(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】電池の診断方法、電池の診断装置、電池の管理システム、及び、電池の診断プログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20240902BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20240902BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20240902BHJP
G01R 19/28 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/367
G01R31/389
G01R19/28
(21)【出願番号】P 2023563427
(86)(22)【出願日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2021043268
(87)【国際公開番号】W WO2023095263
(87)【国際公開日】2023-06-01
【審査請求日】2023-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】金井 佑太
(72)【発明者】
【氏名】八木 亮介
(72)【発明者】
【氏名】海野 航
(72)【発明者】
【氏名】吉永 典裕
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-034383(JP,A)
【文献】特開2013-004256(JP,A)
【文献】特開2016-065832(JP,A)
【文献】特開平10-232273(JP,A)
【文献】特開2011-034861(JP,A)
【文献】特表2014-529849(JP,A)
【文献】特開2010-243481(JP,A)
【文献】特表2016-524888(JP,A)
【文献】米国特許第05369364(US,A)
【文献】中国特許出願公開第111123111(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/36-31/392、
19/00-19/32、
H02J 7/00-7/12、
7/34-7/36、
H01M 10/42-10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の固有周波数及び第1の固有周波数より小さい第2の固有周波数
がインピーダンス
の周波数特性において現れる第1の電極活物質、並びに、前記第1の固有周波数と前記第2の固有周波数との間の大きさの第3の固有周波数
がインピーダンス
の周波数特性において現れる第2の電極活物質を電極活物質として含む電池の診断方法であって、
前記第1の固有周波数を含み、かつ、前記第2の固有周波数及び前記第3の固有周波数を含まない第1の計測範囲、並びに、前記第2の固有周波数を含み、かつ、前記第1の固有周波数及び前記第3の固有周波数を含まない第2の計測範囲を計測範囲として、複数の計測対象周波数のそれぞれについて、前記電池のインピーダンスを計測することと、
前記計測対象周波数のそれぞれにおける前記電池の前記インピーダンスの計測結果に基づいて、前記電池の状態に関して判定することと、
を具備する、診断方法。
【請求項2】
前記電池の状態に関する判定では、
前記計測対象周波数のそれぞれにおける前記電池の前記インピーダンスの前記計測結果に基づいて、前記第2の電極活物質の電荷移動インピーダンスの周波数特性、及び、前記第2の電極活物質の電荷移動抵抗を算出する、
請求項1に記載の診断方法。
【請求項3】
前記第2の電極活物質の前記電荷移動インピーダンスの前記周波数特性、及び、前記第2の電極活物質の前記電荷移動抵抗の算出では、
前記第3の固有周波数のインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータを含む複数の電気特性パラメータが設定される等価回路、及び、前記計測対象周波数のそれぞれにおける前記電池の前記インピーダンスの前記計測結果を用いてフィッティング計算を行うことにより、前記等価回路の前記電気特性パラメータのそれぞれを算出し、
前記第3の固有周波数の前記インピーダンス成分に対応する前記電気特性パラメータについての算出結果に基づいて、前記第2の電極活物質の前記電荷移動インピーダンスの前記周波数特性、及び、前記第2の電極活物質の前記電荷移動抵抗を算出する、
請求項2に記載の診断方法。
【請求項4】
前記電池の状態に関する判定では、
前記計測対象周波数のそれぞれにおける前記電池の前記インピーダンスの前記計測結果に基づいて、前記第1の電極活物質の電荷移動インピーダンスの周波数特性、及び、前記第1の電極活物質の電荷移動抵抗を算出する、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項5】
前記第1の電極活物質の前記電荷移動インピーダンスの前記周波数特性、及び、前記第1の電極活物質の前記電荷移動抵抗の算出では、
前記第1の固有周波数のインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータ及び前記第2の固有周波数のインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータを含む複数の電気特性パラメータが設定される等価回路、並びに、前記計測対象周波数のそれぞれにおける前記電池の前記インピーダンスの前記計測結果を用いてフィッティング計算を行うことにより、前記等価回路の前記電気特性パラメータを算出し、
前記第1の固有周波数及び前記第2の固有周波数のそれぞれの前記インピーダンス成分に対応する前記電気特性パラメータについての算出結果に基づいて、前記第1の電極活物質の前記電荷移動インピーダンスの前記周波数特性、及び、前記第1の電極活物質の前記電荷移動抵抗を算出する、
請求項4に記載の診断方法。
【請求項6】
前記電池の充電量、SOC及び温度の少なくとも1つに基づいて、前記第1の電極活物質の前記インピーダンスの
前記周波数特性において、前記第1の固有周波数及び前記第2の固有周波数を特定することをさらに具備する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項7】
前記電池が作動している状態において、前記電池が充電中であるか否かを判定するとともに、前記電池が作動していない状態において、前記電池の前回の作動が充電であったか否かを判定することと、
前記電池が前記充電中である場合、及び、作動していない前記電池の前記前回の前記作動が前記充電であった場合のそれぞれにおいて、前記第1の計測範囲及び前記第2の計測範囲を計測範囲として、前記計測対象周波数のそれぞれにおける前記電池の前記インピーダンスを計測することと、
をさらに具備する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の診断方法。
【請求項8】
第1の固有周波数及び第1の固有周波数より小さい第2の固有周波数
がインピーダンス
の周波数特性において現れる第1の電極活物質、並びに、前記第1の固有周波数と前記第2の固有周波数との間の大きさの第3の固有周波数
がインピーダンス
の周波数特性において現れる第2の電極活物質を電極活物質として含む電池の診断装置であって、
前記第1の固有周波数を含み、かつ、前記第2の固有周波数及び前記第3の固有周波数を含まない第1の計測範囲、並びに、前記第2の固有周波数を含み、かつ、前記第1の固有周波数及び前記第3の固有周波数を含まない第2の計測範囲を計測範囲として、複数の計測対象周波数のそれぞれについて、前記電池のインピーダンスを計測し、
前記計測対象周波数のそれぞれにおける前記電池の前記インピーダンスの計測結果に基づいて、前記電池の状態に関して判定する、
プロセッサを具備する、診断装置。
【請求項9】
請求項8に記載の診断装置と、
前記診断装置によって診断される前記電池と、
を具備する前記電池の管理システム。
【請求項10】
前記電池では、前記第1の電極活物質の前記インピーダンスの
前記周波数特性において、前記第2の固有周波数に対す
る前記第1の固有周波数の比率が、50以上5000以下となる、請求項9に記載の管理システム。
【請求項11】
前記電池では、前記第1の電極活物質の前記インピーダンスの
前記周波数特性に現れる前記第2の固有周波数に対する前記第2の電極活物質の前記インピーダンスの
前記周波数特性に現れる前記第3の固有周波数の比率が、10以上1000以下となる、請求項9又は請求項10に記載の管理システム。
【請求項12】
前記第1の電極活物質は、二相共存反応する電極活物質であり、
前記第2の電極活物質は、単一相反応する電極活物質である、
請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の管理システム。
【請求項13】
前記第1の電極活物質は、チタン酸リチウム又はリン酸鉄リチウムである、請求項12に記載の管理システム。
【請求項14】
前記電池は、
前記第1の電極活物質を電極活物質として含む第1の電極と、
前記第1の電極とは反対の極性になり、前記第2の電極活物質を電極活物質として含む第2の電極と、
を備える、請求項9から請求項13のいずれか1項に記載の管理システム。
【請求項15】
第1の固有周波数及び第1の固有周波数より小さい第2の固有周波数
がインピーダンス
の周波数特性において現れる第1の電極活物質、並びに、前記第1の固有周波数と前記第2の固有周波数との間の大きさの第3の固有周波数
がインピーダンス
の周波数特性において現れる第2の電極活物質を電極活物質として含む電池の診断プログラムであって、コンピュータに、
前記第1の固有周波数を含み、かつ、前記第2の固有周波数及び前記第3の固有周波数を含まない第1の計測範囲、並びに、前記第2の固有周波数を含み、かつ、前記第1の固有周波数及び前記第3の固有周波数を含まない第2の計測範囲を計測範囲として、複数の計測対象周波数のそれぞれについて、前記電池のインピーダンスを計測させ、
前記計測対象周波数のそれぞれにおける前記電池の前記インピーダンスの計測結果に基づいて、前記電池の状態に関して判定させる、
診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電池の診断方法、電池の診断装置、電池の管理システム、及び、電池の診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池等の電池について、電池の電流及び電圧等の計測値を含む計測データに基づいて、電池の内部状態を推定し、内部状態の推定結果等に基づいて、電池の劣化等について診断している。このような判定では、判定対象となる電池の内部状態の推定において、電池の正極活物質の容量である正極の容量、電池の負極活物質の容量である負極の容量、及び、電池のインピーダンスの抵抗成分等を、電池の内部状態を示す内部状態パラメータとして推定する。ここで、二次電池等の電池では、充電及び放電を繰返すことにより、使用開始時等に比べて、内部状態パラメータの1つである電池のインピーダンスの抵抗成分は、変化する。このため、電池の内部抵抗となる電池のインピーダンスの抵抗成分を推定することにより、電池の劣化等について診断可能となる。
