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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】近赤外線遮蔽材
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/26 20060101AFI20240902BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20240902BHJP
   A61K 8/25 20060101ALI20240902BHJP
   A61K 8/29 20060101ALI20240902BHJP
   C09C 3/06 20060101ALI20240902BHJP
   C09C 1/28 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
G02B5/26
A61Q17/04
A61K8/25
A61K8/29
C09C3/06
C09C1/28
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2023008528
(22)【出願日】2023-01-24
(62)【分割の表示】P 2021533929の分割
【原出願日】2020-07-08
(65)【公開番号】P2023055772
(43)【公開日】2023-04-18
【審査請求日】2023-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2019135279
(32)【優先日】2019-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】堀口 治子
(72)【発明者】
【氏名】片桐 真也
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-099510(JP,A)
【文献】特開2011-153208(JP,A)
【文献】特開平07-052335(JP,A)
【文献】国際公開第2018/096936(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/194352(WO,A1)
【文献】特開2000-119579(JP,A)
【文献】国際公開第2011/024256(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1538271(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20-5/28
A61Q 17/04
A61K 8/25
A61K 8/29
C09C 3/06
C09C 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のフレーク状粒子を含み、
前記複数のフレーク状粒子が、それぞれ、フレーク状基体と、前記フレーク状基体の主面に形成された単層膜とを備え、
波長800nm~1400nmにおける光線反射率が40%以上であり、
前記単層膜が酸化チタンを含み、前記単層膜の平均厚みが100nm~120nmであり、
前記フレーク状基体の平均厚みが0.6μm以下である、近赤外線遮蔽材。
【請求項2】
波長1000nm~1400nmにおける光線反射率が47%以上である、請求項1に記載の近赤外線遮蔽材。
【請求項3】
波長800nm~1400nmにおける光線反射率が47%以上である、請求項2に記載の近赤外線遮蔽材。
【請求項4】
前記フレーク状基体のアスペクト比が40以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の近赤外線遮蔽材。
【請求項5】
前記フレーク状基体がフレーク状ガラスである、請求項1~のいずれか1項に記載の近赤外線遮蔽材。
【請求項6】
反射色がL*C*h表色系に基づいて10以上のC*により示され、波長800nm~1400nmにおける光線反射率が50%以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の近赤外線遮蔽材。
【請求項7】
反射色がL*C*h表色系に基づいて45~88のhにより示される、請求項に記載の近赤外線遮蔽材。
【請求項8】
反射色がL*C*h表色系に基づいて0以上45未満又は315以上360未満のhにより示される、請求項に記載の近赤外線遮蔽材。
【請求項9】
反射色がL*C*h表色系に基づいて225以上315未満のhにより示される、請求項に記載の近赤外線遮蔽材。
【請求項10】
反射色がL*C*h表色系に基づいて10未満のC*により示され、波長800nm~1400nmにおける光線反射率が50%以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の近赤外線遮蔽材。
【請求項11】
前記複数のフレーク状粒子が、それぞれ、前記フレーク状基体と前記単層膜との界面及び/又は前記単層膜の表面に付着した微粒子をさらに備えた、請求項1~10のいずれか1項に記載の近赤外線遮蔽材。
【請求項12】
