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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】粘着テープ及び加工方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20240902BHJP
   C09J 133/00 20060101ALI20240902BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20240902BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J133/00
C09J175/04
H01L21/78 M
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022560704
(86)(22)【出願日】2021-10-20
(86)【国際出願番号】 JP2021038724
(87)【国際公開番号】W WO2022097472
(87)【国際公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2020186366
(32)【優先日】2020-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100127247
【弁理士】
【氏名又は名称】赤堀 龍吾
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】中村 千枝
(72)【発明者】
【氏名】田中 智章
(72)【発明者】
【氏名】徳井 颯太
(72)【発明者】
【氏名】蓮見 水貴
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-197248(JP,A)
【文献】特開2010-177699(JP,A)
【文献】国際公開第2009/110426(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/38
C09J 133/00
C09J 175/04
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、該基材層上に設けられた粘着剤層と、を有し、
前記粘着剤層が、光ラジカル開始剤と、重合性炭素二重結合を有するポリマーAと、を含み、
紫外線照射後の前記粘着剤層の引張弾性率が、400MPa以下であり、
紫外線照射後の前記粘着剤層の破断伸び率が、16%以上である、粘着テープ。
【請求項2】
前記粘着剤層の紫外線硬化前後における体積収縮率が、0.50~10.0%である、
請求項1に記載の粘着テープ。
【請求項3】
紫外線硬化前の前記粘着剤層のシリコンウエハに対する180°剥離強度が、23℃において、2.0~20.0N/20mmであり、
且つ紫外線硬化後の前記粘着剤層のシリコンウエハに対する180°剥離強度が、23℃において、0.05~1.0N/20mmである、
請求項1又は2に記載の粘着テープ。
【請求項4】
前記ポリマーAの二重結合当量が、500~2500g/molである、
請求項1~3のいずれか1項に記載の粘着テープ。
【請求項5】
前記ポリマーAが、水酸基を有する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の粘着テープ。
【請求項6】
前記ポリマーAの重量平均分子量が、1.0×10~2.0×10である、
請求項1~5のいずれか1項に記載の粘着テープ。
【請求項7】
前記ポリマーAのガラス転移点が、-80~23℃である、
請求項1~6のいずれか1項に記載の粘着テープ。
【請求項8】
前記粘着剤層のポリマーAが、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を含み、
該(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が、直鎖形状、分岐形状、又は架橋形状を有する、
請求項1~7のいずれか1項に記載の粘着テープ。
【請求項9】
前記粘着剤層が、硬化剤をさらに含む、
請求項1~8のいずれか一項に記載の粘着テープ。
【請求項10】
前記硬化剤が、イソシアネート系化合物である、
請求項9に記載の粘着テープ。
【請求項11】
前記イソシアネート系化合物が、2官能以上の多官能イソシアネート系化合物を含む、
請求項10に記載の粘着テープ。
【請求項12】
半導体ウエハ、半導体デバイス、各種半導体パッケージ加工用である、
請求項1~11のいずれか1項に記載の粘着テープ。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の粘着テープと、被着体と、を貼り合わせる貼合工程と、
前記粘着テープと前記被着体とを貼り合わせた状態で、前記被着体を加工するダイシング工程と、を有し、
前記被着体が、半導体ウエハ、半導体デバイス、又は各種半導体パッケージである、
加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着テープ及び加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体パッケージや半導体ウエハ(以下、「被着体」ともいう)等を個片化する際には、半導体ウエハ加工用テープを被着体に貼り付けて、ダイシング時に被着体を仮固定する。これにより、個片化時にチップ飛びを防ぐことができる。また、ダイシング後には、半導体ウエハ加工用テープをエキスパンディングし、個片化された被着体は半導体ウエハ加工用テープからピックアップ(剥離)する。
【0003】
このような半導体ウエハ加工用テープとしては、紫外線に対し透過性を有するフィルム基材上に紫外線照射により硬化反応する粘着剤層が塗布された粘着テープが主に用いられている。この紫外線硬化型の加工用テープでは、ダイシング後に紫外線を粘着剤層に照射して、硬化反応を進行させることで粘着剤層の粘着力を低下させることができるため、個片化された被着体を容易にピックアップすることができる。
【0004】
上記ピックアップ時には、粘着テープの被着体と接触していない裏面から、突き上げピンにより個片化した被着体を突き上げて、ピックアップを行う。この際に、被着体への粘着テープの糊残りを低減し、また、低いピンハイトでも高収率でピックアップできることが、高品質な電子部品を効率よく製造する観点から求められる。
【0005】
しかしながら、被着体への粘着テープ貼り付けの際に被着体に対する粘着剤の濡れ性が良くないと、被着体の段差部等に糊が追従しきれず気泡が入る。そうすると、紫外線照射時に酸素阻害等による粘着剤の硬化不良を引き起こし、被着体に粘着剤が硬化しないまま残留することがある。また、被着体に対する粘着力が不足していると、ダイシング時に切削水が被着体と粘着テープの間に浸入して被着体を汚染したり、さらには個片化した被着体が飛散したりする。
【0006】
