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特許7547736三次元造形用フィラメント、三次元造形物、三次元造形方法、及び三次元造形装置
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  • 特許-三次元造形用フィラメント、三次元造形物、三次元造形方法、及び三次元造形装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】三次元造形用フィラメント、三次元造形物、三次元造形方法、及び三次元造形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/118 20170101AFI20240903BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240903BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20240903BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240903BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240903BHJP
【FI】
B29C64/118
B33Y70/00
B33Y80/00
B33Y10/00
B33Y30/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020020649
(22)【出願日】2020-02-10
(65)【公開番号】P2021126772
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山田 太一
(72)【発明者】
【氏名】上石 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】大越 雅之
(72)【発明者】
【氏名】三鍋 治郎
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-532579(JP,A)
【文献】特開2017-128073(JP,A)
【文献】特許第6472590(JP,B2)
【文献】国際公開第2019/185361(WO,A1)
【文献】特表2017-525588(JP,A)
【文献】特表2020-503186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 - 64/40
B33Y 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の樹脂、繊維、及び相溶化剤を含み、
前記2種以上の樹脂のうちの少なくとも1種を含む海部と、前記2種の樹脂のうちの少なくとも1種を含む島部と、による海島構造を有し、
前記2種以上の樹脂が、ポリオレフィンからなる第1の樹脂と、アミド結合及びイミド結合の少なくとも一方を含む樹脂、芳香族ポリエステル、並びに硫黄を含む結合基を主鎖に有する樹脂からなる群から選ばれる第2の樹脂と、を含む、三次元造形用フィラメント。
【請求項2】
軸直交方向の断面において、当該断面の総面積から繊維の占める面積を除いた面積をS1とし、前記島部の総面積をS2としたとき、S2/S1×100が5%以上49%以下である、請求項1に記載の三次元造形用フィラメント。
【請求項3】
前記S2/S1×100が10%以上40%以下である、請求項2に記載の三次元造形用フィラメント。
【請求項4】
軸直交方向の断面において、前記島部の径が0.1μm以上20μm以下である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の三次元造形用フィラメント。
【請求項5】
前記島部の径が1μm以上10μm以下である、請求項4に記載の三次元造形用フィラメント。
【請求項6】
前記海部に含まれる前記樹脂のうち少なくとも1種の融解温度が、前記島部に含まれる前記樹脂のうち少なくとも1種の融解温度よりも低い、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の三次元造形用フィラメント。
【請求項7】
前記相溶化剤が、側鎖が修飾されたポリオレフィン及び主鎖末端が修飾されたポリオレフィンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項6に記載の三次元造形用フィラメント。
【請求項8】
前記繊維が連続繊維である、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の三次元造形用フィラメント。
【請求項9】
2種以上の樹脂、繊維、及び相溶化剤を含み、
前記2種以上の樹脂のうちの少なくとも1種を含む海部と、前記2種以上の樹脂のうちの少なくとも1種含む島部と、による海島構造を有し、且つ、前記島部の一部が合一した粒状物が点在し、
前記2種以上の樹脂が、ポリオレフィンからなる第1の樹脂と、アミド結合及びイミド結合の少なくとも一方を含む樹脂、芳香族ポリエステル、並びに硫黄を含む結合基を主鎖に有する樹脂からなる群から選ばれる第2の樹脂と、を含む、三次元造形物。
【請求項10】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の三次元造形用フィラメントを加熱する工程と、
加熱された前記三次元造形用フィラメントを被吐出体上に吐出し、該被吐出体上に当該三次元造形用フィラメントの積層体を形成する工程と、
を有する、三次元造形方法。
【請求項11】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の三次元造形用フィラメントを収容し、前記三次元造形用フィラメントを加熱する加熱手段と、
加熱された前記三次元造形用フィラメントを被吐出体上に吐出し、該被吐出体上に当該三次元造形用フィラメントの積層体を形成する吐出手段と、
を備えた三次元造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元造形用フィラメント、三次元造形物、三次元造形方法、及び三次元造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱したフィラメントを被吐出体上に吐出し、このフィラメントを複数重ねて積層体を形成することで三次元造形物を造形する溶解積層方式(FDM(Fused Deposition Modeling)ともいう)の造形方法が知られている。
上記フィラメント(以下、三次元造形用フィラメントともいう)は、例えば、樹脂と繊維とを含む。
【0003】
上記の三次元造形用フィラメントとは別に、繊維と樹脂とを含む複合材料としては、例えば、特許文献1に記載の、7.5mm以上の炭素長繊維(A)100質量部に対して、メルトフローレートが30~150g/10minである無水マレイン酸変性したポリプロピレン(B)30~250質量部及びポリアミド樹脂(C)1~50質量部を含み、且つ(B)+(C)が35~260質量部である炭素長繊維強化複合材料が挙げられる。
【0004】
また、特許文献2には、特定組成のエポキシ樹脂組成物の硬化物と強化繊維を含んでなる繊維強化複合材料が開示されている。
更に、特許文献3には、プロピレン系樹脂、有機長繊維、タルクを含有して成り、引き抜き成形法で得られた長繊維強化複合樹脂組成物であって、プロピレン系樹脂100重量部に対する、有機長繊維の割合が10~200重量部、タルクの割合が10~200重量部であり、前記有機長繊維が表面に極性樹脂を付着させて成る有機長繊維であって極性樹脂の付着量が有機長繊維に対し0.01~3.5重量%である長繊維強化複合樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5712464号公報
【文献】特許第5780367号公報
【文献】特許第5238938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既述のように、三次元造形用フィラメントは例えば樹脂と繊維とを含み、溶解積層方式の造形方法に適用されることで三次元造形物を得るが、得られた三次元造形物の曲げ弾性率が不十分である場合があった。
【0007】
