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  • 特許-粗硫酸ニッケルの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】粗硫酸ニッケルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20240903BHJP
   C01G 53/10 20060101ALI20240903BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20240903BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20240903BHJP
   C25C 1/12 20060101ALI20240903BHJP
   C25C 7/06 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C01G53/10
C22B7/00 Z
C22B3/22
C25C1/12
C25C7/06 301A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020182059
(22)【出願日】2020-10-30
(65)【公開番号】P2021161533
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2020064166
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】522221046
【氏名又は名称】日比製煉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】仁志 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤原 正和
(72)【発明者】
【氏名】小田 達也
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-159633(JP,A)
【文献】特開2013-245119(JP,A)
【文献】特開2003-183869(JP,A)
【文献】特開2004-124115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 23/00-23/06
C22B 15/00-15/14
C25C 1/12
C25C 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅の電解精製後の電解液を二段階で電解する工程と、
前記電解する工程で得られる電解尾液を二段階で濃縮する工程と、
前記濃縮する工程で得られる濃縮物を洗浄せずに固液分離する工程と、を有することを特徴とする粗硫酸ニッケルの製造方法。
【請求項2】
前記固液分離する工程で得られる粗硫酸ニッケルの表面に硫酸が付着する請求項1に記載の粗硫酸ニッケルの製造方法。
【請求項3】
前記二段階で電解する工程は、前記電解液から銅を回収する第1の電解工程と、前記第1の電解工程後の電解尾液から、砒素、アンチモンおよびビスマスのうち少なくとも1つを回収する第2の電解工程を含む請求項1または2に記載の粗硫酸ニッケルの製造方法。
【請求項4】
前記二段階で電解する工程の後における電解尾液中の不純物は1.5g/L以下である請求項1から3のいずれか一項に記載の粗硫酸ニッケルの製造方法。
【請求項5】
前記二段階で濃縮する工程は、真空蒸発工程と、液中燃焼行程を含む請求項1から4のいずれか一項に記載の粗硫酸ニッケルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粗硫酸ニッケルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅の電解精製においてはアノードとして粗銅を用いる。粗銅には砒素、ビスマス、アンチモンおよびニッケルなどの不純物が含まれ、これら不純物は電解液中に溶出する。ニッケルなどの不純物が溶出することで電解液の抵抗が上昇し、消費電力が増加し、銅の生産コストが増加してしまう。また、アノードにスライム層が形成され、アノードが不働態化する。
【0003】
そこで、電解液から不純物を回収する。例えばニッケルは硫酸塩(粗硫酸ニッケル)として回収する。回収方法として、電解液に脱銅電解を行った後、電解および濃縮などを行う(特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-159633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
粉末状の粗硫酸ニッケルはハンドリング時の安全性が高く、かつ容易に再溶解できる。しかし、粉末状の粗硫酸ニッケルは、長期間保管される場合、湿気によって粒子同士が凝縮して大型の粒に固化する恐れがある。この場合、固化物を破砕する必要があるため、コストが上昇してしまう。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑み、粗硫酸ニッケルの固化の抑制が可能な粗硫酸ニッケルの製造方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る粗硫酸ニッケルの製造方法は、銅の電解精製後の電解液を二段階で電解する工程と、前記電解する工程で得られる電解尾液を二段階で濃縮する工程と、前記濃縮する工程で得られる濃縮物を洗浄せずに固液分離する工程と、を有することを特徴とする粗硫酸ニッケルの製造方法である。
【0008】
前記固液分離する工程で得られる粗硫酸ニッケルの表面に硫酸が付着してもよい。
【0009】
前記二段階で電解する工程は、前記電解液から銅を回収する第1の電解工程と、前記第1の電解工程後の電解尾液から、砒素、アンチモンおよびビスマスのうち少なくとも1つを回収する第2の電解工程を含んでもよい。
【0010】
前記二段階で電解する工程の後における電解尾液中の不純物は1.5g/L以下でもよい。
