(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】ブルガダ症候群関連バイオマーカーの検出
(51)【国際特許分類】
G01N 33/564 20060101AFI20240902BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240902BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20240902BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240902BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240902BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240902BHJP
A61P 9/06 20060101ALI20240902BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20240902BHJP
【FI】
G01N33/564 Z
G01N33/53 N
G01N33/543 575
G01N33/543 545A
G01N33/543 541B
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P43/00 105
A61P9/00
A61P9/06
C07K16/18 ZNA
(21)【出願番号】P 2022512471
(86)(22)【出願日】2020-05-01
(86)【国際出願番号】 CA2020050578
(87)【国際公開番号】W WO2020220136
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2023-04-28
(32)【優先日】2019-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521481647
【氏名又は名称】ザ ホスピタル フォー シック チルドレン
【氏名又は名称原語表記】THE HOSPITAL FOR SICK CHILDREN
【住所又は居所原語表記】Peter Gilgan Centre for Learning and Research(PGCR),3rd Floor,686 Bay Street,Toronto,Ontario M5G 0X4 Canada
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ハミルトン,ロバート
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-131322(JP,A)
【文献】特表2011-528804(JP,A)
【文献】Rachel M. Hudacko et al.,Clinical and Biologic Importance of F-Actin Autoantibodies in HCV Monoinfected and HCV-HIV Coinfected Patients,Am J Clin Pathol,2010年,Vol.134,PP.228-234
【文献】Christa E. Osuna et al.,Autoantibodies Associated with Prenatal and Childhood Exposure to Environmental Chemicals in Faroese Children,TOXICOLOGICAL SCIENCES,142(1),2014年08月14日,PP.158-166
【文献】Ana Maria et al.,Cardiac Autoantibodies from Patients Affected by a New Variant of Endemic Pemphigus Foliaceus in Colombia, South America,J Clin Immunol. ,2011年12月31日,31(6),PP.985-997.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブルガダ症候群の検査に用いられる、哺乳動物におけるアクチン、コネキシン43およびケラチンのそれぞれに対する自己抗体を検出対象として検出する方法であって、
1)哺乳動物から得た生体試料を、アクチン、コネキシン43、ケラチンの各抗原またはこれらの抗原断片と接触させて、各抗原に検出対象の前記自己抗体を結合させる工程、および
2)各抗原と検出対象の前記自己抗体との結合を検出することにより、前記試料中の該自己抗体の存在を検出する工程
を含む方法。
【請求項2】
前記アクチンが、心筋α-アクチン(ACTC1)、骨格筋α-アクチン(ACTA1)、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ケラチンがケラチン24である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アクチン、前記ケラチンおよび前記コネキシン43が、ヒト由来のタンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
