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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】給電装置、及び、給電方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/80 20160101AFI20240903BHJP
   H02J 50/40 20160101ALI20240903BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20240903BHJP
   H01Q 3/36 20060101ALI20240903BHJP
   H01Q 3/24 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
H02J50/80
H02J50/40
H01Q21/06
H01Q3/36
H01Q3/24
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020127778
(22)【出願日】2020-07-28
(65)【公開番号】P2022024926
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】藤井 正明
【審査官】赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-004324(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0064840(KR,A)
【文献】特表2022-519749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/00-50/90
H01Q 3/00-3/46
H01Q 21/00-25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を送電可能な第1アンテナ素子から所定の周波数で所定の位相で送電している状態で、電力を送電可能な第2アンテナ素子から前記所定の周波数で位相差が等しいN(Nは2、3、又は4)個の位相でN回にわたってそれぞれ送電を行う送電制御部と、
前記N回の送電を受電したデバイスから受信する前記N回分の受電電力を用いて、前記デバイスの受電電力が最大になる前記第2アンテナ素子の位相を推定する位相推定部と、
前記第2アンテナ素子の位相を前記位相推定部によって推定された位相に設定する位相設定部と
を含む、給電装置。
【請求項2】
前記位相推定部は、前記N個の位相と前記N回分の受電電力とを用いて放物線を補間する放物線補間式に基づいて前記デバイスの受電電力が最大になる前記第2アンテナ素子の第1位相を推定し、
前記位相設定部は、前記第2アンテナ素子の位相を前記第1位相に設定する、請求項1に記載の給電装置。
【請求項3】
前記位相推定部は、前記送電制御部が前記第1アンテナ素子に前記所定の周波数で前記所定の位相で送電させている状態で、前記第2アンテナ素子に前記所定の周波数で前記第1位相で送電させたときに受電した受電電力と、前記第1位相と、前記N回分の受電電力のうち、最小の受電電力を除いたN-1個の受電電力と、前記N-1個の受電電力に対応するN-1個の位相とを用いて、放物線を補間する放物線補間式に基づいて前記デバイスの受電電力が最大になる第2位相を推定し、
前記位相設定部は、前記第2アンテナ素子の位相を前記第2位相に設定する、請求項2に記載の給電装置。
【請求項4】
前記第1アンテナ素子及び前記第2アンテナ素子を含むM(Mは2以上の整数)個のアンテナ素子が前記デバイスから受信した信号の受電電力のうちの最大の受電電力が得られたアンテナ素子を前記第1アンテナ素子として選択し、前記M個のアンテナ素子のうちの前記第1アンテナ素子を除いた残りのM-1個のアンテナ素子のうちの1つを前記第2アンテナ素子として選択するアンテナ素子選択部をさらに含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の給電装置。
【請求項5】
前記残りのM-1個のアンテナ素子のうちの1つは、前記残りのM-1個のアンテナ素子のうち最大の受電電力が得られたアンテナ素子である、請求項4に記載の給電装置。
【請求項6】
前記Mは3以上の整数であり、
前記アンテナ素子選択部は、前記第1アンテナ素子及び前記第2アンテナ素子を選択してから前記位相設定部によって前記第2アンテナ素子の位相が設定されると、当該第2アンテナ素子を前記第1アンテナ素子として新たに選択するとともに、前記残りのM-1個のアンテナ素子から新たな前記第1アンテナ素子として選択されたアンテナ素子を除いた残りのM-2個のアンテナ素子のうちの1つのアンテナ素子を前記第2アンテナ素子として新たに選択する、請求項4又は5に記載の給電装置。
【請求項7】
前記残りのM-2個のアンテナ素子のうちの1つは、前記残りのM-2個のアンテナ素子のうち最大の受電電力が得られたアンテナ素子である、請求項6に記載の給電装置。
【請求項8】
前記送電制御部は、前記新たに選択された第1アンテナ素子から前記所定の周波数で当該第1アンテナ素子について前記位相推定部によって推定された位相で送電している状態で、前記新たに選択された第2アンテナ素子から前記所定の周波数で位相差が等しいN(Nは2、3、又は4)個の位相でN回にわたって送電を行い、
前記新たに選択された第2アンテナ素子の前記N回の送電を受電したデバイスから受信する前記N回分の受電電力を用いて、前記デバイスの受電電力が最大になる前記新たに選択された第2アンテナ素子の位相を推定し、
前記位相設定部は、前記新たに選択された第2アンテナ素子の位相を前記位相推定部によって推定された位相に設定する、請求項6又は7に記載の給電装置。
【請求項9】
前記Nは3であり、前記位相差が等しいN個の位相は、互いに120度異なる位相である、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の給電装置。
【請求項10】
電力を送電可能な第1アンテナ素子から所定の周波数で所定の位相で送電している状態で、電力を送電可能な第2アンテナ素子から前記所定の周波数で位相差が等しいN(Nは2、3、又は4)個の位相でN回にわたって送電を行うことと、
前記N回の送電を受電したデバイスから受信する前記N回分の受電電力を用いて、前記デバイスの受電電力が最大になる位相を推定することと、
前記第2アンテナ素子の位相を前記推定された位相に設定することと
