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▶ イノバシオン・イ・デサロージョ・デ・エネルヒーア・アルファ・スステンタブレ・ソシエダ・アノニマ・デ・カピタル・バリアブレの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】ファージ耐性微生物
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240902BHJP
   C12N 7/00 20060101ALN20240902BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20240902BHJP
【FI】
C12N1/20 C
C12N1/20 A ZNA
C12N7/00
C12N15/31
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022525452
(86)(22)【出願日】2019-11-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-09
(86)【国際出願番号】 IB2019001262
(87)【国際公開番号】W WO2021105733
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】522170504
【氏名又は名称】イノバシオン・イ・デサロージョ・デ・エネルヒーア・アルファ・スステンタブレ・ソシエダ・アノニマ・デ・カピタル・バリアブレ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クラウディオ・ガリバイ・オリヘル
(72)【発明者】
【氏名】リリアーナ・ドンディエゴ・ロドリゲス
(72)【発明者】
【氏名】ハビエル・アセド・スニーガ
(72)【発明者】
【氏名】イヴァン・アレハンドロ・デ・ラ・ペーニャ・ミレレス
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-132179(JP,A)
【文献】APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY,2003年,Vol.69, No.1, pp.170-176
【文献】Frontiers in Microbiology,2019年04月,Vol.10, Article 850,<doi: 10.3389/fmicb.2019.00850>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-1/38
C12Q 1/00-3/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファージによる感染に耐性があるEscherichia coli株を生成するための方法であって、前記方法が、
a)Escherichia coli株のtfaD遺伝子およびyejO遺伝子に変異を作製することと、
b)前記Escherichia coli株を、0.6~5の光学密度(600nm)に達するまで成長させることと、
c)100プラーク形成単位を超える濃度を有するファージの混合物を添加することと、
d)前記Escherichia coli株の培養物を、ファージと室温で30分間~6時間接触させることと、
e)37℃で1時間~8時間かけて細胞溶解させることと、
f)前記培養物を1時間から24時間かけて回復させることと、
g)M9培地を有するプレート内でコロニーを単離することと、
h)a)~g)のステップを繰り返すことによって、前記Escherichia coli株の耐性を検証することと、を含む、方法。
【請求項2】
SiphoviridaeおよびMyoviridaeファミリー由来のファージによる感染に耐性があるEscherichia coli株が生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ファージλ、φ80およびT4による感染に耐性があるEscherichia coli株が生成される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ファージ感染に耐性があり、tfaD遺伝子およびyejO遺伝子に変異を有する、Escherichia coli株であって、前記変異したtfaD遺伝子は配列番号3として表されるヌクレオチド配列を有し、前記変異したyejO遺伝子は配列番号7として表されるヌクレオチド配列を有する、Escherichia coli株。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バクテリオファージによる感染に耐性がある遺伝子改変微生物を提供する。本発明はまた、バクテリオファージ感染耐性微生物を作製する方法も提供する。
【背景技術】
【0002】