使用されるアクチンの抗原断片が、配列番号1または配列番号2の少なくとも約10個のアミノ酸からなる配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
使用されるケラチンの抗原断片が、配列番号3の少なくとも約10個のアミノ酸からなる配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
使用されるコネキシン43の抗原断片が、配列番号4の少なくとも約10個のアミノ酸からなる配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記抗原または前記抗原断片が、固体支持体に結合した状態である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
各抗原に結合した、検出対象の前記自己抗体が、標識二次抗体を用いて検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記二次抗体が、酵素標識、蛍光標識、アフィニティ標識、または放射性標識で標識されている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ELISAである請求項1に記載の方法。
【請求項12】
ウェスタンブロッティング法である請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記生体試料が血清試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
哺乳動物におけるブルガダ症候群
の診断
を補助する方法であって、
1)哺乳動物から得た生体試料を、アクチン、コネキシン43、ケラチンの各抗原またはこれらの抗原断片と接触させて、各抗原に、検出対象としての各抗原に対する自己抗体を結合させる工程、
および
2)各抗原と検出対象の前記自己抗体との結合を検出することにより、前記試料中の該自己抗体の存在を検出する工
程
を含む方法。
【請求項15】
前記アクチンが、心筋α-アクチン(ACTC1)、骨格筋α-アクチン(ACTA1)、またはこれらの組み合わせを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ケラチンがケラチン24である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記アクチン、前記ケラチンおよび前記コネキシン43が、ヒト由来のタンパク質である、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
使用されるアクチンの抗原断片が、配列番号1または配列番号2の少なくとも約10個のアミノ酸からなる配列を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
使用されるケラチンの抗原断片が、配列番号3の少なくとも約10個のアミノ酸からなる配列を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
使用されるコネキシン43の抗原断片が、配列番号4の少なくとも約10個のアミノ酸からなる配列を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
前記抗原または前記抗原断片が、固体支持体に結合した状態である、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
各抗原に結合した、検出対象の前記自己抗体が、標識二次抗体を用いて検出される、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
前記二次抗体が、酵素標識、蛍光標識、アフィニティ標識、または放射性標識で標識されている、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ELISAである請求項14に記載の方法。
【請求項25】
ウェスタンブロッティング法である請求項14に記載の方法。
【請求項26】
前記生体試料が血清試料である、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般にブルガダ症候群に関するものであり、特にブルガダ症候群の診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブルガダ症候群(BrS)は、心臓の電気的活動に異常が生じる常染色体優性遺伝性疾患である。BrSとその関連疾患である「早期再分極症候群(ERS)」を合わせて「J波症候群」と呼ぶ。この疾患は、東南アジアでは「夜間突然死症候群」と呼ばれ、地域ごとに、タイでは「Lai Tai(夢を見ながら唸り声をあげて死ぬ)」、ベトナムでは「Tsob Tsuang(悪夢のような死の症候群)」、フィリピンでは「Bangungut(寝ている間に起き上がってうめき声をあげる)」、台湾では「Phi Am(未亡人の幽霊)」、日本では「ポックリ病」、韓国では「Dolyeonsa」、ハワイでは「Dream Disease」、中国では「Sudden manhood death syndrome」と呼ばれている。
【0003】
