IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ラコン リミテッドの特許一覧

特許7547562電源変動に対する応答を加速させた温度安定化装置
<>
  • 特許-電源変動に対する応答を加速させた温度安定化装置 図1
  • 特許-電源変動に対する応答を加速させた温度安定化装置 図2
  • 特許-電源変動に対する応答を加速させた温度安定化装置 図3
  • 特許-電源変動に対する応答を加速させた温度安定化装置 図4
  • 特許-電源変動に対する応答を加速させた温度安定化装置 図5
  • 特許-電源変動に対する応答を加速させた温度安定化装置 図6
  • 特許-電源変動に対する応答を加速させた温度安定化装置 図7
  • 特許-電源変動に対する応答を加速させた温度安定化装置 図8
  • 特許-電源変動に対する応答を加速させた温度安定化装置 図9
  • 特許-電源変動に対する応答を加速させた温度安定化装置 図10
  • 特許-電源変動に対する応答を加速させた温度安定化装置 図11
  • 特許-電源変動に対する応答を加速させた温度安定化装置 図12
  • 特許-電源変動に対する応答を加速させた温度安定化装置 図13
  • 特許-電源変動に対する応答を加速させた温度安定化装置 図14
  • 特許-電源変動に対する応答を加速させた温度安定化装置 図15
  • 特許-電源変動に対する応答を加速させた温度安定化装置 図16
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】電源変動に対する応答を加速させた温度安定化装置
(51)【国際特許分類】
   H03B 5/32 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
H03B5/32 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023100527
(22)【出願日】2023-06-20
(62)【分割の表示】P 2020513543の分割
【原出願日】2018-09-07
(65)【公開番号】P2023126806
(43)【公開日】2023-09-12
【審査請求日】2023-06-20
(31)【優先権主張番号】735368
(32)【優先日】2017-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NZ
(73)【特許権者】
【識別番号】513212305
【氏名又は名称】ラコン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウォード カール ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ハーディ ニゲル デイヴィッド
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-027684(JP,A)
【文献】特開2016-105572(JP,A)
【文献】特開2017-123629(JP,A)
【文献】特開2015-173313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 5/30- 5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源電圧源により給電することができる温度安定化装置であって、前記装置は、前記装置のアセンブリを加熱するヒータ回路と、ヒータ制御信号を生成して前記ヒータ回路内で消費される電力量を制御するように構成される回路と、を備え、前記ヒータ制御信号は、前記電源電圧源により供給される電源電圧レベルに依存して、前記電源電圧レベルの変化に応じて電子的に調整されるように構成され、追加電子回路は、前記ヒータ制御信号が前記ヒータ回路に、またはヒータドライバ回路に印加される前に、前記ヒータ制御信号の絶対値を、前記ヒータ回路以外の前記装置の内部回路内で消費される電力量に対応する量だけ小さくするように構成される、温度安定化装置。
【請求項2】
