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特許7547509リチウムイオン伝導性酸化物材料及び全固体リチウム二次電池
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  • 特許-リチウムイオン伝導性酸化物材料及び全固体リチウム二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】リチウムイオン伝導性酸化物材料及び全固体リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20240902BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20240902BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240902BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240902BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240902BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20240902BHJP
   C01G 31/00 20060101ALI20240902BHJP
   C01G 45/00 20060101ALI20240902BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01B1/08
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
C01G25/00
C01G31/00
C01G45/00
C01G53/00 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022571657
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2021048051
(87)【国際公開番号】W WO2022138878
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-05-29
(31)【優先権主張番号】P 2020214515
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391021765
【氏名又は名称】新日本電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】平原 太陽
(72)【発明者】
【氏名】富田 紘貴
【審査官】遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-006634(JP,A)
【文献】特開2020-119895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01B 1/08
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/62
C01G 25/00
C01G 31/00
C01G 45/00
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li、La、Zr、及びOの各元素と、少なくともA元素を含み、前記A元素は、d電子を有し、酸素の陰イオンの配位子場による安定化における正八面体配位選択性が50kJ/mol以上となる陽イオンの状態にあり、前記A元素のLaに対するモル比A/Laが0.01以上0.45以下であり、室温におけるイオン伝導率が1×10-5S/cm以上であることを特徴とするリチウムイオン伝導性酸化物材料。
【請求項2】
前記リチウムイオン伝導性酸化物材料が、ガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する複合酸化物からなり、Liサイト空孔の割合が52.5%以上72.5%以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン伝導性酸化物材料。
【請求項3】
前記リチウムイオン伝導性酸化物材料が、ガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する複合酸化物からなり、元素Liの置換割合が0%を超えて4.0%以下の場合において、Liサイト空孔の割合が52.5%以上55.5%以下であり、元素Liの置換割合が15%以上21%以下の場合において、Liサイト空孔の割合が60.0%以上70.0%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン伝導性酸化物材料。
【請求項4】
B元素(Bは、MgとSrから選択される1種または2種)を更に含むことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性酸化物材料。
