(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】水剥離性硬化型組成物
(51)【国際特許分類】
C09J 133/08 20060101AFI20240903BHJP
C08F 20/20 20060101ALI20240903BHJP
C08F 220/20 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C09J133/08
C08F20/20
C08F220/20
(21)【出願番号】P 2019218640
(22)【出願日】2019-12-03
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大房 一樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大塚 素生
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-017492(JP,A)
【文献】特開平04-136041(JP,A)
【文献】特開2018-100371(JP,A)
【文献】特開平04-185636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 133/08
C08F 20/20
C08F 220/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:ソルビトールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、及び、
(B)成分:光重合開始剤を含み、
前記(A)成分における前記アルキレンオキサイド付加モル数が、1~20であり、
前記(A)成分における前記ソルビトールの
アルキレンオキサイド付加物の水酸基の(メタ)アクリレート化率が、50
モル%未満であり、
2枚のガラスを厚さ100μmの水剥離性硬化型組成物により貼り合わせて、紫外線照射により前記水剥離性硬化型組成物を硬化させ、硬化させたものを
、水溶性有機溶媒又は界面活性剤を含まない25℃の水又は90℃の水に浸漬し、60分以内に2枚のガラスが
自重で剥離する
水剥離性硬化型組成物。
【請求項2】
前記(A)成分が、温度22℃における蒸留水への溶解度が10%以上である請求項1に記載の水剥離性硬化型組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が、水酸基価100~400mgKOH/gである請求項1又は請求項2に記載の水剥離性硬化型組成物。
【請求項4】
前記(A)成分に、さらに(C)成分:熱重合開始剤を含む請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の水剥離性硬化型組成物。
【請求項5】
前記(A)成分に、さらに(D)成分:(A)成分以外のエチレン性不飽和基を有する化合物を含む請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の水剥離性硬化型組成物。
【請求項6】
前記(A)成分に、さらに水及び/又は有機溶剤を含む請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の水剥離性硬化型組成物。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の組成物を含む水剥離性活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項8】
基材の少なくとも一つが、400nmにおける透過率として10%以上を有する基材である請求項7に記載の水剥離性活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項9】
下記触媒X及びYの存在下に、ソルビトールのアルキレンオキサイド付加物と1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物をエステル交換反応させる(メタ)アクリロイル基を有する化合物の混合物である(A)成分を製造する工程、並びに、
前記(A)成分と(B)成分:光重合開始剤とを撹拌及び混合する工程を含み、
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の水剥離性硬化型組成物の製造方法。
触媒X:アザビシクロ構造を有する環状3級アミン又はその塩若しくは錯体、アミジン又はその塩若しくはその錯体、ピリジン環を有する化合物又はその塩若しくは錯体、及びホスフィン又はその塩若しくは錯体からなる群から選ばれる一種以上の化合物。
触媒Y:亜鉛を含む化合物。
【請求項10】
前記(A)成分が、温度22℃における蒸留水への溶解度が10%以上である請求項9に記載の水剥離性硬化型組成物の製造方法。
【請求項11】
前記(A)成分が、水酸基価100~400mgKOH/gである請求項9又は請求項10に記載の水剥離性硬化型組成物の製造方法。
【請求項12】
1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物が、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートである請求項9~請求項11のいずれか1項に記載の水剥離性硬化型組成物の製造方法。
【請求項13】
前記触媒Xが、アザビシクロ構造を有する環状3級アミン又はその塩若しくは錯体、アミジン又はその塩若しくはその錯体、及びピリジン環を有する化合物又はその塩若しくは錯体よりなる群から選ばれる一種以上の化合物である請求項9~請求項12のいずれか1項に記載の水剥離性硬化型組成物の製造方法。
【請求項14】
前記触媒Yが、有機酸亜鉛又は/及び亜鉛ジケトンエノラートである請求項9~請求項13のいずれか1項に記載の水剥離性硬化型組成物の製造方法。
【請求項15】
下記工程1~工程4を順次実施する加工材料の製造方法。
工程1:基材に、(A)成分:ソルビトールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレートを含み、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の水剥離性硬化型組成物を塗工又は注入するか、
前記基材に形成された組成物の塗工又は注入面に、他の基材を貼合するか、又は、
複数の基材間に、組成物を浸漬させる工程
工程2:塗工又は注入後の組成物を硬化させる工程
工程3:組成物の硬化物を含む基材の少なくとも一つを加工する工程
工程4:工程3で得られた組成物の硬化物を含む基材を、温度20~100℃の水に浸漬し、基材を剥離する工程
【請求項16】
下記基材の少なくとも一つが、400nmにおける透過率として10%以上を有し、下記工程1~工程4を順次実施する請求項15に記載の加工材料の製造方法。
工程1:基材に、(A)成分:ソルビトールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート及び(B)成分:光重合開始剤を含み、硬化物が請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の水剥離性硬化型組成物を塗工又は注入するか、
前記基材に形成された組成物の塗工又は注入面に、他の基材を貼合するか、又は、
複数の基材間に、組成物を浸漬させる工程
工程2:400nmにおける透過率として10%以上を有する基材側から活性エネルギー線を照射し、塗工又は注入後の組成物を硬化させる工程
工程3:組成物の硬化物を含む基材の少なくとも一つを加工する工程
工程4:工程3で得られた組成物の硬化物を含む基材を、温度20~100℃の水に浸漬し、基材を剥離する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水剥離性硬化型組成物に関し、好ましくは水剥離性活性エネルギー線硬化型組成物に関し、これら技術分野に属する。
尚、本明細書においては、「アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基」を「(メタ)アクリロイル基」と、「アクリレート及び/又はメタクリレート」を「(メタ)アクリレート」と、「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」を「(メタ)アクリル酸」と表す。
又、エチレン性不飽和基を有する化合物を、組成物中の「硬化性成分」と表し、その他の成分を「非硬化性成分」と表す。
【背景技術】
【0002】
水晶、石英、光学ガラス、セラミックス、ステンレス、フェライト、アルミニウム等から振動子、レンズ、プリズム、コンデンサ、パッケージ部品、磁石等の各種精密部品の切断や、研磨加工時の被加工部品の仮固定には、ワックスや松ヤニ等のホットメルト接着剤が使用されていた。
しかし、この種の接着剤は接着及び脱着時に約150℃の高温状態での作業及び、その後更にアルカリ溶剤ないしはハロゲン系有機溶剤による洗浄を必要とする。そのため、仮固定作業や剥離における操作に熟練を要するとともに危険性を伴うのみならず、作業環境の悪化や環境汚染を招いていた。
【0003】
上述の欠点を解決するために、活性エネルギー線で硬化する接着剤で被加工部品を仮固定し、脱着時に何らかの剥離媒体で剥離できる、仮固定用活性エネルギー線硬化型接着剤組成物が提案されている。
例えば、特許文献1には、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミドと光重合開始剤とを含有する仮固定用接着剤組成物が開示されている。
又、特許文献2には、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルホリン、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、及びアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートから選択される化合物、並びにラジカル重合開始剤を含有する仮固定用接着剤組成物が開示されている。
又、特許文献3には、ウレタン結合を有さず、且つ、主骨格にエステル結合及びエーテル結合から選択される少なくとも1種類の結合を有する、分子内に2以上のアクリル基を有する化合物、ジエチルアクリルアミド及びジメチルアクリルアミドから選択される少なくとも1種類、水、並びに光重合開始剤を含有する仮固定用接着剤組成物が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の組成物は、剥離媒体として熱水を用いる場合、非常に長い剥離時間を要し、実用的でない問題があった。
又、特許文献3に記載の組成物は、剥離時間は短いものの、初期剥離強度が低く、仮固定時の作業性に基材が剥離してしまう等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-148842号公報
【文献】特開2003-313510号公報
【文献】国際公開第2015/056632号パンプレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、基材に対する接着強度に優れるため接着後に行われる基材(被加工部品)の加工作業でも剥離することなく、かつ、その硬化物は、基材の加工後に水中で良好に剥離することができる、水剥離性硬化型組成物を見出すため鋭意検討を行ったのである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するためには、植物由来のアルコールにより製造された(メタ)アクリレートで、しかも分子中に水酸基とエーテル基の両方を有する多官能(メタ)アクリレートを含む組成物が、基材(被加工部品)との接着力が高く、よって加工性に優れ、かつ、その硬化物は、基材の加工後に水に浸漬した際の剥離性に優れることを見出し、本発明を完成した。
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の組成物によれば、その硬化物が、基材(被加工部品)との接着力が高く、よって加工性に優れ、かつ、その硬化物は、基材の加工後に水に浸漬した際の剥離性に優れる。
従って、本発明の組成物は、仮固定を必要する種々の用途に好ましく使用することができ、より好ましくは水剥離性活性エネルギー線硬化型組成物に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例における評価方法を説明するための側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、(A)成分:アルジトール(但し、グリセロールを除く)のアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレートを含み、硬化物が20~100℃の水中で剥離性を有する水剥離性硬化型組成物に関する。
尚、以下においては、「アルジトール(但し、グリセロールを除く)」の記載を、単に「アルジトール」と記載することもある。
以下、(A)成分、水剥離性硬化型組成物及び用途について説明する。
【0011】
1.(A)成分
(A)成分は、アルジトール(但し、グリセロールを除く)のアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレートである。
本発明では、(A)成分の原料化合物として、アルジトールのアルキレンオキサイド付加物(以下、「AZ-RO」という)を使用する。但し、本発明においては、アルジトールとしてグリセロールを除くものである。
【0012】
1-1.AZ-RO
AZ-ROの原料化合物であるアルジトールとしては、種々の化合物を用いることができる。
アルジトールの具体例としては、エリトリトール、トレイトール、リビトール、アラビニトール、キシリトール、アリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、ガラクチトール、及びタリトール等が挙げられ、入手容易なD体を使用することが好ましい。
これら化合物の中では、工業的に入手が容易であり、かつ所望の(メタ)アクリレートの製造も容易であることから、エリトリトール、キシリトール、ソルビトール(D-グリシトール)、及びマンニトールが好ましく、入手容易なD体を使用することが好ましい。
これらの化合物は植物を由来としており、環境負荷の低い化合物である。
アルジトールとしては、これら化合物を単独で使用することも、二種類以上を併用して使用することもできる。
アルジトールとしては、これら化合物の中でも、ソルビトールが好ましい。
【0013】