化粧料用又は塗料用である、請求項1~11のいずれか1項に記載の近赤外線遮蔽材。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の近赤外線遮蔽材を含む近赤外線遮蔽用組成物。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか1項に記載の近赤外線遮蔽材を含む化粧料。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか1項に記載の近赤外線遮蔽材を含む塗料。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか1項に記載の近赤外線遮蔽材を含む塗装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は近赤外線の透過を減衰する近赤外線遮蔽材に関し、特に化粧料、塗料の材料、又は樹脂成形品の材料等としての使用に好適である粒子状の近赤外線遮蔽材に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線は太陽から地球に到達するエネルギーの半分程度を占める。このため、太陽から放射されるエネルギーを効果的に遮蔽するためには、赤外線、特に近赤外線を遮蔽することが求められる。近赤外線遮蔽材としては、酸化チタン、酸化亜鉛等の微粒子、特に酸化チタン微粒子が使用されている。酸化チタン微粒子は、その平均粒径が1μm程度のときに近赤外線の反射率が高くなることが知られている。近赤外線遮蔽材としての酸化チタン微粒子は、主として、塗料やフィルムに分散して使用されている。遮蔽材を含む塗料は、自動車を始めとする車両、建築物の屋根材等に使用されている。
【0003】
最近になって、近赤外線が人体に与える影響について研究が進められ、その影響が明らかになってきた。可視光よりも波長が長い近赤外線は、真皮から皮下組織にかけての皮膚の深部にまで到達し、皮膚の老化を促進する。これを防ぐべく、化粧料の分野においても近赤外線を遮蔽する材料へのニーズが拡大している。
【0004】
特許文献1には、化粧料用の近赤外線遮蔽材として、平均粒径が個別に設定された酸化亜鉛と酸化チタンとの混合物を用いることが提案されている。特許文献1によると、この混合物は、皮膚に塗布したときの「白浮き」等の不具合が軽減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-171655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
酸化チタン微粒子に代表される近赤外線遮蔽材の開発は、基本的には、微粒子のサイズの最適化及び異種微粒子のブレンドに基づいている。しかしこの手法のみでは、多岐にわたる近赤外線遮蔽材へのニーズに応えることは困難である。例えば、近赤外光を遮蔽する酸化チタン微粒子は、可視光も遮蔽する傾向を有する。しかし、化粧料及び塗料では、美観、言い換えると可視域における発色が重視されるため、可視光の遮蔽は望ましくない場合がある。化粧料、塗料以外の用途、例えば樹脂成形品、においても、近赤外線遮蔽材の多様化により新たなニーズが顕在化する可能性がある。かかる状況に鑑み、本発明は、近赤外線の透過を効果的に減衰させる新たな材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
特許文献1に開示されているような従来の近赤外線遮蔽材は、いわゆるミー散乱に付随する遮蔽効果を利用している。この遮蔽効果により近赤外線を遮蔽する場合、酸化チタン微粒子は、その平均粒径を1μm程度に調整すべきことになる。しかし、これに基づいて材料を設計している限り、近赤外線遮蔽材の種類と、それにより得られる可視光の透過及び反射特性、さらにはそれによって生じ得る美観、とはごく限られたものになる。本発明者は、干渉効果を利用して近赤外線の透過を減衰させることを着想し、鋭意検討した結果、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、
複数のフレーク状粒子を含み、
前記複数のフレーク状粒子が、それぞれ、フレーク状基体と、前記フレーク状基体の主面に形成された単層膜とを備え、
波長800nm~1400nmにおける光線反射率が40%以上である、近赤外線遮蔽材、を提供する。
【0009】
本発明は、その別の側面から、
複数のフレーク状粒子を含み、
前記複数のフレーク状粒子が、それぞれ、フレーク状基体と、前記フレーク状基体の主面に形成された単層膜とを備え、
前記フレーク状基体がフレーク状ガラスであり、前記フレーク状ガラスの平均厚みが0.6μm以下であり、
前記単層膜が酸化チタンを含み、前記単層膜の平均厚みが80nm~165nmである、近赤外線遮蔽材、を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明による近赤外線遮蔽材は、太陽光から放射されるエネルギー量が大きい波長800~1400nmにおいて、入射光を効果的に減衰させることに適している。また、本発明による近赤外線遮蔽材は、多様な発色を生じさせることにも適している。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】フレーク状粒子の一例の模式的な断面図である。
