(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】癌の治療のためのMAPK/ERK経路阻害剤及びグリコサミノグリカンの組み合わせ
(51)【国際特許分類】
A61K 31/726 20060101AFI20240902BHJP
A61K 31/437 20060101ALI20240902BHJP
A61K 31/4184 20060101ALI20240902BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20240902BHJP
A61K 31/4523 20060101ALI20240902BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20240902BHJP
A61K 31/166 20060101ALI20240902BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240902BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240902BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
A61K31/726
A61K31/437
A61K31/4184
A61K31/519
A61K31/4523
A61K31/506
A61K31/166
A61K45/00
A61P35/00
A61P43/00 121
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023097381
(22)【出願日】2023-06-14
(62)【分割の表示】P 2020509521の分割
【原出願日】2018-08-23
【審査請求日】2023-07-13
(32)【優先日】2017-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516119243
【氏名又は名称】セル レセプター アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】ファブリシウス ハンス-アケ
【審査官】今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-534078(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0134158(US,A1)
【文献】国際公開第2015/161230(WO,A1)
【文献】DOOLEY, A. J. et al,Intermittent dosing with vemurafenib in BRAF V600E-mutant melanoma: review of a case series,Ther Adv Med Oncol,2014年,Vol.6(6),pp.262-266
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌の治療のための負に帯電したグリコサミノグリカンとMAPK/ERK経路の阻害剤との組み合わせ医薬であって、前記癌の治療は、
(1)負に帯電したグリコサミノグリカンであって、前記グリコサミノグリカンは、ヘパリンの末端五糖の不存在を特徴とする負に帯電したグリコサミノグリカンと、
(2)MAPK/ERK経路の阻害剤
であって、前記MAPK/ERK経路の阻害剤が、セルメチニブ、CI-1040およびトラメチニブ(GSK1120212)からなる群から選択されるMEK阻害剤、またはベムラフェニブ(PLX4032)、ソラフェニブおよびダラフェニブ(GSK2118436)からなる群から選択されるRaf阻害剤である、阻害剤と
の併用投与を含
み、前記癌は、MEK阻害剤又はRaf阻害剤に対して抵抗性である、及び/又は抵抗性を発現する高まったリスクがある、細胞表面上に1つ以上のErbBファミリータンパク質の存在を示す癌細胞から構成される癌である、組み合わせ医薬。
【請求項2】
前記グリコサミノグリカンが硫酸化されている請求項1に記載
の癌の治療のための組み合わせ医薬。
【請求項3】
前記グリコサミノグリカンの硫酸化度が、1.0超、好ましくは1.2超、より好ましくは1.4超である請求項1又は請求項2に記載
の癌の治療のための組み合わせ医薬。
【請求項4】
存在しない前記ヘパリンの末端五糖が、五糖GlcNAc/NS(6S)-GlcA-GlcNS(3S,6S)-ldoA(2S)-GlcNS(6S)である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載
の癌の治療のための組み合わせ医薬。
【請求項5】
前記グリコサミノグリカンが、5000~12000ダルトンの平均分子量を示す請求項1から請求項4のいずれか一項に記載
の癌の治療のための組み合わせ医薬。
【請求項6】
前記グリコサミノグリカンがペントサンポリ硫酸(PPS)である請求項1から請求項5のいずれか一項に記載
の癌の治療のための組み合わせ医薬。
【請求項7】
前記グリコサミノグリカンがデキストラン硫酸(DXS)である請求項1から請求項6のいずれか一項に記載
の癌の治療のための組み合わせ医薬。
【請求項8】
前記MEK阻害剤がセルメチニブである請求項
1に記載の癌の治療のための組み合わせ医薬。
【請求項9】
前記MEK阻害剤が
CI-1040である請求項1に記載の癌の治療のための組み合わせ医薬。
【請求項10】
前記MEK阻害剤がトラメチニブ(GSK1120212)である請求項1に記載の癌の治療のための組み合わせ医薬。
【請求項11】
前記Raf阻害剤がベムラフェニブ(PLX4032)である請求項1に記載の癌の治療のための組み合わせ医薬。
【請求項12】
前記Raf阻害剤がソラフェニブである請求項1に記載の癌の治療のための組み合わせ医薬。
【請求項13】
前記Raf阻害剤がダラフェニブ(GSK2118436)である請求項1に記載の癌の治療のための組み合わせ医薬。
【請求項14】
前記癌が、適切な(非癌性の)対照細胞と比べて、1以上のErbBファミリータンパク質の上昇した発現(上方制御)及び/又は上昇したErbBシグナル伝達を示す癌性細胞を含む請求項1から請求項
13のいずれか一項に記載の癌の治療のための組み合わせ医薬。
【請求項15】
前記上方制御されたErbBファミリータンパク質が、Her1(EGFR、ErbB1)、Her2(Neu、ErbB2)、Her3(ErbB3)、及びHer4(ErbB4)、好ましくはHer3(ErbB3)である請求項
14に記載の癌の治療のための組み合わせ医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負に帯電したグリコサミノグリカンと、MAPK/ERK経路の阻害剤との併用投与を含む癌の治療のための医薬として使用するための負に帯電したグリコサミノグリカンであって、このグリコサミノグリカンは、ヘパリンの末端五糖の不存在を特徴とする負に帯電したグリコサミノグリカンに関する。本発明は、単独のMAPK/ERK経路阻害剤治療に対して抵抗性を示す癌種の治療のための医薬としてのグリコサミノグリカンとMAPK/ERK経路阻害剤との併用投与をも包含する。
【背景技術】
【0002】
現在の癌治療の目標は、細胞成長に影響を及ぼすシグナル伝達経路の中の分子、特に、正常細胞を癌性にさせる分子を特定することである。1つのこのような経路は、Ras-Raf-MEK-ERK経路又はRaf-MEK-ERKとも呼ばれるMAPK/ERK経路であり、そのメンバーのうちの1以上のものの上方制御は、いくつかの癌に関与していると考えられる。
【0003】
MAPKの構成的作用は、結腸、肺、乳房、膵臓、卵巣及び腎臓に由来する細胞株を含めた原発性腫瘍細胞株の30%超において報告されている(Hoshinoら、1999)。正常な隣接組織と比べてより高濃度の活性なMAPK/ERK(pMAPK/pERK)も腫瘍組織において検出されている(Sivaramanら、1997)。
【0004】
このMAPK/ERK経路は、多くの癌において特定されており腫瘍成長、進行及び転移を促進するRas(例えばKRAS、NRAS、及びHRAS)及びRaf(例えばBRAF)の変異表現型等の成長因子及び発癌因子からの増殖性で抗アポトーシスのシグナル伝達を媒介することが特定されている。
【0005】
複数の成長因子受容体からの成長促進的なシグナルの媒介における役割に起因して、MAPK/ERK経路の化合物は、特に癌の治療に関してだけでなく、望まれない細胞増殖に関連する他の障害の治療においても潜在的に幅広い治療への応用を有する分子標的である。
【0006】
このMAPK/ERK経路は、後生動物で高度に保存された、膜から核へのシグナル伝達モジュールである。この経路の出発点において、リガンド(例えば、成長因子、サイトカイン又はホルモン)は受容体チロシンキナーゼ(RTK)の細胞外部分に結合し、これは、受容体チロシンキナーゼの細胞質ドメインのリン酸化を引き起こす。RTKの活性化により、細胞質内のアダプタータンパク質がグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)を動員することが可能になり、このグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)は、GDPからGTPへの交換を触媒することにより低分子GTPアーゼRASを活性化する。次に、RasはRafを活性化し、このRafは、MAPキナーゼキナーゼキナーゼ(MAPKKK又はMAP3K)として機能する。その後、RafはMAPキナーゼキナーゼ(MAPKK)をリン酸化し活性化する。このMAPキナーゼキナーゼ(MAPKK)は、この経路の中ではMEK(MAPK又はERKキナーゼ)と呼ばれる。MEKは、ERK(細胞外シグナル制御キナーゼ)と呼ばれるMAPキナーゼ(MAPK)である、この経路における第3でかつ最終の酵素をリン酸化して活性化する。活性化されると、ERKは、核の中へと移動することができ、その核の中で、ERKは転写因子をリン酸化し、これにより、成長因子により誘導される遺伝子制御、細胞周期移行又は細胞分化等の重要な細胞プロセスにおける活性を制御する(Peyssonnauxら、2001)。
【0007】
MAPK/ERK経路では、MEK(特にMEK1及びMEK2)は、そのMAPK基質、ERK1及びERK2のリン酸化を触媒することにおいて、戦略的に下流の位置を占める(Andersonら、1990)。基質ERK1及びERK2に対する高選択性並びに二重特異性キナーゼとして作用するというユニークな能力に起因して、MEKは、MAPK経路へのシグナルの統合において中心的な役割を果たす。しばしば、MEKは、BRAF及びRAS遺伝子(KRAS、NRAS、及びHRAS)中の変異を活性化する結果として、ヒトの癌では調節解除される。ERKシグナル伝達異常の高い発生率並びにこれらの癌化ドライバー(がんを支配している原因、oncogenic driver)に対するRAS及びBRAF変異腫瘍の依存性をふまえ、抗癌治療としての使用のためにこの経路の阻害剤を特定する多大な努力が進行中である。
【0008】
RAF阻害剤ベムラフェニブ及びダブラフェニブは、BRAF V600E又はBRAF V600K黒色腫の患者において顕著な臨床活性を示している(Flahertyら、2010、Chapmanら、2011、Hauschildら、2012)。同様に、いくつかの非常に特異的で強力なMEK1/2阻害剤が開発されており、臨床研究で評価されている。例えば、トラメチニブ投与は、BRAF-V600変異及び切除不可能な黒色腫又は転移した黒色腫の患者を処置することにおいて成功裏の治療戦略として証明されている(Lugowskaら、2015)。しかしながら、また、多くのMEK阻害剤は、単剤療法では、臨床試験において限られた有効性しか示さなかった(Y.Zhaoら、2015)。
【0009】
さらに、他の発癌性キナーゼの阻害剤の場合のように、標的キナーゼRaf又はMEKの阻害に基づく治療の臨床的恩恵は、薬物耐性の出現によって限定的である(Poulikakosら、2011、Rosenら、2013)。
【0010】
複数の薬剤を使用する併用治療による戦略は、有望な結果を示している。例えば、MEK阻害剤とRaf阻害剤との組み合わせは、治療有効性を改善する(国際公開第2009/018238A号パンフレット、Erogluら、2016)。MEK阻害剤とBTK阻害剤との併用投与も提案されている(国際公開第2017/033113A1号パンフレット)。米国特許出願公開第2014/134158A1号明細書、国際公開第2015/161230A1号パンフレット及びDooley A.ら、2014も、癌の治療におけるMAPK/MEK阻害剤の使用を提案する。しかしながら、併用治療アプローチをもってしても、疾患進行及び抵抗性の発現が認められている(Grimaldiら、2017)。
【0011】
異常なMAPK/ERK経路活性に関連する癌の治療のためのさらなる薬理学的な療法に対するニーズがあり続けている。
【0012】
Claire Louise Coleらは、血管新生に対する阻害剤としてのオリゴ糖の使用を提案する(Coleら、2010)。さらには、最近、血小板と増殖する癌性細胞の表面との物理的相互作用を邪魔することに拠る抗増殖治療が提案されている(国際公開第2015/059177A1号パンフレット)。
【0013】
国際公開第2015/059177A1号パンフレットに示されているように、硫酸化グリコサミノグリカンは、血小板と癌性細胞の表面との物理的相互作用を妨げ、これは、増殖を、従って腫瘍成長を低下する可能性があり、又は停止させる可能性さえある。
【0014】