を含む、給電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給電装置、及び、給電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、第1の電力アクセスポイント又は第2の電力アクセスポイントからデバイスに無線エネルギを伝達するシステムがある。第1の電力アクセスポイント又は第2の電力アクセスポイントは、デバイスへの無線エネルギを伝達する際に、位相シフタで位相をシフトさせて調整を行っている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2019-506833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来のシステムは、デバイスに給電する際に送電信号の位相をシフト(例えば-180度から+180度までシフト、又は、1度から360度シフト)させているため、送電信号の位相を設定するまでに演算回数が多くなり、設定に要する時間が長くなる。すなわち、従来のシステムは、送電信号の位相を容易に設定することが困難である。
【0005】
そこで、送電信号の位相を容易に設定可能な給電装置、及び、給電方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の給電装置は、電力を送電可能な第1アンテナ素子から所定の周波数で所定の位相で送電している状態で、電力を送電可能な第2アンテナ素子から前記所定の周波数で位相差が等しいN(Nは2以上の整数)個の位相でN回にわたってそれぞれ送電を行う送電制御部と、前記N回の送電を受電したデバイスから受信する前記N回分の受電電力を用いて、前記デバイスの受電電力が最大になる前記第2アンテナ素子の位相を推定する位相推定部と、前記第2アンテナ素子の位相を前記位相推定部によって推定された位相に設定する位相設定部とを含む。
【発明の効果】
【0007】
送電信号の位相を容易に設定可能な給電装置、及び、給電方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の給電装置100を示す図である。
図2】制御装置140の構成を示す図である。
図3】デバイス50の受電信号の位相を示す図である。
図4】実施形態の給電装置100における合成受電電力Pの調整方法を説明する図である。
図5図4に示す合成受電電力と送電信号の位相との関係を示す図である。
図6】合成受電電力と位相の推定値とを示す図である。
図7】合成受電電力と送電信号の位相との関係を示す図である。
図8】合成受電電力と位相の推定値とを示す図である。
図9】合成受電電力のベクトルを示す図である。
図10】送電信号の位相の推定値の求め方を説明する図である。
図11】制御装置が実行する処理を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の給電装置、及び、給電方法を適用した実施形態について説明する。
【0010】
<実施形態>
図1は、実施形態の給電装置100を示す図である。以下では、XYZ座標系を用いて説明する。平面視とはXY平面視のことである。
【0011】
給電装置100は、一例として、スマート工場、大規模プラント、物流センタ、倉庫等の大規模な施設の領域10に配置される。給電装置100は、アレイアンテナ110、フェーズシフタ120、ICチップ125、マイクロ波発生源130、及び制御装置140を含み、領域10内に存在するデバイス50に非接触で給電(マイクロ波給電)を行う。実施形態の給電方法は、給電装置100によって実現される給電方法であり、特に制御装置140が実行する処理によって実現される。
【0012】
給電装置100は、デバイス50に給電を行う際に、アレイアンテナ110にビームフォーミングでの送電を行わせる。アレイアンテナ110は、一例として4つのアンテナ素子111を有する。アレイアンテナ110は、複数のアンテナ素子111を有していればよく、4つに限られるものではない。4つのアンテナ素子111は、制御装置140によって設定された位相で送電可能である。デバイス50は、4つのアンテナ素子111の送電信号を受電可能な位置に存在する。なお、送電信号とは、アンテナ素子111から送電(送信)される信号であり、所定の電力を有する信号である。
【0013】
デバイス50は、図1の下側に拡大して示すように、アンテナ51、制御部52、及び蓄電部53を有する。
【0014】
アンテナ51は、1又は複数のアンテナ素子111から電力を受電するためのアンテナである。アンテナ51は、受電した電力を制御部52及び蓄電部53に出力する。
【0015】
制御部52は、アンテナ51を介してアンテナ素子111から電力を受電しているときに受電電力を蓄電部53に充電する充電制御を行う。また、制御部52は、一例としてBLE(Bluetooth Low Energy(登録商標))等の近距離無線通信部を含んでおり、BLEの通信信号に受電電力の強度を表すRSSI(Received Signal Strength Indicator)値を書き込んで制御装置140にフィードバック信号として通信信号を送信する。
【0016】
蓄電部53は、一例として二次電池又はキャパシタであり、アンテナ51から供給される電力を充電する。蓄電部53には、電力を消費する負荷が接続されていてもよい。例えば、負荷は、温度や湿度等を検出するセンサであってもよく、この場合にはデバイス50をセンサデバイスとして取り扱うことができる。また、負荷は、モータやアクチュエータ等の動力源であってもよく、デバイス50は動的な作業を行うデバイスであってもよい。
【0017】
また、デバイス50が移動可能な移動体に取り付けられている場合には、蓄電部53が充電する電力は、負荷としての移動体のモータ等の動力源や制御部等を駆動するための電力として利用することができる。
【0018】
アレイアンテナ110は、2次元アンテナグリッドの一例であり、一例として4つのアンテナ素子111を含む。4つのアンテナ素子111は、一例として、X方向に2個、Y方向に2個配列されている。各アンテナ素子111は、一例として、上述したスマート工場等の大規模な施設の天井や柱等に取り付けられている。
【0019】
各アンテナ素子111の間の間隔は、どのような間隔であってもよく、等間隔ではなくてもよいが、4つのアンテナ素子111の送電信号をデバイス50が受電可能であればよい。アンテナ素子111の通信周波数は、一例としてマイクロ波帯を想定しており、一例として915MHzである。
【0020】
各アンテナ素子111は、送電ケーブル130Aを介してマイクロ波発生源130に接続されており、マイクロ波帯の電力が供給される。制御装置140によって制御されることにより、4つのアンテナ素子111は、デバイス50に送電を行う。4つのアンテナ素子111の送電のオン/オフは、制御装置140によって独立的に制御可能である。アンテナ素子111は、平面視で矩形状のパッチアンテナである。アンテナ素子111は、-Z方向側にグランド電位に保持されるグランド板を有していてもよい。