【0011】
前記二段階で濃縮する工程は、真空蒸発工程と、液中燃焼行程を含んでもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る粗硫酸ニッケルの製造方法によれば、粗硫酸ニッケルの固化の抑制が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は粗硫酸ニッケルの製造方法を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は粗硫酸ニッケルの製造方法を例示する図である。図1に示すように、銅電解精製後の電解液に、脱銅電解工程、清浄電解工程、真空蒸発、液中燃焼、および冷却・フィルタープレスを順に行うことで、粗硫酸ニッケルを回収する。
【0015】
銅電解精製後の電解液には、銅、砒素、ビスマス、アンチモンおよびニッケルなどが溶出している。電解液に脱銅電解工程を行うことで、電解液中の銅を回収する。陽極として例えば鉛を用い、陰極に銅を析出させる。脱銅電解前の電解液中の銅濃度は例えば45g/Lであり、脱銅電解後の電解液(電解尾液)中の銅濃度は例えば20~25g/Lである。
【0016】
脱銅電解工程後の電解尾液に清浄電解工程を行うことで、電解尾液からさらに銅を回収しつつ、砒素、アンチモンおよびビスマスなどの不純物を除去する。陽極として例えば鉛を用い、陰極に砒素など不純物を析出させる。清浄電解尾液中の銅濃度は0.7g/L以下、砒素、アンチモンおよびビスマスなどの不純物の濃度が1.5/L以下、より好ましくは1g/L以下であることが望ましい。なお脱銅電解と清浄電解とでは条件は同一でよい。
【0017】
清浄電解工程後の電解尾液を例えば真空蒸発装置に導入し、水分を蒸発させ、濃縮する。装置内は例えば0.05~0.1MPa程度など大気圧より低い圧力とし、電解尾液の温度は例えば40~80℃などとする。濃縮率は例えば2倍程度である。真空蒸発装置の熱源として水蒸気、燃焼ガス、および自溶炉または転炉などの廃熱を用いることができる。真空蒸発装置の蒸発缶は単一でもよいし、複数の蒸発缶を直列に接続してもよい。複数の蒸発缶を用いることで蒸発効率を高めることができる。
【0018】
濃縮後の電解尾液を液中燃焼装置に導入し、液中燃焼炎で例えば130~160℃に過熱し、蒸発させ、濃縮する。濃縮率は例えば4倍程度である。これらの工程で電解尾液中のニッケル分が粗硫酸ニッケルとして析出する。
【0019】
濃縮工程で得られた、粗硫酸ニッケルを含む濃縮物に冷却およびフィルタープレスを行う。濃縮物を冷却層において例えば0~50℃程度に冷却する。これにより未析出のNi分が粗硫酸ニッケルとして析出する。冷却層における粗硫酸ニッケルの沈殿の防止のため、インペラなどで濃縮物を攪拌してもよい。また、冷却層内の管に冷媒を通してもよいし、冷媒を使用せず自然冷却してもよい。
【0020】
冷却後の濃縮物にフィルタープレスを行い、固液分離する。これにより粗硫酸ニッケルを回収する。このとき、濃縮物を洗浄しない。すなわち、フィルタープレス装置などに洗浄水を流し、濃縮物を洗浄することはない。なお、固液分離の方法として、フィルタープレス以外の濾過(重力濾過、真空濾過)、沈降分離および遠心分離などを用いてもよいし、これらを組み合わせてもよい。固液分離後に得られる硫酸ニッケルは大きな凝集物として固化しにくく、例えば粉末状である。また、硫酸ニッケルの表面には硫酸の層が生成される。
【0021】
本実施形態によれば、二段階の電解工程および二段階の濃縮工程で得られた濃縮物を、洗浄せずに固液分離する。これにより、粗硫酸ニッケルの固化を抑制することができる。従来の濃縮物は不純物が多いために洗浄を要するが、本発明の濃縮物は、清浄電解で不純物を除去して低減してあるため、洗浄を必要としない。
【0022】
洗浄を行わないことで粗硫酸ニッケルの表面には硫酸が付着しており、例えば硫酸層が形成される。これにより複数の粗硫酸ニッケルの粒子が、大型の凝集物として固化することが抑制される。
【0023】
電解液に脱銅電解および清浄電解の二段階の電解工程を行う。脱銅電解により銅を回収し、清浄電解により砒素、アンチモンおよびビスマスなどの不純物を回収することができる。上記の工程で銅および不純物を除去することで、濃縮物を洗浄しなくとも粗硫酸ニッケルを回収することができる。清浄電解後の電解尾液中の不純物は例えば1.5g/L以下であることが好ましい。なお、これらの回収物はニッケルとは別に生成することができる。
【実施例1】
【0024】
以下、本発明の実施例について説明する。上記の実施形態に係る粗硫酸ニッケルの製造方法を用いる。
【0025】
銅の電解精製後の電解液を、脱銅電解および清浄電解を行った。清浄電解後の尾液中の組成を表1に示す。
【表1】
清浄電解後の電解尾液を真空蒸発装置により濃縮する。装置内の気圧は0.05~0.1MPa、濃縮率は2倍である。電解尾液を液中燃焼装置でさらに濃縮する。加熱温度は130~160℃、濃縮率は4倍である。
【0026】
濃縮物を冷却層において冷却する。冷却温度は0~50℃である。冷却後の濃縮物をフィルタープレス装置に導入し、固液分離する。固液分離工程において、洗浄は行わない。これらの工程により粗硫酸ニッケルが得られた。
【0027】
表2はフィルタープレス装置から排出されるろ液の組成を示す。なお、尾液及びろ液は、ICP分析と中和滴定で分析を行った。
【表2】
【0028】
粗硫酸ニッケルの表面にも、ろ液と同程度の濃度で各成分が付着していると推測される。砒素(As)、アンチモン(Sb)およびビスマス(Bi)などの不純物が付着していると推測されるが、表1に示す濃度は許容範囲内である。すなわち、不純物は清浄電解により十分に回収できる。また、ろ液と同程度の濃度で粗硫酸ニッケルの表面に硫酸(HSO)が付着していると推測される。このため粗硫酸ニッケルの固化を抑制することができる。このように作られた粉末状の粗硫酸ニッケルを1か月大気中で保管したが、粗硫酸ニッケルの粒には、固化は見られなかった。
【0029】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
図1