(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】ペリクル、露光原版、露光装置、及びペリクルの製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/62 20120101AFI20240902BHJP
【FI】
G03F1/62
(21)【出願番号】P 2023547024
(86)(22)【出願日】2022-09-12
(86)【国際出願番号】 JP2022034111
(87)【国際公開番号】W WO2023038142
(87)【国際公開日】2023-03-16
【審査請求日】2023-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2021148629
(32)【優先日】2021-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 博文
(72)【発明者】
【氏名】小野 陽介
(72)【発明者】
【氏名】石川 彰
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 靖
(72)【発明者】
【氏名】石川 比佐子
(72)【発明者】
【氏名】藤村 真史
(72)【発明者】
【氏名】大久保 敦
(72)【発明者】
【氏名】高村 一夫
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/196836(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/172141(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/151056(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペリクル枠と、
前記ペリクル枠の一方の端面に支持されたペリクル膜と、
前記ペリクル枠の他方の端面に設けられた粘着層と
を備え、
前記粘着層の表面のうち内壁面及び外壁面の少なくとも一方は、下記式(1)を満たす、ペリクル。
式(1):([A
2s]/[A
50s])≦0.97
(前記式(1)中、
[A
2s]は、前記粘着層の表面からの深さが第1深さの第1深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で、イオンソースがBi
3
++イオンで、かつ照射領域が100μm×100μmである1次イオン銃を用いて分析した前記粘着層の主剤成分に含まれる部分構造の規格化強度を示し、
前記第1深さは、前記表面の600μm四方の区域に対して、ビーム電圧が20kVでビーム電流が20nAのアルゴンガスクラスターイオンビームであるスパッタイオン銃を累計2秒間照射することで形成され、
[A
50s]は、前記深さが第2深さの第2深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析した前記粘着層の主剤成分に含まれる部分構造の規格化強度を示し、
前記第2深さは、前記区域に対して、前記スパッタイオン銃を累計50秒間照射することで形成される。)
【請求項2】
前記主剤成分に含まれる部分構造は、C
3H
3О
+、C
7H
7
+、又はCH
3Si
+である、請求項1に記載のペリクル。
【請求項3】
前記内壁面及び前記外壁面のうち、前記式(1)を満たす少なくとも一方は、下記式(2)を満たす、請求項1又は請求項2に記載のペリクル。
式(2):([CNO
-
2s]/[CNO
-
50s])≧2.00
(前記式(2)中、
[CNO
-
2s]は、前記第1深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析したCNO
-の規格化強度を示し、
[CNO
-
50s]は、前記第2深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析したCNO
-の規格化強度を示す。)
【請求項4】
前記内壁面及び前記外壁面のうち、前記式(1)を満たす少なくとも一方は、下記式(3)を満たす、請求項1又は請求項2に記載のペリクル。
式(3):([CN
-
2s]/[CN
-
50s])≧2.00
(前記式(3)中、
[CN
-
2s]は、前記第1深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析したCN
-の規格化強度を示し、
[CN
-
50s]は、前記第2深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析したCN
-の規格化強度を示す。)
【請求項5】
前記内壁面及び前記外壁面のうち、前記式(1)を満たす少なくとも一方は、下記式(4)を満たす、請求項3に記載のペリクル。
式(4):([CNO
-
6s]/[CNO
-
50s])≧1.50
(前記式(4)中、
[CNO
-
6s]は、前記粘着層の表面からの深さが第3深さの第3深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で、イオンソースがBi
3
++イオンで、かつ照射領域が100μm×100μmである1次イオン銃を用いて分析したCNO
-の規格化強度を示し、
前記第3深さは、前記表面の600μm四方の区域に対して、ビーム電圧が20kVでビーム電流が20nAのアルゴンガスクラスターイオンビームであるスパッタイオン銃を累計6秒間照射することで形成され、
[CNO
-
50s]は、前記第2深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析したCNO
-の規格化強度を示す。)
【請求項6】
前記内壁面及び前記外壁面のうち、前記式(1)を満たす少なくとも一方は、下記式(5)を満たす、請求項1又は請求項2に記載のペリクル。
式(5):([C
3
-
2s]/[C
3
-
50s])≧1.10
(前記式(5)中、
[C
3
-
2s]は、前記第1深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析したC
3
-の規格化強度を示し、
[C
3
-
50s]は、前記第2深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析したC
3
-の規格化強度を示す。)
【請求項7】
前記内壁面及び前記外壁面の少なくとも一方の炭素原子濃度が35at%以上であり、
前記炭素原子濃度は、前記内壁面及び前記外壁面の少なくとも一方のX線光電子分光法のナロースペクトルにおいて、全成分のピーク成分の積分強度に対する炭素原子に由来するピーク成分の積分強度の割合(%)を示す、請求項1又は請求項2に記載のペリクル。
【請求項8】
前記内壁面及び前記外壁面の少なくとも一方の窒素原子濃度が1.0at%以上であり、
前記窒素原子濃度は、前記内壁面及び前記外壁面の少なくとも一方のX線光電子分光法のナロースペクトルにおいて、全成分のピーク成分の積分強度に対する窒素原子に由来するピーク成分の積分強度の割合(%)を示す、請求項1又は請求項2に記載のペリクル。
【請求項9】
パターンを有する原版と、前記原版におけるパターンを有する側の面に装着された請求項1又は請求項2に記載のペリクルと、を含む露光原版。
【請求項10】
露光光を放出する光源と、請求項9に記載の露光原版と、前記光源から放出された露光光を前記露光原版に導く光学系と、を有し、前記露光原版は、前記光源から放出された露光光が前記ペリクル膜を透過して前記原版に照射されるように配置されている露光装置。
【請求項11】
請求項1又は請求項2に記載のペリクルを製造する方法であって、
塗布組成物を前記ペリクル枠の他方の端面に塗工し、加熱して形成された粘着層前駆体の表面のうち内壁面及び外壁面の少なくとも一方に、プラズマ窒化処理又は極端紫外線照射処理を施して、前記粘着層を形成する工程を含む、ペリクルの製造方法。
【請求項12】
前記粘着層がアクリル系粘着剤を含み、
前記プラズマ窒化処理を施す前に、塗布組成物が塗工されたペリクルを5×10
-4Pa以下の圧力下に10分以上配置した後に、H
2Oの分圧が100ppm以下、かつ、気圧が90kPa以上の不活性ガス雰囲気下に5秒以上配置する工程を有する、
請求項11に記載のペリクルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ペリクル、露光原版、露光装置、及びペリクルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品、プリント基板、ディスプレイパネル等の物体の表面に感光性の物質を塗布し、パターン状に露光してパターンを形成する技術(すなわち、フォトリソグラフィー)が知られている。フォトリソグラフィーでは、片面にパターンが形成された透明基板が使用されている。この透明基板は、フォトマスク(以下、「原版」ともいう。)と呼ばれる。フォトマスクには、フォトマスクの表面に塵埃等の異物が付着することを防止するために、ペリクルが装着される。
【0003】
特許文献1は、ペリクルを開示している。特許文献1に開示のペリクルは、ペリクル膜と、ペリクルフレームと、粘着層とを有する。ペリクル膜は、ペリクルフレームの一方の端面に貼り付けられている。粘着層は、ペリクルフレームの他方の端面に設けられている。粘着層は、特定量の熱伝導性充填材を含有する。
【0004】
特許文献1:特開2011-53603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のようなペリクルが露光装置に装着されて使用される際に、ペリクル膜及び露光装置内に汚れが付着するおそれがあった。このような汚れは、粘着層から発生するアウトガスに起因すると考えられる。
【0006】
本開示は、上記事情に鑑みたものである。
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、アウトガスが発生しにくいペリクル、露光原版、露光装置、及びペリクルの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> ペリクル枠と、
前記ペリクル枠の一方の端面に支持されたペリクル膜と、
前記ペリクル枠の他方の端面に設けられた粘着層と
を備え、
前記粘着層の表面のうち内壁面及び外壁面の少なくとも一方は、下記式(1)を満たす、ペリクル。
式(1):([A2s]/[A50s])≦0.97
(前記式(1)中、
[A2s]は、前記粘着層の表面からの深さが第1深さの第1深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で、イオンソースがBi3
++イオンで、かつ照射領域が100μm×100μmである1次イオン銃を用いて分析した前記粘着層の主剤成分に含まれる部分構造の規格化強度を示し、
前記第1深さは、前記表面の600μm四方の区域に対して、ビーム電圧が20kVでビーム電流が20nAのアルゴンガスクラスターイオンビームであるスパッタイオン銃を累計2秒間照射することで形成され、
[A50s]は、前記深さが第2深さの第2深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析した前記粘着層の主剤成分に含まれる部分構造の規格化強度を示し、
前記第2深さは、前記区域に対して、前記スパッタイオン銃を累計50秒間照射することで形成される。)
<2> 前記主剤成分に含まれる部分構造は、C3H3О+、C7H7
+、又はCH3Si+である、前記<1>に記載のペリクル。
<3> 前記内壁面及び前記外壁面のうち、前記式(1)を満たす少なくとも一方は、下記式(2)を満たす、前記<1>又は<2>に記載のペリクル。
式(2):([CNO-
2s]/[CNO-
50s])≧2.00
(前記式(2)中、
[CNO-
2s]は、前記第1深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析したCNO-の規格化強度を示し、
[CNO-
50s]は、前記第2深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析したCNO-の規格化強度を示す。)
<4> 前記内壁面及び前記外壁面のうち、前記式(1)を満たす少なくとも一方は、下記式(3)を満たす、前記<1>~<3>のいずれか1つに記載のペリクル。
式(3):([CN-
2s]/[CN-
50s])≧2.00
(前記式(3)中、
[CN-
2s]は、前記第1深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析したCN-の規格化強度を示し、
[CN-
50s]は、前記第2深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析したCN-の規格化強度を示す。)
<5> 前記内壁面及び前記外壁面のうち、前記式(1)を満たす少なくとも一方は、下記式(4)を満たす、前記<1>~<4>のいずれか1つに記載のペリクル。
式(4):([CNO-
6s]/[CNO-
50s])≧1.50
(前記式(4)中、
[CNO-
6s]は、前記粘着層の表面からの深さが第3深さの第3深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で、イオンソースがBi3
++イオンで、かつ照射領域が100μm×100μmである1次イオン銃を用いて分析したCNO-の規格化強度を示し、
前記第3深さは、前記表面の600μm四方の区域に対して、ビーム電圧が20kVでビーム電流が20nAのアルゴンガスクラスターイオンビームであるスパッタイオン銃を累計6秒間照射することで形成され、
[CNO-
50s]は、前記第2深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析したCNO-の規格化強度を示す。)
<6> 前記内壁面及び前記外壁面のうち、前記式(1)を満たす少なくとも一方は、下記式(5)を満たす、前記<1>~<5>のいずれか1つに記載のペリクル。
式(5):([C3
-
2s]/[C3
-
50s])≧1.10
(前記式(5)中、
[C3
-
2s]は、前記第1深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析したC3
-の規格化強度を示し、
[C3
-
50s]は、前記第2深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析したC3
-の規格化強度を示す。)
<7> 前記内壁面及び前記外壁面の少なくとも一方の炭素原子濃度が35at%以上であり、
前記炭素原子濃度は、前記内壁面及び前記外壁面の少なくとも一方のX線光電子分光法のナロースペクトルにおいて、全成分のピーク成分の積分強度に対する炭素原子に由来するピーク成分の積分強度の割合(%)を示す、前記<1>~<6>のいずれか1つに記載のペリクル。
<8> 前記内壁面及び前記外壁面の少なくとも一方の窒素原子濃度が1.0at%以上であり、
前記窒素原子濃度は、前記内壁面及び前記外壁面の少なくとも一方のX線光電子分光法のナロースペクトルにおいて、全成分のピーク成分の積分強度に対する窒素原子に由来するピーク成分の積分強度の割合(%)を示す、前記<1>~<7>のいずれか1つに記載のペリクル。
<9> パターンを有する原版と、前記原版におけるパターンを有する側の面に装着された前記<1>~<8>のいずれか1つに記載のペリクルと、を含む露光原版。
<10> 露光光を放出する光源と、前記<9>に記載の露光原版と、前記光源から放出された露光光を前記露光原版に導く光学系と、を有し、前記露光原版は、前記光源から放出された露光光が前記ペリクル膜を透過して前記原版に照射されるように配置されている露光装置。
<11> 前記<1>~<8>のいずれか1つに記載のペリクルを製造する方法であって、
塗布組成物を前記ペリクル枠の他方の端面に塗工し、加熱して形成された粘着層前駆体の表面のうち内壁面及び外壁面の少なくとも一方に、プラズマ窒化処理又は極端紫外線照射処理を施して、前記粘着層を形成する工程を含む、ペリクルの製造方法。
<12> 前記粘着層がアクリル系粘着剤を含み、
前記プラズマ窒化処理を施す前に、塗布組成物が塗工されたペリクルを5×10-4Pa以下の圧力下に10分以上配置した後に、H2Oの分圧が100ppm以下、かつ、気圧が90kPa以上の不活性ガス雰囲気下に5秒以上配置する工程を有する、
前記<11>に記載のペリクルの製造方法。
<13> ペリクル枠と、
前記ペリクル枠の一方の端面に支持されたペリクル膜と、
前記ペリクル枠の他方の端面に設けられた粘着層と
を備え、
前記粘着層の表面のうち内壁面及び外壁面の少なくとも一方は、下記式(2)を満たす、ペリクル。
式(2):([CNO-
2s]/[CNO-
50s])≧2.00
(前記式(2)中、
[CNO-
2s]は、前記粘着層の表面からの深さが第1深さの第1深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で、イオンソースがBi3
++イオンで、かつ照射領域が100μm×100μmである1次イオン銃を用いて分析した前記粘着層のCNO-の規格化強度を示し、
前記第1深さは、前記表面の600μm四方の区域に対して、ビーム電圧が20kVでビーム電流が20nAのアルゴンガスクラスターイオンビームであるスパッタイオン銃を累計2秒間照射することで形成され、
[CNO-
50s]は、前記深さが第2深さの第2深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析した前記粘着層のCNO-の規格化強度を示し、
前記第2深さは、前記区域に対して、前記スパッタイオン銃を累計50秒間照射することで形成される。)
<14> ペリクル枠と、
前記ペリクル枠の一方の端面に支持されたペリクル膜と、
前記ペリクル枠の他方の端面に設けられた粘着層と
を備え、
前記粘着層の表面のうち内壁面及び外壁面の少なくとも一方は、下記式(5)を満たす、ペリクル。
式(5):([C3
-
2s]/[C3
-
50s])≧1.10
(前記式(5)中、
[C3
-
2s]は、前記粘着層の表面からの深さが第1深さの第1深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で、イオンソースがBi3
++イオンで、かつ照射領域が100μm×100μmである1次イオン銃を用いて分析した前記粘着層のC3
-の規格化強度を示し、
前記第1深さは、前記表面の600μm四方の区域に対して、ビーム電圧が20kVでビーム電流が20nAのアルゴンガスクラスターイオンビームであるスパッタイオン銃を累計2秒間照射することで形成され、
[C3
-
50s]は、前記深さが第2深さの第2深部を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析した前記粘着層のC3
-の規格化強度を示し、
前記第2深さは、前記区域に対して、前記スパッタイオン銃を累計50秒間照射することで形成される。)
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、アウトガスが発生しにくいペリクル、露光原版、露光装置、及びペリクルの製造方法を提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の第1実施形態に係るペリクルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、「(メタ)アクリレート」はアクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0011】
(1)第1実施形態
第1実施形態に係るペリクルは、ペリクル枠と、ペリクル膜と、粘着層とを備える。前記ペリクル膜は、前記ペリクル枠の一方の端面(以下、「ペリクル膜側端面」ともいう。)に支持されている。前記粘着層は、前記ペリクル枠の他方の端面(以下、「粘着層側端面」ともいう。)に設けられている。前記粘着層の表面のうち内壁面及び外壁面の少なくとも一方は、下記式(1)を満たす。
【0012】
式(1):([A2s]/[A50s])≦0.97
前記式(1)中、[A2s]は、前記粘着層の表面からの深さが第1深さの第1深部を飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS:Time-of-Flight Secondary Ion Mass Spectrometry)(以下、「TOF-SIMS」ともいう。)で、イオンソースがBi3
