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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】眼内レンズ挿入器具
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
A61F2/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019036884
(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2020137894
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-01-31
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(74)【代理人】
【識別番号】100166785
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 智也
(72)【発明者】
【氏名】菱田 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】夏目 明嘉
(72)【発明者】
【氏名】片山 真梧
(72)【発明者】
【氏名】中畑 義弘
(72)【発明者】
【氏名】紙谷 友章
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0270907(US,A1)
【文献】特開2011-255029(JP,A)
【文献】国際公開第2016/063937(WO,A1)
【文献】特開2016-019608(JP,A)
【文献】特開平08-024282(JP,A)
【文献】国際公開第2010/079780(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤形状の光学部と、前記光学部から外側に延びる1つまたは複数の支持部とを備えた変形可能な眼内レンズを、内部の通路を通じて前端部の挿入口から眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具であって、
前方に向かう程通路面積が狭くなると共に、前端部に前記挿入口を有するノズルと、
前記通路の軸に沿って前記通路内を前方に移動することで、前記眼内レンズを前方に押し出す棒状の押出部材と、
を備え、
前記押出部材は、
前記ノズルの前記通路内で前記眼内レンズを前方に押し進めることで、前記光学部上に前記支持部を折り曲げた状態で、前記光学部をロール状に折り畳み、折り畳まれた前記光学部の内側に前記支持部を位置させると共に、
前記押出部材の左側の側面および右側の側面のうち、前記光学部から後方に延びる前記支持部である後方支持部の基端が位置する側の側面を第1側面とした場合に、前記第1側面の上部から側方に向けて突出する上側リブと、
前記上側リブにおける下方を向く面に形成され、後方に向かう程下方に傾斜した傾斜面である押圧部と、
を備え、
前記押出部材は、前記後方支持部を前記光学部上に折り曲げた状態で、前方に押し込まれることで、前記押圧部によって前記後方支持部を前記光学部に直接接触させて前記光学部側である下側に押圧しながら前記ノズルの前記通路内で前記眼内レンズを前方に移動させて、前記支持部を内側に包み込みように前記光学部を折り畳み、前記挿入口から眼内に挿入することを特徴とする眼内レンズ挿入器具。
【請求項2】
請求項1に記載の眼内レンズ挿入器具であって、
前記上側リブにおける下方を向く面には、前記上側リブの前端部から前記通路の軸に平行に後方に延びる平行面が形成されており、
前記傾斜面である前記押圧部は、前記平行面の後方に形成されていることを特徴とする眼内レンズ挿入器具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の眼内レンズ挿入器具であって、
前記押出部材は、
前記押出部材の前端側に形成され、前記光学部に接触して前記光学部を前方に押し出す光学部接触部と、
前記押出部材の前端側のうち前記光学部接触部よりも上方に形成され、前記後方支持部に接触して前記後方支持部を前記光学部に近づく方向に移動させる支持部接触部と、
を備え、
前記上側リブは、前記支持部接触部の前端部から後方に延びることを特徴とする眼内レンズ挿入器具。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の眼内レンズ挿入器具であって、
前記押出部材は、
前記押出部材の左側の側面および右側の側面のうち、前記眼内レンズの前記後方支持部の基端が位置する側の側面を第1側面とした場合に、前記第1側面のうち前端部よりも後方に形成され、前端部における前記第1側面よりも内側に陥没する陥没部をさらに備えたことを特徴とする眼内レンズ挿入器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼内レンズを眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、白内障の手術方法の一つとして、摘出された水晶体の代わりに折り曲げ可能な軟性の眼内レンズを眼内に挿入する手法が用いられている。また、眼の屈折力を矯正するために、水晶体よりも前側に眼内レンズが挿入される場合もある。眼内レンズの眼内への挿入には、インジェクターと呼ばれる眼内レンズ挿入器具が用いられる場合がある。
【0003】
