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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】ホスファゼン結合含有ポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08G 79/025 20160101AFI20240902BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
C08G79/025
H01B1/06 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023503859
(86)(22)【出願日】2022-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2022008595
(87)【国際公開番号】W WO2022186196
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2021032544
(32)【優先日】2021-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】宮田 佳典
(72)【発明者】
【氏名】井宮 弘人
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109988332(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0046246(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 79/00-79/14
H01B 1/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスファゼン結合を構成するリン原子が、窒素含有基が結合してなるリン原子を含み、且つ、ホスファゼン結合を構成する窒素原子が、炭化水素基が結合してなる窒素原子を含み、カチオン性ポリマーであり、環状ホスファゼン構造を有するものである
ことを特徴とするホスファゼン結合含有ポリマー。
【請求項2】
前記ホスファゼン結合含有ポリマーが、
(i)下記一般式(A-1)で表される構造単位(A-1)を含む、
【化1】
(式中、Yは炭化水素基であり、XおよびXは、各々独立に、水酸基、ハロゲン原子、炭化水素基、OR11基、C(=O)R12基、SR13基および窒素含有基からなる群から選択される少なくとも1種を示し、XおよびXの少なくとも1つは窒素含有基である。炭化水素基、OR11基、C(=O)R12基、SR13基および窒素含有基は、1価の基であってもよく、2価の基であって、Yの炭化水素基と結合した基、ホスファゼン結合含有ポリマーが有する当該構造単位(A-1)のホスファゼン構造以外の他のホスファゼン構造またはホスファゼン構造以外の他の構造にも結合した基であってもよい。またXとXとが結合していてもよい。R11、R12およびR13は、各々独立に、炭化水素基である。なお、式中のリン原子Pまたは窒素原子Nは正電荷を有していてもよい。)
または
(ii)下記一般式(A-2)で表される構造単位(A-2)および下記一般式(A-3)で表される構造単位(A-3)を含む
【化2】
(式中、Yは炭化水素基であり、XおよびXは、各々独立に、水酸基、ハロゲン原子、炭化水素基、OR21基、C(=O)R22基、およびSR23基からなる群から選択される少なくとも1種を示す。炭化水素基、OR21基、C(=O)R22基、およびSR23基は、1価の基であってもよく、2価の基であって、Yの炭化水素基と結合した基、ホスファゼン結合含有ポリマーが有する当該構造単位(A-2)のホスファゼン構造以外の他のホスファゼン構造またはホスファゼン構造以外の他の構造にも結合した基であってもよい。またXとXとが結合していてもよい。R21、R22およびR23は、各々独立に、炭化水素基である。なお、式中のリン原子Pまたは窒素原子Nは正電荷を有していてもよい。)
【化3】
(式中、XおよびXは、各々独立に、水酸基、ハロゲン原子、炭化水素基、OR31基、C(=O)R32基、SR33基および窒素含有基からなる群から選択される少なくとも1種を示し、且つ、XおよびXの少なくとも1つは窒素含有基である。炭化水素基、OR31基、C(=O)R32基、SR33基および窒素含有基は、1価の基であってもよく、2価の基であって、ホスファゼン結合含有ポリマーが有する当該構造単位(A-3)のホスファゼン構造以外の他のホスファゼン構造またはホスファゼン構造以外の他の構造にも結合した基であってもよい。またXとXとが結合していてもよい。R31、R32およびR33は、各々独立に、炭化水素基である。)
ことを特徴とする、請求項1記載のホスファゼン結合含有ポリマー。
【請求項3】
さらに、カウンターアニオンを含む、請求項1又は2に記載のホスファゼン結合含有ポリマー。
【請求項4】
前記窒素含有基が、下記一般式(B-1)で表される、請求項1~3のいずれか1項に記載のホスファゼン結合含有ポリマー。
NRb1 (B-1)
(式中、nは1または2である。nが2の場合、Rb1は、各々独立して、水素原子、または、置換基を有していてもよい1価または2価以上の炭化水素基を含む有機基を示す。nが1の場合、Rb1は、置換基を有していてもよい2価以上の炭化水素基を含む有機基を示す。)
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載のホスファゼン結合含有ポリマーを含むことを特徴とする電解質材料。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載のホスファゼン結合含有ポリマーを含むことを特徴とするアニオン交換膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスファゼン結合含有ポリマーに関する。より詳しくは、燃料電池、水電解装置における電解質材料、アニオン交換膜等として好適に用いられるホスファゼン結合含有ポリマー、電解質材料、及びアニオン交換膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー源として水素の活用に対する関心が高まり、水電解による水素の生産、燃料電池等による活用に関する研究が盛んとなっている。水電解装置や燃料電池に用いられるイオン伝導材料としてはNafion(登録商標)に代表されるプロトン伝導膜が古くより知られているが、強酸性を呈するために腐食性が高く、たとえば電極に用いる触媒として高価な貴金属を使用せざるを得ない等、周辺部材の材質が制限され、コスト高の要因となっている。
【0003】
一方、水酸化物イオンを伝導するアニオン伝導性材料としては、例えば第4級アンモニウム基を有する材料が知られている(例えば特許文献1~3)。
【0004】
また、ホスファゼン環を構成するリン原子にアルコキシ基が結合したホスファゼン環において窒素原子にメチル基を導入することにより、ホスファゼン環がカチオン化されることは知られている(例えば非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-70782号公報、
【文献】特開2013-107916号公報
【文献】特開2015-125888号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Macromolecules 2012、 45、 1182-1189
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
イオン伝導性材料としては、イオン伝導性に優れるだけでなく、燃料電池や水電解装置の電解液中でしかも作動条件下で化学的に安定であることが必要とされる。
【0008】
ところが、上記のアニオン伝導性材料は、腐食性の観点からは上記プロトン伝導性材料に対し有利であるものの、本発明者らが検証した結果、第4級アンモニウム基を有する材料はアルカリ性水溶液中で分解し易いことが確認された。また、非特許文献1におけるカチオン化されたホスファゼン環においては化学的に不安定であり非カチオン化が進行することが記載されている。
【0009】
すなわち、これまで提案された材料においては、燃料電池や水電解装置にアニオン伝導性材料等の部材として用いるためには、化学的安定性、特に耐アルカリ性において改善の余地があった。よって、本発明は、耐アルカリ性に優れるとともに、アニオン伝導性を有するポリマー、該ポリマーの製造方法、該ポリマーを含む電解質材料、アニオン交換膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者らは、ホスファゼン結合を含有するポリマーに着目し、鋭意検討した。その結果、ホスファゼン結合を構成する窒素原子に炭化水素基が結合し、且つ、ホスファゼン結合を構成するリン原子に窒素含有基が結合することにより、該ホスファゼン結合または該ホスファゼン結合を含むホスファゼン構造の耐アルカリ性が高まることを見出し、本発明に想到した。
【0011】
すなわち、本発明は、ホスファゼン結合を構成するリン原子が、窒素含有基が結合してなるリン原子を含み、且つ、ホスファゼン結合を構成する窒素原子が、炭化水素基が結合してなる窒素原子を含む、ことを特徴とするホスファゼン結合含有ポリマーである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーは、特定の基を有するリン原子および窒素原子を含むホスファゼン結合を含むことにより、耐アルカリ性に優れる。そのため、燃料電池や水電解装置等におけるアニオン交換膜や電解質材料として好ましく使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例3で製造したホスファゼン結合含有ポリマー(2a)及び(2)をそれぞれ使用して作成した膜の固体13C-NMR測定結果を示した図である。
図2】実施例3で製造したホスファゼン結合含有ポリマー(2a)及び(2)をそれぞれ使用して作成した膜の固体31P-NMR測定結果を示した図である。
図3】実施例3で製造したホスファゼン結合含有ポリマー(2a)及び(2)をそれぞれ使用して作成した膜の固体15N-NMR測定結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
<ホスファゼン結合含有ポリマー>
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーは、ホスファゼン結合を構成するリン原子が、窒素含有基が結合してなるリン原子を含み、且つ、ホスファゼン結合を構成する窒素原子が、炭化水素基が結合してなる窒素原子を含む、ことを特徴とするホスファゼン結合含有ポリマーである。
【0015】
本明細書で用いる、ホスファゼン結合とは、リン原子と窒素原子との結合(PN結合)を意味し、リン原子と窒素原子との結合形態等の他の条件に何ら制限されない。たとえば、上記ホスファゼン結合における、リン原子と窒素原子との結合形態は、特に限定されず、たとえば、単結合、二重結合、電子が非局在化した共鳴構造を呈する結合等が挙げられる。また上記ホスファゼン結合は電荷的に中性であってもよいし、正電荷、あるいは負電荷等の電荷を帯びているものであってもよい。上記ホスファゼン結合が電荷を帯びている場合、該電荷が、該ホスファゼン結合を構成する窒素原子あるいはリン原子に局在化していてもよいし、該ホスファゼン結合全体に非局在化していてもよい。
また、本明細書で用いる、ホスファゼン構造とは、上記ホスファゼン結合により構成された構造を全て包含する。上記ホスファゼン構造は1個のホスファゼン結合で構成されていてもよいし、2個以上のホスファゼン結合の繰り返しより構成されていてもよい。2個以上のホスファゼン結合よりなるホスファゼン構造は、リン原子と窒素原子が交互に結合した構造である。
また、上記ホスファゼン構造は、その構造形態が、ホスファゼン結合が鎖状に繋がった構造、いわゆる、鎖状構造であってもよいし、ホスファゼン結合が6員環等の環状に繋がった構造、いわゆる、環状構造であってもよい。
また、上記ホスファゼン構造は、電荷的に中性であってもよいし、正電荷、あるいは負電荷等の電荷を帯びているものであってもよい。上記ホスファゼン構造が電荷を帯びている場合、該電荷が該ホスファゼン構造を構成するリン原子、窒素原子あるいはホスファゼン結合のうちの一部に局在化していてもよいし、該ホスファゼン構造全体に非局在化していてもよい。
【0016】
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーは、その分子中に少なくとも1つのホスファゼン結合を含む。言い換えれば、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーは、その分子中に少なくとも1個のホスファゼン構造を有する。
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーは、その分子中に、ホスファゼン構造を1個含むものであってもよいし、2個以上含むものであってもよい。また該ポリマーに含まれる各々のホスファゼン構造は、ホスファゼン結合を1個のみ含んでいてもよいし、ホスファゼン結合を2個以上含んでいてもよい。
また、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーにおいて、ホスファゼン結合(ホスファゼン構造)を有する位置は特に限定されない。たとえばホスファゼン結合(ホスファゼン構造)を、ポリマーの主鎖に有していてもよく、側鎖に有していてもよく、主鎖および側鎖の両方に有していてもよい。
【0017】
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーは、ノニオン性であってもよいし、該ポリマーの一部または全体が正電荷あるいは負電荷を帯びていてもよい。いずれであっても本発明のホスファゼン結合含有ポリマーに包含される。
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーは、ホスファゼン結合を構成するリン原子が、窒素含有基が結合してなるリン原子を含み、且つ、ホスファゼン結合を構成する窒素原子が、炭化水素基が結合してなる窒素原子を含むことを特徴とするが、さらに、該ポリマーに含まれる、ホスファゼン結合を構成するリン原子として、隣接する2つの窒素原子と単結合により結合し、更に窒素含有基および窒素含有基以外の基から選択される2つの基が単結合により結合しているものを含む場合には、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーは、通常、正電荷を有するカチオン性ポリマーとなる。
なお、正電荷を生じた結果、上述した各結合、すなわち、リン原子と窒素含有基との結合、リン原子と窒素含有基以外の基との結合、リン原子とホスファゼン結合を構成する隣接する2つの窒素原子との結合等の各結合は、単結合のままである場合も、生じた正電荷による寄与により結合状態に変化が生じる場合もある。また上記においてリン原子に結合する2個の窒素含有基、並びに、2個の窒素含有基以外の基は、各々同一であっても異なっていてもよい。
【0018】
上記カチオン性ポリマーにおいて、生じた正電荷は、たとえば、炭化水素基が結合した窒素原子に隣接するリン原子に局在化していてもよいし、炭化水素基が結合した窒素原子に局在化していてもよいし、該リン原子または該窒素原子を含むホスファゼン構造に非局在化していてもよい。このように正電荷を帯びたポリマー(カチオン性ポリマー)もまた、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの好ましい実施形態の一つである。
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーは、カウンターイオンを有していてもよい。上記のように本発明のホスファゼン結合含有ポリマーが正電荷を帯びたものである場合、カウンターアニオンを有することが好ましい。カウンターアニオンは、上記正電荷と当量または当量程度、存在することが好ましい。
【0019】
カウンターアニオンとしては、カウンターアニオンとして一般的に用いられる無機イオンを用いることができる。たとえば、フッ素イオン(F)、塩素イオン(Cl)、臭素イオン(Br)、ヨウ素イオン(I)等のハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、トリフルオロメタンスルホナート等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用できる。
【0020】
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーは、アニオン交換性を有することが好ましい。本発明のホスファゼン結合含有ポリマーがカチオン性ポリマーであるとアニオン交換性に優れるものとなる。本発明のホスファゼン結合含有ポリマーは、そのヒドロキシイオン交換容量が、0.3mmol/g以上であることが好ましく、より好ましくは0.4mmol/g以上であり、さらに好ましくは0.5mmol/g以上である。上限は特に限定されないが、通常、3.0mmol/g以下である。
ヒドロキシイオン交換容量は、実施例に記載したイオン交換容量の測定により確認することができる。
【0021】
ヒドロキシイオン交換容量を上記の好ましい範囲とするためには、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーがカチオン性ポリマーであることが好ましい。
【0022】
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーはアニオン伝導性を有することが好ましく、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーがカチオン性ポリマーである場合、アニオン伝導性に優れるものとなる。本発明のホスファゼン結合含有ポリマーにおいてアニオン伝導率は1mS/cm以上であることが好ましく、より好ましくは5mS/cm以上であり、さらに好ましくは10mS/cm以上である。上限は特に限定されないが、通常、1000mS/cm以下である。
上記アニオン伝導率は、実施例に記載した膜抵抗の測定と同様の方法により、下記式により求めることができる
アニオン伝導率[S/cm]=1/(膜抵抗[Ω・cm]/膜厚[cm])
【0023】
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーにおいて、ホスファゼン結合を構成する窒素原子の内、炭化水素基が結合した窒素原子の含有量は特に限定されないが、イオン伝導性に優れるものとなり易い観点から、ホスファゼン結合を構成する全ての窒素原子数1に対し、炭化水素基が結合した窒素原子の数は、1/10以上が好ましく、より好ましくは2/15以上であり、特に好ましくは1/6以上である。上限は特に限定されないが、2/3以下であることが好ましく、より好ましくは3/5以下、さらに好ましくは8/15以下である。
ホスファゼン結合を構成する全ての窒素原子数1に対する炭化水素基が結合した窒素原子の数の範囲としては1/10~2/3が好ましく、より好ましくは2/15~3/5であり、更に好ましくは1/6~8/15である。
上記割合は、31P-NMR測定により求めることができる。
【0024】
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーにおいて、ホスファゼン結合を構成するリン原子のうち、窒素含有基が結合したリン原子の含有量は特に限定されない。イオン伝導性に優れるものとなり易い観点から、ホスファゼン結合を構成する全てのリン原子数1に対し、窒素含有基が結合したリン原子の数は、1/3以上が好ましく、より好ましくは2/3以上であり、特に好ましくは1以上である。上限は特に限定されないが、10以下であることが好ましい。
ホスファゼン結合を構成する全てのリン原子数1に対する窒素含有基が結合したリン原子の数の範囲としては、1/3~10が好ましく、より好ましくは2/3~10であり、更に好ましくは1~10である。
上記割合は、31P-NMR測定により求めることができる。
【0025】
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーは、ホスファゼン構造をその一部又は全部とする繰り返し単位を有するポリマーであり、ポリマーの構造中に多くのホスファゼン構造を含む。
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーに含まれるホスファゼン構造のうち、カチオン化されたホスファゼン構造の割合は10%以上であることが好ましい。より好ましくは、13%以上であり、更に好ましくは、17%以上である。
これらのカチオン化されたホスファゼン構造の好ましい割合は、後述する本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの実施形態(1)~(4)においても同様である。
カチオン化されたホスファゼン構造の割合は、カチオン化したホスファゼン結合含有ポリマーの31P-NMR測定を行ってP原子由来の全ピーク面積中のカチオン化されていないホスファゼン構造中のP原子由来のピーク面積の割合を確認することで算出することができる。
【0026】
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーにおいて、窒素含有基が結合してなるリン原子と、炭化水素基が結合してなる窒素原子との位置関係は特に限定されない。
【0027】
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーを構成するホスファゼン結合の形態としては、形態(i)~(iv)が例示される。
形態(i):窒素含有基が結合してなるリン原子と、炭化水素基が結合してなる窒素原子とが直接結合してなるホスファゼン結合。
形態(ii):窒素含有基が結合していないリン原子と、炭化水素基が結合してなる窒素原子とが直接結合してなるホスファゼン結合。
