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特許7547667海水エビの馴化方法、及びアクアポニックスによる育成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】海水エビの馴化方法、及びアクアポニックスによる育成方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/59 20170101AFI20240902BHJP
   A01G 31/00 20180101ALI20240902BHJP
【FI】
A01K61/59
A01G31/00 601A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024030551
(22)【出願日】2024-02-29
【審査請求日】2024-02-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503272416
【氏名又は名称】張 振亜
(73)【特許権者】
【識別番号】524079096
【氏名又は名称】張 振家
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【弁理士】
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】金 美貞
(72)【発明者】
【氏名】正司 明夫
(72)【発明者】
【氏名】小林 俊秋
(72)【発明者】
【氏名】石沢 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】程 燕飛
(72)【発明者】
【氏名】飯田 健斗
(72)【発明者】
【氏名】張 振亜
(72)【発明者】
【氏名】張 振家
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-43252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/59
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水エビが飼育されている飼育水の塩分濃度を、1日あたり0.10~0.50質量%低減する塩分濃度低減工程を有すること
を特徴とする海水エビの馴化方法。
【請求項2】
前記塩分濃度低減工程は、少なくとも酸素を含む気体を前記飼育水に吹き込むことにより酸素マイクロバブル水又は酸素ナノバブル水を生成すること
を特徴とする請求項1に記載の海水エビの馴化方法。
【請求項3】
前記塩分濃度低減工程は、緑色光が照射された状態で前記飼育水の塩分濃度を低減すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の海水エビの馴化方法。
【請求項4】
前記塩分濃度低減工程は、予め人工水草が設けられた収容部内の前記飼育水の塩分濃度を低減すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の海水エビの馴化方法。
【請求項5】
前記飼育水は、前記塩分濃度低減工程の前後において、前記飼育水1L当たりの溶質の質量として、
35~320mgのMg2+と、
25~250mgのCa2+と、
8~80mgのK+と、
を含み、
+の質量に対するMg2+の質量の比を示す第1質量比が0.7~5.0であり、
+の質量に対するCa2+の質量の比を第2質量比が0.5~5.0であり、
Ca2+の質量に対するMg2+の質量の比を示す第3質量比が0.7~1.4であること
を特徴とする請求項1又は2に記載の海水エビの馴化方法。
【請求項6】
海水エビが飼育されている飼育水の塩分濃度を、1日あたり0.10~0.50質量%低減する塩分濃度低減工程と、
前記海水エビの排泄物を生分解して分解液を生成する分解液生成工程と、
前記塩分濃度低減工程により塩分濃度が低減された前記飼育水を用いて水耕栽培される植物に、前記分解液生成工程により生成された前記分解液を供給する分解液供給工程と、
を有すること
を特徴とするアクアポニックスによる育成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、海水エビを海水よりも塩分濃度が低い低塩分の飼育水に馴化させる海水エビの馴化方法と、その低塩分の飼育水を用いて水耕栽培を行うアクアポニックスによる育成方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、甲殻類の陸上養殖方法が研究されている。海水エビは、体長0.5cmの稚エビから体長12~15cmの食用エビとなるまで約3~4ヶ月と、大変成長が早いことで知られている。中でも、バナメイエビは、環境適応力、疾病抵抗性及び成長速度が高く、低タンパク質の飼料での生育可能であり、成長後においては高タンパク質含有、水中以外での長期生存可能など、高収益化を図りやすく注目されつつある。しかし、日本国内においては、海水エビの養殖方法として、海水又は海水相当の塩分濃度を有する飼育水を用いて、閉鎖型循環式もしくはかけ流し式の陸上養殖を行っているため、実施可能エリアが海に近い地域に限定され、さらに適正な水質管理を行うためのコストが生じる。このため、より塩分濃度の低い、淡水に近い環境もしくは完全淡水環境において養殖可能なエビの育成方法が切望されている。
【0003】
特許文献1には、塩分濃度が1~10ppt(1~10‰=0.1~1.0%)の飼育水を用いて海水産の食用エビを育成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-43252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された方法によれば、海水の飼育水を段階的に置換することでエビを段階的に低塩分濃度に順応させ、最終的な塩分濃度を0.5%(5ppt)とするときは1日で、0.1%(1ppt)とするときは3~7日かけて全量置換する方法が開示されている(明細書段落[0027]-[0028]参照)。また、塩分濃度とエビの成長率との関係について、塩分3%(30ppt)の海水で飼育した群、及び塩分0.5%(5ppt)の飼育水で飼育したエビは、塩分0.15%(1.5ppt)及び塩分0.2%(2ppt)の低塩分濃度で飼育した2群と比べて、体重増加率及び体成長率が高く、生存率も高いという結果が記載されている(明細書段落[0057]、図2参照)。
【0006】
ここで、エビの低塩分濃度への順応において、エビの生存率は1日あたりの塩分濃度低減量によって左右されるところ、特許文献1にはその点が開示されていないため、エビの生存率を高めて陸上養殖の効率向上を図ることができない。また、特許文献1に開示された方法によれば、完全淡水環境(塩分濃度0.05%以下)及び淡水に近い環境(塩分濃度0.5%未満)を含む低塩分環境において、海水環境と比べてエビの成長率向上を図ることができない問題がある。
【0007】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、海水エビについて陸上養殖の効率向上を図るとともに、確実に成長促進を図ることができる海水エビの馴化方法、アクアポニックスによる育成方法、海水エビの馴化システム、及びアクアポニックスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明における海水エビの馴化方法は、海水エビが飼育されている飼育水の塩分濃度を、1日あたり0.10~0.50質量%低減する塩分濃度低減工程を有することを特徴とする。
【0009】
第2発明における海水エビの馴化方法は、第1発明において、前記塩分濃度低減工程は、少なくとも酸素を含む気体を前記飼育水に吹き込むことにより酸素マイクロバブル又は酸素ナノバブルを生成することを特徴とする。
【0010】
第3発明における海水エビの馴化方法は、第1発明又は第2発明において、前記塩分濃度低減工程は、緑色光が照射された状態で前記飼育水の塩分濃度を低減することを特徴とする。
【0011】
第4発明における海水エビの馴化方法は、第1発明又は第2発明において、前記塩分濃度低減工程は、予め人工水草が設けられた収容部内の前記飼育水の塩分濃度を低減することを特徴とする。
【0012】
第5発明における海水エビの馴化方法は、第1発明又は第2発明において、前記飼育水は、前記塩分濃度低減工程の前後において、前記飼育水1L当たりの溶質の質量として、35~320mgのMg2+と、25~250mgのCa2+と、8~80mgのK+と、を含み、K+の質量に対するMg2+の質量の比を示す第1質量比が0.7~5.0であり、K+の質量に対するCa2+の質量の比を第2質量比が0.5~5.0であり、Ca2+の質量に対するMg2+の質量の比を示す第3質量比が0.7~1.4であることを特徴とする。
【0013】
第6発明におけるアクアポニックスによる育成方法は、海水エビが飼育されている飼育水の塩分濃度を、1日あたり0.10~0.50質量%低減する塩分濃度低減工程と、前記海水エビの排泄物を生分解して分解液を生成する分解液生成工程と、前記塩分濃度低減工程により塩分濃度が低減された前記飼育水を用いて水耕栽培される植物に、前記分解液生成工程により生成された前記分解液を供給する分解液供給工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1発明~第6発明によれば、海水エビが飼育されている飼育水の塩分濃度を1日あたり0.10~0.50質量%低減する塩分濃度低減工程を有する。このため、海水エビを効率よく低塩分環境に馴化させることができる。これにより、海水エビについて陸上養殖の効率向上を図ることができる。また、海水と比べて海水エビの体重を効率よく増加させることができる。これにより、海水エビについて確実に成長促進を図ることができる。
【0017】
特に、第2発明によれば、塩分濃度低減工程は、少なくとも酸素を含む気体を飼育水に吹き込むことにより酸素マイクロバブル水又は酸素ナノバブル水を生成する。このため、海水エビの体重を効率よく増加させることができる。これにより、海水エビについて確実にさらなる成長促進を図ることができる。
【0018】
特に、第3発明によれば、塩分濃度低減工程は、緑色光が照射された状態で飼育水の塩分濃度を低減する。このため、海水エビの体重を効率よく増加させることができる。これにより、海水エビについて確実にさらなる成長促進を図ることができる。
【0019】
特に、第4発明によれば、塩分濃度低減工程は、予め人工水草が設けられた収容部内の飼育水の塩分濃度を低減する。このため、海水エビの生存率を向上させることができる。これにより、海水エビについて陸上養殖のさらなる効率向上を図ることができる。
【0020】
特に、第5発明によれば、海水エビが飼育されている飼育水の塩分濃度を1日あたり0.10~0.50質量%低減する塩分濃度低減工程と、エビの排泄物を生分解して分解液を生成する分解液生成工程と、塩分濃度が低減された飼育水を用いて水耕栽培される植物に、生成された分解液を供給する分解液供給工程と、を有する。このため、海水エビの体重と植物の重量とを効率よく増加させることができる。これにより、海水エビについて塩害に弱い植物または淡水下で生育可能な植物と同時に確実に成長促進を図ることができる。
【0021】