BrSでは、心電図(ECG)で右前胸部誘導のコーブド型(弓型)のST上昇という特徴が見られるが、この特徴の出現は一過性であることが多い。ブルガダ型心電図パターンは、通常、右室流出路(RVOT)上の前胸部誘導で認められ、標準の誘導V1~V3、または胸部誘導の位置を高めに変更した胸部高位肋間誘導で認められる。この局所的な異常とともに、この部分で肥大と炎症の所見が認められることが、いくつかの研究で報告されている。また、局所的な異常とともに、RVOTの心外膜表面でも非定型的な心電図が認められ、この部分の心外膜アブレーションにより、ほとんどの患者でブルガダ症候群に関連する心室細動エピソードを防ぎ、心電図を正常化させることができる。BrSは、若年成人(特に男性)における突然死リスクが比較的高いが、小児や乳児でも突然死が起こる場合がある。BrSのイベントは、発熱、アルコール、過食、迷走神経の緊張、および特定の薬剤によって悪化する。
【0004】
BrSの有病率は、カナダでは2000人に1人の割合であり、患者数は約18,000人を超えると推定されている。東南アジアでは、BrSの有病率はさらに高い。日本などの地域におけるブルガダ型心電図を示す人の割合は0.05~0.6%であるという研究結果がある。ブルガダ症候群は、予期せぬ突然死の原因の4~12%を占めており、心臓が一見正常に見える人の突然死の原因の最大20%を占めている。東南アジアでは、ブルガダ症候群は、40歳未満の男性の死亡原因として、事故に次いで2番目に多い。
【0005】
BrSの簡便で正確な検査法がないため、カナダで推定18,000人とされる患者の大半に対して診断、評価や管理が行われていない。臨床的な同定は、特定の心電図パターンに依存しているが、その心電図パターンも一過性であることが多く、また薬物による誘発を必要とする場合もある。遺伝子診断では、罹患した患者や家族の75%を同定できていない。ブルガダ症候群患者の25%でナトリウムチャネルSCN5Aの変異が確認されているが、それ以外に因果関係が証明されている遺伝的要因は見つかっていない。この疾患の発症リスクのある人を同定することは困難である。BrSでは、発症前疾患を同定できる簡便で正確な検査法がないため、カスケードスクリーニング(他の遺伝性不整脈疾患では主要な手段)は困難である。主徴候により少数のハイリスク者が同定され、自発性1型ブルガダ心電図パターンにより軽度なリスクは同定されるが、BrS患者のリスク層別化は不完全である。
【0006】
したがって、BrSの診断を十分に行うことができる簡便で感度の高い検査法を開発することが望まれている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らにより、ブルガダ症候群に関連した、特定のタンパク質に対する特異な自己抗体シグネチャーが同定された。したがって、この自己抗体シグネチャーを確認することは、哺乳動物におけるブルガダ症候群の診断や、場合によっては治療にも有用である。
【0008】
したがって、本発明の一態様において、哺乳動物におけるアクチン、コネキシン43およびケラチンのそれぞれに対する自己抗体を検出対象として検出する方法が提供される。この方法は、
1)哺乳動物から得た生体試料を、アクチン、コネキシン43、ケラチンの各抗原またはこれらの抗原断片と接触させて、各抗原に検出対象の前記自己抗体を結合させる工程、および
2)各抗原と検出対象の前記自己抗体との結合を検出することにより、前記試料中の該自己抗体の存在を検出する工程
を含む。
【0009】
本発明の別の一態様において、哺乳動物におけるブルガダ症候群を診断する方法が提供される。この方法は、
1)哺乳動物から得た生体試料を、アクチン、コネキシン43、ケラチンの各抗原またはこれらの抗原断片と接触させて、各抗原に自己抗体を結合させる工程、
2)アクチン、コネキシン43、ケラチンの各抗原と各抗原に対する自己抗体との結合を検出することにより、アクチン、コネキシン43、ケラチンのそれぞれに対する自己抗体の存在を検出する工程、および
3)検出対象の前記自己抗体の存在が検出された場合に、前記哺乳動物をブルガダ症候群と診断する工程
を含む。
【0010】
本発明のさらなる一態様において、哺乳動物におけるブルガダ症候群を診断して治療する方法が提供される。この方法は、
1)哺乳動物から得た生体試料を、アクチン、コネキシン43、ケラチンの各抗原またはこれらの抗原断片と接触させる工程、
2)アクチン、コネキシン43、ケラチンの各抗原と各抗原に対する自己抗体との結合を検出することにより、アクチン、コネキシン43、ケラチンのそれぞれに対する自己抗体の存在を検出する工程、
3)検出対象の前記自己抗体の存在が検出された場合に、前記哺乳動物をブルガダ症候群と診断する工程、ならびに
4)植込み型除細動器、カテーテルアブレーション、ならびにクラスIA抗不整脈薬、β-アドレナリン作動薬およびホスホジエステラーゼIII阻害薬から選択される薬剤のうちの1つ以上で前記哺乳動物を治療する工程
を含む。
【0011】
本発明におけるこれらの態様およびその他の態様は、下記の詳細な説明を参照することにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ヒト心筋α1アクチンとヒト骨格筋α1アクチンのそれぞれのアミノ酸配列を示したものである。
【0013】
【
図2】ケラチン24のアミノ酸配列を示したものである。
【0014】
【
図3】コネキシン43のアミノ酸配列を示したものである。
【0015】
【
図4】ブルガダ症候群に関わる自己抗体の同定方法を示した模式図である。
【0016】
【
図5】ブルガダ症候群患者の試料と健常対照者の試料を用いたウェスタンブロット分析の結果である。
【0017】
【
