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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】端末加工装置
(51)【国際特許分類】
   H01R 43/048 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
H01R43/048 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023510951
(86)(22)【出願日】2022-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2022012400
(87)【国際公開番号】W WO2022209980
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-25
(31)【優先権主張番号】P 2021060198
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002358
【氏名又は名称】新明和工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 高志
(72)【発明者】
【氏名】藤沢 直樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 慶紀
【審査官】高橋 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-191251(JP,A)
【文献】特開2006-185725(JP,A)
【文献】実開昭62-84187(JP,U)
【文献】特開2001-85136(JP,A)
【文献】米国特許第4796358(US,A)
【文献】特開2018-60642(JP,A)
【文献】特開2014-102965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R43/027-43/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の端部に端子を圧着する圧着装置と、
それぞれ1本の電線を把持可能に構成された複数の把持部材と、
前記複数の把持部材を支持するベース部材と、
前記複数の把持部材を個別に前記圧着装置に向かって移動させることが可能に構成され、移動される前記把持部材に把持された前記電線を前記圧着装置に装填する移動装置と、を備え
前記圧着装置は、前記ベース部材よりも第1方向に設けられ、
前記ベース部材は、前記第1方向にそれぞれ移動可能なように前記複数の把持部材を支持しており、
前記移動装置は、
前記ベース部材に支持された前記複数の把持部材を個別に前記第1方向に移動させることが可能な第1移動装置と、
前記ベース部材を移動または旋回させて、前記複数の把持部材を順次、前記圧着装置に正対させることが可能な第2移動装置と、を備えている、
端末加工装置。
【請求項2】
前記移動装置を制御して前記電線を前記圧着装置に装填させる制御装置さらに備え、
前記ベース部材は、前記第1方向に方向に交差する第2方向に並ぶように前記複数の把持部材を支持しており、
前記第2移動装置は、前記ベース部材を前記第2方向に移動させるように構成され、
前記制御装置は、前記第1移動装置および前記第2移動装置を制御して、前記複数の把持部材を順次、前記第1方向の終端位置に移動させるとともに前記圧着装置に正対する正対位置に移動させる、
請求項1に記載の端末加工装置。
【請求項3】
前記第1移動装置は、
前記第2方向の所定の係合位置に設けられた係合部材と、
前記係合部材を前記第1方向に移動するアクチュエータと、を備え、
前記各把持部材は、前記係合位置に位置しているときに前記係合部材と係合するように構成されており、
前記制御装置は、前記各把持部材を前記第1方向に移動させる際、前記第2移動装置を制御して前記各把持部材を前記係合位置に位置付けた後に前記アクチュエータを駆動する、
請求項2に記載の端末加工装置。
【請求項4】
前記係合部材の移動範囲の前記第1方向の終端位置と、前記第1方向の逆方向の終端位置とは、前記第1方向に第1距離だけ離れており、
前記各把持部材は、
前記第2方向に前記係合部材が通り抜け可能なように前記第2方向の両側面に切り抜けるとともに、前記係合部材が係合する係合溝と、
前記係合溝よりも前記第1方向に前記第1距離だけ離れて設けられ、前記第2方向に前記係合部材が通り抜け可能なように前記第2方向の両側面に切り抜けた逃げ溝と、を備えている、
請求項3に記載の端末加工装置。
【請求項5】
前記圧着装置は、前記第2方向および前記第1方向に直交する圧着方向に向かい合ったクリンパとアンビルとを備え、
前記制御装置は、
前記係合部材を前記第1方向の終端位置に移動した後に前記各把持部材を前記正対位置に移動することによって、前記電線を前記クリンパと前記アンビルとの間に挿入し、
前記電線を前記クリンパと前記アンビルとの間に挿入した後に、前記クリンパと前記アンビルとを接近させて前記電線に前記端子を圧着し、
前記端子を圧着した後に、前記各把持部材を前記第2方向の前記係合位置に移動し、
前記各把持部材を前記係合位置に移動した後に、前記係合部材を前記第1方向の逆方向の終端位置に移動する、
請求項4に記載の端末加工装置。
【請求項6】
前記複数の把持部材を前記第1方向の逆方向の終端位置にそれぞれ保持する第1保持機構をさらに備えている、
請求項2~5のいずれか一つに記載の端末加工装置。
【請求項7】
前記複数の把持部材を前記第1方向の終端位置にそれぞれ保持する第2保持機構をさらに備えている、
請求項2~6のいずれか一つに記載の端末加工装置。
【請求項8】
前記各把持部材は、前記電線の種類に応じて交換可能であって前記電線を挟持する挟持部を備えている、