【0021】
フェーズシフタ120は、各アンテナ素子111に1個ずつ接続されており、各アンテナ素子111と送電ケーブル130Aとの間に挿入されている。図1では、説明の便宜上、1個のアンテナ素子111、フェーズシフタ120、及びICチップ125を拡大して示す。各フェーズシフタ120の位相は、制御装置140によって独立的に制御可能である。
【0022】
フェーズシフタ120は、マイクロ波発生源130から送電ケーブル130Aを介して伝送される電力の送電位相をシフトしてアンテナ素子111に出力する。フェーズシフタ120は、位相調節部の一例である。ICチップ125は、BLEの通信部と、アンテナ素子111の近傍に位置するとともにBLE通信によるビーコン信号の受信におけるRSSI値を測定する測定部とを含み、測定したRSSI値を表すデータを含む測定信号を通信ケーブル130Bを介して制御装置140に送信する。ICチップ125の通信部は、BLE通信用のアンテナを有する。
【0023】
マイクロ波発生源130は、4個のフェーズシフタ120に接続されており、所定の電力のマイクロ波を供給する。マイクロ波発生源130は、電波発生源の一例である。マイクロ波の周波数は、一例として915MHzである。なお、ここでは給電装置100がマイクロ波発生源130を含む形態について説明するが、マイクロ波に限られるものではなく、所定の周波数の電波であればよい。
【0024】
制御装置140は、制御部の一例であり、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び不揮発性メモリ等を有するマイクロコンピュータであり、一例として、離散型ウェーブレット・マルチトーン(DWMT)を用いることができる。制御装置140は、一例としてBLE通信用のアンテナ140Aを有する。
【0025】
制御装置140は、各アンテナ素子111に接続されたICチップ125からRSSI値が書き込まれた測定信号を受信するとともに、デバイス50からRSSI値が書き込まれたフィードバック信号を受信する。
【0026】
制御装置140がICチップ125から受信する測定信号に書き込まれたRSSI値は、ICチップ125の通信部のアンテナがデバイス50から受信したビーコン信号のRSSI値であり、ICチップ125によって取得される値である。ICチップ125は、ICチップ125の通信部がビーコン信号を受信するとRSSI値を取得し、取得したRSSI値を書き込んだ測定信号を通信ケーブル130Bを介して制御装置140に送信する。制御装置140は、ICチップ125から送信される測定信号を通信ケーブル130Bを介して受信する。
【0027】
ICチップ125の通信部のアンテナがデバイス50から受信したビーコン信号のRSSI値は、後述する4つのアンテナ素子111のランキングを決める際に利用される。デバイス50が送信するビーコン信号の周波数は、アンテナ素子111の送電信号の周波数と同等の周波数(同一又は近い周波数)である。アンテナ素子111は送電用のアンテナであって、デバイス50が送信するビーコン信号をアンテナ素子111の送電信号の周波数と同等の周波数にすることによって、ICチップ125の通信部のアンテナにおける伝搬環境をアンテナ素子111と同等にしてビーコン信号を受信するためである。
【0028】
また、制御装置140がデバイス50から受信したフィードバック信号に書き込まれたRSSI値は、アンテナ素子111の送電信号を受信したデバイス50が測定した送電信号のRSSI値である。デバイス50からRSSI値が書き込まれたフィードバック信号を受信するのは、アンテナ素子111の送電信号の位相を決めるためにフィードバック制御を行うときである。デバイス50は、送電信号を受信するとRSSI値を測定し、RSSI値を書き込んだフィードバック信号を送信する。このフィードバック信号は、制御装置140のアンテナ140Aで受信される。フィードバック信号は、一例として、ICチップ125のBLEの通信部が受信するビーコン信号とはデータ構造が異なるビーコン信号で実現され、制御装置140によってRSSI値が読み取られる。
【0029】
制御装置140は、4個のフェーズシフタ120における位相の制御、及び、マイクロ波発生源130の電力の出力制御を行う。アンテナ素子111の送電信号の位相制御は、フェーズシフタ120における位相の制御によって実現される。
【0030】
図2は、制御装置140の構成を示す図である。制御装置140は、主制御部141、アンテナ素子選択部142、送電制御部143、位相推定部144、位相設定部145、及びメモリ146を有する。主制御部141、アンテナ素子選択部142、送電制御部143、位相推定部144、及び位相設定部145は、制御装置140が実行するプログラムの機能を機能ブロックとして示したものである。また、メモリ146は、制御装置140のメモリを機能的に表したものである。
【0031】
主制御部141は、制御装置140の処理を統括する処理部であり、アンテナ素子選択部142、送電制御部143、位相推定部144、及び位相設定部145が実行する処理以外の処理を実行する。
【0032】
アンテナ素子選択部142は、ICチップ125から通信ケーブル130Bを介して受信する測定信号に書き込まれたRSSI値に基づいて各アンテナ素子111のランキング付けを行い、第1アンテナ素子と第2アンテナ素子を選択する。RSSI値は、ICチップ125で測定され、測定信号に書き込まれて通信ケーブル130Bを介して制御装置140に伝送される。ランキング付けと、第1アンテナ素子及び第2アンテナ素子の選択方法とについては後述する。
【0033】
送電制御部143は、すべてのアンテナ素子111の送電制御を行い、各アンテナ素子111に所定の周波数で所定の電力の送電信号を送信させる。送電制御部143は、各アンテナ素子111について位相設定部145によって送電信号の位相が設定されている場合には、設定されている送電信号の位相を用いて、所定の周波数で所定の電力の送電信号を送信させる。送電制御部143は、各アンテナ素子111について位相設定部145によって送電信号の位相が設定されていない場合には、各アンテナ素子111に接続されているフェーズシフタ120の(そのときの状態における)位相で送電を行う。送電制御部143によって行われる送電制御の詳細については後述する。
【0034】
位相推定部144は、デバイス50から受信するフィードバック信号に書き込まれたRSSI値に基づいて、送電信号の位相の設定対象になるアンテナ素子111について、デバイス50の受電電力が最大になる位相を推定する。送電信号の位相の設定対象になるアンテナ素子111は、第2アンテナ素子の一例である。位相推定部144が送電信号の位相を推定する方法の詳細については後述する。
【0035】