特に、第6発明によれば、飼育水は、塩分濃度低減工程の前後において、35~320mgのMg2+と、25~250mgのCa2+と、8~80mgのK+と、を含み、第1質量比が0.7~5.0であり、第2質量比が0.5~5.0であり、第3質量比が0.7~1.4である。このため、海水エビの生存率を75%以上とすることができる。これにより、海水エビについて陸上養殖のさらなる効率向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本実施形態における海水エビの馴化方法に用いる馴化システムの一例を示す模式図である。
図2図2は、本実施形態における海水エビの馴化方法の一例を示すフローチャートである。
図3図3(a)~図3(b)は、本実施形態の海水エビの馴化方法の一例を示す模式図である。
図4図4は、本実施形態における海水エビの馴化方法により馴化された海水エビを用いるアクアポニックスによる育成方法の一例を示す模式図である。
図5図5は、本実施形態における海水エビの馴化方法により馴化された海水エビを用いるアクアポニックスによる育成方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態としての海水エビAの馴化方法、アクアポニックス2による育成方法、海水エビAの馴化システム1、及びアクアポニックス2の一例について詳細に説明をする。なお、各図における構成は、説明のため模式的に記載されており、例えば各構成の大きさや、構成毎における大きさの対比等については、図とは異なってもよい。
【0026】
(海水エビAの馴化方法)
図1図3を参照して、本実施形態における海水エビAの馴化方法の一例を説明する。まず、本実施形態の海水エビAの馴化方法に用いる馴化システム1について説明する。
【0027】
<馴化システム1>
馴化システム1は、海水エビAを育成するための装置である。馴化システム1は、例えば図1に示すように、収容部11と、塩分濃度低減部12と、を備える。馴化システム1は、ろ過装置51と、消毒装置52と、気泡発生装置53と、水質監視装置54と、温度制御装置55と、自動給餌装置56と、照明部57と、人工水草6と、をさらに備えてもよい。
【0028】
馴化システム1は、例えば陸上養殖など、海水の調達が困難な土地で用いられる。馴化システム1は、例えば収容部11に対して海水又は塩分濃度が海水よりも低い水を継続的に引き込むかけ流し式でもよく、収容部11内の水を循環利用する閉鎖循環式でもよい。
【0029】
<収容部11>
収容部11は、飼育水110と海水エビAとを収容する。収容部11は、例えば海水エビAを収容する生け簀や水槽等である。
【0030】
収容部11は、例えば排水した水を循環利用するための循環配管31が接続される。収容部11は、例えば循環配管31を介して、飼育水110が循環される。循環配管31としては、例えばポリエチレン管等の公知の送水管が用いられてもよい。
【0031】
収容部11は、例えば収容部11内に水を供給するための給水配管32が接続される。収容部11は、例えば給水配管32を介して、塩分濃度低減部12から給水されてもよい。給水配管32としては、例えば循環配管31と同質の送水管が用いられてもよい。
【0032】
収容部11は、例えば収容部11内の水を排出するための排水配管33が接続される。収容部11は、例えば排水配管33を介して、塩分濃度低減部12に排水してもよい。排水配管33としては、例えば循環配管31と同質の送水管が用いられてもよい。
【0033】
収容部11は、例えばろ過装置51を介してろ過された水が供給される。収容部11は、例えば消毒装置52を介して消毒された水が供給される。
【0034】
<飼育水110>
飼育水110は、塩分濃度低減部12により塩分濃度の低減が完了した飼育水である。飼育水110は、例えば塩分濃度が約0.007~0.500質量%であり、海水の塩分濃度(約3.400質量%)よりも低い水である。図1の例では、飼育水110の塩分濃度では本来生存することができない海水エビAが、飼育水110の塩分濃度に馴化した後の状態を示している。これは、塩分濃度低減部12が、海洋生物が生存可能な塩分濃度の飼育水(後述の飼育水111)の塩分濃度を、海水エビAが飼育されている状態で、所定条件で段階的に低減して、塩分濃度が約0.007~0.500質量%の飼育水110としたことによる。飼育水110に対する海水エビAの馴化方法の詳細については後述にて説明する。
【0035】
飼育水110は、主成分として、例えばMg2+(マグネシウムイオン)、Ca2+(カルシウムイオン)、K+(カリウムイオン)、SO4 2-(硫酸イオン)、を含む。
【0036】
飼育水110は、例えば飼育水1L当たりの溶質の質量として、Mg2+が35mg未満又は320mg超、Ca2+が25mg未満又は250mg超、K+が8mg未満又は80mg超のうち少なくとも何れかに該当する場合、脱皮不全等の原因により海水エビAの生存率が60%未満となるため、海水エビAの生産効率の確実な向上を図ることができない。このため、飼育水110は、飼育水1L当たりの溶質の質量として、35~320mgのMg2+と、25~250mgのCa2+と、8~80mgのK+と、を含むことが好ましい。
【0037】
また、K+の質量に対するMg2+の質量の比を第1質量比、K+の質量に対するCa2+の質量の比を第2質量比、Ca2+の質量に対するMg2+の質量の比を第3質量比としたとき、第1質量比が0.7未満又は5.0超、第2質量比が0.5未満又は5.0超、第3質量比が0.7未満又は1.4超のうち少なくとも何れかに該当する場合、脱皮不全等の原因により海水エビAの生存率が60%未満となるため、海水エビAの生産効率の確実な向上を図ることができない。このため、第1質量比が0.7~5.0であり、第2質量比が0.5~5.0であり、第3質量比が0.7~1.4であることが好ましい。
【0038】
すなわち、飼育水110は、飼育水1L当たりの溶質の質量として、35~320mgのMg2+と、25~250mgのCa2+と、8~80mgのK+と、を含み、第1質量比(Mg2+の質量/K+の質量)が0.7~5.0であり、第2質量比(Ca2+の質量/K+の質量)が0.5~5.0であり、第3質量比(Mg2+の質量/Ca2+の質量)が0.7~1.4であることが好ましい。この場合、海水エビAの生存率が75%以上となり、海水エビAの生存率を向上させることができる。これにより、海水エビAについて陸上養殖の効率向上を図ることができる。飼育水110と海水エビAの生存率の関係の詳細については、後述にて説明する。
【0039】
また、飼育水110は、第3質量比が0.7~1.3であることが好ましい。この場合、海水エビAの生存率が78%以上となり、海水エビAの生存率をさらに向上でき、海水エビAについて陸上養殖のさらなる効率向上を図ることができる。
【0040】
また、飼育水110は、第1質量比0.7~4.0と第2質量比0.5~4.0の組合せを満たすことが好ましく、第1質量比1.0~4.0と第2質量比1.0~3.0の組合せを満たすことがより好ましく、第1質量比1.5~4.0と第2質量比2.0~3.0の組合せを満たすことがさらに好ましい。この場合、海水エビAの生存率が82%以上となり、海水エビAの生存率をさらに向上でき、海水エビAについて陸上養殖のさらなる効率向上を図ることができる。
【0041】
飼育水110は、SO4 2-を全く含まない場合、SO4 2-を含む場合と比べて海水エビAの脱皮に問題が生じて死亡率が増加するため、SO4 2-を含むことが好ましい。また、飼育水110は、飼育水1L当たりの溶質の質量として、SO4 2-を70~400mg含むことが好ましい。
【0042】
なお、一般的には、エビの養殖時の飼育水110の環境について、飼育水1L当たりの溶質の質量として、CaCl2が約80~100mg(Ca2+と同様の機能)、MgSO4が約250~300mg(Mg2+と同様の機能)、K2SO4が約100mg(K+と同様の機能)、総アルカリ度が120mg/L、pHが7.8程度の環境を維持することが望ましいとされている。また、一般的な海水中にはSO4 2-が少なからず含まれており、魚類や甲殻類の体液のオスモレギュレーション(体液内外の塩分濃度の調節)に関与し、それが脱皮などの生活プロセスに重要な役割を果たす可能性があり、魚や甲殻類などの生物にとって重要な環境条件の一部である。そのため、飼育水110についても、海水エビAの正常な成長と生存に影響を与える重要な要素としてSO4 2-が含まれることが好ましい。
【0043】
上記の各イオンの質量(濃度)については、それぞれ対応する塩を添加して調製する。詳しくは、Mg2+を40mg/L含む飼育水110とする場合、硫酸マグネシウムを約198.30mg/L添加することで調整できる。また、Mg2+を240mg/L含む飼育水110とする場合、硫酸マグネシウムを約1,189.80mg/L添加することで調整できる。
【0044】
また、Ca2+を30mg/L含む飼育水110とする場合、塩化カルシウムを約83.08mg/L添加することで調整できる。また、Ca2+を200mg/L含む飼育水110とする場合、塩化カルシウムを約553.86mg/L添加することで調整できる。
【0045】
また、K+を10mg/L含む飼育水110とする場合、硫酸カリウムを約22.28mg/L添加することで調整できる。また、K+を60mg/L含む飼育水110とする場合、硫酸カリウムを約133.68mg/L添加することで調整できる。
【0046】
なお、上記の塩の添加量については、水温28℃、pH7.5と仮定して計算した理論値であるが、実際には飼育水110中のイオンが完全に電離するとは限らないため実際に必要な塩の添加量が理論値に対して増減する場合がある。また、必要な塩の添加量は、各塩の溶解度、水のpH、水の温度、他の溶解している物質の影響等を含めて様々な要因によって増減し得る点に留意する。
【0047】
飼育水110は、例えば水質監視装置54を介して、海水エビAの育成に必要な水質のバロメータが監視される。飼育水110は、例えば温度制御装置55を介して、海水エビAが生存可能な水温に制御される。
【0048】
<塩分濃度低減部12>
塩分濃度低減部12は、収容部11内においてエビとともに収容される飼育水110の塩分濃度を低減する。塩分濃度低減部12は、収容部11内の飼育水110の塩分濃度を連続的に低減してもよく、断続的に低減してもよい。
【0049】
塩分濃度低減部12は、飼育水111の塩分濃度を1日あたり0.10~0.50質量%低減する。飼育水111の塩分濃度を1日あたり0.50質量%超低減する場合、海水エビAの生存率が0%となるため、海水エビAについて陸上養殖の効率向上及び成長促進を図ることができない。また、飼育水111の塩分濃度を1日あたり0.10質量%未満低減する場合、海水エビAを低い塩分濃度に馴化させる期間が海水エビAの稚エビ期(育成開始から約1か月間)に完了できないため、海水エビAについて陸上養殖の効率向上及び成長促進を図ることができない。
【0050】
このため、塩分濃度低減部12は、飼育水111の塩分濃度を1日あたり0.10~0.50質量%低減することが好ましい。この場合、海水エビAを効率よく低塩分環境に馴化させることができる。これにより、海水エビAについて陸上養殖の効率向上を図ることができる。また、海水エビAの体重を効率よく増加させることができる。これにより、海水エビAについて海水よりも塩分濃度が低い環境下においても確実に成長促進を図ることができる。なお、海水エビAの馴化効率及び成長促進に係る本発明の効用については、後述の実施例において説明する。