【請求項5】
前記A元素が、酸素の陰イオンの配位子場による安定化における正八面体配位選択性が60kJ/mol以上となる陽イオンの状態にあることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性酸化物材料。
【請求項6】
前記A元素が、2価の陽イオンの状態で含まれていることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性酸化物材料。
【請求項7】
前記リチウムイオン伝導性酸化物材料が、ガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する複合酸化物からなり、前記結晶構造の格子定数が12.93Å以上であることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性酸化物材料。
【請求項8】
メジアン径が、0.3μm以上35μm以下であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性酸化物材料。
【請求項9】
請求項1~のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性酸化物材料を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
リチウムイオン二次電池の正極材料の平均粒径Dcに対して、前記リチウムイオン伝導性酸化物材料の平均粒径Deが、De/Dc比で0.1以上10.0以下であることを特徴とする請求項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項11】
請求項1~のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性酸化物材料を固体電解質として用いたことを特徴とする全固体リチウム二次電池。
【請求項12】
全固体リチウム二次電池の正極材料の平均粒径Dcに対して、前記リチウムイオン伝導性酸化物材料の平均粒径Deが、De/Dc比で0.1以上10.0以下であることを特徴とする請求項11に記載の全固体リチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン伝導性酸化物材料及び全固体リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピュータ及びスマートフォン等の電子機器の普及、自然エネルギーの貯蔵技術の発展、及び電気自動車等の普及に伴い、それらの電源としてリチウムイオン二次電池の用途が急速に拡大している。従来のリチウムイオン二次電池では、可燃性の有機溶媒を含む電解質が広く用いられているので、発火、爆発等の危険性がある。そこで、高い安全性を確保するために、有機溶媒に代えて固体電解質を用いると共に他の電池要素をすべて固体で構成した全固体電池の開発が進められている。
【0003】
全固体電池は、電解質がセラミックスであるので、漏洩や発火のおそれがなく安全である。特に、リチウム金属を電極に用いた全固体リチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度化が期待されているが、リチウム金属の反応性が高いため、リチウム金属に対して安定な、特定の材料で構成された電解質を用いる必要がある。
【0004】
そのような固体電解質として、ガーネット型結晶構造を有する酸化物材料が注目されている。典型的な金属元素(陽性元素)の酸化物はイオン結晶をつくる(化学大辞典3 昭和49年3月10日 縮刷版第16刷発行)。非特許文献1には、LiLaZr12(以下においてLLZと称する)のLi金属への安定性が報告されており、全固体リチウム二次電池の固体電解質としての利用が期待されている。LLZの結晶構造としては主に立方晶と正方晶とが存在する。LLZを構成する特定の元素を別の元素に置換することによって、立方晶のLLZが安定し、高イオン導電率(イオン伝導率)を有することが知られている。
【0005】
特許文献1には、LLZはペレットの密度が低く、Liイオン導電率(イオン伝導率)は測定不能だが、LLZにAlを含有させることにより、安定してペレットとして取得することができ、しかも良好なLiイオン伝導性を示すことが開示されている。
【0006】
特許文献2には、LLZにAl及びMgを複合添加することにより、焼成ムラ、クラック、空孔等の欠陥、異常粒成長等の発生を抑制又は回避して、高密度及び高強度のLLZ系固体電解質セラミックス材料が得られることが開示されている。
【0007】
特許文献3には、LLZのLaサイトにSrやCaなどの元素を置換すると共に、ZrサイトにNbなどの元素を置換させると、Liイオン伝導度の低下をできるだけ抑えると共に、焼成エネルギーをより低減することができることが開示されている。
【0008】
特許文献4には、LLZにAl及びNiO、CuO、CoO4/3、FeO3/2の中から選択される1種以上の酸化物が加わることで、焼結密度が向上したことが開示されている。