そこで、本発明の課題は、樹脂、繊維、及び相溶化剤を含み、樹脂による海島構造を有しない場合に比べ、優れた曲げ弾性率を有する三次元造形物が得られる三次元造形用フィラメントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、以下の手段によって解決される。
【0009】
<1>
2種以上の樹脂、繊維、及び相溶化剤を含み、
前記2種以上の樹脂のうちの少なくとも1種を含む海部と、前記2種の樹脂のうちの少なくとも1種を含む島部と、による海島構造を有する、三次元造形用フィラメント。
【0010】
<2>
軸直交方向の断面において、当該断面の総面積から繊維の占める面積を除いた面積をS1とし、前記島部の総面積をS2としたとき、S2/S1×100が5%以上49%以下である、<1>に記載の三次元造形用フィラメント。
<3>
前記S2/S1×100が10%以上40%以下である、<2>に記載の三次元造形用フィラメント。
<4>
軸直交方向の断面において、前記島部の径が0.1μm以上20μm以下である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の三次元造形用フィラメント。
<5>
前記島部の径が1μm以上10μm以下である、<4>に記載の三次元造形用フィラメント。
【0011】
<6>
前記海部に含まれる前記樹脂のうち少なくとも1種の融解温度が、前記島部に含まれる前記樹脂のうち少なくとも1種の融解温度よりも低い、<1>~<5>のいずれか1つに記載の三次元造形用フィラメント。
<7>
前記2種以上の樹脂が、ポリオレフィンからなる第1の樹脂と、アミド結合及びイミド結合の少なくとも一方を含む樹脂、エステル結合を含む樹脂、並びに硫黄を含む結合基を有する樹脂からなる群から選ばれる第2の樹脂と、を含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の三次元造形用フィラメント。
<8>
前記相溶化剤が、側鎖が修飾されたポリオレフィン及び主鎖末端が修飾されたポリオレフィンからなる群より選択される少なくとも1種である、<7>に記載の三次元造形用フィラメント。
<9>
前記繊維が連続繊維である、<1>~<8>のいずれか1つに記載の三次元造形用フィラメント。
【0012】
<10>
2種以上の樹脂、繊維、及び相溶化剤を含み、
前記2種以上の樹脂のうちの少なくとも1種を含む海部と、前記2種以上の樹脂のうちの少なくとも1種含む島部と、による海島構造を有し、且つ、前記島部の一部が合一した粒状物が点在する、三次元造形物。
【0013】
<11>
<1>~<9>のいずれか1つに記載の三次元造形用フィラメントを加熱する工程と、
加熱された前記三次元造形用フィラメントを被吐出体上に吐出し、該被吐出体上に当該三次元造形用フィラメントの積層体を形成する工程と、
を有する、三次元造形方法。
【0014】
<12>
<1>~<9>のいずれか1つに記載の三次元造形用フィラメントを収容し、前記三次元造形用フィラメントを加熱する加熱手段と、
加熱された前記三次元造形用フィラメントを被吐出体上に吐出し、該被吐出体上に当該三次元造形用フィラメントの積層体を形成する吐出手段と、
を備えた三次元造形装置。
【発明の効果】
【0015】
<1>、<7>、又は<8>に係る発明によれば、樹脂、繊維、及び相溶化剤を含み、樹脂による海島構造を有しない場合に比べ、優れた曲げ弾性率を有する三次元造形物が得られる三次元造形用フィラメントが提供される。
【0016】
<2>又は<3>に係る発明によれば、上記S2/S1×100が5%未満又は49%超である場合に比べ、優れた曲げ弾性率を有する三次元造形物が得られる三次元造形用フィラメントが提供される。
<4>又は<5>に係る発明によれば、軸直交方向の断面における島部の径が0.1μm未満20μm超である場合に比べ、優れた曲げ弾性率を有する三次元造形物が得られる三次元造形用フィラメントが提供される。
【0017】
<6>に係る発明によれば、海部に含まれる樹脂のうち少なくとも1種の融解温度が、島部に含まれる樹脂のうち少なくとも1種の融解温度よりも高い場合に比べ、優れた曲げ弾性率を有する三次元造形物が得られる三次元造形用フィラメントが提供される。
<9>に係る発明によれば、繊維が短繊維である場合に比べ、優れた曲げ弾性率を有する三次元造形物が得られる三次元造形用フィラメントが提供される。
【0018】
<10>に係る発明によれば、樹脂、繊維、及び相溶化剤を含み、樹脂による海島構造を有しない場合に比べ、優れた曲げ弾性率を有する三次元造形物が提供される。
【0019】
<11>に係る発明によれば、樹脂、繊維、及び相溶化剤を含み、樹脂による海島構造を有しない三次元造形用フィラメントを用いる場合に比べ、優れた曲げ弾性率を有する三次元造形物を製造しうる三次元造形方法が提供される。
【0020】
<12>に係る発明によれば、樹脂、繊維、及び相溶化剤を含み、樹脂による海島構造を有しない三次元造形用フィラメントを用いる場合に比べ、優れた曲げ弾性率を有する三次元造形物を製造しうる三次元造形装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態に係る三次元造形装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の三次元造形用フィラメントの一例である実施形態について説明する。
【0023】
<三次元造形用フィラメント>
本実施形態に係る三次元造形用フィラメント(以下、単に「フィラメント」ともいう)は、2種以上の樹脂、繊維、及び相溶化剤を含み、2種以上の樹脂のうちの少なくとも1種を含む海部と、2種以上の樹脂のうちの少なくとも1種を含む島部と、による海島構造を有する。
本実施形態において、「海島構造」は樹脂の混合系にて形成され、連続相である「海部」中に、分散相である「島部」が分散した相分離構造を指す。従って、本実施形態において、繊維の周囲が樹脂による被覆層にて被覆してなる形態は「島部」とは言わない。即ち、「島部」はその内部に繊維を含まない。
【0024】
本実施形態に係るフィラメントによれば、優れた曲げ弾性率を有する三次元造形物が得られる。この理由は明確ではないが、以下のように推測される。
本実施形態に係るフィラメントには、2種以上の樹脂による海島構造を有する。このように海島構造を有するフィラメントは、溶解積層方式の造形方法に適用されると、隣り合うフィラメントの界面にて、それぞれのフィラメントの界面における海部同士が溶融接着するとともに、それぞれのフィラメントの界面付近に存在していた島部が合一するものと考えられる。
このように島部が合一することで隣り合うフィラメントの界面にアンカー効果が発現し、かかる界面の密着性が向上することで、その結果として、三次元造形物の曲げ弾性率を高めることができるものと推測される。
【0025】
〔海島構造の好ましい態様〕
本実施形態に係るフィラメントは、2種以上の樹脂を用いた海島構造を有する。
海島構造としては、以下の態様であることが好ましい。
【0026】
本実施形態に係るフィラメントは、三次元造形物の曲げ弾性率をより高める観点からは、軸直交方向の断面において、断面の総面積から繊維の占める面積を除いた面積をS1とし、島部の総面積をS2としたとき、S2/S1×100が、5%以上49%以下であることが好ましく、10%以上40%以下であることがより好ましく、15%以上35%以下であることが更に好ましい。
【0027】
本実施形態に係るフィラメントは、三次元造形物の曲げ弾性率をより高める観点からは、軸直交方向の断面において、島部の径が、0.1μm以上20μm以下であることが好ましく、1μm以上10μm以下であることがより好ましく、2μm以上10μm以下であることが更に好ましい。
ここで、本実施形態において、島部の径とは、島部の円相当径を指す。
【0028】
ここで、軸直交方向の断面における、総面積、繊維の占める面積、及び総面積から繊維の占める面積を除いた面積S1の値は、以下のようにして求める。
本実施形態に係るフィラメントを軸直交方向に切削し、軸直交方向の断面を得る。続いて、断面を研磨し、ネオオスミニウムコーター(メイワフォーシス(株)のNeoc-PRO)にてオスミニウムコーティングを行い、観察面を得る。
次に、SEM((株)日立製作所のS-3400N、加速電圧15KV)を用いて、観察面を倍率100倍以上1000倍以下の範囲で反射電子像をランダムに3視野撮影する。