++イオンで、かつ照射領域100μm×100μmである1次イオン銃を用いて分析した前記粘着層の主剤成分に含まれる部分構造の規格化強度を示す。
以下、イオンソースがBi3
++イオンで、かつ分析領域100μm×100μmである1次イオン銃を、単に「1次イオン銃」ともいう。
前記第1深さは、前記表面の600μm四方の区域に対して、ビーム電圧が20kVでビーム電流が20nAのアルゴンガスクラスターイオンビーム(Ar-GCIB:Gas Cluster Ion Beam)であるスパッタイオン銃を累計2秒間照射することで形成される。
以下、ビーム電圧が20kVでビーム電流が20nAのアルゴンガスクラスターイオンビームであるスパッタイオン銃を単に「スパッタイオン銃(Ar-GCIB)」ともいう。
[A50s]は、前記深さが第2深さの第2深部をTOF-SIMSで分析した前記粘着層の主剤成分に含まれる部分構造の規格化強度を示す。
前記第2深さは、前記区域に対して、前記スパッタイオン銃を累計50秒間照射することで形成される。
なお、規格化強度は、TOF-SIMSで検出された強度ピーク位置が45(m/z)~2000(m/z)にあるピークの強度合計値に対する該当成分のピーク強度の比率である。
【0013】
TOF-SIMSは、固体試料に1次イオン銃(一次イオン)を照射し、衝突カスケードによって固体試料の表面から放出されるイオン(二次イオン)を、その飛行時間差を利用して、質量分離をする手法である。
TOF-SIMSでは、スパッタリング銃(Ar-GCIB)を固体試料に照射して固体試料の表面をエッチングして得られた面を分析することで、固体試料の深さ方向の所望の部分における二次イオンの発生及び分析を行うことができる。そのため、TOF-SIMSを用いれば、固体試料の深さ方向における官能基等の変化を定量的に評価することができる。
TOF-SIMSは、質量分解能が高く、例えば、C3H3O+と、C4H7
+とを分離して分析することができる。
【0014】
第1実施形態に係るペリクルは、上記の構成を有するので、アウトガスが発生しにくい。アウトガスは、水に由来するガス、及び粘着層中に含まれる成分に由来するガスを含む。アウトガスは、揮発性炭化水素(分子量:45~100)、及び不揮発性炭化水素(分子量:101~200)を含む。
式(1)を満たすことは、後述するように粘着層の表面が改質されていることを示す。第1実施形態に係るペリクルからアウトガスが発生しにくい要因は、主として、粘着剤の表層が改質されたことにより、粘着層の表層においてアウトガスの発生源となる粘着剤の主剤成分に含まれる部分構造が減少されていることにあると推測される。
【0015】
本発明者らは、表面処理が施された粘着層の表面に対し、TOF-SIMSで深さ方向分析をした。その結果、本発明者らは、粘着層の表面から約80nmの深さまでは、二次イオンの規格化強度が大きく変化し、粘着層の表面から約80nmよりも深い深さでは、二次イオンの規格化強度が大きく変化していないことを実験的に確認した。粘着層の表面から約80nmの深さは、例えば、スパッタリング銃(Ar-GCIB)を粘着層の表面に累計10秒間照射することで形成される。
スパッタリング銃(Ar-GCIB)を粘着層の表面に累計2秒間照射すると、粘着層の表面はエッチングされ、第1深部の深さは粘着層の表面から約16nmになる。第1深部をTOF-SIMSで分析することで、粘着層の表面に付着した異物に起因する二次イオン(ノイズ)の検出を抑制しつつ、表面処理の影響を受けた官能基等に起因する二次イオンを検出することができる。換言すると、第1深部をTOF-SIMSで分析することで、表面処理が施された粘着層の表面の官能基等を定量的に精度良く把握することができる。
スパッタリング銃(Ar-GCIB)を粘着層の表面に累計50秒間照射すると、粘着層の表面はエッチングされて、第2深部の深さは粘着層の表面から約400nmになる。第2深部をTOF-SIMSで分析することで、表面処理の影響をほとんど受けていない官能基等に起因する二次イオンを検出することができる。換言すると、第2深部の分析結果は、表面処理が施される前の粘着層の表面の官能基等を定量的に表しているとみなすことができる。
([A2s]/[A50s])は、表面処理による主剤成分に含まれる部分構造の変化割合とみなせる。そのため、式(1)を満たすことは、粘着層の表面が改質されていることを示す。
【0016】
(1.1)ペリクル
次に、
図1を参照して、第1実施形態に係るペリクル10について説明する。
【0017】
第1実施形態に係るペリクル10は、
図1に示すように、ペリクル枠11と、ペリクル膜12と、粘着層13とを備える。ペリクル枠11は、筒状物である。ペリクル枠11は、ペリクル膜側端面S11A及び粘着層側端面S11Bを有する。ペリクル膜12は、ペリクル枠11のペリクル膜側端面S11Aに支持されている。粘着層13は、ペリクル枠11の粘着層側端面S11Bに設けられている。
【0018】
(1.1.1)粘着層
粘着層13は、原版に粘着可能である。粘着層13は、ペリクル枠11の粘着層側端面S11Bに設けられており、ペリクル枠11と原版とを接着する層である。原版については後述する。
粘着層は、例えば、後述するように、塗布組成物に塗布、加熱、乾燥、硬化、及び表面処理等の加工を施すことにより形成される。
【0019】
(1.1.1.1)Aの変化割合
第1実施形態では、粘着層13の表面S13のうち内壁面S13A及び外壁面S13Bの少なくとも一方(以下、「内壁面S13A等」ともいう。)は、式(1)を満たす。
【0020】
式(1):([A2s]/[A50s])≦0.97
式(1)中、[A2s]は、粘着層13の表面S13からの深さが第1深さの第1深部をTOF-SIMSで、1次イオン銃を用いて分析した粘着層13の主剤成分に含まれる部分構造の規格化強度を示す。第1深さは、粘着層13の表面S13の600μm四方の区域に対して、スパッタイオン銃(Ar-GCIB)を累計2秒間照射することで形成できる。[A50s]は、粘着層13の表面S13からの深さが第2深さの第2深部をTOF-SIMSで分析した粘着層13の主剤成分に含まれる部分構造の規格化強度を示す。第2深さは、上述した区域に対して、スパッタイオン銃(Ar-GCIB)を累計50秒間照射することで形成できる。
[A2s]及び[A50s]の各々の分析方法は、上述した分析方法と同様である。
【0021】
([A2s]/[A50s])の上限は、アウトガスの発生を抑制する観点から、0.97以下であり、好ましくは0.95以下であり、より好ましくは0.90以下、さらに好ましくは0.80以下、特に好ましくは0.70以下である。([A2s]/[A50s])の上限が0.97以下であれば、炭化水素に起因するアウトガスや水に起因するアウトガスの発生量をより抑制することができる。
([A2s]/[A50s])の下限は、粘着剤の表層を改質するコストを抑える観点から、例えば、0.05以上にすることができ、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.20以上、さらに好ましくは0.30以上、特に好ましくは0.50以上である。
これらの観点から、([A2s]/[A50s])は、好ましくは0.05~0.97である。
【0022】
粘着層13の主剤成分に含まれる部分構造がC3H3О+である場合(すなわち、粘着層13の材料がアクリル系粘着剤(以下、「Ac系粘着剤」ともいう。)を含む場合)、炭化水素に起因するアウトガスの発生量をより抑制する観点から、([C3H3О+
2s]/[C3H3О+
50s])の上限は、0.97以下であり、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.90以下、さらに好ましくは0.85以下である。
([C3H3О+
2s]/[C3H3О+
50s])の下限は、粘着剤の表層を改質するコストを抑える観点から、例えば、0.05以上にすることができ、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.50以上、さらに好ましくは0.70以上である。
これらの観点から、([C3H3О+
2s]/[C3H3О+
50s])は、好ましくは0.05~0.97である。
【0023】
粘着層13の主剤成分に含まれる部分構造がCH3Si+である場合(すなわち、粘着層13の材料がシリコーン系粘着剤(以下、「Si系粘着剤」ともいう。)を含む場合)、炭化水素に起因するアウトガスの発生量をより抑制する観点から、([CH3Si+
2s])/([CH3Si+
50s])の上限は、0.97以下であり、好ましくは、0.95以下好ましくは0.90以下、より好ましくは0.80以下、さらに好ましくは0.70以下である。
([CH3Si+
2s])/([CH3Si+
50s])の下限は、粘着剤の表層を改質するコストを抑える観点から、例えば、0.05以上にすることができ、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.30以上、さらに好ましくは0.50以上である。
これらの観点から、([CH3Si+
2s])/([CH3Si+
50s])は、好ましくは0.05~0.97である。
【0024】
粘着層13の主剤成分に含まれる部分構造がC7H7
+である場合(すなわち、粘着層13の材料がAc系粘着剤及びSi系粘着剤のどちらも含まない場合)、炭化水素に起因するアウトガスの発生量をより抑制する観点から、([C7H7
+
2s]/[C7H7
+
50s])の上限は、0.97以下であり、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.90以下、さらに好ましくは0.85以下である。
([C7H7
+
2s]/[C7H7
+
50s])の下限は、粘着剤の表層を改質するコストを抑える観点から、例えば、0.05以上にすることができ、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.50以上、さらに好ましくは0.70以上である。
これらの観点から、([C7H7
+
2s]/[C7H7
+
50s])は、好ましくは0.05~0.97である。
【0025】
ペリクル枠11は、
図1に示すように、内周壁S11C及び外周壁S11Dを有する。「粘着層13の内壁面S13A」とは、粘着層13の表面S13のうちペリクル枠11の内周壁S11C側の面を示す。「粘着層13の外壁面S13B」とは、粘着層13の表面S13のうちペリクル枠11の外周壁S11D側の面を示す。
【0026】
ペリクル10は、上記の構成を有するので、アウトガスが発生しにくい。
【0027】
第1実施形態では、TOF-SIMSで分析される粘着層13の主剤成分に含まれる部分構造は、C3H3О+、C7H7
+、又はCH3Si+であることが好ましい。
TOF-SIMSで分析される粘着層13の主剤成分に含まれる部分構造の規格化強度は、粘着層13の材料、表面処理が施されたか否か等に依存する。表面処理は、プラズマ窒化処理、又は極端紫外線(EUV:Extreme Ultra Violet)照射処理(以下、「EUV照射処理」ともいう。)を含む。プラズマ窒化処理、及びEUV照射処理については、後述する。
本発明者らは、内壁面S13A等に表面処理が施されたか否かを判断する指標として、粘着層13の材料の種類に応じて以下のように判断できることを実験的に見出した。
粘着層13の材料としてAc系粘着剤を用いた場合、内壁面S13A等に表面処理が施されたか否かを判断する指標として、第2深部のC3H3О+の規格化強度([C3H3О+
50s])が適していることを実験的に見出した。C3H3О+は、主として、Ac系粘着剤の主鎖に由来すると推測される。
粘着層13の材料としてスチレンブタジエン系粘着剤(以下、「SBR系粘着剤」ともいう。)を用いた場合、内壁面S13A等に表面処理が施されたか否かを判断する指標として、第2深部のC7H7
+の規格化強度([C7H7
+
50s])が適していることを実験的に見出した。C7H7
+は、主として、SBR系粘着剤の主鎖に由来すると推測される。
更に、本発明者らは、粘着層13の材料としてシリコーン系粘着剤(以下、「Si系粘着剤」ともいう。)を用いた場合、内壁面S13A等に表面処理が施されたか否かを判断する指標として、第2深部のCH3Si+の規格化強度と第2深部のC3H9Si+の規格化強度との合計([CH3Si+
50s]+[C3H9Si+
50s])が適していることを実験的に見出した。CH3Si+及びC3H9Si+の各々は、主として、Si系粘着剤の主鎖に由来すると推測される。
【0028】
例えば、TOF-SIMSで分析される粘着層13の主剤成分に含まれる部分構造は、以下のようにして決定することができる。
第2深部において、TOF-SIMSで検出されたC3H3О+の規格化強度([C3H3О+
50s])が0.005以上であるか否かを判断する。C3H3О+の規格化強度([C3H3О+
50s])が0.005以上である場合は、粘着層13の材料がAc系粘着剤を含むと判断し、主剤成分に含まれる部分構造をC3H3О+とする。この場合、C3H3О+の規格化強度が式(1)(すなわち、[C3H3О+
2s]/[C3H3О+
50s]≦0.97)を満たせばよい。これにより、ペリクル10からアウトガスが発生しにくくなる。
第2深部において、TOF-SIMSで検出されたC3H3О+の規格化強度([C3H3О+
50s])が0.005未満である場合、CH3Si+の規格化強度とC3H9Si+の規格化強度との合計([CH3Si+
50s]+[C3H9Si+
50s])が0.050以上であるか否かを判断する。CH3Si+の規格化強度とC3H9Si+の規格化強度との合計([CH3Si+
50s]+[C3H9Si+
50s])が0.050以上である場合は、粘着層13の材料がSi系粘着剤を含むと判断し、主剤成分に含まれる部分構造をCH3Si+とする。この場合、CH3Si+の規格化強度が式(1)(すなわち、[CH3Si+
2s]/[CH3Si+
50s]≦0.97)を満たせばよい。これにより、ペリクル10からアウトガスが発生しにくくなる。
第2深部において、TOF-SIMSで検出されたC3H3О+の規格化強度([C3H3О+
50s])が0.005未満であり、かつ、CH3Si+の規格化強度とC3H9Si+の規格化強度との合計([CH3Si+
50s]+[C3H9Si+
50s])が0.050未満である場合は、粘着層13の材料がAc系粘着剤及びSi系粘着剤のどちらも含まないと判断し、主剤成分に含まれる部分構造をC7H7
+とする。すなわち、C7H7
+の規格化強度が式(1)(すなわち、[C7H7
+
2s]/[C7H7
+
50s]≦0.97)を満たせばよい。これにより、ペリクル10からアウトガスが発生しにくくなる。
【0029】
内壁面S13A等が式(1)を満たすようにする方法としては、例えば、プラズマ窒化処理、脱水処理後にプラズマ窒化処理又はEUV照射処理を内壁面S13A等に施す方法が挙げられる。
【0030】
第1実施形態では、粘着層13の内壁面S13A及び外壁面S13Bの一方のみが式(1)を満たしてもよいし、粘着層13の内壁面S13A及び外壁面S13Bが式(1)を満たしてもよい。
粘着層13の内壁面S13Aが式(1)を満たすことで、ペリクル10が露光装置内の原版に装着された際、ペリクル膜12及び原版に汚れが付着することを抑制することができる。粘着層13の外壁面S13Bが式(1)を満たすことで、ペリクル10が露光装置内の原版に装着された際、ペリクル膜12及び露光装置の内部に汚れが付着することを抑制することができる。
なかでも、ペリクル膜12と、原版と、露光装置の内部とに汚れが付着することを抑制する観点から、内壁面S13A及び外壁面S13Bが式(1)を満たすことが好ましい。
【0031】
(1.1.1.2)CNO-の変化割合
(1.1.1.2.1)[CNO-
2s]
第1実施形態では、内壁面S13A等は、下記式(2)を満たすことが好ましい。
【0032】
式(2):([CNO-
2s]/[CNO-
50s])≧2.00
式(2)中、[CNO-
2s]は、第1深部をTOF-SIMSで分析したCNO-の規格化強度を示す。[CNO-
50s]は、第2深部をTOF-SIMSで分析したCNO-の規格化強度を示す。
[CNO-
2s]及び[CNO-
50s]の各々の分析方法は、上述した分析方法と同様である。
【0033】
TOF-SIMSで分析される粘着層13のCNO-の規格化強度は、粘着層13の材料、プラズマ窒化処理が施されたか否か等に依存する。
CNO-は、主として、粘着層13に含まれるアミド結合又はウレタン結合、及びプラズマ窒化処理によって粘着層13に導入された窒素官能基に由来すると推測される。
【0034】
内壁面S13A等が式(2)を満たすことは、粘着層13の表層が窒素官能基に由来する化合物に改質されていることを示し、窒素官能基に由来する化合物は、炭化水素の固定化(高沸点化)に寄与し、あるいは、粘着層13内部からのガスの透過を阻害するガスバリア膜となる。そのため、アウトガスの発生は抑制され得る。
【0035】
内壁面S13A等における([CNO-
2s]/[CNO-
50s])の上限は、プラズマ窒化処理のコスト増大を抑制する観点から、例えば、500以下にすることができ、好ましくは300以下、より好ましくは100以下、さらに好ましくは30以下、特に好ましくは10以下である。
内壁面S13A等における([CNO-
2s]/[CNO-
50s])の下限は、粘着層13の表層が窒素官能基に由来する化合物に改質してアウトガスの発生をより抑制する観点から、例えば、2.00以上にすることができ、好ましくは3.00以上である。
内壁面S13A等における([CNO-
2s]/[CNO-
50s])は、好ましくは2.00~500、より好ましくは2.00~300、さらに好ましくは2.00~100、特に好ましくは3.00~100、一層好ましくは3.00~30、より一層好ましくは3.00~10である。
【0036】
粘着層の原版への接着部分における([CNO-
2s]/[CNO-
50s])の上限は、プラズマ窒化処理のコスト増大を抑制する観点及び原版への接着力を確保しやすくする観点から、好ましくは500以下、より好ましくは100以下、さらに好ましくは10.0以下、特に好ましくは5.00以下、一層好ましくは3.00以下、より一層好ましくは1.10以下である。
粘着層の原版への接着部分における([CNO-
2s]/[CNO-
50s])の下限は、特に制限されず、好ましくは0.50以上、より好ましくは0.80以上である。
これらの観点から、粘着層の原版への接着部分における([CNO-
2s]/[CNO-
50s])は、好ましくは0.50~500、より好ましくは0.50~100、さらに好ましくは0.50~10、特に好ましくは0.50~3.00、一層好ましくは0.50~1.10、より一層好ましくは0.80~1.10である。
【0037】
粘着層13の表層が窒素官能基に由来する化合物に改質してアウトガスの発生を抑制する観点から、[CNO-
2s]は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.002以上、さらに好ましくは0.003以上、特に好ましくは0.005以上である。プラズマ窒化処理のコスト増大を抑制する観点から、[CNO-
2s]は、好ましくは0.05以下、より好ましくは0.03以下、さらに好ましくは0.02以下、特に好ましくは0.01以下である。これらの観点から、[CNO-
2s]は、好ましくは0.001~0.05である。
粘着層13の表層が窒素官能基に由来する化合物に改質してアウトガスを抑制する観点から、[CN-
2s]は、好ましくは0.002以上、より好ましくは0.004以上、さらに好ましくは0.01以上、特に好ましくは0.05以上である。プラズマ窒化処理のコスト増大を抑制する観点から、[CN-
2s]は、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下、さらに好ましくは0.2以下、特に好ましくは0.1以下である。これらの観点から、[CN-
2s]は、好ましくは0.002~0.5である。
【0038】
内壁面S13A等が式(2)を満たすようにする方法としては、例えば、プラズマ窒化処理又は脱水処理後にプラズマ窒化処理を内壁面S13A等に施す方法が挙げられる。
特に、粘着層13が窒素原子を含まない場合、プラズマ窒化処理を内壁面S13A等に施すと、([CNO-
2s]/[CNO-
50s])は飛躍的に高くなる。例えば、([CNO-
2s]/[CNO-
50s])は10以上になる。これは、プラズマ窒化処理によって、第1深部には窒素原子が導入される一方で、第2深部には窒素原子が導入されにくく、([CNO-
