(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ガスバリア性積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
B32B9/00 A
(21)【出願番号】P 2020009038
(22)【出願日】2020-01-23
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鍬形 友輔
(72)【発明者】
【氏名】谷 卓行
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-140820(JP,A)
【文献】特開2015-208889(JP,A)
【文献】国際公開第2005/101473(WO,A1)
【文献】特開2017-094556(JP,A)
【文献】特開2014-237317(JP,A)
【文献】特開2008-255266(JP,A)
【文献】特開2015-157411(JP,A)
【文献】特開2004-160836(JP,A)
【文献】国際公開第2017/130617(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材と、前記樹脂基材の少なくとも片面側に積層されたアンダーコート層と、前記アンダーコート層上に積層された透明酸化物膜層とを備えたガスバリア積層体であって、
前記アンダーコート層は、少なくともアクリロイル基とウレタン結合を有し、ウレタン結合の数に対するアクリロイル基の数の比率が1.5~5.0である化合物の硬化膜からなり、
さらに前記アンダーコート層のマルテンス硬さが200N/mm
2以上であることを特徴とし、
前記透明酸化物膜層は、少なくとも珪素(Si)
と、スズ(Sn)及びタングステン(W)のいずれかとを含有することを特徴と
する物理蒸着膜であり、
測定条件40℃、90%R.H.における水蒸気透過度が0.01g/(m
2・day)以下であり、測定条件40℃、0%R.H.におけるヘリウム透過率が4cc/(m
2・day・atm)以下であることを特徴とするガスバリア性積層体。
【請求項2】
前記アンダーコート層の厚みが、0.05μm以上10μm以下である請求項1に記載のガスバリア性積層体。
【請求項3】
擦傷性試験後(スチールウール#0000使用、荷重75g、1往復)の測定条件40℃、90%R.H.における水蒸気透過度が0.050g/(m
2・day)以下である、請求項1
または2に記載のガスバリア性積層体。
【請求項4】
前記透明酸化物膜層の外側にオーバーコート層をさらに有し、前記オーバーコート層は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂の少なくとも1つ以上から形成される、請求項1~
3のいずれか1項に記載のガスバリア性積層体。
【請求項5】
前記オーバーコート層が、ヒドロキシ基を有する水溶性高分子と、アルコキシシラン及びその加水分解物からなる群から選ばれた少なくとも1種を含有して形成されたものである、請求項
4に記載のガスバリア性積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂基材を用いたガスバリア性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリア性積層体とは、酸素や水蒸気などを透通させない性質(ガスバリア性)を備えている積層体であり、精密電子部品類やエレクトロニクス部材、食品や医薬品等の包装など、各種ガスの遮断を必要とする様々な分野に広く用いられている。
【0003】
求められるガスバリア性は用途により様々であるが、一般的に、有機エレクトロルミネッセンス(EL)や電子ペーパーなどディスプレイ用封止フィルムでは、0.01g/(m2・day)以下の高い水蒸気バリア性が必要といわれ、近年ではさらに高い水準の水蒸気バリア性を有する要求が高まっている。また、これらのフィルムには透明性が要求される。
【0004】
近年、有機ELや電子ペーパー分野などでは、フレキシブル化、破損防止、軽量化など理由から、基材として、ガラスではなく樹脂が用いられる傾向にある。しかし、樹脂基材は、酸素ガスや水蒸気に対するガスバリア性が低いため、これら素子や電子部材等の劣化が問題となる。
【0005】
そのため、樹脂基材を用いて高いガスバリア性と透明性を実現するために、種々のものが開発されているが、近年は酸化珪素、酸化アルミニウムのような金属酸化物膜、各種金属の酸窒化物膜をナノスケールで樹脂基材上に設けたガスバリア性積層体が数多く提案されている。
【0006】
また、ガスバリア性積層体の製造方法としては、大面積化やロール・ツー・ロールへの展開が容易であることから、誘導加熱法、抵抗加熱法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法などの物理成膜法が検討されている。
【0007】
より高いガスバリア性を実現するためには、無機化合物からなるガスバリア層を緻密に成膜することが必要であり、緻密な無機化合物膜は、一般に、スパッタリング法により容易に製造することが可能である。
【0008】
また、より高い透明性を実現するためには、樹脂基材と無機化合物膜との界面での反射が少なく、可視光での光透過率が高いことが求められる。そのため、樹脂基材と近い屈折率である無機化合物膜を成膜する必要がある。
【0009】
例えば、下記特許文献1では、透明性が高く、かつ、高い水蒸気バリア性能を持つ透明樹脂基板(ガスバリア性積層体)が記載されている。係るガスバリア性積層体では、酸化スズと、添加元素として珪素(Si)を、SiとSnの総和に対して46原子%以上63原子%以下の割合で含み、非晶質膜であり、かつ、波長633nmにおける屈折率が1.75以下である透明酸化物膜を、ガスバリア層として、樹脂基材の少なくとも一方の面に、直流(DC)パルススパッタリング法により形成している。
【0010】
しかしながら、係るガスバリア性積層体は、JIS規格のK7129法に従って、モコン法により測定された水蒸気透過率が、0.01g/(m2・day)未満であると記載されており、確かに高い水蒸気ガスバリア性ではあるが、近年要求されている、より高い水準の水蒸気バリア性に応えるためには、更なる改善が求められているのが実情である。
【0011】
一方、その他のガスバリア性積層体の製造方法としては、大面積化やロール・ツー・ロールへの展開が容易であることから、PECVD(Plasma Enhanced CVD)法、Cat-CVD法、ALD(Atomic Layer Deposition)法などの化学成膜法も検討されている。
【0012】
より高いガスバリア性を実現するためには、無機化合物からなるガスバリア層を緻密に成膜することが必要であり、緻密な無機化合物膜は、一般に、ALD法により容易に製造することが可能である。特許文献2に記載の例では、可撓性と透過性とを有するポリエステル基材上に、有機発光ポリマー(OLED)を形成し、この発光ポリマーの表面および側面の全面を覆うガスバリア層をALD法により形成することが記載されている。特許文献2には、このようなガスバリア層によって、上記の不良や欠陥の影響を低減することができるとともに、数十nmの厚さで、従来のガスバリア性フィルムに比べて、桁違いに気体透過を低減させることが可能な光透過ガスバリア性フィルムが記載されている。しかしながら、このような原子層堆積膜は、その表面に容易に傷がつきやすく、その傷が基材に到達する場合もあり、簡単にガスバリア性が損なわれることが知られている。
【0013】