そこで、被着体に対する粘着剤の濡れ性を補うために粘着剤層の厚さを増加させたり、低分子量成分や粘着付与剤等を配合して粘着力を上げたり、粘着剤層の弾性率を低下させて粘着力を上げたりする方法が考えられる。しかしながら、この場合、ダイシング時のブレードの回転により生じる摩擦熱により粘着剤が融解し、掻き上げられることで被着体に粘着剤屑が付着することがある。また粘着剤がかき上げられた状態で紫外線照射により硬化すると、個片化された被着体が粘着テープに固定されてしまい、低ピンハイトでのピックアップが困難になったり、ピックアップできた場合でも、被着体との界面で剥離できず粘着剤自身の破壊が起こり、被着体に粘着剤が残留したりすることがある。
【0007】
このような糊残りを解決しピックアップ性を向上させる手段として、例えば、特許文献1のように、比較的低分子量の紫外線硬化性樹脂成分を大量に配合し、紫外線照射後の粘着力を大幅に低下させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-13692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながらこの場合、紫外線照射後の粘着剤が硬くなりすぎることにより、ピックアップ時のテープの変形に糊が耐えられずピンの形に割れる現象が生じ、かえって糊残りの原因となる可能性がある。
【0010】
さらに、近年、回路設計の高密度化により、被着体であるウエハ表面に微細な配線や回路パターンによる凹凸が多数形成されるようになっている。そのため、粘着テープの粘着剤は回路表面の凹凸間の微細な隙間に充填されやすくなり、このような隙間に拘束された粘着剤が剥離時に切断されて回路面に残留し、糊残りが発生しやすくなる。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ピックアップ時に、被着体への糊残りが生じにくく、かつ低ピンハイトでピックアップ可能な粘着テープ及びそれを用いた加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、粘着テープの粘着剤設計について鋭意検討した。その結果、紫外線硬化後の粘着剤層の引張弾性率と破断伸び率を調整することにより、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明に係る粘着テープは、以下の通りである。
〔1〕
基材層と、該基材層上に設けられた粘着剤層と、を有し、
前記粘着剤層が、光ラジカル開始剤と、重合性炭素二重結合を有するポリマーAと、を含み、
紫外線照射後の前記粘着剤層の引張弾性率が、400MPa以下であり、
紫外線照射後の前記粘着剤層の破断伸び率が、16%以上である、粘着テープ。
〔2〕
前記粘着剤層の紫外線硬化前後における体積収縮率が、0.50~10.0%である、
〔1〕に記載の粘着テープ。
〔3〕
紫外線硬化前の前記粘着剤層のシリコンウエハに対する180°剥離強度が、23℃において、2.0~20.0N/20mmであり、
且つ紫外線硬化後の前記粘着剤層のシリコンウエハに対する180°剥離強度が、23℃において、0.05~1.0N/20mmである、
〔1〕又は〔2〕に記載の粘着テープ。
〔4〕
前記ポリマーAの二重結合当量が、500~2500g/molである、
〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の粘着テープ。
〔5〕
前記ポリマーAが、水酸基を有する、
〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の粘着テープ。
〔6〕
前記ポリマーAの重量平均分子量が、1.0×10~2.0×10である、
〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の粘着テープ。
〔7〕
前記ポリマーAのガラス転移点が、-80~23℃である、
〔1〕~〔6〕のいずれか1項に記載の粘着テープ。
〔8〕
前記粘着剤層のポリマーAが、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を含み、
該(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が、直鎖形状、分岐形状、又は架橋形状を有する、
〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の粘着テープ。
〔9〕
前記粘着剤層が、硬化剤をさらに含む、
〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の粘着テープ。
〔10〕
前記硬化剤が、イソシアネート系化合物である、
〔9〕に記載の粘着テープ。
〔11〕
前記イソシアネート系化合物が、2官能以上の多官能イソシアネート系化合物を含む、
〔10〕に記載の粘着テープ。
〔12〕
半導体ウエハ、半導体デバイス、各種半導体パッケージ加工用である、
〔1〕~〔11〕のいずれか1項に記載の粘着テープ。
〔13〕
〔1〕~〔12〕のいずれか一項に記載の粘着テープと、被着体と、を貼り合わせる貼合工程と、
前記粘着テープと前記被着体とを貼り合わせた状態で、前記被着体を加工するダイシング工程と、を有し、
前記被着体が、半導体ウエハ、半導体デバイス、又は各種半導体パッケージである、
加工方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ピックアップ時に、被着体への糊残りが生じにくく、かつ低ピンハイトでピックアップ可能な粘着テープ及びそれを用いた加工方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0016】
〔粘着テープ〕
本実施形態の粘着テープは、基材層と、該基材層上に設けられた粘着剤層と、を有し、粘着剤層が、光ラジカル開始剤と、重合性炭素二重結合を有するポリマーAと、を含み、紫外線照射後の粘着剤層の引張弾性率が400MPa以下であり、紫外線照射後の粘着剤層の破断伸び率が16%以上である。
【0017】
従来の粘着剤層は、例えば、紫外線硬化性を有しないベースポリマーと、紫外線硬化性を有する低分子量成分により構成されている。そのため、紫外線照射後に未反応の状態で残留する低分子量成分やポリマー成分が被着体表面に残留する可能性がある。
【0018】
これに対して、本実施形態においては、重合性炭素二重結合を有するポリマーAを用いることで、紫外線照射によりポリマーA同士がさらに重合して、互いに架橋する。そのため、低分子量成分が被着体表面を汚染するという問題を回避することができ、また、仮にポリマーAの重合性炭素二重結合の一部が未反応であっても、低分子量成分と比較して、被着体表面の汚染を回避することもできる。さらに、重合性炭素二重結合を有する低分子量成分を用いた場合にも、低分子量成分がポリマーAとも結合可能となるため、粘着剤中に留まりやすく、被着体の表面に残ることを抑制することができる。
【0019】
また、本実施形態においては、ポリマーAを含む粘着剤層の紫外線照射後の機械特性、すなわち引張弾性率及び破断伸び率をさらに規定する。これのような機械特性を有する粘着剤層を用いることにより、ピックアップ時にチップの四方から均等に粘着剤層を引き延ばしながら、チップを剥離することができる。この結果、少ない力でチップを粘着剤層から剥離することが可能であり、ピンハイトが低くても容易にチップを剥離することが可能となる。