図2】フレーク状基体の一例を示す斜視図である。
図3】フレーク状ガラスの製造装置の一例を示す模式図である。
図4】フレーク状ガラスの製造装置の別の例を示す模式図である。
図5】酸化チタン膜の厚み110nmが一致し、フレーク状ガラスの厚み及びアスペクト比が異なる試料1(厚み0.3μm、比50)、試料4(厚み0.4μm、比45)、試料5(厚み0.4μm、比25)、試料10(厚み1.3μm、比14)の分光反射率曲線である。
図6】フレーク状ガラスの厚み(0.4~0.5μm)及びアスペクト比(45~50)がほぼ一致し、酸化チタンの厚みが異なる試料9(70nm)、試料8(90nm)、試料4(110nm)、試料6(130nm)、試料7(160nm)の分光反射率曲線である。
図7】試料1、微粒子を付加した試料2、及び酸化チタン膜の厚みが異なるフレーク状粒子を混合した試料3の分光反射率曲線である。
図8】乳液である試料11(近赤外線遮蔽材0%)、試料12(同1%)、試料13(同3%)、試料14(同5%)について測定した分光反射率曲線である。
図9】車両用の多層塗膜の構成の一例を示す断面図である。
図10A】相対的に厚みが小さい近赤外線遮蔽材が分散した塗膜の一例を示す断面図である。
図10B】相対的に厚みが大きい近赤外線遮蔽材が分散した塗膜の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明するが、以下の説明は、本発明を特定の実施形態に制限する趣旨ではない。
【0013】
<近赤外線遮蔽材>
(フレーク状粒子)
本実施形態の近赤外線遮蔽材は、複数のフレーク状粒子を含んでいる。個々のフレーク状粒子は、フレーク状基体と、少なくともその主面に形成された単層膜とを備えている。図1にフレーク状粒子の模式的な断面を示す。フレーク状粒子10は、フレーク状基体1と、一対の主面1a、1b及び側面1sに形成された単層膜2とを備えている。フレーク状基体1の厚みtは、主面1a、1bの間隔でもある。フレーク状粒子10は、フレーク状基体1の形状を反映し、それ自体がフレーク状である。ただし、近赤外線遮蔽材は、フレーク状粒子のみから構成されている必要はない。
【0014】
(フレーク状基体)
フレーク状基体は、鱗片状基体とも呼ばれる微小な板状の薄片である。図2にフレーク状基体1の典型的な一形態を示す。フレーク状基体は、例えば、フレーク状ガラス、フレーク状アルミナ、雲母、タルク又はセリサイトである。フレーク状基体は、好ましくはフレーク状ガラス、フレーク状アルミナ又は雲母である。雲母は天然雲母であっても合成雲母であってもよい。
【0015】
フレーク状基体の好ましい平均厚みは、0.6μm以下、特に0.55μm以下、例えば0.1~0.6μmであり、さらには0.15~0.5μmである。フレーク状基体の平均厚みは0.4μm以下であってもよい。薄いフレーク状基体の使用は、近赤外域の光線の遮蔽能の向上を図る上で有利である。フレーク状基体の平均厚みは、少なくとも50個のフレーク状基体の厚みの平均値により定められる。個々のフレーク状基体の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定することができる。
【0016】
フレーク状基体の好ましい平均粒径は、3~40μm、特に4~25μm、例えば5~30μmである。フレーク状基体の平均粒径は、レーザ回折法により測定した光散乱相当径の粒度分布において粒径が小さい側からの体積累計が50%に相当する粒径(D50)により定めることができる。
【0017】
フレーク状基体の好ましいアスペクト比は、15以上、さらに25以上、特に40以上である。アスペクト比は、70以下、さらに65以下であってもよい。この程度のアスペクト比は、近赤外域の光線の遮蔽能の向上を図る上で有利である。フレーク状基体のアスペクト比は、平均粒径を平均厚みで除して求めることができる。
【0018】
特に好ましいフレーク状基体はフレーク状ガラスである。フレーク状ガラスの主面は、雲母等の結晶性粒体と比較して平滑性に優れ、入射する光L(図1参照)の干渉により近赤外域の光線を反射させ、可視域の光線に着色を生じさせることに適している。フレーク状ガラスを構成するガラス組成物は、特に制限はないが、例えば、酸化ケイ素を主成分とし、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化ナトリウム等その他の金属酸化物成分をさらに含むものを使用できる。なお、本明細書では、「主成分」を質量基準で含有率が最大となる成分を意味する用語として用いる。具体的なガラス組成物としては、ソーダライムガラス、Aガラス、Cガラス、Eガラス、ECRガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス等を例示できる。
【0019】
図3に、ブロー法によりフレーク状ガラスを製造するための装置の一例を示す。この製造装置は、耐火窯槽12、ブローノズル15及び押圧ロール17を備えている。耐火窯槽12(溶解槽)で溶融されたガラス素地11は、ブローノズル15に送り込まれたガスによって、風船状に膨らまされ、中空状ガラス膜16となる。中空状ガラス膜16を押圧ロール17により粉砕することにより、フレーク状ガラス1が得られる。中空状ガラス膜16の引張速度、ブローノズル15から送り込むガスの流量等を調節することにより、フレーク状ガラス1の厚みを制御できる。また、フレーク状ガラスの成形・粉砕・分級条件等を調節することにより、フレーク状ガラス1の粒径を制御できる。