電源電圧源により給電することができるオーブン制御発振器装置であって、前記装置は、発振器回路と、前記装置のアセンブリを加熱するヒータ回路と、ヒータ制御信号を生成して前記ヒータ回路内で消費される電力量を制御するように構成される回路と、を備え、前記ヒータ制御信号は、前記電源電圧源により供給される電源電圧レベルに依存して、前記電源電圧レベルの変化に応じて調整されるように構成され、追加回路は、前記ヒータ制御信号が前記ヒータ回路に、またはヒータドライバ回路に印加される前に、前記ヒータ制御信号の絶対値を、前記ヒータ回路以外の前記装置の内部回路内で消費される電力量に対応する量だけ小さくするように構成される、オーブン制御発振器装置。
【請求項3】
電源電圧源により給電することができる温度安定化装置であって、前記装置は、前記装置のアセンブリを加熱するヒータ回路と、ヒータ制御信号を生成して前記ヒータ回路内で消費される電力量を制御するように構成される回路と、を備え、前記ヒータ制御信号は、加熱要求信号と電源電圧検出信号を乗算した積として生成され、前記電源電圧検出信号は電源電圧に反比例する、温度安定化装置。
【請求項4】
追加回路は、前記ヒータ制御信号が前記ヒータ回路またはヒータドライバ回路に印加される前に、前記ヒータ制御信号の絶対値を小さくするように構成される、請求項3に記載の温度安定化装置。
【請求項5】
前記追加回路は、前記ヒータ制御信号の絶対値を、前記ヒータ回路以外の前記装置の内部回路内で消費される電力量に対応する量だけ小さくするように構成される、請求項4に記載の温度安定化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源変動に対する装置の過渡応答を加速させて、装置の温度が制御設定値に戻るために必要な期間を短くし、結果として、装置の主な性能パラメータの不所望な過渡変化を小さくする温度安定化電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの電子装置の主な性能パラメータは、多くの場合、周囲温度に依存している。例えば、電子発振器により生成される信号の周波数は、周囲温度、電源電圧、機械的加速度のような複数の外部パラメータに依存し、周波数の不安定性は、周囲温度変化が特に顕著になることに起因している。
【0003】
多くの技術が、周囲温度の変動に対する電子装置の主な性能パラメータの感度を下げるために開発されている。1つのこのような技術が、装置の温度安定化であり、電子装置の感温部分は、温度安定環境に載置されることにより、周囲温度変動の影響を小さくしている。
【0004】
温度安定化電子装置の1つの例が、オーブン制御電子発振器である。オーブン制御発振器(OCO)では、装置の温度は、普通、装置の最大動作温度よりも数度高く設定される所定のレベルに制御および維持され、その結果、発振器の温度変動が周囲温度の変動と比較して大幅に小さくなり、出力周波数の安定性が向上するようになる。オーブン制御発振器装置(Oven-Controlled Oscillator device)の例は、水晶共振器を備える発振器回路を含むオーブン制御水晶発振器(OCXO)、微小電気機械システム(MEMS)共振器を備える発振器回路を含むオーブン制御MEMS発振器(OCMO)、表面弾性波(SAW)共振器を備える発振器回路を含むオーブン制御SAW発振器(OCSO)などである。
【0005】
安定した装置アセンブリ温度を温度安定化装置内で維持するために、閉ループ温度制御技術が装備される場合が多い。図1(先行技術)の図は、このような制御ループの例を提供する。図1に示すように、装置アセンブリ1の温度は温度センサ2により検知され、検知された温度値(「装置アセンブリ温度」)は必要な温度値(「設定値」)と比較され、温度誤差値が、設定値と実際の装置アセンブリ温度値との差として算出され、温度誤差が次に、誤差処理ブロック3で処理され、誤差処理ブロック3の出力で、1つのヒータ4、またはいくつかのヒータ4を制御して温度誤差値を最小限に抑えることにより、装置の温度が設定値により近づくようにする。
【0006】
多数の既知の制御アルゴリズムのいずれかの制御アルゴリズムを誤差処理ブロック内で使用することができる。例えば、比例制御アルゴリズムを使用することができ、この制御方法では、誤差処理ブロックの出力(すなわち、ヒータ制御信号)は、温度誤差に比例するように配置され、
HC=K ΔT (1)