細菌培養は、バイオテクノロジー産業の中心である。あるプロセスが収益を上げるかどうかは、適切な成長に依存する。したがって、培養条件に対する制御を維持するために、多数の厳密な尺度が採用される。しかし、これらの培養物は、他の微生物による汚染を受けやすいか、またはバクテリオファージまたはファージと呼ばれる多数のウイルスによって感染する可能性がある。
【0003】
ファージ感染の間、ファージは、宿主が完全に破壊され、培養物中の残存する感受性細胞を攻撃する可能性がある数百のウイルス粒子を放出するまで、溶解サイクル中に宿主細胞を認識し、これを攻撃する。本発明より以前は、ファージ感染の驚異は、バイオテクノロジー目的物の細菌培養に影響を与える最も重大な問題の1つであり、産生プロセスにおいて著しい損失を引き起こす。このことにより、バクテリオファージによる感染に耐性がある増強株の生成を可能にする方法を発見する必要性が生じていた。
【0004】
US5240841Aは、バクテリオファージQβに耐性があるE.coli株を生成する方法を記載しており、記載されている。この方法は、対応するウイルスレプリカーゼ遺伝子の特定の領域を単離することからなる。この領域は、その複製のための特定の配列中のウイルスゲノムに結合する機能を有する、ウイルスレプリカーゼのペプチド部分をコードする。単離された後、この部分をE.coliゲノムに導入することができる。ペプチドとして発現すると、その結合部位について、ウイルスの複製および拡散を防止するウイルスレプリカーゼと競合し、宿主に耐性を与える。しかし、この戦略を、E.coliに感染する全てのバクテリオファージに適合するためには、ペプチドをE.coli株中の各ファージに対して生成しなければならず、これは不可能である。
【0005】
Hong J et al.(Hong,J.et al.Identification of host receptor and receptor-binding module of a newly sequenced T5-like phage EPS7.FEMS Microbiology letters.Vol 289(2).pp202-209.2008.)は、ビタミンB12の輸送に関与するE.coli中の膜貫通トランスポーターであるBtuBタンパク質が、T5様ファージEPS7の受容体として機能することを示した。このタンパク質btuBのコード遺伝子の一連の変異を作製することにより、ファージによる感染が遮断され、このことは、この受容体が、ファージの吸着プロセス中に重要な役割を有することを示している。
【0006】
Knirel,YA.et al.(Knirel,YA. et al.Variations in O-antigen biosynthesis and O-acetylation associated with altered phage sensitivity in Escherichia coli 4s.Journal of Bacteriology.Vol 197(5).pp905-912.2015)は、ウマ由来の糞便物質から単離されたE.coli株4sの抗原Oの合成および構造の変形例を記載する。これらの変異は、バクテリオファージG7Cに対する耐性を誘導し、E.coli 4sと他の様々なバクテリオファージとの相互作用をさらに改変し、宿主細胞に対する耐性および感受性の両方をもたらす。
【0007】
WO1997/020917A2は、ファージによる感染を妨害するタンパク質をコードする、AbiEと呼ばれる遺伝子の使用を記載している。この遺伝子は、Lactococcus lactis株中に天然形態で存在する。この遺伝子を単離し、プラスミドpSRQ800にクローニングした。乳製品産業で使用されるLactococcus lactisまたは他の微生物の形質転換は、ファージ936、c2およびP335による感染に対する耐性を与える。
【0008】
WO2001/007566A2は、pCRB33およびpCRB63の2つのプラスミドからなる、ファージによる感染に対する耐性を付与することができる遺伝子系を記載している。Streptococus thermophilus株における形質転換の後、この株は、ファージによる感染に対する耐性を獲得する。プラスミドは、「s」サブユニットと呼ばれる1型メチル化制限系の要素をコードする。両方のプラスミドが、これらの不完全な遺伝的要素を有している。「s」サブユニットの配列中の大きな相同性に起因して、それらは細胞内で組み換えられ、第3のプラスミド(pCRB96)を産生する。この組換えによって、ファージに対する耐性を付与する「S」サブユニットの完全なORFを産生する。
【0009】
CA2311598A1は、乳製品産業で使用されるLactococcus lactisおよび他の株においてファージに対する耐性を付与するために必要な方法および要素を記載している。この特許は、プラスミドpSRQ900によってコードされるAbi900タンパク質の使用を記載している。目的の株においてこのプラスミドによって形質転換されることによって、感染妨害機構によるファージ936、c2およびP335に対する耐性が提供される。
【0010】