また、透明樹脂基材と無機化合物からなるガスバリア層の間に、アンダーコート層を設けることで、さらなるガスバリア性の向上を実現することができる。特許文献3に記載の例では、特定のアクリル系樹脂を用いることによりアンダーコート層の表面自由エネルギーを比較的低く抑えることができることから、無機層を形成する際の初期成長過程において、膜の成長核となる原子や粒子が表面移動、拡散し易くなるため、アンダーコート層付近の膜質が緻密化し、飛躍的にガスバリア性が良好となると推定している。しかしながら、巻き取り方式による無機層成膜の場合、無機層成膜後における積層体の搬送中に、ローラーとの接触や、無機層成膜後の積層体を巻き取る際にプラスチック基材と無機層との接触による問題が生じる可能性がある。さらにはロールに巻取った状態、つまりロールでの輸送や保管、ガスバリア性フィルムとして加工する際などに上記のような積層体への外部からの機械的ストレスによる問題が生じる可能性があり、ガスバリア性の低下のリスクは排除できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特許第4788463号公報
【文献】特開2007-090803号公報
【文献】特許第6070194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明は、良好な水蒸気バリア性を有し、さらに外部からの機械的ストレスによっても水蒸気バリア性が大きく損なわれない、樹脂基材を用いた透明なガスバリア性積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するための本発明の一局面は、樹脂基材と、樹脂基材の少なくとも片面側に積層されたアンダーコート層と、アンダーコート層上に積層された透明酸化物膜層とを備えたガスバリア積層体であって、アンダーコート層は、少なくともアクリロイル基とウレタン結合を含有し、ウレタン結合の数に対するアクリロイル基の数の比率が1.5~5.0である化合物の硬化膜からなり、さらにアンダーコート層のマルテンス硬さが200N/mm2以上であることを特徴とし、透明酸化物膜層は、少なくとも珪素(Si)と、スズ(Sn)及びタングステン(W)のいずれかとを含有することを特徴とする物理蒸着膜であり、測定条件40℃、90%R.H.における水蒸気透過度が0.01g/(m2・day)以下であり、測定条件40℃、0%R.H.におけるヘリウム透過率が4cc/(m2・day・atm)以下であることを特徴とするガスバリア性積層体である。
【0017】
本発明に係るガスバリア性積層体において、アンダーコート層のアクリロイル基がウレタン結合より多くてもよい。
【0018】
本発明に係るガスバリア性積層体において、アンダーコート層の厚みが、0.05μm以上10μm以下であってもよい。
【0019】
本発明に係るガスバリア性積層体において、透明酸化物膜層は、少なくとも珪素(Si)とスズ(Sn)を含有してもよい。
【0020】
本発明に係るガスバリア性積層体において、透明酸化物膜層は、少なくとも珪素(Si)とタングステン(W)を含有してもよい。
【0021】
本発明に係るガスバリア性積層体において、擦傷性試験後(スチールウール#0000使用、荷重75g、1往復)の測定条件40℃、90%R.H.における水蒸気透過度が0.05g/(m2・day)以下であってもよい。
【0022】
また、本発明に係るガスバリア性積層体は、透明酸化物膜層の外側にオーバーコート層をさらに有し、オーバーコート層は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂の少なくとも1つ以上から形成されても良い。
【0023】
また、本発明に係るガスバリア性積層体は、オーバーコート層が、ヒドロキシ基を有する水溶性高分子と、アルコキシシラン及びその加水分解物からなる群から選ばれた少なくとも1種を含有して形成されても良い。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、良好な水蒸気バリア性を有し、さらに外部からの機械的ストレスによっても水蒸気バリア性が大きく損なわれない、樹脂基材を用いた透明なガスバリア性積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るガスバリア性積層体の断面図である。
【
図2】本発明の第2実施形態に係るガスバリア性積層体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<第1実施形態>
以下に、本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るガスバリア性積層体は、樹脂基材11と、樹脂基材11の片面に形成したアンダーコート層12と、アンダーコート層12の片面に形成した透明酸化物膜層13からなる。なお、実際には、樹脂基材11の両面にアンダーコート層12と透明酸化物膜層13を積層した構成であっても良い。
【0027】
(樹脂基材)
樹脂基材11の材料としては、特に限定されるものではなく公知のものを使用することができる。例えばポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリイミド系、ポリアミド系(ナイロン-6、ナイロン-66等)、ポリスチレン、エチレンビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネイト、ポリエーテルスルホン、アクリル、セルロース系(トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース等)などが挙げられるが特に限定されない。実際的には、用途や要求物性により適宜選定をすることが望ましく、電子部材、光学部材等の極端に水分を嫌う内容物を保護する包装には、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド類、ポリエーテルスルホンなどのそれ自体も高いガスバリア性を有する樹脂基材11を用いることが望ましいが、これらの例に限定されない。
【0028】
また、樹脂基材11の厚みは限定するものではないが、用途に応じて、12μmから300μm程度が使用しやすい。この範囲内の厚さの樹脂基材11は、フレキシブルであるとともに、ロール状に巻き取ることもできるので好ましい。
【0029】
また、樹脂基材11の形態は、長尺材であってもよいし枚葉材であってもよいが、長尺の樹脂基材11を好ましく用いることができる。長尺の樹脂基材11の長手方向の長さは特に限定されないが、例えば10m以上の長尺フィルムが好ましく用いられる。なお、長さの上限は限定されず、例えば10km程度のものであってもよい。
【0030】
また、樹脂基材11の表面には、必要に応じて帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑り剤といった添加剤が含まれていてもよい。さらに、樹脂基材11の表面に、密着性を高めるため、コロナ処理、フレーム処理、プラズマ処理、易接着処理等の物理的処理や、酸やアルカリによる薬液処理等の化学的処理改質処理を施してもよい。樹脂基材11表面は真空成膜の初期成長段階における緻密性に寄与するものであり、平滑であることが望ましい。
【0031】
アンダーコート層12は、樹脂基材11上に、樹脂基材11と透明酸化物膜層13との密着性を高め、透明酸化物膜層13の剥離発生を防止し、さらに引っ掻き傷や擦り傷などの機械的外傷から保護するために設けられる。アンダーコート層12の材料としては、特に限定されるものではないが、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂などを用いることができる。
【0032】
アンダーコート層12を形成する熱硬化性樹脂としては、アクリルポリオール樹脂とイソシアネートプレポリマーとからなる熱硬化型ウレタン樹脂が挙げられる。ヒドロキシ基を含有するアクリルポリオール樹脂と、分子内にNCO基を少なくとも2個以上有するイソシアネート系化合物との複合物を用いて形成されることにより、樹脂基材11と透明酸化物膜層13との密着性を高めることができる。
【0033】