【0020】
図4に、ロータリー法によりフレーク状ガラスを製造するための装置の一例を示す。この装置は、回転カップ22、1組の環状プレート23及び環状サイクロン型捕集機24を備えている。溶融ガラス素地11は、ノズル21から回転カップ22に流し込まれ、遠心力によって回転カップ22の上縁部から放射状に流出し、環状プレート23の間を通って空気流で吸引され、環状サイクロン型捕集機24に導入される。環状プレート23を通過する間に、ガラスが薄膜の形で冷却及び固化し、さらに微小片に破砕されることにより、フレーク状ガラス1が得られる。環状プレート23の間隔、空気流の速度等を調節することによって、フレーク状ガラス1の厚みを制御できる。また、フレーク状ガラスの成形・粉砕・分級条件等を調節することにより、フレーク状ガラス1の粒径を制御できる。
【0021】
(単層膜)
単層膜は、単一の層から構成され、少なくともフレーク状基体の一対の主面を覆うように形成されている。単層膜は、複数の層を有さず、したがって膜内に層の境界を形成する界面を有さない。なお、膜と基体との境界面又は膜の表面に存在する島状の付着物は、その境界面又は表面に沿って広がってその面を覆わない限り、「層」ではない。近赤外域のように比較的広い波長域において光線を反射するためには、通常、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した多層膜が使用される。しかし、本発明者の検討により、単層膜の使用によって、近赤外域の光線を効果的に減衰させうることが明らかになった。単層膜による多層膜の置換は、成膜に要するコスト及び時間の大幅な削減を可能とする。
【0022】
単層膜は、例えば、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化錫、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化ニッケル、酸化クロム及び酸化バナジウムから選ばれる少なくとも1種の酸化物を含み、好ましくは酸化チタンを主成分として含む。以下では簡単のため、酸化チタンを主成分とする単層膜を単に「酸化チタン膜」と表記する。
【0023】
酸化チタンは、アナターゼ型、ブルーカイト型、ルチル型の3種の結晶型を有し、アナターゼ型及びルチル型が工業的に量産されている。好ましい酸化チタンの結晶型はルチル型である。ルチル型の酸化チタンは、光触媒活性が低く、屈折率が最も高い。
【0024】
フレーク状基体上へのルチル型酸化チタンの成膜は、例えば特開2001-31421号公報、特開2003-12962号公報等に開示されている方法を参照して実施すればよい。上記公報に開示されている方法では、四塩化チタン等のチタン化合物を含む溶液中においてフレーク状ガラス上にルチル型酸化チタンが析出して膜が形成される。より具体的には、チタン化合物を含む、温度55~85℃、pH1.3以下の溶液に、アルカリ性化合物又はアルカリ性溶液を添加することにより、ルチル型酸化チタンをフレーク状ガラス上に析出させることができる。予めフレーク状ガラスにスズ又はスズ化合物を付着させておくと、ルチル型酸化チタンの析出が促進される。この方法を用いれば、結晶転移のための加熱を必要とせずにルチル型酸化チタンを成膜することができる。
【0025】
酸化チタンを含む単層膜の好ましい平均厚みは、80nm~165nm、さらに90nm~160nm、特に95nm~140nm、とりわけ100nm~120nmである。単層膜の平均厚みを適切な範囲に調整することにより、近赤外域の光線の反射率を十分に高くすることが可能となる。単層膜が薄くなりすぎないように制御すると、近赤外域の長波長側の反射率を高く維持することが容易になる。
【0026】
厚み100nm~120nm程度の酸化チタン膜からは、橙色系の干渉色が得られる。橙色系の発色は皮膚に塗るタイプの化粧料に適している。このタイプの化粧料は近赤外線の遮蔽効果が特に望まれているものでもある。酸化チタン膜の厚みが上記の範囲に調整された近赤外線遮蔽材は、フェーシャル化粧料に代表される皮膚に塗布される化粧料への配合に特に適している。
【0027】
フレーク状粒子から得られる光輝感のある反射光は、橙色系以外の色との組み合わせによっても印象的な装飾効果を創出できる。フレーク状基体上に形成した酸化チタン膜からは、例えば厚み120~140nm程度で赤色系、厚み150~165nm程度で青色系の干渉色が得られる。これらの厚みの範囲においても、フレーク状基体の厚みを適切に調整すれば、近赤外線の遮蔽効果を向上させることは可能である。青色系又は赤色系に発色する近赤外線遮蔽材は、メーキャップ化粧料への配合に特に適している。一方、厚みが165nmを超える酸化チタン膜からは緑色系の干渉色が得られる。しかし、この範囲の厚みの酸化チタン膜を形成したフレーク状基体の反射率は、フレーク状基体の厚みを調整しても、近赤外域の短波長側において40%未満の範囲に止まることになる。
【0028】