位相設定部145は、送電信号の位相の設定対象になるアンテナ素子111に接続されたフェーズシフタ120の位相を位相推定部144によって推定された位相に設定する。この結果、送電信号の位相の設定対象になるアンテナ素子111の送電信号の位相が、位相推定部144によって推定された位相に設定される。位相設定部145による位相の設定処理については後述する。
【0036】
メモリ146は、主制御部141、アンテナ素子選択部142、送電制御部143、位相推定部144、及び位相設定部145が処理を実行する際に用いるデータやプログラム等を格納する。給電装置100がデバイス50から受信する測定信号およびフィードバック信号に含まれるRSSI値を表すデータもメモリ146に格納される。
【0037】
図3は、デバイス50の受電信号の位相を示す図である。I軸は実軸、Q軸は虚軸である。図3には、4つのアンテナ素子111からデバイス50に向けて放射される4つの送電信号P1、P2、P3、P4のベクトルを実線の矢印で示す。一例として送電信号P1、P2、P3、P4のベクトルの向きは互いに異なり、位相は互いに異なっている。送電信号P1、P2、P3、P4の周波数は互いに等しく、一例として915MHzである。
【0038】
図3に示すように送電信号P1、P2、P3、P4の位相が揃っていない場合には、デバイス50の合成受電電力Pのベクトルは、破線の矢印で示すように短くなる。合成受電電力Pのベクトルは、送電信号P1、P2、P3、P4のベクトルの合成ベクトルであり、合成ベクトルの大きさは、合成受電電力Pの大きさを表す。デバイス50の合成受電電力Pを最大化するには、送電信号P1、P2、P3、P4の位相を揃える必要がある。合成受電電力Pは、デバイス50の受電電力であるが、複数の送電信号の受電電力を合成した電力であるため、ここでは合成受電電力と称す。
【0039】
図4は、実施形態の給電装置100における合成受電電力Pの調整方法を説明する図である。図4に示す調整方法は、給電装置100の制御装置140によって実行される。制御装置140は、図3に示すような位相と大きさを有する送電信号P1、P2、P3、P4がある場合に、一例として、送電信号のベクトルの大きさでランキング付けを行う。一例として、ベクトルの大きさが最大の送電信号(ランキングが1位の送電信号)と2番目に大きい送電信号(ランキングが2位の送電信号)とを選択する。ベクトルの大きさは、受電電力の大きさを表す。ここでは、一例として、送電信号P1の受電電力が最大であり、送電信号P2の受電電力が2番目に大きいため、制御装置140は、送電信号P1、P2、P3、P4の中から送電信号P1及びP2を選択する。ベクトルの大きさが最大の送電信号と2番目に大きい送電信号とを選択するのは、受電電力が大きい送電信号を用いて調整を開始する方が、調整が容易だからである。
【0040】
制御装置140は、送電信号P1の位相を現在の位相に固定し、送電信号P2の位相をシフトさせる。送電信号P1の位相を現在の位相に固定するのは、最終的に得られる送電信号P1、P2、P3、P4を合成した合成受電電力Pは、送電信号P1、P2、P3、P4の位相が揃っていればよく、合成受電電力の位相は、どのような位相であっても構わないからである。
【0041】
制御装置140は、一例として、送電信号P2を放射するアンテナ素子111に接続されているフェーズシフタ120の位相を0度、120度、240度に設定し、各位相で送電信号P2を放射させる。ここでは、送電信号P2の位相を0度、120度、240度に設定する形態について説明するが、送電信号P2の3つの位相は、120度間隔であればよいため、相対的な角度であってもよい。例えば、送電信号P2を放射するアンテナ素子111に接続されているフェーズシフタ120の位相が初期状態で10度である場合には、10度、130度、250度の3つの位相に設定してもよい。
【0042】
一例として、位相が0度の送電信号P2(0度)が送電信号P1と略反対方向を向く場合には、送電信号P1と送電信号P2(0度)の合成ベクトルとして得られる合成受電電力P12(0度)の大きさは小さい。これに対して、送電信号P1と位相が120度の送電信号P2(120度)の合成ベクトルとして得られる合成受電電力P12(120度)の大きさは大きい。同様に、送電信号P1と位相が240度の送電信号P2(240度)の合成ベクトルとして得られる合成受電電力P12(240度)の大きさは大きい。送電信号P1と送電信号P2の合成の合成受電電力P12が最大になるのは、送電信号P2の位相が120度と240度の間であり、約200度である。デバイス50は、合成受電電力P12(0度)、合成受電電力P12(120度)、合成受電電力P12(240度)を受電する度にRSSI値を測定し、RSSI値を書き込んだフィードバック信号を送信する。フィードバック信号は、制御装置140のアンテナ140Aによって受信される。
【0043】
図5は、図4に示す合成受電電力P12(0度)、P12(120度)、P12(240度)と、送電信号P2の位相との関係を示す図である。図5において、横軸は送電信号P2の位相を表し、縦軸は合成受電電力を表す。図5には、送電信号P2の位相が0度から360度の範囲において、シミュレーションで送電信号P2の位相を変化させた場合の合成受電電力を破線で示す。
【0044】
合成受電電力P12(0度)、P12(120度)、P12(240度)は、それぞれ、-14.4dBm、-3.9dBm、-2.1dBmであり、3つの位相における合成受電電力の最大値は合成受電電力P12(240度)で得られている。
【0045】
ここで、例えば送電信号P2の位相を1度刻みで360度シフトさせれば、送電信号P1と位相の一致する送電信号P2の位相を見つけることができるが、演算量は膨大なものになり、演算には長時間を要する。このため、制御装置140は、このような手法を採用せず、少ない演算量で容易に位相を推定する手法を採用する。
【0046】
正弦波の周期性によって、送電信号P2の位相を360度シフトさせると必ず極大値と極小値が得られる。このため、制御装置140は、送電信号P1及びP2の合成受電電力P12が最大(極大)になる送電信号P2の位相を推定する際に、送電信号P2の位相の探索範囲を3つの合成受電電力P12(0度)、P12(120度)、P12(240度)のうちの最大値が得られた位相の±120度の範囲に制限する。探索範囲を限定するためである。
【0047】
ここでは、合成受電電力P12(240度)が最大であり、送電信号P2の位相が240度のときに得られているため、探索範囲を240度の±120度の範囲(120度~360度)に制限する。この範囲に、必ず極大値が存在するからである。なお、360度は0度と等しい。
【0048】
