IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シーメンス アクチエンゲゼルシヤフトの特許一覧

特許7547493エアギャップスリーブを有する電気モータ
<>
  • 特許-エアギャップスリーブを有する電気モータ 図1
  • 特許-エアギャップスリーブを有する電気モータ 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】エアギャップスリーブを有する電気モータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 9/197 20060101AFI20240902BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H02K9/197
H02K15/02 Q
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022552403
(86)(22)【出願日】2021-01-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-17
(86)【国際出願番号】 EP2021051623
(87)【国際公開番号】W WO2021175511
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2022-10-28
(31)【優先権主張番号】102020202781.1
(32)【優先日】2020-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390039413
【氏名又は名称】シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】弁理士法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】フィンク,ダーヴィト
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03089969(US,A)
【文献】特表2015-523043(JP,A)
【文献】特開2008-035604(JP,A)
【文献】特開2009-213231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 9/197
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアギャップスリーブを有する電気モータであって、
ステータの内側における液体冷却部と、
ータ内部領域と、を有し、
前記エアギャップスリーブが、前記液体冷却部の冷却液に対して前記ロータ内部領域を封止しており、一方側で前記冷却液の圧力の影響を受け、他方側で前記ロータ内部領域の圧力の影響を受け、また、前記ロータ内部領域を画定しており、
前記ロータ内部領域内の内圧として、過圧、すなわち1barを超える圧力、であって、前記液体冷却部の圧力よりも大きい圧力、が設けられている、
電気モータ。
【請求項2】
前記ロータ内部領域内のガスが空気である、請求項1記載の電気モータ。
【請求項3】
前記ロータ内部領域内のガスが不活性ガスである、請求項1記載の電気モータ。
【請求項4】
前記ロータ内部領域内において高められたガス圧の発生が可能なポンプが設けられている、請求項1から3のいずれか1項に記載の電気モータ。
【請求項5】
前記ステータの外側に更なる液体冷却部が設けられている、請求項1から4のいずれか1項に記載の電気モータ。
【請求項6】
前記ロータ内部領域内の圧力の測定が可能な第1のセンサが設けられている、請求項1から5のいずれか1項に記載の電気モータ。
【請求項7】
前記冷却液が貫流する前記ステータの領域内の圧力の測定が可能な第2のセンサが設けられている、請求項1から6のいずれか1項に記載の電気モータ。
【請求項8】
前記第1のセンサ及び/又は前記第2のセンサを調節・制御装置に接続する接続線が設けられている、請求項6に従属する請求項7に記載の電気モータ。
【請求項9】
前記ロータ内部領域内の圧力調整のために少なくとも1つのバルブが設けられている、請求項8に記載の電気モータ。
【請求項10】
前記少なくとも1つのバルブが、前記電気モータの軸受ブラケット及び/又はハウジングに設けられている、請求項9に記載の電気モータ。
【請求項11】
前記調節・制御装置が、前記電気モータの軸受ブラケット又はハウジングに配置されている、請求項8に記載の電気モータ。
【請求項12】