眼内レンズ挿入器具は、眼内レンズの支持部を変形させて光学部上に位置させた状態(所謂「タッキング」が行われた状態)で、眼内レンズを折り畳む場合がある。タッキングを行うことで、支持部の破損等が生じる可能性が低下する。例えば、特許文献1に記載の眼内レンズ挿入器具では、術者が押出部材を押し出すことで、眼内レンズの後方支持部が押出部材によって光学部の外周部分の内側に折り曲げられる。さらに押出部材が押し出されて、眼内レンズがノズルの先端側へ移動すると、眼内レンズの前方支持部がノズルの内壁面に接触し、前方支持部も光学部の外周部分の内側に折り曲げられる。さらに眼内レンズが先端側へ押し出されると、前方支持部と後方支持部が光学部の天井面側に載せられた状態で、光学部が折り畳まれる。その後、眼内レンズは、ノズル内の通路を通過して眼内に挿入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-190023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光学部が折り畳まれる過程で、支持部が光学部上の適切な位置に折り曲げられていなければ、種々の不具合が生じ得る。
【0006】
例えば、折り曲げられた状態の支持部の、光学部の上面(天井側の面)に対する位置が、適切な位置よりも上方となってしまう場合がある。この場合、ノズルの通路内の空間のうち上部の空間が、適切な位置より上方にある支持部によって狭くなる。光学部の縁部等は、ノズルの内壁に摺動しながら、天井側に向けて折り畳まれていく。従って、ノズル内の天井側の空間が狭いと、ノズルの内壁に摺動する光学部の縁部等が、ノズルの天井側の内壁と押出部材の間の隙間に入り込みやすい。
【0007】
また、支持部が適切な位置よりも上方にあると、天井側に向けて折り畳まれていく光学部の両縁部の間に、支持部が挟まれてしまう場合もある。また、ロール状に折り畳まれる光学部の内側に、支持部が適切に配置されない場合もある。これらの場合、支持部の破損等の不具合が生じ易い。また、支持部が適切な位置よりも上方に位置したまま光学部が折り畳まれると、光学部が折り曲げられる量が不適切となる可能性がある。光学部が適切な量で折り曲げられない場合、眼内レンズをノズル内で前方へ押し出す際の、ノズルにかかる負荷、および、押し出しに必要な荷重が増加する可能性もある。
【0008】
本開示の典型的な目的は、眼内レンズを適切に眼内に挿入することが可能な眼内レンズ挿入器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示における典型的な実施形態が提供する眼内レンズ挿入器具は、円盤形状の光学部と、前記光学部から外側に延びる1つまたは複数の支持部とを備えた変形可能な眼内レンズを、内部の通路を通じて前端部の挿入口から眼内に挿入する眼内レンズ挿入器具であって、前方に向かう程通路面積が狭くなると共に、前端部に前記挿入口を有するノズルと、前記通路の軸に沿って前記通路内を前方に移動することで、前記眼内レンズを前方に押し出す棒状の押出部材と、を備え、前記押出部材は、前記ノズルの前記通路内で前記眼内レンズを前方に押し進めることで、前記光学部上に前記支持部を折り曲げた状態で、前記光学部をロール状に折り畳み、折り畳まれた前記光学部の内側に前記支持部を位置させると共に、前記押出部材の左側の側面および右側の側面のうち、前記光学部から後方に延びる前記支持部である後方支持部の基端が位置する側の側面を第1側面とした場合に、前記第1側面の上部から側方に向けて突出する上側リブと、前記上側リブにおける下方を向く面に形成され、後方に向かう程下方に傾斜した傾斜面である押圧部と、を備え、前記押出部材は、前記後方支持部を前記光学部上に折り曲げた状態で、前方に押し込まれることで、前記押圧部によって前記後方支持部を前記光学部に直接接触させて前記光学部側である下側に押圧しながら前記ノズルの前記通路内で前記眼内レンズを前方に移動させて、前記支持部を内側に包み込みように前記光学部を折り畳み、前記挿入口から眼内に挿入する
【0010】
本開示における眼内レンズ挿入器具によると、眼内レンズが適切に眼内に挿入される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】眼内レンズ挿入器具10を右斜め上方から見た斜視図である。
図2】プランジャー300を右斜め上方から見た斜視図である。
図3】眼内レンズ1の(a)平面図、および(b)右側面図である。
図4】押出部材310を右斜め下方から見た斜視図である。
図5】押出部材310を左斜め上方から見た斜視図である。
図6】押出部材310の右側面図である。
図7】押出部材310の正面図である。
図8】眼内レンズ1の押し出し時の移動および変形の状態を示す概略説明図である。
図9】押圧部327を備えていない押出部材410を右斜め下方から見た斜視図である。
図10】眼内レンズ挿入器具が押圧部327を備えていない場合の、ノズル180の前後方向略中央における正面断面図である。
図11】本実施形態のノズル180の、前後方向略中央における正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<概要>