形態(iii):窒素含有基が結合してなるリン原子と、炭化水素基が結合していない窒素原子とが直接結合してなるホスファゼン結合。
形態(iv):窒素含有基が結合していないリン原子と、炭化水素基が結合していない窒素原子とが直接結合してなるホスファゼン結合。
【0028】
ここで、形態(ii)および(iv)におけるリン原子には、通常、窒素含有基以外の基が1つ又は2つ結合している。また形態(i)および(iii)におけるリン原子には、窒素含有基の結合数が1の場合は、通常は、窒素含有基以外の基が1つ結合している。
【0029】
形態(i)~(iv)における、上記窒素含有基、上記窒素含有基以外の基、上記炭化水素基については後述する。
【0030】
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーは、形態(i)のホスファゼン結合を必須として含むか、形態(ii)のホスファゼン結合および形態(iii)のホスファゼン結合を必須として含むものである。
【0031】
形態(i)のホスファゼン結合を必須として含むホスファゼン結合含有ポリマーにおいては、ホスファゼン結合として、さらに、形態(ii)、(iii)または(iv)のホスファゼン結合を有していてもよい。
上記ホスファゼン結合含有ポリマーにおける、形態(i)のホスファゼン結合の含有割合は特に限定されないが、ホスファゼン結合含有ポリマーに含まれるホスファゼン結合の合計100モル%に対し、形態(i)のホスファゼン結合の含有量が1~100モル%であることが好ましい。下限値は、より好ましくは3モル%以上、さらに好ましくは6モル%以上、さらにより好ましくは9モル%以上であり、特に好ましくは9モル%超である。
一方、上限値は、同様に、より好ましくは90モル%以下、さらに好ましくは75モル%以下、特に好ましくは60モル%以下である。
形態(i)のホスファゼン結合の含有量の範囲としては、より好ましくは3~90モル%であり、さらに好ましくは6~75モル%であり、さらにより好ましくは9~60モル%であり、特に好ましくは9モル%超~60モル%である。
【0032】
また、上記形態(i)のホスファゼン結合を含むホスファゼン結合含有ポリマーにおける、形態(ii)、(iii)および(iv)のホスファゼン結合の含有割合は特に限定されないが、ホスファゼン結合含有ポリマーに含まれるホスファゼン結合の合計100モル%に対し、形態(ii)、(iii)および(iv)のホスファゼン結合の合計含有量が0モル%以上、99モル%以下であることが好ましい。上限値は、より好ましくは97モル%以下、さらに好ましくは94モル%以下、さらにより好ましくは91モル%以下、特に好ましくは91モル%未満である。同様に下限値は、より好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは25モル%以上、さらにより好ましくは40モル%以上である。
形態(ii)、(iii)および(iv)のホスファゼン結合の合計含有量の範囲としては、0~99モル%が好ましく、より好ましくは10~97モル%であり、さらに好ましくは25~94モル%であり、さらにより好ましくは、40~91モル%であり、特に好ましくは、40モル%~91モル%未満である。
【0033】
形態(ii)のホスファゼン結合および形態(iii)のホスファゼン結合を必須として含むホスファゼン結合含有ポリマーにおいては、ホスファゼン結合として、さらに、形態(i)または(iv)のホスファゼン結合を有していてもよい。
【0034】
上記形態(ii)および形態(iii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン結合含有ポリマーにおける、形態(ii)のホスファゼン結合および形態(iii)のホスファゼン結合の含有割合は特に限定されないが、ホスファゼン結合含有ポリマーに含まれるホスファゼン結合の合計100モル%に対し、形態(ii)のホスファゼン結合および形態(iii)のホスファゼン結合の合計含有量が1~100モル%であることが好ましい。下限値は、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは10モル%以上、さらにより好ましくは15モル%以上である。上限値は、より好ましくは90モル%以下である。
形態(ii)のホスファゼン結合および形態(iii)のホスファゼン結合の含有割合の範囲としては、より好ましくは5~90モル%であり、さらに好ましくは10~90モル%であり、さらにより好ましくは、15~90モル%である。
【0035】
上記形態(ii)および形態(iii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン結合含有ポリマーにおける、形態(ii)のホスファゼン結合の含有割合は特に限定されないが、ホスファゼン結合含有ポリマーに含まれるホスファゼン結合の合計100モル%に対し、1~95モル%であることが好ましい。下限値は、より好ましくは3モル%以上、さらに好ましくは6モル%以上、さらにより好ましくは9モル%以上である。上限値は、より好ましくは80モル%以下、さらに好ましくは75モル%以下である。
形態(ii)のホスファゼン結合の含有割合の範囲としては、より好ましくは3~80モル%であり、さらに好ましくは6~75モル%である。
【0036】
上記形態(ii)および形態(iii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン結合含有ポリマーにおける、形態(iii)のホスファゼン結合の含有割合は特に限定されないが、ホスファゼン結合含有ポリマーに含まれるホスファゼン結合の合計100モル%に対し、5~99モル%であることが好ましい。下限値は、より好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは15モル%以上、さらにより好ましくは30モル%以上である。上限値は、より好ましくは87モル%以下、さらに好ましくは84モル%以下である。
形態(iii)のホスファゼン結合の含有割合の範囲としては、より好ましくは10~87モル%であり、さらに好ましくは15~84モル%である。
【0037】
上記形態(ii)および形態(iii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン結合含有ポリマーにおける、形態(iv)および形態(i)のホスファゼン結合の含有割合は特に限定されないが、ホスファゼン結合含有ポリマーに含まれるホスファゼン結合の合計100モル%に対し、形態(iv)のホスファゼン結合および形態(i)のホスファゼン結合の含有量が0~99モル%(99モル%以下)であることが好ましい。より好ましくは95モル%以下、さらに好ましくは90モル%以下、よりさらに好ましくは85モル%以下である。
【0038】
形態(i)のホスファゼン結合を必須として有する、ホスファゼン結合含有ポリマーの好ましい実施形態の一つが、後述する実施形態(1)である。
形態(ii)のホスファゼン結合と、形態(iii)のホスファゼン結合とを必須として有する、ホスファゼン結合含有ポリマーの好ましい実施形態の一つが、後述する実施形態(2)である。
【0039】
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーにおいて、ホスファゼン構造は鎖状構造であってもよく、環状構造であってもよい。ホスファゼン構造として鎖状構造のみを含むポリマーを鎖状ホスファゼン結合含有ポリマー、ホスファゼン構造として環状構造を含むポリマーを環状ホスファゼン結合含有ポリマーというものとする。ホスファゼン結合含有ポリマーが環状ホスファゼン構造を有するポリマーであることは、本発明の好適な実施形態の一つである。環状ホスファゼン結合含有ポリマーは、ホスファゼン構造として環状構造のみを含むポリマーと、ホスファゼン構造として環状構造および鎖状構造を含むポリマーのいずれをも含む。
本明細書では、ホスファゼン構造が環状構造である場合、該構造をホスファゼン環ともいう。環状ホスファゼン結合含有ポリマー(実施形態(3))、鎖状ホスファゼン結合含有ポリマー(実施形態(4))の詳細は、後述する。
【0040】
<窒素原子に結合した炭化水素基について>
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーにおいて、ホスファゼン結合を構成する窒素原子に結合してなる炭化水素基について説明する。
炭化水素基としては、1価の炭化水素基である場合と2価以上の炭化水素基である場合とを含む。
【0041】
上記1価の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基、アラルキル基等)または芳香族炭化水素基(アリール基)が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよく、アラルキル基でもよい。脂肪族炭化水素基としては、鎖状構造(脂肪族鎖状炭化水素基)でも環状構造(脂肪族環状炭化水素基)でもよい。またはこれらの炭化水素基の中から2種以上の炭化水素基からなる炭化水素基であってもよい。
中でも、1価の炭化水素基としては、炭素数1~18の脂肪族飽和炭化水素基、炭素数2~18の脂肪族不飽和炭化水素基、炭素数6~18の芳香族炭化水素基、炭素数7~17のアラルキル基が好ましく、炭素数1~18の脂肪族飽和炭化水素基がより好ましい。中でも炭素数1~18の脂肪族飽和炭化水素基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
アルキル基は、鎖状構造であっても、環状構造であってもよい。アルキル基が鎖状構造の場合、アルキル基を構成する炭素数は1~18であることが好ましく、1~12であることがより好ましく、1~6であることがさらに好ましく、1~3であることが一層好ましく、炭素数1、すなわちメチル基であることが特に好ましい。
アルキル基が環状構造の場合、アルキル基を構成する炭素数は3~18であることが好ましく、4~12であることがより好ましく、5~8であることがさらに好ましく、6であること、すなわちシクロへキシル基であることが特に好ましい。
【0042】
上記2価以上の炭化水素基としては、上述した1価の炭化水素基から価数に応じて水素原子が脱離した構造のものが挙げられ、好ましい形態は上記1価の炭化水素基から価数に応じた数の水素原子が脱離してできる基である。2価以上の炭化水素基の中でも2価の炭化水素基が好ましい。2価の炭化水素基は、ホスファゼン結合を構成する窒素原子に結合するとともに、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーが有するホスファゼン構造以外の他の構造と結合していてもよい。
【0043】
上記炭化水素基は、置換基を有していてもよい。該置換基は、その価数は特に限定されないが、通常は1価または2価である。
1価の置換基としては、1価の有機基、ハロゲン原子、水酸基、アルキルエーテル、アリールエーテル、アシル基等が好ましいものとして挙げられる。
ハロゲン原子の中では塩素原子、臭素原子、フッ素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
上記炭化水素基が有する1価の有機基としては、炭素数1~18の脂肪族飽和炭化水素基、炭素数2~18の脂肪族不飽和炭化水素基、炭素数6~18の芳香族炭化水素基、炭素数7~17のアラルキル基などが挙げられる。中でも炭素数1~18の脂肪族飽和炭化水素基が好ましい。
上記炭化水素基が有する2価の置換基としては、上述した1価の置換基から更に水素原子が1個脱離した構造のものや、酸素原子、硫黄原子等が挙げられる。上記2価の置換基は、ホスファゼン結合を構成する窒素原子に結合する炭化水素基に結合するとともに、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーが有するホスファゼン構造以外の他の構造と結合していてもよい。
【0044】
<リン原子に結合した窒素含有基について>
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーにおいて、ホスファゼン結合を構成するリン原子に結合してなる窒素含有基について説明する。
上記窒素含有基は、窒素を含有する有機基であれば、特に限定されないが、窒素含有基が有する窒素原子を介して、ホスファゼン結合を構成するリン原子(P)に結合していることが好ましい。
上記窒素含有基としては、たとえば、アミド残基、イミド残基、アミン残基等が挙げられる。ここで、アミン残基とはアミンを構成する窒素原子に結合した水素原子が1個脱離した構造を意味する。アミド残基、イミド残基についても同様である。これらの中では、アミン残基が好ましい。
【0045】
上記アミン残基としては、第1級アミンの残基、第2級アミンの残基が好ましく、第2級アミンの残基がより好ましい。
アミン残基としては、アミン残基を構成する窒素原子に結合した有機基が炭化水素基であるか、または、炭化水素基を含む有機基であるものが好ましい。
またアミン残基としては、アミン残基を構成する窒素原子に結合した有機基が鎖状であっても、環状であってもよい。環状の場合、複素環であってもよい。また、アミン残基を構成する窒素原子と有機基とで環状構造が形成されていてもよい。
またアミン残基としては、脂肪族アミンの残基であっても芳香族アミンの残基であってもよいが、脂肪族アミンの残基が好ましい。脂肪族アミンとしては、脂肪族鎖状アミンであってもよいし、脂肪族環状アミンであってもよい。脂肪族鎖状アミンとしては、ジエチルアミン、シクロヘキシルメチルアミン等が好ましい。脂肪族環状アミンとしては、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、アゼパンなどの脂肪族複素環式アミンが好ましい。脂肪族複素環式アミンの場合、複素環を構成する炭素以外のヘテロ元素としてアミノ基を構成する窒素原子以外の元素を含むものも好ましい。該元素としては酸素、硫黄等が好ましい。該元素が酸素である場合の好ましいアミンとしてはモルホリン、フェノキサジン等があげられる。また、芳香族アミンとしてはピリジン、ピロール、インドール、カルバゾール等の複素環式芳香族アミンが好ましい。
【0046】
上記アミン残基としては、分子中にアミノ基を1個のみ有する化合物(モノアミン)の残基であってもよいし、2個以上有する化合物(ポリアミン)の残基であってもよい。
モノアミンの場合は、構造中に1つだけ存在するアミノ基から水素原子が脱離した基(アミノ基残基)が窒素含有基としてリン原子に結合する。
ポリアミンである場合、構造中に複数存在するアミノ基のうち少なくとも1つについて、アミノ基から水素原子が脱離した基(アミノ基残基)が窒素含有基としてリン原子に結合するが、ポリアミンの構造中の複数のアミノ基残基が窒素含有基としてリン原子に結合していてもよく、また本発明のホスファゼン結合含有ポリマーが有するホスファゼン構造以外の他の構造に結合していてもよい。ポリアミン構造中の複数のアミノ基残基がリン原子に結合している場合、ポリアミン分子中の2つ以上のアミノ基残基が、同じリン原子に結合していてもよいし、異なるリン原子に結合していてもよい。
【0047】
上記窒素含有基としては、また、下記一般式(B-1)で表される基が好ましい。
【0048】
NRb1 (B-1)
(一般式(B-1)において、nは1または2である。nが2の場合、Rb1は、各々独立して、水素原子、または、置換基を有していてもよい1価または2価以上の炭化水素基を含む有機基を示す。nが1の場合、Rb1は、置換基を有していてもよい2価以上の炭化水素基を含む有機基を示す。)
【0049】
上記一般式(B-1)においてnが2の場合、2つのRb1は、いずれも、置換基を有していてもよい1価または2価以上の炭化水素基であることが好ましい。2つのRb1は、同一であっても異なっていてもよい。
以下、本明細書では一般式(B-1)で表される窒素含有基の内、nが1の場合における窒素含有基を窒素含有基(b1)、nが2の場合における窒素含有基を窒素含有基(b2)ということがある。特に断りがなく、単に、窒素含有基という場合は両方を含むこととする。
また、窒素含有基(b1)における、置換基を有していてもよい2価以上の炭化水素基を含む有機基(Rb1)を有機基(b1)、窒素含有基(b2)における、置換基を有していてもよい1価または2価以上の炭化水素基を含む有機基(Rb1)を有機基(b2)、ということもある。
【0050】
上記一般式(B-1)で表される窒素含有基は、炭化水素基を構成する炭素原子が、窒素含有基を構成する窒素原子に結合した構造の基であることが好ましい。
窒素含有基(b1)は、一般式(B-1)においてn=1の場合であり、Rb1として、有機基(b1)(置換基を有していてもよい2価以上の炭化水素基を含む有機基)を含む。
【0051】
窒素含有基(b1)においては、有機基(b1)に含まれる炭化水素基の2つの炭素原子が上記一般式(B-1)に記載の窒素原子に結合している。窒素原子に結合する各炭素原子は、有機基(b1)中の同一の炭化水素基を構成する炭素原子であってもよいし、有機基(b1)が同一または異なる2種以上の炭化水素基を含む場合には、異なる炭化水素基を構成する炭素原子であってもよい。
有機基(b1)は、炭化水素基を含むものであれば、特に限定されないが、有機基(b1)が2価の炭化水素基であることは有機基(b1)の好適な実施形態の1つであり、この場合、置換基を有しない2価の炭化水素基であることがより好ましい。
有機基(b1)としては、同一または異なる2種以上の炭化水素基が、特定の連結基を介して結合した基であってもよい。この場合、有機基(b1)は2つ以上の炭化水素基を含む基となる。好ましい連結基としては、-O-結合(エーテル結合)、-S-(チオエーテル結合)―C(=O)-O―(エステル結合)、-C(=O)-S-(チオエステル結合)等があげられる。中でもエーテル結合、チオエーテル結合がより好ましい。なお、エステル結合あるいはチオエステル結合における-C(=O)-はカルボニル構造を表し、エステル結合は-COO-、チオエステル結合は-COS-とも表現できる。以下においても同様である。
【0052】
有機基(b1)は、有機基(b1)に含まれる炭化水素基を介して、2つ以上の異なる窒素含有基を構成する基であってもよい。この場合、これらの窒素含有基は、一つのホスファゼン構造内に存在するリン原子に結合した窒素含有基であってもよいし、異なるホスファゼン構造内に存在するリン原子に結合した窒素含有基であってもよい。
【0053】
上述したように有機基(b1)が上記一般式(B-1)に記載の窒素原子を含む窒素含有基とは別の窒素含有基を構成する基でもある場合、別の窒素含有基は、有機基(b1)中の炭化水素基を構成する炭素原子が窒素原子に結合して構成される。有機基(b1)が上述したように2個以上の炭化水素基を有し、該炭化水素基が、2個以上の窒素含有基を構成する基である場合、各窒素含有基中の窒素原子に結合する炭素原子は同一の炭化水素基中の炭素原子であってもよいし、別々の炭化水素基を構成する炭素原子であってもよい。
【0054】
なお、窒素含有基(b1)を構成する有機基(b1)が上記一般式(B-1)に記載の窒素原子を含む窒素含有基とは別の窒素含有基をも構成する基である場合、別の窒素含有基は窒素含有基(b1)であっても(b2)であってもよい。いいかえれば別の窒素含有基を構成する有機基は、有機基(b1)であっても(b2)であってもよい。
別の窒素含有基を構成する有機基が有機基(b1)である場合の好ましい形態の1つとしては、有機基(b1)が、1つの炭化水素基のみを有し、当該炭化水素基の一方の末端で2つの炭素原子が上記一般式(B-1)に記載の窒素原子に結合し、他方の末端で2つの炭素原子が別の窒素原子に結合し、上記一般式(B-1)で表される基が、2つの窒素含有基を炭化水素基で連結した構造となっている形態が挙げられる。この場合、炭化水素基は4価の炭化水素基となる。
また別の窒素含有基を構成する有機基が有機基(b2)である場合の好ましい形態の1つとしては、有機基(b1)が、1つの炭化水素基のみを有し、当該炭化水素基の一方の末端で2つの炭素原子が上記一般式(B-1)に記載の窒素原子に結合し、他方の末端で1つの炭素原子が別の窒素原子に結合し、上記一般式(B-1)で表される基が2つの窒素含有基を炭化水素基で連結した構造となっている形態が挙げられる。この場合、炭化水素基は3価の炭化水素基となる。
【0055】
窒素含有基(b1)を構成する有機基(b1)が上記一般式(B-1)に記載の窒素原子を含む窒素含有基とは別の窒素含有基をも構成する基である場合、有機基(b1)は、窒素含有基以外の、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーが有する他の構造に結合していてもよい。他の構造への結合は、有機基(b1)に含まれる炭化水素基を構成する炭素原子を介した結合でもよいし、置換基の一部で結合したものであってもよい。
【0056】
窒素含有基(b2)は、一般式(B-1)においてn=2の場合であり、Rb1として、水素原子、または、有機基(b2)(置換基を有していてもよい1価または2価以上の炭化水素基を含む有機基)を含む。有機基(b2)は、有機基(b2)に含まれる炭化水素基を構成する1つの炭素原子のみで上記一般式(B-1)に記載の窒素原子と結合する。窒素含有基(b2)においては、上記一般式(B-1)に記載の窒素原子に1つの有機基(b2)のみが結合していてもよく、2つ以上の有機基(b2)が結合していてもよい。
窒素含有基(b2)は、少なくとも1つの有機基(b2)を含み、2つのRb1がいずれも、有機基(b2)であることが好ましい。有機基(b2)は、炭化水素基であることが好ましく、置換基を有しない炭化水素基であることがより好ましい。
有機基(b2)としては、同一または異なる2種以上の炭化水素基が、特定の連結基を介して結合した基であってもよい。好ましい連結基としては、-O-結合(エーテル結合)、-S-(チオエーテル結合)―C(=O)-O―(エステル結合)、-C(=O)-S-(チオエステル結合)、―S(=O)―(スルホキシド結合)、―S(=O)2―(スルホニル結合)等があげられる。中でもエーテル結合、スルホニル結合がより好ましい。
【0057】