アクリルポリオール樹脂とは、(メタ)アクリル酸誘導体モノマーを重合させて得られる高分子化合物、又は(メタ)アクリル酸誘導体モノマーとその他のモノマーとを共重合させて得られる高分子化合物等のうち、末端と側鎖とにヒドロキシ基を有するもので、イソシアネート系化合物のNCO基と反応するものである。(メタ)アクリル酸誘導体モノマーは、末端と側鎖とにヒドロキシ基を有する。(メタ)アクリル酸誘導体モノマーの例としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等がある。
【0034】
上記のその他のモノマーは、末端と側鎖とにヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーと共重合可能である。上記のその他のモノマーの例として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート等の側鎖にアルキル基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマー、(メタ)アクリル酸等の側鎖にカルボキシ基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマー、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の側鎖に芳香環や環状構造を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマー等が考えられる。
【0035】
アクリルポリオール樹脂は、特に(メタ)アクリル酸等の側鎖にカルボキシ基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーを重合させて得られる高分子化合物であることが好ましい。アンダーコート層12を形成する際、カルボキシ基を有するモノマーを重合させて得られるアクリルポリオール樹脂とイソシアネート系化合物との複合物を用いて形成することにより、より高い水蒸気バリア性を有するガスバリア性積層フィルムを得ることができる。
【0036】
アンダーコート層12に使用可能な、ヒドロキシ基を含有するアクリルポリオール樹脂について、特に限定しないが、ヒドロキシ基価が50mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが望ましい。ここで、ヒドロキシ基価(mgKOH/g)とは、アクリルポリオール樹脂中の、ヒドロキシ基量の指標であり、アクリルポリオール樹脂1g中の、ヒドロキシ基をアセチル化するために必要な水酸化カリウムのmg数を示す。また、アクリルポリオール樹脂の重量平均分子量は特に限定しないが、具体的には、3000以上200000以下であると好ましい。特に、5000以上100000以下であると好ましい。更に、5000以上40000以下であると、より好ましい。
【0037】
イソシアネート系化合物とは、その分子中に2個以上のNCO基を有するものである。モノマー系イソシアネートの例として、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等の芳香族系イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ビスイソシアネートメチルシクロヘキサン(H6XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)等の脂肪族系イソシアネート等が考えられる。また、これらのモノマー系イソシアネートの重合体若しくは誘導体も使用可能である。例えば、3量体のヌレート型、1,1,1-トリメチロールプロパン等と反応させたアダクト型、ビウレットと反応させたビウレット型等がある。
【0038】
イソシアネート系化合物は、上記のイソシアネート系化合物若しくはその重合体、誘導体から任意に選択して良く、1種類若しくは2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0039】
アンダーコート層12の一例としては、上記のアクリルポリオール樹脂と上記のイソシアネート系化合物との複合物と溶媒とからなる溶液を樹脂基材11上に塗工し、反応硬化させることにより形成される。アクリルポリオール樹脂のヒドロキシ基に対するイソシアネート化合物のNCO基の当量比(NCO/OH)は、0.3以上、2.5以下であることが好ましい。ここで用いられる溶媒は、上記アクリルポリオール樹脂及びイソシアネート系化合物を溶解する溶媒であれば良い。溶媒の例として、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。なお、実際には、これらの溶媒を1種類若しくは2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0040】
アンダーコート層12を形成する熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリルポリオールとポリウレタン樹脂とを任意の比率で混合したものが挙げられる。アクリルポリオールのヒドロキシ基価は、特に限定しないが、10mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが望ましい。
【0041】
アンダーコート層12を形成する紫外線硬化性樹脂もしくは電子線硬化性樹脂としては、有機高分子樹脂として、特に限定しないが、ヒドロキシ基価が10以上100mgKOH/g以下の範囲にある樹脂を少なくとも含むことが望ましい。また、有機高分子樹脂として、特に限定しないが、酸価が10以上100mgKOH/g以下の範囲にある樹脂を少なくとも含むことが望ましい。ここで、酸価(mgKOH/g)とは、試料1g中に含有する遊離脂肪酸、樹脂酸などを中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数を示す。また、有機高分子樹脂として熱可塑性樹脂を少なくとも含むことが望ましい。ヒドロキシ基価又は酸価が10mgKOH/g未満であると、官能基と透明酸化物膜層13の表面との化学的な結合力が弱くなり、透明酸化物膜層13との密着性が低くなる傾向がある。ヒドロキシ基価又は酸価が100mgKOH/gを超えると、耐湿熱試験などの耐久性試験でアンダーコート層12の分解により生じたヒドロキシ基を含む析出物がアンダーコート層12と透明酸化物膜層13との密着を阻害する傾向がある。
【0042】
アンダーコート層12を形成する紫外線硬化性樹脂もしくは電子線硬化性樹脂に利用できるモノマーとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の単官能モノマー並びに多官能モノマー、例えば、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレートなどが使用できる。この紫外線硬化性樹脂もしくは電子線硬化性樹脂に利用できるオリゴマーとしては、ウレタンアクリレートなどがある。
【0043】
アンダーコート層12を形成する有機高分子樹脂として、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂から選択される2種以上を併用する場合、その配合比は特に限定されるものではない。
【0044】
アンダーコート層12を形成する有機高分子樹脂は、少なくともアクリロイル基とウレタン結合を含有する。アクリロイル基とウレタン結合を含有することで、アンダーコート層付近の透明酸化物膜層13の膜質が緻密化し、ガスバリア性が良好となる。さらに、アクリロイル基がウレタン結合より多い方が望ましい。アクリロイル基が多いことで、膜の硬度が高くなり、透明酸化物膜層13を積層した後であっても、外部からの機械的ストレスによる傷がつきにくくなり、そのため水蒸気バリア性が大きく損なわれない。
【0045】
アンダーコート層12は、そのマルテンス硬さが200N/mm2以上である。これは、前述の理由により、膜の硬度が高くなるためである。そのため、透明酸化物膜層13を積層した後であっても、外部からの機械的ストレスによる傷がつきにくくなり、そのため水蒸気バリア性が大きく損なわれない。マルテンス硬さは、物質の硬さ(硬度)の示し方の一つであり、ナノインデンテーション法で測定することができる。マルテンス硬さは、引っ掻き硬さの一種で、対面角90度のピラミッド形状のダイヤモンドを用い、試料表面に0.01ミリメートルの引っ掻き幅ができる時の荷重で表す。