Denes et al.(Denes,T.,et.al.,Appl Environ Microbiol,81(13),pp4295-4305(2015))は、ファージLP-048およびLP-125に耐性があるListeria monocytogensの株を単離した。配列決定によって、ファージLP-048およびLP-125の吸着のための2つの鍵となる遺伝子座中の変異を見出した。
【0011】
ファージ耐性株を有することを裏付けるためには、適切なファージ単離が必要である。当該技術分野で既知のファージ単離プロトコルの例としては、(1)(Uc-Mass,Augusto.et al.An orthologue of the cor gene is involved in the exclusion of temperature lambdoid phages.Evidence that Cor inactivates FhuA receptor functions.Virology.,Vol 329.pp425-433.2004.)および(2)(Kameyama,Luis.et al.Characterization of wild lambdoid bacteriophages:detection of a wide distribution of phageimmunity groups and identification of a nus-dependent,nonlambdoid phage group.Virology.Vol 263.pp100-111.1999)が挙げられ、またはATCCなどの微生物コレクションから獲得することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明より以前は、E.coliに感染する様々な種類のファージに対する耐性を付与するためのtfaD遺伝子およびyejO遺伝子中の変異または欠失に関連する開示はなされていないことに留意することが重要である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、様々なファージによる感染に耐性がある遺伝子改変微生物を生成するための方法を提供する。
【0014】
本発明はまた、様々なファージファミリーによる感染に耐性がある遺伝子改変微生物も提供する。
【0015】
さらに、本発明は、様々な遺伝子中に点変異または欠失を有し、種々のファージファミリーに対する耐性も付与するE.coli株を提供する。
【0016】
本発明は、SiphoviridaeおよびMyoviridaeファミリーのファージに耐性があるE.coli株を提供する。
【0017】
本発明は、ファージλ、φ80およびT4に耐性があるE.coli株を提供する。
【0018】
さらに、本発明は、ファージλ、φ80およびT4に耐性があり、野生型株と比較して、それらの速度定数を保持するE.coli株を提供する。
【0019】
上述の目的は、本発明の特定の態様を強調する。本発明の追加の目的、態様および実施形態は、以下の本発明の詳細な説明に見出される。
【0020】
本発明のより完全な理解およびそれに付随する多くの利点は、以下の詳細な説明と併せて以下の図面を参照することによってよりよく理解されるようになるにつれて容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】M9寒天培地における、ファージλ、φ80およびT4によって感染した野生型E.coli K-12株とE.coli LCT-BF-01株との間の差を示す。LCT-BF-01株は、正常に成長し、一方、野生型株は、細胞溶解の指標である溶解性プラークを示すことが観察された。
図2】ファージλ、φ80およびT4による感染前後の液体M9培地におけるE.coli LCT-BF-01株および野生型E.coli K-12株の成長の差を示す。LCT-BF-01株は、バクテリオファージによる感染に耐性があり、一方、野生型K12株は、溶解する。野生型株(X)およびLCT-BF-01株(O)の成長速度。矢印は、培養物がファージ混合物に感染する点を示す。
図3】野生型TfaDタンパク質(配列番号2)および変異したTfaDタンパク質(配列番号4)のタンパク質アラインメントを示す。
図4】野生型TfaD遺伝子(配列番号1)および変異したTfaD遺伝子(配列番号3)のタンパク質アラインメントを示す。
図5-1】野生型YejOタンパク質(配列番号6)および変異したYejOタンパク質(配列番号8)のタンパク質アラインメントを示す。
図5-2】図5-1の続きである。
図5-3】図5-2の続きである。
図6-1】野生型YejO遺伝子(配列番号5)および変異したYejO遺伝子(配列番号7)のタンパク質アラインメントを示す。
図6-2】図6-1の続きである。
図6-3】図6-2の続きである。
図6-4】図6-3の続きである。
図6-5】図6-4の続きである。
図6-6】図6-5の続きである。
図6-7】図6-6の続きである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、酵素学、生化学、細胞生物学、分子生物学、および医学分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。
【0023】