前記ロータ内部領域内の過圧を発生させるためのポンプが設けられている、請求項1から11のいずれか1項に記載の電気モータ。
【請求項13】
前記ポンプが前記軸受ブラケットに設けられている、請求項10又は11に従属する請求項12に記載の電気モータ。
【請求項14】
前記内圧を制御する調整・制御装置を有し、
前記調整・制御装置は、ロータの温度及び/又は前記ステータの温度に基づいて、前記内圧を制御する、請求項1から13のいずれか1項に記載の電気モータ。
【請求項15】
前記調整・制御装置は、
前記内圧を増加させることによって、前記ロータ及び前記エアギャップスリーブの衝突を防止する、及び/又は
前記内圧を低下させることによって、前記ステータ及び前記エアギャップスリーブの衝突を防止する、
請求項14に記載の電気モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアギャップスリーブを有する電気モータ(キャンドモータ)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気モータの出力密度の増加は、バス、乗用車、商用車などの電気的に駆動される自動車や、列車及び船舶並びに航空機におけるように、モビリティの電化された分野では、より強力な電気モータにより重量を節約できるので、ますます重要になってきている。
【0003】
そのため、液体冷却式の電気モータの使用が増えている。
【0004】
発生する廃熱とそれに伴う問題は、電気モータの電気的な出力密度にとって決定的である。一つの問題は、例えば、各電気モータのステータの積層コアにおける巻線コイルの高分子絶縁の故障である。したがって、ステータ巻線内の最高温度は、電気モータにおいてより高い出力密度を開発する場合に、通常、特に重要なポイントである。
【0005】
液体冷却の傾向は、気体空冷と比較して、液体冷却で達成できるより高い廃熱流に基づいている。一般に、積層コアと高分子グラウト材の中に存在する巻線コイルとを有するステータは冷却され、ロータは冷却されない。ロータは、高分子絶縁がないことによって、高分子グラウト材を有するステータの積層コアよりも熱に敏感でない。一般に、電気モータの液体冷却は、好ましくは、ステータの外側で行われる。というのは、そうでない場合、ステータの内側でロータに対して境界面がシールされなければならないからである。
【0006】
したがって、通常は、液体冷却用のチャネルがステータの外側にある。液体冷却される冷却リングが積層コアの外側にあることが問題であり、このため、積層コアは、熱流によってまず完全に半径方向に横断されなければならない。このため、以前から、ステータの内側及び外側に液体冷却を施した電気モータも存在していた。これらの電気モータは、いわゆるエアギャップを含んでいる。
【0007】
エアギャップスリーブは、ステータ領域内の冷却液を、回転するロータから分離する。そうしないと、その冷却液がロータの回転を著しく妨げることになるからである。
【0008】
エアギャップスリーブを開発する目的は、電気モータの電気的損失を低減するべく、できるだけ小さい肉厚を達成することである。
【0009】
エアギャップスリーブの部品開発にあたっては、様々な境界条件を守らなければならない。
【0010】
エアギャップスリーブは、その課題のために、液体冷却をロータから分離しなければならず、そうでなければ、高い摩擦損失が電気モータを減速させることになるからである。
【0011】
エアギャップスリーブの使用は、ステータ領域での改善された冷却のために可能にされた高められた性能によって電気的損失が相殺される場合にのみ意味がある。
【0012】
エアギャップスリーブはロータとステータの間に位置し、したがって、できるだけ薄くすべきである。
【0013】
極めて大きな電気モータの空隙に生じるような変化する磁場は、導電性材料に渦電流を誘導する。渦電流は再び磁場を発生させ、この磁場は、渦電流を生ぜしめた磁場とは逆方向である。さらに、誘導された渦電流は、部品の急速な加熱につながる。したがって、エアギャップスリーブが導電性材料からなることは、いくつかの点で望ましくない。このため、セラミック及び/又はガラスセラミック複合材料を含む強化複合材料が使用される。
【0014】
エアギャップスリーブは、ある最小の厚さを有しなければならない。何故ならば、荷重、特に、エアギャップスリーブの厚さに対して決定的である寸法決め荷重は、自動車、列車、飛行機、船舶などにおける電気モータの移動使用時に冷却媒体が発生する加速度によって生じさせられる外圧であるからである。
【0015】
上述の圧力下で薄すぎるエアギャップスリーブは崩壊し、予備段階において、座屈の機械的現象を認識することができる。したがって、応力により既に経年劣化したエアギャップスリーブは、半径方向の座屈によって認識することができる。