【0020】
さらに、チップ表面に微細な配線や回路パターンによる凹凸が存在する場合においても、粘着剤硬化物が引き延ばされて破断することなく伸長できるため、チップの凹部による拘束から周囲の粘着剤硬化物と一体となって離脱でき、糊残りの低減に繋がる。
【0021】
(引張弾性率)
紫外線照射後の粘着剤層の引張弾性率は、400MPa以下であり、好ましくは350MPaであり、より好ましくは300MPa以下であり、さらに好ましくは150MPa以下であり、よりさらに好ましくは100MPa以下であり、さらにより好ましくは50MPa以下である。また、引張弾性率の下限値は特に制限されないが、1.0MPa以上が好ましく、3.0MPa以上であってもよい。
【0022】
紫外線照射後の粘着剤層の引張弾性率が400MPa以下であることにより、より低いピンハイトでピックアップが可能となる。さらに、紫外線照射後の粘着剤層の引張弾性率が400MPaより大きいと、紫外線照射により硬化反応が進行した後の粘着剤層が硬すぎるため、ピックアップ時にピンハイトを高くしても粘着剤層からチップの剥離が始まらず、ピックアップ不良が発生する可能性がある。さらに、この場合にピンハイトを高くしすぎると、ピンが粘着剤層を突き破り粘着テープが損傷したり、接着剤層が割れてチップに糊残りしたりする可能性がある。
【0023】
本明細書で記載する「引張弾性率」は、幅1cm、長さ10cm、厚み60~110μmに切り出した粘着剤を用いて23℃の温度条件下、万能型引張試験機により、引張り速度5mm/min、チャック間距離50mmで測定したヤング率である。
【0024】
(破断伸び率)
紫外線照射後の粘着剤層の破断伸び率は、16%以上であり、好ましくは22%以上であり、より好ましくは25%以上であり、さらに好ましくは35%以上であり、さらにより好ましくは45%以上であり、よりさらに好ましくは55%以上である。また、引張弾性率の上限値は特に制限されないが、200%以下が好ましく、90%以下であってもよい。
【0025】
紫外線照射後の粘着剤層の破断伸び率が16%以上であることにより、より低いピンハイトでピックアップが可能となる。さらに、紫外線照射後の粘着剤層の破断伸び率が16%より小さいと、紫外線照射により硬化反応が進行した後の粘着剤層が硬すぎるため、ピックアップ時にピンハイトを高くしても粘着剤層からチップの剥離が始まらず、ピックアップ不良が発生する可能性がある。さらに、この場合にピンハイトを高くし過ぎると、ピンが粘着剤層を突き破り粘着テープが損傷したり、粘着剤層が割れてチップに糊残りしたりする可能性がある。
【0026】
本明細書で記載する「破断伸び率」は、幅1cm、長さ10cm、厚み60~110μmに切り出した粘着剤を用いて23℃の温度条件下、万能型引張試験機により、引張り速度5mm/min、チャック間距離50mmで測定したときの破断伸び率である。
【0027】
(体積収縮率)
紫外線照射後の粘着剤層の体積収縮率は、紫外線照射前の体積を100%として、好ましくは0.50~10.0%であり、より好ましくは0.70~8.0%であり、さらに好ましくは0.90~5.0%である。
【0028】
紫外線照射後の粘着剤層の体積収縮率が0.50%以上であることにより、粘着剤層が紫外線照射により十分に硬化できており、粘着テープと被着体との接触面積が減少することで、粘着力が減少し、より容易に剥離ができる傾向にある。
【0029】
また、体積収縮率が10.0%以下であることにより、粘着剤層の硬化物が過度に硬化することを抑制できる傾向にある。そのため、ピックアップ時のピンの突き上げによる粘着テープの変形に粘着剤層が耐えられずピンの形に割れたり、またそれにより糊残りが生じたりすることが抑制される傾向にある。
【0030】
本明細書で記載する「体積収縮率」は、「固体の密度及び比重の測定法(JIS Z 8807)」に沿って、液中ひょう量法(天びん法)により硬化前後の比重を測定し、比重変化より硬化収縮率を求めたものである。体積収縮率の算出を以下に示す。
体積収縮率r={(ds-dl)/dl}x100
硬化前の比重:dl、硬化後の比重:ds
【0031】
(180°剥離強度)
紫外線照射前の粘着剤層のシリコンウエハに対する180°剥離強度Sは、23℃において、好ましくは2.0~20.0N/20mmであり、より好ましくは4.0~16.0N/20mmであり、さらに好ましくは6.0~14.0N/20mmである。
【0032】
180°剥離強度Sが2.0N/20mm以上であることにより、紫外線照射前の粘着力がより優れる傾向にある。そのため、粘着テープがリングフレームからはがれにくくなり、ダイシング工程においてチップ飛びやチップの欠けも生じにくくなる。
【0033】
また、180°剥離強度Sが20.0N/20mm以下であることにより、タック性が小さいためダイシング工程のブレードにより粘着剤の掻き上げが生じにくく、掻き上げられた粘着剤が被着体の側面等に付着しにくくなる傾向にある。そのため、掻き上げられた粘着剤が被着体上に糊残りとして残留したり、そのまま紫外線硬化することでチップを固定化してしまうことでピックアップ不良が生じたり、また固定化したチップにカケが生じたりすることがより抑制される傾向にある。
【0034】
紫外線照射後の粘着剤層のシリコンウエハに対する180°剥離強度Sは、23℃において、好ましくは0.05~1.0N/20mmであり、より好ましくは0.08~0.8N/20mmであり、さらに好ましくは0.10~0.6N/20mmである。
【0035】
180°剥離強度Sが0.05N/20mm以上であることにより、ピックアップ時におけるエキスパンドによって、チップが剥がれたり位置ずれが生じたりすることがより抑制される傾向にある。すなわち、ピンで突き上げる前に、チップが剥がれたり位置ずれが生じたりすることがより抑制される傾向にある。これによって、エキスパンドによって、個片化されたチップ同士が等間隔に開いた状態を維持することができ、装置がチップを正確に認識しピックアップを行うことができる。また、180°剥離強度Sが1.0N/20mm以下であることにより、粘着剤層からチップが剥離しやすくピックアップ性がより向上する傾向にある。
【0036】
180°剥離強度Sと180°剥離強度Sは、ともに満たされることが好ましい。
【0037】
本明細書で記載する「シリコンウエハに対する180°剥離強度」は、JIS Z0237(2009)の粘着力の測定方法に準拠して測定することができる。具体的には、表面を洗浄した被着体(シリコンウエハ)に圧着装置(ローラの質量2kg)を用いて粘着剤層を圧着させて、被着体に対して180°に引き剥がした際の粘着力を、温度23℃湿度50%の環境下において、万能型引張試験機で測定する。
【0038】
(粘着剤層)
粘着剤層は、光ラジカル開始剤と、重合性炭素二重結合を有するAと、を含み、必要に応じて、硬化剤を含んでいてもよい。
【0039】
(ポリマーA)
ポリマーAは、重合性炭素二重結合を有する重合体であり、粘着剤層の主成分を構成する成分である。粘着剤層に紫外線を照射すると光ラジカル開始剤がラジカルを発生し、それによりポリマーAの重合性炭素二重結合がそれぞれ重合する。これにより、紫外線照射後においては、ポリマーAは互いに架橋した状態となる。
【0040】