【0009】
特許文献5には、LLZにMg及びA(AはCa、Sr、及びBaからなる群より選択される少なくとも一種の元素)の少なくとも一方を含むことで、コストを抑えつつ所望のイオン伝導率を有するリチウムイオン伝導性セラミックス材料を提供することが開示されている。
【0010】
特許文献6には、LLZにMgを含有し、ガーネット型結晶構造の各格子中に含まれるMg原子とO原子との間の距離を適切に設定することにより、ガーネット型またはガーネット型類似の結晶構造を安定化させることができ、リチウムイオン伝導率を向上させることができることが開示されている。
【0011】
非特許文献2には、立方晶LLZの結晶構造について、元素Liは2種類の結晶学的部位であるLi1及びLi2サイトを占めており、それぞれ四面体24dサイトおよび八面体96hサイトに位置していることが報告されている。また、LLZ中のLiイオンの伝導経路はLi1サイトを介してLi2→Li1→Li2サイトに沿って移動し、LLZ構造中にLiイオン移動経路の3次元ネットワークが構造内に形成されることが報告されている。
【0012】
非特許文献3には、LLZにGaを置換させると、Gaが元素LiのLi1位置の一部を置換し、LiとGa3+の電荷の違いによりLi空孔を導入することで高いイオン伝導性を有する立方晶LLZを形成できることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2011-051800号公報
【文献】国際公開第2013/128759号
【文献】特開2013-32259号公報
【文献】特開2016-169142号公報
【文献】特開2016-40767号公報
【文献】特開2018-106799号公報
【0014】
【文献】R.Murugan et al.,Angew.Chem.,2007.46.7778-7781
【文献】J.Awaka et al.,Chem.Lett.,2011.40.60-62
【文献】C.Bernuy-Lopez et al.,Chem.Mater.,2014.26.3610-3617
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述のように、LLZに元素を置換させることでLi空孔を導入し、立方晶を安定させて高いリチウムイオン導電率を示すが、非特許文献3のように置換元素がLi1位置に位置するためLi2-Li1-Li2サイトに沿ったLiの自由移動を阻害し、導電率の低下を招く可能性が有る。
【0016】
そこで、本発明の目的は、上記実情に鑑み、ガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する複合酸化物であって、高いイオン伝導率を有し、より安定な特性を有するリチウムイオン伝導性酸化物材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、ガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する複合酸化物において、少なくともA元素を含み、前記A元素が、d電子を有し、酸素の陰イオンの配位子場による安定化における正八面体配位選択性が50kJ/mol以上となる陽イオンの状態にあることで、A元素を八面体サイトであるLi2サイトに選択的に置換させ、かつ配位安定化した置換よって結晶構造を安定化させることができるので、Liイオンの自由移動を阻害することなくLi電荷担体及びLi空孔濃度を最適化できる。このようなことから、高いイオン導電率で安定な特性が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
本発明の要旨は、次の通りである。
(1)Li、La、Zr、及びOの各元素と、少なくともA元素を含み、前記A元素は、d電子を有し、酸素の陰イオンの配位子場による安定化における正八面体配位選択性が50kJ/mol以上となる陽イオンの状態にあり、前記A元素のLaに対するモル比A/Laが0.01以上0.45以下であることを特徴とするリチウムイオン伝導性酸化物材料。
(2)前記リチウムイオン伝導性酸化物材料が、ガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する複合酸化物からなり、Liサイト空孔の割合が52.5%以上72.5%以下であることを特徴とする前記(1)に記載のリチウムイオン伝導性酸化物材料。
(3)前記リチウムイオン伝導性酸化物材料が、ガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する複合酸化物からなり、元素Liサイトの置換割合が0%を超えて4.0%以下の場合において、Liサイト空孔の割合が52.5%以上55.5%以下であり、元素Liの置換割合が15%以上21%以下の場合において、Liサイト空孔の割合が60.0%以上70.0%以下であることを特徴とする前記(1)又は前記(2)記載のリチウムイオン伝導性酸化物材料。