【0003】
電池の抵抗成分の推定方法の1つとして、例えば、交流インピーダンス法が挙げられる。交流インピーダンス法では、複数の計測対象周波数のそれぞれで交流を電池に入力する等して、複数の計測対象周波数のそれぞれについて、電池のインピーダンスを計測し、電池のインピーダンスの周波数特性を計測する。そして、電池のインピーダンス成分に対応する複数の電気特性パラメータ(回路定数)が設定される電池の等価回路、及び、計測対象周波数のそれぞれにおける電池のインピーダンスの計測結果を用いてフィッティング計算を行うことにより、等価回路の電気特性パラメータのそれぞれを算出する。そして、電気特性パラメータについての算出結果に基づいて、電池のインピーダンスの抵抗成分を算出し、例えば、正極及び負極のそれぞれの電荷移動抵抗を算出する。
【0004】
前述のようにして電池のインピーダンスの抵抗成分を推定する場合、電池のインピーダンスを計測する対象となる計測対象周波数の数を少なくし、電池のインピーダンスの周波数特性を計測する計測時間を短くすることが、求められている。また、計測対象周波数の数が少なくても、インピーダンスの抵抗成分が適切に推定され、電池の劣化等について適切に診断されることが、求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、電池のインピーダンスの周波数特性を計測する計測時間が短くなり、電池の劣化について適切に診断する電池の診断方法、電池の診断装置、電池の管理システム、及び、電池の診断プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態では、第1の固有周波数及び第1の固有周波数より小さい第2の固有周波数がインピーダンスの周波数特性において現れる第1の電極活物質、並びに、第1の固有周波数と第2の固有周波数との間の大きさの第3の固有周波数がインピーダンスの周波数特性において現れる第2の電極活物質を電極活物質として含む電池の診断方法が提供される。診断方法では、第1の固有周波数を含み、かつ、第2の固有周波数及び第3の固有周波数を含まない第1の計測範囲、並びに、第2の固有周波数を含み、かつ、第1の固有周波数及び第3の固有周波数を含まない第2の計測範囲を計測範囲として、複数の計測対象周波数のそれぞれについて、電池のインピーダンスを計測する。診断方法では、計測対象周波数のそれぞれにおける電池のインピーダンスの計測結果に基づいて、電池の状態に関して判定する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る電池の管理システムを示す概略図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係る電池のインピーダンスの計測において電池に流す電流の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態に係る電池のインピーダンスの計測において電池に流す電流の
図2とは別の一例を示す概略図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態においてフィッティング計算に用いられる電池の等価回路の一例を概略的に示す回路図である。
【
図5】
図5は、第1の実施形態において計測された計測対象周波数のそれぞれでの電池のインピーダンスの計測結果、並びに、その計測結果に基づいて算出された第1の電極活物質(第1の電極)及び第2の電極活物質(第2の電極)のそれぞれの電荷移動インピーダンスの周波数特性の一例を示す概略図である。
【
図6】
図6は、第1の実施形態において診断装置によって行われる、電池の診断における処理の一例を概略的に示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、第1の変形例において診断装置のインピーダンス計測部等によって行われる、インピーダンスを計測する周波数の計測範囲についての判定処理の一例を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態]
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
まず、実施形態の一例として、第1の実施形態について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る電池の管理システムを示す概略図である。
図1に示すように、管理システム1は、電池搭載機器2及び診断装置3を備える。電池搭載機器2には、電池5、計測回路6及び電池管理部(BMU:battery management unit)7が搭載される。電池搭載機器2としては、電力系統用の大型蓄電装置、スマートフォン、車両、定置用電源装置、ロボット及びドローン等が挙げられ、電池搭載機器2となる車両としては、鉄道用車両、電気バス、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車及び電動バイク等が、挙げられる。
【0011】
電池5は、例えば、リチウムイオン二次電池等の二次電池である。電池5は、単セル(単電池)から形成されてもよく、複数の単セルを電気的に接続することにより形成される電池モジュール又はセルブロックであってもよい。電池5が複数の単セルから形成される場合、電池5において、複数の単セルが電気的に直列に接続されてもよく、複数の単セルが電気的に並列に接続されてもよい。また、電池5において、複数の単セルが直列に接続される直列接続構造、及び、複数の単セルが並列に接続される並列接続構造の両方が形成されてもよい。また、電池5は、複数の電池モジュールが電気的に接続される電池ストリング、電池アレイ及び蓄電池のいずれかであってもよい。
【0012】
本実施形態では、電池5は、2種類の電極活物質を含む。2種類の電極活物質の一方である第1の電極活物質のインピーダンスは、固有周波数(第1の固有周波数)F1、及び、固有周波数F1より小さい固有周波数(第2の固有周波数)F2を有する。また、2種類の電極活物質の第1の電極活物質とは別の一方である第2の電極活物質のインピーダンスは、固有周波数F1,F2の間の大きさの固有周波数(第3の固有周波数)F3を有する。固有周波数F1~F3のそれぞれは、電池5の温度及び電池5の充電量の少なくとも一方が変化することにより、変化する。ある一例では、電池5の温度及び充電量等が電池5の使用条件を満たす限り、固有周波数F2に対する固有周波数F1の比率は、50以上5000以下となる。そして、電池5の温度及び充電量等が電池5の使用条件を満たす限り、固有周波数F2に対する固有周波数F3の比率は、10以上1000以下となる。
【0013】
また、ある一例では、電池5は、正極と負極との間でリチウムイオンが移動することにより、充電及び放電するリチウムイオン二次電池である。そして、正極及び負極の一方である第1の電極は、第1の電極活物質を電極活物質として含み、第1の電極活物質は、リチウムの吸蔵及び放出のそれぞれにおいて、二相共存反応をする。そして、正極及び負極の中の第1の電極とは極性が反対の一方である第2の電極は、第2の電極活物質を電極活物質として含み、第2の電極活物質は、リチウムの吸蔵及び放出のそれぞれにおいて、単一相反応(固溶反応)する。前述のように二相共存反応する第1の電極活物質を第1の電極が含むリチウムイオン二次電池としては、第1の電極となる負極がチタン酸リチウムを負極活物質(第1の電極活物質)として含む二次電池が、挙げられる。この場合、第2の電極となる正極は、例えば、ニッケルコバルトマンガン酸化物を、単一相溶反応する正極活物質(第2の電極活物質)として含む。また、二相共存反応する第1の電極活物質を第1の電極が含むリチウムイオン二次電池として、第1の電極となる正極がリン酸鉄リチウムを正極活物質(第1の電極活物質)として含む二次電池も、挙げられる。この場合、第2の電極となる負極は、例えば、炭素質物を、単一相反応する負極活物質(第2の電極活物質)として含む。
【0014】
計測回路6は、電池5に関連するパラメータを検出及び計測する。計測回路6では、所定のタイミングで定期的に、パラメータの検出及び計測が行われる。電池5が充電又は放電されている状態では、計測回路6によって、電池5に関連するパラメータが定期的に計測される。また、電池5のインピーダンスの計測する後述の電流等の計測用の信号が電池5に入力されている状態においても、計測回路6によって、電池5に関連するパラメータが定期的に計測される。電池5に関連するパラメータには、電池5を流れる電流、及び、電池5の電圧が含まれる。このため、計測回路6には、電流を計測する電流計、及び、電圧を計測する電圧計等が含まれる。また、電池5に関連するパラメータには、電池5の温度等が含まれてもよい。この場合、計測回路6には、温度を計測する温度センサ等が含まれる。
【0015】
電池管理部7は、電池5の充電及び放電を制御する等して、電池5を管理する処理装置(コンピュータ)を構成し、プロセッサ及び記憶媒体を備える。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、マイコン、FPGA(Field Programmable Gate Array)及びDSP(Digital Signal Processor)等のいずれかを含む。記憶媒体には、メモリ等の主記憶装置に加え、補助記憶装置が含まれ得る。記憶媒体としては、磁気ディスク、光ディスク(CD-ROM、CD-R、DVD等)、光磁気ディスク(MO等)、及び、半導体メモリ等が挙げられる。電池管理部7では、プロセッサ及び記憶媒体のそれぞれは、1つであってもよく、複数であってもよい。電池管理部7では、プロセッサは、記憶媒体等に記憶されるプログラム等を実行することにより、処理を行う。また、電池管理部7では、プロセッサによって実行されるプログラムは、インターネット等のネットワークを介して接続されたコンピュータ(サーバ)、又は、クラウド環境のサーバ等に格納されてもよい。この場合、プロセッサは、ネットワーク経由でプログラムをダウンロードする。
【0016】
診断装置3は、電池5の劣化等について診断する。このため、電池5は、診断装置3による診断対象となる。
図1等の一例では、診断装置3は、電池搭載機器2の外部に設けられる。診断装置3は、通信部11、インピーダンス計測部12、抵抗算出部13、判定部15及びデータ記憶部16を備える。診断装置3は、例えば、電池管理部7とネットワークを介して通信可能なサーバである。この場合、診断装置3は、電池管理部7と同様に、プロセッサ及び記憶媒体を備える。そして、通信部11、インピーダンス計測部12、抵抗算出部13及び判定部15は、診断装置3のプロセッサ等によって行われる処理の一部を実施し、診断装置3の記憶媒体が、データ記憶部16として機能する。
【0017】
なお、ある一例では、診断装置3は、クラウド環境に構成されるクラウドサーバであってもよい。クラウド環境のインフラは、仮想CPU等の仮想プロセッサ及びクラウドメモリによって、構成される。このため、診断装置3がクラウドサーバである場合、仮想プロセッサによって行われる処理の一部を、通信部11、インピーダンス計測部12、抵抗算出部13及び判定部15が実施する。そして、クラウドメモリが、データ記憶部16として機能する。
【0018】