撮影された写真に基づき、画像解析ソフト((株)ニレコのルーゼックス)を用いて、観察面の総面積、及び、観察面における繊維の総面積(個々の繊維の面積の総和)を求める。そして、得られた値から、総面積から繊維の占める面積を除いた面積を算出する。
この手順を、撮影された3視野分の写真で行い、算出された値の算術平均値を、軸直交方向の断面における、総面積、繊維の占める面積、及び総面積から繊維の占める面積を除いた面積S1とする。
【0029】
次に、軸直交方向の断面における、島部の総面積S2、島部の径、及び島部の個数の値は、以下のようにして求める。
上記した方法で撮影された3視野分の写真を基づき、島部の総面積S2、島部の径、及び島部の個数の値を求める。
具体的には、上記の方法で撮影された写真に基づき、画像解析ソフト((株)ニレコのルーゼックス)を用いて、島部(連続相である海部に分散している分散相であって、繊維を含まないもの)を全て抽出する。
その後、個々の島部の測定項目として円相当径及び個数を選択し、観察面における個々の島部の径(円相当径)、及び観察面における島部の個数を求める。そして、得られた値から、観察面における島部の総面積(個々の島部の面積の総和)と、個々の島部の径(円相当径)の算術平均値を算出する。
この手順を、撮影された3視野分の写真で行い、算出された値の算術平均値を、軸直交方向の断面における、島部の総面積S2、島部の径、及び島部の個数とする。
【0030】
以下、本実施形態に係るフィラメントの各成分の詳細について説明する。
【0031】
〔2種以上の樹脂〕
本実施形態に係るフィラメントは、海島構造を得るための2種以上の樹脂を含む。
2種以上の樹脂としては、熱可塑性樹脂が挙げられる。2種以上の樹脂の組み合わせとしては、混合することで、海部と島部とを形成しうる組み合わせの樹脂であれば特に制限はない。
海部と島部とを形成しうる組み合わせの樹脂としては、互いに相溶性の低い樹脂の組み合わせが好ましく、より具体的には、既述の海島構造の好ましい態様を得る観点から、溶解度パラメータ(所謂、SP値)が異なる(好ましくは、SP値が5以上異なる、より好ましくは、SP値が5以上10以下で異なる)樹脂の組み合わせが挙げられる。
【0032】
ここで、溶解度パラメータ(SP値)とは、Fedorの方法により算出された値である。具体的には、溶解度パラメータ(SP値)は、例えば、Polym.Eng.Sci.,vol.14,p.147(1974)の記載に準拠し、下記式によりSP値を算出する。
式:SP値=√(Ev/v)=√(ΣΔei/ΣΔvi)
(式中、Ev:蒸発エネルギー(cal/mol)、v:モル体積(cm/mol)、Δei:それぞれの原子又は原子団の蒸発エネルギー、Δvi:それぞれの原子又は原子団のモル体積)
なお、溶解度パラメータ(SP値)は、単位として(cal/cm1/2を採用するが、慣行に従い単位を省略し、無次元で表記する。
【0033】
海島構造における海部及び島部は、それぞれ、1種の樹脂から構成されていてもよいし、2種以上の樹脂から構成されていてもよい。また、本実施形態に係るフィラメントは、1種の樹脂から構成される島部を複数種有していてもよい。つまり、本実施形態に係るフィラメントは、例えば、樹脂aから構成される島部Aと樹脂aとは異なる樹脂bから構成される島部Bとを有してもよい。
【0034】
本実施形態において、曲げ弾性率をより高める観点から、海部に含まれる樹脂のうち少なくとも1種の融解温度が、島部に含まれる樹脂のうち少なくとも1種の融解温度よりも低いことが好ましい。
曲げ弾性率をより高める観点からは、海部に含まれる全ての樹脂の融解温度が、島部に含まれる全ての樹脂の融解温度よりも低いことが好ましい。
融解温度の差としては、20℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、60℃以上であることが更に好ましい。
また、融解温度の差の上限は、三次元造形物の製造適性の観点、樹脂の加熱劣化の観点等から、例えば、300℃以下が好ましく、280℃以下がより好ましい。
【0035】
ここで、樹脂の融解温度(Tm、融点とも呼ばれる)の測定は、示差走査熱量測定(DSC)により得られたDSC曲線から、JIS K 7121:1987「プラスチックの転移温度測定方法」の融解温度の求め方に記載の「融解ピーク温度Tpm」により求められる。
海部に含まれる樹脂及び島部に含まれる樹脂の融解温度は、以下の方法により測定する。
フィラメント中の樹脂が海部及び島部に分離されている場合は、それらの樹脂を纏めてDSCにて測定することで、海部及び島部に含まれる樹脂の融解温度がそれぞれ独立に出現する。本実施形態では、この方法により、海部に含まれる樹脂及び島部に含まれる樹脂の融解温度を求める。
【0036】
本実施形態に係るフィラメントは、優れた曲げ弾性率を有する三次元造形物を形成しやすい観点、既述の海島構造の好ましい態様を形成しやすい観点から、ポリオレフィンからなる第1の樹脂と、アミド結合及びイミド結合の少なくとも一方を含む樹脂、エステル結合を含む樹脂、並びに硫黄を含む結合基を有する樹脂からなる群から選ばれる第2の樹脂と、を含む、ことが好ましい。
そして、第1の樹脂及び第2の樹脂のどちらか一方が海部を構成し、他方が島部を構成していることが好ましい。
【0037】
(第1の樹脂)
第1の樹脂は、ポリオレフィンからなるものである。
第1の樹脂は、海部を構成していてもよいし、島部を構成していてもよい。
ポリオレフィンは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
ポリオレフィンは、オレフィンに由来する繰り返し単位を含む樹脂であって、樹脂全体に対し30質量%以下であれば、オレフィン以外の単量体に由来する繰り返し単位を含んでいてもよい。
ポリオレフィンは、オレフィン(必要に応じて、オレフィン以外の単量体)の付加重合によって得られる。
また、ポリオレフィンを得るための、オレフィン及びオレフィン以外の単量体は、それぞれ、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
なお、ポリオレフィンは、コポリマーであってもよいし、ホモポリマーであってよい。また、ポリオレフィンは、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
【0039】
ここで、オレフィンとしては、直鎖状又は分岐状の脂肪族オレフィン、或いは脂環式オレフィンが挙げられる。
脂肪族オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン等のα-オレフィンが挙げられる。
脂環式オレフィンとしては、シクロペンテン、シクロヘプテン、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネン、テトラシクロドデセン、ビニルシクロヘキサン等が挙げられる。
中でも、コストの点から、α-オレフィンが好ましく、エチレン及びプロピレンがより好ましく、特にプロピレンが好ましい。
【0040】
また、オレフィン以外の単量体としては、公知の付加重合性化合物から選択される。
付加重合性化合物としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、メトキシスチレン、スチレンスルホン酸又はその塩等のスチレン類;(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸エステル;塩化ビニル等のハロビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ビニルメチルエーテル等のビニルエーテル類;ビニリデンクロリド等のハロゲン化ビニリデン類;N-ビニルピロリドン等のN-ビニル化合物類;等が挙げられる。
【0041】
好適なポリオレフィンとしては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリブテン、ポリイソブチレン、クマロン・インデン樹脂、テルペン樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)等が挙げられる。
中でも、ポリオレフィンとしては、オレフィンに由来する繰り返し単位のみを含む樹脂であることが好ましく、特に、コストの点から、ポリプロピレンが好ましい。
【0042】
ポリオレフィンの分子量は、特に限定されず、樹脂の種類、造形条件、得られた三次元造形物の用途等に応じて決定すればよい。