AZ-ROにおけるアルキレンオキサイド単位としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラメチレンオキサイド、及びこれらアルキレンオキサイドの混合単位等が挙げられ、これらの中では得られる(メタ)アクリレートが硬化性に優れるものとなる点で、エチレンオキサイドが好ましい。
AZ-ROにおけるアルキレンオキサイド付加モル数としては、付加モル数が多い化合物が、一般的には取り扱いやすく、酸素存在下でのラジカル重合阻害を低減できるとの理由で好ましい。
AZ-ROにおけるアルキレンオキサイド付加モル数としては、1~20が好ましく、より好ましくは2~15である。
アルキレンオキサイド付加モル数を1以上とすることで、水やアルコール等の親水性溶媒にしか溶解せず、エステル交換反応における1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物や有機溶媒に溶解し難くなるため、エステル交換反応が進行し難くなることを防止し、得られる(メタ)アクリレートを硬化型組成物として使用する場合において、他の成分との相溶性が著しく低下することを防止できる。一方、アルキレンオキサイド付加モル数を20以下とすることで、得られる(メタ)アクリレートを硬化型組成物として使用する場合において、硬化物の耐熱性を高いものとすることができる。
【0014】
(A)成分は、AZ-ROを(メタ)アクリレート化して製造される。
(A)成分の製造方法としては、エステル交換触媒の存在下に、AZ-ROと1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物〔以下、「単官能(メタ)アクリレート」という〕をエステル交換反応させる方法、及び酸触媒の存在下に、AZ-ROと(メタ)アクリル酸を脱水エステル化反応させる方法が挙げられるが、エステル交換反応が好ましい。
【0015】
1-2.(A)成分の好ましい形態
(A)成分は、AZ-ROと単官能(メタ)アクリレートのエステル交換反応で得られる(メタ)アクリレートを含む反応生成物の混合物が好ましい。当該(A)成分は、(メタ)アクリロイル基の個数が異なる(メタ)アクリレートと副反応物の混合物である。
【0016】
(A)成分におけるアルキレンオキサイド単位としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラメチレンオキサイド、及びこれらアルキレンオキサイドの混合単位等が挙げられ、硬化性に優れる点で、エチレンオキサイドが好ましい。
(A)成分におけるアルキレンオキサイド付加モル数としては、付加モル数が多い化合物が、一般的には取り扱いやすく、酸素存在下でのラジカル重合阻害を低減できるとの理由で好ましい。
(A)成分におけるアルキレンオキサイド付加モル数としては、1~20が好ましく、より好ましくは2~15である。
アルキレンオキサイド付加モル数を1以上とすることで、水やアルコール等の親水性溶媒にしか溶解せず、エステル交換反応における単官能(メタ)アクリレートや有機溶媒に溶解し難くなるため、エステル交換反応が進行し難くなることを防止し、得られる(メタ)アクリレートを硬化型組成物として使用する場合において、他の成分との相溶性が著しく低下することを防止できる。一方、アルキレンオキサイド付加モル数を20以下とすることで、得られる(メタ)アクリレートを硬化型組成物として使用する場合において、硬化物の耐熱性を高いものとすることができる。
【0017】
(A)成分としては、親水性を有する化合物が好ましく、より好ましくは水溶性である化合物が好ましい。
親水性又は水溶性である(A)成分は、硬化型組成物が親水性又は水溶性となり、さらに得られる硬化物も親水性又は水溶性となる。この性質を利用して、(A)成分を含む硬化型組成物は種々の用途に使用することが可能となり、その硬化物も親水性又は水溶性となり、被加工部品との離型性に優れるものとなる。
本発明において、親水性又は水溶性とは、温度22℃において、(A)成分に対する蒸留水の溶解度が10%以上である場合を意味する。
尚、溶解度は下記式で定義し、蒸留水と(A)成分を混合し、静置した後の混合液に濁りや層分離が確認されず、均一な液体状態を意味する。
(A)成分に対する蒸留水の溶解度(%)
=蒸留水の重量部/(蒸留水の重量部+(A)成分の重量部)×100
本発明は、(A)成分の原料化合物であるAZ-ROの水酸基をエステル交換反応させて(メタ)アクリロイル基を有する(A)成分を得るが、水酸基の(メタ)アクリレート化率を50%未満に抑え、水酸基を残すことにより、(A)成分は水に対して極めて高い溶解度を示すものとすることができる。
【0018】
又、(A)成分としては、水酸基価100~400mgKOH/gである混合物が好ましく、より好ましくは水酸基価150~300mgKOH/gである。水酸基価を100mgKOH/g以上することにより、(A)成分を含む組成物の剥離性を高いものとすることができ、水酸基価を400mgKOH/g以下にすることにより、組成物の光硬化性を優れるものとすることができる。
尚、本発明における水酸基価とは、試料に無水酢酸とピリジンの混合液を加えて92℃の温浴槽中で1時間加熱処理した後、少量の水を添加して92℃の温浴槽中で10分間加熱処理し、放冷後にフェノールフタレイン溶液を指示薬として水酸化カリウムのエタノール溶液で酸を滴定して得られた値を意味する。
【0019】
(A)成分としては、下記一般式(5)で表される化合物が好ましい。
【0020】
【0021】
〔式(5)において、R14~R16は、それぞれ独立して、炭素数2~4を有する2価の脂肪族炭化水素基を表し、R14~R16のそれぞれが複数個ある場合は同一でも異なっていても良い。X1~X3は、それぞれ独立して水素原子又は(メタ)アクリロイル基を表す。a、b及びcは、それぞれ正数を表し、かつ全てが同時に0になることはなく、0<(a+nb+c)≦80を満たす。nは2~4の整数を表す。〕
【0022】
R14~R16は、炭素数2~4を有する2価の脂肪族炭化水素基である。当該脂肪族炭化水素基としては、直鎖状脂肪族炭化水素基及び分岐状脂肪族炭化水素基が例示される。
直鎖状脂肪族炭化水素基の具体例としては、エチレン基、1,3-プロピレン基(トリメチレン基)、及び1,4-ブチレン基(テトラメチレン基)等が挙げられる。
分岐状脂肪族炭化水素基の具体例としては、1,2-プロピレン基(イソプロピレン基)、及び1,1-ジメチルエチレン基(イソブチレン基)等が挙げられる。
R14~R16としては、これら官能基の中でもエチレン基が好ましい。
【0023】
式(5)において、アルジトール骨格の構造を意味するnは、2~4である。
a、b及びcは、アルジトールの水酸基に存在するオキシアルキレン単位の付加モル数を意味する。a、b及びcは、それぞれ正数を表し、かつ全てが同時に0になることはない。
a+nb+cは、アルジトールの分子中に存在するオキシアルキレン単位の総付加モル数(アルジトール全体に対するアルキレンオキサイドの平均付加モル数)を意味する。a+nb+cは、下記式を満たすものである。
0<(a+nb+c)≦80
a+nb+cの下限としては、1以上であることが好ましい。a+nb+cとしては、2≦(a+nb+c)≦10がより好ましい。この範囲とすることで、合成が容易となり経済性に有利であるほか、他の成分との相溶性が良好となることで配合設計の自由度が高くなり、さらに硬化性に優れる組成物を得ることができる。
【0024】
(メタ)アクリレートとしては、エステル交換反応時の反応性及び(A)成分の速硬化性の観点から、アクリレートであることが好ましい。
【0025】
1-3.(A)成分の製造方法
(A)成分の製造方法としては、前記した通り、エステル交換触媒の存在下に、AZ-ROと単官能(メタ)アクリレートをエステル交換反応させる方法が好ましい。
さらに、(A)成分の製造方法としては、下記触媒X及びYの存在下に、AZ-ROと単官能(メタ)アクリレートをエステル交換反応させる製造方法が好ましい。
触媒X:アザビシクロ構造を有する環状3級アミン又はその塩若しくは錯体、アミジン又はその塩若しくはその錯体、ピリジン環を有する化合物又はその塩若しくは錯体、及びホスフィン又はその塩若しくは錯体からなる群から選ばれる一種以上の化合物。
触媒Y:亜鉛を含む化合物。
以下、当該(A)成分の好ましい製造方法について説明する。
【0026】
1-3-1.AZ-RO
AZ-ROについては、前記で詳述した通りである。
【0027】
1-3-2.単官能(メタ)アクリレート
(A)成分の原料として使用する単官能(メタ)アクリレートは、分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物であり、例えば、下記一般式(1)で示される化合物が挙げられる。
【0028】
【0029】
式(1)において、R1は水素原子又はメチル基を表す。R2は炭素数1~50の有機基を表す。
【0030】
上記一般式(1)におけるR2の好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、へプチル基、オクチル基、及び2-エチルヘキシル基等の炭素数1~8のアルキル基、2-メトキシエチル基、2-エトキシエチル基及び2-メトキシブチル基等のアルコキシアルキル基、並びにN,N-ジメチルアミノエチル基、N,N-ジエチルアミノエチル基、N,N-ジメチルアミノプロピル基及びN,N-ジエチルアミノプロピル基等のジアルキルアミノ基等が挙げられる。
上記一般式(1)におけるR2の具体例としては、前記以外にも特開2017-39916号公報、特開2017-39917号公報及び国際公開第2017/033732号で挙げた官能基が挙げられる。
【0031】
本発明ではこれらの単官能(メタ)アクリレートを単独で又は二種以上を任意に組み合わせて使用できる。
これらの単官能(メタ)アクリレートの中では、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート及び2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の炭素数1~8のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチルアクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、又は、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートが好ましく、特にAZ-ROに対して良好な反応性を示し、入手が容易な炭素数1~4のアルキル基を有する(メタ)アクリレート、又は、炭素数1~2のアルキル基を有するアルコキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。
さらに、AZ-ROの溶解を促進し、極めて良好な反応性を示す炭素数1~2のアルキル基を有するアルコキシアルキル(メタ)アクリレートがより好ましく、2-メトキシエチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
さらに又、単官能(メタ)アクリレートとしては、アクリレートが反応性に優れるため特に好ましい。
【0032】
(A)成分の製造方法におけるAZ-ROと単官能(メタ)アクリレートの使用割合は特に制限はないが、AZ-ROの水酸基1モルに対して単官能(メタ)アクリレートを0.4~10.0モルが好ましく、より好ましくは0.6~5.0モルである。単官能(メタ)アクリレートを0.4モル以上にすることにより副反応を抑制することができる。又、10.0モル以下とすることで、(A)成分の生成量を多くすることができ、生産性を向上させることができる。
【0033】
1-3-3.触媒
(A)成分の製造方法におけるエステル交換反応触媒としては、高収率で(メタ)アクリレートを製造できるとの理由で、触媒として下記触媒X及びYを併用する。
触媒X:アザビシクロ構造を有する環状3級アミン又はその塩若しくは錯体(以下、「アザビシクロ系化合物」という)、アミジン又はその塩若しくは錯体(以下、「アミジン系化合物」という)、ピリジン環を有する化合物又はその塩若しくは錯体(以下、「ピリジン系化合物」という)、及びホスフィン又はその塩若しくは錯体(以下、「ホスフィン系化合物」という)よりなる群から選ばれる一種以上の化合物。
触媒Y:亜鉛を含む化合物。
以下、触媒X及び触媒Yについて説明する。
【0034】
1-3-3-1.触媒X
(A)成分の製造方法における触媒Xは、アザビシクロ系化合物、アミジン系化合物、ピリジン系化合物、ホスフィン系化合物よりなる群から選ばれる一種以上の化合物である。
触媒Xとしては、前記した化合物群の中でも、アザビシクロ系化合物、アミジン系化合物及びピリジン系化合物よりなる群から選ばれる一種以上の化合物が好ましい。これら化合物は、触媒活性に優れ(A)成分を好ましく製造できる他、反応中及び反応終了後に後記する触媒Yと錯体を形成し、当該錯体は吸着等による簡便な方法により反応終了後の反応液から容易に除去できる。特に、アザシクロ系化合物は、その触媒Yとの錯体が反応液に難溶解性となるため、ろ過及び吸着等によりさらに容易に除去することができる。
一方、ホスフィン系化合物は、触媒活性に優れるものの、触媒Yと錯体を形成し難いか、又は、錯体を形成した場合は反応液に易溶解性であり、反応終了後の反応液中にホスフィン系化合物又は錯体の大部分が溶解したままとなるため、ろ過及び吸着等による簡便な方法により反応液から除去し難い。このため、最終製品中にもホスフィン系触媒が残存してしまい、これにより製品の保存中に、濁りや触媒の析出が発生したり、経時的に増粘又はゲル化してしまうという保存安定性の問題を生じることがある。
【0035】
アザビシクロ系化合物の具体例としては、アザビシクロ構造を有する環状3級アミン、当該アミンの塩、又は当該アミンの錯体を満足する化合物であれば種々の化合物が挙げられ、好ましい化合物としては、キヌクリジン、3-ヒドロキシキヌクリジン、3-キヌクリジノン、1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン-3-カルボン酸、及びトリエチレンジアミン(別名:1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン。以下、「DABCO」という)等が挙げられる。
アザビシクロ系化合物の具体例としては、前記以外にも特開2017-39916号公報、特開2017-39917号公報及び国際公開第2017/033732号で挙げた化合物等が挙げられる。
【0036】