なお、データ記憶部16は、電池管理部7及び診断装置3とは別のコンピュータに設けられてもよい。この場合、診断装置3は、データ記憶部16等が設けられるコンピュータに、ネットワークを介して接続される。また、診断装置3が、電池搭載機器2に搭載されてもよい。この場合、診断装置3は、電池搭載機器2に搭載される処理装置等から構成される。また、診断装置3が電池搭載機器2に搭載される場合、電池搭載機器2に搭載される1つの処理装置等が、後述する診断装置3の処理を行うとともに、電池5の充電及び放電の制御等の電池管理部7の処理を行ってもよい。以下、診断装置3の処理について説明する。
【0019】
通信部11は、ネットワークを介して、診断装置3以外の処理装置等と通信する。通信部11は、例えば、電池5に関連する前述のパラメータの計測回路6での計測結果を含む計測データを、電池管理部7から受信する。計測データは、計測回路6での計測結果等に基づいて、電池管理部7等によって生成される。計測データは、電池5に関連するパラメータの計測値を含む。また、電池5に関連するパラメータについて複数の計測時点のそれぞれで計測が行われた場合、計測データは、複数の計測時点のそれぞれでの電池5に関連するパラメータの計測値、及び、電池5に関連するパラメータの時間変化(時間履歴)を含む。したがって、計測データには、電池5の電流の時間変化(時間履歴)、及び、電池5の電圧の時間変化(時間履歴)が含まれ、電池5の温度の時間変化(時間履歴)等が含まれてもよい。通信部11は、受信した計測データを、データ記憶部16に書込む。
【0020】
電池管理部7及び診断装置3のプロセッサの少なくとも一方は、電池5に関連するパラメータの計測回路6での計測結果等に基づいて、電池5の充電量及びSOCのいずれかを推定してもよい。そして、診断装置3は、電池5の充電量の推定値、及び、電池5の充電量の推定値の時間変化(時間履歴)を、前述の計測データに含まれるデータとして、取得してもよい。リアルタイムでの電池5の充電量は、電池5の使用開始時等の基準時点における電池5の充電量、及び、基準時点からの電池5に流れる電流の時間変化に基づいて、算出可能である。この場合、電流の時間変化に基づいて、基準時点からの電池5の電流の電流積算値が算出される。そして、基準時点での電池5の充電量、及び、算出された電流積算値に基づいて、リアルタイムでの電池5の充電量が算出される。
【0021】
また、電池5では、電圧について、下限電圧Vmin及び上限電圧Vmaxが規定される。そして、電池5では、所定の条件での放電又は充電における電圧が下限電圧Vminになる状態が、SOCが0(0%)の状態として規定され、所定の条件での放電又は充電における電圧が上限電圧Vmaxになる状態が、SOCが1(100%)の状態として規定される。また、電池5では、所定の条件での充電においてSOCが0から1になるまでの充電容量、又は、所定の条件での放電においてSOCが1から0になるまでの放電容量が、電池容量として規定される。そして、電池の電池容量に対するSOCが0の状態までの残容量の比率が、電池のSOCとなる。
【0022】
インピーダンス計測部12は、通信部11が受信した計測データ等に基づいて、判定対象となる電池5のインピーダンスを計測する。インピーダンス計測部12による電池5のインピーダンスの計測においては、電池管理部7等は、周期的に電流値が変化する電流波形で電池5に電流を流す。
図2は、第1の実施形態に係る電池のインピーダンスの計測において電池に流す電流の一例を示す概略図である。
図3は、第1の実施形態に係る電池のインピーダンスの計測において電池に流す電流の
図2とは別の一例を示す概略図である。
図2及び
図3では、横軸は時間tを示し、縦軸は電流Iを示す。
【0023】
図2の一例では、電池5のインピーダンスの計測において、電池管理部7等は、流れる方向が周期的に変化する電流波形I(t)で、電池5に交流電流を入力する。一方、
図3の一例では、基準となる基準電流軌跡Iref(t)を中心として周期的に電流値が変化する電流波形I(t)で、電池5に直流電流を入力する。基準電流軌跡Iref(t)は、例えば、電池5の充電等において充電条件として設定される充電電流の時間変化の軌跡である。したがって、周期的に電流値が変化する電流波形の電流には、交流電流に加えて、基準電流軌跡を中心として周期的に電流値が変化する直流電流を含む。
【0024】
ある一例では、電池5のインピーダンスの計測は、電池5の充電と並行して行われる。この場合、充電電流の時間変化の軌跡として設定される基準電流軌跡を中心として周期的に電流値が変化する電流波形で、電池5に電流を入力し、電池5のインピーダンスを計測する。充電における基準電流軌跡では、充電電流の電流値が経時的に一定であってもよく、充電電流の電流値が経時的変化してもよい。また、
図2及び
図3のそれぞれの一例では、電流波形が正弦波(sin波)であるが、電流波形は、三角波及び鋸波等の正弦波以外の電流波形であってもよい。
【0025】
計測回路6は、前述のように周期的に電流値が変化する電流波形で電池5に電流を入力している状態において、電池5の電流及び電圧のそれぞれを、複数の計測時点で計測する。そして、診断装置3の通信部11は、周期的に電流値が変化する電流波形で電池5に電流を入力している状態での電池5の電流及び電圧のそれぞれの計測結果等を、前述の計測データとして、受信する。周期的に電流値が変化する電流波形で電池5に電流を流している状態での電池5の電流及び電圧のそれぞれの計測結果には、複数の計測時点のそれぞれでの電池5の電流及び電圧のそれぞれの計測値、及び、電池5の電流及び電圧のそれぞれの時間変化(時間履歴)等が、含まれる。
【0026】
ある一例では、インピーダンス計測部12は、電池5の電流の時間変化に基づいて、電池5の電流の周期的な変化におけるピーク-ピーク値(変動幅)を算出し、電池5の電圧の時間変化に基づいて、電池5の電圧の周期的な変化におけるピーク-ピーク値(変動幅)を算出する。そして、インピーダンス計測部12は、電流のピーク-ピーク値に対する電圧のピーク-ピーク値の比率から、電池5のインピーダンスを算出する。なお、別のある一例では、電流の実効値に対する電圧の実効値の比率から、電池5のインピーダンスを算出してもよい。
【0027】
インピーダンス計測部12は、複数の周波数のそれぞれについて、電池5のインピーダンスを計測する。すなわち、インピーダンス計測部12は、複数の周波数を計測対象周波数として設定し、計測対象周波数のそれぞれについて、電池5のインピーダンスを計測する。ある一例では、電池管理部7等は、複数の計測対象周波数の間で周波数を変化させながら、前述した電流波形で、電流を電池5に入力する。そして、診断装置3の通信部11は、複数の計測対象周波数のそれぞれで電流を電池5に入力している状態での電池5の電流及び電圧のそれぞれの計測結果を、計測データとして受信する。そして、インピーダンス計測部12は、計測データに基づいて、複数の計測対象周波数のそれぞれで電流を電池5に入力している状態について、前述のようにし電池5のインピーダンスを算出する。本実施形態では、複数の計測対象周波数のそれぞれについて電池5のインピーダンスを計測することにより、電池5のインピーダンスの周波数特性が計測される。
【0028】
また、本実施形態では、インピーダンスを計測する計測範囲に、第1の計測範囲及び第2の計測範囲が含まれる。第1の計測範囲は、固有周波数F1を含むとともに、固有周波数F2,F3を含まない。そして、第2の計測範囲は、固有周波数F2を含むとともに、固有周波数F1,F3を含まない。また、第1の計測範囲及び第2の計測範囲のそれぞれでインピーダンスの計測が行われれば、第1の計測範囲及び第2の計測範囲以外では、インピーダンスの計測は、行われてもよく、行われなくてもよい。
【0029】
また、第1の計測範囲及び第2の計測範囲を計測範囲に含むことも条件に、インピーダンスを計測する計測対象周波数の数は、可能な限り少ないことが好ましい。ある一例では、計測対象周波数の数は、基準数以下に設定され、例えば、5以下に設定される。この場合、インピーダンス計測部12によって電池5のインピーダンスが計測される計測対象周波数の数は、2以上5以下となる。電池5のインピーダンスが計測される計測対象周波数には、前述の第1の計測範囲のいずれかの周波数、及び、前述した第2の計測範囲のいずれかの周波数が含まれる。ある一例では、計測対象周波数に、前述した第1の電極活物質のインピーダンスの固有周波数F1,F2が含まれる。また、計測対象周波数には、第1の電極活物質のインピーダンスの固有周波数F1,F2に加えて、第1の計測範囲及び第2の計測範囲以外の周波数が含まれてもよい。ある一例では、計測対象周波数に、固有周波数F1,F2に加えて、第2の電極活物質のインピーダンスの固有周波数F3が含まれてもよい。ただし、本実施形態では、固有周波数F1を含む第1の計測範囲、及び、固有周波数F2を含む第2の計測範囲のそれぞれについて電池5のインピーダンスが計測されれば、固有周波数F3等の第1の計測範囲及び第2の計測範囲以外の周波数については、電池5のインピーダンスが計測されなくてもよい。
【0030】
ここで、前述した電流波形の周波数を、周波数Fa以上周波数Fb以下の範囲で変更可能であり、前述した固有周波数F1~F3は、周波数Fa以上周波数Fb以下の範囲内であるとする。ある一例では、周波数が低い順に周波数Fa、第2の計測範囲に含まれる固有周波数(第2の固有周波数)F2、第1の計測範囲に含まれる固有周波数(第1の固有周波数)F1及び周波数Fbの4つの計測対象周波数のそれぞれについて、電池5のインピーダンスを計測する。別のある一例では、周波数が低い順に周波数Fa、固有周波数(第2の固有周波数)F2、固有周波数(第3の固有周波数)F3、固有周波数(第1の固有周波数)F1及び周波数Fbの5つの計測対象周波数のそれぞれについて、電池5のインピーダンスを計測する。これらの一例のそれぞれでは、電池5のインピーダンスを計測する計測対象周波数の数が、5以下(基準数以下)になる等して、少なくなる。そして、前述の一例のそれぞれでは、計測対象周波数には、固有周波数F1,F2(第1の計測範囲及び第2の計測範囲)が含まれる。
【0031】
また、計測対象周波数のそれぞれにおける電池5のインピーダンスの計測において、必ずしもその計測対象周波数の電流波形で電池5に電流を入力する必要はない。ある一例では、計測対象周波数に固有周波数F1,F2が含まれる。そして、固有周波数F1での電池5のインピーダンスの計測において、固有周波数F1より僅かに高い周波数F1+ΔFの電流波形で電池5に電流を入力し、周波数F1+ΔFでの電池5のインピーダンスを計測する。また、固有周波数F1より僅かに低い周波数F1-ΔFの電流波形で電池5に電流を入力し、周波数F1-ΔFでの電池5のインピーダンスを計測する。そして、周波数F1+ΔF,F1-ΔFのそれぞれでのインピーダンスの計測結果に基づいて、固有周波数F1での電池5のインピーダンスを算出する。なお、固有周波数F2での電池5のインピーダンスについても、固有周波数F2より僅かに高い周波数F2+ΔF、及び、固有周波数F2より僅かに低い周波数F2-ΔFのそれぞれでの電池5のインピーダンスの計測結果に基づいて、算出されてもよい。
【0032】