2s]/[CNO-
50s])の分母である[CNO-
50s]が低いままであることに起因すると推測される。
【0039】
(1.1.1.2.2)[CNO-
6s]
第1実施形態では、内壁面S13A等は、下記式(4)を満たすことが好ましい。
【0040】
式(4):([CNO-
6s]/[CNO-
50s])≧1.50
前記式(4)中、[CNO-
6s]は、粘着層13の表面S13からの深さが第3深さの第3深部をTOF-SIMSで、1次イオン銃を用いて分析したCNO-の規格化強度を示す。第3深さは、前記表面の600μm四方の区域に対して、スパッタイオン銃(Ar-GCIB)を累計6秒間照射することで形成される。[CNO-
50s]は、第2深部をTOF-SIMSで分析したCNO-の規格化強度を示す。
【0041】
内壁面S13A等が式(4)を満たすことは、粘着層13の表層が窒素官能基に由来する化合物に改質されていることを示し、窒素官能基に由来する化合物は、炭化水素の固定化(高沸点化)に寄与し、あるいは、粘着層13内部からのガスの透過を阻害するガスバリア膜となる。そのため、アウトガスの発生は抑制され得る。
【0042】
内壁面S13A等における([CNO-
6s]/[CNO-
50s])の上限は、プラズマ窒化処理のコスト増大を抑制する観点から、例えば、500以下にすることができ、好ましくは300以下、より好ましくは100以下、さらに好ましくは10以下である。
([CNO-
6s]/[CNO-
50s])の下限は、粘着層13の表層が窒素官能基に由来する化合物に改質してアウトガスの発生をより抑制する観点から、例えば、2.00以上、好ましくは3.00以上である。
これらの観点から、([CNO-
6s]/[CNO-
50s])は、好ましくは1.50~500、より好ましくは2.00~100、さらに好ましくは3.00~10.0である。
【0043】
内壁面S13A等が式(4)を満たすようにする方法としては、内壁面S13A等が式(2)を満たすようにする方法として例示した方法と同様であり、脱水処理後のプラズマ窒化処理を内壁面S13A等に施す方法が好ましい。
【0044】
(1.1.1.3)CN-の変化割合
第1実施形態では、内壁面S13A等は、下記式(3)を満たすことが好ましい。
【0045】
式(3):([CN-
2s]/[CN-
50s])≧2.00
前記式(3)中、[CN-
2s]は、第1深部をTOF-SIMSで分析したCN-の規格化強度を示す。[CN-
50s]は、第2深部をTOF-SIMSで分析したCN-の規格化強度を示す。
【0046】
TOF-SIMSで分析される粘着層13のCN-の規格化強度は、粘着層13の材料、プラズマ窒化処理が施されたか否か等に依存する。
CN-は、主として、粘着層13に含まれるアミド結合又はウレタン結合、及びプラズマ窒化処理によって粘着層13に導入された窒素官能基に由来すると推測される。
【0047】
内壁面S13A等が式(3)を満たすことは、粘着層13の表層が窒素官能基に由来する化合物に改質されていることを示し、窒素官能基に由来する化合物は、炭化水素の固定化(高沸点化)に寄与し、あるいは、粘着層13内部からのガスの透過を阻害するガスバリア膜となる。そのため、アウトガスの発生は抑制され得る。
【0048】
内壁面S13A等における([CN-
2s]/[CN-
50s])の上限は、プラズマ窒化処理のコスト増大を抑制する観点から、例えば、500以下にすることができ、好ましくは300以下、より好ましくは100以下、さらに好ましくは30以下である。
([CN-
2s]/[CN-
50s])の下限は、粘着層13の表層が窒素官能基に由来する化合物に改質してアウトガスの発生をより抑制する観点から、例えば、2.00以上好ましくは3.00以上である。
これらの観点から、 ([CN-
2s]/[CN-
50s])は、好ましくは2.00~500、より好ましくは2.00~300、さらに好ましくは2.00~100、特に好ましくは3.00~100、一層好ましくは3.00~30である。
【0049】
粘着層の原版への接着部分における([CN-
2s]/[CN-
50s])の上限は、プラズマ窒化処理のコスト増大を抑制する観点及び原版への接着力を確保しやすくする観点から、例えば、好ましくは500以下、より好ましくは100以下、さらに好ましくは10.0以下、特に好ましくは5.00以下、一層好ましくは3.00以下、より一層好ましくは1.10以下である。
粘着層の原版への接着部分における([CN-
2s]/[CN-
50s])の下限は、特に制限されず、好ましくは0.50以上、より好ましくは0.80以上である。
これらの観点から、粘着層の原版への接着部分における([CN-
2s]/[CN-
50s])は、好ましくは0.50~500、より好ましくは0.50~100、さらに好ましくは0.50~10、特に好ましくは0.50~3.00、一層好ましくは0.50~1.10、より一層好ましくは0.80~1.10である。
【0050】
内壁面S13A等が式(3)を満たすようにする方法としては、内壁面S13A等が式(2)を満たすようにする方法として例示した方法と同様である。
【0051】
(1.1.1.3)C3
-の変化割合
第1実施形態では、内壁面S13A等は、下記式(5)を満たすことが好ましい。
【0052】
式(5):([C3
-
2s]/[C3
-
50s])≧1.10
式(5)中、[C3
-
2s]は、第1深部をTOF-SIMSで分析したC3
-の規格化強度を示す。[C3
-
50s]は、第2深部をTOF-SIMSで分析したC3
-の規格化強度を示す。
[C3
-
2s]及び[C3
-
50s]の各々の分析方法は、上述した分析方法と同様である。
【0053】
TOF-SIMSで分析される粘着層13のC3
-の規格化強度は、粘着層13の材料、EUV照射処理が施されたか否か等に依存する。
C3
-は、主として、表面処理が施されたことによる内壁面S13A等の炭化に由来すると推測される。
【0054】
内壁面S13A等が式(5)を満たすことで、粘着層の表層が炭化され、アウトガスの発生が抑制され、粘着層内部からのガスの透過を抑制できる。
【0055】
([C3
-
2s]/[C3
-
50s])の上限は、EUV照射処理のコスト増大を抑制する観点から、例えば、10.0以下にすることができ、好ましくは5.0以下、より好ましくは3.0以下、さらに好ましくは2.0以下である。
([C3
-
2s]/[C3
-
50s])の下限は、粘着層13の表層が炭化して改質してアウトガスの発生を抑制する観点から、例えば、1.10以上にすることができ、好ましくは1.20以上、より好ましくは1.40以上である。
これらの観点から、([C3
-
2s]/[C3
-
50s])は、好ましくは1.10~10.0である。
【0056】
内壁面S13A等が式(5)を満たすようにする方法としては、例えば、内壁面S13A等に、EUV照射処理を施す方法が挙げられる。
内壁面S13A等にEUV照射処理を施すと、内壁面S13A等の表面S13は、EUVを吸収して高温になる。その結果、EUV照射処理が施された内壁面S13A等の表面S13は、炭化しやすくなる。
【0057】
水に起因するアウトガス発生量をより抑制するため、([C2HO-
2s]/[C2HO-
50s])の上限が0.97以下であることが好ましく、0.95以下であることがより好ましく、0.90以下であることがさらに好ましく、0.60以下であることが特に好ましい。
【0058】
(1.1.1.4)窒素原子濃度
第1実施形態では、内壁面S13A等の表面S13の窒素原子濃度は、1.0at%以上であることが好ましい。
窒素原子濃度は、内壁面S13A等のX線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)(以下、「XPS」ともいう。)のナロースペクトルにおいて、全成分のピーク成分の積分強度に対する窒素原子に由来するピーク成分の積分強度の割合(%)を示す。窒素原子濃度の測定方法の詳細は、後述する。
【0059】
内壁面S13A等の表面S13の窒素原子濃度は、1.0at%以上であることは、内壁面S13A等の表面S13が金属でコーティングされていないことを示す。
【0060】
窒素原子濃度の下限は、好ましくは1.0at%以上、好ましくは2.0at%以上、より好ましくは3.0at%以上、さらに好ましくは5.0at%以上である。
内壁面S13A等の表面S13の窒素原子濃度の下限が上記範囲内であれば、粘着層13の原料である接着剤は十分なアウトガス抑制効果が得られる。
第1実施形態では、内壁面S13A等の表面S13の窒素原子濃度の上限は、好ましくは50at%以下、より好ましくは35at%以下、さらに好ましくは20at%以下である。
内壁面S13A等の表面S13の窒素原子濃度の上限が上記範囲内であれば、炭化水素系アウトガスを低減できる。
これらの観点から、窒素原子濃度は、好ましくは1.0at%~50at%である。
【0061】
内壁面S13A等の表面S13の窒素原子濃度は、XPSで、下記のXPS分析方法に従って分析されるピーク成分の面積から算出される。
XPSによる分析の分析箇所は、TOF-SIMSによる分析の分析箇所とは異なる。
換言すると、XPSによる分析の分析箇所は、粘着層13の深さ方向分析のためにスパッタイオン銃(Ar-GCIB)が照射された部位とは異なる部位を示す。
【0062】
<XPS分析方法>
装置名 :AXIS-NOVA(スレイトス社製/株式会社島津製作所製)
使用X線 :AlKα線(1486.6eV)
電子エネルギー範囲:-5eV~1350eV(Binding energy)のワイドスキャン及び、ナロースキャン
ラスター面積 :0.3mm×0.7mm
【0063】
詳しくは、内壁面S13A等の表面S13の窒素原子濃度は、上述の方法で分析したXPSナロースペクトルにおける、全成分のピーク成分の積分強度に対する窒素原子に由来するピーク成分の積分強度の割合(%)を求めることで導出される。全成分は、被膜(例えば、アクリル系粘着剤、SBR系粘着剤、シリコーン系粘着剤等)を含む。例えば、全成分は、0eV~1350eVの範囲に現れるピーク成分の積分強度から求めることができる。窒素原子に由来するピーク成分の積分強度は387eV~405eVの範囲に現れる積分強度から求めることができる。
【0064】
(1.1.1.5)炭素原子濃度
第1実施形態では、内壁面S13A等の表面S13の炭素原子濃度は、35at%以上であることが好ましい。
炭素原子濃度は、内壁面S13A等のX線光電子分光法のナロースペクトルにおいて、全成分のピーク成分の積分強度に対する窒素原子に由来するピーク成分の積分強度の割合(%)を示す。炭素原子濃度の測定は、炭素原子に由来するピーク成分の積分強度は270eV~290eVの範囲に現れる積分強度から求めること以外は、窒素原子濃度の測定方法と同様である。
【0065】
内壁面S13A等の表面S13の窒素原子濃度は、35at%以上であることは、内壁面S13A等の表面S13が金属でコーティングされていないことを示す。
【0066】
炭素原子濃度の下限は、好ましくは35at%以上、好ましくは50at%以上、より好ましくは60at%以上、さらに好ましくは70at%以上である。
内壁面S13A等の表面S13の炭素原子濃度の下限が上記範囲内であれば、粘着層13の原料である接着剤は十分な粘着性と靭性が得られ、原版への高い接着性と、原版の歪みを抑制することができる。原版の歪みの発生は、原版にペリクル10が装着されたことに起因する。
炭素原子濃度の上限は、好ましくは98at%以下、より好ましくは90at%以下、さらに好ましくは80at%以下である。
内壁面S13A等の表面S13の炭素原子濃度の上限が上記範囲内であれば、炭化水素系アウトガスを低減できる。
これらの観点から、炭素原子濃度は、好ましくは35at%~98at%である。
なお、シリコーン樹脂[(SiO(CH3)2)n]の炭素原子濃度の理論値(水素を除いた値)は、50at%以上である。実施例で用いたAc系粘着剤1の炭素原子濃度の測定値は、76.0at%であった。実施例で用いたAc系粘着剤2の炭素原子濃度の測定値は、71.5at%であった。実施例で用いたSBR系粘着剤の炭素原子濃度の測定値は、81.8at%であった。Ac系粘着剤1、Ac系粘着剤2、及びSBR系粘着剤の炭素原子濃度の測定方法は、後述する炭素原子濃度の測定方法と同様である。
【0067】
(1.1.1.6)ガラス転移温度
粘着層13のガラス転移温度Tgは、-25℃超10℃未満であることが好ましい。これにより、粘着層13は、ペリクルの使用温度領域(例えば、20℃以上)において、粘着力を有し、高温環境に晒されても、原版からより剥離しにくい。
高温環境に晒されても、原版からより剥離しにくくする観点から、粘着層13のガラス転移温度Tgの下限は、好ましくは-25℃超、より好ましくは-22℃以上、さらに好ましくは-20℃以上、最も好ましくは-18℃以上である。
常温で粘着性を付与させる観点から、粘着層13のガラス転移温度Tgの上限は、好ましくは10℃未満、より好ましくは5℃以下、さらに好ましくは0℃以下である。
粘着層13のガラス転移温度(Tg)の測定方法は、JIS K7112に準拠する。
詳しくは、示差走査熱量計(DSC:Differential scanning calorimetry)を用いて、昇温速度20℃/分、窒素下の条件で、粘着層13のガラス転移温度(Tg)を測定する。
【0068】
(1.1.1.7)粘着層のサイズ
粘着層13の幅L1(
図1参照)は、好ましくは1.0mm~4.0mm、より好ましくは1.2mm~3.8mmである。粘着層13の厚みL2(
図1参照)は、好ましくは0.1mm~2mm、より好ましくは0.2mm~1mmである。
【0069】
(1.1.2)ペリクル枠
ペリクル枠11は、ペリクル膜12を支持する。
ペリクル枠11は、筒状物である。第1実施形態では、ペリクル枠11は、貫通孔TH及び通気孔121を有する。貫通孔THは、露光の際、ペリクル膜12を透過した露光が原版に到達するために通過する空間である。貫通孔THは、ペリクル枠11が原版に取り付けられた際、ペリクル10の内部空間と、ペリクル10の外部空間とを連通する。「ペリクル10の内部空間」とは、ペリクル10及び原版(不図示)に囲まれた空間を示す。「ペリクル10の外部空間」とは、ペリクル10及び原版(不図示)に囲まれていない空間を示す。
【0070】
ペリクル枠11の材質、形状等は、ペリクル膜12を支持可能な枠であれば、特に制限されない。ペリクル枠11の材質として、アルミニウム、チタン、ステンレス、セラミック系材料(例えばシリコン、ガラス等)、ポリエチレンなどの樹脂等を含有してもよい。
【0071】
ペリクル枠11の内周壁S11Cには、防塵用粘着層が形成されていてもよい。これにより、例えば、通気孔121から内部空間に侵入した塵等が原版に到達することを抑制することができる。
防塵用粘着層の表面には、粘着層13と同様にして、表面処理が施されている。防塵用粘着層の材質は、粘着層13の材質と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0072】
ペリクル枠の厚み方向からペリクル枠の形状は、例えば、矩形状である。矩形状は、正方形であってもよいし、長方形であってもよい。矩形状のペリクル枠は、厚み方向から見みると、4辺で構成されていてもよい。
矩形上のペリクル枠の場合、1辺の長手方向の長さは、200mm以下であることが好ましい。ペリクル枠のサイズ等は、露光装置の種類によって規格化されている。ペリクル枠の1辺の長手方向の長さが200mm以下であることは、EUV光を用いた露光に対して規格化されたサイズを満たす。
1辺の短手方向の長さは、例えば、5mm~180mmにすることができ、好ましくは80mm~170mm、より好ましくは100mm~160mmである。
ペリクル枠の高さ(すなわち、厚み方向におけるペリクル枠の長さ)は、特に限定されず、好ましくは3.0mm以下、より好ましくは2.4mm以下、さらに好ましくは2.375mm以下である。これにより、ペリクル枠は、EUV露光に対して規格化されたサイズを満たす。EUV露光に対して規格化されたペリクル枠の高さは、例えば、2.375mmである。
ペリクル枠の質量は、特に限定されず、好ましくは20g以下、より好ましくは15g以下である。これにより、ペリクル枠は、EUV露光の用途に適する。
【0073】
(1.1.3)ペリクル膜
ペリクル膜12は、原版の表面に異物が付着することを防止するとともに、露光の際、露光光を透過させる。異物は、塵埃を含む。露光光としては、遠紫外(DUV:Deep Ultra Violet)光、EUV等が挙げられる。EUVは、波長1nm~100nmの光を示す。EUV光の波長は、5nm~13.5nmが好ましい。
ペリクル膜12は、ペリクル枠11の貫通孔THのペリクル膜側端面S11A側の開口の全体を覆っている。ペリクル膜12は、ペリクル枠11のペリクル膜側端面S11Aに、直接的に支持されていてもよいし、接着剤層(以下、「膜接着剤層」ともいう。)を介して支持されていてもよい。
【0074】
ペリクル膜12が膜接着剤層を介してペリクル枠11に支持されている場合、膜接着剤層の側面の表面には、粘着層13と同様にして、表面処理が施されていることが好ましい。膜接着剤層の材質は、粘着層13の材質と同一であってもよいし、異なっていてもよく、公知の接着剤の硬化物であってもよい。
【0075】
ペリクル膜12の膜厚は、好ましくは1nm~200nmである。
ペリクル膜12の材質、特に限定されず、炭素系材料、SiN、ポリシリコン等が挙げられる。炭素系材料は、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう。)を含む。なかでも、ペリクル膜12の材質は、CNTを含むことが好ましい。CNTは、シングルウォールCNTであってもよいし、マルチウォールCNTであってもよいし、シングルウォールCNTとマルチウォールCNTを有していてもよい。
ペリクル膜12は、不織布構造であってもよい。不織布構造は、例えば、繊維形状のCNTによって形成される。
【0076】
(1.2)露光原版
第1実施形態に係る露光原版は、原版と、第1実施形態に係るペリクル10と、を備える。原版は、パターンを有する。ペリクル10は、原版におけるパターンを有する側の面に装着されている。
第1実施形態に係る露光原版は、ペリクル10を備えるので、ペリクル10と同様の効果を奏する。
【0077】
原版は、例えば、支持基板、反射層、及び吸収体層がこの順に積層されてなってもよい。この場合、ペリクル10は、原版の反射層及び吸収体層が設けられている側に装着される。
吸収体層が光(例えば、EUV)を一部吸収することで、感応基板(例えば、フォトレジスト膜付き半導体基板)上に、所望の像が形成される。反射層としては、モリブデン(Mo)とシリコン(Si)との多層膜等が挙げられる。吸収体層の材料は、EUV等の吸収性の高い材料であってもよい。EUV等の吸収性の高い材料としては、クロム(Cr)、窒化タンタル等が挙げられる。
【0078】
(1.3)露光装置
第1実施形態に係る露光装置は、光源と、第1実施形態に係る露光原版と、光学系とを備える。光源は、露光光を放出する。光学系は、光源から放出された露光光を露光原版に導く。露光原版は、光源から放出された露光光がペリクル膜を透過して原版に照射されるように配置されている。
このため、第1実施形態に係る露光装置は、第1実施形態に係る露光原版と同様の効果を奏する。更に、第1実施形態に係る露光装置は、上記の構成を有するので、EUV等によって微細化されたパターン(例えば線幅32nm以下)を形成できることに加え、異物による解像不良が問題となり易いEUVを用いた場合であっても、異物による解像不良が低減されたパターン露光を行うことができる。
露光光は、EUVであることが好ましい。EUVは、波長が短いため、酸素又は窒素のような気体に吸収されやすい。そのため、EUV光による露光は、真空環境下で行われる。
光源としては、公知の光源を用いることができる。光学系としては、公知の光学系を用いることができる。
【0079】
(1.4)ペリクル膜の製造方法
第1実施形態に係るペリクルの製造方法(以下、「ペリクルの製造方法」ともいう。)は、ペリクル10を製造する方法であって、後述する粘着層形成工程を含む。これにより、内壁面S13A等が式(1)を満たすペリクル10が得られる。
【0080】
(1.4.1)粘着層形成工程
粘着層形成工程では、塗布組成物をペリクル枠11の粘着層側端面S11Bに塗工し、加熱して粘着層前駆体を形成された粘着層前駆体の表面のうち内壁面及び外壁面の少なくとも一方(以下、「粘着層前駆体の内壁面等」ともいう。)に、プラズマ窒化処理又は極端紫外線照射処理を施して、粘着層13を形成する。