ポリオレフィンの重量平均分子量(Mw)は、例えば、1万以上30万以下の範囲が好ましく、1万以上20万以下の範囲がより好ましい。
【0043】
ポリオレフィンの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、以下の条件で測定される。
GPC装置としては高温GPCシステム「HLC-8321GPC/HT」、溶離液としてo-ジクロロベンゼンを用いる。ポリオレフィンを一旦高温(140℃以上150℃以下の温度)でo-ジクロロベンゼンに溶融・ろ過し、ろ液を測定試料とする。測定条件としては、試料濃度0.5%、流速0.6ml/min、サンプル注入量10μl、RI検出器を用いて行う。また、検量線は、東ソー社製「polystylene標準試料TSK standard」:「A-500」、「F-1」、「F-10」、「F-80」、「F-380」、「A-2500」、「F-4」、「F-40」、「F-128」、「F-700」の10サンプルから作成する。
【0044】
また、ポリオレフィンのガラス転移温度(Tg)又は融解温度(Tm)は、上記分子量と同様、特に限定されず、樹脂の種類、造形条件、得られた三次元造形物の用途等に応じて決定すればよい。
例えば、ポリオレフィンの融解温度(Tm)は、100℃以上300℃以下の範囲が好ましく、150℃以上250℃以下の範囲がより好ましい。
ポリオレフィンの融解温度(Tm)は、既述の、樹脂の融解温度の測定方法により求められる。
【0045】
第1の樹脂の含有量は、海島構造の形成性、三次元造形物の用途等に応じて決定すればよい。
第1の樹脂の含有量は、例えば、フィラメントの全質量に対して、35質量%以上90質量%以下が好ましく、40質量%以上80質量%以下がより好ましく、40質量%以上70質量%以下が更に好ましい。
第1の樹脂が海部に含まれる場合、第1の樹脂の含有量は、例えば、フィラメントの全質量に対して、56質量%以上98.2質量%以下が好ましく、68質量%以上96質量%以下がより好ましく、75質量%以上94質量%以下が更に好ましい。
第1の樹脂が島部に含まれる場合、第1の樹脂の含有量は、例えば、フィラメントの全質量に対して、1.8質量%以上44質量%以下が好ましく、4質量%以上32質量%以下がより好ましく、6質量%以上25質量%以下が更に好ましい。
【0046】
(第2の樹脂)
第2の樹脂は、アミド結合及びイミド結合の少なくとも一方を含む樹脂(以下、特定樹脂aともいう)、エステル結合を含む樹脂(以下、特定樹脂bともいう)、並びに硫黄を含む結合基を有する樹脂(以下、特定樹脂cともいう)からなる群から選ばれる。
第2の樹脂は、海部を構成していてもよいし、島部を構成していてもよい。
第2の樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
-特定樹脂a-
特定樹脂aは、分子内にイミド結合及びアミド結合の少なくとも一方を含む。
イミド結合又はアミド結合を含むことで、繊維(例えば、炭素繊維)の表面に存在する極性基との間で親和性が発現する。そのため、特定樹脂aの一部が繊維表面の少なくとも一部を被覆することで、繊維と特定樹脂aとの密着性が高まることがある。
【0048】
特定樹脂aの具体的な種類としては、具体的には、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミノ酸等が挙げられる。
【0049】
特定樹脂aとしては、第1の樹脂(即ち、ポリオレフィン)との相溶性が低く、且つ、第1の樹脂(即ち、ポリオレフィン)とSP値が異なる方が好ましい。
中でも、低温での造形が可能である観点、曲げ弾性率の更なる向上の観点、繊維との密着性に優れる観点等から、特定樹脂aとしては、ポリアミド(PA)が好ましい。
【0050】
ポリアミドとしては、例えば、ジカルボン酸とジアミンとを共縮重合したポリアミド、ラクタムとを縮合したポリアミドが挙げられる。つまり、ポリアミドとしては、ジカルボン酸とジアミンとが縮重合した構造単位及びラクタムが開環した構造単位の少なくも一方を有するポリアミドが挙げられる。
【0051】
ジカルボン酸としては、シュウ酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、アゼライン酸、フタル酸、等が挙げられ、中でも、アジピン酸、テレフタル酸が好ましい。
ジアミンとしては、エチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナンジアミン、デカメチレンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、m-キシレンジアミン等が挙げられ、中でも、ヘキサメチレンジアミンが好ましい。
ラクタムとしては、ε-カプロラクタム、ウンデカンラクタム、ラウリルラクタム等が挙げられ、中でも、ε-カプロラクタムが好ましい。
【0052】
なお、上記の、ジカルボン酸、ジアミン、ラクタムは、1種単独で使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
【0053】
ポリアミドは、芳香族ポリアミドであってもよいし、脂肪族ポリアミドであってもよい。
【0054】
芳香族ポリアミドとしては、MXD6(アジピン酸とメタキシレンジアミンとの縮重合体;融点237℃)、ナイロン6T(テレフタル酸とヘキサメチレンジアミンとの縮重合体;融点310℃)、ナイロン9T(テレフタル酸とノナンジアミンとの重縮合体;融点306℃)等が例示される。
芳香族ポリアミドの市販品としては、三菱ガス化学社製「MXD6」、クラレ社製「GENESTAR(登録商標):PA6T」、クラレ社製「GENESTAR(登録商標):PA9T」、東洋紡社製「TY-502NZ:PA6T」等が例示される。
【0055】
脂肪族ポリアミドとしては、ナイロン6(ε-カプロラクタムの開環重縮合体;融点225℃)、ナイロン11(ウンデカンラクタムの開環重縮合体;融点185℃)、ナイロン12(ラウリルラクタムの開環重縮合体;融点175℃)、ナイロン66(アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの縮重合体;融点260℃)、ナイロン610(セバシン酸とヘキサメチレンジアミンとの縮重合体;融点225℃)、ナイロン612(カプロラクタム(炭素数6)とラウリルラクタム(炭素数12)との縮重合体:融点220℃)等が例示される。
脂肪族ポリアミドの市販品としては、Dupont社製「ザイテル(登録商標):7331J(PA6)」、Dupont社製「ザイテル(登録商標):101L(PA66)」等が例示される。
【0056】
第1の樹脂がポリプロピレンである場合、ポリアミドとしては、これらのポリアミドの中でも、MXD6、ナイロン6、およびナイロン12からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことがよい。
また、第1の樹脂がポリエチレンである場合、ポリアミドとしては、ナイロン12、ナイロン11、MXD6がよい。
【0057】
特定樹脂aの分子量は、特に限定されず、海部及び島部のどちらに含まれる樹脂であるのか、融解温度等に応じて決定すればよい。特定樹脂aがポリアミドであれば、例えば、ポリアミドの重量平均分子量は、1万以上30万以下の範囲が好ましく、1万以上10万以下の範囲がより好ましい。
【0058】
また、特定樹脂aのガラス転移温度又は融点は、海部及び島部のどちらに含まれる樹脂であるのか、融解温度等に応じて決定すればよい。特定樹脂aがポリアミドであれば、例えば、ポリアミドのガラス転移温度又は融点は、100℃以上400℃以下の範囲が好ましく、150℃以上350℃以下の範囲がより好ましく、150℃以上250℃以下がさらに好ましく、160℃以上240℃以下が最も好ましい。
【0059】
-特定樹脂b-
特定樹脂bは、分子内にエステル結合を含む。
特定樹脂bは、エステル結合を含むことで、繊維(例えば、炭素繊維)の表面に存在する極性基との間で親和性が発現する。そのため、特定樹脂bの一部が繊維表面の少なくとも一部を被覆することで、繊維と特定樹脂bとの密着性が高まることがある。
【0060】
特定樹脂bとしては、分子内にエステル結合を有していれば、特に限定されない。
特定樹脂bの具体的な種類としては、エステル結合を主鎖に含む熱可塑性樹脂が挙げられ、具体的には、ポリエステル、ポリカーボネート等が挙げられる。
特定樹脂bとしては、ポリエステルが好ましい。