インピーダンス計測部12は、電池5のインピーダンスの周波数特性の計測結果として、例えば、インピーダンスの複素インピーダンスプロット(Cole-Coleプロット)を取得する。本実施形態では、複素インピーダンスプロットにおいて、インピーダンスを計測した複数の計測対象周波数のそれぞれについて、電池5のインピーダンスが示される。そして、複素インピーダンスプロットでは、複数の計測対象周波数のそれぞれについて、電池5のインピーダンスの実数成分及び虚数成分が示される。なお、周期的に電流値が変化する電流波形で電池に電流を入力することにより電池のインピーダンスの周波数特性を計測する方法、及び、電池のインピーダンスの周波数特性の計測結果である複素インピーダンスプロット等は、特許文献1(日本国特開2017-106889号公報)に示される。
【0033】
また、前述のように固有周波数F1~F3のそれぞれは、電池5の温度及び充電量のそれぞれの変化に対応して、変化する。このため、本実施形態では、電池5の温度、SOC及び充電量のそれぞれと第1の電極活物質のインピーダンスの固有周波数(第1の固有周波数)F1との関係を示すデータ、及び、電池5の温度及び充電量のそれぞれと第1の電極活物質のインピーダンスの固有周波数(第2の固有周波数)F2との関係を示すデータが、データ記憶部16に記憶される。計測対象周波数のそれぞれについて電池5のインピーダンスの計測では、インピーダンス計測部12は、電池5の温度及び充電量についてのリアルタイムの計測結果、及び、電池5の温度及び充電量のそれぞれと固有周波数F1との関係を示すデータに基づいて、固有周波数F1を特定する。そして、インピーダンス計測部12は、電池5の温度及び充電量についてのリアルタイムの計測結果、及び、電池5の温度及び充電量のそれぞれと固有周波数F2との関係を示すデータに基づいて、固有周波数F2を特定する。なお、充電量の代わりに電池5のSOCを用いて、固有周波数F1,F2を特定してもよい。この場合、電池5の温度及びSOCのそれぞれと固有周波数F1との関係を示すデータ、及び、電池5の温度及びSOCのそれぞれと固有周波数F1との関係を示すデータが、データ記憶部16に記憶される。
【0034】
また、ある一例では、固有周波数F1,F2に加えて第2の電極活物質のインピーダンスの固有周波数(第3の固有周波数)F3が、計測対象周波数に含まれる。この場合、電池5の温度及び充電量のそれぞれと第2の電極活物質のインピーダンスの固有周波数F3との関係を示すデータが、データ記憶部16に記憶される。そして、計測対象周波数のそれぞれについて電池5のインピーダンスの計測では、インピーダンス計測部12は、固有周波数F1,F2を前述のように特定するとともに、電池5の温度及び充電量についてのリアルタイムの計測結果、及び、電池5の温度及び充電量のそれぞれと固有周波数F3との関係を示すデータに基づいて、固有周波数F3を特定する。なお、充電量の代わりに電池5のSOCを用いて、固有周波数F3を特定してもよい。この場合、電池5の温度及びSOCのそれぞれと固有周波数F3との関係を示すデータが、データ記憶部16に記憶される。
【0035】
また、ある一例では、前述のような電池5のインピーダンスの周波数特性の計測は、電池5の温度が所定の温度になる状態でのみ、行われる。この場合、電池5の温度が所定の温度になる条件下での電池5の充電量又はSOCと固有周波数F1~F3のそれぞれとの関係を示すデータが、データ記憶部16に記憶される。そして、インピーダンス計測部12は、電池5の充電量又はSOCについてのリアルタイムの計測結果、及び、電池5の充電量又はSOCと固有周波数F1~F3のそれぞれとの関係を示すデータに基づいて、固有周波数F1~F3のそれぞれを特定する。また、別のある一例では、電池5のインピーダンスの周波数特性の計測は、電池5の充電量が所定の充電量になる状態、又は、電池5のSOCが所定のSOCになる状態でのみ、行われる。この場合、電池5の充電量が所定の充電量になる条件下、又は、電池5のSOCが所定のSOCになる条件下での電池5の温度と固有周波数F1~F3のそれぞれとの関係を示すデータが、データ記憶部16に記憶される。そして、インピーダンス計測部12は、電池5の温度についてのリアルタイムの計測結果、及び、電池5の温度と固有周波数F1~F3のそれぞれとの関係を示すデータに基づいて、固有周波数F1~F3のそれぞれを特定する。
【0036】
また、別のある一例では、電池5のインピーダンスの周波数特性の計測は、電池5の充電量が所定の充電量になり、かつ、電池5の温度が所定の温度になる状態でのみ、行われる。この場合、電池5の充電量が所定の充電量になり、かつ、電池5の温度が所定の温度になる条件下での固有周波数F1~F3が、データ記憶部16に記憶される。また、電池5のインピーダンスの周波数特性の計測は、電池5のSOCが所定のSOCになり、かつ、電池5の温度が所定の温度になる状態でのみ、行われてもよい。この場合、電池5のSOCが所定のSOCになり、かつ、電池5の温度が所定の温度になる条件下での固有周波数F1~F3が、データ記憶部16に記憶される。
【0037】
また、ある一例では、固有周波数F1~F3のそれぞれについて、正極及び負極の一方のみを備えるハーフセルを用いた実験において取得した実験データが、データ記憶部16に記憶される。ここで、ハーフセルには作用極に正極及び負極のどちらか一方、参照極及び対極に金属リチウムを用いる三極式セル、作用極に正極及び負極のどちらか一方、対極に金属リチウムを用いる二極式セルを用いることができるが、これらに限定されない。この場合、ハーフセルを用いた実験では、ハーフセルの温度及び充電量(SOC)の少なくとも1つが互いに対して異なる複数の条件下のそれぞれについて、固有周波数F1~F3が取得される。なお、ハーフセルは、診断対象となる電池5とは異なり、ハーフセルを用いて固有周波数F1~F3に関する情報を取得した後、診断対象となる電池5について、前述のようにして複数の計測対象周波数のそれぞれでのインピーダンスを計測する。前述したいずれの例においても、インピーダンス計測部12は、固有周波数F1を含む第1の計測範囲、及び、固有周波数F2を含む第2の計測範囲を計測範囲として、複数の計測対象周波数のそれぞれについて、電池5のインピーダンスを計測する。そして、計測対象周波数の数は、5以下等の基準数以下の数となり、少なくなる。インピーダンス計測部12は、計測対象周波数のそれぞれでの電池5のインピーダンスの計測結果を、電池5のインピーダンスの周波数特性についての計測結果として、データ記憶部16に書込む。
【0038】
抵抗算出部13は、電池5のインピーダンスの周波数特性の計測結果、すなわち、複数の計測対象周波数のそれぞれでの電池5のインピーダンスの計測結果に基づいて、電池5のインピーダンスの抵抗成分を算出する。抵抗算出部13は、例えば、インピーダンスの抵抗成分として、第1の電極活物質の電荷移動抵抗、及び、第2の電極活物質の電荷移動抵抗を算出する。また、電池5において、第1の電極活物質が第1の電極の電極活物質として用いられ、第2の電極活物質が第1の電極とは反対の極性の第2の電極の電極活物質として用いられるとする。この場合、抵抗算出部13は、第1の電極活物質の電荷移動抵抗に基づいて、第1の電極の電荷移動抵抗を算出し、第2の電極活物質の電荷移動抵抗に基づいて、第2の電極の電荷移動抵抗を算出する。
【0039】
ここで、電池5のインピーダンス成分には、正極及び負極のそれぞれの電荷移動インピーダンスが含まれ、正極及び負極のそれぞれでは、電荷移動インピーダンスの抵抗成分が電荷移動抵抗となる。正極及び負極のそれぞれでは、電荷移動抵抗は、電極活物質の電荷移動抵抗に対応する大きさとなる。なお、電池5のインピーダンス成分には、電荷移動インピーダンスに加えて、電解質等でのリチウムの移動過程における抵抗を含むオーミック抵抗、拡散抵抗を含むワーブルグインピーダンス、及び、電池5のインダクタンス成分等が含まれる。抵抗算出部13は、計測対象周波数のそれぞれについての電池5のインピーダンスの計測結果等を用いて、正極及び負極のそれぞれの電荷移動抵抗等を含む電池5のインピーダンス成分を算出可能である。
【0040】
データ記憶部16には、電池5の等価回路に関する情報を含む等価回路モデルが、記憶される。等価回路モデルの等価回路では、電池5のインピーダンス成分に対応する複数の電気特性パラメータ(回路定数)が設定される。電気特性パラメータは、等価回路に設けられる回路素子の電気特性を示すパラメータである。電気特性パラメータとしては、抵抗、キャパシタンス(容量)、インダクタンス及びインピーダンス等が挙げられる。また、等価回路の回路素子として、コンデンサの代わりにCPE(constant phase element)が用いられる場合は、CPEの電気特性パラメータとして、キャパシタンス及びデバイの経験パラメータが設定される。等価回路の複数の電気特性パラメータには、固有周波数F3のインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータが、第2の電極活物質に電荷移動インピーダンスに対応する電気特性パラメータとして、含まれる。また、等価回路の複数の電気特性パラメータには、固有周波数F1のインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータ、及び、固有周波数F2のインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータが、第1の電極活物質の電荷移動インピーダンスに対応する電気特性パラメータとして、含まれてもよい。
【0041】
また、データ記憶部16に記憶される等価回路モデルには、固有周波数F1~F3のそれぞれと等価回路の電気特性パラメータとの関係を示すデータ、及び、等価回路の電気特性パラメータと電池5のインピーダンスとの関係を示すデータ等が、含まれる。固有周波数F1~F3のそれぞれと等価回路の電気特性パラメータとの関係を示すデータでは、例えば、固有周波数F1のインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータから固有周波数F1を算出する演算式、固有周波数F2のインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータから固有周波数F2を算出する演算式、及び、固有周波数F3のインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータから固有周波数F3を算出する演算式等が、示される。電気特性パラメータと電池5のインピーダンスとの関係を示すデータでは、例えば、電気特性パラメータ(回路定数)からインピーダンスの実数成分及び虚数成分のそれぞれを算出する演算式等が、示される。この場合、演算式では、電気特性パラメータ及び周波数等を用いて、電池5のインピーダンスの実数成分及び虚数成分のそれぞれが、算出される。
【0042】
抵抗算出部13は、等価回路を含む等価回路モデル、及び、計測対象周波数のそれぞれにおける電池5のインピーダンスの計測結果を用いて、フィッティング計算を行う。この際、等価回路の電気特性パラメータを変数としてフィッティング計算を行い、変数となる電気特性パラメータを算出する。また、フィッティング計算では、例えば、インピーダンスが計測された計測対象周波数のそれぞれにおいて、等価回路モデルに含まれる演算式を用いたインピーダンスの算出結果とインピーダンスの計測結果との差が可能な限り小さくなる状態に、変数となる電気特性パラメータの値を決定する。また、フィッティング計算では、固有周波数F1~F3のそれぞれとして、実際にインピーダンスを計測した周波数、又は、電池の温度及び充電量等に基づいて特定した周波数のいずれかを代入して、演算を行う。