【0051】
塩分濃度低減部12は、例えば給水槽13と、廃水槽14と、を有する。
【0052】
給水槽13は、例えば海洋生物が生存可能な塩分濃度よりも低い塩分濃度の希釈水130が収容される。給水槽13は、例えば給水配管32を介して、収容部11に対して希釈水130を給水する。希釈水130としては、例えば地下水又はカルキ抜きの水道水が用いられてもよい。
【0053】
廃水槽14は、例えば収容部11から排出される飼育水110の一部を、廃水140として収容する。廃水槽14は、例えば排水配管33を介して、収容部11から廃水140を排水される。
【0054】
<海水エビA>
海水エビAは、海洋生物に該当するエビを指し、淡水生物に該当するエビを含まない。海水エビAは、例えば食用のエビである。海水エビAは、海水よりも塩分濃度が低い飼育水110に効率よく馴化させるために、特に稚エビが用いられる。海水エビAの具体例としては、クルマエビ科(クルマエビ、バナメイエビ、バナナエビ等)、サクラエビ科(サクラエビ等)、タラバエビ科(タラバエビ、ボタンエビ、ホッカイエビ等)、イセエビ科(イセエビ等)等が挙げられる。
【0055】
海水エビAは、例えば自動給餌装置56を介して、餌が自動的に供給される。
【0056】
<ろ過装置51>
ろ過装置51は、収容部11に供給される水をろ過する。ろ過装置51は、収容部11の外に設けられてもよく、収容部11内に設けられてもよい。
【0057】
ろ過装置51は、例えば循環配管31を介して収容部11に供給される循環水、又は給水配管32を介して収容部11に供給される希釈水130をろ過する。このとき、ろ過装置51は、循環配管31内又は給水配管32内に設けられてもよい。
【0058】
ろ過装置51は、例えば公知のろ材を有し、具体的には物理ろ過を行うスポンジ、生物ろ過を行うバクテリア付きの多孔質ろ材、化学ろ過を行う活性炭等を有する。
【0059】
<消毒装置52>
消毒装置52は、収容部11に供給される水を消毒する。消毒装置52は、収容部11の外に設けられてもよく、収容部11内に設けられてもよい。
【0060】
消毒装置52は、例えば循環配管31を介して収容部11に供給される循環水、又は給水配管32を介して収容部11に供給される希釈水130を消毒する。このとき、消毒装置52は、循環配管31内又は給水配管32内に設けられてもよい。
【0061】
消毒装置52は、例えば公知の紫外線殺菌浄化装置、オゾン発生装置や次亜塩素酸水生成装置等が用いられる。
【0062】
<気泡発生装置53>
気泡発生装置53は、収容部11に供給される水に対して少なくとも酸素を含む気体を吹き込むことにより、酸素ナノバブル水等(酸素ナノバブル水及び酸素マイクロバブル水又を含む)を生成する。気泡発生装置53は、収容部11の外に設けられてもよく、収容部11内に設けられてもよい。
【0063】
気泡発生装置53は、例えば循環配管31を介して収容部11に供給される循環水、又は給水配管32を介して収容部11に供給される希釈水130に対して少なくとも酸素を含む気体を吹き込むことにより、酸素ナノバブル水等を生成する。このとき、気泡発生装置53は、循環配管31内又は給水配管32内に設けられてもよい。
【0064】
気泡発生装置53による酸素ナノバブル水等の生成方法は、例えば酸素や空気等の気体を加圧して、収容部11に供給される水中に過飽和で溶解させ、急減圧により、液中にナノバブル等(ナノバブル及びマイクロバブルを含む)を発生させる。酸素ナノバブル水は、ナノオーダー(1μm以下)の直径の酸素ガスの微細気泡を含有する水のことを指しているが、ナノオーダーの酸素ガスの微細気泡に加え、マイクロオーダー(1~100μm)の微細酸素ガスを含有してもよい。また、マイクロバブルを浮上分離させて、ナノバブルのみ液中に残留させてもよい。また、気泡発生装置53は、酸素ナノバブル等又は空気ナノバブル等のいずれか一方或いはその両方を含む少なくともナノサイズの微細気泡として酸素を含有する酸素ナノバブル水等を生成してもよい。酸素ナノバブル水の具体例としては、直径200nm以下の気泡のうち平均直径50nm~100nmの気泡が9割程度含まれ、気泡の濃度が2×108個/L~6×109個/Lである。
【0065】
気泡発生装置53の詳細としては、例えば酸素気体と水を混合し、高速で旋回させることで酸素の気泡を作る「旋回流方式」、酸素気体に圧力をかけ、水中に溶け込ませて、一気に開放することで酸素の気泡を作る「加圧溶解方式」、オリフィス等の微細孔へ酸素気体に圧力をかけて通すことで酸素の気泡を作る「微細孔方式」、超音波でキャビテーションを起こして水中の酸素気体を膨張させて酸素の気泡を作る「超音波方式」、突起物が設けられた気液流路内において気体を旋回させ粉砕して気泡を作る「スタティックミキサー式」、気液流路内に急激な圧力変化を形成して気泡を作る「エゼクター式」又は「ベンチュリ―式」等が例示される。しかし、酸素ナノバブル水等の生成方式は、特に限定されるものではなく、ナノオーダー又はマイクロオーダーの微細酸素ガスを含有するナノバブル水等を生成できる手段であればよい。
【0066】
酸素をナノバブル状の微細な気泡とすることにより、通常の蒸留水よりもT1緩和時間(核磁化によって水の運動(核スピン)が活発になってから静かな状態に戻るまでの時間)の向上、すなわち運動性が高められ、収容部11に収容される物質の移動性が高まる。これにより、収容部11内において酸素ナノバブル水、給餌される餌、海水エビA等が接触しやすくなり、海水エビAの成長がより促進され得る。
【0067】
馴化システム1は、上述の気泡発生装置53を用いる。この場合、海水エビAの体重を効率よく増加させることができる。これにより、海水エビAについて海水よりも塩分濃度が低い環境下においても確実に成長促進を図ることができる。なお、海水エビAの馴化効率及び成長促進に係る本発明の効用については、後述の実施例において説明する。
【0068】
<水質監視装置54>
水質監視装置54は、飼育水110の水質のバロメータを監視する。水質監視装置54は、例えば飼育水110が含有する溶存酸素濃度(mg/L)、pH(Potential Hydrogen)、NH4 +濃度(mg/L)、NO2 -濃度(mg/L)、NO3 -濃度(mg/L)等を監視する。馴化システム1の管理者は、水質監視装置54の監視結果を参照した上で、必要に応じて石灰水等のpH調整剤を収容部11に供給して、飼育水110の水質を調整する。
【0069】
水質監視装置54としては、例えば公知の水質自動監視装置が用いられてもよい。
【0070】
<温度制御装置55>
温度制御装置55は、飼育水110の水温を制御する。温度制御装置55としては、例えば公知のサーモスタット内蔵ヒータが用いられてもよい。
【0071】
<自動給餌装置56>
自動給餌装置56は、飼育水110中の海水エビAに対して自動的に餌を供給する。自動給餌装置56としては、公知の魚用自動給餌機が用いられてもよい。
【0072】
<照明部57>
照明部57は、飼育水110に対して緑色光Lを照射する。照明部57は、海水エビAの飼育期間中において連続的に緑色光Lを照射する。この場合、海水エビAの体重を効率よく増加させることができる。これにより、海水エビAについて海水よりも塩分濃度が低い環境下においても確実に成長促進を図ることができる。なお、海水エビAの馴化効率及び成長促進に係る本発明の効用については、後述の実施例において説明する。
【0073】
「[新技術]緑色光照射によるホシガレイとヒラメの成長促進 高橋明義、清水大輔、都留久美子、木籔仁和、水澤寛太 月間アクアネット 2019年4月号/別刷」によれば、特定の色の照射がカレイ類全般の体重を増加させ、効率的な成長促進に有効であることが実証された。色と成長促進効果の関係としては、緑色、青緑色、青の順に体重が増加する効果が確認された。詳しくは、ヒラメ種苗(平均体重20.6g)を角型コンクリート陸上水槽(4.5m×4.5m、水深約30cm)3面に各600尾(収容密度30尾/m2)収容し、自然光及び自然日長で飼育した対照区と、スタンレー電気(登録商標)(株)製の緑色LED光を6:00~18:00の12時間照射した照射区とで約1年間の体重の推移を計測したところ、照射区の平均体重(776.1±26.2g)は、対象区(481.6±18.9g)の61%増となった。このように、LEDを光源とする緑色光照射により、養殖場に用いられる水槽等でもヒラメの成長を促進できることが確認された。本発明の馴化システム1についても、同様の照明機器及び照射条件が用いられてもよい。
【0074】
<人工水草6>
人工水草6は、収容部11内に予め設けられる。人工水草6は、収容部11内における各海水エビAの混泳を防ぎ、共食いを防ぐことができる。これにより、海水エビAの生存率低下を抑制することができる。人工水草6としては、例えば株式会社キョーリン製のきんらん(登録商標)製(ビニロン製)の人工産卵藻等が用いられる。
【0075】
本発明の馴化システム1は、上述の人工水草6を用いる。この場合、海水エビAの体重を効率よく増加させることができる。これにより、海水エビAについて海水よりも塩分濃度が低い環境下においても確実に成長促進を図ることができる。なお、海水エビAの馴化効率及び成長促進に係る本発明の効用については、後述の実施例において説明する。
【0076】
次に、本実施形態における海水エビの馴化方法として、馴化システム1の動作の一例を説明する。本実施形態では、馴化システム1の管理者の操作による馴化システム1の動作を説明するが、馴化システム1が図示しない公知のPC(Personal Computer)等の処理装置を備える場合、予め記憶されたプログラムに基づく処理により、馴化システム1の各構成の動作が実現されてもよい。
【0077】
馴化システム1の動作は、例えば図2に示すように、塩分濃度低減工程S11を有する。
【0078】
<事前準備>
塩分濃度低減工程S11の事前準備として、管理者は、例えば図3(a)に示すように、収容部11内に海洋生物が生存可能な海水相当の塩分濃度の飼育水111と海水エビAとを収容する。飼育水111としては、塩分濃度が海水エビAの本来生息する環境に近い天然海水又は人工海水を用いる。
【0079】
また、管理者は、飼育水111を収容する収容部11に、塩分濃度低減部12を接続する。詳しくは、収容部11に対して、給水配管32を介して給水槽13を接続し、排水配管33を介して廃水槽14を接続する。
【0080】
また、管理者は、照明部57及び人工水草6を用いる場合、照明部57が飼育水110に対して緑色光Lを照射可能とされていること、及び人工水草6が飼育水110中に設置されていることを確認する。
【0081】
<塩分濃度低減工程S11>
塩分濃度低減工程S11において、塩分濃度低減部12は、例えば図3(b)に示すように、希釈水130の供給及び廃水140の排出を行うことにより、収容部11内の飼育水111の塩分濃度を低減する。詳しくは、塩分濃度低減部12は、例えば給水槽13から収容部11に対して希釈水130を供給するとともに、収容部11から廃水槽14に対して飼育水111を排出する。その結果、収容部11内の飼育水111は、その一部が希釈水130と置換され、塩分濃度が飼育水111よりも低減されている飼育水112となる。収容部11内の飼育水111又は飼育水112は、塩分濃度低減部12による塩分濃度の低減を所定期間繰り返すことにより、例えば塩分濃度が約0.007~0.500質量%の飼育水110となる。