アミジン系化合物の具体例としては、イミダゾール、N-メチルイミダゾール、N-エチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-ビニルイミダゾール、1-アリルイミダゾール、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(以下、「DBU」という)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ-5-エン(以下、「DBN」という)、N-メチルイミダゾール塩酸塩、DBU塩酸塩、DBN塩酸塩、N-メチルイミダゾール酢酸塩、DBU酢酸塩、DBN酢酸塩、N-メチルイミダゾールアクリル酸塩、DBUアクリル酸塩、DBNアクリル酸塩、及びフタルイミドDBU等が挙げられる。
【0037】
ピリジン系化合物の主な具体例としては、ピリジン、2-メチルピリジン、3-メチルピリジン、4-メチルピリジン、2-エチルピリジン、3-エチルピリジン、4-エチルピリジン、及びN,N-ジメチル-4-アミノピリジン(以下、「DMAP」という)等が挙げられる。
ピリジン系化合物の具体例としては、前記以外にも特開2017-39916号公報、特開2017-39917号公報及び国際公開第2017/033732号で挙げた化合物等が挙げられる。
【0038】
ホスフィン系化合物は、下記一般式(2)で示される構造を含む化合物等が挙げられる。
【0039】
【0040】
〔式(2)において、R3、R4及びR5は、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルキル基、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルケニル基、炭素数6~24のアリール基、若しくは、炭素数5~20のシクロアルキル基を意味する。R3、R4及びR5としては、同一であっても異なっていても良い。〕
【0041】
ホスフィン系化合物の具体例としては、トリフェニルホスフィン、トリス(4-メトキシフェニル)ホスフィン、トリ(p-トリル)ホスフィン、トリ(m-トリル)ホスフィン、トリス(4-メトキシ-3,5-ジメチルフェニル)ホスフィン、及びトリシクロヘキシルホスフィン等が挙げられる。
ホスフィン系化合物の具体例としては、前記以外にも特開2017-39916号公報、特開2017-39917号公報及び国際公開第2017/033732号で挙げた化合物等が挙げられる。
【0042】
本発明ではこれらの触媒Xを単独で又は二種以上を任意に組み合わせて使用できる。これらの触媒Xの中では、キヌクリジン、3-キヌクリジノン、3-ヒドロキシキヌクリジン、DABCO、N-メチルイミダゾール、DBU、DBN及びDMAPが好ましく、殆どの多価アルコールに対して良好な反応性を示し、入手が容易な点で、3-ヒドロキシキヌクリジン、DABCO、N-メチルイミダゾール、DBU及びDMAPが特に好ましい。
【0043】
(A)成分の製造方法における触媒Xの使用割合は特に制限はないが、AZ-ROの水酸基1モルに対して、触媒Xを0.0001~0.5モル使用することが好ましく、より好ましくは0.0005~0.2モルである。触媒Xを0.0001モル以上使用することで、目的の(メタ)アクリレートを含む反応生成物の収率を高めることができ、0.5モル以下とすることで、副生成物の生成や反応液の着色を抑制し、反応終了後の精製工程を簡便にすることができる。
【0044】
1-3-3-2.触媒Y
触媒Yは、亜鉛を含む化合物である。
触媒Yとしては、亜鉛を含む化合物であれば種々の化合物を使用することができるが、反応性に優れることから有機酸亜鉛及び亜鉛ジケトンエノラートが好ましい。
有機酸亜鉛としては、蓚酸亜鉛等の二塩基酸亜鉛及び下記一般式(3)で表される化合物を挙げることができる。
【0045】
【0046】
〔式(3)において、R6及びR7は、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルキル基、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルケニル基、炭素数6~24のアリール基、若しくは、炭素数5~20のシクロアルキル基を意味する。R6及びR7としては、同一であっても異なっていても良い。〕
前記式(3)の化合物としては、R6及びR7が、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルキル基又はアルケニル基である化合物が好ましい。R6及びR7において、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルキル基又はアルケニル基は、フッ素及び塩素等のハロゲン原子を有しない官能基であり、当該官能基を有する触媒Yは、高収率で目的の(メタ)アクリレートを含む反応生成物を製造できるため好ましい。
【0047】
亜鉛ジケトンエノラートとしては、下記一般式(4)で表される化合物を挙げることができる。
【0048】
【0049】
〔式(4)において、R8、R9、R10、R11、R12及びR13は、水素原子、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルキル基、炭素数1~20の直鎖状又は分岐状アルケニル基、炭素数6~24のアリール基、若しくは炭素数5~20のシクロアルキル基を意味する。R8、R9、R10、R11、R12及びR13としては、同一であっても異なっていても良い。〕
【0050】
上記一般式(3)で表される亜鉛を含む化合物の具体例としては、酢酸亜鉛、酢酸亜鉛二水和物、プロピオン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、ネオデカン酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、シクロヘキサン酪酸亜鉛、2-エチルヘキサン酸亜鉛、安息香酸亜鉛、t-ブチル安息香酸亜鉛、サリチル酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛、アクリル酸亜鉛、及びメタクリル酸亜鉛等が挙げられる。
尚、これらの亜鉛を含む化合物について、その水和物又は溶媒和物又は触媒Xとの錯体が存在する場合には、該水和物及び溶媒和物及び触媒Xとの錯体も(A)成分の製造方法における触媒Yとして使用できる。
【0051】
上記一般式(4)で表される亜鉛を含む化合物の具体例としては、亜鉛アセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート水和物、ビス(2,6-ジメチル-3,5-ヘプタンジオナト)亜鉛、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)亜鉛、及びビス(5,5-ジメチル-2,4-ヘキサンジオナト)亜鉛等が挙げられる。尚、これらの亜鉛を含む化合物について、その水和物又は溶媒和物又は触媒Xとの錯体が存在する場合には、該水和物及び溶媒和物及び触媒Xとの錯体も(A)成分の製造方法における触媒Yとして使用できる。
【0052】
触媒Yにおける、有機酸亜鉛及び亜鉛ジケトンエノラートとしては、前記した化合物を直接使用することができるが、反応系内でこれら化合物を発生させ使用することもできる。
例えば、金属亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、塩化亜鉛及び硝酸亜鉛等の亜鉛化合物(以下、「原料亜鉛化合物」という)を原料として使用し、有機酸亜鉛の場合は、原料亜鉛化合物と有機酸を反応させる方法、亜鉛ジケトンエノラートの場合は、原料亜鉛化合物と1,3-ジケトンを反応させる方法等が挙げられる。
【0053】
本発明ではこれらの触媒Yを単独で又は二種以上を任意に組み合わせて使用できる。これらの触媒Yの中では、酢酸亜鉛、プロピオン酸亜鉛、アクリル酸亜鉛、メタクリル酸亜鉛、亜鉛アセチルアセトナートが好ましく、特に殆どの多価アルコールに対して良好な反応性を示し、入手が容易な酢酸亜鉛、アクリル酸亜鉛、亜鉛アセチルアセトナートが好ましい。
【0054】
(A)成分の製造方法における触媒Yの使用割合は特に制限はないが、AZ-ROの水酸基合計1モルに対して、触媒Yを0.0001~0.5モル使用することが好ましく、より好ましくは0.0005~0.2モルである。触媒Yを0.0001モル以上使用することで、目的の(メタ)アクリレートを含む反応生成物の収率を高めることができ、0.5モル以下とすることで、副生成物の生成や反応液の着色を抑制し、反応終了後の精製工程を簡便にすることができる。
【0055】
1-3-4.(A)成分の好ましい製造方法
(A)成分は、前記触媒X及びYの存在下に、AZ-ROと単官能(メタ)アクリレートをエステル交換反応させて製造される。
AZ-ROの(メタ)アクリレートは、従来の脱水エステル化反応やエステル交換反応では製造し難い化合物であった。これに対して、本発明で使用する製造方法によれば、AZ-ROの(メタ)アクリレートを問題なく製造することができ、しかも得られた(メタ)アクリレートは、着色がほとんどなく、高分子量体の割合が少ない。
(A)成分の製造方法における触媒Xと触媒Yの使用割合は特に制限はないが、触媒Yの1モルに対して、触媒Xを0.005~10.0モル使用することが好ましく、より好ましくは0.05~5.0モルである。0.005モル以上使用することで、目的の(メタ)アクリレートを含む反応生成物の収率を高めることができ、10.0モル以下とすることで、副生成物の生成や反応液の着色を抑制し、反応終了後の精製工程を簡便にすることができる。
【0056】
本発明で併用する触媒Xと触媒Yの組合せとしては、触媒Xがアザビシクロ系化合物で、触媒Yが前記一般式(3)で表される化合物の組み合わせが好ましく、さらに、アザビシクロ系化合物がDABCOであり、前記一般式(3)で表される化合物が酢酸亜鉛及び/又はアクリル酸亜鉛である組み合わせが特に好ましい。
この組合せが、(メタ)アクリレートを含む反応生成物を収率よく得られることに加え、反応終了後の色調に優れる(黄色味が小さい)ことから、無色透明性が重要視されるコーティング用途等に好適に使用できる。さらには比較的安価に入手可能な触媒であることから、経済的に有利な製造方法となる。
【0057】
本発明で使用する触媒X及び触媒Yは、上記反応の最初から添加してもよいし、途中から添加してもよい。又、所望の使用量を一括で添加してもよいし、分割して添加してもよい。
【0058】
(A)成分の製造方法における反応温度は40℃~180℃であることが好ましく、より好ましくは60℃~160℃である。反応温度を40℃以上にすることで、反応速度を速くすることができ、180℃以下とすることで、原料や生成物中の(メタ)アクリロイル基の熱重合を抑制し、反応液の着色を抑制でき、反応終了後の精製工程を簡便にすることができる。
【0059】
(A)成分の製造方法における反応圧力は、所定の反応温度を維持できれば特に制限はなく、減圧状態で実施してもよく、又加圧状態で実施してもよい。反応圧力としては、0.000001~10MPa(絶対圧力)が好ましい。
【0060】
(A)成分の製造方法においては、エステル交換反応の進行に伴い単官能(メタ)アクリレートに由来する1価アルコールが副生する。
AZ-ROの水酸基の一部(例えば50モル%程度)を(メタ)アクリレート化する場合、該1価アルコールを反応系内に共存させて平衡状態とし、触媒を吸着除去又は失活操作した後、該1価アルコール及び原料の単官能(メタ)アクリレートを留去することで、アクリレート化率が制御された生成物を安定的に製造することが出来る。
一方、AZ-ROの水酸基を積極的に(メタ)アクリレート化する場合には、該1価アルコールを反応系外に排出し、エステル交換反応の進行をより促進させることが好ましい。
【0061】
(A)成分の製造方法では溶媒を使用せずに反応させることもできるが、必要に応じて溶媒を使用してもよい。
溶媒の具体例としては、n-ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-ノナン、n-デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、アミルベンゼン、ジアミルベンゼン、トリアミルベンゼン、ドデシルベンゼン、ジドデシルベンゼン、アミルトルエン、イソプロピルトルエン、デカリン及びテトラリン等の炭化水素類;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジアミルエーテル、ジエチルアセタール、ジヘキシルアセタール、t-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、トリオキサン、ジオキサン、アニソール、ジフェニルエーテル、ジメチルセロソルブ、ジグライム、トリグライム及びテトラグライム等のエーテル類;18-クラウン-6等のクラウンエーテル類;安息香酸メチル及びγ-ブチロラクトン等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン及びベンゾフェノン等のケトン類;炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート等のカーボネート化合物;スルホラン等のスルホン類;ジメチルスルホキサイド等のスルホキサイド類;尿素類又はその誘導体;トリブチルホスフィンオキサイド等のホスフィンオキサイド類、イミダゾリウム塩、ピペリジニウム塩及びピリジニウム塩等のイオン液体;シリコンオイル並びに;水等が挙げられる。
これらの溶媒の中では、炭化水素類、エーテル類、カーボネート化合物及びイオン液体よりなる群から選ばれた少なくとも1種の溶媒が好ましい。
これらの溶媒は単独で使用してもよく、二種以上を任意に組み合わせて混合溶媒として使用してもよい。
【0062】
(A)成分の製造方法においては、反応液の色調を良好に維持する目的で系内にアルゴン、ヘリウム、窒素及び炭酸ガス等の不活性ガスを導入してもよいが、(メタ)アクリロイル基の重合を防止する目的で系内に含酸素ガスを導入してもよい。含酸素ガスの具体例としては、空気、酸素と窒素の混合ガス、酸素とヘリウムの混合ガス等が挙げられる。含酸素ガスの導入方法としては、反応液中に溶存させたり、又は反応液中に吹込む(いわゆるバブリング)方法がある。
【0063】
(A)成分の製造方法においては、(メタ)アクリロイル基の重合を防止する目的で反応液中に重合禁止剤を添加することが好ましい。
重合禁止剤の具体例としては、ハイドロキノン、tert-ブチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール、4-tert-ブチルカテコール、ベンゾキノン、フェノチアジン、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアンモニウム、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル等の有機系重合禁止剤、塩化銅、硫酸銅及び硫酸鉄等の無機系重合禁止剤、並びにジブチルジチオカルバミン酸銅、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩等の有機塩系重合禁止剤が挙げられる。