そして、制御装置140は、演算量を低減するために、次式(1)を用いて極大値を与える送電信号P2の位相を推定する。換言すれば、次式(1)を用いて極大値を与える送電信号P2の位相の推定値θハット(1)を求める。式(1)は、3点を通る放物線補間式において傾き(放物線補間式の微分)がゼロになる点を求める式であり、360度の範囲を3等分した位相である0度、120度、240度を用いる場合には、式(1)のように簡略化された式になる。
【0049】
【数1】
【0050】
ここで、3つの角度θ、θ、θは送電信号P2について設定される3つの位相であり、それぞれ、0度、120度、240度である。また、P12(θ)、P12(θ)、P12(θ)は、それぞれ、送電信号P2について3種類の位相を設定した場合に得られる合成受電電力である。ここでは、P12(θ)、P12(θ)、P12(θ)は、それぞれ、合成受電電力P12(0度)、P12(120度)、P12(240度)に対応する。
【0051】
式(1)を解くと、送電信号P2の位相の推定値θハット(1)は195度である。このように、角度θ、θ、θとP12(θ)、P12(θ)、P12(θ)とを用いて推定される推定値θハット(1)は、第1位相の一例である。
【0052】
図6は、合成受電電力P12(0度)、P12(120度)、P12(240度)と位相の推定値θハット(1)とを示す図である。図6において、横軸は送電信号P2の位相を表し、縦軸は合成受電電力を表す。図6には、図5に示す曲線と同一の曲線を破線で示す。また、合成受電電力P12(0度)、P12(120度)、P12(240度)の3点について、120度から360度の探索範囲内において放物線補間式で当て嵌めた放物線状の曲線を実線で示す。制御装置140は、このような破線及び実線の曲線を求めないが、ここでは説明のために示す。
【0053】
図6に示すように、0度から360度の範囲内でシミュレーションで送電信号の位相を変化させた場合の合成受電電力の曲線(破線)と、120度から360度の探索範囲内で合成受電電力P12(0度)、P12(120度)、P12(240度)の3点について当て嵌めた放物線状の曲線(実線)とは少しずれている。実線の曲線は、120度間隔の3点を用いて当て嵌めた曲線であるため、シミュレーションで求めた実際の受電電力を示す曲線(破線)へのフィッティングの精度が十分に高くない。
【0054】
実線の曲線上における推定値θハット(1)での合成受電電力は、白丸(○)のマーカで示すレベルであり、破線の曲線の極大値よりも少し左側に位置している。このため、破線の曲線の極大値は、推定値θハット(1)として得られた195度よりも少し大きいと考えられる。
【0055】
このように、1回の推定では極大値を与える位相からずれる場合が有り得るため、制御装置140は、推定値θハット(1)を用いて探索範囲をさらに狭めて2回目の位相の推定を行う。制御装置140は、送電信号P2の位相を推定値θハット(1)として得られた195度に設定して、送電信号P1に対応するアンテナ素子111から送電信号P1を放射させた状態で、送電信号P2に対応するアンテナ素子111から送電信号P2を放射させる。送電信号P1及びP2を受信したデバイス50はRSSI値を測定し、RSSI値を書き込んだフィードバック信号を送信する。制御装置140は、このフィードバック信号を受信し、位相を195度に設定したときのデバイス50の合成受電電力P12(195度)のRSSI値を取得する。P12(195度)は、-1.63dBmであることとする。
【0056】
P12(195度)が-1.63dBmであり、合成受電電力P12(120度)及びP12(240度)よりも大きいことから、極大値は120度から240度の範囲内に必ず存在すると考えられる。このため、制御装置140は、探索範囲を240度から120度に絞って2回目の位相の推定を行う。
【0057】
図7は、合成受電電力P12(120度)、P12(195度)、及びP12(240度)と、送電信号P2の位相との関係を示す図である。図7において、横軸は送電信号P2の位相を表し、縦軸は合成受電電力を表す。図7には、送電信号P2の位相が0度から360度の範囲において、シミュレーションで送電信号P2の位相を変化させた場合の合成受電電力の曲線を一点鎖線で示す。
【0058】
P12(195度)は、-1.63dBmであり、P12(240度)よりも良好な値であるが、一点鎖線で示す曲線の極大値は、P12(195度)よりも少し大きく、推定値θハット(1)として得られた195度よりも大きな角度で得られている。
【0059】
制御装置140は、次式(2)を用いて極大値を与える送電信号P2の位相の推定値θハット(2)を求める。推定値θハット(2)は、第2位相の一例である。式(2)は、放物線補間式において傾き(放物線補間式の微分)がゼロになる点を求める式であり、位相が120度、推定値θハット(1)、及び240度の3点で得られる合成受電電力P12(120度)、P12(θハット(1))、及びP12(240度)に当て嵌まる放物線状の曲線における極大値を与える位相の推定値θハット(2)を求める式である。式(2)では、推定値θハット(1)を変数として用いている。
【0060】
式(2)を解くと、θハット(2)は201度である。なお、前述した式(1)は、120度間隔の3つの位相(0度、120度、240度)を用いるという前提の下に式(2)を簡略化した式である。
【0061】
【数2】
【0062】
図8は、合成受電電力P12(120度)、P12(195度)、P12(240度)と位相の推定値θハット(2)とを示す図である。図8において、横軸は送電信号P2の位相を表し、縦軸は合成受電電力を表す。図8には、図7に示す一点鎖線の曲線と同一の曲線を示す。また、合成受電電力P12(120度)、P12(195度)、P12(240度)の3点について、120度から240度の探索範囲内で放物線補間式で当て嵌めた放物線状の曲線を実線で示す。制御装置140は、このような一点鎖線及び実線の曲線を求めないが、ここでは説明のために示す。一点鎖線の曲線と実線の曲線とは略一致している。
【0063】
実線の曲線上において、θハット(2)として求めた201度の点に白丸(○)のマーカを示す。θハット(2)におけるP12(θハット(2))をシミュレーションで求めると、-1.62dBmであり、推定値θハット(1)として得られた195度における合成受電電力P12(195度)が-1.63dBmであるため、P12(195度)よりも良好な値が得られたことになる。制御装置140は、このようにして求めた推定値θハット(2)を送電信号P2に設定する。
【0064】
図9は、送電信号P1と、位相を推定値θハット(2)に設定した送電信号P2との合成受電電力P12(201度)のベクトルを示す図である。推定値θハット(2)として求められた201度の位相を有する送電信号P2のベクトルの向きは、送電信号P1のベクトルの向きと略同一であり、送電信号P1及びP2の合成受電電力は、合成受電電力P12(201度)として最大化されていることが分かる。