(4)B元素(Bは、MgとSrから選択される1種または2種)を更に含むことを特徴とする前記(1)~前記(3)のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性酸化物材料。
(5)前記A元素が、酸素の陰イオンの配位子場による安定化における正八面体配位選択性が60kJ/mol以上となる陽イオンの状態にあることを特徴とする前記(1)~前記(4)のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性酸化物材料。
(6)前記A元素が、2価の陽イオンの状態で含まれていることを特徴とする前記(1)~前記(5)のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性酸化物材料。
(7)室温におけるイオン伝導率が1×10-5S/cm以上である前記(1)~前記(6)のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性酸化物材料。
(8)前記結晶構造の格子定数が12.93Å以上であることを特徴とする前記(1)~前記(7)のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性酸化物材料。
(9)メジアン径が、0.3μm以上35μm以下であることを特徴とする前記(1)~前記(8)のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性酸化物材料。
(10)前記(1)~前記(9)のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性酸化物材料を含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
(11)リチウムイオン二次電池の正極材料の平均粒径Dcに対して、前記リチウムイオン伝導性酸化物材料の平均粒径Deが、De/Dc比で0.1以上10.0以下であることを特徴とする前記(10)に記載のリチウムイオン二次電池。
(12)前記(1)~前記(9)のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性酸化物材料を固体電解質として用いたことを特徴とする全固体リチウム二次電池。
(13)全固体リチウム二次電池の正極材料の平均粒径Dcに対して、前記リチウムイオン伝導性酸化物材料の平均粒径Deが、De/Dc比で0.1以上10.0以下であることを特徴とする前記(12)に記載の全固体リチウム二次電池。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、良好なイオン導電率で、配位安定化した置換よって置換金属イオンが移動し難くなるので安定な特性を示す、言い換えれば、結晶構造が安定になるので高い導電性を維持できるリチウムイオン伝導性酸化物材料を提供することができる。つまり、結晶構造が安定な特性を示すことで、他の結晶構造への相変位や他相出現を防ぐことが出来、そして、LiイオンはLLZの構造中を移動するため、LLZの構造を保つことで高い導電性を有することが出来る。
また、本発明のリチウムイオン伝導性酸化物材料を固体電解質として用いることで優れた電池特性の全固体リチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の実施例である実施例47の合成粉末について行ったX線回折測定により得られたX線回折パターンの一例を示す。この結果から、本発明の実施例は、ガーネット型結晶構造又はガーネット型類似の結晶構造を有することが確認される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のリチウムイオン伝導性酸化物材料はLi、La、Zr、及びOの各元素と、少なくともA元素とを含み、前記A元素が、d電子を有し、酸素の陰イオンの配位子場による安定化における正八面体配位選択性が50kJ/mol以上となる陽イオンの状態にあり、前記A元素のLaに対するモル比A/Laが0.01以上0.45以下であることを特徴とする。
【0022】
本発明におけるリチウムイオン伝導性酸化物材料は、ガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する複合酸化物からなり、該結晶構造中のLiイオンは2種類の結晶学的部位であるLi1及びLi2サイトを占めて、それぞれ四面体及び八面体サイトに位置している。LLZ中のLiイオンの伝導経路は、Li1サイトを介してLi2→Li1→Li2サイトに沿って移動し、LLZ構造中にLiイオン移動経路の3次元ネットワークが構造内に形成されている。
このため、正八面体配位選択性が50kJ/mol以上となる陽イオンの状態にあるA元素を含むことで、A元素が八面体サイトであるLi2サイトに選択的に安定して置換させることができる。
【0023】