【0046】
アンダーコート層12は、有機高分子樹脂以外に必要に応じて添加物を更に含有していてもよい。添加物としては、例えば、酸化防止剤、耐候剤、熱安定剤、滑剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、着色剤、フィラー、界面活性剤、シランカップリング剤等が挙げられる。
【0047】
アンダーコート層12の膜厚は、0.05μm以上10.0μm以下が望ましい。特に、0.05μm以上5.0μm以下であると好ましい。0.05μmよりも薄いと、樹脂基材11と透明酸化物膜層13との密着性が不十分となる。10.0μmよりも厚いと内部応力の影響が大きくなり、透明酸化物膜層13がきれいに積層されず、バリア性の発現が不十分となり、さらに、透明性、塗工精度も不十分となる。
【0048】
アンダーコート層12の形成方法としては、通常のコーティング方法を用いることができる。例えば、ディッピング法、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、コンマコート、ダイコート、スクリーン印刷法、スプレーコート、グラビアオフセット法、有機蒸着法等の周知の方法を用いることができる。乾燥方法は、熱風乾燥、熱ロール乾燥、高周波照射、赤外線照射、UV照射、電子線照射等の熱を加える方法を1種類若しくは2種類以上組み合わせて用いることができる。また、上記形成方法で別の樹脂基材にあらかじめコーティングされた膜を、粘着材転写、熱転写、UV転写等の転写法を用いて樹脂基材11に転写するのでもよい。
【0049】
(透明酸化物膜層)
透明酸化物膜層13は、ガスバリア性積層体全体にガスバリア性を付与するために設けられる、珪素(Si)を含む透明酸化物膜である。また、珪素(Si)の他に、スズ(Sn)もしくはタングステン(W)を含有してもよい。珪素(Si)とサイズの異なる元素が入ることで、緻密な膜が形成され、水蒸気バリア性が向上すると推定するが、詳細は不明である。
【0050】
また、透明酸化物膜層13は、珪素(Si)と、スズ(Sn)もしくはタングステン(W)のほかに、Mg、Al、Ca、Sc、Ti、V、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、In、Ba、Hf、Taから選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含有していてもよい。透明酸化物膜層13が、珪素(Si)と、スズ(Sn)もしくはタングステン(W)のほかに、Mg、Al、Ca、Sc、Ti、V、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、In、Ba、Hf、Taから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することで、ガスバリア性の向上および、樹脂基材11との密着性向上、温湿度耐久性の向上、屈折率nの調整などが可能となる。また、透明酸化物膜層13は、前記金属元素群のほかに、窒素をさらに含有しても差し支えず、透明酸窒化物膜層としてもよい。
【0051】
また、透明酸化物膜層13の膜厚は、5nm以上500nm以下が好ましい。5nm未満では、透明酸化物膜層13で樹脂基材11全体を覆うことができず、十分なガスバリア性を得ることができない。また、500nmを超えるとクラックが発生しやすくなり、ガスバリア性が低下することがある。さらに、材料使用量の増加、膜形成時間の長時間化等に起因してコストが増加し、経済的観点から好ましくない。膜厚dと屈折率nとの積で表される光学膜厚ndが7nm以上1000nm以下であるようにすることが好ましい。
【0052】
透明酸化物膜層13は、物理蒸着(PVD)法により形成される物理蒸着膜であってもよく、あるいは化学蒸着(CVD)法により形成される化学蒸着膜であってもよい。一実施形態において、透明酸化物膜層13は、スパッタリング法により形成される物理蒸着膜であることが好ましい。
【0053】
透明酸化物膜層13としての物理蒸着膜は、物理蒸着(PVD)法により成膜することにより形成される。PVD法は、気相中で物質の表面に物理的手法により、目的とする物質、例えば、無機物等の薄膜を堆積する方法であり、例えば、スパッタリング法(DCスパッタリング、RFスパッタリング、イオンビームスパッタリング、およびマグネトロンスパッタリング等)、真空蒸着法、イオンプレーティング法などが挙げられる。
【0054】
スパッタリング法は、真空チャンバー内にターゲットを設置し、高電圧をかけてイオン化した希ガス元素(通常はアルゴン)をターゲットに衝突させて、ターゲット表面の原子をはじき出し、基材に付着させる方法である。このとき、チャンバー内に窒素ガスや酸素ガスを流すことにより、アルゴンガスによってターゲットからはじき出された元素と、窒素や酸素とを反応させて無機層を形成する、反応性スパッタリング法を用いてもよい。
【0055】
(スパッタリング方法について)
透明酸化物膜層13の形成手段としては、各種スパッタリング法を用いることができる。好ましくは、電極に電圧を周期的に印加可能であるマグネトロンスパッタリング装置を用いたスパッタリング法を用いる。このスパッタリング法によれば、電圧が周期的に印加されるので、電圧印加のオフタイムが設けられることで、ターゲット表面の帯電を解消する。そのため、アーキング起因による膜へのダメージを抑えることができ、安定的に高品質な膜を成膜することが可能である。さらに、好ましくは、電極に電圧を周期的に印加可能であり、電圧印加のオフタイムに、電圧印加とは正負の異なるパルスがかかるマグネトロンスパッタリング装置を用いたスパッタリング法を用いる。このスパッタリング法によれば、電圧印加のオフタイムが設けられ、さらに、そのオフタイムの電圧が印加時と正負反転するため、ターゲット表面の帯電が、より解消しやすくなる。そのため、アーキング起因による膜へのダメージを、より抑えることができ、安定的に高品質な膜を成膜することが可能である。また、好ましくは、二つの電極が並列に位置し、各電極に正負交互に電圧を印加可能であり、その各々の電極が交互にカソード、アノードの役割を果たすマグネトロンスパッタリング装置を用いたスパッタリング法を用いる。このスパッタリング法は、真空チャンバー内に設置された二つの電極に、材料のターゲットを設置し、高電圧をかけてイオン化した希ガス元素(通常はアルゴンを用いる)をターゲットに衝突させて、ターゲット表面の原子をはじき出し、アンダーコート層12にターゲット元素を付着させ、透明酸化物膜層13を成膜する方法である。このスパッタリング法では、二つのターゲット間でアノードとカソードが交互に入れ替わるため、片側のターゲットが放電し成膜している際に、もう片方のターゲットが弱い逆電荷を帯びて、ターゲット表面の帯電を解消する。そのため、アーキング起因による膜へのダメージを抑えることができ、安定的に高品質な膜を成膜することが可能である。このとき、チャンバー内に所定量の酸素ガスを流すことにより、ターゲットからはじき出された元素と、酸素とを反応させて透明酸化物膜層13を形成する。さらにこのとき、前記酸素ガスと同時に窒素ガスを流すことにより、透明酸窒化物膜層としてもよい。また、ターゲットには、珪素(Si)と、スズ(Sn)もしくはタングステン(W)からなるターゲットを用いる。前記述ターゲットは、珪素(Si)と、スズ(Sn)もしくはタングステン(W)のほかに、Mg、Al、Ca、Sc、Ti、V、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、In、Sn、Ba、Hf、Taから選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含有してもよい。
【0056】