ポリマーAとしては、特に制限されないが、例えば、重合性二重結合を有する(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の形状は、特に制限されないが、例えば、直鎖形状、分岐形状、又は架橋形状が挙げられる。このなかでも架橋形状を有することが好ましい。このようなポリマーAを用いることにより、粘着剤層の凝集力が向上し被着体に対する接着性がより向上するとともに、汚染がより低減する傾向にある。架橋形状又は分岐形状を有するポリマーAは、直鎖形状を有するポリマーAの重合性二重結合の一部がエージング等によって結合したものであってもよい。
【0041】
(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を構成する(メタ)アクリル酸エステルの単量体としては、特に制限されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プルピル基、イソプルピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、シクロヘキシル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、テトラデシル基、ステアリル基、オクタデシル基、及びドデシル基などの直鎖又は分岐のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらアルキル(メタ)アクリレートは、1種単独で用いても、または2種類以上を併用してもよい。
【0042】
また、上記アルキル(メタ)アクリレート以外のモノマー成分としては、特に制限されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、及びクロトン酸などのカルボキシル基含有モノマー;無水マレイン酸や無水イタコン酸などの酸無水物モノマー;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8-ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸1-ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12-ヒドロキシラウリル、及び(4-ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基含有モノマー;スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸などのスルホン酸基含有モノマー;2-ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェートなどのリン酸基含有モノマーなどが挙げられ、好ましくは、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、メタクリル酸の共重合体である。これらその他のモノマーは、1種単独で用いても、または2種類以上を併用してもよい。
【0043】
このなかでも、アルキル(メタ)アクリレートとカルボキシル基含有モノマーを含む(メタ)アクリル酸エステル系共重合体や、アルキル(メタ)アクリレートとヒドロキシル基含有モノマーを含む(メタ)アクリル酸エステル系共重合体が好ましい。
【0044】
(メタ)アクリル酸エステル系共重合体への重合性二重結合の導入方法は、特に制限されないが、例えば、カルボキシル基含有モノマーのカルボキシル基、酸無水物モノマーの無水カルボキシル基、又はヒドロキシル基含有モノマーのヒドロキシル基に対して、重合性二重結合を有する変性剤を反応させる方法が挙げられる。
【0045】
例えば、カルボキシル基含有モノマー単位を含む(メタ)アクリル酸エステル系共重合体に対して、変性剤として重合性二重結合を有するエポキシ化合物を反応させることで、カルボキシル基含有モノマー単位にエステル結合を介して重合性二重結合を導入することができる。また、他の例として、カルボキシル基含有モノマー単位を含む(メタ)アクリル酸エステル系共重合体に対して、変性剤として重合性二重結合を有するイソシアネート系化合物を反応させることで、カルボキシル基含有モノマー単位にアミド結合を介して重合性二重結合を導入することができる。
【0046】
なお、変性剤としては、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体の有する官能基と反応する官能基を有しかつ重合性二重結合を有するものであれば特に制限されないが、例えば、重合性二重結合を有するエポキシ化合物、重合性二重結合を有するイソシアネート系化合物などが挙げられる。
【0047】
ポリマーAの二重結合当量は、好ましくは500~2500g/molであり、より好ましくは800~2000g/molであり、さらに好ましくは1000~1600g/molである。ポリマーAの二重結合当量が上記範囲内であると、紫外線照射によりポリマーAno重合性二重結合の架橋反応が十分に進行し、硬化収縮により被着体との接触面積が減少することで、粘着力が十分に低下する。乃ち容易に剥離ができるため、ピックアップ性能がより向上する。また、ポリマー成分合成の時点で重合できなかったモノマー成分が、紫外線照射時にポリマー成分側鎖の二重結合と反応できる可能性もあり糊残りの抑制にも繋がる。
【0048】
さらに、ポリマーAの二重結合当量が500g/mol以上であることにより、過度な架橋を抑制できるため、ピックアップ時のピンの突き上げによる粘着テープの変形に粘着剤層が耐えられずピンの形に割れたり、またそれにより糊残りが生じたりすることが抑制される傾向にある。また、未反応のカルボキシル基などの極性基が残存しやすくなり、紫外線照射前の被着体への粘着力がより向上する傾向にある。
【0049】
ポリマーAの二重結合当量が2500g/mol以下であることにより、架橋反応が十分に進行して粘着力が低下し、ピックアップ時に、チップを容易に剥離することができる傾向にある。
【0050】
本明細書で記載する「二重結合当量」は、「化学製品の酸価,けん化価,エステル価,よう素価,水酸基価及び不けん化物の試験方法」(JIS K 0070)」に沿って、よう素価を測定し二重結合当量を求めたものである。具体的には、試料に一塩化よう素溶液を添加し二重結合に付加させ、過剰のIをチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定し、以下の式で求めた。
A={(B-C)×f×1.269}/S
A:よう素価
B:空試験に用いたチオ硫酸ナトリウム溶液の量(mL)
C:滴定に用いたチオ硫酸ナトリウム溶液の量(mL)
f:チオ硫酸ナトリウム溶液のファクター
S:試料の質量(g)
1.269:よう素の原子量
【0051】