上記文献に記載されているアプローチは、異なるが、血小板が腫瘍細胞の表面に結合すること、及びこの結合が腫瘍転移に関与することという知見に補完的である。例えば、Modery-Pawlowskiら、2013及びTakagiら、2013は、血小板と腫瘍細胞との物理的相互作用が腫瘍細胞の転移に重要な役割を果たすことを開示した。
【0015】
血小板-細胞表面相互作用を崩壊させることによる癌性細胞の増殖の阻害についての機構は、血小板によって癌性細胞まで運ばれる成長因子を邪魔することに拠る可能性が高い。
【0016】
成長因子は、正常細胞及び悪性細胞の成長にとって必須であり、増殖細胞にとって利用可能になっている必要がある。G0期を離れてG1期で準備している細胞は、S期への移行及び関連する細胞増殖に関する適切なシグナルを必要とする。しかしながら、かなりの程度で、成長因子は、インビボの血液中では遊離の物質として利用可能ではなく、むしろ血小板内の小胞中にあり、従って血小板が成長因子を提供する。さらには、血小板と腫瘍細胞の表面との物理的相互作用及びその際に想定される形態に起因して、成長因子は、細胞増殖にとって特定の必要な場所で放出される。
【0017】
MAPK/ERK経路の阻害剤を開発することに関してなされた進展にもかかわらず、このような阻害剤に対して抵抗性の癌細胞を処置するために、又はそのような抵抗性の出現を予防するため、若しくはそのような抵抗性の出現のリスク又は頻度を低下させるため大きなニーズが当該技術分野にある。
【0018】
本明細書に記載されるように、負に帯電したグリコサミノグリカンと一緒のMAPK/ERK経路の阻害剤の併用投与は、驚くべきことに、種々の腫瘍を治療するための、特にMAPK/ERK経路阻害剤に抵抗性であるか抵抗性になるリスクにある腫瘍を処置すること関して有効な治療的アプローチを表す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】国際公開第2009/018238A号パンフレット
【文献】国際公開第2017/033113A1号パンフレット
【文献】米国特許出願公開第2014/134158A1号明細書
【文献】国際公開第2015/161230A1号パンフレット
【文献】国際公開第2015/059177A1号パンフレット
【非特許文献】
【0020】
【文献】Hoshino R.、Chatani Y.、Yamori T.、Tsuruo T.、Oka H.、Yoshida O.、Shimada Y.、Ari-i S.、Wada H.、Fujimoto J.、Kohno M.、Constitutive activation of the 41-/43-kDa mitogen-activated protein kinase signalling pathway in human tumours、Oncogene、18:813-822(1999)
【文献】Sivaraman,V.S.、Wang,H.、Nuovo,G.J.及びMalbon,C.C. Hyperexpression of mitogen-activated protein kinase in human breast cancer. Journal of Clinical Investigation、99:1478-1483(1997)
【文献】Peyssonnaux C.、Eychene A.、The Raf/MEK/ERK pathway:new concepts of activation、Biology of the Cell、93:53-62(2001)
【文献】Anderson NG.、Maller J.L.、Tonks N.K.、Sturgill T.W.、Requirement for integration of signals from two distinct phosphorylation pathways for activation of MAP kinase、Nature、343:651-653(1990)
【文献】Flaherty,K.T.ら、Inhibition of mutated,activated BRAF in metastatic melanoma. N.Engl.J.Med. 363:809-819(2010)
【文献】Chapman,P.B.ら、Improved survival with vemurafenib in melanoma with BRAF V600E mutation. N.Engl.J.Med. 364:2507-2516(2011)
【文献】Hauschild,A.ら、Dabrafenib in BRAF-mutated metastatic melanoma:a multicentre,open-label,phase 3 randomised controlled trial. Lancet 380:358-365(2012)
【文献】Lugowska I.、Kosela-Paterczyk H.、Kozak K.、Rutkowski P.、Trametinib:a MeK inhibitor for management of metastatic melanoma、OncoTargets and Therapy、8:2251-2259(2015)
【文献】Zhao,Y.、Adjei,A.A.、The clinical development of MEK inhibitors. Nat.Rev.Clin.Oncol. 11:385-400(2014)
【文献】Poulikakos P.I.ら、Resistance to MEK Inhibitors:Should We Co-Target Upstream?、Science Signalling 4(166):pe16(2011)
【文献】Rosen N.ら、Tumour adaptation and resistance to RAF inhibitors、Nature Medicine、19:11(2013)
【文献】Eroglu Z.、Ribas A.、Combination therapy with BRAF and MEK inhibitors for melanoma:latest evidence and place in therapy、Therapeutic Advances in Medical Oncology、8(1):48-56(2016)
【文献】Dooley A.J.ら、Intermittent dosing with vemurafenib in BRAF V600E-mutant melanoma:Review of case series、Therapeutic Advances in Medical Oncology、6(6):262-266(2014)
【文献】Grimaldi M.ら、Combined BRAF and MEK Inhibition with Vemurafenib and Cobimetinib for Patients with Advanced Melanoma、European Oncology & Haematology、13:1-5(2017)
【文献】Coleら、Synthetic Heparan Sulfate Oligosaccharides Inhibit Endothelial Cell Functions Essential for Angiogenesis、PLoS One、5(7):e11644
【文献】Modery-Pawlowski,C.L.、Master,A.M.、Pan,V.、Howard,G.及びGupta,A.S.、A Platelet-Mimetic Paradigm for Metastasis-Targeted Nanomedicine Platforms. Biomacromolecules、14(3):910-919(2013)
【文献】Takagi,S.、Sato,S.、Oh-hara,T.、Takami,M.、Koike,S.、Mishima,Y.、Hatake K.、Fujita,N.、Platelets Promote Tumour Growth and Metastasis via Direct Interaction between Aggrus/Podoplanin and CLEC-2. PLoS ONE、8(8):e73609(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上記先行技術を踏まえて、本発明の根底にある技術的課題は、癌の治療のための代替手段を提供することである。本発明のさらなる目的は、MAPK/ERK経路阻害剤に抵抗性であるか抵抗性になるリスクにある腫瘍を治療するための手段の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この課題は、独立請求項の特徴によって解決される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項によって提供される。
【0023】
本発明は、それゆえ、癌の治療のための医薬として使用するための負に帯電したグリコサミノグリカンであって、この癌の治療は、
(1)負に帯電したグリコサミノグリカンであって、このグリコサミノグリカンは、ヘパリンの末端五糖の不存在を特徴とする負に帯電したグリコサミノグリカンと、
(2)MAPK/ERK経路の阻害剤と
の併用投与を含む、医薬として使用するための負に帯電したグリコサミノグリカンに関する。
【0024】
MAPK/ERK経路の阻害剤は、MAPK/ERK経路カスケードの化合物のうちの1つとの相互作用を標的とし、従ってMAPK/ERK経路活性の低下につながる任意の分子に関連しうる。これらの阻害剤は、特に、受容体チロシンキナーゼ(RTK)、低分子GTPアーゼであるRas、Raf、MEK又はERKを含めたMAPK/ERKカスケードの酵素のうちの1以上に対する阻害機能を誘導する。上記のとおり、異常なMAPK/ERKシグナル伝達活性は、多くの癌性疾患に関与し、その経路の阻害剤に基づくいくつかの有望な治療的アプローチにつながる。
【0025】
しかしながら、MAPK/ERKシグナル伝達カスケードの酵素の多くの特定された強力な阻害剤について、エスケープ機構が認められており、この機構は、臨床試験において抵抗性及び低い治療有効性につながる。
【0026】
しかしながら、MAPK/ERK阻害治療からのそのような「エスケープ事象」(すなわち、MAPK/ERK阻害剤抵抗性の発現又は強化を介する腫瘍のエスケープ)は、MAPK/ERK阻害剤の投与を負に帯電したグリコサミノグリカンと組み合わせるとき、克服することができるというのが、本発明者の驚くべき知見である。
【0027】
グリコサミノグリカン(GAG)は、繰り返しの二糖単位から構築される大きい、好ましくは直鎖状の多糖である。一次構成は、好ましくはアミノ糖(GlcNAc又はGalNAcのいずれか)及びウロン酸(グルクロン酸及び/又はイズロン酸のいずれか)を含む。
【0028】
これまでに、硫酸化グリコサミノグリカンは、血小板(すなわち栓球)と癌性細胞との間の物理的相互作用を損なう可能性があるということが示されている。より一般的には、上記の血小板-細胞結合の阻害の根底にある機構を決める特徴は、グリコサミノグリカンの負電荷である。
【0029】
事実上すべての哺乳類の細胞は、プロテオグリカンを産生し、それをECM中に分泌し、それを細胞膜中に挿入し、又はそれを分泌顆粒の中に保存する。それゆえ、特に増殖に関与する細胞の細胞膜は、血小板に結合することができる負に帯電したグリコサミノグリカンに似た構造を保有する。本発明の負に帯電したグリコサミノグリカンは、例えば血小板上の膜受容体分子をブロックするという点で、競合的に作用する可能性があり、この膜受容体分子は、ブロックされなければ、癌性細胞の膜の上の負に帯電した表面分子を認識することに関与するものである。このようにして、グリコサミノグリカンに、血小板-癌細胞相互作用に対するその化合物の阻害機能をもたらすのは、グリコサミノグリカンの負電荷である。
【0030】
特に好ましい負に帯電したグリコサミノグリカンは硫酸化グリコサミノグリカンに関するが、しかしながら、負電荷を保有する非硫酸化グリコサミノグリカンも、開示された発明に従って使用されてもよい。
【0031】
いくつかの実施形態では、他の負に帯電したグリコサミノグリカンは、1以上のブタン酸アニオンを含むグリコサミノグリカン、又は酪酸化グリコサミノグリカン、すなわち対応する負電荷を示すための酪酸で官能化されたグリコサミノグリカンに関する。このような分子は、ブタノイル化LMWH等のブタノイル化グリコサミノグリカンと名付けさられてもよい。
【0032】
例えば、ヒアルロン酸も用いられてよい。癌性細胞上の血小板のシグナル伝達活性を妨害することにより、負に帯電したグリコサミノグリカンは、上記細胞に対する阻害機能を示す。しかしながら、本明細書で使用する場合、負に帯電したグリコサミノグリカンとの用語は、MAPK/ERK経路の阻害剤には該当しない。なぜなら、グリコサミノグリカンは、MAPK/ERK経路の酵素を直接妨げるのではなく、血小板と癌性細胞との物理的相互作用を妨げて、成長因子の供給を邪魔することにより細胞シグナル伝達に下流で効果を及ぼすだけだからである。
【0033】
本発明者により発見されたように、負に帯電したグリコサミノグリカンと一緒のMAPK/ERK経路の阻害剤の併用投与は、癌性疾患の治療において、単独様式で考慮されたときのそれぞれ個別の効果の和よりも大きい、相乗的な治療効果をもたらす。
【0034】
これまでの研究から得られた見通しに基づくと、治療不成功及び/又はMAPK/ERK経路の阻害剤に対する抵抗性は、成長因子依存的なエスケープ経路におよその原因がある可能性があるということが仮定される。
【0035】