請求項1~7のいずれか一つに記載の端末加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線の端末加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被覆が剥かれた電線の端部に端子を自動で圧着する端末加工装置が従来から知られている。従来の典型的な端末加工装置では、電線は、電線を横方向に搬送する搬送装置により、順次側方から圧着装置のアプリケータに挿入される。しかし、例えば多芯ケーブルの複数の芯線に端子を圧着しようとするような場合、圧着中でない芯線がアプリケータなどに接触し、問題となることがあった。そのような問題を解決し、さらに圧着に係る時間を節減するために、複数の電線に対して一度に端子を圧着する圧着方法が提案されている。例えば特許文献1には、複数の端子押圧面を並列に有する一括クリンパと、複数の端子受け面を並列に有する一括アンビルとを用いて多芯ケーブルの各芯線に各端子を一括で圧着する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-3429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された方法によれば、多芯ケーブルの圧着中でない芯線が端末加工装置に接触することを防止でき、端子圧着時間の短縮も期待できる。しかし、特許文献1に開示された方法では、複数の端子を同時に圧着するため、圧着力を測定して圧着作業の良否を判定する良否判定作業を行うことができない。圧着力の測定による良否判定は、圧着品質の管理の上で非常に重要な工程であり、一度に1本の電線に対して圧着を行うのでなければ実施できない工程である。複数の電線に対する複数の端子の一括圧着では、個々の圧着の圧着力が不明であるため、個々の電線の圧着の良否を判定することができない。従って、電線への端子の圧着方式としては、一度に1本の電線にだけ圧着を行う方式が好ましい。ただし、多芯ケーブルに対して一度に1本の電線にだけ圧着を行う方式を適用すると、上記したような問題が発生し得る。
【0005】
上記問題を解決するために、多芯ケーブルの複数の電線のうちの1本を電線把持装置で把持して、把持した電線に対して圧着を行う方法も考えられる。電線を掴み替えながらこれを続けることにより、複数の電線の圧着を1本ずつ順次に行うことができる。かかる方法によれば、一度に1本の電線にだけ圧着を行い、かつ、圧着中でない電線が端末加工装置に接触することを抑制できる。しかし、このような方法は電線の掴み替えのための時間が必要であるため、工程時間が長くなる。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、複数の電線に対して1本ずつ圧着を行い、かつ、圧着時間を短縮できる端末加工装置を提供することである。
【0007】
本発明に係る端末加工装置は、電線の端部に端子を圧着する圧着装置と、それぞれ1本の電線を把持可能に構成された複数の把持部材と、前記複数の把持部材を個別に前記圧着装置に向かって移動させることが可能に構成され、移動される前記把持部材に把持された前記電線を前記圧着装置に装填する移動装置と、を備える。
【0008】
上記端末加工装置によれば、それぞれ1本ずつ電線を把持可能な複数の把持部材により複数の電線を一度に把持することができる。これにより、自由な電線が端末加工装置に接触することが防止され、かつ、電線の掴み替えのための時間が必要でなくなる。さらに、移動装置は、複数の把持部材を個別に圧着装置に向かって移動させることが可能に構成されており、移動される把持部材に把持された電線だけを圧着装置に装填することができる。従って、複数の電線の圧着を1本ずつ順次に行うことができる。その結果、複数の電線に対して1本ずつ圧着を行うことと、圧着時間の短縮をともに実現できる。
【0009】
本発明に係る端末加工装置の好ましい一態様によれば、端末加工装置は、所定の並び方向に並びかつ前記並び方向と交差する移動方向にそれぞれ移動可能なように前記複数の把持部材を支持するベース部材と、前記移動装置を制御して前記電線を前記圧着装置に装填させる制御装置と、をさらに備えている。前記移動装置は、前記ベース部材に支持された前記複数の把持部材を個別に前記移動方向に移動させる第1移動装置と、前記ベース部材を前記並び方向に移動させる第2移動装置と、を備えている。前記圧着装置は、前記ベース部材よりも前記移動方向の一方側に設けられている。前記制御装置は、前記第1移動装置および前記第2移動装置を制御して、前記複数の把持部材を順次、前記移動方向の前記一方側の終端位置に移動させるとともに前記圧着装置に正対する正対位置に移動させる。
【0010】
上記端末加工装置によれば、圧着を行う電線を把持した把持部材を圧着装置に正対させる第2移動装置と、圧着を行う電線を把持した把持部材を圧着装置に接近させる第1移動装置との組み合わせにより、複数の把持部材を個別に圧着装置に向かって移動させる移動装置を簡易な構成で実現できる。
【0011】
上記した端末加工装置の好ましい一態様によれば、前記第1移動装置は、前記並び方向の所定の係合位置に設けられた係合部材と、前記係合部材を前記移動方向に移動するアクチュエータと、を備えている。前記各把持部材は、前記係合位置に位置しているときに前記係合部材と係合するように構成されている。前記制御装置は、前記各把持部材を前記移動方向に移動させる際、前記第2移動装置を制御して前記各把持部材を前記係合位置に位置付けた後に前記アクチュエータを駆動する。
【0012】
上記端末加工装置によれば、把持部材ごとにアクチュエータを設けることなく、1つのアクチュエータによって、複数の把持部材を個別に移動方向に移動させることができる。
【0013】
上記した端末加工装置の好ましい一態様によれば、前記係合部材の移動範囲の前記一方側の終端位置と他方側の終端位置とは、前記移動方向に第1距離だけ離れている。前記各把持部材は、前記並び方向に前記係合部材が通り抜け可能なように前記並び方向の両側面に切り抜けるとともに、前記係合部材が係合する係合溝と、前記係合溝よりも前記移動方向の前記一方側に前記第1距離だけ離れて設けられ、前記並び方向に前記係合部材が通り抜け可能なように前記並び方向の両側面に切り抜けた逃げ溝と、を備えている。
【0014】
上記端末加工装置によれば、各把持部材が移動範囲の一方側または他方側の終端位置にある状態では、他方側の終端位置にある把持部材によって係合部材の通路が形成される。また、他方側の終端位置にある把持部材の逃げ溝と一方側の終端位置にある把持部材の係合溝とによる係合部材の通路も形成される。これにより、全ての把持部材を後退させた状態であっても、いくつかの把持部材を圧着装置の側に前進させた状態であっても、係合部材と干渉することなく、ベース部材を並び方向に移動することができる。
【0015】