図6】発見コホートおよび検証コホートと対照群における(A)コネキシン43、(B)心筋α-アクチン、(C)骨格筋α-アクチン、および(D)ケラチン24のそれぞれに対する抗体量を示した酵素結合免疫吸着測定(ELISA)の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1の態様において、哺乳動物におけるアクチン、コネキシン43およびケラチンのそれぞれに対する自己抗体を検出対象として検出する方法が提供される。この方法は、哺乳動物から得た生体試料を、アクチン、コネキシン43、ケラチンの各抗原またはこれらの抗原断片と接触させ、各抗原と検出対象の前記自己抗体との結合を検出することにより、該試料中の該自己抗体の存在を検出することを含む。
【0019】
哺乳動物から得た生体試料は、一般的には全血、血漿、血清などの血清試料であるが、唾液、尿、脳脊髄液などの体液であってもよい。前記生体試料としては、非侵襲的に得られる液体が好ましい。前記生体試料は、当技術分野で確立された方法を用いて、哺乳動物から直接採取してもよく、哺乳動物から採取して、後で使用するために適切に保存した(例えば、4℃で保存した)試料であってもよい。少なくとも約100μlの試料容量、例えば100μlの希釈ヒト血清(ブロッキングバッファーで1:100に希釈したもの)を用いて、本発明の方法を実施してもよい。
【0020】
本明細書において「哺乳動物」という用語は、ヒトおよびヒト以外の哺乳動物を表すものであり、例えば、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、げっ歯類などが例として挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
前記試料を、アクチン、コネキシン43およびケラチン(これらのタンパク質の全長体またはその抗原断片を含む)とそれぞれ接触させる。
【0022】
本明細書において、アクチンは、哺乳動物のアクチン、特にアイソフォームとしての心筋α-アクチン(ACTC1)および/または骨格筋α-アクチン(ACTA1)を表す。アクチンは、ATPを加水分解する酵素として高度に保存されているタンパク質である。ヒト心筋α1アクチンとヒト骨格筋α1アクチンのアミノ酸配列をそれぞれ
図1A)とB)に示す。また、機能的に同等なアイソフォームや、機能に影響を与えないアミノ酸置換を含む機能的に同等なバリアントも含まれ、例えば、異種のバリアントタンパク質も含まれる。「機能的に同等」という用語は、野生型タンパク質の機能を保持するアイソフォームおよびバリアントであることを表しているが、これらは、必ずしも野生型タンパク質と同程度の機能を保持している必要はなく、野生型タンパク質の機能を少なくとも部分的に保持していればよく、例えば、野生型タンパク質の活性の少なくとも約25%以上を保持していればよい。アクチンの抗原領域、例えば、抗体結合部位を含む領域は、本発明の方法で用いるアクチンの抗原断片を調製するために使用することができる。一実施形態において、アクチンの抗原断片は、アクチンのN末端領域、例えばN末端領域の30アミノ酸以内の領域から調製することができる。本明細書において「抗原断片」という用語は、検出対象の抗体が結合するエピトープを含む抗原の断片を表す。抗原断片は、様々な大きさの断片であってよく、例えば、12~20個のアミノ酸、またはそれ以上のアミノ酸、例えば、30アミノ酸、40アミノ酸、50アミノ酸もしくはそれ以上のアミノ酸で構成されていてもよい。
【0023】
コネキシン43は、ギャップジャンクションα1タンパク質(GJA1)とも呼ばれ、ギャップジャンクションの構成要素の1つである。ギャップジャンクションは、隣接する細胞同士をつなぐ細胞間チャネルであり、低分子イオンやセカンドメッセンジャーなどの低分子の交換を可能にし、恒常性を維持する役割を果たす。このタンパク質は、N末端領域とC末端領域、および複数の膜貫通型ドメインを含む。本明細書において、コネキシン43には、哺乳動物のコネキシン43タンパク質が包含される。ヒトのコネキシン43のアミノ酸配列を
図3に示す。また、機能的に同等なアイソフォームや、機能に影響を与えないアミノ酸置換を含む機能的に同等なバリアントも含まれ、例えば、異種のバリアントタンパク質も含まれる。コネキシン43の抗原領域は、例えば、コネキシン43のC末端の最初の230個のアミノ酸を含む。
【0024】
ケラチンは繊維状の構造タンパク質である。本明細書において、ケラチンは、哺乳動物のケラチンを表し、ケラチン1~20、さらにその他のケラチン化合物として、ケラチン23~28、ケラチン31~40などを含む。標的となるケラチンは、心臓で発現するケラチンであってもよく、例えば、ケラチン8、ケラチン18、ケラチン23および/またはケラチン24などの1型(酸性)ケラチンが例として挙げられるが、これらに限定されない。ヒトケラチン24のアミノ酸配列を
図2に示す。また、機能的に同等なアイソフォームや、機能に影響を与えないアミノ酸置換を含む機能的に同等なバリアントも含まれ、例えば、異種のバリアントケラチンタンパク質も含まれる。ケラチンの抗原領域、例えば、抗体結合部位を含む領域は、本発明の方法で用いるケラチンの抗原断片を調製するために使用することができる。例えば、ケラチンの抗原領域は、ケラチンの第120~400番目のアミノ酸の全部または一部を含んでいてもよい。
【0025】