ポリエステルは、脂肪族ポリエステル、及び芳香族ポリエステルのいずれでもよい。ポリエステルは、例えば、多価アルコールと多価カルボン酸との縮重合物であってもよい。ポリエステルとしては、市販品を使用してもよいし、合成したものを使用してもよい。
特定樹脂bは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
多価カルボン酸としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸(例えばシュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アルケニルコハク酸、アジピン酸、セバシン酸等)、脂環式ジカルボン酸(例えばシクロヘキサンジカルボン酸等)、芳香族ジカルボン酸(例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等)、これらの無水物、又はこれらの低級(例えば炭素数1以上5以下)アルキルエステルが挙げられる。これらの中でも、多価カルボン酸としては、例えば、芳香族ジカルボン酸が好ましい。
多価カルボン酸は、ジカルボン酸と共に、架橋構造又は分岐構造をとる3価以上のカルボン酸を併用してもよい。3価以上のカルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、これらの無水物、又はこれらの低級(例えば炭素数1以上5以下)アルキルエステル等が挙げられる。
多価カルボン酸は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0062】
多価アルコールとしては、例えば、脂肪族ジオール(例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等)、脂環式ジオール(例えばシクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA等)、芳香族ジオール(例えばビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物等)が挙げられる。これらの中でも、多価アルコールとしては、例えば、芳香族ジオール、脂環式ジオールが好ましく、より好ましくは芳香族ジオールである。
多価アルコールとしては、ジオールと共に、架橋構造又は分岐構造をとる3価以上の多価アルコールを併用してもよい。3価以上の多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールが挙げられる。
多価アルコールは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0063】
ポリエステルは、周知の製造方法により得られる。具体的には、例えば、重合温度を180℃以上230℃以下とし、必要に応じて反応系内を減圧にし、縮合の際に発生する水やアルコールを除去しながら反応させる方法により得られる。
なお、原料の単量体が、反応温度下で溶解又は相溶しない場合は、高沸点の溶剤を溶解補助剤として加え溶解させてもよい。この場合、重縮合反応は溶解補助剤を留去しながら行う。相溶性の悪い単量体が存在する場合は、あらかじめ相溶性の悪い単量体とその単量体と重縮合予定の酸又はアルコールとを縮合させておいてから主成分と共に重縮合させるとよい。
【0064】
ポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。これらの中でも、ポリブチレンテレフタレート(PBT)が好ましい。
ポリエステルの市販品としては、三菱エンジニアプラスチックス社製「ノバデュラン 5010R3-2」(ポリブチレンテレフタレート)、ポリプラスチックス社製「ジュラネックス2000」(ポリブチレンテレフタレート)等が例示される。
【0065】
-特定樹脂c-
特定樹脂cは、硫黄を含む結合基を有する樹脂である。
本実施形態において、硫黄を含む結合基を有する樹脂とは、硫黄を含む結合基を主鎖に含む樹脂を示す。
硫黄を含む結合基を主鎖に含むことで、繊維(例えば、炭素繊維)の表面に存在する極性基との間で親和性が発現する。そのため、特定樹cの一部が繊維表面の少なくとも一部を被覆することで、繊維と特定樹脂cとの密着性が高まることがある。
【0066】
特定樹脂cとしては、硫黄を含む結合基を主鎖に有していれば、特に限定されない。
特定樹脂cの具体的な種類としては、連結基が硫黄であり、硫黄で連結された熱可塑性樹脂、スルホニル結合を主鎖に含む熱可塑性樹脂などが挙げられる。具体的には、ポリフェニレンサルファイド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン等が挙げられる。
特定樹脂cは、周知の製造方法によって得られる。
特定樹脂cとしては、市販品を使用してもよいし、合成したものを使用してもよい。
特定樹脂cは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
特定樹脂cの市販品としては、DIC(株)の「FZ-2100」(ポリフェニレンサルファイド)、:住友化学(株)の「スミカエクセル、3600G」(ポリエーテルスルホン)等が例示される。
【0068】
なお、特定樹脂b及び特定樹脂cのガラス転移温度又は融点は、それぞれ、海部及び島部のどちらに含まれる樹脂であるのか、融解温度等に応じて決定すればよい。特定樹脂b及び特定樹脂cのガラス転移温度又は融点は、例えば、100℃以上400℃以下の範囲が好ましく、150℃以上350℃以下の範囲がより好ましく、150℃以上250℃以下がさらに好ましく、160℃以上240℃以下が最も好ましい。
【0069】
第2の樹脂の含有量は、海島構造の形成性、三次元造形物の用途等に応じて決定すればよい。
第2の樹脂の含有量は、例えば、フィラメントの全質量に対して、35質量%以上90質量%以下が好ましく、40質量%以上80質量%以下がより好ましく、40質量%以上70質量%以下が更に好ましい。
第1の樹脂が海部に含まれる場合、第1の樹脂の含有量は、例えば、フィラメントの全質量に対して、56質量%以上98.2質量%以下が好ましく、68質量%以上96質量%以下がより好ましく、75質量%以上94質量%以下が更に好ましい。
第1の樹脂が島部に含まれる場合、第1の樹脂の含有量は、例えば、フィラメントの全質量に対して、1.8質量%以上44質量%以下が好ましく、4質量%以上32質量%以下がより好ましく、6質量%以上25質量%以下が更に好ましい。
【0070】
〔繊維〕
本実施形態に係るフィラメントは、繊維を含む。
繊維としては、樹脂成形体に適用される公知の強化繊維が用いられ、例えば、炭素繊維(カーボン繊維とも呼ばれる)、ガラス繊維、金属繊維、アラミド繊維等が挙げられる。
繊維は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0071】
これらの中でも、既述の第2の樹脂との親和性に優れ、三次元造形材の曲げ弾性率の更なる向上が図れる観点から、炭素繊維が好ましい。
炭素繊維は、その表面にカルボキシル基を有する。このカルボキシル基と第2の樹脂が有する部分構造(特に、特定樹脂aにおけるアミド結合及び/又はイミド結合)との高い親和性が発現される。そのため、炭素繊維の周囲には第2の樹脂(好ましくは特定樹脂a)による被覆層が形成され易く、造形された三次元造形物の曲げ弾性率の更なる向上が図られると考えられる。
【0072】
炭素繊維としては、公知の炭素繊維が用いられ、PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維及びピッチ系炭素繊維のいずれもが用いられる。
【0073】
繊維は、公知の表面処理が施されたものであってもよい。
繊維が炭素繊維であれば、その表面処理としては、例えば、酸化処理、サイジング処理が挙げられる。
【0074】
また、繊維の径(繊維径ともいう)、繊維の長さ(繊維長ともいう)等は、特に限定されない。
より機械的強度の高い三次元造形物を得る観点からは、繊維長が長いことが好ましく、そのため、繊維としては連続繊維であることがより好ましい。
ここで、本実施形態における「連続繊維」とは、繊維長が10mm以上である繊維を意味する。連続繊維の繊維長は、100mm以上であることが好ましく、本実施形態に係るフィラメントと同じ長さであることがより好ましい。