例として、例えばMEK阻害剤セルメチニブによってMEKの機能を妨げることによるMAPK/ERK経路の阻害は、Erbファミリータンパク質等のさらなるRTKタンパク質の産生を誘導する非リン酸化ERKを介して代替のシグナル伝達経路の活性化を生じる可能性がある。これにより、Rasシグナル伝達と並行なシグナル伝達連鎖が活性化され、これは、例えばErbb3の場合は、MAP3K1及びMAP2K4を介する膜-核シグナル伝達モジュールを通して細胞成長を促進しうる(
図1を参照)。MEK阻害剤が癌性細胞におけるErkのリン酸化、従ってRasシグナル伝達を効率的に崩壊させる可能性があるとしても、並行するErbファミリータンパク質依存的な経路により、増殖及び腫瘍成長の連続支援が可能になる。
【0036】
同様に、研究は、BRAF阻害剤ベムラフェニブに対する抵抗性が、Erbタンパク質ファミリーの上皮成長因子受容体(EGFR)を介するシグナル伝達の増加に起因する可能性があるということを示唆した。ベースラインレベルで、BRAF→MEK→ERKシグナル伝達は、RTK EGFRシグナル伝達を減弱するように働く負のフィードバックループを活性化する一方で、ベムラフェニブによるBRAF阻害は、この負のフィードバックを緩和し、EGFRを介するシグナル伝達の増加につながる。これにより増殖を支えるPI3Kによる正の膜対核のシグナル伝達が誘導される。従って、単一の治療的なBRAF阻害剤のその目的に向かう活性は、特定の癌、特に転移性の結腸直腸癌及び甲状腺癌においては、化学療法抵抗性の迅速な、適応機構を活性化する可能性がある(Holderfieldら、2014)。
【0037】
しかしながら、驚くべきことに、負に帯電したグリコサミノグリカンの併用投与は、MAPK/ERK経路の阻害剤についてのそのようなシグナル伝達エスケープ経路を有効に妨げる可能性がある。理論に結びつけられたくはないが、本発明者は、MAPK/ERK経路阻害剤に対するエスケープ経路は、部分的又は全体的なMAPK/ERK経路の阻害に応答して増加的に産生されるErbファミリーのタンパク質の成長因子依存的活性化に拠ると確信している。負に帯電したグリコサミノグリカンの投与は、血小板により送達される成長因子を断つことによって、Erbタンパク質依存的な代替のシグナル伝達経路の活性化のために必要な成長因子の供給を減少させることにより、上記エスケープ経路を妨げる可能性が高い。
【0038】
上記のとおり、負に帯電したグリコサミノグリカンは、特に、癌性細胞に関して血小板-細胞表面相互作用に対して強い阻害機能を示す。血小板はインビボでの成長因子の主要な源を代表することを考慮すると、血小板の妨害は、従って成長因子の供給の妨害は、癌の治療における負に帯電したグリコサミノグリカンとMAPK/ERK経路の阻害剤との併用投与の相乗効果のもっともらしい説明である。
【0039】
本発明の併用投与は、白血病、例えば急性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、血液悪性腫瘍又はリンパ腫等の非固形腫瘍、並びに固形腫瘍及びそれらの転移、例えば黒色腫、非小細胞肺癌、神経膠腫、肝細胞(肝臓)癌、神経膠芽腫、甲状腺の細胞腫、胆管、骨、胃、脳/CNS、頭頸部、肝臓、胃、前立腺、乳房、腎臓、精巣、卵巣、皮膚、子宮頸部、肺、筋肉、神経細胞、食道、膀胱、肺、子宮、外陰部、子宮内膜、腎臓、結腸直腸、膵臓、胸膜/腹膜、唾液腺、及び類表皮の腫瘍並びに血液学的悪性腫瘍を含めた(これらに限定されない)癌を有する患者の治療のために特に有用であると予想される。
【0040】
本発明の併用投与は、肺癌、黒色腫、胃癌、結直腸癌、卵巣癌、甲状腺癌、膵臓癌、肝癌、及びそれらの転移を有する患者の治療に、並びに急性骨髄性白血病又は多発性骨髄腫を有する患者の治療にもとりわけ有用であると予想される。
【0041】
本発明の併用投与は、MAPK/ERK(Ras-Raf-MEK-ERK)経路と関連するか、又はMAPK/ERK(Ras-Raf-MEK-ERK)経路の生物活性に、それのみに又は部分的に、依存する腫瘍を有する患者の治療に特に有用であると予想される。MAPK/ERK(Ras-Raf-MEK-ERK)経路の生物活性に関連する癌は、この経路のメンバーのうちのいずれか1つの発現量又はタンパク質の量を評価するための一般の分子生物学的な技術を使用してことにより、当業者によって決定されてよい。
【0042】
本発明の治療の組み合わせは、MEKに関連するか、又はMEKの生物活性に、それのみに又は部分的に、依存する腫瘍を有する患者の治療に特に有用であるとも予想される。
【0043】
本発明の治療の組み合わせは、Rafと関連するか、又はRafの生物活性に、それのみに又は部分的に、依存する腫瘍を有する患者の治療に特に有用であるとも予想される。
【0044】
さらに、本発明のいくつかの実施形態によれば、ヘパリンの末端五糖の不存在を特徴とする負に帯電したグリコサミノグリカンを投与することが好ましい。硫酸化グリコサミノグリカンであるヘパリンは、その抗凝血活性について周知であり、この活性を、ヘパリンは、主に、凝血性の第Xa因子及びトロンビンの阻害によって成し遂げる。ヘパリンの抗凝血活性についての主要な機構は、ヘパリンの非還元末端にある末端五糖配列(GlcNAc/NS(6S)-GlcA-GlcNS(3S,6S)-IdoA(2S)-GlcNS(6S)、分子量1.7KD)によって介在される。
【0045】
その末端の五糖を介して、ヘパリンは、酵素阻害剤アンチトロンビンIIIに結合し、アンチトロンビンIIIの反応性部位ループの柔軟性の増大によってアンチトロンビンIIIの活性化をもたらす立体構造変化を引き起こす。活性化されたアンチトロンビンは、次に、トロンビン、第Xa因子又は凝血関連反応の触媒反応に関与する他のプロテアーゼを不活性化する。第Xa因子の阻害は、ヘパリン結合の際のアンチトロンビンにおける立体構造変化によって介在される。しかしながら、トロンビン阻害のためには、アンチトロンビンIII、トロンビン及びヘパリンの間の三元複合体の形成が必要である。第Xa因子に対するヘパリン活性は単に末端五糖の結合部位にのみ拠るが、トロンビンに対するヘパリンの活性は、加えてサイズ依存性を示す。
【0046】
このサイズ依存性は、抗凝血医薬としての低分子量ヘパリン(low-molecular-weight heparin:LMWH)を開発することにより、凝血の低下した、従ってより制御された調節を可能にするために利用されてきた。より最近では、フォンダパリヌクス(Fondaparinux)と呼ばれるヘパリンの末端五糖の合成版が、さらなる抗凝血薬として生み出された。
【0047】
未分画ヘパリン(unfractionated heparin:UVH)とは対照的に、LMWH及びフォンダパリヌクスは、ともに、アンチトロンビン活性よりはむしろ抗Xa活性を特徴とし、ヘパリン起因性血小板減少症のリスクを低下させる。
【0048】
しかしながら、あらゆる抗凝血薬のように、未分画ヘパリン(UVH)、LMWH又はフォンダパリヌクスは、重篤な副作用として、胃腸出血及び頭蓋内出血を含めた出血を誘起する可能性がある(Harterら、2015)。
【0049】
本発明者は、負に帯電したグリコサミノグリカンの中のヘパリンの末端五糖配列は、血小板-細胞表面相互作用を崩壊させることによる腫瘍増殖の阻害のためには不必要であるということを実感した。有利なことに、ヘパリンの末端五糖の不存在を特徴とする負に帯電したグリコサミノグリカンを、MAPK/ERK経路の阻害剤と一緒に併用投与することは、出血等の抗凝血薬の副作用のリスクなしに癌治療を可能にする。
【0050】
かくして、本明細書に記載される併用投与は、癌性疾患に罹患しているが、抗凝血薬投与の場合には出血を起こすリスクにある患者に対して特に有利である。当該併用投与は、抗凝血薬療法の必要が医学的に示されない腫瘍患者に特に有用であり、そのような療法と関連する副作用のリスクを必ずしも増大させないと思われる。
【0051】
本発明の1つの実施形態では、抗凝血活性を実質的に又は本質的に欠く負に帯電したグリコサミノグリカンが投与され、未分画ヘパリン又はLMWHと比べて、低下した抗凝血活性を示す。
【0052】
本発明の1つの実施形態では、上記医薬として使用するためのグリコサミノグリカンは、存在しないヘパリンの末端五糖が五糖GlcNAc/NS(6S)-GlcA-GlcNS(3S,6S)-ldoA(2S)-GlcNS(6S)であることを特徴とする。
【0053】
本発明の1つの実施形態では、ヘパリンの末端五糖の不存在を特徴とする負に帯電したグリコサミノグリカンは、ペントサンポリ硫酸(PPS)、デキストラン硫酸(DXS)、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸又はケラタン硫酸等の硫酸化グリコサミノグリカンである。
【0054】
様々な硫酸化度が、天然に存在する硫酸化グリコサミノグリカン及び合成の硫酸化グリコサミノグリカンの両方で生じる。好ましい実施形態では、本明細書に記載される技術的効果を増強するために、硫酸化グリコサミノグリカンは、特定の硫酸化度について選択され、又は修飾されてもよい。
【0055】
先行技術で公知のように、硫酸化は、分子を負に帯電させる。高い程度で硫酸化されたグリコサミノグリカン、従ってより負に帯電した硫酸化グリコサミノグリカンは、いくつかの実施形態では、血小板-細胞相互作用を阻害することにおいて、低い程度に硫酸化された硫酸化グリコサミノグリカン、従って、より少なく負に帯電した硫酸化グリコサミノグリカンよりも有効である。それゆえ、比較的高レベルの硫酸化は、治療効果を増大させることができる。さらには、高い程度で硫酸化されたグリコサミノグリカンは、通常、いくつかのこのような受容体分子を一度にブロックすることができ、そのグリコサミノグリカンが体液で希釈されるか又は洗い流される前に、より多くの結合される機会を持つことになる。
【0056】
硫酸化グリコサミノグリカンの硫酸化度は、好ましくは、約0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、又は2.0超であってもよい。
【0057】
本発明の1つの実施形態では、上記医薬として使用するためのグリコサミノグリカンは、硫酸化グリコサミノグリカンであり、硫酸化度は、>1.0(1.0超)、好ましくは>1.2(1.2超)、より好ましくは>1.4(1.4超)である。硫酸化度>1.0、好ましくは>1.2、より好ましくは>1.4を有する硫酸化グリコサミノグリカンは、通常、高い程度で硫酸化されていると考えられる。
【0058】
後述するように、任意の与えられたグリコサミノグリカンの硫酸化度は、当業者に公知の方法を使用して、調整することができる。硫酸化度は、適切な実験法を用いて決定することもでき、これにより当業者は、意図した使用のために最適の特性を示すグリコサミノグリカンを製造するために、硫酸化度を調整することができるようになる。それゆえ、市販のグリコサミノグリカン分子又は天然に入手されるグリコサミノグリカン分子は、適宜にそれぞれの硫酸化度を調整するために修飾されることが可能であろう。
【0059】
本発明の1つの実施形態では、本明細書に記載される医薬として使用するためのヘパリンの末端五糖の不存在を特徴とするグリコサミノグリカンは、ペントサンポリ硫酸(PPS)である。
【0060】
本発明の1つの実施形態では、本明細書に記載される医薬として使用するためのヘパリンの末端五糖の不存在を特徴とするグリコサミノグリカンはデキストラン硫酸(DXS)である。
【0061】
硫酸化グリコサミノグリカンPPS及びDXSの両方は、血小板-細胞相互作用に対して顕著な阻害効果を示し、従って、MAPK/ERK阻害剤の投与と組み合わされるときに有益な治療効果をもたらすのに特に適している。
【0062】
本発明の好ましい実施形態では、ヘパリンの末端五糖の不存在を特徴とするグリコサミノグリカンは、好ましくは、1000~約500000ダルトン、好ましくは2000~100000ダルトン、より好ましくは約5000~約12000ダルトンの分子量、又は先行技術において公知であり本明細書に開示される低分子量ヘパリン分子(LMWH)と実質的に同じ近似分子量を示す。約5000~約12000ダルトン分子量のグリコサミノグリカンは、低分子量グリコサミノグリカンと呼ばれてもよい。
【0063】
本発明のさらなる実施形態では、ヘパリンの末端五糖の不存在を特徴とするグリコサミノグリカン、例えばDXS又はPPS、は、約2kDa~約12kDa、より好ましくは約3kDa~約8kDa、最も好ましくは約4kDa~約6kDaの分子量を有する。本明細書に記載される低分子量グリコサミノグリカン(約2kDa~約12kDa、好ましくは8kDa未満)は、未分画又は高分子量のグリコサミノグリカンと比較してさらなる利点を特徴とする。低分子量グリコサミノグリカンは、通常、未分画又は高分子量の調製物よりも低い量の血小板凝集体につながる。そのような比較的低分子量の調製物の投与により、治療の間の血栓症の合併症は、顕著に低下する。
【0064】
上記ヘパリンの末端五糖の不存在を特徴とするグリコサミノグリカンは、血小板減少症(ヘパリン関連の免疫性血小板減少症;HIT、II型によって引き起こされる可能性が高い)及び血栓症(望まれない凝固)の両方のリスクを下げることを可能にする。これらの2つの合併症は対照的な機序に起因するように見えるが、いずれも、未分画ヘパリン等のヘパリンの末端五糖を含む未分画グリコサミノグリカンを用いた治療の間に起こる可能性がある。それゆえ、未分画ヘパリンは、血小板数をあまりに強く減少させることができるか、又は血小板凝集につながる可能性があり、それらのいずれも、危険な副作用につながりうる。驚くべきことに、PPS及びDXSは、ともに、これらの効果の回避を可能にする有益な特性を示す。
【0065】
1つの実施形態では、関係するグリコサミノグリカンの分子量は、質量分析ベースの方法、例えばRhombergら、1998に記載されるものを使用して決定することができる。特定の糖類構造並びに硫酸化及び分子量に関するさらなる情報は、Turnbullら、1999に開示される配列決定技術を使用して決定することができる。