式中、SHCはヒータ制御信号の値であり、Kは比例制御係数(比例ゲインとしても知られている)であり、ΔTは温度誤差値(すなわち、必要な温度「setpoint(設定)」値と装置アセンブリの実際の温度値との差)である。特定の回路形態に応じて、ヒータ制御信号は電圧信号VHCまたは電流信号IHCのいずれかとすることができる。
【0007】
表現式(1)から、比例制御アルゴリズムにより、「オフセット」と呼ばれることが多い非ゼロの温度誤差が永続的なものになるということになる。実際、温度誤差がゼロ値に
なると(すなわち、装置アセンブリ温度が所望の「setpoint(設定)」値に等しくなると)すぐに、ヒータ制御信号SHCの値もゼロになり、これにより今度は、装置アセンブリ温度が、所望の「setpoint(設定)」温度から徐々に外れていく。比例ゲイン値Kが正しく設定され、制御ループが安定しているとした場合、定常状態になって、SHC値およびΔΤ値が安定して非ゼロになる、すなわち永続的な温度「オフセット」が生じる。不所望の「オフセット」をなくす、または少なくとも最小限に抑えるために、比例制御方法を、定数項を制御表現式に追加することにより強化することができ、
HC=K ΔT+CHC (2)
式中、CHCは追加されたヒータ制御定数項である。
【0008】
表現式(2)から、定数制御項CHCで、正しく設定される場合に、オフセット誤差を実際になくすことができるが、当該オフセット誤差の値は、周囲温度の特定の1個の値に関してのみ最適になるということになる。
【0009】
追加項を周囲温度の全動作範囲に合わせるために、追加項は温度誤差ΔΤの時間積分として生成することができ、このような制御アルゴリズムは、以下の表現式:
HC=K ΔT+K ∫ΔT∂t (3)
に従った比例積分(PI)および関数として知られており、式中、Kは比例ゲインであり、
ΔΤは、温度誤差値であり、
は積分ゲインであり、
∂tは、時間積分を示している。
【0010】
表現式(3)中の積分処理K ∫ΔT∂tで、表現式(2)中の定数項CHCを置き換え、当該積分処理は、温度誤差値ΔTに応じて自動的に調整される項を表わしている。積分処理の積分の性質により、PIコントローラの積分処理は、時間軸で遅くなる、すなわち積分処理が最大効果をもたらすためにかなりの時間を要する。
【0011】
比例および比例積分の他に、他の既知の制御アルゴリズムを使用して、温度安定化装置のアセンブリ温度を制御することができる。重要な点は、このようなアルゴリズムのいずれかのアルゴリズムにおけるヒータ制御信号SHCが、たった1つの変数-温度誤差:
HC=f(ΔT) (4)
の関数として生成されることである。
【0012】
表現式(4)の意味の1つは、制御アルゴリズムが電源レベルの変化を直接には考慮に入れていないことである。これは、温度安定化装置の電源電圧が変化する場合、この変化により、ヒータ(複数可)内で消費される電力量の変化が生じるようになって、装置アセンブリ温度および温度誤差値の変化が生じるようになることを意味している。温度誤差の偏移が温度制御ループにより処理され、結果としての処理が、処理の効果をもたらすように行われるためにかなりの時間を要することになる。PI制御の場合、ΔΤの変化は最終的にではあるが、特定の期間後にのみ補正され、特定の期間は、(a)変化しているΔΤ値を積分器K ∫ΔΤ∂tで積分するために必要な時間、および(b)装置アセンブリが必要な温度を取得するために必要な時間から構成され、期間(b)は、温度安定化装置アセンブリにより提示される熱質量の大きさに依存する。
【0013】
電源電圧レベルの変化の別の意味は、ヒータ以外の温度安定化装置の回路内および構成部品内で消費される電力も変化することである。この消費電力は装置アセンブリの加熱にも寄与するので、消費電力の変化により温度誤差が追加されるようになる。この場合も同じく、先行技術による温度安定化装置の温度制御ループは、積分制御処理の性質および装置の熱質量に起因して、この変化を最終的にではあるが、所定期間後にのみ「take
care(処理する)」。
【0014】