重合禁止剤は、一種を単独で添加しても又は二種以上を任意に組み合わせて添加してもよく、本発明の最初から添加してもよいし、途中から添加してもよい。又、所望の使用量を一括で添加してもよいし、分割して添加してもよい。又、精留塔を経由して連続的に添加してもよい。
重合禁止剤の添加割合としては、反応液中に5~30,000wtppmが好ましく、より好ましくは25~10,000wtppmである。この割合を5wtppm以上とすることで、重合禁止効果を十分発揮することができ、30,000wtppm以下にすることで、反応液の着色を抑制でき、反応終了後の精製工程を簡便にすることができ、又、得られる(A)成分の硬化速度の低下を防止することができる。
【0064】
(A)成分の製造方法における反応時間は、触媒の種類と使用量、反応温度、反応圧力等により異なるが、0.1~150時間が好ましく、より好ましくは0.5~80時間である。
【0065】
(A)成分の製造方法は、回分式、半回分式及び連続式のいずれの方法によっても実施できる。回分式の一例としては、反応器にAZ-RO、単官能(メタ)アクリレート、触媒及び重合禁止剤を仕込み、含酸素ガスを反応液中にバブリングさせながら所定の温度で撹拌する。その後、エステル交換反応の進行に伴い副生した1価アルコールを所定の圧力にて反応器から抜出すことで目的の(A)成分を生成させる等の方法で実施できる。
【0066】
(A)成分の製造方法で得られた反応生成物に対しては、分離・精製操作を実施することが目的の(メタ)アクリレートを含む反応生成物を純度よく得ることができるため好ましい。
分離・精製操作としては、吸着操作、晶析操作、ろ過操作、蒸留操作及び抽出操作等が挙げられ、これらを組合わせることが好ましい。吸着操作としては、吸着剤による触媒の吸着が挙げられ、吸着剤としてはケイ酸アルミニウム等が挙げられる。晶析操作としては、冷却晶析及び濃縮晶析等が挙げられる。ろ過操作としては、加圧ろ過、吸引ろ過及び遠心ろ過等が挙げられる。蒸留操作としては、単式蒸留、分別蒸留、分子蒸留及び水蒸気蒸留等が挙げられる。抽出操作としては、固液抽出、液液抽出等が挙げられる。
該分離精製操作においては溶媒を使用してもよい。又、本発明で使用した触媒及び/又は重合禁止剤を中和するための中和剤や、副生成物を分解又は除去するための酸及び/又はアルカリ、色調を改善するための活性炭、ろ過効率及びろ過速度を向上するためのケイソウ土等を使用してもよい。
【0067】
2.水剥離性硬化型組成物
本発明は、前記(A)成分を含み、硬化物が20~100℃の水中で剥離性を有する水剥離性硬化型組成物に関する。
本発明において、硬化物が20~100℃の水中で剥離性を有するとは、適用する基材に対して組成物を塗工し、他の基材と貼合した後、組成物を硬化させ、20~100℃の水中に浸漬し、60分以内に2枚の基材が剥離することを意味する
【0068】
組成物の製造方法としては、前記触媒X及びYの存在下に、AZ-ROと単官能(メタ)アクリレートとを、エステル交換反応させて得られる(メタ)アクリレートを含む反応生成物の混合物である(A)成分を製造する工程を含む製造方法が好ましい。
当該製造方法によれば、(A)成分を高収率で得ることができるため、コストと生産性に優れる。又、当該製造方法で得られる(A)成分は、副反応高分子量体が少ないために低粘度で取扱いが容易であり、さらに速硬化性と硬化物の被加工物品への接着性及び水に浸漬した際の剥離性に優れるため好ましい。
当該工程としては、前記した(A)成分の製造方法に従えば良い。
さらに、後記するその他の成分を配合する場合は、(A)成分とその他の成分を撹拌・混合すれば良い。
【0069】
構成成分を混合する場合、必要に応じて加熱して撹拌しても良い。加熱して撹拌・混合する場合の温度としては、40~90℃の範囲であることが好ましい。但し、後記熱重合開始剤を配合する場合は、組成物製造時に重合することを防ぐために、30℃以下で行うことが好ましい。
【0070】
組成物の粘度としては、使用する用途及び目的等に応じて適宜設定すれば良い。
好ましい粘度としては、5~30,000mPa・sであり、より好ましくは10~25,000mPa・sである。粘度が高くなると薄膜で表面平滑性に優れる硬化物を得られにくいため、適宜溶剤で所望の粘度に調整すればよい。
尚、本発明において粘度とは、E型粘度計(コーンプレート型粘度計)により25℃で測定した値を意味する。
【0071】
本発明の組成物は、活性エネルギー線硬化型組成物として使用することも、熱硬化型組成物として使用することもできるが、活性エネルギー線硬化型組成物として好ましく使用することができる。
又、本発明の組成物は、有機溶剤を含まない無溶剤型組成物、有機溶剤を含む溶剤型組成物、(A)成分を水中に溶解又は分散させた水系組成物のいずれの形態でも使用することができる。(A)成分を水中に分散させた水系組成物において、分散剤としては通常使用される乳化剤や後記する反応性乳化剤を使用することができる。
【0072】
本発明の組成物において、(A)成分を主成分として使用する場合は、組成物中の(A)成分の含有割合は、速硬化性、被加工物品への接着性及び水に浸漬した際の剥離性に優れる点で、硬化性成分の合計量100重量%に対して20~100重量%であることが好ましく、30~100重量%であることがより好ましい。
尚、「硬化性成分」とは、エチレン性不飽和基を有する化合物群であり、(A)成分を意味し、後記する(A)成分以外のエチレン性不飽和基を有する化合物〔(D)成分〕を配合する場合は、(A)成分及び(D)成分を意味する。
【0073】
本発明の組成物は、前記(A)成分を必須成分とするものであるが、目的に応じて種々の成分を配合することができる。
その他成分の好ましい例としては、具体的には、光重合開始剤〔以下、「(B)成分」という〕、熱重合開始剤〔以下、「(C)成分」という〕、及び前記(A)成分以外のエチレン性不飽和基を有する化合物〔以下、「(D)成分」という〕等が挙げられる。
以下、これらの成分について説明する。
尚、後記するその他の成分は、例示した化合物の1種のみを使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
【0074】
2-1.(B)成分
本発明の組成物を活性エネルギー線硬化型組成物として使用し、さらに電子線硬化型組成物として使用する場合は、(B)成分(光重合開始剤)を含有させず、電子線により硬化させることも可能である。
本発明の組成物を活性エネルギー線硬化型組成物として使用する場合において、特に、活性エネルギー線として紫外線及び可視光線を用いたときには、硬化の容易性やコストの観点から、(B)成分を更に含有することが好ましい。
電子線硬化型組成物として使用する場合は、必ずしも(B)成分を含有させる必要はないが、硬化性を改善させるため必要に応じて少量配合することもできる。
【0075】
本発明における(B)成分としては、種々の公知の光重合開始剤を使用することができる。又、(B)成分としては、光ラジカル重合開始剤であることが好ましい。
(B)成分の具体例としては、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル〕-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタン-1-オン、ジエトキシアセトフェノン、オリゴ{2-ヒドロキシ-2-メチル-1-〔4-(1-メチルビニル)フェニル〕プロパノン}及び2-ヒドロキシ-1-{4-〔4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル〕フェニル}-2-メチルプロパン-1-オン等のアセトフェノン系化合物;
ベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン及び4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルスルファイド等のベンゾフェノン系化合物;
メチルベンゾイルフォルメート、オキシフェニル酢酸の2-(2-オキソ-2-フェニルアセトキシエトキシ)エチルエステル及びオキシフェニル酢酸の2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチルエステル等のα-ケトエステル系化合物;
2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等のフォスフィンオキサイド系化合物;
ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル及びベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン系化合物;チタノセン系化合物;1-〔4-(4-ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル〕-2-メチル-2-(4-メチルフェニルスルフィニル)プロパン-1-オン等のアセトフェノン/ベンゾフェノンハイブリッド系光開始剤;
2-(O-ベンゾイルオキシム)-1-〔4-(フェニルチオ)〕-1,2-オクタンジオン等のオキシムエステル系光重合開始剤;並びに
カンファーキノン等が挙げられる。
【0076】
これらの中でも、アセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、及び、フォスフィンオキサイド系化合物が好ましく挙げられ、硬化物を数μm以下の薄膜で塗工したときでも空気下で良好な硬化性を容易に得ることができることから、アセトフェノン系化合物が特に好ましく挙げられる。
【0077】
(B)成分の含有割合は、硬化性成分の合計量100重量部に対して、0.01~10重量部であることが好ましく、0.5~7重量部であることがより好ましく、1~5重量部であることが特に好ましい。上記範囲であると、組成物の硬化性に優れ、又、得られる硬化物の耐擦傷性に優れる。
【0078】
2-2.(C)成分
(C)成分は熱重合開始剤であり、組成物を熱硬化型組成物として使用する場合には、(C)成分を配合することができる。
本発明の組成物は、熱重合開始剤を配合し、加熱硬化させることもできる。
熱重合開始剤としては、種々の化合物を使用することができ、有機過酸化物及びアゾ系開始剤が好ましい。
【0079】
有機過酸化物の具体例としては、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)2-メチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(4,4-ジ-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(m-トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジーメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシアセテート、2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレレート、ジ-t-ブチルパーオキシイソフタレート、α、α’-ビス(t-ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、p-メンタンハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t-ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ヘキシルハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
【0080】
アゾ系化合物の具体例としては、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2-(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2-フェニルアゾ-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾジ-t-オクタン、アゾジ-t-ブタン等が挙げられる。
これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。又、有機過酸化物は還元剤と組み合わせることによりレドックス反応とすることも可能である。
【0081】
(C)成分の含有割合としては、硬化性成分合計量100重量部に対して、10重量部以下が好ましい。
熱重合開始剤を単独で用いる場合は、通常のラジカル熱重合の常套手段にしたがって行えばよく、場合によっては(B)成分(光重合開始剤)と併用し、光硬化させた後にさらに反応率を向上させる目的で熱硬化を行うこともできる。
【0082】
2-3.(D)成分
(D)成分は、前記(A)成分以外のエチレン性不飽和基を有する化合物である。
(D)成分のエチレン性不飽和基としては、組成物の硬化性に優れることから、(メタ)アクリロイル基が好ましく、アクリロイル基がさらに好ましい。
【0083】
(D)成分の例としては、1個のエチレン性不飽和基を有する化合物(以下、「単官能不飽和化合物」という)及び2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物(以下、「多官能不飽和化合物」という)を挙げることができる。
以下、単官能不飽和化合物及び多官能不飽和化合物について説明する。
【0084】
2-3-1.単官能不飽和化合物
単官能不飽和化合物の具体例としては、(メタ)アクリロイル基を有する化合物、及びビニル基を有する化合物が挙げられる。
(メタ)アクリロイル基を有する化合物の例としては、
(メタ)アクリル酸、アクリル酸のマイケル付加型のダイマー、及びω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等のカルボキシル基及びエチレン性不飽和基を有する化合物;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、及びフタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレート;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、及び2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、等のアルキル(メタ)アクリレート;
エチルカルビトール(メタ)アクリレート、ブチルカルビトール(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート等のカルビトール(メタ)アクリレート;
ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、アルキルフェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、p-クミルフェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、オルトフェニルフェノール(メタ)アクリレート、o-フェニルフェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、及び2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等の芳香族基を有する単官能(メタ)アクリレート;
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、tert-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、及びジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の脂環式基を有する単官能(メタ)アクリレート;並びに
テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、N-(2-(メタ)アクリロキシエチル)ヘキサヒドロフタルイミド、及びN-(2-(メタ)アクリロキシエチル)テトラヒドロフタルイミド等の複素環を有する単官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0085】
単官能(メタ)アクリルアミドとしては、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-n-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-sec-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド、及びN-n-ヘキシル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;
N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;並びに
N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジ-n-ブチル(メタ)アクリルアミド及びN,N-ジヘキシル(メタ)アクリルアミドのN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0086】
ビニル基を有する化合物としては、N-ビニルピロリドン、及びN-ビニルカプロラクタム等が挙げられる。
【0087】
単官能不飽和化合物の中でも、ホモポリマーのガラス転移温度が70℃以上であり、かつ水溶性の化合物が、低粘度化と水剥離性、耐熱性の両立という点で好ましい。
具体的には、アクリル酸(Tg=103℃)、メタクリル酸(Tg=130℃)、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(Tg=98℃)、N,N-ジメチルアクリルアミド(Tg=119℃)、アクリロイルモルホリン(Tg=145℃)、N-ビニルピロリドン(Tg=80℃)、及びN-ビニルカプロラクタム(Tg=90℃)等が挙げられる。
【0088】
2-3-2.多官能不飽和化合物
多官能不飽和化合物としては、多官能(メタ)アクリレートが好ましい。
2官能(メタ)アクリレートとしては、具体的には、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート及びノナンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0089】
3官能以上(メタ)アクリレートとしては、3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物であれば種々の化合物が挙げられ、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのトリ又はテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンのトリ又はテトラ(メタ)アクリレート、ジグリセリンのトリ又はテトラ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールのトリ、テトラ、ペンタ又はヘキサ(メタ)アクリレート等のポリオールポリ(メタ)アクリレート;並びに
グリセリンアルキレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールアルキレンオキサイド付加物のトリ又はテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンアルキレンオキサイド付加物のトリ又はテトラ(メタ)アクリレート、ジグリセリンアルキレンオキサイド付加物のトリ又はテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールアルキレンオキサイド付加物のトリ、テトラ、ペンタ又はヘキサ(メタ)アクリレート等のポリオールアルキレンオキサイド付加物のポリ(メタ)アクリレート;並びにイソシアヌル酸アルキレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
前記における、アルキレンオキサイド付加物の例としては、エチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物、並びに、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0090】
このほかに、多官能(メタ)アクリレートとして、ウレタン(メタ)アクリレートやエポキシ(メタ)アクリレート及びポリエステル(メタ)アクリレート等も用いることができる。
【0091】
ウレタン(メタ)アクリレートは、多価アルコールと多価イソシアネートと水酸基含有(メタ)アクリレートとの三者の反応によって得られるものや、多価アルコールを使用せずに有機多価イソシアネートと水酸基含有(メタ)アクリレート化合物との二者の反応によって得られるもの(以下、「ウレタンアダクト」という)が挙げられる。
【0092】
多価アルコールとしてはポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオール、前記多価アルコールと前記多塩基酸との反応によって得られるポリエステルポリオール、前記多価アルコールと前記多塩基酸とε-カプロラクトンとの反応によって得られるカプロラクトンポリオール、及びポリカーボネートポリオール(例えば、1,6-ヘキサンジオールとジフェニルカーボネートとの反応によって得られるポリカーボネートポリオール等)等が挙げられる。
【0093】
有機多価イソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート及びジシクロペンタニルジイソシアネート等のジイソシアネート;
並びにヘキサメチレンジイソシアネート3量体及びイソホロンジイソシアネート3量体等の3個以上のイソシアネート基を有する有機ポリイソシアネートが挙げられる。
【0094】
水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート及びヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート及びペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノ(メタ)アクリレート;
並びにトリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ又はトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンのジ又はトリ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールのジ、トリ、テトラ又はペンタ(メタ)アクリレート等の水酸基含有多官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0095】
ウレタンアダクトにおいて、有機多価イソシアネート及び水酸基含有(メタ)アクリレート化合物としては、前記化合物を挙げることができる。
ウレタンアダクトにおいては、水酸基含有(メタ)アクリレートとして、水酸基含有多官能(メタ)アクリレートを使用したものが好ましい。
これらの中でも、硬化物が硬度及び耐擦傷性により優れる点で、3個以上の(メタ)アクリロイル基を有し、水酸基を1個有する化合物が好ましく、具体的には、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0096】
ウレタンアダクトの別の好ましい化合物としては、3個以上のイソシアネート基を有する有機ポリイソシアネートと水酸基含有モノ(メタ)アクリレートの反応物が挙げられる。
水酸基含有モノ(メタ)アクリレートとしては、前記した化合物と同様の化合物が挙げられる。
3個以上のイソシアネート基を有する有機ポリイソシアネートの例としては、前記したヘキサメチレンジイソシアネート3量体及びイソホロンジイソシアネート3量体等を挙げることができる。
【0097】
ウレタン(メタ)アクリレートは、常法により製造されたものを使用することができる。
例えば、ジブチルスズジラウレート等の付加触媒存在下、有機多価イソシアネートと多価オールを加熱撹拌し付加反応させてイソシアネート基含有化合物を製造し、当該化合物にさらに水酸基含有(メタ)アクリレートを添加し、加熱・撹拌して付加反応させる方法等が挙げられる。
ウレタンアダクトの場合は、付加触媒存在下、有機多価イソシアネートと水酸基含有(メタ)アクリレートを加熱・撹拌し、付加反応させる方法等が挙げられる。
【0098】
これら以外のウレタンポリ(メタ)アクリレートの例としては、文献「UV・EB硬化材料」[(株)シーエムシー、1992年発行]の70~74頁に記載されているような化合物等が挙げられる。
【0099】
多官能(メタ)アクリレートとしては、水剥離性と耐熱性の両立という点から、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのトリ又はテトラ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0100】
(D)成分として例示したこれら化合物は、目的に応じて任意の化合物を使用することができる。
【0101】
(D)成分の含有割合としては目的に応じて適宜設定すれば良い。
(A)成分を主成分として使用する場合は、硬化性成分合計100重量%中に(D)成分を80重量%以下で含むことが好ましく、より好ましくは70重量%以下である。又、好ましい下限としては、硬化性成分合計100重量%中に20重量%以上である。
(D)成分の割合を20重量%以上含むことにより、硬化物の硬度や各種基材への密着性の調整が可能であり、80重量%以下とすることより、硬化物に良好な剥離性を向上させることができる。
【0102】
本発明ではこれらのエチレン性不飽和基を有する化合物を単独で又は二種以上を任意に組み合わせて使用できる。
【0103】
2-4.前記以外のその他の成分
前記以外のその他の成分としては、公知の添加剤を用いることができる。例えば、有機溶剤、水、酸性物質、酸化防止剤、表面改質剤、親水性重合体、フィラー、シランカップリング剤、酸発生剤、顔料、染料、粘着性付与剤及び重合禁止剤等が挙げられる。
以下、これらその他の成分のうち、水、有機溶剤、酸性物質、酸化防止剤、表面改質剤、親水性重合体、及びフィラーについて説明する。
【0104】
<水及び有機溶剤>
本発明の組成物は無溶剤で使用することが可能であるが、塗工粘度や膜厚調整等の目的で種々の有機溶剤を用いることができる。
有機溶剤は任意のものを使用することができ、具体的には、ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族化合物;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン化合物;ジブチルエーテル等のエーテル化合物;並びにN-メチルピロリドン等が挙げられる。
硬化型組成物が(A)成分を主成分とする場合は、水に対して任意の割合で相溶装用するため、有機溶剤の代わりに水を使用することができる。又、必要に応じて用いる(D)成分が水溶性である場合も水で希釈することができる。
さらに、本発明においては、硬化物の剥離性が向上する点で、水を配合することが好ましい。
【0105】
有機溶剤及び/又は水の含有割合は、硬化性成分合計量100重量部に対して、0.01~200重量部であることであることが好ましく、10~150重量部であることがより好ましく、20~100重量部であることがさらに好ましい。
【0106】
<酸性物質>
本発明の組成物は、プラスチック等の基材への密着材に優れるものであるが、酸性物質を添加することでさらに密着性を向上させることができる。
酸性物質としては、活性エネルギー線の照射により酸を発生する光酸発生剤、無機酸、及び有機酸等が挙げられる。無機酸としては、硫酸、硝酸、塩酸、及びリン酸等が挙げられる。有機酸としては、p-トルエンスルホン酸、及びメタンスルホン酸等の有機スルホン酸化合物等が挙げられる。
これらの中でも、無機酸又は有機酸が好ましく、有機酸である有機スルホン酸化合物がより好ましく、芳香族スルホン酸化合物がさらに好ましく、p-トルエンスルホン酸が特に好ましい。
酸性物質の含有割合は、硬化性成分の合計量100重量部に対して、0.0001~5重量部であることが好ましく、0.0001~1重量部であることがより好ましく、0.0005~0.5重量部であることがさらに好ましい。酸性物質の含有割合が上記範囲であると、硬化物が基材との密着性により優れ、基材の腐蝕や他の成分の分解といった問題の発生を防ぐことができる。
【0107】
<酸化防止剤>
本発明の組成物は、硬化物の耐熱性や耐候性を良好にする目的で、酸化防止剤をさらに含有していてもよい。
本発明に用いられる酸化防止剤としては、例えばフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、又は、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、ジ-t-ブチルヒドロキシトルエン等のヒンダードフェノール類を好ましく挙げることができる。市販されているものとしては、(株)アデカ製のAO-20、AO-30、AO-40、AO-50、AO-60、AO-70、AO-80等が挙げられる。