【0043】
前述のようにフィッティング計算が行われることにより、固有周波数F1~F3のそれぞれのインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータが算出される。抵抗算出部13は、固有周波数F3のインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータについての算出結果に基づいて、第2の電極活物質の電荷移動インピーダンスの周波数特性、及び、第2の電極活物質の電荷移動抵抗を算出する。また、抵抗算出部13は、固有周波数F1のインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータについての算出結果、及び、固有周波数F2のインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータについての算出結果に基づいて、第1の電極活物質の電荷移動インピーダンスの周波数特性、及び、第1の電極活物質の電荷移動抵抗を算出する。第1の電極活物質及び第2の電極活物質のそれぞれの電荷移動インピーダンスの周波数特性は、例えば、複素インピーダンスプロット(Cole-Coleプロット)等のナイキスト図で示される。
【0044】
また、電池5において、第1の電極が第1の電極活物質を含み、かつ、第2の電極が第2の電極活物質を含むとする。この場合、抵抗算出部13は、第1の電極活物質の電荷移動インピーダンスの周波数特性、及び、第1の電極活物質の電荷移動抵抗についての算出結果に基づいて、第1の電極の電荷移動インピーダンスの周波数特性、及び、第1の電極の電荷移動抵抗等を算出する。そして、抵抗算出部13は、第2の電極活物質の電荷移動インピーダンスの周波数特性、及び、第2の電極活物質の電荷移動抵抗についての算出結果に基づいて、第2の電極の電荷移動インピーダンスの周波数特性、及び、第2の電極の電荷移動抵抗等を算出する。
【0045】
抵抗算出部13は、第1の電極活物質及び第2の電極活物質のそれぞれの電荷移動抵抗の算出結果等を含む電池5のインピーダンスの抵抗成分についての算出結果、及び、第1の電極活物質及び第2の電極活物質のそれぞれの電荷移動インピーダンスの周波数特性についての算出結果等を含む電池5のインピーダンス成分の周波数特性についての算出結果を、データ記憶部16に書込む。なお、電池の等価回路等は、特許文献1に示される。また、電池のインピーダンスの周波数特性についての計測結果、及び、電池の等価回路モデルを用いてフィッティング計算を行い、等価回路の電気特性パラメータ(回路定数)を算出する方法等も、特許文献1に示される。
【0046】
図4は、第1の実施形態においてフィッティング計算に用いられる電池の等価回路の一例を概略的に示す回路図である。
図4の一例の等価回路では、抵抗Ro1,Ro2,Rc1,Rc2,Rc3、キャパシタンスC1,C2,C3、インダクタンスL1、インピーダンスZw1,Zw2及びデバイの経験パラメータα1,α2,α3が、電池5のインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータとして設定される。ここで、抵抗Ro1,Ro2は、オーミック抵抗となる抵抗成分に対応し、インダクタンスL1は、電池5のインダクタンス成分に対応し、インピーダンスZw1,Zw2は、ワーブルグインピーダンスとなるインピーダンス成分に対応する。
【0047】
また、i=1,2,3とすると、キャパシタンスCi及びデバイの経験パラメータαiは、CPE(constant phase element)Qiの電気特性パラメータである。そして、抵抗Rci、キャパシタンスCi及びデバイの経験パラメータαiは、固有周波数Fiのインピーダンス成分に対応する。また、等価回路では、抵抗Rc1,Rc2、キャパシタンスC1,C2及びデバイの経験パラメータα1,α2は、第1の電極活物質の電荷移動インピーダンスとなるインピーダンス成分に対応し、抵抗Rc1,Rc2は、第1の電極活物質の電荷移動抵抗となる抵抗成分に対応する。そして、等価回路では、抵抗Rc3、キャパシタンスC3及びデバイの経験パラメータα3は、第2の電極活物質の電荷移動インピーダンスとなるインピーダンス成分に対応し、抵抗Rc3は、第2の電極活物質の電荷移動抵抗となる抵抗成分に対応する。
【0048】
図4の一例の等価回路がフィッティング計算に用いられる場合、抵抗Ro1,Ro2,Rc1,Rc2,Rc3及びキャパシタンスC1,C2,C3等を含む電気特性パラメータを用いて電池5のインピーダンスの実数成分及び虚数成分のそれぞれを算出する演算式が、等価回路モデルのデータに含まれる。また、抵抗Ro1,Ro2,Rc1,Rc2,Rc3及びキャパシタンスC1,C2,C3等を含む電気特性パラメータのいずれかを用いて固有周波数F1~F3のそれぞれを算出する演算式が、等価回路モデルのデータに含まれる。ある一例では、等価回路の電気特性パラメータから固有周波数Fiのそれぞれを算出する演算式として、以下の式(1)が、等価回路モデルのデータに含まれる。
【0049】
【0050】
そして、
図4の一例の等価回路に関する情報を含む等価回路モデル、及び、計測対象周波数のそれぞれでの電池5のインピーダンスの計測結果を用いて、前述したフィッティング計算を行い、等価回路の電気特性パラメータを算出する。ある一例では、フィッティング計算において変数となる抵抗Ro1,Ro2,Rc1,Rc2,Rc3、キャパシタンスC1,C2,C3及びデバイの経験パラメータα1,α2,α3等の電気特性パラメータが、算出される。
【0051】
前述のようにフィッティング計算によって等価回路の電気特性パラメータが算出されると、抵抗Rc1,Rc2の和を第1の電極活物質の電荷移動抵抗として算出する。また、抵抗Rc3を第2の電極活物質の電荷移動抵抗として算出する。また、第1の電極が第1の電極活物質のみを電極活物質として含み、第2の電極が第2の電極活物質のみを電極活物質として含むものとする。この場合、抵抗Rc1,Rc2の和を第1の電極の電荷移動抵抗として算出し、抵抗Rc3を第2の電極活物質の電荷移動抵抗として算出する。
【0052】
また、ある一例では、等価回路モデルのデータに、抵抗Rc1,Rc2、キャパシタンスC1,C2、デバイの経験パラメータα1,α2及び周波数等を用いて第1の電極活物質の電荷移動インピーダンスを算出する演算式、及び、抵抗Rc3、キャパシタンスC3、デバイの経験パラメータα3及び周波数等を用いて第2の電極活物質の電荷移動インピーダンスを算出する演算式が、含まれる。そして、フィッティング計算によって等価回路の電気特性パラメータが算出されると、抵抗Rc1,Rc2、キャパシタンスC1,C2及びデバイの経験パラメータα1,α2の算出結果を前述の演算式に代入する等して、第1の電極活物質の電荷移動インピーダンスの周波数特性を算出する。また、抵抗Rc3、キャパシタンスC3及びデバイの経験パラメータα3の算出結果を前述の演算式に代入する等して、第2の電極活物質の電荷移動インピーダンスの周波数特性を算出する。
【0053】
また、第1の電極が第1の電極活物質のみを電極活物質として含み、かつ、第2の電極が第2の電極活物質のみを電極活物質として含むとする。この場合、第1の電極活物質の電荷移動インピーダンスの周波数特性は、第1の電極の電荷移動インピーダンスの周波数特性として算出され、第2の電極活物質の電荷移動インピーダンスの周波数特性は、第2の電極の電荷移動インピーダンスの周波数特性として算出される。なお、第1の電極活物質(第1の電極)及び第2の電極活物質(第2の電極)のそれぞれのインピーダンスの周波数特性としては、例えば、複素インピーダンスプロットにおけるインピーダンス軌跡が算出される。
【0054】
図5は、第1の実施形態において計測された計測対象周波数のそれぞれでの電池のインピーダンスの計測結果、並びに、その計測結果に基づいて算出された第1の電極活物質(第1の電極)及び第2の電極活物質(第2の電極)のそれぞれの電荷移動インピーダンスの周波数特性の一例を示す概略図である。
図5では、複素インピーダンスプロットが示され、横軸がインピーダンスの実数成分Zreを、縦軸がインピーダンスの虚数成分-Zimを示す。
図5の一例では、周波数が低い順に周波数Fa、第2の計測範囲に含まれる固有周波数(第2の固有周波数)F2、第1の計測範囲に含まれる固有周波数(第1の固有周波数)F1及び周波数Fbの4つの計測対象周波数のそれぞれで、電池5のインピーダンスが計測される。
図5では、電池5のインピーダンスについて、周波数Faでの計測結果が点Maで、固有周波数F1での計測結果が点M1で、固有周波数F2での計測結果が点M2で、周波数Fbでの計測結果が点Mbで示される。また、
図5では、電池5のインピーダンスの計測結果を示す点Ma,M1,M2,Mbは黒塗りの丸で示す。
【0055】
図5の一例では、電池5のインピーダンスの計測結果、並びに、前述の等価回路モデルに基づいて算出された第1の電極活物質及び第2の電極活物質のそれぞれの電荷移動インピーダンスの周波数特性が示される。
図5の複素インピーダンスプロットでは、第1の電極活物質(第1の電極)の電荷移動インピーダンスの周波数特性として、インピーダンス軌跡Zc1が実線で示され、第2の電極活物質(第2の電極)の電荷移動インピーダンスの周波数特性として、インピーダンス軌跡Zc2が破線で示される。
【0056】
第1の電極活物質の電荷移動インピーダンスの周波数特性を示すインピーダンス軌跡Zc1では、円弧部分A1,A2が示される。複素インピーダンスプロットでは、円弧部分A2は、円弧部分A1に比べて、低い周波数領域に現れる。また、第2の電極活物質の電荷移動インピーダンスの周波数特性を示すインピーダンス軌跡Zc2では、円弧部分A3が示される。複素インピーダンスプロットでは、円弧部分A3は、円弧部分A1に比べて低い周波数領域で、かつ、円弧部分A2に比べて高い周波数領域に現れる。
【0057】
また、i=1,2,3とすると、
図5の複素インピーダンスプロットでは、円弧部分Aiの頂点Yiが、白抜きの丸で示される。頂点Y1は、固有周波数(第1の固有周波数)F1での第1の電極活物質(第1の電極)の電荷移動インピーダンスの算出結果を示し、頂点Y2は、固有周波数(第2の固有周波数)F2での第1の電極活物質(第1の電極)の電荷移動インピーダンスの算出結果を示す。そして、頂点Y3は、固有周波数(第2の固有周波数)F2での第1の電極活物質(第1の電極)の電荷移動インピーダンスの算出結果を示す。また、
図5の複素インピーダンスプロットでは、電池5のインピーダンスの周波数特性として、インピーダンス軌跡Z0が一点鎖線で示される。インピーダンス軌跡Z0の導出においては、例えば、フィッティング計算によって算出された電気特性パラメータの値を、電気特性パラメータ及び周波数等を用いて電池5のインピーダンスの実数成分及び虚数成分のそれぞれを算出する演算式に代入する等して、電池5のインピーダンスのインピーダンス軌跡Z0を算出する。
【0058】