本明細書に記載されるものと類似または同等の全ての方法および材料を、本発明の実施または試験に使用することができ、好適な方法および材料は、本明細書に記載される。本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、参照によりそれらの全体が組み込まれる。矛盾する場合には、定義を含め、本明細書が優先される。さらに、材料、方法、および例は、別途指定されない限り、例示的であるのみであり、限定的であることを意図しない。
【0024】
本発明の目的をよりよく理解するために、以下の定義および略語が確立される。
【0025】
「遺伝子(gene)」または「遺伝子(genes)」という用語は、当該技術分野で既知の窒素化合物または窒素塩基、例えば、アデニン、グアニン、シトシンおよびチミンで構成される生体分子を指す。遺伝子は、酵素の生物学的合成のために細胞中の情報を伝達する分子である。
【0026】
「遺伝子座」という用語は、染色体上の遺伝子の固定位置を指す。
【0027】
「遺伝子座(loci)」という用語は、「遺伝子座(locus)」の複数形、すなわち、染色体上の2つ以上の遺伝子の固定位置を指す。
【0028】
「基質」という用語は、微生物が成長するための、または所望の産物として使用するための炭素源として使用することができる分子を指す。基質の例は、炭水化物、脂質、タンパク質、有機酸、アルコール、アルデヒド、ケトン、炭化水素などであり得る。
【0029】
「遺伝子の欠失または除去」という用語は、天然の終止コドン以外の遺伝子の任意の領域において、遺伝子を完全にまたは部分的に除去する、リーディングフレームを修飾する、または終止コドンを追加する手順を指し、また、遺伝子の転写および/または削減を防止する領域を追加または除去することを指す。
【0030】
「プラーク形成単位」という用語は、バクテリオファージによって感染した細胞、または培養物からの細胞を感染させたバクテリオファージの数を指す。
【0031】
「ファージ」または「バクテリオファージ」という用語は、細菌に感染することができ、感染サイクル中に細菌の細胞破裂を生じさせることができるウイルスを指す。これらのファージの例は、溶解サイクルまたは溶原性サイクルによるかに関わらず、M13、T4、ラムダ、または細菌の感染を引き起こす当該技術分野に記載される任意の他のウイルスであり得る。ファージの溶解サイクルおよび溶原性サイクルは、本発明の分野に関連する任意の人物によって広く知られている。
【0032】
「バイオマス」という用語は、培養物を構成し、単一の種類の微生物(この場合、産生株および発酵プロセスから生じるその指数関数的成長)に対応する有機物の総量を指す。バイオマスは、600nmでの光学密度およびg/Lで表されるサーモスケールでの乾燥重量によって分光光度学的に決定される。
【0033】
「接種材料」という用語は、発酵プロセスを開始する目的の株に対応する初期バイオマス部分を指す。
【0034】
「発酵」という用語は、炭素源の酸化が、酸素を最終電子受容体として有することによって完全なものであってもよく、または不完全なものであってもよい異化代謝を指し、電子供与体および電子受容体として同時に機能する有機化合物が生成され、ATPが、基質レベルでのリン酸化によって生成される。
【0035】
「培養培地」という用語は、目的の株の成長を可能にするために必要な栄養素を含有する溶液を指す。当該技術分野で既知の培地は、M9、LB 2YT、および目的の株の成長に有用であり得る当該技術分野で報告されている任意の他の培地である。
【0036】
「嫌気条件」という用語は、酸素がリアクタータンクに供給され、究極の電子受容体として機能し、炭素源の酸化が完了する発酵期間を指す。
【0037】
「発現される」という用語は、発酵中に特定の条件で転写される遺伝子または遺伝子のセットを指す。
【0038】
「野生型株」という用語は、その種の元の遺伝物質、すなわち、その遺伝情報が修飾されていないものを保持する生物を指す。
【0039】
「μ」という用語は、培地中の栄養素の濃度、ならびに撹拌および通気などの操作パラメータに依存する、h-1で表される目的の株の特定の成長速度を指す。
【0040】
「Qs」という用語は、(g/g*h)で表される特定の基質の消費、すなわち、特定の期間中にバイオマス単位によって消費される基質の質量を指す。
【0041】
「減衰ファージまたはバクテリオファージ」という用語は、そのゲノムを宿主のゲノムと共に複製することができ、溶原性と呼ばれる状態で細胞死を引き起こさないウイルスを指す。
【0042】
「リアクター」という用語は、制御された方法で、化学反応、生化学反応もしくは生物学的反応が起こり得る好適な材料から構築された物理空間、またはそれらの組み合わせを指す。様々な種類のリアクターを、最先端技術で見出すことができる。例として、連続撹拌タンクリアクター(CSTR)、ピストンフローリアクター、流動層リアクター、充填層リアクター(PBR)などのリアクターについて説明する。リアクターの特徴のいくつかは、以下である。a)実施中の反応に起因する腐食に対する耐性、b)温度、撹拌、pH、溶存気体の濃度、圧力などの操作変数を監視し、制御する能力、c)連続、半連続またはバッチであり得る操作モード(リアクターが機能することができる様々な動作モードは、当該技術分野で説明されている)、d)反応を実行する様々な種類の触媒を使用する能力、例えば、触媒を溶解または捕捉または固定化することができる(触媒がリアクター内で反応を実行することができる様々なモードは、当該技術分野で説明されている)。本発明は、遺伝子変化に起因して、ファージによる感染に感受性のある微生物が、ファージによる感染に対する耐性を獲得することを可能にする方法を提供する。