本発明の目的は、温度安定化装置の温度を電源電圧変化後に設定値に戻して、温度外乱が温度安定化装置の主な性能パラメータに与える不所望な影響を小さくするために必要な期間を短くすることができる技術を提供することにある、または温度安定化装置の電源電圧変化により生じる過渡的影響を軽減する技術が改善されない場合に代替物を少なくとも提供することにある。例えば、オーブン制御発振器(OCO)装置では、本発明の技術の使用により、電源変動の結果として装置が過渡的温度外乱を受ける時間を短くし、過渡的温度外乱の絶対値を小さくすることができ、これにより、OCO装置により生成される出力周波数の変動を短縮して小さくすることができる。
【発明の概要】
【0015】
本明細書および特許請求の範囲において使用される「comprising(備える」という用語は、「~の少なくとも一部からなる」を意味している。「comprising(備える」という用語を含む本明細書および特許請求の範囲における各記述を解釈する場合、この用語の後に続く特徴またはそれらの特徴以外の特徴がさらに存在し得る。「comprise(備える)」および「comprises(備える)」のような関連用語は、同じように解釈されるべきである。
【0016】
本発明の第1の態様では、本発明は、電源電圧源により給電することができる温度安定化装置を提示し、当該装置は、装置アセンブリを加熱するヒータ回路と、ヒータ制御信号を生成してヒータ回路内で消費される電力量を制御するように配置される温度制御回路と、を備え、ヒータ制御信号は、電源電圧レベルに依存するように構成され、電源電圧レベルの変化に応じて電子的に調整されるように構成される。
【0017】
少なくともいくつかの実施形態では、温度制御回路は、ヒータ回路内で消費される電力量を制御して、装置アセンブリ温度を、装置の目的の動作周囲温度範囲の最大±5%以内、より好ましくは最大±1%以内、より好ましくは最大±0.01%以内に維持するように配置される。
【0018】
少なくともいくつかの実施形態では、ヒータ制御信号は、±10%、より好ましくは±5%、より好ましくは±1%を超えない電源電圧レベルの変化に応じて電子的に調整されるように配置される。
【0019】
本発明の第2の態様では、上述の温度安定化装置において、電子回路は、ヒータ制御信号を、当該信号がヒータ回路に、またはヒータドライバ回路に印加される前に小さくするように配置される。
【0020】
このようなことから、本発明には2つの主要な態様がある。
【0021】
I.本発明の第1の態様では、オン温度安定化装置の追加回路は、以下の機能:(a)電源電圧レベルを検出すること、および(b)温度誤差値だけでなく、検出される電源電圧値にも依存するヒータ制御信号を生成することを行うように配置される。言い換えれば、本発明の温度安定化デバイスの場合、上の表現式(4)は以下の表現式:
HC=f(ΔT,V) (5)
で置き換えられる。
式中、SHCはヒータ制御信号の値であり、
ΔTは温度誤差値であり、
は電源電圧値である。
【0022】
ヒータ制御信号を温度誤差および電源電圧の両方の関数として生成する利点は、電源電圧が変化する場合に、ヒータ電力をそれに応じて制御アルゴリズムにより調整して、ヒータ電力量を必要に応じて維持して安定した装置アセンブリ温度を維持し、さらに、ヒータ制御信号調整が電子的に行われるので、当該調整は、電源電圧変化の直後に行われ、温度制御ループが装置温度を必要な設定値にするために必要となったであろう期間にわたって行われるよりもかなり迅速に行われる。表現式(5)に従って生成されるヒータ制御信号は、「power supply compensated(電源補正を行う)」と言うことができる。
【0023】
II.本発明の第2の態様では、さらに別の追加回路を導入して、電源変化に対する温度安定化装置の過渡応答をさらに加速する。
【0024】
温度安定化電子装置では、電力は、ヒータ(複数可)内だけでなく、装置の他のあらゆる電子回路内および電子部品内でも消費される。例えば、OCO装置では、電力消費は、定電圧回路、発振器回路、出力バッファ回路などにおいても行われる。この内部消費電力により、装置がさらに加熱されるようになる、すなわち装置が、ヒータ(複数可)による加熱に加えて加熱されるようになる。高い周囲温度では、温度依存ヒータ電力が小さくなり、内部消費電力は当該ヒータ電力と同等になるか、または当該ヒータ電力を超えてしまう。
【0025】