リン系酸化防止剤としては、トリアルキルホスフィン、トリアリールホスフィン等のホスフィン類や、亜リン酸トリアルキルや亜リン酸トリアリール等が好ましく挙げられる。これらの誘導体で市販品としては、例えば(株)アデカ製、アデカスタブPEP-4C、PEP-8、PEP-24G、PEP-36、HP-10、260、522A、329K、1178、1500、135A、3010等が挙げられる。
硫黄系酸化防止剤としては、チオエーテル系化合物が挙げられ、市販品としては(株)アデカ製AO-23、AO-412S、AO-503A等が挙げられる。
【0108】
酸化防止剤の含有割合は、本発明の組成物合計量100重量%中に、0.01~5重量%含まれることが好ましく、0.1~1重量%含まれることがより好ましい。酸化防止剤の含有割が上記範囲内にあると、組成物の安定性に優れ、又、硬化性及び接着力が良好である。
【0109】
<表面改質剤>
本発明の組成物は、塗布時のレベリング性を高める目的や、硬化物の滑り性を高めて耐擦傷性を高める目的等のため、表面改質剤を添加してもよい。
表面改質剤としては、表面調整剤、前記以外の界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、スベリ性付与剤及び防汚性付与剤等が挙げられ、公知の表面改質剤を使用することができる。
それらのうち、シリコーン系表面改質剤及びフッ素系表面改質剤が好適に挙げられる。具体例としては、シリコーン鎖とポリアルキレンオキサイド鎖とを有するシリコーン系ポリマー及びオリゴマー、シリコーン鎖とポリエステル鎖とを有するシリコーン系ポリマー及びオリゴマー、パーフルオロアルキル基とポリアルキレンオキサイド鎖とを有するフッ素系ポリマー及びオリゴマー、並びに、パーフルオロアルキルエーテル鎖とポリアルキレンオキサイド鎖とを有するフッ素系ポリマー及びオリゴマー等が挙げられる。
又、滑り性の持続力を高める等の目的で、分子中にエチレン性不飽和基、好ましくは(メタ)アクリロイル基を有する表面改質剤を使用してもよい。
【0110】
表面改質剤の含有割合は、本発明の組成物の合計量100重量%中に、0.01~1.0重量%含まれることが好ましい。表面改質剤の含有割合が上記範囲であると、硬化物の表面平滑性に優れる。
【0111】
<親水性重合体>
本発明の硬化型組成物を基材に塗工する場合、適用する基材の種類及び塗工方法によっては、基材に組成物を塗工し乾燥した後の塗膜にハジキ等が発生し、最終的に得られる硬化物が外観不良となる場合がある。
この場合、塗膜のハジキ等を防止する目的のため、硬化型組成物に親水性重合体を添加することが好ましい。
【0112】
親水性重合体としては、親水性基を有する重合体が挙げられる。
親水性基としては、酸性基及び水酸基等が挙げられ、酸性基が好ましい。酸性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、及びリン酸基等が挙げられ、カルボキシル基又はスルホン酸基が好ましく、カルボキシル基がより好ましい。
親水性重合体が酸性基を有する重合体(以下、「酸性基含有重合体」という)としては、酸性基の一部又は全部が中和された中和塩が好ましい。当該酸性基含有重合体の中和塩の製造方法としては、原料ビニル系単量体として中和塩を使用して製造する方法、及び酸性基含有重合体を製造した後、中和処理して製造する方法等が挙げられる。
【0113】
親水性重合体としては、親水性基を有するビニル系単量体を必須構成単量体単位とする重合体が好ましい。親水性基を有するビニル系単量体としては、酸性基を有するビニル系単量体及び水酸基を有するビニル系単量体等が挙げられる。
【0114】
酸性基を有するビニル系単量体としては、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物、スルホン酸基を有するエチレン性不飽和化合物及びリン酸基を有するエチレン性不飽和化合物等が挙げられる。
カルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、及びこれら化合物の塩等が挙げられる。スルホン酸基を有するエチレン性不飽和化合物としては、アクリルアミド2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、及び(メタ)アリルスルホン酸等が挙げられる。リン酸基を有するエチレン性不飽和化合物としては、リン酸と(メタ)アクリル酸とのエステル化物等のリン酸基含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。
酸性基含有重合体が酸性基の一部又は全部が中和された中和塩の場合においては、酸性基を有するビニル系単量体として、中和塩を使用することが好ましい。
酸性基を有するビニル系単量体の中和塩を形成するためのアルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物;アンモニア;並びにトリエチルアミン及びトリエタノールアミン等のアミン化合物等が挙げられる。
【0115】
水酸基を有するビニル系単量体としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及びヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0116】
親水性重合体としては、親水性基を有するビニル系単量体以外のビニル系単量体(以下、「その他単量体」という)を共重合したものであっても良い。
その他単量体としては、アルキル(メタ)アクリレート、アルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、スチレン、アルキルビニルエーテル、塩化ビニリデン、(メタ)アクリルアミド、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、(メタ)アクリルニトリル、及び(メタ)アクリロイルモルホリン等が挙げられる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、へキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート及びデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる
【0117】
親水性重合体の重量平均分子量(以下、「Mw」という)としては、5,000~100,000が好ましく、7,000~30,000がより好ましい。
尚、本発明において重合体のMwとは、標準ポリスチレンを検量線として用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」という)により求めた値を意味する。親水性重合体においては、酸成分としてカルボン酸等の酸性基を中和する前に測定した値である。又、その他単量体としてアミン性の単量体を含む場合はGPC測定ができないため、これら成分の代わりに通常のアルキル(メタ)アクリレートを使用して、同様の重合温度、開始剤濃度、モノマー濃度、溶剤濃度等の条件をそろえて重合した重合体のGPC測定結果を推測値とした値を意味する。
【0118】
親水性重合体としては、前記単量体を使用し常法の重合に従い製造されたものを使用することができる。
例えば、ラジカル重合法、リビングアニオン重合法、リビングラジカル重合法等が挙げられる。
又、重合の形態として、例えば、溶液重合法、エマルジョン重合法、懸濁重合法及び塊状重合法等が挙げられる。
前記した低分子量重合体を通常の重合方法で製造しようとすると、通常、連鎖移動剤及び重合開始剤を多くする必要がある。連鎖移動剤を多量に使用した重合体を使用すると、活性エネルギー線の照射により硬化物が着色しやすくなり、又、重合開始剤を多量に使用した重合体を使用すると、組成物の保存安定性が低下し易くなる。
このため、多量の連鎖移動剤や重合開始剤を必要としない高温重合により製造された重合体が好ましい。
高温重合の温度としては、160~350℃が好ましく、180~300℃がより好ましい。
【0119】
親水性重合体の形態としては、目的に応じて選択すれば良く、親水性重合体の溶液、親水性重合体の分散液、粉末等が挙げられる。
具体的には、親水性重合体の有機溶剤溶液、親水性重合体の水溶液又は水性分散液、親水性重合体の有機溶剤と水の混合溶液又は水散液、及び粉末等が挙げられる。これらの中でも、組成物への溶解性に優れるため、親水性重合体の水溶液又は水性分散液、有機溶剤溶液及び親水性重合体の有機溶剤と水の混合溶液又は水散液が好ましい。
親水性重合体の溶液及び分散液の固形分としては、3~70重量%が好ましい。
又、親水性重合体の溶液及び分散液の粘度としては、5~20,000mPa・sが好ましい。
【0120】
親水性重合体の含有割合としては、水溶液又は水性分散液のいずれの場合においても固形分基準で、組成物の合計量100重量部に対して、0.5~50重量部であることが好ましく、より好ましく2~30重量部である。
親水性重合体の含有割合を0.5重量部以上とすることにより、硬化物のハジキを防止するとともに、各種基材に対する密着性を向上させたり、フィルムのような膜厚が薄い基材に本発明の組成物を塗工し、硬化させた時の基材の変形及び反りを防ぐことができ、50重量部以下とすることにより硬化物の白濁、スジむら、ゆず肌等の外観不良を防ぐことができる。
【0121】
<フィラー>
本発明の組成物が有機溶剤を含む場合において、(A)成分、又は必要に応じて配合する(D)成分のいずれかが低粘度であると、組成物をスプレー塗工又はスピンコートを行った後の乾燥工程において、有機溶剤が揮発する際に組成物が基材上ではじきを起こし、塗膜外観が不良となるおそれがある。
有機溶剤を含む組成物を使用して前記したような塗工方法を行う場合は、組成物にフィラーを配合して増粘を行うことが、乾燥後のはじきを防止することができ好ましい。
フィラーとしては、無機フィラー及び有機フィラーのいずれも使用することができ、有機フィラーが好ましい。
無機フィラーの例としては、シリカ及びアルミナ等の無機化合物が挙げられる。
有機フィラーの例としては、疎水性重合体が挙げられ、ポリウレタン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリアミド、ポリウレア、ナイロン、ポリスチレン、ポリエチレン及びポリプロピレン等が挙げられ、ポリ(メタ)アクリレートが好ましい。
疎水性重合体としては、平均分子量が高いものが、増粘に必要な添加部数を少なくでき、組成物の帯電防止性の低下を防止することができるため好ましい。但し、組成物への相溶性を損なわない範囲において高分子量であることが好ましく、Mwとして10,000~5,000,000が好ましく、100,000~2,000,000がより好ましい。
フィラーとしては粒子状のものが好ましく、その平均粒径としては1~15μmであることが好ましく、より好ましくは4~12μmである。
本発明における平均粒径とは、レーザー回折法により波長680nmで測定した値を意味する。
フィラーの含有割合としては、剥離性への影響を考慮するとより少量の添加量で増粘できることが好ましく、有機溶剤を除いた組成物全体量100重量部に対し、0.1~10重量部が好ましく、0.5~5重量部がより好ましい。
【0122】
3.使用方法
本発明の組成物の使用方法としては、常法に従えば良い。
例えば、適用される基材に組成物を通常の方法により塗布又は注入した後、必要に応じてもう一方の適用基材を貼り合わせた後、活性エネルギー線を照射するか又は加熱して組成物を硬化させた後、基材を加工し、水に浸漬して基材を剥離する方法が挙げられる。
又、基材として2枚以上を使用し、予め積層した基材を組成物に浸し、基材の隙間に組成物を浸み込ませた後、活性エネルギー線を照射するか又は加熱して組成物を硬化させた後、基材を加工し、水に浸漬して基材を剥離する方法が挙げられる。
活性エネルギー線の照射方法は、従来の硬化方法として知られている一般的な方法を採用すれば良い。
又、組成物に(B)成分(光重合開始剤)及び(C)成分(熱重合開始剤)を併用し、これを活性エネルギー線照射した後、加熱硬化させることにより、基材との密着性を向上させる方法も採用することができる。
【0123】
本発明の組成物の使用方法としては、下記工程1~工程4を順次実施する加工材料の製造方法が好ましい。
工程1:基材に、前記水剥離性硬化型組成物を塗工又は注入するか、
前記基材に形成された組成物の塗工又は注入面に、他の基材を貼合するか、又は、
複数の基材間に、組成物を浸漬させる工程
工程2:塗工又は注入後の組成物を硬化させる工程
工程3:組成物の硬化物を含む基材の少なくとも一つを加工する工程
工程4:工程3で得られた組成物の硬化物を含む基材を、温度20~100℃の水に浸漬し、基材を剥離する工程
【0124】
より好ましくは、前記製造方法において、400nmにおける透過率が10%以上を有する基材を使用し、(A)成分及び(B)成分を含む水剥離性硬化型組成物を使用し、活性エネルギー線を照射して組成物を硬化させる製造方法である。
即ち、下記基材の少なくとも一つが、400nmにおける透過率として10%以上を有し、下記工程1~工程4を順次実施する加工材料の製造方法に関する。
工程1:基材に、(A)成分及び(B)成分を含み、硬化物が20~100℃の水中で剥離性を有する水剥離性硬化型組成物を塗工又は注入するか、
前記基材に形成された組成物の塗工又は注入面に、他の基材を貼合するか、又は、
複数の基材間に、組成物を浸漬させる工程
工程2:400nmにおける透過率として10%以上を有する基材側から活性エネルギー線を照射し、塗工又は注入後の組成物を硬化させる工程
工程3:組成物の硬化物を含む基材の少なくとも一つを加工する工程
工程4:工程3で得られた組成物の硬化物を含む基材を、温度20~100℃の水に浸漬し、基材を剥離する工程
【0125】
3-1.基材
本発明の組成物が適用できる基材としては、種々の材料に適用でき、木材、無機材料、プラスチック、及び紙等が挙げられる。
無機材料としては、ガラス、石英、セラミックス、金属、モルタル、コンクリート及び石材等が挙げられる
金属としては、鋼板、アルミ及びクロム等の金属、酸化亜鉛(ZnO)及び酸化インジウムスズ(ITO)等の金属酸化物等が挙げられる。
プラスチックの具体例としては、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、ABS樹脂、ポリビニルアルコール、トリアセチルセルロース及びジアセチルセルロース等のセルロースアセテート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルサルホン、ノルボルネン等の環状オレフィンをモノマーとする環状ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂及びポリウレタン樹脂等が挙げられる。