また、重合性二重結合の導入量は、ポリマーAを構成する反応性モノマー単位100モル%に対して、好ましくは40~95モル%であり、より好ましくは43~90モル%であり、さらに好ましくは45~80モル%である。なお、ここで、「反応性モノマー単位」とは、カルボキシル基含有モノマー、酸無水物モノマー、及びヒドロキシル基含有モノマーをいう。重合性二重結合の導入量が40モル%以上であることにより、紫外線照射後に粘着力が十分に低下し、ピックアップ性がより向上する傾向にある。また、重合性二重結合の導入量が95モル%以下であることにより、後述する硬化剤と反応可能な官能基がポリマーA中に残り、基材フィルムと粘着剤層との投錨破壊がより生じにくくなる傾向にある。さらに、重合性二重結合の導入量が95モル%以下であることにより、未反応のカルボキシル基などの極性基が残存しやすくなり、紫外線照射前の被着体への粘着力がより向上する傾向にある。
【0052】
ポリマーAは、水酸基を有することが好ましい。なお、当該水酸基はカルボキシル基含有モノマーなどに由来するものであってもよいし、変性剤に由来する水酸基であってもよいし、カルボキシル基含有モノマーなどのモノマー単位と変性剤とが反応することによって生じる水酸基であってもよい。カルボキシル基含有モノマーと変性剤とが反応することによって生じる水酸基としては、例えば、カルボキシル基含有モノマーに重合性二重結合を有するエポキシ化合物を反応させるような例が挙げられる。
【0053】
ポリマーAが水酸基を有することにより、後述する硬化剤を配合した場合に、水酸基を介して複数のポリマー間をさらに架橋することができ、粘着剤層の凝集力がより向上する傾向にある。また、基材フィルムと粘着剤層とのアンカー性もより向上し、凝集破壊や投錨破壊が抑制され、より安定した粘着特性が得られる傾向にある。
【0054】
ポリマーAに含まれるモノマー単位のうち水酸基を有するモノマー単位の含有量が、全モノマー単位100モル%に対して、好ましくは5~40モル%であり、より好ましくは10~30モル%であり、さらに好ましくは10~25モル%である。水酸基を有するモノマー単位の含有量が上記範囲内であることにより、粘着剤層の凝集力がより向上する傾向にある。
【0055】
また、ポリマーAの重量平均分子量は、好ましくは1.0×10~2.0×10であり、より好ましくは2.0×10~1.0×10、さらに好ましくは、2.5×10~8.0×10である。ポリマーAの重量平均分子量が1.0×10以上であることにより、高分子量成分が多くなるほか、分子量が高いほど1つのポリマーAが他のポリマーAと重合性二重結合で重合する機会が多くなるため、汚染がより低減する傾向にある。ポリマーAの重量平均分子量が2.0×10以下であることにより、ポリマーAが動きやすく、1つのポリマーAが他のポリマーAと重合する機会が多くなるため、汚染がより低減する傾向にある。また、分子量が小さいほど粘着剤の弾性率が高くなり過ぎないため、常態における粘着力がより向上する傾向にある。また、被着体への追従性が良くなり被着体の段差にも追従できるため、酸素阻害が原因のUV硬化不良による汚染を避けることができる。さらに柔らかい粘着剤はUV照射により十分に硬化収縮しやすいため、硬化後の粘着力を十分に下げることができる。
【0056】
本明細書で記載する「重量平均分子量」は、ポリマーAをテトラヒドロフランに溶解したサンプルを、ゲル浸透クロマトグラフ分析装置を用いて測定した分子量である。成分A1の含有量は、ポリマーAのクロマトグラムの面積を100面積%として、スタンダードポリスチレン換算の分子量の検量線から重量平均分子量が20000以下となる保持時間におけるクロマトグラムの面積の割合を算出することで求めることができる。
【0057】
また、ポリマーAのガラス転移点は、好ましくは-80~23℃であり、より好ましくは-70~10℃であり、さらに好ましくは-60~0℃である。ポリマーAのガラス転移点が-80℃以上であることにより、汚染がより低減する傾向にある。また、ポリマーAのガラス転移点が23℃以下であることにより、被着体に対する接着性がより向上する傾向にある。
【0058】
ポリマーAの含有量は、粘着剤層の総量に対して、好ましくは80~99.5質量%であり、より好ましくは85~99.5質量%であり、さらに好ましくは90~99.5質量%である。ポリマーAの含有量が上記範囲内であることにより、汚染がより抑制される傾向にある。
【0059】
(光ラジカル開始剤)
光ラジカル開始剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキルフェノン系光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤、芳香族ケトン類、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物(チオフェニル基含有化合物など)、α-アミノアルキルフェノン化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物が挙げられる。
【0060】
このなかでも、アルキルフェノン系光重合開始剤が好ましい。
【0061】
光ラジカル開始剤の含有量は、粘着剤層の総量に対して、好ましくは0.1~5.0質量%であり、より好ましくは0.2~4.0質量%であり、さらに好ましくは0.3~3.0質量%である。光ラジカル開始剤の含有量が上記範囲内であることにより、汚染がより抑制される傾向にある。
【0062】
(硬化剤)
硬化剤としては、特に制限されないが、例えば、イソシアネート系化合物、エポキシ系化合物、アミン系化合物などを挙げることができる。このなかでも、イソシアネート系化合物が好ましい。このような硬化剤を用いることにより、粘着剤層の凝集力がより向上する傾向にある。これら硬化剤は1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0063】
イソシアネート系化合物としては、特に制限されないが、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)等の脂環族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネートが挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0064】
このなかでも、硬化剤は2官能以上の多官能イソシアネート系化合物が好ましい。このような硬化剤を用いることにより、複数のポリマーA間を硬化剤によっても架橋することができるため、粘着剤層の凝集力がより向上する傾向にある。また、基材層と粘着剤層とのアンカー性も向上し、より安定した粘着特性が得られる傾向にある。
【0065】
硬化剤の含有量は、ポリマーA100重量部に対して、好ましくは0.10~5.0重量部であり、より好ましくは0.15~3.0重量部であり、さらに好ましくは0.20~2.0重量部である。硬化剤の含有量が、0.1重量部以上であることにより、粘着剤層の架橋密度がより向上し、剥離時に生じる凝集破壊がより抑制され、凝集破壊に起因する汚染がより抑制される傾向にある。また、硬化剤の含有量5.0重量部以下であることにより、架橋密度がより低下し、弾性率が低くなるため、粘着力がより向上する傾向にある。
【0066】
また、硬化剤の含有量は、粘着剤層の総量に対して、好ましくは0.10~2.0質量%であり、より好ましくは0.15~1.5質量%であり、さらに好ましくは0.20~1.0質量%である。硬化剤の含有量が上記範囲内であることにより、汚染がより抑制される傾向にある。
【0067】
(その他の添加剤)