プラズマ窒化処理又は極端紫外線照射処理を施す際は、粘着層前駆体に対して処理を施してもよく、粘着層の原版への接着部分(
図1の符号S13Cに対応)に接着剤保護用フィルムを張り付けた状態で処理を施してもよく、ペリクルを原版に貼り付けた状態で処理を施してもよい。粘着層の原版への接着力を確保しやすくする観点から、粘着層の原版への接着部分に接着剤保護用フィルムを張り付けた状態で処理を施すことが好ましい。
【0081】
粘着層前駆体の内壁面は、粘着層13の内壁面S13Aに対応する面である。粘着層前駆体の外壁面は、粘着層13の外壁面S13Bに対応する面である。
【0082】
(1.4.2)塗布組成物
塗布組成物は、形成する粘着層に応じて、様々な重合体、溶剤、架橋剤、触媒、開始剤等から選ばれる化合物を含む。塗布組成物は、粘着層前駆体(粘着性組成物)の前駆体である。つまり、塗布組成物が硬化すると、粘着性組成物となる。
【0083】
(1.4.3)粘着性組成物
粘着性組成物としては、Ac系粘着剤、Si系粘着剤、SBR系粘着剤、ウレタン系粘着剤、オレフィン系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、ポリエステル系粘着剤等が挙げられる。なかでも、ペリクル10から発生するアウトガス発生量を低減する等の観点から、粘着層13の材料は、Ac系粘着剤、Si系粘着剤、又はSBR系粘着剤が好ましい。
【0084】
(1.4.3.1)Ac系粘着剤
Ac系粘着剤は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を含有することが好ましい。
【0085】
(1.4.3.1.1)(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーと、イソシアネート基、エポキシ基、及び酸無水物の少なくとも一つと反応性を有する官能基を有するモノマー(以下「官能基含有モノマー」ともいう。)との共重合体を含むことが好ましい。
【0086】
以下、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーと官能基含有モノマーとの共重合体を、「前記共重合体」ともいう。
【0087】
Ac系粘着剤が、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を含有することで、ペリクルは、高温環境(例えば、60℃又は60℃を超える温度環境)に晒されても原版から剥離しにくく、かつ糊残りの発生を抑制することができる。
「糊残り」とは、ペリクルを原版から剥離した後に、ペリクル用粘着剤の少なくとも一部が原版に残存することを示す。
【0088】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは3万~250万、より好ましくは5万~150万、さらに好ましくは7万~120万である。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の重量平均分子量(Mw)の上限が250万以下であれば、塗布組成物の固形分濃度を高くしても、溶液粘度を加工容易な範囲に制御できる。(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の重量平均分子量(Mw)の上限は、好ましくは250万以下であり、より好ましくは150万以下であり、さらに好ましくは120万以下である。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の重量平均分子量(Mw)の下限が3万以上であれば、ペリクルは、高温環境(例えば、60℃)に晒されても原版からより剥離しにくく、糊残りの発生は抑制され得る。(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の重量平均分子量(Mw)の下限は、好ましくは3万以上であり、より好ましくは5万以上であり、さらに好ましくは7万以上である。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の重量平均分子量の測定方法は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)であり、測定方法の詳細は、実施例で後述する。
例えば、一般に重合反応時のモノマー濃度が高いほど重量平均分子量(Mw)は大きくなる傾向にあり、重合開始剤の量が少ないほど、又、重合温度が低いほど重量平均分子量(Mw)は大きくなる傾向にある。重量平均分子量(Mw)は、モノマー濃度、重合開始剤の量及び重合温度を調整することによりを制御され得る。
【0089】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の数平均分子量(Mn)は、好ましくは0.5万~50万、より好ましくは0.8万~30万、さらに好ましくは1万~20万であり、最も好ましくは2万~20万である。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の数平均分子量(Mn)の上限が50万以下であれば、塗布組成物の固形分濃度を高くしても、溶液粘度を加工容易な範囲に制御できる。(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の数平均分子量(Mn)の上限は、好ましくは50万以下であり、より好ましくは30万以下であり、さらに好ましくは20万以下である。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の数平均分子量(Mn)の下限が0.5万以上であれば、ペリクルは高温環境(例えば、60℃)に晒されても原版からより剥離しにくく、糊残りの発生は抑制され得る。(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の数平均分子量(Mn)の下限は、好ましくは0.5万以上であり、より好ましくは0.8万以上であり、さらに好ましくは1万以上であり、最も好ましくは2万以上である。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の数平均分子量(Mn)の測定方法は、実施例に記載の測定方法と同様である。
【0090】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の「重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)」(以下、「Mw/Mn」ともいう)は、好ましくは1.0~10.0、より好ましくは2.5~9.0、さらに好ましくは2.5~8.0、最も好ましくは3.0~7.0である。
Mw/Mnが上記範囲内であれば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の生産が容易であり、かつ糊残りの発生は抑制され得る。
Mw/Mnの上限が10.0以下であれば、糊残りの発生は抑制され得る。Mw/Mnの上限は、好ましくは10.0以下であり、より好ましくは9.0以下であり、さらに好ましくは8.0以下であり、最も好ましくは7.0以下である。
Mw/Mnの下限が1.0以上であれば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を容易に生産でき得る。Mw/Mnの下限は、好ましくは1.0以上であり、より好ましくは2.0以上であり、さらに好ましくは2.5以上であり、最も好ましくは3.0以上である。
【0091】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーは、炭素数1~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーを含むことが好ましい。炭素数1~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーとしては、例えば、直鎖脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルモノマー、分岐鎖脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルモノマー等が挙げられる。
直鎖脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル等が挙げられる。
分岐鎖脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソノニル等が挙げられる。これらは1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0092】
これらの中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーは、炭素数が1~3のアルキル基及び脂環式アルキル基の少なくとも一方を有することが好ましい。
以下、炭素数が1~3のアルキル基及び脂環式アルキル基の少なくとも一方を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーを、「高Tgモノマー」ともいう。「Tg」は、ガラス転移温度のことである。
アウトガスの発生量をより少なくするため、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーは、炭素数が1~3のアルキル基、又は脂環式アルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルモノマーであることがより好ましく、炭素数が1~3のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルモノマーであることがさらに好ましく、炭素数が1~2のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルモノマーであることがさらに好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーが脂環式アルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルモノマーである場合、入手しやすさの観点から、脂環式アルキル基の炭素数は、5~10であることが好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーが高Tgモノマーを含有することで、ペリクルは高温雰囲気下に晒されても原版からより剥離しにくい。
具体的に、高Tgモノマーとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ジシクロペンタニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ジシクロペンタニル等が挙げられる。
【0093】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーの含有量は、前記共重合体を構成するモノマーの合計量100質量部に対して、好ましくは80質量部~99.5質量部、より好ましくは85質量部~99.5質量部、さらに好ましくは87質量部~99.5質量部である。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーの含有量が80質量部~99.5質量部の範囲内であれば、適当な接着力を実現できる。
【0094】
官能基含有モノマーは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーと共重合可能なモノマーである。官能基含有モノマーは、イソシアネート基、エポキシ基及び酸無水物の少なくとも一つとの反応性を有する官能基を有する。
官能基含有モノマーとしては、例えば、カルボキシ基含有モノマー、ヒドロキシ基含有モノマー、エポキシ基含モノマー等が挙げられる。
カルボキシ基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられる。
ヒドロキシ基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等が挙げられる。
エポキシ基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸グリシジル等が挙げられる。
これらは1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
特に、共重合性、汎用性等の点から、官能基含有モノマーは、炭素数2~4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸、又はエポキシ基含有モノマーである(メタ)アクリル酸グリシジルを含むことが好ましい。炭素数2~4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシ基含有(メタ)アクリル酸としては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等が挙げられる。
【0095】
官能基含有モノマーの含有量は、前記共重合体を構成するモノマーの合計量100質量部に対して、例えば、0.5質量部~20質量部であることが好ましい。
粘着層の接着力を向上させる観点から、官能基含有モノマーの含有量の下限は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を構成するモノマーの合計量100質量部に対して、1質量部以上であることがより好ましく、2質量部以上であることがさらに好ましく、3質量部以上であることが特に好ましい。
粘着層の接着力を適度な接着力にする観点から、官能基含有モノマーの含有量の上限は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を構成するモノマーの合計量100質量部に対して、15質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましい。
【0096】
(1.4.3.1.2)重合方法
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の重合方法は、特に限定されず、例えば、溶液重合、塊状重合、乳化重合、各種ラジカル重合等が挙げられる。
これらの重合方法によって得られる(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれでもよい。
【0097】
(1.4.3.1.3)重合溶媒
反応溶液は、重合溶媒を含む。
溶液重合においては、重合溶媒として、例えば、酢酸プロピル、酢酸エチル、トルエン等が使用できる。これにより、共重合体溶液の粘度は、調整され得る。その結果、重合させる際に、塗布組成物の厚み及び幅は制御されやすい。
希釈溶媒としては、例えば、酢酸プロピル、アセトン、酢酸エチル、トルエン等が挙げられる。
共重合体溶液の粘度は、好ましくは1000Pa・s以下、より好ましくは500Pa・s以下、さらに好ましくは200Pa・s以下である。
共重合体溶液の粘度は、共重合体溶液の温度が25℃であるときの粘度であり、E型粘度計によって測定することができる。
【0098】
(1.4.3.1.4)溶液重合
溶液重合の一例としては、窒素等の不活性ガス気流下でモノマーの混合溶液に重合開始剤を添加し、50℃~100℃で、4時間~30時間重合反応を行う方法が挙げられる。
【0099】
重合開始剤としては、例えば、アゾ系重合開始剤、過酸化物系重合開始剤が挙げられる。アゾ系重合開始剤としては、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2'-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオン酸)ジメチル、4,4'-アゾビス-4-シアノバレリアン酸等が挙げられる。過酸化物系重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。
重合開始剤の含有量は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を構成する全モノマーの合計量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部~2.0質量部である。
溶液重合では、重合開始剤に加えて、連鎖移動剤、乳化剤等をモノマーの混合溶液に添加してもよい。連鎖移動剤、乳化剤等としては、公知のものを宜選択して使用することができる。
【0100】
粘着層に残存する重合開始剤の量は、少ないことが好ましい。これにより、露光中に発生するアウトガス量を低減することができる。
粘着層に残存する重合開始剤の量を低減する方法としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体を重合する際の重合開始剤の添加量を必要最小限にする方法、熱分解しやすい重合開始剤を使用する方法、粘着剤の塗布及び乾燥工程にて、粘着剤を長時間高温に加熱して、乾燥工程で重合開始剤を分解させる方法等が挙げられる。
【0101】
10時間半減期温度は、重合開始剤の熱分解速度を表す指標として用いられる。「半減期」とは、重合開始剤の半分が分解するまでの時間を示す。「10時間半減期温度」は、半減期が10時間になる温度を示す。
重合開始剤として、10時間半減期温度が低い重合開始剤を用いることが好ましい。10時間半減期温度が低いほど、重合開始剤は熱分解しやすい。その結果、粘着層に残存しにくい。
重合開始剤の10時間半減期温度は、好ましくは80℃以下、より好ましくは75℃以下である。
【0102】
10時間半減期温度が低いアゾ系重合開始剤としては、例えば、2,2'-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(10時間半減期温度:30℃)、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(10時間半減期温度:65℃)、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(10時間半減期温度:51℃)、ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(10時間半減期温度:66℃)、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(10時間半減期温度:67℃)等が挙げられる。
10時間半減期温度が低い過酸化物系重合開始剤としては、例えば、ジベンゾイルパーオキサイド(10時間半減期温度:74℃)、ジラウロイルパーオキサイド(10時間半減期温度:62℃)等が挙げられる。
【0103】
(1.4.3.1.5)架橋剤
Ac系粘着剤は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と、架橋剤との反応生成物を含むことが好ましい。これにより、得られる粘着層の凝集力を向上させ、ペリクルをフォトマスクから剥がす際の糊残りを抑制でき、高温(例えば、60℃又は60℃を超える温度環境)での粘着力を向上させることができる。
架橋剤は、イソシアネート基、エポキシ基、及び酸無水物の少なくとも一つを有する。
【0104】
架橋剤としては、例えば、単官能性エポキシ化合物、多官能性エポキシ化合物、酸無水物系化合物、金属塩、金属アルコキシド、アルデヒド系化合物、非アミノ樹脂系アミノ化合物、尿素系化合物、イソシアネート系化合物、金属キレート系化合物、メラミン系化合物、アジリジン系化合物等が挙げられる。
中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が有する官能基成分との反応性に優れる点において、架橋剤は、単官能エポキシ化合物、多官能性エポキシ化合物、イソ
シアネート系化合物及び酸無水物系化合物の少なくとも1つであることがより好ましく、酸無水物系化合物であることがより好ましい。
【0105】
単官能エポキシ化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、酢酸グリシジル、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル等が挙げられる。