反射光が白色系に限定される近赤外線遮蔽用の酸化チタン微粒子とは対照的に、本実施形態の近赤外線遮蔽材によれば、各種の反射色を提供することが可能となる。これは、化粧料のみならず、本実施形態の近赤外線遮蔽材を塗料その他の製品に使用する場合にも有利な特徴となり得る。
【0029】
(微粒子)
本実施形態の近赤外線遮蔽材を構成するフレーク状粒子は、フレーク状基体と単層膜との界面及び/又は単層膜の表面に、微粒子が分散したものであってもよい。付着した微粒子による光吸収及び散乱によって、近赤外線の遮蔽特性並びに反射光の色相及び鮮やかさの調整が可能となる。
【0030】
微粒子は、金属微粒子であってもよく非金属微粒子であってもよい。微粒子は、無機化合物微粒子であってもよく有機化合物微粒子であってもよい。金属微粒子としては、金微粒子、白金微粒子及び銀微粒子を例示できるが、これらに制限されるわけではなく、求められる特性に応じてこれら以外の微粒子を用いてもよい。
【0031】
微粒子の平均粒径は、特に制限されないが、1nm~50nm、さらに5nm~30nmを例示できる。微粒子は、質量基準で、フレーク状基体と単層膜との合計質量に対し、0.05~1%、さらには0.1~0.6%程度を付着させるとよい。
【0032】
化粧材の分野において橙色系の発色は微妙に調整する必要が生じることが多く、この点で微粒子の使用は特に有用である。橙色近傍の色調の発現及び微調整に適した微粒子は、銀、酸化鉄、金、及び法定色素として定められた有機合成色素から選ばれる少なくとも1種であり、特に銀及び/又は酸化鉄である。法定色素は、厚生労働省が1996年に定めた医薬品、医薬部外品及び化粧品に使用することができる有機合成色素(タール色素)であり、橙色近傍の色調の発現及び微調整には、例えば赤色2号、赤色102号、赤色202号、黄色4号、黄色5号、橙色205号を使用できる。後述する実施例に示すとおり、微粒子の付加により、橙色系の色の明度L*を60以上、65以上、さらに70以上とすることも可能である。詳細な説明は省略するが、発色の調整に微粒子が有用であることは他の色調及び用途においても同様である。例えば、青色系の発色の調整には青色1号、グンジョウ等を使用できる。
【0033】
(光学特性)
本実施形態の近赤外線遮蔽材の波長800nm~1400nmにおける光線反射率は、40%以上、41%以上、42%以上、43%以上、45%以上、さらに47%以上、特に50%以上、場合によっては55%以上、さらには57%以上、とりわけ60%以上であり得る。上記波長域において皮膚のより深い部分にまで到達するのは波長が相対的に長い光線である。これを考慮すると、波長1000nm~1400nmにおける光線反射率は、47%以上、さらに50%以上、特に55%以上、場合によっては57%以上、とりわけ60%以上であることが好ましい。なお、近赤外域は波長2.5μm程度までの波長域を指すこともある。しかし本明細書では、太陽から放射されるエネルギーが波長1.4μm程度以下にほぼ集中していることを考慮し、波長域800~1400nmを近赤外域として取り扱う。
【0034】
近赤外線は、地表に到達するまでに、波長によっては空気中の水分等によってある程度吸収されるが、波長1000nm近傍においては空気中の分子の吸収による減衰がほぼ存在しない。これを考慮すると、本実施形態の近赤外線遮蔽材の波長1000nmにおける光線反射率は、45%以上、さらに47%以上、特に50%以上、場合によっては55%以上、さらには57%以上、とりわけ60%以上、特に62%以上が好ましい。
【0035】
本実施形態の近赤外線遮蔽材から観察される反射色は、特に限定されないが、例えば橙色系、赤色系及び青色系の少なくとも1つである。近赤外域における遮蔽性を重視するべき場合は、橙色系及び/又は赤色系の反射色が得られる形態が好ましい。これらの反射色は、L**h表色系に基づいて、10以上、さらには15以上、特に20以上のC*により示される程度に彩度が高いものとすることができる。本実施形態の近赤外線遮蔽材は、10以上のC*と、波長域800~1400nmにおける50%以上の反射率とを有し得る。
【0036】
本明細書において、色の表示は、L**h表色系に基づいて以下のように定義される。橙色系は、45~88、さらには55~87、特に65~86のhにより示される。この範囲のhには黄色味が強い色も含まれるが、ここではフェーシャル化粧料用途において特に需要がある範囲を橙色系として定義する。赤色系は、0以上45未満又は315以上360未満のhにより示される。青色系は、225以上315未満のhにより示される。ただし、上記の各色は、彩度C*がある程度高いこと、例えば10以上であることを前提としている。C*が低ければ、色相角hが上記範囲にあっても、銀色、白色等と視認されるためである。
【0037】
ただし、本実施形態の近赤外線遮蔽材は、彩度C*が10未満の銀色ないし白色系の反射色も有し得る。この反射色は、例えば、互いに異なる反射色を有する複数種のフレーク状粒子を混合することにより達成できる。複数種のフレーク状粒子は、互いに異なる厚みを有する酸化チタン膜を単層膜として有するものとすることができる。この場合も、酸化チタン膜の平均厚みは、80~165nmの範囲内とすることが好ましい。この好ましい形態によれば、波長800nm~1400nmにおける光線反射率を50%以上に維持することも可能となる。