本実施形態の粘着剤層は、必要に応じて、粘着付与剤、架橋遅延剤、酸化防止剤等を添加することができる。
【0068】
粘着付与剤としては、特に制限されないが、例えば、石油系樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、クマロンーインデン樹脂、天然樹脂ロジン、変性ロジン、グリセリンエステルロジン、ペンタエリスリトールエステルロジン、フェノール樹脂、キシレン樹脂、脂環族系石油樹脂、スチレン系樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂等が挙げられる。
【0069】
架橋遅延剤としては、特に制限されないが、例えば、イソシアネート系硬化剤を含有する粘着剤組成物において、硬化剤が有するイソシアネート基をブロックすることによって、粘着剤組成物の過剰な粘度上昇を抑制することができる化合物である。このような架橋遅延剤としては、特に制限されないが、例えば、アセチルアセトン、ヘキサン-2,4-ジオン、ヘプタン-2,4-ジオン、オクタン-2,4-ジオン等のβ-ジケトン類;アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸プロピル、アセト酢酸ブチル、アセト酢酸オクチル、アセト酢酸オレイル、アセト酢酸ラウリル、アセト酢酸ステアリル等のβ-ケトエステル類;ベンゾイルアセトン等が挙げられる。
【0070】
酸化防止剤としては、特に制限されないが、例えば、メチルハイドロキノン、ハイドロキノン、2,2-メチレン-ビス(4-メチル-6-ターシャリーブチルフェノール)、カテコール、ハイドロキノンモノメチルエーテル、モノターシャリーブチルハイドロキノン、2,5-ジターシャリーブチルハイドロキノン、p-ベンゾキノン、2,5-ジフェニル-p-ベンゾキノン、2,5-ジターシャリーブチル-p-ベンゾキノン、ピクリン酸、クエン酸、フェノチアジン、ターシャリーブチルカテコール、2-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、2,6-ジターシャリーブチル-p-クレゾール及び4-[[4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イル]アミノ]-2,6-ジターシャリーブチルフェノールが挙げられる。
【0071】
(厚さ)
粘着剤層の厚さは、通常は1.0~250μmであり、好ましくは2.0~50μmである。さらに好ましくは5.0~40μmである。粘着剤層の厚さを1.0μm以上にすることによって、十分な粘着力を確保することができるため、エキスパンドによって分割された半導体のチップの飛散を抑制することが容易となる。また、粘着剤層の厚さが250μm以下であることにより、よりコストが抑えられる傾向にある。
【0072】
半導体ウエハ加工用粘着テープとして使用する場合には、テープの総厚みは、好ましくは60~250μmの範囲となるように、基材層及び粘着剤層の厚さを上記範囲において調整することが好ましい。半導体ウエハ加工用テープの総厚みは、より好ましくは70~200μmであり、さらに好ましくは70~180μmである。
【0073】
(基材層)
基材層を構成する材料としては、特に制限されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸-アクリル酸エステルフィルム、エチレン-エチルアクリレート共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン系共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、及び、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体やエチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル系共重合体等を金属イオンで架橋したアイオノマー樹脂が挙げられる。基材層を構成する基材フィルムは、これら樹脂の単独、2種以上の混合物、共重合体、又はこれらの積層物であっても良い。
【0074】
基材層の厚さは作業性を損なわない範囲で適宜選択できる。基材層の厚さは、通常は10~500μmであり、好ましくは50~200μmであり、さらに好ましくは70~150μmである。基材層の厚さを上記範囲内に調整することによって、実用的に問題なく、経済的にも有効である。基材層を複数の基材フィルムから構成する場合、基材層全体の厚さが上記範囲内となるように調整することが好ましい。
【0075】
基材層は、粘着剤層との密着性を向上させるために、必要に応じて、化学的又は物理的に表面処理を施してもよい。上記表面処理としては、例えば、コロナ処理、クロム酸処理、オゾン暴露、火炎暴露、高圧電撃暴露、及びイオン化放射線処理等が挙げられる。
【0076】
(保護フィルム)
本実施形態の粘着テープは、粘着剤層を保護するため、粘着剤層に貼り合わせられた保護フィルムを有していてもよい。保護フィルムは、粘着テープの使用時に剥離されるため、剥離性に優れるものが好ましい。保護フィルムとしては、特に制限されないが、例えば、フッ素樹脂からなる表面エネルギーの低いフィルム、ポリエチレンテレフタレートの表面をシリコーン系剥離剤で処理したフィルム等が挙げられる。
【0077】
(用途)
本実施形態の粘着テープは、半導体ウエハ、半導体デバイス、又は各種半導体パッケージの加工用途に好適に用いることができる。半導体ウエハは、電子回路等が形成された個片か前のものであってもよい。また、半導体デバイスは、個片化された後の各種半導体チップあるいはそれを含む素子をいい、半導体パッケージとは、半導体チップにそれを保護するための樹脂と半導体チップと外部とを接続する接続端子を付したものをいう。
【0078】
〔粘着テープの製造方法〕
粘着テープの製造方法としては、特に制限されないが、基材層上に粘着剤層を形成する方法が挙げられる。
【0079】
本実施形態の粘着テープの基材層は、周知の技術に沿って製造することができる。基材層を成形する手段は、特に限定されるものでないが、上記各種材料を慣用の溶融混練等や各種混合装置(1軸又は2軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、各種ニーダー等)を使用して各成分が均一に分散するように混合し、当該混合物をTダイ法、カレンダー法、インフレ法で基材に成形する。好ましくは、厚さ精度がよい押出機によるTダイ法を用い製膜する方法である。
【0080】
本実施形態の粘着テープの粘着剤層は、周知の技術に沿って製造することができる。粘着剤層を成形する手段は、特に限定されるものでないが、上記各種材料を有機溶剤等の溶媒に溶解させてワニス化し、これを保護フィルムの上に、ナイフコート法、ロールコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、バーコート法、又はカーテンコート法等によって塗工し、溶媒を除去することによって粘着剤層を形成する。これを基材層上に貼り合せることによって、粘着テープを作製する。
【0081】