【0082】
ここで、飼育水112は、飼育水111の塩分濃度と希釈水130の塩分濃度との間の塩分濃度を有する水を指す。すなわち、飼育水112の塩分濃度は、飼育水111の塩分濃度よりも低く、飼育水110の塩分濃度よりも高い又は同等である。
【0083】
また、塩分濃度低減部12は、収容部11に対する希釈水130の供給量と収容部11からの廃水140の排出量とが同程度の流量に調整して飼育水111(飼育水112)の塩分濃度を低減してもよく、異なる流量に調整して飼育水111(飼育水112)の塩分濃度を低減してもよい。また、塩分濃度低減部12は、廃水140の排出を行わずに希釈水130の供給のみで飼育水111(飼育水112)の塩分濃度を低減してもよい。
【0084】
塩分濃度低減工程S11において、塩分濃度低減部12は、飼育水111の塩分濃度を1日あたり0.10~0.50質量%低減する。飼育水111の塩分濃度を1日あたり0.50質量%超低減する場合、海水エビAの生存率が0%となるため、海水エビAについて陸上養殖の効率向上及び成長促進を図ることができない。また、飼育水111の塩分濃度を1日あたり0.10質量%未満低減する場合、海水エビAを低い塩分濃度に馴化させる期間が海水エビAの稚エビ期に完了できないため、海水エビAについて陸上養殖の効率向上及び成長促進を図ることができない。このため、塩分濃度低減部12は、飼育水111の塩分濃度を1日あたり0.10~0.50質量%低減することが好ましい。この場合、海水エビAを効率よく低塩分環境に馴化させることができる。これにより、海水エビAについて陸上養殖の効率向上を図ることができる。また、海水エビAの体重を効率よく増加させることができる。これにより、海水エビAについて海水よりも塩分濃度が低い環境下においても確実に成長促進を図ることができる。
【0085】
また、塩分濃度低減工程S11の前後において、塩分濃度低減前の飼育水111、塩分濃度低減途中の飼育水112、及び塩分濃度低減後の飼育水110は、何れも、飼育水1L当たりの溶質の質量として、35~320mgのMg2+と、25~250mgのCa2+と、8~80mgのK+と、を含み、第1質量比(Mg2+の質量/K+の質量)が0.7~5.0であり、第2質量比(Ca2+の質量/K+の質量)が0.5~5.0であり、第3質量比(Mg2+の質量/Ca2+の質量)が0.7~1.4であることが好ましい。この場合、海水エビAの生存率が75%以上となり、海水エビAの生存率を向上させることができる。これにより、海水エビAについて陸上養殖の効率向上を図ることができる。飼育水110(飼育水111)と海水エビAの生存率の関係の詳細については、後述にて説明する。
【0086】
また、塩分濃度低減工程S11において、気泡発生装置53は、例えば循環配管31又は給水配管32を介して収容部11に供給される水に対して少なくとも酸素を含む気体を吹き込んでもよい。このとき、飼育水110(飼育水111、飼育水112)中に酸素ナノバブル等が生成される。その結果、飼育水110から酸素ナノバブル水等を生成することができる。なお、塩分濃度低減工程S11とは区別される酸素ナノバブル水の生成工程を、塩分濃度低減工程S11の前後のうち少なくとも何れかに実施してもよく、複数回実施してもよい。
【0087】
上述した工程を実施し、本実施形態における馴化システム1の動作は終了する。なお、馴化システム1は、例えば上述した工程を繰り返し実施してもよい。
【0088】
本実施形態によれば、海水エビAが飼育されている飼育水111の塩分濃度を1日あたり0.10~0.50質量%低減する塩分濃度低減工程S11を有する。このため、海水エビAを効率よく低塩分環境に馴化させることができる。これにより、海水エビAについて陸上養殖の効率向上を図ることができる。また、海水と比べて海水エビAの体重を効率よく増加させることができる。これにより、海水エビAについて確実に成長促進を図ることができる。
【0089】
また、本実施形態によれば、塩分濃度低減工程S11は、少なくとも酸素を含む気体を飼育水110(飼育水111、飼育水112)に吹き込むことにより酸素マイクロバブル水又は酸素ナノバブル水を生成する。このため、海水エビAの体重を効率よく増加させることができる。これにより、海水エビAについて確実にさらなる成長促進を図ることができる。
【0090】
また、本実施形態によれば、塩分濃度低減工程S11は、緑色光Lが照射された状態で飼育水111の塩分濃度を低減する。このため、海水エビの体重を効率よく増加させることができる。これにより、海水エビについて確実にさらなる成長促進を図ることができる。
【0091】
また、本実施形態によれば、塩分濃度低減工程S11は、予め人工水草6が設けられた収容部11内の飼育水111の塩分濃度を低減する。このため、海水エビAの生存率を向上させることができる。これにより、海水エビAについて陸上養殖のさらなる効率向上を図ることができる。
【0092】
また、本実施形態によれば、海水エビAとともに収容部11に収容される飼育水111の塩分濃度を1日あたり0.10~0.50質量%低減する塩分濃度低減部12を備える。このため、海水エビAを効率よく低塩分環境に馴化させることができる。これにより、海水エビAについて陸上養殖の効率向上を図ることができる。また、海水と比べて海水エビAの体重を効率よく増加させることができる。これにより、海水エビAについて確実に成長促進を図ることができる。
【0093】
また、本実施形態によれば、飼育水110(飼育水111)は、塩分濃度低減工程S11の前後において、35~320mgのMg2+と、25~250mgのCa2+と、8~80mgのK+と、を含み、第1質量比が0.7~5.0であり、第2質量比が0.5~5.0であり、第3質量比が0.7~1.4である。このため、海水エビの生存率を75%以上とすることができる。これにより、海水エビAについて陸上養殖のさらなる効率向上を図ることができる。
【0094】
(アクアポニックス2による育成方法)
図4図5を参照して、本実施形態におけるエビの馴化方法により馴化された海水エビAを用いるアクアポニックス2による育成方法の一例を説明する。なお、上述したエビの馴化方法の内容と同様の構成については、説明を省略する。まず、本実施形態のアクアポニックス2による育成方法に用いるアクアポニックス2について説明する。
【0095】
<アクアポニックス2>
アクアポニックス2は、例えば図4に示すように、上述の馴化システム1と、植物Bを収容する水耕栽培槽21と、分解液生成部22と、分解液供給部23と、を備える。本実施形態では、アクアポニックス2が水耕栽培槽21において収容部11内の飼育水110を循環利用する閉鎖循環式の例を説明するが、水耕栽培槽21において収容部11内の飼育水110を利用した後に廃水とするかけ流し式でもよい。
【0096】
<収容部11>
収容部11は、例えば第1循環配管31aと第2循環配管31bとを介して、水耕栽培槽21と接続される。収容部11は、例えば第1循環配管31aを介して、水耕栽培槽21に飼育水110を供給する。収容部11は、例えば第2循環配管31bを介して、水耕栽培槽21が排出する排水が供給されてもよい。第1循環配管31a及び第2循環配管31bとしては、例えば循環配管31と同質の送水管が用いられてもよい。
【0097】
<水耕栽培槽21>
水耕栽培槽21は、植物Bを収容する。水耕栽培槽21は、収容部11から第1循環配管31aを介して、海水エビAの排泄物が含まれる飼育水110が供給される。水耕栽培槽21は、第2循環配管31bを介して、水耕栽培槽21内の飼育水等(飼育水210、後述の分解液220を含む)を収容部11に供給する。
【0098】
水耕栽培槽21は、海水エビAの排泄物が含まれる飼育水110とともに、海水エビAの排泄物が含まれない飼育水110が供給されてもよい。ここで、水耕栽培槽21に供給された飼育水110を飼育水210とする。飼育水210は、例えば飼育水110と同質である。
【0099】
<分解液生成部22>
分解液生成部22は、例えば図4に示すように、海水エビAの排泄物を生分解して分解液220を生成する。分解液生成部22は、例えば水耕栽培槽21内に設けられる。
【0100】
分解液生成部22は、例えば微生物を固定化する担体であり、図示しない微生物の分解作用により、水耕栽培槽21内の飼育水210に含まれる海水エビAの排泄物を生分解することで、分解液220を生成する。分解液生成部22に固定化される微生物としては、例えば硝化菌が挙げられる。分解液生成部22は、例えば収容部11内に設けられてもよい。
【0101】
<分解液供給部23>
分解液供給部23は、例えば植物Bに分解液220を供給する。分解液供給部23は、例えば水耕栽培槽21内に設けられる。この場合、海水エビAの体重と植物Bの重量とを効率よく増加させることができる。これにより、海水エビAについて塩害に弱い植物Bと同時に確実に成長促進を図ることができる。なお、植物Bの成長促進に係る本発明の効用については、後述の実施例において説明する。
【0102】
分解液供給部23は、例えば植物Bを水耕栽培槽21内に固定するスポンジ等の土台である。分解液供給部23は、植物Bに対して、飼育水210及び分解液211のうち少なくとも何れかを供給する。分解液供給部23にスポンジ等の多孔質物質が用いられる場合、当該物質は、硝化菌等の微生物を担持することにより、分解液生成部22としても機能してもよい。
【0103】
<植物B>
植物Bは、水耕栽培槽21内に収容される。植物Bは、例えばスポンジ等の土台で構成される分解液供給部23により、水耕栽培槽21内に固定される。植物Bは、例えば塩分濃度低減部12により塩分濃度が低減された飼育水110を用いた水耕栽培に対応可能な植物が選択される。そのため、海水エビA等の海洋生物を用いるアクアポニックスにおいては従来アイスプラント等の塩生植物が専ら栽培されていたが、本発明によれば、アイスプラント等の塩生植物以外の植物Bについても栽培することができる。
【0104】
植物Bの例としては、キク科植物(リーフレタスなど)、ヒユ科植物(ホウレンソウ、スイスチャードなど)、ヒガンバナ科植物(ニラなど)、セリ科植物(パセリなど)、アブラナ科植物(クレソン、ワサビ菜など)、シソ科(スウィートバジルなど)、ナス科(唐辛子、パプリカ、ピーマンなど)、ネギ科(ネギなど)が含まれる。
【0105】
次に、本実施形態におけるアクアポニックス2による育成方法として、アクアポニックス2の動作の一例を説明する。アクアポニックス2は、例えば管理者の操作又は予め記憶されたプログラムに基づいて各構成を動作させる。アクアポニックス2の動作は、例えば図5に示すように、塩分濃度低減工程S11と、分解液生成工程S21と、分解液供給工程S22と、を有する。アクアポニックス2の動作は、アクアポニックス2を構成する馴化システム1とは独立した他の馴化システム1’により塩分濃度低減工程S11が実施された場合、塩分濃度低減工程S11を省略してもよい。
【0106】
分解液生成工程S21の前に、アクアポニックス2は、例えば図4に示すように、収容部11から海水エビAの排泄物を含む飼育水110を排水して、水耕栽培槽21に対して飼育水110と同質の飼育水210を供給する。
【0107】
<分解液生成工程S21>