アクチン、コネキシン43、ケラチンの各抗原またはこれらの抗原断片は、検出対象の前記自己抗体が捕捉されるように、ニトロセルロース膜、ポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜、カチオン性ナイロン膜などの固体支持体に結合した状態であるか、固定化されていることが好ましい。当業者には公知であるが、このような固体支持体上での非特異的な結合を防ぐために、該支持体上で自由に結合できる部位を、適切なブロッキングバッファー、例えば、ミルク、通常血清、または精製タンパク質を用いてブロッキングする。このアッセイでは、固体支持体上のタンパク質と自己抗体との結合に適した条件を採用する。例えば、適切なバッファー中で適切な温度でインキュベートする。結合が形成されるまで十分に時間を置いた後、固体支持体を洗浄して、未結合の物質および/または非特異的に結合した物質を除去する。トリス緩衝生理食塩水(TBS)やリン酸緩衝生理食塩水(PBS)などの生理的緩衝液を使用してもよく、界面活性剤などの添加剤(例えば、0.05% Tween(登録商標) 20)をさらに添加してもよい。
【0026】
次に、標的タンパク質であるアクチン、コネキシン43、およびケラチンに結合した自己抗体、またはこれらの抗原断片に結合した自己抗体を検出することにより、試料中の検出対象の前記自己抗体の存在を確定する。この目的のために、ウェスタンブロッティングなどの手法または酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)などの免疫測定法を用いてもよい。また、他の抗体検出法を用いてもよい。
【0027】
一実施形態において、各抗原に結合した、検出対象の前記自己抗体は、該自己抗体と結合する検出可能な二次抗体を用いて検出される。使用した試料がヒトの試料である場合は、抗ヒト二次抗体を使用することができる。例えば、免疫グロブリンG(IgG)などのヒト免疫グロブリンに対するヒト以外の哺乳動物(例えば、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット、ニワトリ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ロバなど)由来の抗ヒト抗体を使用することができる。使用した試料がヒト以外の試料である場合は、例えば、別のヒト以外の哺乳動物から得られる抗体などの適切な二次抗体を用いて、検出対象の前記自己抗体を検出する。各抗原に結合した、検出対象の前記自己抗体を検出するために、前記試料と二次抗体を、結合に適した条件で接触させ、その後、洗浄して未結合の試薬抗体を除去する。この二次抗体は、確立されたプロトコールにより、自己抗体との結合前または結合後に、適切な検出可能なラベルで標識される。適切な標識としては、グルコースオキシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(AP)などの酵素標識、臭化エチジウム、フルオレセイン、ローダミン、フィコエリスリン、シアニン、クマリン、緑色蛍光タンパク質およびこれらの誘導体などの蛍光標識、ビオチン/ストレプトアビジン標識などのアフィニティ標識、または放射性標識が挙げられるが、これらに限定されない。次いで、当業者に公知の方法を用いて、選択した標識の存在を検出することにより、検出対象の前記自己抗体の存在を検出する。例えば、酵素標識を検出する場合は、適切な酵素基質を前記試料に添加し、発色、化学発光、または蛍光の強度により酵素活性を測定する。HRPの基質としては、3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン、3,3'-ジアミノベンジジン、2,2'-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)などの発色性基質、またはルミノールなどの化学発光性基質がよく用いられる。APの基質としては、4-ニトロフェニルホスフェート、4-メチルウンベリフェリルホスフェートなどの発色性基質がよく用いられる。ビオチンとストレプトアビジンの結合も同様に検出することができる。
【0028】
前記試料中の検出対象の前記自己抗体を検出するために、上記以外の方法を使用できることは当業者であれば理解できるであろう。例えば、マイクロパーティクル酵素免疫吸着法(MEIA)は、液体中に懸濁させた非常に小さなマイクロパーティクルを固相支持体として利用する技術である。マイクロパーティクルには、特異的な試薬抗体が共有結合している。この固定化抗体に、抗原または標的タンパク質(例えば、アクチン、コネキシン43、ケラチン、またはこれらの抗原断片)を結合させる。このマイクロパーティクルに試料を加えると、検出対象の前記自己抗体が試料中に存在する場合は、マイクロパーティクル表面の抗原に結合する。検出対象の前記抗体の結合は、酵素を用いた検出反応によって検出される。具体的には、検出対象の前記自己抗体に酵素を結合させ、マイクロパーティクルを含む反応混合物に酵素基質を加え、発せられた蛍光を検出する。
【0029】
また、ラテックス粒子に抗原(すなわち、標的タンパク質またはその抗原断片)をコーティングして行うラテックス凝集法を用いてもよい。このラテックス粒子に試料を加えると、検出対象の前記自己抗体が試料中に存在する場合は、対応する抗原と結合し、その結果、ラテックス粒子が凝集する。標的タンパク質は3種類あるため、この方法では、タンパク質ごとに別々で調べて、それぞれの自己抗体の存在を確認する必要がある。
【0030】