【0043】
より具体的には、本発明は、ファージによる感染に感受性のある微生物を、1つ以上のファージによる感染に対して同時に耐性にすることを可能にする方法を提供する。
【0044】
さらに、本発明は、ファージによる感染に感受性のある微生物を、同じファミリーからの1つ以上のファージによる感染に対して同時に耐性にすることを可能にする方法を提供する。
【0045】
さらに、本発明は、ファージによる感染に感受性のある微生物を、異なるファミリーからの1つ以上のファージによる感染に対して同時に耐性にする方法を提供する。
【0046】
さらに、本発明は、特定の遺伝子中の変異に起因して、1種類以上のファージによる感染に耐えることができる微生物を提供する。
【0047】
さらに、本発明は、遺伝子変化に起因して、1つ以上のファージファミリーによる感染に耐えることができる微生物を提供する。
【0048】
最後に、本発明は、1つ以上のファージファミリーによる感染に耐えることができ、かつ同じ速度定数も保持する微生物を提供する。
【0049】
本発明の別の実施形態において、ファージλによる感染に耐性がある微生物を生成するための方法が提供され、ファージγを、特定の時間、微生物と接触させ、感染させる。その後、特定の時間で、培養物を回復させる。感染から生き残ることができた細菌は、以下のように単離され、生化学的、微生物学的、遺伝的に特性決定される。
I.M9培養培地を含有するフラスコにおいて、0.6~5、より具体的には1~3、より具体的には2~2.5の光学密度に達するまで、微生物を成長させる。
II.ファージγを培養培地に添加し、ファージの濃度は、少なくとも100プラーク形成単位、より具体的には少なくとも250プラーク形成単位、より具体的には少なくとも500プラーク形成単位である。
III.ファージ感染は、室温で、より好ましくは20~25℃の範囲の温度で、30分間~6時間、より具体的には2時間~4時間、より具体的には2.5時間~3.5時間が可能である。
IV.培養により、37℃で、より好ましくは35~39℃の範囲の温度で、1時間~8時間、より具体的には3時間~6時間、より具体的には4時間~5時間溶解させる。
V.培養により、1時間~24時間、より具体的には6時間~20時間、より具体的には10時間~16時間回復させる。回復は、室温、より好ましくは20~25℃の範囲の温度であってもよい。
VI.M9培地を有するか、または細胞成長に適した他の培地を有するプレート内でコロニーを単離する。
VII.ステップI~VIを少なくとも2回繰り返すことによって、コロニーがファージλに耐性であることを検証する。
【0050】
本発明の別の実施形態において、ファージφ80による感染に耐性がある微生物を生成するための方法が提供され、ファージφ80を、特定の時間、微生物と接触させ、感染させる。その後、特定の時間中に、培養物を回復させる。感染から生き残ることができた細菌は、以下のように単離され、生化学的、微生物学的、遺伝的に特性決定される。
I.M9培養培地を含有するフラスコにおいて、0.6~5、より具体的には1~3、より具体的には2~2.5の光学密度に達するまで、微生物を成長させる。
II.ファージφ80を培養培地に添加し、ファージの濃度は、少なくとも100プラーク形成単位、より具体的には少なくとも250プラーク形成単位、より具体的には少なくとも500プラーク形成単位である。
III.ファージ感染は、室温で、より好ましくは20~25℃の範囲の温度で、30分間~6時間、より具体的には2時間~4時間、より具体的には2.5時間~3.5時間が可能である。
IV.培養により、37℃で、より好ましくは35~39℃の範囲の温度で、1時間~8時間、より具体的には3時間~6時間、より具体的には4時間~5時間溶解させる。
V.培養により、1時間~24時間、より具体的には6時間~20時間、より具体的には10時間~16時間回復させる。回復は、室温、より好ましくは20~25℃の範囲の温度であってもよい。
VI.M9培地を有するか、または細胞成長に適した他の培地を有するプレート内でコロニーを単離する。
VII.ステップI~VIを少なくとも2回繰り返すことによって、コロニーがファージφ80に耐性であることを検証する。
【0051】
本発明の別の実施形態において、ファージT4による感染に耐性がある微生物を生成するための方法が提供され、ファージT4を、特定の時間、微生物と接触させ、感染させる。その後、特定の時間中に、培養物を回復させる。感染から生き残ることができた細菌は、以下のように単離され、生化学的、微生物学的、遺伝的に特性決定される。