分解液生成工程S21において、分解液生成部22は、飼育水210中の海水エビAの排泄物を生分解して、分解液220を生成する。
【0108】
<分解液供給工程S22>
分解液供給工程S22において、分解液供給部23は、例えば分解液生成工程S21により生成された分解液220を植物Bに供給する。この場合、海水エビAの体重と植物Bの重量とを効率よく増加させることができる。これにより、海水エビAについて塩害に弱い植物Bと同時に確実に成長促進を図ることができる。
【0109】
本実施形態によれば、海水エビAが飼育されている飼育水111の塩分濃度を1日あたり0.10~0.50質量%低減する塩分濃度低減工程S11と、海水エビAの排泄物を生分解して分解液220を生成する分解液生成工程S21と、塩分濃度が低減された飼育水110を用いて水耕栽培される植物Bに、生成された分解液220を供給する分解液供給工程S22と、を有する。このため、海水エビAの体重と植物Bの重量とを効率よく増加させることができる。これにより、海水エビAについて塩害に弱い植物Bまたは淡水下で生育可能な植物Bと同時に確実に成長促進を図ることができる。
【0110】
また、本実施形態によれば、海水エビAとともに収容部11に収容される飼育水111の塩分濃度を1日あたり0.1~0.5質量%低減する塩分濃度低減部12と、海水エビAの排泄物を生分解して分解液220を生成する分解液生成部22と、塩分濃度が低減された飼育水110を用いて水耕栽培される植物Bに、生成された分解液220を供給する分解液供給部23と、を備える。このため、海水エビAの体重と植物Bの重量とを効率よく増加させることができる。これにより、海水エビAについて塩害に弱い植物Bまたは淡水下で生育可能な植物Bと同時に確実に成長促進を図ることができる。
【実施例
【0111】
以下に、上述した実施形態を用いた場合の本発明例及び比較例を挙げて具体的に説明する。
【0112】
<実験1:飼育水の塩分濃度低減量ごとの海水エビAの馴化効率>
本実験では、海水エビAが飼育される飼育水の1日あたり塩分濃度低減量ごとの海水エビAについて、塩分濃度低減期間中の生存率を比較することで、海水エビAの馴化効率を確認した。また、塩分濃度低減期間の後、飼育開始から90日目における海水エビAの体長増加量及び体重増加量を算出し、特に体重増加量を基準として海水エビAの成長促進効果について確認した。なお、本実験の飼育水中には、人工水草6として緑色の人工水草を設置した。
【0113】
本実験では、海水エビAとしてバナメイエビを用いた。なお、具体的には、孵化後1ヵ月未満、平均体長が約0.8cm、平均体重が約0.2gの稚エビを用いた。各実験に用いたバナメイエビの数は、1種の条件(1試験区)につき2000匹とした。収容部11としては、バナメイエビを2000匹収容する2000Lの水槽を用いた。
【0114】
本実験におけるバナメイエビの平均体長の測定方法としては、バナメイエビの口先から尻尾までの長さを個体ごとに物差しで計測し、各個体の体長の合計値を個体数で除して導出した。また、バナメイエビの平均体重の測定方法としては、バナメイエビと収容部11と飼育水110の総重量と、収容部11と飼育水110の重量と、を電子天秤(TX423N)で測定し、総重量から収容部11と飼育水110の重量を差し引き、その差分を収容部11内の個体数で除して導出した。
【0115】
塩分濃度の測定方法としては、塩分濃度測定範囲が0~25%で0.001%単位の測定が可能なwanbang ep tech 社製塩分濃度計「7IN1 Water quarlity tester」のセンサー部分を収容部11内の飼育水110に浸漬させる方法により測定した。溶存酸素量の測定方法としては、溶存酸素計「AR8406」を用いた。pHの測定方法としては、東亜ディーケーケー(登録商標)株式会社製のpH計を用いた。
【0116】
海水エビAに対する餌供給方法としては、EVNICE fish feeder社製自動給餌機「EV500」を用いた。餌としては、体長6cm以下の稚エビの海水エビAに対しては、タンパク質含有率が全質量に対して約38質量%以上の餌を供給した。同様に、体長6cm超10cm未満の海水エビAに対しては、タンパク質含有率が全質量に対して約36~38質量%の餌を供給し、体長10cm以上の海水エビAに対しては、タンパク質含有率が全質量に対して約32~36質量%の餌を供給した。また、本実験における塩分濃度低減期間は、海水エビAの稚エビ期に相当する養殖開始から1か月間であるため、稚エビの適切な給餌量として、1日あたり海水エビAの体重の5%相当の量の餌を、1日あたり9回以上に分けて供給した。
【0117】
海水エビAの飼育環境としては、飼育密度を5kg/m3、飼育水110の水温を28~32℃、飼育水110の溶存酸素量を6.5~10.0mg/L、飼育水110のpHを6.8~8.2、飼育水110のNH4 +濃度を0.0~0.5(mg/L)、飼育水110のNO2 -濃度を0.0~0.5(mg/L)、飼育水110のNO3 -濃度を100(mg/L)以下に調整した。その他、Eheim GmbH & Co. KG社製の送水ポンプを用いた40L/分での飼育水110の循環と、エアーポンプ「AP-100F」を用いた送風とを行った。収容部11内の温度制御方法としては、温度制御装置55として水槽用クーラー「ZR-250」を用いた。なお、塩分濃度低減前の飼育水111としては、飼育密度、水温、溶存酸素量、pH、及び各イオン濃度について飼育水110と同様の水準に調整した。
【0118】
飼育水110の主成分としては、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン、硫酸イオンがすべて0mg/Lの純水に対して富士フイルム和光純薬(株)製の硫酸カリウム(K2SO4)及び硫酸マグネシウム(MgSO4)を添加して、マグネシウムイオンが40mg/L~240mg/L、カルシウムイオンが30mg/L~200mg/L、カリウムイオンが10mg/L~60mg/L、硫酸イオン約70mg/L~400mg/L、ストロンチウムイオン約8mg/Lとなるように調整した。なお、塩分濃度低減前の飼育水111としては、主成分について飼育水110と同様の水準に調整した。また、飼育水111として塩分濃度が約3.2%である人工海水を用いて、塩分濃度を約0.007%~0.500%まで低減したものを飼育水110とした。飼育水111の塩分濃度低減方法として、収容部11内の飼育水111の一部を排水するとともに、略同量の地下水(淡水)を給水することで、収容部11内の飼育水111の塩分濃度を低減させた。なお、飼育水111の排水及び地下水の給水の動作は、例えば1時間につき約30分間連続で給排水する断続動作とした。
【0119】
本実験で比較する飼育水111の1日あたり塩分濃度低減量は、「0.10質量%未満」(比較例1)、「0.10質量%」(本発明例1)、「0.20質量%」(本発明例2)、「0.25質量%」(本発明例3)、「0.35質量%」(本発明例4)、「0.40質量%」(本発明例5)、「0.50質量%」(本発明例6)、「1.00質量%」(比較例2)、「1.50質量%」(比較例3)、「2.00質量%」(比較例4)とした。このうち、本発明に係る1日あたり塩分濃度低減量0.10~0.50質量%をそれぞれ本発明例1~6とした。また、1日あたり塩分濃度低減量を0.10質量%未満とした実施例を比較例1とし、1日あたり塩分濃度低減量を1.00質量%、1.50質量%、2.00質量%とした実施例をそれぞれ比較例2~4とした。
【0120】
また、最終的な飼育水110の塩分濃度としては、0.007~0.010質量%の低塩分環境(完全淡水環境及び淡水に近い環境を含む)とし、この塩分濃度に端数調整するために、1日あたり塩分濃度低減量を必要に応じて減らした。例えば、1日あたり塩分濃度低減量「0.35質量%」の条件については、塩分濃度低減量0.35質量%/日を最大値として、端数調整のために0.05~0.15質量%/日の調整を加えた。
【0121】
本実験の結果は、[表1]のとおりである。
【0122】
【表1】
【0123】
表1によれば、各実施例のバナメイエビの生存率は、本発明例1が78%、本発明例2が99%、本発明例3が95%、本発明例4が95%、本発明例5が60%、本発明例6が21%、比較例2~4が0%であった。なお、比較例1は塩分濃度低減期間が稚エビ期間内に完了できなかったため、測定不可とした。
【0124】
また、表1によれば、各実施例のバナメイエビの体重増加量は、本発明例1が20.3g/匹、本発明例2が25.4g/匹、本発明例3が22.8g/匹、本発明例4が22.8g/匹、本発明例5が19.1g/匹、本発明例5が19.1g/匹であった。各実施例のバナメイエビの体長増加量は、本発明例1が12.7cm/匹、本発明例2が15.2cm/匹、本発明例3が13.7cm/匹、本発明例4が13.7cm/匹、本発明例5が12.1cm/匹、本発明例6が12.1cm/匹であった。なお、比較例2~4は、90日目を迎える前に生存率が0%となったため測定不可とした。
【0125】
本発明例1~6では、飼育水111の1日あたり塩分濃度低減量を0.10~0.50質量%とした。その結果、一部のバナメイエビを低塩分環境でも生存できるように馴化させることができた。このため、海水エビAを効率よく低塩分環境に馴化させることができる。これにより、海水エビAについて陸上養殖の効率向上を図ることができる。特に、塩分濃度低減量0.10~0.40質量%(本発明例1~5)において生存率が60%以上、塩分濃度低減量0.20~0.35質量%(本発明例2~4)において生存率が90%以上と、高い生存率で低塩分環境に馴化できることが確認された。
【0126】
また、表1によれば、本発明例1~6では、バナメイエビ飼育90日目の体重増加量が19.1~25.4g/匹であり、体長増加量が12.1~15.2cm/匹であった。これは、海水環境である塩分濃度「3.20質量%」の人工海水を用いた飼育開始から90日目における海水エビAの体重増加量17.8g/匹及び体長増加量11.2cm/匹よりも高いことが確認された(表2内の比較例5)。このため、海水と比べて海水エビAの体重を効率よく増加させることができる。また、体長増加量についても同様の傾向にあった。これにより、海水エビAについて確実に成長促進を図ることができる。
【0127】
比較例1では、飼育水111の1日あたり塩分濃度低減量を0.10質量%未満としたが、塩分濃度低減期間がバナメイエビの稚エビ期に完了できない。このため、海水エビAを効率よく低塩分環境に馴化させることができない。
【0128】
比較例2~4では、飼育水111の1日あたり塩分濃度低減量を1.00~2.00質量%としたが、バナメイエビが低塩分環境に馴化する前に全滅した。このため、海水エビAを効率よく低塩分環境に馴化させることができない。
【0129】
すなわち、海水エビAを低塩分環境に馴化させる上で好適な飼育水111の塩分濃度低減量は、1日あたり0.10~0.50質量%/日であり、より好ましくは1日あたり0.10~0.40質量%/日であり、さらに好ましくは1日あたり0.20~0.35質量%/日である。
【0130】
<実験2:飼育水の塩分濃度ごとの海水エビAの成長促進効果>