多官能性エポキシ化合物としては、例えば、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、フタル酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル、トリグリシジルイソシアヌレート、ジグリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグリシジルエーテル、N、N、N'、N'-テトラグリシジルm-キシレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N',N'-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン等が挙げられる。
酸無水物系化合物としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸無水物、芳香族多価カルボン酸無水物等が挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸無水物としては、無水マレイン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ-4-メチル無水フタル酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3-ジカルボン酸無水物、2-メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3-ジカルボン酸無水物、無水テトラヒドロフタル酸等が挙げられる。
芳香族多価カルボン酸無水物としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸等が挙げられる。
イソシアネート系化合物としては、例えば、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、これらの多量体、誘導体、重合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0106】
架橋剤は、製品であってもよい。架橋剤の製品としては、新日本理化株式会社製の「リカシッド MH-700G」等が挙げられる。
【0107】
前記粘着層は、前記共重合体と架橋剤との反応生成物を含み、架橋剤の含有量は、前記共重合体を構成するモノマーの合計量100質量部に対して、0.01質量部~3.00質量部であることが好ましい。
架橋剤の含有量は、前記共重合体を構成するモノマーの合計量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部~3.00質量部、糊残りが発生しにくいペリクル用粘着剤を得る等の観点から、より好ましくは0.10質量部~3.00質量部、さらに好ましくは0.1質量部~2.00質量部である。
架橋剤の含有量の上限が3.00質量部以下であれば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の架橋密度が大きくなりすぎない。そのため、原版に掛かる応力を粘着剤が吸収し、粘着層が原版の平坦性に及ぼす影響が緩和されると考えられる。架橋剤の含有量の上限は、好ましくは2.00質量部以下、より好ましくは1.00質量部以下である。
一方で、架橋剤の含有量の下限が0.01質量部以上であれば、架橋密度が小さくなり過ぎないため、製造工程中でのハンドリング性が維持され、原版からペリクルを剥離するときに糊残りが発生しにくいと考えられる。
架橋剤の含有量が0.01質量部~3.00質量部の範囲内であれば、糊残りの発生がより抑制されたペリクルが得られる。
【0108】
(1.4.3.1.6)触媒
塗布組成物は、触媒をさらに含有してもよい。これにより、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の硬化をより促進させることができる。
触媒としては、例えば、アミン系触媒が挙げられる。アミン系触媒としては、(1,8-ジアザビシクロ-(5.4.0)ウンデセン-7)のオクチル酸塩、トリエチレンジアミン等が挙げられる。アミン系触媒は、「DBU」、「DBN」、「U-CAT」、「U-CAT SA1」、「U-CAT SA102」等のサンアプロ(株)の製品であってもよい。
触媒の含有量は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体100質量部に対して、好ましくは0.01質量部~3.00質量部、より好ましくは0.10質量部~1.00質量部である。
【0109】
(1.4.3.1.7)表面改質剤
塗布組成物は、表面改質剤を含有しないことが好ましい。これにより、アウトガスの発生量を抑制することができる。
【0110】
(1.4.3.1.8)添加剤
塗布組成物は、必要に応じて、充填剤、顔料、希釈剤、老化防止剤、粘着付与剤等の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、1種類のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0111】
(1.4.3.1.9)希釈溶媒
塗布組成物は、希釈溶媒を含有してもよい。これにより、塗布組成物の粘度は、調整され得る。その結果、塗布組成物をペリクル枠の他方の端面に塗布する際に、塗布組成物の厚み及び幅は制御されやすい。
希釈溶媒としては、例えば、酢酸プロピル、アセトン、酢酸エチル、トルエン等が挙げられる。
塗布組成物の粘度は、好ましくは50Pa・s以下、より好ましくは10Pa・s~40Pa・s、さらに好ましくは20Pa・s~30Pa・sである。
塗布組成物の粘度は、塗布組成物の温度が25℃であるときの粘度であり、E型粘度計によって測定することができる。
【0112】
(1.4.3.2)SBR系粘着剤
SBR系粘着剤としては、水添スチレン・イソプレンブロック共重合物、脂環族飽和炭化水素樹脂に柔軟剤として鉱油を添加したホットメルト系接着剤を用いることができる。
【0113】
SBR系粘着剤は、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)及び粘着付与樹脂(B)を含む。
スチレン系熱可塑性エラストマー(A)は、スチレンに由来する構成単位を含む重合体であり、好ましくはスチレンと、スチレン以外のオレフィンとのブロック共重合体である。スチレン以外のオレフィンとしては、イソプレン、4-メチル-1-ペンテン等の、重合体ブロック中に嵩高い分岐構造を持った側鎖を形成し得るモノマーが好ましい。なかでも、スチレン以外のオレフィンとしてイソプレンが特に好ましい。
【0114】
スチレン系熱可塑性エラストマー(A)に含まれる、スチレンに由来する構成単位の合計の割合は、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)の総量に対して、35質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることが更に好ましい。スチレンに由来する構成単位の含有割合が上記範囲内であれば、各種添加剤との相溶性の悪化を抑制し、スチレン系熱可塑性エラストマーと添加剤の分離を抑制できる。
【0115】
スチレン系熱可塑性エラストマー(A)としては、トリブロック共重合体(以下、「SIS」ともいう。)、又は前記トリブロック共重合体の水素添加物(以下、「H-SIS」ともいう。)を含むことが好ましい。SISは、第1ポリスチレンブロックと、側鎖にイソプロペニル基(1-メチルエテニル基(-C(=CH2)CH3)を含むポリイソプレンブロックと、第2ポリスチレンブロックとを有する。イソプロペニル基のような嵩高い分岐構造を側鎖に有する重合体ブロックを含むトリブロック共重合体はペリクル枠の歪みを吸収し、原版の歪を抑制しやすい。なお、「トリブロック共重合体の水素添加物」とは、SISに含まれる3つの重合体ブロックのうちの「ポリイソプレンブロック」中の不飽和結合の好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上が水素添加されたものを意味する。
【0116】
SISは、市販品であってもよい。SISの市販品としては、商品名「ハイブラー5127」(株式会社クラレ社製)、商品名「ハイブラー5215」(株式会社クラレ社製)等が挙げられる。
【0117】
H-SISは、市販品であってもよい。H-SISの市販品としては、商品名「ハイブラー7125」(株式会社クラレ社製)、商品名「ハイブラー7311」(株式会社クラレ社製)等が挙げられる。
【0118】
SBR系粘着剤は、粘着付与樹脂(B)を含む。
粘着付与樹脂(B)は、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と相溶性を有することが好ましい。粘着付与樹脂(B)としては、SIS又はH-SISのポリイソプレンブロックと高い相溶性を有する観点から、ロジン及びその誘導体、ポリテルペン樹脂及びその水素化物、テルペンフェノール樹脂及びその水素化物、芳香族変性テルペン樹脂及びその水素化物、クマロン・インデン樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂及びその水素化物、芳香族系石油樹脂及びその水素化物、脂肪族芳香族共重合系石油樹脂、ジシクロペンタジエン系石油樹脂及びその水素化物が好ましい。中でも、粘着付与樹脂(B)としては、ロジン及びその誘導体、ポリテルペン樹脂及びその水素化物、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂及びその水素化物が好ましく、ロジン及びその誘導体、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂及びその水素化物がさらに好ましく、脂環族系石油樹脂の水素化物が特に好ましい。
粘着付与樹脂(B)は、市販品であってもよい。ロジン及びその誘導体の市販品としては、商品名で「パインクリスタル」、「スーパーエステル」、「タマノル」(以上、荒川化学工業株式会社製)等を挙げられる。ポリテルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、及びそれらの水素化物の市販品としては、「YSレジン」、「YSポリスター」、「クリアロン」(以上、ヤスハラケミカル株式会社製)等を挙げられる。脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂及びその水素化物、芳香族系石油樹脂及びその水素化物、脂肪族芳香族共重合系石油樹脂、ジシクロペンタジエン系石油樹脂及びその水素化物の市販品としては、「アルコン」(荒川化学工業株式会社製)、「ハイレッツ」(三井化学株式会社製)、「アイマーブ」(出光興産株式会社製)、「クイントン」(日本ゼオン株式会社製)、「エスコレッツ」(トーネックス株式会社製)等を挙げられる。粘着付与樹脂(B)は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0119】
粘着付与樹脂(B)の配合量は、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)の100質量部に対して、20質量部~150質量部である。粘着付与樹脂(B)の配合量が上記範囲内であれば、SBR系粘着剤はベタつきにくい。さらに、SBR系粘着剤からなる原版用粘着層を原版から剥離した際に、糊残りは発生しにくい。
【0120】
SBR系粘着剤は、その他の成分を更に含有してもよい。
その他の成分としては、例えば、軟化剤、ワックス等を挙げられる。
軟化剤としては、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)に柔軟性を付与し得る材料であればよく、例えば、ポリブテン、水添ポリブテン、不飽和ポリブテン、脂肪族炭化水素、アクリル系ポリマー等を挙げられる。軟化剤の添加量は、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、好ましくは20質量部~300質量部、より好ましく
は50~200質量部である。
ワックスは、SBR系粘着剤の硬度を調整し得る成分である。ワックスとしては、例えば、高弾性材料が好ましく、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等がより好ましい。ワックスの添加量は、スチレン系熱可塑性エラストマー(A)100質量部に対して、好ましくは20質量部~200質量部、より好ましくは50質量部~100質量部である。
【0121】
(1.4.3.3)Si系粘着剤
Si系粘着剤は、シリコーン樹脂を含む。シリコーン樹脂としては、分子鎖両末端にシラノール基を有するオルガノポリシロキサンに、分子中にR3SiO0.5(ここでRは置換又は非置換の1価の炭化水素基を示す)で示されるトリオルガノシロキサン単位とSiO2単位とを有するオルガノポリシロキサンを、部分脱水縮合して得られるもの等が挙げられる。
Si系粘着剤は、市販品であってもよい。Si系粘着剤の市販品としては、「KR-101-10」、「KR-40-3326」、「KE-1820」、「KR-105」(いずれも信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0122】
(1.4.4)塗工方法
塗布組成物を塗工する方法は、特に限定されず、ディスペンサーを用いる方法等が挙げられる。
塗布組成物の厚みは、好ましくは0.1mm~4.5mm、より好ましくは0.1mm
~3.5mm、さらに好ましくは0.2mm~2mmである。
【0123】
(1.4.5)加熱方法
塗布組成物を加熱する方法は、特に限定されず、公知の方法が挙げられる。
塗布組成物を加熱する温度は、溶媒及び残存モノマーの沸点度等に応じて適宜選択され、好ましくは50℃~200℃、より好ましくは60℃~190℃である。
【0124】
塗布組成物を加熱することにより、溶媒及び残存モノマー等の揮発性化合物を粘着層から除去する。
塗布組成物が架橋剤を含有する場合、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が有する官能基と、架橋剤とは、加熱により反応して、粘着層前駆体中で架橋構造が形成され、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体と架橋剤との反応生成物となる。この加熱乾燥により、粘着層前駆体がペリクル枠11表面に密着し、ペリクル枠11と粘着層前駆体とは一体化する。
【0125】
(1.4.6)プラズマ窒化処理
プラズマ窒化処理では、粘着層前駆体の内壁面等を窒素ガス又は窒素を含むガスのプラズマに曝す。これにより、内壁部等が改質された粘着層13が得られる。その結果、ペリクル10から発生するアウトガス発生量は減少する。特に、炭化水素に起因するアウトガス発生量は低減する。この原因は定かではないが、窒素イオンが粘着層13の表面に吸着して保護層を形成することにより、アウトガス発生量が低減すると推測される。
【0126】
プラズマ窒化処理は、例えば、プラズマ処理装置(芝浦メカトロニクス株式会社製の研究開発用スパッタリング装置「CFS-4EP-LL」、タイプ:ロードロック式タイプ)を用いて、下記の処理条件で行われる。
【0127】
<プラズマ窒化処理の処理条件>
・チャンバー到達真空度:圧力<1e-3Pa
・材料ガス:N2(G1グレード)
・ガス流量:21sccm
・処理圧力:0.5Pa
・RF電力:100W
・電力印加:試料側(逆スパッタモード)
・処理時間:1秒~90秒
【0128】
プラズマ窒化処理は、プラズマ発生装置(YOUTEC社製)、平行平板型プラズマCVD装置を使用して、下記の処理条件で行ってもよい。
<プラズマ窒化処理の処理条件>
・チャンバー到達真空度:圧力<1e-3Pa
・材料ガス:N2(G1グレード)
・ガス流量:100sccm
・処理圧力:20Pa
・RF電力:100W
・電力印加電極サイズ:Φ10cm
・処理時間:1秒~90秒
【0129】
(1.4.7)脱水処理+プラズマ窒化処理
前述のプラズマ窒化処理の前に脱水処理を施してもよい。脱水処理は、塗布組成物が塗工されたペリクルを5×10-4Pa以下の圧力下に10分以上配置した後に、H2Oの分圧が100ppm以下、かつ、気圧が90kPa以上の不活性ガス雰囲気下に5秒以上配置することが施すことができる。この原因は定かではないが、プラズマ窒化処理の前に脱水処理を施すことで、粘着層13の表面への窒素イオンの吸着がより粘着層13の内部まで到達することにより、アウトガス発生量をより低減しやすくなると推測される。
【0130】
(1.4.8)EUV照射処理
EUV照射処理では、粘着層前駆体の内壁面等をEUV照射する。これにより、内壁面等が改質された粘着層13が得られる。その結果、ペリクル10から発生するアウトガス発生量は減少する。
【0131】
EUV照射処理は、例えば、実施例に記載の方法と同様にして行うことができる。
【0132】
ペリクル枠11の内周壁S11Cには、防塵用粘着層が形成してもよい。防塵用粘着層を形成する場合には、粘着層13と同様にして、表面処理(プラズマ窒化処理又は極端紫外線照射処理)を施すことが好ましい。防塵用粘着層の材質は、粘着層13の材質と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0133】
(1.4.9)膜接着剤層形成工程
ペリクルの製造方法は、膜接着剤層形成工程を更に含んでもよい。膜接着剤層形成工程の実行順は、粘着層形成工程の前にあってもよいし、粘着層形成工程の後であってもよい。
膜接着剤層形成工程では、ペリクル枠11のペリクル膜側端面S11Aに、膜接着剤層用組成物を塗工する。これにより、ペリクル枠11のペリクル膜側端面S11A上に膜接着剤層が形成される。その結果、ペリクル枠11は、膜接着剤層を介してペリクル膜12を支持することができる。
膜接着剤層用組成物の材質は、特に限定されず、粘着性組成物として例示したものと同様のもの、公知の接着剤等が挙げられる。膜接着剤層用組成物の材質は、粘着性組成物と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
膜接着剤層用組成物の塗工方法は、塗布組成物を塗工する方法として例示した方法と同様であればよい。
ペリクル膜側端面S11Aに塗工された膜接着剤層用組成物に、膜接着剤層形成工程と同様にして、表面処理を施すことが好ましい。これにより、表面が改質され、アウトガスの発生が抑制された膜接着剤層が得られる。
表面処理を施す方法としては、膜接着剤層用組成物の材質等に応じて適宜選択され、例えば、プラズマ窒化処理、極端紫外線照射処理等が挙げられる。
【0134】
(2)第1変形例
(2.1)ペリクル
第1変形例に係るペリクルは、ペリクル枠と、ペリクル膜と、粘着層とを備える。前記ペリクル膜は、ペリクル膜側端面に支持されている。前記粘着層は、粘着層側端面に設けられている。前記粘着層の表面のうち内壁面及び外壁面の少なくとも一方は、上記式(2)を満たすものでもよい。
第1変形例に係るペリクルは、上記の構成を有するので、上述したように、アウトガスの発生を抑制することができる。
【0135】
第1変形例に係るペリクルの構成は、粘着層が異なる他は、第1実施形態と同様の構成である。本開示の第1変形例の記載は、本開示の第1実施形態の記載を援用できる。
以下、
図1を参照して、第1変形例に係るペリクル10について説明する。以下、第1変形例に係るペリクル10について、第1実施形態に係るペリクル10と同様の説明は省略する場合がある。
【0136】
第1変形例に係るペリクル10は、第1実施形態と同様に、ペリクル枠11と、ペリクル膜12と、粘着層13とを備える。
【0137】
(2.1.1)粘着層
(2.1.1.1)CNO-の変化割合
(2.1.1.1.1)[CNO-
2s]
第1変形例では、内壁面S13A等は、上記式(2)を満たす。
内壁面S13A等は、式(2)を満たすことで、上述したように、アウトガスの発生を抑制することができる。
([CNO-
2s]/[CNO-
50s])の上限及び下限、[CNO-
2s]、[CN-
2s]、並びに内壁面S13A等が式(2)を満たすようにする方法は、第1実施形態と同様である。
【0138】
(2.1.1.1.2)[CNO-
6s]
第1変形例では、内壁面S13A等は、上記式(4)を満たすことが好ましい。
内壁面S13A等は、上記式(4)を満たすことで、上述したように、アウトガスの発生を抑制することができる。
([CNO-
6s]/[CNO-
50s])の上限及び下限、及び内壁面S13A等が式(4)を満たすようにする方法は、第1実施形態と同様である。
【0139】
(2.1.1.2)Aの変化割合
第1変形例では、内壁面S13A等は、上記式(1)を満たすことが好ましい。
