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特許7547717乳タンパク風味改善剤及び乳タンパク風味改善効果を有する新規化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】乳タンパク風味改善剤及び乳タンパク風味改善効果を有する新規化合物
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/20 20160101AFI20240903BHJP
   C07C 45/64 20060101ALI20240903BHJP
   C07C 49/175 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
A23L27/20 A
A23L27/20 D
C07C45/64
C07C49/175 Z
C07C49/175 CSP
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020176429
(22)【出願日】2020-10-21
(65)【公開番号】P2022067706
(43)【公開日】2022-05-09
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000201733
【氏名又は名称】曽田香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】服部 祥治
(72)【発明者】
【氏名】有本 歳昭
(72)【発明者】
【氏名】人見 哲也
(72)【発明者】
【氏名】黒川 純子
(72)【発明者】
【氏名】勝山 賢
(72)【発明者】
【氏名】児玉 達哉
【審査官】長谷川 莉慧霞
(56)【参考文献】
【文献】Peter SCHREIER et al.,Characterisation and differentiation of grape brandies by multiple discriminant analysis,Journal of the Science of Food and Agriculture,1979年03月,Vol. 30, No. 3,pp.319-327,DOI: 10.1002/JSFA.2740300317
【文献】Lili ZHAO et al.,Addition of buttermilk improves the flavor and volatile compound profiles of low-fat yogurt,LWT-Food Science and Technology,2018年12月,Vol. 98,pp. 9-17,DOI: 10.1016/J.LWT.2018.08.029
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
C07C
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3,3-ジエトキシ-2-ブタノン、3,3-ジブトキシ-2-ブタノン、3,3-ジプロポキシ-2-ブタノン、3,3-ジペントキシ-2-ブタノン、2,2-ジエトキシ-3-ペンタノン、2,2-ジエトキシ-3-ヘキサノン、4,4-ジエトキシ-3-ヘキサノンから選択される1種以上の化合物を有効成分とする乳タンパク風味改善剤。
【請求項2】
3,3-ジブトキシ-2-ブタノンの含有量が0.1ppm~1ppmとなるように、請求項1に記載の乳タンパク風味改善剤を添加することにより、乳タンパク風味が改善された乳タンパク質を3.4~10%含有する飲食品。
【請求項3】
3,3-ジプロポキシ-2-ブタノン、3,3-ジペントキシ-2-ブタノンから選択される1種以上の化合物の含有量が0.01ppm~10ppmとなるように、請求項1に記載の乳タンパク風味改善剤を添加することにより、乳タンパク風味が改善された乳タンパク質を3.4~10%含有する飲食品。
【請求項4】
2,2-ジエトキシ-3-ペンタノンの含有量が0.01ppm~0.1ppmとなるように、請求項1に記載の乳タンパク風味改善剤を添加することにより、乳タンパク風味が改善された乳タンパク質を3.4~10%含有する飲食品。
【請求項5】
3,3-ジペントキシ-2-ブタノン。
【請求項6】
2,3-ブタンジオンと1-ペンタノールの酸触媒を用いたアセタール化反応により3,3-ジペントキシ-2-ブタノンを得る工程からなる、3,3-ジペントキシ-2-ブタノンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳タンパク風味改善剤及び乳タンパク風味改善効果を有する新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
乳タンパクは牛乳や乳製品に含まれるタンパク質であり、その栄養価の高さ、消化の良さから、健康食品をはじめとした様々な飲食品に添加されており、近年は様々な機能性も報告され、注目されている素材である。しかしながら、乳タンパクは特有の不快な風味を有し、添加された飲食品のおいしさを損なう原因となることから、その不快な風味を改善する方法が求められている。
【0003】
上記課題を解決する方法として、食品の不快臭を抑制する組成物(特許文献1)、飲食物の風味改善剤、飲食物の風味改善方法、及び飲食物(特許文献2)が公知となっている。しかしながら、前者は当該組成物が油脂の形態をとるため、水溶性の飲食品には不向きである。また、後者は天然物(ヘチマ及び/又はその加工物)を有効成分とするため、安定供給の面で不安があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2018/037927号公報