次に、本発明に係る飼育水110の塩分濃度ごとの海水エビAの成長促進の効用に関する検証実験について説明する。詳しくは、海水環境のエビの育成期間90日における体長及び体重と、上述の実験1の馴化方法により馴化した海水エビAの育成期間90日における体長及び体重と、から体長増加量及び体重増加量を算出し、特に体重増加量を基準として海水エビAの成長促進効果について確認した。なお、海水エビAの育成期間90日には、実験1の塩分濃度低減期間が含まれる。また、育成期間90日中の生存率についても確認した。
【0131】
本実験では、1種の条件(1試験区)につきバナメイエビ1000匹を収容する300Lの水槽と、バナメイエビ1000匹を収容する500Lの水槽とを用いた。
【0132】
本実験は、実験1の経過後、すなわち海水エビAの成長期に相当する養殖開始から2~3か月間であるため、成長期のエビの適切な給餌量として、1日あたり海水エビAの体重の2%相当の量の餌を、1日あたり9回以上に分けて供給した。
【0133】
海水エビAの飼育環境としては、飼育密度を5kg/m3、飼育水110の水温を25~28℃、飼育水110の溶存酸素量を6.0~8.5mg/L、飼育水110のpHを6.0~8.3、飼育水110のNH4 +濃度を0.0~0.5(mg/L)、飼育水110のNO2 -濃度を0.0~0.5(mg/L)、飼育水110のNO3 -濃度を30~120(mg/L)に調整した。なお、その他の実験条件については実験1と同様である。
【0134】
本実験で比較する飼育水110の塩分濃度は、「0.007質量%」(本発明例7)、「0.010質量%」(本発明例8)、「0.015質量%」(本発明例9)、「0.020質量%」(本発明例10)、「0.025質量%」(本発明例11)、「0.050質量%」(本発明例12)、「0.100質量%」(本発明例13)、「0.150質量%」(本発明例14)、「0.200質量%」(本発明例15)、「0.250質量%」(本発明例16)、「0.400質量%」(本発明例17)、「0.500質量%」(本発明例18)、「3.20質量%」(比較例5)とした。このうち、本発明に係る塩分濃度0.007~0.50質量%をそれぞれ本発明例7~18とした。また、塩分濃度3.200質量%、すなわち海水相当の塩分濃度から低減していない実施例を比較例5とした。また、1日あたり塩分濃度低減量は、0.20~0.35質量%で調節した。
【0135】
本実験の結果は、[表2]のとおりである。
【0136】
【表2】
【0137】
表2によれば、各実施例のバナメイエビの体重増加量は、本発明例7~16が25.4g/匹、本発明例17~18が23.3g/匹、比較例5が17.8g/匹であった。各実施例のバナメイエビの体長増加量は、本発明例7~本発明例16が15.2cm/匹、本発明例17~本発明例18が14.2cm/匹、比較例5が11.2cm/匹であった。各実施例のバナメイエビの生存率は、本発明例7が90%、本発明例8が90%、本発明例9が89%、本発明例10が87%、本発明例11が86%、本発明例12が87%、本発明例13が89%、本発明例14が89%、本発明例15が90%、本発明例16が87%、本発明例17が85%、本発明例18が83%であった。
【0138】
本発明例7~18では、飼育水110の塩分濃度を0.007~0.500質量%とした。その結果、バナメイエビの平均体重の体重増加量が海水環境である塩分濃度「3.20質量%」で飼育されたエビの平均体重の体重増加量よりも高いことが確認された。このため、海水と比べて海水エビAの体重を効率よく増加させることができる。また、体長増加量についても同様の傾向にあった。これにより、海水エビAについて確実に成長促進を図ることができる。
【0139】
また、本発明例7~18の体重増加量及び体長増加量を比較すると、本発明例7~16の方が本発明例17~18よりも高いことが確認された。このため、より塩分濃度の低い飼育水110を用いることで、海水エビAの重量をさらに効率よく増加させることができる。
【0140】
比較例5では、飼育水110の塩分濃度を3.200質量%とした。すなわち飼育水111から塩分濃度の低減をしていない。その結果、バナメイエビの平均体重の体重増加量が塩分濃度を0.007~0.500質量%に低減した飼育水110で飼育されたバナメイエビの平均体重の体重増加量よりも低いことが確認された。このため、海水エビAの体重を効率よく増加させることができない。
【0141】
すなわち、海水エビAについて確実に成長促進を図る上で好適な飼育水111の塩分濃度は、0.007~0.500質量%であり、より好ましくは0.007~0.250質量%である。
【0142】
また、[表2]によれば、塩分濃度0.007~0.500質量%のとき生存率が約83%以上となり、塩分濃度0.007~0.400質量%のとき生存率が約85%以上となり、塩分濃度0.007~0.010質量%のとき生存率が約90%以上となる。
【0143】
すなわち、海水エビAについて陸上養殖の効率向上を図るとともに確実に成長促進を図る上で好適な飼育水110の塩分濃度は、0.007~0.500質量%であり、より好ましくは0.007~0.400質量%であり、さらに好ましくは0.007~0.010質量%である。
【0144】
<実験3:植物Bの成長促進>
次に、本発明に係るアクアポニックス2に用いる飼育水110の塩分濃度ごとの植物Bの成長促進の効用に関する検証実験について説明する。詳しくは、飼育水110及び海水(塩分濃度約3質量%)を用いてそれぞれ育成した植物Bの育成期間35日における可食部平均新鮮重量及び可食部平均大きさを測定し、特に重量増加量を基準として植物Bの成長促進効果について確認した。また、比較例として、収容部11と接続されない単独の水耕栽培槽で液肥を用いて育成した植物Bの育成期間35日における可食部平均新鮮重量及び可食部平均大きさについても測定した。なお、植物Bの育成期間35日は、実験1の塩分濃度低減期間後であるが、植物Bによる水の吸収や蒸発等により水量が低下した場合に水量を維持するために地下水を添加した。このため、塩分濃度低減期間後においても塩分濃度が低下し得る。
【0145】
本実験では、植物Bとして、海水エビAの飼育環境温度25~34℃に調節した飼育水110等を温度調節せずに水耕栽培槽21内の植物Bに供給して育成できることが確認されたニラ及びスウィートバジルを用いた。各実験に用いたニラ及びスウィートバジルの数は、1種の条件(1試験区)につき150株とした。
【0146】
なお、液肥を用いた単独の水耕栽培槽については、水温を約26~30℃に調節した。単独の水耕栽培槽は、NFT式とDWC式とを繋げた形式を採用した。液肥としては、化学液肥ジャストワン(登録商標)を用いた。アクアポニックス2における水耕栽培槽21には海水エビAの餌及びpH調製液に含まれるカルシウムイオン(Ca2+)及びマグネシウムイオン(Mg2+)と、水耕栽培槽21内に担持された微生物により分解された成分とが豊富に含まれる一方で、単独の水耕栽培槽に用いる市販の液肥にはこれらが豊富には含まれない点で、育成に用いる水の成分が異なる。
【0147】
本実験におけるニラ及びスウィートバジルの可食部平均新鮮重量の測定方法としては、
全株数から無作為に選択した10株について、可食部(茎葉)の新鮮重量の平均値を算出した。また、可食部平均高さについても同様に、全株数から無作為に選択した10株について、可食部(茎葉)の高さの平均値を算出した。
【0148】
本実験で比較する飼育水110の塩分濃度は、「0.007~0.200質量%」(本発明例19)、「0.300質量%」(本発明例20)、「0.500質量%」(本発明例21)、「3質量%」(比較例6)とした。このうち、本発明に係る塩分濃度0.007~0.50質量%をそれぞれ本発明例19~21とした。また、塩分濃度が約3質量%の海水を用いて育成した実施例を比較例6とした。また、単独の水耕栽培槽で液肥を用いて育成した実施例を比較例7とした。なお、塩分濃度「0.007~0.200質量%」の範囲において、ニラ及びスウィートバジルの可食部平均新鮮重量及び可食部平均大きさに変化がなかった。
【0149】
本実験の結果は、[表3]のとおりである。
【0150】
【表3】
【0151】
表3によれば、各実施例のニラの可食部平均新鮮重量は、本発明例19が8.0g/株、本発明例20が7.8g/株、本発明例21が6.5g/株、比較例7が4.0g/株であった。各実施例のニラの可食部平均大きさは、本発明例19が26.0cm/株、本発明例20が23.0cm/株、本発明例21が20.0cm/株、比較例7が18.0cm/株であった。各実施例のスウィートバジルの可食部平均新鮮重量は、本発明例19が163.0g/株、本発明例20が106.0g/株、本発明例21が99.0g/株、比較例7が98.0g/株であった。各実施例のスウィートバジルの可食部平均大きさは、本発明例19が42.0cm/株、本発明例20が39.0cm/株、本発明例21が36.0cm/株、比較例7が36.0cm/株であった。なお、比較例6は栽培不可であった。
【0152】
本発明例19~21では、飼育水110の塩分濃度を0.007~0.500質量%とした。その結果、ニラ及びスウィートバジルの可食部平均新鮮重量が、海水及び液肥で育成されたニラ及びスウィートバジルの可食部平均新鮮重量よりも高いことが確認された。このため、海水エビAの体重と植物Bの重量とを効率よく増加させることができる。これにより、海水エビAについて塩害に弱い植物B又は淡水下で生育可能な植物Bと同時に確実に成長促進を図ることができる。
【0153】
また、本発明例19~21の可食部平均新鮮重量を比較すると、本発明例19、本発明例20、本発明例21の順に高いことが確認された。このため、より塩分濃度の低い飼育水110を用いることで、植物Bの重量をさらに効率よく増加させることができる。
【0154】
また、表3によれば、本発明例19~22におけるニラ及びスウィートバジルの可食部平均大きさについても同様に、海水及び液肥で育成されたニラ及びスウィートバジルの可食部平均大きさよりも大きいことが確認された。このため、海水エビAの体長と植物Bの体長とを効率よく増加させることができる。これにより、海水エビAについて塩害に弱い植物B又は淡水下で生育可能な植物Bと同時により確実に成長促進を図ることができる。
【0155】
比較例6では、塩分濃度が約3質量%の海水を用いて植物Bを育成した。その結果、ニラ及びスウィートバジルを育成することができなかった。このため、植物Bの重量を効率よく増加させることができない。
【0156】
比較例7では、単独の水耕栽培槽において液肥を用いて植物Bを育成した。その結果、ニラ及びスウィートバジルの可食部平均新鮮重量及び可食部平均大きさは、アクアポニックス2を用いた場合と比べて低かった。このため、植物Bの重量を効率よく増加させることができない。
【0157】
すなわち、海水エビAについて植物Bと同時に確実に成長促進を図る上で好適な飼育水111の塩分濃度は、0.007~0.500質量%であり、より好ましくは0.007~0.300質量%であり、さらに好ましくは0.007~0.200質量%である。
【0158】
<実験4:緑色光及び人工水草の有無に係る海水エビA及び植物Bの成長促進効果>
次に、本発明に係るアクアポニックス2について、飼育水110に対する緑色光の照射、酸素ナノバブル水の生成及び人工水草の設置に伴う海水エビA及び植物Bの成長促進の効用に関する検証実験について説明する。
【0159】