I.M9培養培地を含有するフラスコにおいて、0.6~5、より具体的には1~3、より具体的には2~2.5の光学密度に達するまで、微生物を成長させる。
II.ファージT4を培養培地に添加し、ファージの濃度は、少なくとも100プラーク形成単位、より具体的には少なくとも250プラーク形成単位、より具体的には少なくとも500プラーク形成単位である。
III.ファージ感染は、室温で、より好ましくは20~25℃の範囲の温度で、30分間~6時間、より具体的には2時間~4時間、より具体的には2.5時間~3.5時間が可能である。
IV.培養により、37℃で、より好ましくは35~39℃の範囲の温度で、1時間~8時間、より具体的には3時間~6時間、より具体的には4時間~5時間溶解させる。
V.培養により、1時間~24時間、より具体的には6時間~20時間、より具体的には10時間~16時間回復させる。回復は、室温、より好ましくは20~25℃の範囲の温度であってもよい。
VI.M9培地を有するか、または細胞成長に適した他の培地を有するプレート内でコロニーを単離する。
VII.ステップI~VIを少なくとも2回繰り返すことによって、コロニーがファージT4に耐性であることを検証する。
【0052】
本発明の別の実施形態において、tfaD遺伝子およびyejO遺伝子中に変異を有し、ファージによる感染に耐性でもあるE.coli由来の細菌を生成するための方法が提供され、ファージを、特定の時間、微生物と接触させ、感染させる。その後、特定の時間中に、培養物を回復させる。感染から生き残ることができた細菌は、以下のように単離され、生化学的、微生物学的、遺伝的に特性決定される。
I.E.coli株に、tfaD遺伝子およびyejO遺伝子中に変異を作製する。
II.M9培養培地を含有するフラスコにおいて、0.6~5、より具体的には1~3、より具体的には2~2.5の光学密度に達するまで、E.coli株をtfaD変異およびyejO変異と共に成長させる。
III.ファージλ、φ80およびT4を培養培地に別個に、または混合して添加し、ファージの濃度は、少なくとも100プラーク形成単位、より具体的には少なくとも250プラーク形成単位、より具体的には少なくとも500プラーク形成単位である。
IV.ファージ感染は、室温で、より好ましくは20~25℃の範囲の温度で、30分間~6時間、より具体的には2時間~4時間、より具体的には2.5時間~3.5時間が可能である。
V.培養により、37℃で、より好ましくは35~39℃の範囲の温度で、1時間~8時間、より具体的には3時間~6時間、より具体的には4時間~5時間溶解させる。
VI.培養により、1時間~24時間、より具体的には6時間~20時間、より具体的には10時間~16時間回復させる。回復は、室温、より好ましくは20~25℃の範囲の温度であってもよい。
VII.M9培地を有するか、または細胞成長に適した他の培地を有するプレート内でコロニーを単離する。
VIII.ステップI~VIIを少なくとも2回繰り返すことによって、コロニーがファージλ、φ80およびT4に別個に、または混合した状態で耐性であることを検証する。
【0053】
本発明の上に記述された説明は、本技術分野の任意の当業者がそれを作製し、使用することが可能になるようにそれを作製し、使用する方法およびプロセスを提供し、この実行可能性は特に、元の説明の一部を構成する添付の特許請求の範囲の主題のために提供される。
【0054】
本明細書で使用される場合、「~からなる群から選択される」、「~から選択される」などの語句は、明記された材料の混合物を含む。
【0055】
数値的な境界または範囲が本明細書に記載されている場合、その端点が含まれる。また、数値的な境界または範囲内の全ての値および部分範囲は、明示的に書き出されているかのように具体的に含まれる。
【0056】
上の説明は、当業者が本発明を作製し、使用することを可能にするために提示され、特定の用途およびその要件の文脈において提供される。好ましい実施形態に対する様々な修正は、当業者には容易に明白であり、本明細書で定義される一般的な原理は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、他の実施形態および用途に適用され得る。したがって、本発明は、示される実施形態に限定されることを意図するものではなく、本明細書に開示される原理および特徴と一致する最も広い範囲を付与されるべきである。
【実施例
【0057】
以下の実施例は、本発明の新規性を明らかにすることを意図している。以下の実施例は、本発明の範囲を限定するものではないことが理解されるべきである。本発明の開示、ならびに以下の実施例から、本発明の分野の当業者は、あらゆるやり方で本発明によって保護される枠組みの中にとどまるいくつかの修正を行うことができる。
【0058】
実施例1.ファージλ、φ80およびT4に耐性がある株の生成。
本発明の場合、様々な微生物に感染する様々な環境ファージを単離したが、本発明の方法を例示するために、E.coli細菌を使用した。
【0059】