本開示で例示する眼内レンズ挿入器具は、内部の通路を通じて前端部の挿入口から眼内レンズを眼内に挿入する。眼内レンズは、円盤形状の光学部と、光学部から外側に延びる1つまたは複数の支持部を備える。眼内レンズ挿入器具は、ノズルと押出部材を備える。ノズルは、前方に向かう程通路面積が狭くなると共に、前端部に挿入口を有する。押出部材は棒状であり、通路の軸に沿って通路内を前方に移動することで、眼内レンズを前方に押し出す。また、押出部材は、ノズルの通路内で眼内レンズを前方に押し進めることで、光学部上に支持部を折り曲げた状態で、光学部をロール状に折り畳み、折り畳まれた光学部の内側に支持部を位置させる。本開示で例示する眼内レンズ挿入器具は、押圧部を備える。押圧部は、光学部から後方に延びる支持部である後方支持部が、光学部上に折り曲げられた状態で、後方支持部を光学部側である下側に押圧する。
【0013】
ここで、本開示では、眼内レンズ挿入器具の通路の軸から見て、ロール状に折り畳まれた光学部の中心が位置する側と反対側を、眼内レンズ挿入器具の天井側(上側)とする。つまり、通路の軸に交差する方向のうち、光学部がロール状に折り畳まれる過程で光学部の縁部同士が近付く側が、天井側となる。天井側と反対側を、底面側(下側)とする。ただし、本開示における上下方向の規定は、眼内レンズ挿入器具が実際に使用される際の上下方向を規定するものではない。従って、本開示で規定した上下方向が逆になった状態で、眼内レンズ挿入器具が使用されてもよい。
【0014】
本開示で例示する眼内レンズ挿入器具では、押圧部が、光学部上に折り曲げられた状態の後方支持部を、光学部側に押圧する。その結果、支持部が光学部側に適切に押圧された状態で、光学部が支持部を包み込むように折り畳まれやすくなる。従って、ノズルの通路内における天井側の空間が確保され易くなる。天井側の空間が確保されると、光学部がロール状に折り畳まれて、光学部の縁部等が通路内の天井側に位置した場合でも、押圧部によって確保された空間に光学部の縁部等が逃げやすくなる。よって、ノズルの内壁と押出部材の間に眼内レンズが入り込みにくくなる。また、折り畳まれる光学部の両縁部の間に支持部が挟まる可能性も低下する。さらに、ロール状に折り畳まれる光学部の内側に、支持部が配置されない可能性も低下する。よって、適切に眼内レンズが眼内に挿入される。
【0015】
押出部材は、前端面の下部から前方に突出する下側突起部を備えていてもよい。この場合、押出部材によって眼内レンズが前方に押し進められる際に、下側突起部は、眼内レンズが押出部材の前端面から下方へずれることを抑制する。従って、押圧部によって眼内レンズ全体が下方へ押圧されても、押出部材の底面とノズルの内壁の間に眼内レンズの一部が入り込みにくい。
【0016】
押出部材の左側の側面および右側の側面のうち、眼内レンズの後方支持部の基端が位置する側の側面を第1側面とする。押出部材は、第1側面の上部から側方に向けて突出する上側リブを備えていてもよい。押圧部は、上側リブにおける下方を向く面に形成され、後方に向かう程下方に傾斜した傾斜面であってもよい。この場合、ノズルの天井側(上側)の内壁と押出部材の間の隙間に眼内レンズの一部が入り込むことが、上側リブによってさらに抑制される。また、押出部材が前方に押し込まれると、後方支持部は上側リブの下方に回り込み、傾斜面である押圧部によって後方支持部が光学部側に押圧されながら、眼内レンズが前方に移動する。従って、押出部材が前方に押し込まれるだけで、光学部が支持部を包み込むように折り畳まれた状態で、適切に眼内レンズが前方に移動する。
【0017】
上側リブにおける下方を向く面には、上側リブの前端部から通路の軸に平行に延びる平行面が形成されていてもよい。傾斜面である押圧部は、平行面の後方に形成されていてもよい。この場合、押圧部によって後方支持部が光学部側に押圧されることで、平行面の下方に空間が形成される。従って、光学部がロール状に折り畳まれた際に、平行面の下方の空間に眼内レンズの一部が逃げやすくなる。よって、眼内レンズの一部は、ノズルの内壁と押出部材の間の隙間に入り込みにくくなる。また、平行面と押圧部の位置を規定することで、後方支持部が押圧部によって光学部側に押圧されるタイミングが、適切なタイミングに調整される。例えば、後方支持部が光学部上に十分に移動する前に押圧部によって押圧され、後方支持部の少なくとも一部が光学部よりも下方に回り込む不具合等が抑制される。よって、より適切に眼内レンズが眼内に挿入される。
【0018】
ただし、上側リブの平行面を省略することも可能である。つまり、傾斜面である押圧部は、上側リブの前端部から後方に延びていてもよい。この場合でも、後方支持部が光学部側に適切に押圧されるので、光学部が支持部を包み込むように適切に折り畳まれる。
【0019】
押出部材は、光学部接触部と支持部接触部を備えていてもよい。光学部接触部は、押出部材の前端側に形成され、光学部に接触して光学部を前方に押し出す。支持部接触部は、押出部材の前端側のうち光学部接触部よりも上方に形成され、後方支持部に接触して後方支持部を光学部に近づく方向に移動させる。上側リブは、支持部接触部の前端部から後方に延びていてもよい。この場合、押出部材が前方に押し込まれるだけで、後方支持部の光学部上への移動(つまり、後方支持部のタッキング)、後方支持部の光学部側への押圧、および、眼内レンズ全体の前方への移動が全て適切に行われる。
【0020】
ただし、後方支持部のタッキングを、押出部材以外の部材によって実行することも可能である。つまり、押出部材以外の部材で後方支持部のタッキングが行われた後に、押出部材によって眼内レンズが前方へ押し込まれてもよい。
【0021】
支持部接触部の前端面は、光学部接触部の前端面よりも前方に位置していてもよい。この場合、後方支持部が光学部接触部によって前方に押し込まれ易くなる。従って、後方支持部のタッキングがより適切に行われ易い。
【0022】