電源電圧レベルが変化する場合、ヒータ電力は、かなりの遅れを全く伴うことなく、本発明の第1の態様として説明される技術を使用して調整することができる。しかしながら、内部消費電力変化も生じることになり、このような変化によって生じる温度誤差は、当該温度誤差が、温度制御ループにより、装置の熱質量に関連する遅れを伴いながら、場合によっては、装備される制御アルゴリズムの性質に関連する遅れを伴いながら補正される必要があるので、同じように速くは補正されないことになる。
【0026】
電源電圧の変化に起因する内部消費電力の変化に対する温度安定化装置の応答を加速するために、実施形態では、追加回路を導入して、減算量が内部消費電力量に対応するように少量の電源補正ヒータ制御信号を減算する。これは、図2および図3を参照してさらに説明される。定常状態では、温度安定化装置アセンブリ温度は安定しており、当該装置アセンブリ温度の安定性は、装置アセンブリを加熱して周囲環境に失われる熱を補正することにより実現される。上に説明し、図2に示すように、温度安定化装置の加熱は、電力PH1を消費するヒータにより、および内部消費電力Pにより行われる。
Σ=PH1+P (6)
式中、PΣは温度安定化装置を加熱する合計電力であり、
H1は、ヒータ(複数可)内で消費される電力であり、
は内部消費電力である。
【0027】
従来の温度安定化装置では、PH1値およびP値は共に、電源電圧に依存し、電源電圧が変化する場合、PH1およびPが共に変化して、温度誤差が温度制御ループにより処理されて、装置の熱質量に起因する所定期間後に、温度制御ループにより最小限に抑えられることになる。
【0028】
本発明の第1の態様に従って実現される温度安定化装置では、電源電圧が変化する場合、ヒータ電力PH1は、本明細書のパートIで説明された追加回路により維持される、すなわちヒータ制御信号SHCは、電源補正され、瞬時に調整されて電源電圧変化を吸収し、ヒータ電力は必要な装置温度を維持するために必要なレベルに維持される。しかしながら、温度安定化装置を加熱する合計電力の他の成分-内部消費電力P-もまた、電源電圧変化に続いて変化して、温度制御ループにより補正されるための時間を要することにな
る温度誤差が生じる。電源電圧の変化に対する応答時間をさらに向上させるために、加熱配置は、本発明の第2の態様に従って変更され、図3に示される。
【0029】
この配置では、少量の電源補正ヒータ制御信号を、当該信号がヒータ(複数可)に、またはヒータドライバ回路に印加される前に、減算量が内部消費電力Pの量に対応するように減算する。これは、ヒータ制御ループに、あたかも当該ヒータ制御ループが内部消費電力も制御しているように提示され、これにより、本発明のパートIで説明した技術で、電源変化に関する内部消費電力を瞬時に補正することができる。
【0030】
コンセプトの説明を簡単にするために、ヒータ制御信号の減算量が内部消費電力Pの量に対応すると仮定すると、図3に示す装置内の合計加熱電力は以下の表現式:
Σ=(PH2-P)+P (7)
で表わされる。
安定したOCOの温度を維持するために必要な電力の合計量は、図2および図3に示される配置におけるものと同じであるので、以下の表現式がなり立つ:
H1+P=(PH2-P)+P (8)
これは、
H2=PH1+P (9)
を意味している。
【0031】
このようなことから、図3の配置では、および本発明の第2の態様によれば、少量の電源補正ヒータ制御信号を、当該制御信号がヒータ(複数可)に、またはヒータドライバ回路に印加される前に減算することにより、制御ループにより要求されるヒータ電力が増加するようになり、制御ループ要求は、本発明の第1の態様として開示される技術を使用して生成されるので、温度安定化装置内の合計加熱電力は、電源変化に関して電子的に補正され、このような変化に対して、従来の温度安定化装置よりもかなり迅速に反応するようになる。
【0032】
本発明の第2の態様のより詳細な説明が、オーブン制御発振器(OCO)装置に適用されるものとして以下に提示される。
【0033】
多くの最新のOCO装置は、一定の電圧に調整されていない外部供給電源電圧よりも高い安定性で特徴付けられる電源電圧を生成する電圧レギュレータ回路を備える。
【0034】
OCOアセンブリ内で消費される合計電力PΣはOCOのヒータ(複数可)内で消費される電力PH1およびOCOの内部にある他の全ての回路内で消費される電力Pの総計である。