有機基(b2)は、有機基(b2)に含まれる炭化水素基を構成する1つの炭素原子のみで上記一般式(B-1)に記載の窒素原子と結合して窒素含有基を構成する基であるが、さらに、上記一般式(B-1)に記載の窒素原子を含む窒素含有基とは別の窒素含有基を構成する基であってもよい。すなわち、有機基(b2)が上記一般式(B-1)に記載の窒素原子を含む窒素含有基(b2)を構成する基であると同時に、一般式(B-1)に記載の窒素原子とは別の窒素原子を含む窒素含有基を構成する有機基であってもよい。この場合の好ましい形態の1つとしては、有機基(b2)が、1つの炭化水素基のみを有し、当該炭化水素基の一方の末端で1つの炭素原子が上記一般式(B-1)に記載の窒素原子に結合し、他方の末端で1つの炭素原子が別の窒素原子に結合し、上記一般式(B-1)で表される基が2つの窒素含有基を炭化水素基で連結した構造となっている形態が挙げられる。この場合、炭化水素基は2価の炭化水素基となる。
【0058】
このように窒素含有基(b2)が2つ以上の窒素含有基を構成する基である場合、これらの窒素含有基は、同じリン原子に結合した窒素含有基であってもよいし、一つのホスファゼン構造を構成するリン原子に結合した窒素含有基であってもよいし、異なるホスファゼン構造を構成するリン原子に結合した窒素含有基であってもよい。
【0059】
上述したように有機基(b2)が上記一般式(B-1)に記載の窒素原子を含む窒素含有基とは別の窒素含有基を構成する基でもある場合、別の窒素含有基は、好ましくは、有機基(b2)中の炭化水素基を構成する炭素原子が窒素原子に結合したものとなる。有機基(b2)が上述したように2種以上の炭化水素基を有し、該炭化水素基が、2つ以上の窒素含有基を構成する基である場合、各窒素含有基中の窒素原子に結合する炭素原子は同一の炭化水素基中の炭素原子であってもよいし、別々の炭化水素基を構成する炭素原子であってもよい。
なお、窒素含有基(b2)を構成する有機基(b2)が上記一般式(B-1)に記載の窒素原子を含む窒素含有基とは別の窒素含有基をも構成する基である場合、別の窒素含有基は窒素含有基(b1)であっても(b2)であってもよい。いいかえれば別の窒素含有基を構成する有機基は、有機基(b1)であっても(b2)であってもよい。
【0060】
また、有機基(b2)は、窒素含有基以外の、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーが有するホスファゼン構造以外の他の構造に結合していてもよい。他の構造への結合は、炭化水素基を構成する炭素原子を介した結合でもよいし、置換基の一部で結合したものであってもよい。
【0061】
次に、窒素含有基(窒素含有基(b1)、(b2)を含む)を構成する炭化水素基について説明する。
1価の炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基、アラルキル基等)または芳香族炭化水素基(アリール基)が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよく、アラルキル基でもよい。脂肪族炭化水素基としては、鎖状構造(脂肪族鎖状炭化水素基)でも環状構造(脂肪族環状炭化水素基)でもよい。またはこれらの炭化水素基の中から2種以上の炭化水素基からなる炭化水素基であってもよい。
中でも、1価の炭化水素基としては、炭素数1~18の脂肪族飽和炭化水素基、炭素数2~18の脂肪族不飽和炭化水素基、炭素数6~18の芳香族炭化水素基、炭素数7~17のアラルキル基が好ましく、炭素数1~18の脂肪族飽和炭化水素基がより好ましい。中でも炭素数6~18の脂肪族飽和環状炭化水素基(シクロアルキル基)がさらに好ましい。
【0062】
2価の炭化水素基としては、上述した1価の炭化水素基から水素原子が1個脱離した構造のものが挙げられ、2価の炭化水素基としては、1価の炭化水素基として記載した炭化水素基と同様に、2価である点を除いて、脂肪族炭化水素基でも芳香族炭化水素基でもよく、飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよく、鎖状構造でも環状構造でもよく、これらの炭化水素基の2種以上を組み合わせてできる炭化水素基であってもよい。
2価の炭化水素基の中でも、炭素数1~18の脂肪族飽和炭化水素基、炭素数2~18の脂肪族不飽和炭化水素基、炭素数6~18の芳香族炭化水素基、炭素数7~17のアラルキル基が好ましく、炭素数1~18の脂肪族飽和炭化水素基がより好ましく、炭素数2~12の脂肪族飽和鎖状炭化水素基がさらに好ましく、炭素数4~7の脂肪族飽和鎖状炭化水素基が特に好ましい。
【0063】
3価以上の炭化水素基としては、2価の炭化水素基における水素原子の脱離数が価数に応じて異なる以外は、好ましい形態は上記2価の炭化水素基の場合と同様である。
【0064】
有機基(b1)および有機基(b2)のそれぞれに含まれる各炭化水素基は置換基を有していてもよい。該置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基、アミド基、エーテル基、エステル基、チオエーテル基等が好ましいものとして挙げられる。ハロゲン原子の中では塩素原子、臭素原子、フッ素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0065】
上述したように、上記置換基は、窒素含有基を構成する炭化水素基に結合するとともに、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーが有する他のホスファゼン結合またはホスファゼン構造以外の他の構造と結合していてもよい。
【0066】
<リン原子に結合する窒素含有基以外の基>
ホスファゼン結合を構成するリン原子に結合する窒素含有基以外の基について説明する。
上記の窒素含有基以外の基としては、その価数は特に限定されないが、通常は1価または2価である。該基の種類も特に限定されないが、1価の基としては、水酸基、ハロゲン原子、炭化水素基、OR01基、C(=O)R02基、SR03基が好ましく挙げられる。
2価の基としては、1価の基(たとえば、炭化水素基、OR01基、C(=O)R02基、SR03基)から更に水素原子が1個脱離した構造のものや、これら1価の基の同種又は異種を2つ組み合わせてできる基、酸素原子、硫黄原子等が挙げられ、このうち、上述した1価の基(たとえば、炭化水素基、OR01基、C(=O)R02基、SR03基)から更に水素原子が1個脱離した構造のものや、これら1価の基の同種又は異種を2つ組み合わせてできる基が好ましい。
ここで、R01、R02およびR03は、各々独立に、炭化水素基である。
【0067】
上記リン原子に結合する窒素含有基以外の基が炭化水素基である場合の炭化水素基としては特に限定されないが、脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基、アラルキル基等)または芳香族炭化水素基(アリール基)が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよく、アラルキル基でもよく、鎖状構造(脂肪族鎖状炭化水素基)でも環状構造(脂肪族環状炭化水素基)でもよい。またはこれらの炭化水素基の2種以上を組み合わせてできる炭化水素基であってもよい。
中でも、炭素数1~18の脂肪族飽和炭化水素基、炭素数2~18の脂肪族不飽和炭化水素基、炭素数6~18の芳香族炭化水素基、炭素数7~17のアラルキル基が好ましく、炭素数6~18の芳香族炭化水素基がより好ましい。
上記R01、R02およびR03は、各々独立に、炭化水素基であるが、その好ましい態様は、上記の炭化水素基と同様である。
ハロゲン原子の中では塩素原子、臭素原子、フッ素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0068】
1価の基(たとえば、炭化水素基、OR01基、C(=O)R02基、SR03基)の同種又は異種を2つ組み合わせてできる基としては、これら1価の基に含まれる炭化水素基部分を結合してできる基が挙げられる。この場合、例えば、2つのOR01基を2つ組み合わせた基(-OR01-R01O-基。この場合、2つのR01で表される炭化水素基は同一でも異なっていてもよい。)のように、同じ種類の基を2つ結合してできる基であってもよく、異なる種類の基を2つ結合してできる基であってもよい。
【0069】
上記2価の基は、たとえば、上述した形態(iv)を構成するリン原子に結合するとともに、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーが有するホスファゼン構造以外の他の構造と結合していてもよい。
【0070】
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーは、ホスファゼン構造を主鎖に有するものであってもよく、側鎖に有するものであってもよく、これら両方に有するものであってもよい。ホスファゼン構造を主鎖に有する場合、ポリマーの主鎖はホスファゼン構造のみからなるものであってもよく、ホスファゼン構造と、ホスファゼン構造の間をつなぐ連結基とからなるものであってもよいが、ホスファゼン構造と、ホスファゼン構造の間をつなぐ連結基とからなるものであることが好ましい。この場合、ホスファゼン結合含有ポリマーはホスファゼン構造と連結基とからなる繰り返し単位を有するポリマーとなる。この場合、連結基としては、後述する実施形態(3)の連結基Z1が挙げられる。
またホスファゼン構造を側鎖に有する場合、側鎖に有する場合、繰り返し単位の構造は特に制限されないが、炭化水素基の側鎖にホスファゼン構造が結合した構造のものが好ましい。
【0071】
以下に、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの好ましい実施形態((1)~(4)等)について説明する。
なお、上記本発明のホスファゼン結合含有ポリマーに関して説明した、ポリマーの各種構成および各種構成における好ましい態様は、特に断りのない限り、各実施形態((1)~(4)等)にも同様に適用される。
【0072】
また、本明細書に記載された各実施形態および各実施形態における好ましい態様を組合せて構成される形態のポリマーもまた、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの好ましい実施形態である。
<実施形態(1)にかかるホスファゼン結合含有ポリマー>
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの好ましい実施形態の一つ(実施形態(1))として、下記一般式(A-1)で表される構造単位(A-1)を含むものが挙げられる。
【0073】
【化1】
(式中、Yは炭化水素基であり、XおよびXは、各々独立に、水酸基、ハロゲン原子、炭化水素基、OR11基、C(=O)R12基、SR13基および窒素含有基からなる群から選択される少なくとも1種を示し、XおよびXの少なくとも1つは窒素含有基である。炭化水素基、OR11基、C(=O)R12基、SR13基および窒素含有基は、1価の基であってもよく、2価の基であって、Yの炭化水素基と結合した基、ホスファゼン結合含有ポリマーが有する当該構造単位(A-1)のホスファゼン構造以外の他のホスファゼン構造またはホスファゼン構造以外の他の構造にも結合した基であってもよい。またXとXとが結合していてもよい。R11、R12およびR13は、各々独立に、炭化水素基である。なお、式中のリン原子Pまたは窒素原子Nは正電荷を有していてもよい。)
【0074】
すなわち、実施形態(1)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーは、ホスファゼン結合として、上記一般式(A-1)で表される構造単位(A-1)を含むことを特徴とする。実施形態(1)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーは、構造単位(A-1)を構造中に1つ有していてもよく、2つ以上有していてもよい。また、構造単位(A-1)を繰り返し単位又は繰り返し単位の一部として有していてもよい。
【0075】
一般式(A-1)において、Yは炭化水素基である。該炭化水素基については、その好ましい態様も含め、上記において説明した、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーにおいて窒素原子に結合した炭化水素基と同様である。
上記一般式(A-1)における窒素含有基は、その好ましい態様も含め、上記において説明した、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーにおいてリン原子に結合した窒素含有基と同様である。
、Xで表される、炭化水素基としては特に限定されないが、脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基、アラルキル基等)または芳香族炭化水素基(アリール基)が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよく、アラルキル基でもよく、鎖状構造(脂肪族鎖状炭化水素基)でも環状構造(脂肪族環状炭化水素基)でもよい。またはこれらの炭化水素基の中から2種以上の炭化水素基からなる炭化水素基であってもよい。
中でも、炭素数1~18の脂肪族飽和炭化水素基、炭素数2~18の脂肪族不飽和炭化水素基、炭素数6~18の芳香族炭化水素基、炭素数7~17のアラルキル基が好ましい。なかでも炭素数6~18の芳香族炭化水素基が好ましい。
上記R11、R12およびR13は、各々独立に、炭化水素基であるが、その好ましい態様は、XおよびXで表される炭化水素基と同様である。
ハロゲン原子の中では塩素原子、臭素原子、フッ素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
炭化水素基、OR11基、C(=O)R12基、SR13基および窒素含有基が2価の基である場合、それらの基は、1価の基である場合の炭化水素基、OR11基、C(=O)R12基、SR13基および窒素含有基から水素原子が1個脱離した構造のものや、これら1価の基の同種又は異種を2つ組み合わせてできる基である。
【0076】
上記一般式(A-1)には、示していないが、式中のリン原子Pまたは該N(窒素原子)は正電荷を有していてもよい。
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの説明においてカチオン性ポリマーとなる一条件を説明したが、一般式(A-1)で表される構造単位に含まれるリン原子は、該条件を満たすため、実施形態(1)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーは、通常はカチオン性ポリマーとなり、イオン伝導性、アニオン交換性に優れたポリマーとなる。よって、実施形態(1)においてもカチオン性ポリマーであることは好ましい形態である。
生じた正電荷は、Yが結合したN(窒素原子)に隣接するP(リン原子)(たとえば式中のP)に局在化していてもよいし、Yが結合したN(窒素原子)に局在化していてもよいし、該P(リン原子)または該N(窒素原子)を含むホスファゼン構造に非局在化していてもよい。
実施形態(1)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーは、カウンターアニオンを有していてもよい。カウンターアニオンを構成する材料、含有量、好ましい態様等は、上記本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの説明に記載したとおりである。
【0077】
実施形態(1)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーは、ホスファゼン結合として、構造単位(A-1)以外の構造単位を有していてもよい。たとえば、後述する一般式(A-2)で表される構造単位(A-2)、一般式(A-3)で表される構造単位(A-3)または、下記一般式(A-4)で表される構造単位(A-4)を有することができ、このようなホスファゼン結合含有ポリマーも好ましい実施形態の一つである。
【0078】
【化2】
(一般式(A-4)におけるXおよびXは、各々独立に、水酸基、ハロゲン原子、炭化水素基、OR41基、C(=O)R42基およびSR43基からなる群から選択される少なくとも1種を示す。炭化水素基、OR41基、C(=O)R42基およびSR43基は、1価の基であってもよく、2価の基であって、ホスファゼン結合含有ポリマーが有する当該構造単位(A-4)のホスファゼン構造以外の他のホスファゼン構造またはホスファゼン構造以外の他の構造にも結合した基であってもよい。またXとXとが結合していてもよい。R41、R42およびR43は各々独立に、炭化水素基である。)
【0079】
実施形態(1)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーが、構造単位(A-2)を有する場合、構造中に1つ有していてもよく、2つ以上有していてもよい。また、構造単位(A-2)を繰り返し単位又は繰り返し単位の一部として有していてもよい。構造単位(A-3)、構造単位(A-4)についても同様である。
【0080】
一般式(A-4)におけるXおよびXとしては、OR41基が好ましい。
上記のR41、R42およびR43は各々炭化水素基であるが、その好ましい態様は、一般式(A-1)におけるR11等と同様である。
上記のXおよびXの1種である炭化水素基についても、その好ましい態様は、一般式(A-1)におけるXおよびXにおける炭化水素基と同様である。
【0081】
上記実施形態(1)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーにおいて、ホスファゼン結合を構成する窒素原子のうち、炭化水素基が結合した窒素原子の含有量は特に限定されないが、イオン伝導性に優れるものとなり易い観点から、ホスファゼン結合を構成する全ての窒素原子数1に対し、炭化水素基が結合した窒素原子の数は、1/10以上が好ましく、より好ましくは2/15以上であり、特に好ましくは1/6以上である。上限は特に限定されないが、2/3以下であることが好ましく、より好ましくは3/5以下、さらに好ましくは8/15以下である。
ホスファゼン結合を構成する全ての窒素原子数1に対する炭化水素基が結合した窒素原子の数の範囲としては1/10~2/3が好ましく、より好ましくは2/15~3/5であり、更に好ましくは1/6~8/15である。
【0082】
上記実施形態(1)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーにおいて、ホスファゼン結合を構成するリン原子のうち、窒素含有基が結合したリン原子の含有量は特に限定されないが、イオン伝導性に優れるものとなり易い観点から、ホスファゼン結合を構成する全てのリン原子数1に対し、窒素含有基が結合したリン原子の数は、1/3以上が好ましく、より好ましくは2/3以上であり、特に好ましくは1以上である。上限は特に限定されないが、10以下であることが好ましい。
ホスファゼン結合を構成する全てのリン原子数1に対する窒素含有基が結合したリン原子の数の範囲としては、1/3~10が好ましく、より好ましくは2/3~10であり、更に好ましくは1~10である。
【0083】
上記実施形態(1)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーにおける、構造単位(A―1)の含有割合は特に限定されないが、ホスファゼン結合含有ポリマーに含まれるホスファゼン構造を構成する構造単位100モル%に対し、構造単位(A-1)の含有量が1~100モル%であることが好ましい。下限値は、より好ましくは3モル%以上、さらに好ましくは6モル%以上、さらにより好ましくは9モル%以上であり、特に好ましくは9モル%超である。一方、上限値は、同様に、より好ましくは90モル%以下、さらに好ましくは75モル%以下、特に好ましくは60モル%以下である。
ホスファゼン結合含有ポリマーに含まれるホスファゼン構造を構成する構造単位100モル%に対する構造単位(A-1)の含有量の範囲としては、3~90モル%が好ましく、より好ましくは6~75モル%であり、更に好ましくは9~60モル%であり、特に好ましくは、9モル%超~60モル%である。
【0084】
上記実施形態(1)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーにおける、構造単位(A―2)、(A-3)および(A-4)の含有割合は特に限定されないが、ホスファゼン結合含有ポリマーに含まれるホスファゼン構造を構成する構造単位100モル%に対し、構造単位(A-2)、(A-3)および(A-4)の合計含有量が0モル%以上、99モル%以下であることが好ましい。上限値は、より好ましくは97モル%以下、さらに好ましくは94モル%以下、さらにより好ましくは91モル%以下、特に好ましくは91モル%未満である。同様に下限値は、より好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは25モル%以上、さらにより好ましくは40モル%以上である。
ホスファゼン結合含有ポリマーに含まれるホスファゼン構造を構成する構造単位100モル%に対する構造単位(A-2)、(A-3)および(A-4)の合計含有量の範囲としては、0~99モル%が好ましく、より好ましくは10~97モル%であり、更に好ましくは25~94モル%であり、さらにより好ましくは、40~91モル%であり、特に好ましくは、40モル%~91モル%未満である。
【0085】
<実施形態(2)にかかるホスファゼン結合含有ポリマー>
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの好ましい実施形態の一つ(実施形態(2))として、下記一般式(A-2)で表される構造単位(A-2)および下記一般式(A-3)で表される構造単位(A-3)を含むものが挙げられる。
【0086】
【化3】