これにより、Li2→Li1→Li2サイトに沿ったLiイオンの自由移動を阻害することなくLi電荷担体及びLi空孔濃度を最適化させて高いイオン導電率を有することができる。従来の置換方法に比べてLiイオンの経路を確保しつつLi空孔濃度を増加させることができる(Liイオンのホッピング伝導を促進できる)。よって、A元素の置換量を増加させるとイオン導電率が大きくなるが、置換量を多くし過ぎるとLi含有量が減少して伝導キャリヤーイオンが少なくなり過ぎるため、A元素含有量がある程度以上多くなるとイオン伝導率が減少することになる。したがって、Liサイト空孔量は52.5%以上72.5%以下であるのが好ましく、より好ましくは53%以上69%以下であり、さらに好ましくは53%以上61%以下である。
【0024】
ここで、具体的なA元素としては、好ましくは、V、Mn、Ni、Cuから選ばれるいずれか1種の元素を挙げることができる。
そして、本発明では、添加元素として、必須元素である元素Liの一部を置換する添加元素Aを用いて、Liサイト空孔の割合に応じて、元素Liの一部を置換する添加元素Aの置換割合を制御するようにする。これは、LiLaZr12の化学量論組成におけるLiサイト空孔の割合が53%であり、ここからLiサイト空孔を増やす場合の元素Liを置換する添加元素Aの置換割合が異なってくる。具体的には、元素Liの置換割合が0%を超えて4.0%以下の場合において、Liサイト空孔の割合が52.5%以上55.5%以下であり、元素Liの置換割合が15%以上21%以下の場合において、Liサイト空孔の割合が60.0%以上70.0%以下にすることで好ましい固体電解質の構成とすることが出来て、大きな導電率を示すことが出来る。なお、ここでの添加元素Aによる元素Liの置換割合は、X線回折の測定データをリートベルト解析して求められるものである。
【0025】
ただし、A元素の含有量はLaに対するモル比A/Laで0.01以上0.45以下である。A元素の含有量がLaに対するモル比A/Laで0.01未満であると、上述の理由から十分な導電性が安定的に得られない。一方、A元素の含有量がLaに対するモル比A/Laで0.45を超えると、上記説明のように伝導キャリアーとなるLiイオンが少なくなり過ぎたり、置換イオンがLiイオン伝導経路を邪魔するようになったりして十分な導電性が得られない。A元素の含有量は、Laに対するモル比A/Laで、より好ましくは0.01以上0.35以下であり、さらに好ましくは0.01以上0.20以下である。
【0026】
前記A元素は、正八面体配位選択性が50kJ/mol以上となる陽イオンの状態にある、即ち、前記条件を満たす電子状態(特にd電子数)や価数である。酸素の陰イオンO2-による結晶場(配位子場)による安定化を正四面体配位と正八面体配位で比較した場合に、正八面体配位の方が大きな安定化エネルギーであることが正八面体選択性に優れていると判断でき、実際にも酸化物結晶において正八面体サイト(位置)を占有する傾向になる。
【0027】
本系においては、正八面体配位選択性(正八面体配位と正四面体配位の配位安定化エネルギーの差)が50kJ/mol以上であると、安定的にイオン導電率が大きくなる。これは、前述のように、正八面体配位選択性を有する置換であるために、A元素が八面体サイトであるLi2サイトに効果的に置換させることができているためである。よって、正八面体配位選択性が50kJ/mol未満であると、大きなイオン伝導率が得られなくなる。リチウムイオン伝導性酸化物材料に含まれるA元素が、酸素の陰イオンの配位子場による安定化における正八面体配位選択性が60kJ/mol以上となる陽イオンの状態にあるのがより好ましい。A元素の正八面体配位選択性が60kJ/mol以上の場合、八面体サイトであるLi2サイトに固定される傾向がより強くなり、かつ配位安定化によってA元素の金属イオンが移動し難くなって結晶構造を安定化させるため、よりLiの自由移動の阻害をせず、より安定でより高いイオン導電率を有することができる。
【0028】
上述は、配位安定化エネルギー(結晶場安定化エネルギーCFSE)及び八面体サイト選択性エネルギー(OSPE)から類似のことが言える。結晶場分裂パラメータ(10Dq)で表現すると、OSPE(Δ10Dq)が2以上であると、正八面体配位選択性を示すことになる。
【0029】
本発明のリチウムイオン伝導性酸化物材料は、ガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造を有する複合酸化物である。ガーネット型結晶構造は、空間群としてIa-3dを有するものであって、ガーネット型類似結晶構造は、空間群としてI41/acdを有する結晶群である。Li、La、Zr、及びOの各元素を含むガーネット型結晶構造の複合酸化物の代表組成は、LiLaZr12で表わせられ、そのイオン導電率を向上させるために必要なサイトが置換される。
X線回折装置(Rigaku smartlab)を用いて、例えば、後記実施例1~48及び比較例1~9に示す合成粉末のX線回折測定を行い、X線回折パターンを得る。