即ち、本実施形態に係るフィラメント中の繊維は、フィラメントの先端から末端まで連続する連続繊維であることが特に好ましい。
【0075】
ここで、繊維長の測定方法は、次の通りである。
フィラメントを軸方向に沿って切断し、得られた断面における繊維の繊維長を測定する。具体的には、繊維を光学顕微鏡によって倍率100で観察し、繊維の長さを測定する。そして、この測定を繊維200個について行い、その算術平均値を繊維長とする。
【0076】
また、繊維径は、フィラメントの径、設計力学特性等に応じて、適宜、決定されればよい。繊維径としては、例えば、5μm以上15μm以下(好ましくは5μm以上10μm以下)であってもよい。
【0077】
ここで、繊維径の測定方法は、次の通りである。
繊維の長さ方向に直交する断面を、SEM(走査型電子顕微鏡)によって倍率1000倍で観察し、強化繊維の直径を測定する。そして、この測定を強化繊維100個について行い、その平均値を強化繊維の平均直径とする。
【0078】
更に、繊維の形態は、特に限定されず、樹脂成形体の成形方法、樹脂成形体の用途等に応じて選択すればよい。
繊維の形態としては、例えば、単繊維、多数の単繊維から構成される繊維束等が挙げられる。
【0079】
強化繊維(例えば炭素繊維)としては、市販品を用いてもよい。
PAN系炭素繊維の市販品としては、東レ(株)の「トレカ(登録商標)」、東邦テナックス(株)の「テナックス」、三菱ケミカル(株)の「パイロフィル(登録商標)」等が挙げられる。その他、PAN系炭素繊維の市販品としては、Hexcel社、Cytec社、Dow-Aksa社、台湾プラスチック社、SGL社の市販品も挙げられる。
ピッチ系炭素繊維の市販品としては、三菱ケミカル(株)の「ダイリアード(登録商標)」、日本グラファイトファイバー(株)の「GRANOC」、(株)クレハの「クレカ」等が挙げられる。その他、ピッチ系炭素繊維の市販品としては、大阪ガスケミカル(株)、Cytec社の市販品も挙げられる。
ガラス繊維の市販品としては、日東紡(株)の「ロービング」等が挙げられる。
【0080】
繊維の含有量としては、三次元造形物に求められる物性、三次元造形物の用途等に応じて決定されればよく、例えば、フィラメントの全質量に対して、10質量%以上65質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましく、30質量%以上60質量%以下が更に好ましい。
【0081】
〔相溶化剤〕
相溶化剤は、フィラメントに含まれる樹脂間の親和性(例えば、第1の樹脂と第2の樹脂との親和性)を高める樹脂である。
相溶化剤としては、フィラメントに含まれる樹脂に応じて決定すればよい。
【0082】
相溶化剤としては、フィラメントに含まれる2種以上の樹脂のうち、1種の樹脂と同じ部分構造を有し、且つ、別の1種の樹脂と親和性を有する部分構造を有する樹脂であることが好ましい。
本実施形態に係るフィラメントにおいて、2種以上の樹脂として、既述の第1の樹脂と第2の樹脂とを含む場合、相溶化剤としては、第1の樹脂と同じ部分構造を有し、且つ、第2の樹脂と親和性を有する部分構造を有する樹脂であることが好ましい。
【0083】
例えば、第1の樹脂と同じ部分構造を有し、且つ、第2の樹脂と親和性を有する部分構造を有する樹脂である相溶化剤としては、修飾ポリオレフィンが好ましく用いられる。
なお、第1の樹脂がポリプロピレン(PP)であれば、修飾ポリオレフィンとしては、修飾ポリプロピレン(PP)が好ましい。同様に、第1の樹脂がエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)であれば、修飾ポリオレフィンとしては修飾エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)が好ましい。
【0084】
(修飾ポリオレフィン)
相溶化剤として好適な修飾ポリオレフィンは、側鎖が修飾されたポリオレフィン(以下、側鎖修飾ポリオレフィンともいう)及び主鎖末端が修飾されたポリオレフィン(以下、主鎖末端修飾ポリオレフィンともいう)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0085】
側鎖又は主鎖末端が修飾されるポリオレフィンとしては、第1の樹脂であるポリオレフィンと同様のものが挙げられ、中でも、ポリプロピレンが好ましい。
ここで、ポリプロピレンには、プロピレンのホモポリマーの他、プロピレンと少量(例えば、ポリプロピレン中に10質量%以下)の他のα-オレフィン(例えば、エチレン等)とのランダムポリプロピレン、プロピレンと他のα-オレフィンとのブロックポリプロピレンなどが挙げられる。
【0086】
-側鎖修飾ポリオレフィン-
側鎖が修飾されたポリオレフィンとは、側鎖に対して修飾部位が導入されたポリオレフィンを指す。
ポリオレフィンの側鎖に導入される修飾部位としては、カルボキシ基、カルボン酸無水物残基、カルボン酸エステル残基、イミノ基、アミノ基、エポキシ基等が挙げられる。
ポリオレフィンに導入される修飾部位としては、第1の樹脂と第2の樹脂(より好ましくは特定樹脂a)との親和性の更なる向上の観点等から、カルボン酸無水物残基を含むことが好ましく、特に、無水マレイン酸残基を含むことが好ましい。
【0087】
側鎖が修飾されたポリオレフィンは、上述した修飾部位を含む化合物をポリオレフィンに反応させて直接化学結合する方法、上述した修飾部位を含む化合物を用いてグラフト鎖を形成し、このグラフト鎖をポリオレフィンに結合させる方法などがある。
上述した修飾部位を含む化合物としては、無水マレイン酸、無水フマル酸、無水クエン酸、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルベンゾエート、N-〔4-(2,3-エポキシプロポキシ)-3,5-ジメチルベンジル〕アクリルアミド、アルキル(メタ)アクリレート、及びこれらの誘導体が挙げられる。
なお、側鎖修飾ポリオレフィンの中でも、不飽和カルボン酸である無水マレイン酸をポリオレフィンと反応させてなる側鎖修飾ポリオレフィンが好ましい。
【0088】
側鎖修飾ポリオレフィンとして具体的には、無水マレイン酸修飾ポリプロピレン、無水マレイン酸修飾ポリエチレン、無水マレイン酸修飾エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、これらの付加体又は共重合等の酸修飾ポリオレフィンが挙げられる。
【0089】
側鎖修飾ポリオレフィンとしては、市販品を用いてもよい。
修飾プロピレンとしては、三洋化成工業(株)のユーメックス(登録商標)シリーズ(100TS、110TS、1001、1010)等が挙げられる。
修飾ポリエチレンとしては、三洋化成工業(株)のユーメックス(登録商標)シリーズ(2000)、三菱ケミカル(株)のモディック(登録商標)シリーズ等が挙げられる。
修飾エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)としては、三菱ケミカル(株)のモディック(登録商標)シリーズ等が挙げられる。
【0090】
また、第2の樹脂として特定樹脂b及び特定樹脂cを使用した場合の相溶化剤としては、以下の市販品が用いられる。
即ち、無水マレイン酸変性SEBS(無水マレイン酸変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体)であるクレイトン社の「クレイトンFGポリマー」、エチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体の側鎖にアクリル酸ブチル-メタクリル酸メチル共重合体(グラフト鎖)が結合したグラフトポリマーである日油(株)の「モディパー(登録商標)A4300」等が挙げられる。
【0091】
-主鎖末端修飾ポリオレフィン-
主鎖末端が修飾されたポリオレフィンとは、主鎖末端の少なくとも一方(好ましくは両方)に修飾部位が導入されたポリオレフィンを指す。
ポリオレフィンの主鎖末端に導入される修飾部位としては、極性基を有する重合体等が挙げられる。
上記の修飾部位が有する極性基としては、カルボキシル基、カルボキシル基の金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、亜鉛塩等)等が挙げられる。
【0092】
主鎖末端修飾ポリオレフィンとしてより具体的には、ポリオレフィンの主鎖末端の少なくとも一方(好ましくは両方に)に、ポリ(メタ)アクリル酸及びポリ(メタ)アクリル酸の金属塩からなる群より選択される少なくとも1種の重合体が導入されたブロック重合体であることが好ましい。