【0126】
本発明の組成物として、活性エネルギー線硬化型組成物を使用し、さらに2枚の基材を使用する場合は、基材の少なくとも一つが、透過性を有する基材であることが好ましい。
透過性を有する基材としては、400nmにおける透過率が10%以上である基材が好ましい。
透過性を有する基材の例としては、ガラス、石英、及びプラスチック等が挙げられる
【0127】
3-2.工程1
工程1は、基材に、前記水剥離性硬化型組成物を塗工又は注入するか、
前記基材に形成された組成物の塗工又は注入面に、他の基材を貼合するか、又は、
複数の基材間に、組成物を浸漬させる工程である。
【0128】
工程1で本発明の組成物を基材へ塗工する場合の塗工方法としては、目的に応じて適宜設定すれば良く、バーコーター、アプリケーター、ドクターブレード、ディップコーター、ロールコーター、スピンコーター、フローコーター、ナイフコーター、コンマコーター、リバースロールコーター、ダイコーター、リップコーター、スプレーコーター、グラビアコーター及びマイクログラビアコーター、ディスペンサー等で塗工する方法が挙げられる。
【0129】
基材に対する組成物硬化物の膜厚は、目的に応じて適宜設定すればよい。硬化物の厚さとしては、使用する基材や製造した硬化物を有する基材の用途に応じて選択すればよいが、1~100μmであることが好ましく、2~40μmであることがより好ましい。
【0130】
組成物が有機溶剤を含む場合は、基材に塗工又は注入した後、加熱・乾燥させ、有機溶剤を蒸発させることが好ましい。
乾燥温度は、適用する基材が変形等の問題を生じない温度以下であれば特に限定されるものではない。好ましい加熱温度としては、40~100℃である。乾燥時間は適用する基材及び加熱温度によって適宜設定すれば良く、好ましくは0.5~20分である。
【0131】
本発明の組成物の使用方法においては、基材を2つ使用し、基材に組成物を塗工又は注入し、前記基材に形成された組成物の塗工又は注入面に、他の基材を貼合することもできる。
2との基材としては、同じ種類の材料であっても、異なる種類の材料であっても良い。
本発明の組成物として、活性エネルギー線硬化型組成物を使用する場合においては、前記した通り、基材の少なくとも一つが、透過性を有する基材であることが好ましい。
透過性を有する基材としては、400nmにおける透過率が10%以上である基材が好ましい。
透過性を有する基材の例としては、前記と同様の材料が挙げられる。
【0132】
又、基材を2つ以上使用し、複数の基材間に、組成物を浸漬させることもできる。
【0133】
3-3.工程2
工程2は、塗工又は注入後の組成物を硬化させる工程である。
本発明の組成物として、活性エネルギー線硬化型組成物を使用する場合は、活性エネルギー線を照射して組成物を硬化させる。
活性エネルギー線としては、電子線、紫外線及び可視光線が挙げられるが、紫外線又は可視光線が好ましく、紫外線が特に好ましい。紫外線照射装置としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線(UV)無電極ランプ、発光ダイオード(LED)等が挙げられる。
照射エネルギーは、活性エネルギー線の種類や配合組成に応じて適宜設定すべきものであるが、一例として高圧水銀ランプを使用する場合を挙げると、UV-A領域の照射エネルギーで50~8,000mJ/cm2が好ましく、100~3,000mJ/cm2がより好ましい。
【0134】
本発明の組成物として、熱硬化型組成物を使用する場合は、加熱して組成物を硬化させる。
加熱方法としては、加熱可能な乾燥機等に基材及び塗膜を含む材料を静置することで硬化することができる。
加熱温度としては、使用する基材や目的に応じて適宜設定すれば良く、40~180℃が好ましい。基材がプラスチックの場合は、温度が高すぎると基材が変形するおそれがあるため、120℃以下であることが好ましい。
加熱時間は適用する基材及び加熱温度によって適宜設定すれば良く、好ましくは0.5~60分である。
【0135】
3-4.工程3
活性エネルギー線を照射するか又は加熱して硬化させた硬化物を含む基材の少なくとも一つを加工する工程である
基材の加工は、目的に応じた加工がなされ、加工の具体的な方法としては、後記で詳述する通りである。
【0136】
3-5.工程4
工程4は、工程3で得られた組成物の硬化物を含む基材を、温度20~100℃の水に浸漬し、基材を剥離する工程である。
又、剥離性を向上させるため、水に親水性有機溶媒を添加して使用することもできる。さらに、界面活性剤を含んでいても良い。
親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール及びブタノール等のアルコール化合物;エチレングリコールモノメチルエーテル及びプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノエーテル化合物等が挙げられる。
水中で剥離する場合においては、室温でも実施できるが、水を加熱することが好ましい。加熱温度としては、使用する(A)成分の種類、基材の種類及び目的に応じて適宜設定すれば良く、20~100℃が好ましく、より好ましくは20~90℃である。
【0137】
4.用途
本発明の水剥離性硬化型組成物は、種々の用途に使用することができる。
特に、本発明の組成物は、その硬化物が水により容易に解体できる性能を利用した種々の用途に使用可能である。
具体的には、仮固定用接着剤組成物、コーティング剤用組成物、及び造形用組成物等が挙げられる。
以下、これらの用途について説明する。
【0138】
4-1.仮固定用接着剤組成物
仮固定用接着剤組成物(以下、「仮固定用接着剤」又は単に「接着剤」という)が適用できる用途としては、例えば、半導体ウェハ等の各種電子材料の製造、光学材料の製造、水晶振動子の製造、建材の製造、及び木材の製造等における仮固定が挙げられる
【0139】
本発明の接着剤により接着する基材としては、特に制限はなく、無機化合物であっても、有機化合物であっても、無機-有機複合物であってもよく、又、同じ材質であっても、異なる材質のものであってもよい。その具体例は、前記の通りである。
又、本発明の接着剤は、固体状の任意の形状の基材を接着することができる。
【0140】
本発明の仮固定用接着剤を使用する各種製品の製造方法としては、下記工程1-1~工程1-4を順次実施する加工材料の製造方法が挙げられる。
工程1-1(接着層形成工程):基材に、接着剤を塗工又は注入し、前記基材に形成された接着剤の塗工又は注入面に、他の基材を貼合するか、又は、
複数の基材間に、接着剤を浸漬させ、
接着層を形成する工程
工程1-2(仮接着工程):複数の基材間に形成された塗工又は注入後の接着層を硬化させ複数の基材同士を仮接着する工程
工程1-3(加工工程):接着剤の硬化物を含む基材の少なくとも一つを加工する工程
工程1-4(分離工程):工程1-3で得られた接着剤の硬化物を含む基材を、温度20~100℃の水に浸漬し、複数の基材同士を剥離して分離をする工程
【0141】
工程1-1(接着層形成工程)は、複数の基材のうち少なくとも1つの基材上、又は、複数の基材間に本発明の接着剤からなる接着層を形成する工程である。
基材としては、接着剤で変質しないもの、好ましくは常温からぬるま湯程度の温度の水で変質しないものであれば特に限定されず、金属、セラミックス、及びプラスチック等が挙げられる。
【0142】
工程1-1では、例えば、固定する一方又は複数の基材の被着面に接着剤を塗布し、該塗布した箇所に他の基材を重ねること、及び、その繰り返しを行う。
塗布の手段としては、基材の形状に合わせて、ディスペンサー、コーター、ロール、はけ、へら、スプレー、及び塗布冶具等を用いてもよい。
又は、基材として2枚以上を使用し、予め積層した基材を接着剤に浸し、基材の隙間に接着剤を浸み込ませる方法も挙げられる。
【0143】
工程1-2(仮接着工程)は、前記複数の基材間に塗布された接着剤を硬化させて硬化物とし、硬化物により前記複数の基材同士を仮接着する工程である。
本発明の接着剤は、加熱又は活性エネルギー線の照射により硬化させる。
硬化方法としては、前記と同様の方法が挙げられる。
【0144】
工程1-3(加工工程)は、工程1-2(仮接着工程)と工程1-4(分離工程)との間に、仮接着した前記基材を所望の形状に加工する工程である。
加工の例としては、例えば、基材に対して切断、研削、研磨、及び/又はエッチング等を行い所望の形状とする方法が挙げられる。
【0145】
工程1-4(分離工程)は、硬化物を水に接触させて解体し、前記複数の基材同士を分離する工程である。
分離工程においては、硬化物を水に接触させる方法としては、基材を水に浸漬する、流水に曝す、基材に水を噴霧する方法等が挙げられる。処理時間は、水の接触方法や加熱温度にもよるが、例えば、10秒~3分の範囲であることが好ましい。
又、基材と常温からぬるま湯程度の温度の水とが接触する時、基材に機械的な外力を加えたり、超音波を照射したりして、分離を促進することも好ましい。
【0146】
4-2.コーティング剤用組成物
本発明の組成物をコーティング剤用組成物(以下、「コーティング剤」という)として使用する場合、形成される硬化物は、水で容易に除去することができる。
このため、不要な箇所に硬化物が形成された場合であっても、水と接触させることで簡便に剥離又は除去することができる。
【0147】
本発明のコーティング剤を使用する各種製品の製造方法としては、下記工程2-1~工程2-4を順次実施する加工材料の製造方法が挙げられる。
工程2-1:基材に、コーティング剤を塗工又は注入する工程
工程2-2:塗工又は注入後のコーティング剤を硬化させる工程
工程2-3:コーティング剤の硬化物を含む基材を加工する工程
工程2-4:工程2-3で得られたコーティング剤の硬化物を含む基材を、温度20~100℃の水に浸漬し、基材を剥離する工程
【0148】
本発明のコーティング剤を用いて硬化物が形成される基材は、特に制限されない。例えば、ガラス、セラミックス、コンクリート、金属、樹脂、木、紙、布帛、皮革等が挙げられる。又は、爪、皮膚等の生体が挙げられる。
基材は、表面が平滑であっても凹凸、空隙等を有していてもよい。本発明のコーティング剤を用いて形成される硬化物は水で除去可能であるため、表面に凹凸、空隙等を有する基材にも好適に使用できる。又、有機溶媒等を用いずに除去可能であるため、有機溶媒との接触により変性しやすい基材にも好適に使用できる。
【0149】
工程2-1は、基材に、コーティング剤を塗工又は注入する工程である。
コーティング剤を、基材に塗工又は注入する方法としては、例えば、浸漬、滴下、転写、刷毛塗り、スクリーン印刷、スピンコート法、スプレー法、ドクターブレード法、ロールコーター法、及びインクジェット印刷等を挙げることができる。
【0150】
工程2-1において、コーティング剤を用いて形成される硬化物の厚さは特に制限されず、硬化物が形成されるまでの時間、硬化物の除去に要する時間等を考慮して設定できる。例えば、1μm~1mmの範囲内としてもよい。
【0151】
工程2-2において、塗工又は注入後のコーティング剤を硬化させる方法としては、前記と同様の方法に従えば良い。
【0152】
工程2-3におけるコーティング剤の硬化物を含む基材を加工する方法としては、例えば以下の例が挙げられる。
本発明のコーティング剤は、基材表面の保護、封止、及び彩色等の種々の用途に用いることができる。
本発明のコーティング剤は、基材表面のマスキング(硬化物を形成したくない箇所の保護)にも好適に用いることができる。例えば、基材表面の所定の領域に本発明のコーティング剤を用いて第1の硬化物(マスキング用硬化物)を形成した後、別のコーティング剤(例えば、非水溶性のコーティング剤)を用いて第1の硬化物が形成されていない部分を含む領域に第2の硬化物を形成し、第1の硬化物を水で除去する方法に好適に用いることができる。
【0153】
工程2-4では、工程2-3で得られたコーティング剤の硬化物を含む基材を、温度20~100℃の水に浸漬し、基材を剥離する。
本発明のコーティング剤を用いて形成される硬化物を除去する方法は、特に制限されない。例えば、硬化物を水を含ませた布等でふき取る方法、硬化物を水に浸漬する方法、硬化物を流水で洗浄する方法、硬化物に水を噴霧する方法等を挙げることができる。
硬化物の除去に用いる水は、必要に応じて溶剤、界面活性剤等を含有してもよい。
【0154】
<マスキング方法>
本発明のコーティング剤の使用方法としては、基材表面のマスキングを目的とするものであってもよい。
例えば、マスキングによる加工材料の製造方法としては、基材の表面に本発明のコーティング剤を塗工又は注入し、組成物を硬化させて第1の硬化膜(マスキング用硬化膜)を形成する工程と、
本発明のコーティング剤と異なるコーティング剤を用いて第1の硬化膜が形成されていない部分を含む領域に第2の硬化膜を形成する工程と、
第1の硬化膜を水で除去する工程と、をこの順に備える方法を挙げることができる。
【0155】
当該マスキング方法による加工材料の製造方法によれば、例えば、第1の硬化膜が形成された基材の全面に第2の硬化膜を形成するコーティング剤を塗布した後、第1の硬化膜を水で除去する。
このとき、第1の硬化膜の上に形成された第2の硬化膜もともに除去されるが、第1の硬化膜が形成されていない部分に形成された第2の硬化膜は除去されずに残存する。その結果、第1の硬化膜が形成されなかった領域にのみ第2の硬化膜を形成することができる。
【0156】
4-3.造形用組成物
本発明の造形用組成物は、三次元造形物の製造に好ましく使用することができる。
本発明の造形用組成物を使用する三次元造形物の製造方法としては、モデル材を硬化して、造形物を形成し、サポート材を硬化して、造形物の少なくとも一部をサポートするサポート部を形成し、前記造形物の形成後、前記サポート部を除去する三次元造形物の製造方法である。
この場合、モデル材、及びサポート材の少なくとも一方が、上記本発明の造形用組成物であり、サポート材として使用することが好ましい。
【0157】
本発明の三次元造形物の製造方法では、具体的には、次の方法により造形物を形成する。但し、次の方法に限られず、モデル材、及びサポート材の少なくとも一方が、上記本発明の造形用組成物を適用する以外は、モデル材及びサポート材の液滴を吐出するインクジェット方式等の周知の三次元造形方法が適用できる。
【0158】
まず、造形台上に、モデル材を塗布して、モデル材の層を形成する。そして、モデル材の層を硬化させ、造形物の一部となる層が形成される。
一方、必要に応じて、造形台上に、サポート材を塗布して、モデル材の層と隣接して、サポート材の層を形成する。そして、サポート材の層を硬化させ、サポート部の一部となる層が形成される。