また、LUMABS(LUMinescent AntiBody Sensor)と呼ばれる抗体センサープラットフォームを使用してもよい。このプラットフォームは、生物発光共鳴エネルギー移動(BRET)を利用したものであり、溶液中で直接抗体を検出することができる。LUMABSは、青色に発光するルシフェラーゼ「NanoLuc」と緑色に発光するアクセプタータンパク質「mNeonGreen」を、セミフレキシブルリンカーを介して連結し、ヘルパードメインを用いて近接させて一体化させたタンパク質センサーである。このリンカーの両側に存在する標的エピトープ配列に抗体が結合すると、ヘルパードメイン間の相互作用が阻害され、その結果、BRET効率が大きく低下する。これに伴って起こる緑青色から青色への発光色の変化は、血漿中で直接検出することが可能であり、ピコモル濃度の抗体でも検出可能である。この場合も、標的タンパク質が3種類あるため、タンパク質ごとに別々に調べて、それぞれの自己抗体の存在を確認する必要がある。
【0031】
哺乳動物の試料中に検出対象の前記自己抗体が検出された場合、その哺乳動物がブルガダ症候群であることが示唆される。さらに、これらの自己抗体のレベルは疾患の負担と相関しており、例えば、非ブルガダ症候群、ブルガダ症候群の可能性、境界型ブルガダ症候群、またはブルガダ症候群の診断確実といった、疾患の分類、診断カテゴリー、または診断の確度もこれらの自己抗体のレベルにより決定することができる。このように、検出対象の前記自己抗体のうち1つ以上のレベルが高いほど、疾患の負担は大きくなる。
【0032】
検出対象の前記自己抗体のレベルは、検出方法によって生じるシグナルの強度、例えば、ELISAを用いた場合の吸光度、ウェスタンブロッティングを用いた場合のバンド強度などと相関する。例えば、ELISAを用いた場合、非ブルガダ症候群と境界型ブルガダ症候群の間の吸光度のカットオフポイント(境界値)は、約0.05、約0.07、約0.08、約0.10、約0.12、約0.13またはそれ以上、例えば0.1~0.12である。一実施形態において、ブルガダ症候群は、希釈した試料中の、アクチン、コネキシン43、ケラチンのそれぞれの特異的エピトープに対する抗体の存在によって同定することができ、試料の希釈率は、試料の性質により異なるが、少なくとも約1:50以上の範囲から選択される。例えば、唾液やその他の非血清試料の場合は、少なくとも約1:50以上の希釈率が適切であり、血清試料の場合は、少なくとも約1:100の希釈率、例えば、1:100~1:1000の範囲の希釈率が適切である。
【0033】
このように、本発明の方法により、高感度(例えば、75%より高い感度、80%より高い感度、85%より高い感度、または90%より高い感度を示す)と高特異性(例えば、75%より高い特異性、80%より高い特異性、85%より高い特異性、または90%より高い特異性を示す)の両方を備え、臨床診断および疾患の予測に容易に適応できる、ブルガダ症候群の診断のための新規の検査、例えば、血清検査が提供される。
【0034】
アクチン、コネキシン43、ケラチンのそれぞれに対する自己抗体の存在によりブルガダ症候群と診断された哺乳動物は、これらの自己抗体のうちの少なくとも1つを標的として、当該自己抗体のうちの1つ以上を不活性化する治療法による処置が施されてもよい。このような治療法には、検出対象の前記自己抗体のうちの1つ以上に結合して該自己抗体を少なくとも部分的に不活性化するタンパク質、ペプチド、低分子、抗体などの化合物を用いた処置が含まれる。このような化合物は、単独で使用してもよいし、前記自己抗体の不活性化を補助する物質と結合させた形で使用してもよい。
【0035】
そのような一実施形態において、例えば、T細胞などの免疫細胞を、自己抗原(例えば、アクチン、コネキシン43、ケラチン、またはこれらの抗原断片)と細胞質シグナル伝達ドメインを含むキメラ自己抗体受容体(CAAR)を発現するように遺伝子組換えしてもよい。検出対象の前記自己抗体に特異的な抗原断片は、標的タンパク質の抗原領域の少なくとも約10~50個のアミノ酸を含む。この抗原断片が、2つの領域の各領域内の連続するアミノ酸を全部または一部含んでいてもよく、2つの領域の一方の領域内の連続するアミノ酸を全部または一部含んでいてもよいことは当業者であれば理解できるであろう。前記自己抗原を、膜貫通ドメイン(例えば、二量体を形成することができるCD8α)とCD137-CD3ζなどの細胞質シグナル伝達ドメインと融合させる。このような組換えT細胞は、標的タンパク質に特異的に結合して不活性化する細胞、すなわち検出対象の前記自己抗体を標的とする。
【0036】
また、本発明の別の実施形態において、ブルガダ症候群と診断された哺乳動物は治療が施されてもよい。治療の選択肢は哺乳動物の個体ごとに異なり、哺乳動物の種類、心臓検査の結果、病歴、および遺伝子変異の有無を考慮して決定される。一般的には、治療として、植込み型除細動器の使用、および/または心外膜カテーテルアブレーションなどのカテーテルアブレーションもしくは外科的アブレーションが挙げられる。BrSを治療するために、さらに薬剤の投与を行ってもよいが、投薬は通常、デバイス治療の補助として、またはデバイス治療が適さない場合の代替として行われる。例えば、右室活動電位第1相で活性化される電流のバランスを再調整して電気的ストームを回避することを目的とした薬剤を使用することができる。この点に関して、キニジン、プロカインアミド、ジソピラミドなどのクラスIA抗不整脈薬は、一過性の外向き電流を抑制し、心室頻拍や心室細動(VT/VF)を抑制する効果があり、イソプロテレノールなどのβ-アドレナリン作動薬やシロスタゾールなどのホスホジエステラーゼIII阻害薬は、カルシウムチャネル電流を増強する効果がある。