【文献】特開2018-121553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、乳タンパクが有する不快な風味を改善することができる乳タンパク風味改善剤、当該効果を有する新規化合物及び当該新規化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
鋭意研究の結果、本発明者らは、炭素数2~5の第一級アルコールと炭素数4~6のジケトンを出発原料として生成されるアセタール基を有するケトンに、乳タンパクが有する不快な風味の改善効果を見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]一般式(1)
【0008】
【化1】
【0009】
(Rは炭素数1~3、Rは炭素数1~2、Rは炭素数2~5のアルキル基を表す。)
で表される化合物から選択される1種以上の化合物を有効成分とする乳タンパク風味改善剤。
[2][1]に記載の乳タンパク風味改善剤を添加してなる飲食品。
[3][1]に記載の乳タンパク風味改善剤を添加することにより、[1]に記載の化合物を0.001ppm~100ppm含有する[2]に記載の飲食品。
[4][1]に記載の乳タンパク風味改善剤を添加することを特徴とする、飲食品の乳タンパク風味改善方法。
[5][1]に記載の乳タンパク風味改善剤を添加することにより、[1]に記載の化合物を0.001ppm~100ppm添加する、[4]に記載の乳タンパク風味改善方法。
[6]3,3-ジペントキシ-2-ブタノン。
[7]2,3-ブタンジオンと1-ペンタノールの酸触媒を用いたアセタール化反応により3,3-ジペントキシ-2-ブタノンを得る工程からなる、3,3-ジペントキシ-2-ブタノンの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の乳タンパク風味改善剤は、飲食品の本来有する香味に悪影響を及ぼすことなく、当該飲食品の有する乳タンパク特有の不快な風味を改善することができる。また、本発明の製造方法により、当該効果を有する新規化合物を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における乳タンパク風味の改善とは、乳タンパク特有の臭み、えぐみ、粉っぽさなどの不快な風味を改善することを指す。
【0012】
本発明の乳タンパク風味改善剤は、一般式(1)
【0013】
【化1】
【0014】
(Rは炭素数1~3、Rは炭素数1~2、Rは炭素数2~5のアルキル基を表す。)
で表される化合物から選択される1種以上の化合物を有効成分として用い、特に3,3-ジエトキシ-2-ブタノン(以下、化合物1と記載する場合あり)、3,3-ジブトキシ-2-ブタノン(以下、化合物2と記載する場合あり)、3,3-ジプロポキシ-2-ブタノン(以下、化合物3と記載する場合あり)、3,3-ジペントキシ-2-ブタノン(以下、化合物4と記載する場合あり)、2,2-ジエトキシ-3-ペンタノン(以下、化合物5と記載する場合あり)、2,2-ジエトキシ-3-ヘキサノン(以下、化合物6と記載する場合あり)、4,4-ジエトキシ-3-ヘキサノン(以下、化合物7と記載する場合あり)を用いるのが好ましく、3,3-ジブトキシ-2-ブタノン(化合物2)、3,3-ジプロポキシ-2-ブタノン(化合物3)、3,3-ジペントキシ-2-ブタノン(化合物4)を用いるのがより好ましい。
【0015】
本発明の乳タンパク風味改善剤に用いられる化合物は、例えば、特定の炭素数のジケトンと第一級アルコールの酸触媒を用いたアセタール化反応により製造することができ、出発物質であるジケトン、第一級アルコール及び酸触媒は、いずれも市販品を購入して調達することができる。
【0016】
本発明の乳タンパク風味改善剤は、有効成分として用いる化合物の有する香気の閾値以下で乳タンパク風味の改善効果を示すため、飲食品に添加することで、飲食品が本来有する香味に悪影響を及ぼすことなく、飲食品の有する乳タンパク特有の臭み、えぐみ、粉っぽさなどの不快な風味を改善することができる。
【0017】
本発明の乳タンパク風味改善剤が適用される飲食品は、乳タンパクを含有する飲食品であれば何でもよく、例えば、飲食品としては、果実飲料、果汁入り飲料、野菜ジュース、発泡性飲料、濃縮ジュース、凍結ジュース、スポーツドリンク、栄養ドリンク、その他の機能性ドリンク、フレーバードティー、乳飲料、乳酸菌飲料、豆乳類などの飲料一般、ヨーグルト、ゼリー、ムース、デザート類、アイスクリーム、ラクトアイス、アイスミルク、シャーベットなどの冷菓並びに氷菓、ケーキ、クッキー、ビスケット、パイ、煎餅、その他の米菓などといった洋菓子及び和菓子を含む焼菓子や蒸菓子などの菓子類、パン、スナック類、チューインガム、ハードキャンディ、ソフトキャンディー、ゼリービーンズ、グミ、錠菓などを含む糖菓一般、クリーム、果実フレーバーソース、ジャムやマーマレード、甘味料、シロップ、カレールウ、シチュールウ、ハヤシライスのルウ、ハッシュドビーフのルウ、ソース、調味ソース、粉末調味料、液体調味料、ドレッシング、揚げ粉、パスタソース、グラタンソース、炊き込みご飯の素(パエリア、ビリヤニ、ピラフ等)、炒飯の素、麻婆豆腐の素、鍋の素、中華スープの素、コンソメスープの素等の調味料類、カップラーメン、カップ焼きそば、袋麺等の即席麺類、カップごはん等の即席米飯類、レトルト食品、冷凍食品(炒飯、ピラフ、餃子、焼売、から揚げ、ハンバーグ、フライ、コロッケ、グラタン、ピザ等)、缶詰等の調理食品や加工食品等を挙げることができるが、これらに限定はされない。