(式中、Yは炭化水素基であり、XおよびXは、各々独立に、水酸基、ハロゲン原子、炭化水素基、OR21基、C(=O)R22基、およびSR23基からなる群から選択される少なくとも1種を示す。炭化水素基、OR21基、C(=O)R22基、およびSR23基は、1価の基であってもよく、2価の基であって、Yの炭化水素基と結合した基、ホスファゼン結合含有ポリマーが有する当該構造単位(A-2)のホスファゼン構造以外の他のホスファゼン構造またはホスファゼン構造以外の他の構造にも結合した基であってもよい。またXとXとが結合していてもよい。R21、R22およびR23は、各々独立に、炭化水素基である。なお、式中のリン原子Pまたは窒素原子Nは正電荷を有していてもよい。)
【0087】
【化4】
(式中、XおよびXは、各々独立に、水酸基、ハロゲン原子、炭化水素基、OR31基、C(=O)R32基、SR33基および窒素含有基からなる群から選択される少なくとも1種を示し、且つ、XおよびXの少なくとも1つは窒素含有基である。炭化水素基、OR31基、C(=O)R32基、SR33基および窒素含有基は、1価の基であってもよく、2価の基であって、ホスファゼン結合含有ポリマーが有する当該構造単位(A-3)のホスファゼン構造以外の他のホスファゼン構造またはホスファゼン構造以外の他の構造にも結合した基であってもよい。またXとXとが結合していてもよい。R31、R32およびR33は、各々独立に、炭化水素基である。)
【0088】
すなわち、実施形態(2)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーは、ホスファゼン結合として、上記一般式(A-2)で表される構造単位(A-2)および記一般式(A-3)で表される構造単位(A-3)を含むことを特徴とする。実施形態(2)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーは、構造単位(A-2)を構造中に1つ有していてもよく、2つ以上有していてもよい。また、構造単位(A-2)を繰り返し単位又は繰り返し単位の一部として有していてもよい。構造単位(A-3)についても同様である。
【0089】
上記一般式(A-2)における、Yは炭化水素基であり、その好ましい態様も含め、上記本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの説明に記載した、窒素原子に結合した炭化水素基と同様である。
上記のXおよびXは、各々独立に、水酸基、ハロゲン原子、炭化水素基、OR21基、C(=O)R22基およびSR23基からなる群から選択される少なくとも1種を示すが、中でも、OR21基が好ましい。
上記R21、R22およびR23は炭化水素基であり、その好ましい態様は、一般式(A-1)におけるR11等と同様である。
上記XおよびXの1種である炭化水素基についても、その好ましい態様は、一般式(A-1)におけるXおよびXにおける炭化水素基と同様である。
【0090】
上記一般式(A-3)における、XおよびXは、各々独立に、水酸基、ハロゲン原子、炭化水素基、OR31基、C(=O)R32基、SR33基および窒素含有基からなる群から選択される少なくとも1種を示し、且つ、XおよびXの少なくとも1つは窒素含有基である。
上記窒素含有基は、その好ましい態様も含め、上記本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの説明に記載した、リン原子に結合した窒素含有基と同様である。
上記窒素含有基以外のXおよびXの好ましい態様は、一般式(A-1)におけるXおよびXの場合と同様である。
上記R31、R32およびR33は炭化水素基であり、その好ましい態様は、一般式(A-1)におけるR11等と同様である。
およびXの1種である炭化水素基についても、その好ましい態様は、一般式(A-1)におけるXおよびXにおける炭化水素基と同様である。
【0091】
上記一般式(A-2)には、示していないが、式中のリン原子Pまたは窒素原子Nは正電荷を有していてもよい。該正電荷がP(リン原子)またはN(窒素原子)に局在化していてもよいし、構造単位(A-2)を含むホスファゼン構造に非局在化していてもよい。
上記本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの説明においてカチオン性ポリマーとなる一条件を説明したが、一般式(A-2)で表される構造単位に含まれるリン原子は該条件を満たすため、実施形態(2)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーは、通常はカチオン性ポリマーとなり、イオン伝導性、アニオン交換性に優れたポリマーとなる。よって、実施形態(2)においてもカチオン性ポリマーであることは好ましい形態である。
生じた正電荷は、Yが結合したN(窒素原子)に隣接するP(リン原子)(たとえば式中のP)に局在化していてもよいし、Yが結合したN(窒素原子)に局在化していてもよいし、該P(リン原子)または該N(窒素原子)を含むホスファゼン構造に非局在化していてもよい。
【0092】
上記実施形態(2)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーは、カウンターアニオンを有していてもよい。カウンターアニオンを構成する材料、含有量、好ましい態様等は、上記本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの説明に記載したとおりである。
【0093】
上記実施形態(2)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーにおいて、ホスファゼン結合を構成する窒素原子のうち、炭化水素基が結合した窒素原子の含有量は特に限定されないが、イオン伝導性に優れるものとなり易い観点から、ホスファゼン結合を構成する全ての窒素原子数1に対し、炭化水素基が結合した窒素原子の数は、1/10以上が好ましく、より好ましくは2/15以上であり、特に好ましくは1/6以上である。上限は特に限定されないが、2/3以下であることが好ましく、より好ましくは3/5以下、さらに好ましくは8/15以下である。
ホスファゼン結合を構成する全ての窒素原子数1に対する炭化水素基が結合した窒素原子の数の範囲としては1/10~2/3が好ましく、より好ましくは2/15~3/5であり、更に好ましくは1/6~8/15である。
【0094】
上記実施形態(2)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーにおいて、ホスファゼン結合を構成するリン原子のうち、窒素含有基が結合したリン原子の含有量は特に限定されないが、イオン伝導性に優れるものとなり易い観点から、ホスファゼン結合を構成する全てのリン原子数1に対し、窒素含有基が結合したリン原子の数は、1/3以上が好ましく、より好ましくは2/3以上であり、特に好ましくは1以上である。上限は特に限定されないが、10以下であることが好ましい。
ホスファゼン結合を構成する全てのリン原子数1に対する窒素含有基が結合したリン原子の数の範囲としては、1/3~10が好ましく、より好ましくは2/3~10であり、更に好ましくは1~10である。
【0095】
上記実施形態(2)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーは、ホスファゼン結合として、構造単位(A-2)および(A-3)以外の構造単位を有していてもよい。たとえば、上述した構造単位(A-1)または構造単位(A-4)を有していてもよい。
実施形態(2)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーが、構造単位(A-1)を有する場合、構造中に1つ有していてもよく、2つ以上有していてもよい。また、構造単位(A-1)を繰り返し単位又は繰り返し単位の一部として有していてもよい。構造単位(A-4)についても同様である。
【0096】
上記実施形態(2)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーにおける、構造単位(A-2)および(A-3)の含有割合は特に限定されないが、ホスファゼン結合含有ポリマーに含まれるホスファゼン構造を構成する構造単位100モル%に対し、構造単位(A-2)および(A-3)の合計含有量が1~100モル%であることが好ましい。下限値は、より好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは10モル%以上、さらにより好ましくは15モル%以上である。上限値は、より好ましくは90モル%以下である。
ホスファゼン結合含有ポリマーに含まれるホスファゼン構造を構成する構造単位100モル%に対する構造単位(A-2)および(A-3)の合計含有量の範囲としては、1~100モル%が好ましく、より好ましくは5~90モル%であり、さらに好ましくは10~90モル%であり、さらにより好ましくは、15~90モル%である。
【0097】
上記実施形態(2)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーにおける、構造単位(A-2)の含有割合は特に限定されないが、ホスファゼン結合含有ポリマーに含まれるホスファゼン構造を構成する構造単位100モル%に対し、構造単位(A-2)の含有量が1~95モル%であることが好ましい。下限値は、より好ましくは3モル%以上、さらに好ましくは6モル%以上、さらにより好ましくは9モル%以上である。上限値は、より好ましくは80モル%以下である。
ホスファゼン結合含有ポリマーに含まれるホスファゼン構造を構成する構造単位100モル%に対する構造単位(A-2)の含有量の範囲としては、1~95モル%が好ましく、より好ましくは3~80モル%であり、さらに好ましくは6~75モル%であり、さらにより好ましくは、9~60モル%である。
【0098】
上記実施形態(2)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーにおける、構造単位(A-3)の含有割合は特に限定されないが、ホスファゼン結合含有ポリマーに含まれるホスファゼン構造を構成する構造単位100モル%に対し、構造単位(A-3)の含有量が5~99モル%であることが好ましい。下限値は、より好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは15モル%以上、さらにより好ましくは30モル%以上である。上限値は、より好ましくは87モル%以下である。
ホスファゼン結合含有ポリマーに含まれるホスファゼン構造を構成する構造単位100モル%に対する構造単位(A-3)の含有量の範囲としては、5~99モル%が好ましく、より好ましくは10~87モル%であり、さらに好ましくは15~84モル%であり、さらにより好ましくは、30~81モル%である。
【0099】
上記実施形態(2)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーにおける、構造単位(A-4)および(A-1)の含有割合は特に限定されないが、ホスファゼン結合含有ポリマーに含まれるホスファゼン構造を構成する構造単位100モル%に対し、構造単位(A-4)および(A-1)の合計含有量は0~99モル%であることが好ましい。より好ましくは95モル%以下、さらに好ましくは90モル%以下、よりさらに好ましくは85モル%以下である。
ホスファゼン結合含有ポリマーに含まれるホスファゼン構造を構成する構造単位100モル%に対する構造単位(A-4)および(A-1)の合計含有量の範囲としては、0~99モル%が好ましく、より好ましくは0~95モル%であり、さらに好ましくは0~90モル%であり、さらにより好ましくは、0~85モル%である。
【0100】
<実施形態(3):環状ホスファゼン結合含有ポリマー>
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの好ましい一実施形態である、環状ホスファゼン結合含有ポリマーについて説明する。なお、環状ホスファゼン結合含有ポリマーを、環含有ポリマーと略して記載することがある。
実施形態(3)にかかる環含有ポリマーは、ホスファゼン構造として環状構造(ホスファゼン環)を含む。本発明の環含有ポリマーに含まれるホスファゼン環としては、入手容易性の観点から、4員環、6員環、8員環が好ましく、6員環、8員環がより好ましく、6員環が特に好ましい。
なお、ホスファゼン環は、ホスファゼン結合により構成された環をいい、たとえば、環を構成するリン原子と窒素原子とをそれぞれ3個含む構造を、言い換えれば3つのホスファゼン結合から構成される環を、6員環あるいは6員環構造(のホスファゼン環)という。
4員環のホスファゼン環とは、その基本的な構造として、シクロビスホスファゼン構造を意味する。同様に、6員環のホスファゼン環とはシクロトリホスファゼン構造、8員環のホスファゼン環とはシクロテトラホスファゼン構造を意味する。
上記本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの説明に記載したのと同様に、実施形態(3)にかかる環含有ポリマーにおいてもカチオン性ポリマーであること、またカウンターアニオンを有することは、好ましい形態である。
【0101】
上記実施形態(3)にかかる環含有ポリマーを構成するホスファゼン結合の形態としては、上記本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの説明に記載した形態(i)~(iv)と同様の形態が好ましく例示される。上記環含有ポリマーにおける好ましい形態としては、その分子中に、上記形態(i)のホスファゼン結合を含むホスファゼン環、および/または、形態(ii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン環および形態(iii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン環を有する形態があげられる。中でも、形態(i)のホスファゼン結合を含むホスファゼン環を有することがより好ましい。
【0102】
形態(i)のホスファゼン結合を含むホスファゼン環を含有する環含有ポリマーにおいては、さらに、形態(ii)、(iii)または(iv)のホスファゼン結合を含むホスファゼン環を有していてもよい。形態(ii)、(iii)または(iv)のホスファゼン結合を含むホスファゼン環は各々同一であってもよいし、異なっていてもよく、形態(i)のホスファゼン結合を含むホスファゼン環と同一のホスファゼン環であってもよいし、異なるホスファゼン環であってもよい。各形態のホスファゼン結合の含有割合はその好ましい態様も含め、上記本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの説明に記載したとおりである。
【0103】
形態(ii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン環および形態(iii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン環を有する形態において、形態(ii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン環と、形態(iii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン環とは同一であってもよいし、異なっていてもよい。形態(ii)のホスファゼン結合および形態(iii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン環を上記環含有ポリマーが含むことが好ましい。
【0104】
形態(ii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン環および形態(iii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン環を含有する形態の環含有ポリマーにおいては、ホスファゼン結合として、さらに、形態(i)または(iv)のホスファゼン結合を有していてもよいが、形態(i)のホスファゼン結合は含まないことが好ましい。各形態のホスファゼン結合の含有割合はその好ましい態様も含め、上記本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの説明に記載したとおりである。
【0105】
上記実施形態(3)にかかる環含有ポリマーにおいて、ホスファゼン結合を構成する窒素原子の内、炭化水素基が結合した窒素原子の含有量は特に限定されないが、その好ましい範囲は上記本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの説明に記載したとおりである。すなわち、イオン伝導性に優れるものとなり易い観点から、ホスファゼン結合を構成する全ての窒素原子数1に対し、炭化水素基が結合した窒素原子の数は、1/10以上が好ましく、より好ましくは2/15以上であり、特に好ましくは1/6以上である。上限は特に限定されないが、2/3以下であることが好ましく、より好ましくは3/5以下、さらに好ましくは8/15以下である。
ホスファゼン結合を構成する全ての窒素原子数1に対する炭化水素基が結合した窒素原子の数の範囲としては1/10~2/3が好ましく、より好ましくは2/15~3/5であり、更に好ましくは1/6~8/15である。
上記割合は、31P-NMR測定により求めることができる。
【0106】
上記実施形態(3)にかかる環含有ポリマーにおいて、ホスファゼン結合を構成するリン原子のうち、窒素含有基が結合したリン原子の含有量は特に限定されないが、その好ましい範囲は上記本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの説明に記載したとおりである。すなわち、イオン伝導性に優れるものとなり易い観点から、ホスファゼン結合を構成する全てのリン原子数1に対し、窒素含有基が結合したリン原子の数は、1/3以上が好ましく、より好ましくは2/3以上であり、特に好ましくは1以上である。上限は特に限定されないが、10以下であることが好ましい。
ホスファゼン結合を構成する全てのリン原子数1に対する窒素含有基が結合したリン原子の数の範囲としては、1/3~10が好ましく、より好ましくは2/3~10であり、更に好ましくは1~10である。
これらの割合は、31P-NMR測定により求めることができる。
【0107】
上記実施形態(3)にかかる環含有ポリマーにおける、ホスファゼン環の含有割合は、ホスファゼン構造を構成するリン原子数で表したとき、該ポリマーに含まれる全ホスファゼン構造100原子%に対して、50原子%以上が好ましい。より好ましくは60原子%以上であり、さらに好ましくは70原子%以上である。
【0108】
上記実施形態(3)にかかる環含有ポリマーの分子量は特に限定されないが、重量平均分子量が、1000~1000000の範囲が好ましく、3000~700000の範囲がより好ましく、5000~500000の範囲がさらに好ましい。
また該ポリマーの数平均分子量は、1000~500000の範囲が好ましく、1500~350000の範囲がより好ましく、2500~250000の範囲がさらに好ましい。
分子量分布、重量平均分子量および数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより、実施例に記載の条件で測定することができる。
【0109】
上記実施形態(3)にかかる環含有ポリマーにおいて、ホスファゼン結合を構成する窒素原子に結合してなる炭化水素基、および、ホスファゼン結合を構成するリン原子に結合してなる窒素含有基についてはその好ましい態様も含め、上記本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの説明に記載したものと同様である。実施形態(3)にかかる環含有ポリマーが、実施形態(1)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーである形態も、実施形態(2)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーである形態も、それぞれ本発明の好ましい実施形態の一つである。
実施形態(3)にかかる環含有ポリマーにおいて、その他の構成および好ましい態様についても上記本発明のホスファゼン結合含有ポリマーにおいて説明したもの、及び、実施形態(2)、(3)において説明したものを適用できる。
【0110】
(ホスファゼン環が主鎖を構成する場合)
上記実施形態(3)にかかる環含有ポリマーのうち、ホスファゼン環が主鎖を構成する形態のポリマーについて説明する。該ポリマーを環含有ポリマー(cp1)ともいう。
【0111】
環含有ポリマー(cp1)において、ホスファゼン環で構成される主鎖は、通常、隣接するホスファゼン環同士が、連結鎖Z1により結合され、その繰り返し構造により、環含有ポリマー(cp1)が構成される。
連結鎖Z1で連結される2つのホスファゼン環をそれぞれ環(a)、環(b)とする。
【0112】
連結鎖Z1は、特に限定されないが、たとえば以下の形態がある。
形態(a):ホスファゼン環に含まれるホスファゼン結合を構成するリン原子に結合してなる窒素含有基を連結鎖Z1とする形態。
形態(b):ホスファゼン環に含まれるホスファゼン結合を構成する窒素原子に結合する炭化水素基を連結鎖Z1とする形態。
形態(c):ホスファゼン環に含まれるホスファゼン結合を構成するリン原子に結合する、窒素含有基以外の基を連結鎖Z1とする形態。
【0113】
形態(a)~(c)における連結鎖Z1の構造等により、環(a)、(b)のホスファゼン環を構成するリン原子同士が連結される場合も、環(a)、(b)のホスファゼン環を構成するリン原子と窒素原子とが連結される場合も、それぞれ、環含有ポリマー(cp1)の実施形態の一つである。
【0114】
上記形態(a)~(c)の環含有ポリマーのうち、ホスファゼン環が6員環であるものとしては、例えば下記一般式(D-1)、(D-2)、(D-3)で表される構造を繰り返し単位として有するものが挙げられる。
【0115】
【化5】