【0038】
<用途>
本実施形態の近赤外線遮蔽材は、近赤外線の遮蔽が求められている用途に幅広く適用できる。好ましい用途は、以下に例示する化粧料用及び塗料用であるが、これらに限定されず、本実施形態の近赤外線遮蔽材は、その他の用途に供される各種組成物に配合して使用することもできる。言い換えると、本実施形態の近赤外線遮蔽材は、これを含む近赤外線遮蔽用組成物として使用され得る。
【0039】
(化粧料)
本実施形態の近赤外線遮蔽材は、特に化粧料の材料としての使用に適している。化粧料は、特に限定されないが、例えばフェーシャル化粧料、メーキャップ化粧料、ヘア化粧料である。本実施形態の近赤外線遮蔽材の配合が特に好ましい化粧料は、ファンデーション、フェイスパウダー等のフェーシャル化粧料である。フェーシャル化粧料では近赤外線を遮蔽する材料へのニーズが特に高い。本実施形態の近赤外線遮蔽材は、美観に優れた反射色を提供することもできる。この観点からは、アイシャドー、ネイルエナメル、アイライナー、マスカラ、口紅、ファンシーパウダー等のメーキャップ化粧料への配合にも適している。化粧料の形態としては、特に限定されないが、粉末状、ケーキ状、ペンシル状、スティック状、軟膏状、液状、乳液状、クリーム状等が挙げられる。
【0040】
(塗料)
本実施形態の近赤外線遮蔽材は、塗料の材料としての使用にも適している。塗料は、特に限定されないが、例えば車両用塗料、船舶用塗料、航空機用塗料、建築物用塗料、土木構造物用塗料、建築材用塗料、電気製品用塗料、樹脂成形品用塗料、紙加工用塗料、フィルム加工用塗料である。代表的な車両用塗料は自動車用塗料である。塗料は、コーティング剤等と呼ばれるものであってもよく、塗布の手段も特に限定されない。
【0041】
(その他の用途)
本実施形態の近赤外線遮蔽材は、化粧料及び塗料以外の用途、例えば、樹脂部品、樹脂容器、樹脂フィルム等の樹脂成形品に配合して用いてもよい。本実施形態の近赤外線遮蔽材は、特に屋外で使用され、或いは光輝感がある反射光による装飾効果の付与が望ましい製品の塗装や部品として使用される組成物又は成形品への使用に適している。
【0042】
<塗布体/塗膜>
本実施形態の近赤外線遮蔽材は、塗料が塗布された塗装体において近赤外線を有効に遮蔽し得る。言い換えると、本実施形態の近赤外線遮蔽材は、これを含む塗装体として使用され得る。塗装体において、近赤外線遮蔽材を含む塗膜は、塗料の用途として例示した各種の被塗布体上において、場合によっては美観に優れた反射色と共に、近赤外線遮蔽機能を提供し得る。塗膜は、単層膜であっても多層膜であってもよい。以下では、多層膜として形成されることが多い車両用塗膜を例示する。
【0043】
(車両用塗膜)
車両用塗膜の構成の一例を図9に示す。図9に断面を示した塗膜は、基材31上に形成された多層膜である。塗膜は、基材31側から、電着塗膜32、中塗り塗膜33、ベース塗膜34、及びクリア塗膜35をこの順に備えている。基材31は、例えば、冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板等の鋼板である。電着塗装32は、防錆性の付与、下地の遮蔽等のために形成される。電着塗装32は、カチオン電着塗装であってもよい。カチオン電着塗料は、例えば、カチオン性基体樹脂、硬化剤及び顔料を含有する。中塗り塗膜33は、跳ね石対策、下地遮蔽性の向上等のために形成される。中塗り塗膜33は、例えば、塗膜形成樹脂、顔料及び添加剤を含んでいる。塗膜形成樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂等である。顔料は、光透過を抑制できる材料、例えば酸化チタン、酸化鉄が使用される。添加剤は、表面調整剤、紫外線吸収剤、粘性制御剤等が使用される。
【0044】
ベース塗膜34及びクリア塗膜35は、まとめて上塗り塗膜と呼ばれることもある。上塗り塗膜は、主として車体に所望の美観を付与するために形成される。ベース塗膜34は、例えば、塗膜形成樹脂、顔料及び添加剤を含んでいる。塗膜形成樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、アミノ樹脂等である。添加剤の例は上述したとおりである。顔料は、所望の反射色を呈する着色顔料が使用される。着色顔料は、例えば、アルミニウムフレーク、酸化チタン微粒子である。酸化チタン微粒子は、近赤外線遮蔽材として使用されることもある。顔料としては、光干渉による発色を利用した光揮性顔料がさらに使用されることもある。クリア塗膜35は、例えば、塗膜形成樹脂及び添加剤を含んでいる。塗膜形成樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂等である。添加剤の例は上述したとおりである。
【0045】
本実施形態の近赤外線遮蔽材は、光干渉による発色を呈しながら近赤外線を遮蔽し得るため、ベース塗膜34への添加に特に適している。
【0046】
図9に例示した塗膜は例示に過ぎない。本実施形態の近赤外線遮蔽材は、例えば、樹脂や無機材料により構成された基材の上に形成された塗膜に配合してもよい。また、上記よりも層数が多い又は少ない多層膜、或いは単層膜である塗膜に配合してもよい。
【0047】