上記した端末加工装置の好ましい一態様によれば、前記圧着装置は、前記並び方向および前記移動方向に直交する圧着方向に向かい合ったクリンパとアンビルとを備えている。前記制御装置は、前記係合部材を前記一方側の終端位置に移動した後に前記各把持部材を前記正対位置に移動することによって、前記電線を前記クリンパと前記アンビルとの間に挿入する。前記制御装置は、前記電線を前記クリンパと前記アンビルとの間に挿入した後に、前記クリンパと前記アンビルとを接近させて前記電線に前記端子を圧着する。前記制御装置は、前記端子を圧着した後に、前記各把持部材を前記並び方向の前記係合位置に移動する。前記制御装置は、前記各把持部材を前記係合位置に移動した後に、前記係合部材を前記他方側の終端位置に移動する。
【0016】
上記端末加工装置によれば、電線は、圧着装置の側方からクリンパとアンビルとの間に挿入される。これにより、電線が圧着装置に衝突するリスクが低減される。圧着装置に対する電線の挿入は、圧着装置の正面側から行うよりも側方から行った方が、電線が圧着装置に衝突するリスクが低い。かかる圧着を行うためには、把持部材を正対位置に移動させる前に移動方向の一方側の終端位置に移動しておく必要があるが、把持部材に設けられた逃げ溝によってこのような動きが可能となっている。
【0017】
本発明に係る端末加工装置の好ましい一態様によれば、端末加工装置は、前記複数の把持部材を前記移動方向の他方側の終端位置にそれぞれ保持する第1保持機構をさらに備えている。
【0018】
上記端末加工装置によれば、第2移動装置によってベース部材が並び方向に移動されるときに、圧着を行うのではない電線を把持している把持部材が他方側の終端位置から動いてしまうことを抑制できる。
【0019】
本発明に係る端末加工装置の好ましい一態様によれば、端末加工装置は、前記複数の把持部材を前記移動方向の前記一方側の終端位置にそれぞれ保持する第2保持機構をさらに備えている。
【0020】
上記端末加工装置によれば、一方側の終端位置に移動され、圧着を行う電線を把持している把持部材が、圧着中またはベース部材の移動中に一方側の終端位置から動いてしまうことを抑制できる。
【0021】
本発明に係る端末加工装置の好ましい一態様によれば、前記各把持部材は、前記電線の種類に応じて交換可能であって前記電線を挟持する挟持部を備えている。
【0022】
上記端末加工装置によれば、端末加工装置は、様々な種類の電線に対応して圧着を行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る端末加工装置によれば、複数の電線に対して1本ずつ圧着を行い、かつ、圧着時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一実施形態に係る端末加工装置の斜視図である。
図2】多芯ケーブルを把持した状態の端末加工装置を示す平面図である。
図3】端末加工装置の右側面図である。
図4】シャトルとYZ軸移動ユニットの主要部とが離れた状態の電線挿入装置を示す斜視図である。
図5】シャトルを斜め下方から見た斜視図である。
図6】右端のクランプが前方側の終端位置に位置している状態のシャトルを斜め下方から見た斜視図である。
図7】端末加工装置のブロック図である。
図8】右端のクランプが前方側の終端位置に位置付けられた状態の電線挿入装置を示す斜視図である。
図9】シャトルが正対位置に移動した状態の電線挿入装置を示す斜視図である。
図10】変形例に係るクランプおよび保持機構の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[装置の構成]
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。図1は、一実施形態に係る端末加工装置10の斜視図である。端末加工装置10は、複数の電線の各端末に端子を圧着する装置である。図2は、多芯ケーブル1を把持した状態の端末加工装置10を示す平面図である。図3は、端末加工装置10の側面図である。図2に示すように、本実施形態に係る端末加工装置10は、主として、ドレイン線3と複数のコア線4とを有する多芯ケーブル1の端末加工を行う装置である。以下、特に区別する必要がないときには、ドレイン線3とコア線4とを総称して芯線2とも呼ぶ。ただし、端末加工装置10は、例えば、複数の単芯電線の端末加工を行ってもよい。端末加工装置10の加工対象の電線は特に限定されない。図2に示すように、端末加工装置10に装填される前に、多芯ケーブル1に対しては、両端部の被覆を剥く処理、撚り合わされた複数の芯線2の撚りをほどく処理、ドレイン線3に熱収縮チューブを被せる処理、各芯線2の端部の被覆を剥いて端部2aを露出させる処理などが行われている。端末加工装置10は、ここでは、複数の芯線2の各端部2aに端子5(図3参照)を圧着する。ここに示す例では、多芯ケーブル1の芯線2の数は5本(コア線4が4本、ドレイン線3が1本)である。端末加工装置10は、5本の芯線2の両端部、すなわち計10の端部2aに端子5を圧着する。多芯ケーブル1はそのためにU字に曲げられており、多芯ケーブル1の全ての端部2aは同じ向きを向いている。
【0026】
図3に示すように、本実施形態に係る端末加工装置10は、圧着装置20と、圧着装置20に芯線2を挿入する電線挿入装置30と、制御装置80(図7参照)と、を備えている。以下の説明では、電線挿入装置30から見た圧着装置20の方向を端末加工装置10の前方とし、符号Fで表す。端末加工装置10の左方および右方は、前方に向かって見た左方および右方とする。図面において、F、Rr、L、R、U、Dはそれぞれ、端末加工装置10の前後左右上下を表している。ただし、これらの方向は説明の都合上のものであり、端末加工装置10の設置態様等を何ら限定するものではない。また、以下では、端末加工装置10の左右方向をX軸方向とも呼ぶ。同様に、端末加工装置10の前後方向をY軸方向とも呼び、上下方向をZ軸方向とも呼ぶ。X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向は、互いに直交している。
【0027】
圧着装置20は、電線の端末(ここでは、多芯ケーブル1の芯線2の端部2a)に端子5を圧着する装置である。圧着装置20は、1回につき1本の芯線2に端子5を圧着する。本実施形態では、多芯ケーブル1の前端部1F(図2参照)の端部2aに圧着される端子5と後端部1Rr(図2参照)の端部2aに圧着される端子5とが異なる種類の端子5であるため、端末加工装置10は、2台の圧着装置20を備えている。2台の圧着装置20は、左右に並んで設けられている。2台の圧着装置20の構成は、概ね共通である。よって、以下では一方の圧着装置20についてのみ説明し、他方の圧着装置20の説明は省略する。また、他方の圧着装置20の図示も省略する。