Σ=PH1+P
【0035】
内部消費電力Pは、内部定電圧調整電源から給電され、定電圧調整電源電流Iを引き出す回路により消費される電力、および一定の電圧に調整されていない電源の電流Iurを引き出す一定の電圧に調整されていない電源から給電される回路により消費される電力に分けることができる。電流Iは、当該電流が、内部定電圧電源で動作する回路により引き出されるので、外部電源電圧Vに依存しないのに対し、(普通はかなり小さい)電流Iurは、当該電流が、一定の電圧に調整されていない外部電源に直接接続される回路により引き出されるので、電源電圧Vとともに変化する-したがって、電流Iurは、以下の表現式中のVの関数であることが示される。
=I V+Iur(V)
【0036】
同様に、ヒータ電力は、ヒータ電流IHCおよび電圧の項で表わすことができ、
H1=IHC
式中、IHCは、本発明の第1の態様に従って、例えば電源電圧Vに反比例するように生成され、以下の表現式で記述することができる。
【数1】
【0037】
上の表現式では、ΔTは温度誤差信号であり、Tは、誤差処理段の温度センサゲインであり、I/Vは、本明細書のパートIに従って生成される電源補正ヒータ制御信号であり、Cはヒータドライバ回路の電流ゲインである。
【0038】
本発明の第2の態様によれば、少量のヒータ制御信号を、当該ヒータ制御信号がヒータドライバ回路に印加される前に減算する。
【数2】
【0039】
この余剰電流Iは、合計電力容量に吸収されるので、一定の電流に調整される電流IはIだけ増加してIr1になる:
r1=I+I
【0040】
新規のヒータ電力PH2は以下のように表わされ、
【数3】
装置内のヒータ以外で消費される電力PD1の新規値は、以下のとおりである。
【数4】
【0041】
新規合計電力PΣはしたがって、PH2およびPD1の合計になる。
【数5】
【0042】
後出の表現式から、以下に示すように、Iを特定の値に等しくする場合、括弧{}内の項はゼロになろうとし、合計電力PΣは、電源電圧に大きく依存することがなく、パートIの技術を単独で適用するよりも大きい程度に依存することがない。したがって、アセンブリは、電源電圧変動に、熱制御ループが当該変動を補正することができる場合よりも迅速に応答する。この技術に必要なIの最適値は以下のとおりである。
【数6】
【0043】
この技術を最良に駆使する場合、電流IurがIよりもずっと小さい必要があり、これは普通、良好に設計されたOCO装置に当てはまる。また、合計電力消費を可能な限り小さく抑えるために、ヒータドライブ回路の電流ゲインCは大きい必要がある、例えば
30よりも大きい必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0044】
本発明は、添付の図面を参照してさらに説明される。
【0045】
図1】従来の(先行技術による)温度安定化装置の温度制御ループを示している。
図2】温度安定化装置の加熱電源を示している。
図3】本発明の第2の態様を組み込んだ温度安定化装置の加熱電源を示している。
図4】本発明の第1の態様を組み込んだ温度安定化装置の実施形態の例を示している。
図5】電源検出回路の実施態様の例を示している。
図6】調整可能な回路抵抗値の関数としてプロットされる温度制御勾配のグラフを示している。
図7】電源依存ヒータ制御信号を生成する回路形態の例を示している。
図8】本発明の第1および第2の態様の両方を組み込んだ温度安定化装置の実施形態を示している。
図9】電流減算機能を実行する方法を示している。
図10】ヒータドライバおよびヒータ回路の例を示している。
図11】ヒータ制御信号減算回路を追加したヒータドライバおよびヒータ回路の例を示している。
図12】電流シンクモジュールの実施形態を示している。
図13】本発明の技術を利用することにより得られる性能上の利点を示している。
図14】本発明の技術を利用することにより得られる性能上の利点を示している。
図15】本発明の技術を利用することにより得られる性能上の利点を示している。
図16】本発明の技術を利用することにより得られる性能上の利点を示している。
【発明を実施するための形態】
【0046】