(式中、Xa1~Xa5は、各々独立に、水酸基、ハロゲン原子、炭化水素基、OR11基、C(=O)R12基、SR13基ならびに窒素含有基からなる群から選択される少なくとも1種を示す。炭化水素基、OR11基、C(=O)R12基、SR13基および窒素含有基は、1価の基であってもよく、2価の基であって、ホスファゼン結合含有ポリマーが有する当該構造単位(D-1)のホスファゼン構造以外の他のホスファゼン構造またはホスファゼン構造以外の他の構造にも結合した基であってもよい。R11、R12およびR13は、各々独立に、炭化水素基である。Z1は窒素含有基を示す。Ya1~Ya3は炭化水素基を示す。またXa1~Xa5およびYa1~Ya3は結合していてもよい。na1~na3は、0又は1の数である。環構造の点線は、共鳴構造が形成されていることを示す。ただし、na1~na3の少なくとも1つが1であり、ホスファゼン環を構成する窒素原子の少なくとも1つに炭化水素基が結合している場合は、当該炭化水素基が結合した窒素原子を除いた他の環構造を構成する原子で共鳴構造が形成され、環構造は正電荷を有する。*は、Z1と結合する原子を示し、隣接する繰り返し単位のホスファゼン環を構成するリン原子又は窒素原子である。)
【0116】
【化6】
(式中、Xb1~Xb6は、各々独立に、水酸基、ハロゲン原子、炭化水素基、OR11基、C(=O)R12基、SR13基および窒素含有基からなる群から選択される少なくとも1種を示す。炭化水素基、OR11基、C(=O)R12基、SR13基および窒素含有基は、1価の基であってもよく、2価の基であって、ホスファゼン結合含有ポリマーが有する当該構造単位(D-2)のホスファゼン構造以外の他のホスファゼン構造またはホスファゼン構造以外の他の構造にも結合した基であってもよい。R11、R12およびR13は、各々独立に、炭化水素基である。Z1は炭化水素基を示す。Yb1、Yb2は炭化水素基を示す。またXb1~Xb6およびYb1、Yb2は結合していてもよい。nb1、nb2は、0又は1の数である。環構造の点線は、共鳴構造が形成されていることを示す。環構造は正電荷を有する。ただし、Z1が結合した窒素原子以外のホスファゼン環を構成する窒素原子の少なくとも一方に炭化水素基が結合している場合は、炭化水素基およびZ1のいずれも結合していない窒素原子と当該窒素原子の両隣の2つのリン原子で共鳴構造が形成される。
*は、Z1と結合する原子を示し、隣接する繰り返し単位のホスファゼン環を構成するリン原子、窒素原子または隣接しているホスファゼン環のXb1~Xb6、Yb1、Yb2上のいずれかの原子である。)
【0117】
【化7】
(式中、Xc1~Xc5は、各々独立に、水酸基、ハロゲン原子、炭化水素基、OR11基、C(=O)R12基、SR13基および窒素含有基からなる群から選択される少なくとも1種を示す。炭化水素基、OR11基、C(=O)R12基、SR13基および窒素含有基は、1価の基であってもよく、2価の基であって、ホスファゼン結合含有ポリマーが有する当該構造単位(D-3)のホスファゼン構造以外の他のホスファゼン構造またはホスファゼン構造以外の他の構造にも結合した基であってもよい。Z1は炭化水素基、OR11基、C(=O)R12基、SR13基のいずれかの2価の基またはこれらの同種又は異種の基を2つ組み合わせてできる2価の基である。R11、R12およびR13は、各々独立に、炭化水素基である。Yc1~Yc3は炭化水素基を示す。またXc1~Xc5およびYc1~Yc3は結合していてもよい。nc1~nc3は、0又は1の数である。環構造の点線は、共鳴構造が形成されていることを示す。ただし、nc1~nc3の少なくとも1つが1であり、ホスファゼン環を構成する窒素原子の少なくとも1つに炭化水素基が結合している場合は、当該炭化水素基が結合した窒素原子を除いた他の環構造を構成する原子で共鳴構造が形成され、環構造は正電荷を有する。*は、Z1と結合する原子を示し、隣接する繰り返し単位のホスファゼン環を構成するリン原子又は窒素原子である。)
【0118】
上記一般式(D-1)、(D-2)、(D-3)におけるXa1~Xa5、Xb1~Xb6、Xc1~Xc5、Z1のハロゲン原子、炭化水素基、OR11基、C(=O)R12基、SR13基および窒素含有基の具体例及び好ましいものは、上述した一般式(A-1)のX、Xと同様である。
上記一般式(D-1)、(D-2)、(D-3)におけるYa1~Ya3、Yb1、Yb2、Yc1~Yc3の炭化水素基の具体例及び好ましいものは、上述した一般式(A-1)のYと同様である。
【0119】
形態(a)~(c)において連結鎖Z1となり得る窒素含有基、窒素含有基以外の基および炭化水素基は、上記本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの説明に記載した中から適宜採用できる。上述した形態の中でも、形態(a)または形態(c)が好ましい。
【0120】
環含有ポリマー(cp1)の分子量は特に限定されないが、重量平均分子量が、1000~1000000の範囲が好ましく、3000~700000の範囲がより好ましく、5000~500000の範囲がさらに好ましい。
また該ポリマーの数平均分子量は、1000~500000の範囲が好ましく、1500~350000の範囲がより好ましく、2500~250000の範囲がさらに好ましい。
分子量分布、重量平均分子量および数平均分子量の測定方法は上述したとおりである。
【0121】
環含有ポリマー(cp1)において、主鎖の構造は特に限定されない。たとえば、直鎖状、分岐した線状等の線状構造;網目状構造等があげられる。
【0122】
線状構造を有する環含有ポリマーの例としては、たとえば、下記式(C-1-1)で表される構造単位と下記式(C-1-2)で表される構造単位とを含むポリマーや、下記式(C-2-1)で表される構造単位と下記式(C-2-2)で表される構造単位とを含むポリマーがあげられる。
【0123】
【化8】
【0124】
【化9】
【0125】
【化10】
【0126】
【化11】
【0127】
式(C-1-1)、式(C-1-2)、式(C-2-1)および(C-2-2)において、Xはカウンターアニオンを示す。
上記カウンターアニオンは特に限定されないが、一般的な無機イオンを用いることができる。たとえば、フッ素イオン(F)、塩素イオン(Cl)、臭素イオン(Br)、ヨウ素イオン(I)等のハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、トリフルオロメタンスルホナート等が挙げられ、これらの1種または2種以上を使用できる。
【0128】
環含有ポリマー(cp1)における、網目状構造のポリマーの例としては、たとえば、下記式(C-3)で表される構造を含むポリマーがあげられる。
【0129】
【化12】
【0130】
式(C-3)において、Xは、カウンターアニオンである。カウンターアニオンの具体例および好ましい態様は式(C-1-1)等におけるカウンターアニオンと同様である。
なお、構造中のZは、任意の有機基である。有機基としては例えば、上述した有機基(b1)のうち2価の基と同様の基が挙げられる。*は上記構造中のZが別の窒素含有基の窒素原子に結合していることを意味する。
【0131】
(ホスファゼン環が側鎖に含まれる場合)
上記実施形態(3)にかかる環含有ポリマーにおいて、ホスファゼン環が側鎖に含まれる場合について説明する。該ポリマーを環含有ポリマー(cp2)ともいう。
【0132】
ホスファゼン環についてはすでに説明したとおりである。
【0133】
上記環含有ポリマー(cp2)において、ホスファゼン環は、任意の連結鎖Z2により主鎖に結合される。該連結鎖Z2としては、特に限定されないが、たとえば以下の形態がある。
形態(d):ホスファゼン結合を構成するリン原子に結合してなる窒素含有基を連結鎖Z2とする形態。
形態(e):ホスファゼン結合を構成する窒素原子に結合してなる炭化水素基を連結鎖Z2とする形態。
形態(f):ホスファゼン結合を構成するリン原子に結合する、窒素含有基以外の基を連結鎖Z2とする形態。
【0134】
上記形態(d)は、たとえば、前記形態(i)または形態(iii)のホスファゼン結合を構成するリン原子に結合してなる窒素含有基を連結鎖Z2とする形態である。たとえば、窒素含有基がその窒素原子を介してホスファゼン環内のホスファゼン結合を形成するリン原子に結合するとともに、窒素含有基の別の部位、たとえば、有機基(b1)または(b2)が有する炭化水素基あるいは該炭化水素基が有する置換基により主鎖に結合する形態である。
【0135】
上記形態(e)は、たとえば、前記形態(i)または形態(ii)を構成する窒素原子に結合する炭化水素基を連結鎖とする形態である。たとえば、該炭化水素基がその炭素原子を介してホスファゼン環内のホスファゼン結合を構成する窒素原子に結合するとともに、該炭化水素基の別の部位、たとえば、炭素原子または炭化水素基が有する置換基により主鎖に結合する形態である。
【0136】
上記形態(f)は、たとえば、窒素含有基以外の基がホスファゼン環内のホスファゼン結合を構成するリン原子に結合するとともに、該基の別の部位により主鎖に結合する形態である。
【0137】
上記形態(d)~(f)の環含有ポリマーのうち、ホスファゼン環が6員環であるものとしては、例えば下記一般式(D-4)、(D-5)、(D-6)で表される構造を繰り返し単位として有するものが挙げられる。
【0138】
【化13】
(式中、Xd1~Xd5は、各々独立に、水酸基、ハロゲン原子、炭化水素基、OR11基、C(=O)R12基、SR13基および窒素含有基からなる群から選択される少なくとも1種を示す。炭化水素基、OR11基、C(=O)R12基、SR13基および窒素含有基は、1価の基であってもよく、2価の基であって、ホスファゼン結合含有ポリマーが有する当該構造単位(D-4)のホスファゼン構造以外の他のホスファゼン構造またはホスファゼン構造以外の他の構造にも結合した基であってもよい。R11、R12およびR13は、各々独立に、炭化水素基である。Z2は窒素含有基を示す。Yd1~Yd3は炭化水素基を示す。またXd1~Xd5およびYd1~Yd3は結合していてもよい。nd1~nd3は、0又は1の数である。環構造の点線は、共鳴構造が形成されていることを示す。ただし、nd1~nd3の少なくとも1つが1であり、ホスファゼン環を構成する窒素原子の少なくとも1つに炭化水素基が結合している場合は、当該炭化水素基が結合した窒素原子を除いた他の環構造を構成する原子で共鳴構造が形成され、環構造は正電荷を有する。Qは、3価の有機基を示す。)
【0139】
【化14】
(式中、Xe1~Xe6は、各々独立に、水酸基、ハロゲン原子、炭化水素基、OR11基、C(=O)R12基、SR13基および窒素含有基からなる群から選択される少なくとも1種を示す。炭化水素基、OR11基、C(=O)R12基、SR13基および窒素含有基は、1価の基であってもよく、2価の基であって、ホスファゼン結合含有ポリマーが有する当該構造単位(D-5)のホスファゼン構造以外の他のホスファゼン構造またはホスファゼン構造以外の他の構造にも結合した基であってもよい。R11、R12およびR13は、各々独立に、炭化水素基である。Z2は炭化水素基を示す。Ye1、Ye2は炭化水素基を示す。またXe1~Xe6およびYe1、Ye2は結合していてもよい。環構造の点線は、共鳴構造が形成されていることを示す。環構造は正電荷を有する。ただし、Z2が結合した窒素原子以外のホスファゼン環を構成する窒素原子の少なくとも一方に炭化水素基が結合している場合は、炭化水素基およびZ2のいずれも結合していない窒素原子と当該窒素原子の両隣の2つのリン原子で共鳴構造が形成される。環構造は正電荷を有する。Qは、3価の有機基を示す。)
【0140】
【化15】
(式中、Xf1~Xf5は、各々独立に、水酸基、ハロゲン原子、炭化水素基、OR11基、C(=O)R12基、SR13基および窒素含有基からなる群から選択される少なくとも1種を示す。炭化水素基、OR11基、C(=O)R12基、SR13基および窒素含有基は、1価の基であってもよく、2価の基であって、ホスファゼン結合含有ポリマーが有する当該構造単位(D-6)のホスファゼン構造以外の他のホスファゼン構造またはホスファゼン構造以外の他の構造にも結合した基であってもよい。Z2は炭化水素基、OR11基、C(=O)R12基、SR13基のいずれかの2価の基である。R11、R12およびR13は、各々独立に、炭化水素基である。Yf1~Yf3は炭化水素基を示す。またXf1~Xf5およびYf1~Yf3は結合していてもよい。nf1~nf3は、0又は1の数である。環構造の点線は、共鳴構造が形成されていることを示す。ただし、nf1~nf3の少なくとも1つが1であり、ホスファゼン環を構成する窒素原子の少なくとも1つに炭化水素基が結合している場合は、当該炭化水素基が結合した窒素原子を除いた他の環構造を構成する原子で共鳴構造が形成され、環構造は正電荷を有する。Qは、3価の有機基を示す。)
【0141】
上記一般式(D-4)、(D-5)、(D-6)におけるXd1~Xd5、Xe1~Xe6、Xf1~Xf5、Z2のハロゲン原子、炭化水素基、OR11基、C(=O)R12基、SR13基および窒素含有基の具体例及び好ましいものは、上述した一般式(A-1)のX、Xと同様である。
上記一般式(D-4)、(D-5)、(D-6)におけるYd1~Yd3、Ye1、Ye2、Yf1~Yf3の炭化水素基の具体例及び好ましいものは、上述した一般式(A-1)のYと同様である。
上記一般式(D-4)、(D-5)、(D-6)における3価の有機基Qとしては、置換基を有していてもよい炭化水素基が挙げられる。炭化水素基としては、上述した本発明のホスファゼン結合含有ポリマーにおける窒素原子に結合した炭化水素基のうち、1価の炭化水素基から2つの水素原子を除いてできるものが挙げられる。炭化水素基の置換基についても、上述した本発明のホスファゼン結合含有ポリマーにおける窒素原子に結合した炭化水素基が有する置換基と同様のものが挙げられる。
【0142】
上述した形態の中でも、形態(d)または形態(e)が好ましい。
【0143】
上記環含有ポリマー(cp2)において、主鎖の組成は特に限定されないが、例えば、ポリスチレン;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリスルホン;ポリフェニレンスルフィド等のポリアリーレンスルフィド;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素含有炭化水素系ポリマー;ポリエステル;(メタ)アクリル系ポリマー;ポリカーボネート;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルスルホン;ポリエーテルイミド;ポリアミドイミド等が挙げられる。
これらの中でも、耐加水分解性に優れる観点から、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、フッ素含有炭化水素ポリマー等が好ましい。
【0144】
上記環含有ポリマー(cp2)において、主鎖の構造は特に限定されない。たとえば、直鎖状、分岐した線状等の線状構造;網目状構造等があげられる。中でも、強度の観点から、分岐した線状等の線状構造;網目状構造が好ましい。
【0145】
上記環含有ポリマー(cp2)の分子量は、特に限定されないが、重量平均分子量が、1000~1000000の範囲が好ましく、3000~700000の範囲がより好ましく、5000~500000の範囲がさらに好ましい。
また該ポリマーの数平均分子量は、1000~500000の範囲が好ましく、1500~350000の範囲がより好ましく、2500~250000の範囲がさらに好ましい。
分子量分布、重量平均分子量および数平均分水量の測定方法は上述したとおりである。
【0146】
上記環含有ポリマー(cp2)の具体例としては、たとえば、下記式(C-4)で表される構造単位を繰り返し単位として含むポリマーがあげられる。
【0147】
【化16】
【0148】
式(C-4)においてXは、カウンターアニオンであり、式(C-1-1)等におけるカウンターアニオンXと同様である。
【0149】
<実施形態(4):鎖状ホスファゼン結合含有ポリマー>
鎖状ホスファゼン結合含有ポリマーもまた、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの好ましい一実施形態である。鎖状ホスファゼン結合含有ポリマーを、鎖含有ポリマーと略して記載することがある。実施形態(4)にかかる鎖含有ポリマーは、ホスファゼン構造として鎖状構造のホスファゼン構造のみを有する。上記鎖含有ポリマーにおいても、鎖状構造が主鎖を構成する形態、鎖状構造が側鎖に含まれる形態があるが、鎖状構造が主鎖を構成する形態が安価に製造し易い点で好ましい。
上記本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの説明に記載したと同様に、実施形態(4)にかかる鎖含有ポリマーにおいてもカチオン性ポリマーであること、またカウンターアニオンを有することは、好ましい形態である。
【0150】
上記実施形態(4)にかかる鎖含有ポリマーを構成するホスファゼン結合の形態としては、上記本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの説明に記載した形態(i)~(iv)と同様の形態が好ましく例示される。上記鎖含有ポリマーにおける好ましい形態としては、その分子中に、形態(i)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造、および/または、形態(ii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造および形態(iii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造を繰り返し単位の一部又は全部として有する形態があげられる。
中でも、形態(i)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造を繰り返し単位の一部又は全部として有することがより好ましい。
【0151】
形態(i)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造を繰り返し単位の一部又は全部として含有する鎖含有ポリマーにおいては、さらに、形態(ii)、(iii)または(iv)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造を有していてもよい。この場合、形態(i)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造が更に形態(ii)、(iii)または(iv)のホスファゼン結合を含んでいてもよく、形態(i)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造とは別に、形態(ii)、(iii)または(iv)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造を有していてもよい。
形態(i)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造とは別に、形態(ii)、(iii)または(iv)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造を有する場合、形態(i)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造と、形態(ii)、(iii)または(iv)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造とは、1つの繰り返し単位の中に含まれていてもよく、別々の繰り返し単位の中に含まれていてもよい。
各形態のホスファゼン結合の含有割合はその好ましい態様も含め、上記本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの説明に記載したとおりである。
【0152】
形態(ii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造および形態(iii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造を繰り返し単位の一部又は全部として有する形態において、形態(ii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造が更に形態(iii)のホスファゼン結合を含んでいてもよく、形態(ii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造とは別に、形態(iii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造を有していてもよい。
形態(ii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造とは別に、形態(iii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造を有する場合、形態(ii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造と、形態(iii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造とは、1つの繰り返し単位の中に含まれていてもよく、別々の繰り返し単位の中に含まれていてもよい。
実施形態(4)にかかる鎖含有ポリマーは、形態(ii)のホスファゼン結合および形態(iii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造を含むことが好ましい。
【0153】
形態(ii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造および形態(iii)のホスファゼン結合を含むホスファゼン構造を含有する形態の鎖含有ポリマーにおいては、ホスファゼン結合として、さらに、形態(i)または(iv)のホスファゼン結合を有していてもよいが、形態(i)のホスファゼン結合は含まないことが好ましい。各形態のホスファゼン結合の含有割合はその好ましい態様も含め、上記本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの説明に記載したとおりである。
【0154】