判定部15は、電池5のインピーダンスの抵抗成分についての算出結果を取得し、例えば、第1の電極活物質(第1の電極)及び第2の電極活物質(第2の電極)のそれぞれの電荷移動抵抗の算出結果を取得する。また、判定部15は、第1の電極活物質(第1の電極)及び第2の電極活物質(第2の電極)のそれぞれの電荷移動インピーダンスの周波数特性についての算出結果を取得してもよい。ある一例では、判定部15は、第1の電極活物質及び第2の電極活物質のそれぞれの電荷移動抵抗の算出結果に基づいて、電池5の劣化について判定する。この場合、第1の電極活物質の電荷移動抵抗に関して電池5の使用開始時からの変化量(上昇量)が大きいほど、電池5の劣化度合いを高く判定し、第2の電極活物質の電荷移動抵抗に関して電池5の使用開始時からの変化量(上昇量)が大きいほど、電池5の劣化度合いを高く判定する。
【0059】
また、判定部15は、第1の電極活物質及び第2の電極活物質のそれぞれの電荷移動インピーダンスの周波数特性についての算出結果に基づいて、電池5の劣化等の電池5の状態について判定する。この場合、電池5の使用開始時からの第1の電極活物質の電荷移動インピーダンスの周波数特性の変化が大きいほど、電池5の劣化度合いを高く判定し、電池5の使用開始時からの第2の電極活物質の電荷移動インピーダンスの周波数特性の変化が大きいほど、電池5の劣化度合いを高く判定する。判定部15は、電池5の劣化等を含む電池5の状態についての判定結果を、データ記憶部16に書込む。
【0060】
図6は、第1の実施形態において診断装置によって行われる、電池の診断における処理の一例を概略的に示すフローチャートである。
図6の処理を開始すると、インピーダンス計測部12は、電池5の温度及び充電量等のリアルタイムの計測結果に基づいて、第1の電極活物質の固有周波数F1,F2を前述のように特定する(S51)。この際、リアルタイムの電池5の温度及び充電量等から、固有周波数F1,F2に加えて、第2の電極活物質の固有周波数F3を特定してもよい。そして、インピーダンス計測部12は、固有周波数F1を含む第1の計測範囲、及び、固有周波数F2を含む第2の計測範囲を計測範囲として、複数の計測対象周波数のそれぞれについて、電池5のインピーダンスを前述のようにして計測する(S52)。この際、複数の計測対象周波数には、第1の計測範囲の周波数及び第2の計測範囲の周波数に加えて、第1の計測範囲及び第2の計測範囲以外の周波数が含まれてもよい。そして、抵抗算出部13は、計測対象周波数のそれぞれでの電池5のインピーダンスの計測結果、及び、等価回路モデルを用いて前述のようにフィッティング計算を行うことにより、等価回路の電気特性パラメータを算出する(S53)。この際、等価回路の電気特性パラメータを変数として、フィッティング計算を行う。
【0061】
そして、抵抗算出部13は、等価回路の電気特性パラメータに基づいて、第1の電極活物質及び第2の電極活物質のそれぞれについて電荷移動抵抗を算出する(S54)。また、抵抗算出部13は、等価回路の電気特性パラメータに基づいて、第1の電極活物質及び第2の電極活物質のそれぞれについて電荷移動インピーダンスの周波数特性を算出する(S55)。なお、抵抗算出部13は、等価回路の電気特性パラメータに基づいて、第1の電極及び第2の電極のそれぞれの電荷移動抵抗、及び、第1の電極及び第2の電極のそれぞれについての電荷移動インピーダンスの周波数特性を算出してもよい。そして、判定部15は、第1の電極活物質及び第2の電極活物質のそれぞれの電荷移動抵抗の算出結果、及び、第1の電極活物質及び第2の電極活物質のそれぞれについての電荷移動インピーダンスの周波数特性の算出結果に基づいて、電池5の劣化等について判定する(S56)。
【0062】
前述のように本実施形態では、電池5において、第1の電極活物質のインピーダンスは、固有周波数F1及び固有周波数F1より小さい固有周波数F2を有し、第2の電極活物質のインピーダンスは、固有周波数F1,F2の間の大きさの固有周波数F3を有する。このような電池5では、固有周波数F1を含み、かつ、固有周波数F2,F3を含まない第1の計測範囲、並びに、固有周波数F2を含み、かつ、固有周波数F1,F3を含まない第2の計測範囲において電池5のインピーダンスを計測すれば、電池5のインピーダンスを計測する計測対象周波数の数が少なくても、前述のようにして電池5のインピーダンスの抵抗成分等が、適切に算出される。このため、本実施形態では、電池5のインピーダンスを計測する計測対象周波数の数を少なくしつつ、第1の電極活物質及び第2の電極活物質のそれぞれの電荷移動抵抗等が適切に算出され、電池5の劣化等が適切に診断される。
【0063】
本実施形態では、電池5のインピーダンスを計測する計測対象周波数の数が、5以下等の基準数以下になり、少なくなる。このため、電池5のインピーダンスの周波数特性を計測する計測時間が、短くなる。これにより、電池5の劣化等について診断する時間を、短くすることが可能となる。電池5のインピーダンスの周波数特性の計測時間、及び、電池5についての診断時間が短くなることにより、電池5のインピーダンスの周波数特性を計測するシステム構成、及び、電池5の劣化等について診断するシステム構成等の複雑化が抑制される。また、電池5のインピーダンスの周波数特性の計測、及び、電池5の診断に掛かるコスト等を低減可能となる。
【0064】
また、本実施形態では、固有周波数F3での電池5のインピーダンスを計測しなくても、固有周波数F1,F2(第1の計測範囲及び第2の計測範囲)のそれぞれでの電池5のインピーダンスの計測結果を用いて前述のフィッティング計算を行うことにより、第3の固有周波数のインピーダンス成分に対応する等価回路の電気特性パラメータが、適切に算出される。このため、固有周波数F3での電池5のインピーダンスを計測しなくても、固有周波数F3をインピーダンスが有する第2の電極活物質の電荷移動抵抗を適切に算出可能となり、第2の電極活物質の電荷移動インピーダンスの周波数特性を適切に算出可能となる。したがって、本実施形態では、第2の電極活物質のインピーダンスの固有周波数F3において電池5のインピーダンスを計測しなくても、第1の電極活物質及び第2の電極活物質のそれぞれの電荷移動抵抗等の電池5のインピーダンスの抵抗成分が適切に算出され、電池5の劣化等が適切に判定される。
【0065】
(変形例)
また、前述した実施形態等の第1の変形例では、診断装置3のインピーダンス計測部12は、電池5の作動状態及び使用状態(使用履歴)等に基づいて、電池5のインピーダンスを計測する計測範囲を判定する。
図7は、第1の変形例において診断装置のインピーダンス計測部等によって行われる、計測範囲についての判定処理の一例を概略的に示すフローチャートである。
図7に示す処理は、電池5の劣化等について診断を行う直前等において、実施される。
【0066】
図7の処理を開始すると、インピーダンス計測部12は、電池5が作動していない定常状態であるか否かを判定する(S61)。すなわち、電池5において充電及び放電のいずれかが行われているか否かが、判定される。電池5が定常状態である場合(S61-Yes)、すなわち、電池5において充電及び放電のいずれもが行われていない場合は、インピーダンス計測部12は、電池5の前回の作動が充電であったか否かを判定する(S62)。電池5の前回の作動が充電であったか否かについては、電池5の充電量の時間変化等に基づいて、判定可能である。電池5の前回の作動が充電でなかった場合(S62-No)、すなわち、電池5の前回の作動が放電であった場合は、インピーダンス計測部12は、計測範囲についての制限しない(S64)。一方、電池5の前回の作動が充電であった場合は(S62-Yes)、インピーダンス計測部12は、固有周波数F1を含む前述の第1の計測範囲、及び、固有周波数F2を含む前述の第2の計測範囲を計測範囲とする(S65)。
【0067】
また、電池5が定常状態でない場合(S61-No)、すなわち、電池5が作動している場合は、インピーダンス計測部12は、電池5が充電中であるか否かを判定する(S63)。電池5が充電中であるか否かについては、電池5の充電量の時間変化等に基づいて、判定可能である。電池5が充電中でない場合(S63-No)、すなわち、電池5が放電中である場合は、インピーダンス計測部12は、計測範囲についての制限しない(S64)。一方、電池5が充電中である場合は(S63-Yes)、インピーダンス計測部12は、第1の計測範囲及び第2の計測範囲を計測範囲とする(S65)。
図7等の処理が行われることにより、本変形例では、電池5が充電中である場合、及び、作動していない電池5の前回の作動が充電であった場合のそれぞれにおいて、第1の計測範囲及び第2の計測範囲を計測範囲として、複数の計測対象周波数のそれぞれにおける電池5のインピーダンスを計測する。第1の計測範囲及び第2の計測範囲を計測範囲とすることにより、電池5のインピーダンスを計測する計測対象周波数の数が、5以下等の基準数以下に決定され、計測対象周波数の数が少なくなる。
【0068】
S65等において第1の計測範囲及び第2の計測範囲が計測範囲として決定された場合、前述の実施形態等と同様にして、インピーダンス計測部12は、第1の計測範囲及び第2の計測範囲を計測範囲として、複数の計測対象周波数のそれぞれについて、電池5のインピーダンスを計測する。そして、計測対象周波数のそれぞれでの電池5のインピーダンスの計測結果を用いて、前述の実施形態等と同様にして、第1の電極活物質及び第2の電極活物質のそれぞれの電荷移動抵抗等の電池5のインピーダンスの抵抗成分が算出され、電池5の劣化等について判定される。
【0069】
また、S64等において計測範囲について制限しない場合、インピーダンス計測部12は、多数の計測対象周波数のそれぞれについて、電池5のインピーダンスを計測し、例えば、計測対象周波数の数は、基準数より多くなる。この場合も、計測対象周波数のそれぞれでの電池5のインピーダンスの計測結果、及び、前述の等価回路モデル等を用いてフィッティング計算を行うことにより、等価回路の電気特性パラメータを算出し、電池5のインピーダンスの抵抗成分等を算出する。そして、電池5のインピーダンスの抵抗成分等についての算出結果に基づいて、電池5の劣化等について判定される。ある一例では、計測範囲について制限しない決定がされた場合、固有周波数F1~F3を含む基準数の3倍以上の数の計測対象周波数のそれぞれについて、電池5のインピーダンスを計測する。
【0070】
ここで、電池5において、第1の電極活物質としてチタン酸リチウムが用いられ、チタン酸リチウムが、第1の電極となる負極の電極活物質として用いられるとする。このような電池5では、充電中においては、チタン酸リチウムの電荷移動インピーダンスの周波数特性を示すインピーダンス軌跡が、前述した2つの円弧部分A1,A2に分離し易く、チタン酸リチウムのインピーダンスの周波数特性において、前述の2つの固有周波数F1,F2が現れ易い傾向にある。一方、放電中では、チタン酸リチウムの電荷移動インピーダンスの周波数特性を示すインピーダンス軌跡が、2つの円弧部分A1,A2に分離し難く、チタン酸リチウムのインピーダンスの周波数特性において、2つの固有周波数F1,F2が現れにくい傾向にある。
【0071】