様々な培養培地を使用して、細菌をファージと接触させた。培地のいくつかは、LB寒天培地およびM9寒天培地であった(Sambrook,J.,and Green,M.(2012).Molecular cloning:a laboratory manual,4th edition.Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,New York)。
【0060】
液体M9培地中の野生型E.coli K-12の培養物を調製し、これを6時間~24時間放置して成長させ、その後に、ファージλ、φ80およびT4の混合物を添加した。感染サイクルを、室温で30分~6時間とした。その後、培養物を透明化するために、培養物を30℃で1時間~8時間インキュベートしたが、この瞬間には、細胞のほとんどが死滅している。その後、ファージ耐性細胞の繁殖を可能にするために、インキュベーションを継続した。1時間~24時間の期間の後、培養物が再び成長し始めることが観察され、これを接種材料として採取し、耐性コロニーを単離した。
【0061】
M9寒天中に伸ばすことによって、プレートに播種した。37℃で16時間インキュベーションした後、ファージ耐性コロニーを観察し、再び感染させるために、これを選択した。
【0062】
選択した候補コロニーを、混釈法によってファージに対してチャレンジ試験した。まず、目的の株由来の液体中で培養物を6時間放置して成長させ、その後、ファージに感染させ、室温で1時間の感染サイクルを起こさせた。その後、感染した細胞を軟らかいM9寒天培地中で混合し、37℃で16時間インキュベートした。このインキュベーション期間終了時に、耐性株は溶解性プラークを示さず、一方、感受性株は示したことが観察された(図1)。
【0063】
単離されたコロニーに対し、少なくとも5回の感染単離サイクルを行った。感染単離サイクルの後、開始時に行われた遺伝子改変が耐性の原因であったことを検証するために、株を生化学的、微生物学的、遺伝的にレビューした。試験したファージによる感染に耐性があった株は、LCT-BF-01と命名された。
【0064】
LCT-BF-01株が、ファージλ、φ80およびT4に耐性があり、液体培地中で成長することを示すために、14Lリアクター中の培養物を、様々な操作条件でM9培地を使用して作製した。操作条件を表1に示す。
【表1】
【0065】
リアクターを準備し、121℃、圧力15psigで滅菌し、滅菌しながらLCT-BF-01株由来のコロニーを播種し、6時間成長させた。その後、ファージλ、φ80およびT4の混合物によって感染させ、リアクター中のその成長、pH、温度および酸素をさらに監視した。16時間成長させた後、発酵中のいかなる瞬間にも、培養物が透明化しないことが観察された(図2)。同じ実験を、野生型E.coli K-12株を用いて行ったが、この株は、感染後に成長を示さなかった(図2)。この実施例では、LCT-BF-01株が、ファージλ、φ80およびT4に耐性があることが示された。
【0066】
その後、生成した変異を裏付けるために、Illumina MiniSeq Systemシーケンサーで、細菌配列決定キットを使用し、製造業者(Illumina Inc.)の指示に従って、LCT-BF-01株を配列決定した。表2には、対応する感染プロセス中に変異を受けた遺伝子が示されている。
【表2】
【0067】
TfaD野生型遺伝子は、配列番号1として表され、野生型TfaDタンパク質は、配列番号2として表される。変異したTfaD遺伝子は、配列番号3として表され、対応する変異したTfaDタンパク質は、配列番号4として表される。
【0068】
YejO野生型遺伝子は、配列番号5として表され、野生型YejOタンパク質は、配列番号6として表される。変異したYejO遺伝子は、配列番号7として表され、対応する変異したYejOタンパク質は、配列番号8として表される。
【0069】
実施例2.LCT-BF-01株と野生型E.coli K-12株の速度パラメータの比較。
好気条件下での速度パラメータを決定するために、14Lリアクター中のM9培地中、LCT-BF-01株および野生型E.coli K-12を培養した。培養には24時間かかり、操作条件は、表3に示される。
【表3】
【0070】
屈折率検出器を備えたHPLC Ultimate 3000装置(Thermo)を使用して、Rezex-ROA有機酸Hカラムを使用して、発酵中のグルコースおよび有機酸の濃度を監視した。発酵の結果を表4に示す。
【表4】
【0071】
これらの結果は、本発明で開発された株が、異なるファミリー由来のファージに耐性があり、TfaD遺伝子およびYejO遺伝子の変異を有するにもかかわらず、WTと同じ速度定数を有することを示している。
【0072】
上の教示の観点から、本発明に対する多数の修正および変形が可能である。したがって、添付の特許請求の範囲の範囲内で、本発明は、本明細書に具体的に記載される以外の方法で実施され得ることを理解されたい。
【0073】
(参考文献)
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図6-4】
図6-5】
図6-6】
図6-7】
【配列表】
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