【0066】
本発明の1つの実施形態では、本明細書に記載される併用投与のためのMAPK/ERK経路の阻害剤は、MEK阻害剤である。
【0067】
好ましくは、上記MEK阻害剤は、AZD8330(ARRY-424704)、レファメチニブ(BAY 86-9766、RDEA119)、コビメチニブ(GDC-0973、XL-518、RG7421);E6201;ビニメチニブ(MEK162、ARRY-162);PD0325901;ピマセルチブ(AS703026、MSC1936369B);RO4987655(CH4987655)、RO5126766(CH5126766)、セルメチニブ(AZD6244、ARRY-142,886);TAK-733;トラメチニブ(GSK1120212)、GDC-0623、PD035901、PD184352(CI-1040)及びWX-554からなる群から選択される。また、このMEK阻害剤は、U0126-EtOH、PD98059、BIX 02189、ピマセルチブ(AS-703026)、BIX 02188、AZD8330及びPD318088、ホノキオール、SL-327、レファメチニブ(RDEA119、Bay 86-9766)、GDC-0623及びAPS-2-79 HClからなる群から選択されてもよい。
【0068】
上記MEK阻害剤が、トラメチニブ(GSK1120212)、コビメチニブ又はXL518、ビニメチニブ(MEK162)、PD325901、PD184352(CI-1040)、PD035901、及びTAK-733からなる群から選択されることが特に好ましい。
【0069】
本発明の1つの実施形態では、MEK阻害剤はセルメチニブである。
【0070】
本明細書で使用する場合、括弧内の名称は、好ましくは、阻害剤についての代替の命名法を表す。
【0071】
単独治療研究においては、いくつかのMEK阻害剤は、治療上有効であるために用量を増大させると、治療活性の低下又は副作用の増加を示す。
【0072】
有利なことに、MEK阻害剤と負に帯電したグリコサミノグリカンとの本発明に係る併用投与は、治療効果を維持しながら、より低い用量のレジメンを可能にする。
【0073】
癌の治療のためのMEK阻害剤の投与は、負に帯電したグリコサミノグリカンPPS及び/又はDXSと組み合わせると特に好ましい。
【0074】
本発明の1つの実施形態では、本明細書に記載される併用投与において医薬として使用するためのグリコサミノグリカンは、治療対象の癌が、卵巣癌、黒色腫、好ましくは転移性黒色腫、BRAF V600E変異若しくはV600K変異を保有する進行黒色腫又はNRAS Q61変異黒色腫、卵巣癌、乳癌、結腸癌又は肺癌、好ましくは非小細胞肺癌(NSCLC)であることを特徴とする。上述のタイプの癌については、MAPK/ERK経路の阻害剤がMEK阻害剤であることが特に好ましい。
【0075】
本発明の1つの実施形態では、本明細書に記載される併用投与についてのMAPK/ERK経路の阻害剤はRaf阻害剤である。
【0076】
好ましくは、上記Raf阻害剤は、ベムラフェニブ(PLX4032、RG7204)、ソラフェニブトシル酸塩、PLX-4720、ダブラフェニブ(GSK2118436)、GDC-0879、CCT196969、RAF265(CHIR-265)、AZ 628、NVP-BHG712、SB590885、ZM 336372、ソラフェニブ、GW5074、TAK-632、CEP-32496、エンコラフェニブ(LGX818)、RO5126766(CH5126766)、MLN2480、PLX7904、CCT196969及びLY3009120からなる群から選択される。
【0077】
上記Raf阻害剤が、エンコラフェニブ(LGX818)、ダブラフェニブ(GSK2118436)及びベムラフェニブ(PLX4032)からなる群から選択されることが特に好ましい。
【0078】
本発明の1つの実施形態では、上記併用投与のためのMAPK/ERK経路の阻害剤はRaf阻害剤であり、治療対象の癌は黒色腫、甲状腺癌又は結腸癌である。
【0079】
1つの実施形態では、本発明は、癌の治療におけるチロシンキナーゼ阻害剤と一緒の、本明細書に記載される負に帯電したグリコサミノグリカンの併用投与に関する。好ましくは、このようなチロシンキナーゼ阻害剤は、受容体チロシンキナーゼ(RTK)の初期活性化の機能を邪魔することによりMAPK/ERK経路を妨げる受容体チロシンキナーゼ阻害剤である。
【0080】
1つの実施形態では、上記チロシンキナーゼ阻害剤は、アファチニブ、アフリベルセプト、アキシチニブ、ベバシズマブ、ボスチニブ、カボザンチニブ、クリゾチニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、ニロチニブ、パニツムマブ、パゾパニブ、ペガプタニブ、ポナチニブ、ラニビズマブ、レゴラフェニブ、ルキソリチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、トファシチニブ、トラスツズマブ及びバンデタニブからなる群から選択される。
【0081】
1つの実施形態では、本発明は、2以上のMAPK/ERK経路の阻害剤と一緒の本明細書に記載される負に帯電したグリコサミノグリカンの併用投与に関する。例えば、負に帯電したグリコサミノグリカンがMEK阻害剤及びRAF阻害剤と組み合わせて投与されることが好ましい場合がある。
【0082】
好ましい実施形態では、本発明は、医薬として使用するためのグリコサミノグリカンであって、治療対象の癌が、MAPK/ERK経路の阻害剤に、特にMEK阻害剤及び/又はRaf阻害剤に抵抗性があり、かつ/又はMAPK/ERK経路の阻害剤に、特にMEK阻害剤及び/又はRaf阻害剤に対する抵抗性を発現する高まったリスクにある癌性細胞を含む、医薬として使用するためのグリコサミノグリカンに関する。
【0083】
上記のとおり、MAPK/ERKシグナル伝達経路の異常な活性に関連する癌性疾患をMEK阻害剤又はRaf阻害剤等のMAPK/ERK経路阻害剤を用いて治療する場合、適応性のエスケープ機構の出現が観察され、これは、その癌の治療への抵抗性につながる。このような癌の治療は、特に、本明細書に記載されるMAPK/ERK経路阻害剤と負に帯電したグリコサミノグリカンとの併用投与から恩恵を受ける可能性がある。
【0084】
当業者は、MAPK/ERK経路の阻害剤に抵抗性があり、かつ/又はMAPK/ERK経路の阻害剤に対する抵抗性を発現する高まったリスクにある癌性細胞又は癌を特定する方法を知っているであろう。このような特定は、好ましくは2つの側面を伴う。第1の側面では、その癌性細胞が、健常な(非癌性の)細胞と比較してMAPK/ERK経路の異常な、例えば、高まった活性を示すか否かが判定される。この経路の異常な活性は、例えばMAPK/ERK経路の鍵となるメンバー、例えばRAS、MEK又はRaf遺伝子の過剰発現及び/又は変異から推定することができる。MAPK/ERK経路の異常な活性を示すタイプの癌については、上記経路の特異的阻害剤は有望な治療標的であると予想されうる。しかしながら、上述にように、エスケープ経路は、単独のMAPK/ERK経路阻害剤療法に対する抵抗性につながりうる。それゆえ、第2の側面では、その癌又は癌性細胞が、MAPK/ERK経路の阻害剤、特にMEK阻害剤及び/又はRaf阻害剤に抵抗性があり、又はMAPK/ERK経路の阻害剤、特にMEK阻害剤及び/又はRaf阻害剤に対する抵抗性を発現するリスクにあるか否かが特定される。
【0085】
この目的のために、当業者は、好適なインビトロ及び/又はインビボでのアッセイを認識している。例えば、インビトロアッセイは、MEK阻害剤の癌性細胞への施用、及びその後の、好適な対照と比較した細胞周期及び/又は細胞増殖に対する効果のモニタリングを含んでもよい。このようなインビトロアッセイは、直接の下流標的に対する予想される効果をモニタリングすることにより、MAPK/ERK経路阻害剤が施用された用量で機能しているか否かを評価するための対照アッセイをさらに含んでもよい。例えば、強力なMEK阻害剤の場合、下流のERKのリン酸化は、低下すると予想される。にもかかわらず、癌性細胞の細胞増殖及び/又は細胞周期が損なわれない場合、並行するシグナル伝達経路は、抵抗性の発現において活性化されている可能性が高い。それゆえ、インビトロアッセイは、MAPK/ERK経路阻害剤が細胞増殖を支える代替のシグナル伝達経路を活性化するかをモニタリングすることも含んでよい。例えば、Erbファミリータンパク質シグナル伝達の上方制御が、MAPK/ERK経路阻害に対する抵抗性の発現において観察されている。それゆえ、MAPK/ERK経路阻害剤に応答した癌性細胞におけるErbファミリータンパク質シグナル伝達の上昇は、抵抗性の発現も示唆しうる。さらには、当業者は、MAPK/ERK経路阻害剤の投与に応答した好適なモデル生物における腫瘍成長のモニタリングを含む、抵抗性又は抵抗性の発現をモニタリングするためのインビボアッセイも知っている。さらに、当業者は、例えばMcCubreyら、2007、Rosenら、2013及びPoulikakos P.I.ら、2011に開示されたような、特定の癌種におけるMAPK/ERK経路阻害剤に対する抵抗性の発現を報告する文献又は臨床データに拠ってもよい。
【0086】
MAPK/ERK経路阻害剤に対する癌性細胞の抵抗性は、1以上のErbBファミリータンパク質、例えばEGFR又はErbB3の存在又は活性の上昇を示す癌性細胞において特に観察される。
【0087】
加えて、特定のシグナル伝達経路に関与する酵素をコードするmRNAの検出及び/又は定量が、健常な(非癌性の)細胞と比較してMAPK/ERK経路の異常な、例えば高まった活性を癌性細胞が示すか否かを検出するために使用されてもよい。好適な酵素、経路のメンバー、mRNA配列及び特定のプライマーの選択は、過度の労力なしに当業者によって選択されうる。
【0088】
それゆえ、1つの実施形態では、本発明は、癌が、細胞表面の1以上のErbBファミリータンパク質の存在を示す癌性細胞を含む、本明細書に記載される併用投与において医薬として使用するためのグリコサミノグリカンに関する。それゆえ、MAPK/ERKシグナル伝達経路の阻害剤と一緒の、負に帯電したグリコサミノグリカンの併用投与は、ErbBファミリータンパク質の基礎レベルの上昇を示すか、又はMAPK/ERK経路阻害剤治療に応答してErbBファミリータンパク質のシグナル伝達レベルの上昇を発現する癌性細胞に対して特に有益である。
【0089】
それゆえ、1つの実施形態では、本発明は、癌が、適切な(非癌性の)対照細胞と比べて、1以上のErbBファミリータンパク質の上昇した発現(上方制御)及び/又は上昇したErbBシグナル伝達を示す癌性細胞を含む、本明細書に記載される併用投与において医薬として使用するためのグリコサミノグリカンに関する。
【0090】
好ましい実施形態では、上方制御されるErbBファミリータンパク質はHer1(EGFR、ErbB1)、Her2(Neu、ErbB2)、Her3(ErbB3)、又はHer4(ErbB4)であり、最も好ましくは、上方制御されるErbBファミリータンパク質はHer3(ErbB3)である。
【0091】
負に帯電したグリコサミノグリカンは血小板との細胞表面接触を直接阻害するため、好ましい実施形態では、本発明は、腫瘍組織に近接した領域への上記負に帯電したグリコサミノグリカンの局所投与に関する。
【0092】
腫瘍組織に近接した領域への負に帯電したグリコサミノグリカンの局所投与は、低下した全身性毒性で有効な抗増殖効果を維持するより低い用量の負に帯電したグリコサミノグリカンが投与されることを可能にする。本発明の意味において、局所投与は、例えば注射、経粘膜又は経皮の手法による腫瘍組織から好ましくは10cm以内、5cm以内、若しくは好ましくは1cm以内の領域への投与、又は腫瘍自体の内部への送達に関する。
【0093】
それゆえ、局所投与の方法は、静脈内(静脈への)、動脈内(動脈への)、骨内注入(骨髄への)、筋肉内、脳内(脳実質への)、脳室内(脳室系への)、髄腔内(脊柱管への注射)又は皮下(皮膚の下への)投与等の非経口投与に関連してもよい。
【0094】
当該併用治療では、MAPK/ERK経路阻害剤の投与は、好ましくはグリコサミノグリカンについての経路と同一の経路を使用して、局所的であることができるが、グリコサミノグリカンが局所的に投与される場合であっても、MAPK/ERK経路阻害剤の投与は、全身的であってもよい。
【0095】
1つの実施形態では、局所投与は、腫瘍に血液を供給することを担う動脈への動脈内投与に関する。このようなアプローチは、腫瘍が発生した場合であっても、特定の器官又は組織が患者から取り除けないかもしれない場合に、特に関係する。動脈内投与によるこの領域における局所投与は、これにより、血小板と分裂細胞の細胞表面との間の相互作用を崩壊させ、これにより有用な治療効果をもたらすという独特の方法を提供する。
【0096】
さらなる態様では、本発明は、負に帯電したグリコサミノグリカン及び薬学的に許容できる担体と、MAPK/ERK経路阻害剤及び薬学的に許容できる担体との併用投与を含む癌の治療のための医薬組成物に関する。
【0097】
上記負に帯電したグリコサミノグリカン及びMAPK/ERK経路阻害剤は、同じ薬学的に許容できる担体を使用する単一の医薬組成物で一緒に投与されてもよい。しかしながら、この負に帯電したグリコサミノグリカン及びMAPK/ERK経路阻害剤は、別個の医薬組成物及び異なる医薬担体において逐次的に投与されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【
図1】癌性細胞におけるMEK阻害剤抵抗性につながる成長因子依存的なエスケープ機構の概略図。
【
図2】癌性細胞におけるMEK阻害剤抵抗性の発現を防止するための負に帯電したグリコサミノグリカンの追加の投与の恩恵の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0099】