【0016】
エアギャップスリーブを有する電気モータは、例えば、特許文献1から公知である。そこでは、気密封止されたポンプに使用するためにエアギャップスリーブが提案されており、このエアギャップスリーブは、ステータの積層コアのスロットに取り付けられた支持くさびにより半径方向に支持されているので薄くすることができる。
【0017】
エアギャップスリーブの中央スロットくさび支持のそこに記載された技術は、シミュレーションによって検討されたが(図1参照)、この技術の欠点は、エアギャップスリーブとステータの積層コアとの膨張係数が著しく異なり、したがって、動作中にエアギャップスリーブに極端な応力が生じて、エアギャップスリーブに材料応力を引き起こすことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】独国特許出願公開第102010011316号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の課題は、エアギャップスリーブをできるだけ薄くした、ステータの液体冷却を有するエアギャップスリーブを有する電気モータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この課題は、明細書、図面及び請求の範囲に開示されているように、本発明の特徴によって解決される。
【0021】
従って、本発明の特徴は、ステータ内側に液体冷却を有すると共に、エアギャップスリーブによる冷却液に対するロータ内部領域の封止を有するエアギャップスリーブを有する電気モータであって、エアギャップスリーブによって画定されるロータ領域内に過圧、すなわち1barを超える圧力が設けられている、エアギャップスリーブを有する電気モータにある。
【0022】
本発明の一般的な知見は、極めて薄く設計されているエアギャップスリーブが、内部からの加圧によって、ステータの液体冷却による外圧に、すなわち移動使用時にステータ冷却の液体移動によって生じる荷重に、標準的な条件下、すなわち1barの内圧下よりも良好に耐えるように、前記エアギャップスリーブを安定させることができることにある。
【0023】
ステータ内側に液体冷却を有する電気モータでは、エアギャップスリーブは、冷却剤が流れるステータ領域に対してしっかりシールするロータ内部領域を画定する。これらの電気モータでは、ロータの内部領域はいずれにせよ密封されているので、エアギャップスリーブを密封するための追加の手段がなくてもロータ内部領域において過圧を維持することができる。
【0024】
これらの電気モータでは、ロータ内部領域の過圧が、エアギャップスリーブ内の望ましくない漏れを過圧によって封止するという役割さえ果たすことができる。過圧がなければ、エアギャップスリーブ内の望ましくない漏れによって液体がロータ内部領域に入るという好ましくないことが起こり得るが、ロータ内部領域の過圧が漏れを修正する。このような漏れは、熱膨張係数の違いによりエアギャップスリーブを有する電気モータにおいて一時的に発生する可能性がある。
【0025】
同時に、ロータ内部領域の内圧の上昇は、効率の低下を伴うが、これは、エアギャップスリーブの肉厚が小さいことによる効率の増加で補うことができる。
【0026】
本発明によれば、肉厚の小さいエアギャップスリーブは、ステータ領域の冷却液の作用外圧に対して内圧で安定化される。エアギャップスリーブの後方にある部分全体は、電気モータのロータ内部領域として、増加したガス圧下にある。圧力確立は、電気モータの作動にリンクさせることができるが、電気モータのロータ内部領域に、一定の過圧を設けることもできる。
【0027】
ガス圧力は、例えば、好ましくは、必ずしもそうではないが、最大外圧荷重事例がエアギャップスリーブの応力を解放するように高く選択される。
【0028】
ロータ領域内の所望の内圧の段階が設けられており、これらの段階は用途に応じて適合させられており、ここでは無条件に確定することはできない。通常、ガス圧力は、高い頻繁に発生する外圧荷重事例がエアギャップスリーブの応力を解放するように高く選択される。ロータ内部領域のガス圧力は、特に、最大外圧荷重事例が(エアギャップスリーブの応力を解放するように高く)選択されることが好ましい。
【0029】
適切な内圧を設定するために、次のことが提案されている。すなわち、エアギャップスリーブの厚さと内圧とは、一方では、冷却液による荷重が小さい場合に、電気モータが均等に動くとき又は全く動かないときには、例えば内圧によって、エアギャップスリーブの座屈が回避されるように設定され、しかし、他方では、電気モータが動いているときには、ステータの領域内への座屈を回避する十分な内圧(これは、Coca Cola(登録商標)のような炭酸飲料を含む飲料缶にほぼ匹敵する。)が得られるように設定されることが提案されている。