【0065】
図10は、送電信号P3及びP4の位相の推定値の求め方を説明する図である。図10(A)には、送電信号P1、P2(201度)、及びP3を示す。送電信号P3は、ランキングが3位の送電信号である。図4乃至図9を用いて説明した送電信号P1の位相を固定して送電信号P2の位相を推定する方法と同様に、送電信号P1の位相を固定するとともに送電信号P2の位相を201度に固定して送電信号P1及びP2に相当する2つのアンテナ素子111を送電状態に保持した状態で、送電信号P1~P3を受電するデバイス50の合成受電電力P123が最大になるように、送電信号P3の位相を推定すればよい。送電信号P3の位相の推定値の求め方は、上述した送電信号P2の位相の推定値の求め方と同様である。
【0066】
制御装置140は、送電信号P2に相当するアンテナ素子111を新たな第1アンテナ素子として選択し、送電信号P3に相当するアンテナ素子111を新たな第2アンテナ素子として選択して、送電信号P1及びP2に相当する2つのアンテナ素子111を送電状態に保持した状態で、新たな第2アンテナ素子としてのアンテナ素子111の送電信号P3の位相の推定値を求める。図10(A)には、送電信号P3の位相を0度、120度、240度に設定した場合の送電信号P3(0度)、P3(120度)、P3(240度)を示す。送電信号P3(0度)の向きは、図3に示す送電信号P3の向きに等しい。一例として、送電信号P3の位相が最適値に近い値に設定されたこととし、送電信号P3と合成受電電力P123と示す。合成受電電力P123は、送電信号P1~P3を合成した電力である。
【0067】
また、制御装置140は、送電信号P3の位相の推定値を求めた後には、送電信号P3の位相の推定値と同様に、図10(B)に示すように送電信号P4の位相の推定値を求めればよい。送電信号P4は、ランキングが4位の送電信号である。
【0068】
図10(B)には、送電信号P1、P2(201度)、P3、及びP4を示す。送電信号P1の位相を固定するとともに送電信号P2及びP3の位相を推定によって求められた位相に固定して送電信号P1、P2、及びP3に相当する3つのアンテナ素子111を送電状態に保持した状態で、送電信号P1~P4を受電するデバイス50の合成受電電力P1234が最大になるように、送電信号P4の位相を推定すればよい。送電信号P4の位相の推定値の求め方は、上述した送電信号P2及びP3の位相の推定値の求め方と同様である。
【0069】
制御装置140は、送電信号P3に相当するアンテナ素子111を新たな第1アンテナ素子として選択し、送電信号P4に相当するアンテナ素子111を新たな第2アンテナ素子として選択して、送電信号P1、P2、及びP3に相当する3つのアンテナ素子111を送電状態に保持した状態で、新たな第2アンテナ素子としてのアンテナ素子111の送電信号P4の位相の推定値を求める。図10(B)には、送電信号P4の位相を0度、120度、240度に設定した場合の送電信号P4(0度)、P4(120度)、P4(240度)を示す。送電信号P4(0度)の向きは、図3に示す送電信号P4の向きに等しい。一例として、送電信号P4の位相が最適値に近い値に設定されたこととし、送電信号P4と合成受電電力P1234と示す。合成受電電力P1234は、送電信号P1~P4を合成した電力である。
【0070】
以上のようにして、4つの送電信号P1~P4の位相を最適値に設定することによって、受電信号の位相を揃えることができる。ここでは、一例として、送電信号P1~P4の位相がすべて完全に揃えられる形態について説明したが、送電信号P1~P4に対して受電信号の位相がすべて完全に一致するとは限らず、互いに近い値になる場合も有り得る。例えば、受電信号の位相同士に±5度程度の差が生じても、図3に示すような状態に比べれば、合成受電電力は大幅に増大する。このように、位相同士に差があっても同相化されれば、大きな合成受電電力が得られる。
【0071】
図11は、制御装置140が実行する処理を表すフローチャートである。制御装置140は、処理がスタートすると、以下の処理を実行する。
【0072】
アンテナ素子選択部142は、デバイス50からビーコン信号を受信したかどうかを判定する(ステップS1)。ビーコン信号を受信した場合に、図11に示す処理を開始する。なお、ビーコン信号はデバイス50の識別ID及びステップS1~S13の処理を開始させる処理開始指示を含んでよい。
【0073】
アンテナ素子選択部142は、ビーコン信号を受信した(S1:YES)と判定すると、各アンテナ素子111の近傍に配置されたICチップ125の通信部のアンテナで受信されICチップ125で測定されたRSSI値に基づいて、4つのアンテナ素子111のランキング付けを行う(ステップS2)。RSSI値が大きいほどランキングが高く、RSSI値が小さいほどランキングが低くなる。ICチップ125で測定されたRSSI値は、測定信号に書き込まれて通信ケーブル130Bを介してICチップ125から制御装置140に伝送される。
【0074】
アンテナ素子選択部142は、ランキング1位のアンテナ素子111を第1アンテナ素子として選択し、現在の位相に固定する(ステップS3)。
【0075】
アンテナ素子選択部142は、残りのアンテナ素子111のうちランキングが最も高いアンテナ素子111を第2アンテナ素子として選択する(ステップS4)。ランキング1位のアンテナ素子111を第1アンテナ素子として選択された後には、ランキングが2位のアンテナ素子111が第2アンテナ素子として選択されることになる。また、後述するステップS12において送電信号P2に相当するアンテナ素子111について位相の推定値が設定された後にフローが後述するステップS12においてNOと判定されてステップS4にリターンした場合には、残りのアンテナ素子111である送電信号P3及びP4に相当する2つのアンテナ素子111のうちランキングが最も高い送電信号P3に相当するアンテナ素子111が第2アンテナ素子として選択されることになる。さらに、送電信号P3に相当するアンテナ素子111について位相の推定値が設定された後にフローが後述するステップS12においてNOと判定されてステップS4にリターンした場合には、残りのアンテナ素子111である送電信号P4に相当するアンテナ素子111が第2アンテナ素子として選択されることになる。
【0076】