特許文献及び非特許文献のすべての引用した文献は、参照によりその全体を援用したものとする。
【0100】
本発明は、負に帯電したグリコサミノグリカン及びMAPK/ERK経路の阻害剤の併用投与による、癌性疾患(1種又は複数種)に罹患した対象の治療に関する。
【0101】
用語「対象」は、ヒト及び動物対象の両方を含む。用語「治療」又は「処置」は、疾患若しくは病態の徴候又は症候が発生し始めたあとに、その疾患若しくは病態の徴候又は症候を改善する治療的介入を指す。本明細書で使用する場合、疾患又は病態に関して用語「改善すること」は、治療の何らかの認められる有益な効果を指す。この有益な効果は、例えば、感受性対象における疾患の臨床症状の発症の遅れ、疾患のいくつか若しくはすべての臨床症状の重症度の低減、疾患のより緩慢な進行、その対象の全体的な健康若しくは幸福の状態の改善によって、又は特定の疾患に特異的である当該技術分野で周知の他のパラメータによって裏付けることができる。
【0102】
本発明は、対象の治療及び予防的処置の両方を包含する。「予防的」処置は、疾患の徴候を示していないか、又は初期徴候のみを示している対象に、病態を発症するリスクを低下させる目的で投与される処置である。いくつかの実施形態では、本発明は、それゆえ、MAPK/ERK経路の阻害剤に対する癌の抵抗性の阻止又は予防に関する。
【0103】
本明細書中で用いられる場合の用語「組み合わせて」、「併用投与」、「組み合わせて投与される」等は、同じ疾患又は状態の治療において、選択された単一の患者に対して複数の治療薬を投与することであって、これらの薬剤を同じ経路若しくは異なる経路を使用して、又は同時に若しくは異なる時に投与することを包含することが意図されている。従って、負に帯電したグリコサミノグリカン及びMAPK/ERK経路の阻害剤の併用投与は、両方(又はすべて)の活性薬剤が一定時間にわたって同時にそれらの生物活性を奏するように、別々の処方物若しくは単一の医薬処方物で、又はいずれかの順序による連続投与で投与される2以上の活性薬剤の使用と理解されるべきである。このグリコサミノグリカン及びMAPK/ERK経路の阻害剤は、組み合わせて同時に同じ頻度で投与される必要はなく、同じ投与経路によって投与される必要もない。いくつかの実施形態では、上記グリコサミノグリカン及びMAPK/ERK経路の阻害剤は、互いの約60分以内、30分以内、15分以内、10分以内、5分以内又は1分以内に逐次的に投与される。いくつかの実施形態では、上記グリコサミノグリカン及びMAPK/ERK経路の阻害剤は、互いの約1時間以内、5時間以内、1日以内、1週間以内又は1ヶ月以内に逐次的に投与される。進行中の治療の治療レジメン、及び複数の投与イベントを包含することが意図されている。
【0104】
本発明は、負に帯電したグリコサミノグリカンと、MAPK/ERK経路の阻害剤とを含む医薬組成物にも関する。あるいは、本発明は、別々に、負に帯電したグリコサミノグリカンと、MAPK/ERK経路の阻害剤とを含む複数の医薬組成物の採用にも関する。この医薬組成物は、好ましくは、1以上の薬学的に許容できる担体を含む。本明細書で使用する場合、「薬学的に許容できる担体」は、当業者に公知の種々の担体のいずれかを意味する。いくつかの常法として使用される医薬担体を採用する以下の送達システムは、本発明の組成物を投与するために想定される多くの実施形態の代表例にすぎない。
【0105】
注射による薬物送達システムとしては、溶液、懸濁液、ゲル、ミクロスフェア及びポリマー注射剤が挙げられ、これは、溶解性調整剤(例えば、エタノール、プロピレングリコール及びスクロース)及びポリマー(例えば、ポリカプロラクトン及びPLGA)等の賦形剤を含むことができる。埋め込み型のシステムとしては、ロッド及びディスクが挙げられ、これらは、PLGA及びポリカプロラクトン等の賦形剤を含有することができる。
【0106】
経口送達システムとしては、錠剤及びカプセルが挙げられる。これらは、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、他のセルロース由来の材料及びデンプン)、希釈剤(例えば、ラクトース(乳糖)及び他の糖、デンプン、リン酸二カルシウム及びセルロース由来の材料)、崩壊剤(例えば、デンプンポリマー及びセルロース由来の材料)並びに潤滑剤(例えば、ステアリン酸塩及びタルク)等の賦形剤を含有することができる。
【0107】
経粘膜送達システムとしては、パッチ、錠剤、座薬、ペッサリー、ゲル及びクリームが挙げられ、これらは、可溶化剤及び促進剤(例えば、プロピレングリコール、胆汁酸塩及びアミノ酸)、並びに他のビヒクル(媒質)(例えば、ポリエチレングリコール、脂肪酸エステル及び誘導体、並びにヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒアルロン酸等の親水性ポリマー)等の賦形剤を含有することができる。
【0108】
経皮送達システムとしては、例えば、水性ゲル及び非水性ゲル、クリーム、多相エマルション、マイクロエマルション、リポソーム、軟膏、水溶液及び非水溶液、ローション剤、エアロゾル、炭化水素基剤(hydrocarbon bases)及び粉末が挙げられ、これらは、可溶化剤、透過促進剤(例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪アルコール及びアミノ酸)、及び親水性ポリマー(例えば、ポリカルボニル及びポリビニルピロリドン)等の賦形剤を含有することができる。1つの実施形態では、上記薬学的に許容できる担体は、リポソーム又は経皮促進剤である。
【0109】
再構成可能送達システム用の溶液、懸濁液及び粉末は、懸濁剤(例えば、ガム、キサンタン(zanthan)、セルロース由来の及び糖類)等のビヒクル、湿潤剤(例えば、ソルビトール)、可溶化剤(例えば、エタノール、水、PEG及びプロピレングリコール)、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、Spans、Tweens、及びセチルピリジン)、防腐剤及び抗酸化物質(例えば、パラベン、ビタミンE及びビタミンC、並びにアスコルビン酸)、アンチケーキング剤(固化防止剤)、コーティング剤、並びにキレート剤(例えば、EDTA)を含む。
【0110】
それゆえ、本発明は、グリコサミノグリカン及び/又はMAPK/ERK経路の阻害剤を、対象に経口送達する方法であって、その対象に薬学的有効量の上記の医薬組成物を投与する工程を備える方法を提供する。
【0111】
本発明の医薬組成物(1又は複数種)は、治療上有効な用量で患者に投与され、治療上有効な用量は、所望の効果、つまり、治療されている状態若しくは兆候の重症度又は広がりを予防するか又は和らげることを、耐え難い有害な副作用を生じる用量に到達することなくもたらすのに十分である用量を意味する。正確な用量は、例えば兆候、配合物及び投与方法等の多くの要因に依存し、各それぞれの兆候についての前臨床試験及び臨床試験で決定される必要がある。
【0112】
体重1キログラムあたり、1日あたりおよそ0.01mg~約500mgの負に帯電したグリコサミノグリカン及びおよそ0.01mg~約500mgのMAPK/ERK経路の阻害剤という投薬量レベルは、上で特定された状態の治療において有用である。例えば、癌性疾患は、体重1キログラムあたり、1日あたり約0.01~100mgの上記の各化合物(患者あたり、1日あたり約0.5mg~約3.5g)の併用投与によって有効に治療されうる。単一剤形を製造するために担体材料と組み合わされてもよい活性成分の量は、治療される宿主及び特定の投与方法に応じて変動することになる。例えば、ヒトにおける経口投与を意図した処方は、全組成物の約1~約95%で変動してもよい。投薬単位形態は、一般に、約1mg~約500mgの活性成分を含有することになろう。しかしながら、いずれの特定の患者に対しても、具体的な用量レベルは、用いられる具体的な化合物の活性、年齢、体重、全般的な健康状態、性別、投与に関連する食事時間(diet time of administration)、投与経路、排泄の速度、薬物の組み合わせ及び治療を受けている特定の疾患の重症度を含めた様々な要因に依存することになるということを理解されたい。本発明に係る化合物の投薬有効量は、特定の化合物、毒性、及び阻害活性、治療される状態、及び化合物が単独で投与されるか又は他の療法とともに投与されるかを含めた要因に応じて変動することになる。通常、上記負に帯電したグリコサミノグリカンについての投薬有効量は、約0.0001mg/kg~1500mg/kg、より好ましくは1~1000mg/kg、より好ましくは約1~150mg/kg体重、最も好ましくは約10~100mg/kg体重の量のMAPK/ERK経路の阻害剤の投薬量と組み合わせて投与される場合、約0.0001mg/kg~1500mg/kg、より好ましくは1~1000mg/kg、より好ましくは約1~150mg/kg体重、最も好ましくは約10~100mg/kg体重の範囲にあることになろう。
【0113】
PPS投与で行われる動物モデルは、例えばSchwartzら、1999にあるように、通常、増進された同種移植生存のための治療の間、10~30mg/kg体重のPPSを使用してきた。
【0114】
用語「約」は、本明細書では、およそ、…の領域の、概略的に、又は…あたり、を意味するために使用される。用語「約」が数値範囲と併せて使用される場合、この「約」は、示された数値超及び示された数値未満に境界を広げることによりその範囲を改変する。一般に、用語「約」は、数値を、記載された値の10%超及び記載された値の10%未満で改変するために本明細書で使用される。
【0115】
本明細書で使用する場合、用語「comprises(…を含む)」は、「includes,but is not limited to(…を含むが、これらに限定されない)」を意味する。
【0116】
本発明に関連して、用語「細胞成長」及び「増殖」がともに使用され、これらは互換的に使用されてもよい。医学では、とりわけ腫瘍学では、細胞成長との用語は、(例えば腫瘍成長に起因する)細胞数の増加に関して使用されることが多い。腫瘍成長は、腫瘍細胞の増殖の高まりによって引き起こされる。規模による細胞成長及び単独の細胞の体積の増加もこの定義に包含される。好ましい実施形態では、本発明は、細胞増殖の、特に癌性細胞の調節に関する。細胞成長又は細胞増殖は、細胞の遊走(場所の変化)に関する腫瘍細胞の転移とは区別することができる。転移及び増殖は、腫瘍の異なる態様を表し、異なる臨床兆候とみなすことができる。
【0117】
本発明によれば、本明細書で使用する場合の「癌」又は「増殖性障害」は、悪性に変化した内在細胞の制御されない成長及び/又は広がりを特徴とする増殖性の疾患又は障害の群である。
【0118】
本明細書で使用する場合の癌は、外胚葉組織から起こる細胞癌、すなわち皮膚、乳房、神経系の癌、中胚葉組織から起こる細胞癌、すなわち骨、軟骨、筋肉、腎臓の癌、リンパ腫又は白血病、胚細胞腫瘍、及び内胚葉組織から起こる細胞癌、すなわち肝臓、膵臓、甲状腺、肺、胃、腸及び膀胱の癌等の、発症した組織の成長制御機構における変質によって引き起こされる、あらゆる与えられた細胞癌に関してもよい。
【0119】
癌の例としては、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、急性リンパ球性白血病、多発性骨髄腫、神経芽細胞腫、乳癌、卵巣癌、肺癌、ウィルムス腫瘍、精巣癌、軟部組織肉腫、膀胱癌、慢性顆粒球性白血病、原発性脳癌、悪性黒色腫、小細胞肺癌、胃癌、結腸癌、骨原性肉腫、膵癌、急性顆粒球性白血病、ヘアリー細胞白血病、神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、カポジ肉腫、泌尿生殖器癌、甲状腺癌、食道癌、腎細胞癌、子宮内膜癌、本態性血小板増加症、副腎皮質癌、皮膚癌、及び前立腺癌が挙げられるが、これらに限定されない。さらには、例えば、良性前立腺過形成、家族性大腸腺腫症(familial adenomatosis polyposis:FAP)、乾癬、アテローム性動脈硬化症関連の血管平滑筋細胞増殖、肺線維症、高ケロイド症(hyperkeloidosis)、糸球体腎炎並びに手術後の狭窄及び再狭窄等の、特定の細胞増殖障害が、本発明によって包含される。
【0120】
本明細書に提示される場合の用語「癌性細胞」は、上で特定された状態のうちのいずれか1つに罹患している細胞を含む。
【0121】
望まれない細胞増殖に関連する他の障害は、自己免疫疾患に関連するが、これらに限定されない。それゆえ、本発明は、さらに、(1)負に帯電したグリコサミノグリカンであって、このグリコサミノグリカンは、ヘパリンの末端五糖の不存在を特徴とする負に帯電したグリコサミノグリカン、及び(2)MAPK/ERK経路の阻害剤の併用投与を含む自己免疫疾患等の望まれない細胞増殖に関連する疾患の治療における医薬として使用するための負に帯電したグリコサミノグリカンに関する。
【0122】
多くの疾患の病変形成は細胞成長と関連する。一例として、望まれない免疫応答は、1つのこのような疾患である。免疫応答は、原因因子に対するさらなる免疫細胞又は抗体を産生するために、免疫系による1又はいくつかの関与する細胞クローンの増殖につながる。望まれない又は発症状態の免疫応答の場合には、免疫系のエフェクター細胞、又は免疫系によって産生される抗体が、身体自身の組織に向けられ、自己免疫につながる可能性がある。これらの免疫反応は、顕著な組織の損傷につながる。この損傷は、自己免疫疾患の疾患症候を引き起こす。
【0123】
本発明によれば、「自己免疫障害」又は「自己免疫疾患」は、本明細書で使用する場合、個体自身の組織に対する、体液性若しくは細胞性のいずれか又はそれらの両方の病態的な免疫応答及びそれに由来する状態から生じる疾患又は障害の群である。