【0030】
本発明の有利な実施形態によれば、ロータ内部領域内のガスが空気である。
【0031】
本発明の別の有利な実施形態によれば、ロータ内部領域のガスは、別のガス又はガス混合物、例えば不活性ガス、例えば窒素である。不活性ガスが、ロータの冷却を促進する高い熱容量又は他の物理的特性を有するガスである場合には、特に有利である。
【0032】
本発明の有利な一実施形態によれば、第1のセンサが設けられ、それによって、ロータ内部領域内の圧力を測定することができる。
【0033】
本発明の有利な一実施形態によれば、第2のセンサが設けられ、これによってステータの液体冷却ない圧力を測定することができる。
【0034】
ステータの液体冷却用の冷却剤は、ステータハウジングの内側に配置され、ステータハウジングは端面側で軸受ブラケットによって閉じられ、軸受ブラケットは、ステータハウジングに正確に合わせられおり、ロータから引き出される駆動軸を案内する。
【0035】
有利な一実施形態によれば、例えば、電気モータの軸受ブラケット及び/又はハウジングに1つ以上のバルブが設けられている。これらは、好ましくは、ロータ内部領域の圧力を調整する役割を果たす。
【0036】
他の有利な実施形態によれば、第1のセンサ及び/又は第2のセンサが、調節・制御装置に接続されている。特に、ロータ内部領域の内圧を発生及び/又は維持するバルブが、制御・調節装置によって制御可能であるように設けられている。
【0037】
調節・制御装置は、電気モータの様々な個所に設けることができる。例えば、調節・制御装置は、電気モータの軸受ブラケット又はハウジング上に配置されている。
【0038】
本発明の有利な一実施形態によれば、調節・制御電子回路を介して作動させることができる空気ポンプが設けられている。
【0039】
本発明の他の有利な一実施形態によれば、空気ポンプが軸受ブラケットの外側に取り付けられている。
【0040】
他の有利な一実施形態によれば、空気ポンプを介して空気をロータ内部領域に導く管が設けられている。
【0041】
他の有利な一実施形態によれば、ロータ内部領域における内圧が、調節・制御装置によって調整可能である。
【0042】
電気モータのロータ温度及び/又はステータ温度に依存してロータ内部領域の内圧を能動的に制御することによって、本発明の有利な一実施形態に従って、ロータ内部領域の内圧をその都度調整することにより、一方での積層コアと他方でのエアギャップスリーブとの異なる熱膨張係数を能動的に補正することをめざして努力がなされている。
【0043】
例えば、ロータが、熱膨張によってエアギャップスリーブと衝突しそうになるとすぐに、ロータ内部領域を画定して囲っているエアギャップスリーブの内圧が増加してエアギャップスリーブが膨張する。逆に、ステータが熱膨張によってエアギャップスリーブと衝突しそうになるとすぐに、エアギャップスリーブの内圧が低下してエアギャップスリーブが収縮する。
【0044】
図2は、動作中の本発明によるエアギャップスリーブのシミュレーションの結果を示す。例えば、ロータ内部領域の内圧が3barを超える場合に、エアギャップスリーブの座屈又は他の損傷、特に機械的な損傷に対する十分な安定性が、1mm未満の小さな肉厚で達成できることが示されている。
【0045】
本発明によれば、エアギャップスリーブを備えた任意の寸法の電気モータを、ロータ内部領域の内圧で作動させることができる。
【0046】
特に、3mm未満、特に2mm未満、好ましくは1mm未満、特に好ましくは0.7mm未満のエアギャップスリーブの肉厚を有する例示的な実施形態は、すでに試験されて、非常に良好な成果を得ている。図2を参照されたい。
【0047】
3bar以上、4bar以上、5bar以上のロータ内部領域の内圧を実現し、試験した。
【0048】
図2は、肉厚0.5mm~0.7mm、内部ロータ圧力4.5~5barのエアギャップスリーブのシミュレーションの例示的な実施形態を示す。同じ荷重で比較して、肉厚が2mm前後の著しく厚いエアギャップスリーブは、座屈に関して著しく悪化する(図1参照)。
【0049】
本発明は、エアギャップスリーブを有する電気モータのロータ内部領域の過圧によって、ロータの改善された冷却を達成することを初めて可能にする。過圧のため、エアギャップスリーブの肉厚を50%以上減らすことができ、特に70%以上減らすことができ、熱伝達を増加させることができ、熱容量の高いガスを使用することができる。

図1
図2