ついで、得られたX線回折パターンがCSD(Cambridge Structural Database)のX線回折パターンNo.4422259(LiLaZr12、空間群:Ia-3d(230))と類似のX線回折パターンを有する場合には、ガーネット型結晶構造又はガーネット型類似の結晶構造を有すると判断できる。なお、本発明のリチウムイオン伝導性酸化物材料はCSDのNo.4422259と組成が異なるので、回折ピークの回折角度及び回折強度比が異なる場合もある。
【0030】
本発明においては、リチウムイオン伝導性酸化物材料に含まれるA元素が、元素Liの一部を置換するように含まれているのがより好ましい。A元素が、元素Liの一部を置換することで、より安定になり、よりイオン導電率が高くなる。
A元素が、ガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造における元素Liの一部を置換しているか否かは、例えば、放射光を用いてX線回折測定を行い、得られたX線回折パターンに基づいて、RIETAN-FPを用いてリートベルト解析を行うことで元素Li位置へのA元素の置換を確認できる。
【0031】
また、本発明において、リチウムイオン伝導性酸化物材料に含まれるA元素が、2価の陽イオンの状態で含まれていることがより好ましい。LiとA元素との電荷の違いにより結晶構造内のLiサイトに空孔が生じ、Liイオンが動きやすくなり(Liイオンのホッピング伝導しやすくなり)、イオン導電率が向上すると考えられる。
A元素が、2価の陽イオンの状態で含まれているか否かは、例えば、XAFS(X-ray Absorption Fine Structure)を用いてA元素の吸収端近傍のエネルギーでのX線の吸収量を計測することで、A元素の価数と配位数を確認することができる。
【0032】
また、本発明におけるリチウムイオン伝導性酸化物材料は、B元素(Bは、MgとSrから選択される1種または2種)を更に含むと、より高いイオン導電率が得られたり、次のような効果が得られたりする。
Mgは、前記リチウムイオン伝導性酸化物材料に添加されることで、焼成ムラ、クラック、空孔等の欠陥、異常粒成長等の発生を抑制又は回避して、密度及び強度を向上させる効果があるが、Laに対するモル比Mg/Laで0.2を大きく超えるとリチウムイオン伝導率が低下する傾向にあり、好ましくは0.01以上0.15以下であり、さらに好ましくは0.03以上0.1以下である。また、MgはLiサイトを置換するように配合(添加)するとより好ましい。
Srは、前記リチウムイオン伝導性酸化物材料に添加されることで、Liイオン導電率の低下をできるだけ抑えると共に、焼成エネルギーをより低減する(焼成し易くする)ことができる。Laに対するモル比Sr/Laで0.15を大きく超えるとリチウムイオン伝導率が低下する傾向にあり、好ましくは0.01以上0.13以下であり、さらに好ましくは0.03以上0.1以下である。また、Srは、Laサイトを置換するように配合(添加)するとより好ましい。
【0033】
リチウムイオン二次電池の充放電時におけるリチウムイオンの移動性は、電解質のリチウムイオン伝導率に依存するため、本発明のリチウムイオン伝導性酸化物材料のリチウムイオン伝導度は高い方が好ましい。具体的には、室温において1×10-5S/cm以上であるのがより好ましい。
リチウムイオンの移動性が良くなると高出力電池の設計に用いることが出来る。一方、低導電率であると固体電解質が律速となり、出力が悪くなる。
【0034】
リチウムイオン伝導性酸化物材料は、結晶構造の格子定数が12.93Å(1.293nm)以上であるのがより好ましい。ガーネット型又はガーネット型類似の結晶構造は格子定数が高いほど高いリチウムイオン導電率を実現しやすい傾向がある。
【0035】
本発明におけるリチウムイオン伝導性酸化物材料をリチウムイオン二次電池で使用したり、固体電解質として用いて全固体リチウム二次電池にする場合、リチウムイオン伝導性酸化物材料は電極の正極材料と接触していればよく、電極内の正極材料含有割合の減少を防ぐためにはリチウムイオン伝導性酸化物材料の粒子は細かい方が好ましい。細かい微粒のリチウムイオン伝導性酸化物材料とすれば、正極材料との接触点が多くなるのでリチウムイオンの移動性が良くなり、より効率的な本発明の効果が得られる。具体的には、リチウムイオン電池や全固体リチウム二次電池の正極材料の平均粒径Dcに対して、リチウムイオン伝導性酸化物材料の平均粒径Deが、De/Dc比で0.1以上10.0以下であるのがより好ましい。よって、粒径が小さければ小さい方が好ましいが、100nm以下の粒径は製造するのが困難であったり歩留まりが悪くなったりするので現実的でなくなる場合がある。
リチウムイオン二次電池電極の添加材の平均粒径が、De/Dc比で0.1以上10.0以下の粒径であるか否かは、例えば、超音波ホモジナイザー等を用いて超音波分散後、粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定する事で添加材の平均粒径を確認できる。
【0036】
本発明のリチウムイオン伝導性酸化物材料は、その導電率や緻密性を利用して各種用途の固体電解質材料として用いられるものである。