【0037】
以下の具体的な実施例により、本発明の実施形態について説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものと解釈すべきではない。
【実施例】
【0038】
実施例1 - BrS関連バイオマーカーの同定
上海スコアが「3.5以上」のブルガダ症候群(BrS)(入手可能な公開された報告書と、限られたデータセットから導出された重み付け係数とに基づいたスコアにより、ブルガダ症候群の可能性が高いかつ/もしくは診断確実、ブルガダ症候群の可能性あり、ブルガダ症候群とは診断できないという結果が割り当てられる診断基準において、スコアが「3.5以上」である)の被験者数名の血清を調べ、健常者または上海スコアの基準を有していない家族の5名の対照者の血清と比較した。BrSを特徴づける抗心臓抗体を同定するために、改変した2次元ゲル電気泳動(2-D Gel)法により心臓タンパク質のアレイを作製し、これを用いて血清抗体の調査を行った。
【0039】
図4に示した方法に従い、正常なヒト心室心筋の試料をホモジナイズし、可溶化させ、等電点集束ストリップを用いて、試料中のタンパク質を等電点のpHにより分離した。各タンパク質はそれぞれの等電点まで移動して止まった。その後、電気泳動したタンパク質をストリップから2次元ゲルに移し、標準的な電気泳動により分子量に基づいて分離した。この2Dゲルを1:100希釈のヒト血清と接触させた後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合抗ヒトIgG抗体を用いて発色させた。自己抗体が結合したタンパク質については、ゲルからそのスポットを切り出し、質量分析により同定を行った。次に、同定した特定の心臓タンパク質に対する抗体を、BrSと対照者の各血清でタンパク質ごとにウェスタンブロットを行い確認した。
【0040】
4例のBrS血清すべてで、対照者血清では見られない、低分子量で等電点のpHの高いタンパク質を示す4つのスポットが見られ、BrSに特有の自己抗体プロファイルが確認された。2Dゲルのこれらのスポットの質量分析により、妥当なサイズと等電点のpHを有する5種類のタンパク質が同定され、この5種類のタンパク質を評価した結果、血清抗体が結合する3種類のタンパク質(1つは2つのアイソフォームが存在する)が同定された。この3種類のタンパク質について、ウェスタンブロットで確認した。結果は
図5に示す通りである。
【0041】
確認用のウェスタンブロット解析は、心筋α-アクチン、骨格筋α-アクチン、ケラチン24、コネキシン43の市販の組換えタンパク質を用いて、血清を1:100希釈して行った。組換えタンパク質はすべてCreative Biomart(USA)から購入した。
【0042】
ブルガダ症候群患者血清4例中4例、対照者血清8例中0例で、アクチン(ACTA1とACTC1の2つのアイソフォーム)、コネキシン43、ケラチン24の4種類のタンパク質に対して同じ自己抗体シグネチャーが確認された(p=0.0046、フィッシャーの正確確率検定)。これらの結果は、ボンフェローニ補正による5回の比較調整後も有意であった(p<0.01)。これらと同様の結果が、さらに12名のブルガダ症候群患者を被験者とした検証コホートの患者血清12例中12例でも確認された。
【0043】
ELISAによる自己抗体の評価
心筋α-アクチン、骨格筋α-アクチン、ケラチン、コネキシン43の各タンパク質をabcam社のプロトコールに従ってマイクロタイタープレートにコーティングして、直接酵素結合免疫吸着測定(ELISA)を行った。100ngのタンパク質を含む100μlの重炭酸塩/炭酸塩コーティングバッファー(100mM炭酸ナトリウム、pH9.6)を各ウェルに加え、各ウェルを200μlのプロテアーゼ非含有BSA(2mg/ml;Cat # A3059;Sigma, USA)でブロッキングした。各ウェルに希釈したヒト血清(1:100希釈したものを100μl)を加えて、室温で2時間インキュベートした。洗浄後、各ウェルに抗ヒトIgG-HRP(cat # ab6759;abcam, USA)を加えて、室温で2時間インキュベートした。結合した抗体は、テトラメチルベンジジン(TMB)発色団を用いて450nmの波長の吸光度を測定することにより定量した。発見コホート、検証コホート、対照者のBrS血清のELISAにより、各タンパク質(心筋α-アクチン、骨格筋α-アクチン、ケラチン24、コネキシン43;
図6)に対する抗体が検出された。いずれのタンパク質においても、発見コホートと検証コホートのELISAで測定した吸光度は同等で、対照者の試料で見られるベースラインの吸光度よりも顕著に増加していた。これらの差は統計的に有意であり、群間の差に関するホッジス・レーマン推定量を計算したものの、いずれの群間比較においてもこれらの差に変化は見られなかった。
【0044】
心筋組織の免疫蛍光染色