【0124】
自己免疫疾患又は自己免疫障害の例としては、リウマチ熱、関節リウマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、及び強直性脊椎炎、シェーグレン症候群、スティーブンス・ジョンソン症候群等の急性及び慢性のリウマチ様疾患、じん麻疹、皮膚筋炎、中毒性表皮壊死症、強皮症等の皮膚の急性及び慢性の自己免疫疾患、多発性硬化症、壊疽性膿皮症、結節性紅斑、全身性エリテマトーデス(SLE)、喘息等のアレルギー状態、並びに潰瘍性結腸炎、クローン病等の自己免疫性の胃腸及び内分泌の障害、糖尿病、橋本甲状腺炎、自己免疫性の拡張型心筋症類似型心筋炎、閉塞性血栓性血管炎等の自己免疫性血管炎、並びに筋炎、自己免疫性貧血及び骨髄癆の自己免疫型、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、並びに急性及び慢性の糸球体腎炎等の腎臓の自己免疫疾患が挙げられるが、これらに限定されない。
【0125】
本発明は、上述の病態の治療のためのプロセス又は方法にも関する。本発明の化合物は、そのような治療を必要としている温血動物、例えばヒトに、好ましくは上述の障害に対して有効である量で、予防的に又は治療的に投与されることが可能であり、当該化合物は、好ましくは医薬組成物の形態で使用される。
【0126】
用語「血小板(栓球)と癌性細胞との物理的相互作用」は、上記血小板及び静止細胞が一緒にインビトロに存在するときに偶然に起こると思われる頻度又は強度よりも大きい頻度又は強度の血小板と上記癌性細胞の細胞表面との任意の与えられた物理的相互作用又は結合に関する。好ましい実施形態では、上記相互作用は、国際公開第2015/059177A1号パンフレットに記載される方法、例えば共培養又はインキュベーション、洗浄(好ましくは2~4回)及びその後の固定及び同定を実施することにより、定義し、調べることができる。本明細書に記載されるように、負に帯電したグリコサミノグリカンの投与により、血小板と癌性細胞との物理的相互作用を妨げ、及び/又は阻害することが可能になる。
【0127】
用語「グリコサミノグリカン」は、本明細書で使用する場合、好ましくはアミノヘキソース単位を含むオリゴ糖又は多糖を指す。用語「負に帯電したグリコサミノグリカン」は、好ましくは、先行技術と同様に、アニオン性であり中性のpH値で負電荷を示すグリコサミノグリカンを指して使用される。硫酸化グリコサミノグリカンは、負に帯電したグリコサミノグリカンの特に好ましい群である。硫酸化グリコサミノグリカンとしては、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ペントサンポリ硫酸(PPS)及びデキストランポリ硫酸(DXS)が挙げられるが、これらに限定されない。負に帯電している未硫酸化グリコサミノグリカンとしては、ヒアルロン酸が挙げられるが、これに限定されない。
【0128】
用語「ヘパリンの末端五糖の不存在を特徴とする負に帯電したグリコサミノグリカン」は、好ましくはGlcNAc/NS(6S)-GlcA-GlcNS(3S,6S)-ldoA(2S)-GlcNS(6S)を欠く負に帯電したグリコサミノグリカンを指す。「ヘパリンの末端五糖の不存在を特徴とする負に帯電したグリコサミノグリカン」の例としては、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヒアルロン酸、ペントサンポリ硫酸(PPS)及びデキストランポリ硫酸(DXS)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0129】
用語「ヘパリン」は、未分画ヘパリン及びより低い分子量を有するヘパリンを含む。1つの実施形態では、本発明に従って使用されるヘパリンは、約8kDa~約30kDa、好ましくは約10kDa~約20kDa、最も好ましくは約12kDa~約16kDa、例えば約15kDaの平均分子量を有していてもよい「未分画ヘパリン」(UFH)である。
【0130】
用語「ヘパリン」は、天然に存在するヘパリンから切断及び単離によって誘導されたものであれ、合成経路によって誘導されたものであれ、ヘパリン分子の低分子量断片も包含する。
【0131】
本明細書に記載されるように、低分子量ヘパリン(LMWH)との用語は、好ましくは、8000Da未満の平均分子量を有し、すべての鎖のうちの少なくとも60%が8000Da未満の分子量を有するヘパリン又はヘパリン塩を指す。低分子量ヘパリンは、当該技術分野で一般に受け入れられている用語であり、当業者には、さらなる明確化は必要ではない。LMWHは、UFHほど頻繁に血小板減少症を引き起こさない。LMWHの血小板に結合する能力は、実質的に低下している。
【0132】
好ましくは、本発明に従って使用されるLMWHの分子量は、約2kDa~約8kDa、より好ましくは約3kDa~約6kDa、最も好ましくは約4kDa~約5kDa、例えば約4.5kDaである。LMWHは、高分子ヘパリンの分画又は解重合の種々の方法によって得ることができる。
【0133】
LMWHの例としては、アルデパリン(ノルミフロ(Normiflo))、セルトパリン(サンドパリン(Sandoparin))、エノキサパリン(ラブノックス(Lovenox)及びクレキサン(Clexane))、パルナパリン(フルクサム(Fluxum))、チンザパリン(イノヘップ(Innohep)及びロギパリン(Logiparin))、ダルテパリン(フラグミン(Fragmin))、レビパリン(クリバリン(Clivarin))及びナドロパリン(フラキシパリン(Fraxiparin))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0134】
本明細書で使用する場合、用語「硫酸化度」は、単糖単位あたりの硫酸基(-OSO3)の数を指す。硫酸化度は、二糖単位あたりの硫酸基(-OSO3)の数として他の文献ソースで与えられることがあるが、本発明の定義は、単糖単位あたりの硫酸基の数に関する。いくつかのGAGは、二糖ポリマーとして存在しないが、単糖ポリマーとしては存在する。一貫した硫酸化度の測定値を提供するために、単糖単位あたりの硫酸化度が使用され、二糖単位についての硫酸化度は、対応して調整される。
【0135】
任意の与えられた多糖又はGAGの硫酸化は、米国特許出願公開第20050119469A1号明細書に記載される糖硫酸化方法に従って改変されてもよく、この文献は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0136】
硫酸化度は、Zaiaら、(BioMed Research International、第2014巻(2014)、論文ID 986594)に開示される方法、又は質量分光分析法を使用する他の関連方法等の当業者に公知の技術により決定されてよい。
【0137】
ヘパリンは、ヘパラン硫酸の(0.3~0.7)硫酸基/単糖と比べて、より高い硫酸化度(1~3硫酸基/単糖、好ましくは1.5又は2)を示す。
【0138】
【0139】
表1中の硫酸化度は、各GAGの単糖単位の中の硫酸基の平均数である。示されているGAGは二糖GAGであるが、硫酸化度は、単糖GAGに対して調整されている。略語は、以下のとおりである:GlcNAc、N-アセチル-α-D-グルコサミン;GalNAc、N-アセチル-β-D-ガラクトサミン;GlcNS、N-スルホ-α-D-グルコサミン;GlcA、β-D-グルクロン酸;α-L-IdoA イズロン酸;及びS、スルホ。
【0140】
例えば、オーソ・マクニール・ファーマスーティカル(Ortho-McNeil Pharmaceutical)によりエルミロン(Elmiron)の名称で販売されるペントサンポリ硫酸(PPS)は、米国食品医薬品局(U.S.Food and Drug Administration:FDA)によって、疼痛性膀胱症候群としても知られる間質性膀胱炎(interstitial cystitis:IC)の治療について承認された経口薬物であり、ベン・ファーマ(bene Pharma)によって、Fibrezym(登録商標)及びPentosanpolysulfat SP54(登録商標)の名称でも販売されている。獣医学分野では、ペントサンポリ硫酸は、バイオファーム・オーストラリア(Biopharm Australia)によりカートロフェン・ベット(Cartrophen Vet)の名称で販売されている。PPSは、ネイチャーベット・エキン(Naturevet Equine)およびアースロペン(Arthropen)の名称でも販売されている。PPSの抗凝血活性は、ヘパリンの抗凝血活性の1/15である。PPSは、高い程度で硫酸化されている半合成の多糖であり、ヘパリンよりも高い負電荷密度および硫酸化度を有する。他のグリコサミノグリカンと同様に、PPSの構造的および化学的な特性は、この薬物の内皮への結合を促進する。PPSは典型的に、グルコシル残基当り1.5硫酸基よりも高い硫酸化度を示す。
【0141】
デキストラン硫酸(DXS)は、クロロスルホン酸によるデキストランのエステル化によって生成されるデキストランのポリアニオン誘導体である。DXSはd-グルコースの分岐鎖多糖ポリマーであり、透水性であり、かつ粘着性のゼラチン質の材料を形成する。硫黄含有量はおよそ17%であり、これはデキストラン分子のグルコシル残基当り平均1.9硫酸基に相当する。
【0142】
本明細書で使用する場合、用語「抗凝血薬」は、直接的又は間接的に、血液の凝固を防止する能力又は血餅を溶解する能力を有するあらゆる化合物を意味することが意図されている。好ましい実施形態では、本発明は、抗凝血活性を実質的に欠くグリコサミノグリカンに関する。抗凝血活性を実質的に欠くことは、好ましくは、アンチトロンビンIII及び/又は第Xa因子に対して低下した活性を示す、例えば50IU/mg未満のアンチトロンビンIII活性及び/又は50IU/mg未満の抗Xa活性を有する化合物を指す。
【0143】
本明細書で使用する場合、用語「阻害剤」は、酵素の活性をブロックするか又は低下させる化合物を記述することを意図されている。阻害剤は、競合的阻害で、不競合阻害で、又は非競合的阻害で作用することができる。阻害剤は可逆的に又は不可逆的に結合することができ、それゆえ、この用語は、酵素の自殺基質である化合物を包含する。阻害剤は、酵素の活性部位上又は酵素の活性部位近傍の1以上の部位を修飾することができ、又は阻害剤は、酵素上の別のところで立体構造変化を引き起こすことができる。本明細書で使用する場合、阻害剤は、ポリペプチド、核酸、炭水化物、脂質、低分子量化合物、オリゴヌクレオチド、オリゴペプチド、siRNA、アンチセンス、組換えタンパク質、抗体、ペプチボディ、又はこれらの結合体若しくは融合タンパク質であってもよい。siRNAの総説については、Milhavet O.ら、2003を参照のこと。アンチセンスの総説については、Opalinska JBら、2003を参照のこと。
【0144】
低分子量化合物は、2000ダルトン未満、1000ダルトン未満、700ダルトン未満又は500ダルトン未満の分子量を持つ化合物を指す。
【0145】
「MAPK/ERK経路の阻害剤」は、好ましくは、MAPK/ERK経路に関与する酵素のうちのいずれかのものの野生型又は何らかの変異型の生物活性に対する阻害剤を指す。本明細書で使用する場合、用語「MAPK/ERK経路」又は「MAPK/ERKシグナル伝達経路」は、MAPK、MEK及びERKマイトジェン活性化キナーゼを伴い、細胞内応答を細胞表面受容体への成長因子の結合に結び付けるシグナル伝達経路を指す。MAPK/ERK経路シグナル伝達経路という用語は、多くのタンパク質成分及びこのシグナル伝達経路の一部分であるキナーゼカスケード、並びにこの経路によって制御される種々の標的を包含する。
【0146】
MAPK/ERK経路は、文献では、Raf-MEK-ERK経路又はRas-Raf-MEK-ERK経路とも呼ばれる。MAPK/ERKシグナル伝達経路に関与する酵素の総説については、例えばMcCubrey J.A.ら、2007を参照のこと。
【0147】
MAPK/ERK経路の阻害剤としては、RTK阻害剤、Ras阻害剤、MEK阻害剤、Raf阻害剤及び/又はERK阻害剤が挙げられてよいがこれらに限定されない。
【0148】
本明細書で使用する場合、「MEK」は、好ましくは、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)をリン酸化するキナーゼ酵素であるマイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MAP2K、MAPKKとしても知られる)を指す。MEKのIUBMB酵素命名法はEC 2.7.12.2である。MAP2K1(MEK1)、MAP2K2(MEK2)、MAP2K3(MKK3)、MAP2K4(MKK4)、MAP2K5(MKK5)、MAP2K6(MKK6)、MAP2K7(MKK7)を含めたMEKの7つのサブタイプがある。最も好ましくは、本明細書で使用する場合、MEKはMEK1又はMEK2である。
【0149】
本明細書で使用する場合の用語「MEK阻害剤」は、好ましくは、以下に記載されるMEK酵素阻害アッセイによって測定可能な、約100μM以下又は約50μM以下のMEK活性に関するIC50を示す化合物を指す。「IC50」は、酵素(例えば、MEK)の活性を最大半量レベルまで低下させる阻害剤の濃度を指す。
【0150】