押出部材は陥没部をさらに備えていてもよい。陥没部は、第1側面のうち前端部よりも後方に形成され、前端部における第1側面よりも内側に陥没する。押圧部によって後方支持部が光学部側に押圧されると、後方支持部(特に、後方支持部の基端部)にかかる負荷が増大してしまう可能性も考えられる。しかし、陥没部が形成されることで、押圧部によって押圧された後方支持部は陥没部に逃げることができる。従って、ノズルの内壁と押出部材の間の隙間に眼内レンズが入り込む可能性が、さらに低下する。
【0023】
<実施形態>
以下、本開示における典型的な実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、本体部100のノズル180側の方向(図1の紙面左下側)を眼内レンズ挿入器具10の前方、プランジャー300の被押圧部370の方向(図1の紙面右上側)を眼内レンズ挿入器具10の後方とする。また、図1の紙面上側を眼内レンズ挿入器具10の天井側(上方)、図1の紙面下側を眼内レンズ挿入器具10の底面側(下方)、図1の紙面右下側を眼内レンズ挿入器具10の右方、図1の紙面左上側を眼内レンズ挿入器具10の左方とする。なお、前述したように、本開示における方向の規定は、眼内レンズ挿入器具10が実際に使用される際の方向を規定するものではなく、本開示における技術の説明を容易にするために便宜的に行った規定である。従って、例えば、本開示で規定した上下方向が逆になった状態で、眼内レンズ挿入器具10が使用されてもよい。
【0024】
(全体構成)
図1を参照して、本実施形態の眼内レンズ挿入器具10の全体構成について説明する。眼内レンズ挿入器具10は、変形可能な眼内レンズ1(図3等参照)を眼内に挿入するために使用される。眼内レンズ挿入器具10は、本体部100とプランジャー300を備える。本体部100は略筒状であり、本体部100の内部の通路を通じて眼内レンズ1が眼内に挿入される。プランジャー300は棒状であり、本体部100の内部の通路を前後方向に移動することができる。プランジャー300は、押出軸(通路の軸)Aに沿って前方に移動することで、本体部100の内部に充填された眼内レンズ1を押し出す。
【0025】
本実施形態の本体部100およびプランジャー300は、樹脂材料で形成されている。眼内レンズ挿入器具10は、モールド成形、樹脂の削り出しによる切削加工等によって形成されてもよい。眼内レンズ挿入器具10が樹脂材料で形成されることで、使用者は、使用済みの眼内レンズ挿入器具10を容易に廃棄することができる。
【0026】
本実施形態では、粘着性を有する軟性の眼内レンズ1を円滑に眼内に挿入するために、本体部100の内壁に潤滑コーティング処理が行われている。また、本実施形態の眼内レンズ挿入器具10は、無色透明または無色半透明で形成されている。従って、使用者は、眼内レンズ挿入器具10の内部に充填されている眼内レンズ1の変形状態等を、眼内レンズ挿入器具10の外側から容易に視認することができる。
【0027】
(本体部)
図1を参照して、本体部100について説明する。本体部100は、本体筒部110と、設置部130と、ノズル(挿入部)180を備える。
【0028】
本体筒部110は、前後方向に延びる筒状に形成されており、本体部100の基端側(後部)に位置する。本体筒部110の後端よりもやや前方の外周には、使用者によって把持される張り出し部111が形成されている。
【0029】
設置部130は、本体筒部110の先端側に接続されている。設置部130には眼内レンズ1が充填される。詳細には、設置部130は保持部160とセット部170を備える。保持部160には、眼内レンズ挿入器具10が保管状態とされている場合に眼内レンズ1を保持する。セット部170は、先端部の軸を中心として回動可能に設けられている。セット部170が回動されると、保持部160に保持されている眼内レンズ1が、プランジャー300によって押し出されることが可能な待機位置に移動して位置決めされる。
【0030】
ノズル180は、設置部130の先端側に接続されている。ノズル180内の通路面積は、眼内レンズ1を前方に押し進める過程で眼内レンズ1を小さく変形するために、前方に向かう程狭くなる。つまり、ノズル180には、先細りの内部空間が形成されている。ノズル180の先端には、先端が斜めに切断された円筒状の挿入部182が設けられている。挿入部182は眼内に差し込まれる。挿入部182の先端には、眼内レンズ1を内部の通路から前方に排出するための開口である挿入口183が形成されている。本体部100の内部の通路は、本体筒部110の後端からノズル180の先端の挿入口183まで貫通している。
【0031】
(プランジャー)
図2を参照して、プランジャー300の概略構成について説明する。本実施形態のプランジャー300は、押出部材310と、押出棒330と、軸基部350と、被押圧部370を備える。
【0032】
被押圧部370は、プランジャー300の基端に形成されている。被押圧部370は、押出軸Aと直交する方向に延びる板状の部材である。被押圧部370には、使用者がプランジャー300を前方へ押し出す際に、使用者の指が接触する。
【0033】
軸基部350は、被押圧部370の先端側から前方に延びる棒状の部材である。本実施形態では、軸基部350は、押出軸Aに直交する断面の形状が略H状となるように形成されている。押出軸Aに直交する断面の形状が略矩形である本体筒部110に、軸基部350が挿入されることで、本体部100に対するプランジャー300の押出軸Aの周方向の回転が抑制される。プランジャー300が前方へ移動し、眼内レンズ1の眼内への挿入が完了する位置に到達すると、軸基部350の先端下部に形成された傾斜部353が、本体部100の所定箇所に形成された傾斜面に接触する。その結果、プランジャー300の先端が挿入口183(図1参照)から過度に突き出ることが防止される。