例えば、リチウム二次電池等のリチウム電池や、SOx、NOx、炭酸ガス及び酸素等の各種ガスセンサ材料、リチウムイオンセンサ材料に用いることができるが、全固体リチウム二次電池の固体電解質として用いるのが特に好ましい。
さらに、電解液を用いる通常のリチウムイオン二次電池においても、液状電解質の少なくとも一部を本発明によるセラミックス材料で置換することで、有機電解液の使用を回避又は抑制でき、電池構造を簡素化すると同時に有機電解液に起因する副反応を抑制することが可能となる。
本発明のリチウムイオン伝導性酸化物材料の製造方法は、前記本発明の要件を満たすことができれば、どのような製造方法で作製しても構わない。例えば、PVDやCVD等の気相合成法、固相反応法、噴霧熱分解法、共沈法やゾルゲル法等の湿式法、等があげられる。
【0037】
本発明のリチウムイオン伝導性酸化物材料の製造方法の1例として、以下に固相反応法の合成例を示す。
原料は、構成元素の硫酸塩、酸化物、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、ハロゲン化物等を用いることができる。
混合は、遊星ミル、ビーズミル、ボールミル等を用いることができる。
混合物の仮焼温度は、構成成分や配合によって異なるが(例えば、置換金属イオンによって異なるが)、通常900℃以上1200℃以下が好ましい。
前記仮焼時間は、構成成分や配合によって異なるが(例えば、置換金属イオンによって異なるが)、通常5時間以上20時間以下が好ましい。
前記仮焼雰囲気は、構成成分や配合によって適宜適切な酸素分圧となる雰囲気とする。例えば、空気中、窒素やアルゴン中、酸素分圧を調整した窒素やアルゴン中、等の雰囲気である。
仮焼して得られた粉末は、そのままでも良いが、更に粉砕してもよい。粉砕する場合には、遊星ミル、ビーズミル、ボールミル等を用いることができる。粉砕した後の粒度は、用途に合わせて適切な粒度に調整するのが良いが、通常、D50は0.3μm以上35μm以下が好ましく、0.3μm以上20μm以下がより好ましい。なお、このD50は、レーザー回折・散乱法で測定した場合の体積基準による累積50%を意味する(以下の場合も同様)。
【0038】
また、本発明のリチウムイオン伝導性酸化物材料の製造方法の他の1例として、以下に噴霧熱分解法の合成例を示す。
原料は、水溶液または有機溶媒に溶解できるものであれば何でも良いが、例えば、構成元素の炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、ハロゲン化物、金属アルコキシド等を用いることができる。
溶媒は、水、アルカン、アルカンカルボン酸および/またはアルコールを用いることができる。
噴霧熱分解の温度は構成成分、配合、溶媒濃度によって異なるが(例えば、置換金属イオンによって異なるが)、通常、200℃以上1200℃以下である。
噴霧の際の液滴の粒子径は、0.01μm以上100μm以下であることが好ましい。
キャリアガスの雰囲気は、構成成分や配合によって適宜適切な酸素分圧となる雰囲気とする。例えば、空気中、窒素やアルゴン中、酸素分圧を調整した窒素やアルゴン中、等の雰囲気である。
噴霧熱分解によって得られた粉末は、そのままでも良いが、更に粉砕してもよい。粉砕する場合には、遊星ミル、ビーズミル、ボールミル等を用いることができる。粉砕した後の粒度は、用途に合わせて適切な粒度に調整するのが良いが、通常、D50は0.3μm以上35μm以下が好ましく、0.3μm以上20μm以下がより好ましい。
【実施例
【0039】
以下に実施例(発明例)、比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
[リチウムイオン伝導性酸化物材料の作製]
リチウムイオン伝導性酸化物材料の原料として、LiCO、MgO、V、Mn、CuO、NiO、La(OH)、SrCO、ZrOを用いた。これらの原料粉末を表1~3に示される組成となるように秤量し混合した。各原料の混合は、次のようにして行った。秤量した原料粉末をジルコニアボールと共にポリ容器に投入し、エタノール中で15時間ボールミル混合後、さらに乾燥して原料混合物を得た。なお、表1~3に示される組成は仕込み組成であって、焼成時にLiが一部損失することを考慮して狙いの組成よりも多めにLiCOを含有させている。従って、仕込み組成は、ガーネット型結晶構造の電荷補償(電荷保存則)を満たしていない組成ではあるが、Liの損失及び/又は酸素欠損が生じることで焼成後には電荷補償を満たした組成になるものと解される。また、Li以外の元素については焼成時における損失は実質的に無く、表1~3に示される組成比で焼成後も基本的に保持される。
【0041】
得られた原料混合物を、大気または窒化雰囲気下において1100℃で10時間にわたってMgO耐熱容器上にて仮焼成を行い、仮焼成物を得た。この仮焼成物をジルコニアボールと共にナイロンポットに投入し、エタノール中で2時間遊星ボールミルで粉砕後、さらに乾燥してリチウムイオン伝導性酸化物材料(合成粉末)を得た。実施例47を代表例として合成粉末の粒度を測定したところD50は0.7μmを示した。