詳しくは、緑色光の照射、酸素ナノバブル水の生成及び水草の設置を行わずに馴化した海水エビAの育成期間75日目、80日目、及び90日目における平均体重および平均体長(対象区)と、上述の実験1の馴化方法に加えて、緑色光の照射、酸素ナノバブル水の生成及び水草の設置を行いつつ馴化した海水エビAの育成期間75日目、80日目、及び90日目における平均体重および平均体長と、から体重増加量及び体長増加量を算出し、特に体重増加量を基準として海水エビAの成長促進効果について確認した。
【0160】
また、実験3と同様に、緑色光の照射、酸素ナノバブル水の生成及び人工水草の設置を行わずに育成した植物Bの育成期間20日目及び35日目における可食部平均新鮮重量及び可食部平均大きさ(対象区)と、緑色光の照射、酸素ナノバブル水の生成及び人工水草の設置を行いつつ育成した植物Bの育成期間20日目及び35日目における可食部平均新鮮重量及び可食部平均大きさと、からそれぞれの増加量を算出し、特に重量増加量を基準として植物Bの成長促進効果について確認した。
【0161】
また、緑色光の照射、酸素ナノバブル水の生成及び人工水草の設置を行わずに育成した海水エビAの塩分濃度低減期間終了後及び育成期間90日目における生存率(対象区)と、緑色光の照射、酸素ナノバブル水の生成及び人工水草の設置を行いつつ育成した海水エビAの塩分濃度低減期間終了後及び育成期間90日目における生存率と、からそれぞれの増加量を算出し、海水エビAの生存率向上効果について確認した。
【0162】
本実験では、海水エビAとしてバナメイエビを、植物Bとしてニラを、それぞれ用いた。また、各実験に用いたバナメイエビの数は、1種の条件(1試験区)につき100匹とした。また、収容部11として、これらを収容可能な100Lの水槽を用いた。各実験に用いたニラの数は、1種の条件(1試験区)につき30株とした。
【0163】
本実験の塩分濃度については、飼育水112の塩分濃度低減量を0.20質量%/日とし、塩分濃度低減完了後の飼育水110の塩分濃度を0.20質量%とした。
【0164】
また、本実験では、収容部11の上方に設置した照明部57を用いて、飼育水110(飼育水111、飼育水112)に対して緑色光Lを照射した。照明部57としては、CREE社製「LED作業灯72Wグリーン」を用いた。照射条件としては、育成期間において常時緑色光Lを照射するものとした。
【0165】
また、本実験では、収容部11に接続した気泡発生装置53を用いて、飼育水110(飼育水111、飼育水112)に対して空気を吹き込み、酸素ナノバブル水を生成した。気泡発生装置53としては、塩分濃度約0.20質量%~約3.00質量%に対応可能な公知のナノバブル発生装置を用いた。酸素ナノバブル水の生成条件としては、育成期間において常時気泡発生装置53を稼働させるものとした。
【0166】
また、本実験では、収容部11の内部底面に、約1m間隔で複数の人工水草6を設置した。人工水草6としては、株式会社キョーリン製「人工産卵藻」を用いた。
【0167】
また、各実験について、再現性確認のため、2回ずつ実験を行った。なお、その他の実験条件については実験3と同様である。
【0168】
本実験について、海水エビAの検証実験の結果は、[表4]のとおりである。本発明例22は、緑色光の照射及び酸素ナノバブル水の生成の何れも行わない対象区を示す。本発明例23は、緑色光の照射を行い、酸素ナノバブル水の生成を行わない実験区を示す。本発明例24は、酸素ナノバブル水の生成を行い、緑色光の生成を行わない実験区を示す。本発明例25は、緑色光の照射及び酸素ナノバブル水の生成の何れも行う対象区を示す。なお、何れの区においても人工水草を設置した。
【0169】
【表4】
【0170】
表4によれば、育成期間75日目における本発明例22(対象区)に対する各実施例のバナメイエビの体重増加量は、本発明例23が5.0g/匹、本発明例24が4.7g/匹、本発明例25が10.0g/匹であった。また、育成期間80日目における本発明例22(対象区)に対する各実施例のバナメイエビの体重増加量は、本発明例23が6.2g/匹、本発明例24が6.0g/匹、本発明例25が9.6g/匹であった。また、育成期間90日目における本発明例22(対象区)に対する各実施例のバナメイエビの体重増加量は、本発明例23が5.9g/匹、本発明例24が4.7g/匹、本発明例25が8.0g/匹であった。
【0171】
育成期間75日目における本発明例22(対象区)に対する各実施例のバナメイエビの体長増加量は、本発明例23が4.1cm/匹、本発明例24が3.8cm/匹、本発明例25が5.8cm/匹であった。また、育成期間80日目における本発明例22(対象区)に対する各実施例のバナメイエビの体長増加量は、本発明例23が3.9cm/匹、本発明例24が3.7cm/匹、本発明例25が5.2cm/匹であった。また、育成期間90日目における本発明例22(対象区)に対する各実施例のバナメイエビの体長増加量は、本発明例23が4.8cm/匹、本発明例24が4.2cm/匹、本発明例25が5.9cm/匹であった。
【0172】
本発明例23では、照明部57を介して飼育水110に緑色光Lを照射した。その結果、バナメイエビの平均体重の体重増加量が緑色光Lを照射しない環境で育成したバナメイエビの平均体重の体重増加量よりも高いことが確認された。このため、緑色光Lを照射しない場合と比べて海水エビAの体重を効率よく増加させることができる。また、体長増加量についても同様の傾向にあった。これにより、海水エビAについて確実にさらなる成長促進を図ることができる。
【0173】
本発明例24では、気泡発生装置53を介して飼育水110に空気を吹き込んで酸素ナノバブル水を生成した。その結果、バナメイエビの平均体重の体重増加量が酸素ナノバブル水を生成しない環境で育成したバナメイエビの平均体重の体重増加量よりも高いことが確認された。このため、酸素ナノバブル水を生成しない場合と比べて海水エビAの体重を効率よく増加させることができる。また、体長増加量についても同様の傾向にあった。これにより、海水エビAについて確実にさらなる成長促進を図ることができる。
【0174】
本発明例25では、緑色光Lの照射及び酸素ナノバブル水の生成を行った。その結果、バナメイエビの平均体重の体重増加量が緑色光Lを照射し酸素ナノバブル水を生成しない環境で育成したバナメイエビの平均体重の体重増加量よりも高いことが確認された。このため、緑色光Lを照射し酸素ナノバブル水を生成しない場合と比べて海水エビAの体重を効率よく増加させることができる。また、体長増加量についても同様の傾向にあった。これにより、海水エビAについて確実にさらなる成長促進を図ることができる。
【0175】
また、本実験について、植物Bの検証実験の結果は、[表5]のとおりである。なお、何れの区においても人工水草を設置した。
【0176】
【表5】
【0177】
表5によれば、育成期間20日目における本発明例22(対象区)に対する各実施例のニラの可食部平均新鮮重量増加量は、本発明例23が0.0g/株、本発明例24が4.0g/株、本発明例25が4.0g/株であった。また、育成期間35日目における本発明例22(対象区)に対する各実施例のニラの可食部平均新鮮重量増加量は、本発明例23が0.0g/株、本発明例24が3.0g/株、本発明例25が4.0g/株であった。
【0178】
育成期間20日目における本発明例22(対象区)に対する各実施例のニラの可食部平均大きさ増加量は、本発明例23が1.0cm/株、本発明例24が11.0cm/株、本発明例25が12.0cm/株であった。また、育成期間20日目における本発明例22(対象区)に対する各実施例のニラの可食部平均大きさ増加量は、本発明例23が0.0cm/株、本発明例24が6.0cm/株、本発明例25が7.0cm/株であった。
【0179】
本発明例23では、照明部57を介して飼育水110に緑色光Lを照射した。その結果、ニラの可食部平均新鮮重量及び可食部平均大きさは、緑色光Lを照射しない環境で育成したニラの可食部平均新鮮重量及び可食部平均大きさと変わらないことが確認された。これは、緑色光Lが飼育水110に対してのみ照射され、植物Bに照射されない環境であるためと考えられる。
【0180】
本発明例24では、気泡発生装置53を介して飼育水110に空気を吹き込んで酸素ナノバブル水を生成した。その結果、ニラの可食部平均新鮮重量が酸素ナノバブル水を生成しない環境で育成したニラの可食部平均新鮮重量よりも高いことが確認された。このため、酸素ナノバブル水を生成しない場合と比べて植物Bの重量を効率よく増加させることができる。また、可食部平均大きさについても同様の傾向にあった。これにより、植物Bについて確実にさらなる成長促進を図ることができる。
【0181】
本発明例25では、緑色光Lの照射及び酸素ナノバブル水の生成を行った。その結果、ニラの可食部平均新鮮重量が緑色光Lを照射せず酸素ナノバブル水を生成した環境で育成したニラの可食部平均新鮮重量よりも高いことが確認された。このため、緑色光Lを照射し酸素ナノバブル水を生成しない場合と比べて植物Bの重量を効率よく増加させることができる。また、可食部平均大きさについても同様の傾向にあった。これにより、植物Bについて確実にさらなる成長促進を図ることができる。
【0182】
また、本実験について、人工水草6の設置に伴う海水エビAの検証実験の結果は、[表6]のとおりである。本発明例26は、緑色光の照射、酸素ナノバブル水の生成及び人工水草の設置の何れも行わない対象区を示す。本発明例27は、人工水草の設置を行い、緑色光の照射及び酸素ナノバブル水の生成を行わない実験区を示す。本発明例28は、人工水草の設置及び緑色光の照射を行い、酸素ナノバブル水の生成を行わない実験区を示す。本発明例29は、人工水草の設置及び酸素ナノバブル水の生成を行い、緑色光の生成を行わない実験区を示す。本発明例30は、緑色光の照射、酸素ナノバブル水及び人工水草の設置の何れも行う対象区を示す。
【0183】
【表6】
【0184】
表6によれば、塩分濃度低減期間終了時における本発明例26(対象区)に対する各実施例のバナメイエビの生存率増加量は、本発明例27~30いずれも27%であった。また、育成期間90日目における本発明例22(対象区)に対する各実施例のバナメイエビの生存率増加量は、本発明例27が20%、本発明例28が21%、本発明例29が22%、本発明例30が25%であった。
【0185】
本発明例27では、収容部11内に人工水草6を設置した。その結果、バナメイエビの生存率が人工水草6を設置しない環境で育成したバナメイエビの生存率よりも高いことが確認された。このため、人工水草6を設置しない場合と比べて海水エビAの生存率を向上させることができる。これにより、海水エビAについて陸上養殖のさらなる効率向上を図ることができる。
【0186】
本発明例28では、収容部11内に人工水草6を設置した上で、照明部57を介して飼育水110に緑色光Lを照射した。その結果、バナメイエビの生存率が緑色光Lを照射しない環境で育成したバナメイエビの生存率よりも高いことが確認された。このため、緑色光Lを照射しない場合と比べて海水エビAの生存率を向上させることができる。これにより、海水エビAについて陸上養殖のさらなる効率向上を図ることができる。
【0187】
本発明例29では、収容部11内に人工水草6を設置した上で、気泡発生装置53を介して飼育水110に空気を吹き込んで酸素ナノバブル水を生成した。その結果、バナメイエビの生存率が酸素ナノバブル水を生成しない環境で育成したバナメイエビの生存率よりも高いことが確認された。このため、酸素ナノバブル水を生成しない場合と比べて海水エビAの生存率を向上させることができる。これにより、海水エビAについて陸上養殖のさらなる効率向上を図ることができる。