上記実施形態(4)にかかる鎖含有ポリマーにおいて、ホスファゼン結合を構成する窒素原子のうち、炭化水素基が結合した窒素原子の含有量は特に限定されないが、その好ましい範囲は上記本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの説明に記載したとおりである。すなわち、イオン伝導性に優れるものとなり易い観点から、ホスファゼン結合を構成するすべての窒素原子数1に対し、炭化水素基が結合した窒素原子の数は、1/10以上が好ましく、より好ましくは2/15以上であり、特に好ましくは1/6以上である。上限は特に限定されないが、2/3以下であることが好ましく、より好ましくは3/5以下、さらに好ましくは8/15以下である。
ホスファゼン結合を構成する全ての窒素原子数1に対する炭化水素基が結合した窒素原子の数の範囲としては1/10~2/3が好ましく、より好ましくは2/15~3/5であり、更に好ましくは1/6~8/15である。
上記割合は、31P-NMR測定により求めることができる。
【0155】
上記実施形態(4)にかかる鎖含有ポリマーにおいても、ホスファゼン結合を構成するリン原子のうち、窒素含有基が結合したリン原子の含有量は、特に限定されないが、その好ましい範囲は上記本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの説明に記載したとおりである。すなわち、イオン伝導性に優れるものとなり易い観点から、ホスファゼン結合を構成するすべてのリン原子数1に対し、窒素含有基が結合したリン原子の数は、1/3以上が好ましく、より好ましくは2/3以上であり、特に好ましくは1以上である。上限は特に限定されないが、10以下であることが好ましい。
ホスファゼン結合を構成する全てのリン原子数1に対する窒素含有基が結合したリン原子の数の範囲としては、1/3~10が好ましく、より好ましくは2/3~10であり、更に好ましくは1~10である。
これらの割合は、31P-NMR測定により求めることができる。
【0156】
上記実施形態(4)にかかる鎖含有ポリマーにおける、ホスファゼン構造の含有割合は、ホスファゼン構造を構成するリン原子数で表したとき、該ポリマーに含まれる全ホスファゼン構造100原子%に対して、50原子%以上が好ましい。より好ましくは60原子%以上であり、さらに好ましくは70原子%以上である。
【0157】
上記実施形態(4)にかかる鎖含有ポリマーの分子量は特に限定されないが、重量平均分子量が、1000~1000000の範囲が好ましく、3000~700000の範囲がより好ましく、5000~500000の範囲がさらに好ましい。
また該ポリマーの数平均分子量は、1000~500000の範囲が好ましく、1500~350000の範囲がより好ましく、2500~250000の範囲がさらに好ましい。
分子量分布、重量平均分子量および数平均分水量の測定方法は上述したとおりである。
【0158】
上記実施形態(4)にかかる鎖含有ポリマーにおいて、ホスファゼン結合を構成する窒素原子に結合してなる炭化水素基、および、ホスファゼン結合を構成するリン原子に結合してなる窒素含有基についてはその好ましい態様を含め、上記本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの説明に記載したものと同様である。その他の構成についても上記本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの説明に記載したものと同様である。
【0159】
また、上記鎖含有ポリマーのうち、鎖状構造が主鎖を構成する形態のポリマーとしては、単一のホスファゼン鎖状構造からなる形態、複数のホスファゼン鎖状構造が連結鎖を介して高分子構造を形成してなる形態等が挙げられる。複数のホスファゼン鎖状構造が連結鎖を介して高分子構造を形成してなる形態における、連結鎖は、実施形態(3)の環含有ポリマー(cp1)における連結鎖Z1と同様である。
【0160】
また、鎖含有ポリマーのうち、鎖状構造が側鎖に含まれる形態のポリマーにおける、連結鎖については実施形態(3)の環含有ポリマー(cp2)における連結鎖Z2と同様であり、また主鎖の組成および構造等についても、環含有ポリマー(cp2)における主鎖の組成および構造等と同様である。
【0161】
上記実施形態(4)にかかる鎖含有ポリマーにおいて、上述した点、ホスファゼン構造が鎖状構造のみを有する点以外については、すでに説明した本発明のホスファゼン結合含有ポリマーにおける各種態様およびそれぞれの好ましい態様、環状ホスファゼン結合含有ポリマーにおける各種態様およびそれぞれの好ましい態様を、本発明の鎖含有ポリマーに対しても、同様に適用することができる。たとえば、実施形態(4)にかかる鎖含有ポリマーが、実施形態(1)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーである形態も、実施形態(2)にかかるホスファゼン結合含有ポリマーである形態も、それぞれ本発明の好ましい実施形態の一つである。
【0162】
<本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの製造方法>
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの製造方法は、特に限定されない。
主鎖にホスファゼン構造を含むホスファゼン結合含有ポリマーは、例えば、下記の工程を含む製造方法により得ることができる。
工程(a):ホスファゼン化合物を重合し重合体とする工程
工程(b):窒素含有基をホスファゼン結合を構成するリン原子に導入する工程
工程(c):炭化水素基をホスファゼン結合を構成する窒素原子に導入する工程
工程(a)~(c)を行う順番は限定されない。また上記3つ工程の内、2つの工程を同時に行ってもよい。
【0163】
主鎖にホスファゼン構造を含むホスファゼン結合含有ポリマーの好ましい製造方法の例として、以下に説明する製造方法(1)および(2)を挙げることができる。製造方法(1)は、特に、主鎖にホスファゼン構造として環状ホスファゼン構造を有するポリマーの好ましい製造方法であり、製造方法(2)は、特に、主鎖にホスファゼン構造として鎖状ホスファゼン構造を有するポリマーの好ましい製造方法である。
【0164】
一方、側鎖にホスファゼン構造を含むホスファゼン結合含有ポリマーは、例えば、下記の工程を含む製造方法により得ることができる。
工程(d):主鎖を構成する重合体を調製する工程
工程(e):主鎖を構成する重合体にホスファゼン構造を導入する工程
工程(f):窒素含有基をホスファゼン結合を構成するリン原子に導入する工程
工程(g):炭化水素基をホスファゼン結合を構成する窒素原子に導入する工程
工程(d)~(g)を行う順番は限定されない。また上記4つの工程の内、2つ以上の工程を同時に行ってもよい。
【0165】
側鎖にホスファゼン構造を有するホスファゼン結合含有ポリマーの好ましい製造方法として、製造方法(3)を挙げることができる。製造方法(3)は、特に、側鎖にホスファゼン構造として環状ホスファゼン構造を有するポリマーの好ましい製造方法である。
以下に、各製造方法(1)~(3)について説明する。
【0166】
<製造方法(1)>
上述したとおり、製造方法(1)は、主鎖にホスファゼン構造を有するホスファゼン結合含有ポリマーの好ましい製造方法であり、中でも、主鎖にホスファゼン構造として環状ホスファゼン構造を有するポリマーの好ましい製造方法である。
【0167】
製造方法(1)は、塩素原子等のハロゲン原子が結合したリン原子を2個またはそれ以上含む環状ホスファゼン化合物(p1)とジアミン化合物(a1)とを反応させる重合工程を含むことを特徴とする。
該製法では、工程(a)および(b)を同時に行うことにより、リン原子にジアミン化合物由来の窒素含有基が結合したホスファゼン環が、該窒素含有基を連結鎖として繋がった構造のポリマーが得られる。言い換えれば、ホスファゼン環とジアミン由来の窒素含有基が交互に共重合したポリマーが得られる。
次に工程(c)として、得られたポリマーに、例えばアルキル化剤として、ヨウ化アルキルを適量反応させることにより、ホスファゼン環中のホスファゼン結合を構成する窒素原子にアルキル基が結合する。上記製法により、主鎖にホスファゼン構造(ホスファゼン環)を有する、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーが製造できる。
【0168】
上記製造方法(1)で製造されるポリマーの構造は、原料により制御し得る。直鎖状の線状構造のポリマーを製造するためには、環状ホスファゼン化合物(p1)として塩素原子が結合したリン原子を2個含む化合物を用いることが好ましい。網状構造のポリマーを製造するためには、環状ホスファゼン化合物(p1)として塩素原子が結合したリン原子を3個またはそれ以上含む化合物を用いることが好ましい。たとえば、環状ホスファゼン化合物(p1)として塩素原子が結合したリン原子を2個含む化合物と、3個含む化合物との混合物を用い、その使用比率や条件により、分岐した線状構造のポリマー、網状構造と線状構造とを含むポリマー、網状構造のポリマーと線状構造のポリマーとの混合物等を得ることができる。
【0169】
上記重合工程は、上記工程(a)および(b)を同時に行う工程であり、例えば、環状ホスファゼン化合物(p1)を有機溶媒中でジアミン化合物(a1)と混合することにより行うことができる。
有機溶媒としては、各化合物の溶解性に優れる有機溶媒であることが好ましい。たとえば、トルエン、キシレン等の炭化水素系;THF等のエーテル系;メチルエチルケトン等のケトン系;エステル系;アセトニトリル等のニトリル系;等の各種有機溶媒を使用することができる。
【0170】
上記重合工程の反応温度は、0℃~150℃であることが好ましく、50~120℃であることが好ましい。
反応時間は、例えば、1~60時間であることが好ましい。
圧力条件は特に限定されず、常圧下、加圧下、減圧下のいずれであってもよい。
【0171】
上記重合工程では、副生する塩化水素をトラップするため、塩基成分を共存させることが好ましい。また触媒成分を共存させてもよい。
塩基成分としてはトリエチルアミン、ピリジンなどの有機塩基や、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどの無機塩基等が利用できる。
触媒成分としては、テトラブチルアンモニウムブロミド等のアンモニウム塩が好ましい。
【0172】
上記重合工程における環状ホスファゼン化合物(p1)とジアミン化合物(a1)との混合比は、好ましくは、モル比で2:1~1:2であることが好ましく、より好ましくは1.5:1~1:1.5、さらに好ましくは1.2:1~1:1.2である。
【0173】
上記重合工程において、各化合物の混合方法は特に限定されないが、環状ホスファゼン化合物(p1)、過剰量の塩基、必要に応じて触媒成分を上記有機溶媒に溶解、もしくは懸濁した溶液を上述した好ましい温度に維持しながら、ジアミン化合物(a1)を上記溶媒に溶解した溶液を、徐々に添加する方法が好ましい。
環状ホスファゼン化合物(p1)を含有する溶液における環状ホスファゼン化合物(p1)の濃度は、好ましくは、10質量%~70質量%の範囲であることが好ましい。より好ましくは、20質量%~60質量%の範囲である。
【0174】
また上記重合工程における重合反応時の雰囲気は、不活性ガス雰囲気であることが好ましい。通常、酸素ガス濃度が1体積%以下であることが好ましい。
【0175】
環状ホスファゼン化合物(p1)としては、たとえば、下記式(P-1)で表される化合物を用いることができる。
【0176】
【化17】
【0177】
ジアミン化合物(a1)としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、フェニレンジアミン等の2つのアミノ基が第1級アミノ基である化合物;1、3-ジ-4-ピペリジルプロパン、N、N´-ジエチルヘキサメチレンジアミン等の2つのアミノ基が第2級アミノ基である化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。中でも、2つのアミノ基が第2級アミノ基である化合物が好ましい。
【0178】
該重合反応により、前記ジアミン化合物(a1)のアミノ基に由来する2つのアミノ基残基が、隣接する、前記環状ホスファゼン化合物(p1)由来の2つのホスファゼン環中のリン原子のそれぞれに結合し、その結果、ホスファゼン環どうしが、2つのアミノ基残基を有する窒素含有基によって連結された構造を繰返しの構成単位とする重合体(1)が得られる。
【0179】
次に、工程(c)を行うことが好ましい。具体的には、重合体(1)にハロゲン化炭化水素を反応させる炭化水素基導入工程を含むことが好ましい。該工程により、炭化水素基が重合体(1)のホスファゼン環の窒素原子に導入される。その結果、ホスファゼン環を主鎖に有する環状ホスファゼン結合含有ポリマーが得られる。得られたポリマーは、通常、ホスファゼン環がカチオン性を呈する、カチオン性ポリマーとなる。
【0180】
ハロゲン化炭化水素としては、ヨウ化炭化水素が好ましく、さらにヨウ化アルキルが好ましい。ヨウ化アルキルとしては、特に限定されないが、アルキル基が炭素数1~18のアルキル基であることが好ましく、炭素数が1~12であることがより好ましく、炭素数が1~6であることがさらに好ましく、炭素数1~3であることが一層好ましく、炭素数1であることが特に好ましい。アルキル基に置換基を有するものであってもよい。置換基としては、ハロゲン原子が好ましい。
【0181】
炭化水素基導入工程は、例えば、上記重合体(1)を有機溶媒中でハロゲン化炭化水素と混合することにより行うことができる。有機溶媒としては、上記重合工程で使用することができる有機溶媒と同様の有機溶媒が好ましい。
【0182】
炭化水素基導入工程の反応温度は、0℃~100℃であることが好ましく、40~80℃であることが好ましい。
反応時間は、例えば、1~10時間であることが好ましい。
圧力条件は特に限定されず、常圧下、加圧下、減圧下のいずれであってもよい。
【0183】
炭化水素基導入工程においては、触媒成分や塩基成分を共存させてもよい。触媒成分としては銀化合物、アンモニウム化合物等が好ましく、塩基成分としては炭酸カリウム等の無機塩基が好ましい。
炭化水素基導入工程において塩基成分を共存させることで、得られるホスファゼン結合含有ポリマーのカチオン化率を高めることができる。
【0184】
炭化水素基導入工程における重合体(1)とハロゲン化炭化水素との混合比は、重合体(1)に含まれるホスファゼン環に対するハロゲン化炭化水素のモル比で表して、3:1~1:20であることが好ましく、より好ましくは2:1~1:15さらに好ましくは1:1~1:10である。
【0185】
炭化水素基導入工程における重合体(1)とハロゲン化炭化水素との混合方法は特に限定されないが、重合体(1)、必要に応じて触媒成分、もしくは塩基成分を上記有機溶媒に溶解または懸濁した溶液を、上述した好ましい温度に維持しながら、該溶液に、ハロゲン化炭化水素を含む溶液を、徐々に添加する方法が好ましい。
ハロゲン化炭化水素を含む溶液に用いられる有機溶媒も、上記重合工程で使用することができる有機溶媒と同様の有機溶媒である。
【0186】
炭化水素基導入工程における重合体(1)を含有する溶液(または懸濁液)における重合体(1)の濃度は、好ましくは、5質量%~60質量%の範囲であることが好ましい。より好ましくは、10質量%~40質量%の範囲である。
【0187】
また炭化水素基導入工程における反応時の雰囲気は、不活性ガス雰囲気であることが好ましい。通常、酸素ガス濃度が1体積%以下であることが好ましい。
【0188】
上述した製造方法により、主鎖に環状ホスファゼン構造を含む、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーを含む反応液が、有機溶媒に溶解または懸濁した状態で得られる。
得られた本発明のホスファゼン結合含有ポリマーを含む反応液に対して、従来公知の精製方法や乾燥方法を行うことにより、得られた反応液から原料残渣、触媒等を除去するとともに、有機溶媒を除去することで、ホスファゼン結合含有ポリマーを粉末状態で得ることができる。あるいは溶媒置換を採用することにより、ホスファゼン結合含有ポリマーを他の溶媒(たとえば電解質材料に用いる溶媒)に溶解した溶液または分散した分散液を得ることができる。
【0189】
例えば、ホスファゼン化合物(p1)として一般式(P-1)で表される環状ホスファゼン化合物を用い、ジアミン化合物(a1)として1、3-ジ-4-ピペリジルプロパンを用いて重合し、得られた重合体にヨウ化メチルを反応させることにより、下記式(C-5-1)~(C-5-3)で表される各構造単位を含む、ポリマー(ヨウ素をカウンターイオンとする)が得られる。
【0190】
【化18】
【0191】
【化19】
【0192】
【化20】
【0193】
なお、該ポリマーにおける構造単位の総数は、3~300であることが好ましく、式(C-5-1)で表される構造単位数に対する、式(C-5-2)で表される構造単位数と(C-5-3)で表される構造単位数との合計の割合は、ヨウ化メチルの量により調整できる。
【0194】
<<環状ホスファゼン化合物(p1)について>>
上記製造工程(a)において用いる環状ホスファゼン化合物(p1)について説明する。上記環状ホスファゼン化合物(p1)としては、塩素原子が結合したリン原子をホスファゼン結合中に2個またはそれ以上含むものであれば特に限定されない。また化合物中のリン原子は塩素原子以外に他の基を結合していてよい。
他の基としては、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーにおいて、リン原子に結合し得る基として説明した、窒素含有基、窒素含有基以外の基を適用できる。窒素含有基以外の基としては、水酸基、塩素原子以外のハロゲン原子、炭化水素基、ORP1基、C(=O)RP2基、SRP3基、酸素原子、硫黄原子等が好ましくあげられる。ここで、RP1、RP2およびRP3は、各々独立に、炭化水素基である。
【0195】
上記炭化水素基としては特に限定されないが、脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基、アラルキル基等)または芳香族炭化水素基(アリール基)が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよく、アラルキル基でもよく、鎖状構造(脂肪族鎖状炭化水素基)でも環状構造(脂肪族環状炭化水素基)でもよい。またはこれらの炭化水素基の中から2種以上を組み合わせてできる炭化水素基であってもよい。中でも、炭素数1~18の脂肪族飽和炭化水素基、炭素数2~18の脂肪族不飽和炭化水素基、炭素数6~18の芳香族炭化水素基、炭素数7~17のアラルキル基が好ましい。なかでも炭素数6~18の芳香族炭化水素基が好ましい。
上記RP1、RP2およびRP3は、各々独立に、炭化水素基であり、その好ましい態様は、上述したR01、R02およびR03の炭化水素基と同様である。
塩素原子以外のハロゲン原子としては、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子があげられる。中でもフッ素原子が好ましい。
【0196】
環状ホスファゼン化合物(p1)中のリン原子に結合する、塩素原子以外の基としては、窒素含有基が好ましい。窒素含有基としては、アミン残基が好ましい。窒素含有基としてはまた、下記一般式(B-2)で表される窒素含有基もまた好ましい。
【0197】
NRb2 (B-2)
(一般式(B-2)において、nは1または2である。nが2の場合、Rb2は、各々独立して、水素原子、または、置換基を有していてもよい1価または2価以上の炭化水素基を含む有機基を示す。nが1の場合、Rb2は、置換基を有していてもよい2価以上の炭化水素基を含む有機基を示す。)
【0198】
上記一般式(B-2)においてnが2の場合、Rb2は、いずれも置換基を有していてもよい1価または2価以上の炭化水素基であることが好ましい。
なお、一般式(B-2)で表される窒素含有基およびRb2は、上述した一般式(B-1)で表される窒素含有基(窒素含有基(b1)、(b2)を含む)およびRb1と、各々の好ましい態様も含め、同様である。よって詳細は省略する。
【0199】
環状ホスファゼン化合物(p1)において、リン原子に結合した塩素原子数は、環状ホスファゼン化合物(p1)の1分子当たり、2個または3個が好ましく、2個がより好ましい。また、2個または3個の塩素原子は各々が異なるリン原子に結合していることが好ましい。
【0200】
また、環状ホスファゼン化合物(p1)の環状構造を構成するリン原子の個数をnとした場合、リン原子に結合した塩素原子の個数とリン原子に結合した窒素含有基の個数の合計が、n以上であることが好ましく、1.5n以上であることがより好ましく、特に好ましくは2nである。
【0201】
環状ホスファゼン化合物(p1)は、環状ホスファゼン化合物(p1)の環状構造を構成するリン原子の個数をnとした場合、リン原子に結合した塩素原子の個数とリン原子に結合した窒素含有基の個数の合計が、2nである化合物(p1―a)が好ましい。中でもnが3である化合物(p1―b)はさらに好ましい。
【0202】
またリン原子に結合した窒素含有基のすべてが、窒素含有基(b1)または窒素含有基(b2)である環状ホスファゼン化合物(p1―c)もさらに好ましい形態である。
【0203】
環状ホスファゼン化合物(p1)は、例えば、下記一般式(P-2)
【0204】
【化21】
(一般式(P-2)において、Xは、ハロゲン原子を示す。nは2以上の整数である。)
【0205】
で示される環状ホスファゼン化合物(p2)に例えば、炭化水素基、OR11基、C(=O)R12基、SR13基および窒素含有基等を形成することができる化合物を反応させることにより得られる。ここで、Xは、ハロゲン原子であり、中でも塩素原子が好ましい。nは2以上の整数であるが、好ましくは2~4の整数であり、特に3が好ましい。
【0206】
例えば、ヘキサクロロシクロトリホスファゼン1モルに対しピロリジンを4モル反応させることにより、リン原子3個の内、2個のリン原子に、塩素原子とピロリジン由来の基がそれぞれ1個ずつ結合し、1個のリン原子にピロリジン由来の基2個が結合した環状ホスファゼン化合物(p1-d)が得られる。