得られたリチウムイオン伝導性酸化物材料(合成粉末)のイオン導電率等の測定には、焼結体を作製して行った。リチウムイオン伝導性酸化物材料(粉末)に有機溶媒で溶解させた有機系バインダーを加えて直径15mmの金型に投入し、厚さが11.5mm程度となるようにプレス成形してリチウムイオン伝導性酸化物材料(合成粉末)の成形体を得た。前記成形体を、該成形体と同じ組成の仮焼粉末で覆い、窒化雰囲気下において1200℃で4時間焼成することで、リチウムイオン伝導性酸化物材料の焼結体(実施例1~48及び比較例1~13)を得た。なお、前記バインダーとしては、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、及びポリビニルブチラール等を挙げることができる。前記有機溶媒としては、エタノール、ブタノール、及びアセトン等を挙げることができる。
【0042】
実施例1~48及び比較例1~13で得られたリチウムイオン伝導性酸化物材料の焼結体の上下面をサンドペーパーで研磨した後、以下に示される各種の評価ないし測定を行った。
【0043】
[結晶構造解析]
X線回折装置(Rigaku smartlab)を用いて、実施例1~48及び比較例1~13で得られた合成粉末のX線回折測定を行い、X線回折パターンを得た。その結果、CSD(Cambridge Structural Database)のX線回折パターンNo.4422259(LiLaZr12、空間群:Ia-3d(230))類似のX線回折パターンが観察された。したがって、実施例1~48及び比較例1~13は、ガーネット型結晶構造又はガーネット型類似の結晶構造を有すると判断できる。実施例47のX線回折パターンを図1に示す。また、得られたX線回折パターンに基づいて、泉 富士夫氏の多目的パターンフィッティング・システムRIETAN-FPを用いてリートベルト解析を行い、各試料の格子定数を算出したところ、表1~3に示される値が得られた。
さらに、放射光を用いてX線回折測定を行い、得られたX線回折パターンに基づいて、RIETAN-FPを用いてリートベルト解析を行うことで元素Li位置へのA元素の置換を確認できる。リートベルト解析には、RIETAN-FPを用いたが、他の計算ソフトでも構わない。
また、XAFS(X-ray Absorption Fine Structure)を用いてA元素の吸収端近傍のエネルギーでのX線の吸収量を計測する事で、A元素の価数と配位数を確認できる。
泉 富士夫氏のリートベルト解析の具体的方法については、泉 富士夫著「粉末X線解析の実際」第2版に示されている。
【0044】
[相対密度]
実施例1~48及び比較例1~13で得られた研磨後の焼結体の質量を測定した後、ノギス及びマイクロメーターを用いて実施例1~48及び比較例1~13の研磨後の焼結体の各辺の長さ若しくは直径及び厚さを数箇所測定して平均値を算出した。これらの測定値を用いて、実施例1~48及び比較例1~13の焼結体の体積を算出し、見かけ密度を算出した。また、それぞれの組成の理論密度を算出後、見かけ密度を理論密度で割り、100を掛けた値を相対密度として算出したところ、表1~3に示される値が得られた。
【0045】
[リチウムイオン導電率の測定]
実施例1~48及び比較例1~13で得られた研磨後の焼結体の両面にAuスパッタによってコーティングした後に、室温において、N4L(Newtons4th Ltd)社製電気化学測定システムを用いて交流インピーダンス測定を行い、リチウムイオン導電率を算出した。その結果、各試料のリチウムイオン伝導率は表1~3に示される値が得られた。
【0046】
[安定性評価]
上記でリチウムイオン導電率を測定した焼結体試料を空気中で720℃10時間熱処理した後にも前記同様のイオン導電率の測定を行い、熱処理後の導電率を熱処理前の導電率で割り、100を掛けて熱処理による導電率低下割合を算出し、結晶構造の安定性として評価した。その結果、表1~3に示される値が得られた。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
表1~3に示すように、実施例1~48と比較例1~13より、A元素のLaに対するモル比が0.01以上0.45以下の範囲内であり、かつA元素の八面体選択性が50kj/mol以上の場合に安定性が90%以上であり、高い安定性を示した。
また、表1~3に示すように、B元素としてMgを添加させた場合、いずれも相対密度が88%以上を示し、さらにMgとSrを添加させた場合、いずれも格子定数が拡張されており、より高いイオン導電率を示した。
さらに、八面体選択性が60kj/mol以上の場合いずれも安定性評価が95%以上であり、より高い安定性を示した。
そして、実施例1~48のリチウムイオン伝導性酸化物材料はイオン伝導率が1×10-5S/cm以上を有しているが、MgとSrを添加し、かつA元素が2価の陽イオンである実施例43~48の場合は1×10-3S/cm以上を有し、より高いイオン伝導率を示した。
したがって、実施例1~48のリチウムイオン伝導性酸化物材料は高いイオン伝導率を有し、より安定な特性を有するので固体電解質として用いることで優れた電池特性の全固体リチウムイオン二次電池を提供することができる。
図1