【0028】
図3に示すように、圧着装置20は、アプリケータ21と、アプリケータ21を押圧するプレス22(図7参照)と、圧着力計23(図7参照)と、を備えている。アプリケータ21は、端子5を成形する金型であるクリンパ21aおよびアンビル21bを備えている。クリンパ21aとアンビル21bとは、Z軸方向(上下方向)に向かい合っている。クリンパ21aとアンビル21bとの間に端子5が供給され、芯線2の端部2aが挿入された状態でプレス22が駆動すると、クリンパ21aとアンビル21bとが接近し、芯線2の端部2aに端子5が圧着される。圧着力計23は、圧着の際のプレス22のプレス圧を測定している。圧着力計23によって測定されたプレス圧が所定の範囲に入っている場合、端末加工装置10は、圧着が良好に行われたと判定する。圧着力計23によって測定されたプレス圧が所定の範囲から外れた場合には、端末加工装置10は、圧着不良と判定する。
【0029】
電線挿入装置30は、2台の圧着装置20の後方に設けられている。図1に示すように、電線挿入装置30は、それぞれ1本の芯線2を把持可能な複数のクランプ40A~40Jと、複数のクランプ40A~40Jを支持するシャトル50と、シャトル50をX軸方向(左右方向)に移動させるX軸移動装置60と、クランプ40A~40JをY軸方向(前後方向)に移動させるとともにシャトル50を上下方向に移動させるYZ軸移動ユニット70と、を備えている。X軸移動装置60とYZ軸移動ユニット70とは、複数のクランプ40A~40Jを移動させて芯線2を圧着装置20に装填する移動装置を構成している。詳しくは後述するが、移動装置としてのX軸移動装置60およびYZ軸移動ユニット70は、複数のクランプ40A~40Jを個別に圧着装置20に向かって移動させることが可能に構成されている。
【0030】
図4は、シャトル50とYZ軸移動ユニット70の主要部とが離れた状態の電線挿入装置30を示す斜視図である。詳しくは後述するが、シャトル50は、X軸移動装置60によってX軸方向に移動され、これによりYZ軸移動ユニット70の主要部に接近または離反する。図4に示すように、シャトル50は、X軸方向およびY軸方向に延びる平板部50Fと、平板部50Fの後方に設けられ平板部50Fを支持する支持部50Rrと、を備えている。支持部50Rrは、平板部50FをZ軸方向に移動可能に支持している。図5は、シャトル50を斜め下方から見た斜視図である。図5に示すように、支持部50Rrは、Z軸方向に延びる一対のガイドレール55を備えている。平板部50Fには、一対のガイドレール55に摺動自在に係合する直動ガイド56が設けられている。
【0031】
図4に示すように、シャトル50の平板部50Fには、複数のクランプ40A~40Jがそれぞれ移動可能に係合する複数のガイド溝51が設けられている。ガイド溝51の数は、ここでは10である。複数のガイド溝51は、X軸方向に並んで設けられ、それぞれY軸方向に延びている。各クランプ40A~40Jは、ガイド溝51に沿ってY軸方向に移動可能である。Y軸方向はクランプ40A~40Jの移動方向であり、X軸方向はクランプ40A~40Jの並び方向である。シャトル50は、複数のクランプ40A~40JがX軸方向に並ぶように、かつ、X軸方向に直交するY軸方向にそれぞれ移動可能なように、複数のクランプ40A~40Jを支持している。シャトル50は、クランプ40A~40Jの移動方向であるY軸方向に直交する方向(X軸方向)に移動可能に構成されている。
【0032】
図5に示すように、平板部50Fの下面のY軸方向中央部には、X軸方向に延びる溝50aが設けられている。溝50aは、平板部50FのX軸方向の両側面に切り抜けている。図5に示すように、溝50aが設けられた部分では、ガイド溝51は平板部50Fの下面まで貫通し、複数の貫通孔51aを形成している。各クランプ40A~40Jの下面の一部は、各貫通孔51aから露出している。
【0033】
図2に示すように、ガイド溝51の後方には、クランプ40A~40Jの保持機構52が設けられている。保持機構52は、複数のクランプ40A~40JをそれぞれY軸方向の後方側の終端位置に保持する機構である。保持機構52は、ブロック52aと、複数のボールプランジャ52bと、を備えている。ブロック52aは、ガイド溝51の後端に隣接して設けられ、X軸方向に延びている。ブロック52aには、それぞれ1つのガイド溝51に対応した複数の挿入孔52cが設けられている。挿入孔52cは、対応するガイド溝51の後方に配置されている。クランプ40A~40JがY軸方向の後方側の終端位置に位置しているとき、クランプ40A~40Jの後端部は、挿入孔52cに挿入される。ブロック52aには、複数のボールプランジャ52bが埋設されている。複数のボールプランジャ52bは、それぞれ1つの挿入孔52cに対応している。ボールプランジャ52bは、対応する挿入孔52cの上方に設けられ、そのボールの一部は挿入孔52c内に突出している。ボールプランジャ52bのボールはスプリングによって下方に押されている。クランプ40A~40Jの後端部を挿入孔52cに挿入すると、ボールプランジャ52bのボールはクランプ40A~40Jに押されて上方に移動する。クランプ40A~40Jは、ボールプランジャ52bのボールによって下方に向かって押される。これにより、複数のクランプ40A~40JがそれぞれY軸方向の後方側の終端位置に保持される。
【0034】
シャトル50の支持部50Rrには、多芯ケーブル1を保持するケーブル保持部53が設けられている。図4に示すように、ケーブル保持部53には、X軸方向に並んだ2つの保持溝53aが形成されている。2つの保持溝53aは、それぞれY軸方向に延びている。図2に示すように、U字に曲げられた多芯ケーブル1の前端部1F側の一部は、右側の保持溝53aに通されている。U字に曲げられた多芯ケーブル1の後端部1Rr側の一部は、左側の保持溝53aに通されている。多芯ケーブル1の両端部1F、1Rrは、これにより、ケーブル保持部53よりも前方(クランプ40A~40Jの側)に配置される。また、多芯ケーブル1の中央部の曲げ部分は、ケーブル保持部53よりも後方に配置される。ケーブル保持部53に保持されることにより、シャトル50における多芯ケーブル1の姿勢、特にシャトル50が移動しているときの姿勢が安定する。