【0034】
押出棒330は、棒状の部材であり、押出軸Aの軸方向に沿って軸基部350の先端から前方に延びる。押出棒330は、押出軸Aに直交する断面の形状が略円形となるように形成されている。また、押出棒330の太さは、本体部100の挿入口183を通過できる太さとなっている。押出部材310は、押出棒330の先端に接続されている。押出部材310は、本体部100の通路内を押出軸Aに沿って前方に移動することで、眼内レンズ1のタッキングを行うと共に、眼内レンズ1を挿入口183から眼内に排出する。なお、押出部材310の詳細な構成については後述する。
【0035】
(眼内レンズ)
図3を参照して、眼内レンズ挿入器具10によって眼内に挿入される眼内レンズ1の一例について説明する。眼内レンズ1は、光学部2と支持部3を備える。本実施形態の眼内レンズ1は、光学部2と支持部3が一体成型された、所謂ワンピース型の眼内レンズである。眼内レンズ1の材料には、例えば、BA(ブチルアクリレート)、HEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)等の単体、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの複合材料等の種々の軟性の材料を採用できる。
【0036】
光学部2は、患者眼に所定の屈折力を与える。支持部3は、光学部2を眼内で支持する。一例として、本実施形態の眼内レンズ1には、一対の支持部3が設けられている。ただし、支持部3の数は2つには限定されない。なお、本実施形態では、眼内レンズ1を設置部130に設置した際に、光学部2からノズル180に向けて(つまり前方に)延びる支持部3を前方支持部3Aと称し、光学部2からプランジャー300に向けて(つまり後方に)延びる支持部3を後方支持部3Bと称する。
【0037】
一対の支持部3は、光学部2の周辺部から外側に延びる。支持部3は、周方向に湾曲したループ形状であり、支持部3の先端は自由端とされている。一対の支持部3は、光学部2の中心に対して対照形状であり、同じ周方向に延びている。従って、一対の支持部3の基端部4同士を結ぶ直線は、光学部2の中心を通る。
【0038】
(押出部材)
図4から図7を参照して、本実施形態のプランジャー300における押出部材310の構成について、詳細に説明する。図4から図7に示すように、押出部材310の前端部には、支持部接触部313、光学部接触部314、上側突起部315、および下側突起部316が設けられている。
【0039】
支持部接触部313は、眼内レンズ1の後方支持部3Bに接触することで、後方支持部3Bを光学部2に近づく方向(つまり前方)に変形移動させる。つまり、支持部接触部313によって後方支持部3Bのタッキングが行われる。支持部接触部313は、押出部材310の前端部のうち、光学部接触部314よりも上方に設けられている。従って、詳細は後述するが、支持部接触部313によって後方支持部3Bが前方に押されると、後方支持部3Bは、光学部2の上方へ移動する。支持部接触部313は、前方に向けて凸となる湾曲形状に形成されている。従って、後方支持部3Bが傷つきにくい。
【0040】
光学部接触部314は、眼内レンズ1の光学部2に接触することで、光学部2を前方に押し出す。光学部接触部314は、押出部材310の前端部のうち、支持部接触部313よりも下方に設けられている。光学部接触部314は、支持部接触部313と同様に、前方に向けて凸となる湾曲形状に形成されている。従って、光学部2が傷つきにくい。
【0041】
図7に示すように、押出部材310を押出軸Aに沿って正面から見た場合に、支持部接触部313と光学部接触部314が共に前方に面している。従って、プランジャー300が前方に押し出されるだけで、後方支持部3Bのタッキングと光学部2の前方への押し出しが共に行われる。
【0042】
図6に示すように、本実施形態では、支持部接触部313の前端面は、光学部接触部314の前端面よりもさらに前方に突出している。この場合、光学部接触部314よりも前方に突出した支持部接触部313によって、後方支持部3Bが前方に遠くまで延ばされた状態でタッキングが行われる。よって、タッキングの精度が向上する。また、支持部接触部313の前端面と、光学部接触部314の前端面を接続する接続面318は、斜め前方を向くように傾斜している。従って、接続面318に接触した光学部2は、光学部接触部314へ円滑に誘導される。
【0043】
図7に示すように、支持部接触部313は、押出軸Aを中心とする左右方向のうち、眼内レンズ1の後方支持部3Bの基端部4B(図8(a)参照)が位置する側(本実施形態では右側)に偏って配置されている。この作用については後述する。
【0044】
図4から図6に示すように、上側突起部315は、支持部接触部313の前端面の上端から前方に向けて突出する。上側突起部315は、後方支持部3Bが支持部接触部313から上方へずれることを抑制する。その結果、後方支持部3Bが支持部接触部313に接触しない不具合が抑制されるので、タッキングが適切に行われやすい。また、下側突起部316は、光学部接触部314の前端面の下端から前方に突出する。下側突起部316は、光学部2が光学部接触部314から下方へずれることを抑制する。その結果、押出部材310の底面とノズル180の内壁の間に光学部2が挟まる不具合が抑制される。なお、「支持部接触部313の前端面の上端」の文言は、上側突起部315が厳密に前端面の上端に位置することを限定するものではない。つまり、上側突起部315は、支持部接触部313の上端部の近傍に配置されていればよい。同様に、下側突起部316は、光学部接触部314の下端部の近傍に配置されていればよい。