【0207】
環状ホスファゼン化合物(p1-d)は上記の化合物(p1-b)および(p1-c)の一形態であり、環状ホスファゼン化合物(p1)の中でも、化学的安定性に優れるホスファゼン結合含有ポリマーの原料として特に好ましい。
【0208】
上記環状ホスファゼン化合物(p1-d)を製造する反応は、例えば、ヘキサクロロシクロトリホスファゼンを有機溶媒中でピロリジン化合物と混合することにより行うことができる。有機溶媒としては、上記重合工程で使用することができる有機溶媒と同様の有機溶媒を好ましく用いることができる。
【0209】
上記環状ホスファゼン化合物(p1-d)を製造する反応の反応温度は、-10℃~120℃であることが好ましく、0~100℃であることが好ましい。
反応時間は、例えば、1~10時間であることが好ましい。
圧力条件は特に限定されず、常圧下、加圧下、減圧下のいずれであってもよい。
【0210】
上記環状ホスファゼン化合物(p1-d)を製造する反応では、塩基成分を共存させてもよい。塩基としてはトリエチルアミン等のアミン類が好ましく、ピロリジン自体を過剰量加えて塩基として作用させてもよい。
【0211】
上記環状ホスファゼン化合物(p1-d)を製造する反応において、ヘキサクロロシクロトリホスファゼンとピロリジンとの混合比は、ホスファゼン環に導入したい窒素含有基の割合に応じて適宜選択すればよい。
【0212】
上記環状ホスファゼン化合物(p1-d)を製造する反応における原料の混合方法は特に限定されないが、ヘキサクロロシクロトリホスファゼンを上記有機溶媒に溶解した溶液を、上述した好ましい温度に維持しながら、該溶液に、ピロリジンを含む溶液を、徐々に添加する方法が好ましい。ピロリジン溶液に用いられる有機溶媒も、上記重合工程で使用することができる有機溶媒と同様の有機溶媒を用いることができる。
【0213】
上記環状ホスファゼン化合物(p1―d)を製造する反応において、ピロリジンに代えて他の2級アミンまたは1級アミンを用いることにより、用いたアミン由来の窒素含有基がリン原子に結合したホスファゼン化合物を得ることができ、環状ホスファゼン化合物(1)として重合工程に用いることができる。
【0214】
上述した製造方法(1)により、主鎖にホスファゼン構造として環状ホスファゼン構造を有するホスファゼン結合含有ポリマーを得ることができる。
【0215】
上記においては、環状ホスファゼン構造のリン原子が連結基を介して結合した構造を主鎖に有するホスファゼン結合含有ポリマーの製造方法について説明したが、環状ホスファゼン構造の窒素原子が連結基を介して結合した構造を主鎖に有するホスファゼン結合含有ポリマーは、窒素原子に反応性基が結合した環状ホスファゼン化合物と、該反応性基と反応する官能基を複数有する化合物とを反応させることで製造することができる。例えば、窒素原子に4-フルオロベンジル基等のフルオロ炭化水素基が結合した環状ホスファゼン化合物とHO-R-OH(Rは炭化水素基を示す)で表されるジオールとを塩基存在下反応させることで環状ホスファゼン構造の窒素原子が連結基-O-R-O-を介して結合した構造を主鎖に有するホスファゼン結合含有ポリマーが得られる。
次に製造方法(2)について以下に説明する。
【0216】
<製造方法(2)>
製造方法(2)は、主鎖にホスファゼン構造を有するホスファゼン結合含有ポリマーの好ましい製造方法である。中でも、特に、主鎖にホスファゼン構造として鎖状ホスファゼン構造を有するポリマーの好ましい製造方法である。
製造方法(2)において、上記工程(a)としては、従来公知のホスファゼン化合物の開環重合を用いる。
好ましくは、ヘキサクロロシクロトリホスファゼンを開環重合し、線状のポリジクロロホスファゼンを得る。たとえば、有機硫黄化合物等の触媒存在下で、ヘキサクロロシクロトリホスファゼンをジクロロベンゼン等の溶媒に溶解し加熱することにより開環重合し、溶媒に可溶な重合体のみを分離することにより、線状、好ましくは直鎖状のポリマー(ポリジクロロホスファゼン)を得る。
【0217】
次に上記工程(b)として、工程(a)で得られたポリマー(ポリジクロロホスファゼン)をTHF等の有機溶媒に溶解し溶液を調製する。
得られた溶液に、アミン化合物を混合することにより、脱HCl反応を伴って、アミン化合物由来の窒素含有基が、ホスファゼン結合を構成するリン原子の少なくとも一部に結合する。これにより、窒素含有基が結合したリン原子を含むポリマーを得る。
上記アミン化合物としては、1級アミンまたは2級アミンが好ましく、特に2級アミンが好ましい。2級アミンの中でも、窒素原子をヘテロ原子とする複素環式アミン化合物が好ましく、ピロリジン、ピペリジン等の脂肪族複素環式アミン化合物がより好ましい。
【0218】
次に上記工程(c)として、工程(b)で得られた窒素含有基が結合したリン原子を含むポリマーに、ハロゲン化炭化水素を適量反応させることにより、ホスファゼン結合を構成する窒素原子の少なくとも一部にアルキル基を結合させる。
【0219】
上記製造方法(2)により、主鎖に鎖状構造のホスファゼン構造を有する、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーが得られる。
【0220】
上記ハロゲン化炭化水素としては、製造方法(1)の工程(c)において説明したハロゲン化炭化水素と同様のものを用いることができ、好ましい態様も同様である。またハロゲン化炭化水素を反応させる条件等の好ましい態様も製造方法(1)における工程(c)の場合と同様である。
【0221】
上記製造方法(2)により、主鎖にホスファゼン構造として鎖状ホスファゼン構造を有するホスファゼン結合含有ポリマーを含む反応液が、有機溶媒に溶解または懸濁した状態で得られる。製造方法(1)の場合と同様にして、上記ホスファゼン結合含有ポリマーを粉末状態、あるいはホスファゼン結合含有ポリマーを含む溶液または分散液として得ることができる。
次に製造方法(3)について以下に説明する。
【0222】
<製造方法(3)>
製造方法(3)は、側鎖にホスファゼン構造を有するホスファゼン結合含有ポリマーの好ましい製造方法である。特に、側鎖にホスファゼン構造として環状ホスファゼン構造を有するポリマーの好ましい製造方法であり、下記工程を含む。
工程(d):主鎖を構成する重合体を調製または準備する工程
工程(e):主鎖を構成する重合体にホスファゼン構造を導入する工程
工程(f):窒素含有基をホスファゼン結合を構成するリン原子に導入する工程
工程(g):炭化水素基をホスファゼン結合を構成する窒素原子に導入する工程
工程(d)~(g)を行う順番は限定されない。また上記4つの工程の内、2つの工程を同時に行うこともできる。
以下に、上記製造方法(3)について具体的に説明する。
【0223】
上記製造方法(3)は、環状ホスファゼン化合物と、ハロゲン化炭化水素基を側鎖に有する重合体とを反応させることを特徴とする。
【0224】
ハロゲン化炭化水素基を側鎖に有する重合体としては、ハロゲン化アルキル基を側鎖に有する重合体が好ましい。たとえば、クロロメチル基を置換基として有するポリスチレンやポリスルホンなどを好適に用いることができる。よって上記工程(d)としては、従来公知の方法を採用することができる。たとえば、4-(クロロメチル)スチレンをラジカル重合することにより、クロロメチル基を側鎖に有するポリスチレンを得ることができる。
【0225】
工程(e)において、上記ハロゲン化炭化水素基を側鎖に有する重合体と反応させる環状ホスファゼン化合物としては、窒素含有基が結合してなるリン原子を含む化合物が好ましい。すなわち、工程(f)を行って得られた窒素含有基が結合してなるリン原子を含む化合物を用いて工程(e)を行うことが好ましい。
窒素含有基が結合してなるリン原子を含む化合物としては、上記製造方法(1)において用いることのできる一般式(P-2)で示される環状ホスファゼン化合物(p2)に窒素含有基を形成することができる化合物を反応させることにより得られるものを用いることができる。窒素含有基を形成することができる化合物としてはアミン化合物が好ましい。すなわち、上記工程(f)として、一般式(P-2)で示される環状ホスファゼン化合物(p2)にアミン化合物を反応させる工程を好ましく採用することができる。
より具体的には、たとえば、ヘキサクロロシクロトリホスファゼンをTHF等の有機溶媒中でアミン化合物と混合することにより、脱HCl反応を伴って、アミン化合物由来の窒素含有基が、ホスファゼン結合を構成するリン原子の少なくとも一部に結合する。環状ホスファゼン化合物において窒素含有基が結合したリン原子の数は多い方が好ましく、より好ましくは全てのリン原子に窒素含有基が結合するよう、ヘキサクロロシクロトリホスファゼンに対するアミン化合物の混合比を調整することが好ましい。
【0226】
上記工程(f)の反応温度は、-10℃~120℃であることが好ましく、0~100℃であることが好ましい。
反応時間は、例えば、1~10時間であることが好ましい。
圧力条件は特に限定されず、常圧下、加圧下、減圧下のいずれであってもよい。
また、塩基成分を共存させてもよい。塩基としてはトリエチルアミン等のアミン類が好ましく、ピロリジン自体を過剰量加えて塩基として作用させてもよい。
【0227】
上記工程(f)に用いるアミン化合物としては、1級アミンまたは2級アミンが好ましく、特に2級アミンが好ましい。2級アミンの中でも、窒素原子をヘテロ原子とする複素環式アミン化合物が好ましく、例えば、ピロリジン、ピペリジン等の脂肪族複素環式アミン化合物がより好ましい。
【0228】
上記工程(f)により、窒素含有基が結合してなるリン原子を含む環状ホスファゼン化合物、特に好ましくは環状ホスファゼン化合物を構成するホスファゼン結合に含まれるすべてのリン原子に窒素含有基が結合してなる環状ホスファゼン化合物を得ることができる。
次に、工程(e)または工程(g)を順次行ってもよいが、同時に行うことが好ましい。同時に行う方法としては、上記工程(f)により得られた環状ホスファゼン化合物を、上記ハロゲン化炭化水素基を側鎖に有する重合体とを混合する方法が好ましい。上記混合により、上記重合体の側鎖のハロゲン化炭化水素部分よりハロゲンが脱離するとともに、脱ハロゲン化により生成した炭化水素基が、上記環状ホスファゼン化合物中のホスファゼン結合を構成する窒素原子に結合する。すなわち、環状ホスファゼン構造中のホスファゼン結合を構成する窒素原子に炭化水素基が結合すると同時に、上記重合体に環状ホスファゼン構造が側鎖として導入される。
【0229】
上記工程(e)及び工程(g)の反応温度は、通常、0℃~100℃であることが好ましく、40~80℃であることが好ましい。
反応時間は、例えば、1~10時間であることが好ましい。
圧力条件は特に限定されず、常圧下、加圧下、減圧下のいずれであってもよい。
触媒成分や塩基成分を共存させてもよい。触媒成分としては銀化合物、アンモニウム化合物等が好ましく、塩基成分としては炭酸カリウム等の無機塩基が好ましい。
工程(g)において塩基成分を共存させることで、得られるホスファゼン結合含有ポリマーのカチオン化率を高めることができる。
【0230】
上記製造方法(3)により、側鎖に環状ホスファゼン構造を有する環状ホスファゼン結合含有ポリマーを含む反応液が、有機溶媒に溶解または懸濁した状態で得られる。製造方法(1)の場合と同様にして、上記ホスファゼン結合含有ポリマーを粉末状態、あるいはホスファゼン結合含有ポリマーを含む溶液または分散液として得ることができる。
【0231】
上記においては、環状ホスファゼン構造のリン原子が連結基を介してポリマーの主鎖に結合した構造のホスファゼン結合含有ポリマーの製造方法について説明したが、環状ホスファゼン構造の窒素原子が連結基を介してポリマーの主鎖に結合した構造のホスファゼン結合含有ポリマーを製造する場合、例えば、4-ヒドロキシフェニル基等のヒドロキシ基を置換基とする炭化水素基を側鎖に有する重合体と窒素原子に4-フルオロベンジル基等のフルオロ炭化水素基が結合した環状ホスファゼン化合物とを塩基存在下反応させることで製造することができる。
【0232】
<用途>
本発明のホスファゼン結合含有ポリマーは、耐アルカリ性に優れるために、耐アルカリ性を必要とする分野における部材に好適に用いることができる。また、電気化学素子を構成する部材、たとえばアニオン交換膜等に用いる電解質材料、イオン伝導性材料に好適に用いることもできる。中でも、アルカリ電解液を用いる電気化学素子における、アニオン交換膜等に用いる電解質材料、イオン伝導性材料として有用である。特に水の電気分解用の固体高分子電解質膜、アルカリ燃料電池用の固体高分子電解質膜、炭酸ガスの電解還元用の電解質膜、電気透析用の電解質膜、レドックスフロー電池用の電解質膜、空気電池等の電池用の電解質膜などとして有用である。
これらの本発明のホスファゼン結合含有ポリマーを用いた電解質材料、それを用いたアニオン交換膜、イオン伝導性材料もまた、本発明の1つである。
【0233】
<電解質材料>
本発明の電解質材料は、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーを含むことを特徴とする。本発明の電解質材料は、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーの他、その原料であるモノマー等のその他の成分、溶媒等を含んでいてもよい。
【0234】
溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;アルキレングリコールモノアルキルエーテル;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、水等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。
【0235】
本発明の電解質材料は、水の電気分解やアルカリ燃料電池用の固体高分子電解質膜として有用である。本発明の電解質材料は、該材料に含まれるホスファゼン結合含有ポリマーがカチオン性ポリマーであることが好ましい。
【0236】
<アニオン交換膜>
本発明のアニオン交換膜は、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーを含むことを特徴とする。本発明のアニオン交換膜は、水の電気分解やアルカリ燃料電池用の固体高分子電解質膜として有用である。
【0237】
本発明のアニオン交換膜は、平均膜厚が10~1000μmであることが好ましい。該平均膜厚は、より好ましくは、20~500μmである。
本発明のアニオン交換膜の膜厚は、市販のマイクロメータにより測定することができるが、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ社製)を用いて測定することが好ましい。任意10点を測定し、その平均値を本発明のアニオン交換膜の膜厚とすることが好ましい。
【0238】
また、本発明のアニオン交換膜は本発明のホスファゼン結合含有ポリマーを含む膜であれば、その形態は特に制限されない。たとえば、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーを含む層の1層または2層以上の積層体よりなる膜であってもよい。また、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーを含む層の1層または2層以上と、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーを含まない層の1層または2層以上との積層体であってもよい。
【0239】
本発明のアニオン交換膜は、電気化学的性質と機械的性質を両立させる観点から、ホスファゼン結合含有ポリマーとそれ以外のポリマーとの混合物からなる膜であってもよい。
混合するポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリフェニレン等の炭化水素系樹脂や、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等のヘテロ原子含有樹脂、フッ素系樹脂等の樹脂が挙げられる。これらは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、優れた耐熱性及び耐アルカリ性を発揮できる点で、ポリスチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリフェニルスルホン、及びポリフェニレンサルファイドからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましい。
【0240】
本発明のアニオン交換膜がホスファゼン結合含有ポリマーとそれ以外のポリマーとの混合物からなる膜である場合、ホスファゼン結合含有ポリマーと混合するそれ以外のポリマーの比率はアニオン交換膜の電気化学的性質を高めるために、膜全体の50重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることがより好ましく、20重量%以下であることがさらに好ましい。
【0241】
本発明のアニオン交換膜を使用する際の好ましい具体的な実施形態としては、多孔性支持体の片面または両面に本発明のホスファゼン結合含有ポリマーを含む層を積層してなる形態、多孔性支持体の少なくとも一部に、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーが含侵等により一体化されてなる形態、多孔性支持体の片面または両面に本発明のホスファゼン結合含有ポリマーを含む層が積層してなり、且つ、多孔性支持体の少なくとも一部に、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーが含侵等により一体化されてなる形態等があげられる。
【0242】
上記多孔性支持体としては、例えば、不織布、織布、メッシュ、不織布と織布の混合布、微多孔膜等が挙げられる。好ましくは、不織布、織布、又は微多孔膜等が挙げられ、より好ましくは、不織布、微多孔膜が挙げられ、更に好ましくは微多孔膜が挙げられる。
【0243】
上記多孔性支持体の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素系樹脂等の樹脂が挙げられる。これらは、1種のみ用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、優れた耐熱性及び耐アルカリ性を発揮できる点で、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリフェニレンサルファイドからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含むことが好ましく、ポリプロピレン、及びポリフェニレンサルファイドからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含むことがより好ましい。
【0244】
上記多孔性支持体としては、なかでも、ポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリフェニレンサルファイドからなる群より選択される少なくとも1種の樹脂を含む、不織布、織布、又は微多孔膜が好ましい。更に、多孔性支持体としては、ポリプロピレンを含む、不織布又は微多孔膜が好ましい。
【0245】
上記多孔性支持体がシート状である場合、上記多孔性支持体の厚みは、本発明のアニオン交換膜が本発明の効果を発揮できる限り特に限定されないが、例えば、好ましくは3~2000μm、より好ましくは5~1000μm、更に好ましくは10~500μm、最も好ましくは15~250μmである。
多孔性支持体の厚みは、市販の測定器で測定することができるが、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ社製)を用いて測定することが好ましい。任意10点を測定し、その平均値を隔膜の厚さとすることが好ましい。
【0246】
本発明のアニオン交換膜は、該膜に含まれるホスファゼン結合含有ポリマーがカチオン性ポリマーであることが好ましい。
【0247】
本発明のアニオン交換膜は、ヒドロキシイオン交換容量が、0.3mmol/g以上であることが好ましく、より好ましくは0.4mmol/g以上であり、さらに好ましくは0.5mmol/g以上である。上限は特に限定されないが、通常、3.0mmol/g以下である。
ヒドロキシイオン交換容量は、実施例に記載したイオン交換容量の測定により確認することができる。
【0248】
本発明のアニオン交換膜を製造する方法は、膜が形成される限り特に制限されず、塗布法、すなわち、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーを溶媒に溶解し、平坦な基材面上に塗布し塗膜を形成させる方法や、本発明のホスファゼン結合含有ポリマーをロールで圧延して膜状に成形する方法、平板プレス等で圧延して膜状に成形する方法や、射出成形法、押出成形法、キャスト法等の膜状に成形する方法を用いることができる。これらの成形方法は単独で用いてもよく、2種以上の方法を組み合わせて用いてもよい。
【0249】
また上記多孔質支持体を含む形態の場合は、たとえば本発明のホスファゼン結合含有ポリマーを含む溶液を多孔性支持体の片面または両面に塗布する方法を用いることができる。塗布する方法としては、特に制限されず、例えば、ダイコーティング、スピンコーティング、グラビアコーティング、カーテンコーティング、ディッピング、スプレー、アプリケーター、コーター等を用いる方法等の公知の塗布手段を用いることができる。
【0250】
上記アニオン交換膜の製造方法は、上述したように、電解質材料を膜状に成形する工程の他に、膜を乾燥させる工程を含んでいてもよい。乾燥温度は適宜設定すればよいが、60℃~160℃で行うことができる。
【実施例
【0251】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0252】
実施例、比較例で得られたポリマー、化合物、膜の各種測定、評価は、以下の方法により行った。
31P-NMR測定(溶液測定)>
