40mg、約45mg、約50mg、約55mg、約60mg、約65mg、約70mg、約75mg、約80mg、約85mg、約90mg、約95mg、約100mg、約105mg、約110mg、約115mg、約120mg、約125mg、約130mg、約135mg、約140mg、約145mg、約150mg、約155mg、約160mg、約165mg、約170mg、約175mg、または約180mgで含有する。
【実施例
【0090】
本発明を、以下の実施例によって例示する。本発明は、これらの実施例の特定の詳細に限定されるものではない。
【0091】
実施例1:タンパク質とPEGとの(二相性)混合物における、タンパク質の放出及び安定性
37℃で3か月より長く安定した状態を保つ100mg/ml~300mg/mlのタンパク質を含有するアフリベルセプト製剤を開発した。様々な水溶液中総濃度のアフリベルセプトタンパク質を、様々な溶液中濃度の1モル当たり3,350グラムの分子量を有するポリエチレングリコール(PEG3350)と組み合わせた。一実験では、5mg/ml~50mg/mLのアフリベルセプトを45mg/ml~150mg/mlのPEG3350と組み合わせた。液体アフリベルセプトの組み合わせの溶解性(黒塗りの丸)をPEG3350の濃度に対してプロットした(図10)。液体アフリベルセプトの対数溶解性をPEG3350の濃度に対してプロットした(黒塗りの菱形、図11)。すべての濃度のアフリベルセプトから、図10に表したのと実質的に同じ溶解性曲線が生成された。
【0092】
別の実験では、凍結乾燥したアフリベルセプトを乾燥PEG3350(スクロースが共に含まれる)と組み合わせ、次いで実験用のPEG3350濃度に達するように再構成した。結果を図10(白抜きの丸)及び図11(黒塗りの四角)に示す。それによって、PEGの濃度が増加するとアフリベルセプトの溶解性が低減することが示される。再構成した固体タンパク質(図11の黒塗りの四角)と最初の液体タンパク質(図11の黒塗りの菱形)との間の傾き(すなわち、溶解性)の相違は、スクロース含有量の相違が原因であり、固体または液体としての出発タンパク質の物理的状態が原因ではないと思われる。固体アフリベルセプトはスクロースを含んでいたのに対して、液体アフリベルセプトは含んでいなかった。30mg/mlのPEG3350では、アフリベルセプトの溶解性は影響されない(例えば、影響されるのは少なくとも45mg/mlである)。可溶性アフリベルセプトの濃度、ならびに総アフリベルセプトのうちその元の立体構造を保持する割合も決定した。超高速サイズ排除クロマトグラフィ(UP-SEC)によって決定すると、アフリベルセプト純度は、30~150mg/mlのPEG3350を有するすべての溶液(液体及び固体を再構成したもの)において、95%超のままであった。
【0093】
沈殿した(液体製剤実験)または溶液から除かれた(再構成実験)アフリベルセプトが、その後可溶化できるか及び元の立体構造を保持できるかを試験するために、アフリベルセプト/PEG混合物を、150mg/mlPEGから30mg/mlPEG(これは、アフリベルセプトの溶解性を制限しないように予め決定されている)まで希釈した。ここでは、実質的にアフリベルセプトのすべてが回収され、98%超が元の立体構造を有していた(表2)。
【0094】
【表2】
【0095】
実施例2:放出制御リザーバデバイス
タンパク質を放出制御するためのリザーバデバイスを、透過性薄膜ポリカプロラクトン(PCL)から製造した。デバイスの筐体は、抗体または受容体-Fc融合二量体を透過させない非多孔質PCL、及びナノチャネルまたはミクロ細孔のいずれかを含む多孔質膜PCLの条片を含有していた。多孔質膜は、型取りしてチャネルを形成することによって、またはPEGをポロゲンとして使用して蛇行する細孔を形成することによって製作した。
【0096】
膜に細孔を製造する方法は、Bernards et al,“Nanostructured thin film polymer devices for constant-rate protein delivery,”12 NanoLett 5355-61(2012);He et al,“Use of a nanoporous biodegradable miniature device to regulate cytokine release for cancer treatment,”151(3) J.Control Release 239-45(2011);Gin and Noble,“Designing the Next Generation of Chemical Separation Membranes,”332 Science 674-676(2011);Wirtz et al,“Transport properties of template synthesized gold and carbon nanotube membranes,”1(3,4) Int.J.Nanoscience 255 (2002);及びLi et al,“Preparation and characterization of chitosan nanopores membranes for the transport of drugs,”420(2) Int.J.Pharm.371-7(2011)に記載されている。