【0045】
次に、押出部材310の右側の構成について説明する。なお、以下の説明では、押出部材310の左側の側面および右側の側面のうち、眼内レンズ1の後方支持部3Bの基端4B(図8(a)参照)が位置する側の側面を、第1側面320(図4および図6参照)とする。本実施形態では、第1側面320は、押出部材301の右側の側面となる。押出部材310の左側の側面および右側の側面のうち、第1側面320と反対側の側面(本実施形態では左側の側面)を、第2側面325(図5参照)とする。図4に示すように、押出部材310の右側には、第1陥没部321、上側リブ322、および下側リブ323が設けられている。
【0046】
第1陥没部321は、押出部材310の第1側面(本実施形態では右側面)320のうち、支持部接触部313および光学部接触部314よりも後方に形成されている。第1陥没部321は、支持部接触部313および光学部接触部314における第1側面320Aよりも内側(本実施形態では左方)に陥没する部位である。第1陥没部321は、第1側面320とノズル180の内壁の間に入り込んだ眼内レンズ1の一部(例えば、タッキングが行われた状態の後方支持部3Bの基端部4Bの近傍)が逃げ込む空間となる。従って、ノズル180の天井側の内壁と、押出部材310の天井側の面との間に、眼内レンズ1が入り込み難くなる。よって、第1陥没部321が形成されることで、眼内レンズ1にかかる負荷が低下し、眼内レンズ1の破損等の発生が抑制される。
【0047】
なお、図4に示すように、支持部接触部313および光学部接触部314における第1側面320Aと、第1陥没部321において最も内側に入り込んだ部分の側面321Aの間は、斜め後方を向く傾斜面321Bによって滑らかに接続されている。従って、支持部接触部313および光学部接触部314における第1側面320Aと、第1陥没部321において最も内側に入り込んだ部分の側面321Aの間には、急激な段差が存在しない。よって、第1陥没部321へ逃げ込んだ眼内レンズ1の一部が前方へ戻る際に、急激な段差によって眼内レンズ1が傷つくことが抑制される。
【0048】
上側リブ322は、押出部材310の第1側面(本実施形態では右側面)320の上端部から側方(本実施形態では右方)に突出するリブ状の部材である。上側リブ322は、支持部接触部313の前端部から第1陥没部321まで連続して延びている。詳細は後述するが、上側リブ322は、押出部材310の上面とノズル180の天井側の内壁の間の隙間に、眼内レンズ1の一部が第1側面320側から入り込むことを抑制する。なお、上側リブ322は、厳密に第1側面320の上端に形成されている必要はない。つまり、上側リブ322は、第1側面320の上端部近傍に配置されていればよい。
【0049】
図4および図6に示すように、眼内レンズ挿入器具10は押圧部327を備える。押圧部327は、後方支持部3Bが光学部2上に折り曲げられた状態で、後方支持部3Bを光学部2側(つまり下側)に押圧する。本実施形態の押圧部327は、上側リブ322における下方を向く面に形成され、後方に向かう程下方に傾斜した傾斜面である。つまり、傾斜面である押圧部327は、上側リブ322における底面において、斜め前方を向くように傾斜している。押圧部327の作用の詳細については後述する。
【0050】
また、上側リブ322における下方を向く面には、平行面328が形成されている。平行面328は、上側リブ322の前端部から、通路の軸と平行となる押出部材310の軸に対して、後方に平行に延びる。傾斜面である押圧部327は、平行面328よりも後方に形成されている。平行面328の作用の詳細についても後述する。
【0051】
下側リブ323は、押出部材310の第1側面(本実施形態では右側面)320における第1陥没部321の下端部から、側方(本実施形態では右方)に突出する。下側リブ323は、押出部材310の底面とノズル180の内壁によって形成される隙間に眼内レンズ1の一部が第1側面320側から入り込むことを抑制する。なお、下側リブ323も上側リブ322と同様に、厳密に第1側面320の下端に形成されている必要はない。
【0052】
次に、押出部材310の左側の構成について説明する。図5に示すように、押出部材310の第2側面(本実施形態では左側面)325のうち、支持部接触部313の左側には、内側に陥没する第2陥没部326が形成されている。第2陥没部326は、変形した眼内レンズ1の一部が逃げ込む空間となる。従って、第2陥没部326が設けられることで、押出部材310の左側に入り込む眼内レンズ1の一部に対し、負荷がかかり難くなる。
【0053】
(眼内レンズの移動および変形)
図8を参照して、本実施形態の眼内レンズ挿入器具10によって眼内レンズ1を眼内に挿入する際の、設置部130からノズル180までの眼内レンズ1の移動および変形の状態について説明する。
【0054】