BrS患者の血清が心臓組織の標的タンパク質に結合するかどうかを調べるために、正常な心臓組織を、BrS患者の血清と、心筋α-アクチン、ケラチン24、コネキシン43のそれぞれに対する市販の抗体で二重染色した。BrS血清とすべての市販抗体が同様の染色パターンを示したことから、心筋α-アクチン、ケラチン24、コネキシン43の染色箇所が同じであることが明確に示された。BrS患者の遺体から採取した心筋と、9名のBrS患者から採取した生検を評価した。正常組織では心筋α-アクチンがフィラメント状に発現し、ケラチン24とコネキシン43が細かい斑点状に染色されているのに対し、BrS心筋の筋形質内では、それぞれのタンパク質が異常に凝集していることが分かった。ナトリウムチャネルタンパク質5型サブユニットαにおいても同様に、BrS心筋細胞内で、染色された大きな凝集体が見られた。これらの凝集体は、ケラチン24と心臓のナトリウムチャネルに対して最も説得力があり、これらのタンパク質の粒子径分析により、89%の感度でブルガダ症候群患者の遺体/生検患者と対照群が分離された。
【0045】
実施例2 - 自己抗体レベルに関連するBrSリスクの判定
被験者とその募集
自己抗体レベルに関連するリスクを評価するため、上海スコアが3.5以上のBrS患者を被験対象として調べる。これらの被験者については、上海スコアの合計点を含むリスク予測因子を入手し、血清試料と関連付ける。共同研究者からのデータに基づき、2149名の被験者の血清試料が採取され、このうち1/3の被験者にイベントの発生が認められた。同定された3種類の自己抗体のうち、どの抗体が事前イベントの予測可能性が最も高いか判断するために、それぞれの抗体の予測能を調べる。
【0046】
BrS抗体プロファイルの各自己抗体について、上海スコアの合計点などのリスクとの相関を調べる。3種類の自己抗体を含めたすべてのリスク予測因子について、有害事象、例えば、突然心停止(SCA)、心臓突然死(SCD)、適切な植込み型除細動器(ICD)の放電などの予測が可能かどうかを判断するために単変量解析を行う。その後、有意な予測因子を多変量解析モデルに投入する。すべての適切なICD放電がSCDの防止を意味するわけではないため、このアウトカムには50%の重み付けがされている。
【0047】
まず、抗体レベル(ウェスタンブロット強度とELISAの吸光度)の横断的分析を行い、このレベルと、一般的に用いられる、疾患の重症度とリスクを表す指標とを関連付ける。この指標には、年齢、性別、SCAの既往、失神の既往、遺伝子型、対象者の状態、自発性のブルガダ心電図パターンと薬剤誘発性のブルガダ心電図パターンの比較、右室流出路の拡張または機能不全、T波陰転下の程度、(可能であれば)プログラム心室刺激に対する反応などが含まれる。5年間の追跡調査において、抗体レベルと有害事象の相関も調べる。
【0048】
実施例3
ブルガダ症候群被験者の血清中にアクチン、コネキシン43、ケラチンのそれぞれに対する抗体が存在すること、すなわち健常者の血清では検出されない循環自己抗体が存在することから、ブルガダ症候群では、介在板に存在するコネクソンによる複雑なネットワークが破壊され、これらのタンパク質が放出され、通常は抗原提示細胞にさらされないエピトープが露出することで、自己免疫反応が誘導されると考えられる。これらのタンパク質、特にケラチンでは、実質的に相同性を有する様々な類似タンパク質が存在しているため、それぞれに標的抗原エピトープが決定される。
【0049】
免疫組織学
ヒト右室流出路心筋の超微細構造について、ブルガダ症候群の死亡者(死後保存されていた組織ブロック)およびブルガダ症候群の被験者(右室流出路からの心内膜生検標本)と健常者で比較する。死後標本(ブルガダ症候群と対照者)は、共同研究を行っているOntario Provincial Forensic Pathology Unitの医長Kris Cunningham医師からご提供頂いたものであり、生検標本はイタリアのアレッツォにあるCardiologo San Donato HospitalのMaurizio Pieroni医師からご提供頂いたものである。これらの標本に対して、アクチン、コネキシン43、ケラチンのそれぞれに対する免疫組織化学染色を個別でまたは組み合わせて行い、各標本を超解像顕微鏡で検鏡することにより、右室流出路の心筋細胞のこれらのタンパク質の発現において超微細構造上の違いがあるかどうかを判断する。さらに、その後、同じ標本を、金コロイド免疫電子顕微鏡法や断層電子顕微鏡法を含む電子顕微鏡法による解析に供し、介在板の超微細構造の変化を調べる。
【0050】
エピトープマッピング
ブルガダ症候群で自己抗体が標的とするアクチン、コネキシン43、ケラチンの特定の自己免疫エピトープを決定するために、線形エピトープマッピングを行う。線形エピトープライブラリは、Thermo Fisher Scientific:Pierce Protein Research Products社から提供され、それぞれのタンパク質の全長からの、5アミノ酸がオーバーラップした15アミノ酸からなるオリゴペプチド群で構成されている。各タンパク質の標的エピトープを特定することで、アッセイの感度は維持されたまま、アッセイの特異性を高めることができる。
【0051】
機能性試験
ブルガダ症候群の血清の自己抗体によりギャップジャンクションの機能が著しく低下し、その結果、BrSにおける伝導遅延の現象が観察されるかどうかを確認するために、コンフルエントになるまで培養した心筋細胞において、ブルガダ症候群被験者の血清、対照者の血清、および市販のアクチン抗体、コネキシン43抗体、ケラチン抗体を用いてギャップジャンクションの機能障害を調べる。自己抗体がギャップジャンクションの機能に影響を与えていることが確認された場合は、これらの自己抗体が治療ターゲットとなることが示唆される。
【配列表】