ここで、ポリ(メタ)アクリル酸の金属塩としては、ポリ(メタ)アクリル酸の、ナトリウム塩、カリウム塩、亜鉛塩等が挙げられ、中でも、ナトリウム塩が好ましい。
【0093】
中でも、主鎖末端修飾ポリオレフィンとしては、ポリ(メタ)アクリル酸-ポリオレフィン-ポリ(メタ)アクリル酸の三元ブロック重合体、及び、ポリ(メタ)アクリル酸のナトリウム塩-ポリオレフィン-ポリ(メタ)アクリル酸のナトリウム塩の三元ブロック重合体が好ましい。
上記の三元ブロック重合体において、ポリオレフィンの数平均分子量は1000以上200000以下が好ましく、10000以上50000以下がより好ましい。また、上記の三元ブロック重合体において、ポリ(メタ)アクリル酸又はポリ(メタ)アクリル酸のナトリウム塩の数平均分子量としては、それぞれ、500以上10000以下が好ましく、1000以上5000以下がより好ましい。
【0094】
主鎖末端修飾ポリオレフィンとしては、市販品を用いてもよい。
市販品として具体的には、(株)三栄興業のポリアクリル酸-イソタクチックポリプロピレン-ポリアクリル酸の三元ブロック共重合体(Mn:4000-23000-4000、iPP-PAAともいう)、ポリアクリル酸ナトリウム-イソタクチックポリプロピレン-ポリアクリル酸ナトリウムの三元ブロック共重合体(Mn:5000-23000-5000、iPP-PAA-Na又はiPP-PAA/Naともいう)、ポリアクリル酸-ランダムポリプロピレン-ポリアクリル酸の三元ブロック共重合体(Mn:2500-17000-2500、rPP-PAAともいう)が挙げられる。
【0095】
相溶化剤の含有量としては、三次元造形物に求められる物性、三次元造形物の用途等に応じて決定されればよく、例えば、フィラメントの全質量に対して、0.35質量%以上18質量%以下が好ましく、0.8質量%以上12質量%以下がより好ましく、1.2質量%以上7質量%以下が更に好ましい。
また、相溶化剤の含有量としては、相溶化剤以外の樹脂成分(具体的には、既述の第1の樹脂及び第2の樹脂等)の総質量に対して、1質量%以上20質量%以下が好ましく、2質量%以上6質量%以下がより好ましく、3質量%以上10質量%以下が更に好ましい。
【0096】
-その他の成分-
本実施形態に係る樹脂成形体は、上記各成分の他、その他の成分を含んでもよい。
その他の成分としては、例えば、難燃剤、難燃助剤、加熱された際の垂れ(ドリップ)防止剤、可塑剤、酸化防止剤、離型剤、耐光剤、耐候剤、着色剤、顔料、改質剤、帯電防止剤、加水分解防止剤、充填剤、強化繊維以外の補強剤(タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、ミルドガラス、ガラスビーズ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド等)等の周知の添加剤が挙げられる。
その他の成分は、総量にて、例えば、本実施形態に係るフィラメントの全質量に対して、10質量%以下で用いることが好ましく、5質量%以下で用いることが好ましい。本実施形態に係るフィラメントは、その他の成分を含まない形態であってもよい。
【0097】
〔フィラメントの製造方法〕
本実施形態に係るフィラメントの製造方法は、既述の通り、海島構造を形成しうる製造方法であれば、特に制限されない。
本実施形態に係るフィラメントの製造方法として、例えば、既述の、2種以上の樹脂、繊維、及び相溶化剤を含む溶融混合物(必要に応じて、その他の成分を含んでいてもよい)を調製し、この溶融混合物を線状に成形する方法であってもよい。また、本実施形態に係るフィラメントの製造方法としては、繊維以外の成分(即ち、2種以上の樹脂及び相溶化剤、更に必要に応じて添加されるその他の成分、以下同様。)を含む溶融混合物を調製し、この溶融混合物を繊維に含浸させた後、線状に成形する方法であってもよい。
本実施形態に係るフィラメントの製造方法としては、繊維が連続繊維である場合、以下の方法を用いることが好ましい。
即ち、連続搬送される連続繊維(具体的には連続繊維束)に対し、繊維以外の成分を含む溶融混合物を接触させて溶融混合物を連続繊維に含浸させ、溶融混合物が含浸した状態の連続繊維を搬送することで所定の径の孔を通し、線状に成形する方法である。
【0098】
<三次元造形物>
本実施形態に係る三次元造形物は、2種以上の樹脂、繊維、及び相溶化剤を含み、2種以上の樹脂のうちの少なくとも1種を含む海部と、2種以上の樹脂のうちの少なくとも1種含む島部と、による海島構造を有し、且つ、島部の一部が合一した粒状物が点在する、三次元造形物である。
本実施形態に係る三次元造形物は、曲げ弾性率に優れる。
本実施形態に係る三次元造形物における「島部の一部が合一した粒状物」は、溶解積層方式(FDM)により三次元造形物が作製される際、隣り合うフィラメントの界面に形成されるものである。この粒状物が、隣り合うフィラメントの界面にてアンカー効果を発現し、その結果、隣り合うフィラメントの界面の密着性が向上することで、三次元造形物の曲げ弾性率を高めることができると推測される。
【0099】
本実施形態において「島部の一部が合一した粒状物」とは、2個以上の島部に含まれる樹脂が融着した融着体を示し、この融着体は、単体の島部と異なり、単体の島部の体積の2倍以上であって、くびれ又は段差を有する構造である。
【0100】
本実施形態に係る三次元造形物は、軽量で曲げ弾性率に優れる。
そのため、三次元造形物の用途としては、航空機、自動車、自転車、ドローンなどの移動体、装具、アシストスーツ、ウェアラブルデバイスなど身に着ける部材・装置、ソール、ラケットなどのスポーツ用品、電柱、電線、地下溝などのインフラ、建築材、工具、各種ケース等が挙げられる。
【0101】
本実施形態に係る三次元造形物は、既述の、本実施形態に係るフィラメントにより製造される。
より具体的には、本実施形態に係る三次元造形物は、既述の、本実施形態に係るフィラメントを用い、後述する、本実施形態に係る三次元造形物の製造方法にて製造されることが好ましい。
【0102】
<三次元造形物の製造方法及び製造装置>
本実施形態に係る三次元造形物の製造方法は、本実施形態に係るフィラメントを加熱する工程と、加熱された三次元造形用フィラメントを被吐出体上に吐出し、被吐出体上に三次元造形用フィラメントの積層体を形成する工程と、を有する。
本実施形態に係る三次元造形物の製造方法は、下記の本実施形態に係る三次元造形装置により実施される。
即ち、本実施形態に係る三次元造形装置は、本実施形態に係る三次元造形用フィラメントを収容し、三次元造形用フィラメントを加熱する加熱手段と、加熱された三次元造形用フィラメントを被吐出体上に吐出し、被吐出体上に三次元造形用フィラメントの積層体を形成する吐出手段と、を備える。
本実施形態に係る三次元造形装置(以下、単に造形装置ともいう)は、溶解積層方式(FDM)の三次元造形装置(3Dプリンタ)であって、複数の層の層データに従って、層を複数重ねて積層体を得ることで、三次元造形物を造形する装置である。
【0103】
以下、本実施形態に係る三次元造形装置の詳細を説明することで、本実施形態に係る三次元造形物の製造方法も合わせて説明する。
以下、図1に、本実施形態に係る三次元造形装置の一例を示すが、三次元造形装置の構成は、三次元造形が可能な限りこれに限定されるわけではなく、一部の部材を省略してもよいし、別の部材を付加してもよい。
図1は、本実施形態に係る三次元造形装置の一例を示す概略図である。
【0104】
図1に示される三次元造形装置10は、造形ユニット12と、台14と、移動機構18と、制御部16と、を備えている。
なお、三次元造形装置10で用いられるフィラメント100は、本実施形態に係るフィラメントである。
【0105】
(造形ユニット10)
造形ユニット12は、図1に示されるように、フィラメント100を収容する収容部20と、フィラメント100を搬送する搬送部30と、フィラメント100を加熱する加熱部(加熱手段の一例)40と、フィラメント100を吐出する吐出部(吐出手段の一例)50と、加圧ロール60と、を備えている。
【0106】
収容部20では、フィラメント100がリール状に巻かれた状態で収容されている。
収容部20に収容されたフィラメント100は、矢印方向に回転することで、搬送部30の巻掛ロール32側へと送り出される。
【0107】