【0097】
ナノチャネル多孔質PCL膜(「ナノPCL」)は、直径およそ20nmの細孔を含んでおり、それを約500nmの厚さにキャストした。ナノPCL膜を、構造的完全性のためにミクロ多孔質のバッキング層に施した。このミクロ多孔質膜(「mpPCL」)は、1ミクロン未満と推定される連通孔径を有する、断面直径約1~2ミクロンの細孔を含有していた。Bernards,2012を参照されたい。
【0098】
mpPCL薄膜のリザーバデバイスを、非多孔質PCLフィルム及び多孔質PCLフィルムを両方キャストすることによって製作した。次いで多孔質フィルムの2つの部分の間に多孔質フィルムの条片を、接合部をヒートシールすることによって接合した。得られた複合フィルム(すなわち、多孔質条片を含有する非多孔質フィルム)を棒状の型を使用して巻いて円柱(チューブ)にし、一端をヒートシールし、他端を開いたままとした。原薬(後述)を開口端部内に装填し、次いで開口端部をヒートシールした。PCL膜は、ポリジメチルシロキサンの内部または間に包埋された、電源によって制御される電熱式のニクロム線を使用してヒートシールした。
【0099】
一デバイスでは、3~4mgのアフリベルセプトタンパク質を、直径約1~1.5mm、及び長さ約8~10mmを有するPCLチューブ内に装填した。
【0100】
デバイスからのタンパク質の放出速度に影響するパラメータを試験した。これらのパラメータには、膜設計(すなわち、ナノPCL対mpPCL)、膜厚(28μm、63μm、及び106μm)、及び多孔質表面積(23mm対60mm)が含まれる。50日間にわたる放出速度は、mpPCL設計の方がナノPCL設計と比較しておよそ一桁速かった。多孔質「窓」の表面積も、放出速度に大幅に影響した。60mmの面積の多孔質構造体を有し、3mgのアフリベルセプトを装填したデバイスは、1日当たり約105μgのアフリベルセプトを放出した。23mmの面積の多孔質構造体を有し、3mgのアフリベルセプトを装填したデバイスは、1日当たり約42μgのアフリベルセプトを放出した。
【0101】
窓の表面積は放出速度に影響したが、膜厚は影響しなかった。よって、多孔質構造体の表面積を変化させることによって、デバイスのサイズとは無関係にタンパク質の放出速度を制御することができる。この実施例では、アフリベルセプトの溶解性を10mg/mLに制限してリザーバ濃度を一定に保ち、それにより、多孔質の面積を操作することによってタンパク質の放出速度を制御できるようにした。
【0102】
実施例3:リザーバデバイスからのタンパク質の放出
PCLリザーバデバイスからのタンパク質の放出速度は、可溶性タンパク質の濃度及び多孔質構造体の表面積に依存した。PEG3350/アフリベルセプトの二相の組み合わせを装填したPCLデバイスを水性環境に曝露した。デバイスから放出されるアフリベルセプトを経時的に測定した。
【0103】
一実験では、可溶性相中のアフリベルセプトの濃度を、PEG3350の濃度に応じて約5mg/mlから約45mg/mlに変化させた。多孔質構造体の表面積は、約23mmに一定に保った。ここでは、アフリベルセプトの可溶性相の濃度が約6mg/mlであったとき、放出速度は約0.32μg/日-mmであった。アフリベルセプトの可溶性相の濃度が約46mg/mlであったとき、放出速度は約3.3μg/日-mmであった(図12)。
【0104】
別の実験では、PEG3350の濃度を70mg/mlにして可溶性相のアフリベルセプトの濃度を約7mg/mlに一定に保ち、多孔質構造体の表面積を約13mmから約45mmに変化させた。ここでは、多孔質窓の表面積が約13mmであったとき、タンパク質は1mg/ml当たり約0.49μg/日の速度で放出された。多孔質窓の表面積が約45mmであったとき、タンパク質は1mg/ml当たり約4.9μg/日の速度で放出された(図13)。
【0105】
PCLデバイス内の二相性アフリベルセプト混合物からの可溶性アフリベルセプトの安定性及び放出速度を、緩衝された生理的に等張な溶液中37℃で、ある期間にわたって評価した。PCLデバイスの多孔質構造体面積は、約30~45mmであった。各デバイスに約2.7mg~3.7mgのアフリベルセプトを装填した。一実験では、PEG3350の濃度は約100mg/mlであり、可溶性相のアフリベルセプトの濃度は約2mg/mlであった(図14A)。
【0106】
別の実験では、PEG3350の濃度は約70mg/mlであり、可溶性相のアフリベルセプトの濃度は約7mg/mlであった(図14B)。モデル生理的条件下で35日後に、70mg/mlのPEG及び100mg/mlのPEGのリザーバでの放出速度の間に顕著な差は観察されなかった。平均放出速度は、両方の一連の実験にわたって約40μg/日±10μg/日であった(図15A及び15B)。
【0107】