ここで、サポート部は、上方の造形物の幅が下方の造形物の幅よりも大きい部分(オーバーハングしている部分)がある場合、このオーバーハング部分を下方より支持するように形成する。
それにより、造形物の一部となる層と、必要に応じて、サポート部の一部となる層とからなる第1層を形成する。
【0159】
次に、第1層上に、第1層と同様にして、造形物の一部となる層と、必要に応じて、サポート部の一部となる層とからなる第2層を形成する。
【0160】
次に、第1層及び第2層を形成する動作を、n回繰り返し、第n層まで形成する。それにより、造形物と造形物の少なくとも一部をサポートしたサポート部とが形成される。
【0161】
本発明の造形用組成物を、サポート材として使用する場合、次に、造形物からサポート部を除去する。それにより、造形物が得られる。
サポート部の除去方法程において、造形物に水を接触させる方法としては、前記4-1における工程1-4(分離工程)と同様の方法に従えば良い。
サポート部の除去に用いる水には、必要に応じて有機溶剤、界面活性剤等を含有してもよい。
【0162】
又、モデル材として本発明の造形用組成物を使用する場合、造形物が不要となったときも、サポート部の除去方法と同じ方法により、造形物を除去できる。
【0163】
本発明の三次元造形物の製造方法で製造される三次元造形物としては、例えば、
1)表面に凹凸形状の模様が付されたシート物
2)大型建造物のミニチュア
3)仏像、人物像、動物像、架空の創作物像
4)教材、知育玩具等に用いられる幾何学的構造物
等が挙げられる。
【0164】
本発明の造形用組成物は、前記以外の造形物の製造方法にも使用することができる。
例えば、モデル材を型に流し込み、硬化した後、硬化物を型から取り外して造形物を形成する造形物の造形方法が挙げられる。
この場合、型として、上記本発明の造形用組成物を使用する。
本発明の造形物の製造方法で製造される造形物としては、例えば、上記三次元造形物の例と同様のもの等が挙げられる。
【実施例】
【0165】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
又、以下において、特に断りのない限り、「部」とは重量部を意味し、「%」とは重量%を意味する。
尚、実施例における略号は、下記を意味する。
・MCA:2-メトキシエチルアクリレート
・MEL:2-メトキシエタノール
・DABCO:トリエチレンジアミン
・MEHQ:ハイドロキノンモノメチルエーテル
・TEMPOL:4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル
・DEHA:N,N-ジエチルヒドロキシルアミン
【0166】
1.(A)成分の製造
1)製造例1〔ソルビトールのエチレンオキサイド6モル付加物(水酸基価734)の38モル%アクリレート化物の製造〕
撹拌機、温度計、ガス導入管、精留塔及び冷却管を取付けた3リットルのフラスコに、ソルビトールのエチレンオキサイド付加物〔青木油脂工業(株)製、水酸基価734mgKOH/g(13.1meq/g)、平均エチレンオキサイド付加数6.28、過酸化物濃度0.7wtppm〕を200g(水酸基として2.6モル)、MCAを613g(4.7モル)、触媒XとしてDABCOを0.88g(0.0078モル)、触媒Yとしてアクリル酸亜鉛を3.26g(0.0157モル)、MEHQを0.25g、TEMPOLを0.05g仕込み、含酸素ガス(酸素を5容量%、窒素を95容量%)を液中にバブリングさせながら、内温125℃から130℃の範囲で10時間加熱撹拌してエステル交換反応させた。この間、MEHQ及びTEMPOLを含むMCAを精留塔を介して反応液に随時追加した。
【0167】
エステル交換反応による水酸基のアクリレート化率を、液体クロマトグラフィー(以下、「液クロ」という)によるMELの生成量から求めた結果、37モル%であった。
尚、MELの定量は、示差屈折率検出器を備えた高速液体クロマトグラフ(カラム:日本ウォーターズ(株)製 Atlantis(Part No.186003748、カラム内径4.6mm、カラム長さ250mm)、溶媒:純水又は10容量%イソプロパノール水溶液)を使用し、内部標準法にて実施した。
アクリレート化率(モル%)=エステル交換反応の進行に伴い副生したMELのモル数/(原料として使用したアルコールのモル数×原料として使用したアルコール分子の有するアルコール性水酸基数)×100
【0168】
反応液を室温まで冷却後、加圧濾過して固形物を分離した。濾液に珪酸アルミニウム〔協和化学工業(株)製キョーワード700SEN-S(商品名)。以下、「K700」という。〕を31g投入して撹拌して内温95℃から100℃の範囲で1時間撹拌し、濾液に溶解していた触媒を吸着させた。その後、反応液を内温40℃以下まで冷却し、水酸化カルシウムを3.2g投入してさらに室温で3時間攪拌した後、加圧濾過により固形物を分離した。
得られた濾液を、攪拌機、温度計、ガス導入管、留出用の冷却管、及び減圧用の管を接続したフラスコに入れ、内温90~100℃、圧力0.01~200mmHgの範囲で、乾燥空気をバブリングさせながら13時間撹拌し、未反応のMCA及び副生成物であるMELを留去した。
フラスコ内の釜液を室温まで冷却してDEHAを0.076部(0.0008モル)添加し、常圧下内温75℃~85℃の範囲で1時間撹拌した。その後、加圧濾過を行い、濾液を239g得た。製造例1で得られたアクリレート混合物を、以下、Sb-EOA-1という。
【0169】
Sb-EOA-1のESI-MS分析を行った結果、ソルビトールのエチレンオキサイド付加物のアクリレート化物を主要成分として含むことを確認した。
Sb-EOA-1中のMCAの残存量は、ガスクロマトグラフィー(以下、「ガスクロ」という)測定の結果、200ppm以下であり、臭気は全く感じられなかった。
又、Sb-EOA-1の粘度、水に対する溶解度、水酸基価、APHA、Mw、及びけん化価を下記に示す方法に従い測定した。それらの結果を下記に示す。
粘度(25℃):10.93Pa・s、水に対する溶解度:75%以上、水酸基価:276mgKOH/g、APHA:92、Mw:1,206、けん化価:222mgKOH/g、アクリロイル基の付加数q:2.3、アクリレート化率38モル%
尚、アクリロイル基の付加数qは、特開平4-136041に記載された方法に従い算出した。
【0170】
◆過酸化物濃度測定条件
・ソルビトールのアルキレンオキサイド付加物に、イソプロピルアルコール、氷酢酸、及びヨウ化カリウム水溶液を加え、85℃の湯浴中で3分間加熱してヨウ素を生成させた。その後、湯浴から処理液を取出し、処理液の温度が40℃以下にならないうちにチオ硫酸ナトリウムでヨウ素を滴定した。滴定量から活性酸素量濃度を算出し、過酸化物濃度とした。
【0171】
◆ガスクロ測定条件
・装置:(株)島津製作所製 GC-17A
・検出器:FID検出器
・キャリアーガス:ヘリウム
・カラム:Inert Cap(膜厚0.5μm、0.32mmID×60m)
・インジェクション温度:200℃
・FID温度:250℃
・カラム温度:120℃にて5分保持した後、10℃/minの速度で240℃まで昇温後、25分保持。
・注入量:0.2μL
・内部標準法により、MELの含有量を重量%で求めた。
【0172】
◆ESI-MS測定条件
・測定方法:フローインジェクション法
・試料前処理:アセトニトリルにて500μg/mL溶液を調製
・装置:Quattro Premier(Waters製)+AcQuity UPLC(Waters製)
・注入量:2μL
・溶離液流速:0.3mL/min
・溶離液組成:10mM酢酸NH4/アセトニトリル=50/50(溶液比、0min→1min)
・キャピラリー電圧:3.0kV
・コーン電圧:10V
・ソース温度:120℃
・脱溶媒温度:400℃
・脱溶媒ガス量:800L/h
・コーンガス量:50L/h
・質量分析範囲:m/z=180~1200(SCANモード)
・イオン化モード:ESI+
【0173】
◆粘度測定条件
E型粘度計を使用し、25℃での粘度を測定した。
【0174】
◆溶解度の測定
温度22℃において、得られた(A)成分及び蒸留水を5%、10%、15%、20%、25%、50%及び75%の混合割合でスクリュー管に入れ、ミックスローターで2時間混合後、24時間静置した。静置後の混合液を注意深く目視観察し、濁り又は層分離の有無、均一性を観察した。
尚、混合割合(%)は下式で定義し、24時間静置後に濁りや層分離が確認されず、均一液体を維持する混合割合(%)を溶解度(%)とみなした。
混合割合(%)=蒸留水の重量部/(蒸留水の重量部+(A)成分の重量部)×100
【0175】
◆水酸基価測定条件
試料に無水酢酸とピリジンの混合液を加えて92℃の温浴槽中で1時間加熱処理する。その後、少量の水を添加して92℃の温浴槽中で10分間加熱処理する。放冷後、フェノールフタレイン溶液を指示薬として水酸化カリウムのエタノール溶液で酸を滴定して水酸基価を求めた。
【0176】
◆APHA
色差計(日本電色工業製 石油製品色試験器OME-2000)を使用し、APHAを測定した。
【0177】
◆GPC測定条件
・装置:Waters(株)製 GPC システム名 1515 2414 717P RI
・検出器:RI検出器
・カラム:ガードカラム 昭和電工(株)製 Shodex KFG(8μm 4.6×10mm)、本カラム2種類 Waters(株)製 styragel HR 4E THF(7.8×300mm)+styragel HR 1THF(7.8×300mm)
・カラムの温度:40℃
・溶離液組成:THF(内部標準として硫黄を0.03%含むもの)、流量0.75mL/分
・検量線:標準ポリスチレンを使って較正曲線を作成した。
検出された分子量400以上のピークを分割せずに一つのピークとみなしてMwを算出した。
【0178】
2.実施例1~同3、及び比較例1~同5(活性エネルギー線硬化型組成物)
1)組成物の調製
製造例1で得られた(A)成分及び下記に略号を示す成分を使用し、表1に示す割合で40℃にて撹拌・混合して、組成物を得た。
(A)成分
・Sb-EOA:製造例1で得られたアクリレート
(D)成分
・M-8060:ポリエステルアクリレート〔東亞合成(株)製、商品名:アロニックスM-8060〕
・PEG-DA:ポリエチレングリコール(平均付加モル数9)ジアクリレート〔共栄社化学(株)製、商品名:ライトアクリレート9EG-A〕
・DMAA:N,N’-ジメチルアクリルアミド〔KJケミカルズ(株)製〕
・DEAA:N,N’-ジエチルアクリルアミド〔KJケミカルズ(株)製〕
・HEMA:2-ヒドロキシメチルアクリレート〔三菱ガス化学(株)製〕
・IBXA:イソボルニルアクリレート〔大阪有機化学(株)製〕
(B)成分
・Om184:1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン〔IGM Resins社製 Omnirad 184D〕
その他成分
・SE-030T:有機微粒子〔根上工業(株)製、商品名:アートバールSEー030T〕
【0179】
【0180】
2)組成物の評価(加工材料の製造方法)
評価方法を、
図1に基づいて説明する。
図1は、評価方法の側面図を意味する。
図1の(a1)及び(a2)は、縦76mm×横26mmサイズの白スライドガラス〔松浪硝子工業(株)製、商品名:S-1112〕を意味し、
図1の(b1)及び(b2)は、縦5mm×横26mmに裁断した膜厚100μmの未処理のシクロオレフィンポリマー〔日本ゼオン(株)製、ゼオノアZF-14。以下、「ゼオノア」という〕を意味し、
図1の(c)は、前記で得られた組成物を意味する。
白スライドガラス〔
図1:(a1)〕上に、ゼオノア〔
図1:(b1)〕を端部にセットし、長手方向に垂直になるよう幅25mmの間隔を置いて別のゼオノア〔
図1:(b2)〕をセットした〔
図1:(1)〕。
【0181】
(1)工程1
2枚のゼオノア同士の間に、得られた実施例1~同3及び比較例1~同5の組成物〔
図1:(c)〕を使用し、1滴滴下した。もう一枚の白スライドガラス〔
図1:(a2)〕を、ラップ長(接着面の長さ)が約25mmになるよう貼り合わせた。ゼオノアフィルムのある部分をクリップで固定し、はみ出した組成物をふき取った。これを試験体という〔
図1:(2)〕。
又、白スライドグラスの代わりに、アクリル板〔三菱ケミカル(株)製、商品名:アクリライトL#001〕を用いた実験も行った。
尚、白スライドグラスとアクリル板の400nmにおける透過率は、それぞれ91%、92%であった。
【0182】
(2)工程2
試験体を使用し、コンベアを備えた高圧水銀ランプ〔アイグラフィックス(株)製H06-L41〕を使用し、(a2)側からUV-Aランプ出力照度60W/cm、1パスあたりの照射強度200mW/cm2で照射エネルギーが500mJ/cm2の条件で紫外線を照射し、4回通過させ、組成物を硬化させた。
【0183】
3)評価方法
(1)接着強度
前記で得られた硬化物を使用し、引張試験機を用いて、JIS K6850:1999に準じて、引張剪断強度を測定した(室温、引張速度=10mm/分)。
【0184】
(2)熱水剥離〔工程4〕
前記で得られた硬化物を使用し、25℃の水と、90℃熱水での剥離性を試験する。硬化させた試験体を25℃の水又は90℃の水に浸漬し、スライドガラス又はアクリル板の自重で剥離する様子を観察し、剥離するまでの時間を計測した。
【0185】
(3)評価結果
実施例1の組成物は、接着強度が高く、仮固定時における作業性が良好であった。又、水剥離性も良好であった。
実施例2の組成物は、(A)成分に水を配合した組成物であり、水剥離時間が非常に短くなり、温水剥離性が大きく向上した。実施例3の組成物は、(A)成分及び水に、有機微粒子を配合した組成物であり、接着強度が向上し、仮固定時における作業性がさらに向上した。
一方、(A)成分を含まず、(D)成分としてDMAA及びDEAAをそれぞれ主成分として含む比較例1及び2の組成物は、接着強度は高かったものの、3600秒かけても水浸漬で剥離せず、水剥離性が非常に悪いものであった。同様に、HEMAとIBXAを配合した比較例3の組成物も、水剥離性が非常に悪かった。
又、(A)成分を含まず、(D)成分のみを含む比較例4~5の組成物は、水剥離時間が非常に短く、水剥離性は良好であったが、接着強度が非常に低く、仮固定時において剥離してしまうため、作業性が非常に悪いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0186】
本発明の硬化型組成物は、硬化物が水中で剥離性を有するため、仮固定を必要する種々の用途に好ましく使用することができ、より好ましくは水剥離性活性エネルギー線硬化型組成物に使用することができる
本発明の硬化型組成物は、より具体的には、仮固定用接着剤組成物、コーティング剤用組成物、及び造形用組成物として好ましく使用することができる。