また、電池5が作動していない定常状態では、前回の電池の作動が充電であった場合は、チタン酸リチウムの電荷移動インピーダンスの周波数特性を示すインピーダンス軌跡が、2つの円弧部分A1,A2に分離し易く、チタン酸リチウムのインピーダンスの周波数特性において、2つの固有周波数F1,F2が現れ易い傾向にある。一方、電池5の定常状態であっても、前回の電池の作動が放電であった場合は、チタン酸リチウムの電荷移動インピーダンスの周波数特性を示すインピーダンス軌跡が、2つの円弧部分A1,A2に分離し難く、チタン酸リチウムのインピーダンスの周波数特性において、2つの固有周波数F1,F2が現れ難い傾向にある。
【0072】
前述のような傾向を有するため、第1の電極活物質としてチタン酸リチウムが用いられる電池5では、電池5のインピーダンスを計測する計測範囲を
図6の一例に示す処理等によって決定することにより、電池5のインピーダンスを計測する計測範囲は、電池5のインピーダンスの抵抗成分等を適切に算出可能な範囲に、決定される。すなわち、電池5の作動状態及び使用状態(使用履歴)等に対応させて、電池5の劣化等を適切に判定可能な範囲に、電池5のインピーダンスを計測する計測範囲が、決定される。
【0073】
また、ある変形例では、電池5が放電中である場合、及び、作動していない電池5の前回の作動が放電であった場合は、電池5のインピーダンスの周波数特性を計測せず、電池5の劣化等について診断しなくてもよい。本変形例でも、電池5が充電中である場合、及び、作動していない電池5の前回の作動が充電であった場合は、前述の第1の計測範囲及び第2の計測範囲が、電池5のインピーダンスを計測する計測範囲として決定される。そして、固有周波数F1を含む第1の計測範囲、及び、固有周波数F2を含む第2の計測範囲を計測範囲として、複数の計測対象周波数のそれぞれについて、電池5のインピーダンスが計測され、計測対象周波数のそれぞれでの電池5のインピーダンスの計測結果に基づいて、電池5のインピーダンスの抵抗成分の算出、及び、電池5の劣化等についての判定が行われる。
【0074】
なお、いくつかの変形例について説明したが、変形例のそれぞれにおいても、前述した実施形態等と同様の作用及び効果を奏する。すなわち、変形例のそれぞれにおいても、電池5のインピーダンスの周波数特性を計測する計測時間を短縮可能であり、電池5の劣化について適切に診断される。
【0075】
[実施形態に関連する検証]
また、前述の実施形態等に関連する検証として、以下の検証を行った。
【0076】
(参考例)
参考例では、単セル(単電池)となる電池(二次電池)について、インピーダンスの周波数特性の計測、及び、インピーダンスの抵抗成分の算出を行い、診断を行った。診断対象となる電池では、第1の電極となる負極の電極活物質としてチタン酸リチウムを用い、第2の電極となる正極の電極活物質としてニッケルコバルトマンガン酸化物を用いた。このため、診断対象となる電池は、チタン酸リチウムを第1の電極活物質として含み、かつ、ニッケルコバルトマンガン酸化物を第2の電極活物質として含む構成となった。電池では、正極及び負極を備える電極群を、ラミネートフィルムから形成される外装部の内部に収容した。また、診断対象となる電池の電池容量は、1.5Ahであった。
【0077】
電池のインピーダンスの周波数特性は、交流インピーダンス法により計測した。この際、0.05Hz以上3000Hz以下の範囲で電流波形の周波数を変化させながら、電池に交流電流を入力した。そして、実施形態等で前述したようにして、複数の計測対象周波数のそれぞれについて、電池5のインピーダンスを計測した。参考例では、多数の計測対象周波数のそれぞれで、電池5のインピーダンスを計測した。また、基準数を5とすると、参考例では、計測対象周波数の数を、基準数の3倍以上とし、15以上の数の計測対象周波数のそれぞれで、電池のインピーダンスを計測した。また、実施形態等で前述したように第1の計測範囲及び第2の計測範囲を規定すると、参考例では、第1の計測範囲及び第2の計測範囲は、インピーダンスを計測した計測範囲に含まれた。
【0078】
また、電池のインピーダンスの周波数特性の計測においては、第1の電極活物質であるチタン酸リチウムのインピーダンスが1000Hz及び0.55Hzの2つの固有周波数を有し、かつ、第2の電極活物質であるニッケルコバルトマンガン酸化物のインピーダンスが13.7Hzを固有周波数として有する状態に、電池の温度及び充電量等を調整した。このため、参考例では、1000Hzが固有周波数(第1の固有周波数)F1に相当し、かつ、0.55Hzが固有周波数(第2の固有周波数)F2に相当し、かつ、13.7Hzが固有周波数(第3の固有周波数)F3に相当する状態で、電池のインピーダンスの周波数特性を計測した。また、電池のインピーダンスを計測する計測対象周波数には、0.05Hz、0.55Hz、13.7Hz、1000Hz及び3000Hzを含めた。そして、対数スケール(log10スケール)で計測対象周波数の間が等間隔になる状態に、計測対象周波数のそれぞれを決定した。参考例では、前述のようにして行われた電池のインピーダンスの周波数特性の計測に要した計測時間を算出した。
【0079】
また、参考例では、計測対象周波数のそれぞれでの電池のインピーダンスの計測結果、及び、前述した等価回路モデルを用いたフィッティング計算を行うことにより、等価回路の電気特性パラメータを算出した。そして、等価回路の電気特性パラメータの算出結果に基づいて、第1の電極活物質であるチタン酸リチウムの電荷移動抵抗、すなわち、第1の電極である負極の電荷移動抵抗を算出した。また、等価回路の電気特性パラメータの算出結果に基づいて、第2の電極活物質であるニッケルコバルトマンガン酸化物の電荷移動抵抗、すなわち、第2の電極である正極の電荷移動抵抗を算出した。そして、負極の電荷移動抵抗と正極の電荷移動抵抗との比率を算出した。
【0080】
(実施例1)
実施例1でも、参考例と同様の構成の電池について、電池のインピーダンスの周波数特性を計測した。また、実施例1でも、電池のインピーダンスの周波数特性の計測において、チタン酸リチウム及びニッケルコバルトマンガン酸化物のそれぞれのインピーダンスが参考例と同様の固有周波数を有する状態に、電池の温度及び充電量等を調整した。ただし、実施例1では、0.05Hz、0.55Hz、13.7Hz、1000Hz及び3000Hzの5つの周波数のみを、電池のインピーダンスを計測する計測対象周波数とし、計測対象周波数の数が基準数以下(5以下)となった。前述のように計測対象周波数が決定されたため、電池のインピーダンスを計測する計測対象周波数には、第1の電極活物質であるチタン酸リチウムのインピーダンスの2つの固有周波数(F1,F2)、及び、第2の電極活物質であるニッケルコバルトマンガン酸化物のインピーダンスの固有周波数(F3)が含まれた。以上のようにして、実施例1では、1000Hzである固有周波数F1を含む第1の計測範囲、及び、0.55Hzである固有周波数F2を含む第2の計測範囲を計測範囲として、電池のインピーダンスを計測した。
【0081】
実施例1でも、参考例と同様に、電池のインピーダンスの周波数特性の計測に要した計測時間を算出した。また、実施例1でも、参考例と同様にして、第1の電極である負極の電荷移動抵抗、及び、第2の電極である正極の電荷移動抵抗を算出した。そして、負極の電荷移動抵抗と正極の電荷移動抵抗との比率を算出した。
【0082】
(実施例2)
実施例2でも、参考例と同様の構成の電池について、電池のインピーダンスの周波数特性を計測した。また、実施例2でも、電池のインピーダンスの周波数特性の計測において、チタン酸リチウム及びニッケルコバルトマンガン酸化物のそれぞれのインピーダンスが参考例と同様の固有周波数を有する状態に、電池の温度及び充電量等を調整した。ただし、実施例2では、0.05Hz、0.55Hz、1000Hz及び3000Hzの4つの周波数のみを、電池のインピーダンスを計測する計測対象周波数とし、計測対象周波数の数が基準数以下(5以下)となった。前述のように計測対象周波数が決定されたため、電池のインピーダンスを計測する計測対象周波数には、第1の電極活物質であるチタン酸リチウムのインピーダンスの2つの固有周波数(F1,F2)が含まれた。ただし、第2の電極活物質であるニッケルコバルトマンガン酸化物のインピーダンスの固有周波数(F3)は、計測対象周波数に含まれなかった。以上のようにして、実施例2でも、1000Hzである固有周波数F1を含む第1の計測範囲、及び、0.55Hzである固有周波数F2を含む第2の計測範囲を計測範囲として、電池のインピーダンスを計測した。
【0083】
実施例2でも、参考例と同様に、電池のインピーダンスの周波数特性の計測に要した計測時間を算出した。また、実施例2でも、参考例と同様にして、第1の電極である負極の電荷移動抵抗、及び、第2の電極である正極の電荷移動抵抗を算出した。そして、負極の電荷移動抵抗と正極の電荷移動抵抗との比率を算出した。
【0084】
(比較例1)
比較例1でも、参考例と同様の構成の電池について、電池のインピーダンスの周波数特性を計測した。また、比較例1でも、電池のインピーダンスの周波数特性の計測において、チタン酸リチウム及びニッケルコバルトマンガン酸化物のそれぞれのインピーダンスが参考例と同様の固有周波数を有する状態に、電池の温度及び充電量等を調整した。ただし、比較例1では、0.05Hz、0.55Hz、13.7Hz及び3000Hzの4つの周波数のみを、電池のインピーダンスを計測する計測対象周波数とし、計測対象周波数の数が基準数以下(5以下)となった。前述のように計測対象周波数が決定されたため、電池のインピーダンスを計測する計測対象周波数には、第1の電極活物質であるチタン酸リチウムのインピーダンスの2つの固有周波数(F1,F2)の低い側の一方(F2)、及び、2の電極活物質であるニッケルコバルトマンガン酸化物のインピーダンスの固有周波数(F3)が含まれた。ただし、チタン酸リチウムのインピーダンスの2つの固有周波数(F1,F2)の高い側の一方(F1)は、計測対象周波数に含まれなかった。以上のようにして、比較例1では、0.55Hzである固有周波数F2を含む第2の計測範囲を計測範囲としたが、1000Hzである固有周波数F1を含む第1の計測範囲を計測範囲とせずに、電池のインピーダンスを計測した。
【0085】
比較例1でも、参考例と同様に、電池のインピーダンスの周波数特性の計測に要した計測時間を算出した。また、比較例1でも、参考例と同様にして、第1の電極である負極の電荷移動抵抗、及び、第2の電極である正極の電荷移動抵抗を算出した。そして、負極の電荷移動抵抗と正極の電荷移動抵抗との比率を算出した。
【0086】
(比較例2)
比較例2でも、参考例と同様の構成の電池について、電池のインピーダンスの周波数特性を計測した。また、比較例2でも、電池のインピーダンスの周波数特性の計測において、チタン酸リチウム及びニッケルコバルトマンガン酸化物のそれぞれのインピーダンスが参考例と同様の固有周波数を有する状態に、電池の温度及び充電量等を調整した。ただし、比較例2では、0.05Hz、13.7Hz、1000Hz及び3000Hzの4つの周波数のみを、電池のインピーダンスを計測する計測対象周波数とし、計測対象周波数の数を基準数以下(5以下)とした。前述のように計測対象周波数が決定されたため、電池のインピーダンスを計測する計測対象周波数には、第1の電極活物質であるチタン酸リチウムのインピーダンスの2つの固有周波数(F1,F2)の高い側の一方(F1)、及び、2の電極活物質であるニッケルコバルトマンガン酸化物のインピーダンスの固有周波数(F3)が含まれた。ただし、チタン酸リチウムのインピーダンスの2つの固有周波数(F1,F2)の低い側の一方(F2)は、計測対象周波数に含まれなかった。以上のようにして、比較例2では、1000Hzである固有周波数F1を含む第1の計測範囲を計測範囲としたが、0.55Hzである固有周波数F2を含む第2の計測範囲を計測範囲とせずに、電池のインピーダンスを計測した。