送電制御部143は、第1アンテナ素子として選択されたアンテナ素子111に接続されたフェーズシフタ120の位相を現在の位相に固定して送電させた状態で、第2アンテナ素子として選択されたアンテナ素子111に接続されたフェーズシフタ120の位相を0度、120度、240度に設定して順次送電させる(ステップS5)。具体的には、例えば、送電信号P1に相当するアンテナ素子111が第1アンテナ素子で、送電信号P2に相当するアンテナ素子111が第2アンテナ素子である場合には、送電信号P1に相当するアンテナ素子111を現在の位相に固定して送電させた状態で、送電信号P2に相当するアンテナ素子111に接続されたフェーズシフタ120の位相を0度、120度、240度に設定して順次送電させる。また、送電信号P2に相当するアンテナ素子111が第1アンテナ素子で、送電信号P3に相当するアンテナ素子111が第2アンテナ素子である場合には、送電信号P1に相当するアンテナ素子111を現在の位相に固定して送電するとともに送電信号P2に相当するアンテナ素子111をステップS11で設定された位相の推定値θハット(2)に固定して送電させた状態で、送電信号P3に相当するアンテナ素子111に接続されたフェーズシフタ120の位相を0度、120度、240度に設定して順次送電させる。また、送電信号P3に相当するアンテナ素子111が第1アンテナ素子で、送電信号P4に相当するアンテナ素子111が第2アンテナ素子である場合には、送電信号P1に相当するアンテナ素子111を現在の位相に固定して送電するとともに送電信号P2及びP3に相当する2つのアンテナ素子111をステップS11で設定された位相の推定値θハット(2)に固定して送電させた状態で、送電信号P4に相当するアンテナ素子111に接続されたフェーズシフタ120の位相を0度、120度、240度に設定して順次送電させる。
【0077】
位相推定部144は、アンテナ140Aを介してデバイス50Aからフィードバック信号を受信したかどうかを判定する(ステップS6)。ステップS6の処理は、具体的には、第2アンテナ素子の送電信号の位相が0度、120度、240度に設定される度に、RSSI値が書き込まれたフィードバック信号を受信したかどうかを判定する処理である。ステップS6では、フィードバック信号を3回受信することで3つのRSSI値が得られる。
【0078】
位相推定部144は、フィードバック信号を受信した(S6:YES)と判定すると、3つのフィードバック信号に書き込まれた3つのRSSI値を用いて、式(1)に従って位相の推定値θハット(1)を求める(ステップS7)。すなわち、位相推定部144は、合成受電電力の極大値を与える第2アンテナ素子の第1位相を推定する。
【0079】
位相推定部144は、第1アンテナ素子として選択されたアンテナ素子111に接続されたフェーズシフタ120の位相を現在の位相に固定して送電を継続させた状態で、第2アンテナ素子として選択されたアンテナ素子111に接続されたフェーズシフタ120の位相を位相の推定値θハット(1)に設定して送電させる(ステップS8)。これにより、第2アンテナ素子の送電信号の位相を位相の推定値θハット(1)に設定した場合の合成受電電力を表すRSSI値が得られる。具体的には、例えば、送電信号P1に相当するアンテナ素子111が第1アンテナ素子で、送電信号P2に相当するアンテナ素子111が第2アンテナ素子である場合には、送電信号P1に相当するアンテナ素子111を現在の位相に固定して送電を継続させた状態で、送電信号P2に相当するアンテナ素子111に接続されたフェーズシフタ120の位相を位相の推定値θハット(1)に設定して送電させる。また、送電信号P2に相当するアンテナ素子111が第1アンテナ素子で、送電信号P3に相当するアンテナ素子111が第2アンテナ素子である場合には、送電信号P1に相当するアンテナ素子111を現在の位相に固定して送電を継続させるとともに送電信号P2に相当するアンテナ素子111をステップS11で設定された位相の推定値θハット(2)に固定して送電を継続させた状態で、送電信号P3に相当するアンテナ素子111に接続されたフェーズシフタ120の位相を位相の推定値θハット(1)に設定して送電させる。また、送電信号P3に相当するアンテナ素子111が第1アンテナ素子で、送電信号P4に相当するアンテナ素子111が第2アンテナ素子である場合には、送電信号P1に相当するアンテナ素子111を現在の位相に固定して送電を継続させるとともに送電信号P2及びP3に相当する2つのアンテナ素子111をステップS11で設定された位相の推定値θハット(2)に固定して送電を継続させた状態で、送電信号P4に相当するアンテナ素子111に接続されたフェーズシフタ120の位相を位相の推定値θハット(1)に設定して送電させる。
【0080】
位相推定部144は、アンテナ140Aがデバイス50Aからフィードバック信号を受信したかどうかを判定する(ステップS9)。ステップS9の処理は、具体的には、第2アンテナ素子の送電信号の位相がステップS8において位相の推定値θハット(1)に設定された状態でデバイス50が受電した送電信号のRSSI値が書き込まれたフィードバック信号を受信したかどうかを判定する処理である。
【0081】
位相推定部144は、フィードバック信号を受信した(S9:YES)と判定すると、フィードバック信号に書き込まれたRSSI値と、ステップS6で得られた3つのRSSI値のうち値が大きい2つのRSSI値とを用いて、式(2)に従って位相の推定値θハット(2)を求める(ステップS10)。すなわち、位相推定部144は、合成受電電力の極大値を与える第2アンテナ素子の位相の第2位相を推定する。ステップS6で得られた3つのRSSI値のうち値が大きい2つのRSSI値は、ステップS5で位相を0度、120度、240度に設定して順次送電させたときにステップS6で得られた3つのRSSI値のうち、最も大きな値と、2番目に大きな値とに対応する2つの位相である。
【0082】
位相設定部145は、第2アンテナ素子としてのアンテナ素子111についてフェーズシフタ120の位相をステップS10で求められた推定値θハット(2)に設定する(ステップS11)。具体的には、例えば、送電信号P1に相当するアンテナ素子111が第1アンテナ素子で、送電信号P2に相当するアンテナ素子111が第2アンテナ素子である場合には、送電信号P2に相当するアンテナ素子111に接続されたフェーズシフタ120の位相が位相の推定値θハット(2)に設定される。また、送電信号P2に相当するアンテナ素子111が第1アンテナ素子で、送電信号P3に相当するアンテナ素子111が第2アンテナ素子である場合には、送電信号P3に相当するアンテナ素子111に接続されたフェーズシフタ120の位相が位相の推定値θハット(2)に設定される。また、送電信号P3に相当するアンテナ素子111が第1アンテナ素子で、送電信号P4に相当するアンテナ素子111が第2アンテナ素子である場合には、送電信号P4に相当するアンテナ素子111に接続されたフェーズシフタ120の位相が位相の推定値θハット(2)に設定される。
【0083】
位相推定部144は、ステップS3で選択したランキングが1位のアンテナ素子111以外のすべてのアンテナ素子111について位相の推定値を求めたかどうかを判定する(ステップS12)。上述した送電信号P2の位相の推定値だけでなく、送電信号P3及びP4の位相の推定値も求めるためである。