【0035】
支持部50Rrの後方側の側面には、直動ガイド54が設けられている。図1に示すように、直動ガイド54は、X軸移動装置60のガイドレール61(YZ軸移動ユニット70を見やすくするため、2点鎖線にて図示)に摺動可能に係合している。ガイドレール61は、X軸方向に延びている。シャトル50は、直動ガイド54がガイドレール61に摺動可能に係合していることにより、ガイドレール61に沿ってX軸方向に移動可能である。X軸移動装置60は、シャトル50をX軸方向に移動させる。X軸移動装置60は、ガイドレール61と、サーボモータ62(図7参照)と、図示しないボールねじ機構とを備えている。シャトル50は、サーボモータ62が駆動すると、ガイドレール61に沿ってX軸方向に移動する。芯線2を圧着する際のシャトル50のX軸方向の位置は端子圧着を行う端部2aに応じて変わり、位置精度も必要であるため、X軸移動装置60のアクチュエータとしては、位置を制御可能なサーボモータ62が使用されている。シャトル50の停止位置の数は端部2aの数に等しい。ただし、X軸移動装置60のアクチュエータは、サーボモータ62に限定されるわけではない。
【0036】
複数のクランプ40A~40Jは、それぞれ1本の芯線2を把持した状態でY軸方向に移動されることにより、芯線2の端部2aを圧着装置20に接近させ、または離反させる。複数のクランプ40A~40Jのうち、右側の5つのクランプ40A~40Eは、多芯ケーブル1の前端部1Fの端部2aを把持する。左側の5つのクランプ40F~40Jは、多芯ケーブル1の後端部1Rrの端部2aを把持する。また、複数のクランプ40A~40Jのうち、クランプ40A~40Dおよび40G~40Jは、コア線4を把持する。クランプ40Eおよび40Fは、ドレイン線3を把持する。コア線4を把持する8つのクランプは、同じクランプである。そこで、以下では、右端のクランプ40Aについて説明し、クランプ40Aと同じ他の7つのクランプの説明は省略する。また、ドレイン線3を把持するクランプ40Eおよび40Fについての説明は、クランプ40Aと異なる部分を除いて省略する。
【0037】
図4に示すように、クランプ40Aは、挟持部41と、摺動部42と、両者を固定するボルトBtと、を備えている。挟持部41は、芯線2を挟持する部材である。挟持部41は、電線の種類に応じて交換される。挟持部41は、摺動部42に対して着脱可能に構成されている。挟持部41は、ボルトBtを外すことにより、摺動部42から離脱する。クランプ40Eおよび40Fは、挟持部41の種類がクランプ40Aと異なっており、他の構成は同じである。図4に示すように、挟持部41は、Z軸方向に延びている。挟持部41の下端部は、ボルトBtにより摺動部42の前端部に固定される。挟持部41の上端部には、芯線2を挟持するクランプ溝41aが設けられている。クランプ溝41aは、挟持部41の上端から下方に向かって形成されている。クランプ溝41aのX軸方向の幅は、コア線4の直径よりもわずかに狭い。そのため、クランプ溝41aにコア線4を押し込むと、コア線4の被覆の弾性力により、コア線4がクランプ40Aに保持される。なお、ドレイン線3を把持するクランプ40Eおよび40Fの挟持部41では、クランプ溝41aの幅がドレイン線3の直径に対応した幅となっている。
【0038】
摺動部42は、Y軸方向に延び、シャトル50のガイド溝51に係合している。摺動部42の前端部には挟持部41が接続されている。クランプ40Aは、X軸方向視において、略L字型に構成されている。図5に示すように、クランプ40Aの下面には、係合溝42aと、逃げ溝42bとが形成されている。係合溝42aは、後述する係合ピン74(図4参照)が係合する溝である。かつ、係合溝42aは、X軸方向に係合ピン74が通り抜け可能なように、クランプ40AのX軸方向の両側面に切り抜けている。逃げ溝42bは、係合溝42aよりもY方向の前方側(Y軸方向のうち、クランプ40Aから見て圧着装置20の側)に所定の距離L1だけ離れて設けられている。この距離L1は、クランプ40AのY軸方向の移動範囲の長さと同じである。図6は、右端のクランプ40Aが前方側の終端位置に位置している状態のシャトル50を斜め下方から見た斜視図である。図6に示すように、右端のクランプ40Aが前方側の終端位置に位置し、他のクランプ40B~40Jが後方側の終端位置に位置しているとき、Y軸方向に関して、右端のクランプ40Aの係合溝42aの位置と他のクランプ40B~40Jの逃げ溝42bの位置とが揃う。逃げ溝42bも、X軸方向に係合ピン74が通り抜け可能なように、クランプ40AのX軸方向の両側面に切り抜けている。そのため、図5および図6に示すように、各クランプ40A~40Jが前方側または後方側の終端位置に位置している状態では、係合ピン74がX軸方向に通り抜け可能な経路が2つ形成される。
【0039】
YZ軸移動ユニット70は、シャトル50に支持された複数のクランプ40A~40Jを個別にY軸方向に移動させるY軸移動装置70Yと、シャトル50の平板部50FをZ軸方向に移動させるZ軸移動装置70Zと、を備えている。図4に示すように、Y軸移動装置70Yは、アクチュエータとしてのY軸シリンダ71と、ガイドレール72と、ピン台73と、係合ピン74と、連結部材75と、を備えている。Y軸シリンダ71は、ここではエアシリンダである。Y軸移動装置70Yのアクチュエータは2位置のアクチュエータでよいため、Y軸移動装置70Yのアクチュエータとしては、エアシリンダが好適に利用できる。ただし、Y軸移動装置70Yのアクチュエータは、エアシリンダに限定されるわけではない。Y軸シリンダ71は、係合ピン74をY軸方向に移動するアクチュエータである。Y軸シリンダ71は、Y軸方向に伸縮するロッド71aを備えている。係合ピン74はピン台73に下方から支持され、ピン台73は、ガイドレール72に移動可能に係合している。ガイドレール72は、Y軸方向に延びている。ピン台73および係合ピン74は、ガイドレール72に沿ってY軸方向に移動可能である。連結部材75は、ピン台73とY軸シリンダ71のロッド71aとを連結している。そのため、ロッド71aが伸びると、ピン台73および係合ピン74は前方に移動する。ロッド71aが縮むと、ピン台73および係合ピン74は後方に移動する。係合ピン74をY軸方向に移動させることによりクランプ40A~40JのいずれかをY軸方向に移動させることができるが、この詳細については後述する。なお、係合ピン74の移動範囲の前方側の終端位置と後方側の終端位置との距離も、距離L1である。