電極に電圧を周期的に印加可能であるマグネトロンスパッタリング装置を用いた場合でも、二つの電極が並列に位置し、各電極に正負交互に電圧を印加可能であり、その各々の電極が交互にカソード、アノードの役割を果たすマグネトロンスパッタリング装置を用いた場合でも、電極に電圧を印加する電源は、特に指定は無く、交流(AC)でもDCでも良いが、DCパルス電源であることが望ましい。これは、印加する電圧波形をパルス波にした方が、電圧印加のオフタイムの際、アノードでのチャージアップの緩和に効果的であるためである。DCパルス電源の周波数は、特に限定されるものではなく適宜設定することができる。好ましくは、1kHz以上100kHz以下が望ましく、より好ましくは10kHz以上50kHz以下が望ましい。
【0057】
透明酸化物膜層13としての化学蒸着膜は、化学蒸着(CVD)法により成膜することにより形成される。CVD法は、基材上に、目的とする薄膜の成分を含む原料ガスを供給し、基板表面或いは気相での化学反応により膜を堆積する方法である。また、化学反応を活性化する目的で、プラズマなどを発生させる方法などがあり、熱CVD法、触媒化学気相成長法、光CVD法、真空プラズマCVD法、大気圧プラズマCVD法、ALD法など公知のCVD方式等が挙げられる。特に限定されるものではないが、製膜速度や処理面積の観点から、プラズマCVD法を適用することが好ましい。真空プラズマCVD法、大気圧または大気圧近傍の圧力下でのプラズマCVD法により得られるガスバリア層は、原材料(原料ともいう)である金属化合物、分解ガス、分解温度、投入電力などの条件を選ぶことで、目的の化合物を製造できるため好ましい。また、原子層堆積(ALD)法により形成される原子層堆積膜も、緻密な膜を形成できるため好ましい。
【0058】
本実施形態に係るガスバリア性積層体は、樹脂基材11上に上述のアンダーコート層12と上述の透明酸化物膜層13とを順次積層して構成される。これにより、測定条件40℃、90%R.H.における水蒸気透過度を0.01g/(m2・day)以下とすることができる。また、測定条件40℃、0%R.H.におけるヘリウム透過率を4cc/(m2・day・atm)以下とすることができる。したがって、本実施形態によれば、良好なガスバリア性を有するガスバリア性積層体を実現できる。
【0059】
<第2実施形態>
以下に、本発明の第2実施形態について説明する。
【0060】
本実施形態に係るガスバリア性積層体は、
図2に示すガスバリア性積層体のように、
図1のガスバリア性積層体の透明酸化物膜層13の上に、オーバーコート層14をさらに設けたものである。
【0061】
オーバーコート層14は、有機高分子樹脂を含む層であり、透明酸化物膜層13を保護し、擦れや屈曲によるクラックの発生を防止するために設けられる。
【0062】
オーバーコート層14に含まれる有機高分子樹脂は、適宜選択することができ、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂から選択される1種又は2種以上を使用することができる。オーバーコート層14に占める有機高分子樹脂の割合は、特に限定されるものではなく、適宜設定することができる。
【0063】
オーバーコート層14を形成する熱硬化性樹脂としては、アクリルポリオール樹脂とイソシアネートプレポリマーとからなる熱硬化型ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。なかでも、ヒドロキシ基を含有するアクリルポリオール樹脂と、分子内にNCO基を少なくとも2個以上有するイソシアネート系化合物との複合物を用いて形成されることにより、オーバーコート層14と透明酸化物膜層13との密着性を高めることができる。
【0064】
アクリルポリオール樹脂とは、(メタ)アクリル酸誘導体モノマーを重合させて得られる高分子化合物、又は(メタ)アクリル酸誘導体モノマーとその他のモノマーとを共重合させて得られる高分子化合物等のうち、末端と側鎖とにヒドロキシ基を有するもので、イソシアネート系化合物のNCO基と反応するものである。(メタ)アクリル酸誘導体モノマーは、末端と側鎖とにヒドロキシ基を有する。(メタ)アクリル酸誘導体モノマーの例としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等がある。
【0065】
上記のその他のモノマーは、末端と側鎖とにヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーと共重合可能である。上記のその他のモノマーの例として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート等の側鎖にアルキル基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマー、(メタ)アクリル酸等の側鎖にカルボキシ基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマー、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の側鎖に芳香環や環状構造を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマー等が考えられる。(メタ)アクリル酸誘導体モノマー以外では、スチレンモノマー、シクロヘキシルマレイミドモノマー、フェニルマレイミドモノマー等が考えられる。上記のその他のモノマーは、それ自身が末端と側鎖とに、ヒドロキシ基を有していても良い。
【0066】
アクリルポリオール樹脂は、特に(メタ)アクリル酸等の側鎖にカルボキシ基を有する(メタ)アクリル酸誘導体モノマーを重合させて得られる高分子化合物であることが好ましい。アンダーコート層12を形成する際、カルボキシ基を有するモノマーを重合させて得られるアクリルポリオール樹脂とイソシアネート系化合物との複合物を用いて形成することにより、より高い水蒸気バリア性を有するガスバリア性積層フィルムを得ることができる。
【0067】
オーバーコート層14の、ヒドロキシ基を含有するアクリルポリオール樹脂について、特に限定しないが、ヒドロキシ基価が50mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが望ましい。また、アクリルポリオール樹脂の重量平均分子量は特に限定しないが、具体的には、3000以上200000以下であると好ましい。特に、5000以上100000以下であると好ましい。更に、5000以上40000以下であると、より好ましい。
【0068】
イソシアネート系化合物とは、その分子中に2個以上のNCO基を有するものである。モノマー系イソシアネートの例として、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等の芳香族系イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ビスイソシアネートメチルシクロヘキサン(H6XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)等の脂肪族系イソシアネート等が考えられる。また、これらのモノマー系イソシアネートの重合体若しくは誘導体も使用可能である。例えば、3量体のヌレート型、1,1,1-トリメチロールプロパン等と反応させたアダクト型、ビウレットと反応させたビウレット型等がある。
【0069】
イソシアネート系化合物は、上記のイソシアネート系化合物若しくはその重合体、誘導体から任意に選択して良く、1種類若しくは2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0070】