【0087】
比較例2でも、参考例と同様に、電池のインピーダンスの周波数特性の計測に要した計測時間を算出した。また、比較例2でも、参考例と同様にして、第1の電極である負極の電荷移動抵抗、及び、第2の電極である正極の電荷移動抵抗を算出した。そして、負極の電荷移動抵抗と正極の電荷移動抵抗との比率を算出した。
【0088】
(検証結果及び考察)
電池のインピーダンスの周波数特性についての計測時間は、参考例で150s、実施例1で31s、実施例2で29s、比較例1で29s、及び、比較例2で25sとなった。このため、電池のインピーダンスを計測する計測対象周波数の数を基準数以下にする等して計測対象周波数(計測点)の数を少なくすることで、電池のインピーダンスの周波数特性を計測する計測時間が短くなることが、実証された。
【0089】
また、負極(第1の電極)の電荷移動抵抗と正極(第2の電極)の電荷移動抵抗との比率は、参考例で40:60、実施例1で33:67、実施例2で45:55、比較例1で65:35及び比較例2で20:80となった。このため、負極の電荷移動抵抗と正極の電荷移動抵抗との比率に関しては、参考例での算出結果に対する実施例1,2のそれぞれでの算出結果の差が、参考例での算出結果に対する比較例1,2のそれぞれでの算出結果の差に比べて、小さくなった。すなわち、実施例1,2のそれぞれでは、比較例1,2に比べて、負極及びと正極のそれぞれの電荷移動抵抗が高い精度で算出され、電池のインピーダンスの抵抗成分が高い精度で推定された。
【0090】
したがって、チタン酸リチウムのインピーダンスの2つの固有周波数を計測対象周波数に含め、計測対象周波数のそれぞれでの電池のインピーダンスの計測結果を用いて電池の抵抗成分を推定することにより、計測対象周波数の数を少なくしても高い精度で電池のインピーダンスの抵抗成分が適切に推定されることが、実証された。すなわち、固有周波数F1を含む第1の計測範囲、及び、固有周波数F2を含む第2の計測範囲を計測範囲としてインピーダンスを計測することにより、計測対象周波数の数を少なくしても高い精度で電池のインピーダンスの抵抗成分が適切に推定されることが、実証された。そして、チタン酸リチウムのインピーダンスの2つの固有周波数の少なくとも一方が計測対象周波数に含まれない場合は、計測対象周波数の数を少なくすると、電池のインピーダンスの抵抗成分の推定における精度が低くなることが、実証された。すなわち、第1の計測範囲及び第2の計測範囲の少なくとも一方が計測範囲に含まずにインピーダンスを計測した場合は、計測対象周波数の数を少なくすると、電池のインピーダンスの抵抗成分の推定における精度が低くなることが、実証された。
【0091】
前述の少なくとも一つの実施形態又は実施例では、第1の固有周波数及び第1の固有周波数より小さい第2の固有周波数をインピーダンスが有する第1の電極活物質、並びに、第1の固有周波数と第2の固有周波数との間の大きさの第3の固有周波数をインピーダンスが有する第2の電極活物質を電極活物質として含む電池について、診断する。そして、第1の固有周波数を含み、かつ、第2の固有周波数及び第3の固有周波数を含まない第1の計測範囲、並びに、第2の固有周波数を含み、かつ、第1の固有周波数及び第3の固有周波数を含まない第2の計測範囲を計測範囲として、複数の計測対象周波数のそれぞれについて、電池のインピーダンスを計測する。そして、計測対象周波数のそれぞれにおける電池のインピーダンスの計測結果に基づいて、電池の状態に関して判定する。これにより、電池のインピーダンスの周波数特性を計測する計測時間が短くなり、電池の劣化について適切に診断する電池の診断方法、電池の診断装置、電池の管理システム、及び、電池の診断プログラムを提供することができる。
【0092】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下、付記を記載する。
[1]第1の固有周波数及び第1の固有周波数より小さい第2の固有周波数をインピーダンスが有する第1の電極活物質、並びに、前記第1の固有周波数と前記第2の固有周波数との間の大きさの第3の固有周波数をインピーダンスが有する第2の電極活物質を電極活物質として含む電池の診断方法であって、
前記第1の固有周波数を含み、かつ、前記第2の固有周波数及び前記第3の固有周波数を含まない第1の計測範囲、並びに、前記第2の固有周波数を含み、かつ、前記第1の固有周波数及び前記第3の固有周波数を含まない第2の計測範囲を計測範囲として、複数の計測対象周波数のそれぞれについて、前記電池のインピーダンスを計測することと、
前記計測対象周波数のそれぞれにおける前記電池の前記インピーダンスの計測結果に基づいて、前記電池の状態に関して判定することと、
を具備する、診断方法。
[2]前記電池の状態に関する判定では、
前記計測対象周波数のそれぞれにおける前記電池の前記インピーダンスの前記計測結果に基づいて、前記第2の電極活物質の電荷移動インピーダンスの周波数特性、及び、前記第2の電極活物質の電荷移動抵抗を算出する、
[1]に記載の診断方法。
[3]前記第2の電極活物質の前記電荷移動インピーダンスの前記周波数特性、及び、前記第2の電極活物質の前記電荷移動抵抗の算出では、
前記第3の固有周波数のインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータを含む複数の電気特性パラメータが設定される等価回路、及び、前記計測対象周波数のそれぞれにおける前記電池の前記インピーダンスの前記計測結果を用いてフィッティング計算を行うことにより、前記等価回路の前記電気特性パラメータのそれぞれを算出し、
前記第3の固有周波数の前記インピーダンス成分に対応する前記電気特性パラメータについての算出結果に基づいて、前記第2の電極活物質の前記電荷移動インピーダンスの前記周波数特性、及び、前記第2の電極活物質の前記電荷移動抵抗を算出する、
[2]に記載の診断方法。
[4]前記電池の状態に関する判定では、
前記計測対象周波数のそれぞれにおける前記電池の前記インピーダンスの前記計測結果に基づいて、前記第1の電極活物質の電荷移動インピーダンスの周波数特性、及び、前記第1の電極活物質の電荷移動抵抗を算出する、
[1]から[3]のいずれか1つに記載の診断方法。
[5]前記第1の電極活物質の前記電荷移動インピーダンスの前記周波数特性、及び、前記第1の電極活物質の前記電荷移動抵抗の算出では、
前記第1の固有周波数のインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータ及び前記第2の固有周波数のインピーダンス成分に対応する電気特性パラメータを含む複数の電気特性パラメータが設定される等価回路、並びに、前記計測対象周波数のそれぞれにおける前記電池の前記インピーダンスの前記計測結果を用いてフィッティング計算を行うことにより、前記等価回路の前記電気特性パラメータを算出し、
前記第1の固有周波数及び前記第2の固有周波数のそれぞれの前記インピーダンス成分に対応する前記電気特性パラメータについての算出結果に基づいて、前記第1の電極活物質の前記電荷移動インピーダンスの前記周波数特性、及び、前記第1の電極活物質の前記電荷移動抵抗を算出する、
[4]に記載の診断方法。
[6]前記電池の充電量、SOC及び温度の少なくとも1つに基づいて、前記第1の電極活物質の前記インピーダンスの前記第1の固有周波数及び前記第2の固有周波数を特定することをさらに具備する、[1]から[4]のいずれか1つに記載の診断方法。
[7]前記電池が作動している状態において、前記電池が充電中であるか否かを判定するとともに、前記電池が作動していない状態において、前記電池の前回の作動が充電であったか否かを判定することと、
前記電池が前記充電中である場合、及び、作動していない前記電池の前記前回の前記作動が前記充電であった場合のそれぞれにおいて、前記第1の計測範囲及び前記第2の計測範囲を計測範囲として、前記計測対象周波数のそれぞれにおける前記電池の前記インピーダンスを計測することと、
をさらに具備する、[1]から[6]のいずれか1つに記載の診断方法。
[8]第1の固有周波数及び第1の固有周波数より小さい第2の固有周波数をインピーダンスが有する第1の電極活物質、並びに、前記第1の固有周波数と前記第2の固有周波数との間の大きさの第3の固有周波数をインピーダンスが有する第2の電極活物質を電極活物質として含む電池の診断装置であって、
前記第1の固有周波数を含み、かつ、前記第2の固有周波数及び前記第3の固有周波数を含まない第1の計測範囲、並びに、前記第2の固有周波数を含み、かつ、前記第1の固有周波数及び前記第3の固有周波数を含まない第2の計測範囲を計測範囲として、複数の計測対象周波数のそれぞれについて、前記電池のインピーダンスを計測し、
前記計測対象周波数のそれぞれにおける前記電池の前記インピーダンスの計測結果に基づいて、前記電池の状態に関して判定する、
プロセッサを具備する、診断装置。
[9][8]に記載の診断装置と、
前記診断装置によって診断される前記電池と、
を具備する前記電池の管理システム。
[10]前記電池では、前記第1の電極活物質の前記インピーダンスの前記第2の固有周波数に対する前記第1の電極活物質の前記インピーダンスの前記第1の固有周波数の比率が、50以上5000以下となる、[9]に記載の管理システム。
[11]前記電池では、前記第1の電極活物質の前記インピーダンスの前記第2の固有周波数に対する前記第2の電極活物質の前記インピーダンスの前記第3の固有周波数の比率が、10以上1000以下となる、[9]又は[10]に記載の管理システム。
[12]前記第1の電極活物質は、二相共存反応する電極活物質であり、
前記第2の電極活物質は、単一相反応する電極活物質である、
[9]から[11]のいずれか1つに記載の管理システム。
[13]前記第1の電極活物質は、チタン酸リチウム又はリン酸鉄リチウムである、[12]に記載の管理システム。
[14]前記電池は、
前記第1の電極活物質を電極活物質として含む第1の電極と、
前記第1の電極とは反対の極性になり、前記第2の電極活物質を電極活物質として含む第2の電極と、
を備える、[9]から[13]のいずれか1つに記載の管理システム。
[15]第1の固有周波数及び第1の固有周波数より小さい第2の固有周波数をインピーダンスが有する第1の電極活物質、並びに、前記第1の固有周波数と前記第2の固有周波数との間の大きさの第3の固有周波数をインピーダンスが有する第2の電極活物質を電極活物質として含む電池の診断プログラムであって、コンピュータに、
前記第1の固有周波数を含み、かつ、前記第2の固有周波数及び前記第3の固有周波数を含まない第1の計測範囲、並びに、前記第2の固有周波数を含み、かつ、前記第1の固有周波数及び前記第3の固有周波数を含まない第2の計測範囲を計測範囲として、複数の計測対象周波数のそれぞれについて、前記電池のインピーダンスを計測させ、
前記計測対象周波数のそれぞれにおける前記電池の前記インピーダンスの計測結果に基づいて、前記電池の状態に関して判定させる、
診断プログラム。