搬送部30は、巻掛けロール32と、一対の搬送ロール34、36と、により構成され、フィラメント100を収容部20から加熱部40まで搬送する。
搬送部30における巻掛ロール32には、図1に示されるように、フィラメント100が巻き掛けられている。フィラメント100は、巻掛ロール32に巻き掛けられることで、図1に示されるように、搬送方向を下方(具体的には、重力方向)に変えて搬送される。
一対の搬送ロール34、36は、フィラメント100の搬送方向において、巻掛けロール32の下流側に配置されている。
搬送ロール34はフィラメント100を挟んで搬送ロール36の反対側に配置されており、搬送ロール34及び搬送ロール36がそれぞれ矢印方向に回転することで、フィラメント100を挟みながら搬送する。
なお、一対の搬送ロール34、36は、フィラメント100を加熱する加熱部を有していてもよい。
【0108】
加熱部40は、搬送部30から搬送されたフィラメント100を加熱する。
加熱部40は、フィラメント100の搬送方向において、一対の搬送ロール34、36の下流側に配置されている。
加熱部40は、フィラメント100を通す貫通孔を有し、内部に設けられた加熱手段(不図示)により加熱された貫通孔内をフィラメント100が通過することで、フィラメントを加熱する。
加熱手段としては、例えば、電熱線、ハロゲンランプなどを用いたヒータが挙げられる。
フィラメント100の加熱温度は、フィラメント100の種類等によるが、例えば、100℃以上300℃以下(好ましくは180℃以上280℃以下)の範囲が好ましい。
【0109】
吐出部50は、加熱部40にて加熱されたフィラメント100を台14上へと吐出する。
吐出部50は、フィラメント100の搬送方向において、加熱部40の下流側に、加熱部40に接続した状態で配置されている。
吐出部50は、加熱部40の貫通孔に連続した状態の貫通孔を有し、この貫通孔を通ったフィラメント100を、吐出口52から台14の面14Aへと吐出する。
吐出部50は、貫通孔を加熱する加熱手段を有していてもよい。
【0110】
加圧ロール60は、吐出部50から吐出されたフィラメント100を加圧する。
具体的には、加圧ロール60は、台14の面14Aにフィラメント100を押し付けることで、フィラメント100を台14との間に挟むことで加圧する。加圧ロール60がフィラメント100を加圧することで、台14に吐出されたフィラメント100の高さが揃えられる。
なお、加圧ロール60は、フィラメント100を加熱する加熱手段を有していてもよい。
【0111】
(台14)
台14は、フィラメント100が被吐出体の一例である。
台14は、図1に示されるように、造形ユニット12の下方に配置されている。
台14は、水平面である面14Aを有し、面14A上に、フィラメント100が吐出され、フィラメント100の積層体が形成されることで、三次元造形物が造形される。
【0112】
(移動機構18)
移動機構18は、台14を、例えば、装置上下方向、装置幅方向、及び装置奥行方向の任意の位置に移動させる機構である。
移動機構18としては、例えば、台14を、装置上下方向、装置幅方向、及び装置奥行方向の任意の位置に移動可能な三軸ロボが用いられる。
【0113】
(制御部16)
制御部16は、三次元造形装置10の各部の動作を制御する。
具体的には、制御部16は、プログラムが記憶されたROM(ロム)やストレージ等で構成された記憶部と、プログラムに従って動作するプロセッサと、を有しており、記憶部に記憶されたプログラムを読み出し、実行することにより、三次元造形装置10の各部の動作を制御する。
制御部16は、造形しようとする三次元造形物の三次元データから作成された複数の層データに基づき、以下の造形動作が実行されるように、三次元造形装置10の各部の動作が制御する。
【実施例
【0114】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0115】
[実施例A1~A12、実施例B1~B14、及び比較例1~5]
表1~表3に従った成分(表中の数値は部数を示す)を、エクストルーダー(LABTECH ENGINEERING、2軸、φ20mm)にて混錬し、ポリマーアロイペレットを得た。
続いて、開繊機構と樹脂溶融槽とを有する樹脂含浸用ベンチに、炭素繊維(CFともいう、東レ(株)のトレカ T300-6000)及び上記ポリマーアロイペレットを投入し、繊維体積含有率が40%となるように樹脂を炭素繊維に含浸して、φ0.6mmのフィラメントを作製した。
【0116】
得られたフィラメントを、図1に示すような三次元造形装置に収容し、以下の条件にて、ISO多目的ダンベル試験片を造形した。
なお、三次元造形装置の詳細は、以下の通りである。
三次元造形装置において、ヘッド先端(吐出部50)としては、フィラメント径に合わせたガイドパイプを4本配置した。ガイドパイプ上方(加熱部40)からIRヒーターでフィラメントを加熱し、加圧ロール(加圧ロール60)下へと送り出し、圧力を印加して積層体を形成させる構成とした。また、フィラメントの送り出し速度を調整する機構を有し、フィラメントの吐出速度を制御した。このような造形ユニットを、(株)アイエイアイのテーブルトップ型ロボット(Table Top TTAC)に設置したものを、三次元造形装置とした。
(造形の条件)
・フィラメント加熱温度:275℃
・フィラメントへの印加圧力:3.2kg/cm
なお、ISO多目的ダンベル試験片は、ISO178曲げ試験に対応する試験片であって、(測定部寸法は、幅10mm、厚さ4mmとした。
【0117】
-曲げ弾性率-
得られたISO多目的ダンベル試験片について、万能試験装置(島津製作所社製、オートグラフAG-Xplus)を用いて、ISO178に準拠する方法で、曲げ弾性率を測定した。
また、得られたISO多目的ダンベル試験片を、80℃の水中に24時間浸漬させ後、表面の水分をふき取った。このISO多目的ダンベル試験片について、上記と同様にして、曲げ弾性率を測定した。
結果を表1~表3に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
【表3】
【0121】
なお、表1~表3で用いた各成分の詳細は、以下の通りである。
-繊維-
・炭素繊維(連続繊維、トレカ(登録商標) T300-6000、東レ(株))
・ガラス繊維(連続繊維、ロービング RS240 PG-633、日東紡(株))
・短繊維(炭素繊維、トレカ(登録商標)カットファイバー T008、東レ(株))
【0122】
-第1の樹脂-
・PP:ポリプロピレン(ノバテック(登録商標)PP MA3、日本ポリプロ(株);融点165℃)
・PE:ポリエチレン(ウルトゼックス20100J、(株)プライムポリマー;融点120℃)
【0123】
-第2の樹脂-
・PA6:特定樹脂a(ナイロン6、ザイテル(登録商標)7331J、Dupont社;融点225℃)
・PA66:特定樹脂a(ナイロン66、ザイテル(登録商標)101L、Dupont社;融点262℃)
・PBT:特定樹脂b(ポリブチレンテレフタレート、三菱エンジニアリングプラスチックス(株);融点232℃)
・PPS:特定樹脂c(ポリフェニレンサルファイド、FZ-2100、DIC(株);融点278℃)
・PES:特定樹脂c(ポリエーテルスルホン、スミカエクセル、3600G、住友化学(株);融点288℃)
【0124】
-相溶化剤-
・マレイン化PP:無水マレイン酸修飾ポリプロピレン(ユーメックス(登録商標)110TS、三洋化成工業(株)製
・iPP-PAA:ポリアクリル酸-イソタクチックポリプロピレン-ポリアクリル酸の三元ブロック共重合体(Mn:4000-23000-4000、(株)三栄興業)
【0125】
上記結果から、本実施例のフィラメントは、用いた繊維が同じであれば、比較例に比べ、曲げ弾性率が高い三次元造形物が得られることが分かる。
また、本実施例のフィラメントから得られた三次元造形物は、水中浸漬後の曲げ弾性率にも優れ、水中への浸漬前後で曲げ弾性率の変化量が小さいことが分かる。これは、高極性であるポリアミドを使用しているもののポリオレフィンとの併用であることから、三次元造形物の吸湿性が抑えられているためと推測される。
【符号の説明】
【0126】
10 三次元造形装置
12 造形ユニット
14 台(被吐出体の一例)
16 制御部
18 移動機構
20 収容部
30 搬送部
40 加熱部(加熱手段の一例)
50 吐出部(吐出手段の一例)
60 加圧ロール
100 フィラメント
図1