オーバーコート層14は、その一例としては、上記のアクリルポリオール樹脂と上記のイソシアネート系化合物との複合物と溶媒とからなる溶液を樹脂基材11上に塗工し、反応硬化させることにより形成される。アクリルポリオール樹脂のヒドロキシ基に対するイソシアネート化合物のNCO基の当量比(NCO/OH)は、0.3以上、2.5以下であることが好ましい。ここで用いられる溶媒は、上記アクリルポリオール樹脂及びイソシアネート系化合物を溶解する溶媒であれば良い。溶媒の例として、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケトン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。なお、実際には、これらの溶媒を1種類若しくは2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0071】
オーバーコート層14を形成する熱硬化性樹脂は、上記の他に、特に、ヒドロキシ基を有する水溶性高分子と、アルコキシシラン及びその加水分解物からなる群から選ばれた少なくとも1種を含有するものが好ましい。
【0072】
ヒドロキシ基を有する水溶性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸、でんぷん、セルロース類が好ましい。特にポリビニルアルコール(以下PVA)を本発明のコーティング剤に用いた場合にガスバリア性が優れる。PVAはモノマー単位中に最も多くヒドロキシ基を含む高分子であるため加水分解後の有機ケイ素化合物のヒドロキシ基と非常に強固な水素結合をもつ。ここで言うPVAとは、一般にポリ酢酸ビニルをケン化して得られるもので、酢酸基が数十%残存している、いわゆる部分ケン化PVAから酢酸基が数%しか残存していない完全ケン化PVAまでを含む。PVAの分子量は重合度が300~数千まで多種あるが、どの分子量のものを用いても効果に問題はない。しかし一般的にケン化度が高く、また重合度が高い高分子量のPVAは耐水性が高いため好ましい。
【0073】
また、アルコキシシランは、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラプロポキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシランなどを用いることができる。また、アルコキシシランの加水分解生成物としては、メタノールなどのアルコールにアルコキシシランを溶解し、その溶液に塩酸などの酸の水溶液を添加し、加水分解反応させることにより調製したものが挙げられる。加水分解反応により、珪素原子に結合したアルコキシ基がヒドロキシ基となり、ヒドロキシ基の脱水縮合によりシロキサン結合を形成し、緻密で強固なネットワーク重合被膜を形成することができる。このため、耐熱性、耐水性、耐湿性、耐屈曲性、耐伸張性などに優れたオーバーコート層14を得ることができる。
【0074】
また、透明酸化物膜層13との密着性を上げるために、シランカップリング剤を添加してもよい。シランカップリング剤としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのエポキシ基を有するもの、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基を有するもの、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプト基を有するもの、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのNCO基を有するものなどが挙げられ、これらのシランカップリング剤を1種類あるいは2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0075】
オーバーコート層14を形成する熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、エポキシポリオール、などの、ヒドロキシ基を2個以上有するポリオールや、ポリ酢酸ビニルやポリ塩化ビニルなどのポリビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂などから適宜選択される。さらに、これらを任意の比率で混合してもよい。ポリオールのヒドロキシ基価は、特に限定しないが、10mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが望ましい。
【0076】
オーバーコート層14を形成する紫外線硬化性樹脂もしくは電子線硬化性樹脂としては、有機高分子樹脂として、特に限定しないが、ヒドロキシ基価が10以上100mgKOH/g以下の範囲にある樹脂を少なくとも含むことが望ましい。また、有機高分子樹脂として、特に限定しないが、酸価が10以上100mgKOH/g以下の範囲にある樹脂を少なくとも含むことが望ましい。また、有機高分子樹脂として熱可塑性樹脂を少なくとも含むことが望ましい。ヒドロキシ基価又は酸価が10mgKOH/g未満であると、官能基と透明酸化物膜層13の表面との化学的な結合力が弱くなり、透明酸化物膜層13との密着性が低くなる傾向がある。ヒドロキシ基価又は酸価が100mgKOH/gを超えると、耐湿熱試験などの耐久性試験でオーバーコート層14の分解により生じたヒドロキシ基を含む析出物がオーバーコート層14と透明酸化物膜層13との密着を阻害する傾向がある。
【0077】
オーバーコート層14を形成する紫外線硬化性樹脂もしくは電子線硬化性樹脂に利用できるモノマーとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N-ビニルプロリドン等の単官能モノマー並びに多官能モノマー、例えば、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリレートなどが使用できる。この紫外線硬化性樹脂もしくは電子線硬化性樹脂に利用できるオリゴマーとしては、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレートなどがある。
【0078】
オーバーコート層14を形成する有機高分子樹脂として、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂から選択される2種以上を併用する場合、その配合比は特に限定されるものではない。
【0079】
オーバーコート層14は、有機高分子樹脂以外に必要に応じて添加物を更に含有していてもよい。添加物としては、例えば、酸化防止剤、耐候剤、熱安定剤、滑剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、着色剤、フィラー、界面活性剤、シランカップリング剤等が挙げられる。
【0080】
オーバーコート層14の膜厚は、特に限定されるものではなく適宜設定することができる。好ましくは、0.05μm以上10.0μm以下が望ましい。0.05μmよりも薄いと透明酸化物膜層13の保護が不十分となり、10.0μmよりも厚いと内部応力の影響が大きくなり、クラックが発生する。
【0081】
オーバーコート層14の形成方法としては、アンダーコート層12と同様に通常のコーティング方法を用いることができる。例えばディッピング法、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、コンマコート、ダイコート、スクリーン印刷法、スプレーコート、グラビアオフセット法、有機蒸着法等の周知の方法を用いることができる。乾燥方法は、熱風乾燥、熱ロール乾燥、高周波照射、赤外線照射、UV照射、電子線照射等熱をかける方法を1種類若しくは2種類以上組み合わせて用いることができる。また、上記形成方法で別の樹脂基材にあらかじめコーティングされた膜を、粘着材転写、熱転写、UV転写等の転写法を用いて透明酸化物膜層13に転写するのでもよい。
【実施例】
【0082】
以下、本発明に係るガスバリア性積層体について、本発明を実施例および比較例により、さらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0083】