(塗膜における基体厚みの影響)
図10A及び10Bに、本実施形態の近赤外線遮蔽材を含む塗膜を模式的に示す。近赤外線遮蔽材41及び51は、塗膜43及び53に分散され、塗膜43及び53に入射する近赤外線45及び55を遮蔽する。図10A及び10Bの対比により、近赤外線遮蔽材41及び51の配合量が同じであれば、相対的に薄い近赤外線遮蔽材41が相対的に厚い近赤外線遮蔽材51よりも近赤外線45及び55の遮蔽に有利であることが理解できる。アスペクト比が相対的に高い近赤外線遮蔽材41はアスペクト比が相対的に低い近赤外線遮蔽材51よりも近赤外線45及び55の遮蔽に有利である。ここでは塗膜について説明したが、化粧料、樹脂成形品等への配合についても同様である。
【0048】
<その他の近赤外遮蔽膜との対比>
近赤外線を遮蔽するための膜としては、銀コート(金属薄膜層)、誘電体層の間に金属薄膜層を配置した多層膜、高屈折率層と低屈折率層との交互積層膜等も知られている。しかし、これらの膜は原料やその製造のコストが高い。金属薄膜層は、近年の自動車で重視されつつある車体の電波透過性を阻害する要因になることがある。本実施形態の近赤外線遮蔽材は、金属を含まない材料により構成して、或いは金属を含む場合であっても金属の含有率が質量基準で5%以下、1%以下、場合によっては0.1%未満となるように構成して、車体の電波透過性を維持することにも適している。電波透過性を確保しながら近赤外線を遮蔽する観点からは、本実施形態の近赤外線遮蔽材は、非金属基材の上に形成された塗膜、又は金属を質量基準で上記程度に排除した組成物への配合に適している。非金属基材を構成する材料としては、樹脂、ガラス等を例示できる。
【0049】
以下、実施例により本実施形態の近赤外線遮蔽材をさらに詳しく説明するが、以下の実施例もまた本発明を限定する趣旨で提示するものではない。
【0050】
(実施例1)
平均厚み0.3μm、平均粒径15μmのフレーク状ガラスの表面に、厚み約110nmの酸化チタン膜を液相法により成膜した。液相法は、特開2003-12962号公報にされている方法に準拠した。SEMを用いた観察により、フレーク状ガラスの表面に酸化チタン膜が形成されていることが確認できた。こうして、複数のフレーク状粒子からなる近赤外線遮蔽材(試料1)を得た。試料1からは橙色系の干渉色が確認された。
【0051】
(実施例2)
酸化鉄分散液 WD-IOR50(大東化成工業株式会社製)を顔料濃度が1.0%になるように純水で希釈した。この1.0%分散液35gを、純水1000g及び試料1として作製したフレーク状粒子70gと共にビーカーに投入した。ビーカー内で攪拌羽根を用いて分散液を攪拌しながら塩酸を投入してpHを2.0~4.5に調整し、10分間攪拌を行った。その後ろ過により上澄み液からフレーク状粒子を分離し、180℃で12時間乾燥した。こうして近赤外線遮蔽材(試料2)を得た。試料2からは橙色系の干渉色が確認された。
【0052】
(実施例3)
平均厚み0.5μm、平均粒径25μmのフレーク状ガラスを準備した。この表面に、実施例1と同様にして、厚み約110nmの酸化チタン膜を成膜したフレーク状粒子A、厚み約160nmの酸化チタン膜を成膜したフレーク状粒子B、及び厚み175nmの酸化チタン膜を成膜したフレーク状粒子Cを得た。次いで、フレーク状粒子A、B、Cを、質量基準で51%、43%、6%の比率となるように混合した。こうして近赤外線遮蔽材(試料3)を得た。試料3からは彩度C*が10未満の銀色の干渉色が確認された。
【0053】
(実施例4)
平均厚み0.4μm、平均粒径18μmのフレーク状ガラスを用いたことを除いては実施例1と同様にして、近赤外線遮蔽材(試料4)を得た。試料4からは橙色系の干渉色が確認された。
【0054】
(実施例5)
平均厚み0.4μm、平均粒径10μmのフレーク状ガラスを用いたことを除いては実施例1と同様にして、近赤外線遮蔽材(試料5)を得た。試料5からは橙色系の干渉色が確認された。
【0055】
(実施例6)
平均厚み0.5μm、平均粒径25μmのフレーク状ガラスを用いたこと、及び厚み約130nmの酸化チタン膜を形成したことを除いては実施例1と同様にして、近赤外線遮蔽材(試料6)を得た。試料6からは赤色系の干渉色が確認された。
【0056】
(実施例7)
平均厚み0.5μm、平均粒径25μmのフレーク状ガラスを用いたこと、及び厚み約160nmの酸化チタン膜を形成したことを除いては実施例1と同様にして、近赤外線遮蔽材(試料7)を得た。試料7からは青色系の干渉色が確認された。
【0057】
(実施例8)
平均厚み0.5μm、平均粒径25μmのフレーク状ガラスを用いたこと、及び厚み約90nmの酸化チタン膜を形成したことを除いては実施例1と同様にして、近赤外線遮蔽材(試料8)を得た。試料8からは黄色系の干渉色が確認された。
【0058】
(比較例1)
平均厚み0.5μm、平均粒径25μmのフレーク状ガラスを用いたこと、及び厚み約70nmの酸化チタン膜を形成したことを除いては実施例1と同様にして、近赤外線遮蔽材(試料9)を得た。試料9からは銀色の干渉色が確認された。
【0059】
(比較例2)
平均厚み1.3μm、平均粒径18μmのフレーク状ガラスを用いたことを除いては実施例1と同様にして、近赤外線遮蔽材(試料10)を得た。試料10からは橙色系の干渉色が確認された。