まず、作業者は、セット部170(図1参照)を回転させることで、設置部130の保持部160(図1参照)に保持されている眼内レンズ1を、プランジャー300によって押し出されることが可能な待機位置に移動させる。ここで、図8(a)に示すように、保持部160に保持された眼内レンズ1における後方支持部3Bの基端部4Bは、押出軸Aに対して左右のいずれかの方向にずれている。一例として、本実施形態では、後方支持部3Bの基端部4Bは、押出軸Aに対して右側(図8における下側)に位置する。従って、本実施形態では、眼内レンズ挿入器具10の右方向が前述した第1側面320側の方向となり、左方向が前述した第2側面325側の方向となる。なお、眼内レンズ1の支持部3が延びる方向は、本実施形態と逆の方向であってもよい。この場合、前述した第1側面320側の方向は、眼内レンズ挿入器具10の左方向となる。
【0055】
また、セット部170(図1参照)が回転されて、眼内レンズ1が待機位置に移動されると、セット部170の位置決め部171(図8(a)参照)によって、後方支持部3Bが、光学部2よりも天井側(上方)に移動された状態で位置決めされる。その結果、後述する後方支持部3Bのタッキングの際に、後方支持部3Bが、望ましい位置である光学部2の上方に移動する。なお、後方支持部3Bを光学部2よりも天井側で位置決めするための構成を変更することも可能である。
【0056】
次いで、作業者は、注入器等を用いて潤滑剤(粘弾性物質)を設置部130内に注入し、プランジャー300の前方への移動を開始させる。その結果、図8(a)に示すように、押出部材310の支持部接触部313(図4から図7参照)が、眼内レンズ1の後方支持部3Bに接触する。
【0057】
プランジャー300がさらに前方に押し進められると、図8(b)に示すように、後方支持部3Bは、押出部材310によって光学部2に近づく方向に移動する(曲げられる)。前述したように、支持部接触部313は光学部接触部314よりも上方に設けられている。また、後方支持部3Bは、待機位置において、光学部2よりも天井側(上方)で位置決めされている。従って、後方支持部3Bは光学部2の上方へ変形移動し、後方支持部3Bの先端が前方を向く。その結果、後方支持部3Bのタッキングが行われる。
【0058】
また、前述したように、支持部接触部313は、押出軸Aを中心とする左右方向のうち、眼内レンズ1の後方支持部3Bの基端部4B(図8(a)参照)が位置する側(本実施形態では右側)に偏って配置されている。この場合、支持部接触部313は、後方支持部3Bのうち基端部4Bに近い位置を前方に押す。従って、後方支持部3Bの先端側が押される場合に比べて、後方支持部3Bの変形移動が安定し、且つ、移動量も容易に確保される。
【0059】
プランジャー300がさらに前方に押し進められると、押出部材310の光学部接触部314(図4から図7参照)が光学部2に接触し、眼内レンズ1の全体が前方へ移動する。図8(c)に示すように、眼内レンズ1がノズル180に到達すると、先細りとなっているノズル180の内壁に前方支持部3Aが接触する。その結果、前方支持部3Aが光学部2の上方へ変形移動し、前方支持部3Aの先端が後方を向く。つまり、前方支持部3Aのタッキングが行われる。
【0060】
プランジャー300がさらに前方に押し進められると、眼内レンズ1の光学部2も、先細りとなっているノズル180の内壁に接触する。その結果、図8(d)に示すように、眼内レンズ1は、前方支持部3Aおよび後方支持部3Bがタッキングされた状態で、小さく折り畳まれていく。ここで、前方支持部3Aおよび後方支持部3Bは、光学部2の天井側(上方)へタッキングされている。さらに、光学部2は、先細りとなっているノズル180の底面に接触しながら折り畳まれる。従って、光学部2の左右(図8(d)における上下)の縁部は、タッキングされた前方支持部3Aおよび後方支持部3Bを内側に挟み込むように、光学部2の中心よりも徐々に上方に折り曲げられていく。つまり、光学部2は、底面側(図8(d)における奥側)に向かって谷折りされるようにして折り曲げられる。
【0061】
図8(e)に示すように、眼内レンズ1は、前方に押し進められる程小さく折り畳まれる。後方支持部3Bの基端部4Bの近傍と、光学部2の後端部近傍は、押出部材310の第1側面320とノズル180の内壁の間に入り込む。押出部材310がさらに前方に押し出されると、眼内レンズ1は挿入口183から眼内に挿入される。
【0062】
ここで、図9および図10を参照して、眼内レンズ10が押圧部327(図4図6、および図7参照)を備えていない場合の、押出部材410の構成、および、眼内レンズ1の移動および変形の状態について説明する。なお、図9および図10に例示する押出部材410と、図4図7に例示した押出部材310の相違点は、上側リブ422の下方を向く面における押圧部327の有無のみであり、他の構成は全て共通している。よって、図9および図10のうち、図4図7に例示した押出部材310と同様の構成を採用できる部材については、図4図7で使用した符号と同一の符号を付し、その説明を省略または簡略化する。
【0063】
図9に示す押出部材410は、図4図7に例示した押出部材310と同様に、第1側面320の上端部から側方(本実施形態では右方)に突出する上側リブ422を備える。しかし、図9に示す上側リブ422の下方を向く面は、先端部から後端部にかけて、押出部材410の軸と平行な面となっている。つまり、図9に示す押出部材410では、上側リブ422の下方を向く面に、傾斜面である押圧部327が形成されていない。
【0064】