内壁面S13A等は、式(1)を満たすことで、上述したように、アウトガスが発生しにくい。
([A2s]/[A50s])の上限及び下限は、第1実施形態と同様である。
【0140】
第1変形例では、TOF-SIMSで分析される粘着層13の主剤成分に含まれる部分構造は、第1実施形態と同様に、C3H3О+、C7H7
+、又はCH3Si+であることが好ましい。
TOF-SIMSで分析される粘着層13の主剤成分に含まれる部分構造は、第1実施形態と同様にして決定することができる。
【0141】
内壁面S13A等が式(1)を満たすようにする方法としては、第1実施形態と同様である。
第1変形例では、第1実施形態と同様に、粘着層13の内壁面S13A及び外壁面S13Bの一方のみが式(1)を満たしてもよいし、粘着層13の内壁面S13A及び外壁面S13Bが式(1)を満たしてもよく、内壁面S13A及び外壁面S13Bが式(1)を満たすことが好ましい。
【0142】
(2.1.1.3)CN-の変化割合
第1変形例では、内壁面S13A等は、上記式(3)を満たすことが好ましい。
内壁面S13A等が式(3)を満たすことは、粘着層13の表層が窒素官能基に由来する化合物に改質されていることを示し、窒素官能基に由来する化合物は、炭化水素の固定化(高沸点化)に寄与し、あるいは、粘着層13内部からのガスの透過を阻害するガスバリア膜となる。そのため、アウトガスの発生は抑制され得る。
([CN-
2s]/[CN-
50s])の上限及び下限、及び内壁面S13A等が式(3)を満たすようにする方法は、第1実施形態と同様である。
【0143】
(2.1.1.4)C3
-の変化割合
第1変形例では、内壁面S13A等は、上記式(5)を満たすことが好ましい。
内壁面S13A等が式(5)を満たすことで、上述したように、粘着層内部からのガスの透過を抑制できる。
([C3
-
2s]/[C3
-
50s])の上限及び下限、並びに内壁面S13A等が式(5)を満たすようにする方法は、第1実施形態と同様である。
【0144】
([C2HO-
2s]/[C2HO-
50s])の上限は、第1実施形態と同様である。
【0145】
(2.1.1.5)窒素原子濃度
第1変形例では、内壁面S13A等の表面S13の窒素原子濃度は、1.0at%以上であることが好ましい。
窒素原子濃度の好ましい範囲、及び窒素原子濃度の測定方法は、第1実施形態と同様である。
【0146】
(2.1.1.6)炭素原子濃度
第1変形例では、内壁面S13A等の表面S13の炭素原子濃度は、35at%以上であることが好ましい。
炭素原子濃度の好ましい範囲、及び炭素原子濃度の測定方法は、第1実施形態と同様である。
【0147】
(2.1.2)粘着層のサイズ等
第1変形例において、粘着層13のサイズ、ペリクル枠11、及びペリクル膜12は、第1実施形態と同様である。
【0148】
(2.2)露光原版
第1変形例に係る露光原版は、原版と、第1変形例に係るペリクル10とを備える。原版は、パターンを有する。第1変形例に係るペリクル10は、パターンが形成されている面に原版に貼着されている。
第1変形例に係る露光原版は、第1変形例に係るペリクル10を備えるので、第1変形例に係るペリクル10と同様の効果を奏する。
第1変形例に係る装着方法、及び原版は、第1実施形態と同様である。
【0149】
(2.3)露光装置
第1変形例に係る露光装置は、EUV光源と、第1変形例に係る露光原版と、光学系とを備える。EUV光源は、露光光としてEUV光を放出する。光学系は、EUV光源から放出された露光光を露光原版に導く。露光原版は、EUV光源から放出された露光光がペリクル膜を透過して原版に照射されるように配置されている。
このため、第1変形例に係る露光装置は、第1変形例に係る露光原版と同様の効果を奏する。更に、第1変形例に係る露光装置は、上記の構成を有するので、微細化されたパターン(例えば線幅32nm以下)を形成できることに加え、異物による解像不良が低減されたパターン露光を行うことができる。
EUV光源としては、公知のEUV光源を用いることができる。光学系としては、公知の光学系を用いることができる。
【0150】
(2.4)ペリクル膜の製造方法
第1変形例に係るペリクル膜の製造方法は、第1実施形態に係るペリクル膜の製造方法と同様である。これにより、内壁面S13A等が式(2)を満たすペリクル10が得られる。
【0151】
(3)第2変形例
(3.1)ペリクル
第2変形例に係るペリクルは、ペリクル枠と、ペリクル膜と、粘着層とを備える。前記ペリクル膜は、ペリクル膜側端面に支持されている。前記粘着層は、粘着層側端面に設けられている。前記粘着層の表面のうち内壁面及び外壁面の少なくとも一方は、上記式(5)を満たすものでもよい。
第2変形例に係るペリクルは、上記の構成を有するので、上述したように、アウトガスの発生を抑制することができる。更に、第2変形例に係るペリクルは、粘着層内部からのガスの透過を抑制することができる。
【0152】
第2変形例に係るペリクルの構成は、粘着層が異なる他は、第1実施形態と同様の構成である。本開示の第2変形例の記載は、本開示の第1実施形態の記載を援用できる。
以下、
図1を参照して、第2変形例に係るペリクル10について説明する。以下、第2変形例に係るペリクル10について、第1実施形態に係るペリクル10と同様の説明は省略する場合がある。
【0153】
第2変形例に係るペリクル10は、第1実施形態と同様に、ペリクル枠11と、ペリクル膜12と、粘着層13とを備える。
【0154】
(3.1.1)粘着層
(3.1.1.1)C3
-の変化割合
第2変形例では、内壁面S13A等は、上記式(5)を満たす。
内壁面S13A等が式(5)を満たすことで、上述したように、粘着層内部からのガスの透過を抑制できる。
([C3
-
2s]/[C3
-
50s])の上限及び下限、並びに内壁面S13A等が式(5)を満たすようにする方法は、第1実施形態と同様である。
【0155】
(3.1.1.2)Aの変化割合
第2変形例では、内壁面S13A等は、上記式(1)を満たすことが好ましい。
内壁面S13A等は、式(1)を満たすことで、上述したように、アウトガスが発生しにくい。
([A2s]/[A50s])の上限及び下限は、第1実施形態と同様である。
【0156】
第2変形例では、TOF-SIMSで分析される粘着層13の主剤成分に含まれる部分構造は、第1実施形態と同様に、C3H3О+、C7H7
+、又はCH3Si+であることが好ましい。
TOF-SIMSで分析される粘着層13の主剤成分に含まれる部分構造は、第1実施形態と同様にして決定することができる。
【0157】
内壁面S13A等が式(1)を満たすようにする方法としては、第1実施形態と同様である。
第2変形例では、第1実施形態と同様に、粘着層13の内壁面S13A及び外壁面S13Bの一方のみが式(1)を満たしてもよいし、粘着層13の内壁面S13A及び外壁面S13Bが式(1)を満たしてもよく、内壁面S13A及び外壁面S13Bが式(1)を満たすことが好ましい。
【0158】
(3.1.1.3)CNO-の変化割合
(3.1.1.3.1)[CNO-
2s]
第2変形例では、内壁面S13A等は、上記式(2)を満たす。
内壁面S13A等は、式(2)を満たすことで、上述したように、アウトガスの発生を抑制することができる。
([CNO-
2s]/[CNO-
50s])の上限及び下限、[CNO-
2s]、[CN-
2s]、並びに内壁面S13A等が式(2)を満たすようにする方法は、第1実施形態と同様である。
【0159】
(3.1.1.3.2)[CNO-
6s]
第2変形例では、内壁面S13A等は、上記式(4)を満たすことが好ましい。
内壁面S13A等は、上記式(4)を満たすことで、上述したように、アウトガスの発生を抑制することができる。
([CNO-
6s]/[CNO-
50s])の上限及び下限、及び内壁面S13A等が式(4)を満たすようにする方法は、第1実施形態と同様である。
【0160】
(3.1.1.4)CN-の変化割合
第2変形例では、内壁面S13A等は、上記式(3)を満たすことが好ましい。
内壁面S13A等が式(3)を満たすことは、粘着層13の表層が窒素官能基に由来する化合物に改質されていることを示し、窒素官能基に由来する化合物は、炭化水素の固定化(高沸点化)に寄与し、あるいは、粘着層13内部からのガスの透過を阻害するガスバリア膜となる。そのため、アウトガスの発生は抑制され得る。
([CN-
2s]/[CN-
50s])の上限及び下限、及び内壁面S13A等が式(3)を満たすようにする方法は、第1実施形態と同様である。
【0161】
([C2HO-
2s]/[C2HO-
50s])の上限は、第1実施形態と同様である。
【0162】
(3.1.1.5)窒素原子濃度
第2変形例では、内壁面S13A等の表面S13の窒素原子濃度は、1.0at%以上であることが好ましい。
窒素原子濃度の好ましい範囲、及び窒素原子濃度の測定方法は、第1実施形態と同様である。
【0163】
(3.1.1.6)炭素原子濃度
第2変形例では、内壁面S13A等の表面S13の炭素原子濃度は、35at%以上であることが好ましい。
炭素原子濃度の好ましい範囲、及び炭素原子濃度の測定方法は、第1実施形態と同様である。
【0164】
(3.1.2)粘着層のサイズ等
第2変形例において、粘着層13のサイズ、ペリクル枠11、及びペリクル膜12は、第1実施形態と同様である。
【0165】
(3.2)露光原版
第2変形例に係る露光原版は、原版と、第2変形例に係るペリクル10とを備える。原版は、パターンを有する。第2変形例に係るペリクル10は、パターンが形成されている面に原版に貼着されている。
第2変形例に係る露光原版は、第2変形例に係るペリクル10を備えるので、第2変形例に係るペリクル10と同様の効果を奏する。
第2変形例に係る装着方法、及び原版は、第1実施形態と同様である。
【0166】
(3.3)露光装置
第2変形例に係る露光装置は、EUV光源と、第2変形に係る露光原版と、光学系とを備える。EUV光源は、露光光としてEUV光を放出する。光学系は、EUV光源から放出された露光光を露光原版に導く。露光原版は、EUV光源から放出された露光光がペリクル膜を透過して原版に照射されるように配置されている。
このため、第2変形例に係る露光装置は、第2変形例に係る露光原版と同様の効果を奏する。更に、第2変形例に係る露光装置は、上記の構成を有するので、微細化されたパターン(例えば線幅32nm以下)を形成できることに加え、異物による解像不良が低減されたパターン露光を行うことができる。
EUV光源としては、公知のEUV光源を用いることができる。光学系としては、公知の光学系を用いることができる。
【0167】
(3.4)ペリクル膜の製造方法
第2変形例に係るペリクル膜の製造方法は、第1実施形態に係るペリクル膜の製造方法と同様である。これにより、内壁面S13A等が式(5)を満たすペリクル10が得られる。
【0168】
(4)第3変形例
(4.1)ペリクル
第3変形例に係るペリクルは、ペリクル枠と、ペリクル膜と、粘着層とを備える。前記ペリクル膜は、ペリクル膜側端面に支持されている。前記粘着層は、粘着層側端面に設けられている。前記粘着層の表面のうち内壁面及び外壁面の少なくとも一方は、上記式(3)を満たすものでもよい。
第3変形例に係るペリクルは、上記の構成を有するので、上述したように、アウトガスの発生を抑制することができる。更に、第3変形例に係るペリクルは、粘着層内部からのガスの透過を抑制することができる。
【0169】
第3変形例に係るペリクルの構成は、粘着層が異なる他は、第1実施形態と同様の構成である。本開示の第3変形例の記載は、本開示の第1実施形態の記載を援用できる。
以下、
図1を参照して、第2変形例に係るペリクル10について説明する。以下、第2変形例に係るペリクル10について、第1実施形態に係るペリクル10と同様の説明は省略する場合がある。
【0170】
第3変形例に係るペリクル10は、第1実施形態と同様に、ペリクル枠11と、ペリクル膜12と、粘着層13とを備える。
【0171】
(4.1.1)粘着層
(4.1.1.1)CN-の変化割合
第3変形例では、内壁面S13A等は、上記式(3)を満たす。
内壁面S13A等が式(3)を満たすことは、粘着層13の表層が窒素官能基に由来する化合物に改質されていることを示し、窒素官能基に由来する化合物は、炭化水素の固定化(高沸点化)に寄与し、あるいは、粘着層13内部からのガスの透過を阻害するガスバリア膜となる。そのため、アウトガスの発生は抑制され得る。
([CN-
2s]/[CN-
50s])の上限及び下限、及び内壁面S13A等が式(3)を満たすようにする方法は、第1実施形態と同様である。
【0172】
(4.1.1.2)Aの変化割合
第3変形例では、内壁面S13A等は、上記式(1)を満たすことが好ましい。
内壁面S13A等は、式(1)を満たすことで、上述したように、アウトガスが発生しにくい。
([A2s]/[A50s])の上限及び下限は、第1実施形態と同様である。
【0173】
第3変形例では、TOF-SIMSで分析される粘着層13の主剤成分に含まれる部分構造は、第1実施形態と同様に、C3H3О+、C7H7
+、又はCH3Si+であることが好ましい。
TOF-SIMSで分析される粘着層13の主剤成分に含まれる部分構造は、第1実施形態と同様にして決定することができる。
【0174】
内壁面S13A等が式(1)を満たすようにする方法としては、第1実施形態と同様である。
第3変形例では、第1実施形態と同様に、粘着層13の内壁面S13A及び外壁面S13Bの一方のみが式(1)を満たしてもよいし、粘着層13の内壁面S13A及び外壁面S13Bが式(1)を満たしてもよく、内壁面S13A及び外壁面S13Bが式(1)を満たすことが好ましい。
【0175】
(4.1.1.3)CNO-の変化割合
(4.1.1.3.1)[CNO-
2s]
第3変形例では、内壁面S13A等は、上記式(2)を満たす。
内壁面S13A等は、式(2)を満たすことで、上述したように、アウトガスの発生を抑制することができる。
([CNO-
2s]/[CNO-
50s])の上限及び下限、[CNO-
2s]、[CN-
2s]、並びに内壁面S13A等が式(2)を満たすようにする方法は、第1実施形態と同様である。
【0176】
(4.1.1.3.2)[CNO-
6s]
第3変形例では、内壁面S13A等は、上記式(4)を満たすことが好ましい。
内壁面S13A等は、上記式(4)を満たすことで、上述したように、アウトガスの発生を抑制することができる。
([CNO-
6s]/[CNO-
50s])の上限及び下限、及び内壁面S13A等が式(4)を満たすようにする方法は、第1実施形態と同様である。
【0177】
(4.1.1.5)C3
-の変化割合
第3変形例では、内壁面S13A等は、上記式(5)を満たすことが好ましい。
内壁面S13A等が式(5)を満たすことで、上述したように、粘着層内部からのガスの透過を抑制できる。
([C3
-
2s]/[C3
-
50s])の上限及び下限、並びに内壁面S13A等が式(5)を満たすようにする方法は、第1実施形態と同様である。
【0178】
([C2HO-
2s]/[C2HO-
50s])の上限は、第1実施形態と同様である。
【0179】
(4.1.1.6)窒素原子濃度
第3変形例では、内壁面S13A等の表面S13の窒素原子濃度は、1.0at%以上であることが好ましい。
窒素原子濃度の好ましい範囲、及び窒素原子濃度の測定方法は、第1実施形態と同様である。
【0180】
(4.1.1.7)炭素原子濃度
第3変形例では、内壁面S13A等の表面S13の炭素原子濃度は、35at%以上であることが好ましい。
炭素原子濃度の好ましい範囲、及び炭素原子濃度の測定方法は、第1実施形態と同様である。
【0181】
(4.1.2)粘着層のサイズ等
第3変形例において、粘着層13のサイズ、ペリクル枠11、及びペリクル膜12は、第1実施形態と同様である。
【0182】
(4.2)露光原版
第3変形例に係る露光原版は、原版と、第3変形例に係るペリクル10とを備える。原版は、パターンを有する。第3変形例に係るペリクル10は、パターンが形成されている面に原版に貼着されている。
第3変形例に係る露光原版は、第3変形例に係るペリクル10を備えるので、第3変形例に係るペリクル10と同様の効果を奏する。
第3変形例に係る装着方法、及び原版は、第1実施形態と同様である。
【0183】
(4.3)露光装置
第3変形例に係る露光装置は、EUV光源と、第2変形に係る露光原版と、光学系とを備える。EUV光源は、露光光としてEUV光を放出する。光学系は、EUV光源から放出された露光光を露光原版に導く。露光原版は、EUV光源から放出された露光光がペリクル膜を透過して原版に照射されるように配置されている。
このため、第3変形例に係る露光装置は、第3変形例に係る露光原版と同様の効果を奏する。更に、第3変形例に係る露光装置は、上記の構成を有するので、微細化されたパターン(例えば線幅32nm以下)を形成できることに加え、異物による解像不良が低減されたパターン露光を行うことができる。
EUV光源としては、公知のEUV光源を用いることができる。光学系としては、公知の光学系を用いることができる。
【0184】
(4.4)ペリクル膜の製造方法
第3変形例に係るペリクル膜の製造方法は、第1実施形態に係るペリクル膜の製造方法と同様である。これにより、内壁面S13A等が式(5)を満たすペリクル10が得られる。
【0185】
以上、図面を参照しながら本開示の実施形態を説明した。但し、本開示は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の厚み、長さ、個数等は、図面作成の都合上から実際とは異なる。上記の実施形態で示す各構成要素の材質や形状、寸法等は一例であって、特に限定されるものではなく、本開示の効果から実質的に逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0186】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、本開示の発明がこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0187】
[1]粘着剤の準備
下記の実施例及び比較例では、塗布組成物として、下記のようにして作製したAc系粘着剤1、Ac系粘着剤2、及びSBR系粘着剤を用いた。
【0188】
[1.1]Ac系粘着剤1の作製
Ac系粘着剤1の原料として、以下に示す各種成分を使用した。
<(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー>
・EA:アクリル酸エチル
・MMA:メタクリル酸メチル
<官能基含有モノマー>
・HEMA:メタクリル酸2-ヒドロキシエチル
・GMA:メタクリル酸グリシジル
<架橋剤>
・新日本理化株式会社製の「リカシッド MH-700G」
<重合溶媒>
・酢酸プロピル
<重合開始剤>
・AIBN:2、2’-アゾビスイソブチロニトリル(10時間半減期温度:65℃)
<触媒>
・アミン系触媒:サンアプロ株式会社製の「U-CAT SA-102」(化学式:(1,8-ジアザビシクロ-(5.4.0)ウンデセン-7)のオクチル酸塩)
【0189】
攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、及び窒素導入管を備えた反応容器を準備した。反応容器に重合溶媒(180質量部)を入れ、EA/MMA/HEMA/GMA/重合開始剤の混合物(423.4質量部)を378/21/12.6/8.4/3.4の質量比で仕込んだ。窒素雰囲気下中、この反応溶液を85℃で6時間、更に95℃で2時間反応させ、不揮発分(主剤)濃度70質量%のアクリル共重合体溶液を得た。
【0190】
得られたアクリル共重合体溶液(143質量部)に、架橋剤(0.28質量部)、触媒(0.93質量部)を添加し、攪拌混合して、Ac系粘着剤1の塗布組成物を得た。
【0191】
[(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定]
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を測定するために用いたGPCの各条件は、以下の通りである。
<GPCの条件>
ポンプ :株式会社島津製作所製の「LC-10AD」
オーブン :株式会社島津製作所製の「CT020A」
検出器 :昭和電工株式会社製の 「RI-101」
データ処理ソフト:Waters社製の「Empower3」
GPCカラム :アジレント・テクノロジー株式会社製の「PLgel MIXED-B」(7.5×300mm)×2本
カラム温度 :40℃
溶出溶媒 :テトラヒドロフラン
流量 :1.0mL/分
試料濃度 :0.1%(w/v)