実施例1、実施例2、実施例3、実施例5、実施例6、実施例7、実施例9、実施例10、実施例11、及び比較例1、比較例2、比較例3、比較例4では、樹脂基材11の片面にアンダーコート層12と透明酸化物膜層13と順に設けている。実施例4、実施例8、実施例12では、更に透明酸化物膜層13の上にオーバーコート層14を設けている。すなわち、実施例1、実施例2、実施例3、実施例5、実施例6、実施例7、実施例9、実施例10、実施例11、及び比較例1、比較例2、比較例3、比較例4は、
図1に示すガスバリア性積層体に対応する。実施例4、実施例8、実施例12は、
図2に示すガスバリア性積層体に対応する。
【0084】
<実施例1>
[樹脂基材の配置工程]
樹脂基材11として、厚さ50μmの二軸延伸PETフィルム(東レ株式会社製、品名「ルミラーT60」)を使用した。
【0085】
[アンダーコート層用の溶液の調液・塗工工程]
アンダーコート層12用の溶液として、紫外線硬化性樹脂である多官能のウレタンアクリレートを、固形分が5質量%になるように酢酸エチルを加えて希釈した。さらに開始剤としてIRGACURE184(BASF社製)を、上記紫外線硬化樹脂の質量の2%加えて攪拌し、アンダーコート層形成用組成物を調製した。その後、樹脂基材11上に上記調製した溶液を塗工し、これを80℃のオーブンで4分間乾燥させた後、800mJ/cm2の紫外線を照射して厚み300nmのアンダーコート層を形成した。このようにして、アクリロイル基/ウレタン結合の比率が5.0であり、マルテンス硬さが500N/mm2のアンダーコート層を有する積層フィルムを得た。
【0086】
[透明酸化物膜層の積層工程]
アンダーコート層12の片面上に、透明酸化物膜層13を、二つの電極が並列に位置し、各電極に正負交互に電圧を印加可能であり、その各々の電極が交互にカソード、アノードの役割を果たすマグネトロンスパッタリング装置を用いたスパッタリング法(方式Aとする)により成膜した。成膜条件としては、成膜圧力を0.30Pa、電力密度を3.3W/cm2とし、ターゲットはSiとWの合金ターゲット(原子組成比Si:W=90:10)を用いた。2つの電極への電力投入手段としては、MF電源を用いた。その際、周波数40kHzの矩形電圧を、二つの並列に位置した電極に加えた。ガスとしては、アルゴンガス、酸素ガスを用いた。このとき、ターゲット表面の状態が、金属モードから酸化物モードに遷移する途中の状態である遷移状態となるように、プラズマの発光強度および放電の電圧値を検知することで酸素ガスの流量を制御した。膜厚として100nmの透明酸化物膜層13を成膜することで、ガスバリア性積層体を得た。
【0087】
<実施例2>
アンダーコート層12用の溶液として、紫外線硬化性樹脂である2官能のウレタンアクリレートを用い、アクリロイル基/ウレタン結合の比率が3.0であり、マルテンス硬さが300N/mm2のアンダーコート層を有する積層フィルムを得たこと以外は、実施例1と同様としてガスバリア性積層体を得た。
【0088】
<実施例3>
アンダーコート層12用の溶液として、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、メチルメタクリレート(MMA)をモノマーとして共重合させて得られたアクリルポリオール(重量平均分子量10×103)を主剤とし、XDIアダクト型のイソシアネート系硬化剤を主剤のヒドロキシ基量に対して1当量配合した酢酸エチル5%溶液を調製した。その後、樹脂基材11上に上記調製した溶液を塗工し、これを120℃のオーブンで4分間乾燥させ、厚みが300nmのアンダーコート層12を形成した。このようにして、アクリロイル基/ウレタン結合の比率が1.5であり、マルテンス硬さが210N/mm2のアンダーコート層を有する積層フィルムを得た以外は、実施例1と同様としてガスバリア性積層体を得た。
【0089】
<実施例4>
SiとSnの合金ターゲット(原子組成比Si:Sn=50:50)を用いたこと以外は、実施例1と同様として透明酸化物膜層13を得た。
【0090】
[オーバーコート層用の溶液の調液・塗工工程]
オーバーコート層14用の溶液としてテトラエトキシシラン(TEOS)の加水分解溶液と、ポリビニルアルコール(PVA)の水溶液とを、乾燥後の固形分比が70:30となるように混合して固形分5質量%の溶液を調整した。その後、透明酸化物膜層13の上に、スピンコートを用いて上記調製した溶液を塗工し、乾燥後の厚みが300nmのオーバーコート層14を積層することで、ガスバリア性積層体を得た。
【0091】
<実施例5>
透明酸化物膜層13の成膜方法として、電極に電圧を周期的に印加可能であり、電圧印加のオフタイムに、電圧印加とは正負の異なるパルスがかかるマグネトロンスパッタリング装置を用いたスパッタリング法(方式Bとする)を用い、SiとSnの合金ターゲット(原子組成比Si:Sn=50:50)を用いたこと以外は、実施例1と同様としてガスバリア性積層体を得た。このとき、電極への電力投入手段としては、DC電源を用いた。その際、周波数10kHz(オンタイム:95%、オフタイム:5%、オンタイムには負の電圧がかかり、オフタイムには正の電圧がかかる)のパルス電圧を電極へ加えた。成膜条件としては、成膜圧力を0.30Pa、電力密度を3.3W/cm2とした。ガスとしては、アルゴンガス、酸素ガスを用い、酸化膜が得られるように酸素ガスの流量を調整した。
【0092】
<実施例6>
アンダーコート層12用の溶液として、紫外線硬化性樹脂である2官能のウレタンアクリレートを用い、アクリロイル基/ウレタン結合の比率が3.0であり、マルテンス硬さが300N/mm2のアンダーコート層を有する積層フィルムを得たこと以外は、実施例5と同様としてガスバリア性積層体を得た。
【0093】
<実施例7>
アンダーコート層12用の溶液として、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、メチルメタクリレート(MMA)をモノマーとして共重合させて得られたアクリルポリオール(重量平均分子量10×103)を主剤とし、XDIアダクト型のイソシアネート系硬化剤を主剤のヒドロキシ基量に対して1当量配合した酢酸エチル5%溶液を調製した。その後、樹脂基材11上に上記調製した溶液を塗工し、これを120℃のオーブンで4分間乾燥させ、厚みが300nmのアンダーコート層12を形成した。このようにして、アクリロイル基/ウレタン結合の比率が1.5であり、マルテンス硬さが210N/mm2のアンダーコート層を有する積層フィルムを得た以外は、実施例5と同様としてガスバリア性積層体を得た。
【0094】
<実施例8>
SiとWの合金ターゲット(原子組成比Si:W=90:10)を用いたこと以外は、実施例5と同様として透明酸化物膜層13を得た。
【0095】
[オーバーコート層用の溶液の調液・塗工工程]
オーバーコート層用の溶液の調液・塗工工程は、実施例4と同様にして、乾燥後の厚みが300nmのオーバーコート層14を透明酸化物膜層13の上に積層することで、ガスバリア性積層体を得た。
【0096】
<実施例9>
透明酸化物膜層13の成膜方法として、原子層堆積法(方式Cとする)により、原子層堆積膜としてSiAlOxを膜厚25nmとなるように成膜形成した。このとき、原料ガス(第一前駆体)にトリスジメチルアミノシラン(3DMAS)と、トリメチルアルミニウム(TMA)を用い、プロセスガスとしてO2とN2を用い、パージガスとしてO2とN2を用い、反応ガス(第二前駆体)兼プラズマ放電ガスとしてO2を用い、真空気室に供給した。プラズマ励起用電源は、13.56MHzの電源を用い、ICP(InductivelyCoupled Plasma;誘導結合プラズマ)モードでプラズマ放電(250W)を実施し、原子層堆積膜を有する積層体(第一の積層体)を作製したこと以外は、実施例1と同様としてガスバリア性積層体を得た。
【0097】
<実施例10>
アンダーコート層12用の溶液として、紫外線硬化性樹脂である2官能のウレタンアクリレートを用い、アクリロイル基/ウレタン結合の比率が3.0であり、マルテンス硬さが300N/mm2のアンダーコート層を有する積層フィルムを得たこと以外は、実施例9と同様としてガスバリア性積層体を得た。
【0098】
<実施例11>