図4は、本発明の第1の態様を組み込んだ温度安定化装置の実施形態を示している。装置アセンブリ温度は、温度センサ1を使用して検出され、必要な装置アセンブリ温度(「setpoint(設定値)」)と比較されて、誤差処理ブロック2の入力である温度誤差値を算出する。このブロックは、本明細書において前に説明したように、ヒータ制御信号を、選択した制御制御アルゴリズムに従って生成する。従来の温度安定化装置では、ヒータ制御信号は、ヒータ(複数可)のドライバ回路に接続されるのに対し、本発明の装置では、追加回路-電源補正回路3-を導入してヒータ制御信号を生成し、ヒータ制御信号は、電源電圧のレベルの変化に関して調整されるので、電源電圧のレベルに依存している。したがって、後者-VSUPPLY-は、図4に示すように、電源補正ブロック3に必要な第2の入力である。このようなことから、点4で結果として得られる電源補正ヒータ制御信号は、温度誤差の現在値および電源電圧の現在値の両方の関数である。
【0047】
点4における電源補正ヒータ制御信号は、ヒータ(複数可)のドライバ回路5の入力として接続され、ドライバ回路5は、ヒータ(複数可)6を駆動して、装置アセンブリ7の安定した温度を制御および維持する。
【0048】
ヒータ制御信号4は、電源レベルのどのような変化に関しても継続的に調整されて(この調整では、定電圧調整が非常に短い間隔で、例えば30msごとに行われる)、このような変化に、本発明の温度安定化装置が、従来の温度安定化装置におけるよりもかなり迅速に応答する。
【0049】
電源補正回路を搭載する1つの方法では、電源補正回路を乗算器回路として搭載して、乗算器回路が、誤差処理ブロックの出力の信号と、電源電圧とともに直線的に小さくなる
信号の積を生成するようにする。言い換えれば、1つの実施態様では、電源検出回路の出力に、加熱要求信号を乗算し、結果として得られる信号を使用して加熱装置を駆動する。
【0050】
電源検出回路の1つの実施態様が図5に示されている。当該回路は、バイポーラトランジスタQref、Q0およびQ1、サイズ比がMのNMOSトランジスタM0およびM1、電流源Iref、および電流lおよびlがこれらの抵抗を流れるエミッタ抵抗R0およびR1により構成される。VREG、VUREG、およびVREFは、回路により使用される一定の電圧に調整された電圧、一定の電圧に調整されていない電圧、および基準電圧であるのに対し、IOUTは回路により生成される電源検出信号である。Qref、Q0およびQ1は、基準電圧と同じ電圧がQ0およびQ1のエミッタに現われて、これらの点の電圧をほぼ一定にするように構成される。定電圧調整されていない電源電圧が変化すると、電流I0も変化する。定電圧調整されていない電源電圧が増加すると電流I0が増加し、定電圧調整されていない電源電圧が減少すると電流I0が減少する。電流ゲインがMのカレントミラー(M0およびM1を含む)は、I0をM倍した電流を電流I1から減算する。この差分が、電源電圧依存信号を表わす出力電流信号(IOUT)である。
【0051】
加熱電力は以下のとおりに表わすことができる。
Power=Vvureg×Iout
【0052】
この回路では、
reg=Vref×2
out=I-M×I
【数7】
【0053】
ここで、加熱電力は以下のとおりに表わすことができる。
【数8】
【0054】
電源電圧変動に対する加熱電力の最小感度は、次式:
【数9】
がなり立つ場合に実現される。
したがって、
【数10】
となる。
【0055】
R0およびR1の値が与えられる場合のMの最適値は以下のとおりである。
【数11】
【0056】
このようなことから、抵抗Rの値を変更することにより、図6に示すように、電源電圧が任意に与えられる場合のヒータ電源感度を最小限に抑えることができ、温度制御勾配(℃/V単位)は、抵抗値の関数としてプロットされ、最適な抵抗値は水平軸を横切るプロットの近傍にある(すなわち、電源変動に対する感度がゼロに近い箇所)。あるいは、Mの値を変更して、R0およびR1の値が与えられる場合の最適な電源感度を取得することができる。本発明の実施形態では、Mの値およびR0/R1比の値は、同時に選択することができる。
【0057】