本実施形態においては、粘着剤層を形成後に、エージング処理をしてもよい。エージング処理では、形成した粘着剤層を所定の温度下で保管する。温度条件は、特に制限されないが、好ましくは30~50℃であり、より好ましくは35~45℃である。また、保管時間は、特に制限されないが、好ましくは24~150時間であり、より好ましくは48~100時間である。このエージング処理を行うことで、粘着剤層の粘着力や、硬化特性が変化する。
【0082】
〔加工方法〕
本実施形態の加工方法は、上記粘着テープと、被着体と、を貼り合わせる貼合工程と、粘着テープと被着体とを貼り合わせた状態で、被着体を加工するダイシング工程と、を有し、被着体として半導体ウエハ、半導体デバイス、又は各種半導体パッケージを加工する方法である。また、本実施形態の加工方法は、必要に応じて、ダイシング工程後の粘着テープに紫外線を照射する紫外線照射工程や、紫外線照射後の粘着テープから、個片化したチップをピックアップするピックアップ工程を有していてもよい。
【0083】
ダイシング工程による個片化方法は、特に制限されず従来公知の方法を用いることができる。例えば、ダイシング装置を用いダイヤモンド砥粒を含有するダイシングブレードを高速回転させることにより、シリコンウエハを半導体チップに切断することができる。
【0084】
紫外線照射方法は、特に制限されないが、従来公知の方法を用いることができる。例えば、紫外線照射装置を用いて、ダイシング工程の粘着テープに紫外線を照射する。
【0085】
その後、ピックアップ方法は、特に制限されないが、従来公知の方法を用いることができる。例えば、エキスパンディング装置を用いて、紫外線照射後の粘着テープを面方向に引き伸ばし、各チップを分離させた状態でピックアップ装置によりチップをピックアップすることができる。
【実施例
【0086】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0087】
(実施例1)
アクリル酸2-エチルヘキシル92重量部と、アクリル酸8重量部と、開始剤(アゾビスイソブチロニトリル)0.05重量部とを酢酸エチル中で、65℃で、24時間、共重合させて、アクリル系ポリマーを含む溶液を得た。
【0088】
該アクリル系ポリマー中のアクリル酸単位のカルボキシル基に、メタクリル酸グリシジルを反応させ、側鎖に二重結合を導入した側鎖二重結合導入型アクリル系ポリマーを得た。このときメタクリル酸グリシジルの導入量が、上記アクリル系ポリマーのメタクリル酸単位100モル当たり、80モル(80モル%)となるように、両者を反応させた。
【0089】
続いて、側鎖二重結合導入型アクリル系ポリマー100重量部を含む溶液に、ポリイソシアネート系化合物としてトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネート硬化剤(日本ポリウレタン株式会社:コロネートL-45E)を0.5重量部と光ラジカル開始剤として2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(BASF社製:Omnirad 651)2.1重量部と、を加えて、紫外線硬化型粘着剤である樹脂組成物を調製した。
【0090】
この樹脂組成物を、予め離型処理の施されたポリエチレンテレフタレート保護フィルムの離型処理面上に、乾燥後の粘着剤層の厚みが20μmとなるように塗工し、100℃で1分間乾燥させた後、予め粘着剤層が張り合わされる表面にコロナ処理が施されたエチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル系共重合体のアイオノマーフィルム(基材樹脂フィルム)のコロナ処理面と貼り合わせて基材樹脂フィルムに粘着剤を転写させた。これを40℃の雰囲気下で72時間エージングし、粘着テープを得た。
【0091】
(実施例2)
メタクリル酸グリシジルの導入量をアクリル系ポリマーのアクリル酸単位100モル当たり、60モル(60モル%)となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、粘着テープを作製した。
【0092】
(実施例3)
硬化剤の使用量を0.3重量部となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、粘着テープを作製した。
【0093】
(実施例4)
アクリル酸2-エチルヘキシル97重量部と、アクリル酸3重量部と、開始剤(アゾビスイソブチロニトリル)0.05重量部とを酢酸エチル中で、65℃で、24時間、共重合させて、アクリル系ポリマーを含む溶液を得たこと以外は、実施例1と同様にして、粘着テープを作製した。
【0094】
(実施例5)
メタクリル酸グリシジルの導入量をアクリル系ポリマーのアクリル酸単位100モル当たり、70モル(70モル%)となるようにし、硬化剤の使用量を0.2重量部となるようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、粘着テープを作製した。
【0095】
(比較例1)
開始剤の量を調整して、アクリル系ポリマーの重量平均分子量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、粘着テープを作製した。
【0096】
(比較例2)
実施例1で調製したアクリル系ポリマーに対して、メタクリル酸グリシジルを反応させずに、代わりに紫外線重合性ウレタンアクリレートを別添加し、併せて硬化剤と開始剤の量を調整したこと以外は実施例1と同様にして、粘着テープを作製した。
【0097】
上記のようにして調製した各サンプルについて引張弾性率、破断伸び率、体積収縮率、180°剥離強度について、評価試験を以下のように行った。得られた結果をまとめて下記表1に示す。
【0098】
<引張弾性率、破断伸び率>
粘着テープに対して、高圧水銀灯により紫外線を150mJ/cm照射した。そして、粘着剤層を、幅1cm、長さ10cm、厚み60~110μmに切り出して、サンプルとして用いた。紫外線照射後の粘着剤層の引張弾性率及び破断伸び率は、温度23℃湿度50%の環境下において、万能型引張試験機(ORIENTEC社製 テンシロン 型番:RTG-1210)で測定した。
測定モード:引張り
引張り速度:5mm/min
チャック間距離:50mm
【0099】
<体積収縮率>
体積収縮率は、JIS Z 8807の固体の密度及び比重の測定法に沿って、液中ひょう量法(天びん法)により硬化前後の比重を測定し、比重変化より硬化収縮率を求めたものである。以下の式で求めた。
体積収縮率r={(ds-dl)/dl}×100
硬化前の比重:dl、硬化後の比重:ds
【0100】
<重量平均分子量>
上記のようにして合成した側鎖二重結合導入型アクリル系ポリマー10mgをテトラヒドロフラン(THF、安定化剤不含、和光製薬工業株式会社製)10mLに溶解し、メンブランフィルター(PTFE製、0.50μm)でろ過したものを分析に供した。重量平均分子量の測定条件を以下に示す。
【0101】
(分析装置)
ゲル浸透クロマトグラフ分析装置(DGU-20AC等、株式会社島津製作所製)
(測定条件)
標準物質:Shodex STANDARD (Type:SM-105、昭和電工株式会社製)
試料導入量:20μL
移動相:THF
流量 :1mL/min
カラム:Shim-pack GPC-80M (300mm×8.0mmI.D.)