【0040】
Z軸移動装置70Zは、Z軸シリンダ76を備えている。図示は省略するが、Z軸シリンダ76は、Z軸方向に伸縮するロッドを備えている。Z軸シリンダ76のロッドが伸びると、Y軸移動装置70Yおよびシャトル50の平板部50Fは、支持部50Rrのガイドレール55に沿って上方に移動する。これにより、複数のクランプ40A~40Jも上方に移動する。ロッドが縮むと、Y軸移動装置70Y、シャトル50の平板部50F、および複数のクランプ40A~40Jは下方に移動する。
【0041】
図7は、端末加工装置10のブロック図である。図7に示すように、端末加工装置10の制御装置80は、圧着装置20のプレス22および圧着力計23と、X軸移動装置60のサーボモータ62と、Y軸移動装置70YのY軸シリンダ71と、Z軸移動装置70ZのZ軸シリンダ76と、に接続され、これらの動きを制御している。制御装置80は、移動装置としてのX軸移動装置60、Y軸移動装置70Y、およびZ軸移動装置70Zを制御して、芯線2を圧着装置20に装填させる。また、制御装置80は、圧着装置20のプレス22を制御して、芯線2の端部2aに端子5を圧着する。制御装置80は、このとき、圧着力計23によって測定されたプレス圧を取得し、圧着作業の良否を判定する。
【0042】
[端子圧着プロセス]
以下では、本実施形態に係る端末加工装置10による端子圧着のプロセスの一例について説明する。図4は、クランプ40A~40Jに芯線2を把持させるときの端末加工装置10の状態を示している。芯線2は、シャトル50がYZ軸移動ユニット70の主要部から離れた状態で、クランプ40A~40Jによって把持される。多芯ケーブル1の複数の芯線2は、他の装置または作業者の作業によりクランプ40A~40Jに装着される。また、多芯ケーブル1の被覆部分は、ケーブル保持部53に装着される。図3に示すように、このとき、多芯ケーブル1は、被覆部分とクランプ40A~40Jとの間の芯線2が弛むように装着される。これにより、芯線2が引っ張られることなくクランプ40A~40JをY軸方向に移動させることができる。
【0043】
次のステップでは、X軸移動装置60により、シャトル50が左方に移動される。これにより、シャトル50は、右端のクランプ40Aが係合ピン74の上方に位置するような位置に移動する。ただし、これは、右端のクランプ40Aに把持された芯線2に対して最初に圧着を行うためであり、シャトル50は、他のクランプが係合ピン74の上方に位置するような位置に移動されてもよい。シャトル50の左方への移動後に、Z軸移動装置70Zが駆動され、Y軸移動装置70Y、シャトル50の平板部50F、および複数のクランプ40A~40Jが上方に移動される。図1および図3は、このときの端末加工装置10を示すものである。図1に示すように、図1の状態では、図4に比べて、Y軸移動装置70Yが上方に位置している。
【0044】
図3に示すように、後方側の終端位置における係合ピン74のY軸方向の位置は、後方側の終端位置におけるクランプ40A~40Jの係合溝42aのY軸方向の位置と同じである。かつ、係合ピン74の上端の位置は、クランプ40A~40Jの下面の位置よりも上方であり、係合溝42aの天面の位置よりも下方である。そのため、シャトル50を図1に示す位置に移動すると、係合ピン74は、クランプ40Aの係合溝42a内に配置される。これにより、クランプ40Aが係合ピン74に係合する。他のクランプが係合ピン74の上方に位置した状態では、当該他のクランプが係合ピン74に係合する。係合ピン74のX軸方向の位置を以下「係合位置」と呼ぶこととすると、各クランプ40A~40Jは、係合位置に位置しているときに係合ピン74と係合する。
【0045】
次のステップでは、Y軸移動装置70Yが制御装置80により制御され、係合ピン74が前方側の終端位置まで移動される。このとき、係合ピン74は、クランプ40Aの係合溝42aの前方側壁部を押す。これにより、クランプ40Aが前方側の終端位置に移動する。係合ピン74がクランプ40Aを押す力により、クランプ40Aは、保持機構52から離反する。図8は、右端のクランプ40Aが前方側の終端位置に位置付けられた状態の電線挿入装置30を示す斜視図である。図8に示すように、係合ピン74が前方に移動することにより、右端のクランプ40Aだけが圧着装置20の側に突出する。かつ、右端のクランプ40Aに把持された芯線2だけが圧着装置20に接近する。他のクランプ40B~40Jの移動についても同様であり、制御装置80は、各クランプ40A~40JをY軸方向に移動させる際には、X軸移動装置60を制御して各クランプ40A~40Jを係合位置(係合ピン74のX軸方向の位置)に位置付けた上で、Y軸シリンダ71を駆動する。
【0046】
本実施形態では、制御装置80は、係合ピン74を前方側の終端位置に移動することによってクランプ40Aを前方側の終端位置に移動した後に、クランプ40Aをクリンパ21aのX軸方向の中心位置に移動する。制御装置80は、それによって、芯線2をクリンパ21aとアンビル21bとの間に挿入する。すなわち、芯線2は、アプリケータ21の側方からクリンパ21aとアンビル21bとの間に挿入される。これにより、芯線2の端部2aがアプリケータ21に衝突するリスクが低減されている。アプリケータ21に対する電線の挿入は、アプリケータ21の正面側から行うよりも側方から行った方が、電線がアプリケータ21に衝突するリスクが低い。以下、上記したようなクランプ40Aが圧着装置20のクリンパ21aおよびアンビル21bに正対する位置のことを「クランプ40Aの正対位置」とも呼ぶ。なお、他のクランプ40B~40Jが圧着装置20のクリンパ21aおよびアンビル21bに正対する位置のことをそれぞれ、クランプ40B~40Jの正対位置と呼ぶ。図9は、シャトル50がクランプ40Aの正対位置に移動した状態の電線挿入装置30を示す斜視図である。クランプ40A~40Jが前方側の終端位置に位置した状態では、芯線2の端部2aのY軸方向の位置は、クリンパ21aおよびアンビル21bの位置に重なる。クランプ40A~40Jは、上記したような突出長さとなるように芯線2を把持している。
【0047】
制御装置80は、芯線2をクリンパ21aとアンビル21bとの間に挿入した後に、クリンパ21aとアンビル21bとを接近させて芯線2に端子5を圧着する。具体的には、プレス22が駆動される。このとき、制御装置80は、圧着力計23によって測定されたプレス圧を取得し、圧着作業の良否を判定する。