図10に示すように、押圧部327を備えていない眼内レンズ挿入器具が使用されると、折り曲げられた状態(つまり、タッキングされた状態)の支持部3(例えば後方支持部3B)の、光学部2の上面(天井側の面)に対する位置が、適切な位置よりも上方となってしまう場合がある。図10に示す状態では、ノズル180の通路内の空間のうち天井側の空間が、適切な位置よりも上方にある後方支持部3Bによって狭くなっている。光学部2の縁部2R,2L等は、ノズル180の内壁に摺動しながら、天井側に向けて折り畳まれていく。従って、ノズル180内の天井側の空間が狭いと、ノズル180の内壁に摺動する光学部2の縁部2R,2L等が、ノズル180の天井側の内壁と押出部材410の間の隙間200に入り込みやすい。その結果、眼内レンズ1の破損等の不具合が生じる場合がある。
【0065】
また、支持部3(例えば後方支持部3B)が、適切な位置よりも上方にあると、天井側に向けて折り畳まれていく光学部2の一方の縁部2Rと他方の縁部2Lの間に、支持部3が挟まれてしまう場合もある。また、ロール状に折り畳まれる光学部2の内側に、支持部3が適切に配置されない場合もある。これらの場合、支持部3の破損等の不具合が生じ易い。また、支持部3が適切な位置よりも上方にある影響で、光学部2が適切な量で折り曲げられない場合もある。この場合、眼内レンズ1をノズル180内で前方へ押し出す際の、ノズル180にかかる負荷、および、押し出しに必要な荷重が増加する可能性もある。
【0066】
図11等を参照して、本実施形態の眼内レンズ挿入器具10を使用した場合の、眼内レンズ1の移動および変形の状態について、さらに詳細に説明する。図11に示すように、本実施形態では、光学部2上に折り曲げられた状態の後方支持部3Bを、押圧部327が光学部2側に押圧する。その結果、図8(e)に示すように、光学部2が後方支持部3Bを内側に包み込むように折り畳まれ易くなる。従って、ノズル180の通路内における天井側(上部)の空間が確保され易くなる。天井側の空間が確保されると、光学部2の縁部2R,2L等が通路内の天井側に位置した場合でも、押圧部327によって確保された空間に縁部2R,2L等が逃げ易くなる。よって、ノズル180の天井側の内壁と押出部材310の天井側の面の間に眼内レンズ1が入り込み難くなる。また、折り畳まれる光学部の両縁部2R,2Lの間に支持部3が挟まる可能性も低下する。さらに、ロール状に折り畳まれる光学部2の内側に、支持部3が配置されない可能性も低下する。よって、適切に眼内レンズ1が眼内に挿入される。
【0067】
また、本実施形態の押圧部327は、上側リブ322の下方を向く面に形成された傾斜面である。従って、押出部材310が前方に押し込まれると、後方支持部3Bは上側リブ322の下方に回り込み、傾斜面である押圧部327によって後方支持部3Bが光学部2側に押圧されながら、眼内レンズ1が前方に移動する。従って、押出部材310が前方に押し込まれるだけで、光学部2が支持部3を包み込むように適切に折り畳まれた状態で、眼内レンズ1が前方に移動する。
【0068】
また、図6に示すように、本実施形態の押圧部327は、平行面328の後方に形成されている。従って、押圧部327によって後方支持部3Bが下方に押圧されることで、平行面328近傍の下部に空間(図6の「S」)が確保され易くなる。その結果、光学部2がロール状に折り畳まれた際に、空間Sに眼内レンズ1(例えば光学部2)が逃げ込みやすくなる。よって、眼内レンズ1の一部は、ノズル180の天井側の内壁と押出部材310の天井側の面の間にさらに入り込み難くなる。また、平行面328と押圧部327の位置を規定することで、後方支持部3Bが押圧部327によって光学部2側に押圧されるタイミングが、適切なタイミングに調整される。
【0069】
また、押出部材310は第1陥没部321を備える。従って、押圧部327によって押圧された後方支持部3Bの後端部近傍は、第1陥没部321に逃げることができる。よって、眼内レンズ1が小さく折り畳まれて、眼内レンズ1にかかる負荷が増加しても、眼内レンズ1は、ノズル180の天井側の内壁と押出部材310の天井側の面の間にさらに入り込み難くなる。
【0070】
上記実施形態で開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で例示された技術を変更することも可能である。例えば、上記実施形態の眼内レンズ挿入器具10は、眼内レンズ1を適切に眼内に挿入するために、複数の構成を備える。しかし、これらの構成の全てを採用せず、一部の構成のみを採用することも可能である。例えば、押出部材310は、第1陥没部321を備えずに押圧部327を備えてもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、タッキングされた後方支持部3Bを光学部2側に押圧する押圧部327は、上側リブ322の下方を向く面に形成された傾斜面である。しかし、押圧部の構成を変更することも可能である。例えば、傾斜面の代わりに、突起等を押圧部として押出部材に形成してもよい。また、押出部材以外の部材に押圧部が設けられていてもよい。例えば、押圧部は、ユーザによって下方に操作されるボタン等であってもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 眼内レンズ
2 光学部
3 支持部
3B 後方支持部
10 眼内レンズ挿入器具
180 ノズル
183 挿入口
310 押出部材
313 支持部接触部
314 光学部接触部
315 上側突起部
316 下側突起部
320 第1側面
321 第1陥没部
322 上側リブ
327 押圧部
328 平行面

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11