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折率検出器(RID)
【0102】
<ガラス転移点>
ポリマーAのガラス転移点の測定は、JIS K7121に基づいて、示差走査熱量測定法(DSC法)により測定した。
【0103】
<180°剥離強度>
粘着テープの粘着力は、JIS Z0237(2009)の粘着力の測定方法(方法1:テープ及びシートをステンレス試験板に対して180°に引きはがす試験方法)に準拠して測定した。具体的には、表面を洗浄したシリコンウエハに粘着テープを圧着装置(ローラの質量2kg)を用いて圧着させて、シリコンウエハに対して180°で粘着テープを引き剥がした際の180°剥離強度Sを、温度23℃湿度50%の環境下において、万能型引張試験機(ORIENTEC社製 テンシロン 型番:RTG-1210)で測定した。
【0104】
また、表面を洗浄したシリコンウエハに粘着テープを圧着装置(ローラの質量2kg)を用いて圧着させて、粘着テープに対して、高圧水銀灯により紫外線を150mJ/cm照射した。その後、シリコンウエハに対して180°で粘着テープを引き剥がした際の180°剥離強度Sを上記同様に測定した。測定条件を以下に示す。
(測定条件)
測定モード:引張り
引張り速度:300mm/min
チャック間距離:50mm
測定サンプル幅:20mm
【0105】
<二重結合当量>
二重結合当量は、「化学製品の酸価,けん化価,エステル価,よう素価,水酸基価及び不けん化物の試験方法」(JIS K 0070)」に沿って、よう素価を測定し二重結合当量を求めた。具体的には、試料に一塩化よう素溶液を添加し二重結合に付加させ、過剰のIをチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定し、以下の式で求めた。
A={(B-C)×f×1.269}/S
A:よう素価
B:空試験に用いたチオ硫酸ナトリウム溶液の量(mL)
C:滴定に用いたチオ硫酸ナトリウム溶液の量(mL)
f:チオ硫酸ナトリウム溶液のファクター
S:試料の質量(g)
1.269:よう素の原子量
【0106】
<ダイシング工程>
幅100mm×奥行50mm×厚さ0.76mmのエポキシ封止樹脂の裏面に、ローラーを備えたテープマウンター装置を用い、上記のようにして作製した粘着テープを貼り合わせた。次いで、ダイシングブレードでエポキシ封止樹脂を3.2mm×3.2mmの半導体チップにダイシングした。ダイシングの主な設定条件は、以下の通りである。
(設定条件)
ダイシング装置:DISCO社製DAD341
ダイシングブレード:DISCO社製P1A861 SDC240N75BR597
ダイシングブレード回転数:25,000rpm
ダイシングブレード送り速度:35mm/秒
切削水温度:25℃。
切削水量:1.0リットル/分
【0107】
<ピックアップ工程>
ダイシング工程後に、紫外線を150mJ/cm照射して粘着剤層を硬化させた。その後、粘着テープから半導体チップをピックアップして剥離した。ピックアップの主な設定は、以下の通りである。なお、ニードルピン突き上げ高さ(ピンハイト)は、最初に0.1mmに設定し、10個の半導体チップのピックアップを試し、全ての半導体チップをピックアップできない場合には、ニードルピン突き上げ高さを0.1m増加させて、10個の半導体チップのピックアップを試すという操作を繰り返した。
(設定条件)
ピックアップ装置:キヤノンマシナリー社製CAP-300II
ニードルピン形状:250μmR
ニードルピン突き上げ高さ:0.1~1.0mm
エキスパンド量:8mm
突き上げ速度:10,000μm/秒
【0108】
表1における評価について説明する。
<糊残り性>
ダイシング、ピックアップ工程後、顕微鏡により被着体への糊残りの有無を観察した。
◎(優):チップ上に糊の付着がなく、汚染もない
〇(良):チップ上に糊の付着はないが、薄い汚染がある
△(可):チップ上に糊の付着はないが、濃い汚染がある
×(不可):チップ上に糊の付着と汚染が見られる
ここで、「薄い汚染」とは、シリコンウエハのテープが貼ってあった場所の色がうっすら変わった程度のものを指し、「濃い汚染」とは、明らかにテープ跡がわかるものを指す。
【0109】
<ピックアップ収率>
ピックアップ時ピンハイトについて、0.1mmから1.0mmまで0.1mm刻みでピックアップ試験を行なった。より具体的には、各ピンハイトにて100個のチップのピックアップを試み、ピックアップできたチップの割合(ピックアップ収率)を、ピンハイトごとに確認した。そして、チップのピックアップ収率が95%以上となったピンハイトの最小値を表に記載した。また、ピンハイト1.0mmにおいてもチップのピックアップ収率が95%以上とならない場合には、表に「-」と記載した。
【0110】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の粘着テープは、半導体ウエハ加工用テープ、特にはダイシング工程で用いる粘着テープとして、産業上の利用可能性を有する。