【0018】
本発明の乳タンパク風味改善剤に用いられる化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
本発明の乳タンパク風味改善剤の好適な添加量は、添加対象の飲食品によって異なるため、目的に応じて適宜調整してよいが、乳タンパク風味の改善効果が得られ、かつ、有効成分である化合物自体が有する青臭い香気が飲食品の本来有する香味に悪影響を与えないよう、有効成分である化合物が飲食品に対し0.001ppm~100ppm含まれるのが好ましく、0.01ppm~50ppm含まれるのがより好ましく、0.1ppm~1ppm含まれるのがさらに好ましい。なお、本発明においてppt、ppb、ppm及び%とは、特に記載の無い限り質量比のことを示す。
【0020】
本発明の乳タンパク風味改善剤は、そのまま飲食品に添加して使用してもよいが、使用時の利便性のため適宜溶剤などで希釈されてもよい。希釈に用いる溶剤などは香料組成物に常用されるものであれば特に制限はない。また、あらかじめ香料組成物とすることもでき、香味に悪影響のない範囲であれば、香料以外の成分として常用される他の添加物や添加剤を加えた組成物としてもよい。さらに、本発明においては香料一般に適用される製剤化技術の適用も可能であり、粉末化、カプセル化など、状況により所望の形態に調製することもできる。なお、上記のように調製される香料組成物等の飲食品への添加量は、一般的に最大でも1%程度であることから、乳タンパク風味の改善効果が得られるよう、いずれの形態でも、有効成分である化合物を0.1ppm以上含有するよう調製するのが好ましい。
【0021】
本発明の乳タンパク風味改善剤は、飲食品中に均等に混合することができれば、製造工程のどの時点で添加しても構わない。
【実施例
【0022】
(実施例1)3,3-ジペントキシ-2-ブタノンの合成
窒素雰囲気下、試験管にジアセチル(1.6g、19mmol)、1-ペンタノール(11.5g、130mmol)、p-トルエンスルホン酸一水和物(0.04g、0.21mmol)を仕込み、30℃24時間攪拌した。炭酸カリウム(0.3g)を添加し、0℃1時間攪拌した。得られた反応液を蒸留精製することにより、淡黄色油状物である、3,3-ジペントキシ-2-ブタノン(0.81g、3.3mmol)が得られた。ジアセチルからの収率は18%であった。
【0023】
得られた3,3-ジペントキシ-2-ブタノンの物性は以下の通りであった。
H-NMR(400MHz、CDCl):δppm 0.91(m,6H),1.32-1.37(m,8H),1.38(s,3H),1.56-1.63(m,4H),2.23(s,3H),3.33-3.47(m,4H)
13C-NMR(400MHz、CDCl):δppm 13.96,20.40,22.46,25.99,28.33,28.38,29.48,63.06,101.90,208.02
【0024】
(実施例2)2,2-ジエトキシ-3-ヘキサノンの合成
窒素雰囲気下、試験管に2,3-ヘキサンジオン(3.0g、26mmol)、エタノール(8.5g、185mmol)、p-トルエンスルホン酸一水和物(0.05g、0.26mmol)を仕込み、30℃10時間攪拌した。炭酸カリウム(0.3g)を添加し、0℃1時間攪拌した。得られた反応液を蒸留精製することにより、淡黄色油状物である、2,2-ジエトキシ-3-ヘキサノン(0.52g、2.8mmol)が得られた。2,3-ヘキサンジオンからの収率は11%であった。
【0025】
(実施例3)4,4-ジエトキシ-3-ヘキサノンの合成
窒素雰囲気下、試験管に3,4-ヘキサンジオン(3.0g、26mmol)、エタノール(8.5g、185mmol)、p-トルエンスルホン酸一水和物(0.05g、0.26mmol)を仕込み、50℃24時間攪拌した。炭酸カリウム(0.28g)を添加し、0℃1時間攪拌した。得られた反応液を蒸留精製することにより、淡黄色油状物である、4,4-ジエトキシ-3-ヘキサノン(0.81g、3.3mmol)が得られた。3,4-ヘキサンジオンからの収率は16%であった。
【0026】
(実施例4)
乳タンパク含量が3.4%となるよう調製した3.4%乳タンパク水溶液に本発明の化合物を表1に記載の濃度となるよう添加して評価用サンプルを調製し、乳タンパク風味の改善効果についての官能評価を行った。官能評価は、訓練された社内パネル3名で、表2に記載の基準(3段階)で行った。結果を表1に示した。官能評価の結果、全ての化合物について乳タンパク風味の改善効果が認められた。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
(実施例5)
乳タンパク含量が10%となるよう調製した10%乳タンパク水溶液に本発明の化合物を表3に記載の濃度となるよう添加して評価用サンプルを調製し、乳タンパク風味の改善効果についての官能評価を行った。官能評価は、訓練された社内パネル3名で、実施例4と同様の基準で行った。結果を表3に示した。官能評価の結果、全ての化合物について乳タンパク風味の改善効果が認められた。また、実施例4の結果とあわせ、使用する化合物や飲食品の乳タンパクの含有量により、本発明の乳タンパク風味改善剤の好適な添加量は変動することが分かった。
【0030】
【表3】