別の実験では、PEG3350の濃度は80mg/mL±20mg/mLであり、アフリベルセプトの総濃度(可溶性+不溶性)は約60mg/mL~約210mg/mLであった。デバイスからの可溶性アフリベルセプトの放出速度は、1日当たり約0.03mg~約0.055mgの範囲であった(表3)。デバイスから放出された可溶性アフリベルセプトの経時的な安定性を、それぞれの時点の試料に残存するアフリベルセプトモノマーの相対量を定量化することによって評価した。モノマーのアフリベルセプトの相対量を、図15において純度パーセント(%)として示す。モノマーを高速サイズ排除クロマトグラフィによって定量化した。PEG3350(80mg/mL±20mg/mL)を含有するデバイスから放出されたアフリベルセプトの純度パーセントを、スクロースのみを含有し、PEGを含まないデバイスから放出されたアフリベルセプトの純度パーセントと比較した。61日目にデバイスから放出されたアフリベルセプトのおよそ85%が、モノマーのままであった。その結果を図15に示す。
【0108】
【表3】
【0109】
実施例4:二相性製剤を含有するナノ/ミクロ多孔質デバイス
1枚のミクロ多孔質またはナノ多孔質のPCLフィルムを、ヒートシールを使用して2枚の非多孔質PCLフィルムの間に接合した。ヒートシールは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)の2枚の平板の間に包埋したニッケルクロム線の上でフィルムを位置合わせすることによって行った。この線は、線に電流を通すことによって加熱した。次いでフィルムを、目的のデバイスの寸法に基づいて選択された直径を有する円柱形の型の周りに巻きつけた。フィルムを、次いで円柱の縦軸に沿って及び円柱の一端をヒートシールして、開放された一端を有する中空の円柱を作成した。凍結乾燥したタンパク質を円柱形のペレットに圧縮し、開口端部を通してリザーバ内に装填した。PEG3350を同様にペレットにし、円柱の開口端部を通して装填した。
【0110】
それぞれの装填ステップの前後に、デバイスを計量して、装填した質量を決定した。次いで、同じヒートシール方法を使用して、開口端部に沿ってデバイスをシールした。PEG3350の装填量を、装填した質量及び水和量に基づいて算出し、水和量は水和前後のデバイスの重量の差を算出することによって求めた。
【0111】
装填したデバイスを、pH7.2の平衡塩類溶液様(BSS様)中37℃でインキュベートした。それぞれの時点で、デバイスをBSS様媒体から取り出し、次いで新たな一定分量のBSS様媒体に入れ、インキュベーションに戻した。デバイスを取り出した放出媒体は、解析のために保持した。それぞれの時点で、試料をUP-SECによって解析して、タンパク質放出の量及びタンパク質の純度%を定量化した。放出されたタンパク質の純度%を図15に示す。タンパク質放出の速度は、可溶性タンパク質の濃度と直接相関した(図12)。
【0112】
PEGの濃度が増加するとタンパク質の溶解性が減少し、約0.05mg/mLである最小可溶性濃度になるまでタンパク質の安定性は増大した。PEGは、デバイスリザーバ内のタンパク質の溶解性を制限することによって拡散の推進力を制限した。すなわち、リザーバ内の可溶性相のタンパク質濃度を下げると、生理的環境と製剤との間のタンパク質濃度の差が減少し、デバイスリザーバからのタンパク質放出の速度が低減した。PEGはまた、溶解性を制限することによって、残存するタンパク質の総量がタンパク質の溶解性の限界未満になるまで、デバイスリザーバ内で一定のタンパク質濃度を維持した。
【0113】
実施例5:インビボでの受容体-Fc融合タンパク質の放出
PEG及びおよそ1.6ミリグラムの二相性アフリベルセプトを装填したミクロ多孔質PCLデバイスを、アフリカミドリザルの硝子体内に埋め込んだ(第2群)。対照のサルは、アフリベルセプトを含有していないミクロ多孔質PCLデバイスを受容した(第1群)。埋め込みから様々な日数の後に、対照群(第1群)及び実験群(第2群)から組織試料を採取した。各試料中のアフリベルセプトの量を、VEGFを捕捉分子として用いるELISAを使用して決定した。
【0114】
薬物を含まないデバイスを受容した動物から採取した血漿試料中(第1群)、またはその後アフリベルセプトを装填したデバイスを受容した動物からのベースライン血漿試料中(第2群)には、遊離または結合したアフリベルセプトは検出されなかった。第2群の動物から採取した少なくとも1つの血漿試料中に、遊離アフリベルセプトが検出された。第2群の4匹の動物のうち3匹から採取された血漿試料中に、結合したアフリベルセプトが検出されたことから、活性タンパク質がデバイスから放出されたこと、及び標的組織中の内在性VEGFと結合可能であったことが示される。
【0115】
第2群の4匹の動物すべてから採取された房水試料に、遊離アフリベルセプトが検出された。第2群の動物のうち少なくとも1匹の硝子体内に、結合したアフリベルセプトが検出され、第2群の動物のうち少なくとも1匹の脈絡膜及び網膜試料中に、遊離アフリベルセプトが検出された。第1群の動物から採取された房水、脈絡膜、網膜、または硝子体試料には遊離アフリベルセプトは検出されなかった。
【0116】
これらの結果から、アフリベルセプトはインビボで眼内に放出され、二相性アフリベルセプトを充填したミクロ多孔質デバイスから標的環境に移動することが示される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15