MEK阻害剤の例としては、AZD8330(ARRY-424704)、レファメチニブ(BAY 86-9766、RDEA119)、コビメチニブ(GDC-0973、XL-518、RG7421);E6201;ビニメチニブ(MEK162、ARRY-162);PD0325901;ピマセルチブ(AS703026、MSC1936369B);RO4987655(CH4987655)、RO5126766(CH5126766)、セルメチニブ(AZD6244、ARRY-142,886)、トラメチニブ(GSK1120212)、GDC-0623、PD035901、PD184352(CI-1040)、WX-554、U0126-EtOH、PD98059、BIX 02189、BIX 02188、PD318088、ホノキオール、SL-327、GDC-0623、APS-2-79 HCl、コビメチニブ、XL518、PD325901、TAK-733、RO5126766又はHL-085が挙げられる。
【0151】
しかしながら、MEK阻害剤の上記一覧は網羅的なものではなく、当業者は、化合物がMEK阻害剤であるか否かを、化合物のIC50を決定するための公知のMEK酵素阻害アッセイによって判定してもよい。1つのそのようなアッセイは、例えば米国特許第9,034,861B2号明細書に記載されており、この文献の内容は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0152】
MEK酵素阻害アッセイ:
材料及び試薬の調製:精製した組換え全長ヒトGST-MEK1をセル・シグナリングテクノロジー社(Cell Signaling Technology,Inc)(ビバリー(Beverly)、マサチューセッツ州、米国)から購入する。MAPキナーゼ基質Erk1/Erk2ペプチドを、エンゾ・ライフ・サイエンシーズ(Enzo Life Sciences)(プリマスミーティング(Plymouth Meeting)、ペンシルベニア州、米国)から購入する。
【0153】
酵素活性の決定:化合物を、ジメチルスルホキシド(DMSO)中で1mM~1.37μMの濃度の範囲に3倍希釈する。通常の20マイクロタイターアッセイは、5mM MOPS、pH7.2、2.5mM β-グリセロリン酸、1mM EGTA、0.4mM EDTA、5mM MgCl2、0.05mM DTTを含有する1×アッセイ緩衝液中、80ng MEK1、4μg Erk1/Erk2ペプチド、100μM又は1mM ATP、1μM~1.37nMの試験化合物を含有していた。酵素反応を、室温で90分間インキュベーションする。キナーゼ反応の最後で、20μLのADP-Glo試薬(プロメガ(Promega)、マディソン(Madison)、ウィスコンシン州、米国)を添加し、室温で40分間インキュベーションする。40μLのキナーゼ検出試薬(プロメガ(Promega))を添加し、室温で1時間インキュベーションする。化学発光を読み取り、IC50を、SoftMaxソフトウェアを使用して算出する。
【0154】
本明細書で使用する場合、「Raf」は、セリン/トレオニン特異的タンパク質キナーゼのファミリーであるRafキナーゼを指し、これには、A-Raf、B-Raf又はc-Raf(Raf1)が含まれる。
【0155】
本明細書で使用する場合の用語「Raf阻害剤」又は「Rafキナーゼ阻害剤」は、後述するようにRafタンパク質キナーゼ阻害剤についてのIC50値を決定するためのアッセイによって測定可能な、約100μM以下又は約50μM以下のRaf活性に関するIC50を示す化合物を指す。「IC50」は、酵素(例えば、Raf)の活性を最大半量レベルまで低下させる阻害剤の濃度を指す。
【0156】
Raf阻害剤の例としては、ベムラフェニブ(PLX4032、RG7204)、ソラフェニブトシル酸塩、PLX-4720、ダブラフェニブ(GSK2118436)、GDC-0879、CCT196969、RAF265(CHIR-265)、AZ 628、NVP-BHG712、SB590885、ZM 336372、GW5074、TAK-632、CEP-32496、エンコラフェニブ(LGX818)、RO5126766(CH5126766)、MLN2480、PLX7904、CCT196969及びLY3009120が挙げられる。
【0157】
しかしながら、Raf阻害剤の上記一覧は網羅的なものではなく、当業者は、化合物がRaf阻害剤に該当するか否かを、化合物のIC50を決定するための公知のRafキナーゼアッセイによって判定してもよい。1つのそのようなアッセイは、例えば国際公開第2009/018238A号パンフレットに記載されており、この文献の内容は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0158】
Raf IC50データの一般化:ヒト癌性細胞株におけるRafタンパク質キナーゼ阻害剤、例えばソラフェニブについてのIC50値を決定するための方法は、2004年3月4日出願の、発明の名称「Pyridylfurans and pyrroles as Raf kinase inhibitors(Rafキナーゼ阻害剤としてのピリジルフラン及びピロール)」の米国特許出願第10/488,576号に記載されており、この方法は、参照によりその全体が本明細書に援用される。ヒト二倍体包皮線維芽細胞(Human diploid foreskin fibroblast:HFF)又はヒト結腸癌(Colo 201)細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS)及び抗生物質ペニシリン(100単位/ml)及びストレプトマイシン(100マイクログラム/ml)(インビトロジェン(Invitrogen)/ライフ・テクノロジーズ(Life Technologies))を含有するそのダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(インビトロジェン(Invitrogen)/ライフ・テクノロジーズ(Life Technologies))で成長させる。成長を、加湿された5%CO2インキュベーター内にて、75cmの2つのプラスチックフラスコ中で37℃に維持する。細胞を、0.25%トリプシン/1mMエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)を使用して回収し、増殖培地に再懸濁し、血球計数器を使用して数える。平底96穴プレートに、トリプシン処理した指数関数的に成長する培養物からの200μlの体積で、2×10 3細胞/ウェルで播種する。「ブランク」ウェルに、添加物なしの増殖培地を添加する。細胞は、一晩インキュベーションされ、付着されることになる。
【0159】
24時間後、細胞を含有するウェルからの培地を180マイクロリットルの新しい培地で置き換える。試験化合物の適切な希釈物を、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解したRafタンパク質キナーゼ化合物の原液からそれらのウェルに添加する。すべてのウェルの中の最終のDMSO濃度は0.2%であった。細胞と化合物とを、通常の成長条件下で、37℃でさらに72時間インキュベーションする。次いで、細胞を、標準的なXTT/PMSを使用して生存率についてアッセイする。50マイクロリットルのXTT/PMS溶液を各ウェルに添加し、プレートを37℃で90分間インキュベーションする。次いで、450nMでの吸光度を、96穴UVプレートリーダー(モレキュラー・デバイシーズ(Molecular Devices))を使用して決定する。これらの条件下で、450nmでの未処置の対照細胞の吸光度は、少なくとも1.0光学密度単位/mlである。各ウェル中の細胞のパーセント生存率を(バックグラウンド吸光度を補正した後の)これらのデータから算出する。これは、1000×(A450試験ウェル/A450未処置の対照ウェル)に等しいことになり、この式中、A450は三連の決定値の平均であり、IC50は、濃度対パーセント生存率のプロットから求められる、対照(未処置の)生存率の50%まで細胞生存率を低下させたRafキナーゼ阻害剤化合物の濃度に基づいて決定される。
【0160】
本明細書で使用する場合、用語「受容体チロシンキナーゼ」又は略号「RTK」は、野生型のリガンドに結合することができ、内因性チロシンキナーゼ活性を有することができるあらゆる内在性細胞膜貫通タンパク質を意味することが意図されている。RTKは、細胞外領域、典型的には単一の膜貫通へリックスである膜貫通ドメイン、及び細胞質内又は細胞内領域からなる特徴的な分子構造を有する。細胞外領域は、リガンド結合を受け入れる1以上のドメインから構成されてもよい。このようなドメインとしては、免疫グロブリンドメイン、システインリッチドメイン、ロイシンリッチドメイン、フィブロネクチンタイプIIIドメイン、クリングルドメイン、エフリン結合ドメイン、WIFドメイン、Semaドメイン、Lドメインが挙げられるが、これらに限定されない。細胞質内又は細胞内(本明細書では互換的に使用される)領域は、通常、チロシンキナーゼドメイン(「TKD」と略される)を含み、膜近傍調節領域及び/又はC末端領域をさらに含んでもよい。
【0161】
RTKの24のサブファミリーがヒトにおいて記述されており、それらには、EGF受容体ファミリー(ErbBファミリー)、インスリン受容体ファミリー、PDGF受容体ファミリー、VEGF受容体ファミリー、FGF受容体ファミリー、HGF受容体ファミリー、Trk受容体ファミリー、Eph受容体ファミリー、AXL受容体ファミリー、LTK受容体ファミリー、TIE受容体ファミリー、ROR受容体ファミリー、DDR受容体ファミリー、RET受容体ファミリー、KLG受容体ファミリー、RYK受容体ファミリー及びMuSK受容体ファミリーが含まれる。
【0162】
本明細書で使用する場合、用語「ErbBファミリータンパク質」又は「Erbタンパク質」は、受容体のEGFRファミリーとも呼ばれる受容体のErbBファミリーのメンバーの1つを指す。本明細書で使用する場合、ErbBファミリータンパク質は、1)上皮成長因子受容体(EGFR)としても知られるHER-1;2)erbB2、c-neu、又はp185としても知られるHER-2;3)erbB3としても知られるHER-3;及び4)erbB4としても知られるHER-4を含む受容体チロシンキナーゼの群を指す。
【0163】
好ましい実施形態では、本発明は、癌の治療のためのMAPK/ERK経路の阻害剤と負に帯電したグリコサミノグリカンとの併用投与に関し、癌性細胞は、対照細胞と比較してのErbBファミリータンパク質の存在の増加及び/又はErbBファミリータンパク質介在性シグナル伝達の活性の上昇を特徴とする。
【0164】
当該技術分野で公知のいくつかの方法が、癌性細胞がErbBファミリータンパク質の存在又は活性の上昇を示すか否かを評価するために使用することができる。これは、本発明の目的のためのタンパク質、mRNA、又は酵素活性のレベルの検出を含んでよい。例えば、本明細書に記載される方法のうちのいくつかでは、タンパク質、mRNA、又はErbBファミリータンパク質、例えばEGFR若しくはErb3の活性のレベル、存在又は不存在が、癌性細胞の試料中で決定され、対照(例えば非癌性の)細胞と比較される。
【0165】
いくつかの実施形態では、mRNA(転写物)のレベルは、当該技術分野で公知の方法、例えば、ノーザンブロット、RNA in situハイブリダイゼーション(RNA-ISH)、RNA発現アッセイ、例えば、マイクロアレイ解析、RT-PCR、RNA配列決定(例えば、ランダムプライマー又はオリゴTプライマーを使用する)、大規模シークエンシング、クローニング、ノーザンブロットを使用して、そして転写物を、例えば定量リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)を使用して増幅することにより評価することができる。RNA発現を判定するための分析技法は公知である。例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbor Press、Cold Spring Harbor、NY(2001)を参照のこと。
【0166】
(例えば、注目するタンパク質、例えばErb-ファミリーのタンパク質に特異的に結合する1以上の抗体を使用して)タンパク質の存在を検出するために、当該技術分野で公知のいずれの方法も使用することができる。例えば、試料は、上記タンパク質、例えばErbファミリータンパク質に特異的に結合する1以上の抗体又はその抗原部分と接触させられてもよい。その試料中に存在するタンパク質への1以上の抗体の結合は、当該技術分野で公知の方法を使用して検出することができる。
【0167】
標的タンパク質への抗体の結合の検出方法は、当該技術分野で公知であり、二次抗体の使用を含むことができる。この二次抗体は、一般に、検出可能であるように修飾され、例えば、標識されている。用語「標識され」は、検出可能な物質を二次抗体に結合すること(すなわち、物理的に連結すること)による直接標識、及び検出可能な物質との反応性による多量体抗原の間接的な標識を包含することが意図されている。検出可能な物質の例としては、種々の酵素、補欠分子族、蛍光性物質、発光性物質、生物発光性物質、及び放射性物質が挙げられる。好適な酵素の例としては、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、及びアセチルコリンエステラーゼが挙げられる。好適な補欠分子族複合体の例としては、ストレプトアビジン/ビオチン及びアビジン/ビオチンが挙げられる。好適な蛍光性物質の例としては、ウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、及び量子ドット、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリド、及びフィコエリトリンが挙げられる。発光性物質の例としては、ルミノールが挙げられる。生物発光物質の例としては、緑色蛍光タンパク質及びその変異体、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、及びエクオリンが挙げられる。好適な放射性物質の例としては、125I、131I、35S、又は3Hが挙げられる。このような標識抗体の生成方法は当該技術分野で公知であり、多くは市販されている。