アンダーコート層12用の溶液として、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、メチルメタクリレート(MMA)をモノマーとして共重合させて得られたアクリルポリオール(重量平均分子量10×103)を主剤とし、XDIアダクト型のイソシアネート系硬化剤を主剤のヒドロキシ基量に対して1当量配合した酢酸エチル5%溶液を調製した。その後、樹脂基材11上に上記調製した溶液を塗工し、これを120℃のオーブンで4分間乾燥させ、厚みが300nmのアンダーコート層12を形成した。このようにして、アクリロイル基/ウレタン結合の比率が1.5であり、マルテンス硬さが210N/mm2のアンダーコート層を有する積層フィルムを得た以外は、実施例9と同様としてガスバリア性積層体を得た。
【0099】
<実施例12>
原料ガス(第一前駆体)にトリスジメチルアミノシラン(3DMAS)と、四塩化チタン(TiCl4)を用い、原子層堆積法により、原子層堆積膜としてSiTiOxを膜厚25nmとなるように成膜形成したこと以外は、実施例9と同様として透明酸化物膜層13を得た。
【0100】
[オーバーコート層用の溶液の調液・塗工工程]
オーバーコート層用の溶液の調液・塗工工程は、実施例4と同様にして、乾燥後の厚みが300nmのオーバーコート層14を透明酸化物膜層13の上に積層することで、ガスバリア性積層体を得た。
【0101】
<比較例1>
アンダーコート層12用の溶液として、ウレタン樹脂(重量平均分子量10×103)を固形分が5質量%になるように酢酸エチルを加えて希釈した。その後、樹脂基材11上に上記調製した溶液を塗工し、これを120℃のオーブンで4分間乾燥させ、厚みが300nmのアンダーコート層12を形成した。このようにして、マルテンス硬さが100N/mm2のアンダーコート層を有する積層フィルムを得た以外は、実施例1と同様としてガスバリア性積層体を得た。
【0102】
<比較例2>
アンダーコート層12用の溶液として、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、メチルメタクリレート(MMA)をモノマーとして共重合させて得られたアクリルポリオール(重量平均分子量10×103)を主剤とし、XDIアダクト型のイソシアネート系硬化剤を主剤のヒドロキシ基量に対して2当量配合した酢酸エチル5%溶液を調製した。その後、樹脂基材11上に上記調製した溶液を塗工し、これを120℃のオーブンで4分間乾燥させ、厚みが300nmのアンダーコート層12を形成した。このようにして、アクリロイル基/ウレタン結合の比率が0.5であり、マルテンス硬さが150N/mm2のアンダーコート層を有する積層フィルムを得た以外は、実施例5と同様としてガスバリア性積層体を得た。
【0103】
<比較例3>
アンダーコート層12用の溶液として、紫外線硬化性樹脂である多官能のアクリレートにSiO2粒子が分散しているものを用い、マルテンス硬さが400N/mm2のアンダーコート層を有する積層フィルムを得たこと以外は、実施例1と同様としてガスバリア性積層体を得た。
【0104】
<比較例4>
Wターゲットを用いたこと以外は、実施例7と同様としてガスバリア性積層体を得た。
【0105】
<評価及び方法>
[アンダーコート層のマルテンス硬さ]
アンダーコート層12のマルテンス硬さを、ISO14577(-1、-2、-3)に準拠し測定した。具体的には、(株)フィッシャー・インストルメンツ製ナノインデンテーションシステム(商品名:FischerScope HM2000Xyp)を用いて測定した。対角度90度のピラミッド形状のダイヤモンドを用い、試料表面に0.01ミリメートルの引っ掻き幅ができる時の荷重として表した。
【0106】
[ガスバリア性積層体のガスバリア性の測定]
実施例1から実施例12、及び比較例1から比較例4で作製したガスバリア性積層体について、JIS-K7129に準ずる方法を用いて、米国MOCON社製の水蒸気透過度計(AQUATRAN-ModelII)により、40℃90%RH(温度40℃、相対湿度90%)環境下での水蒸気透過度(g/m2・day)を測定した。ヘリウム透過率については40℃、0RH%におけるJIS K 7126A法に準ずる差圧法を用いて、Technolox社製の圧力センサー式ガス測定装置(デルタパームDP-2MST)にて測定した。
【0107】
[ガスバリア性積層体の擦傷性試験と、擦傷性試験後のガスバリア性の測定]
樹脂基材11の片面にアンダーコート層12と透明酸化物膜層13と順に設けている構成である、実施例1、実施例2、実施例3、実施例5、実施例6、実施例7、実施例9、実施例10、実施例11、及び比較例1、比較例2、比較例3、比較例4について、スチールウール#0000を擦傷試験機に固定し、75gの荷重をかけて、1往復の擦傷性試験を各サンプルの透明酸化物膜層13に対して行った。擦傷性試験後のガスバリア性積層体について、JIS-K7129に準ずる方法を用いて、米国MOCON社製の水蒸気透過度計(AQUATRAN-ModelII)により、40℃90%RH(温度40℃、相対湿度90%)環境下での水蒸気透過度(g/m2・day)を測定した。
【0108】
[測定結果]
測定結果を下記表1に示す。
【表1】
【0109】
第1実施形態に対応する実施例1、2、3、5、6、7、9、10、11と、比較例1、3とを比較すると、アンダーコート層12にアクリルウレタン樹脂を用い、アクリロイル基とウレタン結合の両方を含有する、実施例1、2、3、5、6、7、9、10、11の方が、アンダーコート層12にウレタン樹脂を用い、ウレタン結合のみを含有する比較例1や、アンダーコート層12にアクリル樹脂とSiO2粒子を用い、アクリロイル基のみを含有する比較例3より、水蒸気透過率、ヘリウム透過率ともに良好な結果が得られ、加えて、擦傷性試験後の水蒸気透過率も良好な結果が得られた。
【0110】
第1実施形態に対応する実施例1、2、3、5、6、7、9、10、11と、比較例2とを比較すると、アンダーコート層12にアクリルウレタン樹脂を用い、アクリロイル基とウレタン結合の両方を含有し、かつアクリロイル基がウレタン結合よりも多い、実施例1、2、3、5、6、7、9、10、11の方が、アンダーコート層12にアクリルウレタン樹脂を用い、アクリロイル基とウレタン結合の両方を含有しているが、アクリロイル基がウレタン結合よりも少ない、比較例2より、水蒸気透過率、ヘリウム透過率ともに良好な結果が得られ、加えて、擦傷性試験後の水蒸気透過率も良好な結果が得られた。
【0111】
第1実施形態に対応し、成膜方式が方式Bである、実施例7と比較例4を比較すると、ターゲットおよび透明酸化物膜層13に金属元素としてSiおよびSnを含む、実施例7のほうが、Wのみを含む比較例4より、水蒸気透過率、ヘリウム透過率ともに良好な結果が得られ、加えて、擦傷性試験後の水蒸気透過率も良好な結果が得られた。
【0112】
実施例5は、成膜方式が方式Bであり、実施例9は、成膜方式が方式Cであるが、成膜方式が方式Aである実施例1と同様に、良好な水蒸気透過率とヘリウム透過率の結果が得られ、加えて、擦傷性試験後の水蒸気透過率も良好な結果が得られた。
【0113】
第2実施形態に対応する実施例4、8、12は、オーバーコート層14が積層されているが、オーバーコート層14の積層されていない第1実施形態に対応する実施例1、2、3、5、6、7、9、10、11と同様に、良好な水蒸気透過率とヘリウム透過率の結果が得られた。
【0114】
以上、本発明の実施形態を詳述してきたが、実際には、上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の変更があっても本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明に係るガスバリア性積層体は、電子機器関連部材等の分野において、高いガスバリア性が必要とされる場合に特に好適に利用が期待される。
【符号の説明】
【0116】
11…樹脂基材
12…アンダーコート層
13…透明酸化物膜層
14…オーバーコート層