試料注入量 :100μL
標準物質 :単分散ポリスチレン
【0192】
[1.2]Ac系粘着剤2の作製
Ac系粘着剤2の原料として、以下に示す各種成分を使用した。
<(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー>
・EA:アクリル酸エチル
<官能基含有モノマー>
・4-HBA:アクリル酸4-ヒドロキシブチル
・HEMA:メタクリル酸2-ヒドロキシエチル
・GMA:メタクリル酸グリシジル
<架橋剤>
・新日本理化株式会社製の「リカシッド MH-700G」
<重合溶媒>
・酢酸プロピル
<重合開始剤>
・AIBN:2、2’-アゾビスイソブチロニトリル(10時間半減期温度:60℃)
<触媒>
・アミン系触媒:サンアプロ株式会社製の「U-CAT SA-102」(化学式:(1,8-ジアザビシクロ-(5.4.0)ウンデセン-7)のオクチル酸塩)
【0193】
攪拌機、温度計、還流冷却器、滴下装置、及び窒素導入管を備えた反応容器を準備した。反応容器に重合溶媒(180質量部)を入れ、EA/4-HBA/HEMA/GMA/重合開始剤の混合物(423.4質量部)を378/12.6/21/8.4/3.4の質量比で仕込んだ。窒素雰囲気下中、この反応溶液を85℃で6時間、更に95℃で2時間反応させ、不揮発分(主剤)濃度70質量%のアクリル共重合体溶液を得た(重量平均分子量:11.9万、数平均分子量(Mn):30,600、Mw/Mn:3.9)。
【0194】
得られたアクリル共重合体溶液(143質量部)に、架橋剤(0.28質量部)、触媒(0.93質量部)を添加し、攪拌混合して、Ac系粘着剤2の塗布組成物を得た。
【0195】
[1.3]SBR系粘着剤の作製
SBR系粘着剤を次のようにして作製した。
【0196】
SBR系粘着剤の原料として、以下に示す各種成分を使用した。
<熱可塑性エラストマー(A)>
・H-SIS:スチレン-水素添加イソプレン-スチレンブロック共重合体(商品名「ハイブラー7125」(株式会社クラレ製))
<粘着付与樹脂(B)>
・脂環族系石油樹脂の水素化物:C9系水素添加石油樹脂(商品名「アルコンP-100」(荒川化学工業株式会社製))
<軟化剤>
・パラフィン系鉱物油(商品名「ネオバックMR-200」(MORESCO社製))
【0197】
熱可塑性エラストマー(A) 100質量部、粘着付与樹脂(B) 100質量部、及び軟化剤 60質量部を全体で48gとなるように混合して原料混合物を得た。得られた原料混合物をラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所製、内容量:60mL)に投入した後、密閉した。200℃、100rpmで20分間混練して、塊状の塗布組成物を得た。約10gの塊状の塗布組成物を加熱タンク(タンク内温度:200℃)に投入して溶融させた。これにより、SBR系粘着剤の塗布組成物を得た。
【0198】
[1.4]シリコーン系粘着剤
シリコーン系粘着剤として、シリコーンゴムシート(タイガースポリマー株式会社製、「T-809」(入手当時の型番))を準備した。
【0199】
[2]実施例1
溶媒にシングルウォールカーボンナノチューブ(名城ナノカーボン株式会社製)を分散させた分散液を調製した。分散液をシリコン基板上にスピンコートし、乾燥することで、シリコン基板上にカーボンナノチューブの極薄膜(以下、「CNT膜」ともいう)を形成した。
次に、このシリコン基板を純水で満たした水槽中に静かに沈めてCNT膜を単膜としてシリコン基板から遊離させ、水面に浮上させ、ペリクル枠の外寸よりも一回り大きなダミー枠(外寸171mm×138.5mm、内寸163mm×130.5mm、厚み2.0mm)にCNT膜をすくい取って乾燥した。
ペリクル枠として、アルミニウムフレーム(外寸151mm×118.5mm、内寸143mm×110.5mm、高さ2.0mm)を準備した。
塗布組成物として、Ac系粘着剤1の塗布組成物を用いた。
ペリクル枠の粘着層側端面に、Ac系粘着剤1の塗布組成物を塗工し、100℃で加熱して乾燥させ、120℃加熱することで塗布組成物を硬化させ、粘着層前駆体(粘着性組成物)を得た。粘着層前駆体の内壁面及び外壁面に、後述するEUV照射処理と同じ条件で、EUV照射処理を施した。これにより、粘着層を形成した。
ダミー枠にすくい取られたCNT膜のうち、皺のない部分をダミー枠より一回り小さなペリクル枠に転写することで、皺のないペリクル膜をペリクル枠のペリクル膜側端面上に配置した。これにより、ペリクルを得た。
【0200】
得られたペリクルのTOF-SIMSによる深さ方向分析及びアウトガス発生量の分析は、後述するEUV照射処理済品で代用した。
【0201】
[2.1]EUV照射処理済品の作製
EUV照射処理済品は、以下のようにして作製した。
【0202】
8インチサイズのシリコンウェハ(以下、「シリコン基板」ともいう。)を準備した。
シリコン基板上に、Ac系粘着剤1の塗布組成物を塗工し、100℃で加熱して乾燥させ、120℃で加熱することで塗布組成物を硬化させ、粘着層を形成した。これにより、EUV照射処理前品を得た。粘着層のサイズは、幅3mm、長さ6mm、厚さ0.2mmであった。
【0203】
[2.2]EUV照射処理、及びアウトガス発生量の分析
EUV照射装置(施設名:ニュースバル放射光施設、ビームライン:「BL-9C_H-ch」、運営:兵庫県立大学高度産業科学技術研究)、四重極型質量分析計:キャノンアネルバ株式会社製の「M-200」)を用いて、下記のようにして、EUV照射処理前品にEUV照射処理を施した。
【0204】
[2.2.1]EUV照射処理
EUV照射処理前品をEUV照射装置の露光チャンバー内に挿入した。
EUV照射処理前品にEUV(波長:13.5nm)を照射した。EUVの照射強度は、0.3W/cm2、ビームサイズは2×0.5mmであった。EUVの照射時間は、10分間であった。粘着層の表面のうちEUVが照射された領域(以下、「EUV照射処理済領域」ともいう。)の面積は、0.2mm×2.4mmであった。これにより、EUV照射処理済品を得た。
【0205】
[2.2.2]アウトガス発生量(ガラス基板なし)の分析
EUV照射処理済品の水系、揮発性炭化水素系、及び不揮発性炭化水素系の各々のアウトガス発生量(ガラス基板なし)を、次のようにして求めた。
【0206】
[2.2.2.1]チャンバーバックグラウンドの分圧測定
まず、露光チャンバー内のサンプルホルダーにEUV処理済品を入れない状態(すなわち、空の状態)で、十分に真空度が高まった時(チャンバー内圧力が1×10-6Pa以下となった時)の測定質量ごとの第1イオン電流値を測定した。以下、十分に真空度が高まった時の圧力を「第1圧力」ともいう。第1圧力を測定質量1~200の第1イオン電流値に振り分けることで、バックグラウンドの測定質量ごとの分圧(BG1~BG200)を算出した。例えば、分圧BG1は、分子量1(m/z=1)のチャンバーバックグラウンドの分圧を示し、分圧BG200は、分子量200(m/z=200)のチャンバーバックグランドの分圧を示す。
詳しくは、分子量n(m/z=n)の分圧(BGn)を下記式により算出した。nは、1~200の自然数を示す。
分圧(BGn)=第1圧力×(分子量nの第1イオン電流値/(分子量1~200の第1イオン電流値の総和))
【0207】
[2.2.2.2]EUV処理済品を配置したときの分圧測定
次に、露光チャンバー内のサンプルホルダーにEUV処理済品を入れた状態で、EUV照射強度が0.3W/cm2、ビームサイズは2×0.5mmのEUV光をEUV処理済品に照射した。EUV光の照射を開始した時点から10分経過した時点において、EUV光をEUV処理済品に照射しながら、第2圧力を測定した。同時に、露光チャンバーに接続された四重極型質量計を用いて、測定質量ごとの第2イオン電流値を測定した。第2圧力を測定質量に対応する(マスナンバーに対応する)第2イオン電流値から、EUV処理済品を配置したときの測定質量に対応する分圧(A1~A200)に変換した。例えば、分圧A1は、m/z=1(分子量1に相当)の分圧を示し、分圧A200は、m/z=200(分子量200に相当)の分圧を示す。
詳しくは、m/z=n(分子量nに相当)の分圧(An)を下記式により算出した。nは、1~200の自然数を示す。
分圧(An)=第2圧力×(m/z=nの第2イオン電流値/(m/z=1~200に相当する第2イオン電流値の総和))
【0208】
[2.2.2.3]正味分圧の算出
測定質量ごとに、EUV処理済品を配置したときの分圧(A1~A200)からチャンバーバックグラウンドの分圧(BG1~BG200)を差し引き、測定質量ごとの正味分圧(S1~S200)を算出した。
詳しくは、m/z=nの正味分圧(Sn)を下記式により算出した。nは、1~200の自然数を示す。
正味分圧(Sn)=分圧(An)-分圧(BGn)
【0209】
[2.2.2.4]チャンバー実効排気速度Vの測定方法
真空チャンバー内に0.1sccm(=0.17Pa・L/s)の窒素を導入し、ポンプ排気を行った。真空チャンバー内の圧力が安定しているとき(すなわち、真空チャンバー内の圧力の変動が少ないとき)の圧力は6e-4Paであった。この値から求めたチャンバー実効排気速度は、約3×102L/sec(=0.17/6e-4L/sec)と見積もられた。
【0210】
[2.2.2.5]アウトガス発生量(ガラス基板なし)の算出
チャンバー実効排気速度V(L/sec)として、上記正味分圧(Sn)及び上記チャンバー実効排気速度(V)を用いて、Sn×V(Pa・L/sec)の関係式から、測定質量ごとのアウトガス発生量を算出した。
測定質量ごとのガス発生量から、水系(16amu、17amu、18amu)、揮発性炭化水素系(45amu~100amu)、不揮発性炭化水素系(101amu~200amu)の各々の割合を算出した。算出した割合を積算することで、水系のアウトガス発生量、揮発性炭化水素系のアウトガス発生量、及び不揮発性炭化水素系のアウトガス発生量の各々を算出した。
アウトガス発生量(ガラス基板なし)の分析結果を表1に示す。
【0211】
[2.2.3]TOF-SIMSによる深さ方向分析
飛行時間型二次イオン質量分析装置(アルバック・ファイ株式会社社製、品番:「PHI nanoTOF II」、コンポーネント:Ar-GCIB)を用いて、粘着層の所定領域の深さ方向分析を行った。実施例1では、所定領域は、EUV照射処理済領域の一部分を示す。
【0212】
具体的に、まず、下記の分析条件で、所定領域の分析を行った。
次いで、下記のエッチング条件で、所定領域をスパッタイオン銃(Ar-GCIB)で2秒間照射し、下記の分析条件で、所定領域に形成された深部の分析を行う操作(以下、「第1操作」ともいう。)を行った。その後、第1操作を9回繰り返し行った。所定領域に対するスパッタイオン銃(Ar-GCIB)の照射時間は、累計で20秒であった。
次いで、下記のエッチング条件で、所定領域をスパッタイオン銃(Ar-GCIB)で5秒間照射し、下記の分析条件で、所定領域に形成された深部の分析を行う操作(以下、「第2操作」ともいう。)を行った。その後、第2操作を9回繰り返し行った。所定領域に対するスパッタイオン銃(Ar-GCIB)の照射時間は、累計70秒であった。
【0213】
スパッタイオン銃(Ar-GCIB)を所定領域に累計2秒間照射して形成された第1深部の分析結果と、スパッタイオン銃(Ar-GCIB)を所定領域に累計50秒間照射して形成された第2深部の分析結果と、スパッタイオン銃(Ar-GCIB)を所定領域に累計6秒間照射して形成された第3深部の分析結果とを表1に示す。
エッチングレートから算出された第1深部の表面からの深さは、約16nmであった。エッチングレートから算出された第2深部の表面からの深さは、約400nmであった。エッチングレートから算出された第3深部の表面からの深さは、約48nmであった。
【0214】
<TOF-SIMSによる分析条件>
・一次イオン源 :Bi3
++
・二次イオンの極性:正及び負
・分析領域 :100μm×100μm
【0215】
<スパッタイオン銃(Ar-GCIB)によるエッチング条件>
・ビーム電圧 :20kV
・ビーム電流 :20nA(Sample Current:約20nA)
・ラスター範囲 :600μm×600μm
【0216】
[2.2.4]炭素原子濃度の分析
EUV照射処理済品の炭素原子濃度を、上述の方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0217】
[3]比較例1
粘着層前駆体の内壁面及び外壁面にEUV照射処理を施さなかったことの他は、実施例1と同様にして、ペリクルを得た。
得られたペリクルのTOF-SIMSによる深さ方向分析及びアウトガス発生量の分析は、実施例1と同様にして作製したEUV照射処理前品で代用した。
【0218】
実施例1と同様にして、EUV照射処理前品を得た。
EUV照射処理前品について、実施例1と同様にして、粘着層の所定領域の深さ方向分析を行った。比較例1では、所定領域は、粘着層の表面の一部分を示す。
次いで、EUV照射処理前品について、EUVを照射しなかったこと以外は実施例1と同様にして、アウトガス発生量(ガラス基板なし)の分析、及び炭素原子濃度の分析を行った。
分析結果を、表1に示す。
【0219】
[4]実施例2
粘着性組成物としてAc系粘着剤1の代わりにAc系粘着剤2を用いたこと、粘着層前駆体の内壁面及び外壁面にEUV照射処理の代わりに後述するプラズマ窒化処理を施したことの他は、実施例1と同様にして、ペリクルを得た。
【0220】
得られたペリクルのTOF-SIMSによる深さ方向分析及びアウトガス発生量の分析は、後述するプラズマ窒化処理済品で代用した。
【0221】
[4.1]プラズマ窒化処理済品
プラズマ窒化処理済品は、以下のようにして作製した。
【0222】
ペリクル枠として、下記のステンレス製のペリクルフレームを用いた。
ペリクルフレームは、長方形筒状物であった。ペリクルフレームの外寸は、149mm×122mmであった。ペリクルフレームの枠高さ(
図1の符号L3に対応)は、2mmであった。ペリクルフレームの枠幅(
図1の符号L4に対応)は、4mmであった。
【0223】
ペリクル枠の粘着層側端面に、Ac系粘着剤2の塗布組成物を塗工し、100℃で加熱して乾燥させ、120℃で加熱することで塗布組成物を硬化させ、粘着層を形成した。これにより、プラズマ窒化処理前品を得た。
粘着層の原版への接着部分(
図1の符号S13Cに対応)に接着剤保護用フィルム(以下、「ライナー」ともいう。)を貼り付けた。内壁面及び外壁面は露出した状態にした。
TOF-SIMS測定用に、ライナーを張り付けた原版への接着部分の全幅、長さ5mmの範囲のライナーの一部を除去し、粘着層の原版への接着部分の一部(以下、「接着剤平坦部」ともいう。)を露出させた。
【0224】
[4.1.1]プラズマ窒化処理
プラズマ処理装置(芝浦メカトロニクス株式会社製の研究開発用スパッタリング装置「CFS-4EP-LL」、タイプ:ロードロック式タイプ)を用いて、接着剤平坦部にプラズマ窒化処理を施した。
詳しくは、プラズマ窒化処理前品を金属製ホルダーに固定して、プラズマ処理装置のロードロック室にセットした。ロードロック室内の真空引きを行い、ロードロック室内の真空度を1.0×10-3Pa以下にした。プラズマ窒化処理前品をロードロック室内からプラズマ処理室内に搬送した。プラズマ処理室内の真空引きを行い、プラズマ処理室内の真空度を2.0×10-4Pa以下にした。プラズマ処理室内に窒素ガスを導入し、プラズマ処理室内の圧力を調整した。
RF電力を印加して、下記の処理条件で、プラズマ窒化処理前品のライナーで覆われていない露出部位を窒素ガスのプラズマに曝して、プラズマ窒化処理済品を得た。プラズマ処理室内を真空排気し、プラズマ窒化処理済品をロードロック室に搬出した。ロードロック室内の窒素ガスでベント操作を行い、大気に開放し、ロードロック室内からプラズマ窒化処理済品を取り出した。
【0225】
<プラズマ窒化処理の処理条件>
・材料ガス:N2(G1グレード)
・ガス流量:21sccm
・処理圧力:0.5Pa
・RF電力:100W(逆スパッタモード:サンプルホルダーに印加。)
・処理時間:60秒
【0226】
[4.2]TOF-SIMSによる深さ方向分析
実施例1と同様にして、プラズマ窒化処理済品の粘着層の所定領域の深さ方向分析を行った。実施例2では、所定領域は、接着剤平坦部を示す。なお、実施例2のTOF-SIMSによる分析では、プラズマ窒化処理済品から接着剤平坦部をペリクル枠ごと切り出して得られたサンプルを分析した。
分析結果を表1に示す。
【0227】
[4.3]アウトガス発生量(ガラス基板なし)の分析
四重極型質量分析装置(アペックス社製の「APL200」、四重極型質量分析計(QMS):キャノンアネルバ株式会社製の「M201QA-TDM」、ソフトウェア:「Quad Vision 3」)を用いて、H2O(m/z=16~18)、及び炭化水素(CxHy)(m/z=45~200)の各成分からなるアウトガス発生量(ガラス基板なし)を分析した。
アウトガス発生量(ガラス基板なし)は、第1アウトガス発生量からバックグランドとしての第2アウトガス発生量を差し引いて求めた。第1アウトガス発生量は、真空チャンバー内にプラズマ窒化処理済品を配置した状態で得られるガス発生量を示す。第2アウトガス発生量は、真空チャンバー内にプラズマ窒化処理済品を配置していない状態で得られるガス発生量を示す。
【0228】
[4.3.1]第1アウトガス発生量の測定
プラズマ窒化処理済品からライナーを剥がして、測定品を得た。測定品を四重極型質量分析装置のロードロック室にセットしてある8インチサイズのシリコンウェハーの上に設置した。ロータリーポンプでロードロック室内の粗引きをした。ターボ分子ポンプを用いて、ロードロック室内の真空引きを10分間行い、ロードロック室内の真空度を1.0×10-3Pa以下にした。測定品をロードロック室内から、ゲートバルブを通して、ターボ分子ポンプを用いて、1.0×10-6Pa以下に真空引きされた四重極型質量分析装置の真空チャンバー内に搬送した。
搬送を終了した時点から15分後に、真空チャンバー内のガス成分を四重極型質量分析計で分析した。これにより、アウトガスの各「m/z」の電流値(A)を得た。フィラメントのヒーター電流は2.0mA、四重極型質量分析計のSEM(二次電子増倍管)電圧は1500Vとした。真空チャンバー内基板ステージの温度は、28℃であった。
【0229】
アウトガスの各成分(m/z)の圧力を下記に示すように算出した。
四重極型質量分析計の分析時の真空チャンバー内の圧力(Pa)に各成分(m/z)の電流値割合を乗じて得られた圧力を、アウトガスの各成分(m/z)の圧力(Pa)とした。各成分(m/z)の電流値割合は、「m/z」=1~200の電流値(A)の積分値に対する各成分(m/z)の電流値(A)の割合を示す。
【0230】
真空チャンバー内の排気速度を下記に示すように算出した。
排気速度の値は、N2流量に対して、真空チャンバーとの搬送バルブを開けて真空チャンバー内の圧力が安定した時の(すなわち、真空チャンバー内の圧力の変動が少ない時の)圧力(Pa)で割った値から計算した。N2流量は、最初にロードロック室の排気バルブ、及び真空チャンバーの搬送バルブを閉じた状態で、スローリークVentバルブをわずかに開けた時のN2圧力上昇速度(Pa/sec)にロードロック室の容量(10L)との積で求めた。
排気速度の算出結果は、180L/secであった。
【0231】
各成分(m/z)の第1アウトガス発生量(0.01mbar・L/sec)は、下記式で示すように、アウトガスの各成分(m/z)の圧力(Pa)に、真空チャンバー内の排気速度(L/sec)との積を求めて100で除して算出した。
【0232】
各成分(m/z)の第1アウトガス発生量(mbar・L/sec)={四重極型質量分析計の分析時の真空チャンバー内の圧力(Pa)/100(mbar)}×{特定の成分(m/z)に対する電流値(A)/Σ電流値(m/z=1~200)(A)}×排気速度(180L/sec)
【0233】
以上のようにして、プラズマ窒化処理済品における、H2O(m/z=16~18)の第1アウトガス発生量と、炭化水素(CxHy)(m/z=45~100)の第1アウトガス発生量と、炭化水素(CxHy)(m/z=101~200)の第1アウトガス発生量とを、算出した。
【0234】
[4.3.2]第2アウトガス発生量の測定
測定品を四重極型質量分析装置のロードロック室にセットしてある8インチサイズのシリコンウェハーの上に設置しない他は、<第1アウトガス発生量の測定>と同様にして、H2O(m/z=16~18)の第2アウトガス発生量と、炭化水素(CxHy)(m/z=45~100)の第2アウトガス発生量と、炭化水素(CxHy)(m/z=101~200)の第2アウトガス発生量とを、算出した。