【0168】
試料中に存在するタンパク質を検出するいずれの方法も使用することができ、その例としては、ラジオイムノアッセイ(放射免疫測定法)(RIA)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、ウエスタンブロット法、表面プラスモン共鳴、微少流体デバイス、タンパク質アレイ、タンパク質精製(例えば、アフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィー)、質量分析、二次元電気泳動、又は当該技術分野で公知の他のアッセイが挙げられるが、これらに限定されない。
【0169】
あるいは、アッセイは、注目するタンパク質、例えばErbファミリータンパク質をコードするmRNAに特異的に結合する1以上の核酸プローブを準備する工程と、この核酸プローブを、癌性細胞由来の核酸を含む試料と接触させる工程とを備えることができ、試料中に存在する注目するタンパク質、例えばErbファミリータンパク質をコードする何らかのmRNAへのそのプローブの結合は、検出することができる。
【0170】
以下の図面は、本発明の実際の実行を、本発明の範囲又は本明細書に記載される概念に限定することなく例証することにより、本発明の特定の実施形態を記載するために提示される。
【0171】
図の詳細な説明
図1は、癌性細胞におけるMEK阻害剤抵抗性につながる成長因子依存的なエスケープ機構を図示する。MAPK/ERK経路では、膜に結合したRTKの活性化により、細胞増殖を支える下流の転写因子の活性化につながるRasチロシンキナーゼ連鎖が開始される。このプロセスには、血小板が関与する。セルメチニブ等のMEK阻害剤は、リン酸化を阻害し、これにより細胞増殖も阻害する。しかしながら、セルメチニブで処置された腫瘍又は癌性細胞は、この阻害剤に対する抵抗性を急速に獲得する。この抵抗性は、リン酸化されないERKが別のチロシンキナーゼ連鎖、描かれたMAP3K1経路、を活性化し、この別の連鎖がHERファミリーに属するRTK、例えばERBB3の新規合成につながるということによって引き起こされる可能性が高い。HER RTKは、MAP3K1経路シグナル伝達につながる成長因子によって活性化され、このシグナル伝達によって、細胞が、損なわれたRasシグナル伝達連鎖を迂回することができるようになる。
【0172】
上述のエスケープ機構では、以下の工程で示すことができるように、成長因子の供給における血小板のドッキングが関与している。
1 血小板は、成長委任細胞(growth committed cell)の膜上にある血小板受容体にドッキングし、これにより活性化される。このプロセスの過程で、そのα顆粒の内容物が放出される。
2 これらは、他の物質と合わせて、受容体チロシンキナーゼ(RTK)にドッキングするのにここで利用できる成長因子も含有する。
3 この結果、RTKは、古典的なRas-Raf-MEK-ERK経路(左)においてRasを活性化する。この経路は、細胞増殖における主要なシグナル伝達カスケードであり、活性化カスケードとしてMEKに到達し、このMEKの機能は、ERKリン酸化し活性化することである。癌を治療するための治療的アプローチは、ERKのリン酸化をブロックして、これにより細胞増殖に向かうさらなるシグナル伝達を停止するMEK阻害剤を提供することによりこの経路を妨げる。MEK阻害剤は、腫瘍細胞のアポトーシスを促進してその細胞増殖を防止する有望な抗癌剤として明らかになっている。
4 しかしながら、臨床の状況ではMEK阻害剤に対する抵抗性の発現が認められることが多い。特に、リン酸化されないERKは、MAP3K1ホスホキナーゼを上方制御及び/又は活性化することができる。
5 MAP3K1ホスホキナーゼ依存的な経路(左)は、他の機能と合わせて、他の受容体チロシンキナーゼのためのm-RNA、例えばERBB3等、の核合成も誘導することができる。
6 MAP3K1ホスホキナーゼの活性化を通して、mRNA(ERBB3等)の合成が促進される。
7 ERBB3及び類似の受容体チロシンキナーゼは、活性化した血小板から放出された成長因子との反応後に、代替経路として、細胞増殖を促進するためのMAP3K1依存的な経路を開始する可能性がある。Ras-Raf-MEK-ERK経路を迂回することにより、こうしてこの細胞は、MEK阻害剤に対する抵抗性を発現して、増殖し続けることができる。
【0173】
本明細書に記載されるように、負に帯電したグリコサミノグリカンは、成長委任細胞の細胞表面上に発現された血小板受容体への血小板の付着性を阻害する可能性があり、こうして、MAP3K1の活性化を介するエスケープ経路も阻害する可能性がある。これにより、MEK阻害剤に対する抵抗性は破壊される可能性がある。
【0174】
図2は、負に帯電したグリコサミノグリカンの投与と一緒のMEK-阻害剤治療の組み合わせの効果を図示する。
【0175】
負に帯電したグリコサミノグリカンは、血小板が上記細胞にドッキングすることを防ぎ、従って成長因子の供給を防ぐ。利用できる成長因子が存在しないため、MAP3K1を介する代替のシグナル伝達経路は活性化され得ず、MEK阻害治療に対する抵抗性の獲得は邪魔される。
【0176】
腫瘍成長につながる生物学的プロセスの連鎖におけるRTKの上流で作用する負に帯電したグリコサミノグリカンの併用投与に起因して、こうしてMEK阻害剤は、その抗癌有効性及び抗増殖有効性を保持する。
【0177】
このような併用治療は、転移の治療において特に有用である。死因が癌である患者の90%が、転移が原因で死亡している。これらは、娘腫瘍であり、通常は原発性腫瘍組織以外の他の組織で発生する。転移の始めにおいて、腫瘍が、血液中で循環していようと転移ニッチに留まっていようと、1細胞期にあるとき、又は腫瘍が直径でまだ数ミリメートルよりも小さい場合、負に帯電したグリコサミノグリカンとMEK阻害剤との併用治療は、特に効率的である。それゆえ、この治療は、転移を選択的に予防するための新しい機会も示す。
【実施例】
【0178】
本発明は、以下の実施例によりさらに説明される。これらは、本発明の範囲を限定することを意図されていない。
【0179】
実施例1
この実験は、MEK阻害剤セルメチニブに対する抵抗性を発現した癌性細胞に対して実施する。Littleら、2011に詳細に記載されているように、MEK阻害剤セルメチニブに対する抵抗性を発現した癌性細胞は、BRAF(COLO205及びHT29株)又はKRAS(HCT116及びLoVo株)に変異を有する結直腸癌細胞株を、これらの細胞が1μm、2μM又は4μMのこの薬物の中で明らかに正常に成長するまで、増加する濃度のAZD6244(セルメチニブ)の存在下でクローン選択なしに成長させることにより生成する。
【0180】
MEK阻害剤セルメチニブに対する抵抗性を発現した癌性細胞株の各々に対して、以下の工程を実施する。
【0181】
3つの細胞集団を、無血清条件下、上記阻害剤の存在下で培養する。
【0182】
上記細胞の第1集団に対して、PPSを組織培養皿に添加し、他方で、第2集団、すなわち対照細胞に対しては、PPSは添加しない。
【0183】
第3の上記細胞集団に対しては、DXSを組織培養皿に添加する。
【0184】
毎日、すべての細胞集団を、血小板と共に30分間、共インキュベーションし、その後洗い流す。
【0185】
成長サイクルにある対照細胞は、その表面に血小板受容体を発現する。血小板は、対照細胞に付着し、そのα顆粒から成長因子を放出する。この対照細胞は、その因子を取り込み、MEK阻害剤の存在下でさえも細胞周期をさらに進むことになる。
【0186】
第1及び第3の細胞集団については、PPS及びDXSは、血小板が癌性細胞に付着するのを防ぎ、それゆえ、血小板由来成長因子は放出されず、増殖は邪魔される。
【0187】
対照癌性細胞は、MEK阻害剤の存在下でさえも成長及び分裂し続けるのに対して、MEK阻害剤とPPS又はDXSとの存在下でインキュベーションされる細胞集団は消滅する。
【0188】
実施例2
第2の実験を、細胞をMEK阻害剤CI-1040(PD184352)の存在下で培養することを除いて、実施例1に記載したようにして実施する。
【0189】
Littleら、2011に詳細に記載されているように、MEK阻害剤PD184352に対する抵抗性を発現した癌性細胞は、BRAF(COLO205)又はKRAS(HCT116)に変異を有する結直腸癌細胞株を、これらの細胞が1μm、2μM又は4のこの薬物の中で明らかに正常に成長するまで、増加する濃度のAZD6244(セルメチニブ)の存在下でクローン選択なしに成長させることにより生成する。
【0190】
MEK阻害剤CI-1040(PD184352)に対する抵抗性を発現した癌性細胞株の各々に対して、培養工程を、細胞をMEK阻害剤CI-1040(PD184352)の存在下で培養することを除いて、実施例1のようにして実施する。
【0191】
対照癌性細胞は、MEK阻害剤CI-1040(PD184352)の存在下でさえも成長及び分裂し続けるのに対して、MEK阻害剤CI-1040(PD184352)とPPS又はDXSとの存在下でインキュベーションされる細胞集団は消滅する。
【0192】
実施例3
第3の実験を、MEK阻害剤トラメチニブ(GSK1120212)に対する抵抗性を発現した細胞を使用し、このMEK阻害剤トラメチニブの存在下で培養することを除いて、実施例1に記載したようにして実施する。
【0193】
Vujicら、2014に詳細に記載されているように、MEK阻害剤トラメチニブに対する抵抗性を発現した癌性細胞は、ヒトNRAS変異黒色腫細胞株DO4及びMM415を増加する濃度のトラメチニブ(GSK1120212)の存在下でおよそ6ヶ月にわたって成長させることにより生成する。
【0194】
MEK阻害剤トラメチニブに対する抵抗性を発現した癌性細胞株の各々に対して、培養工程を、細胞をMEK阻害剤トラメチニブの存在下で培養することを除いて、実施例1のようにして実施する。
【0195】
対照癌性細胞は、MEK阻害剤トラメチニブの存在下でさえも成長及び分裂し続けるのに対して、MEK阻害剤トラメチニブとPPS又はDXSとの存在下でインキュベーションされる細胞集団は消滅する。
【0196】
実施例4
第4の実験を、Raf阻害剤ベムラフェニブに対する抵抗性を発現した細胞を使用し、Raf阻害剤ベムラフェニブの存在下で培養することを除いて、実施例1に記載したようにして実施する。
【0197】
Sandriら、2016に詳細に記載されているように、Raf阻害剤ベムラフェニブに対する抵抗性を発現した癌性細胞は、BRAFV600E変異を有する黒色腫細胞株SK-MEL-28を0.5~0.6μMベムラフェニブの存在下で4~6週間成長させ、その後クローンコロニーを単離することにより生成する。
【0198】
Raf阻害剤ベムラフェニブに対する抵抗性を発現した癌性細胞株の各々に対して、培養工程を、細胞をRaf阻害剤ベムラフェニブの存在下で培養することを除いて、実施例1のようにして実施する。
【0199】
対照癌性細胞は、Raf阻害剤ベムラフェニブの存在下でさえも成長及び分裂し続けるのに対して、Raf阻害剤ベムラフェニブとPPS又はDXSとの存在下でインキュベーションされる細胞集団は消滅する。
【0200】
実施例5
第5の実験を、Raf阻害剤ソラフェニブに対する抵抗性を発現した細胞を使用し、Raf阻害剤ソラフェニブの存在下で培養することを除いて、実施例1に記載したようにして実施する。
【0201】
Chenら、2011に詳細に記載されているように、Raf阻害剤ソラフェニブに対する抵抗性を発現した癌性細胞を、ヒト肝細胞癌(HCC)Huh7をソラフェニブへの長期曝露で成長させることにより生成する。
【0202】
Raf阻害剤ソラフェニブに対する抵抗性を発現した癌性細胞株の各々に対して、培養工程を、細胞をRaf阻害剤ソラフェニブの存在下で培養することを除いて、実施例1のようにして実施する。
【0203】
対照癌性細胞は、Raf阻害剤ソラフェニブの存在下でさえも成長及び分裂し続けるのに対して、Raf阻害剤ソラフェニブとPPS又はDXSとの存在下でインキュベーションされる細胞集団は消滅する。
【0204】
実施例6
第6の実験を、Raf阻害剤ダブラフェニブに対する抵抗性を発現した細胞を使用し、Raf阻害剤ダブラフェニブの存在下で培養することを除いて、実施例1に記載したようにして実施する。
【0205】
Caparoraliら、2011に詳細に記載されているように、Raf阻害剤ダブラフェニブに対する抵抗性を発現した癌性細胞は、ヒト黒色腫細胞株A375を徐々に増加する濃度のダブラフェニブ(1nMから1.5μMまで)の中で4ヶ月にわたって成長させ、その後このダブラフェニブ抵抗性細胞株を、1.5μMダブラフェニブを添加したCM中で維持することにより生成する。
【0206】
Raf阻害剤ダブラフェニブに対する抵抗性を発現した癌性細胞株の各々に対して、培養工程を、細胞をRaf阻害剤ダブラフェニブの存在下で培養することを除いて、実施例1のようにして実施する。
【0207】
対照癌性細胞は、Raf阻害剤ダブラフェニブの存在下でさえも成長及び分裂し続けるのに対して、Raf阻害剤ダブラフェニブとPPS又はDXSとの存在下でインキュベーションされる細胞集団は消滅する。
【0208】
実施例7
第7の実験を、癌性細胞がRTK阻害剤に対して抵抗性であり、3つの細胞集団をRTK阻害剤の存在下で培養することを除いて、実施例1に記載したようにして実施する。
【0209】
対照癌性細胞は、RTK阻害剤の存在下でさえも成長及び分裂し続けるのに対して、PPS又はDXSの追加的な存在下でインキュベーションする細胞集団は消滅する。
【0210】
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