【0048】
プレス22が駆動されるのと同時に、制御装置80は、Z軸移動装置70Zを制御して、Y軸移動装置70Y、シャトル50の平板部50F、および複数のクランプ40A~40Jを下方に移動する。これにより、クリンパ21aとアンビル21bとが近接する直前に端子5の内部に芯線2が収まる。よって、端子5と芯線2とが確実に圧着される。この後、Y軸移動装置70Y、シャトル50の平板部50F、および複数のクランプ40A~40Jは、端子圧着前の高さに戻される。
【0049】
制御装置80は、さらにその後、X軸移動装置60を制御して、クランプ40AをX軸方向の係合位置に戻す。これにより、右端のクランプ40Aに再び係合ピン74が係合する。制御装置80は、クランプ40Aを係合位置に移動してクランプ40Aに再び係合ピン74を係合させた後に、係合ピン74を後方側の終端位置に移動する。これにより、右端のクランプ40Aに把持された芯線2に対する端子5の圧着作業が終了する。
【0050】
次のステップからは、他の芯線2、例えばクランプ40Bに把持された芯線2に対する端子5の圧着作業が行われる。クランプ40Bに把持された芯線2に対する端子5の圧着作業では、X軸移動装置60により、クランプ40Bが係合ピン74の上方に位置するような位置、すなわちクランプ40Bの係合位置にシャトル50が移動される。かかるシャトル50のX軸方向への移動は、各クランプ40A~40Jの係合溝42aが左右に切り抜けているために可能である。かかるシャトル50のX軸方向への移動において、係合ピン74は、各クランプ40A~40Jの係合溝42aがX軸方向に繋がった通路(図5参照)を通過する。その後、クランプ40Bの前進、クランプ40Bの正対位置へのシャトル50の移動、圧着、シャトル50の戻り、および、クランプ40Bの後方側の終端位置への後退が再度行われる。上記において、シャトル50がX軸方向の元の位置に戻る際、係合ピン74は、クランプ40Aの逃げ溝42bを通過してクランプ40Bの係合溝42aに入る(図6参照)。かかるシャトル50のX軸方向への移動は、各クランプ40A~40Jの逃げ溝42bが係合溝42aと距離L1だけ離れて設けられ、かつ、左右に切り抜けているために可能となるものである。
【0051】
以下、その他のクランプ40C~40Jに把持された芯線2についても同様のステップが行われる。このように、端末加工装置10の制御装置80は、Y軸移動装置70YおよびX軸移動装置60を制御して、複数のクランプ40A~40Jを順次、Y軸方向の前方側の終端位置に移動させるとともに圧着装置20に正対する正対位置に移動させる。これにより、移動されるクランプ40A~40Jに把持された芯線2を圧着装置20に順次装填していくことができる。
【0052】
[実施形態の作用効果]
以下に、本実施形態に係る端末加工装置10が奏する作用効果について、適宜従来の端末加工装置と比較しながら説明する。
【0053】
本実施形態に係る端末加工装置10は、芯線2の端部2aに端子5を圧着する圧着装置20と、それぞれ1本の芯線2を把持可能に構成された複数のクランプ40A~40Jと、複数のクランプ40A~40Jを個別に圧着装置20に向かって移動させることが可能に構成された移動装置と、を備えている。移動装置は、移動されるクランプに把持された芯線2を圧着装置20に装填する。移動装置は、ここでは、X軸移動装置60、Y軸移動装置70Y、およびZ軸移動装置70Zである。かかる端末加工装置10によれば、それぞれ1本ずつ芯線2を把持可能な複数のクランプ40A~40Jにより複数の芯線2を一度に把持することができる。これにより、自由な芯線2が端末加工装置10に接触することが防止され、かつ、芯線2の掴み替えのための時間が必要でなくなる。さらに、本実施形態では、Y軸移動装置70Yは、複数のクランプ40A~40Jを個別に圧着装置20に向かって移動させることが可能に構成されており、移動されるクランプに把持された芯線2だけを圧着装置20に装填することができる。従って、複数の芯線2の圧着を1本ずつ順次に行うことができる。その結果、複数の芯線2に対して1本ずつ圧着を行うことと、圧着時間の短縮をともに実現できる。
【0054】
前述したように、従来の端末加工装置では、電線に対して1本ずつ端子圧着を行い、かつ、圧着中でない電線が端末加工装置と干渉するのを防止するためには、電線の掴み替えを行わなければならなかった。このような掴み替えは圧着の工程時間を長くする。本実施形態に係る端末加工装置10は、端子圧着の品質管理の問題、自由な電線が端末加工装置に接触することによる圧着ミスの問題、および工程時間の問題をいずれも解決するものである。
【0055】
より具体的には、本実施形態に係る端末加工装置10は、X軸方向に並び、かつ、X軸方向と直交するY軸方向にそれぞれ移動可能なように複数のクランプ40A~40Jを支持するシャトル50を備えており、移動装置は、シャトル50に支持された複数のクランプ40A~40Jを個別にY軸方向に移動させるY軸移動装置70Yと、シャトル50をX軸方向に移動させるX軸移動装置60と、を備えている。制御装置80は、複数のクランプ40A~40Jを順次、Y軸方向の前方側の終端位置に移動させるとともに、圧着装置20に正対する正対位置に移動させる。かかる構成によれば、圧着を行う芯線2を把持したクランプを圧着装置20に正対させるX軸移動装置60と、圧着を行う芯線2を把持したクランプを圧着装置20に接近させるY軸移動装置70Yとの組み合わせにより、複数のクランプ40A~40Jを個別に圧着装置20に向かって移動させる移動装置を簡易な構成で実現できる。
【0056】
本実施形態では、Y軸移動装置70Yは、係合ピン74と、係合ピン74をY軸方向に移動するY軸シリンダ71と、を備えている。各クランプ40A~40Jは、係合ピン74の上方である係合位置に位置しているときに係合ピン74と係合する。かかる構成によれば、クランプごとにアクチュエータを設けることなく、1つのアクチュエータ(ここではY軸シリンダ71)によって、複数のクランプ40A~40Bを個別にY軸方向に移動させることができる。
【0057】