【0235】
[4.3.3]アウトガス発生量(ガラス基板なし)の算出
H2O(m/z=16~18)、炭化水素(CxHy)(m/z=45~100)、及び炭化水素(CxHy)(m/z=101~200)の各々について、第1アウトガス発生量から第2ガス発生量を差し引いた値に排気速度を乗算することでアウトガス発生量(ガラス基板なし)を求めた。
これらの分析結果を表1に示す。
【0236】
[4.4]炭素原子濃度の分析
プラズマ窒化処理済品の炭素原子濃度を、上述の方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0237】
[5]実施例3
プラズマ窒化処理の前に脱水処理を施したことの他は、実施例2と同様にして、ペリクルを得た。粘着層の原版への接着部分(
図1の符号S13Cに対応)の幅より少し細い幅(2.5mm)の接着剤保護用フィルム(以下、「ライナー」ともいう。)を貼り付けた。内壁面及び外壁面は露出した状態にした。XPS分析、TOF-SIMS分析を行うため、ライナーを張り付けた原版への接着部分の全幅、長さ5mmの範囲のライナーの一部を除去し、粘着層の原版への接着部分の一部(以下、「接着剤平坦部」ともいう。)を露出させて、脱水処理前品を得た。
脱水処理前品を金属製ホルダーに固定して、プラズマ処理装置のロードロック室にセットした。ロードロック室内の真空引きを行い、ロードロック室内の真空度を5.0×10
-4Pa以下にして1時間保管した。その後、ロードロック室内に大気圧となるよう窒素ガスを封入して5分間保管した。前記の真空引きと窒素ガス封入を2回ずつ処理することで、脱水処理済品を得た。
【0238】
[5.1.2]プラズマ窒化処理
次いで、脱水処理済品を真空チャンバー内にセットしたまま。真空引きを行い、プラズマ処理室内の真空度を2.0×10-4Pa以下にして、2時間保持した。プラズマ処理室内に窒素ガスを5分間導入し、プラズマ処理室内の圧力を調整した。
下記の処理条件で、脱水処理済品の粘着層を窒素ガスのプラズマに曝して、プラズマ窒化処理済品を得た。プラズマ処理室内を真空排気し、プラズマ窒化処理済品をロードロック室に搬出した。ロードロック室内の窒素ガスでベント操作を行い、大気に開放し、ロードロック室内からプラズマ窒化処理済品を取り出した。
【0239】
<プラズマ窒化処理の処理条件>
ガス :N2、
ガス流量:100sccm
処理圧力:20Pa
RF電力(13.56MHz):100W
処理時間:60秒
【0240】
[5.2]分析
プラズマ窒化処理済品について、実施例2と同様にして、粘着層の所定領域の深さ方向分析、アウトガス発生量(ガラス基板なし)、及び炭素原子濃度の分析を行った。実施例3では、所定領域は、粘着層の表面の一部分を示す。分析結果を、表1に示す。
【0241】
[6]比較例2
粘着層前駆体の内壁面及び外壁面にプラズマ窒化処理を施さなかったことの他は、実施例2と同様にして、ペリクルを得た。
得られたペリクルのTOF-SIMSによる深さ方向分析及びアウトガス発生量の分析は、後述するプラズマ窒化処理前品で代用した。
【0242】
プラズマ窒化処理を施さなかったことの他は、実施例2と同様にして、プラズマ窒化処理前品を得た。
プラズマ窒化処理前品について、実施例2と同様にして、粘着層の所定領域の深さ方向分析、アウトガス発生量(ガラス基板なし)、及び炭素原子濃度の分析を行った。比較例2では、所定領域は、粘着層の表面の一部分を示す。分析結果を、表1に示す。
【0243】
[7]実施例4
粘着性樹脂組成物としてAc系粘着剤2の代わりにSBR系粘着剤を用いたことの他は実施例2と同様にして、ペリクルを得た。
得られたペリクルのTOF-SIMSによる深さ方向分析及びアウトガス発生量の分析は、後述するプラズマ窒化処理済品で代用した。
【0244】
Ac系粘着剤2の塗布組成物の代わりにSBR系粘着剤の塗布組成物を用いたことの他は、実施例2と同様にして、プラズマ窒化処理、TOF-SIMSによる深さ方向分析、アウトガス発生量(ガラス基板なし)の分析、及び炭素原子濃度の分析を行った。分析結果を表1に示す。
【0245】
[8]比較例3
粘着層前駆体の内壁面及び外壁面にプラズマ窒化処理を施さなかったことの他は、実施例4と同様にして、ペリクルを得た。
得られたペリクルのTOF-SIMSによる深さ方向分析及びアウトガス発生量の分析は、後述するプラズマ窒化処理前品で代用した。
【0246】
プラズマ窒化処理を施さなかったことの他は、実施例4と同様にして、プラズマ窒化処理前品を得た。
プラズマ窒化処理前品について、実施例4と同様にして、粘着層の所定領域の深さ方向分析、アウトガス発生量(ガラス基板なし)の分析、及び炭素原子濃度の分析を行った。比較例3では、所定領域は、粘着層の表面の一部分を示す。分析結果を、表1に示す。
【0247】
[9]実施例5
粘着性樹脂組成物としてAc系粘着剤2の代わりにシリコーン系粘着剤を用いたことの他は実施例2と同様にして、ペリクルを得た。
得られたペリクルのTOF-SIMSによる深さ方向分析及びアウトガス発生量の分析は、後述するプラズマ窒化処理済品で代用した。
【0248】
Ac系粘着剤2の塗布組成物の代わりにシリコーン系粘着剤の塗布組成物を用いたことの他は、実施例2と同様にして、プラズマ窒化処理、TOF-SIMSによる深さ方向分析、アウトガス発生量(ガラス基板なし)の分析、及び炭素原子濃度の分析を行った。分析結果を表1に示す。
【0249】
[10]実施例6
粘着性樹脂組成物としてAc系粘着剤2の代わりにシリコーン系粘着剤を用いたことの他は実施例3と同様にして、ペリクルを得た。
得られたペリクルのTOF-SIMSによる深さ方向分析及びアウトガス発生量の分析は、後述するダブル処理済品で代用した。
【0250】
Ac系粘着剤2の塗布組成物の代わりにシリコーン系粘着剤の塗布組成物を用いたことの他は、実施例3と同様にして、プラズマ窒化処理、TOF-SIMSによる深さ方向分析、アウトガス発生量(ガラス基板なし)の分析、及び炭素原子濃度の分析を行った。分析結果を表1に示す。
【0251】
[11]比較例4
粘着性樹脂組成物としてAc系粘着剤2の代わりにシリコーン系粘着剤を用いたことの他は比較例2と同様にして、ペリクルを得た。
得られたペリクルのTOF-SIMSによる深さ方向分析及びアウトガス発生量の分析は、後述するプラズマ窒化処理前品で代用した。
【0252】
Ac系粘着剤2の塗布組成物の代わりにシリコーン系粘着剤の塗布組成物を用いたことの他は、比較例2と同様にして、プラズマ窒化処理前品を得た。
プラズマ窒化処理前品について、比較例2と同様にして、粘着層の所定領域の深さ方向分析、アウトガス発生量(ガラス基板なし)、及び炭素原子濃度の分析を行った。分析結果を、表1に示す。
【0253】
【0254】
表1中、深さ方向分析(TOF-SIMS)の項目における二次イオンは、第1深部と第2深部において、TOF-SIMSで分析された複数の二次イオンのうち、比較的強度が高い成分又は規格化強度変化が大きい部分構造である。
表1中、「アウトガス発生量の分析(QMS)」は、四重極型質量分析計によるアウトガス発生量の分析結果を示す。
表1中、[CNO-
1s]とは、粘着層13の表面S13からの深さが第4深さの第4深部をTOF-SIMSで、1次イオン銃を用いて分析したCNO-の規格化強度を示す。第4深さは、前記表面の600μm四方の区域に対して、スパッタイオン銃(Ar-GCIB)を累計1秒間照射することで形成される。
表1中、[CN-
1s]とは、前記第4深部をTOF-SIMSで、1次イオン銃を用いて分析したCN-の規格化強度を示す。
【0255】
実施例と比較例を比較すると、EUV照射処理またはプラズマ窒化処理を施すことにより、アウトガスの発生源となる粘着層の表層の主剤成分が減少し、アウトガスを低減できたことが分かった。
プラズマ窒化処理を施した実施例と施さなかった比較例を比較すると、粘着層の表層の[CNO-
2s]や[CN-
2s]が増加し、アウトガスを低減できたことが分かった。これは、窒素官能基に由来する化合物に改質されて粘着層内部からのガスの透過を阻害するガスバリア膜となったためと予想される。
EUV照射処理を施した実施例と施さなかった比較例を比較すると、粘着層の表層の[C3
-]が増加し、アウトガスを低減できたことが分かった。これは、粘着層の表層が炭化されて、アウトガスの発生が抑制されたためと予想される。
【0256】
[12]実施例7
TOF-SIMS測定用に、ライナーの一部を除去しなかったこと、プラズマ窒化処理済品のライナーを除去してから石英ガラスに粘着層を貼り付けたことの他は、実施例2と同様にして、ペリクルを得た。プラズマ窒化処理済品のライナーを除去してから石英ガラスに粘着層を貼り付けた、貼合品を実施例2と同様にして、アウトガス発生量(ガラス基板あり)の分析を行った。
【0257】
[12.1]第1アウトガス発生量の測定
貼合品を四重極型質量分析装置のロードロック室にセットしてある8インチサイズのシリコンウェハーの上に設置して、組合品を得た。ロータリーポンプでロードロック室内の粗引きをした。さらにターボ分子ポンプを用いて、ロードロック室内の真空引きを10分間行い、ロードロック室内の真空度を1.0×10-3Pa以下にした。組合品をロードロック室内から、ゲートバルブを通して、ターボ分子ポンプを用いて、1.0×10-6Pa以下に真空引きされた四重極型質量分析装置の真空チャンバー内に搬送した。
搬送を終了した時点から15分後、30分後、1時間後、2時間後、及び5時間後に、真空チャンバー内のガス成分を四重極型質量分析計で分析した。これにより、アウトガスの各「m/z」の電流値(A)を得た。フィラメントのヒーター電流は2.0mA、四重極型質量分析計のSEM(二次電子増倍管)電圧は1500Vとした。真空チャンバー内基板ステージの温度は、28℃であった。
【0258】
[12.2]第2アウトガス発生量の測定
(アウトガス発生量(ガラス基板なし)の分析)と同様にして、プラズマ窒化処理済品における、H2O(m/z=16~18)の第1アウトガス発生量及び第2アウトガス発生量と、炭化水素(CxHy)(m/z=45~100)の第1アウトガス発生量及び第2アウトガス発生量と、炭化水素(CxHy)(m/z=101~200)の第1アウトガス発生量及び第2アウトガス発生量とを、算出した。
【0259】
[12.3]アウトガス発生量(ガラス基板あり)の算出
H2O(m/z=16~18)、炭化水素(CxHy)(m/z=45~100)、及び炭化水素(CxHy)(m/z=101~200)の各々について、第1アウトガス発生量から第2ガス発生量を差し引いた値に排気速度を乗算することでアウトガス発生量(ガラス基板あり)を求めた。分析結果を表2に示す。
【0260】
[13]実施例8
TOF-SIMS測定用に、ライナーの一部を除去しなかったこと、プラズマ窒化処理済品のライナーを除去してから石英ガラスに粘着層を貼り付けたことの他は、実施例3と同様にして、ペリクルを得た。プラズマ窒化処理済品のライナーを除去してから石英ガラスに粘着層を貼り付けた、貼合品を実施例7と同様にして、アウトガス発生量(ガラス基板あり)の分析を行った。分析結果を表2に示す。
【0261】
[14]比較例5
TOF-SIMS測定用に、ライナーの一部を除去しなかったこと、プラズマ窒化処理済品のライナーを除去してから石英ガラスに粘着層を貼り付けたことの他は、比較例2と同様にして、ペリクルを得た。プラズマ窒化処理済品のライナーを除去してから石英ガラスに粘着層を貼り付けた、貼合品を実施例7と同様にして、アウトガス発生量(ガラス基板あり)の分析を行った。分析結果を表2に示す。
【0262】
[15]実施例9
TOF-SIMS測定用に、ライナーの一部を除去しなかったこと、プラズマ窒化処理済品のライナーを除去してから石英ガラスに粘着層を貼り付けたことの他は、実施例4と同様にして、ペリクルを得た。プラズマ窒化処理済品のライナーを除去してから石英ガラスに粘着層を貼り付けた、貼合品を実施例7と同様にして、アウトガス発生量(ガラス基板あり)の分析を行った。分析結果を表2に示す。
【0263】
[16]比較例6
TOF-SIMS測定用に、ライナーの一部を除去しなかったこと、プラズマ窒化処理済品のライナーを除去してから石英ガラスに粘着層を貼り付けたことの他は、比較例3と同様にして、ペリクルを得た。プラズマ窒化処理済品のライナーを除去してから石英ガラスに粘着層を貼り付けた、貼合品を実施例7と同様にして、アウトガス発生量(ガラス基板あり)の分析を行った。
【0264】
[17]実施例10
TOF-SIMS測定用に、ライナーの一部を除去しなかったこと、プラズマ窒化処理済品のライナーを除去してから石英ガラスに粘着層を貼り付けたことの他は、実施例5と同様にして、ペリクルを得た。プラズマ窒化処理済品のライナーを除去してから石英ガラスに粘着層を貼り付けた、貼合品を実施例7と同様にして、アウトガス発生量(ガラス基板あり)の分析を行った。分析結果を表2に示す。
【0265】
[18]実施例11
TOF-SIMS測定用に、ライナーの一部を除去しなかったこと、プラズマ窒化処理済品のライナーを除去してから石英ガラスに粘着層を貼り付けたことの他は、実施例6と同様にして、ペリクルを得た。プラズマ窒化処理済品のライナーを除去してから石英ガラスに粘着層を貼り付けた、貼合品を実施例7と同様にして、アウトガス発生量(ガラス基板あり)の分析を行った。分析結果を表2に示す。
【0266】
[19]比較例7
TOF-SIMS測定用に、ライナーの一部を除去しなかったこと、プラズマ窒化処理済品のライナーを除去してから石英ガラスに粘着層を貼り付けたことの他は、比較例6と同様にして、ペリクルを得た。プラズマ窒化処理済品のライナーを除去してから石英ガラスに粘着層を貼り付けた、貼合品を実施例7と同様にして、アウトガス発生量(ガラス基板あり)の分析を行った。分析結果を表2に示す。
【0267】
【0268】
表2中、「15分」、「30分」、「1時間」、「2時間」及び「5時間」の各々は、ス成分の分析を行ったタイミング(すなわち、被測定物を真空チャンバー内に搬送した時点から経過した時間)を示す。
【0269】
実施例と比較例を比較すると、EUV照射処理またはプラズマ窒化処理を施すことにより、アウトガスの発生源となる粘着層の表層の主剤成分が減少し、アウトガスを低減できたことが分かった。
プラズマ窒化処理を施した実施例と施さなかった比較例を比較すると、粘着層の表層の[CNO-
2s]や[CN-
2s]が増加し、アウトガスを低減できたことが分かった。これは、窒素官能基に由来する化合物に改質されて粘着層内部からのガスの透過を阻害するガスバリア膜となったためと予想される。
EUV照射処理を施した実施例と施さなかった比較例を比較すると、粘着層の表層の[C3
-]が増加し、アウトガスを低減できたことが分かった。これは、粘着層の表層が炭化されて、アウトガスの発生が抑制されたためと予想される。
【0270】
実施例1及び比較例1の粘着層の材質は、同一(すなわち、Ac系粘着剤1)である。
実施例1及び比較例1では、[C3H3О+
50s]は、0.005以上であった。つまり、実施例1及び比較例1の粘着層13の材料は、Ac系粘着剤を含むと判断される。
実施例1の粘着層は、揮発性炭化水素(CxHy:m/z=45~100)に関係する下記式(1a)を満たしていた。そのため、実施例1の揮発性炭化水素(CxHy:m/z=45~100)に関するアウトガス発生量は、約7.5×10-9[mbar・L/sec]であった。
式(1a):[C3H3О+
2s]/[C3H3О+
50s])≦0.97
式(1a)中、[C3H3О+
2s]は、第1深部をTOF-SIMSで分析したC3H3О+の規格化強度を示す。[C3H3О+
50s]は、第2深部をTOF-SIMSで分析したC3H3О+の規格化強度を示す。
これに対し、比較例1の粘着層は、式(1a)を満たしていなかった。そのため、比較例1の揮発性炭化水素(CxHy:m/z=45~100)に関するアウトガス発生量は、実施例1よりも高い、2.4×10-8[mbar・L/sec]であった。
以上より、実施例1は、粘着層が式(1a)を満たすことで、アウトガスが発生しにくくることと関連性があることがわかった。
【0271】
実施例2、実施例3及び比較例2の粘着層の材質は、同一(すなわち、Ac系粘着剤2)である。
実施例2、実施例3及び比較例2では、[C3H3О+
50s]は、0.005以上であった。つまり、実施例2、実施例3及び比較例2の粘着層13の材料は、Ac系粘着剤を含むと判断される。
実施例2及び実施例3の粘着層は、上記式(1a)を満たしていた。そのため、実施例2及び実施例3の揮発性炭化水素(CxHy:m/z=45~100)に関するアウトガス発生量は、7.6×10-9[mbar・L/sec]以下であった。
これに対し、比較例2の粘着層は、式(1a)を満たしていなかった。そのため、比較例2の揮発性炭化水素(CxHy:m/z=45~100)に関するアウトガス発生量は、実施例2及び実施例3よりも高い2.0×10-8[mbar・L/sec]であった。
以上より、実施例2及び実施例3は、粘着層が式(1a)を満たすことで、アウトガスが発生しにくいことと関係があることがわかった。
【0272】
実施例4及び比較例3の粘着層の材質は、同一(すなわち、SBR系粘着剤)である。
実施例4及び比較例3では、[C3H3О+
50s]は0.005未満であり、かつ([CH3Si+
50s]+[C3H9Si+
50s])は0.050未満であった。つまり、実施例4及び比較例3の粘着層13の材料は、Ac系粘着剤及びSi系粘着剤のどちらも含まないと判断される。
実施例4の粘着層は、下記式(1b)を満たしていた。そのため、実施例4の揮発性炭化水素(CxHy:m/z=45~100)に関するアウトガス発生量は、約4.2×10-9[mbar・L/sec]であった。
式(1b):[C7H7
+
2s]/[C7H7
+
50s])≦0.97
式(1b)中、[C7H7
+
2s]は、第1深部をTOF-SIMSで分析したC7H7
+の規格化強度を示す。[C7H7
+
50s]は、第2深部をTOF-SIMSで分析したC7H7
+の規格化強度を示す。
これに対し、比較例3の粘着層は、式(1b)を満たしていなかった。そのため、比較例3のアウトガス発生量は、実施例4よりも高い約2.6×10-7[mbar・L/sec]であった。
以上より、実施例4は、粘着層が式(1b)を満たすことで、アウトガスが発生しにくいことと関係があることがわかった。
【0273】
実施例5、実施例6及び比較例4の粘着層の材質は、同一(すなわち、シリコーン系粘着剤)である。
実施例5、実施例6及び比較例4では、[C3H3О+
50s]は0.005未満であり、かつ([CH3Si+
50s]+[C3H9Si+
50s])は0.050以上であった。つまり、実施例5、実施例6及び比較例4の粘着層13の材料は、Si系粘着剤を含むと判断される。
実施例5及び実施例6の粘着層は、下記式(1c)を満たしていた。そのため、実施例5及び実施例6の揮発性炭化水素(CxHy:m/z=45~100)に関するアウトガス発生量は、約3.4×10-7[mbar・L/sec]以下であった。
式(1c):[CH3Si+
2s]/[CH3Si+
50s])≦0.97
式(1c)中、[CH3Si+
2s]は、第1深部をTOF-SIMSで分析したCH3Si+の規格化強度を示す。[CH3Si+
50s]は、第2深部をTOF-SIMSで分析したCH3Si+の規格化強度を示す。
これに対し、比較例4の粘着層は、式(1c)を満たしていなかった。そのため、比較例4の揮発性炭化水素(CxHy:m/z=45~100)に関するアウトガス発生量は、実施例5及び実施例6よりも高い、1.0×10-5[mbar・L/sec]であった。
以上より、実施例5及び実施例6は、粘着層が式(1c)を満たすことで、アウトガスが発生しにくくることと関連性があることがわかった。
【0274】
比較例1では、([CNO-
2s]/[CNO-
50s])が1.50であった。つまり、[CNO-
2s]は[CNO-
50s]よりも高かった。比較例1の原料モノマーには、CNOを含む官能基は含まれていない。そのため、[CNO-
2s]は[CNO-
50s]よりも高かったのは、CNOを含む官能基がAc系粘着剤1の熱硬化よって形成されたことが主要因であると推測される。
実施例4では、([CNO-
2s]/[CNO-
50s])が235.90であった。これは、Ac系粘着剤2のモノマーは、窒素原子を含まないことが主要因であると推測される。
【0275】
2021年9月13日に出願された日本国特許出願2021-148629の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。