【0060】
(実施例9)
平均厚み0.5μm、平均粒径25μmのフレーク状ガラスを用いたこと、及び厚み約110nmの酸化チタン膜を形成したことを除いては実施例1と同様にして、近赤外線遮蔽材(試料11)を得た。試料11からは橙色系の干渉色が確認された。
【0061】
(比較例3)
平均厚み0.5μm、平均粒径25μmのフレーク状ガラスを用いたこと、及び厚み約170nmの酸化チタン膜を形成したことを除いては実施例1と同様にして、近赤外線遮蔽材(試料12)を得た。試料12からは緑色系の干渉色が確認された。
【0062】
(反射色の測定)
試料1~10の粉体が透明アクリル樹脂に分散した塗布体を作製した。塗布体の作製にはフィルムアプリケータ(安田精機製作所製ドクターブレード)を用いた。フィルムアプリケータに投入する塗布用組成物には、粉体が全体の3質量%となるように透明アクリル樹脂塗料(日本ペイント製Nアクリル オートクリヤースーパー)に混合して調製した。塗布用組成物は、黒地の紙の上に塗布し、常温で乾燥させた。なお、塗膜は9mil(約228.6μm)となるように形成したが、乾燥後の塗膜の厚みは70~80μmの範囲となった。また、使用した透明アクリル樹脂塗料の近赤外域における反射率は実質的に0である。
【0063】
形成した塗布体について、色彩色差計CR-400(コニカミノルタ製)を用いて、輝度L*、彩度C*及び色相角hを測定した。使用した光源はD65光源である。
【0064】
(近赤外線の反射率の測定)
塗布用組成物をPETフィルムに塗布したことを除いては、上記と同様にして、上記と同様の厚みの塗膜を形成した。形成した塗布体から約25mm角の小片を切り出し、この小片について分光光度計(島津製作所製分光光度計UV-2600)を用い、分光反射率を測定した。フィルム面への入射角度は8°とした。測定に際してはフィルムの裏側に黒色の紙を接触させた。
【0065】
結果を表1に示す。また、図5~7に試料1~10の分光透過率を示す。試料1~8からは、波長域α(800~1000nm)及び波長域β(1000~1400nm)の全域において、40%以上の反射率が得られた。試料11からも波長域α及びβにおいて40%以上の反射率が得られた。一方、試料9~10の反射率は波長域βにおいて40%未満になり、試料12の反射率は波長域αにおいて40%未満となった。反射光の明度L*が十分に高い試料9~10及び12は、装飾効果を付与する目的のみであれば望ましい特性を有する。しかし、近赤外線の遮蔽能には劣っている。
【0066】
【表1】
【0067】
なお、試料1~12について、レーザ回折法によりD50、すなわち平均粒径を求めたところ、フレーク状ガラスの平均粒径に単層膜の厚みの2倍を加えた値と比較して、±10%程度の範囲内にある値が得られた。
【0068】
(応用例/塗膜)
上記で作製した試料が透明アクリル樹脂に分散した塗布体を作製した。塗布体の作製にはフィルムアプリケータ(安田精機製作所製ドクターブレード)を用いた。フィルムアプリケータに投入する塗布用組成物は、粉体である各試料が全体の1.0質量%となるように透明アクリル樹脂塗料(日本ペイント製Nアクリル オートクリヤースーパー)に混合して調製した。塗布用組成物は、PETフィルム(東レ製ルミラー(登録商標)T60)の上に塗布し、常温で乾燥させた。乾燥後の塗膜の厚みは70~80μmの範囲となった。
【0069】
作製した塗布体を赤外線ランプとこのランプからの赤外線が照射されるように配置した測定対象物との間に配置した。塗布体は、赤外線ランプまでの距離と測定対象物までの距離とが共に20cmとなり、塗膜が赤外線ランプ側を向くように配置した。赤外線ランプから測定対象物から赤外線を照射しながら、サーモカメラで測定対象物の温度上昇を測定した。サーモカメラと測定対象物との距離は20cmとした。測定は室温下で実施した。赤外線照射から20分及び60分後の温度を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
(応用例/化粧料)
質量基準で表3の組成となるようにW/O型の乳液を調合した。具体的には、表3の組成Aを秤量して加熱溶融した後、組成Bを加えて均一に分散し、さらに組成Cを加えて均一に分散させ、最後に組成Dを加えて攪拌し、室温まで冷却して乳液を得た。なお、近赤外線遮蔽材としては試料2を用いた。
【0072】
【表3】
【0073】
各製品の製造元は以下のとおりである。
「KF-6048」(信越シリコーン)
「ノムコートHK-G」(日清オイリオグループ)
「エルデュウPS-203」(味の素ヘルシーサプライ)
「スクワラン」(日光ケミカルズ)
「エステモールN-01」(日清オイリオグループ)
「KF-56A」(信越化学工業)
「トコフェロール100」(日清オイリオグループ)
「KSG-16」(信越化学工業)
「KF-96A 2cs」(信越シリコーン製)
「KF-995」(信越化学工業)
【0074】
得られた乳液である試料13(近赤外線遮蔽材0%)、試料14(同1%)、試料15(同3%)、試料16(同5%)について、上記と同様にして分光反射率を測定した。結果を図8に示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B