本実施形態では、係合ピン74の移動範囲の前方側の終端位置と後方側の終端位置とは、Y軸方向に距離L1だけ離れている。各クランプ40A~40Jは、X軸方向に係合ピン74が通り抜け可能なようにX軸方向の両側面に切り抜けるとともに、係合ピン74が係合する係合溝42aを備えている。さらに、各クランプ40A~40Jは、係合溝42aよりもY軸方向の前方側に距離L1だけ離れて設けられ、X軸方向に係合ピン74が通り抜け可能なようにX軸方向の両側面に切り抜けた逃げ溝42bを備えている。かかる構成によれば、全てのクランプを後退させた状態であっても、1つのクランプを圧着装置20の側に前進させた状態であっても、係合ピン74と干渉することなく、シャトル50をX軸方向に移動することができる。アプリケータ21に側方から芯線2を挿入する動きは、クランプ40A~40Jにそれぞれ設けられた逃げ溝42bによって可能となったものである。
【0058】
本実施形態に係る端末加工装置10は、複数のクランプ40A~40JをY軸方向の後方側の終端位置にそれぞれ保持する保持機構52を備えている。かかる構成によれば、X軸移動装置60によってシャトル50がX軸方向に移動されるときに、圧着を行なわない芯線2を把持しているクランプが後方側の終端位置から動いてしまうことを抑制できる。なお、本実施形態では、保持機構52は、ボールプランジャ52bによってクランプ40A~40Jを保持するように構成されていたが、クランプ40A~40Jを保持する方式は特に限定されない。保持機構52は、例えば、磁石によってクランプ40A~40Jを保持してもよい。
【0059】
本実施形態では、各クランプ40A~40Jは、電線の種類に応じて交換可能であって電線を挟持する挟持部41を備えている。かかる構成によれば、様々な種類の電線に対応して圧着を行うことができる。なお、電線の種類に応じて交換される部材は、クランプ40A~40Jの一部である挟持部41でなくてもよい。電線の種類に応じて交換される部材は、例えば、クランプ40A~40Jであってもよい。または、電線の種類に応じて交換される部材は、例えば、クランプ40A~40Jが装着されたシャトル50であってもよい。
【0060】
[他の実施形態]
以上、本発明の好適な一実施形態について説明した。ただし、上記実施形態は例示に過ぎず、他にも種々の実施形態が可能である。例えば、上記した実施形態では、クランプ40A~40Jは、互いに直交する方向にクランプ40A~40Jを移動させる2つの装置(X軸移動装置60およびY軸移動装置70Y)によって移動され、圧着装置20に装填された。しかし、複数のクランプを個別に圧着装置に向かって移動させる移動装置は、このようなものに限定されない。例えば、複数のクランプは1つの圧着装置に対して放射状に配置され、個別に圧着装置に接近してもよい。複数のクランプは、それぞれ別のアクチュエータによって移動されてもよい。
【0061】
本実施形態では、クランプ40A~40Jは、圧着装置20への接近方向であるY軸方向に直交するX軸方向に平行移動されたが、クランプ40A~40Jは、圧着装置20への接近方向に交差するように旋回されてもよい。例えば、シャトル50は、平行移動ではなく旋回運動によって、選択されたクランプを圧着装置20に対する正対位置に移動させてもよい。圧着装置20への接近方向に交差する方向には、このような旋回運動の移動方向も含まれる。
【0062】
本実施形態では、芯線2は側方からアプリケータ21に挿入されたが、アプリケータ21の正面側からアプリケータ21に挿入されてもよい。その場合、係合ピン74はアプリケータ21に正対する位置に設けられ、クランプ40A~40Jは逃げ溝を備えなくてもよい。
【0063】
上記した実施形態では、保持機構52は、クランプ40A~40Jを後方側の終端位置に保持するものであったが、クランプ40A~40Jを後方側の終端位置および前方側の終端位置に保持するものであってもよい。図10は、このような変形例に係るクランプ40A~40Jおよび保持機構52、57の縦断面図である。図10に示すように、この変形例に係る保持機構52、57は、後方側の保持機構52と前方側の保持機構57とを備えている。後方側の保持機構52は、クランプ40A~40Jを後方側の終端位置に保持する機構であり、上記した実施形態における保持機構52と同じものであってもよい。前方側の保持機構57は、後方側の保持機構57よりも距離L1だけ前方に設けられている。
【0064】
図10に示すように、前方側の保持機構57は、後方側の終端位置よりも距離L1だけ前進した位置、すなわち前方側の終端位置でクランプ40Aを保持するように構成されている。クランプ40Aに保持された芯線2に対する圧着は、クランプ40Aが前方側の終端位置にある状態で行われる。前方側の保持機構57は、ブロック57aと、ボールプランジャ57bと、を備えている。図10に示すように、クランプ40Aは、前方側の終端位置においてボールプランジャ57bのボール57b1が嵌る凹部42cを備えている。凹部42cは、例えば、X軸方向視において三角形に構成され、X軸方向に延びる溝である。ただし、凹部42cの形状は特に限定されない。クランプ40B~40Jも同様の凹部42cを備えている。ボールプランジャ57bのボール57b1は、凹部42cに一部が嵌ることにより、クランプ40A~40Jを保持する。端子圧着時のクランプ40AのY軸方向の位置は、前方側の保持機構57とクランプ40Aの凹部42cとにより、係合ピン74と係合溝42aとのガタにもかかわらず正確に決定される。また、端子圧着時およびシャトル50の移動時、クランプ40Aは、その位置に確実に保持される。一方、端子圧着を行わず待機している他のクランプ40B~40Jは、後方側の保持機構52と凹部42cとにより、後方側の終端位置に保持される。他のクランプ40B~40Jによって把持された芯線2に圧着を行う場合も、それぞれ同様である。
【0065】
その他、特に言及されない限り、上記した実施形態は本発明を限定しない。例えば、クランプの電線把持部分の構成は、上記した実施形態のクランプ溝41aのようなものには限定されない。クランプの電線把持部分は、可動部を備えた爪などを備え、そのような爪によって電線を把持してもよい。
【符号の説明】
【0066】
2 芯線(電線)
5 端子
10 端末加工装置
20 圧着装置
21a クリンパ
21b アンビル
30 電線挿入装置
40A~40J クランプ(把持部材)
41 挟持部
42a 係合溝
42b 逃げ溝
50 シャトル(ベース部材)
52 保持機構(第1保持機構)
57 保持機構(第2保持機構)
60 X軸移動装置(第2移動装置)
70Y Y軸移動装置(第1移動装置)
71 Y軸シリンダ(アクチュエータ)
74 係合ピン(係合部材)
80 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10