【0188】
本発明例30では、収容部11内に人工水草6を設置した上で、緑色光Lの照射及び酸素ナノバブル水の生成を行った。その結果、バナメイエビの生存率が緑色光Lの照射及び酸素ナノバブル水の生成のうち何れか一方を行う環境で育成したバナメイエビの生存率よりも高いことが確認された。このため、緑色光Lの照射及び酸素ナノバブル水の生成のうち何れか一方を行う場合と比べて海水エビAの生存率を向上させることができる。これにより、海水エビAについて陸上養殖のさらなる効率向上を図ることができる。
【0189】
<実験5:海水エビAの生存率に関する生存率向上効果>
以下に、飼育水111と海水エビAの生存率の関係の詳細について、上述した実施形態の成分比率を用いた場合の実施例を比較例と比較して説明する。なお、本実験例では、飼育水111から塩分濃度を低減して飼育水110とする操作を行っておらず馴化前の海水エビAの生存率を確認した。そのため、以降の実験内容については「参考例」及び「比較例」として説明するが塩分濃度低減工程S11により塩分濃度を低減した飼育水110と馴化後の海水エビAとの組合せにおいても、同様に生存率の向上を図ることができるのは勿論である。
【0190】
本実験では、海水エビAが飼育される飼育水111について、飼育水1L当たりの溶質の質量としてMg2+、Ca2+、K+それぞれの質量及び質量比における海水エビAの生存率を比較することで、海水エビAの生産効率を確認した。なお、本実施例における生存率は、種苗の稚エビから飼育開始して90日目における海水エビAの生存率とした。
【0191】
飼育水111としては、Mg2+、Ca2+、K+の他、SO4 2-約50mg/L、Sr2+(ストロンチウムイオン)約8mg/Lを含み、塩分濃度が約3.2%である人工海水を用いた。なお、飼育期間中において、飼育水111のSO4 2-濃度、Sr2+濃度、及び塩分濃度については、意図的に増減する操作を行っていない。
【0192】
本実験で比較する飼育水111中の溶質質量は、飼育水1L当たりの溶質の質量として、Mg2+を25~350mg、Ca2+を20~320mg、K+を5~90mgの間で選択した複数の組合せで設定した。なお、その他の実験条件については実験1と同様である。
【0193】
また、Mg2+、Ca2+、K+のそれぞれについて、第1質量比(Mg2+の質量/K+の質量)、第2質量比(Ca2+の質量/K+の質量)、及び第3質量比(Mg2+の質量/Ca2+の質量)を算出した。また、海水エビAの生存率について、60%超を「評価:○」、60%未満を「評価:×」として、「評価:○」に該当するMg2+、Ca2+、K+の質量の組合せ、及び質量比を確認した。
【0194】
<海水エビAの生存率に関する実験結果>
本実験の結果は、[表7]のとおりである。
【0195】
【表7】
【0196】
表7によれば、「評価:○」である各実施例のバナメイエビの生存率は、生存率が高い順に、参考例1(Mg2+:240mg/L、Ca2+:180mg/L、K+:60mg/L)が99%、参考例2(Mg2+:45mg/L、Ca2+:60mg/L、K+:30mg/L)が92%、参考例3(Mg2+:40mg/L、Ca2+:60mg/L、K+:20mg/L)が91%、参考例4(Mg2+:30mg/L、Ca2+:30mg/L、K+:30mg/L)が89%、参考例5(Mg2+:40mg/L、Ca2+:30mg/L、K+:60mg/L)が86%、参考例6(Mg2+:200mg/L、Ca2+:200mg/L、K+:50mg/L)が82%、参考例7(Mg2+:200mg/L、Ca2+:120mg/L、K+:40mg/L)が78%、参考例8(Mg2+:320mg/L、Ca2+:250mg/L、K+:80mg/L)が78%、参考例9(Mg2+:35mg/L、Ca2+:25mg/L、K+:8mg/L)が76%、参考例10(Mg2+:60mg/L、Ca2+:50mg/L、K+:10mg/L)が75%であった。これら参考例1~10については、生存率が60%超であるため、「評価:○」とした。
【0197】
参考例1~10では、飼育水111は、飼育水1L当たりの溶質の質量として、35~320mgのMg2+と、25~250mgのCa2+と、8~80mgのK+と、を含み、第1質量比が0.7~5.0であり、第2質量比が0.5~5.0であり、第3質量比が0.7~1.4である。その結果、海水エビAの生存率を75%以上とすることができた。これにより、海水エビAの生産効率の確実な向上を図ることができる。
【0198】
特に、第3質量比が0.7~1.3(参考例1~8)のとき生存率が78%以上、第1質量比が0.7~4.0かつ第2質量比が0.5~4.0(参考例1~6)のとき生存率が82%以上、第1質量比が1.0~4.0かつ第2質量比が1.0~3.0(参考例1~4)のとき生存率が89%以上、第1質量比が1.5~4.0かつ第2質量比が2.0~3.0(参考例1~3)のとき生存率が91%以上と、さらに高い生存率となることが確認された。これにより、海水エビAの生産効率のさらに確実な向上を図ることができる。
【0199】
また、「評価:×」である各実施例のバナメイエビの生存率は、生存率が高い順に、比較例8(Mg2+:320mg/L、Ca2+:250mg/L、K+:90mg/L)が52%、比較例9(Mg2+:320mg/L、Ca2+:260mg/L、K+:80mg/L)が52%、比較例10(Mg2+:350mg/L、Ca2+:320mg/L、K+:80mg/L)が48%、比較例11(Mg2+:30mg/L、Ca2+:35mg/L、K+:8mg/L)が32%、比較例12(Mg2+:35mg/L、Ca2+:20mg/L、K+:8mg/L)が30%、比較例13(Mg2+:320mg/L、Ca2+:20mg/L、K+:80mg/L)が12%、比較例14(Mg2+:350mg/L、Ca2+:35mg/L、K+:8mg/L)が8%、比較例15(Mg2+:35mg/L、Ca2+:260mg/L、K+:8mg/L)が8%、比較例16(Mg2+:35mg/L、Ca2+:25mg/L、K+:90mg/L)が5%、比較例17(Mg2+:25mg/L、Ca2+:35mg/L、K+:5mg/L)が5%、比較例18(Mg2+:250mg/L、Ca2+:320mg/L、K+:5mg/L)が4%、比較例19(Mg2+:30mg/L、Ca2+:320mg/L、K+:80mg/L)が2%であった。
【0200】
比較例8では、K+が80mg/L超であるため、海水エビAの生存率を高めることができず、海水エビAの生産効率の確実な向上を図ることができない。
【0201】
比較例9では、Ca2+が250mg/L超であるため、海水エビAの生存率を高めることができず、海水エビAの生産効率の確実な向上を図ることができない。
【0202】
比較例10では、Mg2+が320mg/L超であるため、海水エビAの生存率を高めることができず、海水エビAの生産効率の確実な向上を図ることができない。
【0203】
比較例11では、Mg2+が35mg/L未満であるため、海水エビAの生存率を高めることができず、海水エビAの生産効率の確実な向上を図ることができない。
【0204】
比較例12では、Ca2+が25mg/L未満であるため、海水エビAの生存率を高めることができず、海水エビAの生産効率の確実な向上を図ることができない。
【0205】
比較例13では、Ca2+が25mg/L未満であるため、海水エビAの生存率を高めることができず、海水エビAの生産効率の確実な向上を図ることができない。
【0206】
比較例14では、Mg2+が320mg/L超であるため、海水エビAの生存率を高めることができず、海水エビAの生産効率の確実な向上を図ることができない。
【0207】
比較例15では、Ca2+が250mg/L超であるため、海水エビAの生存率を高めることができず、海水エビAの生産効率の確実な向上を図ることができない。
【0208】
比較例16では、K+が80mg/L超であるため、海水エビAの生存率を高めることができず、海水エビAの生産効率の確実な向上を図ることができない。
【0209】
比較例17では、K+が8mg/L未満であるため、海水エビAの生存率を高めることができず、海水エビAの生産効率の確実な向上を図ることができない。
【0210】
比較例18では、K+が8mg/L未満であるため、海水エビAの生存率を高めることができず、海水エビAの生産効率の確実な向上を図ることができない。
【0211】
比較例19では、Mg2+が35mg/L未満であるため、海水エビAの生存率を高めることができず、海水エビAの生産効率の確実な向上を図ることができない。
【0212】
すなわち、海水エビAの生存率を向上させるうえで好適な塩分濃度低減前の飼育水111及び塩分濃度低減後の飼育水110は、塩分濃度低減工程S11の前後において、飼育水1L当たりの溶質の質量として、35~320mgのMg2+と、25~250mgのCa2+と、8~80mgのK+と、を含み、第1質量比が0.7~5.0かつ第2質量比が0.5~5.0かつ第3質量比が0.7~1.4である。また、より好ましくは第3質量比が0.7~1.3であり、さらに好ましくは第1質量比が0.7~4.0かつ第2質量比が0.5~4.0であり、さらに好ましくは第1質量比が1.0~4.0かつ第2質量比が1.0~3.0であり、さらに好ましくは第1質量比が1.5~4.0かつ第2質量比が2.0~3.0である。
【0213】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0214】
1 馴化システム
11 飼育槽
110 飼育水(塩分濃度の低減が完了した飼育水)
111 飼育水(海洋生物が生存可能な塩分濃度の飼育水)
112 飼育水(塩分濃度が低減されている飼育水)
12 塩分濃度低減部
13 給水槽
130 希釈水
14 廃水槽
140 廃水
2 アクアポニックス
21 水耕栽培槽
210 飼育水
22 分解液生成部
221 分解液
23 分解液供給部
31、31a、31b 循環パイプ
32 給水パイプ
33 排水パイプ
51 ろ過装置
52 殺菌装置
53 気泡発生装置
54 水質監視装置
55 温度制御装置
56 自動給餌装置
57 照明部
A 海水エビ
B 植物
S11 塩分濃度低減工程
S12 分解液生成工程
S13 分解液供給工程
【要約】
【課題】海水エビについて陸上養殖の効率向上を図るとともに、確実に成長促進を図ることができる海水エビの馴化方法、アクアポニックスによる育成方法、海水エビの馴化システム、及びアクアポニックスを提供する。
【解決手段】本発明における海水エビAの低塩分環境に対する馴化方法は、海水エビAが飼育されている飼育水111の塩分濃度を、1日あたり0.10~0.50質量%低減する塩分濃度低減工程を有することを特徴とする。海水エビの馴化システム1は、海水エビAが飼育されている飼育水111を収容する収容部11と、収容部11に収容される飼育水111の塩分濃度を、1日あたり0.10~0.50質量%低減する塩分濃度低減部12とを備え、塩分濃度低減部12を介して飼育水111をより塩分濃度の低い飼育水112とする。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5