ポリマー、化合物サンプルを5~50mg秤量し、サンプルを溶解可能な重溶媒(0.7mL)で溶解させ、NMRサンプルチューブ(関東化学製、外径4.961mm、全長178mm)に移し替え、キャップを付け密閉した。日本電子製「JNM-ECZ600R/S3」を用い、下記の条件で31P-NMR測定を行った。
装置:日本電子製「JNM-ECZ600R/S3」
回転数:15Hz
パルスプログラム: IGD(Inverse Gated Decoupling)
繰り返し待ち時間:5秒
積算回数:128~256回
温度:室温
【0253】
13C、31P-NMR測定(固体測定)>
粉砕した膜、ポリマーサンプルを3.2mmジルコニア製ロータ―に詰めてキャップを付け密閉した。Bruker社製 「Avance II+400 MHz」を用い、下記の条件で31P、13C-NMR測定を行った。
プローブ:3.2mmMASプローブ
回転数:16kHz
パルスプログラム:CP(Cross Polarization)
繰り返し待ち時間 (D1):2s
積算回数:4096回(13C)、512回(31P)
CP contact time:2ms(13C)、2.5 ms(31P)
Chemical shift:13TM TMS=0ppm(外部標準 アダマンタン 38.52ppm)、31P δH3PO4=0ppm (外部標準 リン酸水素二アンモニウム -1.6ppm)
温度:298K
【0254】
15N-NMR測定(固体測定)>
粉砕した膜、ポリマーサンプル約12mgに対し、10μLのTEKPol/TCE(16 mM)溶液を添加し、よく混ぜた後、3.2mmサファイア製ロータ―に詰めてテフロン(登録商標)インサートとジルコニアキャップを付け密閉した。凍結―融解操作を3回繰り返して脱気した後、Bruker社製 「NEO 400MHz/263GHz 9.4T DNP system」を用い、下記の条件で15N-NMR測定を行った。
プローブ:3.2mmLTMASプローブ
回転数:10kHz
パルスプログラム:CP(Cross Polarization)
繰り返し待ち時間 (D1):2.7-3.3s
積算回数:500~700回
CP contact time:3ms
Chemical shift:TM NH3=0ppm(外部標準 15NHCl 39.27ppm)
温度:104~105K
【0255】
<分子量測定>
ゲル浸透クロマトグラフィーにより、以下の条件で測定した。
装置:Shodex製「GPC-101」
カラム:Shodex製 GPC KF-804L(内径8mm×300mm)
カラム温度:40℃
溶離液:クロロホルム(50mMトリエチルアミン含有)
流速:0.6mL/min
検出器:RI
分子量標準物質:ポリスチレン
【0256】
<化学安定性評価>
(評価A)
ホスファゼン結合含有ポリマーおよびホスファゼン化合物の化学安定性評価
実施例で得られたポリマー、合成例で得られた化合物が有するイオン交換基の塩基に対する化学的安定性を、31P-NMR分光測定をもとに以下の方法によって評価した。
水酸化カリウムを重メタノール、または重メタノール/重水=5/1の混合溶媒に溶解させた。水酸化カリウム溶液は1M、および2Mの濃度のものを調製した。
試料(実施例で得られたポリマー、合成例で得られた化合物)を上記の水酸化カリウム溶液に溶解させ、サンプル溶液を調製した。
サンプル溶液を入れたNMRチューブに、外部標準としてリン酸水溶液を封管したキャピラリーチューブを挿入し室温で31P-NMR測定を行った。
次に、各サンプル溶液を、80℃に維持されたサンドバス中に浸漬し、所定の時間を経過した後31P-NMR測定を行った。各浸漬時間における各試料(各ポリマー、各化合物)の残存率を下記式により算出し、分解挙動を追跡した。
残存率={(加熱後の残存ホスファゼニウム化合物のピーク面積)/(リン酸のピーク面積)}/{(加熱前の残存ホスファゼニウム化合物のピーク面積)/(リン酸のピーク面積)}×100(%)
(評価B)
アンモニウム化合物の化学安定性評価
アンモニウム化合物中のイオン交換基の塩基に対する化学的安定性を、H-NMR分光測定をもとに以下の方法によって評価した。
水酸化カリウムを重メタノール/重水=5/1の混合溶媒に1Mの濃度で溶解させた。
アンモニウム化合物を上記の水酸化カリウム溶液に溶解させ、サンプル溶液を調製した。
NMRチューブにサンプル溶液を入れ室温でH-NMR測定を行った。
次に、サンプル溶液をサンドバス中80℃で加熱し、所定の時間を経過した後H-NMR測定を行った。アンモニウム化合物の残存率を下記式により算出し、分解挙動を追跡した。
残存率=(加熱後の残存アンモニウム化合物のピーク面積)/(加熱後の全ピーク面積)×100(%)
【0257】
<イオン交換容量(Ion Exchange Capacity:IEC)測定>
イオン交換容量(IEC)とはアニオン交換膜の取り込める対アニオンの量を示し、通常は取り込んだヒドロキシイオンについて測定される。IECが高いほど相対的に膜抵抗は低くなり、燃料電池、水電解槽などのデバイスにおいて高い発電効率が期待される。
OH型アニオン交換膜(単独膜)を0.025M HCl溶液に24時間浸漬させて膜のカウンターアニオンをClに交換した。その後、上澄みのHCl溶液を分取して0.025M水酸化ナトリウム水溶液で滴定した。IECを、下記式を用いて算出した。
IEC[mmol/g]=(VHCl×CHCl-VNaOH×CNaOH)/M
ここで、VHCl[mL]:塩酸の体積、CHCl[mol/L]:塩酸の濃度、VNaOH[mL]:水酸化ナトリウムの体積、CNaOH[mol/L]:水酸化ナトリウムの濃度、M[g]:試料の重量である。
【0258】
<膜抵抗の測定>
ニッケル電極を備えた2室セル(断面積X[cm])の中央にアニオン交換膜(複合膜)を置き、アニオン交換膜の両側に、1M KOH水溶液を電解液として満たした状態で、バッテリハイテスタ3555(日置電機社製)により25℃における電極間の抵抗(A)を測定した。また、同様にアニオン交換膜を設置せずに電極間の抵抗(B)を測定し、下記式から膜抵抗を求めた。
膜抵抗=(A-B)×X[Ω・cm
【0259】
合成例1:ホスファゼン化合物(1)の合成
窒素置換した枝付フラスコにヘキサクロロシクロトリホスファゼン(1.00g、2.88mmol)、トルエン(10mL)を加え、撹拌して溶解させた後、反応液を-27℃に冷却した。滴下漏斗を用いてピロリジン(1.65g、23.20mmol)を加え、室温へと昇温した後、24時間反応させた。反応終了後、生成した固体をろ過によって除き、溶媒を減圧留去して固体を得た。この固体をTHF/ヘキサン=1/5、-35℃で2日間再結晶させて、ホスファゼン化合物(1)(0.52g、37%)を得た。
31P-NMRを測定したところピーク(27.8ppm(d)、16.6ppm(t))を確認し、ホスファゼン化合物(1)が下記式で表される構造を有するホスファゼン結合含有化合物であることが確認された。
【0260】
【化22】
【0261】
実施例1:ホスファゼン結合含有ポリマー(1)の製造
窒素置換した枝付フラスコに、ホスファゼン化合物(1)(0.75g、1.55mmol)、1、3-ジ-4-ピペリジルプロパン(0.33g、1.55mmol)、テトラブチルアンモニウムブロミド(50mg、0.16mmol)、炭酸カリウム(0.63mg、4.56mmol)、脱水THF(1.5mL)を加え、攪拌しながら66℃で30時間反応させた。反応終了後、反応液を水(100mL)に滴下し、生じた白色固体を吸引濾過で回収した。固体を減圧乾燥し、ポリマー(1a)(0.80g、83%)を得た。
31P-NMRを測定したところ、ピーク(20.3ppm(m)、18.2ppm(m))を確認し、ポリマー(1a)が下記式に示す構造単位を繰り返し単位として主に有するホスファゼン結合含有ポリマーであることが確認された。
ゲル浸透クロマトグラフィーによって分析したところ、得られたポリマーの数平均分子量は7千程度、重量平均分子量は1万2千程度であった。
【0262】
【化23】
【0263】
次に、窒素置換した枝付フラスコに、得られたポリマー(1a)(0.70g、1.12mmol)、ヨウ化メチル(1.60g、11.2mmol)、脱水THF(9mL)を加え、60℃で3時間反応させた。溶媒を減圧留去し、ポリマー(1)(0.84g、98%)を得た。
31P-NMRを測定したところ、ピーク(18.3ppm(m)、15.9ppm(m)、12.2ppm(m)、9.7ppm(m))を確認し、ポリマー(1)が下記式に示される各構造単位を繰り返し単位として有するホスファゼン結合含有ポリマーであることが確認された。また、31P-NMR分析結果から、カチオン化された構造単位の割合は60%程度であった。
得られたポリマー(1)に関し、化学安定性評価(評価A)を行った。その結果、浸漬時間1か月後であっても残存率が80%以上であった。
【0264】
【化24】
【0265】
【化25】
【0266】
実施例2:アニオン交換膜の作成
(アニオン交換膜(単独膜)の作成)
9mLスクリュー管(マルエム、No.3)に実施例1で得られたポリマー(1)(0.5g)、メタノール(2.5g)を加え、ボルテックスミキサーおよび超音波洗浄機により目視で溶解物が無くなるまで振盪し、ポリマー溶液(20重量%)を作製した。離型PETフィルム(東洋紡、K1504)上に上記のポリマー溶液をアプリケーターで塗布し、オーブンで60℃、24時間常圧下で加熱後、室温で24時間真空乾燥した。その後、PETフィルムから膜を剥がし、2.5cm×2.5cm×膜厚100μmのアニオン交換膜(単独膜)を得た。得られた膜を1M NaOH水溶液に62時間室温で浸漬させて塩交換を行い、少量の脱イオン水で洗浄してOH型アニオン交換膜を調製した。
【0267】
(アニオン交換膜(複合膜)の作成)
上記と同様に作成したポリマー(1)の20重量%溶液を、2.5cm×10cmの微多孔質フィルム(PP製、単層、膜厚22μm、空隙率41%)上に塗布した。微多孔質フィルムにポリマー溶液が含浸した後、フィルム両面の余分な液を除去し、室温で24時間乾燥させることによりアニオン交換膜(複合膜)を得た。膜厚は22μmであった。得られた膜を1M NaOH水溶液に24時間室温で浸漬させて塩交換を行い、少量の脱イオン水で洗浄してOH型アニオン交換膜を調製した。
【0268】
実施例2で得られたアニオン交換膜について、イオン交換容量、膜抵抗の電気化学的特性評価を行った。その結果、上記単独膜についてイオン交換容量(IEC)は0.75mmol/gであり、上記複合膜について膜抵抗は0.17[Ω・cm]であった。
上記の結果から、本発明の実施例の膜は、優れた安定性を持つと同時に充分なアニオン伝導性を達成することができる膜であることが確認された。
【0269】
合成例2:ホスファゼン化合物(2)の合成
窒素置換した枝付フラスコにヘキサクロロシクロトリホスファゼン(0.50g、1.44mmol)、脱水THF(10mL)、トリエチルアミン(5mL)を加え、撹拌して溶解させた後、ピロリジン(1.23g、17.29mmol)を加えて44時間還流させた。反応終了後、生成した固体をろ過によって除き、溶媒を減圧留去して、固体を得た。この固体にトルエン(5mL)を加えて溶解させた後、枝付反応容器に移し、1M NaOH(5mL)を加えて室温で2時間激しく撹拌した後、有機層を抽出し、硫酸マグネシウムにて乾燥した。溶媒を減圧留去し、ホスファゼン化合物(2a)(0.58g、収率72%)を得た。
31P-NMRを測定したところ、ピーク(18.2ppm(s))を確認し、ホスファゼン化合物(2a)が下記式に示す構造を有するホスファゼン結合含有化合物であることが確認された。
【0270】
【化26】
【0271】
次に、窒素置換した枝付反応容器にホスファゼン化合物(2a)(0.44g、0.79mmol)、トルエン(8mL)を加えて撹拌し溶解させた。ヨウ化メチル(0.23g、1.62mmol)を加えた後、昇温して3時間還流した。溶媒を留去し、ホスファゼン化合物(2)(0.36g、収率65%)を得た。
31P-NMRを測定したところ、ピーク(16.7ppm(d)、10.6ppm(t))を確認し、ホスファゼン化合物(2)が下記式に示す構造を有するホスファゼン結合含有化合物であることが確認された。
【0272】
【化27】
【0273】
合成例3:ホスファゼン化合物(3)の合成
窒素置換した枝付フラスコにヘキサクロロシクロトリホスファゼン(1.00g、2.88mmol)、トルエン(10mL)を加え、撹拌して溶解させた後、反応液を-27℃に冷却した。滴下漏斗を用いてピロリジン(1.65g、23.20mmol)を加え、室温へと昇温した後、24時間反応させた。反応終了後、生成した固体をろ過によって除き、溶媒を減圧留去して固体を得た。この固体をTHF/ヘキサン=1/5、-35℃で2日間再結晶させて、ホスファゼン化合物(3a)(0.52g、37%)を得た。
31P-NMRを測定したところ、ピーク(27.8ppm(d)、16.6ppm(t))を確認し、ホスファゼン化合物(3a)が下記式に示す構造を有するホスファゼン結合含有化合物であることが確認された。
【0274】
【化28】
【0275】
次に、窒素置換した枝付反応容器に、ホスファゼン化合物(3a)(0.20g、 0.41mmol)、トルエン(2mL)を加え、撹拌して溶解させた後、トリエチルアミン(1mL)、ピペリジン(0.28g、3.29mmol)を加えて100℃で10時間反応させた。反応終了後、生成した固体をろ過によって除き、溶媒を減圧留去してホスファゼン化合物(3b)(0.21g、収率88%)を得た。
31P-NMRを測定したところ、ピーク(20.3ppm(d)、18.3ppm(t))を確認し、ホスファゼン化合物(3b)が下記式に示す構造を有するホスファゼン結合含有化合物であることが確認された。
【0276】
【化29】
【0277】
次に、窒素置換した枝付反応容器に、ホスファゼン化合物(3b)(0.15g、0.28mmol)、トルエン(1.5mL)を加えて撹拌し溶解させた。ヨウ化メチル(73mg、0.51mmol)を加えた後、昇温して3時間還流した。さらにヨウ化メチル(73mg、0.51mmol)を加えて6時間還流した後、溶媒を減圧留去してホスファゼン化合物(3)(0.20g、98%)を位置異性体の混合物として得た。
31P-NMRを測定したところ、ピーク(18.4ppm(m)、16.0ppm(t)、12.3ppm(t)、9.7ppm(t))を確認しホスファゼン化合物(3)が下記式に示す構造を有するホスファゼン結合含有化合物であることが確認された。
【0278】
【化30】
【0279】
参考例1:アンモニウム化合物
市販のベンジルトリエチルアンモニウムクロリドをそのまま化合物(r1)として使用した。
合成例1および2で得られた各ホスファゼン化合物(2)、(3)および参考例1の化合物(r1)について、化学安定性評価を行った。なお、合成例1、2で得られたホスファゼン化合物(2)、(3)は、化学安定性評価(A)により、参考例1のアンモニウム化合物(r1)については、化学安定性評価(B)により、それぞれ評価を行った。
【0280】
各評価結果を、実施例1で得られたポリマー(1)の評価結果と併せて、表1に示す。ポリマー(1)、ホスファゼン化合物(2)、(3)はいずれも高い化学安定性を有することが確認された。
【0281】
【表1】
【0282】
実施例3:ホスファゼン結合含有ポリマー(2)の製造
窒素置換した枝付フラスコに、ホスファゼン化合物(1)(2.0g、4.11mmol)、1、3-ジ-4-ピペリジルプロパン(0.87g、4.11mmol)、テトラブチルアンモニウムブロミド(50mg、0.16mmol)、炭酸カリウム(1.69、12.2mmol)、脱水THF(1.5mL)脱水トルエン(1mL)、脱水ジグライム(1mL)を加え、攪拌しながら113℃で60時間反応させた。反応終了後、反応液をセライトろ過し、得られたろ液をDMF(100mL)に滴下し、生じた白色固体を吸引濾過で回収した。固体を減圧乾燥し、ポリマー(2a)(2.03g、79%)を得た。
31P-NMRを測定したところ、ピーク(20.3ppm(m)、18.2ppm(m))を確認し、ポリマー(2a)が下記式に示す構造単位を繰り返し単位として主に有するホスファゼン結合含有ポリマーであることが確認された。
ゲル浸透クロマトグラフィーによって分析したところ、得られたポリマー(2a)の数平均分子量はポリスチレン換算で1万9千程度、重量平均分子量は6万程度であった。
【0283】
【化31】
【0284】
次に、窒素置換した枝付フラスコに、得られたポリマー(2a)(1.80g、2.89mmol)、ヨウ化メチル(2.05g、14.4mmol)、炭酸カリウム(0.40g、2.89mmol)、脱水トルエン(10mL)を加え、60℃で3時間反応させた。溶媒を減圧留去し、ポリマー(1)(2.20g、99%)を得た。
31P-NMRを測定したところ、ピーク(18.3ppm(m)、15.9ppm(m)、12.2ppm(m)、9.7ppm(m))を確認し、ポリマー(2)が下記式に示される各構造単位を繰り返し単位として有するホスファゼン結合含有ポリマーであることが確認された。
また、31P-NMR分析結果から、カチオン化された構造単位の割合は90%以上であった。
実施例2に記載の方法で単独膜を作成し、IECを測定したところ、1.20mmol/gであった。
ポリマー(2a)、及びポリマー(2)を使用して作成した膜について、それぞれ固体13C-NMR、固体31P-NMRおよび固体15N-NMRによる分析を行った。結果を図1~3に示す。
図1の固体13C-NMRスペクトルに示されるように、カチオン化されたポリマー(2)はカチオン化されていないポリマー(2a)と比較して、35ppm付近のピーク強度が相対的に高い。また、図2の固体31P-NMRスペクトルに示されるように、カチオン化されたポリマー(2)はカチオン化されていないポリマー(2a)と比較して、ピークが高磁場側にシフトし、さらに高磁場側に肩ピークが生じる。さらに、図3の固体15N-NMRスペクトルに示されるように、カチオン化されたポリマー(2)はカチオン化されていないポリマー(2a)と比較して、60ppm付近のピーク強度が低く、50ppm付近のピーク強度が高い。
以上の通り、固体NMRを用いることで膜状態のサンプルにおいて、特徴的なスペクトルの変化を確認することができた。
【0285】
【化32】
【0286】
合成例4:ホスファゼン化合物(4)の合成
ピロリジンをジメチルアミンに変えた以外は合成例1と同じ方法でジメチルアミンが4置換した下記式に示すホスファゼン化合物(4)を合成した。
31P-NMRを測定したところ、ピーク(32.1ppm(d)、24.7ppm(t))を確認しホスファゼン化合物(4)が下記式に示す構造を有するホスファゼン結合含有化合物であることが確認された。
【0287】
【化33】
【0288】
実施例4:ホスファゼン結合含有ポリマー(3)の製造
ホスファゼン化合物(1)を合成例4で得たホスファゼン化合物(4)に変えた以外は実施例3と同じ方法でホスファゼン含有ポリマー(3)を合成した。
31P-NMRを測定したところ、ピーク(25.2ppm(m)、23.8ppm(m))を確認し、ポリマー(3a)が下記式に示される構造単位を繰り返し単位として有するホスファゼン結合含有ポリマーであることが確認された。
ゲル浸透クロマトグラフィーによって分析したところ、得られたポリマー(3a)の数平均分子量はポリスチレン換算で1万3千程度、重量平均分子量は5万1千程度であった。
【0289】
【化34】
【0290】
次に、ポリマー(2a)をホスファゼン含有ポリマー(3a)に変えた以外は実施例3と同じ方法でホスファゼニウムポリマー(3)を合成した。
31P-NMRを測定したところ、ピーク(22.1ppm(m)、20.3ppm(m)、16.3ppm(m)、13.7pm(m)、10.4ppm(m))を確認し、ポリマー(3)が下記式に示される各構造単位を繰り返し単位として有するホスファゼン結合含有ポリマーであることが確認された。
実施例2に記載の方法で単独膜を作成し、IECを測定したところ、1.00mmol/gであった。
【0291】
【化35】
【0292】
実施例5:ホスファゼン結合含有ポリマー(4)の製造
1,3-ジ-4-ピペリジルプロパンをN,N’-ジメチルエチレンジアミンに変えた以外は実施例3と同じ方法で、下記式に示される構造単位繰り返し単位としてを有するホスファゼン含有ポリマー(4a)を合成した。
31P-NMRを測定したところ、ピーク(25.9ppm(m)、20.3ppm(m))を確認し、ポリマー(4a)が下記式に示される構造単位を繰り返し単位として有するホスファゼン結合含有ポリマーであることが確認された。
【0293】
【化36】
【0294】
次に、ポリマー(2a)をホスファゼン含有ポリマー(4a)に変えた以外は実施例3と同じ方法でホスファゼニウムポリマー(4)を合成した。
31P-NMRを測定したところ、ピーク(26.3ppm(m)、19.3ppm(m)、19.1ppm(m)、16.9ppm(m)、12.2ppm(m))を確認し、ポリマー(4)が下記式に示される各構造単位を繰り返し単位として有するホスファゼン結合含有ポリマーであることが確認された。
実施例2に記載の方法で単独膜を作成し、IECを測定したところ、0.98mmol/gであった。
【0295】
【化37】
【0296】
実施例6:アニオン交換膜(ブレンド膜)の作成
9mLスクリュー管(マルエム、No.3)に実施例3で得られたポリマー(2)(0.43g)、DMF(1.0g)を加え、ボルテックスミキサーおよび超音波洗浄機により目視で溶解物が無くなるまで振盪し、ホスファゼンポリマー溶液(30重量%)を作製した。また、同様にしてポリスルホンのDMF溶液(35重量%)を調整した。ホスファゼンポリマー溶液(450mg)、およびポリスルホン溶液(43mg)を混合し、ボルテックスミキサーおよび超音波洗浄機により、均一になるまで振盪しブレンドポリマー溶液を得た。PETフィルム上に上記のポリマー溶液をアプリケーターで塗布し、オーブンで100℃、2時間常圧下で加熱乾燥した。その後、PETフィルムから膜を剥がし、2.5cm×2.5cm×膜厚24μmのアニオン交換膜(ブレンド膜)を得た。得られた膜を1M NaOH水溶液に62時間室温で浸漬させて塩交換を行い、少量の脱イオン水で洗浄してOH-型アニオン交換膜を調製した。
実施例2と同じ方法で膜抵抗を測定したところ、0.17[Ω・cm]であった。
図1
図2
図3