電源依存ヒータ制御信号を生成する全回路を搭載する実施形態が図7に示されている。この回路は、図5に示す電源検出回路と、前に説明した温度誤差処理回路により生成される電源検出信号IOUTおよびHEATER DEMAND信号(HEATER REFERENCE信号と一緒に使用される)の積を生成する追加回路と、により構成される。追加回路は、NPNトランジスタQ2、Q3、Q10~Q17、抵抗R6およびR7、ならびに電流源I3およびI4により構成される。この回路では、HEATER REFERENCEおよびHEATER DEMANDは差動ペアQ2、Q3に供給され、電流は電流源I3、I4により設定され、動作状態はR7、Q17およびQ18により設定される。次に、差分信号がQ2およびQ3からQ11およびQ10に供給され、Q11およびQ10は、電源検出回路からの電流IOUTを差分信号に応じて分割する。Q12およびQ13はカレントミラーとして機能して、Q10およびQ11の電流の差分が後段のカレントミラーQ14およびQ15に供給されて最終出力電流を生成することにより、電源補正ヒータ信号を生成してヒータ制御信号として使用して、装置のヒータで消費される電力を制御する。
【0058】
図8は、本発明の第1および第2の態様の両方を組み込んだ温度安定化装置の実施形態を示している。図4に示す装置構造と比較して、および装置構造に加えて、追加回路8「heater control signal subtraction(ヒータ制御信号減算)」が導入されて、電源補正ヒータ制御信号の小部分を減算する。本明細書において前に説明したように、これは、ヒータ制御ループに対して、ヒータ制御ループがあたかも、内部消費電力も制御しているかのように提示され、これにより、本発明の第1の態様の電源補正技術で、電源変化に関する内部消費電力を瞬時に、またはほぼ瞬時に補正することができる。
【0059】
電流減算機能を搭載する1つの方法では、図9に示すように、設定可能な量の電流を電源補正ヒータから流し出す簡単なプログラム可能な電流源を追加する。
【0060】
ヒータドライバおよびヒータ回路を搭載する例が図10に示されており、ヒータ制御電流Iheatは、68対1のサイズ比を持つ2つのNMOSトランジスタで形成されるカレントミラーで68倍され、より大きなトランジスタが装置アセンブリのヒータとして使用される。
【0061】
図10に示す回路にヒータ制御信号(電流)減算回路を追加する例が図11に示されており、減算回路は「Current Sink Module(電流シンクモジュール)」とラベル付けされ、端子Irefは減算回路により使用される基準電流を受け入れ、端子Iselectは、2値信号を伝送して正しい量のヒータ制御信号(電流)を選択して減算し、減算後の電流がIa端子を介して回路の基準接地に流れ込む。
【0062】
Current Sink Module(電流シンクモジュール)の実施形態の例が図12に示されている。この回路では、基準電流IrefはトランジスタN1からトランジスタN2、N3、N4に1、2、および4倍の割合でミラーリングされる。スイッチS1、S2、およびS3は、Iselectバスの信号により制御されて、2進重み付き値の基準電流を0~7回、端子Iaを介して流し出す。
【0063】
図13図16は、本発明の技術を利用することにより得られる性能上の利点を示している。図13および図14は、電源電圧変化に対する従来のOCXOの測定過渡応答を示している。図13は、5%の電源電圧上昇に続く過渡出力周波数変化を示しており、図13に示されているように、周波数は電源電圧の変化の結果として不安定になり、過渡外乱は落ち着くのに30秒以上を要し、12ppbのピークツーピーク周波数偏移が過渡応答中に生じる。電源電圧が5%降下すると、図14に示すように、同様の大きさ、および時間長の過渡的な出力周波数変化が生じる。
【0064】
本発明の1つの実施形態を含むOCXO装置は、電源電圧の階段状変化に対して著しく加速された応答を示している。図15に示すように、本発明のOCXOにおける電源電圧の上昇に対する過渡出力周波数応答は、1秒未満にわたって生じ、従来のOCXOの偏移と比較して大きな周波数偏移を全く伴わない。本発明のOCXO装置は、図16に示すように、5%の電源電圧降下に対して、有意な周波数偏移が全くない同様に短い過渡応答を示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16