【0084】
位相推定部144によって、ランキングが1位のアンテナ素子111以外のすべてのアンテナ素子111について位相の推定値を求めていない(S12:NO)と判定されると、アンテナ素子選択部142は、現時点で第2アンテナ素子として選択されているアンテナ素子111を新たな第1アンテナ素子として選択して、フローをステップS4にリターンする(ステップS13)。その後、新たな第1アンテナ素子と、ステップS4で新たに選択される第2アンテナ素子とについて、ステップS5以下の処理が同様に行われる。この結果、ランキングが2位から4位のアンテナ素子111についてフェーズシフタ120に設定する位相の推定値が求められる。
【0085】
位相推定部144によって、ランキングが1位のアンテナ素子111以外のすべてのアンテナ素子について位相の推定値を求めた(S12:YES)と判定されると、制御装置140は処理を終了する。
【0086】
以上により、ランキング1位のアンテナ素子111の位相を現在の位相に固定するとともに、ランキングが2位から4位のアンテナ素子111についてフェーズシフタ120の位相を求められた位相の推定値に設定した状態で送電可能な状態になる。この状態で送電を行えば、図10(B)に示すように、送電信号P1~P4の位相が揃って合成受電電力P1234のように最大化された合成受電電力が得られる。
【0087】
以上のように、4つのアンテナ素子111の送電信号の位相を設定する際に、ランキングが2位から4位のアンテナ素子111の送電信号の位相をそれぞれ設定するために、位相を4回設定するだけで、位相の推定値θハット(2)を求めることができる。すなわち、位相を12回設定してRSSI値を12回測定するだけで、ランキングが2位から4位のアンテナ素子111の送電信号について位相の推定値θハット(2)を求めることができる。このように、非常に少ない試行回数で合成受電電力を最大化可能な位相を推定することができる。
【0088】
したがって、送電信号の位相を容易に設定可能な給電装置100、及び、給電方法を提供することができる。送電信号P2~P4の位相を決定する際に、送電信号P2~P4の位相をフェーズシフタ120でシフトさせながら探索を行う方法では、試行回数が膨大な数になる。例えば、送電信号P2の位相を決定するために1度刻みで位相をシフトさせると360回の試行が必要になり、送電信号P3及びP4についても同様に360回ずつの試行が必要になるからである。このような方法に対して、実施形態の給電方法は、非常に少ない試行回数で短時間に位相を決定することができる。
【0089】
なお、図4乃至図10を用いた上述の説明では、制御装置140が位相の推定値(第1位相)を一度求め、求めた推定値(第1位相)を用いてもう一度位相の推定値(第2位相)を求める形態について説明したが、位相の推定値を2回求めずに、1回目の位相の推定値(第1位相)を第2アンテナ素子の位相として設定してもよい。特に、送電信号P3やP4について位相の推定値を求める場合には、送電信号P1及びP2の合成受電電力としてある程度の大きさの合成受電電力が得られているため、送電信号P1及びP2に対して送電信号P3が逆位相に近い位相になっても合成受電電力がゼロに近いような極めて小さな電力になることはない。同様に、送電信号P1~P3に対して送電信号P4が逆位相に近い位相になっても合成受電電力がゼロに近いような極めて小さな電力になることはない。このため、送電信号P3やP4について位相の推定値を求める場合には、位相の推定値θハット(1)を用いてもよい。この場合には、ランキングが3位と4位のアンテナ素子111の送電信号について位相の推定値を求めるための試行回数を1回ずつ減らせるため、位相を10回設定して、RSSI値を10回測定するだけで、ランキングが2位から4位のアンテナ素子111の送電信号について位相の推定値を求め、合成受電電力の最大化が可能である。
【0090】
また、以上では、一例として送電信号P2~P4の位相を決定する際に、送電信号P2~P4を放射するアンテナ素子111に接続されているフェーズシフタ120の位相を120度間隔の3つの位相(一例として0度、120度、240度)に設定する形態について説明した。すなわち、2以上の整数Nを3に設定し、360度/Nを120度に設定して図4に示すように3つの位相におけるRSSI値を求める形態について説明した。しかしながら、Nは3に限られず、2又は4以上であってもよく、360度/Nずつ位相をずらしてRSSI値を求め、徐々に探索範囲を狭めながら合成受電電力が最大になる位相を推定してもよい。また、この場合に、図4に示すようにRSSI値を測定するためにずらす位相は、360度/Nに限られず、位相差が等しい複数の角度であってもよい。
【0091】
また、上述のように、Nは2以上の整数であれば幾つであってもよいが、試行回数の少なさと、推定値の求めやすさとの観点からは、3がベストである。Nが2である場合よりも極大値を見つけやすくて探索範囲を絞りやすく、Nが4以上である場合よりも試行回数が少なくて済むからである。
【0092】
また、以上では、4つのアンテナ素子111の送電信号の合成受電電力が最大になるように位相を推定する給電方法について説明したが、アンテナの数Mは、2以上であればよい。
【0093】
また、以上では、放物線補間式を用いて位相の推定値を求める給電方法について説明したが、複数の位相における複数のRSSI値にフィットする曲線の極大値を求める方法であればよいため、放物線補間式に限られるものではない。
【0094】
また、以上では、デバイス50が送信するビーコン信号を複数のICチップ125の通信部のアンテナで受信し、受信したビーコン信号のRSSI値で複数のアンテナ素子111のランキングを決める形態について説明したが、ランキング付けの手法はこのような手法には限られない。例えば、複数のアンテナ素子111から送電信号を順番に送信し、デバイス50で受電した際のRSSI値が大きい順にランキング付けを行ってもよい。また、アンテナ素子111が4つある場合に、3位と4位の位相を推定する順番は逆であってもよい。
【0095】
以上、本発明の例示的な実施形態の給電装置、及び、給電方法について説明したが、本発明は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0096】
50 デバイス
100 給電装置
110 アレイアンテナ
111 アンテナ素子
120 フェーズシフタ
130 マイクロ波発生源
140 制御装置
141 主制御部
142 アンテナ素子選択部
143 送電制御部
144 位相推定部
145 位相設定部
146 メモリ
図1
図2
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図11